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特許7371108希土類拡散磁石の製造方法と希土類拡散磁石
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  • 特許-希土類拡散磁石の製造方法と希土類拡散磁石 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】希土類拡散磁石の製造方法と希土類拡散磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20231023BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20231023BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231023BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
C22C38/00 303A
C23C14/34 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021545306
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 CN2019074467
(87)【国際公開番号】W WO2020155113
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】521341477
【氏名又は名称】天津三環楽喜新材料有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】515173183
【氏名又は名称】北京中科三環高技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING ZHONG KE SAN HUAN HI-TECH CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】27/F,Building A,No.66 East Road,Zhong Guan Cun,Haidian District,Beijing 100190,China
(73)【特許権者】
【識別番号】521341488
【氏名又は名称】寧波科寧達工業有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李志学
(72)【発明者】
【氏名】董広楽
(72)【発明者】
【氏名】李紹芳
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/032667(WO,A1)
【文献】特開2005-294558(JP,A)
【文献】国際公開第2011/007758(WO,A1)
【文献】特開2004-304038(JP,A)
【文献】特開2012-039100(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002170(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/100968(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/102391(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108417380(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057、41/02
C22C 38/00
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップA.基材に第一ターゲット材をスパッタリングし、前記基材の表面に第一めっき層を形成し、前記第一ターゲット材の組成は、質量パーセントでRH-RL-Mであり、ただし、RHがDy、Tb、またはHoの1つ以上であり、RHはDyまたはTbの少なくとも1つを含み、RLはNd、Pr、Ce、La、およびYの1つ以上であり、RLはNdまたはPrの少なくとも1つを含み、MはCo、Cu、Ga、Ag、SnまたはAlの少なくとも1つの元素であり、yは25~28wt%であり、zは0~20wt%であり、xは(100-y-z)wt%であり、前記基材は焼結NdFeB磁石であるステップと、
ステップB.スパッタリングされた基材に対して拡散処理を行い、希土類拡散磁石を得るステップとを
含むことを特徴とする希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項2】
zが0~12wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項3】
前記第一めっき層の厚さが2~20μmであることを特徴とする、請求項1に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項4】
前記ステップAにおいて、第一ターゲット材をスパッタリングした後、第二ターゲット材をスパッタリングして、前記第一めっき層に第二めっき層が形成され、前記第二ターゲット材の組成は、Cr、Ti、W、Mo、Si、AlまたはZrOの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項5】
前記第二めっき層の厚さが0.1~6μmであることを特徴とする、請求項4に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項6】
前記ステップAの前に前記基材の製造をさらに含み、前記基材の製造は
原材料の溶解と急速な凝固により、合金フレークが作られること、
前記合金フレークに対して水素破砕およびジェットミル処理を行って、合金粉末を得ること、
前記合金粉末を磁場でプレスしてプレス成形体を得ること、
前記プレス成形体を焼結炉に入れて焼結し、焼結磁石を得ること、および
前記焼結磁石をスライス加工して、前記基材を得ることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項7】
前記合金フレークの厚さが0.15~0.5mmであることを特徴とする、請求項6に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項8】
前記基材の厚さが1~10mmであることを特徴とする、請求項6に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
【請求項9】
前記拡散処理が以下の一次熱処理及び二次熱処理を含むことを特徴とする、請求項1に記載の希土類拡散磁石の製造方法。
一次熱処理:800~1000℃で2~18時間の保温
二次熱処理:450~600℃で3~8時間の保温
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石の製造に関し、特に、希土類拡散磁石の製造方法と希土類拡散磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結NdFeB磁石は優れた磁気特性を持ち、電子情報、自動車工業、医療機器、エネルギー交通等の多くの分野で広く使用されている。近年、風力発電、省エネ家電、新エネルギー自動車など、省エネや環境保護の分野で新たな用途がある。結晶粒界拡散の方法で、重希土類元素を磁石の結晶粒界と主相結晶粒のエッジ領域に拡散させる。これにより、残留磁気と磁気エネルギー積を著しく低下させずに、磁石の異方性磁場を増加させるという目的を達成できる。
【0003】
既存の希土類磁石の製造方法は、連続パス式マグネトロンスパッタリング装置を使用して、磁石の表面にDy、Tbなどの重希土類金属をスパッタリングし、スパッタリング層の厚さおよび均一性を効果的に制御し、結晶粒界拡散技術による磁石の迅速かつ連続的な作製を実現することができる。しかしながら、この方法は、スパッタリング中にDy/Tbターゲットを迅速に消費し、重希土類は高価であり、それは磁石の製造コストを増加させる。
【0004】
別の方法では、複合ターゲット材の化学気相成長により、結晶粒界拡散の希土類永久磁石材料を製造する。複合ターゲット材の堆積、中高温処理、および低温時効処理により、磁石の保磁力は明らかに改善され、残留磁気と磁気エネルギー積は基本的に減少しない。複合ターゲット材は磁石の性能を向上させることができるが、発明者は、複合ターゲットの拡散過程で磁石の内部に元々存在している軽希土類元素が濃度の差により表面に拡散し、磁石の表面に希土類リッチ層を形成していることを発見した。このような希土類リッチ層は酸化しやすく、磁石の耐食性を劣化させる。
【発明の概要】
【0005】
上記の問題を解決するために、本発明は、希土類拡散磁石の製造方法と希土類拡散磁石を提供し、スパッタリングめっき層中のRLの含有量を制御し、得られた希土類拡散磁石は、高い総合磁気特性と優れた耐食性を有する。
【0006】
本発明の実施形態は以下のステップを含む、希土類拡散磁石の製造方法を提供する:
ステップA.第一ターゲット材を基材にスパッタリングし、前記基材の表面に第一めっき層を形成し、前記第一ターゲット材の組成は、質量パーセントでRHx-RL-Mである。ただし、RHがDy、Tb、またはHoの1つ以上であり、RHはDyまたはTbの少なくとも1つを含み、RLはNd、Pr、Ce、La、およびYの1つ以上であり、RLはNdまたはPrの少なくとも1つを含み、MはCo、Cu、Ga、Ag、SnまたはAlの少なくとも1つの元素であり、yは22~28wt%であり、zは0~20wt%であり、xは(100-y-z)wt%であり、前記基材は希土類磁石であるステップと、
ステップB.スパッタリングされた基材に拡散処理を行い、希土類拡散磁石を得るステップ。
【0007】
好ましくは、前記希土類拡散磁石の製造方法において、yは25~28wt%であり、zは0~12wt%である。
【0008】
前記希土類拡散磁石の製造方法において、前記第一めっき層の厚さは2~20μmである。
【0009】
前記希土類拡散磁石の製造方法の前記ステップAでは、第一ターゲット材がスパッタリングされた後、第二ターゲット材をスパッタリングして、前記第一めっき層上に第二めっき層を形成し、前記第二ターゲット材の組成はCr、Ti、W、Mo、Si、AlまたはZrOの少なくとも1つである。
【0010】
本発明の好ましい実態形態として、前記第二めっき層の厚さは0.1~6μmである。
【0011】
上記の希土類拡散磁石の製造方法では、前記ステップAの前に、さらに前記基材の製造を含み、前記基材の製造は、原材料の溶解と急速な凝固によって合金フレークが作られること、前記合金フレークに対して水素破砕およびジェットミル処理を行い、合金粉末を得ること、前記合金粉末を磁場でプレスしてプレス成形体を得ること、前記プレス成形体を焼結炉に送って焼結させて焼結磁石を得ること、および前記焼結磁石をスライス加工して前記基材を得ることを含む。
【0012】
上記の希土類拡散磁石の製造方法において、前記合金フレークの厚さは0.15~0.5mmである。
【0013】
上記の希土類拡散磁石の製造方法では、前記基材の厚さは1~10mmである。
【0014】
上記の希土類拡散磁石の製造方法において、前記拡散処理は、一次熱処理:800~1000℃で2~18時間の保温と、二次熱処理:450℃~600℃で3~8時間の保温とを含む。
【0015】
本発明はまた、前記希土類拡散磁石の製造方法で作成された希土類拡散磁石を提供する。
【0016】
本発明の希土類拡散磁石の製造方法およびに希土類拡散磁石において、めっき層中のRL元素の含有量は、基材中のRL元素の含有量に近く、拡散する際に、重希土類元素が基材中に入るが、基材内のRL元素は表面に濃化されないため、希土類拡散磁石の表面に希土類リッチ層は形成されず、希土類拡散磁石の耐食性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例に係るスパッタリングされた基材の構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態およびその各利点をよりよく理解できるように、添付の図面および実施例と結合して本発明を実施するための形態をより詳細に説明する。しかしながら、以下に記載される特定の実施形態および実施例は本発明を説明するものにすぎず、本発明を限定するものではない。
【0019】
本発明で言及される「接続」は、他に明確に指定または限定されない限り、広い意味で理解されるべきであり、それは、直接接続されるか、または中間体を介して接続され得る。なお、本発明の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「上端」、「下端」などによって示される方位または位置関係は、添付図面に基づいて示される方位または位置関係である。これは、参照されるデバイスまたは素子が特定の方位を有する必要があることや、特定の方位で構築および操作される必要があることを示したり暗示したりするのではなく、本発明を説明し、説明を単純化するための便宜に過ぎない。このため、これらの記載を本発明の限定として理解すべきではない。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る希土類拡散磁石は、基材1上にスパッタリングしてめっき層を形成し、その後、スパッタリングされた基材に対して拡散処理を行うことにより得られる。前記の基材は希土類磁石である。スパッタリングする際に、基材は第一ターゲット材の下を通過して、基材の表面上に第一めっき層21を形成する。必要に応じて、第一ターゲット材の後に第二ターゲット材を設けて、基材が第一ターゲット材を通過した後、第二ターゲット材をスパッタリングして、第一めっき層21上に第二めっき層22を形成してもよい。第二めっき層22は、希土類拡散磁石の性能をさらに向上させることができる。基材の一つの表面のスパッタリングが完了した後、その後の熱拡散処理を行ってもよく、必要に応じて基材を裏返し、別の表面にスパッタリングした後に熱拡散処理を行ってもよい。一般に、基材のスパッタリングされる2つの表面は相互に反対側になり、スパッタリングされる表面は、基材の磁化方向に垂直な表面である。
【0021】
本発明の実施形態における上記の希土類拡散磁石の製造方法は、基材の製造プロセスを含み得る。基材の製造は、
S1、基材の組成に応じて原材料を配合し、原材料の溶解と急速凝固によって合金フレークを作成し、好ましくは、合金フレークの厚さは、その後の処理を容易にするために0.15~0.5mmであるように制御されるステップ、
S2、合金フレークを水素破砕し、好ましくは、540℃で6時間脱水素を行い、脱水素後の水素含有量を1200ppmにして、中程度に破砕した粉末を得て、中程度に破砕した粉末をジェットミルに入れて細粉を製造し、D50=4.0μmの合金粉末を得るステップ、
S3、合金粉末を磁場内で、好ましくは磁場強度1.8Tでプレスして、プレス成形体を得るステップ、
S4、プレス成形体を焼結炉に入れて焼結し、好ましくは、焼結温度が1000℃であり、保温時間が6hであり、焼結磁石を得るステップ、
S5、焼結磁石の表面を酸洗いして脱脂し、次にスライス加工して基材を得るステップを含む。
基材の厚みは1~10mmであることが好ましい。
【0022】
基材が得られた後、基材に対して後続処理を実行して、希土類拡散磁石を得た。具体的なステップは次のとおりである。
【0023】
ステップA.基材に対してスパッタリングする。好ましくは、スパッタリング条件は次のとおりである。温度が100~200℃であり、単位面積当たりの堆積圧力はアルゴンガス条件で1~30Paとし、スパッタリングゾーンを通過する基材の速度が0.01~1.0m/sであり、スパッタリングのターゲット材と基材の上面との垂直距離は10~200mmである。
【0024】
基材は第一ターゲット材の下を通過し、第一ターゲット材のスパッタリングを実行して、第一めっき層が基材の表面に形成される。第一ターゲット材の組成は質量パーセントでRHx-RL-Mである。ただし、RHがDy、Tb、またはHoの1つ以上であり、RHはDyまたはTbの少なくとも1つを含み、RLはNd、Pr、Ce、La、およびYの1つ以上であり、RLはNdまたはPrの少なくとも1つを含み、MはCo、Cu、Ga、Ag、SnまたはAlの少なくとも1つの元素であり、yは22~28wt%であり、zは0~20wt%であり、xは(100-y-z)wt%であり、基材は希土類磁石である。この実施形態では、zは0であってもよい、すなわち、第一ターゲット材はMを含まない。
【0025】
ステップB.スパッタリングされた基材に拡散処理を行い、希土類拡散磁石を得る。好ましくは、拡散処理は、一次熱処理:800℃~1000℃で2~18時間の保温、二次熱処理:450℃~600℃で3~8時間の保温を含む。
【0026】
基材の表面に重希土類めっき層をスパッタリングした後、拡散源である重希土類めっき層について高温で拡散処理を行い、拡散源中の希土類を基材の結晶粒界相と主相へ拡散させる。拡散過程では、めっき層中のRH元素が結晶粒界に沿って拡散し、主相中のRL元素が置換され、主相の結晶粒の周りにコアシェル構造が形成される。主相の中でRL元素が置換された後、主相の結晶粒界に拡散した。基材の表層の希土類と濃度勾配が形成されると、結晶粒界相の中のRL元素が基材の表面へ拡散する。この実施形態では、拡散源中のRL元素の含有量は、基材の内部のRL元素に比較的近い。拡散する際に、拡散源中の重希土類は、基材の内部との濃度の差が依然として存在しているので、基材の内部に拡散し続ける。拡散源中のRL元素の濃度と基材の内部の濃度との差が小さいため、基材内の軽希土類元素が表面に拡散して希土類リッチ層を形成する駆動力が抑制されたので、基材の表面に希土類リッチ層は形成されない。これにより、希土類拡散磁石の耐食性が向上する。ターゲット材に含まれるRL元素の含有量が多すぎると、重希土類の濃度が低下して、最終的な磁石の固有保磁力Hcjの改善が十分ではない。また、RL元素の含有量が少なすぎると、基材内のRL元素の表面濃化を抑制するのに十分ではない。ターゲット材は、少量のCuまたはAlまたはCoを含んでもよく、RH元素の金属原子の拡散をさらに加速し、それによって磁石の保磁力を増加させる。基材の組成に応じて、めっき層中のRL元素の含有量は基材中RL元素の含有量よりも少ないように、めっき層の組成を適切に調整することができる。
【0027】
好ましくは、前記希土類拡散磁石の製造方法において、第一ターゲット材のyは25~28wt%であり、zは0~12wt%である。
【0028】
好ましくは、前記第一メッキ層の厚さは2~20μmである。第一めっき層の厚さが薄すぎると、固有保磁力Hcjの増加に影響を与えているが、第一めっき層の厚さが厚すぎると、ターゲット材が無駄になる。
【0029】
上記のステップAにおいて、第一ターゲット材がスパッタリングされた後、基材に対して第二ターゲット材がスパッタリングされて、第一めっき層上に第二めっき層を形成する。第二ターゲット材の組成は、Cr、Ti、W、Mo、Si、AlまたはZrOの少なくとも1つである。
【0030】
第二めっき層は、希土類拡散磁石の耐食性をさらに高めることができ、かつ第二めっき層の被覆により、第一めっき層における希土類元素は、拡散処理を行う際に、揮発による損失が少なくなり、それによって希土類拡散磁石の性能がさらに向上する。好ましい実施形態として、第二めっき層の厚さは0.1~6μmである。
【0031】
(実施例1-1)
希土類拡散磁石の製造プロセスは以下のとおりである。
【0032】
1.原材料の配合
基材C1および第一ターゲット材の組成質量比に従って、それぞれ原材料を配合する。
【0033】
基材C1の組成はNd22.5Pr6.9Dy2.6Co1.0Cu0.1Ga0.12Al0.30.98Febalである。
【0034】
第一ターゲット材の組成はTb68Nd23PrAlである。
【0035】
2.溶解
基材C1の原材料は、溶解され、急速に凝固されて、合金フレークの薄いストリップになり、そのキャスト温度は1380℃であり、合金フレークの厚さは0.2~0.5mmに制御される。
【0036】
第一ターゲット材の原材料を真空溶解炉に入れて真空溶解させる。溶解温度は1050℃、溶解時間は15分、合金インゴットにキャストして、鍛造、熱間圧延、冷間圧延および機械的加工をした後、第一ターゲット材を形成する。
【0037】
3.基材の作製
31.基材C1の合金フレークを水素破砕し、540℃で6時間脱水素を行い、脱水素後の水素含有量を1200ppmにして、合金を中程度に破砕した粉末を得る。中程度に破砕した粉末をジェットミルに入れて、細粉を製造し、D50=4.0μmの合金粉末を得る。
【0038】
32.合金粉末は、磁場内で、好ましく1.8Tの磁場強度で、プレスされて、プレス成形体を得て、プレス成形体の密度は4.3g/cmである。
【0039】
33.プレス成形体を焼結炉に入れて焼結し、焼結温度は1000℃、保温時間は6hであり、焼結磁石を得る。焼結磁石の密度は7.56g/cmである。
【0040】
34.焼結磁石の表面を酸洗いして油を除去し、次にスライス加工して30×17×5mmの基材C1を得る。
【0041】
4.基材に対してスパッタリングする
スパッタリングはメッキ室内で行われ、ターゲット材が第一ターゲット材であり、基材C1が第一ターゲット材の下を通過して、基材の表面に第一めっき層を形成する。第一めっき層の厚さは8μmである。
【0042】
5.スパッタリングされた後の基材C1に対して拡散処理を行い、このプロセスは800℃で18時間保温した後、焼戻し時効処理を500℃で4時間行い、希土類拡散磁石を得る。
【0043】
希土類拡散磁石の磁気性能試験および耐食性試験を実施する。本実施例の希土類拡散磁石の性能を表1に示す。
【0044】
表1における基材サンプル1は、めっき層のスパッタリングと拡散処理を行っていない基材C1のサンプルであり、2段階の焼き戻し時効熱処理を経た後に製造されたものである。その中で、焼き戻しプロセスは次のとおりである。一次焼き戻しプロセスは920℃で2時間の保温であり、二次焼戻しプロセスは500℃で4時間の保温である。
【0045】
耐食性試験の条件:サンプルをPCTエージングテストボックスに入れ、条件を2atm、120℃、100%RHに96時間設定し、耐食性試験を実施する。
【0046】
減量率=(サンプルの初期重量-PCT実験後のサンプルの重量)/サンプルの表面積。
【0047】
(実施例1-2)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材はTb70Nd25Alであり、めっき層の厚さは8μmである。
【0048】
(実施例1-3)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb70Nd25Gaであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0049】
(実施例1-4)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb70Nd25Cuであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0050】
(実施例1-5)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb70Nd25Agであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0051】
(実施例1-6)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb70Nd22CeAlであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0052】
(実施例1-7)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb70Nd22LaAlであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0053】
(比較例1)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じである。スパッタリングのターゲット材は純金属Tbターゲットであり、Tbめっき層の厚さは8μmである。
【0054】
(比較例2)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb80Nd15Alであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0055】
(比較例3)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例1と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はTb55Nd40Alであり、基材C1の表面でのそのスパッタリング厚さは8μmである。
【0056】
【表1】
【0057】
表1において「Br」とは残留磁気であり、「Hcj」とは固有保磁力であり、(BH)maxとは最大磁気エネルギー積であり、「Hk/Hcj」とは角型度である。
【0058】
比較からわかるように、実施例1-1から1-7、比較例1、比較例2、および比較例3で製造された希土類拡散磁石は、基材サンプル1と比較して、Hcjが大幅に増加され、Brがわずかに減少した。耐食性の試験結果によれば、実施例1-1から1-7の希土類拡散磁石の耐食性は、比較例1、比較例2、比較例3で作製した希土類拡散磁石の耐食性よりも高い。実施例1-1から実施例1-7の耐食性と、基材サンプル1の耐食性が近い。これからわかるように、実施例1-1から1-7の希土類拡散磁石には、スパッタリングおよび拡散処理が施されているものの、耐食性が低下していないのに対して、比較例1、2および3の希土類拡散磁石の耐食性は大幅に低下した。
【0059】
(実施例2)
基本的に実施例1のプロセスと同じであるが、次の点が異なる。
【0060】
この実施例の基材C2の組成はNd31Dy0.5Co1.2Cu0.16Al0.40.98Febalである。
【0061】
第一ターゲット材の組成はTb65Pr25Al10である。
【0062】
スパッタリングされた第一めっき層の厚さは6μmである。
【0063】
スパッタリング後の拡散処理は、一次熱処理:1000℃で2時間の保温、二次熱処理:600℃で3時間の保温を含んだ。
【0064】
実施例2の希土類拡散磁石の性能および耐食性試験の結果を表2に示す。
【0065】
表2における基材サンプル2は、めっき層のスパッタリングと拡散処理を行っていない基材C2のサンプルであり、2段階の焼き戻し時効熱処理を経た後に調製されたものである。この焼き戻しプロセスは次のとおりである。一次焼き戻しプロセスは1000℃で2時間の保温であり、二次焼戻しプロセスは600℃で3時間の保温である。
【0066】
(実施例3)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例2と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はDy65Pr25Sn10であり、基材C2の表面でのそのスパッタリング厚さは6μmである。
【0067】
(実施例4)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、基本的に実施例2と同じであるが、スパッタリングのターゲット材の組成はDy35Tb25Pr25Cu15であり、基材C2の表面でのそのスパッタリング厚さは6μmである。
【0068】
(実施例5)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、実施例2と基本的に同じであり、スパッタリングのターゲット材の組成はTb60HoPr22Al10であり、基材C2の表面でのそのスパッタリング厚さは6μmである。
【0069】
(実施例6)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、実施例2と基本的に同じであり、スパッタリンのグターゲット材の組成はTb66Pr20Co12であり、基材C2の表面でのそのスパッタリング厚さは6μmである。
【0070】
(実施例7)
スパッタリングのターゲット材が異なることを除いて、実施例2と基本的に同じであり、スパッタリングのターゲット材の組成はTb63Pr27Al10であり、基材C2の表面でのそのスパッタリング厚さは6μmである。
【0071】
【表2】
【0072】
表2から、本発明の希土類拡散磁石は、基材と比較して耐食性がわずかに変化していたことが分かる。本発明のターゲット材でスパッタリングした後、作製された希土類拡散磁石の耐食性は大幅に改善されている。実際のニーズに応じて、第一めっき層の厚さを2μmに減らすことができる。
【0073】
(実施例8~15)
基材C2を使用して、組成はNd31Dy0.5Co1.2Cu0.16Al0.40.98Febalである。
【0074】
基材C2の製造プロセスは、実施例1と同様である。第一ターゲット材および第二ターゲット材の製造プロセスは、実施例1における第一ターゲット材の製造プロセスと同じである。
【0075】
基材C2に対してスパッタリングする時に、まず、第一ターゲット材のスパッタリングが行われ、基材C2の表面に第一めっき層が形成され、次に第二ターゲット材がスパッタリングされ、第二めっき層が第一めっき層の表面に形成される。第一めっき層と第二めっき層の厚さを表3に示す載されている。
【0076】
スパッタリングされた後の基材C2は拡散処理される。拡散処理は一次熱処理:920℃で6時間の保温、二次熱処理:450℃で8時間の保温を含んだ。
【0077】
実施例8~15のめっき層の組成、磁気特性および耐食性の試験結果を表3に示す。
【0078】
表3における基材サンプル3は、めっき層のスパッタリングと拡散処理を行っていない基材C2のサンプルであり、2段階の焼き戻し時効熱処理を経た後に製造されたものである。この焼き戻しプロセスは次のとおりである。一次焼き戻しプロセスは920℃で4時間の保温であり、二次焼戻しプロセスは450℃で8時間の保温である。
【0079】
【表3】
【0080】
塩水噴霧試験:試験サンプルを塩水噴霧試験箱に入れて、連続噴霧環境での腐食を行った。噴霧溶液の液体は5%NaCl溶液であり、PH=7.1であり、温度25℃で、24時間ごとにサンプルに錆の斑点があるかどうかを観察する。
【0081】
高温高圧実験:試験サンプルを高温高圧実験ボックスに入れ、実験温度は120±3℃、蒸気圧は0.20MPa、実験は288時間を行った後にサンプルを取り出し、超音波洗浄を使用して腐食生成物を除去し、腐食前後の重量差を記録する。最後に、減量をサンプルの表面積で割って、基材の減量パラメーターとして単位表面積あたりの減量を計算する。
【0082】
第一めっき層のみがスパッタリングされた希土類拡散磁石と比較して、第二めっき層がスパッタリングされた後、希土類拡散磁石の耐塩水噴霧試験の時間数が増加し、減量試験の減量率が低下し、その耐食性はさらに改善される。同時に、第二めっき層がスパッタリングされた磁石は、第一めっき層のみがスパッタリングされた磁石よりも、Hcjがわずかに向上した。
【0083】
なお、添付の図面を参照して記載された上記の様々な実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、本発明に対してなされた修正または同等の置換が、すべて本発明の範囲内に含まれるべきであると理解すべきである。さらに、文脈で別段の指示がない限り、単数形で表示される単語には複数形が含まれ、その逆も同様である。さらに、特に明記しない限り、任意の実施例の全部または一部を、他の任意の実施例の全部または一部と組み合わせて使用することができる。
図1