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特許7371454ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20231024BHJP
   B29B 7/28 20060101ALI20231024BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231024BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231024BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEQ
B29B7/28
C08K3/36
C08K3/04
C08L9/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019209815
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021080388
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 剛久
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197285(JP,A)
【文献】山本雅美,密閉式混合機を中心としたゴムの混練,日本合成ゴム協会誌,1972年,第45巻第4号,p.338-344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00 -3/28;99/00
B29B7/00 -11/14;13/00-15/06
B29C31/00-31/10;37/00-37/04
B29C71/00-71/02
C08K3/00 -13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分とシリカとを含むゴム組成物の製造方法であって、
ロータとラムウェイトとを含む密閉式混練機で、ゴム成分とシリカとを含む原料を混練りする混練工程を含み、
混練工程が、
密閉式混練機に原料を投入する投入工程、
ロータを回転して投入された原料に含まれるゴム成分を粉砕するロータ回転工程、および
粉砕されたゴム成分を加圧するためにラムウェイトを下降するラムウェイト下降工程を含み、
ラムウェイト下降工程におけるラムウェイトの下降開始は、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から20~35秒後であり、
ゴム成分が、イソプレン系ゴムを10質量%以上50質量%以下含む、製造方法。
【請求項2】
投入工程におけるゴム成分とシリカの投入タイミングが同時である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
投入工程において、シリカの全量を投入する、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
投入工程において、ゴム成分の全量を投入する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
シリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
ゴム成分が、溶液重合スチレンブタジエンゴムを10質量%以上含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
原料がさらにカーボンブラックを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
(1)請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法により未加硫のゴム組成物を得る工程、
(2)上記(1)で得た未加硫のゴム組成物を所望のタイヤ部材の形状に押出し加工して、タイヤ部材を得る工程、
(3)上記(2)で得たタイヤ部材を、タイヤ成型機上で、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、成型して未加硫タイヤを得る工程、および、
(4)上記(3)で得た未加硫タイヤを、加硫機中で、加圧加硫してタイヤを得る工程
を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関し、より詳しくは、所定の混練工程を含むゴム組成物の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム成分に各種添加剤を分散させて混練りするための混練装置として、従来、密閉式混練機が多用されている。このような密閉式混練機において、ゴム成分や各種添加剤は、混練機に投入された後、ラムウェイト(フローティングウェイトや加圧蓋とも呼ばれる)の下降により混練室内に押し込まれ、ラムウェイトの下降による加圧状態において、混練室内のロータを回転させることにより混練されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-254148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤ等のゴム製品に求められる性能の確保や、品質、生産性においては、混練機内部の原料を均一に分散・分配させることが非常に重要な要素となる。密閉式混練機で、各配合に処方された原料を均一に分散・分配させるためには、各原料に適した生産条件を設定することが重要となるが、原料の特性値、計量実績、原料の温度や、環境温度によって混練り状態のばらつきが発現することがわかっている。
【0005】
また、シリカを充填剤として採用した配合において、ゴム成分とシリカを同じタイミングで投入し混練りを開始すると、シリカがゴム成分中に分散する前に、ロータとゴムの間でスリップが発生してしまい、原料の均一分散のためには生産性が悪化するという問題がある。
【0006】
上記問題を解決する方法として、シリカ配合に適した設備を採用することや、ラムウェイトの位置を制御する方法があげられるが、設備の汎用性が高くないために、カーボン配合を生産した場合に生産性が悪化するなどの問題がある。
【0007】
本発明は、生産性が向上する混練工程を含む、ゴム成分とシリカとを含むゴム組成物の製造方法、および該製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ロータとラムウェイトを含む密閉式混練機で、ゴム成分とシリカとを含む原料を混練りする工程において、混練り初期のラムウェイトの下降開始のタイミングを特定の範囲に最適化することで、混練時間が短縮され、生産性が向上することを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ゴム成分とシリカとを含むゴム組成物の製造方法であって、
ロータとラムウェイトとを含む密閉式混練機で、ゴム成分とシリカとを含む原料を混練りする混練工程を含み、
混練工程が、
密閉式混練機に原料を投入する投入工程、
ロータを回転して投入された原料に含まれるゴム成分を粉砕するロータ回転工程、および
粉砕されたゴム成分を加圧するためにラムウェイトを下降するラムウェイト下降工程を含み、
ラムウェイト下降工程におけるラムウェイトの下降開始は、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から20~35秒後、好ましくは20~33秒後、より好ましくは22~30秒後、より好ましくは25~30秒後、さらに好ましくは25~27秒後である、製造方法、
[2]投入工程におけるゴム成分とシリカの投入タイミングが同時である、上記[1]記載の製造方法、
[3]投入工程において、シリカの全量を投入する、上記[1]または[2]記載の製造方法、
[4]投入工程において、ゴム成分の全量を投入する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法、
[5]シリカの含有量が、ゴム成分100質量部に対して30質量部以上、好ましくは40質量部以上、より好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上、より好ましくは60~200質量部、より好ましくは60~160質量部、より好ましくは60~130質量部、さらに好ましくは60~110質量部である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法、
[6]ゴム成分が、溶液重合スチレンブタジエンゴムを10質量%以上、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、より好ましくは30~100質量%、より好ましくは30~80質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは30~40質量%含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法、
[7]原料がさらにカーボンブラックを好ましくは1~150質量部、より好ましくは5~90質量部、さらに好ましくは10~50質量部含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法、
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤの製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生産性が向上する混練工程を含むゴム成分とシリカとを含むゴム組成物の製造方法、および該製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一の実施形態は、ゴム成分とシリカとを含むゴム組成物の製造方法であって、ロータとラムウェイトとを含む密閉式混練機で、ゴム成分とシリカとを含む原料を混練りする混練工程を含み、混練工程が、密閉式混練機に原料を投入する投入工程、ロータを回転して投入された原料に含まれるゴム成分を粉砕するロータ回転工程、および粉砕されたゴム成分を加圧するためにラムウェイトを下降するラムウェイト下降工程を含み、ラムウェイト下降工程におけるラムウェイトの下降開始は、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から20~35秒後である、製造方法である。
【0012】
他の実施形態は、上記製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤの製造方法である。
【0013】
理論に拘束されることは意図しないが、上記効果が発揮されるメカニズムとしては以下が考えられる。すなわち、本開示では、ロータとラムウェイトとを含む密閉式混練機で、ゴム成分とシリカとを含む原料を混練りする混練工程において、混練り初期のラムウェイトの下降開始のタイミングを特定の範囲にすることで、原料が混練機に投入された後、ゴム成分が所定の時間ラムウェイトにより加圧されない状態となる。これにより、ロータとゴムとの間でのスリップの発生が抑制できる。そして、所定時間後にラムウェイトを下降したときには、ゴム成分の粉砕がある程度進行しているので、加圧された状態下でもロータとゴムとの間でのスリップは抑制され、ゴム成分の粉砕および粉砕されたゴム成分へのシリカの分散が効率よく行われ、全体として、原料の混練りが効率よく行われる。このため、混練時間が短縮され、生産性が向上すると考えられる。
【0014】
<ゴム成分>
ゴム成分は特に限定されず、従来、ゴム工業で用いられるものをいずれも好適に用いることができる。例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴム、ブチルゴム(IIR)、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl-IIR)およびフッ素化ブチルゴム(F-IIR)を含むハロゲン化ブチルゴムなどのブチル系ゴムがあげられる。これらのゴム成分は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。なかでも、シリカを配合して高性能なゴム組成物を得る観点から、SBRを含むことが好ましく、SBRおよびBRを含むことがより好ましく、SBR、BRおよびイソプレン系ゴムを含むことがより好ましく、SBR、BRおよびイソプレン系ゴムのみであることがさらに好ましい。
【0015】
(スチレンブタジエンゴム)
スチレンブタジエンゴム(SBR)としては、特に限定されず、例えば未変性の乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)や溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)、これらを変性した変性乳化重合スチレンブタジエンゴム(変性E-SBR)や変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S-SBR)などの変性SBRがあげられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性された変性SBR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するものなど)などがあげられる。またSBRとしては、伸展油を加えて柔軟性を調整した油展タイプのものと、伸展油を加えない非油展タイプのものとがあるが、このいずれも使用可能である。このようなSBRとして、例えば、JSR(株)製のもの、旭化成ケミカルズ(株)製のもの、日本ゼオン(株)製のもの、ZSエラストマー(株)製のものなどを用いることができる。これらのSBRは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。なかでも、シリカを配合して低燃費性やウェットグリップ性に優れたゴム組成物を得る観点から、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)が好ましく、変性溶液重合スチレンブタジエンゴム(変性S-SBR)がより好ましい。
【0016】
SBRのスチレン含量は、15.0質量%~40.0質量%であることが好ましい。スチレン含量は、ゴム強度やグリップ性能の観点から、20.0質量%以上がより好ましい。また、スチレン含有量は、低燃費性の観点から、30.0質量%以下がより好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0017】
SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、10.0~80.0%であることが好ましい。ビニル含量は、ゴム強度やグリップ性能の観点から、25.0%以上が好ましく、40.0%以上がより好ましい。また、ビニル含量は、低燃費性の観点から、75.0%以下が好ましく、70.0%以下がより好ましい。なお、SBRのビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される値である。
【0018】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、生産性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、SBRの含有量は、100質量%であってもよく、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。なお、SBRとして油展タイプのSBRを用いる場合は、当該油展タイプのSBR中に含まれる固形分としてのSBR自体の含有量をゴム成分中のSBRの含有量とする。
【0019】
(ブタジエンゴム)
ブタジエンゴム(BR)としては、特に限定されず、この分野で通常使用されるものをいずれも好適に用いることができる。例えば、ローシスポリブタジエンゴム(ローシスBR)、ハイシスポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などの各種BRを用いることができる。なかでも、ハイシスBRが好ましい。このようなBRとして、例えば、宇部興産(株)製のもの、日本ゼオン(株)製のもの、JSR(株)製のもの、ランクセス社製のものなどを用いることができる。これらのBRは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0020】
ハイシスBRとは、シス含量(シス-1,4結合含有率)が90%以上のブタジエンゴムである。なかでも、シス-1,4結合含有率が94%以上のものが好ましく、95%以上のものがより好ましく、96%以上のものがさらに好ましい。ハイシスBRを含有することで低発熱性、引張強さや破断時伸び、耐摩耗性を向上させることができる。なお、BR中のシス-1,4結合含有率は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0021】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、生産性、耐摩耗性の観点から、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、BRの含有量は、生産性、加工性の観点から、80質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等ゴム工業において一般的なものを使用することができる。このうち、天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度化天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。なかでも、NRが好ましい。これらのイソプレン系ゴムは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0023】
NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等のゴム工業において一般的なものを用いることができる。
【0024】
イソプレン系ゴムを含有する場合のゴム成分中の含有量は、生産性、発熱抑制効果等の観点から、10質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、イソプレン系ゴムの含有量は、90質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
<シリカ>
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水ケイ酸)、湿式法により調製されたシリカ(含水ケイ酸)等があげられる。なかでも、表面のシラノール基が多く、シランカップリング剤との反応点が多いという理由から、湿式法により調製されたシリカが好ましい。例えば、エボニックデグサ社、ソルベイ社、東ソー・シリカ(株)、(株)トクヤマ等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのシリカは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0026】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に限定されないが、生産性、低燃費性および耐摩耗性の観点から、80m2/g以上が好ましく、110m2/g以上がより好ましく、140m2/g以上がより好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、シリカのN2SAは、生産性、加工性の観点から、500m2/g以下が好ましく、400m2/g以下がより好ましく、300m2/g以下がより好ましく、200m2/g以下がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0027】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、特に限定されないが、30質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましい。また、シリカの含有量の上限は、特に限定されないが、200質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、130質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましい。シリカの含有量が上記範囲内の場合は、良好な分散性、良好な加工性が得られる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0028】
<その他の充填剤>
充填剤としては、シリカ以外に、さらにその他の充填剤を用いてもよい。そのような充填剤としては、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどこの分野で一般的に使用される充填剤をいずれも用いることができる。これらの充填剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。充填剤として、シリカ以外のものを用いる場合、ゴム強度の観点から、カーボンブラックが好ましい。すなわち充填剤としては、シリカおよびカーボンブラックを含むことがより好ましく、シリカおよびカーボンブラックのみであることがより好ましい。
【0029】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなど、ゴム工業において一般的なものを使用できる。例えば、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱ケミカル(株)、ライオン(株)、日鉄カーボン(株)、コロンビアカーボン社等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0030】
カーボンブラックのN2SAは、特に限定されないが、十分な補強性および良好な耐摩耗性が得られる観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという観点から、500m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、200m2/g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定される値である。
【0031】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックの含有量は、150質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。カーボンブラックの含有量が上記範囲内の場合は、十分な補強性、ゴムへの良好な分散、良好な加工性が得られる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0032】
<シランカップリング剤>
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。そのようなシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等があげられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤およびメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、スルフィド基を有するシランカップリング剤がより好ましい。このようなシランカップリング剤として、例えば、モメンティブ社製のもの、エボニックデグサ社製のものなどを用いることができる。これらのシランカップリング剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0033】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、十分なシリカ分散効果が得られるという理由から、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がより好ましく、6.0質量部以上がさらに好ましい。また、十分なカップリング効果やシリカ分散効果を効率的に得て補強性を確保するという理由から、シランカップリング剤の含有量は、20.0質量部以下が好ましく、18.0質量部以下がより好ましく、15.0質量部以下がさらに好ましい。
【0034】
<その他の成分>
本開示のゴム組成物は、上記した成分に加え、ゴム組成物の製造に一般に使用される他の成分、例えば、オイル、樹脂、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、ワックス、加工助剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0035】
(オイル)
オイルとしては、特に限定されず、ゴム工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができ、例えば、パラフィン系、芳香族系、ナフテン系プロセスオイル等のプロセスオイルがあげられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルがあげられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates)(MES)、および重ナフテン系オイル等があげられる。オイルは、例えば、H&R社、JXTGエネルギー(株)、出光興産(株)、三共油化工業(株)等によって製造販売されるものなどを用いることができる。これらのオイルは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0036】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、特に限定されないが、1質量部以上がより好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。また、オイルの含有量は、70質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。オイルの含有量を上記範囲内とすることにより、ゴムの可塑化、フィラー分散向上の効果をより良好に発揮できる傾向があり、本開示の効果をより良好に発揮できる。なお、オイルの含有量は油展で使用されたオイルの量も含むものである。
【0037】
(樹脂)
樹脂としては、特に限定されず、芳香族系石油樹脂などの従来タイヤ用ゴム組成物で慣用される樹脂を用いることができる。芳香族系石油樹脂としては例えば、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂、アクリル樹脂、ロジン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)などがあげられる。フェノール系樹脂としては、例えば、BASF社製、田岡化学工業(株)製のものなど、クマロンインデン樹脂としては、例えば、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製、JXTGエネルギー(株)製のものなど、スチレン系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製のものなどを使用することができる。テルペン系樹脂としては、例えば、アリゾナケミカル社製、ヤスハラケミカル(株)製のものなどを使用することができる。ロジン系樹脂としては、例えば、ハリマ化成(株)製、荒川化学工業(株)製のものなどを使用することができる。これらの樹脂は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0038】
樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂の含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0039】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、特に限定されず、ゴム工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができ、例えば、キノリン系老化防止剤、キノン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤や、カルバミン酸金属塩等があげられる。なかでも、本開示の効果をより良好に発揮できるという理由から、フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましい。フェニレンジアミン系老化防止剤としては、例えば、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(IPPD)、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)等があげられ、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)を用いることがより好ましい。老化防止剤は、例えば、大内新興化学工業(株)製のもの、川口化学工業(株)製のものなどを用いることができる。これらの老化防止剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0040】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、老化防止剤の含有量は、7.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。老化防止剤の含有量を上記範囲内とすることにより、老化防止効果を十分に得るとともに、老化防止剤がタイヤ表面に析出することによる変色を抑制することができる傾向がある。
【0041】
(ワックス)
ワックスとしては、特に限定されず、ゴム工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができ、例えば、石油系ワックス、鉱物系ワックス、合成ワックスなどがあげられる。なかでも、石油系ワックスが好ましい。石油系ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等があげられる。ワックスは、例えば、大内新興化学工業(株)製のもの、日本精鑞(株)製のもの、パラメルト社製のものなどを用いることができる。これらのワックスは、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0042】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましく、0.8質量部以上がさらに好ましい。また、ワックスの含有量は、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下がさらに好ましい。ワックスの含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0043】
(加工助剤)
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等があげられる。なかでも、脂肪酸金属塩が好ましい。加工助剤は、例えば、ストラクトール社製のものなどを用いることができる。これらの加工助剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0044】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、加工助剤の含有量は、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。加工助剤の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0045】
(加硫剤)
加硫剤としては、特に限定されず、公知の加硫剤を用いることができ、例えば、有機過酸化物、硫黄系加硫剤、樹脂加硫剤、酸化マグネシウム等の金属酸化物などがあげられる。なかでも、硫黄系加硫剤が好ましい。硫黄系加硫剤としては、例えば、硫黄、モルホリンジスルフィド等を用いることができる。これらのなかでも、硫黄を用いることが好ましい。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などがあげられ、いずれも好適に用いられる。これらの加硫剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0046】
加硫剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、加硫剤の含有量は、5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。加硫剤の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0047】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されず、公知の加硫促進剤を用いることができ、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤などがあげられる。なかでも、スルフェンアミド系、チウラム系、グアニジン系が好ましく、スルフェンアミド系がより好ましい。これらの加硫促進剤は、1種または2種以上を組み合せて使用することができる。
【0048】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)などがあげられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0049】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.5質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、本開示の効果をより良好に発揮できる。
【0050】
<ゴム組成物の製造方法>
本開示のゴム成分とシリカとを含むゴム組成物の製造方法は、ロータとラムウェイトとを含む密閉式混練機で、ゴム成分とシリカとを含む原料を混練りする混練工程を含む。
【0051】
(密閉式混練機)
密閉式混練機としては、ロータとラムウェイトを含む、従来ゴム工業で使用される公知の密閉式混練機を用いることができる。このような密閉式混練機は、一般に、ロータが内装された混練室上に昇降可能なラムウェイトが設置されている。そして、当該ラムウェイトの下降により混練室にゴム成分等の原料を押し込みながら、混練室内のロータを回転することにより混練を行う。このような密閉式混練機としては、例えば、バンバリーミキサーやニーダー等があげられる。なかでも、生産性の観点から、バンバリーミキサーが好ましい。ロータの形状は、接線式、噛み合い式のいずれであってもよい。また、ロータは、2枚羽根ロータ、4枚羽根ロータ、6枚羽根ロータのいずれであってもよい。密閉式混練機の容量は特に限定されず、例えば1.7~619Lの範囲の各種容量のものを用いることができる。
【0052】
(混練工程)
混練工程は、密閉式混練機に原料を投入する投入工程(本開示において、単に投入工程ともいう)、ロータを回転して投入された原料に含まれるゴム成分を粉砕するロータ回転工程(本開示において、単にロータ回転工程ともいう)、および粉砕されたゴム成分を加圧するためにラムウェイトを下降するラムウェイト下降工程(本開示において、単にラムウェイト下降工程ともいう)を含む。これら3工程の順序は、投入工程、ロータ回転工程、ラムウェイト下降工程の順である。ゴム組成物の製造方法における混練工程は、加硫剤および加硫促進剤以外の原料を混練りする、いわゆるベース練り、その後、ベース練りで得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りする、いわゆる仕上げ練りを含むものであるが、本開示の3工程は、ベース練りにおいて実施するものである。
【0053】
≪投入工程≫
投入工程は、密閉式混練機に原料(ゴム成分とシリカを含む)を投入する工程である。原料は、密閉式混練機に設けられた、原料を投入するための投入口から投入される。ゴム成分とシリカの投入タイミングは、特に限定されないが、混練時間を短縮して生産性を向上させる観点から、同時であることが好ましい。また、原料としてゴム成分やシリカ以外の原料(ただし加硫剤および加硫促進剤は除く)を含む場合の原料の投入タイミングも、同時であることが好ましい。ここで、同時とは、通常、各原料の投入を意図的に間隔をあけることなく実施することを意味し、厳密な意味での同時(すなわち、原料の投入を同じ瞬間に行う)でなくても構わない。また、例えば、ゴム成分を粉砕するロータ回転を行う前までに、原料が投入されたならば、これら原料は同時に投入されたものと解して差支えない。
【0054】
投入工程において、ゴム成分の投入回数は、特に限定されないが、混練時間を短縮して生産性を向上させる観点から、1回でその全量を投入することが好ましい。なお、ゴム成分として2種以上を用いる場合、全量とは、すべてのゴム成分の全量を意味する。
【0055】
投入工程において、シリカの投入回数は、特に限定されないが、混練時間を短縮して生産性を向上させる観点から、1回でその全量を投入することが好ましい。
【0056】
投入工程において、原料としてゴム成分やシリカ以外の原料(ただし加硫剤および加硫促進剤は除く)を含む場合の原料の投入回数も、特に限定されないが、1回でその全量を投入することが好ましい。
【0057】
≪ロータ回転工程≫
ロータ回転工程は、投入された原料に含まれるゴム成分をロータを回転して粉砕する工程である。本開示のロータ回転工程において、ラムウェイトは下降していないので、ゴム成分は、加圧されない状態でロータ回転により粉砕される。ロータの回転は、投入工程において原料を投入し終えた後に開始してもよいし、生産性の観点から、原料を投入する前に、予めロータを回転させた状態としていてもよい。
【0058】
ロータ回転工程におけるロータ回転数は、特に限定されないが、20rpm以上が好ましく、30rpm以上がより好ましく、40rpm以上がさらに好ましい。また、ロータ回転工程におけるロータ回転数は、80rpm以下が好ましく、60rpm以下がより好ましく、50rpm以下がさらに好ましい。ロータ回転工程におけるロータ回転数を上記範囲内とすることにより、生産性がより向上する傾向がある。
【0059】
≪ラムウェイト下降工程≫
ラムウェイト下降工程は、粉砕されたゴム成分を加圧するためにラムウェイトを下降する工程である。ラムウェイト下降工程におけるラムウェイトの下降開始は、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から20~35秒後である。20秒未満である場合、ロータ回転工程におけるゴム成分の粉砕が不十分であるために、スリップが発生し、原料の均一分散を行うためには生産性が悪化する。また、35秒を超える場合、生産サイクルが長くなるために、生産性が悪化する。ここで、「ロータ回転工程におけるロータの回転開始から」とは、投入工程において原料を投入し終えた後にロータ回転を開始した場合は、当該ロータの回転開始からであり、原料を投入する前に予めロータを回転させた状態としていた場合は、原料投入時点からである。
【0060】
ラムウェイト下降工程におけるラムウェイトの下降開始は、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から、22秒以上が好ましく、25秒以上がより好ましい。また、ラムウェイト下降工程におけるラムウェイトの下降開始は、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から、33秒以下が好ましく、30秒以下がより好ましく、27秒以下がさらに好ましい。ラムウェイトの下降開始が上記範囲内であることにより、ロータ回転工程におけるゴム成分の粉砕時間を確保しながら、全体としての混練時間を短縮して、生産性がより向上する傾向がある。
【0061】
(ゴム組成物の製造)
本開示のゴム組成物は、混練工程において、上記所定の投入工程、ロータ回転工程およびラムウェイト下降工程を含むこと以外には、一般的な製造方法を適用して製造することができる。例えば、上記所定の3工程を経た後、所望の排出温度に達するまで引き続き密閉式混練機で混練りして(ベース練り)、排出する。その後、ベース練りで得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加し、密閉式混練機を用いてさらに混練りし(仕上げ練り)、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0062】
ベース練りにおける排出温度は、特に限定されないが、原料の均一分散を効率良く行い、生産性がより向上するという観点からは、140~170℃が好ましい。仕上げ練りでは、70~110℃で1~5分間混練りする方法があげられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加圧加硫する方法があげられる。
【0063】
(生産サイクル)
生産サイクルは、ベース練りにおいて、ロータ回転工程におけるロータの回転開始から、所定の排出温度で排出した時点までに要した1バッチあたりの時間として定義される。生産サイクルは、排出温度の設定や配合処方等に応じて変動する。例えば、排出温度を150℃に設定した場合、生産サイクルは、好ましくは190~210(秒/バッチ)である。
【0064】
<タイヤの製造方法>
本開示のゴム組成物は、各種タイヤ部材(例えば、トレッド、サイドウォール、カーカス被覆ゴム、クリンチ、チェーファー、ビード、ブレーカークッション、インナーライナーなど)に好適に用いることができる。
【0065】
上記製造方法により製造したゴム組成物を用いたタイヤは、ゴム工業における常法により製造することができる。
【0066】
例えば、該タイヤの製造方法は、
(1)上記製造方法により未加硫のゴム組成物を得る工程、
(2)上記(1)で得た未加硫のゴム組成物を所望のタイヤ部材の形状に押出し加工して、タイヤ部材(例えば、トレッド)を得る工程、
(3)上記(2)で得たタイヤ部材(例えば、トレッド)を、タイヤ成型機上で、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、成型して未加硫タイヤを得る工程、および、
(4)上記(3)で得た未加硫タイヤを、加硫機中で、加圧加硫してタイヤを得る工程
を含むものである。
【0067】
本開示のタイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わないが、空気入りタイヤであることが好ましい。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤなどの高性能タイヤ、ランフラットタイヤなど各種タイヤに用いることができる。
【実施例
【0068】
実施例に基づいて本開示を具体的に説明する。本開示は、これら実施例に限定されない。
【0069】
<実施例および比較例で使用した各種原料>
SBR:NS616(末端変性溶液重合SBR、スチレン含量:21質量%、ビニル含量:66%、非油展、ZSエラストマー(株)から入手可能)
BR:BR1280(汎用BR、シス含量:96.6%、LG Chemical社から入手可能)
NR:TSR20
シリカ:TOKUSIL USG-A(N2SA:175m2/g、OSC Siam Silica社から入手可能)
カーボンブラック:N220(N2SA:111m2/g、キャボットジャパン(株)から入手可能)
オイル:Vivatec500(TDAEオイル、H&R社から入手可能)
シランカップリング剤:HP-1589(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、Jiangxi Hungpai New Material社から入手可能)
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種(三井金属鉱業(株)から入手可能)
ステアリン酸:ビーズステアリン酸つばき(日油(株)から入手可能)
老化防止剤:ノクラック6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(6PPD)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
加工助剤:EF44(脂肪酸亜鉛塩、ストラクトール社から入手可能)
硫黄:粉末硫黄(鶴見化学工業(株)から入手可能)
加硫促進剤:ノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
【0070】
実施例および比較例
<未加硫ゴム組成物>
表1に示す配合処方にしたがい、バンバリーミキサーBB240/2WS(容量240L、2枚羽根ロータ)を用いて、硫黄および加硫促進剤以外の原料を、本開示の投入工程、ロータ回転工程およびラムウェイト下降工程を含む混練工程に付し、排出温度150℃になるまで混練りし(ベース練り)、混練物を得た。混練りの際は、表2に示す「ラムウェイトの下降開始(秒)」にしたがってラムウェイトを下降した。表2中の「ラムウェイトの下降開始(秒)」は、バンバリーミキサーに、硫黄および加硫促進剤以外の原料を投入してロータの回転を開始してから、ラムウェイトの下降を開始するまでの時間(秒)とした。
【0071】
ベース練りで得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、上記バンバリーミキサーを用いて、排出温度95℃以下の条件下で2分間混練りし(仕上げ練り)、未加硫ゴム組成物を得た。
【0072】
<評価>
(生産サイクル)
上記ベース練りにおいて、生産サイクル(秒/バッチ)を、バンバリーミキサーに、硫黄および加硫促進剤以外の原料を投入してロータの回転を開始してから、排出温度150℃で排出した時点までの時間(秒)として測定した。結果を表2に示す。数値が小さいほど、1バッチあたりの混練時間が短く、生産性に優れることを示す。当該数値の目標値は210以下である。
【0073】
(ムーニー粘度指数)
得られた未加硫ゴム組成物について、JIS K 6300-1の「未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準じたムーニー粘度の測定方法に従い、130℃の温度条件にて、ムーニー粘度(ML1+4)を測定し、比較例1のML1+4を100として下記計算式により指数表示した。結果を表2に示す。数値が大きい程、ムーニー粘度が低く、加工性に優れることを示す。当該指数の目標値は比較例1に対して1%以内の範囲である。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1のML1+4)÷(各配合のML1+4)×100
【0074】
(総合評価)
生産サイクルおよびムーニー粘度の総合評価を、下記の基準で評価した。数値が大きい程、生産サイクルおよびムーニー粘度の総合評価に優れることを示す。
3:生産サイクルが200以下で、ムーニー粘度指数が目標値を満たす
2:生産サイクルが201~210で、ムーニー粘度指数が目標値を満たす
1:生産サイクルとムーニー粘度指数の少なくとも1つが目標値を外れる
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表2の結果より、所定のラムウェイト下降工程を含む混練工程を含む製造方法によれば、生産性が向上することがわかる。