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特許7371528目標運動解析装置、目標運動解析方法、および目標運動解析プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】目標運動解析装置、目標運動解析方法、および目標運動解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/802 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
G01S3/802
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020029332
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021135085
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 良道
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-002949(JP,A)
【文献】特開平05-052927(JP,A)
【文献】特開平11-344548(JP,A)
【文献】特開2012-058018(JP,A)
【文献】米国特許第05481505(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
3/80 - 3/86
5/18 - 5/30
7/52 - 7/64
15/00 - 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
整相処理を行う観測装置から、該観測装置が受信した信号に対応するパワーの値を取得し、該パワーの値に基づいて、目標の追尾処理を行い、該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する目標追尾処理部と、
前記追尾処理の結果を用いて、前記観測装置が前記信号を受信した方位である信号方位に関する分散を計算する分散計算部と、
前記追尾処理の開始以降における前記信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点とし、最も遅い時刻を終点として設定する始点終点設定部と、
前記始点における前記推定方位である始点方位、および、前記終点における前記推定方位である終点方位に基づいて、前記目標の想定航跡を抽出する第1航跡推定部と、
前記第1航跡推定部が抽出した前記想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分するパワー積分計算部と、
前記パワー積分計算部による前記パワーの値の積分結果に基づいて前記目標の航跡を推定し、前記目標の運動諸元を推定する第2航跡推定部と、
を備える目標運動解析装置。
【請求項2】
前記目標追尾処理部は、
前記推定方位を時系列で示す方位時系列情報を生成し、
前記分散計算部は、
前記方位時系列情報と、前記パワーの値を前記時系列で示すパワー時系列情報とを用いて、前記信号方位に関する分散を計算し、前記時系列で、前記信号方位に関する分散を示す分散時系列情報を生成し、
前記始点終点設定部は、
前記方位時系列情報と前記分散時系列情報とを用いて、前記信号方位に関する分散が前記許容閾値以下となる、前記時系列における時刻のうちの、最も早い時刻を前記始点として設定し、最も遅い時点を前記終点として設定する、請求項1に記載の目標運動解析装置。
【請求項3】
前記目標追尾処理部は、
時刻毎の前記観測装置による観測から得られた前記パワーの値から推定される、該時刻毎の前記目標の前記推定方位を抽出し、
前記分散計算部は、
前記時刻毎の前記推定方位を示す時刻推定方位情報と、該時刻毎の前記パワーを示す情報とを用いて、該時刻毎の前記信号方位に関する分散を計算し、
前記始点終点設定部は、
前記信号方位に関する分散が前記許容閾値以下となる時刻を示す前記時刻推定方位情報を蓄積して記憶し、記憶した前記時刻推定方位情報が複数ある場合において、記憶した複数の前記時刻推定方位情報の各々が示す時刻のうち、最も早い時刻と最も遅い時刻との間の時間の長さが時間長閾値以上の場合には、該最も早い時刻、または前記追尾処理の開始時刻を前記始点として設定し、該最も遅い時刻、または前記追尾処理における最新時刻を終点として設定する、請求項1に記載の目標運動解析装置。
【請求項4】
前記始点終点設定部は、
前記最も早い時刻と最も遅い時刻との間の時間において、前記観測装置が変針を行った場合には、該最も早い時刻を前記始点として設定し、該最も遅い時刻を前記終点として設定する、請求項3に記載の目標運動解析装置。
【請求項5】
前記分散計算部は、
前記推定方位と、前記観測装置が信号を観測した方位である観測方位とから、前記信号方位に関する分散を計算する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の目標運動解析装置。
【請求項6】
前記分散計算部は、
前記信号方位のSNRを計算する信号雑音比計算部と、
前記SNRを用いて前記信号方位に関する分散を計算する方位誤差計算部と、
を有し、
前記信号方位に関する分散は、前記信号方位の誤差分散である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の目標運動解析装置。
【請求項7】
目標の運動諸元の解析を行う目標運動解析装置によって実行される目標運動解析方法であって、
整相処理を行う観測装置から、該観測装置が受信した信号に対応するパワーの値を取得し、該パワーの値に基づいて、前記目標の追尾処理を行い、該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する目標追尾ステップと、
前記追尾処理の結果を用いて、前記観測装置が前記信号を受信した方位である信号方位に関する分散を計算する分散計算ステップと、
前記追尾処理の開始以降における前記信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点とし、最も遅い時刻を終点として設定する始点終点設定ステップと、
前記始点における前記推定方位である始点方位、および、前記終点における前記推定方位である終点方位に基づいて、前記目標の想定航跡を抽出する第1航跡推定ステップと、
前記第1航跡推定ステップにおいて抽出された前記想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分するパワー積分計算ステップと、
前記パワー積分計算ステップによる前記パワーの値の積分結果に基づいて前記目標の航跡を推定し、前記目標の運動諸元を推定する第2航跡推定ステップと、
を含む目標運動解析方法。
【請求項8】
整相処理を行う観測装置から、該観測装置が受信した信号に対応するパワーの値を取得し、該パワーの値に基づいて、目標の追尾処理を行い、該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する目標追尾機能と、
前記追尾処理の結果を用いて、前記観測装置が前記信号を受信した方位である信号方位に関する分散を計算する分散計算機能と、
前記追尾処理の開始以降における前記信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点とし、最も遅い時刻を終点として設定する始点終点設定機能と、
前記始点における前記推定方位である始点方位、および、前記終点における前記推定方位である終点方位に基づいて、前記目標の想定航跡を抽出する第1航跡推定機能と、
前記第1航跡推定機能により抽出された前記想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分するパワー積分計算機能と、
前記パワー積分計算機能による前記パワーの値の積分結果に基づいて前記目標の航跡を推定し、前記目標の運動諸元を推定する第2航跡推定機能と、
をコンピュータに実現させる目標運動解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標から放射される音波の到来方位を含む観測値を用いて、目標の運動について解析する目標運動解析装置、目標運動解析方法、および目標運動解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、目標物から発せられる信号の観測データを用いて、目標物の運動諸元を求める目標運動解析が知られている(例えば、非特許文献1)。当該解析においては、目標追尾処理が行われ、当該目標追尾処理から出力された信号方位の、追尾開始時刻における方位である始点方位と、追尾最新時刻における方位である終点方位とが用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】ブライアン・エイチ・マランダ(Brian H. Maranda)、ジョン・エー・フォウセット(John A. Fawcett)共著、「時空間積分による目標の検知および位置特定(Detection and Localization of Weak Targets by Space-Time Integration)」、大洋技術分野における電気電子技術者協会誌(IEEE Journal of Oceanic Engineering)、米国、電気電子技術者協会(Institute of Electrical and Electronics Engineers)、1991年4月、第16巻、第2号、p.189―194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような始点方位および終点方位の各情報を用いての目標運動解析は、始点方位および終点方位の各情報の誤差が大きい場合には、得られる目標運動諸元の誤差も大きくなってしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、目標運動諸元の推定精度の向上を図ることができる目標運動解析装置、目標運動解析方法、および目標運動解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る目標運動解析装置は、整相処理を行う観測装置から、該観測装置が受信した信号に対応するパワーの値を取得し、該パワーの値に基づいて、目標の追尾処理を行い、該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する目標追尾処理部と、前記追尾処理の結果を用いて、前記観測装置が前記信号を受信した方位である信号方位に関する分散を計算する分散計算部と、前記追尾処理の開始以降における前記信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点とし、最も遅い時刻を終点として設定する始点終点設定部と、前記始点における前記推定方位である始点方位、および、前記終点における前記推定方位である終点方位に基づいて、前記目標の想定航跡を抽出する第1航跡推定部と、前記第1航跡推定部が抽出した前記想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分するパワー積分計算部と、前記パワー積分計算部による前記パワーの値の積分結果に基づいて前記目標の航跡を推定し、前記目標の運動諸元を推定する第2航跡推定部と、を備える。
【0007】
本発明に係る目標運動解析方法は、目標の運動諸元の解析を行う目標運動解析装置によって実行される目標運動解析方法であって、整相処理を行う観測装置から、該観測装置が受信した信号に対応するパワーの値を取得し、該パワーの値に基づいて、前記目標の追尾処理を行い、該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する目標追尾ステップと、前記追尾処理の結果を用いて、前記観測装置が前記信号を受信した方位である信号方位に関する分散を計算する分散計算ステップと、前記追尾処理の開始以降における前記信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点とし、最も遅い時刻を終点として設定する始点終点設定ステップと、前記始点における前記推定方位である始点方位、および、前記終点における前記推定方位である終点方位に基づいて、前記目標の想定航跡を抽出する第1航跡推定ステップと、前記第1航跡推定ステップにおいて抽出された前記想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分するパワー積分計算ステップと、前記パワー積分計算ステップによる前記パワーの値の積分結果に基づいて前記目標の航跡を推定し、前記目標の運動諸元を推定する第2航跡推定ステップと、を含む。
【0008】
本発明に係る目標運動解析プログラムは、整相処理を行う観測装置から、該観測装置が受信した信号に対応するパワーの値を取得し、該パワーの値に基づいて、目標の追尾処理を行い、該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する目標追尾機能と、前記追尾処理の結果を用いて、前記観測装置が前記信号を受信した方位である信号方位に関する分散を計算する分散計算機能と、前記追尾処理の開始以降における前記信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点とし、最も遅い時刻を終点として設定する始点終点設定機能と、前記始点における前記推定方位である始点方位、および、前記終点における前記推定方位である終点方位に基づいて、前記目標の想定航跡を抽出する第1航跡推定機能と、前記第1航跡推定機能により抽出された前記想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分するパワー積分計算機能と、前記パワー積分計算機能による前記パワーの値の積分結果に基づいて前記目標の航跡を推定し、前記目標の運動諸元を推定する第2航跡推定機能と、をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る目標運動解析装置、目標運動解析方法、および目標運動解析プログラムによれば、分散計算部が、信号方位に関する分散を計算し、始点終点設定部が、当該信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻の中から始点と終点とを設定する。そして第1航跡は、始点方位と終点方位とに基づいて目標の想定航跡を抽出する。すなわち、目標運動解析装置は、始点方位および終点方位として、誤差が小さいと考えられる目標の推定方位に設定する。これにより、想定航跡の抽出処理の精度が高くなり、当該想定航跡を用いた目標の航跡および運動諸元の推定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る目標運動解析装置の機能ブロックを例示する図である。
図2】第1航跡推定部による処理を説明するための図である。
図3】目標と観測装置の位置関係を例示する図である。
図4】従来の目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。
図5】シミュレーションを行う際の、目標と観測装置との各移動経路を例示する模式図である。
図6】シミュレーションにおいて設定されたSNRを示す図である。
図7】従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、終点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。
図8】従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、始点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。
図9】従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的速の誤差標準偏差を例示する図である。
図10】従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的針の誤差標準偏差を例示する図である。
図11図7に示した、終点における相対距離の誤差標準偏差の値を例示する図である。
図12】実施の形態1に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。
図13】始点終点設定部による始点の設定処理を例示するフローチャートである。
図14】始点終点設定部による終点の設定処理を例示するフローチャートである。
図15】実施の形態1における第1航跡推定部による処理について、より詳細に説明するための図である。
図16】第1航跡推定部による延長後の想定航跡を例示する図である。
図17】実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、終点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。
図18】実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、始点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。
図19】実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的速の誤差標準偏差を例示する図である。
図20】実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的針の誤差標準偏差を例示する図である。
図21図17に示した、終点における相対距離の誤差標準偏差の値を例示する図である。
図22】実施の形態2に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。
図23】実施の形態2における始点終点設定部による始点および終点の設定処理を例示するフローチャートである。
図24】実施の形態3に係る目標運動解析装置の機能ブロックを例示する図である。
図25】実施の形態3に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。
図26】実施の形態4に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、実施の形態1について図面に基づき説明する。図1は、実施の形態1に係る目標運動解析装置の機能ブロックを例示する図である。目標運動解析装置1は、受波器アレイ等を有する観測装置2が、音源である目標物から発信された信号を受信した際における、当該信号の到来方位に基づいて、当該目標物の位置および速度を推定するものである。以下では、目標運動解析装置1は、観測装置2を含まないものとして説明するが、含むものであってもよい。
【0012】
目標運動解析装置1は、目標追尾処理部10、分散計算部11、始点終点設定部12、第1航跡推定部13、パワー積分計算部14、および第2航跡推定部15を備える。なお、以下では、当該目標物を目標と記載し、当該信号の到来方位を信号方位と記載する。また以下では、目標の位置および速度を目標運動諸元とも記載する。なお、運動諸元とは、物体の位置と速度を指す。
【0013】
観測装置2は、受波器アレイを用いて、音波に対して指向性を付与する整相処理を行う。この際、観測装置2は、受波器アレイが各方位において受信した、音波の音圧、音響インテンシティ、または音響エネルギー等を、電力または電圧等のパワーに変換する。そして観測装置2は、当該パワーの値を目標追尾処理部10に出力する。
【0014】
目標追尾処理部10は、観測装置2から、方位毎のパワーの値の時系列のデータを取得する。以下では、整相処理によって得られた、方位毎のパワーの値の時系列のデータを、パワー時系列情報と記載する。
【0015】
目標追尾処理部10は、目標の追尾処理を行う。なお以下では、目標の追尾処理を目標追尾処理と記載する場合もあるとする。ここで追尾処理とは、観測装置2から得た観測結果をもとにして、ディジタル処理によって追尾対象である目標の位置および速度等を推定し、この推定結果に基づき、次のサンプリング時刻での目標からの信号を観測するよう観測装置2を制御することを指すとする。なお、このディジタル処理を追尾フィルタ処理と記載する。以下、目標追尾処理部10による処理をより詳細に説明する。
【0016】
目標追尾処理部10は、パワー時系列情報から、目標が位置すると推定される方位の時系列のデータを取得する。以下では、当該時系列のデータを方位時系列情報と記載する。目標追尾処理部10は、追尾フィルタ処理として、例えば、従来から知られているαβフィルタ処理を用いる場合には、次の数1式~数4式により方位時系列情報を算出することができる。
【0017】
【数1】
【0018】
【数2】
【0019】
【数3】
【0020】
【数4】
【0021】
ここで、θ(t)は、サンプリング時刻tにおいて、目標が位置する方位として推定される方位の値を示す。当該目標が位置する方位として推定される方位の値を平滑値とも記載する。また、以下では、サンプリング時刻を、時刻と記載する場合もある。θ(t)は、時刻tにおいて、目標が位置すると予測される方位の値を示す。なお、目標が位置すると予測される方位の値を予測値とも記載する。
【0022】
θobs(t)は、時刻tにおける信号方位の観測値である。以下では、当該信号方位の観測値を観測方位と記載する場合もある。また、上部に「・」が付された「θ」を、「θ」と表すと、θ (t)は、時刻tにおいて、目標の方位の時間的変化率として推定されるものであり、当該推定される時間的変化率の値も平滑値と記載する場合もあるとする。θ (t)は、時刻tにおいて、目標の方位の時間的変化率として予測される値であり、これも予測値と記載する場合もあるとする。αは信号方位のゲインであり、βは信号方位の時間的変化率のゲイン、Tはサンプリングの時間間隔である。αとβの各値は、文献または実験等に基づいて設定される。
【0023】
ここで、音波は、一方向にのみ伝搬するものではなく、あらゆる方向へ伝搬するものである。そして、各方向における音波は、互いに干渉し合う場合も多い。このため、1つの音源から同時に発信された音波であっても、観測装置2において受信される当該音波の来訪方位は一方向とは限らない。しかし、目標が実際に存在する方位からの信号の強度は、他の方向から信号の強度より高いと推定される。このため、平滑値における信号方位は、目標が存在すると推定される方位である。このような、目標が存在すると推定される信号方位であって、平滑値または予測値における信号方位を、推定方位と記載する場合もあるとする。また、以下では、方位時系列情報を、信号方位の平滑値の時系列情報、または、信号方位の平滑値と予測値との時系列情報とする。なお、上記αβフィルタ処理は、追尾フィルタ処理の一例であり、方位時系列情報が出力可能であれば、いかなる種類の処理でもよい。
【0024】
分散計算部11は、観測方位の分散の時系列のデータ、すなわち、推定方位からの観測方位の分散を算出する。以下では、当該分散の時系列のデータを分散時系列情報と記載する。なお、推定方位からの観測方位の分散は、信号方位に関する分散の例である。
【0025】
分散計算部11は、上記αβフィルタ処理による処理結果を用いて分散時系列情報を算出してもよい。この場合には、予め定められた時間幅Tにおける各サンプリング時刻t(k=1~N)における、上記平滑値θ(t)と観測値θobs(t)との差であるΔθ(t)(Δθ(t)=θobs(t)-θ(t))を算出する。ここで、時間幅Tは、目標運動解析装置1において予め設定されているものでもよいし、ユーザによって目標運動解析装置1に設定されるものでもよい。Nは、時間幅Tにおけるサンプリング数に相当する。分散計算部11は、Δθ(t)を用いて、以下の数5式から分散を算出する。
【0026】
【数5】
【0027】
始点終点設定部12は、目標追尾処理部10によって得られた方位時系列情報等を用いて、始点と終点とを設定する。以下、始点と終点について説明する。
【0028】
後に詳述するように、第1航跡推定部13は、推定方位を用いて目標の航跡の候補を抽出する。ここで航跡とは、目標が辿った経路、および、目標が辿る経路を指すとする。第1航跡推定部13によって抽出される航跡の候補、および抽出された航跡の候補を、以下では想定航跡と記載する場合もある。第1航跡推定部13が、想定航跡を求める際に用いる、方位時系列情報における信号方位のうち、最も早い時点における信号方位を始点方位とする。また、当該最も早い時点を始点とする。一方、第1航跡推定部13が、想定航跡を求める際に用いる、方位時系列情報における信号方位のうち、最も遅い時点における信号方位を終点方位とする。また、当該最も遅い時点を終点とする。始点終点設定部12による始点と終点との設定処理については、従来技術における設定処理も含めて後述する。始点が定まれば始点方位が定まり、終点が定まれば終点方位が定まるため、始点終点設定部12は、始点と終点とを設定することにより、始点方位と終点方位とを設定する。
【0029】
第1航跡推定部13は、始点終点設定部12が設定した始点方位に関するデータおよび終点方位に関するデータと、以下に説明する最大距離および最小距離とを用いて、目標の航跡として考えられる候補を抽出する。最大距離は、推定方位の線上に存在すると推定される目標と、観測装置2との間の最大の距離である。最大距離は、推定方位の線上における観測装置2からの距離のうち、例えば、当該観測装置2における受波器などのセンサの最大の探知距離でもよい。最小距離は、推定方位の線上において目標が観測装置2と最も近付いたと考えられる場合の、当該目標と当該観測装置2との間の推定距離である。
【0030】
図2は、第1航跡推定部による処理を説明するための図である。なお、理解を容易にするため、目標と観測装置2とは2次元のxy平面上を移動しているとし、目標は等速直線運動をしているとする。図2においては、観測装置2の位置は四角形で示され、目標の位置として推定される位置は丸で示されている。図2において観測装置2は、始点の時刻tstartから、終点における時刻tendまでの間に太い実線に沿う移動を行ったものとし、時刻tstartにおける観測装置2の位置をOstartとし、時刻tendにおける観測装置2の位置をOendとする。
【0031】
図2では観測装置2は、一回の変針を行っている。この理由は、以下のようになる。まず、パッシブな観測により得られるデータからは、観測装置2から目標までの距離を得ることができないことが多い。また、観測装置2と目標とがそれぞれ等速直線運動を行っている場合において、観測装置2の観測対象が信号方位のみの場合には、観測装置2が変針を一度も行わなければ、目標の運動は一意的に定まらなくなる。このようなことから、目標運動諸元の推定において観測装置2は少なくとも一回は変針を行う場合が少なくはない。
【0032】
図2において、時刻tstartにおける推定方位を示す方位線は、直線Lstartであり、時刻tendにおける推定方位を示す方位線は、直線Lendである。このため、時刻tstartにおいて目標が存在すると推定される位置は、方位線Lstart上であって、目標が観測装置2に最も近づいたと考えられる位置Astartから、観測装置2における受波器等のセンサが探知できる上限の距離における位置Bstartまでの範囲における位置となる。このとき位置Ostartと位置Astartとの間の距離Dsminが時刻tstartでの最小距離となり、位置Ostartと位置Bstartとの間の距離Dsmaxが時刻tstartでの最大距離となる。
【0033】
同様に、時刻tendにおける目標の位置は、直線Lend上であって、目標が観測装置2に最も近づいたと考えられる位置Aendから、観測装置2が探知できる上限の距離における位置Bendまでの範囲内にあると推定される。このとき位置Oendと位置Aendとの間の距離Deminが時刻tendでの最小距離となり、位置Oendと位置Bendとの間の距離Demaxが時刻tendでの最大距離となる。
【0034】
図2では、直線Lstartにおける各点と、直線Lendにおける各点とを結ぶ全ての経路が、時刻tstartから時刻tendまでの間における目標の航跡の候補となりうる。位置Astartから位置Aendまでの経路、位置Astartから位置Bendまでの経路、位置Bstartから位置Aendまでの経路、または、位置Bstartから位置Bendまでの経路等、破線で示される直線で示される経路は、航跡の候補の例である。
【0035】
第1航跡推定部13は、図2において直線Lstartと直線Lendの各方位線上において、目標の位置として考えられる点を選択する。実施の形態1における第1航跡推定部13は、これらの各方位線上の、観測装置2から最小距離となる点と、観測装置2から最大距離となる点との間における、予め定められた間隔で位置する点を、目標の位置として考えられるものとして選択する。なお、当該間隔は、観測装置2から、最小距離となる点と、最大距離となる点との間の距離よりも短い。そして、第1航跡推定部13は、直線Lstartにおいて選択した全ての点の各々と、直線Lendにおいて選択した全ての点の各々とを結ぶ経路を、想定航跡とする。なお、実施の形態1における第1航跡推定部13は、始点tstartより前の時刻における推定方位を、想定航跡を抽出する際に用いない。同様に、実施の形態1における第1航跡推定部13は、終点tendより後の時刻における推定方位を、想定航跡を抽出する際に用いない。これらのことについては、後に詳述する。
【0036】
パワー積分計算部14は、第1航跡推定部13が出力した想定航跡を用いて、目標が、存在した、または、存在すると推定される位置等の時系列のデータを計算する。以下、図3を参照して具体的に説明する。図3は、目標と観測装置の位置関係を例示する図である。なお、理解容易のために、目標と観測装置2は、xy平面で表される水平面上を移動するものとする。また、観測装置2から見て、y軸に対して時計回りの方位を正とする。図3においても、目標を丸によって示し、観測装置2を四角によって示す。目標運動諸元を、図3に示すように、[x(t)、y(t)、vxt、vytとする。x(t)は目標の位置のx成分、y(t)は目標の位置のy成分、vxtは目標の速度のx成分、vytは目標の速度のy成分である。また、観測装置2の運動諸元を、[x(t)、y(t)、vxO(t)、vyO(t)]とする。x(t)は観測装置2の位置のx成分、y(t)は観測装置2の位置のy成分、vxO(t)は観測装置2の速度のx成分、vyO(t)は観測装置2の速度のy成分である。なお、観測装置2のこれらの運動諸元は既知であるとする。
【0037】
第1航跡推定部13が出力した想定航跡のインデックスをpとする。また、目標追尾処理部10による追尾処理の開始時刻をtとし、最新時刻をtとする。この場合において、始点tstartは、tより後であって、終点tendよりも前の時刻であり、終点tendは、tよりも前の時刻である。この場合において、想定航跡から推定される目標の始点における位置は、[x(tstart、p)、y(tstart、p)]となる。一方、想定航跡から推定される目標の終点における位置は、[x(tend、p)、y(tend、p)]となる。
【0038】
目標の運動が等速直線運動であるとすると、想定航跡から推定される目標の速度のx成分vxt(p)は数6式で示されるものになり、y成分vyt(p)は数7式で示されるものになる。
【0039】
【数6】
【0040】
【数7】
【0041】
この場合において、想定航跡から推定される、任意の時刻tにおける目標の位置のx成分x(t、p)は数8式で示され、y成分y(t、p)は数9式に示される。なお、時刻tは、時刻tstart以降の時刻であって、時刻tend以前の時刻である。
【0042】
【数8】
【0043】
【数9】
【0044】
数8式および数9式に示すように、始点と終点のそれぞれにおける目標の位置等から、始点と終点の間の各時刻の目標の位置が表せる。なお、上記x(t、p)およびy(t、p)等を用いて、時刻tにおける目標と観測側との間の距離r(t、p)は、数10式により示される。なお、以下では、目標と観測側との間の距離を相対距離と記載する場合もあるとする。
【0045】
【数10】
【0046】
また、時刻tにおける観測装置2からの目標の方向である相対方向の単位ベクトルe(t、p)は、数11式のように表せる。
【0047】
【数11】
【0048】
数11式から、時刻tにおける目標の方位θ(t、p)は、数12式で示される。
【0049】
【数12】
【0050】
また、時刻tにおける観測装置2から見た目標の速度である相対速度v(t、p)は、上記vxt(p)およびvyt(p)等を用いて、数13式で表せる。
【0051】
【数13】
【0052】
以上のようにして、パワー積分計算部14は、数6式~数13式に示すように、想定航跡から、各時刻の目標運動諸元、および目標が位置する方位等を推定する。目標運動諸元を計算する。
【0053】
パワー積分計算部14は、観測装置2による整相処理によって得られた時刻毎のパワーを、想定航跡毎に、始点から終点までの各時刻における、推定される目標の方位であって、数12式で示される方位に沿って積分する。すなわち、パワー積分計算部14は、整相処理によって得られた時刻毎のパワーを、想定航跡に沿って積分する。より詳細には、パワー積分計算部14は、時刻t、および、目標の方位θ(t、p)におけるパワーB(t、θ(t、p))を用いて、数14式に示す<BBFinteg(p)>を算出する。なお、数14式における<BBFinteg(p)>は、始点における時刻tstartにおけるB(tstart、θ(tstart、p))から、終点における時刻tendにおけるB(tend、θ(tend、p))までの各時刻tにおけるB(t、θ(t、p))の総和である。以下では、<BBFinteg(p)>をBBF(p)と記載する場合もあるとする。
【0054】
【数14】
【0055】
なお、実施の形態1においては、パワー積分計算部14は、目標追尾処理部10を介して観測装置2からパワーの値を取得するものとするが、通信機能を有してもよく、観測装置2から直接パワーの値を取得してもよい。
【0056】
第2航跡推定部15は、上記BBF(p)が最大となる航跡を抽出する。BBF(p)が最大となる航跡から、目標運動諸元が求まる。
【0057】
次に、従来の目標運動解析装置による解析手法とその問題点について記載する。図4は、従来の目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。なお、図4において、処理を示す内容は、四角形で囲まれた部分に示されている。一方、処理において用いられる情報、または、処理において出力される情報は、四角形で囲まれない部分に示されている。実線で示される矢印は、処理の流れを示し、当該矢印が向く方向に処理が移行する。一方、破線で示される矢印のうち、情報を示す部分から、処理を示す部分に向かう矢印は、当該処理において当該情報が用いられることを示し、処理を示す部分から、情報を示す部分に向かう矢印は、当該処理から当該情報が得られることを示す。
【0058】
ステップS1において従来の目標運動解析装置は、上述した目標追尾処理部10と同様に、整相処理から得られたパワー時系列情報を用いた追尾処理により、上述の数1式等に示される方位時系列情報を算出する。
【0059】
ステップS2において当該目標運動解析装置は、ステップS1において得られた方位時系列情報における始点方位および終点方位と、上述した最大距離および最小距離と、を用いて、目標の想定航跡を求める。この場合において従来の目標運動解析装置が始点方位として用いるものは、目標追尾処理の開始時刻tにおける信号方位である場合が多い。一方、終点方位として用いるものは、目標追尾処理における最新時刻tでの信号方位である場合が多い。このため、従来の目標運動解析装置においては、始点は目標追尾処理の開始時刻tとなり、終点は目標追尾処理の最新時刻tとなる場合が多い。
【0060】
ステップS3において目標運動解析装置は、上述したパワー積分計算部14と同様に、ステップS2から得られた想定航跡を用いて、上述の数6式~数9式から、各時刻における目標の位置および速度等を推定する。ただし、従来の目標運動解析装置が推定する目標の位置および速度等は、数6式~数9式のそれぞれにおいて、時刻tstartを時刻tに置き換え、且つ、時刻tendを時刻tに置き換えて得られるものである。目標運動解析装置は、推定した目標の位置および速度等の値を用いて、数12式によって表される、時刻tから時刻tまでの各時刻における目標の方位を算出する。そしてステップS3において目標運動解析装置は、整相処理によって得られた時刻毎のパワーを、想定航跡毎に、数12式から算出された目標の方位に沿って積分し、上述した数14式で示されるBBF(p)を求める。なお、従来の目標運動解析装置によって求められるBBF(p)は、数14式において、目標追尾処理の開始時刻tにおけるB(t、θ(t、p))から、当該目標追尾処理の最新時刻tにおけるB(t、θ(t、p))までの、各B(t、θ(t、p))の総和である。ステップS4において目標運動解析装置は、BBF(p)が最大となる航跡pを抽出し、当該航跡pから目標運動諸元を求める。
【0061】
上述した従来の目標運動解析装置による目標の運動諸元の解析では、始点方位の誤差が大きい場合、および、終点方位の誤差が大きい場合には、推定する目標の運動諸元の誤差が大きくなる可能性が否定できない。このような状況を例示するため、従来の目標運動解析処理を用いたシミュレーションを行った。図5は、シミュレーションを行う際の、目標と観測装置との各移動経路を例示する模式図である。図5における破線が観測装置2の移動経路を示し、実線が目標の移動経路を示す。なお、これらの移動経路は、それぞれの移動経路に隣接する矢印方向に沿うとする。また、当該シミュレーションにおいて観測装置2は、図5に示すように3回変針を行うとする。そして、当該シミュレーションは、30回試行されるとする。
【0062】
また、当該シミュレーションでは、時間の経過と共に、観測装置2と目標とは、互いに近づいていくとする。信号のSNR(Signal to Noise Ratio)は、観測装置2と目標との間の距離である相対距離などにより変化するが、相対距離が長いほど、SNRは低くなることが多い。図6は、シミュレーションにおいて設定されたSNRを示す図である。当該SNRは、図5に示す相対距離に応じて、高くなるものとする。なお、時刻tが0[秒]の場合におけるSNRは0[dB]であるとする。
【0063】
ここで、水平方向における目標と観測装置2との各位置をx座標とy座標とで示し、y軸の正方向を真北方向とする。また、図3と同様に、xy平面におけるy軸からの角度の、時計回り方向を正とする。すると、目標の針路である的針θは、目標の速度のx成分vxtおよびy成分vytを用いて以下の数15式で表すことができ、目標の速さである的速vは、vxtおよびvytを用いて以下の数16式で表すことができる。
【0064】
【数15】
【0065】
【数16】
【0066】
当該シミュレーションにおいて、目標運動諸元の真値は既知であるとする。試行回数がi(i:1以上30以下の自然数)における、終点での相対距離の推定値をr est(t、i)とし、その真値をr true(t)とする。すると試行毎の誤差ε(t、i)は、次の数17式で表すことができる。なお、ここでの終点は時刻tである。
【0067】
【数17】
【0068】
終点における相対距離の誤差の分散rerrSTD(t)は、ε(t、i)を用いて次の数18式により求めることができる。なお、以下では誤差の分散の平方根である標準偏差を、誤差標準偏差と記載する場合もあるとする。
【0069】
【数18】
【0070】
Iは試行回数であり、ここでは30である。終点における相対距離の誤差の分散と同様に、始点における相対距離の誤差の分散、的速の誤差の分散、および、的針の誤差の分散も計算することができる。図7は、従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、終点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。図8は、従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、始点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。図9は、従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的速の誤差標準偏差を例示する図である。図10は、従来の目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的針の誤差標準偏差を例示する図である。なお、上述したように、的速は目標の速さであり、的針は目標の進む方位であることより、これらを用いて、ベクトルである、目標の速度を求めることができる。
【0071】
図7図10における横軸は、シミュレーションにおける時刻を示す。なお、シミュレーションの開始時刻を0[秒]とし、2130[秒]までの間に、目標と観測装置2とは、図5に示す経路を移動したとする。この場合において、図7における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、終点での相対距離の誤差標準偏差を示す。同様に、図8における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、始点での相対距離の誤差標準偏差を示す。また、図9における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、的速の誤差標準偏差を示し、図10における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、的針の誤差標準偏差を示す。
【0072】
図11は、図7に示した、終点における相対距離の誤差標準偏差の値を例示する図である。図11には、時刻1200[秒]における終点での相対距離の誤差標準偏差の値と、時刻1800[秒]における終点での相対距離の誤差標準偏差の値と、時刻2130[秒]における終点での相対距離の誤差標準偏差の値と、が示されている。図11に示されるように、シミュレーションの最終時刻である2130[秒]において、終点における相対位置の誤差標準偏差は、14.6[%]である。すなわち、終点における相対距離の誤差には、14.6%のばらつきがある。これにより、従来の目標運動解析においては、終点における相対距離に、大きな誤差がある場合も否定できなくなる。また、相対距離がより正確に得られるほど、誤差は小さくなると共に、当該誤差のばらつきも小さくなると考えられる。始点における相対距離、的速、および的針についても同様と考えられる。実施の形態1に係る目標運動解析装置1は、以下のようにして、これらの誤差のばらつきを小さくし、より正確な目標運動諸元を得るものである。
【0073】
目標運動解析装置1は、従来の目標運動解析装置による処理に加えて、上述した分散計算部11による処理であって、各時刻における推定方位からの観測方位の分散の算出処理を行う。なお、当該分散は、上記数5式によって示される。ここで、数5式は、αβフィルタ処理を用いた場合における分散を示すが、αβフィルタ処理以外にも、目標追尾処理部10が複数の時刻の信号方位の観測値を用いて追尾を行うものであれば、分散計算部11は複数の時刻の各々における分散の算出が可能であり、分散時系列情報の生成が可能であるため、上記ディジタル処理はαβフィルタ処理に限定されない。
【0074】
また、実施の形態1における始点終点設定部12は、目標追尾処理部10によって得られた方位時系列情報と、分散計算部11によって得られた分散時系列情報と、分散許容閾値とを用いて、始点と終点とを設定する。なお、分散許容閾値とは、許容される最大の分散の値を指し、閾値として用いられるものである。分散許容閾値は、他の構成要素または目標運動解析装置1のユーザにより入力されるものでもよいし、始点終点設定部12に予め記憶されているものでもよい。なお、分散許容閾値は許容閾値の例である。
【0075】
ここで、方位時系列情報には、目標追尾処理部10が目標の追尾処理を開始した時点から最新の時点までの時刻毎の平滑値等が示され、分散時系列情報には、目標追尾処理部10が目標の追尾処理を開始した時点から最新の時点までの時刻毎の分散が示されている。始点終点設定部12は、当該追尾処理の開始時刻から最新時刻までの間の時刻の中から、始点と終点とを設定する。
【0076】
図12は、実施の形態1に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。なお、図12では、図4と同様に、処理を示す内容は、四角形で囲まれた部分に示され、処理に用いられる情報、または、処理において出力される情報は、四角形で囲まれない部分に示されている。また、実線で示される矢印は、処理の流れを示し、当該矢印が向く方向に処理が移行する。一方、破線で示される矢印のうち、情報を示す部分から、処理を示す部分に向かう矢印は、当該処理において当該情報が用いられることを示し、処理を示す部分から、情報を示す部分に向かう矢印は、当該処理から当該情報が得られることを示す。
【0077】
ステップS10において目標追尾処理部10は、観測装置2から取得したパワー時系列情報に基づいて、目標の追尾処理を行い、方位時系列情報を生成する。ステップS11において分散計算部11は、目標追尾処理部10を介して観測装置2から取得したパワー時系列情報と、目標追尾処理部10から取得した方位時系列情報とを用いて、推定方位からの観測方位の分散を算出する。
【0078】
ステップS12において始点終点設定部12は、目標追尾処理部10によって得られた方位時系列情報と、分散計算部11によって得られた分散時系列情報と、分散許容閾値とを用いて、始点と終点とを設定する。なお、始点終点設定部12による始点と終点との設定処理は、図13を参照して後述する。
【0079】
ステップS13において第1航跡推定部13は、始点終点設定部12が設定した始点から終点までの間における、目標の航跡の候補を取得する。この場合において第1航跡推定部13は、上述したように、始点方位における最小距離と最大距離との間における各位置であって、互いに予め定められた距離間隔だけ離れている各位置から、終点方位における最小距離と最大距離との間における各位置であって、互いに予め定められた距離間隔だけ離れている各位置までを結ぶ経路を、想定航跡とする。
【0080】
ステップS14においてパワー積分計算部14は、ステップS13において得られた想定航跡を用いて、上述した数6式~数9式により、各時刻における目標の位置および速度等を推定する。またパワー積分計算部14は、推定した目標の位置および速度等の値を用いて、数12式によって表される、時刻tstartから時刻tendまでの各時刻における目標の方位を算出する。パワー積分計算部14は、当該各時刻における目標の方位を用いて、整相処理によって得られた時刻毎のパワーを、数14式に示すように積分する。すなわち、パワー積分計算部14は、整相処理によって得られた時刻毎のパワーを想定航跡に沿って積分する。ステップS15において第2航跡推定部15は、ステップS14で得られた積分結果であるBBF(p)が最大となる航跡pを抽出し、当該航跡pから目標運動諸元を求める。
【0081】
以降では、始点終点設定部12による始点と終点との設定処理について詳述する。図13は、始点終点設定部による始点の設定処理を例示するフローチャートである。図14は、始点終点設定部による終点の設定処理を例示するフローチャートである。始点の設定処理と終点の設定処理は、並列的にして実行されてもよいし、直列的に実行されてもよいが、当該一例においては、始点の設定処理が先に実行されるなど、後述するステップS24またはステップS27における処理が、後述するステップS35における処理よりも先に行われるとする。
【0082】
図13におけるステップS20において始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から方位時系列情報を取得し、分散計算部11から上述の分散時系列情報を取得する。なお、始点終点設定部12が、ステップS20以前に、後述する終点の設定処理を既に開始し、後述するステップS30における処理により、既に方位時系列情報と分散時系列情報とを保持している場合には、ステップS20による処理は省かれてもよい。
【0083】
ステップS21において始点終点設定部12は、時刻のインデックスkに、方位時系列情報および分散時系列情報における時刻のうちの最も早い時刻である、目標追尾処理の開始時刻tのインデックスの値である1を格納する。ステップS22において始点終点設定部12は、分散時系列情報における、インデックスkの時刻tにおける分散σθ (t)の平方根σθ(t)を算出する。なお当該平方根σθ(t)も以下では分散と記載する。
【0084】
ステップS23において始点終点設定部12は、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下であるか否かを判定する。分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下である場合には(ステップS23:YES)、ステップS24において始点終点設定部12は、時刻tを始点tstartとして設定する。これに伴って始点終点設定部12は、始点方位θstartを、方位時系列情報における時刻tでの推定方位θ(t)とする。ステップS24の処理後、始点終点設定部12は、始点tstartの設定処理を終了する。
【0085】
ステップS23において分散σθ(t)が分散許容閾値θthより大きい場合には(ステップS23:NO)、ステップS25において始点終点設定部12は、時刻のインデックスkの値が、方位時系列情報と分散時系列情報における最新の時刻tのインデックスであるK以上か否かを判定する。kの値がKより小さい場合には(ステップS25:NO)、ステップS26において始点終点設定部12は、kの値に1を加算した値を、kに格納する。ステップS26の処理後、始点終点設定部12は、処理をステップS22に戻す。
【0086】
ステップS25においてkの値がK以上の場合には(ステップS25:YES)、ステップS27において始点終点設定部12は、目標追尾処理の開始時刻tを始点tstartとして設定する。これに伴って始点終点設定部12は、始点方位θstartを、方位時系列情報における時刻tでの推定方位θ(t)とする。ステップS27の処理後、始点終点設定部12は、始点tstartの設定処理を終了する。
【0087】
なお、上記のステップS24において始点終点設定部12が、時刻tを始点として設定することにより、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下となる時刻tのうちの最も早い時刻tが始点となる。ここで、推定方位からの観測方位の分散が大きいということは、信号の受信の際に、目標の運動諸元を求める際に不要となるノイズも多く受信されたことを意味すると考えられる。このようなノイズにより目標の運動諸元の解析精度も低下してしまい、また、ノイズが多い状態での目標運動諸元の解析は不要な処理となることもある。また、このような状態で解析された目標運動諸元を用いることにより、不測の事態を被る虞もある。このため、実施の形態1における目標運動解析装置1は、始点終点設定部12による処理以降の目標運動諸元を求めるための処理において、方位時系列情報における、始点より前の時点における推定方位等を示す情報を用いない。
【0088】
また、SNRは、目標と観測装置2との間の相対距離が短いほど高くなるが、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下となったタイミングにおいて、相対距離が、目標運動解析装置1が目標運動諸元を所望の精度で求めるための十分な距離にまで縮まったとも考えられ、始点以降の時刻においても相対距離が急に長くなるとも考えにくく、また、相対距離が長くない場合には、例えば、目標との衝突を抑制するためにも目標運動諸元が解析され続けることが好ましい場合もある。このため、始点終点設定部12は、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下となる時刻tのうちの最も早い時刻tを始点tstartとし、第1航跡推定部13は、方位時系列情報において始点tstart以降の情報を航跡の候補を求める際に用いる。
【0089】
一方、ステップS27において始点終点設定部12は、分散時系列情報における全ての時刻での各分散σθ(t)が分散許容閾値θthより大きい場合には、従来と同様に、始点tstartを目標追尾処理の開始時刻tとする。このように設定することにより、ノイズが多いながらも、第1航跡推定部13などによる以降の目標運動諸元の解析処理が進められるが、例えば、目標運動解析装置1がユーザに対して、目標の運動諸元の誤差が大きくなる可能性があることを通知しつつ、目標運動諸元を解析することによって、ユーザは種々の情報を得ることができ、より適切な判断ができるようになる。
【0090】
次に、始点終点設定部12による終点の設定処理について、図14を参照して説明する。ステップS30において始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から方位時系列情報を取得し、分散計算部11から上述の分散を取得する。なお、始点終点設定部12が、始点の設定処理を既に開始し、ステップS20における処理により既に方位時系列情報と分散時系列情報とを保持している場合には、ステップS30による処理は省かれてもよい。
【0091】
ステップS31において始点終点設定部12は、時刻のインデックスkに、方位時系列情報および分散時系列情報における時刻のうちの最も遅い時刻である、目標追尾処理における最新時刻tのインデックスの値であるKを格納する。ステップS32において始点終点設定部12は、分散時系列情報における、インデックスkの時刻tにおける分散σθ (t)の平方根である分散σθ(t)を算出する。
【0092】
ステップS33において始点終点設定部12は、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下であるか否かを判定する。分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下である場合には(ステップS33:YES)、ステップS34において始点終点設定部12は、時刻tを終点tendとして設定する。これに伴って始点終点設定部12は、終点方位θendを、方位時系列情報における時刻tでの推定方位θ(t)とする。ステップS34の処理後、始点終点設定部12は、終点tendの設定処理を終了する。
【0093】
ステップS33において分散σθ(t)が分散許容閾値θthより大きい場合には(ステップS33:NO)、ステップS35において始点終点設定部12は、時刻のインデックスkの値が、ステップS24またはステップS27において設定された始点tstartのインデックスの値以下か否かを判定する。kの値が、始点tstartのインデックスの値より大きい場合には(ステップS35:NO)、ステップS36において始点終点設定部12は、kの値から1を減算した値を、kに格納する。ステップS36の処理後、始点終点設定部12は、処理をステップS32に戻す。
【0094】
ステップS35においてkの値が、始点tstartのインデックスの値以下の場合には(ステップS35:YES)、ステップS37において始点終点設定部12は、目標追尾処理における最新時刻tを終点tendとして設定する。これに伴って始点終点設定部12は、終点方位θendを、方位時系列情報における時刻tでの推定方位θ(t)とする。ステップS37の処理後、始点終点設定部12は、終点tendの設定処理を終了する。
【0095】
なお、上記のステップS34において始点終点設定部12が、時刻tを終点tendとして設定することにより、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下となる時刻tのうちの最も遅い時刻tが終点tendとなる。ユーザは、終点tendより後における誤差の大きい方位時系列情報を用いて算出される目標運動諸元を用いるよりも、終点tend以前における誤差の小さい方位時系列情報を用いて、以降の目標運動諸元を推測することが好ましい場合もある。第1航跡推定部13が、想定航跡を求める際に、始点終点設定部12が設定した終点tendより後の時刻における方位時系列情報を用いないなど、目標運動解析装置1は、誤差の大きい情報を用いないこととすることによって、無駄な処理が削減され、また不測の事態を抑制することができる。
【0096】
一方、ステップS37において始点終点設定部12は、分散時系列情報における、始点tstart以降の時刻での各分散σθ(t)が分散許容閾値θthより大きい場合には、従来と同様に、終点tendを目標追尾処理における最新時刻tとする。このように設定することにより、ノイズが多いながらも、方位時系列情報のうちのより多い情報を用いて、第1航跡推定部13などによる以降の目標運動諸元の解析処理が進められる。この場合においても、上述のように、目標運動解析装置1がユーザに対して、目標の運動諸元の誤差が大きくなる可能性があることを通知しつつ、目標運動諸元を解析することによって、ユーザは種々の情報を得ることができ、より適切な判断ができるようになる。
【0097】
実施の形態1に係る目標運動解析装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access memory)等のメモリ、および通信インターフェース回路によって構成可能である。目標追尾処理部10による観測装置2との通信機能は、通信インターフェース回路によって実現することができる。目標追尾処理部10の当該通信機能以外の機能、分散計算部11による機能、始点終点設定部12による機能、第1航跡推定部13による機能、パワー積分計算部14による機能、および、第2航跡推定部15による機能は、プロセッサが、メモリに記憶されている目標運動解析プログラムを読み出して実行することにより実現することができる。なお、第2航跡推定部15がユーザに対して、推定した航跡等を示す機能を有する場合には、目標運動解析装置1は、当該機能を実現するための、液晶ディスプレイまたはEL(Electroluminescence)ディスプレイ等の表示装置を有するものでもよい。目標運動解析装置1は、その全部または一部を専用のハードウェアとしてもよい。
【0098】
図15は、実施の形態1における第1航跡推定部による処理について、より詳細に説明するための図である。図2と同様に、目標と観測装置2とは2次元のxy平面上を移動しているとし、目標は等速直線運動をしているとする。また、観測装置2の位置は四角で示され、目標の位置として推定される位置は丸で示されるとする。更にまた、観測装置2は、目標追尾処理の開始時刻tから、最新時刻tまでの間に太い実線に沿う移動を行ったものとし、当該開始時刻tにおける観測装置2の位置をO、始点tstartにおける観測装置2の位置をOstart、終点tendにおける観測装置2の位置をOend、当該最新時刻tにおける観測装置2の位置をOとする。
【0099】
図15において従来の目標運動解析装置は、目標追尾処理の開始時刻tにおける推定方位を示す方位線Lにおける各位置と、目標追尾処理における最新時刻tにおける推定方位を示す方位線Lにおける各位置とを結ぶ経路を、想定航跡とする。一方、目標運動解析装置1における航跡の候補は、目標追尾処理の開始時刻tから始点tstartまでの時刻における推定方位に沿う、例えば方位線Lなどの方位線における各位置と、終点tendから最新時刻tまでの時刻における推定方位に沿う、例えば方位線Lなどの方位線における各位置と、を結ぶ経路を想定航跡としない。
【0100】
その一方において第1航跡推定部13は、図2を参照して説明したように、始点tstartにおける推定方位を示す方位線Lstartにおける各位置と、終点tendにおける推定方位を示す方位線Lendにおける各位置とを結ぶ経路を、想定航跡とする。想定航跡は、図15において破線により例示される。第1航跡推定部13は、方位線Lstartにおける各位置と、方位線Lendにおける各位置とを結ぶ想定航跡を、延長した経路を更なる想定航跡としてもよい。
【0101】
図16は、第1航跡推定部による延長後の想定航跡を例示する図である。想定航跡の延長部分は、方位線Lstart上における目標の位置として推定される丸印から方位線Lに延びる破線部分、および、方位線Lend上における目標の位置として推定される丸印から方位線Lに延びる破線部分が、その例である。
【0102】
実施の形態1における第1航跡推定部13は、方位時系列情報を用いて想定航跡を求める際に、分散が小さく、方位の誤差が小さいと考えられる、始点方位および終点方位を用いることにより、より高い精度で想定航跡を得ることができる。また、パワー積分計算部14は、当該想定航跡に沿ってパワーを積分し、第2航跡推定部15は、パワー積分計算部14による積分結果から目標運動諸元を得るため、より高い精度で目標運動諸元の解析を行えるようになる。以下、目標運動解析装置1による解析処理の精度向上の効果について、図17図20を参照して説明する。
【0103】
図17は、実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、終点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。図18は、実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、始点における相対距離の誤差標準偏差を例示する図である。図19は、実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的速の誤差標準偏差を例示する図である。図20は、実施の形態1に係る目標運動解析装置を用いたシミュレーションによる、的針の誤差標準偏差を例示する図である。
【0104】
なお、当該シミュレーションは、図5および図6を参照して説明した、従来の目標運動解析装置において行ったシミュレーションと同様のものである。図17図20における横軸は、図7図10と同様に、シミュレーションにおける時刻を示す。図17における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、終点tendでの相対距離の誤差標準偏差を示す。同様に、図18における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、始点tstartでの相対距離の誤差標準偏差を示す。また、図19における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、的速の誤差標準偏差を示し、図20における黒丸は、30回のシミュレーションの試行後における、的針の誤差標準偏差を示す。
【0105】
図21は、図17に示した、終点における相対距離の誤差標準偏差の値を例示する図である。図21には、図11と同様に、時刻1200[秒]における終点での相対距離の誤差標準偏差の値と、時刻1800[秒]における終点での相対距離の誤差標準偏差の値と、時刻2130[秒]における終点での相対距離の誤差標準偏差の値と、が示されている。図21図11とを比較すると、時刻1200[秒]における誤差標準偏差の値は、従来の目標運動解析装置を用いた場合では20.97%であるが、実施の形態1に係る目標運動解析装置1を用いると17.86%となっている。また、時刻1800[秒]における誤差標準偏差の値は、従来では44.85%であるが、実施の形態1では8.31%となっている。更に、時刻2130[秒]における誤差標準偏差の値は、従来では14.61%であるが、実施の形態1では6.62%となっている。また的速および的針等の各誤差標準偏差も、同様に、従来と比べて小さくなっている。
【0106】
上述したように、目標運動諸元の誤差に大きなばらつきがあるということは、大きな誤差を有する目標運動諸元が得られる場合もあることを意味する。一方、目標運動諸元がより正確に得られるほど、誤差が小さくなると共に、当該誤差のばらつきも小さくなると考えられる。このため、実施の形態1に係る目標運動解析装置1によって得られる目標運動諸元は、より正確であると考えられ、実施の形態1によって目標運動解析の精度向上が図られると考えられる。
【0107】
なお、上述した目標運動解析装置1は、観測装置2から各方位におけるパワー時系列情報を取得するものであった。しかし、観測装置2は、信号の方位と共に、信号の周波数を観測できるものでもよく、目標運動解析装置1は、観測装置2から当該周波数に関する情報を取得してもよい。そして、目標運動解析装置1における目標追尾処理部10は、時系列における周波数を示す周波数時系列情報を生成してもよい。なお、目標追尾処理部10は、観測装置2から周波数時系列情報を取得してもよい。
【0108】
始点終点設定部12は、始点tstartおよび終点tendと、始点方位および終点方位とを設定する以外にも、更に、始点tstartにおける周波数と、終点tendにおける周波数とを設定してもよい。また、パワー積分計算部14は、第1航跡推定部13が出力した想定航跡を用いて、数6式~数13式に示される値を算出する以外にも、以下の数19式に示される、時刻tにおける信号の周波数f(t、p)を算出するものであってもよい。
【0109】
【数19】
【0110】
なお、fは、目標が有する音源が発信する音波の周波数であるが、観測側において既知ではない場合には、設定値とする。当該設定値は、実験または文献等により定められてもよい。v(t、p)は上記数13式に示した相対速度であり、e(t、p)は上記数11式に示した単位ベクトルである。cは音速である。
【0111】
パワー積分計算部14は、数14式に示すBBF(p)の算出に代えて、時刻t、数12式に示す目標の方位θ(t、p)、および、上記信号の周波数f(t、p)におけるパワーB(tk、θ(t、p)、f(t、p))を用いて、数20式に示す<BBFinteg(p)>を算出してもよい。
【0112】
【数20】
【0113】
なお、数20式における<BBFinteg(p)>は、始点における時刻tstartにおけるB(tstart、θ(tstart、p)、f(tstart、p))から、終点における時刻tendにおけるB(tend、θ(tend、p)、f(tend、p))までの各時刻tにおけるB(t、θ(t、p)、f(t、p))の総和である。なお、当該<BBFinteg(p)>もBBF(p)と記載する場合もあるとする。
【0114】
第2航跡推定部15は、数20式から得られるBBF(p)が最大となる航跡pを抽出し、目標運動諸元を推定してもよい。
【0115】
実施の形態1に係る目標運動解析装置1は、目標追尾処理部10、分散計算部11、始点終点設定部12、第1航跡推定部13、パワー積分計算部14、および第2航跡推定部を備える。目標追尾処理部10は、整相処理を行う観測装置2から、当該観測装置2が受信した信号に対応するパワーをの値を取得し、当該パワーの値に基づいて、目標の追尾処理を行い、当該目標が位置すると推定される方位である推定方位を抽出する。分散計算部11は、追尾処理の結果を用いて、信号方位に関する分散を計算する。始点終点設定部12は、追尾処理の開始以降における信号方位に関する分散が分散許容閾値θth以下となる時刻のうち、最も早い時刻を始点tstartとし、最も遅い時刻を終点tendとして設定する。第1航跡推定部13は、始点tstartにおける推定方位である始点方位、および、終点tendにおける推定方位である終点方位に基づいて、目標の想定航跡を抽出する。パワー積分計算部14は、第1航跡推定部13が抽出した想定航跡に沿って、前記パワーの値を積分する。第2航跡推定部15は、パワー積分計算部14によるパワーの値の積分結果に基づいて目標の航跡を推定し、目標の運動諸元を推定する。当該目標追尾処理部10によれば、始点終点設定部12が、分散が許容閾値より大きい時刻tを始点tstartまたは終点tendとせず、分散が許容閾値以下となる時刻tを始点tstartおよび終点tendとすることにより、第1航跡推定部13は、誤差の大きい推定方位ではなく、より誤差の小さい推定方位を用いての想定航跡の抽出が可能となる。そして、パワー積分計算部14が、想定航跡に沿ったパワーの値の積分を行い、第2航跡推定部15が、積分結果に基づいて航跡を推定し、目標の運動諸元を推定するため、従来よりも精度よく目標運動諸元を推定することができるようになる。
【0116】
実施の形態1における目標追尾処理部10は方位時系列情報を生成する。分散計算部11は、方位時系列情報と、パワーの値の時系列で示すパワー時系列情報とを用いて、信号方位に関する分散を計算し、当該時系列で、前記信号方位に関する分散を示す分散時系列情報を生成する。始点終点設定部12は、方位時系列情報と分散時系列情報とを用いて、信号方位に関する分散が許容閾値以下となる、時系列における時刻のうちの、最も早い時刻を始点tstartとして設定し、最も遅い時点を終点tendとして設定する。これにより、従来よりも精度よく目標運動諸元を推定することができるようになる。
【0117】
実施の形態1における分散計算部11は、推定方位と、観測装置2が信号を観測した方位である観測方位とから、信号方位に関する分散を計算する。始点終点設定部12が、当該分散を、始点tstartと終点tendとを設定する際に用いることにより、従来よりも精度よく目標運動諸元を推定することができるようになる。
【0118】
実施の形態2.
実施の形態1に係る目標運動解析装置1は、時間の経過と共に、目標追尾処理によって得られる時系列の情報が増え、その度に始点tstartおよび終点tendの設定を行うものであった。しかし、この場合、方位時系列情報と分散時系列情報における情報のうち、前回の始点tstartおよび終点tendの設定に用いられた情報が、再び当該設定の際に用いられていた。実施の形態2に係る目標運動解析装置1は、同じ情報を何度も用いる処理を減らすことにより、計算量を減らすものである。以下、実施の形態2に係る目標運動解析装置1について説明する。なお、以下では、実施の形態1における構成要素と同じ構成要素については同様の符号を付す。また、実施の形態1における構成内容と同じ構成内容、および、実施の形態1における機能と同じ機能などについては、特段の事情がない限り、説明を省略する。
【0119】
実施の形態2に係る目標運動解析装置1は、上述した図1に示す各部を備える。実施の形態2における目標追尾処理部10は、始点終点設定部12に対して、追尾処理の結果を蓄積して得られる方位時系列情報を出力する代わりに、各時刻tにおける推定方位を示す情報を出力する。以下では、推定方位を示す情報を推定方位情報と記載する場合もある。分散計算部11は、始点終点設定部12に対して、分散時系列情報を出力する代わりに、各時刻tにおける推定方位からの観測方位の分散を出力する。
【0120】
実施の形態2における目標追尾処理部10は、観測装置2が変針した時刻である変針時刻を出力する。上述のように、目標追尾処理部10は、観測装置2と通信可能であり、各時刻tにおける目標からの信号を観測するよう観測装置2を制御するものである。実施の形態2における目標追尾処理部10は、更に、観測装置2から変針時刻を取得し、当該変針時刻を始点終点設定部12に出力する。ただし、目標追尾処理部10は、変針するよう観測装置2を制御するものでもよく、観測装置2に変針を行わせるための制御信号を送信した時刻を変針時刻として、始点終点設定部12に出力してもよい。
【0121】
実施の形態2における始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から、時刻tと、時刻tにおける推定方位情報とを取得する。また、始点終点設定部12は、分散計算部11から時刻tの分散を取得する。始点終点設定部12は、取得した分散が上述した分散許容閾値以下であるか否かを判定し、当該分散が分散許容閾値以下である場合には、その時刻tと、時刻tにおける推定方位情報とを記憶する。なお、以下では、時刻tと、時刻tにおける推定方位情報とを組み合わせた情報を時刻推定方位情報と記載する。
【0122】
始点終点設定部12は、記憶する時刻推定方位情報が複数ある場合には、当該複数の時間推定方位情報のうち、最も早い時刻を含む時刻推定方位情報と、最も遅い時刻を含む時刻推定方位情報とを抽出する。そして、始点終点設定部12は、当該最も早い時刻と、当該最も遅い時刻との間の時間の長さが、予め定められた閾値tth以上であるか否かを判定する。なお、以下では、当該最も早い時刻と、当該最も遅い時刻との間の時間を推定用時間と記載する場合もあるとする。また、時間の長さを時間長と記載する場合もあるとし、推定用時間の長さを推定用時間長と記載する場合もあるとする。また、閾値tthを時間長閾値と記載する場合もあるとする。
【0123】
時間長閾値tthは、航跡の候補の抽出、および、航跡の推定等のための必要な時間長であり、実験または文献等により予め定められている。なお、当該時間長閾値tthは、始点終点設定部12に記憶されていてもよいし、目標運動解析装置1のユーザにより、不図示の入力部を介して、始点終点設定部12に入力されるものでもよい。
【0124】
また、始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から観測装置2の変針時刻を取得する。上述したように、目標と観測装置2とが等速直線運動を行う場合において、特定の時間範囲における目標の運動諸元の推定のためには、当該時間範囲内に観測装置2が少なくとも一回は変針を行う必要がある。始点終点設定部12は、複数の時刻推定方位情報を記憶する場合であって、推定用時間長が時間長閾値tth以上である場合には、推定用時間内に変針時刻が含まれるか否かを判定する。始点終点設定部12は、変針時刻が推定用時間に含まれる場合には、当該推定用時間の最も早い時刻を始点tstartとし、最も遅い時刻を終点tendとする。そして、始点終点設定部12は、当該最も早い時刻を含む時刻推定方位情報が示す推定方位を始点方位とする。同様に、始点終点設定部12は、当該最も遅い時刻を含む時刻推定方位情報が示す推定方位を終点方位とする。
【0125】
図22は、実施の形態2に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。なお、図22では、図4および図12と同様に、処理を示す内容は、四角形で囲まれた部分に示され、処理に用いられる情報、または、処理において出力される情報は、四角形で囲まれない部分に示されている。また、実線で示される矢印は、処理の流れを示し、当該矢印が向く方向に処理が移行する。一方、破線で示される矢印のうち、情報を示す部分から、処理を示す部分に向かう矢印は、当該処理において当該情報が用いられることを示し、処理を示す部分から、情報を示す部分に向かう矢印は、当該処理から当該情報が得られることを示す。
【0126】
ステップS40において目標追尾処理部10は、観測装置2が観測したパワーを示す情報を取得する。なお、観測装置2は、観測値を得る度に、パワーを目標追尾処理部10に出力する。目標追尾処理部10は、観測装置2から得られたパワーを示す情報を用いて目標の追尾処理を行う。この際に目標追尾処理部10は、当該パワーを示す情報から、推定方位を抽出し、当該推定方位情報を含む時刻推定方位情報を分散計算部11と始点終点設定部12に出力する。
【0127】
ステップS41において分散計算部11は、目標追尾処理部10を介して観測装置2から取得したパワーを示す情報と、目標追尾処理部10が抽出した推定方位とを用いて、推定方位からの観測方位の分散を算出する。
【0128】
ステップS42において始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から取得した時刻推定方位情報と、分散計算部11によって得られた分散と、分散許容閾値と、時間長閾値と、目標追尾処理部10から取得した変針時刻とを用いて、始点tstartおよび終点tendとを設定する。以降のステップS43~ステップS45における各処理は、実施の形態1におけるステップS13~ステップS15における各処理と同様であるため、説明を省略する。
【0129】
図23は、実施の形態2における始点終点設定部による始点および終点の設定処理を例示するフローチャートである。ステップS50において始点終点設定部12は、時刻tを含む時刻推定方位情報を目標追尾処理部10から取得していない場合と、時刻tにおける分散σθ(t)を分散計算部11から取得していない場合の少なくとも一方の場合には(ステップS50:NO)、時刻tを含む時刻推定方位情報と分散σθ(t)とを取得するまで待機する。なお、始点終点設定部12は、インデックスkの1から順番に、時刻tを含む時刻推定方位情報と、分散σθ(t)とを取得する。ステップS50において始点終点設定部12が時刻tを含む時刻推定方位情報と分散σθ(t)とを取得した場合には(ステップS50:YES)、ステップS51において始点終点設定部12は、分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下であるか否かを判定する。なお、始点終点設定部12は、分散σθ(t)を分散計算部11から取得してもよいが、分散計算部11から取得した分散σθ (t)を用いての計算によって分散σθ(t)を取得してもよい。
【0130】
ステップS51において分散σθ(t)が分散許容閾値θthより大きい場合には(ステップS51:NO)、始点終点設定部12は、処理をステップS50に戻し、時刻推定方位情報と分散σθ(t)とを取得するまで待機する。なお、始点終点設定部12は、分散σθ(t)が分散許容閾値θthより大きい場合において(ステップS51:NO)、始点終点設定部12は、処理をステップS50に戻す代わりに、後述するステップS57に処理を移してもよい。
【0131】
ステップS51において分散σθ(t)が分散許容閾値θth以下である場合には(ステップS51:YES)、ステップS52において始点終点設定部12は、時刻tと、推定方位θ(t)とを示す時刻推定方位情報を記憶する。具体的には、始点終点設定部12は、a(a:1以上の自然数)をインデックスとするtに時刻tを格納する。また同様に、始点終点設定部12は、aをインデックスとするθに推定方位θ(t)を格納する。これらを組み合わせた情報が時刻推定方位情報となる。なお、インデックスaは、最初は1であるものとし、tに時刻t、θに推定方位θ(t)を格納する毎に、1ずつ加算されるものとする。
【0132】
ステップS53において始点終点設定部12は、記憶する時刻推定方位情報が複数であるか否かを判定する。時刻推定方位情報が複数記憶されていない場合には(ステップS53:NO)、始点終点設定部12は、処理をステップS50に戻し、時刻推定方位情報と分散σθ(t)とを取得するまで待機する。
【0133】
ステップS53において時刻推定方位情報が複数記憶されていると判定された場合には(ステップS53:YES)、ステップS54において始点終点設定部12は、複数の時刻推定方位情報のうちの最も早い時刻と最も遅い時刻との間の時間の長さである推定用時間長が時間長閾値tth以上であるか否かを判定する。
【0134】
ステップS54において推定用時間長が時間長閾値tthより短いと判定された場合には(ステップS54:NO)、始点終点設定部12は、処理をステップS50に戻し、時刻推定方位情報と分散σθ(t)とを取得するまで待機する。ただし、始点終点設定部12は、ステップS50へと処理を戻すことに代えて、後述するステップS57へと処理を移してもよい。ステップS54において推定用時間長が時間長閾値tth以上と判定された場合には(ステップS54:YES)、ステップS55において始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から取得した変針時刻が推定用時間に含まれているか否かを判定する。なお、始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から推定方位情報と共に変針時刻を取得してもよいし、ステップS55における処理のタイミング、またはステップS55以前のタイミングにおいて目標追尾処理部10から変針時刻を取得してもよい。
【0135】
ステップS55において変針時刻が推定用時間に含まれると判定された場合には(ステップS55:YES)、ステップS56において始点終点設定部12は、aが1であるtに格納されている時刻tを始点tstartとして設定する。また、始点終点設定部12は、aが1であるθに格納されている推定方位θ(t)を始点方位として設定する。すなわち、始点終点設定部12は、複数の時刻推定方位情報のうち最も早い時刻を示す時刻推定方位情報が示す推定方位を始点方位とする。また、始点終点設定部12は、時刻tを終点tendとして設定し、推定方位θ(t)を終点方位として設定する。
【0136】
なお、始点終点設定部12による上記設定により、第1航跡推定部13は、誤差がそれほど大きくはない推定方位の時系列の情報を用いて、航跡を推定することができる。ステップS56の処理後、始点終点設定部12は、始点および終点等の設定処理を終了する。
【0137】
ステップS55において変針時刻が推定用時間に含まれないと判定された場合には(ステップS55:NO)、ステップS57において始点終点設定部12は、aが1であるtに格納されている時刻tを始点tstartとして設定し、aが1であるθに格納されている推定方位θ(t)を始点方位として設定してもよい。すなわち、始点終点設定部12は、複数の時刻推定方位情報のうち最も早い時刻を示す時刻推定方位情報が示す推定方位を始点方位としてもよい。ただし、これ以外にも、始点終点設定部12は、目標追尾処理部10のよる追尾処理の開始時刻である時刻tを始点としてもよい。そして、始点終点設定部12は、時刻tにおける推定方位θ(t)を始点方位としてもよい。始点終点設定部12は、時刻tを終点tendとして設定し、推定方位θ(t)を終点方位として設定する。なお。ステップS57において始点終点設定部12は、変針時刻が推定用時間に含まれない旨を、不図示の表示部等を介して、ユーザに通知してもよい。ステップS57の処理後、始点終点設定部12は、始点および終点等の設定処理を終了する。
【0138】
なお、実施の形態2に係る目標運動解析装置1は、観測装置2から信号の周波数を取得してもよい。そして、目標追尾処理部10は、時刻tにおける周波数f(t)を始点終点設定部12に出力し、θに推定方位θ(t)を格納する際に、fに周波数f(t)を格納してもよい。この場合における時刻推定方位情報には、tにおける時刻tと、θにおける推定方位θ(t)の他に、fにおける周波数f(t)が含まれる。そして、始点終点設定部12は、aが1であるtに格納されている時刻を始点tstartとして設定する際に、aが1であるfに格納されている周波数を始点tstartにおける周波数として設定してもよい。あるいは、始点終点設定部12は、追尾処理の開始時刻tを始点tstartとして設定する際に、周波数f(t)を始点tstartにおける周波数として設定してもよい。また、始点終点設定部12は、時刻tを終点tendとして設定する際に、周波数f(tend)を終点tendにおける周波数として設定してもよい。
【0139】
実施の形態2における目標追尾処理部10は、時刻毎の観測装置2による観測から得られたパワーの値から推定される、当該時刻毎の目標の推定方位を抽出する。分散計算部11は、当該時刻毎の推定方位を示す時刻推定方位情報と、当該時刻毎のパワーの値とを用いて、当該時刻毎の信号方位に関する分散を計算する。始点終点設定部12は、信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻を示す時刻推定方位情報を蓄積して記憶する。始点終点設定部12は、記憶した時刻推定方位情報が複数ある場合において、当該複数の時刻推定方位情報の各々が示す時刻のうち、最も早い時刻と最も遅い時刻との間の時間の長さが時間長閾値tth以上の場合には、当該最も早い時刻、または、追尾処理の開始時刻tを始点tstartとして設定し、当該最も遅い時刻、または、追尾処理における最新時刻tを終点tendとして設定する。これにより、始点終点設定部12は、始点tstartと終点tendとの設定の際において、同一の時刻tにおける分散と、時間長閾値tthとの大小関係の判定処理の重複を省くことができる。よって目標運動解析装置1は、目標運動諸元の解析において、処理量の低減を図ることができる。
【0140】
実施の形態2における始点終点設定部12は、上記最も早い時刻と上記最も遅い時刻との間の時間において、観測装置2が変針を行った場合には、当該最も早い時刻を始点tstartとして設定し、当該最も遅い時刻を終点tendとして設定する。これにより、設定される始点tstartおよび終点tendの精度が更に向上し、目標運動解析装置1は、計算量を抑えながら、より高い精度で目標運動諸元を推定できるようになる。
【0141】
実施の形態3.
上記実施の形態に係る目標運動解析装置1は、追尾処理によって得られる観測方位の推定方位からの分散に基づいて、始点tstartおよび終点tend等を設定するものであった。ここで、分散は、数5式に示されるように、例えばαβフィルタ処理を用いて得られた場合において、当該分散を求める際の時間幅に依存する可能性も否定できない。実施の形態3に係る目標運動解析装置3は、分散を求める際の時間幅への依存性を排除するものであり、実施の形態1に係る目標運動解析装置1よりも安定的に解析結果を得るものである。以下、実施の形態3に係る目標運動解析装置3について説明する。なお、以下では、実施の形態3における構成要素のうち、上述の実施の形態における構成要素と同じ構成要素には同様の符号を付す。また、上述の実施の形態における構成内容と同じ構成内容、および、上述の実施の形態における機能と同じ機能などについては、特段の事情がない限り、説明を省略する。
【0142】
図24は、実施の形態3に係る目標運動解析装置の機能ブロックを例示する図である。実施の形態3に係る目標運動解析装置3は、目標運動解析装置1に含まれる分散計算部11に代えて、分散計算部16を備える。分散計算部16は、信号雑音比計算部17および方位誤差分散計算部18を有する。
【0143】
信号雑音比計算部17は、目標追尾処理部10から方位時系列情報を取得する。信号雑音比計算部17は、方位時系列情報と、整相出力処理によるパワーの値の分布とを用いて、信号に該当するパワーの部分のSNRを計算する。すなわち、信号雑音比計算部17は、方位におけるパワーの値の分布などを用いて、信号に対応するパワーを観測した方位におけるSNRを計算する。例えば、信号雑音比計算部17は、従来のように、整相出力処理によって得られたパワーの値と、信号の影響を受けていない周辺方位の分散等とを用いて当該SNRを計算する。ただし、信号方位のSNRが計算できれば、どのような方法が用いられてもよい。
【0144】
方位誤差分散計算部18は、信号雑音比計算部17が計算したSNRを用いて、信号方位の誤差分散である方位誤差分散σ cosφを推定する。なお、信号方位の誤差分散は、信号方位に関する分散の例である。方位誤差分散σ cosφは、目標追尾処理部10が追尾処理を行う際のサンプリングの数を例えば無限大にすることなどにより、平滑値が、目標が実際に位置する方位と一致するような場合における、上述の分散σθ (t)の収束値に相当する。方位誤差分散計算部18は、時系列で方位誤差分散を示す情報を始点終点設定部12に出力する。当該時系列で方位誤差分散を示す情報も、分散時系列情報と記載する。
【0145】
方位誤差分散の推定には、Cramer-Rao (Lower) Boundを用いることができる。例えば、直線アレイを用いた従来の整相処理が行われた場合には、当該方位誤差分散σ cosφは、以下に示す数21式から計算することができる。
【0146】
【数21】
【0147】
ここで、φは、直線アレイの軸を基準にした、信号が到来した角度である。数21式におけるSNRはリニアスケールのものである。λは信号の波長である。L は実効開口長であって、以下に示す数22式から計算できるものである。
【0148】
【数22】
【0149】
ここで、pは、直線アレイにおける受波器の位置であり、Mは受波器の総数である。なお、数21式では、SNRを無限大とした場合、方位誤差分散σ cosφは0となる。しかし、方位誤差分散σ cosφは、受波器の位置の誤差等のその他の誤差により、0とはならない。当該その他の誤差の影響による誤差分散をσ otherとし、当該その他の誤差が、整相処理によるパワーに関係する誤差とは無相関と考える場合には、以下に示す数23式が用いられる場合が多い。
【0150】
【数23】
【0151】
実施の形態3における始点終点設定部12は、実施の形態1における分散時系列情報に代えて、実施の形態3における方位誤差分散計算部18が推定した方位誤差分散を、始点方位と終点方位の設定処理において用いる。また、実施の形態3における始点終点設定部12は、実施の形態1における分散許容閾値に代えて、方位誤差分散許容閾値を始点方位と終点方位の設定処理において用いる。なお、方位誤差分散許容閾値とは、許容される最大の方位誤差分散の値を指し、閾値として用いられるものである。方位誤差分散許容閾値は、他の構成要素または目標運動解析装置1のユーザにより入力されるものでもよいし、始点終点設定部12に予め記憶されているものでもよい。なお、方位誤差分散許容閾値は、許容閾値の例である。
【0152】
図25は、実施の形態3に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。なお、図25では、図4および図12等と同様に、処理を示す内容は、四角形で囲まれた部分に示され、処理に用いられる情報、または、処理において出力される情報は、四角形で囲まれない部分に示されている。また、実線で示される矢印は、処理の流れを示し、当該矢印が向く方向に処理が移行する。一方、破線で示される矢印のうち、情報を示す部分から、処理を示す部分に向かう矢印は、当該処理において当該情報が用いられることを示し、処理を示す部分から、情報を示す部分に向かう矢印は、当該処理から当該情報が得られることを示す。
【0153】
ステップS60において目標追尾処理部10は、観測装置2から取得したパワー時系列情報に基づいて、目標の追尾処理を行い、方位時系列情報を生成する。ステップS61において信号雑音比計算部17は、目標追尾処理部10を介して観測装置2から取得したパワー時系列情報と、目標追尾処理部10から取得した方位時系列情報とを用いて、信号方位のSNRを求める。なお、信号雑音比計算部17は、通信機能を有するものでもよく、観測装置2からパワー時系列情報を直接取得してもよい。
【0154】
ステップS62において方位誤差分散計算部18は、信号雑音比計算部17が求めたSNRから方位誤差分散を計算する。
【0155】
ステップS63において始点終点設定部12は、図12図14を参照して説明した設定処理であって、分散を方位誤差分散、分散許容閾値を方位誤差分散許容閾値とした設定処理を実行する。以降のステップS64~ステップS66における各処理は、実施の形態1におけるステップS13~ステップS15における各処理と同様であるため、説明を省略する。
【0156】
なお、実施の形態3に係る目標運動解析装置3は、上記実施の形態における目標運動解析装置1と同様に、観測装置2から信号の周波数を取得してもよい。この場合において目標追尾処理部10は、上記実施の形態1と同様、周波数時系列情報を生成してもよいし、観測装置2から周波数時系列情報を取得してもよい。始点終点設定部12は、始点tstartおよび終点tendと、始点方位および終点方位とを設定する以外にも、更に、始点tstartにおける周波数と、終点tendにおける周波数とを設定してもよい。
【0157】
実施の形態3における分散計算部11は、信号方位のSNRを計算する信号雑音比計算部17と、当該SNRを用いて信号方位に関する分散を計算する方位誤差計算部と、を有し、当該信号方位に関する分散は、信号方位の誤差分散である。これにより、始点終点設定部12が始点tstartと終点tendとを設定する際に用いるものが、分散を求める際の時間幅に依存しない方位誤差分散となることから、目標運動解析装置3は、時間幅の設定の仕方によって目標運動諸元の解析結果に変動が生じてしまう事態を回避できるようになり、安定した解析を行うことができるようになる。
【0158】
実施の形態4.
実施の形態2における始点終点設定部12は、方位時系列情報等の時系列の情報を用いずに、各時刻tにおける、分散が許容閾値以下の時刻推定方位情報を蓄積することなどにより、始点tstartの再設定のための処理を省き、また、同じ時刻推定方位情報を用いての再度の処理を省くものであった。これにより、実施の形態2に係る目標運動解析装置1は、実施の形態1に係る目標運動解析装置1に比べ処理量の低減を図ることができるものだった。一方、実施の形態3においては、分散計算部16が、分散を求める際における時間幅に依存しない方位誤差分散を計算し、始点終点設定部12が、始点方位および終点方位等の設定の際に当該方位誤差分散を用いることで安定的に設定を行えるものであった。しかし、上述の実施の形態における目標運動解析装置1および目標運動解析装置3は、これらのような処理量の低減と、設定処理の安定との両立を図ることができないものであった。しかし、実施の形態4に係る目標運動解析装置3は、これらの両立を図るものである。以下、実施の形態4に係る目標運動解析装置3について説明する。なお、以下では、実施の形態4における構成要素のうち、上述の実施の形態における構成要素と同じ構成要素については同様の符号を付す。また、上述の実施の形態における構成内容と同じ構成内容、および、上述の実施の形態における機能と同じ機能などについては、特段の事情がない限り、説明を省略する。
【0159】
実施の形態4に係る目標運動解析装置3は、上記実施の形態3に係る目標運動解析装置3と同様に、図24で例示される。実施の形態4における目標追尾処理部10は、実施の形態2における目標追尾処理部10と同様に、始点終点設定部12に対して、追尾処理における時刻t毎の時刻推定方位情報を出力する。また、実施の形態4における目標追尾処理部10は、実施の形態3における目標追尾処理部10が信号雑音比計算部17に方位時系列情報を出力することに代えて、時刻推定方位情報を出力する。
【0160】
信号雑音比計算部17は、実施の形態3と同様に、各時刻tの時刻推定方位情報と、整相出力処理によるパワーの値の分布とを用いて、各時刻tの信号方位のSNRを計算する。方位誤差分散計算部18は、実施の形態3の場合と同様に、信号雑音比計算部17が計算した各時刻tのSNRを用いて、信号方位の誤差分散である方位誤差分散σ cosφを推定する。
【0161】
実施の形態4における始点終点設定部12は、目標追尾処理部10から時刻推定方位情報を取得し、分散計算部16から各時刻tにおける方位誤差分散を取得する。そして、始点終点設定部12は、実施の形態2における分散に代え、方位誤差分散を始点方位と終点方位の設定処理において用いる。また、始点終点設定部12は、実施の形態2における分散許容閾値に代え、方位誤差分散許容閾値を始点方位と終点方位の設定処理において用いる。
【0162】
図26は、実施の形態4に係る目標運動解析装置による処理の流れを模式的に示す図である。なお、図26では、図4および図12等と同様に、処理を示す内容は、四角形で囲まれた部分に示され、処理に用いられる情報、または、処理において出力される情報は、四角形で囲まれない部分に示されている。また、実線で示される矢印は、処理の流れを示し、当該矢印が向く方向に処理が移行する。一方、破線で示される矢印のうち、情報を示す部分から、処理を示す部分に向かう矢印は、当該処理において当該情報が用いられることを示し、処理を示す部分から、情報を示す部分に向かう矢印は、当該処理から当該情報が得られることを示す。
【0163】
ステップS70において目標追尾処理部10は、観測装置2から取得したパワーに基づいて、目標の追尾処理を行い、時刻tにおける推定方位を抽出し、当該時刻tと当該推定方位情報とを含む時刻推定方位情報を、始点終点設定部12と信号雑音比計算部17とに出力する。
【0164】
ステップS71において信号雑音比計算部17は、目標追尾処理部10を介して観測装置2から取得したパワーと、目標追尾処理部10から取得した時刻推定方位情報とを用いて、信号方位のSNRを求める。なお、信号雑音比計算部17は、通信機能を有するものでもよく、観測装置2からパワーを直接取得してもよい。
【0165】
ステップS72において方位誤差分散計算部18は、信号雑音比計算部17が求めたSNRから方位誤差分散を計算する。
【0166】
ステップS73において始点終点設定部12は、図22および図23を参照して説明した設定処理であって、分散を方位誤差分散、分散許容閾値を方位誤差分散許容閾値とした設定処理を実行する。以降のステップS74~ステップS76における各処理は、実施の形態1におけるステップS13~ステップS15における各処理と同様であるため、説明を省略する。
【0167】
なお、実施の形態4に係る目標運動解析装置3は、観測装置2から信号の周波数を取得してもよい。そして、目標追尾処理部10は、時刻tにおける周波数f(t)を始点終点設定部12に出力し、始点終点設定部12は、始点tstartにおける周波数と、終点tendにおける周波数とを設定してもよい。
【0168】
実施の形態4においては、数5式で示される、時間幅に依存する分散に代えて、数21式で示される方位誤差分散が、始点tstartおよび終点tendの設定の際に用いられる。また、始点終点設定部12は、信号方位に関する分散が許容閾値以下となる時刻を示す時刻推定方位情報を蓄積して記憶し、記憶した複数の時刻推定方位情報の各々が示す時刻のうち最も早い時刻、または、追尾処理の開始時刻tを始点tstartとして設定すると共に、複数の時刻推定方位情報の各々が示す時刻のうち最も遅い時刻、または、追尾処理における最新時刻tを終点tendとして設定する。これらにより、目標運動解析装置1は、目標運動諸元の解析を安定的に実行可能となると共に、目標運動諸元の解析における処理量の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0169】
1、3 目標運動解析装置、2 観測装置、10 目標追尾処理部、11、16 分散計算部、12 始点終点設定部、13 第1航跡推定部、14 パワー積分計算部、15 第2航跡推定部、17 信号雑音比計算部、18 方位誤差分散計算部、t 開始時刻、t 最新時刻、t、t 時刻、tstart 始点、tend 終点。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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