(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
G01S 7/521 20060101AFI20231024BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20231024BHJP
G01S 15/931 20200101ALN20231024BHJP
【FI】
G01S7/521 A
G01S7/521 B
H04R17/00 330D
H04R17/00 330G
G01S15/931
(21)【出願番号】P 2020074424
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2019087230
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 正義
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】小林 研介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大
(72)【発明者】
【氏名】石田 翔也
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄大
(72)【発明者】
【氏名】深堀 兼史
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-237468(JP,A)
【文献】国際公開第2016/147917(WO,A1)
【文献】特開平02-288500(JP,A)
【文献】特開2001-016694(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0018367(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
H04R 1/28
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波センサ(1)であって、
電気信号と超音波振動とを変換する超音波素子(5)と、
有底筒形状を有し、内側に前記超音波素子が収容される素子収容ケース(6)と、を備え、
前記素子収容ケースは、指向中心軸(DA)を囲む筒状に形成された側板部(61)と、前記指向中心軸と平行な軸方向における前記側板部の一端側を閉塞する底板部(62)とを有し、
前記超音波素子は、前記底板部に貼り付けられており、
前記底板部は、前記側板部と前記超音波素子との間において、少なくとも1つの突起部(621)を有し、
前記突起部は、前記底板部が超音波振動する場合には、前記底板部と共に振動
し、前記底板部が超音波振動により定在波が生じた状態となる場合における当該定在波の腹または節となる位置に配置されている、超音波センサ。
【請求項2】
超音波センサ(1)であって、
電気信号と超音波振動とを変換する超音波素子(5)と、
有底筒形状を有し、内側に前記超音波素子が収容される素子収容ケース(6)と、を備え、
前記素子収容ケースは、指向中心軸(DA)を囲む筒状に形成された側板部(61)と、前記指向中心軸と平行な軸方向における前記側板部の一端側を閉塞する底板部(62)とを有し、
前記超音波素子は、前記底板部に貼り付けられており、
前記底板部は、前記側板部と前記超音波素子との間において、少なくとも1つの突起部(621)を有し、
前記突起部は、前記底板部が超音波振動する場合には、前記底板部と共に振動し、外部に超音波を送信した後に前記突起部に生じる意図しない振動を残響振動として、前記残響振動を減衰させる振動減衰部(64)が取り付けられている、超音波センサ。
【請求項3】
前記振動減衰部は、ピエゾ素子である、請求項
2に記載の超音波センサ。
【請求項4】
前記振動減衰部は、前記振動減衰部の振動状態を制御する制御部(7)に接続されている、請求項
3に記載の超音波センサ。
【請求項5】
前記制御部は、
外部に超音波を送信する場合には、前記振動減衰部を前記突起部に生じる振動と同じ方向に振動させる制御を行い、
外部に超音波を送信した後、外部に送信した超音波の反射波を受信するまでの所定の間には、前記振動減衰部を前記振動減衰部に生じた前記残響振動を打ち消す方向に振動させる制御を行う、請求項
4に記載の超音波センサ。
【請求項6】
前記振動減衰部は、前記残響振動を電気エネルギーに変換する素子であり、変換した前記電気エネルギーを消費する外部素子(8)に接続されており、
前記振動減衰部と前記外部素子との間にこれらの接続を切り替えるスイッチ部(81)が配置されている、請求項
2に記載の超音波センサ。
【請求項7】
前記振動減衰部は、前記突起部のうち少なくとも前記残響振動による変位が最も大きい部位を含む所定の領域の上に取り付けられている、請求項
2ないし6のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項8】
前記素子収容ケースは、前記側板部のうち前記底板部とは反対の他端側を閉塞し、前記突起部を保護する保護材(65)を備え、
前記保護材は、前記突起部と距離を隔てて配置されている、請求項
2ないし7のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項9】
前記保護材は、貫通孔(651a)を備える基部(651)と、前記貫通孔のうち一端側を閉塞する閉塞部材(652)とによりなり、
前記基部は、前記貫通孔が前記突起部の外形よりも大きく、かつ、前記突起部が前記貫通孔の内部に配置されるように、前記素子収容ケースに取り付けられており、
前記閉塞部材は、前記突起部から距離を隔てて配置されている、請求項
8に記載の超音波センサ。
【請求項10】
前記保護材と前記底板部との間において、前記突起部と距離を隔てて配置される発泡部材(66)をさらに備え、
前記発泡部材は、前記突起部の外形よりも大きい内径とされる凹部(661)を有してなり、前記凹部の内部に前記突起部が収容されるように配置される、請求項
8に記載の超音波センサ。
【請求項11】
前記側板部は、前記底板部からの高さが前記突起部よりも高い位置に設けられる凸部(613)を有しており、
前記凸部の上において前記突起部から距離を隔てて配置され、前記突起部と前記保護材とを隔てる発泡部材(66)をさらに備え、
前記保護材は、前記発泡部材に当接している、請求項
8に記載の超音波センサ。
【請求項12】
前記側板部のうち外周側の一部に取り付けられる筐体(9)をさらに備え、
前記素子収容ケースのうち前記超音波素子が配置される内部空間(63)は、前記筐体の内部空間と共に、前記筐体により閉塞されている、請求項
2ないし7のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項13】
超音波センサ(1)であって、
電気信号と超音波振動とを変換する超音波素子(5)と、
有底筒形状を有し、内側に前記超音波素子が収容される素子収容ケース(6)と、を備え、
前記素子収容ケースは、指向中心軸(DA)を囲む筒状に形成された側板部(61)と、前記指向中心軸と平行な軸方向における前記側板部の一端側を閉塞する底板部(62)とを有し、
前記超音波素子は、前記底板部に貼り付けられており、
前記底板部は、前記側板部と前記超音波素子との間において、少なくとも1つの突起部(621)を有し、
前記突起部は、前記底板部が超音波振動する場合には、前記底板部と共に振動し、
前記素子収容ケースは、前記側板部のうち前記底板部とは反対の他端側を閉塞し、前記突起部を保護する保護材(65)を備え、
前記保護材は、前記突起部と距離を隔てて配置され、貫通孔(651a)を備える基部(651)と、前記貫通孔のうち一端側を閉塞する閉塞部材(652)とによりなり、
前記基部は、前記貫通孔が前記突起部の外形よりも大きく、かつ、前記突起部が前記貫通孔の内部に配置されるように、前記素子収容ケースに取り付けられており、
前記閉塞部材は、前記突起部から距離を隔てて配置されている、超音波センサ。
【請求項14】
超音波センサ(1)であって、
電気信号と超音波振動とを変換する超音波素子(5)と、
有底筒形状を有し、内側に前記超音波素子が収容される素子収容ケース(6)と、を備え、
前記素子収容ケースは、指向中心軸(DA)を囲む筒状に形成された側板部(61)と、前記指向中心軸と平行な軸方向における前記側板部の一端側を閉塞する底板部(62)とを有し、
前記超音波素子は、前記底板部に貼り付けられており、
前記底板部は、前記側板部と前記超音波素子との間において、少なくとも1つの突起部(621)を有し、
前記突起部は、前記底板部が超音波振動する場合には、前記底板部と共に振動し、
前記素子収容ケースは、前記側板部のうち前記底板部とは反対の他端側を閉塞し、前記突起部を保護する保護材(65)を備え、
前記保護材は、前記突起部と距離を隔てて配置されており、
前記保護材と前記底板部との間において、前記突起部と距離を隔てて配置される発泡部材(66)をさらに備え、
前記発泡部材は、前記突起部の外形よりも大きい内径とされる凹部(661)を有してなり、前記凹部の内部に前記突起部が収容されるように配置される、超音波センサ。
【請求項15】
超音波センサ(1)であって、
電気信号と超音波振動とを変換する超音波素子(5)と、
有底筒形状を有し、内側に前記超音波素子が収容される素子収容ケース(6)と、を備え、
前記素子収容ケースは、指向中心軸(DA)を囲む筒状に形成された側板部(61)と、前記指向中心軸と平行な軸方向における前記側板部の一端側を閉塞する底板部(62)とを有し、
前記超音波素子は、前記底板部に貼り付けられており、
前記底板部は、前記側板部と前記超音波素子との間において、少なくとも1つの突起部(621)を有し、
前記突起部は、前記底板部が超音波振動する場合には、前記底板部と共に振動し、
前記素子収容ケースは、前記側板部のうち前記底板部とは反対の他端側を閉塞し、前記突起部を保護する保護材(65)を備え、
前記側板部は、前記底板部からの高さが前記突起部よりも高い位置に設けられる凸部(613)を有しており、
前記凸部の上において前記突起部から距離を隔てて配置され、前記突起部と前記保護材とを隔てる発泡部材(66)をさらに備え、
前記保護材は、前記突起部と距離を隔てて配置され、前記発泡部材に当接している、超音波センサ。
【請求項16】
前記突起部は、前記底板部が超音波振動により定在波が生じた状態となる場合における当該定在波の腹または節となる位置に配置されている、請求項
2ないし15のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項17】
前記側板部は、前記指向中心軸と直交する径方向について所定厚さを有する円筒状または部分円筒状の薄肉部(611)と、前記指向中心軸を囲む周方向における前記薄肉部の一部に設けられていて前記所定厚さよりも大きな径方向寸法を有する厚肉部(612)とを有する、請求項1
ないし16のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項18】
前記底板部は、2つの前記突起部を備える、請求項1ないし
17のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項19】
前記突起部は、前記底板部において、前記超音波素子を中心とする対称配置とされている、請求項
18に記載の超音波センサ。
【請求項20】
前記突起部は、前記底板部を構成する材料とは異なる材料により構成されている、請求項1ないし
19のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項21】
前記突起部は、棒状、板状および錘状のいずれかの1つの形状である、請求項1ないし
20のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
探査波として超音波を外部に送信し、その反射波を受信する超音波センサは、例えば、車両に搭載される物体検知装置等に用いられている。この種の超音波センサは、有底筒状のケースと、当該ケースの内側底部に貼り付けられた圧電素子とを有してなる。
【0003】
この種の超音波センサにおいては、1つの超音波センサに複数の共振周波数を持たせる構造が検討されており、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載の超音波センサは、大きさの異なる2つの有底筒状ケースと、圧電素子とを備え、大きい有底筒状ケースの内側底面に小さい有底筒状ケースの開口部が貼り付けられており、小さい有底筒状ケースによりなる空間を有する。この超音波センサは、小さい有底筒状ケースの外側底面に圧電素子が貼り付けられている。そして、この超音波センサは、超音波の送信時または受信時に、大小の有底筒状ケースの底面が同じ方向へ撓む場合と逆方向に撓む場合とが生じることで、複数の共振周波数を持つ構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この超音波センサは、大小の有底筒状ケースを接着した構造となっており、耐久性が大きく低下するおそれがあり、その製造コストも大きくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、耐久性を確保しつつ、複数の共振周波数を有する超音波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の超音波センサは、超音波センサ(1)であって、電気信号と超音波振動とを変換する超音波素子(5)と、有底筒形状を有し、内側に超音波素子が収容される素子収容ケース(6)と、を備え、素子収容ケースは、指向中心軸(DA)を囲む筒状に形成された側板部(61)と、指向中心軸と平行な軸方向における側板部の一端側を閉塞する底板部(62)とを有し、超音波素子は、底板部に貼り付けられており、底板部は、側板部と超音波素子との間において、少なくとも1つの突起部(621)を有し、突起部は、底板部が超音波振動する場合には、前記底板部と共に振動し、底板部が超音波振動により定在波が生じた状態となる場合における当該定在波の腹または節となる位置に配置されている。
【0008】
これにより、底板部のうち超音波素子が貼り付けられる部分と側板部との間に少なくとも1つの突起部が配置された素子収容ケースを備え、底板部が超音波振動をする場合に、突起部が底板部と共に振動する構成とされた超音波センサとなる。
【0009】
この超音波センサでは、突起部を備える底板部、すなわち厚みが部分的に異なる構成の底板部において、底板部における超音波振動のインピーダンスが変化する。すると、超音波センサには、超音波振動が主に底板部のみに伝搬する場合に対応する第1の振動モードと、底板部から突起部に伝搬する場合に対応する第2の振動モードとが生じ、複数の共振周波数が生じることとなる。また、底板部に突起部を設ける構造は、2つの有底筒状ケースを貼り合わせた構造に比べて、耐久性が向上する。したがって、耐久性を確保しつつ、複数の共振周波数を持つ超音波センサとなる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る超音波センサの搭載例を示す図である。
【
図2】超音波センサの概略的な装置構成を示す断面図である。
【
図3】
図2の超音波マイクロフォンの概略構成を示す斜視図である。
【
図4】
図3のIV-IV間の断面を示す断面図である。
【
図5】
図3の超音波マイクロフォンの音響インピーダンス特性を示すグラフである。
【
図6】第1の変形例に係る超音波マイクロフォンの概略構成を示す斜視図である。
【
図7】第2の変形例に係る超音波マイクロフォンの概略構成の一例を示す斜視図である。
【
図8】第2の変形例に係る超音波マイクロフォンの概略構成の他の一例を示す斜視図である。
【
図9】第3の変形例に係る超音波マイクロフォンの概略構成を示す斜視図である。
【
図10】
図9の超音波マイクロフォンの音響インピーダンス特性を示すグラフである。
【
図11】第2実施形態の超音波センサにおける超音波マイクロフォンの概略構成を示す斜視図である。
【
図12】残響振動による突起部の変位について説明するための図である。
【
図13】
図11のXIII-XIII間の超音波マイクロフォンの断面および振動減衰部に接続される制御部を示す図である。
【
図14】
図13に相当する超音波マイクロフォンの断面および振動減衰部に接続される外部素子並びにスイッチ部を示す図である。
【
図15】突起部の他の形状例およびこれに対応する振動減衰部の配置例を示す図であって、
図13に相当する断面図である。
【
図16】第3実施形態の超音波センサにおける超音波マイクロフォンの概略構成を示す図であって、
図13に相当する断面図である。
【
図17】保護材が突起部に接触する配置とされた比較例を示す断面図である。
【
図18】第3実施形態の変形例に係る保護材の構成例を示す図であって、
図13に相当する断面図である。
【
図19】
図18の超音波マイクロフォンをXIX方向から見た矢視図である。
【
図20A】
図18の保護材の形成工程のうち突起部を囲む筒状部材の配置工程を示す図である。
【
図21】第4実施形態の超音波センサにおける超音波マイクロフォンの概略構成を示す図であって、
図13に相当する断面図である。
【
図22】第4実施形態の変形例に係る超音波マイクロフォンの概略構成を示す断面図である。
【
図23A】
図22の保護材の形成工程のうち発泡部材を支えるための凸部の形成工程を示す図である。
【
図23B】
図23Aに続く保護材の形成工程であって、発泡部材の配置工程を示す図である。
【
図24】第5実施形態超音波センサにおける超音波マイクロフォンの概略構成を示す図であって、
図13に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る超音波センサ1について説明する。超音波センサ1は、例えば、自動車等の車両に搭載される物体検知装置に用いられると好適であるが、これに限定されず、他の用途に適用されることもできる。本実施形態では、車載用の物体検知装置に適用された例を代表例として説明する。
【0014】
(搭載例)
超音波センサ1の車両への搭載例について、
図1を参照して簡単に説明する。超音波センサ1は、例えば
図1に示すように、箱状の車体V1を備える車両Vに搭載される。具体的には、超音波センサ1は、車体V1のうち前端部に装着されたフロントバンパーV2や、後端部に装着されたリアバンパーV3に取り付けられる。
【0015】
フロントバンパーV2やリアバンパーV3には、超音波センサ1を搭載するための貫通孔である装着孔V4が形成されている。フロントバンパーV2やリアバンパーV3に搭載された超音波センサ1は、いわゆる車載のクリアランスソナーとされる。
【0016】
(構成)
次に、超音波センサ1の構成について、
図2~
図4を参照して説明する。
【0017】
以下、説明の便宜上、
図2に示すように、Z軸が超音波センサ1の指向中心軸DAと平行となるようにXYZ直交座標系を設定する。このとき、指向中心軸DAと平行な方向を「軸方向」と称する。
図2における上側、すなわち、Z軸正方向側を、軸方向における「先端側」と称することがある。同様に、
図2における下側、すなわち、Z軸負方向側を、軸方向における「基端側」と称することがある。さらに、軸方向と直交する任意の方向を「面内方向」と称することがある。すなわち、「面内方向」は、
図2における、XY平面と平行な方向である。また、
図3では、
図2のXYZ直交座標系に対応するXYZ座標系を示している。
【0018】
超音波センサ1は、センサケース2と、弾性保持部材3と、超音波マイクロフォン4とを備える。超音波マイクロフォン4は、超音波素子5と素子収容ケース6とを備える。以下、超音波センサ1の各構成要素について説明する。
【0019】
センサケース2は、
図2に示すように、超音波センサ1の筐体であると共に、弾性保持部材3を保持する構成とされている。センサケース2は、ケース本体部21と、コネクタ部22と、ケース筒部23とを有してなる。センサケース2は、これらの各部が、例えばポリプロピレン等の硬質の合成樹脂によって一体に形成されている。
【0020】
ケース本体部21は、略直方体状の外形形状を有する箱状部分であって、軸方向における基端側が開口する有底筒状に形成されている。
【0021】
コネクタ部22は、超音波センサ1を電子制御ユニット等の外部機器と電気接続するために、ケース本体部21における側壁部から外側に向かって延設されている。
【0022】
ケース筒部23は、略円筒状の部分であって、ケース本体部21から軸方向における先端側に突設されている。ケース筒部23は、指向中心軸DAを軸中心とする略円筒形状に形成された弾性保持部材3の、軸方向における基端部を保持するように構成されている。ケース筒部23の内側のシリンダ状の空間は、ケース本体部21の内側の略直方体状の空間と連通するように設けられている。以下、ケース筒部23の内側の空間とケース本体部21の内側の空間とを総称して、「センサケース2の内側の空間」と称する。
【0023】
センサケース2の内側の空間には、回路基板24と、配線部25と、シールド部26とが収容されている。超音波センサ1の動作を制御する回路基板24は、ケース本体部21に収容されている。配線部25は、超音波マイクロフォン4と回路基板24とを電気接続するように設けられている。シールド部26は、回路基板24と配線部25とを覆うことで、これらを電磁シールドするように、センサケース2の内面に固定されている。
【0024】
ダンパ部材27は、円盤状の部材であって、弾性保持部材3の内径に対応する外径を有している。すなわち、ダンパ部材27は、軸方向における超音波マイクロフォン4よりも基端側にて、弾性保持部材3の内側のシリンダ状の空間内に嵌め込まれている。ダンパ部材27は、超音波マイクロフォン4からセンサケース2への振動伝達を抑制するよう設けられている。具体的には、ダンパ部材27は、例えば、絶縁性且つ弾性を有する発泡シリコーン等の発泡弾性体によって形成されている。
【0025】
センサケース2の内側の空間には、充填材28が充填されている。充填材28は、例えば、絶縁性且つ弾性を有するシリコーンゴム等の合成樹脂材料によって形成されている。
【0026】
弾性保持部材3は、絶縁性且つ弾性を有するシリコーンゴム等の合成樹脂系弾性材料によって形成されている。合成樹脂系弾性材料は、「粘弾性材料」あるいは「エラストマ」とも称される。弾性保持部材3は、超音波マイクロフォン4の軸方向における先端側を露出させつつ基端側を覆うことで、超音波マイクロフォン4を弾性支持するように構成されている。
【0027】
超音波マイクロフォン4は、超音波素子5と素子収容ケース6とによって構成されており、超音波送受波器としての機能を有している。すなわち、超音波マイクロフォン4は、超音波の送受信が可能な構成とされている。
【0028】
換言すれば、超音波マイクロフォン4は、印加された駆動信号に基づいて、探査波を指向中心軸DAに沿って送信するように構成されている。指向中心軸DAは、超音波マイクロフォン4から超音波の送受信方向に沿って延びる仮想半直線であって、指向角の基準となるものである。「指向中心軸」は、「検出軸」とも称され得る。また、超音波マイクロフォン4は、周囲に存在する物体による反射波を受信して、受信信号を発生するように構成されている。
【0029】
超音波素子5は、電気信号と超音波振動とを変換するように構成されている。超音波素子5は、例えば圧電素子であって、軸方向に厚さ方向を有する薄膜状とされている。超音波素子5は、例えば
図3に示すように、有底筒形状とされた素子収容ケース6のうち後述の底板部62の内側面に貼り付けられている。なお、底板部62の内側面とは、後述する側板部61に囲まれた面である。
【0030】
素子収容ケース6は、指向中心軸DAを軸中心とする有底筒形状であって、その内側に超音波素子5を収容可能な内部空間63を備える構成とされている。素子収容ケース6は、側板部61と底板部62とを備えており、これらが同一の材料によって構成されている。素子収容ケース6は、例えばアルミニウム等の金属によって、継ぎ目なく一体に形成されている。素子収容ケース6は、例えば、切削加工、放電加工や鋳造などの任意の方法により形成される。
【0031】
側板部61は、例えば、指向中心軸DAを囲む筒状であって、指向中心軸DAと略平行な中心軸線を有する円筒状とされている。側板部61は、薄肉部611と、厚肉部612とを有している。
【0032】
薄肉部611は、指向中心軸DAと直交する径方向について所定厚さを有する部分円筒状とされている。「径方向」は、指向中心軸DAから放射状に延びる方向である。すなわち、径方向は、指向中心軸DAを法線とする平面上にて、当該平面と指向中心軸DAとの交点を中心とする仮想円を描いた場合の、当該仮想円の半径方向である。また、側板部61の各部における径方向寸法を「厚さ」と称することがある。換言すれば、薄肉部611は、厚肉部612よりも薄い、一定厚さを有している。
【0033】
薄肉部611の所定厚さは、例えば、側板部61および底板部62の径方向または軸方向における寸法のうち、軸方向における底板部62の厚さに最も近い寸法を有している。具体的には、薄肉部611は、底板部62の厚さすなわち軸方向寸法の0.3~2.0倍、好ましくは0.5~1.5倍、より好ましくは0.7~1.2倍の厚さに形成されている。典型的には、薄肉部611は、底板部62と略同じ厚さに形成され得る。
【0034】
厚肉部612は、薄肉部611よりも大きな厚さすなわち径方向寸法を有している。具体的には、本実施形態においては、厚肉部612は、指向中心軸DAと平行な視線で見た場合に、X軸方向に沿って延設された弦と円弧とで囲まれた弓形に形成されている。また、厚肉部612は、指向中心軸DAを囲む周方向について薄肉部611に隣接配置されている。「周方向」は、上記の仮想円の円周方向である。
【0035】
本実施形態では、一対の薄肉部611は、指向中心軸DAを挟んで対向配置されている。同様に、一対の厚肉部612は、指向中心軸DAを挟んで対向配置されている。すなわち、本実施形態では、内部空間63は、指向中心軸DAと平行な視線で見た場合に、一対の半円と一対の線分とで構成される角丸長方形状あるいは長円状に形成されている。また、側板部61は、半円に対応して設けられた一対の薄肉部611と、線分に対応して設けられた一対の厚肉部612とを有している。これにより、超音波マイクロフォン4は、Y軸方向にてX軸方向よりも狭い指向角を有するように構成されている。なお、厚肉部612は、超音波の指向性を調整する部位として設計され得るため、「指向性調整部」とも称され得る。
【0036】
底板部62は、軸方向に厚さ方向を有する平板状あるいは薄板状の部分であって、軸方向における側板部61の一端側を閉塞するように設けられている。具体的には、底板部62は、側板部61の軸方向における先端部と継ぎ目なく一体的に結合されている。底板部62は、
図3に示すように、超音波素子5が貼り付けられることで、超音波素子5による超音波の送信または受信の際に、側板部61と結合された外縁部を固定端として撓みながら軸方向に超音波振動する構成とされている。底板部62のうち内側面、すなわち超音波素子5が収容される内部空間63側の面には、本実施形態では、2つの突起部621が設けられている。
【0037】
突起部621は、底板部62の内側面から例えば指向中心軸DAに沿って突出する棒状体であり、例えば円柱形状とされている。突起部621は、超音波素子5による超音波の送信または受信の際に、底板部62と共に超音波振動する構成とされており、複数の振動モードを生じさせる役割を果たす。突起部621は、本実施形態では、
図3に示すように、底板部62の内側面のうち超音波素子5と側板部61との間に2つ形成されている。
【0038】
具体的には、2つの突起部621は、側板部61および超音波素子5から距離を隔てた位置であって、超音波素子5を挟んでその両側の位置に配置される。2つの突起部621は、超音波の指向性制御の観点では、超音波素子5を中心として対称配置されることが好ましいが、これに限定されない。また、2つの突起部621は、底板部62が超音波振動する際における当該振動時において、突起部621に振動の腹または節が形成される位置に配置される。これにより、2つの突起部621は、底板部62が超音波振動をする際に、音叉のように振動し、その振動が底板部62に伝搬することで後述の2つの振動モードを生じさせ、ひいては複数の共振周波数を生じさせる役割を果たす。
【0039】
なお、ここでいう「振動の腹」とは、底板部62が超音波振動により定在波が生じた状態において、底板部62のうち当該定在波において最も大きく揺れ動く点に相当する部分を指す。また、「振動の節」とは、底板部62が超音波振動により定在波が生じた状態において、底板部62のうち当該定在波において見かけ上動かない点に相当する部分を指す。
【0040】
2つの突起部621は、素子収容ケース6の寸法や材質等に応じて、その突出長さや幅寸法等が適宜変更される。この突出長さや幅寸法等については、例えばシミュレーション等により算出され得る。
【0041】
以上が、本実施形態の超音波センサ1の基本的な構成である。
【0042】
(効果)
次に、本実施形態の超音波センサ1による効果について、
図5を参照して説明する。
【0043】
上記構成の超音波センサ1では、超音波素子5は、図示しない配線から電気信号が入力されることで超音波振動する。超音波素子5が超音波振動すると、その振動により、素子収容ケース6が励振される。これにより、超音波素子5と素子収容ケース6とによって構成される超音波マイクロフォン4は、所定の振動モードで振動する。
【0044】
また、上記構成では、底板部62は、超音波素子5が貼り付けられると共に、超音波素子5を中心として2つの突起部621が対称配置された構成とされている。そして、2つの突起部621は、超音波素子5の駆動に伴い、底板部62と共に超音波振動する。
【0045】
上記の構成とされた超音波マイクロフォン4の振動状態を計算機シミュレーションした結果、
図5に示す音響インピーダンス特性が得られた。超音波マイクロフォン4では、40~70kHzの範囲内において、二個の顕著な構造共振周波数が発生している。具体的には、実施形態に係る超音波マイクロフォン4は、約47kHzおよび約67kHzに構造共振周波数を持つ構造となっている。つまり、
図5に示す結果は、底板部62に突起部621を設けることにより、複数の共振周波数を持つ超音波マイクロフォン4となることを示している。なお、第一構造共振周波数と第二構造共振周波数とは、一方が他方の高次共振周波数とはならないような関係とされる。
【0046】
図5に示す2つの構造共振周波数は、素子収容ケース6で生じる2つの振動モードに起因する。具体的には、第1の振動モードは、超音波が底板部62から側板部61に伝搬することによって生じる。第2の振動モードは、超音波が底板部62から突起部621に伝搬することによって生じる。そして、約47kHzの構造共振周波数は、上記の第1の振動モードに対応する。また、約67kHzの構造共振周波数は、上記の第1の振動モードによる振動波と、第2の振動モードによる振動波とが合成されたものによると推定される。
【0047】
より具体的には、超音波が伝搬する底板部62の厚みが、突起部621が形成された部分だけ厚くなる(変化する)ことで、底板部62における超音波伝搬のインピーダンスは、部分的に変化する。また、インピーダンスの不整合点となる2つの突起部621において、超音波振動の反射が生じ、ひいては共振、すなわち第2の振動モードが生じる。そして、底板部62における第1の振動モードと第2の振動モードとが合成されることで、第2の構造共振周波数が生じたと推定される。
【0048】
なお、
図5のシミュレーション計算においては、底板部62に突起部621を有しない場合において約45kHzの構造共振周波数をもつ超音波マイクロフォン4に、2つの突起部621を加えたものについて算出している。また、上記のシミュレーション結果は、底板部62の直径d(単位:mm)として、2つの突起部621が超音波素子5を中心とする対称配置とされ、その間隔がd×2/3とした場合のものである。
【0049】
本実施形態によれば、底板部62の内側面に突起部621を設けるという、簡単な形状変更により一個の超音波マイクロフォン4に複数の構造共振周波数を持たせることができる。また、大小の異なる2つの有底筒状ケースを貼り合わせるような従来構造に比べて、耐久性の低下やコストの増大が抑制されるとの効果も得られる。そのため、耐久性を確保しつつも、複数の共振周波数を有する構成とされた一個の超音波センサ1となる。
【0050】
(第1の変形例)
超音波センサ1において、素子収容ケース6は、
図6に示すように、側板部61が薄肉部611のみで構成されてもよい。このような構造であっても、超音波振動の伝搬経路である底板部62に突起部621が形成され、振動のインピーダンスの変化点が生じることで、複数の共振周波数を持つ構造になるとの効果が得られる。
【0051】
(第2の変形例)
超音波センサ1において、突起部621は、棒状とされる場合における形状が円柱状に限定されず、円柱状とは異なる形状とされてもよい。例えば、突起部621は、
図7に示すように正四角柱状とされてもよい。また、突起部621は、棒状だけでなく、例えば
図8に示すように、長方形四角柱状といった板状とされてもよい。さらに、突起部621は、多角柱や楕円柱などの形状とされてもよく、その形状が適宜変更され得る。本変形例においても、底板部62に振動のインピーダンスの変化点が生じ、複数の共振周波数を持つ一個の超音波センサ1となる。
【0052】
(第3の変形例)
超音波センサ1は、例えば
図9に示すように、底板部62が突起部621を1つのみ有する構造とされてもよい。
図9の超音波マイクロフォン4の振動状態を計算機シミュレーションした結果、
図10に示す音響インピーダンス特性が得られた。具体的には、この超音波マイクロフォン4では、40~70kHzの範囲内において、約47kHzおよび約65kHzの二個の顕著な構造共振周波数が発生している。本変形例においても、底板部62における振動のインピーダンスが突起部621により部分的に変化するため、2つの共振周波数を持つ一個の超音波センサ1となる。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態の超音波センサについて、
図11~
図14を参照して説明する。
【0054】
本実施形態では、超音波マイクロフォン4は、例えば
図11に示すように、素子収容ケース6の突起部621に振動減衰部64が取り付けられた構成とされている点で、上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、上記の相違点について主に説明する。
【0055】
なお、ここでは、長方形板状とされた2つの突起部621を備える場合を代表例として説明するが、これに限定するものではなく、上記第1実施形態でも述べたように、突起部621の数、形状および配置については適宜変更され得る。また、素子収容ケース6は、上記第1実施形態と同様に、薄肉部611および厚肉部612を有する構成であってもよく、代表例の構造に限定されない。
【0056】
振動減衰部64は、超音波素子5により外部に超音波を送信した後、この超音波送信に起因して突起部621で生じる意図しない振動(以下「残響振動」という)を減衰させ、より早期に反射波を受信できるようにするために設けられる部材である。
【0057】
具体的には、本発明者らによる鋭意検討の結果、突起部621を有する超音波マイクロフォン4では、超音波を外部に送信すると、例えば
図12に示すように、突起部621に意図しない残響振動が生じ得ることが判明した。突起部621に残響振動が生じた場合、残響振動が収束するまでの間、外部に送信した超音波の反射波の受信が阻害されてしまい、超音波センサの性能低下の原因となり得る。振動減衰部64は、この残響振動による振動エネルギーを相殺または吸収することで減衰させ、より早期に残響振動を収束させる役割を果たす。
【0058】
振動減衰部64は、例えば、ピエゾ素子、サーミスタや抵抗などの公知の素子または電子部品とされ、図示しない接着剤などにより突起部621に取り付けられると共に、残響振動による振動エネルギーの相殺または吸収を行う。
【0059】
例えば、振動減衰部64は、ピエゾ素子とされた場合には、残響振動が発生したとき、突起部621の残響振動を打ち消す方向に突起部621を振動させる、いわば逆相の振動をすることで、残響振動の振動エネルギーを相殺させる。この場合、振動減衰部64は、例えば
図13に示すように、図示しない配線を介して超音波マイクロフォン4の外部に配置される制御部7に接続され、制御部7からの制御信号に基づいて振動する構成とされる。
【0060】
制御部7は、例えば、図示しない回路基板上にCPU、ROMやRAMなどが搭載されてなる電子制御ユニットであり、ECU(Electronic Control Unitの略)とされる。制御部7は、超音波マイクロフォン4の状態に応じて、振動減衰部64の駆動制御を行う。
【0061】
例えば、制御部7は、超音波マイクロフォン4が外部に超音波を送信する場合には、当該超音波による突起部621の振動方向と同じ方向に突起部621が振動するように、すなわち当該超音波を打ち消さないように、振動減衰部64を振動させる制御を行う。言い換えると、制御部7は、超音波を外部に送信する場合には、振動減衰部64を突起部621の振動と同じ方向に振動させる、いわば同相の振動をさせる制御を実行する。
【0062】
一方、超音波マイクロフォン4が外部に超音波を送信した後、その反射波を受信するまでの所定の間については、制御部7は、突起部621に生じた残響振動を打ち消す方向に振動減衰部64を振動させる逆相の振動制御を実行する。
【0063】
これにより、超音波を外部に送信した場合に、振動減衰部64は、突起部621を残響振動による振動とは反対方向に振動させ、残響振動によるエネルギーを相殺する役割を果たし、残響振動を早期に収束できる。シミュレーション計算によれば、ピエゾ素子で構成された振動減衰部64を備える突起部621で残響振動が発生した場合において、突起部621の最大変位量は、振動減衰部64を振動させないときが2.38μm、振動させたときが1.68μmであった。これは、振動減衰部64が逆相の振動をすることで、突起部621の振動変位が約30%低減され、より早期に残響振動が収束することを示している。
【0064】
振動減衰部64は、例えばサーミスタにより構成された場合には、突起部621に残響振動が生じたとき、この振動エネルギーを吸収して電気エネルギーに変換することで、残響振動のエネルギーを減少させ、残響振動を早期に収束させる。この場合、例えば
図14に示すように、振動減衰部64は、図示しない配線を介して超音波マイクロフォン4の外部に配置された外部素子8に接続され、残響振動によるエネルギー吸収により生じた電気エネルギーを外部素子8に消費させる構成とされる。また、この場合、振動減衰部64と外部素子8との間には、これらの接続状態の切り替えを行うスイッチ部81が配置されてもよい。
【0065】
例えば、振動減衰部64がサーミスタで構成される場合において、外部に超音波を送信するときには、この振動エネルギーも振動減衰部64において電気エネルギーに変換されることとなる。このとき、振動エネルギーの減衰が抑制されると、超音波の送信性能が低下し得るため、スイッチ部81は、接続をオフの状態とし、外部素子8が変換された電気エネルギーを消費しない状態にする。これにより、超音波の外部への送信時において、振動減衰部64による振動減衰が抑えられ、超音波の送信性能の低下が抑制される。
【0066】
一方、超音波マイクロフォン4が外部に超音波を送信した後については、突起部621の残響振動を収束させるため、スイッチ部81は、接続をオンの状態とし、外部素子8が残響振動により振動減衰部64で生じた電気エネルギーを消費する状態とする。これにより、超音波の外部送信後については、振動減衰部64による残響振動の減衰が生じ、残響振動をより早期に収束させることができる。
【0067】
なお、外部素子8は、電気エネルギーを消費する電子部品であればよく、任意の電子部品が用いられ得る。また、スイッチ部81は、例えば、図示しない制御部に接続され、超音波マイクロフォン4の駆動状態に合わせてオン/オフの制御がなされるが、オン/オフの切り替えが可能なものであればよく、公知の素子や電子部品等が用いられ得る。
【0068】
振動減衰部64は、例えば、
図13に示すように、突起部621のうち底板部62側の根元部6211から先端部6212との間における任意の位置に配置される。振動減衰部64は、残響振動の低減の観点から、突起部621のうち少なくとも残響振動による変位が最も大きい部位を含む所定の領域に取り付けられる。
【0069】
具体的には、突起部621が例えば
図11に示すように厚みが一定の板状とされた場合には、突起部621は、先端部6212が残響振動時に最も大きく変位する部位となる。このような場合には、
図12等に示すように、振動減衰部64は、突起部621のうち少なくとも先端部6212を含む所定の領域に取り付けられる。これは、例えば、突起部621が根元部6211から先端部6212に向かうほど厚みが薄くなるなどの他の任意の形状とされることで、先端部6212での振動変位が最も大きくなる場合についても同様である。
【0070】
また、突起部621が例えば
図15に示すように根元部6211から先端部6212に向かう途中で厚みが最も小さくなるくびれ部6213を有する形状とされる場合には、突起部621は、くびれ部6213が残響振動時に最も振動変位が大きくなる。このような場合には、振動減衰部64は、
図15に示すように、突起部621のうち少なくともくびれ部6213を含む所定の領域に取り付けられる。このように、振動減衰部64は、残響振動時における突起部621の振動変位を考慮した部位に配置されることが好ましい。
【0071】
なお、突起部621の残響振動時における振動変位については、超音波解析ソフトウェア等の任意のシミュレーションプログラムにより算出される。また、振動減衰部64は、突起部621が複数形成される場合において、そのすべての突起部621に取り付けられてもよいし、一部の突起部621にのみ取り付けられてもよく、残響振動時の振動変位に応じて、取り付ける対象が適宜決定される。
【0072】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果に加えて、突起部621で生じる残響振動が振動減衰部64により低減され、より早期に反射波を受信可能となる効果が得られる。本実施形態の超音波センサでは、特に近距離での検知限界距離が向上することが期待される。
【0073】
(第3実施形態)
第3実施形態の超音波センサについて、
図16を参照して説明する。なお、
図16は、
図12に相当する断面図である。
【0074】
本実施形態の超音波センサは、例えば
図16に示すように、素子収容ケース6のうち底板部62とは反対側の開口部を閉塞する保護材65を有する点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0075】
保護材65は、
図16に示すように、側板部61のうち底板部62に閉塞された側とは反対の他端側を閉塞し、超音波素子5に接続される図示しない回路を外気から保護する部材であり、例えば、シリコーン樹脂などにより構成される。また、保護材65は、反射波を受信した際の突起部621の振動を阻害しないようにするため、突起部621と接触しないように、突起部621から距離を隔てて配置される。その結果、本実施形態では、超音波マイクロフォン4には、素子収容ケース6内の図示しない回路が外気の水分等に晒されない閉塞空間631が形成されている。これは、超音波マイクロフォン4における回路保護と突起部621による振動特性の維持とを両立させるためである。
【0076】
具体的には、例えば
図17に示すように、仮に保護材65が素子収容ケース6の内部空間63を充填するように配置された超音波センサである場合について検討する。この場合であっても、素子収容ケース6の内部空間63が保護材65で覆われるため、図示しない回路を外気から保護することができる。
【0077】
しかしながら、この構造では、突起部621が保護材65に接触しているため、外部に送信した超音波の反射波を受信した際における突起部621の振動が抑制されてしまい、突起部621の振動特性が低下し得る。
【0078】
これに対して、本実施形態では、保護材65は、側板部61のうち底板部62とは逆側の端部を閉塞することで、超音波素子5に接続された図示しない回路が配置された閉塞空間631を形成すると共に、突起部621から距離を隔てて配置されている。これにより、図示しない回路を外気から保護すると共に、突起部621に当接しないことから、外部から超音波の反射波を受信した際の突起部621の振動を阻害せず、振動特性を維持することが可能となる。
【0079】
なお、保護材65は、例えば、超音波素子5および図示しない回路を有する素子収容ケース6の開口部を鉛直方向に向けて配置し、下側から内部空間63を充填しない量のシリコーン樹脂を注入して開口部を塞ぎ、硬化させるなどの工程により形成され得る。
【0080】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果に加えて、超音波マイクロフォン4内の回路保護と突起部621の不要な振動抑制をしないこととを両立できるとの効果が得られる超音波センサとなる。
【0081】
(第3実施形態の変形例)
次に、第3実施形態の超音波センサの変形例について、
図18~
図20Cを参照して説明する。
図19では、構成部材の配置を分かり易くするため、保護材65により覆われて上面視では見えない超音波素子5および突起部621の外形を破線で示している。
【0082】
ここでは、
図18および
図19に示すように、円柱形状の2つの突起部621を有する超音波マイクロフォン4とされた場合を代表例として説明するが、この構造に限定されるものではない。
【0083】
本変形例では、保護材65は、例えば
図18に示すように、突起部621と同数の貫通孔651aを有する基部651と、基部651の貫通孔651aのうち底板部62とは反対の端部側を閉塞する閉塞部材652とにより構成されている。
【0084】
基部651は、突起部621が内部に収容される貫通孔651aが形成されており、素子収容ケース6の内部空間63のうち突起部621およびその周囲を除く領域を充填している。貫通孔651aは、例えば
図18および
図19に示すように、突起部621の外形に合わせて円柱形状とされ得るが、突起部621と基部651とが当接しない形状であればよく、この形状例に限定されない。上面視にて、貫通孔651aの中心付近には突起部621が配置され、基部651は、突起部621と当接しない状態となっている。貫通孔651aのうち突起部621とは反対の端部側には、閉塞部材652が配置されている。
【0085】
閉塞部材652は、貫通孔651aの端部を閉塞し、突起部621が収容される閉塞空間631を形成するための部材である。閉塞部材652は、貫通孔651aの端部を塞ぐことができればよく、基部651と同じシリコーン樹脂材料等で構成されてもよいし、基部651とは異なる材料で構成されてもよい。
【0086】
本変形例では、保護材65は、例えば
図20A~
図20Cに示す工程を経て形成される。まず、
図20Aに示すように、突起部621および超音波素子5を備える素子収容ケース6に突起部621を囲む筒状部材100を取り付ける。続いて、
図20Bに示すように、筒状部材100の外側にシリコーン樹脂材料を流し込んで硬化させることで、基部651を形成する。次いで、
図20Cに示すように、筒状部材100を引き抜くことで、突起部621が収容される貫通孔651aが形成される。その後、例えば、貫通孔651aの開口部が鉛直方向を向くように素子収容ケース6を配置し、下側からシリコーン樹脂材料を貫通孔651aの一部を充填する所定量だけ注入し、硬化させることで閉塞部材652を形成する。
本変形例によっても、上記第3実施形態と同様の効果が得られる超音波センサとなる。
【0087】
(第4実施形態)
第4実施形態の超音波センサについて、
図21を参照して説明する。
【0088】
本実施形態の超音波センサは、保護材65に加えて、保護材65と突起部621との間に凹部661を備える発泡部材66が配置されている点で上記第3実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0089】
発泡部材66は、突起部621を覆うように形成された凹部661を備え、例えば、絶縁性且つ弾性を有する発泡シリコーン等の発泡弾性体によって構成される。発泡部材66は、側板部61よりも小さい高さとされるとともに、後ほど形成される保護材65の材料が突起部621にまで流れ込まないように、側板部61の内径と同じ外径とされる。言い換えると、発泡部材66は、突起部621を保護しつつ、保護材65を形成する際の下地となる部材である。また、発泡部材66は、超音波マイクロフォン4から
図21では図示しないセンサケース2への振動伝達を抑制する役割も果たす。
【0090】
凹部661は、少なくとも突起部621の外形よりも大きくされ、突起部621と発泡部材66とは当接しない任意の形状とされる。凹部661は、突起部621を覆うように配置され、突起部621が収容される閉塞空間631を形成する部材である。凹部661は、切削などの任意の方法により形成される。
【0091】
本実施形態の超音波センサは、例えば、凹部661が形成された発泡部材66を凹部661で突起部621を覆うように素子収容ケース6に嵌め込んだ後、発泡部材66上にシリコーン樹脂材料を流し込んで硬化させることで得られる。
【0092】
本実施形態によれば、上記第3実施形態の効果が得られることに加えて、保護材65の形成工程が簡素化されるため、製造コストが低減された構造となる効果も期待される。
【0093】
(第4実施形態の変形例)
発泡部材66は、例えば
図22に示すように、凹部を有さない板状部材とされ、側板部61のうち底板部62から突起部621の先端よりも高い位置に形成された凸部613上に配置されてもよい。発泡部材66は、側板部61の内径と同じ外径とされ、凸部613に当接して配置されると共に、突起部621を含む所定の領域を閉塞することで、閉塞空間631を形成する。
【0094】
凸部613は、例えば、シリコーン樹脂材料等の任意の材料で形成される。凸部613は、例えば
図23Aに示すように、側板部61の内壁のうち突起部621の先端よりも高い部分に図示しない接着剤を塗布した後に貼り付けることで形成され得る。凸部613は、発泡部材66が底板部62に落下することを防止できればよく、側板部61の内壁の全周に連続的に形成されたリング状であってもよいし、断続的に形成されてもよい。また、凸部613の形状や大きさ、寸法については適宜変更され得る。
【0095】
発泡部材66は、本変形例では、凸部613が形成された後、例えば
図23Bに示すように、発泡部材66を凸部613上に配置される。これにより、突起部621が収容される閉塞空間631が形成されると共に、凸部613に支えられた発泡部材66が突起部621に当接することがなく、図示しない回路の保護と突起部621の振動特性の維持とが両立した構造となる。
【0096】
本変形例によっても、上記第4実施形態と同様の効果が得られる超音波センサとなる。
【0097】
(第5実施形態)
第5実施形態の超音波センサについて、
図24を参照して説明する。
【0098】
本実施形態の超音波センサは、素子収容ケース6の側板部61の外壁面に図示しない接着剤および防水部材10を介して筐体9が取り付けられ、内部空間63が筐体9の内部空間91と共に、筐体9によって閉塞されている点で上記第1実施形態と相違する。
【0099】
筐体9は、例えば、任意の金属材料により構成されると共に、図示しない接着剤および防水部材10を介して側板部61の外周側である外壁面に取り付けられる。つまり、筐体9は、素子収容ケース6の外側に配置されると共に、超音波素子5に接続される図示しない回路が外気に晒されないように覆うことで、回路保護の閉塞空間を形成する部材である。
【0100】
なお、筐体9の内部空間91には、図示しない回路基板等の他の部材が配置されてもよいが、この場合、他の部材は、少なくとも突起部621に当接しないように配置される。
【0101】
防水部材10は、例えば、防水ゴムなどの任意の樹脂材料とされる。防水部材10は、外部から筐体9の内部に空気中の水分が侵入することを抑制する部材であり、任意の方法で筐体9に取り付けられ、図示しない接着剤などにより素子収容ケース6に取り付けられる。
【0102】
本実施形態の超音波センサは、上記第3実施形態と同様に、素子収容ケース6内の図示しない回路を外気から保護しつつ、突起部621に他の部材が当接しない構成であるため、回路保護と振動特性の維持とが両立可能である。
【0103】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果に加えて、上記第3実施形態と同様に、回路保護と振動特性の維持とが両立できる効果も得られる超音波センサとなる。
【0104】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0105】
(1)例えば、超音波センサ1は、超音波を送受信可能な構成に限定されず、超音波の発信のみが可能な構成であってもよい。あるいは、超音波センサ1は、他の超音波発信器から発信された超音波である探査波の、周囲に存在する物体による反射波を受信する機能のみを有する構成であってもよい。つまり、超音波マイクロフォン4は、送受信用であってもよいし、送信用であってもよいし、受信用であってもよい。
【0106】
(2)超音波マイクロフォン4すなわち素子収容ケース6の外形形状は、略円柱状に限定されず、略正六角柱状、略正八角柱状、等であってもよい。
【0107】
(3)超音波素子5は、圧電素子に限定されず、例えば、いわゆる静電容量型素子が用いられてもよい。
【0108】
(4)上記の説明において、互いに継ぎ目無く一体に形成されていた複数の構成要素は、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されてもよい。同様に、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されていた複数の構成要素は、互いに継ぎ目無く一体に形成されてもよい。例えば、素子収容ケース6は、複数の別体の部材を溶接や接着により繋ぎ合わせた構成とされてもよい。
【0109】
(5)上記の説明において、互いに同一の材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに異なる材料によって形成されてもよい。同様に、互いに異なる材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに同一の材料によって形成されてもよい。
【0110】
(6)突起部621は、素子収容ケース6と同一材料で一体に構成されるだけでなく、素子収容ケース6とは異なる材料で構成されてもよい。この場合、突起部621は、素子収容ケース6の他の部分とは別体で形成され、任意の接着剤で取り付けられてもよいし、溶接等により底板部62と一体化されてもよい。これにより、突起部621を素子収容ケース6と同一材料で一体に形成する場合に比べて、製造コストを低減する効果が期待される。また、底板部62とは異なる材料、すなわち超音波振動の伝搬速度が異なる材料により突起部621を構成することで、超音波マイクロフォン4の振動伝搬を制御することもできる。
【0111】
(7)底板部62に2つの突起部621が形成される場合において、2つの突起部621は、その形状や寸法等が同一とされるだけでなく、これらが互いに異なっていてもよい。
【0112】
(8)突起部621は、上記実施形態の例における数量に限定されるものではなく、底板部62に3つ以上設けられてもよい。
【0113】
(9)突起部621の形状は、単なる柱状や板状に限定されず、円錐形状等の錘状であってもよいし、切欠き部などが形成されていてもよく、上記した形状とは異なる他の形状であってもよい。なお、突起部621の形状変更により、底板部62における重量や厚みのバランスを調整し、共振振動の周波数や振動の大きさを変更することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 超音波センサ
4 超音波マイクロフォン
5 超音波素子
6 素子収容ケース
61 側板部
611 薄肉部
612 厚肉部
62 底板部
621 突起部
DA 指向中心軸