(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】部分放電測定器及び部分放電測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20231023BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20231023BHJP
G01R 35/02 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/34 D
G01R35/02 Z
(21)【出願番号】P 2020063686
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-10-06
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509321239
【氏名又は名称】日新パルス電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚登
(72)【発明者】
【氏名】堤 英晴
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝介
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-021929(JP,A)
【文献】特開2016-212122(JP,A)
【文献】特開2010-281673(JP,A)
【文献】特開2009-145205(JP,A)
【文献】特開2005-274440(JP,A)
【文献】特開平11-108983(JP,A)
【文献】特開平5-312889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/12-31/20
31/34
35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立ち上がり及び立ち下がりを有する
矩形波状のパルス波形を含む試験電圧を測定対象物に印加するパルス生成回路と、
前記測定対象物に接続される測定端子、及び前記測定端子と基準電位線との間に直列に接続された容量素子及びインピーダンス素子を有し、前記インピーダンス素子の両端に生じる電位差を部分放電信号として出力する検出回路と、
前記部分放電信号と閾値とを比較してその比較結果である検出信号を出力する比較回路と、
前記パルス波形の立ち上がり開始タイミングより後の第1のタイミングと、前記パルス波形の立ち下がり終了タイミングより前の第2のタイミングとの間の前記検出信号を抽出する信号抽出回路と、
を備
え、
前記信号抽出回路は、
前記第1のタイミングに有意値となり、前記第2のタイミングに無意値となる有効信号を生成する信号生成回路と、
前記有効信号と前記検出信号との論理積を演算する論理回路と、
を含む、部分放電測定器。
【請求項2】
前記第1のタイミングは前記パルス波形の立ち上がり終了タイミングと同じかそれよりも後である、請求項1に記載の部分放電測定器。
【請求項3】
前記第2のタイミングは前記パルス波形の立ち下がり開始タイミングと同じかそれよりも前である、請求項1又は2に記載の部分放電測定器。
【請求項4】
所定量の電荷からなる校正用パルスを前記測定対象物に注入する校正用パルス発生器と、
前記パルス生成回路及び前記校正用パルス発生器のいずれかと前記測定対象物とを選択的に接続するスイッチと、
を更に備え、
前記校正用パルスにより前記検出回路において生成される前記部分放電信号が前記閾値を上回るように、前記部分放電信号と前記閾値との相対的な大きさが設定される、請求項1~
3のいずれか1項に記載の部分放電測定器。
【請求項5】
前記信号抽出回路により抽出された前記検出信号に含まれるパルスの本数に基づいて部分放電の程度を判断する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の部分放電測定器。
【請求項6】
前記試験電圧の前記パルス波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうち少なくとも一方は300ナノ秒以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の部分放電測定器。
【請求項7】
前記試験電圧の大きさは可変であり、経時的に自動昇圧が可能である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の部分放電測定器。
【請求項8】
立ち上がり及び立ち下がりを有する
矩形波状のパルス波形を含む試験電圧を測定対象物に印加するパルス印加ステップと、
前記測定対象物に接続される測定端子と基準電位線との間に直列に接続された容量素子及びインピーダンス素子を有する回路の前記インピーダンス素子の両端に生じる電位差を部分放電信号として出力する検出ステップと、
前記部分放電信号と閾値とを比較してその比較結果である検出信号を出力する比較ステップと、
前記パルス波形の立ち上がり開始タイミングより後の第1のタイミングに有意値となり、前記パルス波形の立ち下がり終了タイミングより前の第2のタイミングに無意値となる有効信号を生成し、前記有効信号と前記検出信号との論理積を演算することにより、前
記第1のタイミングと、前
記第2のタイミングとの間の前記検出信号を抽出する信号抽出ステップと、
を含む、部分放電測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分放電測定器及び部分放電測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インバータ駆動モータの検査診断方法に関する技術が開示されている。この文献に記載された方法では、モータを検査又は診断する際に用いるインバータパルス試験電源のパルス立ち上がり時間が、検査診断対象であるモータ端子においてインバータ駆動時に観測されるサージ電圧の立ち上がり時間と異なる際には、モータ巻線ターン間においてインバータ駆動時に発生するピーク電圧を印加するのに必要な値だけ、インバータパルス試験電源のサージ電圧の大きさを高く、或いは低くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
測定対象物の絶縁体に生じる部分放電(ボイド放電、沿面放電及びコロナ放電)を測定するための部分放電測定器として、測定対象物に試験電圧を印加し、その際に測定対象物において検出される電荷等の電気信号に基づいて、部分放電の発生の有無を測定するものがある。試験電圧としては、例えば立ち上がり部分及び立ち下がり部分を有する矩形波状のパルス波形を含むものが用いられる。しかしながらその場合、部分放電と関係なく、パルス波形の立ち上がり及び立ち下がりに起因するノイズが電気信号に混入し、このノイズを部分放電として誤検出してしまうことがある。したがって、そのような誤検出を防ぐため、電気信号に対する閾値を大きく設定する必要が生じる。その場合、小さな部分放電を検出することが困難となる。
【0005】
そこで、本発明は、パルス波形の立ち上がり及び立ち下がりに起因するノイズを部分放電として誤検出することを抑制しつつ、より小さな部分放電を検出することを可能とする部分放電測定器及び部分放電測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る部分放電測定器は、立ち上がり及び立ち下がりを有するパルス波形を含む試験電圧を測定対象物に印加するパルス生成回路と、測定対象物に接続される測定端子、及び測定端子と基準電位線との間に直列に接続された容量素子及びインピーダンス素子を有し、インピーダンス素子の両端に生じる電位差を部分放電信号として出力する検出回路と、部分放電信号と閾値とを比較してその比較結果である検出信号を出力する比較回路と、パルス波形の立ち上がり開始タイミングより後の第1のタイミングと、パルス波形の立ち下がり終了タイミングより前の第2のタイミングとの間の検出信号を抽出する信号抽出回路と、を備える。
【0007】
本発明に係る部分放電測定方法は、立ち上がり及び立ち下がりを有するパルス波形を含む試験電圧を測定対象物に印加するパルス印加ステップと、測定対象物に接続される測定端子と基準電位線との間に直列に接続された容量素子及びインピーダンス素子を有する回路のインピーダンス素子の両端に生じる電位差を部分放電信号として出力する検出ステップと、部分放電信号と閾値とを比較してその比較結果である検出信号を出力する比較ステップと、パルス波形の立ち上がり開始タイミングより後の第1のタイミングと、パルス波形の立ち下がり終了タイミングより前の第2のタイミングとの間の検出信号を抽出する信号抽出ステップと、を含む。
【0008】
これらの部分放電測定器及び部分放電測定方法では、試験電圧が測定対象物に印加されると、測定対象物において部分放電が生じ、部分放電に起因する電荷が容量素子及びインピーダンス素子に流れる。これによりインピーダンス素子の両端に電圧降下分の電位差が生じ、この電位差が部分放電信号として出力される。この部分放電信号はパルス状の信号であり、部分放電の大きさに応じたピーク高さを有する。そして、比較回路(比較ステップ)において部分放電信号と閾値とが比較され、その比較結果の信号が、部分放電の有無を表す検出信号として出力される。また、この部分放電測定器(部分放電測定方法)は、信号抽出回路(信号抽出ステップ)を更に備える。パルス波形の立ち上がり開始直後及び立ち下がり終了直前においては、立ち上がり及び立ち下がりに起因するノイズが部分放電信号に混入するので、検出信号は、これらのノイズに基づくパルスを含むこととなる。信号抽出回路(信号抽出ステップ)は、パルス波形の立ち上がり開始タイミングより後の第1のタイミングと、パルス波形の立ち下がり終了タイミングより前の第2のタイミングとの間の検出信号を抽出する。すなわち、信号抽出回路(信号抽出ステップ)は、検出信号のうち上記のノイズに起因するパルスが少ないか、ほぼ含まれていないと推定される部分を抽出する。これにより、上記のノイズに起因するパルスが減少した検出信号を出力することができ、上記のノイズを部分放電として誤検出することを抑制できる。また、比較回路(比較ステップ)の閾値を部分放電信号に対して相対的に下げることが可能になり、より小さな部分放電を検出することができる。
【0009】
上記の部分放電測定器及び部分放電測定方法において、第1のタイミングは、パルス波形の立ち上がり終了タイミングと同じかそれより後であってもよい。この場合、検出信号から、パルス波形の立ち上がりに起因するノイズに基づくパルスをより確実に排除することができる。したがって、該ノイズを部分放電として誤検出することをより確実に抑制できる。
【0010】
上記の部分放電測定器及び部分放電測定方法において、第2のタイミングは、パルス波形の立ち下がり開始タイミングと同じかそれより前であってもよい。この場合、検出信号から、パルス波形の立ち下がりに起因するノイズに基づくパルスをより確実に排除することができる。したがって、該ノイズを部分放電として誤検出することをより確実に抑制できる。
【0011】
上記の部分放電測定器において、信号抽出回路は、第1のタイミングに有意値となり、第2のタイミングに無意値となる有効信号を生成する信号生成回路と、有効信号と検出信号との論理積を演算する論理回路と、を含んでもよい。例えばこのような構成により、信号抽出回路を好適に実現することができる。
【0012】
上記の部分放電測定器は、所定量の電荷からなる校正用パルスを測定対象物に注入する校正用パルス発生器と、パルス生成回路及び校正用パルス発生器のいずれかと測定対象物とを選択的に接続するスイッチと、を更に備え、校正用パルスにより検出回路において生成される部分放電信号が閾値を上回るように、部分放電信号と閾値との相対的な大きさが設定されてもよい。この場合、種々の測定対象物に応じて閾値を精度良く且つ容易に調整することができる。
【0013】
上記の部分放電測定器は、信号抽出回路により抽出された検出信号に含まれるパルスの本数に基づいて部分放電の程度を判断してもよい。この場合、部分放電試験の結果を精度良く提供することができる。
【0014】
上記の部分放電測定器において、試験電圧のパルス波形の立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうち少なくとも一方は300ナノ秒以下であってもよい。上記の部分放電測定器によれば、このような高速の立ち上がり及び立ち下がりを有する試験電圧を用いて測定を行うことができる。
【0015】
上記の部分放電測定器において、試験電圧の大きさは可変であり、経時的に自動昇圧が可能であってもよい。この場合、部分放電が生じ始める試験電圧を容易に特定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の部分放電測定器及び部分放電測定方法によれば、パルス波形の立ち上がり及び立ち下がりに起因するノイズを部分放電として誤検出することを抑制しつつ、より小さな部分放電を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る部分放電測定器の構成を概略的に示す図である。
【
図2】(a)高圧直流電源及びパルス生成回路の具体的な構成例を示す回路図である。(b)パルス生成回路の出力ノードから出力される試験電圧の波形の例である。
【
図3】(a)検出回路の具体的な構成例を示す回路図である。(b)比較回路の具体的な構成例を示す回路図である。
【
図4】(a)~(f)部分放電測定器における各信号の動作を示すタイミングチャートである。
【
図6】本発明の一実施形態による部分放電測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明による部分放電測定器及び部分放電測定方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る部分放電測定器10の構成を概略的に示す図である。
図1に示されるように、本実施形態の部分放電測定器10は、高圧直流電源11と、パルス生成回路12と、校正用パルス発生器13と、パルス制御回路14と、論理回路15と、スイッチ16と、検出回路20と、比較回路30とを備える。この部分放電測定器10は、測定対象物Mに生じる部分放電を測定する装置である。測定対象物Mは、例えば三相交流モータの巻線である。
【0020】
高圧直流電源11は、直流電圧を出力する。高圧直流電源11の直流電圧は可変であり、経時的に自動昇圧が可能であってもよい。パルス生成回路12は、高圧直流電源11と電気的に接続されており、高圧直流電源11から出力された直流電圧のオン/オフを行うことによって、立ち上がり及び立ち下がりを有するパルス波形を含む試験電圧Vtを生成して測定対象物Mに印加する。
図2(a)は、高圧直流電源11及びパルス生成回路12の具体的な構成例を示す回路図である。
図2(a)に示す例では、高圧直流電源11は、互いに直列に接続された電源111及び112を有する。電源111と電源112との間のノードN1は、基準電位線(接地電位線)Gに接続されて基準電位を規定する。電源111及び112を含む直列回路の高圧側の一端からは、正の直流電圧+HVが出力される。また、この直列回路の低圧側の一端からは、負の直流電圧-HVが出力される。+HV及び-HVの絶対値(波高値)は例えば0~5kVの範囲内であり、一例では、+HVは+2kV、-HVは-2kVである。+HV及び-HVの絶対値は可変であってもよい。
【0021】
パルス生成回路12は、ダイオードブリッジ120と、一対のスイッチ127,128とを有する。ダイオードブリッジ120は、4つのダイオード121~124と、スイッチ125とを含む。スイッチ125は例えばトランジスタであり、一例では電界効果トランジスタ(FET)である。スイッチ125がFETである場合、スイッチ125は寄生ダイオード126を含む。ダイオード121,123は、順方向を揃えて互いに直列に接続されており、具体的には、ダイオード121のアノードとダイオード123のカソードとが接続されている。ダイオード122,124は、順方向を揃えて互いに直列に接続されており、具体的には、ダイオード122のアノードとダイオード124のカソードとが接続されている。ダイオード121,123の間のノードN2は、抵抗が実質的にゼロである配線を介して、高圧直流電源11のノードN1と電気的に接続されている。ダイオード122,124の間のノードN3は、抵抗が実質的にゼロである配線を介して、パルス生成回路12の出力ノードN4と電気的に接続されている。ダイオード121,122のカソード同士は互いに接続され、ダイオード123,124のアノード同士は互いに接続されている。スイッチ125の一端はダイオード121,122の間のノードN5と電気的に接続され、スイッチ125の他端はダイオード123,124の間のノードN6と電気的に接続されている。スイッチ127の一端は、抵抗が実質的にゼロである配線を介して、電源111及び112を含む直列回路の高圧側の一端(電圧+HV)と電気的に接続されている。スイッチ127の他端は、抵抗が実質的にゼロである配線を介して、出力ノードN4と電気的に接続されている。スイッチ128の一端は、電源111及び112を含む直列回路の低圧側の他端(電圧-HV)と、抵抗が実質的にゼロである配線を介して電気的に接続されている。スイッチ128の他端は、抵抗が実質的にゼロである配線を介して、出力ノードN4と電気的に接続されている。
【0022】
図2(b)は、パルス生成回路12の出力ノードN4から出力される試験電圧Vtの時間波形の例である。
図2(b)に示されるように、この例による試験電圧Vtの時間波形においては、正のパルスPa(ピーク電圧+HV)と、負のパルスPb(ピーク電圧-HV)とが、基準電位の期間を挟んで交互に繰り返される。このような波形を、以降の説明において正負インバータパルスと称することがある。このような波形を生成するために、パルス生成回路12は次のように動作する。まず、スイッチ127が接続状態とされ、スイッチ125,128が非接続状態とされる。これにより、出力ノードN4では正のパルスPaが立ち上がる。次に、スイッチ127が非接続状態とされ、その直後若しくは同時にスイッチ125が接続状態とされる。スイッチ128は非接続状態を継続する。これにより、出力ノードN4では正のパルスPaが立ち下がり、出力ノードN4からは基準電位が出力される。続いて、スイッチ125が非接続状態とされ、その直後若しくは同時にスイッチ128が接続状態とされる。スイッチ127は非接続状態を継続する。これにより、出力ノードN4では負のパルスPbが立ち上がる。続いて、スイッチ128が非接続状態とされ、その直後若しくは同時にスイッチ125が接続状態とされる。スイッチ127は非接続状態を継続する。これにより、出力ノードN4では負のパルスPbが立ち下がり、出力ノードN4からは基準電位が出力される。以降、上記の動作を繰り返すことによって、正のパルスPaと負のパルスPbとが出力ノードN4から交互に出力される。なお、一例では、パルスPa,Pbの立ち上がり時間は100ナノ秒以上300ナノ秒以下であり、立ち下がり時間は100ナノ秒以上300ナノ秒以下である。立ち上がり時間及び立ち下がり時間とは、パルスPa,Pbの立ち上がり量/立ち下がり量の10パーセントを超えてから90パーセントに至るまでの時間である。
【0023】
再び
図1を参照する。スイッチ16は、パルス生成回路12及び校正用パルス発生器13のいずれかと、測定対象物Mとを選択的に接続する。パルス生成回路12の出力ノードN4は、抵抗が実質的にゼロである配線及びスイッチ16を介して、測定対象物Mと電気的に接続される。出力ノードN4から出力された上記のパルスPa,Pbは、スイッチ16を介して測定対象物Mに印加される。
【0024】
検出回路20は、スイッチ16と測定対象物Mとの間のノードN7と電気的に接続されている。
図3(a)は、検出回路20の具体的な構成例を示す回路図である。
図3(a)に示されるように、検出回路20は、ノードN7を介して測定対象物Mに接続される測定端子23と、測定端子23と基準電位線Gとの間に直列に接続された容量素子21及びインピーダンス素子22とを有する。具体的には、容量素子21は測定端子23とインピーダンス素子22との間に接続されており、インピーダンス素子22は容量素子21と基準電位線Gとの間に接続されている。試験電圧Vtがパルス生成回路12から測定対象物Mに印加されると、測定対象物Mにおいて部分放電が発生する。その部分放電に起因する電荷は、容量素子21及びインピーダンス素子22を通って基準電位線Gへ流れる。これにより、インピーダンス素子22の両端に電荷量に比例する電位差が生じる。検出回路20は、インピーダンス素子22の両端に生じる電位差を、部分放電信号Sg1として出力する。この部分放電信号Sg1はパルス状の電圧信号であり、部分放電電荷量の大きさに応じたピーク高さを有する。なお、容量素子21は、試験電圧Vtの配線と基準電位線Gとを電気的に分離するために設けられている。
【0025】
再び
図1を参照する。比較回路30は、部分放電信号Sg1のうち所定の周波数範囲内の成分を抽出すると共に、抽出した部分放電信号Sg1と予め設定された閾値とを比較して、その比較結果である検出信号Sg2を出力する。
図3(b)は、比較回路30の具体的な構成例を示す回路図である。
図3(b)に示されるように、本実施形態の比較回路30は、フィルタ部31と、減衰器32と、増幅部33とを含んでいる。フィルタ部31は、ハイパスフィルタ(HPF)、ローパスフィルタ(LPF)、及びバンドパスフィルタ(BPF)を組み合わせて構成されており、全体として、所定帯域の周波数成分を通過するバンドパスフィルタとして機能する。減衰器32は、フィルタ部31を通過した部分放電信号Sg1の周波数成分を、必要に応じて減衰する。一例では、減衰器32の減衰率として、1/1(すなわち減衰なし)及び1/10が必要に応じて作業者により切り替えられる。このような減衰率の切り替えは、測定結果の倍率の切り替え手段として利用される。増幅部33は、第1アンプ33a及び第2アンプ33bを含んでいる。第1アンプ33aは、増幅率を調整可能なように構成された可変ゲインアンプである。第2アンプ33bは、増幅率固定のアンプである。増幅部33は、フィルタ部31及び減衰器32を通過した部分放電信号Sg1を、所定の増幅率でもって増幅する。増幅部33によって増幅された部分放電信号Sg1は、比較器34へ出力される。比較器34では、増幅部33から出力された部分放電信号Sg1と予め設定された閾値とを比較して、その比較結果である検出信号Sg2を出力する。検出信号Sg2は、測定対象物Mにおける部分放電の有無を表し、部分放電信号Sg1が閾値を超えた場合に有意値となり、超えない場合に無意値となる。
【0026】
パルス制御回路14及び論理回路15は、信号抽出回路17を構成する。パルス制御回路14は、パルス生成回路12と電気的に接続されており、パルス生成回路12においてパルスPa,Pbの立ち上がり及び立ち下がりの各タイミングを制御するための基準信号Sg3をパルス生成回路12に提供する。パルス生成回路12は、基準信号Sg3に基づいて、上述したスイッチ125,127,128の接続状態/非接続状態を切り換える。また、パルス制御回路14は、本実施形態の信号生成回路の例でもある。すなわち、パルス制御回路14は有効信号Sg4を生成する。有効信号Sg4は、パルスPa,Pbの立ち上がり開始タイミングより後のタイミングにおいて有意値となり、パルスPa,Pbの立ち下がり終了タイミングより前のタイミングにおいて無意値となる信号である。パルス制御回路14は、例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)及びプログラム書き換え可能なロジック・デバイス(CPLD:Complex Programmable Logic Device)のうち少なくとも一方により好適に構成され得る。
【0027】
論理回路15は、2つの入力信号の論理積(AND)を演算する回路である。論理回路15の一方の入力端は比較回路30と電気的に接続され、比較回路30から検出信号Sg2を受ける。論理回路15の他方の入力端はパルス制御回路14と電気的に接続され、パルス制御回路14から有効信号Sg4を受ける。論理回路15は、有効信号Sg4と検出信号Sg2との論理積(AND)を演算することにより、パルスPa,Pbの立ち上がり開始タイミングより後のタイミングと、パルスPa,Pbの立ち下がり終了タイミングより前のタイミングとの間の検出信号Sg2を抽出する。論理回路15による演算結果は、この部分放電測定器10による測定結果を示す信号Sg5として、部分放電測定器10が備える表示装置等に出力される。
【0028】
図4(a)~(f)は、本実施形態の部分放電測定器10における各信号の動作を示すタイミングチャートである。(a)は基準信号Sg3を示し、(b)は試験電圧Vtを示し、(c)は部分放電信号Sg1を示し、(d)は検出信号Sg2を示し、(e)は有効信号Sg4を示し、(f)は測定結果としての信号Sg5を示す。まず、(a)及び(b)に示されるように、タイミングt
1において基準信号Sg3が有意値になると、試験電圧VtのパルスPa(又はPb)が立ち上がりを開始する。このとき、パルスPa(又はPb)の立ち上がりに起因して、(c)に示される部分放電信号Sg1にノイズが重畳し、該ノイズに起因して、(d)に示される検出信号Sg2にパルスPn1が生じる。その後、(e)に示される有効信号Sg4が、パルスPa(又はPb)の立ち上がり開始タイミングt
1から所定時間だけ後のタイミングt
3(第1のタイミング)において有意値となる。タイミングt
3は、パルスPa(又はPb)の立ち上がり終了タイミングと同じかそれより後であってもよい。
【0029】
そして、(a)及び(b)に示されるように、タイミングt3より後の或るタイミングにおいて基準信号Sg3が無意値になると、試験電圧VtのパルスPa(又はPb)が立ち下がりを開始する。このとき、パルスPa(又はPb)の立ち下がりに起因して、(c)に示される部分放電信号Sg1にノイズが再び重畳し、該ノイズに起因して、(d)に示される検出信号Sg2にパルスPn2が生じる。また、(e)に示される有効信号Sg4は、パルスPa(又はPb)の立ち下がり終了タイミングt4から所定時間だけ前のタイミングt2(第2のタイミング)において無意値となる。時間(t4-t2)は、時間(t3-t1)と同じであってもよく、異なってもよい。
【0030】
パルスPn1,Pn2がそれぞれ生じている期間においては、有効信号Sg4が無意値であるため、有効信号Sg4と検出信号Sg2との論理和である(f)の信号Sg5には、パルスPn1,Pn2に対応するパルスは生じない。一方、有効信号Sg4が有意値である期間(すなわちタイミングt3からタイミングt2までの期間)において、部分放電に起因するパルスが(c)の部分放電信号Sg1に生じ、それにより(d)の検出信号Sg2にパルスPtが生じると、(f)の信号Sg5にはパルスPtに対応するパルスPsが生じる。したがって、部分放電測定器10からは、部分放電が発生したことを示す信号Sg5が出力される。
【0031】
なお、(b)に示される試験電圧VtのパルスPa,Pbの立ち上がりから立ち下がりまでの時間幅(パルス幅)Tは、例えば1マイクロ秒~5マイクロ秒の範囲内であり、一例では2マイクロ秒である。ここで、立ち上がりから立ち下がりまでの時間幅Tとは、パルスPa,Pbの半値全幅(FWHM)を指す。
【0032】
また、部分放電測定器10では、信号Sg5に含まれるパルスPsの本数に基づいて、部分放電の程度を判断してもよい。例えば、部分放電に起因する少なくとも1つのパルスPsが信号Sg5に含まれていれば「部分放電あり」と判定してもよく、或いは、信号Sg5において部分放電に起因するパルスPsの発生回数が閾値(比較回路30の閾値とは別の閾値)を超えた場合に、「部分放電あり」と判定してもよい。部分放電測定器10では、部分放電に起因する1つのパルス毎にサンプリングを行うので、このようにパルスPsの発生回数でもって部分放電の程度の判断を行うことも可能である。特に、部分放電が生じ始める試験電圧の付近においては部分放電の発生頻度にばらつきが生じるので、パルスPsの発生頻度に基づいて部分放電の程度を判断することにより、部分放電試験の結果を精度良く提供することができる。なお、部分放電測定器10は、このように信号Sg5に含まれるパルスPsの本数に基づいて部分放電の程度を判断するための程度判断部を、論理回路15の後段に備えてもよい。
【0033】
図5は、部分放電測定器10の校正動作を示す図である。校正用パルス発生器13は、比較回路30の閾値と部分放電信号Sg1との相対的な大きさを適切に設定するために、放電電荷を模擬した所定量の電荷からなる校正用パルスQtを測定対象物M(供試体)に注入する。その際、スイッチ16は、校正用パルス発生器13と測定対象物Mとを接続する。校正用パルスQtは、検出回路20のインピーダンス素子22によって部分放電信号Sg1の電圧パルスに変換され、この電圧パルスは、比較回路30の比較器34において閾値と比較される。第1アンプ33aのゲイン及び比較器34の閾値のうち少なくとも一方は、校正用パルスQtに応じて検出信号Sg2のパルスPtが適切に発生するように(言い換えると、部分放電信号Sg1が閾値を上回るように)、作業者により調整される。このとき、比較回路30にはオシロスコープ18が接続され、部分放電信号Sg1を検波したモニタ信号Sg6を作業者がオシロスコープ18により観察する。これにより、部分放電信号Sg1の電圧パルスの大きさを作業者が知ることができる。そして、部分放電信号Sg1の電圧パルスと放電電荷との関係を校正用パルスQtを用いて調べることにより、通常の測定時においてもオシロスコープ18を通じて放電電荷量を知ることができる。校正用パルスQtのパルス幅は、試験電圧VtのパルスPa,Pbの立ち上がり時間及び立ち下がり時間よりも格段に小さい。これにより、校正用パルスQtの周波数を部分放電の周波数に近づけ、信号Sg5の有効性を高めることができる。
【0034】
図6は、本実施形態による部分放電測定方法を示すフローチャートである。この部分放電測定方法は、上述した部分放電測定器10を用いて好適に実施することができる。この方法は、パルス印加ステップST1、検出ステップST2、比較ステップST3、及び信号抽出ステップST4を含む。
【0035】
まず、パルス印加ステップST1では、立ち上がり及び立ち下がりを有するパルスPa,Pbを含む試験電圧Vtを測定対象物Mに印加する。試験電圧Vtの印加により、測定対象物Mでは部分放電に起因する放電電荷が発生する。次に、検出ステップST2では、検出回路20のインピーダンス素子22に電荷が流れることによりインピーダンス素子22の両端に生じる電位差を、部分放電信号Sg1として出力する。続いて、比較ステップST3では、部分放電信号Sg1と閾値とを比較してその比較結果である検出信号Sg2を出力する。続いて、信号抽出ステップST4では、パルスPa,Pbの立ち上がり開始タイミングt1より後のタイミングt3と、パルスPa,Pbの立ち下がり終了タイミングt4より前のタイミングt2との間の検出信号Sg2を抽出する。
【0036】
以上に説明した本実施形態による部分放電測定器10及び部分放電測定方法によって得られる作用効果について説明する。本実施形態の部分放電測定器10及び部分放電測定方法は、信号抽出回路17及び信号抽出ステップST4をそれぞれ備える。パルスPa,Pbの立ち上がり開始直後及び立ち下がり終了直前においては、立ち上がり及び立ち下がりに起因するノイズが部分放電信号Sg1に混入するので、検出信号Sg2は、これらのノイズに基づくパルスPn1,Pn2を含むこととなる(
図4(d)を参照)。信号抽出回路17(信号抽出ステップST4)は、パルスPa,Pbの立ち上がり開始タイミングt
1より後のタイミングt
3と、パルスPa,Pbの立ち下がり終了タイミングt
4より前のタイミングt
2との間の検出信号Sg2を抽出する。すなわち、信号抽出回路17(信号抽出ステップST4)は、検出信号Sg2のうち上記のノイズに起因するパルスPn1,Pn2が少ないか、ほぼ含まれていないと推定される部分を抽出する。これにより、上記のノイズに起因するパルスPn1,Pn2が減少した(或いは除去された)検出信号Sg2を出力することができ、上記のノイズを部分放電として誤検出することを抑制できる。また、これにより、比較回路30(信号抽出ステップST4)の閾値を部分放電信号Sg1に対して相対的に下げることが可能になるので、より小さな部分放電を検出することができる。
【0037】
本実施形態のように、タイミングt3は、パルスPa,Pbの立ち上がり終了タイミングと同じかそれよりも後であってよい。この場合、検出信号Sg2から、パルスPa,Pbの立ち上がりに起因するノイズに基づくパルスPn1をより確実に排除することができる。したがって、該ノイズを部分放電として誤検出することをより確実に抑制できる。
【0038】
本実施形態のように、タイミングt2は、パルスPa,Pbの立ち下がり開始タイミングと同じかそれよりも前であってもよい。この場合、検出信号Sg2から、パルスPa,Pbの立ち下がりに起因するノイズに基づくパルスPn2をより確実に排除することができる。したがって、該ノイズを部分放電として誤検出することをより確実に抑制できる。
【0039】
本実施形態のように、信号抽出回路17は、タイミングt3において有意値となり、タイミングt2において無意値となる有効信号Sg4を生成するパルス制御回路14と、有効信号Sg4と検出信号Sg2との論理積を演算する論理回路15と、を含んでもよい。例えばこのような構成により、信号抽出回路17を好適に実現することができる。
【0040】
本実施形態のように、部分放電測定器10は、所定量の電荷からなる校正用パルスQtを測定対象物Mに注入する校正用パルス発生器13と、パルス生成回路12及び校正用パルス発生器13のいずれかと測定対象物Mとを選択的に接続するスイッチ16とを備えてもよい。そして、校正用パルスQtにより検出回路20において生成される部分放電信号Sg1が閾値を上回るように、部分放電信号Sg1と閾値との相対的な大きさが設定されてもよい。この場合、種々の測定対象物Mに応じて閾値を精度良く且つ容易に調整することができる。
【0041】
本実施形態のように、試験電圧VtのパルスPa,Pbの立ち上がり時間及び立ち下がり時間のうち少なくとも一方は300ナノ秒以下であってもよい。本実施形態の部分放電測定器10によれば、このような高速の立ち上がり及び立ち下がりを有する試験電圧Vtを用いて測定を行うことができる。例えば、電気自動車やハイブリッド自動車等に使用されるインバータ駆動モータのスイッチング速度は数十ナノ秒であり、本実施形態によれば、実際のサージに近い形での部分放電の測定が可能となる。また、このような高速の立ち上がり及び立ち下がりを有する試験電圧Vtを用いて測定を行うことにより、絶縁材の表面にチャージされた電荷に対し、或る極性のパルスから逆極性のパルスへの急峻な変化が及ぼす影響を調べることができる。
【0042】
本実施形態のように、試験電圧Vtの大きさは可変であり、経時的に自動昇圧が可能であってもよい。部分放電の発生は試験電圧Vtの大きさに依存する。試験電圧Vtの大きさが可変であることにより、例えば試験電圧Vtを経時的に変化させつつ測定を行い、部分放電が生じ始める試験電圧Vtを容易に特定することができる。
【0043】
本発明による部分放電測定器及び部分放電測定方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では比較回路30がフィルタ部31、減衰器32及び増幅部33を含んでいるが、これらの回路要素のうち少なくとも1つは、必要に応じて省かれてもよい。また、上記実施形態では、試験電圧Vtとして、正のパルスPa及び負のパルスPbを交互に繰り返す正負インバータパルスを例示したが、試験内容及び測定対象物Mの種類によっては、正のパルスPa及び負のパルスPbのうちいずれかのみを含む試験電圧を測定対象物Mに印加してもよい。また、上記実施形態では、信号抽出回路17が、有効信号Sg4を生成するパルス制御回路14と、有効信号Sg4と検出信号Sg2との論理積を演算する論理回路15とを含んでいるが、信号抽出回路はこれ以外の様々な回路によっても構成され得る。
【符号の説明】
【0044】
10…部分放電測定器、11…高圧直流電源、12…パルス生成回路、13…校正用パルス発生器、14…パルス制御回路、15…論理回路、16…スイッチ、17…信号抽出回路、18…オシロスコープ、20…検出回路、21…容量素子、22…インピーダンス素子、23…測定端子、30…比較回路、31…フィルタ部、32…減衰器、33…増幅部、33a…第1アンプ、33b…第2アンプ、34…比較器、111,112…電源、120…ダイオードブリッジ、121~124…ダイオード、125,127,128…スイッチ、126…寄生ダイオード、G…基準電位線、M…測定対象物、N1~N3,N5~N7…ノード、N4…出力ノード、Pa,Pb,Pn1,Pn2,Pt,Ps…パルス、Qt…校正用パルス、Sg1…部分放電信号、Sg2…検出信号、Sg3…基準信号、Sg4…有効信号、Sg5…信号、Sg6…モニタ信号、ST1…パルス印加ステップ、ST2…検出ステップ、ST3…比較ステップ、ST4…信号抽出ステップ、t1…立ち上がり開始タイミング、t2…第2のタイミング、t3…第1のタイミング、t4…立ち下がり終了タイミング、Vt…試験電圧。