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特許7371208von Willebrand因子含有製剤
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  • 特許-von  Willebrand因子含有製剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】von Willebrand因子含有製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/36 20060101AFI20231023BHJP
   A61K 38/37 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231023BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231023BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231023BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231023BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231023BHJP
   A61P 7/04 20060101ALN20231023BHJP
【FI】
A61K38/36
A61K38/37
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/42
A61K47/18
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/22
A61P7/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022184938
(22)【出願日】2022-11-18
(65)【公開番号】P2023105788
(43)【公開日】2023-07-31
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2022006389
(32)【優先日】2022-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 康平
(72)【発明者】
【氏名】槐島 真由帆
(72)【発明者】
【氏名】西川 和美
(72)【発明者】
【氏名】藤田 綾
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533597(JP,A)
【文献】特表2007-519623(JP,A)
【文献】特表2012-506387(JP,A)
【文献】コンファクト(R)F注射用250 コンファクト(R)F注射用500 コンファクト(R)F注射用1000,添付文書,KMバイオロジクス株式会社,2023年09月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
von Willebrand因子(VWF)または血液凝固第VIII因子(FVIII)とVWFの複合体を含む医薬製剤であって、ここで前記医薬製剤がポリソルベート類およびマクロゴール類を含み、かつ前記医薬製剤が溶剤に溶解された場合に0.15 mg/mL以上の前記ポリソルベート類および0.25 mg/mL以上の前記マクロゴール類となるよう前記ポリソルベート類および前記マクロゴール類を含み、溶剤に溶解された医薬製剤中でVWFまたはFVIIIとVWFの複合体が安定であり、VWF浮遊物の発生が抑制された、医薬製剤。
【請求項2】
前記医薬製剤が溶剤に溶解された場合に0.30 mg/mL以上の前記ポリソルベート類および/または0.50 mg/mL以上の前記マクロゴール類となるよう前記ポリソルベート類および前記マクロゴール類を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
ポリソルベート類がポリソルベート80である、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
マクロゴール類がマクロゴール4000である、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項5】
前記医薬製剤が溶剤に溶解された場合にVWFの濃度が120 IU/mL以上となるようVWFを含む、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項6】
ポリソルベート類がポリソルベート80であり、かつマクロゴール類がマクロゴール4000である、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項7】
人血清アルブミン、グリシン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、またはL-ヒスチジンを更に含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記医薬製剤が溶剤に溶解された場合にpHが約6.5~約8.0の範囲である、請求項に記載の製剤。
【請求項9】
医薬製剤が凍結乾燥製剤である、請求項に記載の製剤。
【請求項10】
VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤であって、ポリソルベート類およびマクロゴール類を含む医薬製剤において、0.15 mg/mL以上の前記ポリソルベート類および0.25 mg/mL以上の前記マクロゴール類を所定の濃度含有させることにより、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を安定化させる方法であって、VWF浮遊物の発生が抑制される、方法。
【請求項11】
VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤であって、ポリソルベート類およびマクロゴール類を含む医薬製剤の製造方法であって、0.15 mg/mL以上の前記ポリソルベート類および0.25 mg/mL以上の前記マクロゴール類を所定の濃度含有させる工程を含む、安定なVWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法であって、VWF浮遊物の発生が抑制される、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、令和4年1月19日に日本国特許庁に出願された出願番号2022-006389号の優先権の利益を主張する。優先権基礎出願はその全体について、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、von Willebrand(フォンヴィルブランド)因子(VWF)または血液凝固第VIII因子(FVIII)とvon Willebrand因子(VWF)の複合体の医薬製剤において、溶解後の浮遊物の発生を抑制する製剤組成に関する。
【背景技術】
【0003】
von Willebrand因子(VWF)は、血管内皮細胞および骨髄巨核球で生産される血漿タンパク質である。VWFは出血部位への血小板の粘着と凝集に関わり、かつ循環血漿中では血液凝固第VIII因子(FVIII)と結合し、そのキャリア蛋白として機能している。von Willebrand病(VWD)はVWFの先天的な量的低下・欠損あるいは質的異常により出血傾向を来たす疾患である。VWDの臨床症状としては皮膚、粘膜の出血症状を特徴とし、幼小児期からの鼻出血や抜歯時の止血困難などで気付かれることが多く、VWDの女性では過多月経をきたしやすい。VWDは血友病と異なり、関節内、筋肉内出血は稀である。VWDの確定診断はVWF抗原量(VWF:Ag)、リストセチンコファクター活性(VWF:RCo)に加えて、FVIII活性、リストセチン凝集能およびマルチマーによりなされ、Type1、2、3にクラス分類される。Type2はさらにA、B、M、Nのサブクラスに分かれる。VWDの止血療法にはVWFの補充療法として、VWF製剤およびFVIIIを含有するVWF製剤(FVIII/VWF製剤)が用いられる(非特許文献1)。
【0004】
VWFがFVIIIのキャリア蛋白であることから、VWFはFVIIIの安定化剤として機能し、FVIIIが欠損または低下した血友病A治療では、FVIII/VWF製剤は、投与されたFVIII製剤の半減期の延長、抗FVIII抗体に対する防御効果など、数多くの利点を有しうると考えられている。
【0005】
現在海外で販売されているヒト血漿由来のVWF製剤およびFVIII/VWF製剤は、非特許文献2の表2にまとめられている。FVIII/VWF製剤としては、Alphanete(Grifols社)、Factor BY(Bio Products Laboratory社)、Fanhdi(Grifols社)、Haemate P(CSL Behring社)、Immunate(Baxter社)、Wilfate(Octapharma社)があり、VWF製剤としてはWilfactin(LFB)があり、これはFVIII含量をできるだけ低減したVWF単味製剤である。一方、非特許文献2以外の製剤として、FVIII/VWF製剤のVoncento(CSL Behring社)も欧州で販売されており(非特許文献3)、日本においては、コンファクトF(KMバイオロジクス株式会社:非特許文献4)およびコンコエイト-HT(一般社団法人日本血液製剤機構)が販売されている(非特許文献5)。また、遺伝子組換えVWF製剤としては、ボンベンディ静注用1300(武田薬品工業株式会社:非特許文献6)が発売されている。これはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株を用いてVWFを発現・精製した凍結乾燥製剤であり、VWFの濃度は130 IU/mLである。いずれの製剤も長期保存安定性を高めるために凍結乾燥されている。
【0006】
上記VWF製剤およびFVIII/VWF製剤の情報を表1にまとめた。
【表1】
#:非特許文献2より引用

非特許文献2の表2に記載があるように、FVIII/VWF製剤では、VWF:RCoとFVIII活性の比(VWF:RCo/FVIII)が表示されている(VWF単味製剤のWilfactinの非特許文献2の表2の値は学術的な参考値)。現状、FVIII/VWF製剤において、世界で最もVWF:RCo/FVIIIの比率が高い製剤はHaemate PおよびVoncento(CSL Behring社)、コンファクトF(KMバイオロジクス株式会社)である。
【0007】
ヒト血漿由来のVWF濃度に着目した場合、Voncento(CSL Behring社)のVWFの濃度は240 IU/mLであり、世界で最も高濃度である。しかしながら、Voncentoの添加剤の種類が公開されているものの、それらの添加剤の濃度については明らかになっていない(非特許文献7)。
また、遺伝子組換えVWF(rVWF)製剤である非特許文献7のボンベンディ静注用1300はVWFの濃度は130 IU/mLであり、添加剤として、1 mg/mLグリシン、20 mg/mLマンニトール、10 mg/mLトレハロース水和物、0.1 mg/mLポリソルベート80が含まれていることが記載されている。
【0008】
VWFを含む凍結乾燥製剤を溶剤で溶解するとき、タンパク質性の凝集物が発生し、浮遊物として観察されることがある(以下、VWF浮遊物)。これはVWFを含む凍結乾燥製剤の添付文書などに溶解時の注意に記載があり、「浮遊物」、「粒子」などと記載されている(非特許文献4、6)。VWF浮遊物は溶解時のVWF濃度が濃くなるほど増加する。VWF浮遊物の発生は、例えば実質的なVWF濃度の低下を引き起こす、注射針が詰まる、または外観上好ましくないなどの問題を引き起こすため、VWF浮遊物をできるだけ低減することが望ましい。
【0009】
特許文献1には、VWF濃度70~130 IU/mLのrVWF製剤において、rVWFの凝集の程度を指標に凍結乾燥製剤の添加剤をスクリーニング検討し、15 mMクエン酸Na、15 mMグリシン、10 mg/mLのトレハロース、20 mg/mL のマンニトール、0.1 mg/mLポリソルベート80を含む製剤組成を見出したことが記載されている。
【0010】
本発明におけるVWFの活性は、血小板凝集を誘発するその能力におけるグリコペプチド系抗生物質リストセチンのための補因子(VWF:RCo)としてのVWFの役割に基づいている(非特許文献8、9)。この活性は国際単位(IU VWF:RCo)で表され、その濃度はIU/ミリリットル(IU VWF:RCo/mL)で表現される。
【0011】
本発明におけるFVIIIの活性は、FIXa、カルシウムイオン及びリン脂質の存在下でのFXの活性化における補因子としてのFVIIIの役割に基づくFVIII(FVIII:C)の凝固活性に関するものである(非特許文献10、11)。これは、発色性基質について定量化されて、国際単位(IU FVIII)で表され、その濃度はIU FVIII/ミリリットル(IU FVIII/mL)で表わされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特願2011-532347
【非特許文献】
【0013】
【文献】血栓止血誌20(1):3~5, 2009.WEBサイト:https://www.jsth.org/publications/pdf/tokusyu/20_1.003.2009.pdf(2021年12月15日確認)
【文献】Ther Clin Risk Manag. 2016 Jun 30;12:1029-37. WEBサイト:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4936816/(2021年12月15日確認)
【文献】CSL Behring社WEBサイト:https://labeling.csl.com/SDS/CORE/Voncento/EN/Voncento-Safety-Data-Sheet.pdf(2021年12月15日確認)
【文献】KMバイオロジクス社WEBサイト:https://www.kmbiologics.com/medical/plasma/pdf/confact_pi_2109_01.pdf(2021年12月15日確認)
【文献】一般社団法人日本血液製剤機構WEBサイト:https://www.jbpo.or.jp/med/di/file/cae4b0ab30064f33990edc885e401bbe/(2021年12月15日確認)
【文献】武田薬品工業株式会社WEBサイト:https://www.takedamed.com/mcm/medicine/download.jsp?id=1234&type=ATTACHMENT_DOCUMENT(2021年12月15日確認)
【文献】欧州医薬品庁WEBサイト:https://www.ema.europa.eu/en/documents/product-information/voncento-epar-product-information_en.pdf(2021年12月15日確認)
【文献】欧州薬局方第07/2006:20721号
【文献】von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版 血栓止血誌32(4):413~481, 2021.WEBサイト:https://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/04/von-Willebrand%E7%97%85%E3%81%AE%E8%A8%BA%E7%99%82%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B32021%E5%B9%B4%E7%89%88.pdf(2021年12月28日確認)
【文献】欧州薬局方第07/2006:20704号
【文献】生物学的製剤基準(厚生労働省告示番号第410号:令和3年12月23日) 乾燥濃縮人血液凝固第VIII因子 p.228 WEBサイト:https://www.niid.go.jp/niid/images/qa/seibutuki/seibutsuki_japanese/20211223.pdf(2021年12月28日確認)
【文献】Vox Sang. 2008 Nov;95(4):298-307. WEBサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19138259/(2021年12月15日確認)
【文献】J Lab Clin Med. 1981 Jun;97(6):864-80. WEBサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6971912/(2021年12月15日確認)
【文献】J Chromatogr B Biomed Appl. 1994 Dec 9;662(2):181-90. WEBサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7719474/(2021年12月15日確認)
【文献】Ann Clin Lab Sci. Mar-Apr 1989;19(2):84-91. WEBサイト:http://www.annclinlabsci.org/content/19/2/84.full.pdf(2021年12月15日確認)
【文献】Haemophilia. 2009 May;15(3):788-96. WEBサイト:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2516.2009.01995.x(2021年12月15日確認)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
VWFを含む製剤を溶剤で溶解するとき、タンパク質性の凝集物が発生し、浮遊物として観察されることがある(以下、VWF浮遊物)。VWF浮遊物の発生は、例えば実質的なVWF濃度の低下を引き起こす、注射針が詰まる、または外観上好ましくないなどの問題を引き起こすため、VWF浮遊物をできるだけ低減することが望ましい。
本発明の目的は、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が安定な医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記問題を解決するため、VWFを含む医薬製剤の溶解後のVWFまたはFVIIIとVWFの複合体が安定な組成を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
したがって、本発明は以下を含む;
[項1]
von Willebrand因子(VWF)または血液凝固第VIII因子(FVIII)とVWFの複合体を含む医薬製剤であって、前記医薬製剤がポリソルベート類および/またはマクロゴール類を含み、医薬製剤中でVWFまたはFVIIIとVWFの複合体が安定である、医薬製剤、
[項2]
ポリソルベート類およびマクロゴール類を含む、[項1]に記載の製剤、
[項3]
ポリソルベート類の濃度が0.15 mg/mL以上である、[項1]に記載の製剤、
[項4]
ポリソルベート類がポリソルベート80である、[項1]に記載の製剤、
[項5]
マクロゴール類の濃度が0.25 mg/mL以上である、[項1]に記載の製剤、
[項6]
マクロゴール類がマクロゴール4000である、[項1]に記載の製剤、
[項7]
VWFの濃度が120 IU/mL以上である、[項1]に記載の製剤、
[項8]
人血清アルブミン、グリシン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、またはL-ヒスチジンを更に含む、[項1]に記載の製剤、
[項9]
pHが約6.5~約8.0の範囲である、[項8]に記載の製剤、
[項10]
医薬製剤が凍結乾燥製剤である、[項8]に記載の製剤、
[項11]
VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤において、ポリソルベート類および/またはマクロゴール類を所定の濃度含有させることにより、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を安定化させる方法、
[項12]
VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法であって、ポリソルベート類および/またはマクロゴール類を所定の濃度含有させる工程を含む、安定なVWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法。
【0017】
さらに、本発明は以下を含む;
[項1]
von Willebrand因子(VWF)または血液凝固第VIII因子(FVIII)とVWFの複合体を含む医薬製剤であって、前記医薬製剤がポリソルベート類および/またはマクロゴール類を含み、医薬製剤中でVWFまたはFVIIIとVWFの複合体が安定である、医薬製剤、
[項2]
ポリソルベート類およびマクロゴール類を含む、[項1]に記載の製剤、
[項3]
ポリソルベート類の濃度が0.1 mg/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項4]
ポリソルベート類の濃度が0.2 mg/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項5]
ポリソルベート類がポリソルベート80である、[項1]に記載の製剤、
[項6]
マクロゴール類の濃度が0.35 mg/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項7]
マクロゴール類の濃度が0.5 mg/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項8]
マクロゴール類がマクロゴール4000である、[項1]に記載の製剤、
[項9]
VWFの濃度が60 IU/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項10]
VWFの濃度が240 IU/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項11]
VWFの濃度が500 IU/mLを超える、[項1]に記載の製剤、
[項12]
人血清アルブミン、グリシン、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、またはL-ヒスチジンを更に含む、[項1]に記載の製剤、
[項13]
pHが約6.5~約8.0の範囲である、[項12]に記載の製剤、
[項14]
医薬製剤が凍結乾燥製剤である、[項12]に記載の製剤、
[項15]
VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤において、ポリソルベート類および/またはマクロゴール類を所定の濃度含有させることにより、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を安定化させる方法、
[項16]
VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法であって、ポリソルベート類および/またはマクロゴール類を所定の濃度含有させる工程を含む、安定なVWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤において、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」であることにより、医薬製剤中のVWF浮遊物の発生が抑制でき、長期保存可能なVWFを含む医薬製剤を提供でき、または高濃度のVWFを含む医薬製剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、異なる濃度のP80またはPEGを含む製剤の浮遊物スコアおよび溶解時間を示すグラフである。
図2図2は、異なる濃度のP80および/またはPEGの組み合わせを含む製剤の浮遊物スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明は、VWFを含む医薬製剤において、VWF浮遊物の発生を抑制した製剤を提供するものである。
【0022】
1つの態様において、本発明は、von Willebrand因子(VWF)または血液凝固第VIII因子(FVIII)とVWFの複合体を含む医薬製剤であって、前記医薬製剤がポリソルベート類および/またはマクロゴール類を含み、医薬製剤中でVWFまたはFVIIIとVWFの複合体が安定である、医薬製剤に関する。別の態様において、本発明は、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤において、ポリソルベート類および/またはマクロゴール類を所定の濃度含有させることにより、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を安定化させる方法に関する。さらなる別の態様において、本発明は、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法であって、ポリソルベート類および/またはマクロゴール類を所定の濃度含有させる工程を含む、安定なVWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤の製造方法に関する。
【0023】
VWFは、2813残基のアミノ酸として生成し、22残基のシグナルペプチドが切断されてプロVWFとなったあと、741残基のラージプロペプチドが除去されて、2,050残基のアミノ酸による成熟VWFとなる。VWFは大きさが約250kDの糖タンパク質であり、血漿中では約500-約20000kDの多量体を形成して循環している。本開示において、VWFは単量体を形成していてもよく、または大きさが平均約500、750、1000、1250、1500、1750、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、12500、15000、17500、20000kDaまたはそれらの間の任意の数の多量体を形成していてもよい。VWFの多量体形態は、ジスルフィド結合により結合した約250kDのポリペプチドサブユニットで構成される。VWFは、イオン交換クロマトグラフィーやイムノアフィニティークロマトグラフィーにより調製することができる(非特許文献12、13)。VWFは、血液から精製されてもよく、または組換えタンパク質として回収されてもよい。
【0024】
FVIIIは2332個のアミノ酸からなら一本鎖糖タンパク質で、A1-A2-B-A3-C1-C2のドメイン構造を有する。血漿中ではA1-A2-Bドメインからなる重鎖とA3-C1-C2ドメインからなる軽鎖とのヘテロダイマーとして存在している。FVIIIは、イオン交換クロマトグラフィーやイムノアフィニティークロマトグラフィーにより調製することができる(非特許文献12、14、15)。FVIIIは、血液から精製されてもよく、または組換えタンパク質として回収されてもよい。
【0025】
FVIIIは、VWFと非共有結合して複合体を形成する。複合体は、ELISAを利用した方法で検出することができる(非特許文献16)。
【0026】
本明細書において、「VWF浮遊物」とは、VWFを含む製剤を溶解した溶液における、目視できる大きさの浮遊物をいう。目視できる大きさは特に限定されないが、浮遊物の最長径を測定した場合に、約0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2.0mm、3.0mm、4.0mm、5.0mm、6.0mm、7.0mm、8.0mm、9.0mm、10.0mm以上またはその間の任意の数である。浮遊物の大きさにもとづいて大きさ係数を割り当てることができ、例えば、浮遊物の大きさが、1mm未満の場合は5、1mm以上2mm未満の場合は10、2mm以上5mm未満の場合は20、5mm以上10mm未満の場合は40、10mm以上の場合は80として設定することができる。VWFを含む製剤溶液のVWF浮遊物の程度は、浮遊物の個数に大きさ係数を乗じた値の総和を浮遊物総スコアとして算出してもよい。「VWF浮遊物」はタンパク質性の凝集物であり、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含有していてもよい。
【0027】
本明細書において、特に言及しない場合は、「濃度」、特に医薬製剤中の成分の「濃度」に言及するときは、医薬製剤を患者に投与する場合における終濃度のことを指す。例えば、組成物中の特定の成分が10mg含まれている場合に、投与される場合に組成物を溶剤10mLに溶かして使用する場合は、その成分の組成物における濃度は1mg/mLである。
【0028】
本明細書において、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」であるとは、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が溶液中で沈殿を生じない、または浮遊物を形成しないことをいう。VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」であることにより、医薬製剤中のVWF浮遊物の発生が抑制でき、長期保存可能なVWFを含む医薬製剤を提供でき、または高濃度のVWFを含む医薬製剤を提供できる。特定の実施形態では、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」である場合、本開示の組成の医薬製剤と本開示の組成とは異なる医薬製剤を比較した場合に、VWF浮遊物の数、大きさ、または浮遊物総スコアは、本開示の組成の医薬製剤における値の方が小さい。一実施形態では、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」である場合、医薬製剤のVWF浮遊物は目視できない。別の実施形態では、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」である場合、例えば、VWF浮遊物の大きさは約0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2.0mm、3.0mm、4.0mm、5.0mm、6.0mm、7.0mm、8.0mm、9.0mm、10.0mm以下またはその間の任意の数である。さらに別の実施形態では、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」である場合、例えば、VWF浮遊物の数は1個、2個、3個、4個、5個以下である。他の実施形態では、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」である場合、例えば、浮遊物総スコアは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50未満である。さらに他の実施形態では、VWFまたはFVIIIとVWFの複合体が「安定」である場合、本開示の組成の医薬製剤と本開示の組成とは異なる医薬製剤を比較した場合に、本開示の組成の医薬製剤の浮遊物総スコアは、例えば、本開示の組成とは異なる医薬製剤の90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%未満である。
【0029】
一実施形態では、医薬製剤は、VWFの濃度が60IU/mL、120IU/mL、180IU/mL、240IU/mL、300IU/mL、360IU/mL、420IU/mL、480IU/mL、500IU/mL、540IU/mL、600IU/mL、700IU/mL、800IU/mL、900IU/mL、1000IU/mL以上である。別の実施形態では、医薬製剤は、VWFの濃度が60IU/mL、120IU/mL、180IU/mL、240IU/mL、300IU/mL、360IU/mL、420IU/mL、480IU/mL、500IU/mL、540IU/mL、600IU/mL、700IU/mL、800IU/mL、900IU/mL、1000IU/mLを超える。一実施形態では、医薬製剤は、FVIIIの濃度が25IU/mL、50IU/mL、75IU/mL、100IU/mL、125IU/mL、150IU/mL以上である。別の実施形態では、医薬製剤は、FVIIIの濃度が25IU/mL、50IU/mL、75IU/mL、100IU/mL、125IU/mL、150IU/mLを超える。
【0030】
一実施形態では、医薬製剤は、界面活性剤および/またはポリエチレングリコールを含んでもよい。界面活性剤は例えばイオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤であり、好ましくは非イオン性界面活性剤である。非イオン性界面活性剤は例えばポリソルベート類である。ポリソルベート類は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、およびポリソルベート80を含む。ポリエチレングリコールは医療用であることが好ましく、例えばマクロゴール類である。マクロゴール類は、マクロゴール200、マクロゴール400、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000、およびマクロゴール20000を含む。
【0031】
一実施形態では、界面活性剤の濃度は、0.1mg/mL以上、0.15mg/mL以上、0.20mg/mL以上、0.25mg/mL以上、0.30mg/mL以上、0.35mg/mL以上、0.40mg/mL以上、0.45mg/mL以上、または0.50mg/mL以上である。別の実施形態では、界面活性剤の濃度は、0.1mg/mLを超える、0.2mg/mLを超える、0.3mg/mLを超える、0.4mg/mLを超える、または0.5mg/mLを超える。他の実施形態では、ポリエチレングリコールの濃度は、0.1mg/mL以上、0.15mg/mL以上、0.20mg/mL以上、0.25mg/mL以上、0.30mg/mL以上、0.35mg/mL以上、0.40mg/mL以上、0.45mg/mL以上、0.50mg/mL以上、0.55mg/mL以上、0.60mg/mL以上、0.65mg/mL以上、または0.70mg/mL以上である。別の実施形態では、ポリエチレングリコールの濃度は、0.1mg/mLを超える、0.15mg/mLを超える、0.20mg/mLを超える、0.25mg/mLを超える、0.30mg/mLを超える、0.35mg/mLを超える、0.40mg/mLを超える、0.45mg/mLを超える、0.50mg/mLを超える、0.55mg/mLを超える、0.60mg/mLを超える、0.65mg/mLを超える、または0.70mg/mLを超える。
【0032】
一実施形態では、医薬製剤は、添加剤を含んでもよい。添加剤は特に限定されないが、アルブミン、アミノ酸類、塩類、界面活性剤、高分子化合物、またはpH調節剤を含む。アルブミンは、好ましくは血清アルブミンであり、より好ましくは人血清アルブミンである。アミノ酸類は例えばグリシン、またはL-ヒスチジンである。塩類は、無機塩または有機塩である。無機塩は、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム水和物、および塩化カリウム水和物である。界面活性剤は、例えばポリソルベート類である。高分子化合物は、例えばポリエチレングリコ―ルである。pH調節剤は例えば塩酸、水酸化ナトリウムである。医薬製剤は、pHが、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5またはそれらの任意の間の数に調整される。医薬製剤は、pHが、好ましくは約6.0~約8.5の範囲、より好ましくは約6.5~約8.0の範囲である。当業者は適宜上記の安定剤を選択でき、濃度を設定することができる。
【0033】
一実施形態では、医薬製剤は、特に限定されないが、生物学的製剤であり、好ましくは血液製剤である。血液製剤は、「全血製剤」、「血液成分製剤」、および「血漿分画製剤」に分類され、当業者は公知の方法で製剤を得ることができる。
【0034】
別の実施形態では、医薬製剤は、使用前に医師または患者が溶媒および/または希釈剤を加えることが予定される凍結乾燥製剤である。
【0035】
本明細書において、医薬製剤は、von Willebrand病および血友病AなどのVWFまたはFVIIIの欠損または低下に起因する疾患を治療するために使用されてもよい。
【0036】
本明細書において「約」とは示す数値の±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0037】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
浮遊物スコアの設定と浮遊物総スコアの算出:
本発明の目的は、安定したVWFまたはFVIIIとVWFの複合体を含む医薬製剤を提供することにある。そのためには、浮遊物スコア評価法の設定が不可欠であると考えた。そこで、より精度よく溶解後のVWF浮遊物を評価するため、VWF浮遊物の大きさ毎に係数を設定した。VWF製剤を溶解した後の製剤溶液を目視し、それぞれの浮遊物の個数に大きさ係数を乗じた値の総和を浮遊物総スコアとして算出することにした。
【表2】
【実施例2】
【0039】
FVIII/VWF原画の調製:
(1)クリオプレシピテートの分離
-20℃以下で保存された原料血漿(新鮮凍結血漿(日本赤十字社より入手した。))を6℃以下で冷融解した。約8,300×gで遠心分離し(クリオ遠心分離)、クリオプレシピテートを得た。
【0040】
(2)クリオプレシピテートの精製
上記(1)で得られたクリオプレシピテートを3.5倍量の緩衝液A(NaCl:10.55 g/L、グリシン:15 g/L、塩化カルシウム2水和物:0.088 g/L、pH7.3)で溶解し(NaCl、グリシン、塩化カルシウム水和物はそれぞれ、富田製薬社、味の素社、富田製薬社から入手した。)、さらにクリオプレシピテートの5倍量までメスアップした。水酸化アルミニウムゲル(Croda社「Alhydrogel」を入手した。)を0.3%となるように添加して約12,000×gで遠心分離し、上清液を得た。これを陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(東ソー社製 SP トヨパール550C、官能基:スルホプロピル基)に展開した。
その後、1w/v%のポリソルベート80を含む緩衝液Aでカラムを洗浄し、緩衝液B(NaCl:35 g/L、グリシン:15 g/L、塩化カルシウム2水和物:0.088 g/L、トリスアミノメタン:2.4 g/L、pH7.5)でFVIII/VWFを溶出した(トリスアミノメタンは富士フイルム和光純薬社「2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール」を入手した。)。得られた溶出画分をウイルス除去膜ろ過後、これを濃縮し、FVIII/VWF原画を得た。
【実施例3】
【0041】
コンファクトF組成を用いた浮遊物総スコア確認:
コンファクトFは、KMバイオロジクス株式会社が日本で製造販売しているFVIII/VWF製剤であり、上記FVIII/VWF原画に添加剤を加えて凍結乾燥し、65℃96時間の乾燥加熱処理を施した製剤である。本剤を添付の溶剤(日本薬局方注射用水)で溶解したとき、1バイアル中の組成は以下の表のようになる。(VWF濃度は60 IU/mL)。
【表3】

【0042】
現行のコンファクトFについて、凍結乾燥製剤を注射用水で溶解したときの浮遊物総スコアを確認した(表4)。VWF濃度が約60 IU/mLになるよう溶解したとき、発生した浮遊物は全て5 mm以下であり、浮遊物総スコアは36.7~55.6であった。
さらに、1000単位製剤についてVWF濃度が485.6 IU/mLになるよう溶解したとき、2 cm程度の大きな浮遊物が発生し、浮遊物スコアは83.3であった。1 cmを超える浮遊物は外観上好ましくなく、医薬品として提供することは難しい。したがって、FVIII/VWF製剤における、より浮遊物を低減させる組成の検討が必要であることが分かった。
【表4】


※1:3ロット×3回のデータ(計9回)を取得したときの平均値±SDを示した。
※2:1ロット×3回のデータ(計3回)を取得したときの平均値±SDを示した。
【実施例4】
【0043】
コンファクトF組成をベースにした高濃度化組成のスクリーニング検討:
コンファクトFの成分のうち、クエン酸ナトリウム水和物(クエン酸Na)(富士フイルム和光純薬社「クエン酸ナトリウム水和物 「製造専用」」を入手した。)、L-ヒスチジン(L-His)(メルク社から入手した。)、マクロゴール4000(PEG)(三洋化成社から入手した。)、ポリソルベート80(P80)(日油社「ポリソルベート80(SS)」を入手した。)の4成分について溶解後の浮遊物抑制にどの程度効果があるか検討した。表3に示すコンファクトFに対し、FVIII及びVWF濃度が2倍の濃度(それぞれ50 IU/mL、120 IU/mL)の製剤を想定して検討を行った。
各成分を因子とし、それぞれの濃度につき表5のように3水準設定し、L9直交表を用いて割り付けた。なお、No.5の組成は、コンファクトFの現行の組成と比べて、FVIII及びVWF濃度が2倍である以外は、同一の組成及び濃度となるよう設定した。
これら9組成となるように、250単位製剤の凍結乾燥製剤を調製し、VWF濃度が約120 IU/mLになるよう溶解した検体(凍結乾燥前の溶液濃度と溶解後の濃度は同じ)について実施例1の方法で浮遊物総スコアを算出した(n=6:平均値±SD)。
この結果、No.4および8の組成で特に浮遊物が少なかった。
【表5】

※表中の濃度はmg/mLで示した。VWF濃度が約120 IU/mLになるよう溶解したときの、各成分の濃度を示した。
【0044】
調製したNo.1~No.9の検体の測定結果を用い、因子毎に一元配置分散分析により水準間の有意差検定(α = 0.05)を行った。
その結果、各因子のうちP80のみ水準間の有意差を認め、かつP80の濃度依存的に浮遊物スコアが減少した。その他の因子では、いずれも有意差を認めなかったものの、PEGがやや濃度依存的に浮遊物スコアが減少する傾向を認めた。
また、溶解に要する時間(溶解時間)についても、各因子のうちP80のみ水準間の有意差を認め、かつP80の濃度依存的に溶解時間が短縮した。PEGは有意差を認めなかったものの、濃度依存的に溶解時間の短縮傾向を認めた。これら結果より、P80に溶解性向上効果があると分かった。(図1
【実施例5】
【0045】
高濃度化組成を用いた浮遊物総スコア確認-1:
実施例4の組成のうち、浮遊物が少なかったNo.4の組成(以下、高濃度化組成)で凍結乾燥製剤を原料違いで実施例4と同様の方法で3ロット調製した。
【表6】

【0046】
これらの製剤をVWF濃度が約120 IU/mLになるよう、それぞれ5、10、20 mLの注射用水で溶解したときの浮遊物総スコアを確認した。VWF濃度が約120 IU/mLになるよう溶解したとき、浮遊物は全く発生せず、浮遊物総スコアは0であった。
【表7】


※1:各規格につき、3ロット×3回のデータ(計9回)を取得したときの平均値±SDを示した。
【実施例6】
【0047】
高濃度化組成を用いた浮遊物総スコア確認-2:
実施例5で調製した製剤組成につき、1000単位製剤の代表1ロットについてVWF濃度が500.8 IU/mLになるよう注射用水で溶解したときの浮遊物総スコアを確認した。その結果、浮遊物総スコアは1.7±2.9であり、浮遊物のサイズも全て1 mm以下であった。これは実施例3で示した、現在医薬品として提供しているコンファクトF(VWF濃度:60 IU/mL)よりも浮遊物総スコアが小さいことから、VWF濃度を500 IU/mL以上となるよう溶解したとしても浮遊物発生が抑制されていることが分かった。
【表8】

※1:1ロット×3回のデータ(計3回)を取得したときの平均値±SDを示した。
【実施例7】
【0048】
高濃度化組成製剤の長期保存安定性:
実施例5で調製した製剤につき、下表の条件で長期保存した後の浮遊物総スコアを確認した。
【表9】

この条件で保存後の1000単位製剤について、代表1ロットを用い、VWF濃度が520.4 IU/mLになるよう5 mLの注射用水で溶解したときの浮遊物総スコアを確認した。その結果、浮遊物総スコアは5.0±5.0であり、浮遊物のサイズも全て1 mm以下であった。これは実施例3で示した、現在医薬品として提供しているコンファクトF(VWF濃度:60 IU/mL)よりも浮遊物総スコアが小さかった。そのため、実施例5の組成で調製した製剤は、10℃で36箇月保存後も、VWF濃度を500 IU/mL以上で溶解した際の浮遊物発生は抑制されていることが分かった。
【表10】

※1:1ロット×3回のデータ(計3回)を取得したときの測定値を示した。
※2:1ロット×1回のデータ(計1回)を取得したときの測定値を示した。
【実施例8】
【0049】
マクロゴール4000及びポリソルベート80の影響確認:
実施例4より、浮遊物発生抑制にマクロゴール4000(PEG)及びポリソルベート80(P80)の添加が効果的であることが考えられたため、これら成分の相互影響評価を行った。そこで、表11及び表12に示すNo.1~No.9の9種類の組成の凍結乾燥製剤を、実施例4と同様の方法で調製した。なお、FVIII/VWF原画のバッチ間差を確認するため、浮遊物の出やすい原画材料を用いた。
これら9種類の組成の凍結乾燥製剤について、VWF濃度が約120 IU/mLになるよう溶解した検体(凍結乾燥前の溶液濃度と溶解後の濃度は同じ)について実施例1の方法で浮遊物総スコアを算出した(n=3:平均値)。
この結果を表12及び図2に示す。PEG及びP80はそれぞれ0.25 mg/mL及び0.15 mg/mLよりも濃度が高くなると浮遊物スコアが小さくなり、いずれも浮遊物発生抑制に寄与することが確認できた。
【表11】


【表12】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、VWFを含む凍結乾燥製剤において、浮遊物の発生を抑制した安定な製剤を製造する方法として利用可能である。
図1
図2