IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スイエ ソシエテ アノニムの特許一覧

特許7371095酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用
<>
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図1
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図2
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図3
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図4
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図5
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図6
  • 特許-酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】酸化グラフェングラフト型PBO(Zylon(登録商標))繊維、その製造方法、並びに飛行船船体及び空気よりも軽いビークルへの適用
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/74 20060101AFI20231023BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20231023BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20231023BHJP
   B64B 1/58 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
D06M11/74
D06M15/41
B32B5/02 A
B64B1/58
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021529458
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 EP2019082458
(87)【国際公開番号】W WO2020109247
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】62/771,224
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520483718
【氏名又は名称】スイエ ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】ミッケル ベスタガード フランセン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド キム
(72)【発明者】
【氏名】トビン フィレター
(72)【発明者】
【氏名】サディープ パランバス ムンダヨダン
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113293614(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103820996(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108486861(CN,A)
【文献】国際公開第2022/233626(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103014901(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0049403(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1734895(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-16/00
D06M19/00-23/18
B32B1/00-43/00
B64B1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐UV劣化性が高められたPBO繊維を製造する方法であって、PBO繊維上に被膜を提供することを含み、前記被膜が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドとの重合によって架橋された酸化グラフェンを含む、耐UV劣化性が高められたPBO繊維を製造する方法。
【請求項2】
前記被膜が、脱イオン水中で分散され且つmM比1:2のレゾルシノール及びグルタルアルデヒドで処理された酸化グラフェンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記被膜が、脱イオン水中で分散され且つ11mMのレゾルシノール及び22mMのグルタルアルデヒドを含有する溶液で処理された酸化グラフェンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維。
【請求項5】
強化用繊維層を含む積層材料であって、前記強化用繊維層が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維を含む、積層材料。
【請求項6】
繊維層を含む飛行船船体であって、前記繊維層が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維を含む、飛行船船体。
【請求項7】
ハルを含む、空気よりも軽いビークルであって、前記ハルがガスバリア・耐荷重構造として積層材料を含み、前記積層材料が強化用繊維層を含み、前記強化用繊維層が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維を含む、空気よりも軽いビークル。
【請求項8】
光、UV線に対する暴露、又は化学反応によって生じるPBO繊維の劣化を低減するための、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PBO(Zylon(登録商標))繊維上の酸化グラフェン被膜、このような被膜付き繊維の製造方法、このような被膜を有するPBO繊維、このような繊維を有する飛行船船体、及びこのような繊維を含有するハルを備えた、空気よりも軽いビークルに関する。
【背景技術】
【0002】
Zylon(登録商標)は、熱硬化性液晶ポリオキサゾールである合成ポリマー材料の商品名である。これは1980年代に発明され、東洋紡株式会社(登録商標)によって現在製造され市販されている。Zylon(登録商標)繊維は、化学名がポリ(p-フェニレン-2,6-ベンゾビスオキサゾール)であることからPBO繊維と一般に呼ばれている。
【0003】
この材料は重量に対して顕著な強度を有しており、例えばJournal of Aircraft Vol. 45, No. 5, Sept-Oct. 2008においてMaekawa 及びYoshinoによって発表された論文“Tear propagation of a High-performance Airship Envelope Material(高性能飛行船外皮材料の引き裂き伝播)”において、飛行船のための材料として提案されている。この論文中に報告されているように、PBOはPBOをベースファブリックとして備えた積層体内に使用された。
【0004】
他の商業的に入手可能な高性能繊維と比較してPBOが高い比強度を有することとは別に、PBOはクリープ伸びに対する高い抵抗をも有しており、ひいては飛行船のための軽量高強度積層材料における繊維強化のために特に有用である。このことは、2005年9月26~28日ヴァージニア州アーリントンにおけるAIAA 5th Aviation, Technology, Integration, and Operations Conference (ATIO)の寄稿としてthe American Institute of Aeronautics and Astronauticsによって発表された論文“Material Challenges for Lighter-Than-Air Systems in High Altitude Applications(高高度用途における空気よりも軽いシステムのための材料の取り組み)”においてZhai及びEulerによって論じられている。
【0005】
しかし、PBOは、原子酸素によって極めて劣化しやすいことも知られており、したがって成層圏内の高高度飛行船のための材料として使用される場合、原子酸素に晒されるときには保護されなければならない。このことは、Composites Science and Technology Vol. 106, 16 January 2015の第32~38頁においてChen他によって発表され、下記インターネットページhttp://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0266353814003832上に見いだされる論文“Grafting of silane and graphene oxide onto PBO fibers: Multifunctional interphase for fiber/polymer matrix composites with simultaneously improved interfacial and atomic oxygen resistant properties(PBO繊維上へのシラン及び酸化グラフェンのグラフト処理:界面特性及び耐原子酸素特性が同時に改善される繊維/ポリマーマトリックス複合体のための多官能中間相)”において論じられている。この論文では、PBO繊維と、酸化グラフェン(GO)及びシランを含有する被膜とを架橋するためにAPTMSが使用された。ここには「PBO-APTMS-GOは界面剪断強度(IFSS)と耐AO侵食性とを同時に際立って向上させることを示した」と記載されている。上記著者らはまた中国特許出願CN103820996号を出願しており、リチウムアルミニウムヒドリド-ジエチルエーテルによってPBO繊維を処理することによる、PBO繊維のヒドロキシル官能処理を開示している。さらにPBO上のグラフェンナノリボン被膜がCN105908489号に開示されている。
【0006】
PBOの別の不都合な点は、UVによるだけでなく可視光によっても生じる急速な光劣化である。湿分及び酸素の存在は光劣化を加速することが判っている。http://www.toyobo-global.com/seihin/kc/pbo/zylon-p/bussei-p/technical.pdfとしてインターネット上で入手可能な、「Pro fiber ZYLON(登録商標)」と呼ばれる東洋紡技術情報パンフレット(2005年6月改訂)には、キセノン光気候オーム計を使用して耐候性を評価したことが記載されている。材料強度は初期暴露段階時に鋭く減少し、これはアラミド繊維の比較研究におけるよりも大きかった。試験結果は、6ヶ月間の昼光暴露後の残留強度が約35%であることを示し、このような理由から、屋外使用のためのPBOは被覆材料によって保護しなければならないと結論付けられる。
【0007】
これらの理由から、高い強度及び低いクリープという明白な利点があるにもかかわらず、成層圏飛行船のために使用する場合にはこの繊維材料には他の困難が伴う。成層圏では光度が高く、環境は化学的に高反応性である。PBOを高高度飛行船の船体(ハル)のために使用する目的で、成層圏内のPBOの耐光劣化性及び耐反応ガス性をより高くする方法を提供することが望ましい。
【0008】
飛行船の場合、飛行船のための別の重要な特徴である気密性の増大のためにフッ素化酸化グラフェンがUS9598165号において提案されている。気密性はまた、種々の熱可塑性繊維のグラフェン被膜に関してEP2719219号においても主題となっている。しかしながら、気密性及び耐原子酸素性に関して利点をもたらすにもかかわらず、酸化グラフェンはCN102173145Bにおいて、良好な透明性を有すると報告されており、このことにより、酸化グラフェンは光劣化に対してPBOを保護するための良い候補とはならない。したがって、ファブリックのUV保護のために、CN105088793は酸化亜鉛と酸素化グラフェンとを混合することを提案し、CN106087396は良好な機械特性及び良好な抗UV性能のために、酸化グラフェンスラリーをポリスルホンアミド上に焼き付けることを提案している。アラミド繊維の場合、繊維をグラフェン被膜と合体させた状態でドーパミン改質することによって、耐UV性が得られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、従来技術を改善することである。特に、PBO繊維の耐光性を改善することが目的である。より具体的には、高高度飛行船のための船体材料を提供することが目的である。この目的は下記の方法及び生成物によって達成される。
【0010】
PBO上の酸化グラフェン(GO)の単純な被膜は、光及びUV及びオゾンによる劣化に対してPBOを十分に又は申し分なしに保護しないことを、本発明者は見出した。より厳密な研究により、凹凸のある表面被膜だけでなく、光が繊維まで透過して繊維を劣化させ得る被膜内の開口も明らかになった。さらに、単にGOを含む被膜というだけでは、十分な光保護を可能にしないことも明らかになった。GO被膜があるにもかかわらず透明性が良好であることについて上述のCN102173145Bを念頭に置くと、このことは驚くべきことではない。しかしながら、PBOの被覆前又は被覆中に錯体分子でGOを顕著に架橋すると、光及びUVの劣化に対する保護力が高められることを発明者は見出した。
【0011】
驚くべきことに、GOの3D構造のために開発された方法が、このような架橋並びに被覆処置に適すると考えられた。GOの3D被覆方法が、ACS Nano Vol. 7 No. 8, 7034-7040, 2013においてSudeep他(発明者の一人)によって発表された論文「Covalently Interconnected Three-Dimensional Graphene Oxide Solids(共有相互結合された三次元酸化グラフェン固形物)」に開示されている。上記論文は参照することにより本明細書中に援用される。論文はhttp://pubs.acs.org/doi/ipdf/10.1021/nn402272uでインターネット上で入手することができる。
【0012】
酸化グラフェンGOをグルタルアルデヒドGAD及びレゾルシノールResの群で架橋することによって、PBO表面上に三次元構造が形成された。結果として生じる被膜は、他の点では不活性のPBO表面に対する適切な付着性を有し、そしてPBOを劣化に対して保護するのに十分に厚い一様な寸法厚を有した。
【0013】
念のために述べるならば、ホルムアルデヒドの代わりにグルタルアルデヒドを使用することの利点は性能がより良いことである。加えて、ホルムアルデヒドの毒性は物質を魅力のないものにする。それというのも典型的な製造施設はこのような毒性材料の使用を受け入れないからである。
【0014】
被膜のための乾燥した環境はより良好な付着性及び安定性をもたらすことが判っている。GOは被膜内又は繊維表面上の湿分を取り込む傾向があり、その結果被膜の品質が低下すると考えられる。これは、湿分がGO安定性を改善する傾向があることを考えると、驚くべき発見であった。乾燥した製造環境はまたPBO材料自体にも有用である。それというのもPBO材料は湿分に対して鋭敏であるからである。PBOに対する湿分の影響はまた、製造施設にだけではなく、飛行船のために使用する場合には被覆される材料にも注意を払うことを必要とする要因である。それというのも、飛行船は成層圏内にない限りは、大気中の湿気に晒されるからである。例えば、被覆中の環境内の湿気は空気1kg中2グラム未満の水蒸気、例えば1g/kg未満、又は0.5g/kg未満の水蒸気である。これは、空気が典型的には空気1kgあたり0.3gの水蒸気を含有する成層圏と比較される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は下記の方法及び生成物によって達成される。
【0016】
耐UV・オゾン劣化性が高められたPBO繊維を製造する方法であって、PBO繊維上に被膜を提供することを含み、前記被膜が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドとの重合によって架橋された酸化グラフェンを含む、耐UV・オゾン劣化性が高められたPBO繊維を製造する方法。
【0017】
PBO繊維の光劣化を低減する方法であって、前記PBO繊維に被膜を被着することを含み、前記被膜が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドとの重合によって架橋された酸化グラフェンを含む、PBO繊維の光劣化を低減する方法。
【0018】
レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維。
【0019】
強化用繊維層を含む積層材料であって、前記強化用繊維層が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維を含む、積層材料。
【0020】
繊維層を含む飛行船船体であって、前記繊維層が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維を含む、飛行船船体。
【0021】
ハルを含む、空気よりも軽いビークルであって、前記ハルがガスバリア・耐荷重構造として積層材料を含み、前記積層材料が強化用繊維層を含み、前記強化用繊維層が、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維を含む、空気よりも軽いビークル。
【0022】
光、UV線、又はオゾン線に対する暴露、又は化学反応によって生じるPBO繊維の劣化を低減するための、レゾルシノール及びグルタルアルデヒドで架橋された酸化グラフェンを被覆されたPBO繊維の使用。
【0023】
図面を参照しながら本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、GOのRes-GAD架橋及びPBO繊維の改質を示す図である。
図2図2は、UV暴露時間に応じた、種々のPBO繊維被膜に対するZylon(登録商標)単一フィラメントの強度測定を示す図である。
図3図3は、UV暴露時間に応じた、種々のPBO繊維被膜に対するZylon(登録商標)単一フィラメントの強度保持率をパーセンテージで示
図4図4は、UV暴露時間に応じた、測定されたZylon(登録商標)単一フィラメントの抵抗力試験値をニュートンで示す図である。
図5図5は、高光度暴露時間を成層圏内のUV暴露推定時間に変換した、図4の試験値を示す図である。
図6図6は、オゾン暴露時間に応じたPBO Zylon(登録商標)単一フィラメントの強度を示す図である。
図7図7は、オゾン暴露時間に応じたPBO Zylon(登録商標)単一フィラメントの強度保持率をパーセンテージで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、酸化グラフェンGOをグルタルアルデヒドGAD及びレゾルシノールResの群で架橋することを示す。架橋は、PBO繊維上への被覆プロセスの被覆プロセス前又は被覆プロセス中に三次元構造を形成する。
【0026】
GO及び架橋型GOの合成は、ACS Nano Vol. 7 No. 8, 7034-7040, 2013においてSudeep他(発明者の一人)によって発表され、http://pubs.acs.org/doi/ipdf/10.1021/nn402272uでインターネット上で入手し得る論文「Covalently Interconnected Three-Dimensional Graphene Oxide Solids(共有相互結合された三次元酸化グラフェン固形物)」に記載されているものと同様に実施した。
【0027】
GOの合成
酸化グラフェンを以下のように合成した。濃HSO/HPO(360:40mL)の9:1の混合物を、片状黒鉛(3.0g、1当量)とKMnO(18.0g、6当量)との混合物に添加した。次いで反応体を50℃まで加熱し、12時間にわたって撹拌した。反応物を室温まで冷却し、30% H(3mL)を含む氷上に注いだ。次いで材料を200mLの水、200mLの30% HCl、及び200mLのエタノールで連続して洗浄した(2回)。この複数回洗浄プロセス後に残留する材料を200mLのエーテルで凝集させ、そして結果として生じた懸濁液を孔径0.22μmのPTFE膜上で濾過した。
【0028】
GOの架橋
乾燥GOを脱イオン水(5mg/mL)中に分散し、レゾルシノール(11mM)及びグルタルアルデヒド溶液(22mM)で処理した。結果として生じた粘性流体様材料及び溶液を3時間にわたって超音波処理した。
【0029】
試験に使用されるPBO繊維のために、Zylon(登録商標)マルチフィラメントを購入し、被覆のためにこれから単一フィラメントを取り出した。このようなフィラメントの直径は12μmであった。
【0030】
第1試験では、フィラメントを溶液中に浸漬し、次いでフィラメントを乾燥させることにより、材料をPBO単一フィラメントに被覆した。
大量生産のためには、スプレー被覆がより実現しやすい方法のように思われる。
【0031】
UV照射のために、Dinies社(http://shop.dinies.com/product_info.php?info=p96_uv-chamber-m1.html参照)の装置、つまり照射物上へ365nmのUVA光を提供する195x190mmのUVA照射源を備えたUVチャンバM1を使用した。繊維の場所におけるUVA放射線の強度は1900W/m2であった。
【0032】
図2は、UV暴露時間に応じた、種々のPBO被膜に対する強度測定を示す図である。
【0033】
試験に際してはPBO単一フィラメントの4つの状態を用いた。4つの曲線のうちの最も下側の曲線は、プリスティン(被覆されていない)PBO繊維に関する。測定されたデータを東洋紡社からの同様のデータと比較し、データ間に一致を見出した。このことは結果が信頼し得ることを証明する。
【0034】
架橋型GOを有する被膜は、PBO繊維の耐UV性を著しく改善した。被覆を5回及び30回繰り返すことによりさらなる改善を達成することができた。被覆を繰り返すことによる改善は、被覆層がより厚くなることに起因するだけではなく、1つの層内の欠陥を後続の層によってカバーし、その結果より均質な被膜、ひいてはより良好な保護がもたらされることにも起因する。
【0035】
プリスティンPBO繊維と同じ強度低下に達する前の、被膜付きPBO繊維の暴露時間は約100倍長かった。そして300時間の暴露後、被膜付きPBO繊維の強度は、プリスティン繊維の約2倍であった。
【0036】
図3は、UV暴露時間に応じた、種々の繊維状態の強度保持率をパーセンテージで示す図である。強度保持率は架橋型GOを被覆されたPBO単一フィラメントが最高であったことが観察される。多重の被膜は単一の被膜よりも際立った効果を有した。
【0037】
図4は、破断までに加えなければならなかった力をニュートンで示す図である。架橋型GOを被覆されたPBO単一フィラメントの場合、力は被膜数に応じて2~3倍の高さであった。
【0038】
図5は、暴露時間(hr)を成層圏内で予測される推定暴露時間に変換した、試験値を時系列で示す図である。概ね、ランプによる10時間の暴露は成層圏内の1週間の暴露に相当する。30層被膜は単一フィラメントの場合33週間後に、その製造状態と比較して約3分の1の力に耐え得るように安定性を維持し、プリスティンPBOよりも3倍超良好であることが観察される。
【0039】
図6は、オゾン暴露時間に応じた種々のPBO被膜の強度測定を示す図である。暴露中のオゾンの濃度は18ppmであった。この研究は、オゾン暴露がPBO単一フィラメントの強度劣化に著しい影響を有することを示している。架橋型GOを被覆された改質単一フィラメントは遮蔽効果が向上した。その結果、プリスティンPBO単一フィラメントと比較して100時間のオゾン暴露後に3倍高い強度をもたらした。
【0040】
図7は、プリスチン単一フィラメント及び架橋型GOを被覆された単一フィラメントの、18ppmのオゾンに暴露したときの強度保持率をパーセンテージで示す図である。これは、架橋型GOを被覆されたPBO単一フィラメントが、100時間のオゾン暴露後に3倍高い強度保持率を有したことを示す。
【0041】
単一フィラメント上の試験は、十分に定義された平滑な表面を有するように行った。しかしながら、被膜付きPBOマルチフィラメント、例えばZylon(登録商標)マルチフィラメント繊維に対する結果はより良好であると考えられる。なぜならば、被膜は、平滑さが少ない表面により良好に付着するからである。さらに、フィラメントのうちの1つの、1つの位置における潜在的な弱さは、他のフィラメントの当該位置における強さによって補償することができるので、弱くなったフィラメントの断裂のリスクは、試験のような単一フィラメントよりもフィラメント束における方が低い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7