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特許7370987固液相系を用いて核酸を単離して精製するための方法
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  • 特許-固液相系を用いて核酸を単離して精製するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】固液相系を用いて核酸を単離して精製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20231023BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231023BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20231023BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12M1/00 A
C12Q1/68
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020539057
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 US2019014330
(87)【国際公開番号】W WO2019144030
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-17
(31)【優先権主張番号】62/619,274
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520157602
【氏名又は名称】フェーズ サイエンティフィック インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Phase Scientific International Ltd.
【住所又は居所原語表記】32 & 33/F, Gravity, 29 Hung Yip Street, Kwun Tong, Kowloon, Hong Kong (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チウ, イン トゥ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-537106(JP,A)
【文献】特表2017-513015(JP,A)
【文献】国際公開第2017/214315(WO,A1)
【文献】特表2007-525222(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0042506(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸含有材料から核酸を精製するための固液相系であって、多孔質材料および水性二相系(ATPS)を含み、前記多孔質材料はガラス繊維紙であり、表面および複数の細孔を含み、前記表面および前記細孔は複数のカチオン性アミン基を含み、前記複数のカチオン性アミン基はスペルミジンであり、前記水性二相系は第1の相および第2の相を含み、前記第1の相はポリマー溶液であり前記第2の相は塩溶液である、系。
【請求項2】
前記多孔質材料が、0.1~100μmの範囲の平均細孔径を有する、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記第1の相の体積と前記第2の相の体積との比が1:1~1:1000である、請求項1に記載の系。
【請求項4】
前記精製される核酸が約20~1000塩基対のサイズを有する、請求項1に記載の系。
【請求項5】
10秒~5分以内に標的核酸を精製することができる、請求項1に記載の系。
【請求項6】
前記固液相系を用いて精製された標的核酸の濃度が、前記核酸含有材料中の前記標的核酸の濃度の10~1000倍である、請求項1に記載の系。
【請求項7】
前記精製される核酸が、1pg/mL以上の濃度で前記核酸含有材料中に存在する、請求項1に記載の系。
【請求項8】
請求項1に記載の固液相系を用いて核酸含有材料から核酸を迅速に精製して濃縮するための方法。
【請求項9】
核酸含有材料から核酸を精製するための方法であって、
表面および複数の細孔を含む多孔質材料を含み、前記表面および前記細孔が複数のカチオン性アミン基を含む固相と、水性二相系(ATPS)を含む液相とを含む固液相系を得るステップ(a)と、
前記核酸含有材料を前記液相と混合することにより、混合物を得るステップ(b)と、
ステップ(b)で得られた前記混合物を前記固相と接触させるステップ(c)とを含み、
前記多孔質材料はガラス繊維紙であり、前記複数のカチオン性アミン基はスペルミジンであり、前記水性二相系は第1の相および第2の相を含み、前記第1の相はポリマー溶液であり前記第2の相は塩溶液であり、
前記核酸は、前記固相に結合し、続いて前記多孔質材料の前記細孔を通過することができ、かつ前記核酸を前記多孔質材料上で濃縮する方法。
【請求項10】
前記固相の前記多孔質材料から前記核酸を溶出させるステップをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記多孔質材料が、0.1~100μmの範囲の平均細孔径を有する、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の相の体積と前記第2の相の体積との比が1:1~1:1000である、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記精製される核酸が約20~1000塩基対のサイズを有する、請求項に記載の方法。
【請求項14】
10秒~5分以内に標的核酸を精製することができる、請求項に記載の方法。
【請求項15】
前記固液相系を用いて精製された標的核酸の濃度が、前記核酸含有材料中の前記標的核酸の濃度の10~1000倍である、請求項に記載の方法。
【請求項16】
前記精製される核酸が、1pg/mL以上の濃度で前記核酸含有材料中に存在する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年1月19日に出願された米国仮出願第62/619,274号の利益を主張する。前述の出願の全体の内容および開示は、参照により本出願に組み込まれるものとする。
【0002】
本出願を通じて、様々な出版物が引用されている。本発明が関連する技術の状態をより完全に説明するために、これらの出版物の開示は、その全体が参照により本出願に組み込まれるものとする。
【0003】
本発明は、核酸含有材料から核酸を単離して精製するための方法に関する。いくつかの実施形態では、方法は、1つまたは複数のカチオン性基を含有する修飾多孔質材料を固液相系で使用することを含む。修飾多孔質材料は、核酸を効果的に捕捉して保持することにより標的核酸の濃度を大幅に増加させるのに有用である。
【背景技術】
【0004】
高品質の核酸の単離および精製は、多くの生物工学的応用における重要なステップである。特定の培地中に存在する核酸の試験を含む多くの分析アッセイの性能は、試料(例えば、血液または口腔細胞)中の標的核酸の純度および量に大きく依存する。試料中の標的核酸の量または濃度が低すぎる場合、または非標的核酸、タンパク質などの他の高分子、または塩および洗剤などの小分子のような干渉分子が試料中にかなりの量または少量存在する場合、結果の信頼性が低下する可能性がある。したがって、元の試料中の他の成分から高純度および大量の核酸を分離することは、核酸の高品質分析を保証するために重要である。
【0005】
生体分子に対する親和性または結合能力が増加したいくつかのイオン交換膜(例えば、米国特許第4,473,474号および米国特許第4,601,828号に開示されているもの)が開発されている。しかしながら、修飾は膜の表面のみに限定される。今日まで、親和性または結合能力を高めるために多孔質膜内の細孔および/または毛細管系を修飾することに関する報告はない。
【0006】
米国特許第6,780,327号は、カチオン荷電膜を開示している。膜は、親水性基材と、正電荷を膜に固定するための架橋コーティングとを含む。しかしながら、このような膜の製造は、複雑な化学反応および高いプロセスコストを伴う。いくつかの膜の化学反応、例えば、架橋度を制御することは、比較的難しく、多大な労力を要する。
【0007】
生体試料から核酸を抽出して精製するための現在の方法は、通常、時間を要し、面倒で、コストがかかり、かつ危険な有機溶媒の使用を伴う。また、収集される核酸の最終的な量または濃度は、下流の生物工学的応用および分析の要件を必ずしも満たすわけではない。したがって、これらの方法は、臨床実験室または工業環境での応用が限られる場合がある。これらの方法の制限には、大量の試料を処理する能力の欠如、および迅速な医療診断のための自動化との適合性が低いことも含まれる場合がある。
【0008】
当技術分野におけるいくつかの欠点に対処するために、本発明は、様々な工業、臨床および研究用途との適合性が高い、核酸の単離および精製のための新規で簡略化された方法および系を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第4,473,474号
【文献】米国特許第4,601,828号
【文献】米国特許第6,780,327号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸含有材料から核酸を迅速に単離して精製するための固液相系を提供する。系は、固相としての多孔質材料と、液相としての水性二相系(ATPS)とを含む。いくつかの実施形態では、多孔質材料は表面および複数の細孔を含み、表面および細孔は複数のカチオン性基を含み、ATPSは第1の相および第2の相を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、カチオン性基を含有する修飾多孔質材料を含む固液相系を用いて、核酸含有材料から核酸を単離して精製するための方法を提供する。修飾多孔質材料は、標的核酸を効果的に捕捉して保持することにより標的核酸の濃度を大幅に増加させることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明は、表面と細孔/毛細管系の両方がカチオン性基を含有するように修飾された修飾多孔質材料を用いて、生体材料中に存在する核酸を効果的かつ効率的に単離して精製することができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、カチオン性基を含有する修飾多孔質材料を用いて、生体材料中に存在する核酸を効果的かつ効率的に単離して精製することができる。いくつかの実施形態では、カチオン性基は、ジメチルアミン、トリメチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミンなどの脂肪族アミン(第一級、第二級または第三級アミン)、およびそれらの組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態では、脂肪族アミンは、1~12個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、カチオン性基は、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアニリンなどの芳香族アミン、またはそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、カチオン性基は、スペルミジン、スペルミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミンなどのポリアミン、およびそれらの組み合わせである。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸含有材料から核酸を精製するための方法を提供し、該方法は、
表面および複数の細孔を有する多孔質材料を含み、表面および細孔が複数のカチオン性基を含有する固相と、第1の相および第2の相を含有する水性二相系(ATPS)を含む液相と、を含む固液相系を得るステップa)と、
核酸含有材料を液相と混合することにより、混合物を得るステップb)と、
ステップb)で得られた混合物を固相と接触させるステップc)と
を含み、核酸が、固相に結合し、続いて多孔質材料の細孔を通過することができ、その結果、核酸を精製する。
【0015】
多孔質材料の表面および細孔/毛細管系が、正電荷を有するカチオン性基を含有するように修飾されているため、多孔質材料は、負電荷を有する核酸に対してより高い結合親和性を有する。その結果、そのような多孔質材料は、核酸の捕捉/保持においてより効果的であり、未修飾多孔質材料を用いて収集され得る量と比較して、収集可能な核酸の量を増加させることができる。いくつかの実施形態では、収集された核酸の最終濃度は、元の試料におけるものと比較して、最大10倍~最大1000倍まで増加し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ポリマーおよび塩を水に添加することで誘発される相分離の写真を示す。特定の塩とポリマーを水溶液で混合すると、水性二相系(ATPS)が形成され、その後、自発的な相分離が起こる。パネルA1およびB1に示したチューブでは、2つの相が混合されて混合相を形成しており、次いで、チューブA2およびB2に示したように、塩リッチ相とポリマーリッチ相が徐々に分離して別個の層を形成している。この実施例における塩リッチ相はチューブの底部に沈降するが、ポリマーリッチ相はその上に位置する。核酸などの異なる分子は、特性が異なるため2つの相の間に特異的に分布し得る。ポリマーと塩の比を変更することで2つの相の体積比を変更でき、これにより標的分子が体積のより小さい相中に濃縮される。例として、上相と下相の1:1の比をパネルA2に示し、9:1の比をパネルB2に示す。パネルB2は、パネルA2における下相と比較して、パネルB2における下相中の標的分子の濃度が高いことに起因する濃い色から明らかなように、標的分子(この場合、ナノ金粒子)が下相(塩リッチ相)に濃縮されていることを示す。
図2図2は、実施例2に記載の本発明のいくつかの実施形態を利用した、DNAラダーでスパイクされた溶液からのDNAの単離の概略図を示す。修飾ガラス繊維紙から形成された紙スタックの6つのセグメントのそれぞれからDNAが抽出された。図から分かるように、ATPS組み込み紙から抽出されたDNAはブランク紙からのものよりも多く、大部分のDNAはATPS組み込み紙の頂部セグメントに濃縮された。本発明の実施形態を利用して、スパイクされたDNAラダーに存在するすべてのサイズの断片を首尾よく抽出した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特に明記しない限り、技術用語および科学用語を含む、本明細書で使用される用語は、当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有し、かつ本発明の要旨を不明瞭にする可能性がある周知の機能および構成に関する詳細な説明は省略する。
【0018】
核酸の単離において、単離系の材料の選択、温度、圧力、pH、化学的または酵素的加水分解、および汚染物質の存在などの様々な要因は、核酸の分解を引き起こし、それらの構造的および機能的完全性を損なう可能性がある。
【0019】
本発明は、核酸含有材料から核酸を精製するための固液相系を提供する。該系は、固相としての多孔質材料と、液相としての水性二相系(ATPS)とを含む。いくつかの実施形態では、多孔質材料は、表面および複数の細孔を含み、表面および細孔は、複数のカチオン性基を含有するように修飾されている。いくつかの実施形態では、ATPSは、第1の相および第2の相を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される方法は、ロバストで、安価で、簡単で、扱いやすく、安全で、使用者にとって使いやすく、高速である。いくつかの実施形態では、本方法は、下流での生物工学的応用および分析のために簡単な方法で高純度および高濃度の標的核酸を得ることを可能にする。これにより、単離された核酸を使用する下流での応用の性能が元の試料中の不純物の影響を受けないことが保証される。いくつかの実施形態は、操作するための追加の電源、複雑な機器または電子ハードウェアを必要としないため、迅速な核酸の単離および精製のための高速で安価な手段を提供する。
【0021】
本発明において提供される固液相系における液相は、ATPSである。ATPSは、異なる物理化学的特性の2つの相を含む。核酸などの異なる分子は、特性が異なるため、2つの相の間で特異的に分布し、したがって最小限のセットアップと人間の介入で標的分子を分離して濃縮することができる。ATPSが多孔質材料に適用されると、各相は異なる速度で多孔質材料を通って移動する。したがって、標的分子は、多孔質材料の特定の部分に濃縮され、その後、そこから収集されてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、本発明の固相は、カチオン性基を含有する修飾多孔質材料で構成され、本明細書に記載のATPSを含む液相と共に使用されて、核酸含有材料から標的核酸を単離して精製する。標的核酸は、ATPSの2つの相のうちの一方に優先的に分配されながら、多孔質材料の細孔に入り、多孔質材料を通って移動することができる。最後に、標的核酸は、多孔質材料の一端に移動し、そこから収集することができるのに対し、非標的核酸および非核酸材料はATPSの他方の相に残される。
【0023】
いくつかの実施形態では、溶出緩衝液または水を用いて多孔質材料から標的核酸を溶出させてもよい。標的核酸を溶出させるために使用される緩衝液または水の体積を調整することにより、標的核酸の濃度を操作することができる。溶出緩衝液または水の体積がより小さいと標的核酸の濃度がより高くなり、体積がより大きいと濃度がより低くなる。いくつかの実施形態では、水または溶出緩衝液を使用する必要がなく、標的核酸は、多孔質材料から標的核酸を含有するATPSの液相を単に吸引することによって収集されてもよい。
【0024】
一般的に、ATPSの2つの相の間での、核酸を含む分子の分配程度は、分子の性質(例えば、サイズ、電荷、2つの相に対するそれぞれの親和性)、ATPSの性質(例えば、ATPS成分の濃度および電荷、2つの相の間の界面張力)、操作条件(例えば、温度)などの多くの要因によって決定され得る。一組の条件下で操作される特定のATPSの一方の相に優先的に分配される特定の分子は、条件が変更された場合、他方の相に優先的に分配されてもよい。本発明に関連して、標的核酸は、ATPSの上相に保持される可能性が高い。
【0025】
いくつかの実施形態では、多孔質材料の表面と細孔/毛細管系は、いずれもカチオン性基を含有するように修飾されている。正電荷を有するカチオン性基を含有する多孔質材料は、カチオン性基を含有しない多孔質材料よりも、負電荷を有する核酸に対する高い結合親和性を有する。本発明の修飾多孔質材料は、元の試料中のそれらの量が少ない場合であっても、標的核酸を効果的に捕捉して保持することによって標的核酸の濃度を大幅に増加させるために使用できる。本発明の利点は、いくつかの実施形態が、従来の方法を用いる場合よりも、より簡単な方法でより高い純度およびより多くの量の標的核酸を得ることを可能にし、得られた核酸が、下流の様々な生物工学的応用における使用に適しているということである。
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明は、多孔質材料の表面と細孔/毛細管系の両方を修飾するための簡単な方法を提供する。本発明者は、多孔質材料をアミン水溶液に浸し、続いて激しく撹拌することにより、多孔質材料がカチオン性アミン基を含有するように修飾することができることを予想外に見出した。いくつかの実施形態では、カチオン性アミン基は、第一級、第二級、第三級脂肪族アミンなどの脂肪族アミンまたはそれらの組み合わせである。脂肪族アミンの例には、ジメチルアミン、エチレンジアミン、トリメチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミンまたはドデシルアミンが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、脂肪族アミンは、1~12個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、カチオン性アミン基は、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノールまたはジエチルアニリンなどの芳香族アミンである。いくつかの実施形態では、カチオン性基は、スペルミジン、スペルミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミンなどのポリアミンおよびそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、多孔質材料は、脂肪族アミン、芳香族アミンおよびポリアミンを含有するように修飾されている。いくつかの実施形態では、多孔質材料は、脂肪族または芳香族アミンまたはポリアミン以外のカチオン性基を含有するように修飾されており、当該カチオン性基は、アンモニウム、スルホニウムまたはホスホニウムを含むが、これらに限定されない。
【0027】
いくつかの実施形態では、本方法は、典型的な精製プロセスにおける1つまたは複数のステップを簡略化または省略することにより、核酸の単離を簡略化する。いくつかの実施形態では、抽出または洗浄のためのアルコールなどの有機溶媒の使用が排除される。いくつかの実施形態では、本方法は、短時間内に溶液からの核酸の抽出と不純物からの核酸の分離を同時に行うことを可能にし、さらなる特徴付けおよび下流の処理に直ちに使用できる高純度の核酸を生成する。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態は、下流における幅広い応用、例えば法医学的、診断的または治療的応用における核酸の検出または分析、および配列決定、増幅、逆転写、標識、消化、ブロッティング手順などの実験手順などに使用できる核酸を得ることを可能にする。本発明のいくつかの実施形態は、標的核酸の構造的および機能的完全性を維持し、それにより、単離された核酸の下流での特徴付けまたは処理の正確な性能を保証することができると期待される。
【0029】
本明細書に記載の独特の特徴のため、本発明のいくつかの実施形態は、少量の試料および非常に少量の標的核酸を含有する試料から、外部電源または複雑な機器を使用することなく、便利かつ迅速に、標的核酸を単離するために使用することができる。さらに、本方法はハイスループットスクリーニング系を含む自動化に容易に適応することができる。
【0030】
一実施形態では、本発明は、固液相系においてカチオン性基を含有する修飾多孔質材料を用いて、核酸含有材料から1種以上の核酸を迅速に精製するための方法を提供し、該方法は、核酸含有材料を第1の相および第2の相を含むATPSと混合し、それにより混合物を得るステップa)と、ステップa)で得られた混合物を、カチオン性基を含有する修飾多孔質材料を含む固相と接触させるステップb)とを含み、混合物中の1種以上の核酸は固相に結合し、その後、修飾多孔質材料内の細孔を通過し、それにより核酸含有材料中の他の分子から核酸を分離する。
【0031】
本多孔質材料の表面および/または細孔/毛細管系は、正電荷を有するカチオン性基を含有するように修飾されているため、負電荷を有する核酸に対してより高い結合親和性を有する。その結果、このように修飾された多孔質材料は、核酸の捕捉/保持においてより効果的であり、収集される核酸の最終量を大幅に増加させる。いくつかの実施形態では、溶液中のカチオンの濃度が増加すると(例えば、溶液が濃縮されると)、多孔質材料の正に帯電した表面に結合した核酸の一部または全部が放出され、溶液に入る。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明によって得られる核酸の最終濃度は、元の試料の10~1000倍である。いくつかの実施形態では、本発明によって捕捉された核酸は、適切な緩衝液を使用して多孔質材料から抽出または溶出され、それによって精製された試料が得られる。元の試料中の核酸の濃度と精製された試料中の核酸の濃度を測定することにより、元の試料と精製された試料との間の核酸の濃度の倍数変化を推定することができる。別の実施形態では、濃度の倍数変化は、それらの体積およびその中に含まれる核酸の量に基づいて、元の試料と精製された試料中の核酸の濃度を計算することによって推定される。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明を用いて単離および/または精製される核酸は、任意の長さ、サイズもしくは構成のゲノムDNA、プラスミドDNA、無細胞DNA、または他のDNA産物などのDNAである。別の実施形態では、本発明を用いて単離される核酸は、任意の長さ、サイズもしくは構成の全RNA、メッセンジャーRNA、リボソームRNA、無細胞RNA、miRNA、siRNAまたは他のRNA産物などのRNAである。別の実施形態では、核酸は、任意の長さ、サイズまたは構成のペプチド核酸(PNA)である。いくつかの実施形態では、本発明を用いて単離される核酸は、上記核酸のいずれかの組み合わせである。
【0034】
いくつかの実施形態では、本発明は、20~1000塩基対/ヌクレオチドを有する核酸を単離することができる。いくつかの実施形態では、核酸は、一本鎖、二本鎖またはニックの入ったものである。
【0035】
本発明は、生物学的または非生物学的供給源から採取された核酸含有材料から核酸を抽出することができる。いくつかの実施形態では、核酸含有材料は、血液、血漿、血清、組織、細菌、ウイルス、RNAウイルス、塗抹標本、細菌培養物、細胞培養物、尿、唾液、排泄物、涙、痰、鼻咽頭粘液、膣分泌物、陰茎分泌物などの分泌物、細胞懸濁液、接着細胞、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物、インビトロ核酸修飾または反応混合物を含むが、これらに限定されない。別の実施形態では、核酸含有材料は、ヒト、動物および/または植物材料を含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明は、後のクローニングまたは配列決定または他の分子生物学分析のために、大腸菌または他の微生物(例えば、細菌およびウイルス)からプラスミドDNAを抽出するために使用される。いくつかの実施形態では、本発明は、生物、細胞に由来するかまたは配列決定反応もしくは他の同等の反応に由来する任意のサイズの核酸(短鎖もしくは長鎖RNAまたはDNA、一本鎖または二本鎖を含む)を抽出するために使用される。血液試料から単離された核酸、特にDNAは、遺伝性疾患の診断、マラリアなどの血液感染性の寄生虫性疾患の診断およびモニタリング、父性決定、および一部の新生物で発生する可能性のある血液中の異常な細胞集団のモニタリングに使用できる。
【0037】
いくつかの実施形態では、核酸含有材料とカチオン性基を含有する修飾多孔質材料を含む固相との間の接触時間は、核酸を固相に吸着させるために、約10秒~5分である。別の実施形態では、接触時間は、15秒、30秒または45秒である。別の実施形態では、接触時間は、1分、2分、3分、4分または5分である。様々な実施形態では、選択される接触時間は、抽出される標的核酸のタイプと核酸含有材料中の標的核酸の存在量とに依存してもよい。接触時間は、異なる時点で固相に吸着した核酸の量を決定することによってさらに最適化することができる。本発明では、カチオン性基を有する修飾多孔質材料に対する核酸の結合親和性が大幅に増加するため、最終産物中の核酸の収率および純度を損なうことなく接触時間を大幅に短縮することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明は、1pg/mLという低い濃度で溶液中に存在する核酸を単離することができる。いくつかの実施形態では、本発明は、比較的大量の試料溶液から1μL程度の少量の核酸を単離することができる。
【0039】
固相
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸がその細孔または毛細管系内を通過することを可能にする修飾多孔質材料を含む固相を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、固相上での核酸の化学吸着性を何ら必要としない。多孔質材料は、標的核酸が通過できる任意の適切な多孔質材料で作られてもよく、当該多孔質材料は、様々な紙、ポリマー発泡体、セルロース発泡体、その他の発泡体、レーヨン織物、綿織物、その他の織物、木材、石、セラミック、金属、アガロースゲル、および炭素繊維を含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態で使用される材料は、ガラス繊維紙、綿系の紙、単層マトリックス紙またはポリオレフィン発泡体パッドを含むがこれらに限定されない。このような材料は、核酸の構造的および機能的完全性を良好に保持することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明で使用される多孔質材料は、非セルロース繊維で作られた紙である。従来の紙クロマトグラフィーとは対照的に、本発明は、2つの相を含み、固相(例えば紙)を通って移動するときに相分離を起こす単一の移動相、すなわち水性二相系(ATPS)を使用する。多孔質材料は、市販品であってもよく、または内製されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明は、薄層紙、膜、抗体、分子プローブおよび/または金ナノ粒子を使用して混合物中の分子を分離し、かつ抗原と抗体との間の生化学的相互作用に基づいてまたは分子プローブと標的DNAとの間のハイブリダイゼーションに基づいて標的分子を検出する従来の紙/膜ベースのラテラルフローアッセイ(LFA)とは対照的に、標的核酸を捕捉するための分子プローブまたはナノ粒子を何ら必要としない。むしろ、本発明によって得られた産物は、LFA分析を含む下流での任意の処理または分析で使用することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、小さな核酸が多孔質材料の細孔に自由に入ることができるのに対し、大きなゲノムDNAまたは非核酸高分子などのより大きな分子が細孔から排除されるように多孔質材料を選択することにより、これらの不要な材料を標的核酸から効果的に分離する。いくつかの実施形態では、核酸含有材料からの標的核酸は、外部電源または追加の機器を必要とすることなく、等温力学的原理に従って毛細管作用によって多孔質材料を通過することができる。
【0043】
本発明では、固相のための適切な材料を選択し、固相を本明細書に記載のATPSと共に使用することにより、従来の紙または膜ベースのクロマトグラフィーで通常必要とされる溶出ステップが、核酸の単離および精製には必ずしも必要ではないことが、予想外に見出された。多孔質材料内の細孔または毛細管チャネルのサイズは、標的核酸の長さ、サイズ、および/または構成を含む要因に基づいて当業者が容易に選択でき、さらに試料中に存在する非標的分子のサイズおよび構成に依存し得る。いくつかの実施形態では、細孔径は、0.1~100μmの範囲である。様々な実施形態では、細孔径は、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μmまたは90μmであってもよい。いくつかの実施形態では、多孔質材料は、細孔径10~100μmの紙である。別の実施形態では、多孔質材料は、細孔径4~5μmの紙である。
【0044】
核酸の抽出または非標的分子の排除を容易にするために、固相を適切な材料で処理して多孔質材料の物理化学的特性を変更してもよい。いくつかの実施形態では、塩溶液、PEG溶液またはTriton-Xなどの試薬を使用して多孔質材料の微細構造を改変することができる。多孔質材料は、カチオン性基を多孔質材料に永久的および/または一時的に結合させることにより修飾されてもよい。例えば、永久的なカチオン性基に加えて、一時的に正に帯電した部分を多孔質材料に結合させて核酸の結合をさらに増強してもよい。紙が固相として使用されるいくつかの実施形態では、正に帯電した部分を紙の繊維分子に永久的または一時的に結合させることができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、多孔質材料は、正に帯電した部分で被覆される。いくつかの実施形態では、多孔質材料と接触する溶液のpH値が変化すると、正に帯電した基が追加されて(例えば、溶液に面する側または細孔内に)形成されるように多孔質材料を修飾する。これにより、負に帯電した核酸は、多孔質材料の表面上のカチオン性部分に引き付けられ、正電荷を有する不純物は放出される。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明は、多孔質材料の表面と細孔/毛細管系の両方を修飾する方法であって、多孔質材料をアミン水溶液に浸し、続いて激しく撹拌するステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、紙の繊維分子は、アミンを水溶液に溶解して5Mのアミン水溶液を得る調製プロセスによってアミンで修飾されている。多孔質紙は5Mのアミン水溶液に浸し、続いて少なくとも700rpmの速度で1時間激しく撹拌する。紙は溶液中において80℃の温度で24時間保持される。次に紙を取り出し、水で2回洗浄し、圧縮空気下で乾燥させる。アミン溶液の濃度、混合または撹拌のための時間、および他の反応条件は、カチオン性基の予想される結合度、多孔質材料のタイプおよびサイズなどを含む様々な要因に基づいて、当業者が容易に選択できる。一般的に、アミン溶液の濃度をより高くし、またはより長い時間混合すると、カチオン性基の多孔質材料への結合度が高くなる。
【0047】
いくつかの実施形態では、多孔質材料を修飾するために使用されるアミンは、第一級、第二級または第三級脂肪族アミンなどの脂肪族アミンまたはそれらの組み合わせである。脂肪族アミンの例には、ジメチルアミン、トリメチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミンまたはドデシルアミンが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、脂肪族アミンは、1~12個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、アミンは、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノールまたはジエチルアニリンなどの芳香族アミンである。いくつかの実施形態では、カチオン性基は、スペルミジン、スペルミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミンなどのポリアミンおよびそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、脂肪族アミン、芳香族アミンおよびポリアミンを使用して、多孔質材料を修飾する。いくつかの実施形態では、アミン基以外の1種以上のカチオン性基が、本多孔質材料に結合する。
【0048】
いくつかの実施形態では、多孔質材料は、多孔質材料と溶液中のタンパク質などの非標的分子との間の非特異的結合を低減するように修飾されている。様々な実施形態では、多孔質材料の上記修飾は、均一に、ランダムに、または多孔質材料の特定の領域に限定して行うことができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、数層の多孔質材料を使用してもよい。他の実施形態では、1層のみの多孔質材料を使用する。使用する多孔質材料は、任意の適切な寸法のものであってもよい。いくつかの実施形態では、多孔質材料は、形状が長方形であり、サイズが0.5×4×0.083cmである。いくつかの実施形態では、多孔質材料の厚さは、0.5mm~5mmであってもよい。当業者は、標的核酸が単離される試料を含む容器のサイズ、試料の体積および/または他の要因に基づいて、本発明で使用される多孔質材料のサイズを選択してもよいことを理解するであろう。
【0050】
いくつかの実施形態では、繊維含有紙または他の多孔質材料またはそれらの組み合わせの層をスタックに形成する。これらのスタックは、材料の層(またはシート)を積み重ね、得られたスタックを適切なサイズに切断することによって形成することができる。スタックは、多孔質材料の2つ以上の層(またはシート)から形成してもよい。いくつかの実施形態では、スタックは、4層の多孔質材料から形成する。いくつかの実施形態では、この多孔質材料は繊維含有紙である。いくつかの実施形態では、多孔質材料はガラス繊維紙である。繊維含有紙から形成されるスタックは、本明細書では、紙スタックと呼ばれることがある。いくつかの実施形態では、スタックは、0.5cm×4cmのサイズの長方形である。
【0051】
液相
本発明の液相は、第1の相および第2の相を含む水性二相系(ATPS)である。いくつかの実施形態では、ATPSの相のうちの一方はミセル溶液を含み、他方の相は1種以上のポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ATPSの一方の相はミセル溶液を含み、他方の相は1種以上の塩を含む。いくつかの実施形態では、ミセル溶液は、Triton-X溶液である。いくつかの実施形態では、一方の相は第1のポリマーを含み、他方の相は第2のポリマーを含む。いくつかの実施形態では、第1および/または第2のポリマーは、ポリエチレングリコールおよびデキストランから選択される。いくつかの実施形態では、一方の相は1種以上のポリマーを含み、他方の相は1種以上の塩を含む。いくつかの実施形態では、一方の相はポリエチレングリコールを含み、他方の相はリン酸カリウムを含む。いくつかの実施形態では、一方の相は1種以上の塩を含み、他方の相は1種以上の塩を含む。いくつかの実施形態では、一方の相は1種以上のコスモトロピック塩を含み、他方の相は1種以上のカオトロピック塩を含む。いくつかの実施形態では、一方の相は1種以上のアルコールを含み、他方の相は1種以上の塩を含む。
【0052】
以下の節において、ATPS成分(例えば、ポリマー、塩、アルコールおよびその他)の濃度は、重量パーセント(w/w)(すなわち、成分の重量を溶液の総重量で割ったもの)またはモル濃度(M)(すなわち、1リットルの溶液中の成分のモル数)として表される。
【0053】
いくつかの実施形態では、第1および第2の相は1種以上のポリマーを含む。本発明で使用することができるポリマーは、疎水性修飾ポリアルキレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリ(オキシアルキレン)ポリマー、疎水性修飾ポリ(オキシアルキレン)コポリマーなどのポリ(オキシアルキレン)コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルカプロラクタム、ポリビニルメチルエーテル、アルコキシル化界面活性剤、アルコキシル化デンプン、アルコキシル化セルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース、シリコーン修飾ポリエーテル、ポリN-イソプロピルアクリルアミドおよびそれらのコポリマーを含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはデキストランが使用されてもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、ポリマー濃度は、水溶液の総重量の約0.01重量%~約90重量%(w/w)の範囲である。様々な実施形態では、ポリマー濃度は、約0.01%w/w、約0.05%w/w、約0.1%w/w、約0.15%w/w、約0.2%w/w、約0.25%w/w、約0.3%w/w、約0.35%w/w、約0.4%w/w、約0.45%w/w、約0.5%w/w、約0.55%w/w、約0.6%w/w、約0.65%w/w、約0.7%w/w、約0.75%w/w、約0.8%w/w、約0.85%w/w、約0.9%w/w、約0.95%w/w、または約1%w/wであってもよい。いくつかの実施形態では、ポリマー濃度は、約1%w/w、約2%w/w、約3%w/w、約4%w/w、約5%w/w、約6%w/w、約7%w/w、約8%w/w、約9%w/w、約10%w/w、約11%w/w、約12%w/w、約13%w/w、約14%w/w、約15%w/w、約16%w/w、約17%w/w、約18%w/w、約19%w/w、約20%w/w、約21%w/w、約22%w/w、約23%w/w、約24%w/w、約25%w/w、約26%w/w、約27%w/w、約28%w/w、約29%w/w、約30%w/w、約31%w/w、約32%w/w、約33%w/w、約34%w/w、約35%w/w、約36%w/w、約37%w/w、約38%w/w、約39%w/w、約40%w/w、約41%w/w、約42%w/w、約43%w/w、約44%w/w、約45%w/w、約46%w/w、約47%w/w、約48%w/w、約49%w/w、および約50%w/wであってもよい。
【0055】
本発明で使用することができる塩は、コスモトロピック塩、カオトロピック塩、直鎖状または分枝状のトリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどのカチオンを含有する無機塩、およびリン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸水素塩などのアニオンを含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、塩は、塩化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸カリウム、硫酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。酢酸アンモニウムのようなその他の塩も使用されてもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、総塩濃度は、0.001mM~100mMの範囲である。様々な実施形態では、塩濃度は、約0.001%~90%w/wであってもよい。様々な実施形態では、塩濃度は、約0.01%w/w、約0.05%w/w、約0.1%w/w、約0.15%w/w、約0.2%w/w、約0.25%w/w、約0.3%w/w、約0.35%w/w、約0.4%w/w、約0.45%w/w、約0.5%w/w、約0.55%w/w、約0.6%w/w、約0.65%w/w、約0.7%w/w、約0.75%w/w、約0.8%w/w、約0.85%w/w、約0.9%w/w、約0.95%w/w、または約1%w/wであってもよい。いくつかの実施形態では、塩濃度は、約1%w/w、約2%w/w、約3%w/w、約4%w/w、約5%w/w、約6%w/w、約7%w/w、約8%w/w、約9%w/w、約10%w/w、約11%w/w、約12%w/w、約13%w/w、約14%w/w、約15%w/w、約16%w/w、約17%w/w、約18%w/w、約19%w/w、約20%w/w、約21%w/w、約22%w/w、約23%w/w、約24%w/w、約25%w/w、約26%w/w、約27%w/w、約28%w/w、約29%w/w、約30%w/w、約31%w/w、約32%w/w、約33%w/w、約34%w/w、約35%w/w、約36%w/w、約37%w/w、約38%w/w、約39%w/w、約40%w/w、約41%w/w、約42%w/w、約43%w/w、約44%w/w、約45%w/w、約46%w/w、約47%w/w、約48%w/w、約49%w/w、および約50%w/wであってもよい。
【0057】
当業者であれば、ATPSの相のうちの一方がポリマーを含み、他方の相が塩を含む場合、ATPSを形成するのに必要な塩の量は、ポリマーの分子量、濃度および物理的状態によって影響を受けることを理解するであろう。
【0058】
いくつかの実施形態では、液相中の第1の相および/または第2の相は、水と混和しない溶媒を含む。いくつかの実施形態では、溶媒は非極性有機溶媒である。いくつかの実施形態では、溶媒は油である。いくつかの実施形態では、溶媒は、ペンタン、シクロペンタン、ベンゼン、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンおよびヘキサンから選択される。
【0059】
いくつかの実施形態では、ATPSの第1の相および/または第2の相はミセル溶液を含む。いくつかの実施形態では、ミセル溶液は、1種以上の非イオン性界面活性剤を含む。いくつかの実施形態では、ミセル溶液は1種以上の洗剤を含む。いくつかの実施形態では、ミセル溶液は、Triton-Xを含む。いくつかの実施形態では、ミセル溶液は、Igepal CA-630およびNonidet P-40などの、Triton-Xに類似するポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ミセル溶液は、本質的にTriton-Xからなる。
【0060】
いくつかの実施形態では、ATPSの第1の相および/または第2の相のpH値は、6.5~8.5である。いくつかの実施形態では、相中の第1の相および/または第2の相のpH値は7.0である。
【0061】
いくつかの実施形態では、第1の相と第2の相との比は、1:1~1:1000の範囲である。いくつかの実施形態では、第1の相と第2の相との比は、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、および約1:10の比から選択される。いくつかの実施形態では、第1の相と第2の相との比は、約1:20、約1:30、約1:40、約1:50、約1:60、約1:70、約1:80、約1:90、および約1:100の比から選択される。いくつかの実施形態では、第1の相と第2の相との比は、約1:200、約1:300、約1:400、約1:500、約1:600、約1:700、約1:800、約1:900、および約1:1000の比から選択される。
【0062】
いくつかの実施形態では、第2の相と第1の相との比は、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、および約1:10の比から選択される。いくつかの実施形態では、第2の相と第1の相との比は、約1:20、約1:30、約1:40、約1:50、約1:60、約1:70、約1:80、約1:90、および約1:100の比から選択される。いくつかの実施形態では、第2の相と第1の相との比は、約1:200、約1:300、約1:400、約1:500、約1:600、約1:700、約1:800、約1:900、および約1:1000の比から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態では、ATPSは、上記塩、ポリマー、アルコールおよびその他などのATPS成分を水溶液中で混合することによって調製する。いくつかの実施形態では、ATPSは、ATPSの異なる成分を含有する第1の溶液と第2の溶液を混合することによって調製する。他の実施形態では、第1の相および第2の相の成分は、修飾多孔質材料に組み込まれる。標的核酸を含有する水溶液などの水または水溶液が修飾多孔質材料を通って流れると、材料に組み込まれたATPS成分が溶解し、ATPSが形成される。得られたATPSは、次いで、相分離を受ける。
【0064】
ATPS成分は、多くの方法で修飾多孔質材料に組み込むことができる。以下にいくつかの方法を説明する。いくつかの実施形態では、ATPSを多孔質材料上に脱水する。いくつかの実施形態では、多孔質材料をATPSに挿入し、次に空気乾燥させる。いくつかの実施形態では、多孔質マトリックスを予備混合されたATPSに挿入し、次いで、熱風、凍結乾燥または超臨界乾燥によって乾燥させる。いくつかの実施形態では、予備混合されたATPS成分を多孔質材料に噴霧し、次いで、上記いずれかの乾燥方法またはその他の方法によって乾燥させる。いくつかの実施形態では、異なるタイプまたは濃度のATPS成分を多孔質材料の同じまたは異なる領域に噴霧し、次いで乾燥させる。いくつかの実施形態では、複数層の多孔質材料を使用する場合、異なるタイプまたは濃度のATPS成分を多孔質材料の異なる層に別々に噴霧し、次いで乾燥させる。いくつかの実施形態では、異なるタイプまたは濃度のATPS成分を多孔質材料の異なる領域に別々に噴霧し、次いで乾燥させる。
【0065】
様々な実施形態では、本発明は、多孔質材料中に保持された標的核酸を洗浄し、溶出させるか、または保持された核酸の単離後処理を行うために、1つまたは複数のプロセスまたは試薬と組み合わせて使用することができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、核酸含有溶液を固相と接触させた後、洗浄緩衝液を固相に1回または複数回適用して、多孔質材料から非標的分子または不純物を洗い流す。洗浄緩衝液は、様々なイオン強度およびpH値の溶液を含んでもよく、洗剤などの添加剤を含有してもよい。洗浄緩衝液の例には、20%~50%のエタノールと20%~50%のイソプロパノールの溶液、約0.1~4.0Mの塩酸グアニジンの溶液、洗剤と最大約80%のエタノールの溶液、または約80%のエタノールの溶液が含まれるが、これらに限定されない。
【0067】
いくつかの実施形態では、標的核酸は、固相の多孔質材料に入り、多孔質材料の一端に流れる。いくつかの実施形態では、本発明によって単離された核酸を、適切な溶出緩衝液または脱イオン水を使用して多孔質材料から溶出させる。いくつかの実施形態では、単離された核酸は溶出せず、将来の使用のために多孔質材料に保存される。例えば、本発明を用いて核酸を単離した後、標的核酸を含有する紙を乾燥させて保存してもよい。いくつかの実施形態では、多孔質材料(例えば、紙)上に保持された核酸を、さらなる分析または処理のために溶出させることができる。選択する溶出緩衝液は、精製された核酸の意図された用途によって異なる可能性がある。適切な溶出緩衝液の例には、Tris-EDTA(TE)緩衝液、aqua bidestおよびPCR緩衝液が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、多孔質紙上の精製された核酸を、TE緩衝液(pH7.5、10mM Tris-Cl、1mM EDTAの溶液)を含有するチューブ中に溶出させ、精製された核酸を比較的少量、例えば100μl未満で回収する。
【0068】
精製された核酸の下流での応用は、核酸の検出または分析、法医学的、診断的または治療的応用、および配列決定、増幅(例えば、PCR、RT-PCR、リアルタイムPCR、リアルタイムRT-PCR)、逆転写、標識、消化、ブロッティング手順などのような実験手順を含むが、これらに限定されない。
【0069】
本発明では、溶液中の核酸含有材料は、ヒト、植物、動物、ウイルスまたは細菌由来の細胞から調製してもよい。いくつかの応用では、核酸を非核酸材料(例えば、ペプチド、タンパク質、オリゴ糖、リグナン、小分子天然産物、および典型的な天然由来の他の材料)から分離する必要がある。本発明のいくつかの実施形態は、核酸と非核酸材料を効果的かつ効率的に分離することができ、高収率および高純度の核酸産物を得ることができると期待される。DNAの純度は、Glasel J.(1995)biotechniquesに記載されているように、260nmと280nmでの吸光度値の比(A260/280)によって推定することができる。表2は、A260/280比に従って予測された試料中の核酸とタンパク質の割合を示す。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明によって単離された核酸は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%以上の純度を有する。
【0071】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、核酸含有試料中の非核酸材料の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%以上を除去するのに適する。
【0072】
【表2】
【0073】
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸含有材料から核酸を精製するための固液相系を提供し、系は、多孔質材料および水性二相系(ATPS)を含み、ここで、多孔質材料は表面および複数の細孔を含み、表面および細孔は複数のカチオン性基を含み、水性二相系は第1の相および第2の相を含む。
【0074】
本固液相系のいくつかの実施形態では、複数のカチオン性基は、脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリアミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0075】
本固液相系のいくつかの実施形態では、複数のカチオン性基は、ジメチルアミン、スペルミジン、スペルミン、トリメチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアニリン、スペルミジン、スペルミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0076】
本固液相系のいくつかの実施形態では、多孔質材料は、紙、ポリマー、発泡体、織物、木材、石、セラミック、金属、アガロースゲルまたは炭素繊維である。
【0077】
本固液相系のいくつかの実施形態では、多孔質材料は、ガラス繊維紙、綿系の紙、単層マトリックス紙またはポリオレフィン発泡体パッドである。
【0078】
本固液相系のいくつかの実施形態では、多孔質材料は、0.1~100μmの範囲の平均細孔径を有する。
【0079】
本固液相系のいくつかの実施形態では、ATPSの第1の相と第2の相は、ポリマー溶液、塩溶液、非極性溶液、ミセル溶液および高分子電解質溶液からなる群から独立して選択される。いくつかの実施形態では、第1の相は、ポリマー溶液、塩溶液、非極性溶液、ミセル溶液または高分子電解質溶液である。いくつかの実施形態では、第2の相は、ポリマー溶液、塩溶液、非極性溶液、ミセル溶液または高分子電解質溶液である。
【0080】
本固液相系のいくつかの実施形態では、ATPSの第1の相の体積と第2の相の体積との比は、1:1~1:1000である。
【0081】
本固液相系のいくつかの実施形態では、精製される核酸は約20~1000塩基対のサイズを有する。
【0082】
本固液相系のいくつかの実施形態では、系は、10秒~5分以内に標的核酸を精製することができる。
【0083】
本固液相系のいくつかの実施形態では、本固液相系を用いて精製された標的核酸の濃度は、核酸含有材料中の標的核酸の濃度の10~1000倍である。
【0084】
本固液相系のいくつかの実施形態では、精製される核酸が、1pg/mL以上の濃度で核酸含有材料中に存在する。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明は、複数のカチオン性基を含む多孔質材料を製造する方法であって、
アミンを緩衝液に溶解してアミン溶液を調製するステップ(a)と、
ステップ(a)で得られたアミン溶液に多孔質材料を浸すステップ(b)と、
ステップ(b)で得られた多孔質材料を水で洗浄するステップ(c)と、
ステップ(c)で得られた多孔質材料を乾燥させることにより、複数のカチオン性基を含む多孔質材料を得るステップ(d)と
を含む方法を提供する。
【0086】
本方法のいくつかの実施形態では、ステップ(a)におけるアミンは、ジメチルアミン、スペルミジン、スペルミン、トリメチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアニリンまたはそれらの組み合わせである。
【0087】
本方法のいくつかの実施形態では、多孔質材料は紙である。
【0088】
いくつかの実施形態では、本発明は、固液相系を用いて核酸含有材料から核酸を迅速に精製して濃縮するための方法を提供する。
【0089】
いくつかの実施形態では、本発明は、
固相および液相を含む固液相系を得るステップであって、固相が表面および複数の細孔を含む多孔質材料を含み、表面および細孔が複数のカチオン性基を含み、液相が水性二相系(ATPS)を含むステップ(a)と、
核酸含有材料を液相と混合することにより、混合物を得るステップ(b)と、
ステップ(b)で得られた混合物を固相と接触させるステップ(c)とを含み、
核酸は、固相に結合し、続いて多孔質材料の細孔を通過することができ、かつ核酸は、多孔質材料上で濃縮される、核酸含有材料から核酸を精製するための方法を提供する。
【0090】
いくつかの実施形態では、本方法は、固相の多孔質材料から核酸を溶出させるステップをさらに含む。
【0091】
本方法のいくつかの実施形態では、複数のカチオン性基は、脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリアミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0092】
本方法のいくつかの実施形態では、複数のカチオン性基は、ジメチルアミン、スペルミジン、スペルミン、トリメチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアニリン、スペルミジン、スペルミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、トリス(2-アミノエチル)アミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0093】
本方法のいくつかの実施形態では、多孔質材料は、紙、ポリマー、発泡体、織物、木材、石、セラミック、金属、アガロースゲルまたは炭素繊維である。
【0094】
本方法のいくつかの実施形態では、多孔質材料は、ガラス繊維紙、綿系の紙、単層マトリックス紙またはポリオレフィン発泡体パッドである。
【0095】
本方法のいくつかの実施形態では、多孔質材料は、0.1~100μmの範囲の平均細孔径を有する。
【0096】
本方法のいくつかの実施形態では、第1の相は、ポリマー溶液、塩溶液、非極性溶液、ミセル溶液または高分子電解質溶液である。
【0097】
本方法のいくつかの実施形態では、第2の相は、ポリマー溶液、塩溶液、非極性溶液、ミセル溶液または高分子電解質溶液である。
【0098】
本方法のいくつかの実施形態では、第1の相の体積と第2の相の体積との比は、1:1~1:1000である。
【0099】
本方法のいくつかの実施形態では、精製される核酸は約20~1000塩基対のサイズを有する。
【0100】
本方法のいくつかの実施形態では、方法は、10秒~5分以内に標的核酸を精製することができる。
【0101】
本方法のいくつかの実施形態では、本固液相系を用いて精製された標的核酸の濃度は、核酸含有材料中の標的核酸の濃度の10~1000倍である。
【0102】
本方法のいくつかの実施形態では、精製される核酸は、1pg/mL以上の濃度で核酸含有材料中に存在する。
【0103】
本発明は、以下の実施例を参照することにより、よりよく理解されるであろう。しかしながら、当業者は、提供される実施例が単に説明を目的としたものであり、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを容易に理解するであろう。
【0104】
本出願を通して、「含む(including)」、「含有する(containing)」または「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義である「含む(comprising)」という移行用語は、包括的または開放型であり、付加的な列挙されていない要素または方法ステップを除外しないことに注意するべきである。
【実施例1】
【0105】
修飾多孔質材料の製造
本実施例では、以下のように修飾多孔質材料を製造した。スペルミジンをmilli-Q水に溶解して5Mアミン水溶液を得た。各枚厚さ0.37mmおよび細孔径2μmのガラス繊維紙シート4枚に、調製した溶液を噴霧した。前処理された4枚のシートを互いに積み重ね、積み重ねたシートを4cm×0.5cmサイズの長方形に切断して、紙スタックを製造した。次に、紙スタックを水で2回洗浄し、凍結乾燥機で乾燥させた。
【0106】
トリメチルアミン、トリエチレンテトラミン、オクチルアミン、デシルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、フェニレンジアミン、ジ(メチルアミノメチル)フェノール、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチルアニリンおよびその他などの、スペルミジン以外の他のアミンを上記手順で使用してもよい。
【0107】
本実施例に記載された手順は、綿系の紙、単層マトリックス紙、ポリオレフィン発泡体パッドおよびその他などの他の多孔質材料を修飾するためにも適用することができる。
【実施例2】
【0108】
液固相系を使用したPBS溶液中にスパイクされたDNAの単離
実施例1に記載したように紙スタックを製造した。得られた紙スタックに、以下のようにATPS成分を組み込んだ。12%(w/w)PEG400、14.5%(w/w)NaSO、2%(w/w)SDSおよび0.16%(w/w)Triton-X114を含むATPS成分の水溶液を調製した。紙スタックをこの溶液に浸し、次いで圧縮空気下で乾燥させた。このようにして、ATPS成分を紙に組み込んだ。ATPS成分が組み込まれた紙スタックは、本明細書では、ATPS組み込み紙スタックと呼ばれる。
【0109】
次に、ATPS組み込み紙スタックと対照紙スタック(アミン溶液で処理せず、ATPS成分が組み込まれていない未修飾紙で製造)を、最終DNA濃度が7.5μg/mLであり、1xPBSに25~500bpのDNA断片を含む予備混合されたDNAラダー(INVITROGEN(登録商標)100bpDNAラダー)を含有する別々のチューブに挿入した。紙スタックは、各スタックの長さ約7mmの部分が溶液に浸漬されないように挿入した(図2に概略的に示す)。挿入した紙スタックは、溶液が頂部に到達するまで約2分間吸い上げた。PBS中のDNAの溶液がATPS組み込み紙を通って移動すると、ATPS成分は溶解してATPSを形成した。2つの相は、異なる速度で紙スタックを通って移動した。上相と下相との比は約1:1であることを観察した。次に、各紙スタックを長さ約7mmの6つの部分に分割し、各部分からの溶液5~7μLをピペットで吸い出した。DNAをエタノールで沈殿させ、milli-Q水に再懸濁させ、アガロースゲル電気泳動で分析した。その結果を図2に示す。図から分かるように、ATPS組み込み紙スタックから抽出されたDNAはブランク紙スタックからのものよりも多く、大部分のDNAがATPS組み込み紙スタックの頂部セグメントに濃縮されている。本発明の実施形態を利用して、スパイクされたDNAラダーに存在するすべてのサイズの断片を首尾よく抽出した。
【実施例3】
【0110】
本液固相系を使用した疑似血液の混合物からのDNAの単離
実施例1に記載されたように紙スタックを製造した。紙スタックにATPS成分を以下のように組み込んだ。12%(w/w)PEG400、14.5%(w/w)NaSO、2%(w/w)SDSおよび0.16%(w/w)Triton-X114を含むATPS成分の水溶液を調製した。実施例2に記載したように、ATPS成分を紙スタックに組み込んだ。ATPS組み込み紙スタックと対照紙スタック(アミン溶液で処理せず、ATPS成分が組み込まれていない未修飾紙で製造)は、(実施例2に記載されたのと同様に)タンパク質を最終濃度60~80mg/mL、DNAラダーを最終濃度200ng/mLでスパイクしたpH7.4の緩衝溶液を含む予備混合された疑似血液の混合物を含有する別々のチューブに挿入し、溶液が頂部に到達するまで約2分間吸い上げた。上相と下相との比は約1:1であることを観察した。
【0111】
各紙スタックの長さ約7mmの頂部部分から5~7μlのDNA含有溶液をピペットで吸い出した。DNAをエタノールで沈殿させ、milli-Q水に再懸濁させ、NanoDrop(登録商標)(米国マサチューセッツ州ウォルサムサーモフィッシャーサイエンティフィック社製であり、分析用の試料サイズが1μLであり、milli-Q水をブランクとして使用)を使用して分析した。元の試料と精製された試料中のタンパク質およびDNAの濃度を分光光度法で決定し、試料の実際の体積に基づいてDNAとタンパク質の収率を計算した。比較として、QIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))を使用して抽出された試料も同様の方法で分析した。DNA濃度の倍数変化は、上記NanoDrop(登録商標)デバイスで測定された、元の試料中のDNA濃度に対する精製された試料中のDNA濃度の比であった。表3の結果は、本発明が、使用される市販のキットと比較して、より高い収率および純度で核酸を単離できることを示している。
【0112】
【表3】
【実施例4】
【0113】
小さなDNAの単離
本実施例では、50bpDNAラダーおよび100bpDNAラダーを小さなDNA試料として使用した。1μgの50bpDNAラダーと1μgの100bpDNAラダーを200μLの1x PBS溶液中にスパイクして、最終濃度を10μg/mLにした。本発明の方法またはQIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))を使用して、混合物からDNAを精製した。実施例1に記載したように紙スタックを製造し、実施例2に記載したようにATPS成分を組み込んだ。ATPS組み込み紙スタックと対照紙(アミン溶液で処理せず、ATPS成分が組み込まれていない未修飾紙で製造)は、(実施例2に記載したのと同様に)DNAラダーを含む溶液を含有する別々のチューブに挿入し、溶液が頂部に到達するまで約2分間吸い上げた。上相と下相との比は約1:1であることを観察した。各紙スタックの長さ約7mmの頂部部分を切り取り、その部分から5~7μLのDNA含有溶液をピペットで吸い出した。DNAをエタノールで沈殿させ、milli-Q水に再懸濁させ、Nanodrop(登録商標)によって分析した。その結果を、QIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))を使用して得られた結果と比較した。表4の結果は、本発明が、使用される市販のキットよりも高い収率で小さなDNAを単離できることを示している。
【0114】
【表4】
【実施例5】
【0115】
血清中の循環無細胞DNA(ccfDNA)の濃度
患者と健常者から血清試料を収集した。本発明またはQIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))を使用して、血清試料からccfDNAを精製した。実施例1に記載したように紙スタックを製造し、実施例2に記載したようにATPS成分を組み込んだ。ATPS組み込み紙スタックと対照紙スタック(アミン溶液で処理せず、ATPS成分が組み込まれていない未修飾紙で製造)は、(実施例2に記載したのと同様に)血清試料を含有する別々のチューブに挿入し、溶液が頂部に到達するまで約2分間吸い上げた。上相と下相との比は約1:1~1:3であることを観察した。実施例2~4で用いた模倣試料と比較して、実際の生体試料(例えば、本実施例5で用いた血清、実施例6で使用したスワブ試料および尿)を用いた場合には、個々の生体試料中の様々な成分の濃度が変動するため、2つの相の比の変動が大きかった。各紙スタックの長さ約7mmの頂部部分を切り取り、その部分から5~7μLのDNA含有溶液をピペットで吸い出した。エタノールでDNAを沈殿させ、milli-Q水に再懸濁させ、NanoDrop(登録商標)によって分析した。その結果を、QIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))を使用して得られた結果と比較した。表5は、本発明が、使用される市販のキットよりも高い収量で、患者または健常者から得られた血清試料からccfDNAを単離できることを示している。
【0116】
【表5】
【実施例6】
【0117】
口腔スワブからのウイルスRNAの単離
口腔スワブ試料を、A/H1N1ウイルスを保有する患者と健常者によって自己収集した。次に、各スワブ試料を、12%(w/w)PEG400、14.5%(w/w)NaSO、2%(w/w)SDSおよび0.16%(w/w)Triton-X114を含むATPS成分の水溶液500μLを含む別々のチューブ中で5分間インキュベートした。その後、本方法またはQIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))を使用して、ウイルスRNAをこの溶液から精製した。実施例1に記載したように紙スタックを製造して、患者からのスワブと共にインキュベートされた溶液(患者試料)、健常者からのスワブと共にインキュベートされた溶液(健常対照)、または等量のPBS(陰性対照)のいずれかに挿入して、各紙スタックの長さ約7mmの部分が溶液中に浸漬されないようにし、溶液が頂部に到達するまで約2分間吸い上げた。上相と下相との比は約1:1~1:3であることを観察した。各紙スタックの長さ約7mmの頂部部分を切り取り、その部分から5~7μLのDNA含有溶液をピペットで吸い出した。DNAをエタノールで沈殿させ、milli-Q水に再懸濁させ、NanoDrop(登録商標)によって分析した。その結果を、QIAamp(登録商標)循環核酸キット(QIAGEN(登録商標))から得られた結果と比較した。表6は、本発明が、使用される市販のキットよりも高い収量で患者または健常者からウイルスRNAを単離できることを示す。
【0118】
【表6】
図1
図2