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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】車両用電子制御システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 9/445 20180101AFI20231024BHJP
   B60W 50/00 20060101ALI20231024BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G06F9/445 130
B60W50/00
B60R16/02 660T
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020028921
(22)【出願日】2020-02-24
(65)【公開番号】P2021135553
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】竹内 彰宏
【審査官】北川 純次
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011028(JP,A)
【文献】特開2019-159369(JP,A)
【文献】特開2014-151720(JP,A)
【文献】特開2010-206268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 9/44-9/445
B60W 50/00
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された制御対象機器を制御するための車両用電子制御システムであって、
少なくとも1つの電子制御装置(10)を備え、
前記電子制御装置はメモリ(15)を有し、当該メモリには、前記制御対象機器を制御するための処理の一部のみを実行する第1ソフトウェアオブジェクト(21)と、前記制御対象機器を制御するための処理の全部を実行する第2ソフトウェアオブジェクト(22)と、起動信号に応じて前記第1ソフトウェアオブジェクトと前記第2ソフトウェアオブジェクトとのいずれかを起動するブートソフトウェアオブジェクト(20)と、が格納されており、
前記電子制御装置には、前記起動信号として、ユーザが前記車両に乗車しようとするときに発生する第1起動信号(1)と、前記車両に乗車した前記ユーザにより前記制御対象機器の制御開始が指示されたときに発生する第2起動信号(2)と、が入力され、
前記ブートソフトウェアオブジェクトは、前記第1起動信号が入力されたことに応じて前記第1ソフトウェアオブジェクトを起動し、前記第2起動信号が入力されたことに応じて前記第2ソフトウェアオブジェクトを起動するように構成され、
前記第1ソフトウェアオブジェクトは、前記第2起動信号が入力されたことに応じて、前記電子制御装置をリセットすることなく、実行対象となるソフトウェアオブジェクトを前記第1ソフトウェアオブジェクトから前記第2ソフトウェアオブジェクトに遷移させる処理(S230、S270、S280)を含む、車両用電子制御システム。
【請求項2】
前記第2ソフトウェアオブジェクトは、前記第1ソフトウェアオブジェクトから遷移したとき、前記第1ソフトウェアオブジェクトと重複する少なくとも一部の起動処理をスキップする処理(S300)を含む請求項1に記載の車両用電子制御システム。
【請求項3】
前記第1ソフトウェアオブジェクトおよび前記第2ソフトウェアオブジェクトは、ともに、前記制御対象機器を制御するために利用するハードウェアの初期化処理(S200、S310)を含み、
実行対象ソフトウェアオブジェクトが前記第1ソフトウェアオブジェクトから前記第2ソフトウェアオブジェクトに遷移したとき、前記第2ソフトウェアオブジェクトは、重複する起動処理として、前記ハードウェアの初期化処理の実行をスキップする請求項2に記載の車両用電子制御システム。
【請求項4】
前記ハードウェアの初期化処理は、前記ハードウェアの起動処理、前記ハードウェアの初期設定処理、前記ハードウェアの診断処理、の少なくとも1つを含む請求項3に記載の車両用電子制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載された制御対象機器を制御するための車両用電子制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1には、メモリに、車両を制御するための制御プログラムを含む複数のプログラムが記憶された車載電子制御装置が記載されている。この車載電子制御装置では、CPUが定期的にメモリチェックを行い、メモリの記憶内容が異常と判断した場合はリセットするよう構成されている。CPUによるリセット前に異常回数を記憶し、リセット後に、その異常回数が異常判定閾値以上か否か判定される。異常回数が異常判定閾値以上である場合は、CPUはエラー対応処理プログラムを実行するように構成されている。エラー対応処理プログラムが実行される際、CPUはメモリチェックによるリセットを行わない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6044316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した車載電子制御装置は、メモリ異常の発生時に、無駄にリセットが繰り返されることを防止しつつ、フェールセーフ処理などの適切な処理を行うために、メモリに車両制御プログラムとエラー対応処理プログラムなどの複数のプログラムを記憶させたものである。
【0005】
ここで、近年、たとえば、モータとエンジンを備えるハイブリッド駆動システムのように、車両に搭載される制御対象機器は複雑化、高度化する傾向にある。このため、制御対象機器を制御可能な状態にするための起動処理に、比較的長い時間を要する場合がある。
【0006】
本開示は、上述した点に鑑みて、メモリに記憶した複数のソフトウェアを利用することで、制御対象機器を制御可能な状態とするまでの時間を短縮することが可能な車両用電子制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の第1態様による、車両に搭載された制御対象機器を制御するための車両用電子制御システムは、
少なくとも1つの電子制御装置(10)を備え、
電子制御装置はメモリ(15)を有し、当該メモリには、制御対象機器を制御するための処理の一部のみを実行する第1ソフトウェアオブジェクト(21)と、制御対象機器を制御するための処理の全部を実行する第2ソフトウェアオブジェクト(22)と、起動信号に応じて第1ソフトウェアオブジェクトと第2ソフトウェアオブジェクトとのいずれかを起動するブートソフトウェアオブジェクト(20)と、が格納されており、
電子制御装置には、起動信号として、ユーザが車両に乗車しようとするときに発生する第1起動信号(1)と、車両に乗車したユーザにより制御対象機器の制御開始が指示されたときに発生する第2起動信号(2)と、が入力され、
ブートソフトウェアオブジェクトは、第1起動信号が入力されたことに応じて第1ソフトウェアオブジェクトを起動し、第2起動信号が入力されたことに応じて第2ソフトウェアオブジェクトを起動するように構成され、
第1ソフトウェアオブジェクトは、第2起動信号が入力されたことに応じて、電子制御装置をリセットすることなく、実行対象となるソフトウェアオブジェクトを第1ソフトウェアオブジェクトから第2ソフトウェアオブジェクトに遷移させる処理(S230、S270、S280)を含むように構成される。
【0008】
このように、第1態様による車両用電子制御システムでは、ユーザが車両に乗車しようとするときに発生する第1起動信号により起動される第1ソフトウェアオブジェクトが、第2起動信号が入力されたことに応じて、電子制御装置をリセットせずに、実行対象となるソフトウェアオブジェクトを第1ソフトウェアオブジェクトから第2ソフトウェアオブジェクトに遷移させる処理を含んでいる。このため、第2起動信号の発生に応じて、シームレスに実行対象ソフトウェアオブジェクトを第1ソフトウェアオブジェクトから第2ソフトウェアオブジェクトに切り替えることができる。この結果、第1態様による車両用電子制御システムは、第2起動信号が入力されてから第2ソフトウェアオブジェクトにより制御対象機器が制御可能な状態となるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0009】
さらに、本開示の第2態様による車両用電子制御システムでは、第2ソフトウェアオブジェクトが、第1ソフトウェアオブジェクトから遷移したとき、第1ソフトウェアオブジェクトと重複する少なくとも一部の起動処理をスキップする処理(S300)を含んでいる。これにより、第1ソフトウェアオブジェクトから第2ソフトウェアオブジェクトに遷移したとき、第2ソフトウェアオブジェクトにより制御対象機器が制御可能な状態となるまでの時間のより一層の短縮を図ることができる。
【0010】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0011】
また、上述した特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明および添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の車両用電子制御システムの構成の一例を示す構成図である。
図2】ROMに記憶されたソフトウェアオブジェクトを説明するための説明図である。
図3】ブートソフトウェアオブジェクトの処理の具体例を示すフローチャートである。
図4】第1ソフトウェアオブジェクトの処理の具体的を示すフローチャートである。
図5】第2ソフトウェアオブジェクトの処理の具体例を示すフローチャートである。
図6】実施形態による車両用電子制御システムの作動について説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示による車両用電子制御システムの実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態の車両用電子制御システムの構成の一例を示す構成図である。本実施形態の車両用電子制御システムは、たとえば、車両に搭載されたモータとエンジンを備えるハイブリッド駆動システムを制御対象機器とすることができる。ただし、本実施形態の車両用電子制御システムの制御対象機器は、ハイブリッド駆動システムに限られず、その他の車載機器(たとえば、車両用空調装置)を制御対象機器とすることも可能である。
【0014】
図1に示すように、車両用電子制御システムは、電子制御装置(ECU)10を有する。ECU10は、入力回路11、入力回路12、マイコン13、出力回路17、通信回路18、および通信回路19を備えている。ECU10は、たとえば、ハイブリッド駆動システムのエンジンを制御する。図1に示す他ECU4は、たとえば、ハイブリッド駆動システムのモータを制御する。さらに、別の他ECU5は、たとえば、ハイブリッド駆動システムがトランスミッションおよびクラッチを備えている場合、トランスミッションのギヤ比やクラッチの係合、解除を制御する。これら複数のECU4、5、10は、エンジン、モータ、トランスミッションなどを協調して制御することにより、ハイブリッド駆動システムにより適切な駆動力を発生させて車両を走行させたり、車両の駆動輪に回生ブレーキを作動させて回生電力を発生させたりする。
【0015】
入力回路11には、ユーザが車両に乗車しようとするときに発生する第1起動信号1が入力される。入力回路11は、第1起動信号1が入力されると、第1起動信号1の入力を示す信号をマイコン13に出力する。第1起動信号1は、たとえば、ユーザによって車両ドアが開かれたとき、図示しないボデーECUによって発生され、車内LANを介して、ECU10に送信されてもよい。あるいは、ボデーECUが、ユーザが携帯するスマートキーと相互に通信を行って、車両ドアのロック解除を許可する機能を備えている場合、ボデーECUが、スマートキーを認証したとき、あるいは、ドアロック解除のため、ユーザがドアノブに触れたり、ドアノブのボタンを操作したりしたことを検出したときに、第1起動信号1を発生してもよい。
【0016】
入力回路12には、車両に乗車したユーザにより制御対象機器であるハイブリッド駆動システムの制御開始が指示されたとき、すなわち、ユーザによりイグニッションスイッチがオンされたときに発生する第2起動信号2が入力される。入力回路12は、第2起動信号2が入力されると、第2起動信号2の入力を示す信号をマイコン13に出力する。
【0017】
マイコン13は、CPU14、ROM15、RAM16などを備えた一般的な構成を有している。CPU14は、RAM16の一時記憶機能を利用しつつ、ROM15に記憶された各種のソフトウェアオブジェクトを実行する。ROM15には、図2に示すように、少なくともブートソフトウェアオブジェクト20、第1ソフトウェアオブジェクト21、および第2ソフトウェアオブジェクト22が記憶されている。
【0018】
ブートソフトウェアオブジェクト20は、第1起動信号1、第2起動信号2、あるいは図示しないプログラム書き換え装置からの起動信号が入力されることによりECU10がオンしたときに、最初に実行されて、適切なプログラム(第1ソフトウェアオブジェクト21、第2ソフトウェアオブジェクト22、または書き換えプログラム)を起動して実行させる。なお、書き換えプログラムは、プログラム書き換え装置から取得しても良いし、ROM15に記憶されていてもよい。CPU14は、書き換えプログラムを実行することで、プログラム書き換え装置から新たなソフトウェアオブジェクトを受信し、ROM15に記憶された該当するソフトウェアオブジェクトを更新することができる。
【0019】
第1ソフトウェアオブジェクト21は、制御対象機器であるハイブリッド駆動システムを制御するための全処理の一部のみを実行するためのプログラムである。たとえば、第1ソフトウェアオブジェクト21は、ハイブリッド駆動システムを制御するための全処理の一部として、ECU10における出力回路17、通信回路18、19、各種センサ信号を入力するための入力インターフェース回路(図示せず)などの各種のハードウェアの初期化処理(ハード初期化)、第1ソフトウェアオブジェクト21を実行するための初期化処理(ソフト初期化)、および、第1ソフトウェアオブジェクト21による制御処理として、エンジンを制御するためのアクチュエータおよびその駆動回路などに異常が生じていないかを診断したり、ECU10の状態を他ECU4,5へ通信したりするための処理を実行する。さらに、第1ソフトウェアオブジェクト21は、ECU10に第2起動信号2が入力されたことに応じて、ECU10をリセットすることなく、実行対象となるソフトウェアオブジェクトを第1ソフトウェアオブジェクト21から第2ソフトウェアオブジェクト22に遷移させる処理も実行できるように構成されている。なお、第1ソフトウェアオブジェクト21は、上述した以外の処理を含んでもよい。
【0020】
第1ソフトウェアオブジェクト21によるハードウェアの初期化処理は、たとえば、各ハードウェアに電源を供給して、各ハードウェアを起動する起動処理、各ハードウェアを初期状態に設定する初期設定処理、各ハードウェアに異常が生じていないかどうかを診断する診断処理などを含む。ただし、ハードウェアの初期化処理として、必ずしも上述したすべての処理を実施する必要はなく、ハードウェアごとに適宜選択して実行してもよい。また、初期化処理として、上述した処理とは別の処理が実行されてもよい。
【0021】
また、第1ソフトウェアオブジェクト21を実行するための初期化処理は、上述したハードウェアの初期化処理の完了後に実行される。第1ソフトウェアオブジェクト21の初期化処理は、たとえば、第1ソフトウェアオブジェクト21において使用するデータを初期化したり、変数に初期値を書き込んだりする処理を含む。この初期化処理により、第1ソフトウェアオブジェクト21は、実行開始可能な状態となり、初期化処理完了後に、第1ソフトウェアオブジェクト21による制御処理が開始される。
【0022】
第2ソフトウェアオブジェクト22は、制御対象機器であるハイブリッド駆動システムを制御するための全処理を実行するためのプログラムである。たとえば、第2ソフトウェアオブジェクト22は、各種のハードウェアの初期化処理(ハード初期化)、第2ソフトウェアオブジェクト22を実行するための初期化処理(ソフト初期化)、および、第2ソフトウェアオブジェクト22による制御処理として、ハイブリッド駆動システムにおけるエンジンを他ECU4,5と協調して制御するための処理などを実行する。これらの処理の内、少なくともハードウェアの初期化処理は、第1ソフトウェアオブジェクト21と重複している。
【0023】
第2ソフトウェアオブジェクト22は、ハイブリッド駆動システムにおけるエンジンを制御するための処理として、たとえば、各種のセンサによって検出されるアクセル開度、エンジン回転数、エンジン回転位置、車両の速度などに基づいて、アクチュエータ3であるインジェクタやイグナイタを制御するための制御信号を、出力回路17を介して出力する。また、第2ソフトウェアオブジェクト22は、他ECU4、5と協調して制御を行うため、センサ検出値、制御目標値、および他の制御関連情報を、通信回路18、19を介して相互に通信する。
【0024】
ここまで、ECU10について説明してきたが、他ECU4、5についても、ECU10と同様に、第1起動信号1および第2起動信号2を入力し、いずれの起動信号が入力されたかに応じて、異なるソフトウェアオブジェクトが起動されるように構成されてもよい。または、ECU10との通信によって、起動信号の種類を確認して、異なるソフトウェアオブジェクトが起動されるように構成されてもよい。もしくは、ECU10と他ECU4,5との機能を統合して、1つのECUによって構成してもよい。
【0025】
次に、図3図5のフローチャートを参照しつつ、ブートソフトウェアオブジェクト20、第1ソフトウェアオブジェクト21、および第2ソフトウェアオブジェクト22の各処理の具体例を説明する。図3は、ブートソフトウェアオブジェクト20の処理の具体例を示すフローチャートである。図4は、第1ソフトウェアオブジェクト21の処理の具体的を示すフローチャートである。図5は、第2ソフトウェアオブジェクト22の処理の具体例を示すフローチャートである。
【0026】
図3のフローチャートにおいて、ステップS100では、ブートソフトウェアの初期化処理を行う。ステップS110では、プログラム書き換え装置から起動信号が入力されているか否かにより、プログラム更新(リプロ)が要求されているか否かを判定する。プログラム更新が要求されていると判定すると、ステップS120の処理に進む。ステップS120では、書き換えプログラムを実行して、ROM15に記憶されたソフトウェアオブジェクトを更新する。
【0027】
ステップS110の判定処理において、プログラム更新は要求されていないと判定されると、ステップS130の処理に進む。ステップS130では、マイコン13をオンした起動信号が、第1起動信号1であるか否かを判定する。この判定処理において、起動信号は第1起動信号1であると判定すると、ステップS140の処理に進む。一方、起動信号は第1起動信号1ではない、すなわち、起動信号は第2起動信号2であると判定すると、ステップS150の処理に進む。ステップS140では、第1ソフトウェアオブジェクト21を起動して実行させる。ステップS150では、第2ソフトウェアオブジェクト22を起動して実行させる。
【0028】
第1ソフトウェアオブジェクト21が起動されると、最初に、図4のフローチャートのステップS200において、各種のハードウェアの初期化処理が実行される。続いて、ステップS210において、第1ソフトウェアオブジェクト21を実行するための初期化処理が実行される。このステップ210の初期化処理により、第1ソフトウェアオブジェクト21は実行開始可能な状態となり、ステップS220において、第1ソフトウェアオブジェクト21の制御処理の実行が開始される。
【0029】
ステップS230では、第1ソフトウェアオブジェクト21の制御処理の実行中に、第2起動信号2がECU10に入力されたか否かを判定する。この判定処理において、第2起動信号2が入力されたと判定するとステップS270の処理に進む。一方、第2起動信号2は入力されていないと判定するとステップS240の処理に進む。
【0030】
ステップS240では、第1ソフトウェアオブジェクト21の制御処理の終了条件が成立したか否かを判定する。この終了条件としては、たとえば、ユーザが車両への乗車を中止したこと、および、制御終了時に実行される診断処理などの必要な処理が終了したことを採用することができる。ユーザが車両への乗車を中止したことは、たとえば、ユーザは車両のドアを開いたが、乗車せずにドアを閉じてロックしたことや、ボデーECUとスマートキーとの相互通信により、スマートキーが認証されたが、ドアがアンロックされることなく通信が途絶えたこと、あるいは、車両ドアのロック解除が許可されたが、所定時間以内にドアがロック解除されなかったことなどから検出することができる。
【0031】
ステップS240において、第1ソフトウェアオブジェクト21の制御処理の終了条件が成立したと判定すると、ステップS250の処理に進む。一方、終了条件が成立していないと判定すると、ステップS220の処理に戻る。ステップS250では、第1ソフトウェアオブジェクト21の制御終了処理を実行する。この制御終了処理には、たとえば、各種のデータの保存などが含まれる。制御終了処理が完了すると、ステップS260において、ECU10への電源供給をオフするシャットダウン処理を行い、図4のフローチャートに示す処理を終了する。
【0032】
ステップS230にて、第2起動信号2が入力されたと判定したときに実行されるステップS270では、第1ソフトウェアオブジェクト21の制御終了処理を実行する。その後、ステップS280において、第2ソフトウェアオブジェクトを起動して実行させる。これにより、ECU10がリセットされることなく、実行対象ソフトウェアオブジェクトが、第1ソフトウェアオブジェクト21から第2ソフトウェアオブジェクト22に遷移する。
【0033】
第2ソフトウェアオブジェクト22が起動されると、最初に、図5のフローチャートのステップS300において、第1ソフトウェアオブジェクト21から遷移したか否かが判定される。この判定処理において、第1ソフトウェアオブジェクト21から遷移したと判定されると、ステップS310のハードウェアの初期化処理をスキップして、ステップS320の処理に進む。一方、第1ソフトウェアオブジェクト21から遷移していないと判定すると、ブートソフトウェアオブジェクト20が、第2起動信号2の入力に基づき、第2ソフトウェアオブジェクト22を起動したことになる。この場合、ステップS310の処理に進んで、各種のハードウェアの初期化処理を実行する。なお、ブートソフトウェアオブジェクト20が、第2起動信号2の入力に基づき、第2ソフトウェアオブジェクト22を起動するケースとしては、たとえば、ユーザがイグニッションスイッチをオフした後、降車することなく、再度、イグニッションスイッチをオンした場合などが該当しえる。
【0034】
ステップS320では、第2ソフトウェアオブジェクト22を実行するための初期化処理が実行される。このステップ320の初期化処理により、第2ソフトウェアオブジェクト22は実行開始可能な状態となり、ステップS330において、第2ソフトウェアオブジェクト22の制御処理の実行が開始される。ステップS340では、第2ソフトウェアオブジェクト22の制御処理の終了条件が成立したか否かを判定する。この終了条件としては、たとえば、ユーザがイグニッションスイッチをオフしたこと、および、制御終了時の診断処理などの必要な処理が終了したことを採用することができる。
【0035】
ステップS340において、第2ソフトウェアオブジェクト22の制御処理の終了条件が成立したと判定すると、ステップS350の処理に進む。一方、終了条件が成立していないと判定すると、ステップS330の処理に戻る。ステップS350では、第2ソフトウェアオブジェクト22の制御終了処理を実行する。この制御終了処理には、たとえば、各種のデータの保存などが含まれる。制御終了処理が完了すると、ステップS360において、ECU10への電源供給をオフするシャットダウン処理を行い、図5のフローチャートに示す処理を終了する。
【0036】
上述した図3図5のフローチャートに示す、ブートソフトウェアオブジェクト20、第1ソフトウェアオブジェクト21、および第2ソフトウェアオブジェクト22の各処理が実行されるタイミングを、図6のタイミングチャートを参照して説明する。
【0037】
図6に示すように、第1起動信号1のECU10への入力に応じて、マイコン13がオンされる。マイコン13がオンすると、最初にブートソフトウェアオブジェクト20が実行される。このブートソフトウェアオブジェクト20による処理により、ECU10に入力されている起動信号は第1起動信号1であると判定されると、第1ソフトウェアオブジェクト21が起動され実行される。第1ソフトウェアオブジェクト21の実行により、図6に示すように、ハードウェアの初期化処理、ソフトウェア(第1ソフトウェアオブジェクト21)の初期化処理、および第1ソフトウェアオブジェクト21の制御処理が実行される。
【0038】
第1ソフトウェアオブジェクト21の実行中に、第2起動信号2がECU10に入力されると、ECU10がリセットされることなく、第1ソフトウェアオブジェクト21が、実行対象ソフトウェアオブジェクトを第1ソフトウェアオブジェクト21から第2ソフトウェアオブジェクト22に遷移させる。このため、第2起動信号2の発生に応じて、シームレスに実行対象ソフトウェアオブジェクトを第1ソフトウェアオブジェクト21から第2ソフトウェアオブジェクト22に切り替えることができる。この結果、本実施形態の車両用電子制御システムによれば、第2起動信号2が入力されてから第2ソフトウェアオブジェクト22により制御対象機器であるハイブリッド駆動システムが制御可能な状態となるまでの時間の短縮を図ることができる。
【0039】
さらに、本実施形態の車両用電子制御システムでは、第2ソフトウェアオブジェクト22が、第1ソフトウェアオブジェクト21から遷移したとき、第1ソフトウェアオブジェクト21と重複するハードウェアの初期化処理をスキップするように構成されている。従って、図6に示されるように、第2ソフトウェアオブジェクト22は、第1ソフトウェアオブジェクト21から遷移したときには、ハードウェアの初期化処理は実行せずに、ソフトウェアの初期化処理から処理を開始する。これにより、第1ソフトウェアオブジェクト21から第2ソフトウェアオブジェクト22に遷移したとき、第2ソフトウェアオブジェクト22により制御対象機器であるハイブリッド駆動システムが制御可能な状態となるまでの時間のより一層の短縮を図ることができるようになる。
【0040】
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は、上述した実施形態になんら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において、種々、変形して実施することができる。
【0041】
たとえば、上述した実施形態では、第1ソフトウェアオブジェクト21と第2ソフトウェアオブジェクト22の重複する起動処理が、ハードウェアの初期化処理である例について説明した。しかしながら、ハードウェアの初期化処理以外の処理も、第1ソフトウェアオブジェクト21と第2ソフトウェアオブジェクト22とで重複させ、第1ソフトウェアオブジェクト21から第2ソフトウェアオブジェクト22に遷移したとき、ハードウェアの初期化処理以外の処理も重複した処理としてスキップするように構成してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1:第1起動信号、2:第2起動信号、3:アクチュエータ、4:他ECU、5:他ECU、10:ECU、11:入力回路、12:入力回路、13:マイコン、14:CPU、15:ROM、16:RAM、17:出力回路、18:通信回路、19:通信回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6