IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

特許7371476近赤外蛍光組成物および近赤外蛍光標識剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】近赤外蛍光組成物および近赤外蛍光標識剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20231024BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C09K11/06
G01N21/64 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019224411
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2020097735
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018233557
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】皆嶋 英範
(72)【発明者】
【氏名】立石 直也
(72)【発明者】
【氏名】早川 純平
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-513875(JP,A)
【文献】特開2001-270885(JP,A)
【文献】特開平11-348424(JP,A)
【文献】特開2000-352817(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0008503(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102416178(CN,A)
【文献】Ana C. S. Lobo,Journal of Medicinal Chemistry,2016年,59,4688-4696,DIO: 10.1021/acs.jmedchem.6b00054
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/
G01N 21/64
C09B
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外蛍光色素と、両親媒性物質と、水とを含んでなる近赤外蛍光組成物であって、近赤外蛍光色素が、非水溶性であり、700nm以上に極大蛍光波長を有し、原子数17以上の置換基を有し、かつ、3価または4価の中心金属を有するフタロシアニン系色素であって、下記式(1)を満たすことを特徴とする近赤外蛍光組成物。
式(1) (εa×Φa)/(εb×Φb)≧0.3
ただし、
εaは、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素のモル吸光係数、
Φaは、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素の絶対蛍光量子収率、
εbは、近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素のモル吸光係数、
Φbは、近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素の絶対蛍光量子収率、
を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の近赤外蛍光組成物を含むことを特徴とする、近赤外蛍光標識剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外蛍光組成物およびそれを用いた蛍光標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や細胞、組織などを可視化するバイオイメージング法は、生体内分子・細胞機能の解明や創薬の研究等、生物学、医学の研究領域で幅広く活用されている。中でも蛍光色素を用いたバイオイメージング法は、現象の動的な観察、多色観察、高感度観察が可能なイメージング法である。さらに、近年では、蛍光色素を用いたバイオイメージング法は非侵襲的に診断可能なイメージング法として注目されており、患者への負担が少ない画像診断や手術中のリアルタイム診断など臨床現場における応用が期待されている。
【0003】
バイオイメージングに用いられる蛍光色素としては、可視光領域に蛍光を発するものが広く使用されているが、この波長領域は細胞や組織の自家蛍光や、吸収・散乱が高いため、深部の観察が困難であった。そこで、より影響を受けにくい700nm以上の近赤外領域に蛍光を発する蛍光色素を用いた検討が行われている(例えば、非特許文献1)。
【0004】
現在、バイオイメージングに用いられる近赤外蛍光色素としては、インドシアニングリーンなどのシアニン系色素が一般的に知られている。しかしながら、シアニン系色素は水溶液中での蛍光量子収率は数%と極めて低く、また、励起光による退色の懸念がある。
【0005】
一般的に、バイオイメージングに用いられる蛍光色素は、生体親和性を考慮して水溶性であるが、近赤外域での蛍光を有する分子構造とするためには、共役系の増大などが必要であるため、分子量は増加傾向となり、そのため、色素間に働く疎水性相互作用が強まり、会合や凝集が生じ易くなる。そして、蛍光量子収率の低下を招く。さらに、近赤外領域では、そのエネルギーレベルが水分子の振動エネルギーに近いことから、周囲に存在する水分子へのエネルギー移動が生じて、蛍光量子収率は低下する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】PLOS ONE,2012 Apr7(4),e36265。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、色素に対する両親媒性物質の割合を減少させても蛍光強度の低下が抑制された、700nm以上の光波長で蛍光標識剤として好適に使用できる近赤外蛍光組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、Tween(登録商標)80の量を変化させた場合のモル吸光係数と絶対蛍光量子収率との積の割合が、特定の基準を満たす非水溶性の近赤外蛍光色素を含む近赤外蛍光組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、近赤外蛍光色素と、両親媒性物質と、水とを含んでなる近赤外蛍光組成物であって、近赤外蛍光色素が、非水溶性であり、かつ700nm以上に極大蛍光波長を有し、下記式(1)を満たすことを特徴とする近赤外蛍光組成物に関する。
式(1) (εa×Φa)/(εb×Φb)≧0.3
ただし、
εaは、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素のモル吸光係数、
Φaは、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween 80を含む水溶液中での近蛍光色素の絶対蛍光量子収率、
εbは、近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素のモル吸光係数、
Φbは、近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素の絶対蛍光量子収率、
を表す。
【0010】
さらに、本発明は、近赤外蛍光色素が、原子数3以上の置換基を有し、かつ3価または4価の中心金属を有するフタロシアニン系色素である上記近赤外蛍光組成物に関する。
【0011】
さらに、本発明は、上記近赤外蛍光組成物を含む近赤外蛍光標識剤に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高い蛍光強度を有する近赤外蛍光組成物を用いた蛍光標識剤を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に関わる近赤外蛍光組成物は、近赤外蛍光色素と、両親媒性物質と、水とを含む。そして、近赤外蛍光色素は、非水溶性であり、かつ700nm以上に極大蛍光波長を有し、下記式(1)を満たすことを特徴としている。
式(1) (εa×Φa)/(εb×Φb)≧0.3
ただし、
εaは、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素のモル吸光係数、
Φaは、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素の絶対蛍光量子収率、
εbは、近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素のモル吸光係数、
Φbは、近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液中での近赤外蛍光色素の絶対蛍光量子収率、
を表す。
【0015】
ここで、近赤外蛍光色素は、Tween 80を含む水溶液中で可溶化されており、Tween 80の量に依って単量体あるいは会合体、凝集体の状態で存在する。近赤外蛍光色素に対して500倍質量のTween 80を含む水溶液では、近赤外蛍光色素が単量体として存在するために充分な量のTween 80が存在すると考えられ、近赤外蛍光色素のモル吸光係数や絶対蛍光量子収率は有機溶媒に溶解している状態での値に近いものとなる。一方、近赤外蛍光色素に対して50倍質量のTween80を含む水溶液では、近赤外蛍光色素は会合体や凝集体で存在する傾向が強くなるため、モル吸光係数や絶対蛍光量子収率は低下する。
【0016】
一般に、蛍光分子の蛍光強度はモル吸光係数と蛍光量子収率に比例する。したがって上記式(1)は、近赤外蛍光色素が単量体として存在する場合と、会合や凝集が進んだ場合との、蛍光強度の割合を規定するものである。上記式(1)を満たすとき、Tween80の量が少ない場合でも、近赤外蛍光色素の蛍光強度の低下割合を小さく抑えることができる。
【0017】
Tween 80とは、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンを指し、医薬品や食品、化粧品などで広く用いられている非イオン界面活性剤の一種である。
【0018】
(近赤外蛍光色素)
本発明における近赤外蛍光色素は、非水溶性であること、700nm以上に極大蛍光波長を有することおよび上記式(1)を満たすものであれば、特に限定されるものではない。
【0019】
近赤外蛍光色素としては、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スクアリリウム系色素、ローダミン系色素およびボロンジピロメテン系色素などを好適に用いることができる。これらの色素は一種類のみを使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0020】
近赤外蛍光色素は、非水溶性であることから、例えば、スルホン基、カルボキシル基、水酸基およびアミノ基などの親水基を持たない分子構造が好ましく、イオン結合も有さないことがより好ましい。水分子の振動エネルギーは近赤外領域のエネルギーレベルに近いため、近赤外蛍光色素の周囲に水分子が存在する場合、励起エネルギーは水分子の振動へのエネルギー移動により緩和され、蛍光量子収率は低下してしまう。
【0021】
さらに、会合や凝集が起りにくい分子構造であることが好ましい。例えば、近赤外蛍光色素は、原子数3以上の置換基を有し、かつ3価または4価の中心金属を有するフタロシアニン系色素であることが好ましく、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるフタロシアニン系色素であることがより好ましい。また、置換基の原子数における下限値は、好ましくは3以上であるが、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。また、置換基の原子数における上限値は、特に制限はないが、概ね100以下であることが好ましい。
このような構造を有するフタロシアニン系色素は、立体障害を引き起こす置換基を分子面に平行な方向(R1~R16およびR22~R45)、および分子面に垂直な方向(Z)に有することができるため、より好適に用いることができる。
【0022】
一般式(1)
【化1】
【0023】
一般式(2)
【化2】
【0024】
一般式(1)および一般式(2)において、R1~R16およびR22~R45は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい複素環基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基を表す。ただし、R1~R16の内少なくとも一つおよびR22~R45の内少なくとも一つは、原子数3以上の基である。Mは、3価または4価の金属原子を表す。Zは、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、-OP(=O)R1718、あるいは-OSiR192021を表す。ここでR17、R18、R19、R20、R21は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、あるいは置換基を有してもよいアリールオキシ基を表す。nは1または2の整数を表し、Mが3価の金属原子である場合1であり、Mが4価の金属原子である場合2である。
【0025】
一般式(1)および一般式(2)において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1~18であることが好ましい。
【0026】
アリール基としては、単環、縮合環、環集合およびこれらの組合せからなる構造が挙げられる。単環構造としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,4-キシリル基、p-クメニル基、メシチル基等が挙げられ、炭素数は、6~18であることが好ましい。縮合環構造としては、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナンスリル基、9-フェナンスリル基、1-アセナフチル基等が挙げられ、炭素数は、10~18であることが好ましい。環集合構造としては、o-ビフェニリル基、m-ビフェニリル基、p-ビフェニリル基等が挙げられ、炭素数は、12~18であることが好ましい。
【0027】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。シクロアルキル基の炭素数は、3~18であることが好ましい。
【0028】
複素環基としては、脂肪族複素環、芳香族複素環が挙げられる。脂肪族複素環としては、イミダゾリジン環、2-イミダゾリン環、ピロリジン環、2-ピロリン環、ピペリジン環、ピペラジン環等の脂肪族複素環が挙げられる。また、芳香族複素環としては、イミダゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環等の芳香族複素環が挙げられる。
【0029】
アルコキシ基としては、直鎖又は分岐アルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチル-3-ペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、ステアリルオキシ基、2-エチルへキシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は、1~6が好ましい。
【0030】
アリールオキシ基としては、単環または縮合環を有するアリールオキシ基等が挙げられ、単環のアリールオキシ基であることが好ましい。単環のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、p-メチルフェノキシ基等が挙げられる。また、縮合環のアリールオキシ基としては、ナフチルオキシ基、アンスリルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の炭素数は、6~12であることが好ましい。
【0031】
アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、オクタデシルチオ基、メトキシエチルチオ基、アミノエチルチオ基、ベンジルアミノエチルチオ基、メチルカルボニルアミノエチルチオ基、フェニルカルボニルアミノエチルチオ基などが挙げられる。
【0032】
アリールチオ基としては、フェニルチオ基、1-ナフチルチオ基、2-ナフチルチオ基、9-アンスリルチオ基、クロロフェニルチオ基、トリフルオロメチルフェニルチオ基、シアノフェニルチオ基、ニトロフェニルチオ基、2-アミノフェニルチオ基、2-ヒドロキシフェニルチオ基などが挙げられる。
【0033】
上記で説明した基は、置換基を有していても良い。そのような置換基としては、ハロゲン原子や、シリル基、シアノ基、アミノ基や、前述の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシル基、アリ-ルオキシ基等が挙げられる。その他、骨格構造の一部が、エステル結合(-COO-)、エーテル結合(-O-)、アミド結合(-NHCO-)等の原子団に置換されていても良い。親水性の置換基は、近赤外蛍光色素が非水溶性を保つ範囲で含むことができる。
【0034】
例えば、ZのR19、20、および、R21における、置換基を有してもよいアルキル基としては、下記一般式(3)または一般式(4)に示される構造であってもよい。
【0035】
一般式(3) -R46-X
一般式(4) -R46-X-X
(一般式(3)および一般式(4)において、R46は炭素数1~3のアルキレン基を表す。Xはアミノ基、またはカルボキシ基を表す。Xは、-NH-C(=O)-CH2-CH2-を表す。
【0036】
Mは、3価の金属原子としては、Al、Ga、In等が挙げられる。4価の金属原子としては、Si、Mn、Sn、Cr、Zr等が挙げられる。蛍光強度の観点からは、Mg、Al、Si、Znが好ましい。
【0037】
(両親媒性物質)
両親媒性物質とは、一つの分子内に親水基と疎水基を有する分子の総称であり、代表的なものとして界面活性剤やリン脂質などがある。両親媒性物質は一種類のみを使用してもよく、二種類以上を混合して使用してもよい。本実施形態に関わる両親媒性物質としては、特に限定されることはなく、非水溶性の近赤外蛍光色素を水に可溶化することができればいかなるものでもよい。
【0038】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、高分子界面活性剤などを挙げることができる。
【0039】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)80などのポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、Cremophor(登録商標)EL、Cremophor(登録商標)RH60などのポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、Solutol(登録商標)HS 15などの12-ヒドロキシステアリン酸-ポリエチレングリコールコポリマー、Triton(登録商標)X-100、Triton(登録商標)X-114などのオクチルフェノールエトキシレートなどを挙げることができる。
【0040】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウムなどのアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウムなどのアルキルピリジニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化ポリ(N,N’-ジメチル-3,5-メチレンピペリジニウム)などのアルキル四級アンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、ジアルキルモリホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどを挙げることができる。
【0041】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート並びにこれらのナトリウム、カリウム及びアンモニウム塩などが挙げられる。
【0042】
高分子界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリアルキル、ポリエチレングリコール-ポリ乳酸、ポリエチレングリコール-ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール-ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール-ポリ(ラクチド-グリコリド)などのブロック共重合体を挙げることができる。ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールの市販品としては、プルロニックF68(BASF社製)、プルロニックF127(BASF社製)等が挙げられる。
【0043】
リン脂質としては、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)などの合成リン脂質、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、リゾレシチンなどの天然リン脂質を挙げることができる。
【0044】
(近赤外蛍光組成物の組成割合)
本発明における近赤外蛍光組成物は、上記の近赤外蛍光色素と、上記の両親媒性物質と、水とを含む。そして近赤外蛍光色素は、両親媒性物質を含む水溶液中で可溶化された状態で存在する。近赤外蛍光色素の濃度は特に限定されないが、例えば、細胞を扱う場合、細胞の機能障害や増殖阻害などへの影響を考量すると、濃度は低い方が好ましく、近赤外蛍光色素の濃度は100μM以下であることが好ましい。ただし、近赤外蛍光色素の濃度が低過ぎると、蛍光を認識することが難しいため、1μM以上であることが好ましい。また同様に、両親媒性物質の濃度も低い方が好ましく、両親媒性物質の量は、近赤外蛍光色素に対して500倍質量部以下が好ましく、200倍質量部以下がより好ましく、100倍質量部以下がさらに好ましい。ただし、両親媒性物質の量が少な過ぎると、近赤外蛍光色素の会合や凝集が生じる恐れがあるため、近赤外蛍光色素に対して10倍質量部以上の量であることが好ましい。
【0045】
(近赤外蛍光組成物の作製方法)
本発明における近赤外蛍光組成物の作製方法は、特に限定されないが、例えば、近赤外蛍光色素と両親媒性物質を有機溶媒中に溶解した後、有機溶媒を留去し、水に再溶解させる方法、あるいは近赤外蛍光色素と両親媒性物質を有機溶媒に溶解した溶液に水を注入し、有機溶媒を留去する方法などを挙げることができる。
【0046】
前者の方法では、有機溶媒の留去が容易であり、近赤外蛍光色素と両親媒性物質の濃度も比較的容易に見積もることができるといった利点がある。有機溶媒の留去には、エバポレーターなどによる減圧留去装置が好適に用いられる。溶媒留去時の温度は、15℃から有機溶媒の沸点温度の範囲で任意に設定することができる。水に再溶解させるときは、プロペラ撹拌機、タービン撹拌機、ボルテックスミキサー、撹拌子を用いたマグネティックスターラーによる撹拌、あるいは超音波照射装置による分散などが好適に用いられる。また、コロイドミルなどを併用してもよい。
【0047】
後者の方法では、ミセル粒子を均一に調製し易いといった利点がある。有機溶媒に溶解した溶液に水を注入するとき、溶液は撹拌あるいは超音波照射した状態とし、水を短時間で注入することが好ましい。撹拌は上記と同様の装置で行うことができる。水注入時の温度は、15℃から有機溶媒の沸点より5℃低い温度の範囲で任意に設定することができる。有機溶媒の留去は、撹拌あるいは超音波照射した状態で常圧の下に留去する方法、あるいはエバポレーターなどにより減圧留去する方法が好ましい。溶媒留去時の温度は、15℃から有機溶媒の沸点温度の範囲で任意に設定することができる。
【0048】
上記の作製方法で使用される有機溶媒としては、ヘキサン、シクロへキサン、およびヘプタンなどの炭化水素類、アセトンおよびメチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、およびトリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼンおよびトルエンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびN-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒類、メタノール、エタノール、プロパノール、などのアルコール類、あるいはピリジン誘導体を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、混合して使用してもよい。
また、上記方法にて作製した組成物を透析にかけることで、有機溶媒を完全に除去してもよい。
【0049】
上記の作製方法で使用される水としては、イオン交換水、蒸留水、あるいは超純水を挙げることができる。細胞を扱う場合は、生理条件に近づけるために水に塩を加えた生理食塩水、さらにリン酸緩衝剤を加えたリン酸緩衝生理食塩水などを好適に用いることができる。
【0050】
(近赤外蛍光標識剤)
本発明の近赤外蛍光標識剤の用途は特に限定されないが、例えば、タンパク質や生体内の低分子化合物を蛍光ラベルすることで、生体内での挙動を可視化することが挙げられる。
この用途の場合、近赤外蛍光色素と両親媒性物質からなる粒子に、ターゲット分子に結合する物質を修飾することが好ましい。ターゲット分子に結合する物質としては、ターゲット分子と特異的に結合する一次抗体、その一次抗体に結合する二次抗体、アビジン、ビオチン、あるいは糖鎖などが挙げられる。
【実施例
【0051】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。
【0052】
<近赤外蛍光色素の合成例>
[色素合成例1]
3-ニトロフタロニトリル10部および2,4-ジメチル-3-ペンタノール7.4部をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)70部に溶解し、この溶液に、別途調製したt-ブトキシナトリウム6.1部およびDMF40部を含む溶液を、0℃以下の温度で滴下した。更に、80%酢酸4.8部、塩酸17.5部を加えた。更に、水70部を滴下して生じた結晶を濾別し、得られた結晶を水で洗浄した後に乾燥して、3-(2’,4’-ジメチル-3’-ペントキシ)フタロニトリル11.9部を得た。
キノリン68部及び無水塩化アルミニウム2.2部の溶液にアンモニアガスを導入し、上記で得られた3-(2’,4’-ジメチル-3’-ペントキシ)フタロニトリル11.9部を加えた。180℃に加熱して2時間反応した。これを室温(25℃)まで冷却し結晶を析出させた。生じた結晶を濾別し、結晶を47%メタノール水溶液で洗浄した後に乾燥して、アルミニウムフタロシアニン中間体10.3部を得た。
このアルミニウムフタロシアン中間体1部を、2-ブタノン10部中で、ジメチルフェニルクロロシラン0.23部およびトリエチルアミン0.14部と45℃で2時間反応させた。生じた析出物を濾別し、得られた濾液にアセトンを20部加え、さらにイオン交換水15部を滴下することにより、結晶が析出した。析出した結晶を濾別し、66%アセトン水溶液15部で洗浄した後に乾燥して、フタロシアニン化合物(D-1)0.7部を得た。
MS分析および1H-NMR分析の結果が下記の通りであることより、フタロシアニン化合物(D-1)であることを確認した。
MS分析による分子量:1146Da。
1H-NMR分析(重クロロホルム:重ジメチルスルホキシド-d6 質量比3:1 TMS)によるピーク:9.1ppm(4H、d)、8.1ppm(4H、t)、7.7ppm(4H,d )、6.5ppm(1H、t)、6.3ppm(2H、t)、5.1ppm(2H、d)、4.7ppm(4H、t)、2.6ppm(8H、m)、1.5ppm(24H,q)、1.2ppm(24H、q)、-2.4ppm(6H、d)。
【0053】
[色素合成例2]
スルホラン120部、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン(DBU)14部に4-(2,2-ビス(トリフルオロメチル)プロピル)オキシ-1,3-ジイミノイソインドリン10部および四塩化珪素5部を加え、160~170℃で8時間加熱撹拌後、冷却し、35%塩酸80部と水1500部の混合溶液に注入撹拌し、80℃で2時間加熱撹拌した。その後、析出した沈澱を濾別して、メタノール:水(質量比4:1)混合溶液で洗浄後、乾燥して、粗製シリコンフタロシアニン中間体10部を得た。
この粗製シリコンフタロシアニン中間体を濃硫酸250部に溶解した後、氷水2000部に注入し、析出した沈澱を濾別して、水洗後、乾燥して、シリコンフタロシアニン中間体9部を得た。この中間体5部をピリジン100部、トリ-n-ブチルアミン25部に撹拌溶解した後、冷却しながらクロロジフェニルホスフィン10部を加え、110℃で2時間加熱撹拌した後、冷却し、氷水1000部中に注入した。析出した沈澱を濾別し、水洗後、乾燥して、フタロシアニン化合物(D-2)4部を得た。MS分析および1H-NMR分析より、フタロシアニン化合物(D-2)であることを確認した。
【0054】
[色素合成例3]
o-ジクロロベンゼン50部、トリ-n-ブチルアミン25部に、4-(2,2-ビス(トリフルオロメチル)プロピル)オキシ-1,3-ジイミノイソインドリン8部および四塩化珪素6部を加え、160~170℃で7時間加熱撹拌後、冷却し、メタノール1000部で希釈後、析出した沈澱を濾別して、メタノール:水(質量比3:1)混合溶液で洗浄後、乾燥して、粗製アルミニウムフタロシアニン中間体5.5部を得た。
この粗製アルミニウムフタロシアニン中間体を濃硫酸300部に溶解した後、氷水6000部に注入し、析出した沈澱を濾別して、水洗後、乾燥して、アルミニウムフタロシアニン中間体4.3部を得た。この中間体4部をピリジン80部、トリ-n-ブチルアミン20部に撹拌溶解した後、冷却しながらクロロジフェニルホスフィン5部を加え、110℃で2時間加熱撹拌した後、冷却し、氷水1000部に注入した。析出した沈澱を濾別し、水洗後、乾燥して、フタロシアニン化合物(D-3)3.5部を得た。MS分析および1H-NMR分析より、フタロシアニン化合物(D-3)であることを確認した。
【0055】
[色素合成例4]
色素合成例2で得られたシリコンフタロシアニン中間体1部を、2-ブタノン10部中で、トリフェニルクロロシラン0.5部およびトリエチルアミン0.3部と45℃で5時間反応させた。生じた析出物を濾別し、得られた濾液にアセトンを20部加え、さらにイオン交換水15部を滴下することにより、結晶が析出した。析出した結晶を濾別し、66%アセトン水溶液15部で洗浄した後に乾燥して、フタロシアニン化合物(D-4)0.8部を得た。MS分析および1H-NMR分析の結果が下記の通りであることより、フタロシアニン化合物(D-4)であることを確認した。
【0056】
[色素合成例5]
n-アミルアルコール12.5部にフタロジニトリル2.3部と塩化アルミニウム無水物78部を混合攪拌した。これに、DBU2.7部を加え、昇温し、136℃で5時間還流した。攪拌したまま30℃まで冷却した反応溶液を、メタノール50部、水100部からなる混合溶媒中へ攪拌しながら注入し、青色のスラリーを得た。このスラリーを濾過して、メタノール20部、水40部からなる混合溶媒で洗浄し、乾燥して、1.4部のクロロアルミニウムフタロシアニンを得た。次いで、濃硫酸12部に得られたクロロアルミニウムフタロシアニン1部を室温(25℃)にて加えた。40℃、3時間撹拌した後、3℃の冷水240部にこの硫酸溶液を注入し、析出物をろ過、水洗後、乾燥して、0.9部のヒドロキシアルミニウムフタロシアニン(D-5)を得た。
元素分析結果が下記の通りであることより、ヒドロキシアルミニウムフタロシアニン(D-5)であることを確認した。
計算値(C)69.06%、(H)3.08%、(N)20.14%
実測値(C)69.1%、(H)3.2%、(N)20.1%
【0057】
[色素合成例6]
3-ニトロフタロニトリル10部および2,4-ジメチル-3-ペンタノール7.4部をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)70部に溶解し、この溶液に、別途調製したt-ブトキシナトリウム6.1部およびDMF40部を含む溶液を、0℃以下の温度で滴下した。更に、80%酢酸4.8部、塩酸17.5部を加えた。更に、水70部を滴下して生じた結晶を濾別し、得られた結晶を水で洗浄した後に乾燥して、3-(2’,4’-ジメチル-3’-ペントキシ)フタロニトリル11.9部を得た。
キノリン68部及び無水塩化アルミニウム2.2部の溶液にアンモニアガスを導入し、上記で得られた3-(2’,4’-ジメチル-3’-ペントキシ)フタロニトリル11.9部を加えた。180℃に加熱して2時間反応した。これを室温(25℃)まで冷却し結晶を析出させた。生じた結晶を濾別し、結晶を47%メタノール水溶液で洗浄した後に乾燥して、アルミニウムフタロシアニン中間体10.3部を得た。
このアルミニウムフタロシアン中間体1部を、2-ブタノン10部中で、トリフェニルクロロシラン0.23部およびトリエチルアミン0.14部と45℃で2時間反応させた。生じた析出物を濾別し、得られた濾液にアセトンを20部加え、さらにイオン交換水15部を滴下することにより、結晶が析出した。析出した結晶を濾別し、66%アセトン水溶液15部で洗浄した後に乾燥して、フタロシアニン化合物(D-6)0.7部を得た。
MS分析および1H-NMR分析より、フタロシアニン化合物(D-6)であることを確認した。
MS分析による分子量:1271Da。
【0058】
[色素合成例7]
3-ニトロフタロニトリル20部をジメチルアセトアミド150部に溶解させ、エタノール8部を添加した。そこに、ナトリウムエトキシド12部をジメチルアセトアミド50部に懸濁させた液を氷浴中で滴下ロートにて添加し80℃で4時間反応させた。水700部を加え、析出物をろ過によりフタロシアニン化合物(D-7)の原料となる3-エトキシフタロニトリルを14部得た。
次に、窒素雰囲気下50℃で、無水塩化アルミニウム 1.3部をキノリン40部に溶解させた後、アンモニアガスを1.5時間バブリングさせた。その後、3-エトキシフタロニトリルを5部加え、180℃6時間反応させた。反応液にメタノール200部と水85部、35%塩酸60部 を添加し、1時間攪拌後析出物をろ過して、クロロアルミニウムフタロシアニン中間体を5部得た。
クロロアルミニウムフタロシアニン中間体3.5部をN―メチルピロリドン50部に溶解させた後、水酸化カリウム0.54部を加え、50℃で2時間反応させた。水1000部を加え、1時間攪拌後析出物をろ過して、ヒドロキシアルミニウムフタロシアニン中間体を3部得た。
ヒドロキシアルミニウムフタロシアニン中間体2部をピリジン25部に溶解させた後、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン1.1部加え、室温で一晩反応させた。エバポレーターでピリジンを除去した後、固形物をエタノール30部に半溶解させ、水80部を加え、析出物をろ過、乾燥して、中間体である3-アミノプロピルジメチルエトキシシリルアルミフタロシアニン化合物0.8部を得た。
色素合成例7で得られた3-アミノプロピルジメチルエトキシシリルルアルミフタロシアニン中間体0.5部をNMPに溶解させた後、無水コハク酸0.012部を加え、90℃で4時間反応させた。MS分析より、目的物の生成と、原料ピークの消失を確認した。水50部と食塩を20部加え、1.5時間攪拌させた後、遠心分離機(3000rpm,5分)より固体を沈降させ濾別し、乾燥させ、フタロシアニン化合物(D-7)0.4部を得た。
MS分析および1H-NMR分析より、フタロシアニン化合物(D-7)であることを確認した。
【0059】
<近赤外蛍光色素のTween 80による可溶化液の調製例>
[近赤外蛍光色素:Tween 80=1:50(質量比)の調製例]
Tween80(東京化成工業社製)とアセトンの1:1(質量比)混合溶液を100部調製し、この溶液に近赤外蛍光色素1部を加えて完全溶解した。溶解しにくい場合は、適当量のアセトンを追加した。次いで、エバポレーターにてアセトンを減圧留去し、真空乾燥を12時間行って、近赤外蛍光色素とTween80の均一混合物を得た。得られた混合物に超純水2000部を加え、室温(25℃)で撹拌溶解して、色素濃度0.05%の溶液を得た。
【0060】
[近赤外蛍光色素:Tween 80=1:500(質量比)の調製例]
近赤外蛍光色素を0.1部、超純水を200部に変更した以外は、前述と同様な方法により、色素濃度0.05%の溶液を得た。
【0061】
<モル吸光係数測定>
上記の近赤外蛍光色素およびTween 80を含む各溶液を、超純水で希釈して色素濃度1~50μMの範囲内で数点の希釈溶液を調製し、各々の希釈溶液について、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、U-4100)を用いてそれぞれ吸収スペクトルを測定した。そして、ランバート・ベールの法則に基づいて、最大吸収波長(λmax)におけるモル吸光係数(ε)を求めた。
【0062】
<絶対蛍光量子収率測定>
絶対蛍光量子収率(Φ)は、λmaxを励起波長とし、λmaxにおける吸光度が0.20~0.30の範囲内である希釈溶液について、絶対PL量子収率測定装置(浜松ホトニクス社製、C9920-02)を用いて測定した。
【0063】
<近赤外蛍光組成物の作製>
[実施例1-1]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-1)1部、両親媒性物質としてポリエチレングリコール(PEG)・ポリカプロラクトン(PCL)ブロック共重合体(シグマアルドリッチ社製、PEG分子量5000、PCL分子量5000)100部をアセトン20000部に溶解した。得られたアセトン溶液を室温(25℃)で撹拌下、超純水25000部を滴下した。さらに、室温(25℃)で12時間撹拌した後、アセトンを留去し、0.45μmナイロン製メンブレンフィルターで濾過し、フタロシアニン化合物(D-1)がPEG-PCLミセル内に可溶化された近赤外蛍光組成物を得た。このミセルの体積平均粒子径(以下、特に断りのない限り、単に「平均粒子径」と略記する)は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計(日機装社製、UPA-EX150)を用いて測定したところ、55nmであった。
【0064】
[実施例1-2]
両親媒性物質をポリエチレングリコール(PEG)・ポリ乳酸(PLGA)ブロック共重合体(シグマアルドリッチ社製、PEG分子量5000、PLGA分子量7000)に変更した以外は、実施例1-1と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、50nmであった。
【0065】
[実施例2-1]
近赤外蛍光色素をフタロシアニン化合物(D-2)に変更した以外は、実施例1-1と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、58nmであった。
【0066】
[実施例2-2]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-2)0.1部、両親媒性物質として1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(シグマアルドリッチ社製、DPPC)3部、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-rac-(1-グリセロール)アンモニウム塩(シグマアルドリッチ社製、DPPG)0.8部およびコレステロール1.5部をクロロホルム60部に溶解した。フラスコに移して、エバポレーターにてクロロホルムを減圧留去し、真空乾燥を12時間行って、フラスコ底面にフタロシアニン化合物(D-2)と脂質の混合物の薄膜を形成させた。そのフラスコに超純水10000部を添加し、60℃超音波処理を行った。その後、0.20μmナイロン製メンブレンフィルターで濾過し、フタロシアニン化合物(D-2)がリポソーム内に可溶化された近赤外蛍光組成物を得た。このリポソームの平均粒子径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計(日機装社製、UPA-EX150)を用いて測定したところ、150nmであった。
【0067】
[実施例3-1]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-3)に変更した以外は、実施例1-1と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、60nmであった。
【0068】
[実施例4-1]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-4)に変更した以外は、実施例1-1と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、55nmであった。
【0069】
[実施例4-2]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-4)0.1部、両親媒性物質として、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(シグマアルドリッチ社製、プルロニックF-127)100部をアセトン500部、および水500部に溶解し、60℃で2時間超音波処理を行った。得られた色素溶液をフラスコへ移して、エバポレーターにてアセトンを減圧留去し、フラスコ底面にフタロシアニン化合物(D-4)と脂質の混合物の薄膜を形成させた。そのフラスコに超純水10000部を添加し、800rpmで撹拌処理を行った。その後、0.20μmナイロン製メンブレンフィルターで濾過し、フタロシアニン化合物(D-4)がミセル内に可溶化された近赤外蛍光組成物を得た。
このミセルの平均粒子径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分布計(日機装社製、UPA-EX150)を用いて測定したところ、7nmであった。
【0070】
[実施例5-1]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-6)に変更した以外は、実施例1-1と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、57nmであった。
【0071】
[実施例5-2]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-6)に変更した以外は、実施例4-2と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、6nmであった。
【0072】
[比較例1-1]
近赤外蛍光色素としてフタロシアニン化合物(D-5)に変更した以外は、実施例1-1と同様な方法で作製を試みたが、アセトンへの溶解性が低いため、近赤外蛍光組成物を得ることはできなかった。
【0073】
[比較例2-1]
近赤外蛍光色素として亜鉛2,9,16,23-テトラ-tert-ブチル-29H,31H-フタロシアニン(TTBZnPc、シグマアルドリッチ社製)を用いた以外は、実施例1-1と同様に作製し、近赤外蛍光組成物を得た。ミセルの平均粒子径は、50nmであった。
【0074】
<近赤外蛍光標識剤としての評価>
[細胞培養と蛍光顕微鏡観察]
HeLa細胞を96ウェルプレートに播種(5×103cell/well)し、10%Fetal Bovine Serum(FBS)および1%ペニシリン―ストレプトマイシンを含ませたMinimum Essential Media(MEM)を用いて、インキュベーター(37℃、5%CO2含有Air、加湿環境)内で24時間培養した。その後、培地を取り除き、作製した各近赤外蛍光組成物を超純水で10倍希釈したものを添加し、インキュベーター内に24時間静置した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。適切な波長の励起フィルターおよび蛍光フィルターを設置した蛍光顕微鏡(キーエンス社製、BZ-X710)を用いて、細胞の暗視野像と蛍光像を観察した。それらの結果を表2に示す。実施例の近赤外蛍光組成物では蛍光ラベルされた細胞を明瞭に確認することができたが、比較例2-1では不明瞭であった。
【0075】
【化3】
【0076】
【化3】
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】