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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20231024BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231024BHJP
   B60C 9/06 20060101ALI20231024BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20231024BHJP
   B60C 11/01 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B60C13/00 E
B60C1/00 A
B60C1/00 B
B60C9/06 B
B60C11/00 D
B60C11/01 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019227549
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021095003
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】井坂 航
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-216629(JP,A)
【文献】特開昭61-085204(JP,A)
【文献】特開2015-033982(JP,A)
【文献】特開2012-071722(JP,A)
【文献】特開平04-331603(JP,A)
【文献】特開2013-139191(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0167992(US,A1)
【文献】特開2006-051871(JP,A)
【文献】特開2008-105479(JP,A)
【文献】特開2016-049911(JP,A)
【文献】特開平06-293204(JP,A)
【文献】特開平11-301210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスを含み、かつ前記トレッド部の外表面がタイヤ赤道からトレッド端まで凸円弧状に湾曲して延びる二輪車用タイヤであって、
前記トレッド部をなすトレッドゴムと、前記サイドウォール部をなしかつ前記トレッドゴムに界面を介して連なるサイドウォールゴムとを含み、
前記サイドウォールゴムの70℃における損失正接tanδSは、前記トレッドゴムの70℃における損失正接tanδTよりも小である、二輪車用タイヤ。
【請求項2】
前記カーカスは、バイアス構造をなす、請求項1記載の二輪車用タイヤ。
【請求項3】
前記界面のタイヤ軸方向の外端は、前記サイドウォール部の外面上に位置し、
前記外端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHoと、前記トレッド端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHSとは、次式(1)を充足する、請求項1又は2記載の二輪車用タイヤ。
HS>Ho>0.6×HS ---(1)
【請求項4】
前記界面のタイヤ軸方向の外端は、前記サイドウォール部の外面上に位置し、
前記界面のタイヤ軸方向の内端は、前記カーカス上に位置し、
前記外端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHoと、前記内端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHiとは、次式(2)を充足する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の二輪車用タイヤ。
Ho>Hi ---(2)
【請求項5】
前記界面の前記内端と前記外端とを通る直線の、タイヤ軸方向線に対する角度αは、5°以上である、請求項4記載の二輪車用タイヤ。
【請求項6】
前記サイドウォールゴムの損失正接tanδSのピーク温度Tsは、前記トレッドゴムの損失正接tanδTのピーク温度Ttよりも小である、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の二輪車用タイヤ。
【請求項7】
前記サイドウォールゴムの70℃における複素弾性率E は、前記トレッドゴムの70℃における複素弾性率E よりも小である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の二輪車用タイヤ。
【請求項8】
前記サイドウォールゴムと前記トレッドゴムとは、それぞれ老化防止剤を含み、
前記サイドウォールゴムのゴム成分100重量部に対する前記老化防止剤の配合量は、前記トレッドゴムのゴム成分100重量部に対する前記老化防止剤の配合量よりも大である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の二輪車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリップ性能とダンピング性能とを高次元で両立させた二輪車用タイヤに関する
【背景技術】
【0002】
二輪車用タイヤでは、グリップ性能が不足していると転倒の恐れがある。そのためトレッドゴムには、損失正接tanδの高いゴムがヒステリシス摩擦が大であるため一般に使用される。
【0003】
他方、バイアス構造のタイヤでは、その製造方法から、トレッド部及びサイドウォール部に同じゴムが用いられる傾向がある。
【0004】
しかし、このようなバイアス構造のタイヤにおいて、グリップ性能のために損失正接tanδの高いゴムを使用した場合、サイドウォール部において、衝撃吸収性(所謂ダンピング性能)が悪くなり、ハンドル操作性能を損ねるという問題がある。
【0005】
なお下記の特許文献1には、トレッドゴムを、タイヤ赤道側のセンターゴムと、その両側のショルダーゴムとに分割し、センターゴムに、ショルダーゴムよりも損失正接tanδが大きいゴムを用いることが提案されている。
【0006】
これは、以下の理由に基づく。二輪車用タイヤでは、直進走行時にはセンターゴムが主に路面と接地し、ショルダーゴムよりもウェット路面での走行時間が長い。このことから、センターゴムは、ショルダーゴムに比べ、ウェットグリップ性能が特に求められる。又旋回時にはショルダーゴムが接地するが、ショルダーゴムでは、センターゴムに比して損失正接tanδが相対的に低いため、旋回時において、ダンピング性能を発揮しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2017/204236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、トレッドゴムの改善では、グリップ性能とダンピング性能とを高次元で両立させることは難しく、さらなる検討が望まれる。
【0009】
本発明は、グリップ性能とダンピング性能とを高次元で両立させうる二輪車用タイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスを含み、かつ前記トレッド部の外表面がタイヤ赤道からトレッド端まで凸円弧状に湾曲して延びる二輪車用タイヤであって、
前記トレッド部をなすトレッドゴムと、前記サイドウォール部をなしかつ前記トレッドゴムに界面を介して連なるサイドウォールゴムとを含み、
前記サイドウォールゴムの70℃における損失正接tanδSは、前記トレッドゴムの70℃における損失正接tanδTよりも小である。
【0011】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記カーカスは、バイアス構造をなすのが好ましい。
【0012】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記界面のタイヤ軸方向の外端は、前記サイドウォール部の外面上に位置し、前記外端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHoと、前記トレッド端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHSとは、次式(1)を充足するのが好ましい。
HS>Ho>0.6×HS ---(1)
【0013】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記界面のタイヤ軸方向の外端は、前記サイドウォール部の外面上に位置し、前記界面のタイヤ軸方向の内端は、前記カーカス上に位置し、前記外端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHoと、前記内端のビードベースラインからのタイヤ半径方向の高さHiとは、次式(2)を充足するのが好ましい。
Ho>Hi ---(2)
【0014】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記界面の前記内端と前記外端とを通る直線の、タイヤ軸方向線に対する角度αは、5°以上であるのが好ましい。
【0015】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記サイドウォールゴムの損失正接tanδSのピーク温度Tsは、前記トレッドゴムの損失正接tanδTのピーク温度Ttよりも小であるのが好ましい。
【0016】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記サイドウォールゴムの70℃における複素弾性率E は、前記トレッドゴムの70℃における複素弾性率E よりも小であるのが好ましい。
【0017】
本発明に係る二輪車用タイヤにおいて、前記サイドウォールゴムと前記トレッドゴムとは、それぞれ老化防止剤を含み、前記サイドウォールゴムのゴム成分100重量部に対する前記老化防止剤の配合量は、前記トレッドゴムのゴム成分100重量部に対する前記老化防止剤の配合量よりも大であるのが好ましい。
【0018】
本明細書において、タイヤの各部の寸法等は、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した正規状態において特定される値とする。
【0019】
前記「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。前記「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0020】
70℃における損失正接tanδ、及び70℃における複素弾性率Eは、JIS-K6394の規定に準じ、測定温度:70℃、初期歪み:10%、振幅:±1%、周波数:10Hz、変形モード:引張、の条件にて「粘弾性スペクトロメータ」を用いて測定した値である。
【0021】
損失正接tanδのピーク温度は、JIS-K6394の規定に準じ、測定温度:-120~80℃、初期歪み:10%、振幅:±1%、周波数:10Hz、変形モード:引張、の条件で、tanδを測定し、その測定結果からtanδのピーク温度を求めている。
【発明の効果】
【0022】
本発明は叙上の如く、サイドウォール部をなすサイドウォールゴムの70℃における損失正接tanδSが、トレッドゴムの70℃における損失正接tanδTよりも小に設定されている。
【0023】
通常、走行時のタイヤの温度は70℃程度に上昇している。従って、走行時において、トレッドゴムの損失正接tanδTが相対的に大であり、これにより、直進時及び旋回時の全般に亘って優れたグリップ性能を発揮することが可能となる。他方、走行時において、サイドウォールゴムの損失正接tanδSが相対的に小となる。そのため、トレッドゴムの制約を受けることなく、サイドウォール部に、しなやかな撓みと、優れたダンピング性能とを付与でき、乗り心地性能、及び操縦安定性の向上に貢献しうる。
【0024】
即ち、グリップ性能とダンピング性能とを高次元で両立させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の二輪車用タイヤの一実施例を示す断面図である。
図2】その一部を拡大して示す断面図である。
図3】トレッドゴムの他の実施例を概念的に示す略断面図である。
図4】Ho≦Hiの場合に生じる界面でのクラックを説明する略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の二輪車用タイヤ1は、トレッド部2と、その両端からタイヤ半径方向の内方に延びる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3の内方端に設けられかつビードコア5が埋設されたビード部4とを具える。
【0027】
トレッド部2の外表面であるトレッド面2sは、タイヤ赤道Coからトレッド端Teまで、タイヤ半径方向外側に凸となる円弧状に湾曲して延びる。トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の直線幅であるトレッド幅は、タイヤ最大幅をなし、これにより、大きなキャンバ角を付与して旋回するという、二輪車用タイヤ特有の旋回性能が付与される。
【0028】
二輪車用タイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4に至るカーカス6を含む。本例では、カーカス6のタイヤ半径方向の外側かつトレッド部2の内部に、ブレーカ層7が配される場合が示される。
【0029】
カーカス6は、ビードコア5、5間を跨る本体部6aと、この本体部6aに連なり、かつビードコア5の回りで折り返される折返し部6bとを具える。
【0030】
本例のカーカス6は、バイアス構造を有する。具体的には、カーカス6は、カーカスコードが、タイヤ赤道Coに対して例えば30~60°の角度で傾斜配列する複数枚、本例では2枚のカーカスプライ6A、6Bから形成される。カーカスプライ6A、6Bは、各カーカスコードがプライ間で互いに交差するように、カーカスコードの傾斜の向きを違えて配されている。
【0031】
ブレーカ層7は、カーカス6と同様、ブレーカコードがタイヤ赤道Coに対して例えば30~60°の角度で傾斜配列する複数枚、本例では2枚のブレーカプライ7A、7Bから形成される。ブレーカ層7は、路面の突起などからの衝撃を吸収し、カーカス6を保護する。
【0032】
二輪車用タイヤ1は、トレッド部2をなすトレッドゴムG2と、サイドウォール部3をなすサイドウォールゴムG3とを含む。
【0033】
トレッドゴムG2は、カーカス6のタイヤ半径方向の外側に、本例ではブレーカ層7を介して隣設される。
【0034】
又サイドウォールゴムG3は、カーカス6のタイヤ軸方向の外側に隣設される。サイドウォールゴムG3のタイヤ半径方向の外端は、界面Kを介してトレッドゴムG2のタイヤ軸方向の外端と連なる。
【0035】
そして、本実施形態の二輪車用タイヤ1では、サイドウォールゴムG3の70℃における損失正接tanδSが、トレッドゴムG2の70℃における損失正接tanδTよりも小に設定されている。
【0036】
走行時のタイヤの温度は、通常70℃程度に上昇している。従って、本実施形態の二輪車用タイヤ1では、走行時において、トレッドゴムG2の損失正接tanδTが相対的に大である。これにより、直進時及び旋回時の全般に亘って優れたグリップ性能を発揮することが可能となる。又損失正接tanδTが大であることにより、耐摩擦性能の向上にも貢献できる。
【0037】
他方、走行時において、サイドウォールゴムG3の損失正接tanδSが相対的に小となる。そのため、サイドウォール部3に、しなやかな撓みと、優れたダンピング性能とを付与できる。
【0038】
図3に示すように、トレッド部2では、トレッドゴムG2をタイヤ赤道側のセンターゴム部G2cと、その両側のショルダーゴム部G2sとに三分割し、センターゴム部G2cとショルダーゴム部G2sとに異なる物性のゴムを採用することができる。この場合、サイドウォールゴムG3の70℃における損失正接tanδSは、このサイドウォールゴムG3と隣接するゴム、即ちショルダーゴム部G2sのゴムの70℃における損失正接tanδTよりも小に設定されている。
【0039】
損失正接tanδSと損失正接tanδTとの差(tanδT-tanδS)は、特に規制されないが、0.05以上、より望ましくは0.10以上が好ましい。差(tanδT-tanδS)が0.05を下回ると、グリップ性能とダンピング性能との高次元での両立が難しくなる。
【0040】
なお差(tanδT-tanδS)が大きすぎると、サイドウォールゴムG3とトレッドゴムG2との接着性が減じ、界面Kにクラックや剥離が発生する傾向を招く。そのために、本例では、以下のような構造をしている。
【0041】
図2に拡大して示すように、界面Kのタイヤ軸方向の外端Pkoは、サイドウォール部3の外面3S上に位置する。又界面Kのタイヤ軸方向の内端Pkiは、カーカス6上に位置する。本例では、カーカス6がハイターンアップ構造をなし、カーカス6の折返し部6b上に、前記内端Pkiが位置する場合が示される。しかし、カーカス6がローターンアップ構造をなし、カーカス6の本体部6a上に、前記内端Pkiが位置しても良い。
【0042】
そして、外端PkoのビードベースラインBLからのタイヤ半径方向の高さHoと、トレッド端TeのビードベースラインBLからのタイヤ半径方向の高さHSとは、次式(1)を充足するのが好ましい。
HS>Ho>0.6×HS ---(1)
【0043】
高さHoが高さHSより大(HS<Ho)の場合、サイドウォールゴムG3の一部がトレッド面2s上に露出する。サイドウォールゴムG3はトレッドゴムG2よりもグリップ性能が低いため、旋回時においてグリップ性能が低下、或いは旋回過渡期においてグリップ性能が変化する。そのため、旋回の安定性を損ねる傾向となる。又高さHoが高さHSと等しい(HS=Ho)場合、外端Pkoがトレッド端Teで露出する。即ち、旋回時に外端Pkoが接地し、この外端Pkoを起点として、界面Kにクラックや剥離が発生する傾向を招く。
【0044】
逆に、高さHoが高さHSの0.6倍以下(Ho≦0.6×HS)の場合、荷重負荷時に撓みが大となるサイドウォール部3の中間高さ位置に、外端Pkoが近づくため、外端Pkoに応力が集中し、この外端Pkoを起点として界面Kにクラックや剥離が発生する傾向となる。従って、上記の理由で、式(1)を充足するのが好ましい。なお高さHoの上限は、高さHSの0.95倍以下がより好ましく、下限は0.65倍以上がより好ましい。
【0045】
界面Kにおけるクラックや剥離の発生の抑制のためには、界面Kにおいて、内端PkiのビードベースラインBLからのタイヤ半径方向の高さHiと、前記外端Pkoの高さHoとが、次式(2)を充足するのも好ましい。
Ho>Hi ---(2)
【0046】
このとき、内端Pkiと外端Pkoとを通る直線Xの、タイヤ軸方向線に対する角度αは0°より大、特には5°以上、さらには15°以上、さらには30°以上であるのが好ましい。
【0047】
高さHiが高さHo以上(Ho≦Hi)の場合、図4に示すように、トレッド部2に荷重Fが負荷された場合、トレッドゴムG2には、界面Kに沿ってタイヤ軸方向外側に滑る向きの力fが作用する。その結果、界面Kにクラックや剥離が発生する傾向を招く。なおHo>Hiの場合、トレッドゴムG2には、界面Kに沿ってタイヤ軸方向内側に滑る向きの力が作用するが、内圧が前記力に対抗するため、クラックや剥離の発生は抑制される。
【0048】
タイヤは撓むことでも発熱するため、ゴム物性の温度依存性が高いと、走行状況により性能変化が大きくなる。そのために、サイドウォールゴムG3の損失正接tanδSのピーク温度Tsは、トレッドゴムG2の損失正接tanδTのピーク温度Ttよりも小であるのが好ましい。ピーク温度がより低温側になると、タイヤ実使用域温度での傾きが小さくなる為、トレッドゴムG2より、サイドウォールゴムG3の温度依存性が小さくなる事を意味し、繰返しダンピングに伴う発熱を抑制し、生じた温度変化に対しても、ダンピング特性の効果を維持する効果がある。
【0049】
又二輪車用タイヤ1では、サイドウォールゴムG3の70℃における複素弾性率E*Sが、トレッドゴムG2の70℃における複素弾性率E よりも小であるのも好ましい。これによりサイドウォール部3に、よりしなやかな撓み特性を付与でき、乗り心地性能及び操縦安定性を向上しうる。なお複素弾性率の差(E -E )は、1.0MPa以上、さらには2.0MPa以上が好ましい。差(E -E )の上限は、15MPa以下であるのが、界面Kにおけるクラックや剥離の発生の抑制のために好ましい。
【0050】
トレッド部2は、走行による摩耗によってゴム表面が順次更新されていくが、サイドウォール部3の表面は、更新されずに常時外部に露出している。そのため、サイドウォールゴムG3はトレッドゴムG2に比して、高い耐候性が要求される。そのために、サイドウォールゴムG3のゴム成分100重量部に対する老化防止剤の配合量は、トレッドゴムG2のゴム成分100重量部に対する老化防止剤の配合量よりも大であるのが好ましい。
【0051】
老化防止剤としては、特に限定されないが、例えば2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、AW(6-エトキシ-1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン)、ジフェニルアミンとアセトンの高温縮合物、6C[N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン]、3C(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)等を挙げることができる。
【0052】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0053】
本発明の効果を確認するために、図1に示す構造を有する二輪車用タイヤ(130/70-13M/C)が、表1の仕様に基づいて試作された。そして各試作タイヤについて、グリップ性能、ダンピング性能、温度依存性、耐クラック性能がテストされ、比較された。表1に記載以外は、実質的に同仕様である。
【0054】
(1)グリップ性能:
試作タイヤをリム(MT3.5×13M/C)、内圧(225kPa)の条件にて自動二輪車(125ccのスクータ)の後輪に装着し、低μ路(路面μ=0.45)の旋回コースを走行した。そのときの加速時におけるグリップ性能を、プロライダーによる官能評価により、比較例1を100とした指数で表示した。数値が大なほどグリップ性能に優れている。
【0055】
(2)ダンピング性能:
上記車両を用いて走行し、R50mのカーブ路上に設けられた高さ10mmの段差を通過したときのダンピング性能を、プロライダーによる官能評価により、比較例1を100とした指数で表示した。数値が大なほどダンピング性能に優れている。
【0056】
(3)温度依存性:
タイヤが冷えた走行初期状態と、30分走行(荷重2.25kN相当)してタイヤが暖められた状態とで、上記のダンピング性能のテストを行った。そして、そのときのダンピング性能の変化量を、プロライダーによる官能評価により、比較例1を100とした指数で表示した。数値が大なほど温度依存性が少なく、ダンピング性能が安定している。
【0057】
(4)耐クラック性能:
タイヤを、オゾン濃度50pphm、温度(40℃)の雰囲気内にて21日間放置し、劣化を促進させた。その後、タイヤをリム(MT3.5×13M/C)、内圧(225kPa)、荷重(3.9kN)、速度(60km/h)の条件にて、ドラム上で10000km走行させ、サイドウォール部の表面でのクラック発生の有無を、目視検査によって確認した。
【0058】
【表1】
【0059】
表に示すように、実施例のタイヤでは、グリップ性能とダンピング性能とが高次元で両立しているのが確認できる。
【符号の説明】
【0060】
1 二輪車用タイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
6 カーカス
BL ビードベースライン
Co タイヤ赤道
G2 トレッドゴム
G3 サイドウォールゴム
K 界面
Pki 内端
Pko 外端
Te トレッド端
X 直線
図1
図2
図3
図4