(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】キメラベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20231023BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20231023BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20231023BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231023BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20231023BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/40
C12N15/31
A61P37/04
A61K35/76
(21)【出願番号】P 2020558967
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 US2019028771
(87)【国際公開番号】W WO2019209859
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-22
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼2018年(平成30年)5月7日 https://www.ott.nih.gov/technology/e-018-2018を通じて発表 ▲2▼2018年(平成30年)6月20日 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6096832/ http://doi.org/10.1128/JVI.00723-18を通じて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】510002280
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ムニル、シリン
(72)【発明者】
【氏名】ブロック、リンダ ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ブッフホルツ、ウルスラ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】コリンズ、ピーター エル.
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-503402(JP,A)
【文献】特表2003-530073(JP,A)
【文献】特表2008-518602(JP,A)
【文献】特表2004-531220(JP,A)
【文献】Haller A A. et al.,J Gen Virol,2003年,Vol. 84,pp. 2153-2162
【文献】Bennett N. et al.,Expert Rev Vaccines,2007年,Vol. 6,pp. 169-182
【文献】Krempl C D. et al.,J Virol,2007年,Vol. 81,pp. 9490-9501
【文献】Liang B. et al.,J Virol,2014年,Vol. 88,pp. 4237-4250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
A61K35/00-35/768
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号60、配列番号61または配列番号62に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクター。
【請求項2】
配列番号60、配列番号61または配列番号62に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【請求項3】
配列番号60、配列番号61または配列番号62に対して少なくとも98%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1または2に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【請求項4】
配列番号60、配列番号61または配列番号62に対して100%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【請求項5】
有効成分としての請求項1~
4のいずれか一項に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が、鼻腔内投与用に製剤化される、請求項
5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
少なくとも1つのヒト病原体に対する免疫応答を誘発するための、請求項
5または
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の非ヒトモノネガウイルスベクターを作製する方法であって、
前記非ヒトモノネガウイルスベクターに少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質をコードする非天然遺伝子を挿入すること
を含む、方法。
【請求項9】
免疫応答を誘発するためのキットであって、
(a)請求項
5~
7のいずれか一項に記載の医薬組成物、および
(b)前記組成物を保持するための少なくとも1つの容器
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2018年4月23日に出願された同時係属中の米国仮特許出願番号第62/661,320号(参照によりその全体が本明細書に取り込まれる)についての利益を主張する。
【0002】
連邦支援研究開発に関連する陳述
本発明は、国立衛生研究所、国立アレルギーおよび感染症研究所によりプロジェクト番号1ZIA000372-33の下での政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
電子的に提出された資料の参照による取り込み
本明細書と同時に提出され、以下のように識別される、コンピュータで読み取り可能なヌクレオチド/アミノ酸の配列表は、参照により、その全体が本明細書に取り込まれる:2019年4月5日付け作成の「742179_ST25.txt」という名前の1つの153,440バイトのASCII(テキスト)ファイルである。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
ヒト病原体は、重大な健康上の懸念である。継続的に研究がなされているが、特にヒト呼吸器多核体ウイルス(「RSV」)などのウイルスによる病原体感染を予防および治療の改善された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
本発明の一実施形態では、細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクターを提供する。
【0006】
本発明の他の実施形態は、本発明のベクターおよび薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。
【0007】
本発明の他の実施形態は、本発明の非ヒトモノネガウイルスベクターまたは本発明の組成物をヒトに投与することを含む、少なくとも1つのヒト病原体に対する免疫応答を誘発する方法を提供する。
【0008】
本発明の他の実施形態は、細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクターを作製する方法を提供し、(a)非ヒトモノネガウイルスベクター中、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質をコードする非天然遺伝子を挿入することを含む。
【0009】
本発明の他の実施形態は、免疫応答を誘発するためのキットを提供し、該キットは、(a)本発明の組成物、および(b)該組成物を保持するための少なくとも1つの容器を含む。
【0010】
本明細書で論じられる通り、予期せぬことに、マウス肺炎ウイルス(MPV)ゲノムは、他のタイプのベクターよりもいくつかの利点を有する、非MPVウイルスに対する宿主保護を提供する理想的なベクターである。
【0011】
MPVゲノムの1つの利点は、それが比較的小さく(<15kb)、リバースジェネティクスによって容易に操作され得ることである。具体的には、標準的な組換えDNA法によってウイルスゲノムのクローン化cDNAに変化を導入することができ、得られた改変ウイルスをトランスフェクション後の組織培養細胞において回収することができる。特に、異種病原体由来の防御抗原のような1つまたは複数の異種抗原を発現する、1つまたは複数の過剰遺伝子をMPVゲノムに導入することができる。
【0012】
MPVゲノムの他の予想外の利点は、MPVゲノムにおける非天然のインサートが、インビトロおよびインビボでの複製中に比較的安定していることである。例えば、RSV Fタンパク質が挿入されたMPVベクターは非常に安定しており、継続して研究を行っているが、MPVゲノムからのFタンパク質配列の欠失は、本発明者らによっていまだ観察されていない。あるタイプのベクターに挿入された配列は、一般に2、3回(または複数回)の複製後に欠失する可能性があるため、これは予想外のことである。さらに、ベクターに挿入された配列は通常、複製中に点突然変異を蓄積し、その発現が抑制されるが、これはMPVゲノムで散発的に生じるだけである。
【0013】
さらに、MPV生物学のいくつかの特徴は、それをベクターとして(特にヒトにおいて)使用することを安全にする。例えば、MPVは、呼吸器粘膜の表在性上皮細胞で複製する肺向性ウイルスであり、したがって、高浸潤性または全身性ウイルスではない。さらに、MPVは細胞質RNAウイルスであり、宿主ゲノムに組み込まれたり、攪乱させることはない。感染は急性であり、長期的な感染は知られていない。さらに、このタイプのウイルス(セグメント化されていないマイナス鎖RNAウイルス)は、ウイルスゲノム間の組換えの発生率が非常に低い(Spann et al., J. Virol., 77:11201-11211(2003)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。
【0014】
さらに、MPVは、ヒト以外の霊長類の場合と同様に、ヒトにおいて宿主域制限によって自然に弱毒化される可能性が高い。MPVの自然宿主はげっ歯類であり、本ウイルスは非ヒト霊長類で、したがっておそらくヒトで、宿主域制限のために大いに弱毒化される。宿主域制限によるパラミクソウイルスまたはニューモウイルスの弱毒化は、非ヒト霊長類およびヒトにおけるウシパラインフルエンザウイルス3型の宿主域制限によって示されるように、多遺伝子性であり安定していると考えられている(Skiadopoulos, et al., J. Virol., 77:1141-1148(2003)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。
【0015】
さらに、MPVによるヒト感染の証拠はなく、ヒトはこのウイルスに対する獲得免疫を欠いている(Brock, et al., J. Virol., 86:5829-5843(2012)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。MPVとRSV(後者はMPVに最も密接に関連するヒト病原体)のタンパク質間において、10~60%のアミノ酸配列の同一性にもかかわらず、RSV特異的免疫は、MPVに対して交差中和または交差防御を行わない(マウスモデルで検証済み)。したがって、ヒトにおける本発明の実施形態のMPVベースのベクターの使用は、既存の免疫、特にRSVに対する免疫による制約を受けるはずがないと期待される。
【0016】
さらなる利点は、MPVが呼吸器粘膜で複製し、気道における局所免疫および全身性免疫を誘導することである。したがって、MPVベクターは呼吸器系病原体に対して特に効果的であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1(F1)、第3(F3)、または第4(F4)遺伝子の位置に過剰遺伝子として付加されたRSV F遺伝子を含むrMPVアンチゲノムを示す図を示す。MPV遺伝子は塗りつぶしのない長方形として示され、RSV F遺伝子は影付きの長方形として示される。MPV遺伝子開始(「GS」)および遺伝子終了(「GE」)転写シグナルの各々は、過剰RSV F遺伝子を含む各遺伝子に隣接する、塗りつぶしのないバーおよび塗りつぶされたバーによって示される。RSV F ORFに隣接するヌクレオチド配列は、各遺伝子マップの下に示され、以下の特徴が識別される:RSV F ORF(影付きのボックスで表される)、GSとGE転写シグナル(太字で示される)、遺伝子間領域(「IG」)、および効率的な翻訳を促進するためにRSV F ORFの上流に配置された「コザック」配列(二重下線付きで示される、配列番号63)。
【
図2】
図2は、rMPVベクターによるRSV Fの発現の安定性を示す、二重染色プラークアッセイの結果を示す。簡単に説明すると、ベロ細胞(Vero cells)にP1ウイルスストックの段階希釈液を接種し、0.8%メチルセルロース重層の下で4日間インキュベートした。単層を固定し、特定の抗体と、対応する赤外線色素結合二次抗体を使用して、RSV FおよびMPV抗原 (antigens) についてプローブした。RSV FおよびMPV抗原は、それぞれ緑と赤で表示され、マージする(merged)と黄色で表示される。4つの独立した実験の結果を代表する1つの画像が選択された。「MPV抗原」と示される上段のプレートにおいて、グレースケールは赤色を示す。「RSV F」と示される中段のプレートにおいて、グレースケールは緑色を示す。「マージ(Merged)」と示される下段のプレートにおいて、「rMPV-F1」、「rMPV-F4」、および「rMPV-F3」の列のプレートのグレースケールは黄色を示す。「マージ」と示される下段において、「rMPV-empty」の列のプレートのグレースケールは赤色を示す。
【
図3】
図3は、ヒトA549肺上皮細胞におけるrMPV-RSV Fベクターのマルチサイクル増殖動態を示す。同型培養したA549細胞を、rMPV-F1(三角形と破線)、rMPV-F3(白丸と点線)、rMPV-F4(Xと実線)、またはrMPV-empty(黒丸と実線)により、細胞当たり、0.1プラーク形成単位(「PFU」、感染性ウイルス粒子の測定数)の感染多重度(「MOI」)で感染させた。24時間間隔で、細胞株当たりウイルス当たり2つの培養物をこすり取り撹拌により収集し、清澄化上清を調製し急速冷凍した。続いて、ウイルス力価をプラークアッセイによって2回繰り返して決定した。感染後の日数 (day post infection) をX軸に、1ml当たりのlog
10PFU (log
10PFU per ml) をY軸に示す。データは平均値として表示され、平均の標準誤差を含むが、多くの場合、誤差が小さいため、エラーバーは記号で隠されている。検出限界は1ml当たり0.7 log
10 PFUであった(点線)。
【
図4】
図4は、ベロ細胞におけるrMPV-RSV Fベクターのマルチサイクル増殖動態を示す。同型培養したベロ細胞を、rMPV-F1(三角形と破線)、rMPV-F3(白丸と点線)、rMPV-F4(Xと実線)、またはrMPV-empty(黒丸と実線)により、細胞当たり0.1PFUのMOIで感染させた。24時間間隔で、細胞株当たりウイルス当たり2つの培養物をこすり取り撹拌により収集し、清澄化上清を調製し急速冷凍した。続いて、ウイルス力価をプラークアッセイによって2回繰り返して決定した。感染後の日数 (day post infection) をX軸に、1ml当たりのlog
10PFU (log
10PFU per ml)をY軸に示す。データは平均値として表示され、平均の標準誤差を含むが、多くの場合、誤差が小さいため、エラーバーは記号で隠されている。検出限界は1ml当たり0.7 log
10 PFUであった(点線)。
【
図5】
図5は、ベロ細胞におけるrMPV-RSV Fベクターによる感染に対する細胞変性効果を示す。ベロ細胞単層を、表示のrMPV-RSV-Fベクター、空(empty)ベクター、もしくはwt rRSVにより、細胞当たり10 PFUのMOIで感染または偽感染(Mock-infected)させた。培養物を32℃で96時間インキュベートし、200倍の倍率で光学顕微鏡検査に供した。示す画像は、2つの独立した実験の代表である。偽感染およびrMPV-emptyによる感染細胞は感染の兆候を何ら示さないが、wt RSV、rMPV-F1、rMPV-F3、およびrMPV-F4感染細胞はウイルス感染の明らかな兆候を示す。
【
図6】
図6は、感染細胞におけるRSV-Fタンパク質およびrMPVタンパク質の発現を評価するために使用したウエスタンブロットの結果を示す。
図5に示す実験における感染細胞を使用して、接種後96時間(「hpi」)に細胞溶解物を調製した。変性および還元溶解物をウエスタンブロット分析に供した。
図6に示すように、rMPV-F1、rMPV-F3、およびrMPV-F4(レーン1、2、および3)はすべてRSV Fタンパク質を含んでいた(rMPV-empty[レーン4]およびwt rMPV[レーン5]には含まれていなかった)。
【
図7】
図7は、感染細胞におけるRSV Fタンパク質発現のレベルを示す。RSV Fタンパク質はマウスモノクローナル抗体により検出した。タンパク質バンドの定量プロットは、
図6に示すウエスタンブロット分析に基づいており、3つの独立した実験の代表である。相対的なRSV Fタンパク質の発現 (RSV F relative expression) はY軸に、ベクターはX軸にリストされている。標準誤差が示される。
図7に示すように、rMPV-F1、rMPV-F3、rMPV-F4、およびwt rRSVはすべて、高レベルのRSV Fタンパク質を発現した。
【
図8】
図8は、感染細胞におけるrMPV G、N、P、F、NS1、およびNS2タンパク質の発現のレベルを示す。MPV G、N、およびPタンパク質は、ショ糖勾配で精製したrMPVビリオンに対して生成した高度免疫血清により検出した。MPV Fタンパク質は、MPV Fタンパク質のみを発現する組換えワクシニアウイルスに対して産生されたウサギポリクローナル抗血清により検出した。MPV NS1およびNS2タンパク質は、それぞれのタンパク質に由来する合成ペプチドに対してそれぞれ産生された、個々のウサギ高度免疫血清により検出した。チューブリンをローディングコントロールとしてプローブし、各サンプルを正規化するために使用した。タンパク質バンドの定量プロットは、
図5に示した実験と同じものに基づいていており、3つの独立した実験を表す。各タンパク質の相対的な発現 (relative expression) はY軸に、ベクターはX軸にリストされている。標準誤差が示される。アスタリスクは統計的有意性を示す(p値は0.05未満)。
図8に示すように、感染細胞は、各検証タンパク質を発現した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態は、細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクターを提供する。
(ベクター)
【0019】
本明細書で使用される場合、「キメラ」ベクターは、非天然の遺伝情報を含むベクターである。例えば、ヒト病原体由来の遺伝情報または物質を含む非ヒトモノネガウイルスベクター(例えば、ヒト病原体由来の遺伝情報もしくは物質を含むげっ歯類ベクター、またはRSV由来の遺伝情報を含むMPVベクター)。
【0020】
本明細書で使用される場合、「非ヒトモノネガウイルスベクター」は、自然宿主がヒトではない、モノネガウイルス目のウイルスである。
【0021】
本明細書に記載のベクターは、ヒトに供すると弱毒化する。弱毒化ベクターはインビボで複製が可能であるが、ヒト宿主において毒性が低いか、または全くない。ベクターの弱毒化は、ベクターの複製および/または毒性を低下させ得るさまざまな要因のいずれかが原因である可能性があり、非天然宿主の感染(宿主域制限)、1つ以上のアミノ酸および/もしくはヌクレオチドの置換の存在、異種遺伝子の付加、またはベクター遺伝子の一部もしくは全部の除去を含むがこれらに限定されない。例えば、MPVベクターは、宿主域制限にある程度起因してヒトで弱毒化する。
(非ヒトモノネガウイルスベクター)
【0022】
本発明の非ヒトモノネガウイルスベクターは、ウイルスの自然宿主が非ヒト動物である限り、モノネガウイルス目の任意の種類に由来できる。一実施形態において、ウイルスの自然宿主は非ヒト動物である。好ましくは、ウイルスの自然宿主は、非ヒト哺乳動物である。好ましくは、ウイルスの自然宿主は、げっ歯目である。好ましくは、ウイルスの自然宿主はネズミ科に属する。好ましくは、ウイルスの自然宿主は、ネズミ亜科に属する。好ましくは、ウイルスの自然宿主はマウスである。
【0023】
ウイルスは:そのゲノムが、負の極性の、通常はセグメント化されていない線形一本鎖の非感染性RNAであり、感染細胞とビリオンの両方においてリボヌクレオカプシドにしっかりとカプセル化されていて、逆相補的な3'および5'末端を有し、タンパク質に共有結合しておらず、そのゲノムが、特徴的な配列順序3'-UTR-コアタンパク質遺伝子-エンベロープタンパク質遺伝子-RNA依存性RNAポリメラーゼ遺伝子-5'-UTR(3'-N-P-M-G-L-5')を有し、それがゲノムの3'末端に位置する単一のプロモーターからの極性連続転写を介して、そのゲノムから5~10個の異なるmRNAを生成し、mRNAが5'キャップ化され、ポリアデニル化されており、それがアンチゲノムと呼ばれる、ゲノムの完全なポジティブセンスコピーを合成することによって複製し、それが、mRNA、アンチゲノム、およびゲノムの合成のためのテンプレートとして感染性のらせん状リボヌクレオカプシドを形成し、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp,L)をコードし、および/またはそれが通常、エンベロープビリオンを生成する場合、モノネガウイルス目のウイルスである。
【0024】
非ヒトモノネガウイルスベクターは、ニューモウイルス科、ボルナウイルス科、フィロウイルス科、パラミクソウイルス科、ラブドウイルス科、および現在割り当てのない科由来のものであってもよい。
【0025】
一実施形態において、非ヒトモノネガウイルスベクターは、ニューモウイルス科に由来する。ニューモウイルス科由来の非ヒトモノネガウイルスベクターには、メタニューモウイルス属、例えばトリメタニューモウイルス種由来のベクターが含まれ得る。トリメタニューモウイルス種には、トリメタニューモウイルス(「AMPV」)が含まれる。
【0026】
ニューモウイルス科由来の非ヒトモノネガウイルスベクターにはまた、オルソニューモウイルス属、例えば、ウシオルソニューモウイルスおよびマウスオルソニューモウイルス種由来のベクターが含まれ得る。ウシオルソニューモウイルス種には、ウシ呼吸器多核体ウイルス(「BRSV」)が含まれる。マウスオルソニューモウイルス種には、マウス肺炎ウイルス(「MPV」、以前はマウスの肺炎ウイルス、PVMと呼ばれていた)が含まれる。好ましくは、本発明の実施形態の非ヒトベクターは、MPVである。
【0027】
ボルナウイルス科由来の非ヒトモノネガウイルスベクターには、ボルナウイルス属、例えば、以下の種:コブラ1ボルナウイルス(Elapid 1 bonavirus)、哺乳類1ボルナウイルス(Mammalian 1 bonavirus)、哺乳類2ボルナウイルス(Mammalian 2 bonaviru)、スズメ1ボルナウイルス(Passeriform 1 bonavirus)、スズメ2ボルナウイルス(Passeriform 2 bonavirus)、オウム1ボルナウイルス(Psittaciform 1 bornavirus)、オウム2ボルナウイルス(Psittaciform 2 bornavirus)、および水鳥1ボルナウイルス(Waterbird 1 bornavirus.)由来のベクターが含まれ得る。
【0028】
フィロウイルス科由来の非ヒトモノネガウイルスベクターには、Lloviu cuevavirus種、Cuevairus属由来のベクターが含まれ得る。
【0029】
パラミクソウイルス科由来の非ヒトモノネガウイルスベクターには、アブラウイルス属、例えば、トリアブラウイルス1-トリアブラウイルス13 (Avian Avulavirus 1-Avian Avulavirus 13)由来のベクター、ヘニパウイルス属、例えば、シダーヘニパウイルス(Cedar henipavirus)、ガーナバットヘニパウイルス(Ghanaian bat henipavirus,)、ヘンドラヘニパウイルス(Hendra henipavirus)、モジャンヘニパウイルス(Mojiang henipavirus)、およびニパヘニパルス(Nipah heniparus)(例えば、ニパウイルス(Nipah virus))種由来のベクター、モルビリウイルス属由来のベクター、ルブラウイルス属、例えば、アチモトルブラウイルス1(Achimoto rubulavirus 1)、アチモトルブラウイルス2(Achimoto rubulavirus 2)、バットムンプスルブラウイルス(Bat mumps rubulavirus)、イヌルブラウイルス(Canine rubulavirus)、マプエラルブラウイルス(Mapuera rubulavirus)、メナングルルブラウイルス(Menangly rubulavirus)、ブタルブラウイルス(Porcine rubulavirus)、シミアンルブラウイルス(Simian rubulavirus)、ソスガルブラウイルス(Sosuga rubulavirus)、テビオトルブラウイルス(Teviot rubulavirus)、ティオマンルブラウイルス(Tioman rubulavirus)、ツホコルブラウイルス1(Tuhoko rubulavirus 1)、ツホコルブラウイルス2(Tuhoko rubulavirus 2)、ツホコルブラウイルス3(Tuhoko rubulavirus 3)、およびパラインフルエンザ5(parainfluenza 5)種由来のベクターが含まれ得る。
【0030】
ラブドウイルス科由来の非ヒトモノネガウイルスベクターには、エフェメロウイルス属、例えば、ウシ熱エフェメロウイルス(Bovine fever ephemerovirus;)由来のベクター、ハパウイルス属由来のベクター、レダンテウイルス属由来のベクター、ならびに、リッサウイルス属、例えば、ヨーロッパコウモリ1リッサウイルス(European bat 1 lyssavirus)、ヨーロッパコウモリ2リッサウイルス(European bat 2 lyssavirus,)、ラゴスコウモリリッサウイルス(Lagos bat lyssavirus)、狂犬病リッサウイルス(Rabies lyssavirus)、シモニコウモリリッサウイルス(Shimoni bat lyssavirus)、および西コーカサスコウモリリッサウイルス(West Caucasian bat lyssavirus.)由来のベクターが含まれ得る。
【0031】
さらに、本発明のベクターは、当業者に現在知られていないモノネガウイルス目のウイルス由来のベクター(すなわち、天然に存在するがまだ発見されていないもの、または天然もしくは人工的プロセスによってまだ作製されていないもの)であってもよい。
【0032】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、パラミクソウイルスのセンダイウイルスであり、ヒト病原体はエボラウイルスまたは呼吸器多核体ウイルスではない。一実施形態では、ヒト病原体はエボラウイルスまたは呼吸器多核体ウイルスであり、非ヒトモノネガウイルスベクターはパラミクソウイルスのセンダイウイルスではない。
【0033】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターはパラミクソウイルスのパラインフルエンザウイルス5であり、ヒト病原体はRSV、インフルエンザ、または狂犬病ではない。一実施形態では、ヒト病原体はRSV、インフルエンザ、または狂犬病であり、非ヒトモノネガウイルスベクターは、パラミクソウイルスのパラインフルエンザウイルス5ではない。
【0034】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターはラブドウイルス水疱性口内炎ウイルス(「VSV」)であり、そのヒト病原体はエボラウイルスまたはマールブルグウイルスではない。一実施形態では、ヒト病原体はエボラウイルスまたはマールブルグウイルスであり、非ヒトモノネガウイルスベクターはパラミクソウイルスラブドウイルス水疱性口内炎ウイルスではない。
【0035】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターはニューカッスル病ウイルスであり、ヒト病原体はインフルエンザウイルスではない。一実施形態では、ヒト病原体はインフルエンザウイルスであり、非ヒトモノネガウイルスベクターはニューカッスル病ウイルスではない。
【0036】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、ニューモウイルス科に由来する。好ましくは、非ヒトモノネガウイルスベクターは、マウスオルソニューモウイルス属に由来する。好ましくは、非ヒトモノネガウイルスベクターはMPVである。
【0037】
好ましくは、非ヒトモノネガウイルスベクターは、気道に感染するベクターである。好ましくは、非ヒトモノネガウイルスベクターはニューモウイルス科に由来し、気道に感染する。
【0038】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、野生型MPV(GenBankアクセッション番号AY729016)に由来する。一実施形態において、突然変異をリバースジェネティクスシステムのMPVコード配列に導入し、クローニングに特有の制限酵素部位を生成することができる(Krempl, et al., J. Virol., 81(17) : 9490-501(2007) を参照)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。一実施形態では、制限酵素部位は、ゲノムヌクレオチドの4509位および8461位の、それぞれ、AgeIおよびBstBIを含み得る。一実施形態では、LポリメラーゼのORFは、Lタンパク質の発現を増加させることを目的として、コドンペア最適化によって部分的に改変することができる。
【0039】
一実施形態では、MPVベクターは、
ACGCGAAAAAATGCATAACAAAACTATCAACCTGAAAAAAGTT(配列番号1)に対して、少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するゲノムプロモーターを有する。
【0040】
一実施形態では、MPVベクターは、
TTGATATCTCACAGGTTGTAAACATAGTTCTTTTATAATTATTGTTAGTTAAACTATTGTGTTTGACTTCCTTTGGGTATTTTTTTCCCGT(配列番号2))に対して、少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するアンチゲノムプロモーターを有する。
【0041】
一実施形態では、SH遺伝子とG遺伝子との間の遺伝子間領域、およびM2遺伝子とL遺伝子との間の遺伝子間領域を、上述のように、特有の制限酵素部位(例えば、AgeIおよびBstBI)を導入することによってリバースジェネティクスシステムを作成するように改変してもよい。これらの領域に対する改変配列を以下の表1に示す。
【0042】
【0043】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、および/または配列番号31に対して、少なくとも95%(すなわち、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する転写シグナルを有する。
【0044】
一実施形態では、MPVベクターは、以下をコードするヌクレオチド配列を含む(3'から5'の遺伝子順序でリストされている):非構造タンパク質1(「NS1」)、非構造タンパク質2(「NS2」)、核タンパク質(「Nタンパク質」)、リンタンパク質(「Pタンパク質」)、マトリックスタンパク質(「Mタンパク質」)、小型疎水性タンパク質 (「SHタンパク質」)、付着タンパク質(Gタンパク質)、融合タンパク質(Fタンパク質)、M2-1およびM2-2タンパク質、ならびにポリメラーゼタンパク質(「Lタンパク質」)。
【0045】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号32に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するNS1(例えば、GenBankアクセッション番号AY729016)の配列を有する。
【0046】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号33に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するNS1タンパク質を産生することを可能にする。
【0047】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号34に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するNS2(例えば、GenBankアクセッション番号AY729016)の配列を有する。
【0048】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号35に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するNS2タンパク質を産生することを可能にする。
【0049】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号36に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するNの配列を有する。
【0050】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号37に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するNタンパク質を産生することを可能にする。
【0051】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号38に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するPの配列を有する。
【0052】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号39に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するPタンパク質を産生することを可能にする。
【0053】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号40に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するMの配列を有する。
【0054】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号41に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するMタンパク質を産生することを可能にする。
【0055】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号42に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するSHの配列を有する。
【0056】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号43に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するSHタンパク質を産生することを可能にする。
【0057】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号44に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するGの配列を有する。
【0058】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号45に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するGタンパク質を産生することを可能にする。
【0059】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号46に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFの配列を有する。
【0060】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号47に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質を産生することを可能にする。
【0061】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号48に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するM2-1の配列を有する。
【0062】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号49に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するM2-1タンパク質を産生することを可能にする。
【0063】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号50に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するM2-2の配列を有する。
【0064】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号51に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するM2-2タンパク質を産生することを可能にする。
【0065】
一実施形態では、MPVベクターは、配列番号52に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するLのコドンペア最適化配列を有する。
【0066】
一実施形態では、MPVベクターは、細胞において、配列番号53に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するLタンパク質を産生することを可能にする。
【0067】
いくつかの実施形態では、「コザック」配列(GCCGCCACC(配列番号63))は、AUG開始コドンの上流にある。「コザック」配列は、翻訳開始を効率化することができる。当業者に公知である他の配列が、翻訳効率を高めるために使用されてもよい。
(ヒト病原体)
【0068】
本発明のベクターは、任意のヒト病原体由来のタンパク質を発現することができる。本明細書で使用される場合、「ヒト病原体」は、ヒトに感染を引き起こす可能性のある病原体である。ヒト病原体には、ウイルス、細菌、原生動物、プリオン、および真菌が含まれ得る。
【0069】
病原体細菌には、以下の種由来のものが含まれる:アクチノマイセス・イスラエリー(Actinomyces israelii)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ボレリア(Borrelia)、ブルセラ(Brucella)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、クラミジア(Chlamydia)、オウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci)、クロストリジウム(Clostridium)、コリネバクテリウム・ジフテリエ(Corynebacterium diphtheriae)、エーリキア(Ehrlichia)、腸球菌(Enterococcus)、大腸菌(Escherichia)、野兎病菌(Francisella tularensis)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、ヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レプトスピラ(Leptospira)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、マイコバクテリア(Mycobacterium)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、ナイセリア(Neisseria)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、ノカルジア・アステロイデス(Nocardia asteroids)、リケッチア・リケッチイ(Rickettsia rickettsia)、サルモネラ菌(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖状球菌(Streptococcus)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、およびペスト菌(Yersinia pestis)。
【0070】
病原体真菌には、以下の種由来のものが含まれる:カンジダ(Candida,)、アスペルギルス(Aspergillus)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、ヒストプラズマ(Histoplasma)、ニューモシスチス(Pneumocystis)、およびスタキボトリス(Stachybotrys)。
【0071】
病原体原生動物には、以下の病気を引き起こすものが含まれる:マラリア(malaria)(プラスモディウムによる)、アメーバ症(amoebiasis)、ジアルジア症(giardiasis)、トキソプラズマ症(toxoplasmosis)、クリプトスポリジウム症(cryptosporidiosis)、トリコモニア症(trichomoniasis)、シャーガス病(Chagas disease)、リーシュマニア症(leishmaniasis)、アフリカトリパノソーマ症(African trypanosomiasis)、アメーバ赤痢(amoebic dysentery)、アカントアメーバ角膜炎(acanthamoeba keratitis)、および原発性アメーバ性髄膜脳炎(primary amoebic meningoencephalitis)(ネグレリア症(naegleriasis))。
【0072】
病原体プリオンには、以下の病気を引き起こすものが含まれる:クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease)、医原性クロイツフェルト・ヤコブ病(Iatrogenic Creutzfeldt-Jakob disease,)、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(Variant Creutzfeldt-Jakob disease)、家族性クロイツフェルト・ヤコブ病(Familial Creutzfeldt-Jakob disease)、散発性クロイツフェルト・ヤコブ病(Sporadic Creutzfeldt-Jakob disease)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(Gerstmann-Straussler-Scheinker syndrome)、致死性家族性不眠症(Fatal familial insomnia)、クールー病(Kuru)、家族性海綿状脳症(Familial spongiform encephalopathy)、および多系統萎縮症(Multiple System Atrophy)。
【0073】
病原体ウイルスには、以下の科(または目)由来のものが含まれる:ヒトパラインフルエンザウイルス血清型(Human Parainfluenza Virus serotypes)1、2、3(HPIV1、2、3)および麻疹ウイルス(Measles virus)を含むパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ヘンドラウイルス(Hendra virus)とニパウイルス(Nipah virus)を含むヘニパウイルス科(Henipaviridae)、鳥インフルエンザウイルスA型(avian influenza A viruses)を含むオルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae)科、重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome)(SARS)、コロナウイルス(Coronavirus)、中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome)(MERS)コロナウイルスを含むコロナウイルス(Coronaviridae)科、エボラウイルス(Ebola virus)とマールブルグウイルス(Marburg virus)を含むフィロウイルス(Filoviridae)科、ラッサウイルス(Lassa Virus)を含むアレナウイルス(Arenaviridae)科、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(Crimean-Congo Hemorrhagic Fever Virus)、リフトバレー熱ウイルス(Rift Valley Fever Virus)、ハンタウイルス(Hantavirus)を含むブニヤウイルス(Bunyavirales)目(以前はブニヤウイルス(Bunyaviridae)科として知られていた)、西ナイルウイルス(West Nile virus)、デングウイルス(Dengue virus)、ジカウイルス(Zika virus)、チクングニアウイルス(Chikungunya virus)を含む、フラビウイルス(Flaviviridae)科とトガウイルス(Togaviridae)科、ならびにヒト呼吸器多核体ウイルス(human respiratory syncytial virus)(RSV)とヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus)を含むニューモウイルス(Pneumoviridae)科。
【0074】
好ましくは、ヒト病原体はウイルスである。好ましくは、ヒト病原体はニューモウイルス科ウイルス(Pneumoviridae virus)である。
【0075】
好ましくは、ヒト病原体はRSVである。RSVは、エンベロープで覆われた一本鎖マイナスセンスRNAウイルスである。RSVは11のタンパク質をコードする10の遺伝子を有する。融合F(「Fタンパク質」)および付着G(「Gタンパク質」)表面糖タンパク質は、2つのウイルス性中和抗原であり、主要な防御抗原である。RSV Fは、侵入時にビリオンエンベロープと宿主細胞膜との融合を媒介するI型膜貫通外被糖タンパク質である。
(ヒト病原体由来のタンパク質)
【0076】
本発明のベクターに感染した細胞において発現する、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質は、宿主がヒト病原体に対する免疫応答を発揮することができる任意のタンパク質を含み得る。
【0077】
一実施形態では、本タンパク質は、ヒトパラインフルエンザウイルス血清型1、2、3(HPIV1,2,3)と麻疹ウイルス(Measles virus)によって例示される、融合(F)タンパク質および血球凝集素(H)タンパク質、またはパラミクソウイルス科の血球凝集素-ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質である。
【0078】
一実施形態では、本タンパク質は、ヘンドラウイルスおよびニパウイルスによって例示される、ヘニパウイルス科の融合(F)タンパク質および付着(G)タンパク質である。
【0079】
一実施形態では、本タンパク質は、高病原性鳥インフルエンザウイルスA型によって例示される、オルトミクソウイルス科の血球凝集素(HA)タンパク質、ノイラミニダーゼ(NA)タンパク質である。
【0080】
一実施形態では、本タンパク質は、重症急性呼吸器症候群(SARS)、コロナウイルスおよび中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスによって例示される、コロナウイルス科のメンバーのスパイク(S)タンパク質である。
【0081】
一実施形態では、本タンパク質は、エボラウイルスおよびマールブルグウイルスによって例示される、フィロウイルス科のメンバーのGPタンパク質である。
【0082】
一実施形態では、本タンパク質は、ラッサウイルスによって例示される、アレナウイルス科のGP1およびGP2タンパク質(前駆体GPCとして発現する)である。
【0083】
一実施形態では、本タンパク質は、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ハンタウイルスによって例示される、ブニヤウイルス目(以前はブニヤウイルス科として知られていた)のメンバーのGn(GP1)タンパク質およびGc(GP2)タンパク質である。
【0084】
一実施形態では、本タンパク質は、西ナイルウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、およびチクングニアウイルスによって例示される、フラビウイルス科とトガウイルス科のメンバーのE糖タンパク質種である。
【0085】
好ましくは、本タンパク質は、呼吸器多核体ウイルス(RSV)およびメタニューモウイルス(MPV)によって例示される、ニューモウイルス科の融合タンパク質(F)または糖タンパク質(G)である。
(ニューモウイルス科の融合タンパク質(F))
【0086】
このタンパク質には2つの野生型(AおよびB、またはA1およびB2)ならびにその多くの自然変異体が存在する。さらに、ヌクレオチド配列のオープンリーディングフレームは、タンパク質の発現を増強するためにコドン最適化によって改変することができる。さらに、ヌクレオチド配列は、野生型に存在するものと同一の2つのHEKアミノ酸アサインメント(66Eおよび101P、配列番号54を参照)を含むように改変することができる。また、発現タンパク質が所望の免疫応答を誘発する能力に有意な影響を与えない範囲で、これらの配列には突然変異、欠失、挿入があってもよい。
【0087】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、配列番号54に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質(RSV A2由来)の配列を有する。
【0088】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、細胞において、配列番号55に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質(RSV A2由来)を産生することを可能にする。
【0089】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、配列番号56に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質(RSV A2由来)の配列を有する。
【0090】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、細胞において、配列番号57に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質(RSV A2由来)を産生することを可能にする。
【0091】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、配列番号58に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質(RSV B1由来)の配列を有する。
【0092】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、細胞において、配列番号59に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有するFタンパク質(RSV B1由来)を産生することを可能にする。
【0093】
好ましくは、RSV Fタンパク質は、その融合形と比較して免疫応答を増加させる融合前の形で維持される。RSV Fタンパク質は、その球形の頭部にジスルフィド結合形成または充填変異(cavity filling mutations)をもたらす変異を導入することにより、融合前の形で安定化することができる。安定化したRSV Fタンパク質はアンフォールドする可能性が低い(宿主細胞と接触する場合に特に望ましい)(McLellan, et al., Science, 340 : 1113-1117(2013) ; McLellan, et al., Science, 342 : 592-598(2013) ; およびJoyce, et al., Nature Structural and Molecular Biology, doi : 10.1038 / nsmb.3267(2016)を参照。 ; それぞれは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0094】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターは、MPVベクターであり、細胞において、(ニューモウイルス科の)Fタンパク質を発現することを可能にする。Fタンパク質をコードする配列は、Fタンパク質が発現し、かつそれがベクター遺伝子を破壊しない限り、MPVベクターゲノムの適切な任意の場所にあり得る。たとえば、
図1に示すように、Fタンパク質をコードする配列を挿入することができる。Fタンパク質をコードする配列は、ベクターの遺伝子開始配列と遺伝子終了配列に隣接している必要がある。オープンリーディングフレームのいずれかの側に、数ヌクレオチドまたは最大200ヌクレオチドが存在してもよい。好ましくは、タンパク質を効率的に発現するためリボソームがロードアップすることを可能にするFタンパク質コード配列が始まる前に、約10~20のヌクレオチドが存在する。
【0095】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターはMVPベクターであり、細胞において(ニューモウイルス科の)Fタンパク質の発現を可能にし、配列番号60に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む(rMPV-F1)。
【0096】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターはMVPベクターであり、細胞において(ニューモウイルス科の)Fタンパク質の発現を可能にし、配列番号61に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む(rMPV-F3)。
【0097】
一実施形態では、非ヒトモノネガウイルスベクターはMVPベクターであり、細胞において(ニューモウイルス科の)Fタンパク質の発現を可能にし、配列番号62に対して少なくとも85%(すなわち、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%)の同一性を有する配列を含む(rMPV-F4)。
【0098】
一実施形態では、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現する細胞は、ヒト細胞である。
(ベクター組成物)
【0099】
本発明の実施形態は、本発明の実施形態のベクターと薬学的に許容される担体とを含む組成物を提供する。
【0100】
本組成物は、それを必要とする対象への投与に適切であり得る。一実施形態では、ベクター組成物は、哺乳動物への投与に適している。一実施形態では、ベクターは、エンドトキシンまたはエキソトキシンのいずれも実質的に含まない。エンドトキシンには、リポ多糖(「LPS」)分子などの発熱物質(pyrogen)を含んでもよい。ベクターはまた、発熱または他の副作用を引き起こし得る不活性なタンパク質断片を実質的に含まなくてもよい。実施形態において、組成物は、約1%未満、約0.1%未満、約0.01%未満、約0.001%未満、もしくは約0.0001%未満のエンドトキシン、エキソトキシン、および/または不活性なタンパク質断片を含む。いくつかの実施形態では、ベクター組成物の発熱物質は、工業用水、水道水、または蒸留水よりも低いレベルである。他のベクター組成物成分は、イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過、または蒸留などの当技術分野で知られている方法を使用して精製してもよい。他の実施形態では、発熱物質は、患者に投与する前に不活化または破壊してもよい。水、緩衝液、塩、その他の化学物質などのベクター組成物の原料もまた検査され、発熱物質が除去される。ベクター組成物のすべての物質は無菌であってもよく、ベクター組成物の各ロットは無菌性をテストすることができる。
【0101】
実施形態において、ベクター組成物は、(乾燥重量で)約50%未満、約20%未満、約10%未満、または約5%の混入タンパク質を含む。実施形態において、多糖カプセルタンパク質(polysaccharide capsule protein)は、他のタンパク質(特に、成分タンパク質の、精製された調製物としての、または対象の再構成された混合物におけるそれらの機能における特性を実質的に隠したり、減じたり、攪乱させたりまたは変更させ得る他のタンパク質)などの他の生体高分子が実質的に存在しない状態で存在する。いくつかの実施形態では、精製サブユニットタンパク質を含むベクター組成物は、精製されたサブユニットの量に対して、約5%未満、約2%未満、約1%未満、約0.5%未満、約0.2%未満、約0.1%未満の、サブユニットタンパク質が発現した宿主細胞由来のタンパク質を含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、ベクターは、宿主に対して低い毒性を示すかまたは全く毒性を示さない。特定の実施形態では、ベクター組成物は、ワクチン接種されている動物のLD50測定値よりも低い濃度の含有物を含む。LD50測定値は、マウスまたは他の実験モデルシステムで取得し、ヒトやその他の動物に外挿することができる。ヒトおよび他の動物における化合物のLD50を推定する方法は、当技術分野でよく知られている。ベクター組成物は、その中に任意の成分を含むことができ、ラットにおいて、約100 g/kgを超える、約50 g/kgを超える、約20 g/kgを超える、約10 g/kgを超える、約5 g/kgを超える、約2 g/kgを超える、約1 g/kgを超える、約500 mg/kgを超える、約200 mg/kgを超える、約100 mg/kgを超える、約50 mg/kgを超える、約20 mg/kgを超える、または約10 mg/kgを超えるLD50値を有し得る。
【0103】
ベクターの導入に適した組成物は、投与経路によって異なる。鼻腔内投与に適した組成物は、例えば、エアゾール溶液(例えば、それらは「噴霧化」することができる)および液滴溶液などであり、どちらも、糖(複数可)、懸濁剤(複数可)、可溶化剤(複数可)、増粘剤(複数可)、安定剤(複数可)、塩緩衝液(複数可)、および防腐剤(複数可)を含んでもよい。
【0104】
一実施形態では、本発明の実施形態のベクターを含む組成物は、単糖および/または二糖類の糖を含む。別の実施形態では、本発明の実施形態のベクターを含む組成物は、糖としてグルコース、ショ糖、および/またはフルクトースを含む。
【0105】
一実施形態では、本発明の実施形態のベクターを含む組成物は、実施形態の組成物のpHを約4.0から約8.0、好ましくは約5.5から約7.0の範囲で調整および維持するのに十分な薬学的に許容される緩衝液を含む。適切な緩衝液には、クエン酸塩、リン酸塩、およびグリシンが含まれ得る。
【0106】
ベクターは、単独でまたは他の適切な成分と組み合わせて、吸入により投与するエアゾール製剤にされてよい。エアゾール製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧された許容可能な噴霧剤に入れることができる。エアゾール製剤は、鼻腔または口腔に送達することができる。
【0107】
例えば、関節腔内(関節内)、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、鼻腔内、および皮下の経路などの非経口投与に適した組成物は、水性および非水性の等張性無菌注射液を含有し、これは、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、製剤を対象者の血液と等張にする溶質、ならびに、懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および防腐剤を含む一般的な水性および非水性滅菌懸濁液を含んでもよい。組成物は、アンプルやバイアルなどの、単回投与または複数回投与の密封容器で提供してもよい。
【0108】
注射用溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。経口投与に適した組成物は、(a)水、生理食塩水、またはPEG400などの希釈剤に懸濁された、有効量の多糖類カプセルなどの液体溶液、(b)それぞれが液体、固体、顆粒、もしくはゼラチンとして所定量の有効成分を含む、カプセル、小袋、または錠剤、(c)適切な液体中の懸濁液、および(d)適切な乳剤から成り得る。タブレット剤の形態は、1つまたは複数のラクトース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、ポテトスターチ、トラガント、微結晶性セルロース、アカシア、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ならびにその他の賦形剤、着色剤、充填剤、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤、色素、崩壊剤、および薬学的に適合性のある担体を含むことができる。ロゼンジ形態は、香味剤(通常はショ糖及びアカシア又はトラガカント)中にベクターを含み得、並びに、ベクターに加えて、当該技術分野で公知の担体を含む、ゼラチン及びグリセリン、又はショ糖及びアカシア等の不活性基剤、乳濁液及びゲル等の中にベクターを含むトローチ剤を含み得る。ベクター組成物は、例えば、リポソーム中に、またはベクターの徐放を提供する組成物中にカプセル化することができる。
(ベクター投与)
【0109】
本発明の実施形態によるベクターは、個人への投与、典型的には全身投与によって(例えば、鼻腔内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮内、皮下、真皮下、経皮、頭蓋内、粘膜、肛門、膣、経口、バッカル(buccal)経路により、もしくは吸入により)送達してもよく、または局所投与してもよい。一実施形態では、投与経路は鼻腔内(例えば、鼻スプレーまたは点鼻薬)である。一実施形態では、投与経路は筋肉内である。他の実施形態では、投与経路は皮下である。さらに他の実施形態では、投与経路は粘膜である。特定の実施形態において、投与経路は、経皮または皮内である。
(免疫応答を誘発する方法)
【0110】
本発明の実施形態は、本発明の実施形態の非ヒトモノネガウイルスベクターを投与することを含む、少なくとも1つのヒト病原体に対する免疫応答を誘発するための方法、または、ヒトへの、本発明の実施形態の非ヒトモノネガウイルスベクターを含む組成物を提供する。
【0111】
本発明の実施形態は、本発明の実施形態の非ヒトモノネガウイルスベクターを投与することを含む、少なくとも1つのヒト病原体に対する免疫応答を誘発するための方法、または、ヒトへの、本発明の実施形態の非ヒトモノネガウイルスベクターを含む組成物を提供する。ここで、投与時にヒトはニューモウイルス科ウイルス感染症に罹患していない。このような場合、本発明の実施形態のベクター、または本発明の実施形態のベクターを含む組成物は、免疫応答を誘導するためにヒトに投与され、たとえば、病気の最初のそして必要なステップである感染を防ぐことによって、ニューモウイルス科ヒトウイルスの定着からの防御を促進することができる。したがって、いくつかの態様において、この方法は、感染していないヒトにおけるニューモウイルス科(ヒトの)による感染を阻害する。別の態様では、この方法は、すでに感染しているヒトの感染期間を短縮し得る。
【0112】
特定の実施形態において、本発明のベクターまたはベクターを含む組成物は、防御免疫を付与し、ベクターの曝露の結果、ワクチン接種を受けた人において、症状もしくは後遺症の発症の遅延、または症状もしくは後遺症の重症度の低下を示すことが可能となる。特定の実施形態では、ワクチン接種を受けている個体は、ニューモウイルス科(ヒトの)との接触時に症状または後遺症を示さないか、ニューモウイルス科(ヒトの)に感染しないか、またはその両方であり得る。防御免疫は通常、以下:粘膜免疫、体液性免疫、または細胞性免疫の1つ以上のメカニズムによって達成される。粘膜免疫は、主として、気道、消化管、および尿生殖路の粘膜表面に分泌されるIgA(sIGA)抗体の結果である。抗原プロセシング細胞、Bリンパ球、およびTリンパ球によって媒介される一連の現象の後にsIGA抗体が生成し、体の粘膜で覆われた組織でBリンパ球によりsIGAが産生される。体液性免疫は通常、血清中のIgG抗体とIgM抗体の結果である。細胞性免疫は、細胞傷害性Tリンパ球により、または、樹状細胞、マクロファージ、Tリンパ球が関与する遅延型過敏症、抗体を必要としないT細胞が関与するその他のメカニズムによって達成され得る。特に、細胞性免疫は、TH1またはTH17細胞によって媒介されてもよい。
(用量)
【0113】
本発明の実施形態のベクターまたは本発明の実施形態のベクターを含む組成物の用量は、上記のように、単回投与または複数回投与のいずれかで予防的反応を誘発する有効量である。好ましくは、用量は、有害な副作用を最小限に抑えるように選択される。使用する特定のベクターによってかかる量は異なる。いくつかの実施形態では、用量は、約108.0感染単位(infectious unit)(PFU)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の用量は、約107.0感染単位(PFU)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約106.0感染単位のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約105.0感染単位(PFU)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約104.0感染単位(PFU)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約103.0感染単位(PFU)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約102.0感染単位(PFU)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約10感染単位(PFU)またはより一層少ないベクター粒子を含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、用量は、約108.0感染単位(50%組織培養感染単位、
TCID50)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の用量は、約107.0感染単位(TCID50)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約106.0感染単位のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約105.0感染単位(TCID50)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約104.0感染単位(TCID50)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約103.0感染単位(TCID50)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約102.0感染単位(TCID50)のベクター粒子を含む。いくつかの実施形態では、組成物の単回用量は、約10感染単位(TCID50)またはより一層少ないベクター粒子を含む。
【0115】
送達されるベクターの適量は、対象の年齢、体重、および健康状態(例えば、免疫低下状態)に依存するであろう。存在する場合、アジュバントは、通常用量あたり1-250μg、例えば、50-150μg、75-125μg、または100μgの量で存在する。
【0116】
実施形態において、本発明の実施形態のベクター、または本発明の実施形態のベクターを含む組成物の一用量を投与して、上記記載の結果を達成する。他の実施形態では、最初のワクチン接種に続いて、対象は、合計2、3、4または5回のワクチン接種のために、1以上の追加免疫ワクチン接種を受ける。追加免疫ワクチン接種は、1つのワクチン接種レジメンは0、0.5-2、4-8、および12か月での実施を伴うように、例えば、最初のワクチン接種の約1ヶ月、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、または12ヶ月後に施されてもよい。同じまたは異なる経路で、ワクチンの用量を分割して投与することが有効な場合もある。
【0117】
いくつかの実施形態では、本発明の実施形態のベクター、または本発明の任意の実施形態のベクターを含む組成物は、ベクターを連続投与する際にそれより前の投与よりも高濃度のベクターを含むように、用量漸増様式で投与される。実施形態において、ベクターを連続投与する際にそれより前の投与よりも低濃度のベクターを含むような方法でベクターが投与される。
【0118】
一実施形態では、有効量は、レシピエントの少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%にすら感染を引き起こす量である(ワクチンウイルスの排出によって定義される)。
【0119】
一実施形態では、有効量は、レシピエントの少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%にすら感染を引き起こす量である(ベクターに対する血清抗体価の4倍以上の増加によって定義される)。
【0120】
一実施形態では、有効量は、レシピエントの少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%にすら感染を引き起こす量である(発現した外来抗原に対する血清抗体価の4倍以上の増加によって定義される)。
(ベクター組成物の調製と保存)
【0121】
本明細書に記載のベクターおよび組成物は、様々な技術を使用して製造することができる。本発明の一実施形態は、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクターを作製するための方法を提供する。これは、細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にし、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質をコードする非天然遺伝子を、非ヒトモノネガウイルスベクターに挿入することを含む。一実施形態では、少なくとも1つのヒト病原体由来の非天然タンパク質をコードする遺伝子は、非ヒトモノネガウイルスベクター遺伝子の開始点(gene start)の下流にある。一実施形態では、少なくとも1つのヒト病原体由来の非天然タンパク質をコードする遺伝子は、ベクター遺伝子の終結点(gene end)の上流にある。本明細書で使用される場合、「ベクター遺伝子の開始点の下流(downstream of a vector gene start”)」は、少なくとも1つのヒト病原体由来のタンパク質をコードする遺伝子が、非ヒトモノネガウイルスベクター遺伝子の開始点下流の位置に挿入されることを意味し、遺伝子の開始点によりウイルスのポリメラーゼLタンパク質が遺伝子を転写できるようになる。本明細書で使用される場合、「非ヒトモノネガウイルスベクター遺伝子の終結点の上流(upstream of a non-human Mononegavirales vector gene end)」は、少なくとも1つのヒト病原体由来のタンパク質をコードする遺伝子が、非ヒトモノネガウイルスベクター遺伝子の終結点の上流の位置に挿入されることを意味し、遺伝子の終結点により非ヒトモノネガウイルスベクターのポリメラーゼタンパク質が、適切な位置で遺伝子の転写を停止できるようになる。
【0122】
実施形態において、ベクターを製造する方法は、1つ以上の複数のタンパク質またはその免疫原性フラグメントもしくは変異体を、担体および/またはアジュバントと混合することを含み得る。
(キットおよび部材)
【0123】
本発明の一実施形態は、免疫応答を誘発するためのキットを提供する。本キットは、本発明の実施形態の組成物と、組成物を保持するための少なくとも1つの容器を含み得る。本キットは、任意であるが好ましくは、本キットを使用して本発明の実施形態の組成物をヒト対象に投与するための説明書を含む。本キットには、任意選択で、組成物を投与するために必要な部材(例えば、注射器、針、ネブライザー、アトマイザー、スポイト)が含まれる。
【0124】
本明細書に記載の本主題の実施形態の実施形態は、単独で、または1以上の他の実施形態と組み合わせて有効であり得る。前述の記載を限定することはなく、(1)-(25)の番号を付けて開示する、特定の非限定的な実施形態を以下に示す。本開示を読んだ当業者には明らかであるように、個別に番号が付けられた実施形態のそれぞれは、個別に番号が付けられた、先行するまたは後続の実施形態のいずれかと使用または組み合わせてもよい。これは、そのような実施形態のすべての組み合わせをサポートすることを意図しており、以下に明示的に提供される実施形態の組み合わせに限定されない:
【0125】
(1)細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0126】
(2)前記非ヒトモノネガウイルスベクターの自然宿主が非ヒト動物である、実施形態(1)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0127】
(3)前記非ヒトモノネガウイルスベクターの自然宿主がげっ歯目由来である、実施形態(1)または(2)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0128】
(4)前記非ヒトモノネガウイルスベクターがマウス肺炎ウイルス(MPV)である、実施形態(1)-(3)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0129】
(5)前記少なくとも1つのヒト病原体が細菌またはウイルスである、実施形態(1)-(4)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0130】
(6)前記少なくとも1つのヒト病原体がウイルスである、実施形態(1)-(5)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0131】
(7)前記少なくとも1つのヒト病原体がニューモウイルス科ヒトウイルスである、実施形態(1)-(6)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0132】
(8)前記少なくとも1つのヒト病原体がオルソニューモウイルスである、実施形態(1)-(7)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0133】
(9)前記少なくとも1つの病原体がヒト呼吸器多核体ウイルス(RSV)である、実施形態(1)-(8)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0134】
(10)前記少なくとも1つのタンパク質がRSV Fタンパク質である、実施形態(1)-(9)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0135】
(11)前記非ヒトモノネガウイルスベクターが、配列番号56に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(1)-(10)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0136】
(12)前記非ヒトモノネガウイルスベクターが、配列番号58に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(1)-(10)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0137】
(13)前記少なくとも1つのタンパク質がRSV Gタンパク質である、実施形態(1)-(9)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0138】
(14)配列番号60に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(1)-(13)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0139】
(15)配列番号61に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(1)-(13)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0140】
(16)配列番号62に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(1)-(13)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0141】
(17)実施形態(1)-(16)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター、および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【0142】
(18)前記組成物が、鼻腔内投与用に製剤化される、実施形態(17)に記載の組成物。
【0143】
(19)実施形態(1)-(16)のいずれか1つに記載の非ヒトモノネガウイルスベクター、または実施形態(17)もしくは(18)の組成物を、ヒトに投与することを含む、少なくとも1つのヒト病原体に対する免疫応答を誘発する方法。
【0144】
(20)投与時に、ヒトがニューモウイルス科ヒトウイルス感染症に罹患していない、実施形態(19)の方法。
【0145】
(21)投与時に、ヒトがヒト呼吸器多核体ウイルス(RSV)感染症に罹患していない、実施形態(19)または(20)の方法。
【0146】
(22)前記非ヒトモノネガウイルスベクターがマウス肺炎ウイルス(MPV)である、実施形態(19)-(21)のいずれか1つに記載の方法。
【0147】
(23)細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクターを作製する方法であって、
(a)非ヒトモノネガウイルスベクターに少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質をコードする非天然遺伝子を挿入すること
を含む、方法。
【0148】
(24)免疫応答を誘発するためのキットであって、
(a)実施形態(17)または(18)に記載の組成物、および
(b)前記組成物を保持するための少なくとも1つの容器
を含む、キット。
【0149】
(25)細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0150】
(26)前記非ヒトモノネガウイルスベクターの自然宿主が非ヒト動物である、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0151】
(27)前記非ヒトモノネガウイルスベクターの自然宿主がげっ歯目由来である、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0152】
(28)前記非ヒトモノネガウイルスベクターがマウス肺炎ウイルス(MPV)である、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0153】
(29)前記少なくとも1つのヒト病原体が細菌またはウイルスである、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0154】
(30)前記少なくとも1つのヒト病原体がウイルスである、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0155】
(31)前記少なくとも1つのヒト病原体がニューモウイルス科ヒトウイルスである、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0156】
(32)前記少なくとも1つのヒト病原体がオルソニューモウイルスである、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0157】
(33)前記少なくとも1つの病原体がヒト呼吸器多核体ウイルス(RSV)である、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0158】
(34)前記少なくとも1つのタンパク質がRSV Fタンパク質である、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0159】
(35)前記非ヒトモノネガウイルスベクターが、配列番号56に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0160】
(36)前記非ヒトモノネガウイルスベクターが、配列番号58に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0161】
(37)前記少なくとも1つのタンパク質がRSV Gタンパク質である、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0162】
(38)配列番号60に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0163】
(39)配列番号61に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0164】
(40)配列番号62に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター。
【0165】
(41)実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクター、および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【0166】
(42)前記組成物が、鼻腔内投与用に製剤化される、実施形態(25)に記載の組成物。
【0167】
(43)実施形態(25)に記載の非ヒトモノネガウイルスベクターをヒトに投与することを含む、少なくとも1つのヒト病原体に対する免疫応答を誘発する方法。
【0168】
(44)投与時に、ヒトがニューモウイルス科ヒトウイルス感染症に罹患していない、実施形態(43)に記載の方法。
【0169】
(45)投与時に、ヒトがヒト呼吸器多核体ウイルス(RSV)感染症に罹患していない、実施形態(43)に記載の方法。
【0170】
(46)前記非ヒトモノネガウイルスベクターがマウス肺炎ウイルス(MPV)である、実施形態(43)に記載の方法。
【0171】
(47)細胞において、少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質を発現することを可能にする、生のキメラ非ヒトモノネガウイルスベクターを作製する方法であって、
(a)非ヒトモノネガウイルスベクターに少なくとも1つのヒト病原体由来の少なくとも1つのタンパク質をコードする非天然遺伝子を挿入すること
を含む、方法。
【0172】
(48)免疫応答を誘発するためのキットであって、
(a)実施形態(42)に記載の組成物、および
(b)前記組成物を保持するための少なくとも1つの容器
を含む、キット。
【0173】
以下の実施例は本発明をさらに説明するが、もちろん、決してその範囲を限定的に解釈してはならない。
【実施例】
【0174】
実施例1
本実施例は、本発明の実施形態のベクターをいかにして調整し得るかを示す。
【0175】
rMPV-RSV-Fベクターを、Kremp, et al., (“Identification of a novel virulence factor in recombinant pneumonia virus of mice,” J. Virol., (81): 9490-9501 (2007))(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)の記載のようにリバースジェネティックシステムを使用して構築した。RSV Fの発現に使用するrMPVベクターバックボーンは、親株15にはない2つの導入制限酵素部位(AgeIおよびBstBI)を含み、部分的に改変したL ORFも含む、pBluescriptプラスミドベクター(「pBS」)にクローン化されたMPV(以前はPVMと呼ばれていた)株15に由来した。L ORFの下流67%が、全体的なコドン使用とコードされたアミノ酸配列の両方を維持しつつ、ヒトでの効率的な発現に関連するコドンペアの含量を増加させる同義変換(synonymous change)を含むように、コドンペアの最適化(codon-pair optimized「CPO」)を行った。株A2由来のRSV F ORFは、より多くのタンパク質発現を得るために、ヒトのコドン使用のためにコドンが最適化された(Genscript、Piscataway、NJ)。RSV Fはまた、コードされたFタンパク質アミノ酸配列を、野生株A2び臨床分離株の初期継代のものと同一にする、66Eおよび101Pの2つの前述のHEKアミノ酸アサインメントを有した。
【0176】
RSV Fインサートが、NS1遺伝子の上流、第1の遺伝子位置(rMPV-F1)、NS2遺伝子とN遺伝子との間の第3の遺伝子位置(rMPV-F3)、またはN遺伝子とP遺伝子の間の第4の遺伝子位置(rMPV-F4)に配置された3つのMPVベクターコンストラクトを設計した(
図1を参照)。RSV F ORFがMPV遺伝子開始(GS)および遺伝子終了(GE)転写シグナルに隣接したようにRSV Fインサートが配置され、別個のmRNAとしてRSV Fの転写が可能となる。コザックコンセンサス配列GCCGCCACC(配列番号63)は、RSV F AUG開始コドンの上流に位置し、説明の通り効率的な翻訳開始の状況を提供する。リーダー領域の上流のプラスミド(pBS)配列中のXmaI制限部位と下流のKpnI部位(rMPV-F1およびrMPV-F3)、または示されているようにKpnIおよびBmtI部位(rMPV-F4)を使用して、RSV Fインサートは、rMPVアンチゲノムプラスミドへの挿入のために設計された、長いゲノムセグメントとして、外注で合成した(Genscript)(
図1を参照)。最終コンストラクトrMPV-F1は、MPVゲノムのヌクレオチド位置67(NS1の上流)の直後に配置された1768の追加ヌクレオチドを含み、rMPV-F3は、ヌクレオチド位置981(NS2とNの間)の直後に配置された1775の追加ヌクレオチドを含み、rMPV-F4は、ヌクレオチド位置2276(NとPの間)の直後に配置された1771個の追加ヌクレオチドを含む。
【0177】
T7 RNAポリメラーゼを恒常的に発現するBHK BSR-T7/5細胞のcDNAからrMPVベクターを回収した(例示的な方法については、Krempl, et al.前出を参照のこと)。細胞にMPVアンチゲノムプラスミドをトランスフェクションし、プラスミドによるMPV N、P、M2-1、およびLタンパク質の発現をサポートした。24時間後、細胞をこすり取り攪拌して、細胞懸濁液をベロ細胞単層と約2週間共培養してP1ウイルスストックを作製した。P1ウイルスストックには、回収中に偶発的に導入された変異は含まれないことを確認した。具体的には、ウイルスRNAを単離し、非クローン化重複RT-PCR断片を使用して全ウイルスゲノムのサンガー配列分析を実施した。逆転写酵素を欠くコントロールRT-PCR反応では増幅産物が生成されず、ウイルスレスキュー(virus rescue)に使用したcDNAからではなく、ウイルスRNAからPCR産物が増幅したことを確認した。ウイルスストックの力価は、プラークアッセイと免疫染色によって決定した。
【0178】
実施例2
本実施例は、本発明の実施形態のベクターのインビトロ安定性を示す。
【0179】
ベロ細胞、ヒト肺上皮細胞、およびベビーハムスター腎臓細胞を本研究で(in his study)使用した。ベロ細胞(アフリカングリーンモンキー腎臓細胞、CCL-81、ATCC、Manassas, VA)を、4 mM L-グルタミン(ThermoFisher Scientific、Waltham, MA)および10%ウシ胎児血清(「FBS」)(Hyclone, Logan, UT)を添加したOPTIPROTM培地で維持した。ヒト肺上皮A549細胞(CCL-185; ATCC、Manassas, VA)は、4 mM L-グルタミンを添加したF-12K培地(ATCC)で維持した。BHK BSR T7/5細胞は、3%FBSを添加したグラスゴーのMEM培地(Glasgow’s MEM medium)(ThermoFisher Scientific)で維持したBHK-21(ベビーハムスター腎臓21)細胞である。T7 RNAポリメラーゼ発現細胞の選抜を確実にするために、他のすべての継代用培地にジェネテシン(Geneticin)(ThermoFisher Scientific)を添加した。
【0180】
組換え(r)wt RSV株A2をコントロールとして使用した。特に記載がない限り、すべてのin vitro組織培養実験は37℃で実施した。rMPVおよびrMPV-RSV-Fベクターは、0.1の感染多重度(「MOI」)で感染することにより、ベロ細胞上で増殖した。細胞変性効果が単層を破壊した、感染の約2週間後にウイルスストックを回収した。記載されているように、rMPV力価を0.8%メチルセルロース重層下のベロ細胞のプラークアッセイによって決定した。ショ糖勾配で精製したMPVに対するウサギ高度免疫血清、続いて西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(KPL、Gaithersburg, MD)による免疫染色によって、プラークを視覚化した。結合二次抗体を、ペルオキシダーゼ基質(KPL)とインキュベーションすることにより検出した。各サンプルは2回試験し、その平均値を記録した。
【0181】
インビトロ複製後のRSV Fタンパク質発現の安定性を評価するため、各rMPV-RSV-Fコンストラクトについて4回独立してウイルスを回収し、二重染色プラークアッセイによる分析を行い、RSV-F発現の安定性を決定した。プラークアッセイは、Brock et al. (“Evaluation of pneumonia virus of mice as a possible human pathogen,” J. Virol., 86: 5829-5843 (2012))(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によりすでに記載された通りに設定し、細胞を感染後4日目に80%メタノールを使用して固定した。MPVタンパク質の同定には、上述のウサギ抗rMPVポリクローナル一次抗体を1:5,000で使用し、ヤギ抗ウサギ680 LT抗体(Li-Cor; Lincoln、NE)で検出した。3種のRSV F特異的マウスモノクローナル抗体(1129、1243、1269)の各1:200混合物で、続いてヤギ抗マウス800 CW二次抗体(Li-Cor)によりRSV Fをプローブした。両方の二次抗体は1:800希釈で使用した。プレートをオデッセイ赤外線イメージャー(Li-Cor)でスキャンし、画像を分析してRSV FおよびrMPV抗原を共発現するPFUの百分率を決定した。MPVおよびRSV F抗原がそれぞれ赤および緑に見えるようにプラーク画像を疑似色付けした。2つのチャネルをマージすると、RSV Fを共発現するrMPVプラークは黄色に、RSV Fを発現しないプラークは赤に見える。
図2に示すように、プラークが赤色であったことよりrMPV-empty ベクターではRSV Fの発現がなく、対照的に、rMPV-F1、rMPV-F3、およびrMPV-F4は、チャネルがマージされたとき黄色を示した。
【0182】
図3は、ヒトA549肺上皮細胞におけるrMPV-RSV-Fベクターのマルチサイクル増殖動態を示す。
図4は、ベロ細胞におけるrMPV-RSV-Fベクターのマルチサイクル増殖動態を示す。
【0183】
実施例3
本実施例は、本発明の実施形態のベクターのインビボ安定性を示す。
【0184】
インビボ複製後のRSV-Fタンパク質の発現の安定性を評価するために、以下に記載のアカゲザル研究における鼻咽頭スワブ(nasopharyngeal swab)および気管洗浄(tracheal lavage)サンプルを、上述のプラークアッセイ、続く固定化および二重染色プラークアッセイにより分析した。
【0185】
マルチサイクル複製動態を評価するために、T25フラスコ中のベロ細胞およびA549細胞の複製単層培養物に、0.1PFU/細胞のMOIで各ウイルスを接種し、32℃でインキュベートした。ウイルス接種物を3時間吸着させた後、単層を2回洗浄し、新鮮な培地を補充した。A549の場合は1日目から6日目と8日目と10日目に、Vero細胞の場合は1日目から6日目と8日目に、ウイルスごとおよび細胞タイプごとに、2つの細胞単層をこすり取り上清に撹拌し、遠心分離で清澄化し、凍結した。ウイルス力価は、ベロ細胞のプラークアッセイによって決定した。
【0186】
次に、RSV-FおよびMPVベクタータンパク質の発現を評価した。12ウェルプレート中のベロ細胞単層を、細胞あたり10 PFUのMOIで、rMPV-RSV-Fベクター、空(empty)ベクター、wt rMPV、wt RSVに感染させるか、または偽感染させた。感染後96時間目に感染細胞の画像を取得し、細胞溶解物を調製して、ウエスタンブロッティングによるウイルスタンパク質の発現を調べた。細胞を1×PBSで2回洗浄し、1×NUPAGETM LDSサンプルバッファー(ThermoFisher Scientific)、1×COMPLETETM ULTRAプロテアーゼ阻害剤(Roche, Basel, Switzerland)、およびプロテアーゼフリー水を含む200 μLの細胞溶解バッファーで溶解した。各溶解物をQIAshredderスピンカラム(Qiagen、Valencia, CA)に通して遠心し、ドライアイスで瞬間冷凍した。90μLの各溶解物を10μLの10×還元剤(ThermoFisher Scientific)と組み合わせ、70℃で10分間変性して還元した。1レーン当たり25μLをロードし、SDS-PAGEおよびウエスタンブロットを実施した。rMPV G、N、およびPタンパク質を、ショ糖勾配で精製したMPVビリオンに対して産生された高度免疫血清により検出した。MPV Fタンパク質は、MPV Fタンパク質を発現する組換えワクシニアウイルスに対して産生されたウサギポリクローナル抗血清により検出した。NS1およびNS2は、それぞれ対応するタンパク質に由来する合成ペプチドTNFDRSDLET(配列番号64)およびSDSEESGDEA(配列番号65)に対する個別に産生されたウサギ高度免疫血清により検出した。RSV Fは、Liang et al., (“Chimeric bovine/human parainfluenza virus type 3 expressing respiratory syncytial virus(RSV) F protein : effect of insert position on expression, replication, immunogenicity, stability, and protection against RSV infection,” J. Virol. (88): 4237-4250 (2014)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によって記載されるようにモノクローナル抗体でプローブした。マウスモノクローナル抗チューブリン抗体(ThermoFisher Scientific、カタログ番号A-11126)を使用して、ローディングコントロールとしてチューブリンを検出した。赤外線色素と結合した、対応する種特異的二次抗体(Li-Cor)により一次抗体を検出した。オデッセイ赤外線イメージングシステムでメンブレンをスキャンした。IMAGESTUDIOTM Lite、バージョン5.2.5(Li-Cor)を使用して、バンドシグナル値を取得し、バックグラウンド補正を行った。
【0187】
図5に示すように、wt RSV、rMPV-F1、rMPV-F3、およびrMPV-F4感染細胞は、ウイルス感染の明らかな兆候を示す。偽感染およびrMPV-empty感染細胞は、感染の兆候を示さない。
【0188】
図6は、ウエスタンブロットを示し、特に、rMPV-F1、rMPV-F3、およびrMPV-F4(レーン1、2、および3)はすべてRSV Fタンパク質を含むことを示せた(rMPV-empty [レーン4]およびwt MPV [レーン5]は含まなかった)。
図7は、感染細胞におけるRSV Fタンパク質発現のレベルを表す。
図7に示すように、rMPV-F1、rMPV-F3、rMPV-F4、およびwt rRSVはすべて高レベルのRSV Fタンパク質を発現した。
図8は、感染細胞におけるrMPV G、N、P、F、NS1、およびNS2の発現レベルを表す。
図8に示すように、感染細胞は各試験タンパク質を発現し、そのうちのいくつかはFタンパク質挿入の下流にあった。これらの結果は、安定した挿入を示す。
【0189】
実施例4
本実施例は、本発明の一実施形態のベクターがアカゲザルにおいてMPVを弱毒化するのに有効であることを示す。
【0190】
国立衛生研究所国立アレルギーおよび感染症研究所の動物実験委員会は、本明細書に記載の非ヒト霊長類動物実験を承認し、国立アカデミープレスの実験動物の管理および使用に関するガイド(the Guide for the Care and Use of Laboratory Animals, The National Academies Press, Washington, D.C. (2011))の勧告に従って実験を実施した。8匹の若い成体アカゲザル(rhesus macaques)(Macaca mulatta)をテストし、独立したPRNT60アッセイによって、RSVとMPVの両方に対して血清陰性であることを確認した。4匹のサル(macaques)の2つのグループそれぞれに、鼻腔内経路と気管内経路を組み合わせて、L-15培地(ThermoFisher Scientific)で希釈した106PFUのrMPV-F1またはrMPV-F3を含む接種菌液を、部位当たり1.0mLで接種した。別の研究において、rMPVベクターに使用されたものと同じコホートの4匹のアカゲザルに、組換えwt RSV株A2の部位あたり7.0 log10PFUを接種した。4匹の動物はすべてRSVに対して血清陰性であることを事前に検査した。臨床観察を毎日実施した。鼻咽頭(「NP」)スワブを0-10、12、14、21、および28日目に収集した。気管洗浄(「TL」)サンプルは、感染後2、4、6、8、10、12、14、21、および28日目に収集した。ウイルス排出を定量化するために、NPおよびTLサンプルを、上述のようにプラークアッセイによって分析した。免疫原性を評価するために、免疫後0、14、21、および28日目に血清を収集し、PRNT60によってRSVおよびMPV中和抗体について分析した。
【0191】
PRNT60(60%プラーク減少中和試験)を以下のように実施した。RSV-GFPおよびMPV-GFPをそれぞれ使用してVero細胞でPRNT60アッセイを実施することにより、血清サンプルのRSVおよびMPV中和抗体価を分析した。rMPV-F1、-F3、またはwt RSVで免疫した12匹の動物のすべての血清のRSV中和抗体レベルを、同じ実験中で並行して分析した。使用前に、血清サンプルを56℃で30分間インキュベートし、血清補体を不活性化した。次に、血清の段階希釈液を、等量の希釈RSV-GFPまたはMPV-GFPと混合し、37℃で30分間インキュベートした。10%のモルモット補体(guinea pig complement)(Lonza, Walkersville, MD)の存在下で、RSV中和アッセイを実施した。補体はウイルスを不活性化するので、MPV中和アッセイから補体を排除した。感染後6日目に、Typhoonイメージャー(GE Healthcare, Piscataway, NJ)でスキャンしてRSV-GFPおよびMPV-GFPプラークの画像を取得し、PRNT60を計算した。各サンプルを2回ずつ試験し、その平均値をLog2PRNT60として記録した。
【0192】
【0193】
10日後の時点で検出可能なウイルスはなく、表示していない。検出下限は0.7 log10PFU/mLであった。ウイルスが検出されなかったサンプルを「---」で表す。「排出日(Days of shedding)」は、ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間を示し、その間の陰性の日(がある場合)を含む。
【0194】
【0195】
8日後の時点で検出可能なウイルスはなく、表示していない。ウイルスが検出されなかったサンプルを「---」で表す。検出下限は0.7 log10 PFU/mLであった。「排出日#(#of days shedding)」は、ウイルスが検出された最初の日から最後の日までの期間を示し、その間の陰性の日(がある場合)を含む。
【0196】
【0197】
鼻腔内免疫後の表示された日に収集した鼻咽頭スワブおよび気管洗浄サンプルを、ベロ細胞における蛍光二重染色プラークアッセイによって分析し、インビボウイルス複製中にRSV FおよびMPV抗原を共発現するウイルスPFUの割合を決定した。これらのパーセント値は、サンプルあたり約100個のプラークから決定した。ウイルスが検出されなかったサンプルを「---」で表す。サンプルを収集しなかった日を「nc」で示す。
【0198】
【0199】
RSV PRNT60アッセイの検出下限は3.3であった(log2 60%力価)。log2PRNT60値が5.3以上のRSV血清サンプルを陽性とみなした。
【0200】
【0201】
(PRNT60)アッセイの検出下限は3.3であった(log2 60%力価)。log2PRNT60値が5.3以上のMPV血清サンプルを陽性とみなした。
【0202】
表2~6に示すように、両ウイルス(rMPV-F1およびrMPV-F3)は、上気道および下気道では低レベルで複製してRSV F発現を安定的に維持した。そして、wt RSVが5~25倍高い力価にまで複製する際に誘発されるのと同じ高いレベルで、RSV中和血清抗体を誘導した。本研究によって、rMPVが、RSV非感染およびRSV既感染の集団への適用の可能性を有する、RSV Fタンパク質の発現用に、高度に弱毒化したが、依然免疫原性のあるベクターを提供することが示された。
【0203】
本明細書において引用した刊行物、特許出願、および特許を含むすべての参考文献は、各参考文献が個別に、具体的に、参照により取り込まれることが示されているのと同程度に、かつ全体が本明細書に記載されているのと同程度まで、参照することにより本明細書に取り込まれる。
【0204】
本発明を説明する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈)における用語「a」および「an」および「the」および「少なくとも1つ」ならびに同様の指示対象の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、単数形と複数形の両方を含むものとして解釈される。1以上の項目の列記が続く、用語「少なくとも1つ」の使用(例えば、「少なくとも1つのAおよびB」)は、本明細書に別段の記載がない限り、または文脈によって明確に矛盾しない限り、列記された項目(AまたはB)から選択された1つの項目、または列記された項目(AおよびB)の2以上の任意の組み合わせを意味するものとして解釈される。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含む(containing)」という用語は、特に明記しない限り、制限のない用語(open-ended terms)(すなわち、「含むが、これに限定されない(including, but not limited to)」を意味する)として解釈される。本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に別段の指示がない限り、単に範囲内の各別個の値を個別に指す簡略方法として役立つことを意図しており、本明細書において個々の値はそれぞれ個別に列挙されているかのように、明細書に取り込まれる。本明細書中に記載されたすべての方法は、本明細書中で別段の指示がない限り、または特に文脈によって明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意のおよびすべての例、または例示的な言語(例えば、「等(such as)」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特段特許請求されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中のいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠であるとして、特許請求されていない任意の要素を示すものと解釈するべきではない。
【0205】
本発明を実施するために発明者が知るベストモードを含む、本発明の好ましい実施形態が、本明細書に記載される。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の記載を読むことで当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜使用することを予測し、本発明者らは本発明が本明細書に具体的に記載されたものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は適用法によって許容されるように、本明細書に添付した特許請求の範囲に記載された主題のすべての改変および均等物を含む。さらに、本明細書中で別段の指示がない限り、または特に文脈により明確に矛盾しない限り、それらのすべての可能な変形における上記要素の任意の組み合わせが本発明に包含される。
【配列表】