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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】車両のステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/18 20060101AFI20231024BHJP
   B62D 1/181 20060101ALI20231024BHJP
   B62D 1/183 20060101ALI20231024BHJP
   B62D 1/185 20060101ALI20231024BHJP
   B62D 1/187 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B62D1/18
B62D1/181
B62D1/183
B62D1/185
B62D1/187
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019168289
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021045999
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】岩永 宗一郎
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100143(JP,A)
【文献】特開2008-068870(JP,A)
【文献】特開2006-347219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18
B62D 1/181
B62D 1/183
B62D 1/185
B62D 1/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングを支持するステアリング軸と、
前記ステアリング軸が接続されたコラムと、
車両に固定され、前記コラムを出退可能に支持しつつ前記コラムの移動方向を規定するガイドフレームと、
前記ガイドフレームまたは前記車両に設けられ、前記移動方向に沿って前記車両に対する前記コラムの引出操作及び格納操作を行う第1駆動部と、
前記コラムに設けられ、前記コラムを前記移動方向に沿って移動させて前記ステアリングの運転中の前後位置を調節する第2駆動部と、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とに接続され、前記第1駆動部による駆動力と前記第2駆動部による駆動力とが伝達されて、前記第1駆動部と前記第2駆動部との距離を変更可能な駆動伝達部材と、を備えた車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記第1駆動部と前記第2駆動部との距離の変更速度につき、前記第1駆動部による第1速度よりも前記第2駆動部による第2速度が小さく設定されている請求項1に記載の車両のステアリング装置。
【請求項3】
前記駆動伝達部材が長尺状の送りネジであり、前記第1駆動部および前記第2駆動部が前記送りネジに螺合するナットを夫々備えている請求項1または2に記載の車両のステアリング装置。
【請求項4】
前記駆動伝達部材が前記ステアリング軸と同軸上に設けてある請求項3に記載の車両のステアリング装置。
【請求項5】
前記コラムに前記駆動伝達部材が貫通可能な孔部が備えられ、前記孔部の端部に、前記ステアリング軸の延出方向を変更可能とする中空構造のユニバーサルジョイントが設けられている請求項4に記載の車両のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング軸を支持するコラムの位置を複数の駆動部を用いて変更可能なステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような車両のステアリング装置としては例えば以下の特許文献1(〔0050〕乃至〔0051〕段落及び図10Aなど参照)に記載されたものがある。
【0003】
この車両は、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置を備えたものであり、運転の態様を自動運転と手動運転とに切り換えることができる。特に自動運転中には、ステアリング装置を車室の前方に格納することができる。また手動運転中には、運転者の体格に合わせてステアリングの前後位置を調節することができる。
【0004】
ステアリング軸はアーム部に設けられており、同じくアーム部にはステアリング軸のテレスコピック動作を行う駆動モータが設けられている。この駆動モータにより、手動運転時のステアリングの前後位置の調整が可能である。
【0005】
また、アーム部は、例えば二本のスライドレールを介して車両に取り付けられている。長尺状の送りネジがスライドレールと並行に配置されており、別の駆動モータによって当該送りネジ、或いは、当該送りネジに螺合したナット部材が回転駆動される。これによって送りネジとナット部材とが相対回転し、アーム部がスライドレールに沿って移動することで、アーム部およびステアリングの格納・引出操作が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2018-0370559 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1のステアリング装置においては、ステアリング軸を引出・格納する駆動部と、ステアリングの前後位置を調節する駆動部とが別に設けてある。そのため、例えば、運転中に生じるステアリングのガタ付きを防止するには、二つの駆動部の夫々についてガタ付防止機構を設ける必要がある。
【0008】
また、ステアリングを引出・格納する際に双方の駆動部を同時に駆動した場合、夫々の駆動ストロークや駆動速度が異なるために一方が先に停止することがある。その結果、ステアリングの引出・格納動作が不連続なものとなって、ステアリング装置の品質評価が下がる可能性がある。
【0009】
さらに、このように二つの駆動部を異なる位置に配置することで、車室内への設置が制限され、あるいは、車内スペースを圧迫してしまうことにもなる。
【0010】
このように、従来のステアリング装置にあっては種々の改善すべき点があり、従来からコンパクトな構成でありながら引出・格納動作を円滑に行える車両のステアリング装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(特徴構成)
本発明に係る車両のステアリング装置の特徴構成は、
ステアリングを支持するステアリング軸と、
前記ステアリング軸が接続されたコラムと、
車両に固定され、前記コラムを出退可能に支持しつつ前記コラムの移動方向を規定するガイドフレームと、
前記ガイドフレームまたは前記車両に設けられ、前記移動方向に沿って前記車両に対する前記コラムの引出操作及び格納操作を行う第1駆動部と、
前記コラムに設けられ、前記コラムを前記移動方向に沿って移動させて前記ステアリングの運転中の前後位置を調節する第2駆動部と、
前記第1駆動部と前記第2駆動部とに接続され、前記第1駆動部による駆動力と前記第2駆動部による駆動力とが伝達されて、前記第1駆動部と前記第2駆動部との距離を変更可能な駆動伝達部材と、を備えた点に特徴を有する。
【0012】
(効果)
本構成によれば、第1駆動部によるコラムの引出操作及び格納操作と、第2駆動部による運転中のステアリングの前後位置の調節とを効率よく行うことができる。これらによるコラムの移動方向とステアリングの移動方向は、共にガイドフレーム沿った同じ方向である。本構成であれば、第1駆動部による駆動力が駆動力伝達部材に伝えられるため、第1駆動部によって、第1駆動部に対する第2駆動部の距離を変更することができる。これにより、例えばガイドフレームに対してコラムの位置が変更される。
【0013】
また、第2駆動部による駆動力も駆動力伝達部材に伝えられ、これによっても第1駆動部と第2駆動部との距離が変更され、コラムがガイドフレームに対して位置変更される。
【0014】
本構成であれば、第1駆動部と第2駆動部との相対距離を変更する場合に、第1駆動部および第2駆動部の一方のみを駆動しても良いし双方を駆動しても良い。本構成では共通の駆動伝達部材が用いられるから、何れか一方のみを駆動させる場合には、第1駆動部による第1速度あるいは第2駆動部による第2速度によって相対距離が変化する。また、双方を駆動する場合には、第1速度と第2速度との合計速度に基づいて相対距離が変化する。
【0015】
このように本構成であれば、第1駆動部による駆動速度と第2駆動部による駆動速度とを任意に設定することができ、さらに、第1駆動部と第2駆動部とを同時に駆動することで両者の相対距離を極めて速い速度で変更することができる。
【0016】
(特徴構成)
本構成の車両のステアリング装置においては、前記第1駆動部と前記第2駆動部との距離の変更速度につき、前記第1駆動部による第1速度よりも前記第2駆動部による第2速度が小さく設定されていると好都合である。
【0017】
(効果)
第1駆動部に対して第2駆動部を移動させる状況としては、例えば、ステアリング軸やコラムを計器盤の内部に格納する場合や、ステアリングの位置を微調整する場合に用いられる。このうち、ステアリングの位置の調整は、運転者の希望に応じて微調整できることが望ましい。よって、コラムに設けた第2駆動部の第2速度を小さくすることで、第2駆動部が主にステアリング位置の微調整を行う部位であることを特定した。
【0018】
このようにコラムに設けた第2駆動部によりステアリングの位置調整を行う場合、第2駆動部は、コラムと、当該コラムに接続されたステアリング軸を駆動すればよい。これは、仮に、第1駆動部をステアリング調節の駆動部とした場合には、その他に駆動伝達部材をも駆動させる必要があって駆動される部品点数が多くなるが、本構成のようにステアリングに近い第2駆動部を駆動することで、駆動部品が減少し、ステアリングの移動に伴うガタ付きの発生が抑制される。また、第2駆動部に作用する負荷も軽減される。
【0019】
よって本構成のごとく、第2駆動部の第2速度を小さく設定することで、ステアリングの位置調節がより正確で高品質なものとなる。
【0020】
(特徴構成)
本構成の車両のステアリング装置においては、前記駆動伝達部材が長尺状の送りネジであり、前記第1駆動部および前記第2駆動部が前記送りネジに螺合するナットを夫々備えた構成にすることができる。
【0021】
(効果)
本構成のように駆動伝達部材が長尺状の送りネジであり、第1駆動部および第2駆動部が当該送りネジに螺合するナットを備えることで、各ナットの回転速度の設定が容易となる。よって、コラムのおよびステアリングの格納速度とステアリングの位置調整速度とを適宜設定することができる。
【0022】
また、長尺状の送りネジであれば、長さの設定が容易であり、コラムおよびステアリングの移動可能領域の設定が容易となる。
【0023】
(特徴構成)
本構成の車両のステアリング装置においては、前記駆動伝達部材を前記ステアリング軸と同軸上に設けることができる。
【0024】
(効果)
一般にステアリング軸は筒状であることが多いため、駆動伝達部材が送りネジであってステアリング軸と同軸上にあれば、両者が互いに挿通した位置関係を得易くなる。よって、第2駆動部が格納された状態でステアリング装置の外形を小さくすることができ、設置領域が限られた車両に対しても搭載が容易となる。
【0025】
(特徴構成)
本構成の車両のステアリング装置においては、前記コラムに前記駆動伝達部材が貫通可能な孔部が備えられ、前記孔部の端部に、前記ステアリング軸の延出方向を変更可能とする中空構造のユニバーサルジョイントが設けられていると好都合である。
【0026】
(効果)
ステアリング軸は、運転者の体格に合わせて前後位置の調整が行えるように構成されると共に、上下方向のチルト角を調整可能であればより便利である。本構成では、チルト角の変更を可能としつつコラムの格納の容易化を図るべく、コラムとステアリング軸とを中空のユニバーサルジョイントで接続するものである。
【0027】
これにより、コラムを運転位置に設置した際には、ステアリングのチルト調整が行えると共に、コラムを格納した際には、長尺状の駆動伝達部材がステアリング軸の内部にまで挿通可能となる。よって、コラムおよびステアリングをより奥の位置まで格納することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る車両のステアリング装置の構成を示す斜視図
図2】第1実施形態に係る車両のステアリング装置の構成を示す説明図
図3】第1実施形態に係る車両のステアリング装置の構成を示す説明図
図4】ガイド部材の構成を示す斜視図
図5】ガイド部材の構成を示す説明図
図6】他の実施形態に係るガイドレールの構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔第1実施形態〕
(全体概要)
図1乃至図5に、本発明の第1実施形態に係る車両のステアリング装置Sを示す。本実施形態のステアリング装置Sは、ステアリングハンドルH(以下、ステアリングHと称する)およびこれを取り付けたステアリング軸Aが、車両の計器盤に対して引き出した位置(図2)と格納した位置(図3)とに変更可能である。車両が手動運転状態にあるときにはステアリングHは引き出された状態となり、自動運転状態にあるときには計器盤の内部にステアリングHが格納される。手動運転状態では、ステアリングHの前後位置を運転者の体格に合わせて微調整可能である。
【0030】
本実施形態では、ステアリングHの引出・格納移動と、ステアリングHの前後位置の微調整移動とを一つのガイド部材Gを用いて行う。具体的には、ステアリング軸Aを支持するコラムCが、車両に固定したガイド部材Gに沿ってスライド移動し、その際にコラムCが例えば二種類の速度で移動できるように構成してある。これにより、コラムCの二種類の動作が合理的に実施される。
【0031】
コラムCの移動は二つの駆動部Mによって行われる。本実施形態では、ガイド部材Gまたは車両に設けられて主にコラムCの引出操作及び格納操作を行う第1駆動部M1と、コラムCに設けられて主に運転中のステアリングHの前後位置を調節する第2駆動部M2とを備えている。また、この他の駆動部Mとして、コラムCに対してステアリング軸Aのチルト角を調節する第3駆動部M3も備えている。
【0032】
〔ガイド部材〕
図1ないし図5に本実施形態のガイド部材Gを示す。ガイド部材Gは、複数のガイドレールG1を備えるものが好ましい。本実施形態では、ガイド部材Gとして、左右に備えた二本のガイドレールG1を中央のガイドフレームGFが保持した構造を有する。当該ガイドフレームGFは例えば鋳造品で形成される。ガイドレールG1は、例えば略コの字形の断面を有する長尺状のチャンネル部材等によって構成する。この内部を、コラムCのカバーCaから飛び出した状態で装着されたベアリング40あるいはガイド車輪が往復移動する。
【0033】
図5に示すように、ガイドフレームGFは、コラムCの移動方向に沿った見たとき門形を呈する。具体的には、コラムCの上方に位置する架橋部GFaと、当該架橋部GFaからコラムCの側方に延出する垂下部GFbとを有する。コラムCはガイドフレームGFの内部空間を移動する。
【0034】
このようにガイドレールG1に当接するベアリング40などを除きコラムCの殆どの部位がガイド部材Gの内側を通過する構成であれば、第1駆動部M1や第2駆動部M2等がコラムCの移動方向に沿って配置されることになる。第1駆動部M1などはもともとコラムCの移動方向に沿って駆動部材が相対動作するように構成されており、この方向に沿った部材強度や構成部品間のガタツキ等は当初より一定の基準を満たしている。よって、同方向に第1駆動部M1および第2駆動部M2が配置されることで装置全体にさらなる不都合は生じない。
【0035】
一方、それとは異なり、第1駆動部M1と第2駆動部M2とがコラムCの移動方向に沿って大きくオフセットして設けられた場合、第1駆動部M1あるいは第2駆動部M2が駆動された際に、他方の駆動部を構成する何れかの部材に曲げモーメントが入力され易くなる。その結果、当該駆動部における円滑な駆動状態が維持できないばかりか、構成部材が損傷する恐れも生じる。
【0036】
このように、コラムCがガイド部材Gの内側を往復移動する構成であれば、より合理的なステアリング装置Sを得ることができる。
【0037】
さらにステアリングHの剛性を高めるには、例えば、図5に示すように、複数のガイドレールG1のうち少なくとも一対のガイドレールG1の位置につき、コラムCの移動方向視において、夫々のガイドレールG1の中心どうしを結ぶ仮想平面FがコラムCの輪郭と交差する状態となるように設定するのが好ましい。つまり、一対のガイドレールG1とステアリング軸Aとの位置関係に着目すると、一対のガイドレールG1を含む仮想平面Fがステアリング軸Aの軸芯Xにさらに近付くことになる。
【0038】
尚、この逆の構成として、例えばコラムCの移動方向に沿って見たときに、コラムCの上方に一対のガイドレールG1を並べて配置し、コラムCを吊り下げ状態に固定する構成も採り得る。ただしこの場合には、仮にステアリング操舵力のうちステアリング軸Aに交差する方向に過大な操作力が入力されたとき、ガイドレールG1とステアリング軸Aとのオフセットの量に応じてコラムCが変位し易くなり、ステアリング剛性が小さいとの操舵感覚が生じる。
【0039】
その点、一対のガイドレールG1の中心どうしを結ぶ仮想平面FがコラムCの輪郭と交差する構成であれば、上記モーメントが発生し難く、剛性感の高いステアリング装置Sを得ることができる。この構成では、車両の衝突時等にステアリング軸Aが軸芯Xの方向に交差する方向に変位し難くなる。よって、通常、ステアリング軸Aに設けられている衝突時の干渉機構が確実に機能することとなり、安全性においても優れたステアリング装置Sを得ることができる。
【0040】
尚、ステアリングHの剛性感をさらに高めるには、一対のガイドレールG1を含む仮想平面Fがステアリング軸Aの軸芯Xに近付くほど顕著となる。現実的には軸芯Xを仮想平面Fと完全に一致させる必要はないが、図5に示すように仮想平面Fがステアリング軸Aと交差する状態であれば十分なステアリング剛性を得ることができる。
【0041】
本構成であれば、ステアリング軸Aに入力される操舵力によってステアリング軸Aが自身の径方向に変位する事態は殆ど生じなくなる。よって、ステアリング軸Aの剛性が極めて高いものとなる。加えて、ステアリング軸Aが変位し難くなることで、ガイドレールG1等に作用する曲げモーメントも小さくなる。その結果、ガイドレールG1の肉厚を薄くする等、ガイドレールG1のスリム化や軽量化が可能となり、よりコンパクトなステアリング装置Sを得ることができる。
【0042】
〔第1駆動部〕
図2および図3に示すように、ガイドフレームGFの奥側の端部には第1駆動部M1が設けてある。ガイドフレームGFとコラムCの間には、第1駆動部M1と後述の第2駆動部M2との距離を変更する駆動伝達部材Tとして、雄ネジ部を有する長尺状の送りネジT1が設けてある。送りネジT1の端部は、第1駆動部M1の一部としてガイドフレームGFに設けた軸受10によって位置固定のまま回転可能に軸支されている。第1駆動部M1では、第1モータm1の軸部に設けた例えばウォームギアである第1歯車11により、送りネジT1の端部に設けた第2歯車12を回転させる。
【0043】
送りネジT1の他端側には後述する第2駆動部M2のナット部材20が羅合している。ナット部材20は内周面に備えた雌ネジ部20aによって送りネジT1に螺合し、外周面に設けた雄ネジ部20bによって第2モータm2の例えばウォームギアである第3歯車21に螺合している。当該ナット部材20は、コラムCに対して相対回転可能であるが、コラムCの移動方向に沿ってはコラムCと相対移動不能である。
【0044】
第1モータm1を駆動させることで、送りネジT1が回転し、ナット部材20を介してコラムCが移動する。第1駆動部M1は、車両を手動運転する際にコラムCを計器盤から引き出し、自動運転の際にコラムCを計器盤の内部に格納する操作を行う。これらの引出操作・格納操作は、後述の第2駆動部M2によるコラムCの前後位置調整の移動よりも高速で行われる。
【0045】
尚、図2および図3に示すように、第1駆動部M1および軸受10はガイドフレームGFに対して揺動可能な基部13に設けられている。これは、仮にガイドフレームGFに対するガイドレールG1の取り付け状態に誤差がある場合、ガイドレールG1と送りネジT1とが平行にならない場合を考慮したものである。つまり、送りネジT1の姿勢は、軸受10の位置とナット部材20の位置とで決定されるが、コラムCを構成する部品の組立誤差やガイドフレームGFに対するガイドレールG1の取付誤差がある場合、第1駆動部M1から見た送りネジT1の延出方向がコラムCの移動に応じて変化する。その際、送りネジT1の駆動によってコラムCが移動する際に、ガイドフレームGFに対して送りネジT1が揺動するから、送りネジT1とナット部材20との摺動抵抗が増加することがなくコラムCの円滑な移動が可能となる。
【0046】
〔第2駆動部〕
図2および図3に示すように、コラムCには第2駆動部M2が設けられている。第2駆動部M2は、車両を手動運転する際にステアリングHの前後位置の微調整を行うものである。第2駆動部M2は、第2モータm2の駆動力を、モータ軸に例えばウォームギアである第3歯車21を介してナット部材20の外周部に設けられた雄ネジ部20bを駆動する。ナット部材20は、コラムCに対して相対回転自在かつコラムCの移動方向に沿っては相対移動不可に取り付けられている。よってナット部材20が回転することで、コラムCが送りネジT1に対して相対移動する。
【0047】
第2駆動部M2の主な機能はステアリングHの前後位置の調整であるから、ステアリングHに近い第2駆動部M2にその機能を持たせることで、第2駆動部M2からステアリングHまでに介在する部品点数が少なくなり、ステアリングHの移動に伴うガタ付きが少なくなる。また、第2駆動部M2に作用する負荷も軽減される。
【0048】
本実施形態では、第2駆動部M2によるコラムCの移動速度は第1駆動部M1によるコラムCの移動速度よりも遅く設定してあるから、ステアリング位置の設定がより容易となる。また、第1駆動部M1による送りネジT1の回転速度および第2駆動部M2によるナット部材20の回転速度の設定が容易であるから、コラムCおよびステアリングHの格納速度とステアリングHの位置調整速度とを適宜設定することができる。
【0049】
また、本実施形態のように両駆動部Mの駆動に共通する送りネジT1を用いることで当該送りネジT1の長さ設定が容易となり、コラムCおよびステアリングHの移動可能領域の設定が自在となる。
【0050】
尚、コラムCは図外の位置センサなどによって、ガイドフレームGFに対する相対位置が認識できるようにするのが好ましい。少なくとも、コラムCの格納が終了した位置、および、コラムCが引き出された状態であって、ステアリングHの前後位置調整が可能な位置を制御部Eに記憶しておく。これにより、ステアリングHの前後位置調整とコラムCの格納・引き出し操作が迅速に行える。尚、コラムCを格納位置から引き出す際には、取り敢えず、ステアリングHの前後位置調整範囲の中央位置まで引き出すこととしても良いし、運転者ごとにステアリングHの位置が記憶されている場合にはその位置まで引き出すことにしても良い。
【0051】
第2駆動部M2および第1駆動部M1を以上のように構成することで、コラムCの格納・引出操作を最も効率的に実施することができる。つまり、両駆動部Mは何れも送りネジT1とナット部材20との相対回転を生じさせるものであり、コラムCが移動端部に到達するまで両駆動部Mを駆動させることができて何れかの駆動部Mが先に停止することがない。よって、双方の駆動部Mを同時駆動することでコラムCの移動速度が最大となり、迅速なコラムCの格納・引出操作が可能となる。
【0052】
〔ガイド機構〕
コラムCの両側部には、コラムCの移動を案内するガイド機構として、複数のベアリング40が、コラムCの移動方向に沿って二列に並ぶようにリテーナ41に保持されている。一方、ガイド機構の他の構成であってこれらベアリング40を案内するガイドレールG1は、例えば、図1図5に示すようにトラック形の一部を切り抜いた断面形状を有するチャンネル部材で構成してある。このチャンネル部材の両端部に設けた円弧状部位の間隔はベアリング40の間隔よりも僅かに小さく構成してある。その結果、ガイドレールG1とベアリング40とがガタ付きなく装着される。
【0053】
〔付勢機構〕
図2あるいは図5に示すように、ガイドフレームGFとコラムCとの間には、両者間に付勢力を発生させる付勢機構Pが設けてある。この付勢機構Pとしては、まず、コラムCに設けられ、コラムCから離間する方向に付勢される付勢部50が備えられている。一方のガイドフレームGFには、コラムCの幅方向の中央位置に設けられ、コラムCの移動方向に沿って延出した受け部51が設けられている。受け部51としては、断面形状がコ形の受けレールが備えられている。受け部51の長さは、少なくとも運転領域においてコラムCが移動するあいだ付勢部50が当接可能となる範囲に設定する。
【0054】
付勢部50は、コラムCに設けられた基体部50aと、基体部50aにバネ部材52を介して保持された出退部50bとを有する。さらに出退部50bには、受けレールに回転可能に当接する当接輪53が備えられている。
【0055】
本構成であれば、バネ部材52の強度を変更することで、付勢力の強さを容易に設定することができる。ただし、受け部51には当接輪53が当接するので、コラムCの移動に際して当接輪53と受け部51との摩擦力は小さくなる。よって、例えば第1駆動部M1の第1モータm1を小型化しつつ、コラムCの格納・引き出し操作が迅速で強い付勢力を発揮し、運転中のステアリングHのガタ付きの少ない車両のステアリング装置Sを得ることができる。
【0056】
尚、受け部51は、例えば図2および図6(a)に示すようにコラムCの格納領域まで延長して設けても良い。この場合、図6(a)に示すように、コラムCが運転領域にある場合のコラムCと受け部51との距離が、格納領域にある場合の同距離よりも短く設定されていると好都合である。
【0057】
このような距離の差を設けることで、コラムCが運転領域にあるときの付勢力が、コラムCが格納領域にあるときの付勢力よりも大きくなる。よって、コラムCが運転領域にあり運転者がステアリングHを操作している状況下では、コラムCおよびステアリング軸Aにガタ付きが生じるのを防止して運転者が良好な操舵感覚を得ることができる。
【0058】
一方、コラムCが格納領域にあるときには、受け部51に対するコラムCの付勢力が小さくなるから、コラムC格納・引出操作がより迅速なものとなる。
【0059】
このような距離の差を設ける場合、図6(a)に示すように、受け部51のうち運転領域に該当する部位と格納領域に該当する部位との間に傾斜部51aを設けておくと好都合である。このような傾斜部51aは設置が容易であり、傾斜部51aの角度を変更することで付勢力の調節も自在である。
【0060】
尚、例えば図6(b)に示すように、コラムCが運転領域以外の領域にあるときに付勢部50が受け部51と当接しないように構成しても良い。この場合、コラムCが運転領域を外れて格納領域の側に移動する際に、付勢部50と受け部51との間には摩擦力など何らの抵抗も生じなくなる。よって、コラムCの格納・引出しに際する駆動負荷がゼロとなり、動作が最も迅速になると共に省電力効果が最大となる。ただし、付勢部50と受け部51が離間することで、ガイドフレームGFに対するステアリングHの剛性が低下する可能性がある。しかし、コラムCが運転領域以外にあるときには原則として運転者はステアリングHに触れないから、そのような剛性低下によって特段の不都合は生じない。
【0061】
本構成とするには、例えば、図6(b)に示すように受け部51を運転領域にのみ設けたり、図6(a)のように受け部51を格納領域にも設けておきながら、付勢部50が格納領域に移動した場合には受け部51に届かないように構成したり、各種構成を選択するとよい。そのためには、図6(b)に示すように、出退部50bが基体部50aから所定長さ以上に突出しないように基体部50aとの間に係止機構50cを設けておくと良い。
【0062】
〔第3駆動部〕
図2および図3に示すように、コラムCには第3モータm3を備えた第3駆動部M3が設けられており、第3モータm3の駆動によってステアリング軸Aのチルト角を調節することができる。本実施形態のステアリング装置Sは、例えばステアバイワイヤによるものであり、ステアリング軸Aの先にステアリングHの操作力を伝える他の軸部材が接続されていないため、送りネジT1をステアリング軸Aと同軸芯上に設けることができる。このため、コラムCの中央部とステアリング軸Aの中央部は、送りネジT1が進入可能なように中空構造にしてある。これらコラムCとステアリング軸Aとは中空構造のユニバーサルジョイント60で接続してある。
【0063】
本構成であれば、図2に示すように、コラムCを引き出した状態では、ユニバーサルジョイント60の位置を送りネジT1の端部からさらに引き出した位置に設定してチルト角を変更可能にすることができる。一方、図3に示すように、コラムCを格納した状態では、送りネジT1の端部がコラムCの孔部Cbを貫通してステアリング軸Aの内部にまで進入するから、コラムCの移動領域を長く確保しつつステアリング装置Sの外形をコンパクトに収めることができ、設置領域が限られた車両に対しても搭載が容易となる。
【0064】
尚、ステアリング軸Aが所定のチルト角を有し、送りネジT1に対してステアリング軸Aが折れ曲がっている場合には、コラムCの移動に先立ってチルト角を無くすように第3駆動部M3を駆動すると良い。
【0065】
〔第2実施形態〕
送りネジT1の端部を第2駆動部M2の側で固定し、コラムCの格納に際して、送りネジT1がコラムCと共に計器盤の奥側に移動する構成であっても良い。
【0066】
この場合には、計器盤の奥に送りネジT1を収容する空間が必要となるが、コラムCを中空構造にする必要がなく、中空のユニバーサルジョイント60を用いる必要もなくなる。よって、ステアリング装置Sの構成をより簡略化することができる。
【0067】
〔その他の実施形態〕
図6(b)あるいは図6(c)に示すように、付勢部50のうち出退部50bを、例えばある程度の摺動性を有する樹脂材料で形成したブロック54としても良い。また、このブロック54の材質そのものが弾性を備えている場合には、バネ部材52を省略することもできる。
【0068】
図6(c)に示すように、付勢機構Pのうち付勢部50と当接する受け部51は、運転領域と格納領域において異なる摩擦力を有する構成にすることもできる。例えば、受け部51はコラムCの往復方向と平行に延出する直線状のレールとし、これにブロック54が当接するものとする。そのうえでレールの面粗度を運転領域では粗く設定し、格納領域では細かく設定する。
【0069】
これにより、格納領域における付勢部50との摩擦力が、運転領域における付勢部50との摩擦力よりも小さくなって、特に格納領域でのコラムCの駆動負荷が軽減される。その結果、コラムCの格納・引き出し操作が迅速なものとなるうえ、特に第1駆動部M1に備える第1モータm1などの小型化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る車両のステアリング装置は、ステアリング軸およびコラムを計器盤の奥に格納可能なステアリング装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
60 ユニバーサルジョイント
A ステアリング軸
C コラム
Cb 孔部
GF ガイドフレーム
H ステアリング
M1 第1駆動部
M2 第2駆動部
S ステアリング装置
T 駆動伝達部材
T1 送りネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6