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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-20
(45)【発行日】2023-10-30
(54)【発明の名称】電気化学装置及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20231023BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20231023BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20231023BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20231023BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20231023BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20231023BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20231023BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231023BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20231023BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20231023BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231023BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20231023BHJP
【FI】
H01M4/13
H01G11/06
H01G11/26
H01G11/30
H01G11/60
H01G11/64
H01G11/68
H01M4/62 Z
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M10/0567
H01M10/052
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022520115
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-01
(86)【国際出願番号】 CN2020077578
(87)【国際公開番号】W WO2021174410
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王可飛
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-256700(JP,A)
【文献】特開2016-038962(JP,A)
【文献】特表2015-523674(JP,A)
【文献】特開2011-076824(JP,A)
【文献】国際公開第2019/101723(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/101730(WO,A1)
【文献】特開2015-138687(JP,A)
【文献】特開2018-049715(JP,A)
【文献】特開2019-207755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/66
H01M 4/62
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 4/64
H01M 10/052
H01M 4/139
H01G 11/06
H01G 11/68
H01G 11/30
H01G 11/64
H01G 11/60
H01G 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解液とを備える電気化学装置であって、前記正極は正極集電体と前記正極集電体上に形成された正極合剤層とを含み、前記正極集電体のダイン値は25dyn/cm~31dyn/cmであり、前記正極合剤層が界面活性剤を含み、前記正極合剤層の総重量に対する前記界面活性剤の含有量が0.5wt%以下であり、且つ前記界面活性剤の親水親油バランス値が2~10であり、前記正極合剤層のエッジにバリがあり、且つ前記バリの長さが4mm以下である、電気化学装置。
【請求項2】
前記正極集電体のダイン値は26dyn/cm~30dyn/cmであり、且つ前記バリの長さが3mm以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記正極合剤層のエッジは、塗布方向に沿った始端又は終端のエッジである、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記正極合剤層の端部と前記正極集電体の端部とが段差を形成している、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記バリの長さと前記正極集電体の厚みとの比が300以下、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
前記正極集電体の一方側の前記正極合剤層の厚みと前記正極集電体の厚みとの比が22以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記正極集電体の厚みが1μm~1mmである、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記正極集電体は複数の微結晶を含み、前記微結晶はアルミニウム微結晶及びアルミニウム合金微結晶のうち少なくとも一つを含み、且つ前記微結晶の断面積は100μm2以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記正極集電体は金属材料又は炭素材料を含み、且つ前記金属材料がアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケルめっきアルミニウム、ステンレス鋼、チタン及びタンタルのうち少なくとも一つを含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビトール蜜蝋誘導体、ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート、エチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ソルビタンセスキオレヘート、4,5-ポリオキシエチレンソルビトール-4,5-オレイン酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、ヒドロキシル化ラノリン、ソルビタンモノオレエート、モノラウリン酸プロピレングリコール、ソルビタンモノステアレート、ジエチレングリコールモノオレエート、ジエチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(2EO)オレイルエーテル、メチルグルコシドセスキステアレート、ジエチレングリコールモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンジオレエート、テトラエチレングリコールモノステアレート、テトラエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシプロピレンマンニトールジオレエート、ポリオキシエチレンソルビトールラノリンオレイン酸誘導体、ポリオキシエチレンソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシエチレン(5EO)ラノリンアルコールエーテル、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸、ポリオキシエチレンオキシプロピレンオレイン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(4EO)ソルビタンモノステアレート、ヘキサエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシプロピレン(5PO)ラノリンアルコールエーテル、及びポリオキシエチレン(5EO)ソルビタンモノオレエートのうち少なくとも一つを含む、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項11】
前記正極合剤層はN-メチルピロリドンを含み、前記正極合剤層の総重量に対する前記N-メチルピロリドンの含有量が100ppm以下である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項12】
前記電解液は、(a)シアノ基を有する化合物、(b)ジフルオロリン酸リチウム、及び(c)式1で示される化合物のうち少なくとも一つを含み、
【化1】
Rは、置換又は非置換のC1-C10炭化水素基であり、置換された場合、置換基はハロゲンである、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項13】
前記電解液は、シアノ基を有する化合物を含み、前記シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、及び1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンのうち少なくとも一つを含む、請求項12に記載の電気化学装置。
【請求項14】
前記電解液は、1,2-ビス(ジフルオロホスファニルオキシ)エタン、1,2-ビス(ジフルオロホスファニルオキシ)プロパン、及び1,2-ビス(ジフルオロホスファニルオキシ)ブタンのうち少なくとも一つを含む、式1で示される化合物を含む、請求項12に記載の電気化学装置。
【請求項15】
前記電解液はカルボン酸エステルを含み、前記電解液における前記カルボン酸エステルの含有量X mgと前記正極合剤層の反応面積Y mとが、10≦(X/Y)≦100を満たす、請求項1又は12に記載の電気化学装置。
【請求項16】
前記カルボン酸エステルは、鎖状カルボン酸エステル及び環状カルボン酸エステルのうち少なくとも一つを含む、請求項15に記載の電気化学装置。
【請求項17】
前記カルボン酸エステルは、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバリン酸メチル、及びピバリン酸エチルのうち少なくとも一つを含む、請求項15に記載の電気化学装置。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、電気化学装置及び電子装置、特にリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
技術の発展及びモバイル装置に対する需要の増加に伴い、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に対する需要が著しく増加し、それにより、リチウムイオン電池の性能、特にリチウムイオン電池のサイクル特性に対してより高い要求を提出している。
【0003】
リチウムイオン電池の性能は、主に、電極、電解液、及びセパレータの特性に依存する。電極の性能は、集電体及び合剤層の特性に依存するだけでなく、合剤層における助剤と密接に関連し、これらの助剤は、合剤層内部粒子の分散又は界面の粘着に重要な役割を果たす。リチウムイオン電池を製造する時に、一般的に原料の整合性が悪いことによる配合が困難である等の問題に遭遇し、リチウムイオン電池の性能に悪影響を与える。
【0004】
この実情に鑑みて、改良された、優れたサイクル特性を有する電気化学装置を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施例は、電気化学装置及び電子装置を提供することによって、少なくともある程度で、関連技術に存在する少なくとも一つの問題を解決しようとする。
【0006】
本発明の一態様において、正極と、負極と、電解液とを備える電気化学装置であって、前記正極は、正極集電体と前記正極集電体上に形成された正極合剤層とを含み、前記正極集電体のダイン値は25dyn/cm~31dyn/cmであり、前記正極合剤層のエッジにバリがあり、且つ前記バリの長さが4mm以下である電気化学装置を提供する。
【0007】
本発明の実施例によれば、前記正極集電体のダイン値は26dyn/cm~30dyn/cmであり、且つ前記バリの長さが3mm以下である。
【0008】
本発明の実施例によれば、前記正極合剤層のエッジは塗布方向に沿った始端又は終端のエッジである。
【0009】
本発明の実施例によれば、前記正極合剤層の端部と前記正極集電体の端部とが段差を形成している。
【0010】
本発明の実施例によれば、前記バリの長さと前記正極集電体の厚みとの比が300以下である。
【0011】
本発明の実施例によれば、前記正極集電体の一方側の前記正極合剤層の厚みと前記正極集電体の厚みとの比が22以下である。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記正極集電体の厚みが1μm~1mmである。
【0013】
本発明の実施例によれば、前記正極集電体は複数の微結晶を含み、前記微結晶はアルミニウム微結晶及びアルミニウム合金微結晶の少なくとも一つを含み、且つ前記微結晶の断面積は100μm以下である。
【0014】
本発明の実施例によれば、前記正極集電体は金属材料及び炭素材料から選択され、且つ前記金属材料はアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケルめっきアルミニウム、ステンレス鋼、チタン、及びタンタルのうち少なくとも一つを含む。
【0015】
本発明の実施例によれば、前記正極合剤層は界面活性剤を含み、前記正極合剤層の総重量に対する前記界面活性剤の含有量が0.5wt%以下であり、且つ前記界面活性剤の親水親油バランス値(HLB)が2~10である。
【0016】
本発明の実施例によれば、前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビトール蜜蝋誘導体、ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート、エチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ソルビタンセスキオレヘート、4,5-ポリオキシエチレンソルビトール-4,5-オレイン酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、ヒドロキシル化ラノリン、ソルビタンモノオレエート、モノラウリン酸プロピレングリコール、ソルビタンモノステアレート、ジエチレングリコールモノオレエート、ジエチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(2EO)オレイルエーテル、メチルグルコシドセスキステアレート、ジエチレングリコールモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンジオレエート、テトラエチレングリコールモノステアレート、テトラエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシプロピレンマンニトールジオレエート、ポリオキシエチレンソルビトールラノリンオレイン酸誘導体、ポリオキシエチレンソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシエチレン(5EO)ラノリンアルコールエーテル、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸、ポリオキシエチレンオキシプロピレンオレイン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(4EO)ソルビタンモノステアレート、ヘキサエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシプロピレン(5PO)ラノリンアルコールエーテル、及びポリオキシエチレン(5EO)ソルビタンモノオレエートのうち少なくとも一つを含む。
【0017】
本発明の実施例によれば、前記正極合剤層はN-メチルピロリドンを含み、前記正極合剤層の総重量に対する前記N-メチルピロリドンの含有量が100ppm以下である。
【0018】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、
(a)シアノ基を有する化合物
(b)ジフルオロリン酸リチウム、及び
(c)式1で示される化合物のうち少なくとも一つを含み、
【化1】
ここで、Rは置換又は非置換のC-C10炭化水素基であり、置換された場合、置換基はハロゲンである。
【0019】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、シアノ基を有する化合物を含み、前記シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、及び1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンのうち少なくとも一つを含む。
【0020】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、1,2-ビス(ジフルオロホスファニルオキシ)エタン、1,2-ビス(ジフルオロホスファニルオキシ)プロパン又は1,2-ビス(ジフルオロホスファニルオキシ)ブタンのうち少なくとも一つを含む、式1で示される化合物を含む。
【0021】
本発明の実施例によれば、前記電解液は、カルボン酸エステルを含み、前記電解液における前記カルボン酸エステルの含有量X mgと前記正極合剤層の反応面積Y mとが、10≦(X/Y)≦100を満たす。
【0022】
本発明の実施例によれば、前記カルボン酸エステルは、鎖状カルボン酸エステル及び環状カルボン酸エステルのうち少なくとも一つを含む。
【0023】
本発明の実施例によれば、前記カルボン酸エステルは、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバリン酸メチル、及びピバリン酸エチルのうち少なくとも一つを含む。
【0024】
本発明の更なる一態様において、本発明は、本発明に記載された電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0025】
本発明の実施例の他の態様及び利点について、一部的に以下で説明され、示され、又は本発明の実施例の実施を通じて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、比較例1の正極のトポグラフィー図を示す図である。
図2図2は、本発明の実施例3の正極のトポグラフィー図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0028】
本明細書で使用されている下記用語は、別に断らない限り、以下に示される意味を持つ。
【0029】
発明を実施するための形態及び請求の範囲において、「うち少なくとも一つ」という用語によって接続された項のリストは、リストされた項の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項A及び項Bがリストされている場合、「A及びBのうち少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、又はAとBを意味する。他の実例では、項A、項B、及び項Cがリストされている場合、「A、B、及びCのうち少なくとも一つ」という短句は、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとB(Cを除く)、AとC(Bを除く)、BとC(Aを除く)、又は、AとBとCのすべてを意味する。項Aは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項Bは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。項Cは、単一の要素又は複数の要素を含んでもよい。「少なくとも一種」という用語は、「少なくとも一つ」という用語と同様な意味を持つ。
【0030】
本明細書で使用されているように、「炭化水素基」という用語は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基を包含する。
【0031】
本明細書で使用されているように、「アルキル基」という用語は、炭素原子1~20を有する直鎖の飽和炭化水素構造と予期される。「アルキル基」は、炭素原子3~20を有する分岐鎖又は環状の炭化水素構造とも予期される。具体的な炭素原子数を有するアルキル基が指定された場合、このような炭素原子数を有する全ての幾何異性体をカバーすると予期される。従って、例えば、「ブチル基」は、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基及びシクロブチル基を含むことを意味する。「プロピル基」は、n-プロピル基、イソプロピル基、及びシクロプロピル基を含むことを意味する。アルキル基の実例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、ノルボルニル基などを含むが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書で使用されているように、「アルケニル基」という用語は、直鎖又は分岐鎖であって、且つ少なくとも一つ、通常は1つ、2つ又は3つの炭素-炭素二重結合を有する一価の不飽和炭化水素基を指す。特に定義されない限り、前記アルケニル基は、典型的には、炭素原子2~20を含有し、例えば、-C2-4アルケニル基、-C2-6アルケニル基、及び-C2-10アルケニル基が挙げられる。代表的なアルケニル基は、例えば、ビニル基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブト-2-アルケニル基、ブト-3-アルケニル基、n-ヘキサ-3-エニル基などを含む。
【0033】
本明細書で使用されているように、「アルキニル基」という用語は、直鎖又は分岐鎖であって、且つ少なくとも一つ、通常は1つ、2つ又は3つの炭素-炭素三重結合を有する一価の不飽和炭化水素基を指す。特に定義されない限り、前記アルキニル基は、典型的には、炭素原子2~20を含有し、例えば、-C2-4アルキニル基、-C3-6アルキニル基及-C3-10アルキニル基が挙げられる。代表的なアルキニル基は、例えば、エチニル基、プロプ-2-イニル基(n-プロピニル基)、n-ブト-2-イニル基、n-ヘキサ-3-イニル基などを含む。
【0034】
本明細書で使用されているように、「シアノ基」という用語は、-CN及び有機基に結合する-CNを含有する有機物を包含する。
【0035】
本明細書で使用されているように、「ハロゲン」という用語は、元素周期表の17族に属する安定な原子(例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)を指す。
【0036】
電気化学装置(例えばリチウムイオン電池)の電極(正極又は負極)は、通常、活性材料、導電剤、増粘剤、バインダー及び溶媒を混合して、混合したスラリーを集電体に塗布することにより作製される。しかしながら、溶媒とバインダーとの間又は溶媒と活性材料との間の整合性は一般に不十分であり、配合を困難にする。また、電気化学装置の理論容量は、活物質の種類によって異なる。サイクルが進行するにつれて、電気化学装置は、一般に、充電/放電容量が減少する現象を生じる。これは、電気化学装置の充電及び/又は放電時に電極界面が変化し、電極活物質が機能しなくなるためである。
【0037】
本発明は、特定の正極材料を使用することにより、サイクル中の電気化学装置の界面安定性を保証して、電気化学装置のサイクル特性を向上させる。本発明の特定の正極材料は、正極集電体のダイン値(正極集電体の表面張力を特徴付けることができる)及び正極合剤層のエッジのバリの長さを制御することによって達成される。
【0038】
一つの実施例において、本発明は、下記のような正極と負極と電解液とを備える電気化学装置を提供する。
I、正極
【0039】
正極は、正極集電体と前記正極集電体の一つ又は二つの表面に設置された正極合剤層とを備える。
1、正極集電体
【0040】
本発明の実施例において、正極集電体のダイン値は25dyn/cm~31dyn/cmである。いくつかの実施例において、正極集電体のダイン値は26dyn/cm~30dyn/cmである。正極集電体のダイン値は、25dyn/cm、26dyn/cm、27dyn/cm、28dyn/cm、29dyn/cm、30dyn/cm又は31dyn/cmである。正極集電体のダイン値(又は表面張力)が上記範囲内にあると、正極合剤層の塗布要求を満たすことができ、サイクル中の電気化学装置の容量維持に寄与する。
【0041】
正極集電体のダイン値は製造プロセスを制御することにより達成することができ、例えば、アルミニウム箔用圧延油及び添加剤の種類及び使用量を調整すること、アニール温度を制御すること、プラズマ処理などの方法を用いることにより達成することができる。
【0042】
正極集電体のダイン値は、正極集電体の表面にダインペンで線を描き、2~3秒後に、収縮して水滴に凝集するか否かを観察することにより測定することができる。水滴に収縮した場合、一段階低い数値のダインペンに変換して線をさらに描き、収縮せず、水滴がなくなるまで続け、物品の表面張力値を確定する。各サンプルについて少なくとも3回の測定を行い、異常点を除去して、平均値を算出し、当該平均値を正極集電体のダイン値とする。
【0043】
正極集電体の種類は、特に限定されず、正極集電体として好適に使用される公知の材料を使用することができる。正極集電体の実例は、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケルめっきアルミニウム、ステンレス鋼、チタン及びタンタルのうち少なくとも一つ;カーボンクロス、カーボンペーパーなどの炭素材料を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、正極集電体は、金属材料である。いくつかの実施例において、正極集電体は、アルミニウムである。
【0044】
いくつかの実施例において、前記正極集電体は、複数の微結晶を含み、前記微結晶は、アルミニウム微結晶及びアルミニウム合金微結晶のうち少なくとも一つを含む。いくつかの実施例において、前記微結晶の断面積が100μm以下である。いくつかの実施例において、前記微結晶の断面積が90μm以下である。いくつかの実施例において、前記微結晶の断面積が80μm以下である。いくつかの実施例において、前記微結晶の断面積が70μm以下である。いくつかの実施例において、前記微結晶の断面積が60μm以下である。
【0045】
いくつかの実施例において、前記正極集電体は、表面に改質されたアルミニウム箔、例えば、プラズマデバイスで処理されたアルミニウム箔を含む。表面に改質されたアルミニウム箔を用いることにより、表層の油汚れを効果的に除去して、表面の清浄度を著しく向上させることができる。同時に、深度洗浄の過程において、アルミニウム箔表面を活性化し、親水性を向上させる。また、プラズマグロー放電は、アルミニウム箔表層の酸化アルミニウムのパッシベーション層を効果的に破壊し、アルミニウム箔の導電性を向上させ、界面接触抵抗を低減させることができる。なお、改質されたアルミニウム箔表面の表面粗さが増加し、比表面積が増大して、正極合剤層とアルミニウム箔との間の接着力が向上し、電気化学装置の性能を改善することができる。
【0046】
正極集電体の形態は、特に限定されない。正極集電体が金属材料である場合、正極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属膜、金属プレートメッシュ、スタンピング金属、発泡メタル金属などを含むが、これらに限定されない。正極集電体が炭素材料である場合、正極集電体の形態は、炭素板、炭素膜、炭素円柱などを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、正極集電体は金属膜である。いくつかの実施例において、前記金属膜はメッシュ状である。
【0047】
正極集電体の厚みは、特に限定されない。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは1μm~1mmである。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは3μm~800μmである。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは5μm~500μmである。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは10μm~300μmである。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは50μm~200μmである。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは、1μm、3μm、5μm、10μm、15μm、20μm、30μm、50μm、100μm、200μm、300μm、500μm、800μm又は1000μmである。いくつかの実施例において、前記正極集電体の厚みは、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0048】
正極集電体及び正極活物質層の電子接触抵抗を低減するために、正極集電体の表面には、導電助剤を含んでもよい。導電助剤の実例は、炭素、及び金、白金、銀などの貴金属系を含むが、これらに限定されない。
2、正極合剤層
【0049】
本発明の実施例において、正極合剤層のエッジにバリがあり、前記バリの長さが4mm以下である。いくつかの実施例において、前記バリの長さが3mm以下である。いくつかの実施例において、前記バリの長さが2mm以下である。いくつかの実施例において、前記バリの長さが1mm以下である。正極合剤層のエッジのバリの長さが上記範囲内にあると、正極合剤層の塗布時の尾引き現象(即ち、少量の塗布スラリーが本体塗布領域から離脱する現象)が顕著に改善され、電気化学装置のサイクル特性の改善に寄与する。図1に示すように、従来の正極合剤層のエッジに長いバリがある。図2は、本発明の実施例3の正極のトポグラフィー図を示す図であり、ここで、正極合剤層のエッジが平坦であり、バリの長さが小さい。
【0050】
正極合剤層のエッジのバリの長さは、正極スラリーのレベリング性を制御することにより達成できる。正極スラリーのレベリング性の制御方法としては、正極スラリーに助剤を添加したり、正極活物質層表面に助剤コート層を設けることにより制御することができる。
【0051】
正極合剤層のエッジのバリの長さは、正極合剤層間隙において正極合剤層の尾引き(smearing)の最遠点と正極合剤層本体との距離をノギスで測定し、ノギスデータを読み取ってバリの長さとすることにより測定することができる。
【0052】
正極合剤層のエッジは、任意の方向のエッジであってもよい。いくつかの実施例において、正極合剤層のエッジは、塗布方向に沿った始端又は終端のエッジである。
【0053】
いくつかの実施例において、正極合剤層の端部と前記正極集電体の端部とが段差を形成しており、即ち、正極集電体に正極合剤層が配置されていない領域がある。
【0054】
いくつかの実施例において、正極合剤層のエッジのバリの長さと正極集電体の厚みとの比が300以下である。いくつかの実施例において、正極合剤層のエッジのバリの長さと正極集電体の厚みとの比が250以下である。いくつかの実施例において、正極合剤層のエッジのバリの長さと正極集電体の厚みとの比が200以下である。いくつかの実施例において、正極合剤層のエッジのバリの長さと正極集電体の厚みとの比が150以下である。いくつかの実施例において、正極合剤層のエッジのバリの長さと正極集電体の厚みとの比が100以下である。正極合剤層のエッジのバリの長さと正極集電体の厚みとの比が上記範囲内にあると、サイクル時の電気化学装置の容量維持に有利である。
【0055】
いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が22以下である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が20以下である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が15以下である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が10以下である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が0.5以上である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が0.8以上である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が1以上である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が3以上である。いくつかの実施例において、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極集電体の一方側の正極合剤層の厚みと正極集電体の厚みとの比が上記範囲内にあると、電気化学装置の高電流密度充放電時における正極集電体の放熱現象を抑制することができ、電気化学装置の容量を確保することができる。
【0056】
いくつかの実施例において、正極合剤層は界面活性剤を含み、前記正極合剤層の総重量に対する前記界面活性剤の含有量が0.5wt%以下である。いくつかの実施例において、前記正極合剤層の総重量に対する前記界面活性剤の含有量が0.3wt%以下である。いくつかの実施例において、前記正極合剤層の総重量に対する前記界面活性剤の含有量が0.2wt%以下である。いくつかの実施例において、前記正極合剤層の総重量に対する前記界面活性剤の含有量が0.1wt%以下である。
【0057】
いくつかの実施例において、前記界面活性剤の親水親油バランス値(HLB)が2~10である。いくつかの実施例において、前記界面活性剤の親水親油バランス値(HLB)が3~8である。いくつかの実施例において、前記界面活性剤の親水親油バランス値(HLB)は、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10。
【0058】
いくつかの実施例において、前記界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビトール蜜蝋誘導体、ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート、エチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノステアレート、ソルビタンセスキオレヘート、4,5-ポリオキシエチレンソルビトール-4,5-オレイン酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、ヒドロキシル化ラノリン、ソルビタンモノオレエート、モノラウリン酸プロピレングリコール、ソルビタンモノステアレート、ジエチレングリコールモノオレエート、ジエチレングリコールモノステアレート、ジエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(2EO)オレイルエーテル、メチルグルコシドセスキステアレート、ジエチレングリコールモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンジオレエート、テトラエチレングリコールモノステアレート、テトラエチレングリコールモノオレエート、ポリオキシプロピレンマンニトールジオレエート、ポリオキシエチレンソルビトールラノリンオレイン酸誘導体、ポリオキシエチレンソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシエチレン(5EO)ラノリンアルコールエーテル、ソルビタンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸、ポリオキシエチレンオキシプロピレンオレイン酸エステル、テトラエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(4EO)ソルビタンモノステアレート、ヘキサエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシプロピレン(5PO)ラノリンアルコールエーテル、及びポリオキシエチレン(5EO)ソルビタンモノオレエートのうち少なくとも一つを含む。
【0059】
いくつかの実施例において、正極合剤層は、N-メチルピロリドンを含み、前記正極合剤層の総重量に対する前記N-メチルピロリドンの含有量が100ppm以下である。いくつかの実施例において、前記正極合剤層の総重量に対する前記N-メチルピロリドンの含有量が80ppm以下である。いくつかの実施例において、前記正極合剤層の総重量に対する前記N-メチルピロリドンの含有量が50ppm以下である。いくつかの実施例において、前記正極合剤層の総重量に対する前記N-メチルピロリドンの含有量が30ppm以下である。
【0060】
正極合剤層は正極活物質層をさらに含み、正極活物質層は正極活物質を含む。正極活物質層は、単層であってもよく、複層であってもよい。複層正極活物質層における各層は、同一の正極活物質を含んでもよく、異なる正極活物質を含んでもよい。正極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な任意の物質である。
【0061】
正極活物質の種類は、特に限定されず、電気化学的に金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵及び放出することが可能であればよい。いくつかの実施例において、正極活物質は、リチウムと少なくとも一種の遷移金属とを含む物質である。正極活物質の実例は、リチウム遷移金属複合酸化物及びリチウム含有遷移金属りん酸化合物を含むが、これらに限定されない。
【0062】
いくつかの実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物における遷移金属はV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどを含む。いくつかの実施例において、リチウム遷移金属複合酸化物は、LiCoOなどのリチウムコバルト複合酸化物;LiNiOなどのリチウムニッケル複合酸化物;LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン複合酸化物;LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.5Mn0.3Co0.2などのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含み、これらのリチウム遷移金属複合酸化物の本体としての遷移金属原子の一部がNa、K、B、F、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Si、Nb、Mo、Sn、Wなどの他の元素で置換される。リチウム遷移金属複合酸化物の実例は、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.85Co0.10Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33、LiNi0.45Co0.10Al0.45、LiMn1.8Al0.2、及びLiMn1.5Ni0.5などを含むが、これらに限定されない。リチウム遷移金属複合酸化物の組み合わせの実例は、LiCoOとLiMnとの組み合わせを含むが、これらに限定されなく、LiMnにおけるMnの一部が遷移金属で置換されてもよく(例えば、LiNi0.33Co0.33Mn0.33)、LiCoOにおけるCoの一部が遷移金属で置換されてもよい。
【0063】
いくつかの実施例において、リチウム含有遷移金属りん酸化合物における遷移金属は、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuなどを含む。いくつかの実施例において、リチウム含有遷移金属りん酸化合物は、LiFePO、LiFe(PO、LiFePなどのりん酸鉄系、LiCoPOなどのりん酸コバルト系を含み、これらのリチウム含有遷移金属りん酸化合物の本体としての遷移金属原子の一部がAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Siなどの他の元素で置換される。
【0064】
いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極活物質の含有量が80wt%超、82wt%超、或いは84wt%超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極活物質の含有量が99wt%未満、或いは98wt%未満である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極活物質の含有量は、上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の含有量が上記範囲内にあると、正極活物質層における正極活物質の電気容量を確保しつつ正極の強度を維持することができる。
【0065】
いくつかの実施例において、正極活物質には、電気化学装置の連続充電特性を向上させることができるりん酸リチウムを含む。りん酸リチウムの使用については、制限されない。いくつかの実施例において、正極活物質とりん酸リチウムとを混合して使用する。いくつかの実施例において、前記正極活物質とりん酸リチウムとの総重量に対するりん酸リチウムの含有量が0.1wt%超、0.3wt%超、或いは0.5wt%超である。いくつかの実施例において、前記正極活物質とりん酸リチウムとの総重量に対するりん酸リチウムの含有量が10wt%未満、8wt%未満、或いは5wt%未満である。いくつかの実施例において、りん酸リチウムの含有量が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0066】
前記正極活物質の表面に、これと異なる組成の物質を付着していてもよい。表面付着物質の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどの酸化物;硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;炭素;などを含むが、これらに限定されない。
【0067】
これらの表面付着物質は、表面付着物質を溶媒に溶解又は懸濁させて正極活物質に含浸添加し、乾燥する方法;表面付着物質の前駆体を溶媒に溶解又は懸濁させ、当該正極活物質に含浸添加した後、加熱等により反応させる方法;及び表面付着物質を正極活物質の前駆体に添加して同時に焼成する方法等により、正極活物質の表面に付着することができる。炭素を付着する場合、炭素材料(例えば、活性炭など)を機械的に付着する方法も用いることができる。
【0068】
いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する表面付着物質の含有量が0.1ppm超、1ppm超、或いは10ppm超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する表面付着物質の含有量が20%未満、10%未満、或いは5%未満である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する表面付着物質の含有量が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0069】
正極活物質の表面に物質を付着することにより、正極活物質の表面での電解液の酸化反応を抑制することができ、電気化学装置の寿命を向上させることができる。表面付着物質の量が少なすぎると、その効果が十分に発現せず、表面付着物質の量が多すぎると、リチウムイオンの出入りを阻害するため、抵抗が増加する場合がある。
【0070】
本発明において、正極活物質の表面に正極活物質とは異なる組成を有する物質を付着しているものも、「正極活物質」という。
【0071】
いくつかの実施例において、正極活物質の粒子の形状は、塊状、多面体状、球状、楕円球状、板状、針状、及び柱状などを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、正極活物質の粒子は、一次粒子、二次粒子又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、一次粒子は、凝集して二次粒子を形成してもよい。
【0072】
いくつかの実施例において、正極活物質のタップ密度は、0.5g/cm超、0.8g/cm超、或いは1.0g/cm超である。正極活物質のタップ密度が上記範囲内にあると、正極活物質層を形成する時に必要な分散媒の量及び導電材と正極バインダーの必要量を抑制することができるため、正極活物質の充填率及び電気化学装置の容量を確保することができる。タップ密度の高い複合酸化物粉体を用いることにより、高密度の正極活物質層を形成することができる。タップ密度は、通常、大きいほど好ましく、特に上限がない。いくつかの実施例において、正極活物質のタップ密度は、4.0g/cm未満、3.7g/cm未満、或いは3.5g/cm未満である。正極活物質のタップ密度が上記のような上限を有すると、負荷特性の低下を抑制することができる。
【0073】
正極活物質のタップ密度は、正極活物質粉体5~10gを10mLのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップして、粉体充填密度(タップ密度)を算出することができる。
【0074】
正極活物質の粒子が一次粒子である場合、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)とは、正極活物質の粒子の一次粒子径を指す。正極活物質の粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)とは、正極活物質の粒子の二次粒子径を指す。
【0075】
いくつかの実施例において、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、0.3μm超、0.5μm超、0.8μm超、或いは1.0μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、30μm未満、27μm未満、25μm未満、或いは22μm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の粒子のメディアン径(D50)が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の粒子のメディアン径(D50)が上記範囲内にあると、タップ密度が高い正極活物質を得ることができ、電気化学装置の特性の低下を抑制することができる。一方、電気化学装置の正極の調製過程(即ち、正極活物質、導電材及びバインダーなどを溶媒でスラリー化し、膜状に塗布する時)において、スジの発生などの問題を防止することができる。ここで、異なるメディアン径を持つ正極活物質を二種以上混合することにより、正極調製時の充填性を更に向上させることができる。
【0076】
正極活物質の粒子のメディアン径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置によって測定することができる。粒度分布計としてHORIBA社製LA-920を用いる場合、測定の際に用いる分散媒として0.1wt%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散後に、測定屈折率を1.24に設定して測定される。
【0077】
正極活物質の粒子の一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、0.05μm超、0.1μm超、或いは0.5μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径は、5μm未満、4μm未満、3μm未満、或いは2μm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の平均一次粒子径が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の平均一次粒子径が上記範囲内にあると、粉体填充性及び比表面積を確保することができ、電池特性の低下を抑制することができ、且つ適切な結晶性を得るため、電気化学装置の充放電の可逆性を確保することができる。
【0078】
正極活物質の平均一次粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)による画像に対する観察により得られる。倍率が10000倍であるSEM画像において、任意の50個の一次粒子について、一次粒子の水平方向の直線に対する左右の境界線がなす切片の最長値を求め、平均値を算出することにより、平均一次粒子径が得られる。
【0079】
いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、0.1m/g超、0.2m/g超、或いは0.3m/g超である。いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)は、50m/g未満、40m/g未満、或いは30m/g未満である。いくつかの実施例において、正極活物質の比表面積(BET)が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質の比表面積(BET)が上記範囲内にあると、電気化学装置の特性を確保しつつ正極活物質に良好な塗布性を持たせることができる。
【0080】
正極活物質の比表面積(BET)は、表面積計(例えば、大倉理研製の全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下150℃で30分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって測定することができる。
【0081】
正極導電材の種類は、限定されず、任意の既知の導電材を用いることができる。正極導電材の実例は、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラックなどの炭黒;ニードルコークス等の無定形炭素などの炭素材料;カーボンナノチューブ;グラフェンなどを含むが、これらに限定されない。前記正極導電材は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0082】
いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極導電材の含有量は、0.01wt%超、0.1wt%超、或いは1wt%超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極導電材の含有量は、50wt%未満、30wt%未満、或いは15wt%未満である。正極導電材の含有量が上記範囲内にあると、十分な導電性及び電気化学装置の容量を確保することができる。
【0083】
正極活物質層の製造に用いる正極バインダーの種類は、特に限定されず、塗布法を使用する場合、電極製造時に用いる液体媒体における溶解又は分散可能な材料であればよい。正極バインダーの実例は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロースなどの樹脂系高分子;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムなどのゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物などの熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂状高分子;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体などのフッ素系高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物などのうち一種又は多種を含むが、これらに限定されない。前記正極バインダーは、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0084】
いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極バインダーの含有量は、0.1wt%超、1wt%超、或いは1.5wt%超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する正極バインダーの含有量は、80wt%未満、60wt%未満、40wt%未満、或いは10wt%未満である。正極バインダーの含有量が上記範囲内にあると、正極に良好な導電性及び十分な機械的強度を持たせつつ電気化学装置の容量を確保することができる。
【0085】
正極スラリーを形成するための溶媒の種類は、限定されず、正極活物質、導電材、正極バインダー、並びに必要に応じて使用される増粘剤を溶解又は分散可能な溶媒であればよい。正極スラリーを形成するための溶媒の実例は、水系溶媒及び有機系溶媒のうちいずれか1つを含んでもよい。水系溶媒の実例は、水、及びアルコールと水との混合媒体などを含むが、これらに限定されない。有機系溶媒の実例は、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素類;キノリン、ピリジンなどの複素環化合物;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、アクリル酸メチルなどのエステル類;ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミンなどのアミン類;ジエチルエーテル、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒などを含むが、これらに限定されない。
【0086】
増粘剤は、通常、スラリーの粘度を調製するために使用されるものである。水系溶媒を用いる場合、増粘剤及びスチレン-ブタジエンゴム(SBR)エマルジョンを用いてスラリー化することができる。増粘剤の種類は、特に限定されず、その実例は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、りん酸化スターチ、カゼイン及びこれらの塩などを含むが、これらに限定されない。前記増粘剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0087】
いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する増粘剤の含有量は、0.1wt%超、0.2wt%超、或いは0.3wt%超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する増粘剤の含有量は、5wt%未満、3wt%未満、或いは2wt%未満である。いくつかの実施例において、正極活物質層の総重量に対する増粘剤の含有量が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。増粘剤の含有量が上記範囲内にあると、正極スラリーに良好な塗布性を持たせつつ電気化学装置の容量の低下及び抵抗の増大を抑制することができる。
【0088】
塗布と乾燥によって得られた正極活物質層については、正極活物質の充填密度を上げるために、ハンドプレス、ローラープレスなどにより圧密処理をすることができる。いくつかの実施例において、正極活物質層の密度は、1.5g/cm超、2g/cm超、或いは2.2g/cm超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の密度は、5g/cm未満、4.5g/cm未満、或いは4g/cm未満である。いくつかの実施例において、正極活物質層の密度が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。正極活物質層の密度が上記範囲内にあると、電気化学装置に良好な充放電特性を持たせつつ抵抗の増大を抑制することができる。
【0089】
正極活物質層の厚みとは、正極集電体の任意の一方側にある正極活物質層の厚みを指す。いくつかの実施例において、正極活物質層の厚みは、10μm超、或いは20μm超である。いくつかの実施例において、正極活物質層の厚みは、500μm未満、或いは450μm未満である。
【0090】
正極活物質は、無機化合物を製造する一般的な方法によって製造することができる。球状又は楕円球状の正極活物質を作成するために、以下の製造方法を採用することができる。原料物質としての遷移金属を水などの溶媒に溶解又は粉砕分散して、攪拌しながらpHを調節して、球状の前駆体を作成し、回収し、これを必要に応じて乾燥した後、LiOH、LiCO、LiNOなどのLi源を加えて、高温で焼成して正極活物質を得る。
【0091】
正極は、正極活物質と粘着性物質とを含有する正極合剤層を正極集電体上に形成することにより作製される。正極活物質を用いる正極の製造は、常法により行うことができる。即ち、正極活物質と粘着性物質、並びに必要に応じて導電材及び増粘剤などを乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着すること;或いは、これらの材料を液体媒体に溶解又は分散させてスラリーとし、当該スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥して、正極合剤層を集電体上に形成させることによって正極を得ることができる。
II、電解液
【0092】
本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、電解質とこの電解質を溶ける溶媒とを含む。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、添加剤をさらに含む。
【0093】
いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置に用いられる電解液は、
(a)シアノ基を有する化合物
(b)ジフルオロリン酸リチウム、及び
(c)式1で示される化合物のうち少なくとも一つを含み、
【化2】
ここで、Rは置換又は非置換のC-C10炭化水素基であり、置換された場合、置換基はハロゲンである。
(a)シアノ基を有する化合物
【0094】
シアノ基を有する化合物は、分子内に少なくとも一つのシアノ基を有する有機化合物であれば、特に限定されない。
【0095】
いくつかの実施例において、前記シアノ基を有する化合物は、式2で示される構造、式3で示される構造、式4で示される構造、及び式5で示される構造のうち少なくとも一つを含む。
【化3】
式2で示される化合物
【0096】
いくつかの実施例において、前記シアノ基を有する化合物が式2を含む。
【化4】
【0097】
式2で示される化合物の分子量は、特に限定されない。いくつかの実施例において、式2で示される化合物の分子量は、55超、65超、或いは80超である。いくつかの実施例において、式2で示される化合物の分子量は、310未満、185未満、或いは155未満である。前記分子量を有する式2で示される化合物は、電解液中で適切な溶解性を有する。
【0098】
いくつかの実施例において、式2中のAは、C2-20アルキル基、C2-20ハロゲン化アルキル基、C2-20アルケニル基、C2-20ハロゲン化アルケニル基、C2-20アルキニル基、C2-20ハロゲン化アルキニル基、C6-30アリール基、及びC6-30ハロゲン化アリール基からなる群より選択される。いくつかの実施例において、Aは、C2-15直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、及びC2-4アルケニル基からなる群より選択される。いくつかの実施例において、Aは、C2-12直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基である。いくつかの実施例において、Aは、C4-11直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基である。いくつかの実施例において、Aは、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、t-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などのアルキル基;ビニル基、1-プロピレン基、イソプロピレン基、1-ブテン基、1-ペンテニル基などのアルケニル基;エチニル基、1-プロピニル基、1-ブチニル基、1-ペンチニル基などのアルキニル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、n-ブチルフェニル基、s-ブチルフェニル基、イソブチルフェニル基、t-ブチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、キシレン基、ベンジル基、フェネチル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基などのアリール基などからなる群より選択される。
【0099】
式2で示される化合物の実例は、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプタンニトリル、オクタンニトリル、ノナンニトリル、デカンニトリル、ウンデカンニトリル、ドデカンニトリル、シクロペンタンカルボニトリル、シクロヘキサンカルボニトリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブテンニトリル、3-メチルブテンニトリル、2-メチル-2-ブテンニトリル、2-ペンテンニトリル、2-メチル-2-ペンテンニトリル、3-メチル-2-ペンテンニトリル、及び2-ヘキセンニトリルなどを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、式2で示される化合物は、バレロニトリル、オクタンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル、及びブテンニトリルからなる群より選択される。いくつかの実施例において、式2で示される化合物は、バレロニトリル、デカンニトリル、及びブテンニトリルからなる群より選択される。
式3で示される化合物
【0100】
いくつかの実施例において、前記シアノ基を有する化合物が式3を含む。
【化5】
【0101】
式3で示される化合物の分子量は、特に限定されない。式3で示される化合物の分子量が小さいほど、分子中のシアノ基の割合が大きくなり、分子の粘度が高くなり、分子量が大きいほど、化合物の沸点が高くなる。いくつかの実施例において、式3で示される化合物の分子量は、65超、80超、或いは90超である。いくつかの実施例において、式3で示される化合物の分子量は、270未満、160未満、或いは135未満である。前記分子量を有する式3で示される化合物は、電解液中で適切な粘度、沸点及び溶解度を有する。
【0102】
いくつかの実施例において、式3中のAは、炭素原子1~30を有する有機基であり、前記有機基は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子のうち少なくとも一つからなる。いくつかの実施例において、前記有機基は、炭素原子及び水素原子を含み、ヘテロ原子である窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子のうち少なくとも一つをさらに含み、ここで、前記炭素原子及び前記水素原子は前記有機基の骨格構造を構成し、前記骨格構造における一部の炭素原子は前記ヘテロ原子で置換されるか、及び/又は前記有機基は前記炭素原子、前記水素原子及び/又は前記ヘテロ原子で構成される置換基を含む。
【0103】
いくつかの実施例において、Aは、C2-20アルキレン基、C2-20ハロゲン化アルキレン基、C2-20アルケニレン基、C2-20ハロゲン化アルケニレン基、C2-20アルキニレン基、C2-20ハロゲン化アルキニレン基、C6-30アリーレン基、C6-30ハロゲン化アリーレン基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィニル基、エーテル基、チオエーテル基、ジヒドロカルビルボロン酸基、及びボラン基からなる群より選択される。いくつかの実施例において、Aは、C2-20アルキレン基、C2-20ハロゲン化アルキレン基、C2-20アルケニレン基、C2-20ハロゲン化アルケニレン基、C2-20アルキニレン基、C2-20ハロゲン化アルキニレン基、C6-30アリーレン基、又はC6-30ハロゲン化アリーレン基からなる群より選択される。いくつかの実施例において、AはC2-5アルキレン基又はC2-5ハロゲン化アルキレン基である。
【0104】
式3で示される化合物の実例は、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、オクタンジニトリル、アゼラニトリル、セバコニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル、メチルマロノニトリル、エチルマロノニトリル、イソプロピルマロノニトリル、t-ブチルマロノニトリル、メチルスクシノニトリル、2,2-ジメチルスクシノニトリル、2,3-ジメチルスクシノニトリル、2,3,3-トリメチルスクシノニトリル、2,2,3,3-テトラメチルスクシノニトリル、2,3-ジエチル-2,3-ジメチルスクシノニトリル、2,2-ジエチル-3,3-ジメチルスクシノニトリル、ビシクロヘキサン1,1-ジカルボニトリル、ビシクロヘキサン2,2-ジカルボニトリル、ビシクロヘキサンー3,3-ジカルボニトリル、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジカルボニトリル、2,3-ジイソブチル基-2,3-ジメチルスクシノニトリル、2,2-ジイソブチル基-3,3-ジメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,3-ジメチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,3,3-テトラメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、2,2,3,4-テトラメチルグルタロニトリル、2,3,3,4-テトラメチルグルタロニトリル、マレオニトリル、フマロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、2,6-ジシアノヘプタン、2,7-ジシアノオクタン、2,8-ジシアノノナン、1,6-ジシアノデカン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、3,3'-(エチレンジオキシ)ジプロピオニトリル、3,3'-(エチレンジチオ)ジプロピオニトリル、及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどを含むが、これらに限定されない。
【0105】
いくつかの実施例において、式3で示される化合物は、マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、オクタンジニトリル、アゼラニトリル、セバコニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル、及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、及びフマロニトリルからなる群より選択される。いくつかの実施例において、式3で示される化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ヘプタンジニトリル、オクタンジニトリル、グルタロニトリル、及び3,9-ビス(2-シアノエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンからなる群より選択される。いくつかの実施例において、式3で示される化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、及びヘプタンジニトリルからなる群より選択される。
式4で示される化合物
【0106】
いくつかの実施例において、前記シアノ基を有する化合物が式4を含む。
【化6】
【0107】
いくつかの実施例において、式4中のAは、炭素原子1~30を有する有機基であり、前記有機基は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子のうち少なくとも一つからなる。いくつかの実施例において、前記有機基は、炭素原子及び水素原子を含み、ヘテロ原子である窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子のうち少なくとも一つをさらに含み、ここで、前記炭素原子及び前記水素原子は前記有機基の骨格構造を構成し、前記骨格構造における一部の炭素原子は前記ヘテロ原子で置換されか、及び/又は前記有機基は前記炭素原子、前記水素原子及び/又は前記ヘテロ原子で構成される置換基を含む。
【0108】
いくつかの実施例において、Aは、C2-20アルキレン基、C2-20ハロゲン化アルキレン基、C2-20アルケニレン基、C2-20ハロゲン化アルケニレン基、C2-20アルキニレン基、C2-20ハロゲン化アルキニレン基、C6-30アリーレン基、C6-30ハロゲン化アリーレン基、及びC2-20アルコキシ基からなる群より選択される。
【0109】
いくつかの実施例において、Aは、C2-12アルキレン基、C2-12ハロゲン化アルキレン基、C2-12アルケニレン基、C2-12ハロゲン化アルケニレン基、C2-12アルキニレン基、C2-12ハロゲン化アルキニレン基、及びC2-12アルコキシ基からなる群より選択される。
【0110】
いくつかの実施例において、nは0~5の整数である。いくつかの実施例において、nは、0、1、2、3、4又は5である。
【0111】
式4で示される化合物の実例は、以下の化合物を含むが、これらに限定されない。
【化7】
式5で示される化合物
【0112】
いくつかの実施例において、前記シアノ基を有する化合物が式5を含む。
【化8】
【0113】
式5で示される化合物の分子量は、特に限定されない。いくつかの実施例において、式5で示される化合物の分子量は、90超、120超、或いは150超である。いくつかの実施例において、式5で示される化合物の分子量は、450未満、300未満、或いは250未満である。前記分子量を有する式5で示される化合物は、電解液中で適切な溶解性を有する。
【0114】
いくつかの実施例において、式5中のA及びAは、それぞれ独立して、C2-20アルキレン基、C2-20ハロゲン化アルキレン基、C2-20アルケニレン基、C2-20ハロゲン化アルケニレン基、C2-20アルキニレン基、C2-20ハロゲン化アルキニレン基、C6-30アリーレン基、及びC6-30ハロゲン化アリーレン基からなる群より選択される。いくつかの実施例において、A及びAは、それぞれ独立して、C2-5アルキレン基、C2-5ハロゲン化アルキレン基、C2-5アルケニレン基、C2-5ハロゲン化アルケニレン基、C2-5アルキニレン基、及びC2-5ハロゲン化アルキニレン基からなる群より選択される。いくつかの実施例において、A及びAは、それぞれ独立して、メチレン基、エチレン基、1,3-プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、1,2-エテニレン基、1-プロペニレン基、2-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、2-ペンテニレン基、エチニレン基、プロピニレン基、1-ブチニレン基、2-ブチニレン基、1-ペンチニレン基、及び2-ペンチニレン基からなる群より選択される。
【0115】
いくつかの実施例において、A及びAは、それぞれ独立して、メチレン基、エチレン基、1,3-プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基からなる群より選択され、より好ましくはメチレン基、エチレン基、又は1,3-プロピレン基である。
【0116】
式5で示される化合物の実例は、以下の化合物を含むが、これらに限定されない。
【化9】
【0117】
いくつかの実施例において、シアノ基を有する化合物は、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,5-ジシアノペンタン、1,6-ジシアノヘキサン、テトラメチルスクシノニトリル、2-メチルグルタロニトリル、2,4-ジメチルグルタロニトリル、2,2,4,4-テトラメチルグルタロニトリル、1,4-ジシアノペンタン、1,2-ジシアノベンゼン、1,3-ジシアノベンゼン、1,4-ジシアノベンゼン、エチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル、3,5-ジオキサ-ピメロニトリル、1,4-ビス(シアノエトキシ)ブタン、ジエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-シアノエチル)エーテル、1,3-ビス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,4-ビス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,5-ビス(2-シアノエトキシ)ペンタン、エチレングリコールビス(4-シアノブチル)エーテル、1,4-ジシアノ-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-メチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2-エチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジメチル-2-ブテン、1,4-ジシアノ-2,3-ジエチル-2-ブテン、1,6-ジシアノ-3-ヘキセン、1,6-ジシアノ-2-メチル-3-ヘキセン、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,6-ヘキサントリカルボニトリル、1,2,3-トリス(2-シアノエトキシ)プロパン、1,2,4-トリス(2-シアノエトキシ)ブタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)エタン、1,1,1-トリス(シアノエトキシメチレン)プロパン、3-メチル-1,3,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタン、1,2,7-トリス(シアノエトキシ)ヘプタン、1,2,6-トリス(シアノエトキシ)ヘキサン、及び1,2,5-トリス(シアノエトキシ)ペンタンのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0118】
前記シアノ基を有する化合物は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。電解液が二種又は多種のシアノ基を有する化合物を含む場合、シアノ基を有する化合物の含有量とは、二種又は多種のシアノ基を有する化合物の総含有量と指す。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、0.001wt%超である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、0.01wt%超である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、0.1wt%超である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、10wt%未満である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、8wt%未満である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、5wt%未満である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、2wt%未満である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、1wt%未満である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量は、0.5wt%未満である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記シアノ基を有する化合物の含有量が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記シアノ基を有する化合物の含有量が上記範囲内にあると、電気化学装置の出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性及び高温保存特性などの特性の向上に寄与する。
(b)ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
【0119】
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.01wt%~1wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.05wt%~0.8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.1wt%~0.5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.1wt%~0.4wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.2wt%~0.35wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記ジフルオロリン酸リチウムの含有量は0.25wt%~0.3wt%である。
(c)式1で示される化合物
【0120】
式1で示される化合物の実例は以下を含むが、これらに限定されない。
【化10】
【0121】
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記式1で示される化合物の含有量は0.01wt%~15wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記式1で示される化合物の含有量は0.05wt%~12wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記式1で示される化合物の含有量は0.1wt%~10wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記式1で示される化合物の含有量は0.5wt%~8wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記式1で示される化合物の含有量は1wt%~5wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記式1で示される化合物の含有量は2wt%~4wt%である。
溶媒
【0122】
いくつかの実施例において、前記電解液は、先行技術で既知の任意の電解液の溶媒として可能な非水系溶媒をさらに含む。
【0123】
いくつかの実施例において、前記非水系溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、環状エーテル、鎖状エーテル、リン含有有機溶媒、硫黄含有有機溶媒及び芳香族フッ素含有溶媒のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0124】
いくつかの実施例において、前記環状カーボネートの実例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネートのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記環状カーボネートは、炭素原子3~6を有する。
【0125】
いくつかの実施例において、前記鎖状カーボネートの実例は、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネートなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。フッ素で置換された鎖状カーボネートの実例は、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロメチル)カーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート、ビス(2-フルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、2-フルオロエチルメチルカーボネート、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0126】
いくつかの実施例において、前記非水系溶媒はカルボン酸エステルを含む。いくつかの実施例において、前記電解液における前記カルボン酸エステルの含有量X mgと前記正極合剤層の反応面積Y mとが、10≦(X/Y)≦100を満たす。いくつかの実施例において、X及びYは、10≦(X/Y)<100を満たす。いくつかの実施例において、X及びYは、20≦(X/Y)<70を満たす。
【0127】
正極合剤層の反応面積は、以下のように得られる。表面積計(大倉理研製の全自動表面積測定装置)を用い、試料に対して窒素流通下350℃で15分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって、正極合剤層の比表面積(m/g)を測定する。正極合剤層の比表面積とは、正極活物質と添加剤(バインダー、導電剤、増粘剤及び填料など)とを含む正極合剤層全体の比表面積を指す。正極合剤層の重量、即ち、正極活物質と添加剤(バインダー、導電剤、増粘剤及び填料など)とを含む正極合剤層全体の総重量を測定する。正極合剤層の反応面積は、以下の式により算出する。
【式1】
【0128】
いくつかの実施例において、前記カルボン酸エステルは、鎖状カルボン酸エステル及び環状カルボン酸エステルのうち少なくとも一つを含む。
【0129】
いくつかの実施例において、前記環状カルボン酸エステルの実例は、γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトンのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、環状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0130】
いくつかの実施例において、前記鎖状カルボン酸エステルの実例は、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、ピバリン酸メチル及びピバリン酸エチルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、鎖状カルボン酸エステルの水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。いくつかの実施例において、フッ素で置換された鎖状カルボン酸エステルの実例は、トリフルオロ酢酸メチル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル及びトリフルオロ酢酸2,2,2-トリフルオロエチルなどを含むが、これらに限定されない。
【0131】
いくつかの実施例において、前記環状エーテルの実例は、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン及びジメトキシプロパンのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0132】
いくつかの実施例において、前記鎖状エーテルの実例は、ジメトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン、1,2-ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、1,1-エトキシメトキシエタン及び1,2-エトキシメトキシエタンなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0133】
いくつかの実施例において、前記リン含有有機溶媒の実例は、りん酸トリメチル、りん酸トリエチル、りん酸ジメチルエチル、りん酸メチルジエチル、りん酸エチレンメチル、りん酸エチレンエチル、りん酸トリフェニル、亜りん酸トリメチル、亜りん酸トリエチル、亜りん酸トリフェニル、りん酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)及びりん酸トリス(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル)などのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0134】
いくつかの実施例において、前記硫黄含有有機溶媒の実例は、スルホラン、2-メチルスルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルプロピルスルホン、ジメチルスルホキシド、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸メチル、エタンスルホン酸エチル、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル及び硫酸ジブチルのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、硫黄含有有機溶媒の水素原子の一部は、フッ素で置換されてもよい。
【0135】
いくつかの実施例において、前記芳香族フッ素含有溶媒は、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、テトラフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン及びトリフルオロメチルベンゼンのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0136】
いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状カルボン酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸n-プロピル及び酢酸エチルのうち少なくとも一つを含む。いくつかの実施例において、本発明の電解液に用いられる溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、及びそれらの組み合わせを含む。
【0137】
電解液に鎖状カルボン酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルを添加した後、鎖状カルボン酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルが電極表面にパッシベーション膜を形成することができ、これによって、電気化学装置の断続的な充電サイクル後の容量維持率を向上させることができる。いくつかの実施例において、前記電解液は、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、及びそれらの組み合わせ1wt%~60wt%を含む。いくつかの実施例において、前記電解液は、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、及びそれらの組み合わせを含み、電解液の総重量に対する当該組み合わせの含有量は1wt%~60wt%、10wt%~60wt%、10wt%~50wt%、20wt%~50wt%である。いくつかの実施例において、前記電解液は、電解液の総重量に対して、プロピオン酸プロピル1wt%~60wt%、10wt%~60wt%、20wt%~50wt%、20wt%~40wt%、又は30wt%を含有する。
添加剤
【0138】
いくつかの実施例において、前記添加剤の実例は、フルオロカーボネート、炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネート、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物及び酸無水物のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0139】
いくつかの実施例において、前記電解液の総重量に対する前記添加剤の含有量は0.01%~15%、0.1%~10%、又は1%~5%である。
【0140】
本発明の実施例によれば、前記電解液の総重量に対する前記プロピオネートの含有量は前記添加剤の1.5~30倍、1.5~20倍、2~20倍又は5~20倍である。
【0141】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートの少なくとも一つを含む。リチウムイオン電池の充電/放電中に、フルオロカーボネートがプロピオネートと一緒に協働して負極の表面に安定な保護膜を形成することができるため、電解液の分解反応を抑制することができる。
【0142】
いくつかの実施例において、前記フルオロカーボネートは、式C=O(OR)(OR)構造を備え、ここで、R及びRは、それぞれ独立して、炭素原子1~6を有するアルキル基又はハロゲン化ルキル基からなる群より選択され、R及びRのうち少なくとも一つは、炭素原子1~6を有するフルオロアルキル基からなる群より選択され、且つR及びRは、任意に、それらが連結する原子とともに5~7員環を形成する。
【0143】
いくつかの実施例において、前記フルオロカーボネートの実例は、フルオロエチレンカーボネート、シス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、トランス-4,4-ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、4-フルオロ-4-メチルエチレンカーボネート、4-フルオロ-5-メチルエチレンカーボネート、炭酸トリフルオロメチルメチル、炭酸トリフルオロエチルメチル、および炭酸エチルトリフルオロエチルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0144】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートの少なくとも一つを含む。前記炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートの実例は、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、1,2-ジメチルビニレンカーボネート、1,2-ジエチルビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート;ビニルエチレンカルボナート、1-メチル-2-ビニルエチレンカルボナート、1-エチル-2-ビニルエチレンカルボナート、1-n-プロピル-2-ビニルエチレンカルボナート、1-メチル-2-ビニルエチレンカルボナート、1,1-ジビニルエチレンカルボナート、1,2-ジビニルエチレンカルボナート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカルボナート及び1,1-ジエチル-2-メチレンエチレンカルボナートなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートは、入手しやすく更なる優れた効果を達成できるビニレンカーボネートを含む。
【0145】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の少なくとも一つを含む。前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の実例は、環状硫酸エステル、鎖状硫酸エステル、鎖状スルホン酸エステル、環状スルホン酸エステル、鎖状亜硫酸エステル及び環状亜硫酸エステルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0146】
前記環状硫酸エステルの実例は、1,2-エチレングリコール硫酸エステル、1,2-プロピレングリコール硫酸エステル、1,3-プロピレングリコール硫酸エステル、1,2-ブタンジオール硫酸エステル、1,3-ブタンジオール硫酸エステル、1,4-ブタンジオール硫酸エステル、1,2-ペンタンジオール硫酸エステル、1,3-ペンタンジオール硫酸エステル、1,4-ペンタンジオール硫酸エステル及び1,5-ペンタンジオール硫酸エステルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0147】
前記鎖状硫酸エステルの実例は、硫酸ジメチル、硫酸エチルメチル及び硫酸ジエチルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0148】
前記鎖状スルホン酸エステルの実例は、フルオロスルホン酸メチル及びフルオロスルホン酸エチルなどのフルオロスルホン酸エステル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸メチル、及び2-(メタンスルホニルオキシ)プロピオン酸エチルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0149】
前記環状スルホン酸エステルの実例は、1,3-プロパンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、1-メチル-1,3-プロパンスルトン、2-メチル-1,3-プロパンスルトン、3-メチル-1,3-プロパンスルトン、1-プロペン-1,3ースルトン、2-プロペン-1,3ースルトン、1-フルオロ-1-プロペン-1,3ースルトン、2-フルオロ-1-プロペン-1,3ースルトン、3-フルオロ-1-プロペン-1,3ースルトン、1-フルオロ-2-プロペン-1,3ースルトン、2-フルオロ-2-プロペン-1,3ースルトン、3-フルオロ-2-プロペン-1,3ースルトン、1-メチル-1-プロペン-1,3ースルトン、2-メチル-1-プロペン-1,3ースルトン、3-メチル-1-プロペン-1,3ースルトン、1-メチル-2-プロペン-1,3ースルトン、2-メチル-2-プロペン-1,3ースルトン、3-メチル-2-プロペン-1,3ースルトン、1,4-ブタンスルトン、1,5-ペンタンスルトン、メチレンメタンジスルホン酸エステル及びエチレンメタンジスルホン酸エステルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0150】
前記鎖状亜硫酸エステルの実例は、亜硫酸ジメチル、亜硫酸エチルメチル及び亜硫酸ジエチルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0151】
前記環状亜硫酸エステルの実例は、1,2-エチレングリコール亜硫酸エステル、1,2-プロピレングリコール亜硫酸エステル、1,3-プロピレングリコール亜硫酸エステル、1,2-ブタンジオール亜硫酸エステル、1,3-ブタンジオール亜硫酸エステル、1,4-ブタンジオール亜硫酸エステル、1,2-ペンタンジオール亜硫酸エステル、1,3-ペンタンジオール亜硫酸エステル、1,4-ペンタンジオール亜硫酸エステル及び1,5-ペンタンジオール亜硫酸エステルなどのうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0152】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、酸無水物の少なくとも一つを含む。前記酸無水物の実例は、環状リン酸無水物、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物及びカルボン酸スルホン酸無水物のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。前記環状リン酸無水物の実例は、トリメチルリン酸環状無水物、トリエチルリン酸環状無水物及びトリプロピルリン酸環状無水物のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。前記カルボン酸無水物の実例は、コハク酸無水物、グルタル酸無水物及びマレイン酸無水物のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。前記ジスルホン酸無水物の実例は、エタンジスルホン酸無水物及びプロパンジスルホン酸無水物のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。前記カルボン酸スルホン酸無水物の実例は、スルホ安息香酸無水物、スルホプロピオン酸無水物及びスルホブタン酸無水物のうち少なくとも一つを含むが、これらに限定されない。
【0153】
いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと炭素-炭素二重結合を含有するエチレンカーボネートとの組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと硫黄-酸素二重結合を含有する化合物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとシアノ基2~4を有する化合物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと環状カルボン酸エステルとの組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートと環状リン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとカルボン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとスルホン酸無水物との組み合わせである。いくつかの実施例において、前記添加剤は、フルオロカーボネートとカルボン酸スルホン酸無水物との組み合わせである。
電解質
【0154】
電解質は、特に限定されず、電解質として公知の物質を任意に使用することができる。リチウム二次電池の場合、通常、リチウム塩が用いられる。電解質の実例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlF、LiSbF、LiTaF、LiWFなどの無機リチウム塩;LiWOFなどのタングステン酸リチウム類;HCOLi、CHCOLi、CHFCOLi、CHFCOLi、CFCOLi、CFCHCOLi、CFCFCOLi、CFCFCFCOLi、CFCFCFCFCOLiなどのカルボン酸リチウム塩類;FSOLi、CHSOLi、CHFSOLi、CHFSOLi、CFSOLi、CFCFSOLi、CFCFCFSOLi、CFCFCFCFSOLiなどのスルホン酸リチウム塩類;LiN(FCO)、LiN(FCO)(FSO)、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)などのリチウムイミド塩類;LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSOなどのリチウムメチド塩類;リチウムビス(マロナト)ボレート、リチウムジフルオロ(マロナト)ボレートなどのリチウム(マロナト)ボレート塩類;リチウムトリス(マロナト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(マロナト)ホスフェート、リチウムテトラフルオロ(マロナト)ホスフェートなどのリチウム(マロナト)ホスフェート塩類;及びLiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBFCF、LiBF、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSOなどのフッ素含有有機リチウム塩類;リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラート、リチウムビス(オキサラト)ボレートなどのリチウム(オキサラト)ホウ酸塩類;リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェートなどのリチウム(オキサラト)ホスフェート塩類などを含むが、これらに限定されない。
【0155】
いくつかの実施例において、電解質は、LiPF、LiSbF、LiTaF、FSOLi、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、及びリチウムジフルオロビス(オキサラト)ホスフェートからなる群より選択される。それらは、電気化学装置の出力特性、高率充放電特性、高温保存特性、及びサイクル特性などを改善させることに寄与する。
【0156】
電解質の含有量は、本発明の効果損なわない限り、特に限定されない。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、0.3mol/L超、0.4mol/L超、或いは0.5mol/L超である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度は、3mol/L未満、2.5mol/L未満、或いは2.0mol/L未満である。いくつかの実施例において、電解液におけるリチウムの総モル濃度が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電解質濃度が上記範囲内にあると、荷電粒子であるリチウムが十分となり、また、粘度を適切の範囲内にさせることができるため、良好な電気伝導率を確保しやすい。
【0157】
二種以上の電解質を併用する場合、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選択される塩の少なくとも一つを含む。いくつかの実施例において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選択される塩を含む。いくつかの実施例において、電解質は、リチウム塩を含む。いくつかの実施例において、電解質の総重量に対して、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選択される塩の含有量は、0.01wt%超、或いは0.1wt%超である。いくつかの実施例において、電解質の総重量に対して、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選択される塩の含有量は、20wt%未満、或いは10wt%未満である。いくつかの実施例において、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選択される塩の含有量が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0158】
いくつかの実施例において、電解質は、モノフルオロリン酸塩、ホウ酸塩、シュウ酸塩、及びフルオロスルホン酸塩からなる群より選択される物質の少なくとも一つと、その他の塩の少なくとも一つとを含む。その他の塩として、以上に例示されたリチウム塩が挙げられ、いくつかの実施例において、LiPF、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2-パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3-パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(Cである。いくつかの実施例において、その他の塩は、LiPFである。
【0159】
いくつかの実施例において、電解質の総重量に対するその他の塩の含有量は、0.01wt%超、或いは0.1wt%超である。いくつかの実施例において、電解質の総重量に対するその他の塩の含有量は、20wt%未満、15wt%未満、或いは10wt%未満である。いくつかの実施例において、その他の塩の含有量が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記含有量を有するその他の塩は、電解液の電気伝導率と粘度とをバランスさせることに寄与する。
【0160】
電解液には、前記溶媒、添加剤及び電解質塩に加えて、必要に応じて負極被膜形成剤、正極保護剤、過充電防止剤などの別の添加剤を含んでもよい。添加剤として、通常、非水電解質二次電池に使用される添加剤を用いることができ、その実例は、ビニレンカーボネート、コハク酸無水物、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、2,4-ジフルオロアニソール、プロパンスルトン、プロペンスルトンなどを含むが、これらに限定されない。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。なお、電解液中的これらの添加剤の含有量は、特に限定されず、この添加剤の種類によって適宜設定すればよい。いくつかの実施例において、電解液の総重量に対する添加剤の含有量は5wt%未満であるか、0.01wt%~5wt%の範囲内にあるか、或いは0.2wt%~5wt%の範囲内にある。
III、負極
【0161】
負極は、負極集電体と、前記負極集電体の一つ又は二つの表面に設置された負極合剤層とを備える。負極合剤層は負極活物質層を含み、負極活物質層は負極活物質を含む。負極活物質層は、単層であってもよく、複層であってもよい。複層負極活物質層における各層は、同一の負極活物質を含んでもよく、異なる負極活物質を含んでもよい。負極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な任意の物質である。いくつかの実施例において、充電中に負極へのリチウム金属の意図しない析出を防止するために、負極活物質の充電可能容量は、正極活物質の放電容量より大きいである。
【0162】
負極活物質を支持する集電体としては、公知の集電体を任意に用いることができる。負極集電体の実例は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルめっき鋼などの金属材料を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は銅である。
【0163】
負極集電体が金属材料である場合、負極集電体の形態は、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属膜、金属プレートメッシュ、スタンピング金属、発泡金属などを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、負極集電体は金属膜である。いくつかの実施例において、負極集電体は銅箔である。いくつかの実施例において、負極集電体は、圧延法による圧延銅箔又は電解法による電解銅箔である。
【0164】
いくつかの実施例において、負極集電体の厚みは、1μm超、或いは5μm超である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚みは、100μm未満、或いは50μm未満である。いくつかの実施例において、負極集電体の厚みが上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。
【0165】
負極活物質は、特に限定されず、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出可能な物質であればよい。負極活物質の実例は、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素材料;シリコン(Si)、スズ(Sn)などの金属;又はSi、Snなどの金属元素の酸化物などを含むが、これらに限定されない。負極活物質は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0166】
負極合剤層は、負極粘着剤をさらに含んでもよい。負極粘着剤は、負極活物質の粒子同士の粘着及び負極活物質と集電体との粘着を向上させる。負極粘着剤の種類は、特に限定されず、電解液又は電極を製造する時に用いる溶媒に対する安定な材料であればよい。いくつかの実施例において、負極粘着剤は樹脂粘着剤を含む。樹脂粘着剤の実例は、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン樹脂などを含むが、これらに限定されない。水系溶媒を用いて負極合剤スラリーを調製する場合、負極粘着剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリプロピレン酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコールなどを含むが、これらに限定されない。
【0167】
負極は、負極活物質、樹脂粘着剤などを含む負極合剤スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥した後、圧延して負極集電体の両面に負極合剤層を形成することにより製造することができる。
IV、セパレータ
【0168】
通常、短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレータが配設されている。この場合、本発明の電解液は、通常、このセパレータに含浸させて用いる。
【0169】
セパレータの材料及び形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に限定ない。前記セパレータは、本発明の電解液に対して安定な材料からなる樹脂、ガラス繊維、無機物などであってもよい。いくつかの実施例において、前記セパレータは、保液性が優れた多孔性シート又は不織布状形態の物質などを含む。樹脂セパレータ又はガラス繊維セパレータの材料の実例は、ポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルターなどを含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、前記セパレータの材料はガラスフィルターである。いくつかの実施例において、前記ポリオレフィンはポリエチレン又はポリプロピレンである。いくつかの実施例において、前記ポリオレフィンはポリプロピレンである。前記セパレータの材料は、単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。
【0170】
前記セパレータは、上記した材料を積層してなる材料であってもよく、その実例は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンの順で積層されてなる三層セパレータなどを含むが、これらに限定されない。
【0171】
無機物の材料の実例は、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;硫酸塩(例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなど)を含むが、これらに限定されない。無機物の形態は、粒子状又は繊維状を含むが、これらに限定されない。
【0172】
前記セパレータの形態は、膜形態であり、その実例は、不織布、織布、微多孔性フィルムなどを含むが、これらに限定されない。膜形態では、前記セパレータの孔径が0.01μm~1μmであり、厚みが5μm~50μmである。前記独立の膜形態のセパレータ以外に、樹脂類の粘着剤を用いて前記無機物の粒子を含有する複合多孔質層を正極及び/又は負極の表面上に形成させてなるセパレータ、例えば、90%粒径が1μm未満の酸化アルミニウム粒子をフッ素樹脂を粘着剤として正極の両面に多孔質層を形成してなるセパレータを用いることもできる。
【0173】
前記セパレータの厚みは、任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚みは、1μm超、5μm超、或いは8μm超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚みは、50μm未満、40μm未満、或いは30μm未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの厚みが上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの厚みが上記範囲内にあると、絶縁性及び機械的強度を確保しつつ電気化学装置のレート特性及びエネルギー密度を確保することができる。
【0174】
セパレータとして多孔性シート又は不織布などの多孔質材料を用いる場合、セパレータの孔隙率は、任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、20%超、35%超、或いは45%超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率は、90%未満、85%未満、或いは75%未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの孔隙率が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの孔隙率が上記範囲内にあると、絶縁性及び機械的強度を確保しつつ膜の抵抗を抑制することができ、電気化学装置に良好なレート特性を持たせる。
【0175】
前記セパレータの平均孔径も任意である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.5μm未満、或いは0.2μm未満である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径は、0.05μm超である。いくつかの実施例において、前記セパレータの平均孔径が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。前記セパレータの平均孔径が上記範囲を超れば、短絡が発生しやすい。セパレータの平均孔径が上記範囲内にあると、短絡を防止しつつ膜抵抗を抑制することができ、電気化学装置のレート特性を良好にすることができる。
V、電気化学装置組立体
【0176】
電気化学装置組立体は、電極群、集電構造、外装ケース、及び保護素子を含む。
電極群
【0177】
電極群は、前記した正極と負極とを前記セパレータを介して積層して形成された積層構造、及び前記した正極と負極とを前記セパレータを介して渦巻き状に巻回した構造のうち何れか一つであっても良い。いくつかの実施例において、電極群の質量が電池内容積に占める割合(電極群占有率)は、40%超、或いは50%超である。いくつかの実施例において、電極群占有率は、90%未満、或いは80%未満である。いくつかの実施例において、電極群占有率が上記した任意の二つの値で構成される範囲内にある。電極群占有率が上記範囲内にあると、電気化学装置の容量を確保しつつ内部圧力の上昇に伴う繰り返しの充放電特性及び高温保存などの特性の低下を抑制することができ、さらにガス放出弁の作動を防止することができる。
集電構造
【0178】
集電構造は、特に限定されない。いくつかの実施例において、集電構造は、配線部分及び接合部分の抵抗を低減する構造である。電極群が前記積層構造である場合、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。電極面積が大きくなると、内部抵抗が大きくなるので、電極内に2つ以上の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が前記巻回構造である場合、正極及び負極にそれぞれ2つ以上のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
外装ケース
【0179】
外装ケースの材質は、用いられる電解液に対して安定な物質であれば特に限定されない。外装ケースには、ニッケルめっき鋼板、ステンレス鋼、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金などの金属類、或いは樹脂とアルミニウム箔との積層フィルムが用いられるが、これらに限定されない。いくつかの実施例において、外装ケースは、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、或いは積層フィルムである。
【0180】
金属類の外装ケースは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着してなる封止密閉構造;或いは樹脂製ガスケットを介して前記金属類を用いてなるかしめ構造を含むが、これらに限定されない。前記積層フィルムを用いる外装ケースは、樹脂層同士を熱融着してなる封止密閉構造などを含むが、これらに限定されない。シール性を上げるために、前記樹脂層の間に積層フィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合で、介在する樹脂として極性基を有する樹脂又は極性基を導入した変性樹脂が用いられる。また、外装ケースの形状も、任意であり、例えば、円筒形、角形、ラミネート型、ボタン型、大型などのうち何れか一つであってもよい。
保護素子
【0181】
保護素子として、異常発熱又は過大電流が流れた時に抵抗が増大する正温度係数(PTC)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力又は内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)などが用いられる。前記保護素子は、高電流の通常使用で作動しない素子を選択してもよく、保護素子がなくても異常発熱又は熱暴走を防止するように設計してもよい。
VI、応用
【0182】
本発明の電気化学装置は、電気化学反応が生じる任意の装置を含み、その具体的な実例は、全種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池又はキャパシタを含む。特に、当該電気化学装置が、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池又はリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0183】
本発明は、本発明による電気化学装置を含む電子装置をさらに提供する。
【0184】
本発明の電気化学装置の用途は、特に限定されず、既存技術で既知の任意の電子装置に用いることができる。いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、家庭用大型蓄電池及びリチウムイオンキャパシタなどに使用されるが、これらに限定されない。
【0185】
以下では、リチウムイオン電池を例として、具体的な実施例を参照してリチウムイオン電池の調製について説明し、当業者は、本発明に記載されている調製方法が単なる例示であり、他のいかなる好適な調製方法が本発明の範囲内にあることを理解すべきである。
実施例
【0186】
以下、本発明に係るリチウムイオン電池の実施例及び比較例を説明して性能評価を行う。
一、リチウムイオン電池の調製
1、負極の調製
【0187】
人造黒鉛、スチレン-ブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを質量比96%:2%:2%で脱イオン水と混合し、均一に撹拌して、負極スラリーを得た。この負極スラリーを12μmの銅箔に塗布した。乾燥し、コールドプレスして、打ち抜き、タブを溶接して、負極を得た。
2、正極の調製
【0188】
コバルト酸リチウム(LiCoO)、導電材(Super-P)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を質量比95%:2%:3%でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、次に界面活性剤を加え、均一に撹拌して、正極スラリーを得た。この正極スラリーを12μmのアルミニウム箔に塗布し、乾燥し、コールドプレスして、打ち抜き、タブを溶接して、正極を得た。
【0189】
本発明の各実施例及び比較例において、ダイン値は、例えば、アニール温度の制御及びプラズマ処理などの当技術分野で公知の方法によって達成することができる。
【0190】
実施例で使用した界面活性剤を以下の表に示す。
【0191】
【表1】
3、電解液の調製
【0192】
乾燥アルゴンガス雰囲気で、EC、PC及びDEC(重量比1:1:1)を混合し、濃度1.15mol/LのLiPFに入れ、均一に混合して、基礎電解液を形成した。基礎電解液に異なる含有量のカルボン酸エステル及び/又は添加剤を加えて異なる実施例及び比較例の電解液を得た。
【0193】
実施例で使用した電解液の成分を以下の表に示す。
【0194】
【表2】
4、セパレータの調製
【0195】
ポリエチレン(PE)多孔質重合体膜をセパレータとした。
5、リチウムイオン電池の調製
【0196】
得られた正極、セパレータ及び負極をこの順に巻いて外装箔に入れ、注液口を残す。注液口から電解液を注入し、封止して、フォーメーション、容量などのプロセスを経て、リチウムイオン電池を得た。
二、測定方法
1、正極集電体のダイン値の測定方法
【0197】
正極集電体の表面にダインペンで線を描き、2~3秒後に、収縮して水滴に凝集するか否かを観察した。水滴に収縮した場合、一段階低い数値のダインペンに変換して線をさらに描き、収縮せず、水滴がなくなるまで続け、物品の表面張力値を確定した。各サンプルについて少なくとも3回の測定を行い、異常点を除去して、平均値を算出し、当該平均値を正極集電体のダイン値とした。
2、正極合剤層エッジのバリの長さの測定方法
【0198】
正極合剤層間隙において正極合剤層の尾引きの最遠点と正極合剤層本体との距離をノギスで測定し、ノギスデータを読み取ってバリの長さとした。
3、正極合剤層の反応面積(Y)の測定方法
【0199】
表面積計(大倉理研製の全自動表面積測定装置)を用い、サンプルに対して窒素流通下350℃で15分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって正極合剤層の比表面積(m/mg)を測定した。正極合剤層の反応面積(Y)は、下記式により算出した。
【式2】
【0200】
4、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率の測定方法
【0201】
45℃で、リチウムイオン電池を1Cの定電流法にて4.45Vまで充電してから、4.45Vで定電圧法にて0.05Cまで充電し、次に1Cの定電流法にて3.0Vまで放電し、これを初回サイクルとした。前記条件でリチウムイオン電池に対して200サイクルを行った。「1C」とは、1時間でリチウムイオン電池容量が完全に放電される電流値であった。
【0202】
リチウムイオン電池のサイクル容量維持率は、下記式により算出した。
【式3】
【0203】
5、リチウムイオン電池のサイクル膨張率の測定方法
【0204】
25℃で、リチウムイオン電池を30分間静置した後、0.5Cのレートで定電流法にて4.45Vまで充電してから、4.45Vで定電圧法にて0.05Cまで充電し、5分間静置して、厚みを測定した。前記条件でリチウムイオン電池に対して100サイクルを行い、サイクル後の厚みを測定した。リチウムイオン電池のサイクル膨張率は、下記式により算出した。
【式4】
【0205】
三、測定結果
【0206】
表3は、アルミニウム箔のダイン値及び正極合剤層のエッジのバリの長さが、リチウムイオン電池の性能に与える影響を示す。
【0207】
表3中の実施例の正極スラリーには界面活性剤1を0.5wt%添加したが、比較例の正極スラリーには界面活性剤を添加しなかった。
【0208】
【表3】
【0209】
比較例1及び比較例2に示すように、正極集電体(アルミニウム箔)のダイン値が25dyn/cm~31dyn/cmの範囲外であり、且つ正極合剤層のエッジのバリの長さが4mm超であると、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率が劣る。
【0210】
実施例1~実施例7に示すように、正極集電体(アルミニウム箔)のダイン値が25dyn/cm~31dyn/cmの範囲内であり、且つ正極合剤層のエッジのバリの長さが4mm以下であると、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率が著しく向上する。正極集電体ダイン値の増加及びバリの長さの減少に伴い、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率が徐々に向上し、サイクル厚み膨張率が徐々に低下する。これは、正極集電体ダイン値を増加させることは正極塗布の一致性を向上させることに有利であり、バリの長さを減少させることは正極スラリーの均一性を改善することに有利であり、それにより、リチウムイオン電池が使用中に引き起こす副反応を減少させる。
【0211】
表4は、正極集電体の一方側の正極合剤層の厚み(即ち、正極合剤層の片面の厚み)と正極集電体の厚みとバリの長さとの間の比がリチウムイオン電池のサイクル特性に対する影響を示す。
【0212】
実施例8~12は、正極スラリーに界面活性剤1を0.5wt%添加したものであり、実施例4との区別が表4にリストされているパラメータだけである。
【0213】
【表4】
【0214】
その結果、正極合剤層の片面の厚みと正極集電体の厚みとの比が300以下及び/又はバリの長さと正極集電体の厚みとの比が22以下であると、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率をより向上させることができることがわかる。
【0215】
表5は、リチウムイオン電池のサイクル特性に対する異なる正極集電体の材質の影響を示す。
【0216】
実施例13~実施例18と実施例4との区別は、表5にリストされている変数だけである。
【0217】
【表5】
【0218】
実施例4、実施例13及び実施例14に示すように、正極集電体のダイン値が25dyn/cm~31dyn/cmの範囲内であれば、正極集電体の材質は限定されない。正極集電体がアルミニウムリチウム合金である場合、集電体の強度がより高く、リチウムイオン電池が変形しにくく、リチウムイオン電池のサイクル過程における正極合剤層の損傷を減少させ、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率をさらに向上させる。
【0219】
実施例15~実施例18に示すように、正極集電体が微結晶を含む場合、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率がさらに向上する。微結晶サイズが小さいにつれて、集電体の強度が大きくなって、正極合剤層の一致性を高めることができ、これによって、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率をより向上させることができる。
【0220】
表6は、リチウムイオン電池のサイクル特性に対する界面活性剤の影響を示す。
【0221】
表6の各実施例において、実施例4の正極合剤層にはN-メチルピロリドンが含まれておらず、実施例19~実施例33の正極合剤層にはN-メチルピロリドンが80ppm含まれている。実施例20~実施例33と実施例19との区別は、表6にリストされている変数だけである。
【0222】
【表6】
【0223】
その結果、正極合剤層には界面活性剤を含有させることにより、正極合剤層と集電体との親和性が高まり、正極スラリーのレベリング性が促進されて、正極合剤層のエッジのバリの長さが短くなること(即ち、4mm以下)がわかる。同時に、界面活性剤の存在は正極活物質の分布をより均一にすることができ、これによって、正極の一致性を向上させる。以上を総合すると、リチウムイオン電池は、優れたサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率を有する。
【0224】
また、実施例4及び実施例19に示すように、正極合剤層中にN-メチルピロリドンを100ppm以下含有させることにより、リチウムイオン電池のサイクル容量維持率をより向上させることができるとともに、リチウムイオン電池のサイクル厚み膨張率をより低減させることができる。
【0225】
表7は、リチウムイオン電池のサイクル特性に対する電解液の影響を示す。
【0226】
実施例34~実施例48と実施例4との区別は、表7にリストされている変数だけである。
【0227】
【表7】
【0228】
その結果、正極集電体のダイン値が25dyn/cm~31dyn/cmであり、且つ正極合剤層のエッジのバリの長さが4mm以下であることに加えて、電解液中のカルボン酸エステルの含有量X mgと正極合剤層の反応面積Y mとが10≦(X/Y)≦100を満たす場合、電解液の成分及び含有量の最適化がリチウムイオン電池のサイクル容量維持率及びサイクル厚み膨張率のさらなる向上に寄与し、より高い効果が得られることがわかる。異なる種類のカルボン酸エステルは、実質的に同等の効果を達成することができる。
【0229】
明細書全体では、「実施例」、「部分的実施例」、「一つの実施例」、「別の一例」、「例」、「具体例」又は「部分的例」による引用は、本発明の少なくとも一つの実施例又は例において、当該実施例又は例に記載した特定の特徴、構造、材料又は特性を含むことを意味する。したがって、例えば、明細書全体の各箇所に記載された「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一つの実施例において」、「別の例において」、「一つの例において」、「特定の例において」又は「例において」は、必ずしも本発明での同じ実施例又は例を引用するわけではない。また、本明細書の特定の特徴、構造、材料、又は特性は、一つ又は複数の実施例又は例において、いかなる好適な方法で組み合わせることができる。
【0230】
例示的な実施例が開示及び説明されたが、当業者は、前記実施例が本発明を限定するものとして解釈されないこと、かつ、本発明の技術思想、原理、及び範囲から逸脱しない場合に実施例への改変、置換及び変更が可能であること、を理解すべきである。
図1
図2