(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】スロットアンテナ装置、通信システム、及びスロットアンテナ装置における放射角度の調整方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/22 20060101AFI20231024BHJP
H01Q 19/06 20060101ALI20231024BHJP
H01Q 3/14 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01Q13/22
H01Q19/06
H01Q3/14
(21)【出願番号】P 2020040153
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知紀
(72)【発明者】
【氏名】木村 重一
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】大橋 洋二
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-309275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/10
H01Q 13/20
H01Q 19/06
H01Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路と、
前記導波路の側壁に設けられるスロットと、
前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材と
を含む、スロットアンテナ装置。
【請求項2】
前記誘電部材は、前記第1区間と前記第2区間とでは、比誘電率が同一で厚さが異なる、請求項1記載のスロットアンテナ装置。
【請求項3】
前記誘電部材の前記第2区間における厚さは、前記第1区間における厚さよりも厚い、請求項2記載のスロットアンテナ装置。
【請求項4】
前記誘電部材は、前記第2区間を2つ有し、当該2つの第2区間は前記第1区間の両側に位置し、前記第2区間における前記誘電部材の厚さは、前記第1区間における前記誘電部材の厚さよりも厚い、請求項2記載のスロットアンテナ装置。
【請求項5】
前記第2区間における前記誘電部材の厚さは、前記第1区間から離れるに従って厚くなる、請求項3又は4記載のスロットアンテナ装置。
【請求項6】
前記スロットは、前記導波路の延在方向に沿って設けられた複数のスロットを含むスロットアレイアンテナであり、前記第2区間における前記誘電部材の厚さは、前記スロットアレイアンテナに含まれる前記複数のスロットの各々で異なる、請求項5記載のスロットアンテナ装置。
【請求項7】
前記誘電部材の前記第2区間は、前記第1区間から離れるに従って厚くなるように傾斜した傾斜部である、請求項6記載のスロットアンテナ装置。
【請求項8】
前記誘電部材は、前記第2区間に対して前記第1区間とは反対側に設けられ、前記第1区間及び前記第2区間と同一の比誘電率を有し、前記第2区間よりも厚さが厚い第3区間をさらに有する、請求項3乃至7のいずれか一項記載のスロットアンテナ装置。
【請求項9】
前記誘電部材は、前記第1区間と前記第2区間では、厚さが同一で比誘電率が異なる、請求項1記載のスロットアンテナ装置。
【請求項10】
前記誘電部材の前記第2区間における比誘電率は、前記第1区間における比誘電率よりも大きい、請求項9記載のスロットアンテナ装置。
【請求項11】
前記誘電部材は、前記第2区間を2つ有し、当該2つの第2区間は前記第1区間の両側に位置し、前記第2区間における前記誘電部材の比誘電率は、前記第1区間における前記誘電部材の比誘電率よりも大きい、請求項9記載のスロットアンテナ装置。
【請求項12】
前記第2区間における前記誘電部材の比誘電率は、前記第1区間から離れるに従って大きくなる、請求項10又は11記載のスロットアンテナ装置。
【請求項13】
前記スロットは、前記導波路の延在方向に沿って設けられた複数のスロットを含むスロットアレイアンテナであり、前記第2区間における前記誘電部材の比誘電率は、前記スロットアレイアンテナに含まれる前記複数のスロットの各々で異なる、請求項12記載のスロットアンテナ装置。
【請求項14】
前記誘電部材は、前記第2区間に対して前記第1区間とは反対側に設けられ、前記第1区間及び前記第2区間と同一の厚さを有し、前記第2区間よりも比誘電率が大きい第3区間をさらに有する、請求項10乃至13のいずれか一項記載のスロットアンテナ装置。
【請求項15】
前記誘電部材の前記第2区間は、前記第1区間から離れるに従って、比誘電率が大きくなる、又は、厚さが厚くなる、請求項1記載のスロットアンテナ装置。
【請求項16】
基地局と、
前記基地局の信号入出力端子に接続される導波路と
を含む、通信システムであって、
前記導波路は、
前記導波路の側壁に設けられるスロットと、
前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材と
を有する、通信システム。
【請求項17】
導波路と、
前記導波路の側壁に設けられるスロットと、
前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材と
を含む、スロットアンテナ装置における放射角度の調整方法であって、
前記誘電部材をスライドさせて前記第1スライド位置及び前記第2スライド位置のいずれか一方に位置させる、スロットアンテナ装置における放射角度の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットアンテナ装置、通信システム、及びスロットアンテナ装置における放射角度の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、同一表面に所定の間隔で電磁波を放射する複数のスロットを具えた誘電体導波管、それらのスロットに対向する位置にそれぞれスルーホールを具えたプリント基板、およびそれらのスロットに対向する位置にそれぞれ貫通孔を具えた金属板からなる誘電体導波管スロットアレイアンテナがある。上記複数のそれぞれのスロットに近接してスロットが形成され、当該スロットに対向する位置のプリント基板にそれぞれスルーホールが、金属板にそれぞれ貫通孔が形成されたことを特徴とする(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、中空導体に電波を漏洩させるための貫通孔を長手方向に間隔を置いて形成すると共に前記中空導体の表面には長手方向に交互に凹凸を形成した波付漏洩導波管において、前記貫通孔の間隔及び前記凹凸のピッチのいずれか一方又は両方を変化させたことを特徴とする波付漏洩導波管がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、スロット板と誘電体板が一体化され、誘電体板に傾斜角を持たせることによって、放射指向性主ビームのチルト角θを補正するスロットアレーアンテナがある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-217864号公報
【文献】特開2000-068733号公報
【文献】特開2004-147169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、いずれの文献も複数のスロットが設けられる導波管を用いたスロットアンテナ装置において、スロットが電波を放射する角度を可変的に設定することは開示していない。
【0007】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、電波の放射角度を可変的に設定可能なスロットアンテナ装置、通信システム、及びスロットアンテナ装置における放射角度の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願が開示するスロットアンテナ装置は、導波路と、前記導波路の側壁に設けられるスロットと、前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本願が開示する電波の放射角度を可変的に設定可能なスロットアンテナ装置、通信システム、及びスロットアンテナ装置における放射角度の調整方法の1つの態様によれば、スロットが電波を放射する角度を可変的に設定することができるので、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】通信システム300の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】通信システム300を配備したオフィスルーム500を示す図である。
【
図4】実施の形態のスロットアンテナ装置400を示す図である。
【
図5】スロットアンテナ装置400の分解図である。
【
図6】スロットアンテナ装置400を2方向から示す図である。
【
図7】スロットアレーアンテナ411を示す図である。
【
図8】スロットアンテナ装置400の動作を説明する図である。
【
図9】スロットアンテナ装置400の動作を説明する図である。
【
図10】4つのスロットアレーアンテナ411A~411Dがある場合の動作を示す図である。
【
図11】実施の形態の変形例のスロットアンテナ装置400Sを示す図である。
【
図12】実施の形態の変形例のスロットアンテナ装置400Mを示す図である。
【
図13】スロットアンテナ装置400Mの動作を説明する図である。
【
図14】スロットアンテナ装置400Mの動作を説明する図である。
【
図15】実施の形態の変形例のスロットアンテナ装置400M2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のスロットアンテナ装置、通信システム、及びスロットアンテナ装置における放射角度の調整方法を適用した実施の形態について説明する。
【0012】
<実施の形態>
図1は、通信システム300の構成の一例を示すブロック図である。通信システム300は、スロットアンテナ装置100及びeNodeB(evolved Node B)200を含む。通信システム300は、例えば、セルラー方式を採用し、無線通信を行うシステムである。
【0013】
eNodeB200は、基地局の一例であり、BBU(Base Band Unit)210、RRH(Remote Radio Head)220A、220B、及び同軸導波管変換器230を有する。eNodeB200は、光ファイバを介してコアネットワーク500に接続されている。コアネットワーク500は、大容量の通信回線であり、基幹回線網又はバックボーンの一例である。
【0014】
BBU210は、ベースバンド処理を行う装置である。BBU210は、eNodeB200内に設けられており、光ファイバを介してRRH220A、220Bに接続されている。
【0015】
RRH220A、220Bは、無線装置である。RRH220A、220Bは、1つのeNodeB200内に複数設けられており、
図1には2つのRRH220A、220Bを示す。RRH220A、220Bは、同軸導波管変換器230を介してスロットアンテナ装置100の導波管110A、110Bにそれぞれ接続されている。導波管110A、110Bは、導波路の一例であり、金属製である。
【0016】
なお、RRH220A、220Bを特に区別しない場合には、単にRRH220と称す。また、導波管110A、110Bを特に区別しない場合には、単に導波管110と称す。
【0017】
同軸導波管変換器230は、RRH220A、220B側の同軸ケーブルと、スロットアンテナ装置100の導波管110A、110Bとをそれぞれ接続しており、同軸ケーブルと導波管110A、110Bとの間で電力の変換を双方向に行うことが可能な変換器である。
【0018】
スロットアンテナ装置100は、導波管110A、110Bを含む。導波管110Aにはスロット111(111A~111C)が設けられている。また、ここでは導波管110Bのスロットを省略するが、導波管110Bも同様のスロットを有する。また、一例として、導波管110Aが3つのスロット111(111A~111C)を有する形態を示すが、スロット111の数はこれに限定されるものではない。
【0019】
スロット111Aは、RRH220Aに最も近く、スロット111Cは、RRH220Aから最も離れている。以下ではスロット111A~111Cを特に区別しない場合には、単にスロット111と称す。
【0020】
導波管110は、同軸導波管変換器230を介してRRH220と接続されており、スロット111A~111Cは、導波管110の内部を伝搬する電波を導波管110の外部に放射し、セルラー方式で無線通信が可能な通信エリアを提供する。
【0021】
UE(User Equipment)10は、通信エリア内でスロット111A~111Cから放射される電波を受信し、導波管110及びeNodeB200を介してコアネットワーク500との間で双方向にデータ通信が可能である。
【0022】
スロットアンテナ装置100は、スロット111A~111Cの各々の電波の放射量を可変的に設定可能な構成とすることができる。このようなスロットアンテナ装置100の一例については、
図3を用いて後述する。電波の放射量は、電波の強度であり、通信エリアの大きさを規定する。
【0023】
なお、UE10は、例えば、PC(Personal Computer)、タブレットコンピュータ、スマートフォン端末機、及び、その他のセルラー方式に対応して無線通信を行える装置である。
【0024】
また、ここでは通信システム300がセルラー方式である形態について説明するが、例えば無線LAN(Local Area Network)方式であってもよい。無線LAN方式の場合は、eNodeB200の代わりに、AP(Access Point)を含み、コアネットワーク500の代わりにインターネットに接続し、UE10と同様の端末がデータ通信を行えばよい。このような無線LAN方式における端末をステーションと称してもよい。
【0025】
図2は、通信システム300を配備したオフィスルーム500の一例を示す図である。
図2には、オフィスルーム500のフロア(床)500Aに、棚5、デスク(机)6、チェア(椅子)7、パーティション8、大型モニタ9等が配置されるとともに、デスク6の上にPC10Aが配置されており、従業員が働いている様子を示す。
【0026】
BBU210は、一例として棚5の内部に収納されており、RRH220Aは、デスク6の内部に収納されており、RRH220Bは、天井500Bの裏に配置されている。
図2では、BBU210とRRH220A、220Bを接続する光ファイバと、同軸導波管変換器230(
図1参照)を省略する。なお、RRH220Aは、フロア500Aの下に設けられていてもよい。
【0027】
RRH220Aに接続される導波管110Aは、向かい合うデスク6同士の間に設けられるパーティション8の縁に沿ってコの字型に設けられており、スロット111A~111Cを有する。スロット111A~111Cは、デスク6に向けて電波を放射し、通信エリア50(50A~50C)をそれぞれ提供する。デスク6の上にはPC10Aが配置され、スロット111A~111Cから放射される電波を通じて無線通信を行えるようになっている。なお、導波管110Aは、デスク6の上面に埋め込まれる形で設けられていてもよく、この場合にはスロット111A~111Cは、デスク6の上面から表出するように設ければよい。
【0028】
スロット111A~111Cは、例えば、デスク6で作業を行う従業員のひとりひとりに対して1つずつ割り当てられる。このため、スロット111A~111Cが配置される間隔は、デスク6における従業員の作業スペース同士の間隔に相当する。
【0029】
このような間隔でのスロット111A~111Cの配置は、一般的なスロットアンテナにおける複数のスロット同士の間隔(典型的には通信周波数における波長の半波長から1波長程度)とは大きく異なり、10波長以上離れていることが望ましい。10波長以上離れていると、隣り合うスロット111A~111Cから放射される電波同士は、互いに殆ど影響を及ぼさなくなり、互いに独立した通信エリア50A~50Cを得ることが可能になる。
【0030】
また、RRH220Bに接続される導波管110Bは、天井500Bの裏に配置されており、導波管110Bのスロット111Aは、天井500Bに表出している。導波管110Bのスロット111Aは、大型モニタ9に向けて電波を放射氏、通信エリア50を提供する。大型モニタ9は、導波管110Bのスロット111Aから放射される電波による通信エリア50内に配置されており、無線通信を行えるようになっている。大型モニタ9は、導波管110Bのスロット111Aによる通信エリア50内において無線通信で受信したデータを表示する。
【0031】
このように、通信システム300は導波管110を含む。導波管110は、伝送損失が低いという利点があり、特に高い周波数帯域(例えば、ミリ波帯)で伝送を行う場合に非常に有利である。これは、ミリ波帯のように高い周波数帯域で伝送損失が非常に大きくなる同軸ケーブルに比べて導波管110が有利な点である。ここで、ミリ波帯とは、例えば、約30GHzから約300GHzの周波数帯域である。このような帯域を使うセルラー通信としては、例えば5G(Fifth Generation)がある。5Gでは、28GHz帯、39GHz帯等が用いられる。また、WiFi方式では、IEEE802.11ad(WiGig)による60GHz帯がある。なお、通信システム300は、ミリ波帯での通信用途に限られるものではなく、ミリ波帯以外の帯域での通信用途に用いることができる。
【0032】
図3は、導波管110の構成を示す図である。ここでは、XYZ直交座標系を用いて説明する。導波管110は、方形導波管であり、延在方向(X方向)に沿ってスロット111A~111Cが設けられている。導波管110の延在方向(X方向)に垂直なYZ平面に平行な断面形状は、Y方向の短辺とZ方向の長辺とを有する矩形である。すなわち、
図3には、導波管110の長辺側の側面(側壁)を示す。
【0033】
スロット111A~111Cは、導波管110の長辺側の側面(側壁)に設けられ、導波管110の延在方向(X方向)に長手方向を有する矩形状の開口部である。ただし、スロット111A~111Cの開口形状は、矩形状に限られず、長辺又は短辺が少し湾曲した形状であってもよい。また、一例として、導波管110Aが3つのスロット111(111A~111C)を有する形態を示すが、スロット111の数はこれに限定されるものではない。
【0034】
スロット111A~111Cの長辺方向の長さは、スロットアンテナ装置100の通信周波数における波長の約1/2(約半波長)であり、短辺方向の幅は、放射特性等を考慮して適切な幅に設定すればよい。
【0035】
スロット111Aは、導波管110のZ方向の幅の中央から少し-Z方向にオフセットした位置に設けられ、スロット111B、111Cの順に、導波管110のZ方向の幅の端側(-Z方向の端側)にオフセットする位置に設けられている。
【0036】
図4は、実施の形態のスロットアンテナ装置400を示す図である。
図5は、スロットアンテナ装置400の分解図である。
図6は、スロットアンテナ装置400を2方向から示す図である。ここでは、XYZ直交座標系を用いて説明する。
【0037】
スロットアンテナ装置400は、導波管410及び誘電部材420を含む。スロットアンテナ装置400は、スロットアンテナ装置100(
図1参照)の代わりに、通信システム300(
図1参照)に利用可能である。
【0038】
導波管410は、導波管110と同様に、伝送損失が低いという利点があり、特に高い周波数帯域(例えば、ミリ波帯)で伝送を行う場合に非常に有利である。これは、ミリ波帯のように高い周波数帯域で伝送損失が非常に大きくなる同軸ケーブルに比べて導波管410が有利な点である。
【0039】
導波管410は、方形導波管であり、延在方向(X方向)に沿ってスロット1~4が設けられている。スロット1~4は、スロットアレーアンテナ411を構築する。導波管410の延在方向(X方向)に垂直なYZ平面に平行な断面形状は、Y方向の短辺とZ方向の長辺とを有する矩形である。
【0040】
ここで、スロットアレーアンテナ411について、
図7を用いて説明する。
図7は、スロットアレーアンテナ411の一例を示す図である。
【0041】
スロットアレーアンテナ411は、スロット1~4を有する。スロット1~4の各々は、のスロット111(
図3参照)と同じでもよく、長辺方向(X方向)の長さは、スロットアンテナ装置400の通信周波数における管内波長λgの約1/2(約λg/2)であり、短辺方向(Z方向)の幅は、放射特性等を考慮して適切な幅に設定すればよい。なお、管内波長λgは、導波管410の内部を伝搬する電波の波長である。
【0042】
また、スロット1及びスロット3のX方向における中心同士の間隔L13と、スロット2及びスロット4のX方向における中心同士の間隔L24とは、スロットアンテナ装置400の通信周波数における自由空間の波長λの1/2(λ/2)以上であればよい。また、
図7に小文字のlで示す長さlは、1つのスロットアレーアンテナ411のX方向の長さであり、スロットアレーアンテナ411を複数設ける場合には、
図7に示すスロットアレーアンテナ411の隣に位置する同様のスロットアレーアンテナ411は、長さlの区間の隣に位置する長さlの区間に設けられる。長さl=2λである。
【0043】
ここで、導波管410に電波が矢印Aで示すように-X方向側から+X方向側に伝搬することとする。スロット1~4の放射強度を等しくするには、最も上流側にあるスロット1の導波管410との結合を最も小さくし、最も下流側にあるスロット1の導波管410との結合を最も大きくすればよい。
【0044】
導波管410のZ方向の幅の中心を通る中心軸Cに対して、スロット1及び3は+Z方向側に位置し、スロット2及び4は-Z方向側に位置する。スロット1~4について、Z方向において近い方の導波管410の端から、スロット1~4の各々のZ方向の中心までの距離をそれぞれd1~d4とする。
【0045】
距離d1及びd3は、導波管410の+Z方向側の端部からの距離であり、距離d2及びd4は、導波管410の-Z方向側の端部からの距離である。導波管410では、Z方向の幅の中心からオフセットするほどスロット1~4の各々の結合が強くなる。このため、d1>d2>d3>d4が成り立つ。
【0046】
また、スロット1~4から放射される電波の位相は、λ/2ずつずれる。このような4つのスロット1~4から放射される電波は、1つのビーム状の電波となって放射される。なお、ここでは、スロットアレーアンテナ411が4つのスロット1~4を有する形態について説明するが、スロットアレーアンテナ411が有するスロットの数は、2つ以上あれば幾つであってもよい。
【0047】
次に、
図4乃至
図6を用いて、導波管410及び誘電部材420について説明する。
【0048】
導波管410は、XY平面に平行な側面に、ガイドレール415を有する。ガイドレール415は、+Z方向側と-Z方向側の両方の側面に設けられている。ガイドレール415は、YZ平面に平行な断面が矩形状でX方向に延在するレールであり、一例として、導波管410のX方向における中心から長さ5lの区間にわたって延在している(
図6参照)。ガイドレール415は、一例として金属製又は絶縁体製である。
【0049】
導波管410の側面のY方向におけるガイドレール415の位置は、どのような位置であってもよいが、
図4乃至
図6では、導波管410の側面のY方向の幅の中心よりも+Y方向側に位置している。導波管410の側面のY方向の幅の中心よりも+Y方向側に位置している方が、誘電部材420がより安定的にX方向にスライド可能になるからである。ガイドレール415のY方向における位置は、-X方向側の端部から+X方向側の端部まで一定である。
【0050】
誘電部材420は、基部421、傾斜部422、凹部423、及び溝部424を有する。誘電部材420は、全体が一定の(均等な)比誘電率を有する誘電体製の部材である。誘電部材420の比誘電率は、1よりも大きく、より具体的には空気の比誘電率よりも大きい。
【0051】
基部421は、誘電部材420の第1区間の一例である。基部421は、Y方向の厚さが最も薄い部分であり、厚さは一定である。基部421の±X方向側には傾斜部422が設けられており、傾斜部422の-Y方向側の面は、傾斜している。
【0052】
傾斜部422は、誘電部材420の第2区間の一例である。傾斜部422のY方向の厚さは、一例として、基部421からX方向に離れるに従って線形的に増大している。基部421と、2つの傾斜部422とのX方向の長さは、スロットアレーアンテナ411のX方向の長さlに等しい。
【0053】
凹部423は、誘電部材420の+Y方向側から-Y方向側に凹むように形成されており、誘電部材420の-X方向側の端部から+X方向側の端部まで延在している。凹部423の内寸は、導波管410の外寸に合わせられている。
【0054】
凹部423の±Z方向側の内壁には、溝部424が設けられている。溝部424は、ガイドレール415に合わせた形状を有し、誘電部材420の-X方向側の端部から+X方向側の端部まで延在している。
【0055】
溝部424にガイドレール415を嵌め込んだ状態で導波管410を跨ぐように誘電部材420を取り付ければ、誘電部材420は、導波管410に対してX方向にスライド可能である。
【0056】
ここで、
図6に加えて
図8及び
図9を用いて、スロットアンテナ装置400におけるビームの放射方向を可変的に設定する方法について説明する。
図8及び
図9は、スロットアンテナ装置400の動作を説明する図である。
【0057】
図6に示すように基部421がスロットアレーアンテナ411を覆っているときは、誘電部材420がスロット1~4を覆う部分の厚さはすべて等しいため、
図6の上側の図に矢印で示すように、ビームは-Y方向に放射される。
【0058】
また、
図6に示す状態から誘電部材420を-X方向側に長さlだけスライドさせると、
図8に示すように+X方向側の傾斜部422がスロットアレーアンテナ411を覆う状態になる。
【0059】
この状態では、誘電部材420がスロット1~4を覆う部分の厚さは、スロット1が最も薄くなり、スロット4が最も厚くなる。これは、スロット1~4から放射される電波が誘電部材420の内部を通過する距離が異なることを意味する。誘電体の内部では、波長の短縮効果が生じ、誘電部材420が厚い部分ほど波長が短縮されるため、スロット1から放射される電波が最も速くなり、スロット4から放射される電波が最も遅くなる。このため、スロット1~4から放射される電波が合成されて生じるビームは、
図8の上側の図に示すように、+X方向に偏向する。
【0060】
すなわち、
図8に示すように+X方向側の傾斜部422がスロットアレーアンテナ411を覆う状態にすると、スロットアレーアンテナ411から出力されるビームの放射角度を+X方向側に調整することができる。
【0061】
また、
図6に示す状態から誘電部材420を+X方向側に長さlだけスライドさせると、
図9に示すように-X方向側の傾斜部422がスロットアレーアンテナ411を覆う状態になる。
【0062】
この状態では、誘電部材420がスロット1~4を覆う部分の厚さは、スロット1が最も厚くなり、スロット4が最も薄くなる。波長の短縮効果によって、スロット1から放射される電波が最も遅くなり、スロット4から放射される電波が最も速くなる。このため、スロット1~4から放射される電波が合成されて生じるビームは、
図9の上側の図に示すように、-X方向に偏向する。
【0063】
すなわち、
図9に示すように-X方向側の傾斜部422がスロットアレーアンテナ411を覆う状態にすると、スロットアレーアンテナ411から出力されるビームの放射角度を-X方向側に調整することができる。
【0064】
図10は、4つのスロットアレーアンテナ411A~411Dがある場合の動作を示す図である。
図10では、導波管410に4つのスロットアレーアンテナ411A~411Dが設けられており、4つのスロットアレーアンテナ411A~411Dには、誘電部材420A~420DがそれぞれX方向可能に設けられていることとする。また、以下では誘電部材420A~420Dを特に区別しない場合には単に誘電部材420と称す。
【0065】
ここでは、スロットアレーアンテナ411A~411DでそれぞれPC10A~10Dに電力を供給する場合について説明する。
【0066】
スロットアレーアンテナ411A~411Dは、X方向に沿って配列されており、スロットアレーアンテナ411A~411Dの各々は、
図4乃至
図6と
図8及び
図9とに示すスロットアレーアンテナ411と同様である。
図10では、スロットアレーアンテナ411を簡略化して示す。
【0067】
また、誘電部材420A~420Dは、
図4乃至
図6と
図8及び
図9に示す誘電部材420と同様であり、それぞれ、スロットアレーアンテナ411A~411Dの放射角度を調整するために設けられている。
【0068】
また、
図10には、スロットアレーアンテナ411A~411Dが放射するビーム411A1~411D1を実線の楕円で示す。ビーム411A1~411D1は、スロットアレーアンテナ411A~411Dがそれぞれ誘電部材420A~420Dを介して放射するビームの放射範囲を示したものである。
【0069】
また、比較用に、スロットアレーアンテナ411A~411Dではなく、スロット1~4の各々と同様の1つのスロットで放射した場合のビーム1A~1Dを破線で示す。ビーム1A~1Dは、1つのスロットが誘電部材420A~420Dを介さずに放射するビームの放射範囲を示したものである。
【0070】
スロットアレーアンテナ411A~411Dと1つのスロットとで同一出力で放射した場合には、ビーム411A1~411D1とビーム1A~1Dの放射範囲を表す面積は等しくなる。また、ビーム411A1~411D1は、ビーム1A~1Dに比べて放射範囲が遠くまで及び、X方向及びZ方向のビーム幅は狭くなる。
【0071】
スロットアレーアンテナ411Aの代わりに1つのスロットで放射した場合には、PC10Aはビーム1Aの放射範囲内にあるため受電可能である。PC10Aは、スロットアレーアンテナ411Aの正面にあるため、スロットアレーアンテナ411Aで誘電部材420Aの基部421(
図6参照)を介して放射した場合には、PC10Aは受電可能である。PC10Aはビーム411A1の放射範囲の中心(中央)にあるため、誘電部材420Aの基部421を用いればよい。なお、スロットアレーアンテナ411Aの正面とは、スロットアレーアンテナ411Aに対してX方向の位置ずれが殆どないことをいう。
【0072】
スロットアレーアンテナ411Aで電力を供給すると、ビーム411A1はビーム1Aよりも放射距離が長くなり、細く収束する。PC10Aは、ビーム1Aの放射距離ではぎりぎり届く位置であるが、ビーム411A1では放射距離の略中央に位置する。このため、スロットアレーアンテナ411Aで電力を供給すると、PC10Aの位置では、1つのスロットで電力を供給する場合よりもゲインが上がり、この結果SNR(Signal to Noise Ratio)が上がって伝送レートが上昇する。
【0073】
また、PC10Bについては、スロットアレーアンテナ411Bの代わりに1つのスロットで放射した場合には、PC10Bはビーム1Bの放射範囲外にあるため受電不可能である。また、スロットアレーアンテナ411Bで放射した場合には、PC10Bはビーム411B1の正面にあり、放射範囲内に入るため、誘電部材420Bの基部421(
図6参照)を介して放射すればPC10Bは受電可能である。
【0074】
スロットアレーアンテナ411Bで電力を供給すると、ビーム411B1はビーム1Bよりも放射距離が長くなるため、PC10Bのようにスロットアレーアンテナ411Bから比較的離れた位置にあっても電力を供給することができる。
【0075】
また、PC10Cについては、スロットアレーアンテナ411Cの代わりに1つのスロットで放射した場合には、PC10Cはビーム1Cの放射範囲内にあるため受電可能である。PC10Cは、スロットアレーアンテナ411Cの正面よりも+X方向側にオフセットしているため、誘電部材420Cを-X方向側にスライドさせれば、ビーム411C1の放射角度を+X方向側に調整できるため、PC10Cは受電可能になる。
【0076】
また、PC10Dについては、スロットアレーアンテナ411Dの代わりに1つのスロットで放射した場合には、PC10Dは導波管410から比較的離れており、ビーム1Dの放射範囲外にあるため受電不可能である。PC10Dは、スロットアレーアンテナ411Dの正面よりも-X方向側にオフセットしているため、誘電部材420Dを+X方向側にスライドさせれば、ビーム411D1の放射角度を-X方向側に調整できるため、PC10Dは受電可能になる。
【0077】
このように、誘電部材420A~420Dを用いることで、スロットアレーアンテナ411A~411Dの放射角度を調整して、PC10A~10Dに電力を供給することができる。また、1つのスロットで放射した場合に比べて、スロットアレーアンテナ411A~411Dを用いることで、放射距離を稼ぐことができる。
【0078】
なお、誘電部材420A~420Dの比誘電率を4に設定した場合には、ビーム411C1及び411D1のように得られる放射角度は、-Y方向に対して±10.1度であった。ここで、-Y方向に対してXY面視で時計回りの角度が+の角度、反時計回りの角度が-の角度である。また、誘電部材420A~420Dの比誘電率を6に設定した場合には、ビーム411C1及び411D1のように得られる放射角度は、-Y方向に対して±23.3度であった。また、誘電部材420A~420Dの比誘電率を10に設定した場合には、ビーム411C1及び411D1のように得られる放射角度は、-Y方向に対して±37.2度であった。このため、誘電部材420A~420Dの比誘電率を適切な値に設定すれば、誘電部材420A~420Dをスライドさせることで、1つのスロットで放射した場合のビーム1A~1Dの全範囲をカバーすることが可能であることが確認できた。
【0079】
以上のように、誘電部材420A~420Dを用いて、誘電部材420A~420Dのスロットアレーアンテナ411A~411Dに対する位置をX方向に調整することによって、放射角度を調整することができる。誘電部材420A~420Dは、導波管410に対してX方向にスライド可能であるため、PC10A~10Dの位置に応じて誘電部材420A~420Dをスライドさせることで、容易に放射角度を変更することができる。また、PC10A~10Dの位置が変化した場合にも容易に放射角度を変更することができる。
【0080】
したがって、本実施の形態によれば、スロットが電波を放射する角度を可変的に設定することができる。
【0081】
なお、以上では、スロットアレーアンテナ411を用いる形態について説明したが、スロットアレーアンテナ411の代わりに1つのスロットを用いてもよい。特に、1つのスロットでもビーム幅が比較的狭い場合には、放射角度を調整できることは非常に有意義である。また、1つのスロットでもビーム幅が比較的狭く、放射距離が比較的長い場合にも、放射角度を調整できることは非常に有意義である。
【0082】
また、以上では、誘電部材420が2つ傾斜部422を有する形態について説明したが、傾斜部422は1つであってもよい。また、傾斜部422の代わりに、スロット1~4を覆う部分が階段状に厚さが異なる構成であってもよい。また、傾斜部422のように線形的に厚さが増大するのではなく、非線形的に厚さが増大する構成であってもよい。例えば、XY面視で湾曲したような構成であることによって、非線形的に厚さが増大する構成であってもよい。
【0083】
また、
図11に示すような構成であってもよい。
図11は、実施の形態の変形例のスロットアンテナ装置400Sを示す図である。スロットアンテナ装置400Sは、導波管410と誘電部材420Sとを含む。誘電部材420Sは、基部421、2つの傾斜部422、及び2つの傾斜部425を有する。誘電部材420Sは、
図4乃至
図6と
図7及び
図8に示す誘電部材420に、傾斜部425を追加した構成を有する。傾斜部425は、第3区間の一例であり、傾斜部422よりもさらに厚さが厚く、-Y方向側の表面のX方向に対する傾斜角度が大きく設定されている。
【0084】
このような傾斜部425がスロットアレーアンテナ411を覆うように誘電部材420Sをスライドさせれば、ビームのY方向に対する放射角度をさらに大きくすることができる。
【0085】
また、以上では、X方向において厚さが異なる誘電部材420を用いる形態について説明したが、
図12に示すような誘電部材420Mを用いてもよい。
図12は、実施の形態の変形例のスロットアンテナ装置400Mを示す図である。
【0086】
スロットアンテナ装置400Mは、導波管410と誘電部材420Mとを含む。
図12では、導波管410を簡略化して示し、ガイドレール415(
図6参照)を省略する。また、誘電部材420Mについても構造を簡略化し、誘電部材420(
図6参照)との相違について説明する。
【0087】
誘電部材420Mは、基部421Mと2つの傾斜部422Mとを有する。基部421Mは、誘電部材420Mの第1区間の一例であり、傾斜部422Mは、誘電部材420Mの第2区間の一例である。基部421Mと2つの傾斜部422MのY方向の厚さは一定である。
【0088】
基部421Mは、比誘電率がε0の部分である。また、2つの傾斜部422Mは、基部421Mから離れるに従って、一定間隔で比誘電率が増大する構成を有する。より具体的には、傾斜部422Mは、X方向に配列される4つの区間(部分)を有し、4つの区間の比誘電率は、基部421Mから離れるに従って、ε1、ε2、ε3、ε4(ε0<ε1<ε2<ε3<ε4)に設定されている。傾斜部422Mは、比誘電率に傾斜が設けられた部分である。4つの区間のX方向の長さは、長さlの1/4である。
【0089】
次に、
図12に加えて
図13及び
図14を用いてスロットアンテナ装置400Mにおける放射角度の調整について説明する。
図13及び
図14は、スロットアンテナ装置400Mの動作を説明する図である。
【0090】
図12に示すように基部421Mがスロットアレーアンテナ411を覆っているときは、誘電部材420Mがスロット1~4を覆う部分の厚さはすべて等しく、比誘電率ε
0は一定であるため、
図12の上側の図に矢印で示すように、ビームは-Y方向に放射される。
【0091】
また、
図12に示す状態から誘電部材420Mを-X方向側に長さlだけスライドさせると、
図13に示すように+X方向側の傾斜部422Mがスロットアレーアンテナ411を覆う状態になる。
【0092】
この状態では、誘電部材420Mがスロット1~4を覆う部分の比誘電率は、スロット1が比誘電率ε
1で最も小さくなり、スロット4が比誘電率ε
4で最も大きくなる。誘電体の内部では、波長の短縮効果が生じ、比誘電率が大きいほど波長が短くなるため、スロット1から放射される電波が最も速くなり、スロット4から放射される電波が最も遅くなる。このため、スロット1~4から放射される電波が合成されて生じるビームは、
図13の上側の図に示すように、+X方向に偏向する。
【0093】
すなわち、
図13に示すように+X方向側の傾斜部422Mがスロットアレーアンテナ411を覆う状態にすると、スロットアレーアンテナ411から出力されるビームの放射角度を+X方向側に調整することができる。
【0094】
また、
図12に示す状態から誘電部材420Mを+X方向側に長さlだけスライドさせると、
図14に示すように-X方向側の傾斜部422Mがスロットアレーアンテナ411を覆う状態になる。
【0095】
この状態では、誘電部材420Mがスロット1~4を覆う部分の比誘電率は、スロット1がε
4で最も大きくなり、スロット4がε
1で最も小さくなる。波長の短縮効果によって、スロット1から放射される電波が最も遅くなり、スロット4から放射される電波が最も速くなる。このため、スロット1~4から放射される電波が合成されて生じるビームは、
図14の上側の図に示すように、-X方向に偏向する。
【0096】
すなわち、
図14に示すように-X方向側の傾斜部422Mがスロットアレーアンテナ411を覆う状態にすると、スロットアレーアンテナ411から出力されるビームの放射角度を-X方向側に調整することができる。
【0097】
以上のように、比誘電率に傾斜を持たせた傾斜部422Mを有する誘電部材420Mを用いても、厚さが異なる誘電部材420を用いた場合と同様の波長の短縮効果を利用することで、ビームの放射角度を調整することができる。
【0098】
したがって、実施の形態の変形例においても、電波の放射角度を可変的に設定可能なスロットアンテナ装置400M、通信システム、及びスロットアンテナ装置400Mにおける放射角度の調整方法を提供することができる。
【0099】
なお、以上では、誘電部材420Mが2つの傾斜部422Mを有する形態について説明したが、傾斜部422Mはどちらか1つであってもよい。また、傾斜部422Mの比誘電率は、ε1からε4まで段階的に変化するのではなく、連続的に変化する構成であってもよい。
【0100】
また、
図15に示すような構成であってもよい。
図15は、実施の形態の変形例のスロットアンテナ装置400M2を示す図である。スロットアンテナ装置400M2は、導波管410と誘電部材420M2とを含む。誘電部材420M2は、基部421M、2つの傾斜部422M、及び2つの傾斜部425Mを有する。誘電部材420M2は、
図12乃至
図14に示す誘電部材420Mに、傾斜部425Mを追加した構成を有する。傾斜部425Mは、誘電部材420M2の第3区間の一例であり、傾斜部422Mよりもさらに比誘電率が高く設定されている。なお、傾斜部425MのY方向の厚さは、基部421M及び傾斜部422Mと等しい。
【0101】
傾斜部425Mの比誘電率は、傾斜部422Mに近い方から、ε5、ε6、ε7、ε8に設定されている。比誘電率がε5、ε6、ε7、ε8に設定される区間のX方向の長さは、傾斜部422Mの比誘電率がε1、ε2、ε3、ε4に設定される区間のX方向の長さと同様に、長さlの1/4である。また、比誘電率ε5、ε6、ε7、ε8は、ε4<ε5<ε6<ε7<ε8の関係を満たすように設定されている。
【0102】
このため、傾斜部422Mは、傾斜部422M及び425Mの比誘電率が基部421Mから離れるに従って段階的に増大する構成である。
【0103】
このような傾斜部425Mがスロットアレーアンテナ411を覆うように誘電部材420M2をスライドさせれば、ビームのY方向に対する放射角度をさらに大きくすることができる。
【0104】
以上、本発明の例示的な実施の形態のスロットアンテナ装置、通信システム、及びスロットアンテナ装置における放射角度の調整方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0105】
以上の実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
導波路と、
前記導波路の側壁に設けられるスロットと、
前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材と
を含む、スロットアンテナ装置。
(付記2)
前記誘電部材は、前記第1区間と前記第2区間とでは、比誘電率が同一で厚さが異なる、付記1記載のスロットアンテナ装置。
(付記3)
前記誘電部材の前記第2区間における厚さは、前記第1区間における厚さよりも厚い、付記2記載のスロットアンテナ装置。
(付記4)
前記誘電部材は、前記第2区間を2つ有し、当該2つの第2区間は前記第1区間の両側に位置し、前記第2区間における前記誘電部材の厚さは、前記第1区間における前記誘電部材の厚さよりも厚い、付記2記載のスロットアンテナ装置。
(付記5)
前記第2区間における前記誘電部材の厚さは、前記第1区間から離れるに従って厚くなる、付記3又は4記載のスロットアンテナ装置。
(付記6)
前記スロットは、前記導波路の延在方向に沿って設けられた複数のスロットを含むスロットアレイアンテナであり、前記第2区間における前記誘電部材の厚さは、前記スロットアレイアンテナに含まれる前記複数のスロットの各々で異なる、付記5記載のスロットアンテナ装置。
(付記7)
前記誘電部材の前記第2区間は、前記第1区間から離れるに従って厚くなるように傾斜した傾斜部である、付記6記載のスロットアンテナ装置。
(付記8)
前記誘電部材は、前記第2区間に対して前記第1区間とは反対側に設けられ、前記第1区間及び前記第2区間と同一の比誘電率を有し、前記第2区間よりも厚さが厚い第3区間をさらに有する、付記3乃至7のいずれか一項記載のスロットアンテナ装置。
(付記9)
前記誘電部材は、前記第1区間と前記第2区間では、厚さが同一で比誘電率が異なる、付記1記載のスロットアンテナ装置。
(付記10)
前記誘電部材の前記第2区間における比誘電率は、前記第1区間における比誘電率よりも大きい、付記9記載のスロットアンテナ装置。
(付記11)
前記誘電部材は、前記第2区間を2つ有し、当該2つの第2区間は前記第1区間の両側に位置し、前記第2区間における前記誘電部材の比誘電率は、前記第1区間における前記誘電部材の比誘電率よりも大きい、付記9記載のスロットアンテナ装置。
(付記12)
前記第2区間における前記誘電部材の比誘電率は、前記第1区間から離れるに従って大きくなる、付記10又は11記載のスロットアンテナ装置。
(付記13)
前記スロットは、前記導波路の延在方向に沿って設けられた複数のスロットを含むスロットアレイアンテナであり、前記第2区間における前記誘電部材の比誘電率は、前記スロットアレイアンテナに含まれる前記複数のスロットの各々で異なる、付記12記載のスロットアンテナ装置。
(付記14)
前記誘電部材は、前記第2区間に対して前記第1区間とは反対側に設けられ、前記第1区間及び前記第2区間と同一の厚さを有し、前記第2区間よりも比誘電率が大きい第3区間をさらに有する、付記10乃至13のいずれか一項記載のスロットアンテナ装置。
(付記15)
前記誘電部材の前記第2区間は、前記第1区間から離れるに従って、比誘電率が大きくなる、又は、厚さが厚くなる、付記1記載のスロットアンテナ装置。
(付記16)
基地局と、
前記基地局の信号入出力端子に接続される導波路と
を含む、通信システムであって、
前記導波路は、
前記導波路の側壁に設けられるスロットと、
前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材と
を有する、通信システム。
(付記17)
導波路と、
前記導波路の側壁に設けられるスロットと、
前記スロットに対して前記導波路の延在方向にスライド可能に前記導波路に装着されており、第1スライド位置で前記スロットを覆う第1区間と、前記第1スライド位置の隣の第2スライド位置で前記スロットを覆う第2区間とを有する誘電部材であって、前記第1区間と前記第2区間では、比誘電率又は厚さが異なる誘電部材と
を含む、スロットアンテナ装置における放射角度の調整方法であって、
前記誘電部材をスライドさせて前記第1スライド位置及び前記第2スライド位置のいずれか一方に位置させる、スロットアンテナ装置における放射角度の調整方法。
【符号の説明】
【0106】
100、100M1、100M2、100M3 スロットアンテナ装置
110、110M1、110M2、110M3 導波管
111、111A、111B、111C スロット
200 eNodeB
300 通信システム
400、400M スロットアンテナ装置
410 導波管
420、420M 誘電部材
421、421M 基部
422、422M傾斜部