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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】水中溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20231024BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20231024BHJP
   B23K 37/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B23K9/00 107A
B23K9/028 N
B23K37/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019135997
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021016897
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】松元 和久
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 孝義
(72)【発明者】
【氏名】江副 誉典
(72)【発明者】
【氏名】山中 俊宏
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-102048(JP,A)
【文献】特開2001-129686(JP,A)
【文献】特開平09-164479(JP,A)
【文献】特開平11-267838(JP,A)
【文献】特開昭63-101075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 9/028
B23K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムであって、
対象物を把持する把持アームと、先端部に溶接トーチが取付けられた溶接ロボットハンドとを備え、水中で移動可能な水中溶接機と、
前記柱状構造物に沿って水中を自重で沈降する案内装置と、
前記水中溶接機の操作を受け付けるコントロール装置と、を具備し、
前記水中溶接機と前記案内装置とは、前記コントロール装置の操作で動作する連結機構によって連結及び分離可能であることを特徴とする水中溶接システム。
【請求項2】
前記案内装置には、前記水中溶接機の前記把持アームによって把持可能な被把持部が設けられており、
前記連結機構は、前記把持アームと前記被把持部とからなることを特徴とする請求項1記載の水中溶接システム。
【請求項3】
水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムであって、
対象物を把持する把持アームと、先端部に溶接トーチが取付けられた溶接ロボットハンドとを備え、水中で移動可能な水中溶接機と、
前記柱状構造物に沿って水中を自重で沈降する案内装置と、を具備し、
前記水中溶接機と前記案内装置とは、連結機構によって連結及び分離可能であり、
前記把持アームよる把持個所及び前記溶接ロボットハンドによる溶接個所を画角に含む水中カメラを具備し、
前記連結機構は、前記水中カメラによる映像に前記柱状構造物の周面が映り込む状態で前記水中溶接機と前記案内装置とを連結可能であることを特徴とする水中溶接システム。
【請求項4】
前記案内装置は、前記柱状構造物に環装可能な中空部を有する基体を備え、
前記基体の内周には、前記柱状構造物に当接することで、上下方向の移動をガイドする複数のガイドローラが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水中溶接システム。
【請求項5】
前記基体は、複数のパーツが連結具によって連結されて構成されていることを特徴とする請求項4記載の水中溶接システム。
【請求項6】
水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムであって、
対象物を把持する把持アームと、先端部に溶接トーチが取付けられた溶接ロボットハンドとを備え、水中で移動可能な水中溶接機と、
前記柱状構造物に沿って水中を自重で沈降する案内装置と、を具備し、
前記水中溶接機と前記案内装置とは、連結機構によって連結及び分離可能であり、
前記案内装置は、前記柱状構造物に環装可能な中空部を有する基体を備え、
前記基体の内周には、前記柱状構造物に当接することで、上下方向の移動をガイドする複数のガイドローラが設けられ、
前記基体の下面には、下方に向けて延設され、先端に前記水中溶接機が連結される複数の連結棹が、周方向に等間隔で設けられていることを特徴とする水中溶接システム。
【請求項7】
前記連結棹には、前記水中溶接機を操作するコントロール装置と前記水中溶接機とを接続するケーブルを案内する案内孔が形成されていることを特徴とする請求項6記載の水中溶接システム。
【請求項8】
前記案内孔から繰り出される前記ケーブルの最大ケーブル長は、前記柱状構造物の周長をPとし、N台の前記水中溶接機によって溶接を実行する場合、P/2N以上P/N未満に設定されていることを特徴とする請求項7記載の水中溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海上に設置する洋上風力発電装置に期待が寄せられている。洋上は陸上に比べて風エネルギーが高く、大型のブレードを適用することができるため、効率的な発電が可能になる。
【0003】
洋上風力発電装置は、水中に構築された基礎構造上に構築される。基礎構造は、ケーソン式や組杭式等が提案されているが、近年では、大口径の鋼管で構成されたモノパイル等の柱状構造物が注目されている。
【0004】
基礎構造としてモノパイル等の金属構造物を用いる場合、金属構造物の周面に卑な電位を有する電気防食アノード等の金属部品を接続し、海水や水による金属構造物の腐食を防止する防食方法が知られている。
【0005】
金属構造物と金属部品との接続は、水中溶接が一般的であり、水中の溶接個所まで潜水士が潜り、人の手で水中溶接を行うか、溶接装置が水中の溶接個所まで電動機動力により移動させて水中溶接を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭48-102048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水深が深い個所や潮流の影響を受ける個所での水中溶接は、時間の制約、潮流によって溶接個所へのアクセス困難、安定した溶接品質確保が困難、安全性のリスクという問題点があった。
【0008】
なお、水中溶接機を搭載したキャリッジを、鋼管の周面に固定された案内環をレールとして走行させることで、自動的に溶接するための装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置によると、溶接個所へのアクセスが容易になり、水上での操作により容易に溶接作業を行うことができるが、案内環を固定した状態では溶接する方向がキャリッジの走行方向に限定されてしまう。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消し、溶接個所に容易にアクセスでき、所望の範囲を容易に溶接することができる汎用性が高い水中溶接システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水中溶接システムは、水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムであって、対象物を把持する把持アームと、先端部に溶接トーチが取付けられた溶接ロボットハンドとを備え、水中で移動可能な水中溶接機と、前記柱状構造物に沿って水中を自重で沈降する案内装置と、前記水中溶接機の操作を受け付けるコントロール装置と、を具備し、前記水中溶接機と前記案内装置とは、前記コントロール装置の操作で動作する連結機構によって連結及び分離可能であることを特徴とする。
さらに、本発明の水中溶接システムは、前記案内装置には、前記水中溶接機の前記把持アームによって把持可能な被把持部が設けられており、前記連結機構は、前記把持アームと前記被把持部とであっても良い。
また、本発明の水中溶接システムは、水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムであって、対象物を把持する把持アームと、先端部に溶接トーチが取付けられた溶接ロボットハンドとを備え、水中で移動可能な水中溶接機と、前記柱状構造物に沿って水中を自重で沈降する案内装置と、を具備し、前記水中溶接機と前記案内装置とは、連結機構によって連結及び分離可能であり、前記把持アームよる把持個所及び前記溶接ロボットハンドによる溶接個所を画角に含む水中カメラを具備し、前記連結機構は、前記水中カメラによる映像に前記柱状構造物の周面が映り込む状態で前記水中溶接機と前記案内装置とを連結可能であることを特徴とする。
さらに、本発明の水中溶接システムは、前記案内装置は、前記柱状構造物に環装可能な中空部を有する基体を備え、前記基体の内周には、前記柱状構造物に当接することで、上下方向の移動をガイドする複数のガイドローラが設けられても良い。
さらに、本発明の水中溶接システムは、前記基体は、複数のパーツが連結具によって連結されて構成されても良い。
また、本発明の水中溶接システムは、水中に構築された柱状構造物の周面に金属部品を溶接する水中溶接システムであって、対象物を把持する把持アームと、先端部に溶接トーチが取付けられた溶接ロボットハンドとを備え、水中で移動可能な水中溶接機と、前記柱状構造物に沿って水中を自重で沈降する案内装置と、を具備し、前記水中溶接機と前記案内装置とは、連結機構によって連結及び分離可能であり、前記案内装置は、前記柱状構造物に環装可能な中空部を有する基体を備え、前記基体の内周には、前記柱状構造物に当接することで、上下方向の移動をガイドする複数のガイドローラが設けられ、前記基体の下面には、下方に向けて延設され、先端に前記水中溶接機が連結される複数の連結棹が、周方向に等間隔で設けられていることを特徴とする。
さらに、本発明の水中溶接システムは、前記連結棹には、前記水中溶接機を操作するコントロール装置と前記水中溶接機とを接続するケーブルを案内する案内孔が形成されても良い。
さらに、本発明の水中溶接システムは、前記案内孔から繰り出される前記ケーブルの最大ケーブル長は、柱状構造物の周長をPとし、N台の前記水中溶接機によって溶接を実行する場合、P/2N以上P/N未満に設定されても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、汎用性が高い簡単な構成で、溶接個所に容易にアクセスでき、所望の範囲を容易に溶接することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る水中溶接システムの実施形態の構成を示す側面図である。
図2図1に示す水中溶接機の構成を示す図である。
図3図1に示す水中溶接機及びコントロール装置の構成を示すブロック図である。
図4図1に示す案内装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という)を、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
本実施形態は、海底や湖底等の水底部1に根入れされたモノパイル2(水中に構築された柱状構造物)の周面に、電気防食アノード3(金属部品)を溶接する水中溶接システムである。
【0015】
電気防食アノード3は、鋼管であるモノパイル2よりも卑な電位を有する流電陽極(アルミニウム、亜鉛、マグネシウム又はこれらの合金等)を有する。電気防食アノード3をモノパイル2に水中溶接して接続することで、モノパイル2に防食電流を流し、海水や水によるモノパイル2の腐食を防止する。
【0016】
本実施形態の水中溶接システムは、水中溶接機10と、ケーブル4を介して水中溶接機10と接続されたコントロール装置30と、水中溶接機10を水中の溶接個所まで案内する案内装置40とを備えている。
【0017】
水中溶接機10は、図2を参照すると、姿勢測定部11と、スラスタ12と、把持アーム13と、溶接ロボットハンド14と、水中カメラ15と、照明部16と、制御部17とが、フレーム20に取り付けられている。なお、図2において、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。また、フレーム20には、図示しない浮力体が取付けられており、水中溶接機10は比重が1の中性浮力状態に調整されている。
【0018】
姿勢測定部11は、3軸ジャイロ、地磁気センサ、傾斜センサ等の水中溶接機10の姿勢を検出するセンサを備え、これらのセンサによる検出値を制御部17に出力する。
【0019】
スラスタ12は、例えば、スクリューとスクリューを正回転又は逆回転に駆動するモータとで構成され、水中溶接機10に対して上下方向、前後方向及び左右方向の推力をそれぞれ付与することで、水中溶接機10を水中で自在に移動させる。
【0020】
把持アーム13は、水中溶接機10の前方に位置する対象物を把持する機能を有する。把持アーム13によって対象物を把持することで、水中における水中溶接機10の位置及び姿勢が固定される。
【0021】
溶接ロボットハンド14は、先端部に溶接トーチ141が装着された多関節ロボットであり、把持アーム13によって水中溶接機10の位置及び姿勢が固定された状態で、所定の範囲に任意の方向から溶接を行うことが可能になっている。なお、図2中の符号142は、溶接トーチ141に溶接ワイヤを供給するためのコンジットケーブルである。
【0022】
水中カメラ15は、水中溶接機10の前方を撮影する撮影手段である。水中カメラ15の画角には、把持アーム13による把持箇所と、溶接ロボットハンド14による溶接個所と含まれている。
【0023】
照明部16は、把持アーム13による把持箇所と、溶接ロボットハンド14による溶接個所とを含む水中溶接機10の前方領域を照射する照明手段である。
【0024】
制御部17は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータ等の演算処理回路である。ROMには水中溶接機10の動作制御を行うための制御プログラムが記憶されている。制御部17は、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出し、制御プログラムをRAMに展開させることで、水中溶接機10の全体制御を行う。
【0025】
コントロール装置30は、図3を参照すると、パーソナルコンピュータ等の演算処理装置であり、水中溶接機10の水中カメラ15によって撮影された映像を表示する表示部31と、水中溶接機10の操作を受け付ける操作部32とを備えている。
【0026】
操作部32は、キーボード、タッチパネル、ジョイスティック等の入力手段であり、照明部16に対する照明操作、水中カメラ15に対する撮影操作、水中溶接機10に対する移動操作、把持アーム13に対する把持操作、溶接ロボットハンド14に対する溶接位置操作、溶接トーチ141に対する溶接操作を受け付け、受け付けた各操作をケーブル4経由で水中溶接機10に送信する。
【0027】
制御部17は、図3を参照すると、照明制御部171、撮影制御部172、移動制御部173、把持制御部174、溶接位置制御部175、溶接制御部176として機能する。なお、図2及び図3では、水中溶接機10の各構成に動力を供給する動力線は省略している。水中溶接機10を動力は、水中溶接機10に設けた動力貯蔵部や動力発生部から供給するようにしても良く、ケーブル4経由で供給するようにしても良い。
【0028】
照明制御部171は、コントロール装置30から受信した照明操作に応じて、照明部16のオン/オフや光量を制御する。
【0029】
撮影制御部172は、コントロール装置30から受信した撮影操作に応じて、水中カメラ15のズーム、パン、チルト等を制御する。水中カメラ15によって撮影された映像は、ケーブル4経由でコントロール装置30の表示部31に表示される。
【0030】
移動制御部173は、コントロール装置30から受信した移動操作に応じて、スラスタ12の推力を制御して水中溶接機10を水中で移動させる。また、移動制御部173は、姿勢測定部11による検出値に応じて、スラスタ12の推力を制御して水中溶接機10の姿勢を安定化させる。
【0031】
把持制御部174は、コントロール装置30から受信した把持操作に応じて、把持アーム13による対象物の把持/解放を制御する。
【0032】
溶接位置制御部175は、コントロール装置30から受信した溶接位置操作に応じて、溶接ロボットハンド14を駆動させ、先端部に装着された溶接トーチ141による溶接位置を制御する。
【0033】
溶接制御部176は、コントロール装置30から受信した溶接操作に応じて、溶接トーチ141による溶接を実行させる。
【0034】
案内装置40は、図4を参照すると、モノパイル2に環装可能な中空部を有する基体41を備えている。基体41は、水よりも十分に大きな比重を有し、案内装置40は、自重によって水中に沈降するように構成されている。なお、図4において、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。
【0035】
基体41の内周には、複数のガイドローラ43が設けられている。ガイドローラ43は、モノパイル2に当接することで、モノパイル2に環装された基体41の上下方向の移動をガイドする。
【0036】
基体41の上面には、ワイヤや鎖等の索体5を連結する複数の吊り手44が周方向に等間隔に設けられている。
【0037】
基体41は、2個のパーツ41a、41bが連結具によって連結されて構成されている。従って、モノパイル2を挟んでパーツ41aとパーツ41bとを連結することで、基体41をモノパイル2に環装させることができ、モノパイル2に環装された基体41をパーツ41aとパーツ41bとに分割することで、モノパイル2から基体41を取り除くことができる。
【0038】
基体41の下面には、下方に向けて延設された複数の連結棹42が設けられている。複数の連結棹42は、重量バランスが偏らないように、周方向に等間隔で設けられている。連結棹42の先端部には、水中溶接機10の把持アーム13によって把持可能な被把持部45が形成されている。本実施形態では、180度の間隔で2本の連結棹42を設けたが、連結棹42は3本以上設けても良い。
【0039】
また、連結棹42には、水中溶接機10に接続されるケーブル4よりも大径の案内孔46が形成されている。
【0040】
次に、本実施形態の水中溶接システムを用いた水中溶接方法について説明する。
まず、基体41の吊り手44に索体5を連結して吊り下げ、案内装置40(基体41)をモノパイル2に環装する。
【0041】
次に、連結棹42の先端部に形成された被把持部45に水中に浸かるまで、案内装置40をモノパイル2に沿って下降させる。そして、連結棹42の案内孔46を経由したケーブル4が接続された水中溶接機10を水中に入れ、コントロール装置30を用いた移動操作及び把持操作で、水中溶接機10の前面がモノパイル2の周面に対向する向きで把持アーム13によって被把持部45を把持させ、案内装置40と水中溶接機10とを連結させる。
【0042】
なお、水中溶接機10は中性浮力状態に調整されている。従って、水中で案内装置40と水中溶接機10とを連結させることで、案内装置40の重量バランスが偏ることを防止できる。また、図1には、2台の水中溶接機10を案内装置40と連結させた例を示したが、1台の水中溶接機10のみを案内装置40と連結させた場合でも、水中溶接機10が水中に位置させることで、案内装置40の重量バランスが偏ることがない。
【0043】
次に、コントロール装置30を用いた照明操作及び撮影操作で、照明部16を点灯させて水中カメラ15によるモノパイル2の周面の撮影を開始させる。なお、水中溶接機10は、前面がモノパイル2の周面に対向する向きで案内装置40と連結されているため、水中カメラ15によって撮影される映像にモノパイル2の周面が映り込む状態となっている。
【0044】
次に、コントロール装置30の表示部31に表示されるモノパイル2の周面の映像を視認しながら、案内装置40をモノパイル2に沿って下降させ、連結された水中溶接機10を溶接個所である電気防食アノード3付近まで沈める。これにより、溶接個所が水深の深い個所や潮流の影響を受ける個所であっても、素早く容易にアクセスすることができる。
【0045】
次に、コントロール装置30を用いた把持操作で、把持アーム13による被把持部45の把持を解消させ、水中溶接機10を案内装置40から分離させる。そして、表示部31の映像を視認しながら、コントロール装置30を用いた移動操作及び把持操作で、水中溶接機10を溶接個所まで移動させ、把持アーム13によってモノパイル2の周面に設けられた突起部として電気防食アノード3を把持させる。把持アーム13によって電気防食アノード3を把持することで、水中溶接機10の姿勢を安定させ、溶接実行時の反力をとることができる。
【0046】
次に、表示部31の映像を視認しながら、コントロール装置30を用いた溶接位置操作及び溶接操作で、溶接ロボットハンド14を駆動させて溶接トーチ141による溶接位置を移動させながら、溶接トーチ141による溶接を実行させる。水上での操作により溶接ロボットハンド14が届く所望の溶接個所で溶接を実行することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、水中溶接機10と案内装置40との連結機構として把持アーム13及び被把持部45を用いたが、部品点数の増加が許容される場合には、専用の連結機構を用いるようにしても良い。この場合でも、水中溶接機10への操作で連結及び分離を可能にすると、案内装置40に制御用の配線を行う必要がないため好適である。
【0048】
さらに、本実施形態では、ケーブル4を案内装置40の案内孔46経由で水中溶接機10に接続しているため、水中でのケーブル処理が容易になる。さらに、案内孔46から繰り出されるケーブル4の最大ケーブル長Lを制限することで、水中でのケーブル処理がさらに容易になる。なお、コントロール装置30と案内孔46との間のケーブル4に案内孔46を通らないストッパを取り付けることで、案内孔46から繰り出されるケーブル4の最大ケーブル長Lを制限することができる。そして、最大ケーブル長Lは、モノパイル2の周長をPとし、N台の水中溶接機10によって溶接を実行する場合、P/2N以上P/N未満に設定すると良い。
【0049】
以上説明したように、本実施形態は、水中に構築された柱状構造物であるモノパイル2の周面に金属部品である電気防食アノード3を溶接する水中溶接システムであって、対象物を把持する把持アーム13と、先端部に溶接トーチ141が取付けられた溶接ロボットハンド14とを備え、水中で移動可能な水中溶接機10と、モノパイル2に沿って水中を自重で沈降する案内装置40と、を具備し、水中溶接機10と案内装置40とは、連結機構によって連結及び分離可能である。
この構成により、汎用性が高い簡単な構成で、溶接個所に容易にアクセスでき、所望の範囲を容易に溶接することができる。
【0050】
さらに、本実施形態において、案内装置40には、水中溶接機10の把持アーム13によって把持可能な被把持部45が設けられており、連結機構は、把持アーム13と被把持部45とからなる。
この構成により、溶接実行時に反力を取る把持アーム13を連結機構として兼用することができる。
【0051】
さらに、本実施形態において、把持アーム13よる把持個所及び溶接ロボットハンド14による溶接個所を画角に含む水中カメラ15を具備し、連結機構は、水中カメラ15による映像にモノパイル2の周面が映り込む状態で水中溶接機10と案内装置40とを連結可能である。
この構成により、溶接作業を視認する水中カメラ15によって、溶接個所へのアクセスを確認できる。
【0052】
さらに、本実施形態において、案内装置40は、モノパイル2に環装可能な中空部を有する基体41を備え、基体41の内周には、モノパイル2に当接することで、上下方向の移動をガイドする複数のガイドローラ43が設けられている。
この構成により、案内装置40を上下方向にスムーズに移動させることができ、水中溶接機10を溶接個所までアクセスがさらに容易になる。
【0053】
さらに、本実施形態において、基体41は、複数のパーツ41a、41bが連結具によって連結されて構成されている。
この構成により、モノパイル2の上部で他工事が実施されている場合でも、案内装置40(基体41)をモノパイル2に環装できると共に、環装された基体41をモノパイル2から取り除ける。
【0054】
さらに、本実施形態において、基体41の下面には、下方に向けて延設され、先端に水中溶接機10が連結される複数の連結棹42が、周方向に等間隔で設けられている。
この構成により、基体41に邪魔されることなく、水中溶接機10を溶接個所に近づけることができる。また、案内装置40の重量バランスが偏ることを防止できる。
【0055】
さらに、本実施形態において、連結棹42には、水中溶接機10を操作するコントロール装置30と水中溶接機10とを接続するケーブル4を案内する案内孔46が形成されている。
この構成により、水中でのケーブル処理が容易になる。
【0056】
さらに、本実施形態において、案内孔46から繰り出されるケーブル4の最大ケーブル長Lは、モノパイル2の周長をPとし、N台の水中溶接機10によって溶接を実行する場合、P/2N以上P/N未満に設定されている。
この構成により、水中でのケーブル処理がさらに容易になる。
【0057】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0058】
1 水底部
2 モノパイル
3 電気防食アノード
4 ケーブル
5 索体
10 水中溶接機
11 姿勢測定部
12 スラスタ
13 把持アーム
14 溶接ロボットハンド
15 水中カメラ
16 照明部
17 制御部
20 フレーム
30 コントロール装置
31 表示部
32 操作部
40 案内装置
41 基体
41a、41b パーツ
42 連結棹
43 ガイドローラ
44 吊り手
45 被把持部
46 案内孔
141 溶接トーチ
142 コンジットケーブル
171 照明制御部
172 撮影制御部
173 移動制御部
174 把持制御部
175 溶接位置制御部
176 溶接制御部
図1
図2
図3
図4