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特許7370981生体内留置物の製造方法および留置システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】生体内留置物の製造方法および留置システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20231023BHJP
【FI】
A61M37/00 590
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020532200
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2019022853
(87)【国際公開番号】W WO2020021878
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2018139982
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 秀和
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136128(JP,A)
【文献】特開2016-113738(JP,A)
【文献】特表2001-506144(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146627(WO,A1)
【文献】特表2010-534087(JP,A)
【文献】特表2005-533555(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内留置物と、デリバリーチューブを備え、前記デリバリーチューブは、コネクターを収容する収容部を備える留置システムであって、
前記生体内留置物は、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーを備え、その細胞ファイバーに前記コネクターを備え
前記コネクターは、前記細胞ファイバーの近位端に配置されており、
前記コネクターは、遠位部にチューブ形状を有し、かつ近位部に板状物を有しており、
前記コネクターは、前記細胞の足場材料を含むファイバー固定部を備え、
前記デリバリーチューブは、前記デリバリーチューブの手元部または前記デリバリーチューブの内腔に配置され、前記生体内留置物に荷重を加える放出機構を備えてい留置システム
【請求項2】
前記ファイバー固定部は、X線不透過材料を含む請求項1に記載の留置システム
【請求項3】
前記コネクターは、樹脂および金属のいずれかから選択される生体適合材料からなる請求項1または2に記載の留置システム
【請求項4】
前記細胞ファイバーは、らせん形状、不織布構造、および三次元構造のいずれかの形状である請求項1からのいずれか一項に記載の留置システム
【請求項5】
前記細胞ファイバーの直径は、100nmから1000μmである請求項1からのいずれか一項に記載の留置システム
【請求項6】
前記細胞ファイバーは、非神経細胞で構成される請求項1からのいずれか一項に記載の留置システム
【請求項7】
前記細胞ファイバーは、神経細胞で構成される請求項1からのいずれか一項に記載の留置システム
【請求項8】
前記細胞ファイバーは、神経幹細胞からニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバーを含む請求項1からのいずれか一項に記載の留置システム
【請求項9】
前記デリバリーチューブは、前記デリバリーチューブの手元部にシリンジを含み、前記放出機構は、前記シリンジにより生成する流体流によって、前記生体内留置物を前記デリバリーチューブから放出させる請求項1から8のいずれか一項に記載の留置システム。
【請求項10】
前記放出機構は、少なくとも一部が前記デリバリーチューブ内に配置されるプッシャーを含む請求項1から9のいずれか一項に記載の留置システム。
【請求項11】
前記コネクターは、前記プッシャーの遠位端に接続され、前記コネクターが前記プッシャーを介して供給される電気的または熱的エネルギーによって、前記プッシャーから離脱する離脱機構を備える請求項10に記載の留置システム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の生体内留置物を製造する方法であって、
細胞外基質と細胞を有する内層と、外層を備える筒状体とを準備する工程と、前記内層において前記細胞を育成する工程と、前記外層を溶解する工程とを含む生体内留置物の製造方法。
【請求項13】
前記細胞外基質は、コラーゲンまたはフィブロインを含む請求項12に記載の生体内留置物の製造方法。
【請求項14】
前記外層は、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カルシウムを含む請求項12または13に記載の生体内留置物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーを含む生体内留置物およびその留置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、脳梗塞、心臓神経症、心筋梗塞、動脈硬化症、網膜色素変性症、糖尿病網膜症、頭頸部の動脈瘤、糖尿病等の血管病変等の疾患部位の治療に際して、静脈注射により細胞を導入する手法や薬剤投与により内在性幹細胞を活性化させる研究は行われてきた。しかし、いずれも標的疾患部位への意図的な送達は難しく、具体的な生体内留置物および留置システムについては見出されていなかった。
【0003】
例えば従来技術として、特許文献1には、ファイバー中に細胞または細胞培養物を含む構造に関する構造体が開示されている。また、特許文献2には、ヌクレオチド系の薬剤を含む非液体型の治療エレメントおよびその留置システムに関して開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011-046105号公報
【文献】国際公開第2015-166648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は標的疾患部位への意図的な送達を可能にするコネクターを備える生体内留置物、留置システム、生体内留置物の製造方法、および留置システムの使用方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
[1]本発明は、生体内留置物であって、複数の細胞をファイバー状に構成した細胞ファイバーを備え、その細胞ファイバーにコネクターを備える生体内留置物である。
[2]コネクターは、細胞ファイバーの近位端に配置されていることが好ましい。
[3]コネクターは、チューブ形状であることが好ましい。
[4]コネクターは、遠位部にチューブ形状を有し、かつ近位部に板状物を有していることが好ましい。
[5]コネクターは、細胞の足場材料を含むファイバー固定部を備えることが好ましい。
[6]コネクターは、X線不透過材料を含むファイバー固定部を備えることが好ましい。
[7]コネクターは、樹脂および金属のいずれかから選択される生体適合材料からなることが好ましい。
[8]細胞ファイバーは、らせん形状、不織布構造、および三次元構造のいずれかの形状であることが好ましい。
[9]細胞ファイバーの直径は、100nmから1000μmであることが好ましい。
[10]細胞ファイバーは、非神経細胞で構成されることが好ましい。
[11]細胞ファイバーは、神経細胞で構成されることが好ましい。
[12]細胞ファイバーは、神経幹細胞からニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバーを含むことが好ましい。
[13]本発明は、生体内留置物と、デリバリーチューブを備え、デリバリーチューブは、コネクターを収容する収容部を備える留置システムである。
[14]デリバリーチューブは、デリバリーチューブの手元部にシリンジを含み、シリンジにより生成する流体流によって、生体内留置物をデリバリーチューブから放出させる放出機構を備えることが好ましい。
[15]留置システムは、少なくとも一部がデリバリーチューブ内に配置されるプッシャーを含む放出機構を備えることが好ましい。
[16]コネクターは、プッシャーの遠位端に接続され、コネクターがプッシャーを介して供給される電気的または熱的エネルギーによって、プッシャーから離脱する離脱機構であることが好ましい。
[17]本発明は、細胞外器質と細胞を有する内層と、外層を備える筒状体を準備する工程と、内層で細胞を育成する工程と、外層を溶解する工程とを含む生体内留置物の製造方法である。
[18]細胞外器質は、コラーゲンまたはフィブロインを含むことが好ましい。
[19]外層は、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カルシウムを含むことが好ましい。
[20]本発明は、生体内留置物を遠位側に配置したデリバリーチューブの遠位端を標的部位に配置する工程と、デリバリーチューブの近位端で流体の流れを生成する工程と、流体の流れによって生体内留置物を標的部位に配置する工程とを含む留置システムの使用方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、標的疾患部位への意図的な送達を可能にするコネクターを備える生体内留置物、留置システム、生体内留置物の製造方法、および留置システムの使用方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図2】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図3】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図4】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図5】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図6】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図7】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図8】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図9】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図10】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図11】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図12】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図13】本発明の実施の形態に係る生体内留置物のコネクターの近位端の形状を示す図である。
図14】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
図15】本発明の実施の形態に係る生体内留置物の留置システムの断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0010】
本発明の生体内留置物は、複数の細胞がファイバー状に構成された細胞ファイバーを備え、細胞ファイバーにコネクターを備えることに要旨を有する。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る生体内留置物1の断面の模式図であり、細胞ファイバー2の一部が直線状にデリバリーチューブ4の外へ展開された状態を示している。
【0012】
生体内留置物1は、遠位側と近位側を有している。生体内留置物1の近位側とは、生体内留置物1の延在方向に対して使用者(術者)の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向(すなわち処置対象側の方向)を指す。生体内留置物1は、遠近方向に延在している細胞ファイバー2と、細胞ファイバー2の近位端に接続されているコネクター3とを少なくとも備え、留置システムは、生体内留置物1とデリバリーチューブ4とを少なくとも備える。デリバリーチューブ4の内腔に配置されている複数の細胞をファイバー状に構成した細胞塊を細胞ファイバー2と称する。本発明によれば、細胞ファイバー2を体内の標的疾患部位へ確実に送達することができる。標的疾患部位へは、細胞ファイバー2と、細胞ファイバー2に接続されているコネクター3の一部または全部が送達される。
【0013】
また、コネクター3は、細胞ファイバー2の近位端に配置されていることが好ましい。つまり、生体内留置物1は、細胞ファイバー2の近位端にコネクター3を備えることが好ましい。細胞ファイバー2の近位端にコネクター3を備えることにより、生体内留置物1を標的疾患部位へ送達する際に、送達のために生体内留置物1へ加えられた荷重を細胞ファイバー2の近位端に位置するコネクター3が受け、効率的に生体内留置物1の標的疾患部位への送達を行うことができる。
【0014】
細胞ファイバー2を構成する細胞種には特に制限がなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、大脳皮質細胞等の神経細胞や骨格筋細胞や心筋細胞等の筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、肝細胞、膵島細胞、視細胞、血液単球細胞等から構成される。細胞ファイバー2は、単分化能を有する幹細胞(筋幹細胞、生殖幹細胞、肝幹細胞等)から構成されることが好ましい。また、多分化能性を有する各種の幹細胞(神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、ミューズ細胞等)、分化万能性を有する胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体細胞由来ES細胞(ntES細胞)、多分化多能を有する幹細胞(造血幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞等)から構成されるとなお好ましい。これら細胞種は一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。また、自家細胞だけでなく他家細胞を用いてもよい。本願において、神経細胞以外の細胞を非神経細胞という。
【0015】
脳損傷部位への治療では、細胞ファイバー2はあらかじめ神経幹細胞からニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバーを含む細胞から形成することが好ましい。これにより、治療標的部位での神経再生が加速化される。その他の部位の治療では、非神経細胞の細胞ファイバー2を用いることができる。
【0016】
細胞ファイバー2は、BDNF(脳由来神経栄養因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、EGF(上皮成長因子)、FGF(繊維芽細胞成長因子)、IGF(インスリン様成長因子)、PDGF(血小板由来成長因子)、NGF(神経成長因子)等の細胞成長因子やサイトカイン等の生理活性物質および遺伝子プラスミド、抗体や薬剤内包カプセルを導入した細胞から構成されていてもよい。
【0017】
細胞ファイバー2の製造方法は特に限定されないが、細胞外基質と細胞を有する内層と、外層を備える筒状体とを準備する工程と、内層において細胞を育成する工程と、外層を溶解する工程と、を含むことが好ましい。外層を溶解する工程は、内層にて細胞を育成させた後に行う。また、筒状体は、外層の内側に内層が配置された構造であることが好ましい。さらに、内層の一部が、筒状体の外側に面していてもよい。
【0018】
内層が有する細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロイン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリペプチド等が挙げられる。中でも、内層が有している細胞外基質は、コラーゲンまたはフィブロインを含むことが好ましい。外層は、アルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸カルシウムを含むことが好ましい。
【0019】
細胞ファイバー2は細胞の支持体を備えていてもよい。支持体の材料は、生体吸収性高分子や天然高分子、脱細胞化処理した生体組織や細胞、またはそれらの組み合わせ等が挙げられる。例えば、生体吸収性高分子はポリL-乳酸(PLLA)、ポリグルコール酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)やポリカプロラクトン(PCL)を用いることができる。また、天然高分子は、例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロイン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリペプチド等が挙げられる。
【0020】
細胞ファイバー2の直径は、100nmから1000μmであることが好ましい。なお、細胞ファイバー2の直径は、デリバリー性能や、標的部位の形状、サイズに応じて選択することができる。細胞ファイバー2は、軸方向の全長にわたって細胞によって構成されていることが好ましい。また、必要に応じて、細胞ファイバー2は、細胞以外の物質や薬剤を含んでいてもよい。細胞以外の物質の例として、細胞の成長を促進する物質や、標的部位において細胞の接着を促進する物質等が挙げられる。
【0021】
生体内留置物1として、遠近方向に長尺の細胞ファイバー2を1本または複数本用いたものであってもよく、短い細胞ファイバー2の集合体であってもよい。生体内留置物1が短い細胞ファイバー2の集合体である場合、細胞ファイバー2間をつなぐ中間部材が生体内留置物1に含まれていてもよい。中間部材として、上述した細胞ファイバー2に用いられる材料の他に、例えばゼラチン等のたんぱく質を用いることもできる。細胞ファイバー2の構造は円柱構造であることが好適であるが、特に制限はなく、図2図8に示すように、らせん形状21、二重らせん構造22、不織布構造23、シート状24、円筒形状の細胞ファイバー2を複数束ねた円筒束形状25、筒状の細胞ファイバー2の内側にさらに細胞ファイバー2が配置された円筒重ね形状26、コイル状27等の三次元構造であってもよい。細胞ファイバー2を中空状に形成して用いることもできる。また、シート状に形成した細胞ファイバー2を巻いて円柱状にしたり、折り畳んだりして用いることもできる。細胞ファイバー2の形状は、デリバリー性能や、標的部位の形状、サイズに応じて選択することができる。特に、細胞ファイバー2が、らせん形状、不織布構造、三次元構造である場合に、組織への定着率および組織への適合性が上がり治療効果が高まる。また、あらかじめ細胞ファイバー2の形状を標的組織に合わせた形状とすることにより、治療時間を短縮することができる。
【0022】
図9に示すように、細胞ファイバー2の遠位端は半球状または半楕円球状のヘッド7を備えることが好ましい。これは、細胞ファイバー2の先端が血管内壁との摩擦を減らし、細胞ファイバー2のデリバリー性能向上および細胞ファイバー2の遠位端のデブリ発生の抑制に寄与するためである。なお、デブリとは、細胞ファイバー2が血管壁等に接触した際に発生する不要物のことをいう。
【0023】
図10に示すように、デリバリーチューブ4からの放出を容易にするため、細胞ファイバー2の近位端はコネクター3に合わせた形状をしていることが好ましい。例えば、コネクター3の遠位端が遠位側へ向かって先細りのテーパー形状となっているテーパー状コネクター31である場合には、細胞ファイバー2の近位端もテーパー状コネクター31のテーパーと同様のテーパー構造をなすことが挙げられる。細胞ファイバー2の近位端の形状をこのような形状にすることにより、細胞ファイバー2がコネクター3から離脱しにくくすることができる。
【0024】
図11に示すように、細胞ファイバー2がコネクター31の直径に対して著しく細径である場合、細胞ファイバー2がデリバリー中に破断してコネクター31から離脱するのを防ぐため、細胞ファイバー2の近位端はテーパー形状をしていることが好ましい。
【0025】
本発明の生体内留置物1は、細胞ファイバー2の近位端にコネクター3が接続されているため、生体内留置物1をデリバリーチューブ4内に配置した際に、細胞ファイバー2が意図せずデリバリーチューブ4から逸脱することを抑制できる。
【0026】
細胞ファイバー2と、細胞ファイバー2の近位端に接続されているコネクター3は、例えば、圧入、溶着、かしめ等の圧着、糊や接着剤による接着、係合、連結、結着、結紮等の物理的な固定等の方法、細胞の接着性を利用した固定方法またはこれらの組み合わせにより接続固定することができる。コネクター3には、細胞ファイバー2が固定される部分であるファイバー固定部を設けることができる。ファイバー固定部は、細胞ファイバー2の近位端側に位置することが好ましい。
【0027】
生体内留置物1は、細胞ファイバー2の作製時に細胞をコネクター3と共培養することによって作製されることが好ましい。細胞はフィブロネクチンやラミニン等の接着タンパク質を分泌して細胞外マトリックスを形成させながらコネクター3に接着する。また、細胞ファイバー2とコネクター3との接合は、組織接着剤を使用してもよい。組織接着剤としては血液製剤の一種であるフィブリノゲンとトロンビンの混合により形成されるフィブリンおよびフィブリン重合体を用いることができる。フィブリンおよびフィブリン重合体の具体例としては、ボルヒール、ティシール、ベリプラスト等が挙げられる。その他の組織接着剤としては、デキストランやデキストリンおよびポリリジン等から構成される接着剤が好ましい。デキストランやデキストリンおよびポリリジン等から構成される接着剤としては、例えば、LYDEXが好ましい。血液製剤ではC型肝炎やヒトパルボウイルスB19等のウイルスを完全に不活化・除去できない可能性もあるが、LYDEXであれば高い接着性と安全性を有しているためである。
【0028】
コネクター3の外形は、デリバリーチューブ4の内腔を遠近方向に移動可能な形状であればよく、その遠近方向の断面の形状は、円形、多角形、曲線形等任意の形状に設計することができる。また、コネクター3は中空であっても、中実であってもよい。
【0029】
図1に示すように、コネクター3はチューブ形状を含むことが好ましい。チューブ形状としては、円筒状、多角形筒状等が挙げられる。中でも、コネクター3は円筒状のチューブ形状を含むことがより好ましい。このようにチューブ形状を形成することによって、チューブ内腔に細胞ファイバー2の一部を配置し、細胞ファイバー2の保持を容易にすることができる。
【0030】
図10および図11に示すように、チューブ形状を含むコネクター3の遠位端は中空のテーパー形状をしていてもよい。テーパー形状は遠位側に向かって先細りであってもよい。このようにテーパー形状を形成することによって、テーパー状コネクター31のテーパー部での細胞ファイバー2の保持を容易にすることができる。
【0031】
コネクター3は、遠位部にチューブ形状を有し、かつ近位部に板状物を有していることが好ましい。コネクター3が遠位部にチューブ形状と、近位部に板状物とを有していることにより、生体内留置物1を標的疾患部位へ送達するために生体内留置物1へ加えられた荷重をコネクター3の近位部の板状物が効率的に受け止めて効率的に生体内留置物1を送達することができ、さらに、コネクター3の遠位部がチューブ形状となっているため、コネクター3に荷重が加わった際にコネクター3が細胞ファイバー2から外れにくくすることが可能となる。
【0032】
図12に示すように、コネクター3の遠位部が中空のチューブ形状であり、近位部に密閉構造6をしていることがさらに好ましい。このように密閉構造6を形成することによって、生体内留置物1の近位部に生体内留置物1を放出する際の荷重が掛かりやすくなるため、生体内留置物1がデリバリーチューブ4から放出されやすくなる。
【0033】
図13(a)から(d)に示すように、コネクター3の近位端の軸方向における断面構造は密閉構造6以外に、様態(a)に示す様に六角形や様態(b)に示す様に四角形や様態(c)に示す様にクロス型や様態(d)に示す様に網目構造をしていてもよい。また、コネクター3の断面構造が全長にわたってこのような形状であってもよい。
【0034】
コネクター3は、少なくともその一部が細胞の足場材料により構成される部分であるファイバー固定部を備えることが好ましい。このような足場材料を介して、細胞ファイバー2をコネクター3に固定することができる。足場材料は生体吸収性高分子や天然高分子、脱細胞化処理した生体組織や細胞またはそれらの組み合わせを用いることができる。例えば、生体吸収性高分子はポリL-乳酸(PLLA)、ポリグルコール酸(PGA)、乳酸とグリコール酸の共重合体(PLGA)やポリカプロラクトン(PCL)が用いられる。また、天然高分子はコラーゲン、ラミニン、フィブロイン、ゼラチン、グリコサミノグリカン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリペプチド等が挙げられる。
【0035】
足場材料は多孔質体に加工して利用されることが好ましい。多孔質体に加工することで多くの細胞が多孔質体に入りやすくなると共に十分な酸素や栄養素の供給を可能にする。また、ハイドロゲル状に加工し、積層化して利用されることがより好ましい。
【0036】
また、足場材料は、細胞成分のみを取り除き、細胞外マトリックスを残した脱細胞化組織であることがより好ましい。脱細胞化組織は生体組織の構造とよく似ていることや細胞成長因子等の生理活性物質が豊富に存在することからより高い組織再生効果が期待できる。上記に例示した足場材料は、細胞を含んでいてもよく、FGF(繊維芽細胞成長因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、EGF(上皮成長因子)、IGF(インスリン様成長因子)、PDGF(血小板由来成長因子)、NGF(神経成長因子)等の細胞成長因子やサイトカイン等の生理活性物質および遺伝子プラスミドを導入した材料から構成されたものであればなお好ましい。
【0037】
コネクター3はまた、合成樹脂材料や金属材料から構成されていてもよい。そのような材料として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン等のポリアミド樹脂やポリイミド、ポリシリコーン等の樹脂材料、または白金、金、ロジウム、パラジウム、レニウム、金、銀、チタン、タンタル、タングステンおよびこれらの合金、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。コネクター3は、各種の合成樹脂、金属、および足場材料を組み合わせた構成とすることができる。コネクター3の材料は生体適合材料であることが好ましい。つまり、コネクター3は、樹脂および金属のいずれかから選択される生体適合材料からなることが好ましい。これにより、生体内留置部材が体内に配置された際の安全性を高めることができる。
【0038】
コネクター3の近位端には造影マーカーを有することが好ましい。造影マーカーは白金、パラジウム等のX線不透過金属材料またはアーチファクトの少ないX線難透過性の非金属材料から構成され、リング状またはコイル形状であってもよい。造影マーカーは、X線不透過材料を含むコネクターの一部分であってもよい。ファイバー固定部は、X線不透過材料を含むことが好ましい。つまり、コネクター3は、X線不透過材料を含むファイバー固定部を備えることが好ましい。これにより、X線画像において細胞ファイバー2がコネクター3に固定されている部分を確認することができる。
【0039】
また、コネクター3は生体内留置物1を標的部位へ送達する際にデリバリーチューブ4の内部を移動する。その際、滑り性向上のためにデリバリーチューブ4の内層またはコネクター3の外表面を親水性高分子物質で覆うことが好ましい。これにより、生体内留置物1を挿入、または引き出す操作を行う際に摩擦係数が減少して潤滑性が付与される。親水性高分子物質としては特に限定されないが、例えば天然または合成の高分子物質、あるいはその誘導体が挙げられる。特に、セルロース系高分子物質(例えば、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリエチレンオキサイド系高分子物質(ポリエチレングリコール)、無水マレイン酸系高分子物質、アクリルアミド系高分子物質、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、水溶性ナイロンは摩擦係数が少なく、デリバリーチューブ4の摺動性が一段と向上する。
【0040】
上述した生体内留置物1を生体内に留置するための留置システムとして、生体内留置物1を内腔に配置できるデリバリーチューブ4を用いる。
【0041】
図14に示すように、デリバリーチューブ4は、生体内留置物1のコネクター3を収容するコネクター収容部5を含む。コネクター収容部5は、デリバリーチューブ4の遠位端を含む遠位側の部分である。生体内留置物1は、デリバリーチューブ4の遠位側の放出口から体内に放出される。デリバリーチューブ4は直接体腔内に挿入されてもよく、予め体腔内に配置されている器具内を通じて標的部位へ送達されてもよい。デリバリーチューブ4が体腔内等を通り、デリバリーチューブ4の放出口が標的部位まで送達されるまでの間、細胞ファイバー2はデリバリーチューブ4内に配置されていてもよく、一部が放出口からデリバリーチューブ4外へ出ていてもよい。
【0042】
デリバリーチューブ4は術者が血管内等にデリバリーチューブ4を挿入、引き出す操作を行う際に、デリバリーチューブ4の基端部で加えられた回転力が確実に伝達されるためのトルク伝達性および血管内を前進させるために術者の押し込み力が基端側から先端側に確実に伝達される押し込み性を備えることが好ましい。
【0043】
さらに複雑な形状に曲がった血管等を先行するワイヤに沿って円滑かつ血管内壁等を損傷することなく挿入および引き出しが行えるよう、デリバリーチューブ4の内層が、ワイヤの滑性を呈することが好ましい。また、デリバリーチューブ4はワイヤの追随性とデリバリーチューブ4の外層の血液や組織に対する親和性を備えることが好ましい。加えて、例えば脳内の細く蛇行した血管において、目的とする患部のある標的部位の位置までデリバリーチューブ4の先端が到達するためには、デリバリーチューブ4の細経化、さらには、高周波電流を使用する場合は導電性ワイヤ通電時に、漏電なく安全に使用することのできるデリバリーチューブ4が必要となる。デリバリーチューブ4を構成する材料としてはポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリスチレンエラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等の各種エラストマー、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、白金、金、ロジウム、パラジウム、レニウム、銀、チタン、タンタル、タングステン、ステンレス鋼等の金属材料、またはこれらのうちの2つ以上を組み合わせたものが挙げられる。中でも、デリバリーチューブ4を構成する材料は、柔軟性や加工容易性からポリアミドエラストマーであることが好ましい。ポリアミドエラストマーとしては、例えば、ARKEMA社製のPEBAX(登録商標)が好適である。
【0044】
また、押し込み性、追随性、耐キンク性および安全性の観点からデリバリーチューブ4の外表面を親水性高分子物質で覆うことが好ましい。これにより、デリバリーチューブ4の外表面が血液または生理食塩水等に接触したときに、摩擦係数が減少して潤滑性が付与される。親水性高分子物質としては特に限定されないが、例えば天然または合成の高分子物質、あるいはその誘導体が挙げられる。特に、セルロース系高分子物質(例えば、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリエチレンオキサイド系高分子物質(ポリエチレングリコール)、無水マレイン酸系高分子物質、アクリルアミド系高分子物質、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、水溶性ナイロンは摩擦係数が少なく、デリバリーチューブ4の摺動性が一段と向上する。
【0045】
デリバリーチューブ4は、生体内留置物1を体内に放出するための放出機構を含むことが好ましい。生体内留置物1を放出する方法としては、例えば、水圧式、電気式や機械式等が考えられる。中でも、水圧式放出機構または電気式放出機構を用いて生体内留置物1を体内に放出することが好ましい。また、気体を受容可能な器官に対しては、水圧式放出機構にかえて、例えば空気圧放出機構を用いて生体内留置物1を体内に放出することができる。
【0046】
液体や気体を用いた生体内留置物1のデリバリーチューブ4からの放出方法は、生体内留置物1を遠位側に配置したデリバリーチューブ4の遠位端を治療標的部位に配置する工程と、デリバリーチューブ4の近位端で流体流を生成する工程と、流体の流れによって生体内留置物1を治療標的部位に配置する工程とを含む。本発明の使用方法は、このような放出方法を含む。流体流とは流体の流れであり、液体の流れや気体の流れである。
【0047】
図15にシリンジ8を用いた放出機構を示す。デリバリーチューブ4は、デリバリーチューブ4の手元部にシリンジ8を含み、シリンジにより生成する流体流によって、生体内留置物1をデリバリーチューブ4から放出させる放出機構を備えることが好ましい。水圧式放出機構はシリンジ8に例えば滅菌済みの生理食塩液等の流体を満たしてシリンジ8から空気を除去した後に、デリバリーチューブ4と接続する。デリバリーチューブ4内に空気があれば完全に除去する。シリンジとデリバリーチューブ4とを接続した後に、シリンジ8を加圧することによってデリバリーチューブ4内で生体内留置物1を移動することができる。デリバリーチューブ4の先端を生体内の治療標的部位に送達した際に、シリンジ8でさらに加圧することで治療標的部位に生体内留置物1を放出することができる。また、生体内留置物1を標的部位に再配置する際にはシリンジ8を陰圧にすることでデリバリーチューブ4内に生体内留置物1を戻すことが可能となるため、シリンジ8を用いた放出機構は生体内留置物1の適切な配置に好適である。
【0048】
また、電気式放出機構は外部から導電性のデリバリーチューブ4と生体に接続する対極との間に放出用電流を供給し、接続部材を分解・溶断する。中でも、熱溶解可能なポリビニルアルコール等の熱可溶性部材をコネクター3として用いた場合、導電性デリバリーチューブ4の先端部を加熱用電極とし、対極との間に供給した高周波電流による加熱でコネクター3が熱溶解し生体内留置物1が放出される。
【0049】
また、図14に示すように、デリバリーチューブ4の内腔にコネクター3と接続されたプッシャー9を用意してもよい。つまり、生体内留置物1を生体内に留置するための留置システムは、少なくとも一部がデリバリーチューブ4内に配置されるプッシャー9を含む放出機構を備えることが好ましい。また、プッシャー9は、コネクター3に電気的または熱的エネルギーを供給する機構を備えることが好ましい。プッシャー9を介してコネクター3に供給されるエネルギーにより、プッシャー9とコネクター3との接続が解除されて、生体内留置物1をプッシャー9から離脱させる離脱機構を実現することができる。すなわち、コネクター3は、プッシャー9の遠位端に接続され、コネクター3がプッシャー9を介して供給される電気的または熱的エネルギーによって、プッシャー9から離脱する離脱機構を備えることが好ましい。プッシャー9とコネクター3との間には、プッシャー9を介して供給されるエネルギーによって切断される離脱部を設けることができる。
【0050】
プッシャー9の材料は生体適合性と導電性を有する金属線材の材料が好ましく、白金、タングステン、チタン、金、イリジウム、パラジウム、タンタルおよびこれらの合金、ステンレス鋼等を例示することができる。その場合、外部から導電性のデリバリープッシャーと生体に接続する対極との間に放出用電流を供給し、コネクター3を分解・溶断する。中でも、熱溶解可能なポリビニルアルコール等の熱可溶性部材をコネクター3として用いた場合、導電性デリバリーチューブ先端部を加熱用電極とし、対極との間に供給した高周波電流による加熱でコネクター3が熱溶解して生体内留置物1が放出される。コネクター3にプッシャー9を接続した場合、標的部位に再配置する際には手元部のプッシャー9を引くことによってデリバリーチューブ4内に戻すことが可能となるため好適である。
【0051】
本願は、2018年7月26日に出願された日本国特許出願第2018-139982号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年7月26日に出願された日本国特許出願第2018-139982号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【符号の説明】
【0052】
1:生体内留置物
2、21、22、23、24、25、26、27:細胞ファイバー
3、31:コネクター
4:デリバリーチューブ
5:コネクター収容部
6:密閉構造
7:ヘッド
8:シリンジ
9:プッシャー
図1
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