(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】スポット溶接の可否判定装置および可否判定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/36 20060101AFI20231024BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20231024BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20231024BHJP
B25J 9/22 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B23K11/36
B23K11/11 570Z
B23K11/24 340
B25J9/22 A
(21)【出願番号】P 2020066996
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】平山 正志
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆宏
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-239957(JP,A)
【文献】特開2005-122428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/36
B23K 11/11
B23K 11/24
B25J 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをスポット溶接する溶接ロボットの動作をコンピュータ・シミュレーションすることにより溶接可否を判定する、スポット溶接の可否判定装置であって、
上記ワークの形状を模したワークモデルと上記溶接ロボットの溶接ガンの形状を模した溶接ガンモデルとを含むスポット溶接モデルにおける上記溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢について、未使用状態の2つの電極チップにより上記ワークモデルのスポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第1溶接姿勢とし、未使用状態から摩耗した摩耗状態の上記2つの電極チップにより上記ワークモデルの上記スポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第2溶接姿勢とし、未使用状態の上記2つの電極チップを上記ワークモデルの上記スポット打点から離間させたときの溶接姿勢を第3溶接姿勢としたとき、上記3つの溶接姿勢のうちの少なくとも2つの溶接姿勢のそれぞれについて上記溶接ガンモデルを仮想空間において上記2つの電極チップを通るチップ軸線を中心に回転させる場合に上記2つの電極チップを除いて上記ワークモデルとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転させることができる回転可能角度範囲を導出するシミュレーション実行部と、
上記シミュレーション実行部による実行結果に基づいて上記少なくとも2つの溶接姿勢の上記回転可能角度範囲に共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定する判定部と、
を備
え、
上記シミュレーション実行部は、上記少なくとも2つの溶接姿勢について上記回転可能角度範囲を導出する処理を、上記仮想空間において上記溶接ガンモデルの上記チップ軸線を互いに反転させた関係にある第1配置状態と第2配置状態の両方について行い、
上記判定部は、上記溶接ガンモデルの上記第1配置状態と上記第2配置状態の少なくとも一方について上記共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定する、スポット溶接の可否判定装置。
【請求項2】
上記シミュレーション実行部は、上記3つの溶接姿勢の全てについて上記回転可能角度範囲を導出する、請求項1に記載の、スポット溶接の可否判定装置。
【請求項3】
ワークをスポット溶接する溶接ロボットの動作をコンピュータ・シミュレーションすることにより溶接可否を判定する、スポット溶接の可否判定方法であって、
上記ワークの形状を模したワークモデルと上記溶接ロボットの溶接ガンの形状を模した溶接ガンモデルとを含むスポット溶接モデルにおける上記溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢について、未使用状態の2つの電極チップにより上記ワークモデルのスポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第1溶接姿勢とし、未使用状態から摩耗した摩耗状態の上記2つの電極チップにより上記ワークモデルの上記スポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第2溶接姿勢とし、未使用状態の上記2つの電極チップを上記ワークモデルの上記スポット打点から離間させたときの溶接姿勢を第3溶接姿勢としたとき、上記3つの溶接姿勢のうちの少なくとも2つの溶接姿勢のそれぞれについて上記溶接ガンモデルを仮想空間において上記2つの電極チップを通るチップ軸線を中心に回転させる場合に上記2つの電極チップを除いて上記ワークモデルとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転させることができる回転可能角度範囲を導出するシミュレーション実行ステップと、
上記シミュレーション実行ステップによる実行結果に基づいて上記少なくとも2つの溶接姿勢の上記回転可能角度範囲に共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定する判定ステップと、
を有
し、
上記シミュレーション実行ステップは、上記少なくとも2つの溶接姿勢について上記回転可能角度範囲を導出する処理を、上記仮想空間において上記溶接ガンモデルの上記チップ軸線を互いに反転させた関係にある第1配置状態と第2配置状態の両方について行うステップであり、
上記判定ステップは、上記溶接ガンモデルの上記第1配置状態と上記第2配置状態の少なくとも一方について上記共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定するステップである、スポット溶接の可否判定方法。
【請求項4】
上記シミュレーション実行ステップは、上記3つの溶接姿勢の全てについて上記回転可能角度範囲を導出するステップである、請求項
3に記載の、スポット溶接の可否判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接の可否を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体の溶接設備では、車体の溶接部位をスポット溶接するための溶接ロボットが使用されている。この種の溶接ロボットには、下記特許文献1に記載のようなスポット溶接ガンが取付けられており、この溶接ガンの2つの電極チップで溶接部位を挟み込んで抵抗溶接を行うように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、既存の溶接ロボットを使用して、新型車の車体の被溶接部をスポット溶接するとき、この車体のスポット溶接が可能であるか否かの溶接可否を予め判断する必要がある。そこで、作業者は、溶接ガンの複数の溶接姿勢のそれぞれについて、この溶接ガンとワークとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転できるか否かを確認する確認作業を行う。
【0005】
この確認作業では、実機である溶接ロボットを使用し、車体に対して溶接ガンを複数の溶接姿勢のそれぞれについてチップ軸線を中心に実際に回転させる。また、このときの溶接ガンとワークとの間の間隔を手作業で確認する。このとき、作業者は、溶接ガンを全ての溶接姿勢についてワークとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転させることができるときに、ワークのスポット溶接が可能であると判断する。一方で、作業者は、溶接ガンを少なくとも1つの溶接姿勢についてワークとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転させることができないときに、ワークのスポット溶接が不能であると判断する。
【0006】
ところが、実機である溶接ロボットを使用する場合、作業者は、上述の確認作業を溶接ガンが担当する全てのスポット打点について行うことになる。このため、確認作業に多くの時間を要するうえに、作業者負担の増加による見落とし等の発生が適正な確認の妨げになるという問題が生じ得る。とりわけ、溶接ガンの数や各溶接ガンが担当するスポット打点の数が増えると、このような問題がより顕著になる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、ワークに対するスポット溶接の可否を短時間で適正に判定するのに有効な技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
ワークをスポット溶接する溶接ロボットの動作をコンピュータ・シミュレーションすることにより溶接可否を判定する、スポット溶接の可否判定装置であって、
上記ワークの形状を模したワークモデルと上記溶接ロボットの溶接ガンの形状を模した溶接ガンモデルとを含むスポット溶接モデルにおける上記溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢について、未使用状態の2つの電極チップにより上記ワークモデルのスポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第1溶接姿勢とし、未使用状態から摩耗した摩耗状態の上記2つの電極チップにより上記ワークモデルの上記スポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第2溶接姿勢とし、未使用状態の上記2つの電極チップを上記ワークモデルの上記スポット打点から離間させたときの溶接姿勢を第3溶接姿勢としたとき、上記3つの溶接姿勢のうちの少なくとも2つの溶接姿勢のそれぞれについて上記溶接ガンモデルを仮想空間において上記2つの電極チップを通るチップ軸線を中心に回転させる場合に上記2つの電極チップを除いて上記ワークモデルとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転させることができる回転可能角度範囲を導出するシミュレーション実行部と、
上記シミュレーション実行部による実行結果に基づいて上記少なくとも2つの溶接姿勢の上記回転可能角度範囲に共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定する判定部と、
を備え、
上記シミュレーション実行部は、上記少なくとも2つの溶接姿勢について上記回転可能角度範囲を導出する処理を、上記仮想空間において上記溶接ガンモデルの上記チップ軸線を互いに反転させた関係にある第1配置状態と第2配置状態の両方について行い、
上記判定部は、上記溶接ガンモデルの上記第1配置状態と上記第2配置状態の少なくとも一方について上記共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定する、スポット溶接の可否判定装置、
にある。
【0009】
本発明の他の態様は、
ワークをスポット溶接する溶接ロボットの動作をコンピュータ・シミュレーションすることにより溶接可否を判定する、スポット溶接の可否判定方法であって、
上記ワークの形状を模したワークモデルと上記溶接ロボットの溶接ガンの形状を模した溶接ガンモデルとを含むスポット溶接モデルにおける上記溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢について、未使用状態の2つの電極チップにより上記ワークモデルのスポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第1溶接姿勢とし、未使用状態から摩耗した摩耗状態の上記2つの電極チップにより上記ワークモデルの上記スポット打点を挟み込んだときの溶接姿勢を第2溶接姿勢とし、未使用状態の上記2つの電極チップを上記ワークモデルの上記スポット打点から離間させたときの溶接姿勢を第3溶接姿勢としたとき、上記3つの溶接姿勢のうちの少なくとも2つの溶接姿勢のそれぞれについて上記溶接ガンモデルを仮想空間において上記2つの電極チップを通るチップ軸線を中心に回転させる場合に上記2つの電極チップを除いて上記ワークモデルとの間に所定値以上の隙間を確保した状態で回転させることができる回転可能角度範囲を導出するシミュレーション実行ステップと、
上記シミュレーション実行ステップによる実行結果に基づいて上記少なくとも2つの溶接姿勢の上記回転可能角度範囲に共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定する判定ステップと、
を有し、
上記シミュレーション実行ステップは、上記少なくとも2つの溶接姿勢について上記回転可能角度範囲を導出する処理を、上記仮想空間において上記溶接ガンモデルの上記チップ軸線を互いに反転させた関係にある第1配置状態と第2配置状態の両方について行うステップであり、
上記判定ステップは、上記溶接ガンモデルの上記第1配置状態と上記第2配置状態の少なくとも一方について上記共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定するステップである、スポット溶接の可否判定方法、
にある。
【発明の効果】
【0010】
上記の、スポット溶接の可否判定装置は、シミュレーション実行部と判定部を少なくとも備える。シミュレーション実行部によれば、仮想空間に溶接ガンを模して生成された溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢のうちの少なくとも2つについて回転可能角度範囲が導出される。判定部によれば、シミュレーション実行部によって導出された、少なくとも2つの溶接姿勢の回転可能角度範囲に共通範囲があるときにワークのスポット溶接が可能であると判定される。
【0011】
上記の、スポット溶接の可否判定方法は、シミュレーション実行ステップと判定ステップを少なくとも有する。シミュレーション実行ステップによれば、仮想空間に溶接ガンを模して生成された溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢のうちの少なくとも2つについて回転可能角度範囲が導出される。判定ステップによれば、ミュレーション実行ステップによって導出された、少なくとも2つの溶接姿勢の回転可能角度範囲に共通範囲があるときにワークのスポット溶接が可能であると判定される。
【0012】
ここで、溶接ガンモデルの3つの溶接姿勢はいずれも、実際の溶接ロボットの溶接ガンを使用してワークのスポット溶接を行うことを想定して、そのスポット溶接が可能であるか否かを判断する指標となる姿勢である。そこで、少なくとも2つ溶接姿勢について回転可能角度範囲に共通範囲が有るか否かを予めシミュレーションで検証することによって、1つの溶接姿勢のみで判定するのに比べて、ワークのスポット溶接が可能であるか否かの判定の信頼度を高めることができる。
【0013】
また、コンピュータ・シミュレーションを使用することによって、実機である溶接ロボットを使用して溶接ガンとワークとの間の隙間を作業者が実際に確認する場合に比べて、溶接可否の判定に要する時間を短縮することができ、しかも作業者による見落とし等の発生を防ぐことができる。とりわけ、溶接ガンの数や各溶接ガンが担当するスポット打点の数が多い場合により高い効果が得られる。
【0014】
以上のごとく、上記の各態様によれば、ワークに対するスポット溶接の可否を短時間で適正に判定するのに有効な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態1の、スポット溶接の可否判定装置と溶接ロボットの全体構成を示す図。
【
図2】実施形態1の、スポット溶接の可否判定装置のブロック図。
【
図3】
図2中のシミュレーション実行部のブロック図。
【
図4】実施形態1の、スポット溶接の可否判定方法を示すフローチャート。
【
図6】実施形態1の、スポット溶接の可否判定装置の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第1配置状態の溶接ガンモデルがワークのスポット打点に到達した様子を示す図。
【
図7】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第2配置状態の溶接ガンモデルがワークのスポット打点に到達した様子を示す図。
【
図8】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第1配置状態の溶接ガンモデルを第1溶接姿勢でチップ軸線を中心に回転させる様子を示す図。
【
図9】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第1配置状態の溶接ガンモデルを第2溶接姿勢でチップ軸線を中心に回転させる様子を示す図。
【
図10】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第1配置状態の溶接ガンモデルを第3溶接姿勢でチップ軸線を中心に回転させる様子を示す図。
【
図11】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第2配置状態の溶接ガンモデルを第1溶接姿勢でチップ軸線を中心に回転させる様子を示す図。
【
図12】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第2配置状態の溶接ガンモデルを第2溶接姿勢でチップ軸線を中心に回転させる様子を示す図。
【
図13】
図2中の表示部の画面に表示されたスポット溶接モデルにおいて、第2配置状態の溶接ガンモデルを第3溶接姿勢でチップ軸線を中心に回転させる様子を示す図。
【
図14】第1配置状態の溶接ガンモデルについて、回転可能角度範囲及び共通範囲について説明するための図。
【
図15】第2配置状態の溶接ガンモデルについて、回転可能角度範囲及び共通範囲について説明するための図。
【
図16】スポット溶接の可否判定結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0017】
上記の、スポット溶接の可否判定装置において、上記シミュレーション実行部は、上記3つの溶接姿勢の全てについて上記回転可能角度範囲を導出するのが好ましい。
【0018】
この可否判定装置によれば、溶接ガンモデルの3つ全ての溶接姿勢について回転可能角度範囲を導出してそれらの共通範囲の有無を判定することによって、ワークのスポット溶接が可能であるか否かの判定の信頼度を更に高めることができる。
【0019】
上記の、スポット溶接の可否判定装置において、上記シミュレーション実行部は、上記少なくとも2つの溶接姿勢について上記回転可能角度範囲を導出する処理を、上記仮想空間において上記溶接ガンモデルの上記チップ軸線を互いに反転させた関係にある第1配置状態と第2配置状態の両方について行い、
上記判定部は、上記溶接ガンモデルの上記第1配置状態と上記第2配置状態の少なくとも一方について上記共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定するのが好ましい。
【0020】
この可否判定装置によれば、溶接ガンモデルの第1配置状態と第2配置状態の両方について回転可能角度範囲の共通範囲の有無を判定することによって、ワークに溶接ガンを一方向からのみアクセスさせる場合のみならず、別方向からもアクセスさせる場合を想定して、ワークのスポット溶接が可能であるか否かの判定を行うことが可能になる。
【0021】
上記の、スポット溶接の可否判定方法において、上記シミュレーション実行ステップは、上記3つの溶接姿勢の全てについて上記回転可能角度範囲を導出するステップであるのが好ましい。
【0022】
この可否判定方法によれば、溶接ガンモデルの3つ全ての溶接姿勢について回転可能角度範囲を導出してそれらの共通範囲の有無を判定することによって、ワークのスポット溶接が可能であるか否かの判定の信頼度を更に高めることができる。
【0023】
上記の、スポット溶接の可否判定方法において、上記シミュレーション実行ステップは、上記少なくとも2つの溶接姿勢について上記回転可能角度範囲を導出する処理を、上記仮想空間において上記溶接ガンモデルの上記チップ軸線を互いに反転させた関係にある第1配置状態と第2配置状態の両方について行うステップであり、
上記判定ステップは、上記溶接ガンモデルの上記第1配置状態と上記第2配置状態の少なくとも一方について上記共通範囲があるときに上記ワークのスポット溶接が可能であると判定するステップであるのが好ましい。
【0024】
この可否判定方法によれば、第1配置状態と第2配置状態の両方について回転可能角度範囲の共通範囲の有無を判定することによって、ワークに溶接ガンを一方向からのみアクセスさせる場合のみならず、別方向からもアクセスさせる場合を想定して、ワークのスポット溶接が可能であるか否かの判定を行うことが可能になる。
【0025】
以下、ワークのスポット溶接にかかる、スポット溶接の可否判定装置および可否判定方法の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
この実施形態を説明するための図面において、特にことわらない限り、水平方向である第1方向を矢印Xで示し、水平方向であり且つ第1方向Xと直交する第2方向を矢印Yで示し、第1方向Xと第2方向Yの両方に直交する第3方向を矢印Zで示すものとする。また、溶接ガンのチップ軸線に沿った軸方向を矢印Dで示すものとする。
【0027】
(実施形態1)
図1に示されるように、実施形態1にかかる溶接ロボット4は、ワーク1の各部位のうち予定された被溶接部のスポット打点2にスポット溶接を施すためのものである。ワーク1は、複数の板材が予め板厚方向に重ねられることによって構成されている。この溶接ロボット4は、典型的には、車体の組み立て工程におけるスポット溶接で使用される。
【0028】
溶接ロボット4は、複数の軸を有する多関節ロボットであり、ロボットアーム先端部に溶接ガン5を備えている。この溶接ロボット4に対しては制御装置を搭載した制御盤4aが設けられており、ロボットアーム先端部の三次元座標及び向きが制御装置によって変更可能とされている。これにより、溶接ガン5を所望の位置及び姿勢に設定することができる。
【0029】
溶接ガン5は、ワーク1の被溶接部のスポット打点2を挟み込んで狭圧した状態で溶接電流が供給される電極チップセットを有し、この電極チップセットは、2つの電極チップ6,7によって構成されている。電極チップ6は、ワーク1を挿入するための空間8を隔てて電極チップ7と同軸で配置されている。電極チップ7は、アクチュエータ(図示省略)によって2つの電極チップ6,7を通る仮想のチップ軸線A上を往復動作可能に構成されている。本構成によれば、2つの電極チップ6,7の間の空間8の軸方向Dの電極間距離を適宜に変更することができる。
【0030】
図2に示されるように、実施形態1の、スポット溶接の可否判定装置(以下、単に「可否判定装置」という。)10は、ワーク1をスポット溶接する溶接ロボット4の動作をコンピュータ・シミュレーションすることにより、ワーク1のスポット溶接の可否を判定するためのものである。
【0031】
可否判定装置10は、データ処理部11と、表示部17と、操作部18と、を備えている。また、データ処理部11は、記憶部12と、モデル生成部13と、シミュレーション実行部14と、判定部15と、出力部16と、を備えている。
【0032】
記憶部12は、外部装置やメディアを介して予め入力された入力情報や、データ処理部11で使用するプログラムや、データ処理部11で処理された後の結果情報などを記憶して格納するための記憶手段として構成されている。
【0033】
モデル生成部13は、ワーク1の形状を模したワークモデル1mと、溶接ロボット4の形状を模した溶接ロボットモデル4mと、を含むスポット溶接モデル9mを仮想空間(後述の「仮想空間S」)に生成するためのものである。ワークモデル1mは、ワーク1を仮想空間に3次元で表現するものであり、溶接ロボットモデル4mは、溶接ロボット4を仮想空間に3次元で表現するものである。溶接ロボットモデル4mには、溶接ガン5の形状を模した溶接ガンモデル5mが含まれている。このモデル生成部13によれば、スポット溶接モデル9mを仮想空間に生成することができる。
【0034】
図3に示されるように、シミュレーション実行部14は、スポット打点到達確認部14aと、回転可能角度範囲導出部14bと、を有する。
【0035】
スポット打点到達確認部14aは、モデル生成部13によって生成されたスポット溶接モデル9mにおいて、溶接ロボットモデル4mの動きをシミュレーションすることによって、溶接ガンモデル5mがワーク1の被溶接部のスポット打点2に到達するか否かを確認するためのものである。
【0036】
回転可能角度範囲導出部14bは、スポット溶接モデル9mにおける溶接ガンモデル5mの3つの溶接姿勢(後述の「第1溶接姿勢P1」と「第2溶接姿勢P2」と「第3溶接姿勢P3」)のそれぞれについて溶接ガンモデル5mの回転をシミュレーションすることによって、回転可能角度範囲M,Nを導出するためのものである。この回転可能角度範囲導出部14bによれば、3つの全ての溶接姿勢について回転可能角度範囲M,Nが導出される。このシミュレーションの詳細については後述する。
【0037】
図2に戻り説明すると、判定部15は、シミュレーション実行部14による実行結果に基づいて、ワーク1のスポット溶接が可能であるか否かを判定する判定処理を行うように構成されている。
【0038】
出力部16は、判定部15による判定処理の結果や、この判定処理の過程で生じる情報や、データ処理部11における各処理の過程で生じる情報などを、表示部17に出力するためのものである。
【0039】
上記のデータ処理部11は、典型的には、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、このCPUにバスを介して互いに情報伝達可能に接続されたRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶手段と、を搭載したコンピュータによって構成される。
【0040】
表示部17は、情報を表示可能なディスプレイによって構成されている。データ処理部11の出力部16から出力された情報がこの表示部17に表示される。
【0041】
操作部18は、ユーザの手指で操作可能なマウス等の入力装置によって構成されている。ユーザは、表示部17に表示された情報を視認しながら操作部18を適宜に操作して操作情報をデータ処理部11に入力することができる。
【0042】
可否判定装置10は、溶接ロボット4のための制御盤4a(
図1を参照)に情報伝達可能に接続されるのが好ましい。この場合、可否判定装置10の出力部16から出力された情報に基づいて溶接ロボット4を実際に制御してワーク1のスポット溶接を行うことができる。
【0043】
次に、
図4~
図16を参照しながら、実施形態1の、スポット溶接の可否判定方法(以下、単に「可否判定方法」という。)について説明する。
【0044】
この可否判定方法は、可否判定装置10を使用して
図4に示されるフローチャートの複数のステップ(ステップS101からステップS120までのステップ)を順次実行することによって行われる。
なお、必要に応じて、このフローチャートの複数のステップの少なくとも1つを複数のステップに分割したり、このフローチャートに別の1つ或いは複数のステップを追加したりすることもできる。
【0045】
図4中のステップS101は、溶接ガンモデル5mが第1配置状態C1(
図6を参照)でワーク1の被溶接部のスポット打点2に到達するか否かを確認するステップである。このステップS101では、スポット溶接モデル9mにおいてワークモデル1mに対する溶接ガンモデル5mの仮想空間Sの動きがシミュレートされる。このステップS101によれば、実機の溶接ロボット4の溶接ガン5が第1配置状態C1でワーク1のスポット打点2に到達するか否かを確認することができる。
【0046】
図4中のステップS102は、ステップS101で溶接ガンモデル5mが第1配置状態C1でワーク1のスポット打点2に到達すると判定した(ステップS101の「Yes」)場合に、フラグaを「到達」とするステップである。
【0047】
図4中のステップS103は、ステップS101で溶接ガンモデル5mが第1配置状態C1でワーク1のスポット打点2に到達しないと判定した(ステップS101の「No」)場合に、フラグaを「未到達」とするステップである。
【0048】
図4中のステップS104は、溶接ガン5が第2配置状態C2(
図7を参照)でワーク1の被溶接部のスポット打点2に到達するか否かを確認するステップである。このステップS104では、スポット溶接モデル9mにおいてワークモデル1mに対する溶接ガンモデル5mの仮想空間Sの動きがシミュレートされる。このステップS104によれば、実機の溶接ロボット4の溶接ガン5が第2配置状態C2でワーク1のスポット打点2に到達するか否かを確認することができる。
【0049】
図4中のステップS105は、ステップS104で溶接ガン5が第2配置状態C2でワーク1のスポット打点2に到達すると判定した(ステップS104の「Yes」)場合に、フラグbを「到達」とするステップである。
【0050】
図4中のステップS106は、ステップS104で溶接ガン5が第2配置状態C2でワーク1のスポット打点2に到達しないと判定した(ステップS104の「No」)場合に、フラグbを「未到達」とするステップである。
【0051】
ここで、
図6には、第1配置状態C1の溶接ガンモデル5mを含むスポット溶接モデル9mが表示部17の画面17aに表示された様子を示している。この第1配置状態C1は、仮想空間Sにおいて、2つの電極チップ6,7の間にワークモデル1mのスポット打点2が配置されるとともに、一方の電極チップ6がスポット打点2の表面2aに対向し、且つ他方の電極チップ7がスポット打点2の裏面2bに対向した状態である。
【0052】
また、
図7には、第2配置状態C2の溶接ガンモデル5mを含むスポット溶接モデル9mが表示部17の画面17aに表示された様子を示している。この第2配置状態C2は、仮想空間Sにおいて、2つの電極チップ6,7の間にワークモデル1mのスポット打点2が配置されるとともに、一方の電極チップ6がスポット打点2の裏面2bに対向し、且つ他方の電極チップ7がスポット打点2の表面2aに対向した状態である。
【0053】
このように、第1配置状態C1と第2配置状態C2は、仮想空間Sにおいて溶接ガンモデル5mのチップ軸線Aを、このチップ軸線Aに垂直な垂直線を中心に互いに180°反転させた関係にある。そして、実際にワーク1に溶接ガン5をアクセスさせるとき、溶接ガン5を第1配置状態C1に設定する場合と第2配置状態C2に設定する場合とではアクセス方向が異なる。このため、第1配置状態C1と第2配置状態C2は、ワーク1に溶接ガン5を一方向からアクセスさせるのみならず別方向からもアクセスさせる場合を想定したものとなる。
【0054】
図4中のステップS107は、フラグaまたはフラグbが「到達」とされているか否かを判定するステップである。このステップS107によれば、フラグaまたはフラグbが「到達」とされている場合にステップS108にすすみ、そうでない場合には、ステップS108からステップS111までのステップをスキップしてステップS120にすすむ。
【0055】
図4中のステップS108は、フラグaが「到達」とされているか否かを判定するステップである。このステップS108によれば、フラグaが「到達」とされている場合にステップS109にすすみ、そうでない場合には、ステップS109をスキップしてステップS110にすすむ。
【0056】
図4中のステップS109は、第1配置状態C1の溶接ガンモデル5mの回転可能角度範囲Mを導出するステップである。このステップS109では、スポット溶接モデル9mにおける溶接ガンモデル5mの3つの溶接姿勢P1,P2,P3のそれぞれについて、この溶接ガンモデル5mを、チップ軸線Aを中心に少なくとも1周回転させるようなシミュレートを行う。このシミュレートは、表示部17の画面17a上でユーザが操作部18を操作して溶接ガンモデル5mを実際に回転させることによって実施されてもよいし、或いは表示部17の画面17aに表示されたシミュレート開始用の操作ボタンをユーザが操作部18で操作して溶接ガンモデル5mを自動的に回転させることによって実施されてもよい。
【0057】
ここで、
図8に示されるように、第1配置状態C1にある溶接ガンモデル5mの第1溶接姿勢P1は、未使用状態(即ち、摩耗する前の状態)の2つの電極チップ6,7によりワークモデル1mのスポット打点2を挟み込んだときの溶接姿勢とされる。このとき、一方の電極チップ6の先端がスポット打点2の表面2aに当接し、且つ他方の電極チップ7の先端がスポット打点2の裏面2bに当接する。
【0058】
また、
図9に示されるように、第1配置状態C1にある溶接ガンモデル5mの第2溶接姿勢P2は、未使用状態から摩耗した摩耗状態の2つの電極チップ6,7によりワークモデル1mのスポット打点2を挟み込んだときの溶接姿勢とされる。このとき、摩耗状態の一方の電極チップ6の先端がスポット打点2の表面2aに当接し、且つ摩耗状態の他方の電極チップ7の先端がスポット打点2の裏面2bに当接する。2つの電極チップ6,7のそれぞれの摩耗状態は、例えばチップ軸線Aに沿った軸方向について未使用状態からの摩耗寸法を管理基準値などの情報に基づいて予め定めることによって定義される。
【0059】
また、
図10に示されるように、第1配置状態C1にある溶接ガンモデル5mの第3溶接姿勢P3は、未使用状態の2つの電極チップ6,7をワークモデル1mのスポット打点2から離間させたときの溶接姿勢とされる。このとき、一方の電極チップ6はスポット打点2の表面2aに隙間を隔てて対向し、且つ他方の電極チップ7はスポット打点2の裏面2bに隙間を隔てて対向する。第3溶接姿勢P3は、2つの電極チップ6,7のそれぞれのスポット打点2からの離間距離を予め定めることによって定義することができる。
【0060】
そして、上記のステップS109によれば、
図8~
図10のそれぞれの溶接姿勢について、溶接ガンモデル5mを2つの電極チップ6,7を除いてワークモデル1mとの間に所定値以上の隙間を確保した状態でチップ軸線Aを中心に回転させることができる角度範囲が回転可能角度範囲Mとして導出される。
【0061】
溶接ガンモデル5mがワーク1の各部位のうちスポット打点2の周辺部3と干渉する場合には、スポット打点2にスポット溶接を施すのが難しい。そこで、溶接ガンモデル5mのうち2つの電極チップ6,7を除く部位である周辺部3とワークモデル1mとの間に所定値以上の隙間が確保できるか否かを予め確認するのが好ましい。
【0062】
「所定値」は、溶接ガン5の寸法公差や、溶接ガンモデル5mに対して溶接ガン5が実際に動くときの軌跡の誤差や、安全率などを考慮しつつ、ワーク1に対する溶接ガン5の干渉を防ぐのに有効な値として予め定められるのが好ましい。一例として、所定値を5mmに設定することができる。
【0063】
このとき、溶接姿勢P1についての回転可能角度範囲Mが回転可能角度範囲M1とされ、溶接姿勢P2についての回転可能角度範囲Mが回転可能角度範囲M2とされ、溶接姿勢P3についての回転可能角度範囲Mが回転可能角度範囲M3とされる。
【0064】
図4中のステップS110は、フラグbが「到達」とされているか否かを判定するステップである。このステップS110によれば、フラグbが「到達」とされている場合にステップS111にすすみ、そうでない場合には、ステップS111をスキップしてステップS120にすすむ。
【0065】
図4中のステップS111は、第2配置状態C2の溶接ガン5の回転可能角度範囲Nを導出するステップである。このステップS111では、スポット溶接モデル9mにおける溶接ガンモデル5mの3つの溶接姿勢P1,P2,P3のそれぞれについて、この溶接ガンモデル5mを、チップ軸線Aを中心に少なくとも1周回転させるようなシミュレートを行う。このシミュレートの手法は、前述のステップS109の場合と同様であり、その説明を省略する。
【0066】
ここで、
図11に示されるように、第2配置状態C2にある溶接ガンモデル5mの第1溶接姿勢P1は、未使用状態(即ち、摩耗する前の状態)の2つの電極チップ6,7によりワークモデル1mのスポット打点2を挟み込んだときの溶接姿勢とされる。このとき、一方の電極チップ6の先端がスポット打点2の裏面2bに当接し、且つ他方の電極チップ7の先端がスポット打点2の表面2aに当接する。
【0067】
また、
図12に示されるように、第2配置状態C2にある溶接ガンモデル5mの第2溶接姿勢P2は、未使用状態から摩耗した摩耗状態の2つの電極チップ6,7によりワークモデル1mのスポット打点2を挟み込んだときの溶接姿勢とされる。このとき、摩耗状態の一方の電極チップ6の先端がスポット打点2の裏面2bに当接し、且つ摩耗状態の他方の電極チップ7の先端がスポット打点2の表面2aに当接する。
【0068】
また、
図13に示されるように、第2配置状態C2にある溶接ガンモデル5mの第3溶接姿勢P3は、未使用状態の2つの電極チップ6,7をワークモデル1mのスポット打点2から離間させたときの溶接姿勢とされる。このとき、一方の電極チップ6はスポット打点2の裏面2bに隙間を隔てて対向し、且つ他方の電極チップ7はスポット打点2の表面2aに隙間を隔てて対向する。
【0069】
そして、上記のステップS111によれば、
図11~
図13のそれぞれの溶接姿勢について、溶接ガンモデル5mを2つの電極チップ6,7を除いてワークモデル1mとの間に所定値以上の隙間を確保した状態でチップ軸線Aを中心に回転させることができる角度範囲が回転可能角度範囲Nとして導出される。このときの所定値も、ステップS109で設定した値と同一の値であるのが好ましい。
【0070】
このとき、溶接姿勢P1についての回転可能角度範囲Nが回転可能角度範囲N1とされ、溶接姿勢P2についての回転可能角度範囲Nが回転可能角度範囲N2とされ、溶接姿勢P3についての回転可能角度範囲Nが回転可能角度範囲N3とされる。
【0071】
図5のフローチャートに示されるように、ステップS120は、ステップS121からステップS124までのステップによって構成されている。
【0072】
ステップS121は、フラグaおよびフラグbが「未到達」とされている否かを判定するステップである。このステップS121によれば、フラグaおよびフラグbが「未到達」とされている場合にステップS124にすすみ、そうでない場合にステップS122にすすむ。
【0073】
ステップS122は、
図4中のステップS109で導出された回転可能角度範囲Mと、
図4中のステップS111で導出された回転可能角度範囲Nと、に基づいて、共通範囲Mcまたは共通範囲Ncが有るか否かを判定するステップである。このステップS122によれば、共通範囲Mcまたは共通範囲Ncが有る場合にステップS123にすすみ、そうでない場合にステップS124にすすむ。
【0074】
ここで、共通範囲Mcは、第1配置状態C1にある溶接ガンモデル5mについてのものであり、共通範囲Ncは、第2配置状態C2にある溶接ガンモデル5mについてのものである。これらの共通範囲Mc,Ncは、データ処理部11のシミュレーション実行部14に或いは判定部15(
図2を参照)において導出され、記憶部12に格納される。
【0075】
ステップS123によれば、共通範囲Mcと共通範囲Ncの少なくとも一方が有るときに、その判定結果を「溶接可」として判定処理を終了する。これに対して、ステップS124によれば、共通範囲Mcと共通範囲Ncのいずれも無いときに、その判定結果を「溶接不可」として判定処理を終了する。
【0076】
ここで、上記のステップS122の具体例について、
図14及び
図15を参照しながら説明する。
【0077】
図14に示されるように、第1配置状態C1の共通範囲Mcについては、第1溶接姿勢P1における回転可能角度範囲M1と、第2溶接姿勢P2における回転可能角度範囲M2と、第3溶接姿勢P3における回転可能角度範囲M3と、をチップ軸線Aに沿って重ね合わせることによって判定が可能である。本例では、3つの回転可能角度範囲M1,M2,M3が全て重なる領域が有るため、共通範囲Mcが有ると判定される。
【0078】
図15に示されるように、第2配置状態C2の共通範囲Ncについては、第1溶接姿勢P1における回転可能角度範囲N1と、第2溶接姿勢P2における回転可能角度範囲N2と、第3溶接姿勢P3における回転可能角度範囲N3と、をチップ軸線Aに沿って重ね合わせることによって判定が可能である。本例では、3つの回転可能角度範囲N1,N2,N3が全て重なる領域が無いため、共通範囲Ncは無いと判定される。
【0079】
図16に示されるように、スポット溶接の可否判定結果の一例によれば、スポット打点R1については、第1配置状態C1の共通範囲Mcが有り、第2配置状態C2の共通範囲Ncが有るため、「溶接可」と判定される。スポット打点R2については、第1配置状態C1の共通範囲Mcが有り、第2配置状態C2の共通範囲Ncが無いため、「溶接可」と判定される。スポット打点R3,R4についてはいずれも、第1配置状態C1の共通範囲Mcが無く、第2配置状態C2の共通範囲Ncが無いため、「溶接不可」と判定される。
【0080】
なお、上記構成の可否判定装置10の記憶部12に格納されている共通範囲Mc,Ncについての情報は、制御盤4a(
図1を参照)に搭載されている制御装置に伝送されるのが好ましい。これにより、実際にワーク1をスポット溶接する際に、これらの情報を使用して溶接ロボット4を制御することができる。
【0081】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0082】
上記の可否判定装置10及び可否判定方法において、溶接ガンモデル5mの3つの溶接姿勢P1,P2,P3はいずれも、実際の溶接ロボット4の溶接ガン5を使用してワーク1のスポット溶接を行うことを想定して、そのスポット溶接が可能であるか否かを判断する指標となる姿勢である。そこで、溶接ガンモデル5mの3つ全ての溶接姿勢P1,P2,P3について回転可能角度範囲に共通範囲が有るか否かを予めシミュレーションで検証することによって、ワーク1のスポット溶接が可能であるか否かの判定の信頼度を高めることができる。
【0083】
しかも、溶接ガンモデル5mの第1配置状態C1と第2配置状態C2の両方について回転可能角度範囲の共通範囲の有無を判定することによって、ワーク1に溶接ガン5を一方向からのみアクセスさせる場合のみならず、別方向からもアクセスさせる場合を想定して、ワーク1のスポット溶接が可能であるか否かの判定を行うことが可能になる。
【0084】
また、コンピュータ・シミュレーションを使用することによって、実機である溶接ロボット4を使用して溶接ガン5とワーク1との間の隙間を作業者が実際に確認する場合に比べて、溶接可否の判定に要する時間を短縮することができ、しかも作業者による見落とし等の発生を防ぐことができる。とりわけ、溶接ガン5の数や各溶接ガン5が担当するスポット打点の数が多い場合により高い効果が得られる。
【0085】
以上のごとく、上述の実施形態1によれば、ワーク1に対するスポット溶接の可否を短時間で適正に判定するのに有効な技術を提供することができる。
【0086】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、各実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0087】
上述の実施形態1では、3つ全ての溶接姿勢P1,P2,P3について回転可能角度範囲を導出してそれらの共通範囲の有無を判定する場合について例示したが、これに代えて3つ溶接姿勢P1,P2,P3のうちの少なくとも2つの溶接姿勢について回転可能角度範囲を導出してそれらの共通範囲の有無を判定するようにしてもよい。
【0088】
上述の実施形態1では、溶接ガンモデル5mの第1配置状態C1と第2配置状態C2の両方について回転可能角度範囲の共通範囲の有無を判定する場合について例示したが、これに代えて、溶接ガンモデル5mの第1配置状態C1と第2配置状態C2のいずれか一方について回転可能角度範囲の共通範囲の有無を判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 ワーク
1m ワークモデル
2 スポット打点
4 溶接ロボット
5 溶接ガン
5m 溶接ガンモデル
6,7 電極チップ
9m スポット溶接モデル
10 スポット溶接の可否判定装置(可否判定装置)
14 シミュレーション実行部
15 判定部
A チップ軸線
C1 第1配置状態
C2 第2配置状態
P1 第1溶接姿勢
P2 第2溶接姿勢
P3 第3溶接姿勢
M,M1,M2,M3,N,N1,N2,N3 回転可能角度範囲
Mc,Nc 共通範囲
S 仮想空間
S109,S111 シミュレーション実行ステップ
S120 判定ステップ