(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】車両の車体構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20231024BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20231024BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20231024BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B62D25/20 G
B62D25/20
B62D25/04
B62D25/20 F
B62D25/06 B
F16F15/02 J
F16F15/02 K
(21)【出願番号】P 2019230376
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】三好 雄二
(72)【発明者】
【氏名】中川 興也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智也
(72)【発明者】
【氏名】鍵元 皇樹
(72)【発明者】
【氏名】大島 伸一
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-206703(JP,A)
【文献】特開2012-245898(JP,A)
【文献】特開2006-213262(JP,A)
【文献】実開昭59-182472(JP,U)
【文献】特開2013-049376(JP,A)
【文献】実開昭63-014469(JP,U)
【文献】特開2019-098908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 25/04
B62D 25/06
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接合面を有する第1車体構成部材および前記第1接合面に対向する第2接合面を有する第2車体構成部材を備え、前記第1接合面および前記第2接合面が、これらの間に充填された減衰部材を介して当該第1接合面と第2接合面とが非接触の状態で接合されている車両の車体構造であって、
前記第1接合面は、当該第1接合面の周縁において互いに交差して連続する2つの縁辺によって形成された角部と、前記角部の周辺において、前記第2接合面から離間する方向に凹む凹部とを有しており、
前記第1接合面における前記角部の周辺には、前記第2接合面から離間する方向に延びる縦壁が前記凹部の周方向に連続する内周面によって形成され、
前記第1接合面と前記第2接合面との重合面は、前記凹部の周囲に連続する平坦部分を有し、
前記減衰部材は、前記平坦部分に接触するとともに前記凹部に充填されて前記縦壁に接触する状態で前記第1接合面および前記第2接合面との間に充填され
、
前記第1車体構成部材は、平面部を有する節部材であり、
前記第2車体構成部材は、内側に前記節部材が挿入可能な空間部を形成する内周面を有する中空部材であり、
前記平面部は、前記角部を有しており、
前記縦壁は、前記平面部における前記角部の周辺に形成されており、
前記減衰部材は、前記縦壁に接触する状態で前記第1接合面および前記第2接合面となる前記平面部と前記内周面との間に充填されている、
車両の車体構造。
【請求項2】
前記角部を形成する前記2つの縁辺は、前記第1接合面の外周縁で構成された互いに交差して連続する2つの端縁で構成されている、
請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記第1車体構成部材は、前記第1接合面に隣接して交差する隣接面をさらに有し、
前記角部を形成する前記2つの縁辺は、前記第1接合面と前記隣接面とによって形成された1つの稜線と、前記第1車体構成部材の外周縁で構成され、前記稜線に交差して連続する1つの端縁とで構成されている、
請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
前記第1車体構成部材は、板状の部材を有し、その一方側の面が第1接合面とされ、
前記板状の部材に、前記一方側の面が凹、他方側の面が凸となる突出部が形成されることにより、当該突出部により前記第1接合面に前記凹部が形成されている、
請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項5】
前記凹部は、前記第1接合面の法線方向視で縦横比が0.5~2.0の範囲である形状を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項6】
前記凹部は、前記第1接合面の法線方向視で円形の形状を有する、
請求項5に記載の車両の車体構造。
【請求項7】
前記縦壁は、前記第1接合面に対して16~100度傾斜している、
請求項1~6のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項8】
前記減衰部材は、粘弾性を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項9】
前記減衰部材は、20℃および60Hzの条件下において、損失係数0.2以上で、かつ、貯蔵弾性率100MPa以上である、
請求項1~8のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両の車体構造では、車両走行中に発生する振動を減衰させるために、車体構成部材の重合部分に減衰接着剤などの減衰部材を介在させた構造が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の車体構造では、車体を構成するフレームの閉断面部の内部に節部材が配置された構成において、節部材が、閉断面部の内周面の一部に溶接などで固定された状態で、当該内周面の他の部分と重ね合わされて減衰接着剤を介して接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような減衰部材によって振動を減衰させる車体構造では、振動減衰効果の向上のために、減衰部材の厚みを増すことや、減衰部材を挟む車体構成部材間の剛性差を大きくすることが考えられる。
【0006】
しかし、減衰部材を増量すれば減衰部材のコストが増加するという問題がある。また、車体構成部材間の剛性差を大きくすれば、車体における振動減衰以外の性能(例えば、衝突や強度信頼性等)に影響を与えてしまい、構成部材の大幅な形状変更になるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、減衰部材の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰部材による振動減衰効果を向上することが可能な車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、接合面の周縁の角部が最も変位が大きくなる傾向に着目して振動減衰効果の向上を可能にした車体構造を創作した。
【0009】
すなわち、本発明の車両の車体構造は、第1接合面を有する第1車体構成部材および前記第1接合面に対向する第2接合面を有する第2車体構成部材を備え、前記第1接合面および前記第2接合面が、これらの間に充填された減衰部材を介して当該第1接合面と第2接合面とが非接触の状態で接合されている車両の車体構造であって、前記第1接合面は、当該第1接合面の周縁において互いに交差して連続する2つの縁辺によって形成された角部と、前記角部の周辺において、前記第2接合面から離間する方向に凹む凹部とを有しており、前記角部の周辺には、前記第2接合面から離間する方向に延びる縦壁が前記凹部の周方向に連続する内周面によって形成され、前記第1接合面と前記第2接合面との重合面は、前記凹部の周囲に連続する平坦部分を有し、前記減衰部材は、前記平坦部分に接触するとともに前記凹部に充填されて前記縦壁に接触する状態で前記第1接合面および前記第2接合面との間に充填され、前記第1車体構成部材は、平面部を有する節部材であり、前記第2車体構成部材は、内側に前記節部材が挿入可能な空間部を形成する内周面を有する中空部材であり、前記平面部は、前記角部を有しており、前記縦壁は、前記平面部における前記角部の周辺に形成されており、前記減衰部材は、前記縦壁に接触する状態で前記第1接合面および前記第2接合面となる前記平面部と前記内周面との間に充填されていることを特徴とする。
【0010】
かかる構成では、車両走行中には、車体の振動によって第1車体構成部材の第1接合面および第2車体構成部材の第2接合面が第1接合面の法線方向に交差する方向(例えば、第1接合面の面内方向)への相対的な変位とともに第1接合面が第2接合面に対して傾斜する(ねじれる)回転方向への相対的な変位が生じる。このとき、第1接合面の周縁の角部が最も変位が大きくなる傾向がある。そこで、上記の構成では、第1接合面における角部の周辺に縦壁が形成されている。これにより、第1接合面の角部の周辺では、第1接合面および第2接合面の相対変位によって減衰部材にせん断ひずみが生じるだけでなく、縦壁が減衰部材を圧縮することにより、圧縮ひずみが減衰部材も同時に発生する。これにより、減衰部材に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大する。減衰部材は、このひずみエネルギーを熱エネルギーに変換することによって振動を減衰させることが可能である。その結果、減衰部材の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰部材による振動減衰効果を向上することが可能である。
上記の車両の車体構造では、前記第1接合面は、前記角部の周辺において、前記第2接合面から離間する方向に凹む凹部を有し、前記縦壁は、前記凹部の周方向に連続する内周面によって構成され、前記減衰部材は、前記凹部に充填されて前記縦壁に接触している。
かかる構成により、第1接合面の角部の周辺において、凹部の内部では、減衰部材が縦壁としての内周面に沿って互いに圧縮し合うことにより当該減衰部材の圧縮ひずみが増大し、減衰部材に吸収されるひずみエネルギーをさらに増大することが可能になる。その結果、振動減衰効果をさらに向上することが可能である。
また、上記の車両の車体構造では、前記第1車体構成部材は、平面部を有する節部材であり、前記第2車体構成部材は、内側に前記節部材が挿入可能な空間部を形成する内周面を有する中空部材であり、前記平面部は、前記角部を有しており、前記縦壁は、前記平面部における前記角部の周辺に形成されており、前記減衰部材は、前記縦壁に接触する状態で前記第1接合面および前記第2接合面となる前記平面部と前記内周面との間に充填されている。
かかる構成では、節部材の平面部と中空部材の内周面とが減衰部材を介して接合される構成において、平面部における角部の周辺に縦壁が形成され、減衰部材は、縦壁に接触する状態で平面部と内周面との間に充填されているので、節部材と中空部材との接合部分において、減衰部材の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰部材による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0011】
上記の車両の車体構造において、前記2つの縁辺は、前記第1接合面の外周縁で構成された互いに交差して連続する2つの端縁で構成されているのが好ましい。
【0012】
かかる構成では、角部は、第1接合面の外周縁で構成された互いに交差して連続する2つの端縁によって形成される。このような角部では、車両走行中に振動エネルギーが当該2つの端縁を通して角部に集中するので、第1接合面において角部の変位が最も大きくなる。そこで、上記の構成では、2つの端縁で形成された角部の周辺に縦板が形成されている。これにより、縦壁が減衰部材を圧縮することによって発生する圧縮ひずみによって、2つの端縁で形成された角部の周辺では、減衰部材に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大し、その結果、減衰部材の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰部材による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0013】
上記の車両の車体構造において、前記第1車体構成部材は、前記第1接合面に隣接して交差する隣接面をさらに有し、前記角部を形成する前記2つの縁辺は、前記第1接合面と前記隣接面とによって形成された1つの稜線と、前記第1車体構成部材の外周縁で構成され、前記稜線に交差して連続する1つの端縁とで構成されているのが好ましい。
【0014】
かかる構成では、角部は、第1接合面とその隣接面とによって形成された1つの稜線と当該稜線に交差して連続する1つの端縁によって形成される。このような角部では、車両走行中に振動エネルギーが第1接合面の端縁および稜線を通して角部に集中するので、第1接合面において角部の変位が最も大きくなる。そこで、上記の構成では、端縁および稜線で形成された角部の周辺に縦板が形成されている。これにより、縦壁が減衰部材を圧縮することによって発生する圧縮ひずみによって、端縁および稜線で形成された角部の周辺では、減衰部材に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大し、その結果、減衰部材の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰部材による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0017】
上記の車両の車体構造において、前記第1車体構成部材は、板状の部材を有し、その一方側の面が第1接合面とされ、前記板状の部材に、前記一方側の面が凹、他方側の面が凸となる突出部が形成されることにより、当該突出部により前記第1接合面に前記凹部が形成されているのが好ましい。
【0018】
かかる構成では、板状の部材にプレス加工を施すことによって、第1接合面に凹部を容易に形成することが可能である。しかも、板状の部材の厚さ以上の高さを有する縦壁を形成することも可能であり、縦壁が減衰部材に与える圧縮ひずみによるひずみエネルギーの向上が可能であり、振動減衰効果のより一層の向上が可能である。
【0019】
上記の車両の車体構造において、前記凹部は、前記第1接合面の法線方向視で縦横比が0.5~2.0の範囲である形状を有するのが好ましい。
【0020】
かかる構成により、凹部の形状を、第1接合面の法線方向視で縦横比を0.5~2.0の範囲である形状、すなわち凹部の縦横の長さが略均等の形状にすることにより、凹部の内周面の変形を抑えながら減衰部材の圧縮ひずみをより一層増大することが可能である。これにより、減衰部材に吸収されるひずみエネルギーがより一層増大することが可能になり、振動減衰効果をより一層向上することが可能である。
【0021】
上記の車両の車体構造において、前記凹部は、前記第1接合面の法線方向視で円形の形状を有するのが好ましい。
【0022】
かかる構成では、凹部の縦横の長さが均等になるので、凹部の内周面の変形を抑えながら減衰部材の圧縮ひずみを増大する効果が最も高くなる。
【0023】
上記の車両の車体構造において、前記縦壁は、前記第1接合面に対して16~100度傾斜しているのが好ましい。
【0024】
かかる構成では、縦壁が減衰部材をより強く圧縮することにより、より大きな圧縮ひずみが減衰部材に発生する。そのため、減衰部材で吸収されるひずみエネルギーの総量がより一層増大し、振動減衰効果をより一層向上することが可能である。
【0025】
上記の車両の車体構造において、前記減衰部材は、粘弾性を有するのが好ましい。
【0026】
かかる構成では、減衰部材は粘弾性の性質を有することにより、上記のせん断ひずみおよび圧縮ひずみを確実に発生してひずみエネルギーの総量を確実に増大させ、振動減衰効果を確実に向上することが可能である。
【0027】
上記の車両の車体構造において、前記減衰部材は、20℃および60Hzの条件下において、損失係数0.2以上で、かつ、貯蔵弾性率100MPa以上であるのが好ましい。
【0028】
かかる構成では、上記の性質を有することにより、構造用接着剤と比較して顕著な振動減衰効果を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の車両の車体構造によれば、減衰部材の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰部材による振動減衰効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両の車体構造を適用した車室前部の斜視図である。
【
図2】
図1のクロスレインメンバとフロアパネルとの重合部分の端部付近における拡大斜視図である。
【
図3】
図2のクロスレインメンバのつば部付近の切欠拡大図である。
【
図4】(a)は、
図2のクロスレインメンバおよびフロアパネルの重合面の間および突出部における凹部内部において発生する減衰部材のせん断ひずみおよび圧縮ひずみを説明するための断面説明図、(b)クロスレインメンバのつば部の法線方向から見た場合の楕円形状の凹部の内周面における圧縮ひずみを示す断面説明図である。
【
図5】
図4(b)の凹部を有する突出部の縦横比と固有振動数変動率との関係を示すグラフである。
【
図6】
図3の突出部が円形形状の場合の周壁の変形を示す図であって、(a)はクロスレインメンバのつば部の法線方向から見た場合、(b)は、突出部付近の縦断面を見た場合の図である。
【
図7】
図3の突出部が長細い矩形形状の場合の周壁の変形を示す図であって、(a)はクロスレインメンバのつば部の法線方向から見た場合、(b)は、突出部付近の縦断面を見た場合の図である。
【
図8】
図3の突出部の形状を示す図であって、(a)は略円形、(b)は台形、(c)は三角形の形状をそれぞれ示す。
【
図9】
図3の突出部の周壁の幅1mm当たりの高さと減衰部材のせん断ひずみおよび圧縮ひずみによって発生するひずみエネルギーの総量との関係を示すグラフである。
【
図10】
図3の突出部の周壁の幅1mm当たりの高さと減衰部材による振動の低減代との関係を示すグラフである。
【
図11】(a)~(l)は
図3の突出部として適用可能な形状を示す図である。
【
図12】(a)は本発明の変形例に係る車両の車体構造を適用した車室前部であって、フロアボードとトーボードとの重合部分付近の拡大斜視図、(b)は(a)の重合部分の拡大図である。
【
図13】本発明の他の変形例に係る車両の車体構造を適用した車室上部であって、ルーフレールの内部に節部材が配置された図である。
【
図16】
図15の節部材とサイドシルインナとの重合部分の突出部付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0036】
図1に示される車両の車体構造20は、複数の車体構成部材によって構成され、具体的には、車室の底面を構成するフロアパネル1と、車室中央において車両前後方向に延びるトンネルレインメンバ2と、車幅方向に延びるクロスレインメンバ3と、フロアパネル1の前方に配置されたトーボード4と、車室前端の両側において上下方向に延びるフロントピラー5と、車室中央の両側において上下方向に延びるセンターピラー6と、車室の下部両側において車両前後方向に延びるサイドシル7とを備えている。クロスレインメンバ3は、トンネルレインメンバ2およびサイドシル7を連結することにより車体下部の剛性を上げている。車室の両側では、フロントピラー5、センターピラー6、サイドシル7、および当該サイドシル7の上方において車両前後方向に延びるルーフレール15(
図13参照)によって、略矩形のフロント側開口8が形成されている。
【0037】
図2~3に示されるように、本実施形態では、減衰接着剤10(減衰部材)を介して接合される第1車体構成部材および第2車体構成部材の一例として、フロアパネル1およびクロスレインメンバ3の接合部分に着目して説明する。
【0038】
すなわち、本発明の第1車体構成部材としてのクロスレインメンバ3は、一対のつば部3aを有する。つば部3aは、第1接合面としての下面3a1を有する。一方、本発明の第2車体構成部材としてのフロアパネル1は、第2接合面としての平面である上面1aを有する。
【0039】
クロスレインメンバ3の一対のつば部3aのそれぞれの下面3a1は、フロアパネル1の上面1aに対して減衰部材である減衰接着剤10を介して接合されている。そのため、フロアパネル1およびクロスレインメンバ3との間で伝達される振動を減衰接着剤10によって減衰することが可能である。
【0040】
本実施形態では、
図2~4に示されるように、第1車体構成部材としてのクロスレインメンバ3は、板状の部材であるつば部3aを有する。つば部3aは、その一方側の面(フロアパネル1の上面1aに対向する下面3a1)が第1接合面とされ、つば部3aに、一方側の面が凹、他方側の面が凸となる複数の突出部11がプレス成形などによって形成される。これらの突出部11によって、下面3a1(第1接合面)に凹部12が形成されている。
【0041】
これにより、
図4(a)、(b)に示されるように、つば部3aの下面3a1(第1接合面)は、フロアパネル1の上面1a(第2接合面)から離間する方向A1に凹む凹部12を有する構成になる。また、凹部12の周方向に連続する内周面30によって、本発明の縦壁が構成される。減衰接着剤10は、凹部12に充填されて内周面30に接触している。
【0042】
突出部11についてさらに詳細に説明すれば、突出部11は、周壁13と、周壁13の開口縁を閉じる天壁14とを備えている。周壁13は、閉じた形状(
図4(b)では略円環形状)を有し、全周にわたって同一の厚さを有する。
図4(a)、(b)に示されるように、減衰接着剤10は、突出部11の凹部12内部に満たされて凹部12の内周面30(すなわち、周壁13の内周面)に接触している。縦壁となる凹部12の内周面30は、つば部3aの法線方向Aに交差する面内方向Bにおいて減衰接着剤10に接触している。
さらに詳しく言えば、図4(a)、(b)に示されるように、クロスレインメンバ3のつば部3a(第1接合面)とフロアパネル1の上面1a(図3参照)(第2接合面)との重合面Sは、凹部12の周囲に連続する平坦部分S1を有する。減衰接着剤10は、平坦部分S1に接触するとともに凹部12に充填されて内周面30(縦壁)に接触する状態でつば部3a(第1接合面)とフロアパネル1の上面1a(第2接合面)との間に充填されている。
【0043】
本実施形態では、
図2~3に示されるように、縦壁としての内周面30を有する突出部11がクロスレインメンバ3のつば部3aに複数形成されている。複数の突出部11のうち突出部11Aおよび11Bは、つば部3aのうち車両走行中の振動によって最も変位が大きい部位、すなわち、つば部3aの角部34、35の周辺領域41、42に形成されている。
【0044】
さらに詳細に言えば、第1接合面としての下面3a1を有するつば部3aは、下面3a1の周縁において互いに交差して連続する2つの縁辺(後述の端縁31と32との組、または端縁32と稜線33との組)によって形成された角部34、35を有している。つば部3aにおける角部34、35の周辺領域41、42には、縦壁としての内周面30を有する突出部11A、11Bが形成されている。
【0045】
周辺領域41、42は、例えば、角部34、35周辺において当該角部34、35の変位に伴って変位する領域として定義される。
【0046】
ここで互いに交差して連続する2つの縁辺についてさらに詳細に言えば、上記の角部34を形成する互いに交差して連続する2つの縁辺は、つば部3aの外周縁で構成された互いに交差して連続する2つの端縁31、32とで構成されている。これら端縁31、32は、他の部位に接続されていない部分(いわゆる自由端)である。
【0047】
本実施形態のクロスレインメンバ3は、つば部3aに隣接して交差する(本実施形態では直交する)縦壁3bを有している。縦壁3bは、つば部3aの下面3a1に直交する内側面である隣接面3b1を有している。角部35を形成する互いに交差して連続する2つの縁辺は、下面3a1と隣接面3b1とによって形成された1つの稜線33と、稜線33に互いに交差して連続する1つの端縁32とで構成されている。
【0048】
ここで、
図4(a)に示されるように、フロアパネル1(第2接合面側)とクロスレインメンバ3のつば部3a(第1接合面側)との重合面Sにおいて、車両走行中の振動によって、フロアパネル1およびつば部3aが面内方向Bにおいて相対的に変位する場合を考える。
【0049】
この場合、重合面Sにおける平坦な部分S1では、減衰接着剤10には、つば部3aの面内方向Bの圧力Pによって、面内方向Bのせん断力F1のみが作用して、せん断ひずみが生じる。
【0050】
本実施形態では、クロスレインメンバ3のつば部3aにおいて、突出部11の配設により縦壁としての凹部12の内周面30が形成されている。この内周面30を有する周壁13によって、減衰接着剤10には面内方向Bの圧縮力F2(または引張力)が作用して圧縮ひずみが生じる。これにより、フロアパネル1およびつば部3aの相対変位によって減衰接着剤10には、せん断ひずみとともに圧縮ひずみも同時に発生するので、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大する。
【0051】
しかも、
図4(b)に示されるように、略円環形状に閉じている周壁13内側の凹部12の内周面30をつば部3aの法線方向Aから見た場合、減衰接着剤10には、圧縮力F2(または引張力)が内周面30に沿って連続的に作用して圧縮ひずみが連続的に生じることにより、圧縮ひずみによるひずみエネルギーが増大し、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーはさらに増大する。
【0052】
図4(b)に示されるように、凹部12およびそれを有する突出部11は、法線方向Aから見た場合に縦横比b/aが0.5~2.0の範囲である形状を有するのが好ましい(なお、突出部11の周壁13は全周にわたって同一の厚さを有するので、突出部11の縦横比は凹部12の縦横比と対応関係にある)。この範囲であれば、凹部12の縦横の長さが略均等の形状になるので、縦壁としての凹部12の内周面30(具体的には内周面30を構成する周壁13)の変形を抑えながら減衰接着剤10の圧縮ひずみを増大することが可能である。
【0053】
図5に示されるグラフを見れば、
図4(b)の凹部12およびそれを有する突出部11の縦横比b/aと固有振動数変動率Dとの関係は、縦横比b/aが1のときに固有振動数変動率Dが最小の1となり(すなわち、
図5に示される曲線において縦横比b/aが1のときに変曲点となり)、縦横比b/aが1より大きくなるかまたは1よりも小さくなるにつれて固有振動数変動率Dは増大する。この固有振動数変動率Dが大きくなると突出部11が変形しやすくなる傾向がある。
【0054】
例えば、
図6(a)、(b)に示されるように、つば部3aの法線方向Aから見た突出部11の外形形状(すなわち、周壁13の形状)が円形(すなわち、縦横比b/a=1)の場合には、減衰接着剤10がフロアパネル1の上面1aおよびつば部3aから面内方向Bの圧力Pを受けたときに、初期状態の周壁131からの口開き変形(すなわち突出部11外方への変形)がほとんど生じず、周壁13が外方へたわまない。そのため、周壁13周辺の減衰接着剤10の圧縮ひずみが分散せずに蓄積され、その結果、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーを増大させることが可能であり、振動減衰効果を向上させることが可能である。
【0055】
一方、
図7(a)(b)に示されるように、つば部3aの法線方向Aから見た突出部11の形状(すなわち、周壁13の形状)が細長い矩形(縦横比b/a>>2)の場合には、初期状態の周壁131からの口開き変形が大きく、周壁13が外方へ大きくたわむ。そのため、周壁13周辺の減衰接着剤10の圧縮ひずみが分散されて蓄積されなくなり、その結果、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーが低下し、振動減衰効果が得られにくくなる。
【0056】
また、
図8に示されるように、突出部11は、つば部3aの法線方向Aから見た場合に円形、三角形、または四角形のうちのいずれか1つの形状であれば、プレス成形などによって形成しやすい。とくに、突出部11が法線方向Aから見た場合に円形の形状を有する場合には、突出部11の縦横の長さが均等になるので、周壁13の変形を抑えながら減衰接着剤10の圧縮ひずみを増大する効果が最も高くなるので、最も好ましい。
【0057】
縦壁としての内周面30を有する周壁13は、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーを増大させる観点から、クロスレインメンバ3のつば部3aに対して16~100度傾斜しているのが好ましい。
【0058】
ここで、
図9に示されるグラフから、
図3の突出部11の周壁13の幅1mm当たりの高さhと減衰接着剤10のせん断ひずみおよび圧縮ひずみによって発生するひずみエネルギーの総量E+Gとの関係を見る。
【0059】
図9のグラフから明らかなように、減衰接着剤10のせん断ひずみによって発生するひずみエネルギーUgは、周壁13の幅1mm当たりの高さhが0~0.3mmまではほとんど変化せず、0.3~1.0mmでは、若干増加していることが分かる。
【0060】
一方、減衰接着剤10の圧縮ひずみによって発生するひずみエネルギーUeは、周壁13の幅1mm当たりの高さhが0から0.3mmよりも少し低い高さまではほとんど変化せず、0.3mmよりも少し低い高さから若干増加し、さらに、0.3~1.0mmでは急激に増加していることが分かる。
【0061】
図9に示されるひずみエネルギーの総量Ug+Ueを見れば、周壁13の幅1mm当たりの高さhが0.3mmよりも少し低い高さ以上の高さであれば、ひずみエネルギーの総量Ug+Ueが増大することがわかる。
【0062】
ここで、周壁13の傾斜角度は、周壁13の幅1mm当たりの高さhが0.3mmの場合には、tan‐1(0.3)=16.7度であることを考慮すれば、周壁13は、クロスレインメンバ3のつば部3aに対して16度以上傾斜していれば、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーを増大させることが可能である。一方、縦壁としての周壁13をスチールなどの金属板を用いてプレス成形などによって形成する場合の加工限界を考慮すれば、周壁13のつば部3aに対する角度は100度以内が好ましい。したがって、ひずみエネルギー増大と加工限界の条件から、周壁13はつば部3aに対して16~100度傾斜しているのが好ましいことが導出される。
【0063】
つぎに、
図10に示されるグラフから、突出部11の周壁13の幅1mm当たりの高さhと減衰接着剤10による振動低減代R(dB)との関係を見る。
図10のグラフでは、減衰接着剤10による振動低減代R(dB)は、周壁13の幅1mm当たりの高さhが0から0.3mmよりも少し低い高さまではほとんど減少せず、0.3mmよりも少し低い高さから若干減少の度合いが大きくなり、さらに、0.3~1.0mmでは急激に減少していることが分かる。これにより、減衰接着剤10による振動低減代R(dB)は、周壁13の幅1mm当たりの高さhが0.3mmよりも少し低い高さ以上の高さであれば、振動低減代Rが減少するので、周壁13はつば部3aに対して16度以上傾斜していれば振動減衰効果が高くなることが裏付けられる。
【0064】
突出部11は、つば部3aに対する周壁13の角度が16~100度の範囲であれば、種々の形状を採用することが可能である。したがって、
図11(a)~(d)に示されるように、周壁13がつば部3aに対向するフロアパネル1から離間する方向に延びるように当該つば部3aに対して鋭角、直角、あるいは鈍角のいずれの角度をなす方向に傾斜してもよく、または、
図11(e)に示されるように、突出部11がフロアパネル1に近づく方向に突出して周壁13がフロアパネル1に近づく方向に傾斜してもよい。さらには、
図11(f)~(l)に示されるように、周壁13が湾曲して曲がっていても、上記のように、周壁13によって減衰接着剤10に圧縮ひずみを生じさせるひずみエネルギーの総量を増大させることが可能である。なお、
図11(a)~(e)に示されるように、周壁13およびつば部3aによってとがった角部を形成している形状の方が減衰接着剤10の圧縮ひずみを増大させることができる点で好ましい。
【0065】
減衰接着剤10(減衰部材)は、振動減衰効果を確実に生じさせるために、粘弾性を有しているのが好ましい。このような粘弾性を有する減衰接着剤10は、例えば、エポキシ系、ウレタン系またはアクリル系などの接着剤と、当該接着剤に添加される添加剤(例えば、硬化剤、無機または有機フィラー、または吸湿材など)とから構成されている。
【0066】
なお、減衰部材は、ペースト状接着剤の形態のみではなく、粘弾性を有するものであれば材質や形態は問わない。
【0067】
また、減衰接着剤10は、20℃および60Hzの条件下において、損失係数0.2以上で、かつ、貯蔵弾性率100MPa以上であれば、構造用接着剤と比較して顕著な振動減衰効果を得ることが可能である。また、より好ましくは、損失係数0.3~0.4で、かつ、貯蔵弾性率1000MPa以上であれば、より顕著な振動減衰効果を得ることが可能である。
【0068】
(本実施形態の特徴)
(1)
本実施形態の車体構造20は、下面3a1(第1接合面)を有するつば部3aを含むクロスレインメンバ3(第1車体構成部材)およびつば部3aの下面3a1に対向する上面1a(第2接合面)を有するフロアパネル1(第2車体構成部材)を備え、つば部3aの下面3a1およびフロアパネル1の上面1aが、これらの間に充填された減衰接着剤10(減衰部材)を介して接合されている構造である。つば部3aの下面3a1は、つば部3aの周縁において互いに交差して連続する2つの縁辺(すなわち、2つの端縁31と32の組、および端縁32と稜線33の組)によって形成された角部34、35を有している。つば部3aの下面3a1における角部34、35のの周辺領域41、42には、フロアパネル1に接近する方向A2(
図4(a)参照)または当該フロアパネル1から離間する方向A1に延びる縦壁としての内周面30を有する周壁13を有する突出部11A、11Bが形成されている。減衰接着剤10は、内周面30に接触する状態でつば部3aおよびフロアパネル1との間に充填されている。
【0069】
この構成では、車両走行中に車体の振動によってサイドシル7およびクロスレインメンバ3がつば部3aの法線方向Aに交差する当該つば部3aの面内方向Bへの相対的な変位とともにつば部3aがフロアパネル1に対して傾斜する(ねじれる)回転方向への相対的な変位(例えば、
図3に示される角部34、35の中間点36を回転中心とするつば部3aの下面a1の揺動)が生じる。このとき、つば部3aの下面3a1周縁の角部34、35が最も変位が大きくなる傾向がある。そこで、上記の構成では、つば部3aの下面3a1における角部の周辺領域41、42に縦壁(具体的には、突出部11A、11Bの周壁13の内周面30)が形成されている。これにより、つば部3aの角部34、35の周辺領域41、42では、つば部3aおよびフロアパネル1の相対変位によって減衰接着剤10にせん断ひずみが生じるだけでなく、縦壁としての内周面30が減衰接着剤10を圧縮することにより、圧縮ひずみが減衰接着剤10も同時に発生する。これにより、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大する。減衰接着剤10は、このひずみエネルギーを熱エネルギーに変換することによって振動を減衰させることが可能である。その結果、減衰接着剤10の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰接着剤10による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0070】
(2)
本実施形態の車体構造20では、角部34を形成する2つの縁辺は、つば部3aの下面3a1の外周縁で構成された互いに交差して連続する2つの端縁31、32で構成されている。このような角部34では、車両走行中に振動エネルギーが当該2つの端縁31、32を通して角部34に集中するので、つば部3aにおいて角部34の変位が最も大きくなる。そこで、上記の構成では、2つの端縁31、32で形成された角部34の周辺領域41に縦板(具体的には、突出部11Aの周壁13の内周面30)が形成されている。これにより、縦壁(すなわち、突出部11Aの内周面30)が減衰接着剤10を圧縮することによって発生する圧縮ひずみによって、2つの端縁31、32で形成された角部34の周辺領域41では、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大し、その結果、減衰接着剤10の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰接着剤10による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0071】
(3)
本実施形態の車体構造20では、クロスレインメンバ3は、つば部3aの下面3a1に隣接して交差する隣接面3b1をさらに有する。角部35を形成する互いに交差して連続する2つの縁辺は、つば部3aの下面3a1と隣接面3b1とによって形成された1つの稜線33と、クロスレインメンバ3の外周縁で構成され、稜線33に互いに交差して連続する1つの端縁32とで構成されている。この構成では、角部35は、つば部3aの下面3a1とその隣接面3b1とによって形成された1つの稜線33と当該稜線33に互いに交差して連続する1つの端縁32によって形成される。このような角部35では、車両走行中に振動エネルギーがつば部3aの下面3a1の端縁32および稜線33を通して角部35に集中するので、つば部3aの下面3a1において角部35の変位が最も大きくなる。そこで、上記の構成では、端縁32および稜線33で形成された角部35の周辺領域42に縦板(具体的には、突出部11Bの周壁13の内周面30)が形成されている。これにより、縦壁(突出部11Bの内周面30)が減衰接着剤10を圧縮することによって発生する圧縮ひずみによって、端縁32および稜線33で形成された角部35の周辺領域42では、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーの総量が増大し、その結果、減衰接着剤10の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰接着剤10による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0072】
(4)
本実施形態の車体構造20では、つば部3aの下面3a1(第1接合面)は、角部34、35の周辺領域41、42において、フロアパネル1の上面1a(第2接合面)から離間する方向A1に凹む凹部12(具体的には、突出部11A、11Bの凹部12)を有している。縦壁は、凹部12の周方向に連続する内周面30によって構成されている。減衰接着剤10は、凹部12に充填されて内周面30に接触している。
【0073】
この構成では、凹部12の内部では、減衰接着剤10が縦壁としての内周面30に沿って互いに圧縮し合うことにより当該減衰接着剤10の圧縮ひずみが増大し、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーをさらに増大することが可能になる。その結果、振動減衰効果をさらに向上することが可能である。
【0074】
(5)
本実施形態の車体構造20では、第1車体構成部材としてのクロスレインメンバ3は、板状の部材であるつば部3aを有する。つば部3aは、その一方側の面(フロアパネル1の上面1aに対向する下面3a1)が第1接合面とされ、つば部3aに、一方側の面が凹、他方側の面が凸となる突出部11がプレス成形などによって形成される。この突出部11によって、下面3a1(第1接合面)に凹部12が形成されている。この構成では、板状の部材であるつば部3aにプレス加工を施すことによって、下面3a1(第1接合面)に凹部12を容易に形成することが可能である。しかも、板状の部材の厚さ以上の高さを有する縦壁(すなわち、凹部12の内周面30)を形成することも可能であり、縦壁が減衰接着剤10に与える圧縮ひずみによるひずみエネルギーの向上が可能であり、振動減衰効果のより一層の向上が可能である。
【0075】
(6)
本実施形態の車体構造20では、凹部12は、つば部3aの下面3a1(第1接合面)の法線方向A視で縦横比b/aが0.5~2.0の範囲である形状を有する。この構成では、凹部12の形状を、つば部3aの下面3a1(第1接合面)の法線方向A視で縦横比b/aを0.5~2.0の範囲である形状、すなわち凹部12の縦横の長さが略均等の形状にすることにより、凹部12の内周面30(具体的には、内周面30を構成する周壁13)の変形を抑えながら減衰接着剤10の圧縮ひずみをより一層増大することが可能である。これにより、減衰接着剤10に吸収されるひずみエネルギーがより一層増大することが可能になり、振動減衰効果をより一層向上することが可能である。
【0076】
(7)
本実施形態の車体構造20では、凹部12は、つば部3aの下面3a1(第1接合面)の法線方向A視で円形の形状を有する。この構成では、凹部12の縦横の長さが均等になるので、凹部12の内周面30(具体的には、内周面30を構成する周壁13)の変形を抑えながら減衰接着剤10の圧縮ひずみを増大する効果が最も高くなる。
【0077】
(8)
本実施形態の車体構造では、縦壁としての内周面30を構成する周壁13は、つば部3aの下面3a1に対して16~100度傾斜している。この構成では、縦壁としての内周面30が減衰接着剤10をより強く圧縮することにより、より大きな圧縮ひずみが減衰接着剤10に発生する。そのため、減衰接着剤10で吸収されるひずみエネルギーの総量がより一層増大し、振動減衰効果をより一層向上することが可能である。しかも、上記の周壁13の傾斜角度の範囲では、縦壁としての内周面30を有する周壁13の加工限界の範囲内であるので、プレス成形などによって周壁13を有する突出部11を形成することが可能である。
【0078】
(9)
本実施形態の車体構造20では、減衰接着剤10が粘弾性の性質を有することにより、上記のせん断ひずみおよび圧縮ひずみを確実に発生してひずみエネルギーの総量を確実に増大させ、振動減衰効果を確実に向上することが可能である。
【0079】
(10)
本実施形態の車体構造20では、減衰接着剤10は、20℃および60Hzの条件下において、損失係数0.2以上で、かつ、貯蔵弾性率100MPa以上である。減衰接着剤10がこの性質を有することにより、構造用接着剤と比較して顕著な振動減衰効果を得ることが可能である。
【0080】
(11)
本実施形態の車体構造20では、第1車体構成部材としてのクロスレインメンバ3は、第1接合面としての下面3a1を有するつば部3aを含むハット断面の形状を有し、第2車体構成部材としてのフロアパネル1は、つば部3aに減衰接着剤10を介して重ね合わされる第2接合面としての平面である上面1aを有している。つば部3aは、角部34、35を有しており、縦壁(具体的には、突出部11A、11Bの内周面30)は、つば部3aにおける角部の周辺領域41、42に形成されている。この構成では、ハット断面の形状を有するクロスレインメンバ3(第1車体構成部材)の第1接合面としての下面3a1を有するつば部3aと、フロアパネル1(第2車体構成部材)の第2接合面としての平面である上面1aとが減衰接着剤10を介して重ね合わされて接合されている構成において、縦壁(突出部11A、11Bの内周面30)が、つば部3aの下面3a1に形成されていることにより、ハット断面の形状を有するクロスレインメンバ3(第1車体構成部材)の接合部分において、減衰接着剤10の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰接着剤10による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0081】
なお、クロスレインメンバ3以外のハット断面形状の部材と平面との接合部分においても同様に適用可能である。
【0082】
また、縦壁は、クロスレインメンバ3における第1接合面としての下面3a1を有するつば部3aに形成されている代わりに、フロアパネル1に形成されていても上記の作用効果を奏することが可能である。
【0083】
(変形例)
(A)
上記の実施形態では、第1車体構成部材としてクロスレインメンバ3が適用され、第2車体構成部材としてフロアパネル1が適用された例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、互いに交差して連続する2つの車体構成部材が重ね合わされて接合されている部分であって少なくとも1つの車体構成部材の接合面が角部を有していれば、車体の他の部位にも本発明の車体構造を適用することが可能である。
【0084】
本発明の変形例として、車体において平面同士が重合している部分、例えば、
図12(a)、(b)に示されるように、フロアパネル1(第1車体構成部材)とトーボード4(第2車体構成部材)との重合部分が減衰接着剤10(減衰部材)を介して接合されている部分において、フロアパネル1およびトーボード4のうちの例えばトーボード4に上記
図3~4の縦壁を有する複数の突出部11(すなわち、
図4の凹部12の内周面30を有する突出部11)が形成され、複数の突出部11のうち突出部11Cがトーボード4の角部4aの周辺に配置されてもよい。
【0085】
(B)
また、本発明の他の変形例として、
図13~14に示されるように、中空のルーフレール15(第1車体構成部材)の内部に節部材16(第2車体構成部材)が設けられた構成において、ルーフレール15および節部材16のうち例えば節部材16の平面部16aに複数の突出部17を形成し、かつ、当該複数の突出部17のうち突出部17Aが平面部16aの角部16bの周辺に配置されてもよい。節部材16は、ルーフレール15の空間部15bに挿入された状態で、ルーフレール15のうちルーフレールアウタ15aに溶接などによって固定されている。節部材16の突出部17は、平面部16aからルーフレールアウタ15a側に突出した中空の部分である。平面部16aと図示しないルーフレールインナとの重合面が減衰接着剤で接合されるようにすれば、上記
図3~4と同様の構成を得ることが可能である。
【0086】
なお、
図13~14に示される節部材16は、1枚の金属板などをプレス成形した平たい形状を有しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、箱型形状の節部材を適用してもよい。その場合も、箱型形状の節部材とルーフレールとの重合面における少なくとも一方の面に縦壁を有する突出部が形成されていればよい。
【0087】
(C)
本発明のさらに他の変形例として、
図15~16に示されるように、第1車体構成部材は、平面部9aを有する節部材9であり、第2車体構成部材は、内側に節部材9が挿入可能な空間部7cを形成する内周面を有する中空部材としてのサイドシル7であってもよい。この変形例では、平面部9aには、凹部12を有する複数の突出部18が形成されている。凹部12の内周面30が縦壁を構成する。平面部9aは、角部9bを有している。角部9bには、複数の突出部18のうち突出部18Aが配置されている。これにより、縦壁(具体的には、突出部18Aの内周面30)は、平面部9aにおける角部9bの周辺領域19に形成されている。減衰接着剤10は、縦壁(突出部18Aの内周面30)に接触する状態で第1接合面および第2接合面となる平面部9aと空間部7cの内周面との間に充填されている。
【0088】
図15に示されるサイドシル7は、車室内側のサイドシルインナ7aと、車室外側のサイドシルアウタ7bとによって構成されている。サイドシル7の空間部7cの内部には、節部材9が当該サイドシル7の空間部7cを車両前後方向に仕切るように配置されている。節部材9のつば部3aは、サイドシルインナ7aの立直面7dに対向する。
【0089】
節部材9は、サイドシルアウタ7bの内面に対して溶接などで固定されている一方、サイドシルインナ7aの内面に対しては減衰部材である減衰接着剤10を介して接合されている。
【0090】
図15~16に示される変形例では、節部材9の平面部9aとサイドシル7の内周面とが減衰接着剤10を介して接合される構成において、平面部9aにおける角部9bの周辺領域19に縦壁としての突出部18Aの凹部12の内周面30が形成され、減衰接着剤10は、内周面30に接触する状態で平面部9aとサイドシル7の内周面との間に充填されているので、節部材9とサイドシル7との接合部分において、減衰接着剤10の塗布量の増加および構成部材の形状変更を抑制しながら減衰接着剤10による振動減衰効果を向上することが可能である。
【0091】
(D)
上記実施形態および変形例(A)~(C)では、第1車体構成部材の第1接合面に縦壁を有する突出部が形成されている例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、第1車体構成部材の第1接合面の角部周辺に第2接合面に接近する方向または第2接合面から離間する方向に延びる縦壁が形成されていればよい。したがって、第1接合面の角部周辺において第2接合面に接近する方向に突出する凸部を設けて凸部の周面を縦壁にしてもよい。または、第1接合面において第2接合面から離間する方向に凹む凹部を形成し、凹部の内周面を縦壁としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 フロアパネル(第2車体構成部材)
1a 上面(第2接合面)
2 トンネルレインメンバ
3 クロスレインメンバ(第1車体構成部材)
3a つば部
3a1 下面(第1接合面)
4 トーボード
5 フロントピラー
6 センターピラー
7 サイドシル
7c 空間部
7d 立直面
9、16 節部材
9a、16a 平面部
10 減衰接着剤(減衰部材)
11、17、18 突出部
12、23 凹部
13、19 周壁(縦壁)
15 ルーフレール
20 車体構造
21 第1車体構成部材
22 第2車体構成部材
24、30 内周面(縦壁)
S 重合面