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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】四輪駆動車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/18 20120101AFI20231024BHJP
   B60W 30/192 20120101ALI20231024BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231024BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20231024BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20231024BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20231024BHJP
   B60W 20/10 20160101ALI20231024BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20231024BHJP
   B60K 6/38 20071001ALI20231024BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20231024BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20231024BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20231024BHJP
   B60L 7/26 20060101ALI20231024BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231024BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231024BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20231024BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20231024BHJP
【FI】
B60W10/18 900
B60W30/192
B60W10/08 900
B60W10/02 900
B60K6/445 ZHV
B60K6/52
B60W20/10
B60W20/14
B60K6/38
B60K17/348 B
B60T8/17 C
B60L7/24 D
B60L7/26
B60L15/20 K
B60L50/16
B60L50/60
B60L58/13
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020099685
(22)【出願日】2020-06-08
(65)【公開番号】P2021193011
(43)【公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 有記
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/164662(WO,A1)
【文献】特開2006-157986(JP,A)
【文献】国際公開第2018/189907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/18
B60W 30/192
B60W 10/08
B60W 10/02
B60K 6/445
B60K 6/52
B60W 20/10
B60W 20/14
B60K 6/38
B60K 17/348
B60T 8/17
B60L 7/24
B60L 7/26
B60L 15/20
B60L 50/16
B60L 50/60
B60L 58/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源として回転機を備えるとともに、前記駆動力源から主駆動輪に出力される駆動力の一部を副駆動輪に配分するとともに係合力が制御されることにより前記主駆動輪及び前記副駆動輪への駆動力配分比を可変とする駆動力配分クラッチと、制御装置と、を備えた四輪駆動車両であって、
前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断された場合に対して、前記回転機の回生トルクを制限し、
前記制御装置は、さらに、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更する制御機能を有しており、
前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するに当たり、前記回転機に対して電力の授受を行う蓄電装置の充電残量が予め定められた所定値以上の場合には、前記回転機の回生トルクを制限し、前記蓄電装置の前記充電残量が前記所定値よりも小さい場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更する
ことを特徴とする四輪駆動車両。
【請求項2】
駆動力源として回転機を備えるとともに、前記駆動力源から主駆動輪に出力される駆動力の一部を副駆動輪に配分するとともに係合力が制御されることにより前記主駆動輪及び前記副駆動輪への駆動力配分比を可変とする駆動力配分クラッチと、制御装置と、を備えた四輪駆動車両であって、
前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断された場合に対して、前記回転機の回生トルクを制限し、
前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が予め定められた閾値よりも大きいと前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値以下であると前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断し、
車両の減速走行時に運転手の手動操作によって前記四輪駆動車両の減速度を調節することができる減速度調節装置が設けられており、
前記制御装置は、運転手によって前記減速度調節装置が手動操作されると、前記閾値が大きくなるように変更する
ことを特徴とする四輪駆動車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値よりも大きくなると、前記回転機の回生トルクを制限するとともに前記閾値を前記閾値よりも小さい制限解除閾値に変更し、
前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記制限解除閾値以下になると、前記回転機での前記回生トルクの制限を解除する
ことを特徴とする請求項の四輪駆動車両。
【請求項4】
前記主駆動輪及び前記副駆動輪の各輪のそれぞれには、制動力を調節可能なホイールブレーキが設けられており、
前記制御装置は、前記回転機の回生トルクを制限した場合には、その制限に伴う前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うように前記各輪に設けられた前記ホイールブレーキの制動力を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1の四輪駆動車両。
【請求項5】
前記制御装置は、前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うに当たり、前記主駆動輪および前記副駆動輪に付与する前記制動力の配分比が前記駆動力配分比と等しくなるように前記各輪に設けられた前記ホイールブレーキの制動力を制御する
ことを特徴とする請求項の四輪駆動車両。
【請求項6】
前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチに入力される入力トルクの大きさに基づいて前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1の四輪駆動車両。
【請求項7】
前記駆動力配分クラッチは、湿式クラッチであり、
前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの油温に基づいて前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1乃至の何れか1の四輪駆動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、係合力が制御されることにより駆動力源から主駆動輪および副駆動輪にそれぞれ伝達する駆動力の駆動力配分比を変える駆動力配分クラッチを備えた四輪駆動車両に関して、車両の減速走行時において前記駆動力配分クラッチの耐久性の悪化を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a)駆動力源として回転機を備えるとともに、(b)前記駆動力源から主駆動輪に出力される駆動力の一部を副駆動輪に配分するとともに係合力が制御されることにより前記主駆動輪および前記副駆動輪への駆動力配分比を可変とする駆動力配分クラッチを備えた四輪駆動車両がよく知られている。例えば、特許文献1に記載された四輪駆動車両がそれである。尚、特許文献1の四輪駆動車両は、車両の減速走行時には前記回転機による回生ブレーキを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/042951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1の四輪駆動車両とは異なる例えは駆動力源としてエンジンのみを搭載した四輪駆動車両では、車両の減速走行時にエンジンブレーキを使用するが、前記回生ブレーキと前記エンジンブレーキとを比較した場合において前記回生ブレーキの制動力が前記エンジンブレーキの制動力よりも大きくなる。このため、特許文献1の四輪駆動車両では、車両の減速走行時において、例えば駆動力源としてエンジンのみを搭載した四輪駆動車両に比べて、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が増えて前記駆動力配分クラッチの耐久性が悪化するという恐れがあった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、駆動力配分クラッチの耐久性が悪化することを抑制する四輪駆動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)駆動力源として回転機を備えるとともに、前記駆動力源から主駆動輪に出力される駆動力の一部を副駆動輪に配分するとともに係合力が制御されることにより前記主駆動輪および前記副駆動輪への駆動力配分比を可変とする駆動力配分クラッチと、制御装置と、を備えた四輪駆動車両であって、(b)前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断された場合に対して、前記回転機の回生トルクを制限し、(c)前記制御装置は、さらに、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更する制御機能を有しており、(d)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するに当たり、前記回転機に対して電力の授受を行う蓄電装置の充電残量が予め定められた所定値以上の場合には、前記回転機の回生トルクを制限し、前記蓄電装置の前記充電残量が前記所定値よりも小さい場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更することにある。
【0007】
また、第発明の要旨とするところは、前記第1発明乃至第3発明の何れか1の発明において、(a)前記主駆動輪および前記副駆動輪の各輪のそれぞれには、制動力を調節可能なホイールブレーキが設けられており、(b)前記制御装置は、前記回転機の回生トルクを制限した場合には、その制限に伴う前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うように前記各輪に設けられた前記ホイールブレーキの制動力を制御することにある。
【0008】
また、第発明の要旨とするところは、前記第発明において、前記制御装置は、前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うに当たり、前記主駆動輪および前記副駆動輪に付与する前記制動力の配分比が前記駆動力配分比と等しくなるように前記各輪に設けられた前記ホイールブレーキの制動力を制御することにある。
【0010】
また、第発明の要旨とするところは、前記第1発明乃至前記第発明の何れか1の発明において、前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチに入力される入力トルクの大きさに基づいて前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断することにある。
【0011】
また、第発明の要旨とするところは、前記第発明乃至前記第発明の何れか1の発明において、(a)前記駆動力配分クラッチは、湿式クラッチであり、(b)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの油温に基づいて前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断することにある。
【0012】
また、第発明の要旨とするところは、(a)駆動力源として回転機を備えるとともに、前記駆動力源から主駆動輪に出力される駆動力の一部を副駆動輪に配分するとともに係合力が制御されることにより前記主駆動輪および前記副駆動輪への駆動力配分比を可変とする駆動力配分クラッチと、制御装置と、を備えた四輪駆動車両であって、(b)前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断された場合に対して、前記回転機の回生トルクを制限し、(c)前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が予め定められた閾値よりも大きいと前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値以下であると前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断し、(d)車両の減速走行時に運転手の手動操作によって前記四輪駆動車両の減速度を調節することができる減速度調節装置が設けられており、(e)前記制御装置は、運転手によって前記減速度調節装置が手動操作されると、前記閾値が大きくなるように変更することにある。
【0013】
また、第発明の要旨とするところは、前記第発明において、(a)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値よりも大きくなると、前記回転機の回生トルクを制限するとともに前記閾値を前記閾値よりも小さい制限解除閾値に変更し、(b)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記制限解除閾値以下になると、前記回転機での前記回生トルクの制限を解除することにある。
【発明の効果】
【0015】
第1発明の四輪駆動車両によれば、前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断された場合に対して、前記回転機の回生トルクを制限する。このため、車両の減速走行時において前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断されると、前記制御装置によって前記回転機の回生トルクが制限されるので、前記駆動力配分比を変更することなく前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減することができる。これによって、前記駆動力配分クラッチの耐久性が悪化するのを抑制することができる。
また、第1発明の四輪駆動車両によれば、前記制御装置は、さらに、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断された場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更する制御機能を有しており、前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するに当たり、前記回転機に対して電力の授受を行う蓄電装置の充電残量が予め定められた所定値以上の場合には、前記回転機の回生トルクを制限し、前記蓄電装置の前記充電残量が前記所定値よりも小さい場合には、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更する。このため、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断されると、前記充電残量が前記所定値よりも小さい場合には、前記回転機の回生トルクを制限せずに前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するように前記駆動力配分比を変更して前記駆動力配分クラッチの熱負荷を軽減するので、エネルギー効率が悪化する影響を好適に抑制することができる。
【0016】
発明の四輪駆動車両によれば、(a)前記主駆動輪および前記副駆動輪の各輪のそれぞれには、制動力を調節可能なホイールブレーキが設けられており、(b)前記制御装置は、前記回転機の回生トルクを制限した場合には、その制限に伴う前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うように前記各輪に設けられた前記ホイールブレーキの制動力を制御する。このため、前記回転機の回生トルクが制限されると、前記制御装置によって、その回生トルクの制限に伴う前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うように前記ホイールブレーキの制動力が制御されるので、前記四輪駆動車両の制動力の不足を抑制することができる。
【0017】
発明の四輪駆動車両によれば、前記制御装置は、前記四輪駆動車両の制動力の不足を補うに当たり、前記主駆動輪および前記副駆動輪に付与する前記制動力の配分比が前記駆動力配分比と等しくなるように前記各輪に設けられた前記ホイールブレーキの制動力を制御する。このため、前記主駆動輪および前記副駆動輪に付与される制動力の配分比が前記駆動力配分比と等しくなる。これによって、車両姿勢が変化するのを好適に抑制することができる。
【0019】
発明の四輪駆動車両によれば、前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチに入力される入力トルクの大きさに基づいて前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断する。このため、前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチに入力される入力トルクの大きさに基づいて前記回転機の回生トルクを制限することができる。
【0020】
発明の四輪駆動車両によれば、(a)前記駆動力配分クラッチは、湿式クラッチであり、(b)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの油温に基づいて前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいか否かを判断する。このため、前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの油温に基づいて前記回転機の回生トルクを制限することができる。
【0021】
発明の四輪駆動車両によれば、前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が予め定められた閾値よりも大きいと前記駆動力配分クラッチの熱負荷が大きいと判断し、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値以下であると前記駆動力配分クラッチの熱負荷が小さいと判断する。このため、前記制御装置は、車両の減速走行時において、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値よりも大きいと前記回転機の回生トルクを制限することができる。
また、第2発明の四輪駆動車両によれば、車両の減速走行時に運転手の手動操作によって前記四輪駆動車両の減速度を調節することができる減速度調節装置が設けられており、前記制御装置は、運転手によって前記減速度調節装置が手動操作されると、前記閾値が大きくなるように変更する。このため、車両の減速走行時において、前記減速度調節装置が運転手によって手動操作されることにより前記閾値が大きくなるので、前記回転機の回生トルクの制限が緩和され運転性が高められる。
【0022】
発明の四輪駆動車両によれば、(a)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値よりも大きくなると、前記回転機の回生トルクを制限するとともに前記閾値を前記閾値よりも小さい制限解除閾値に変更し、(b)前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記制限解除閾値以下になると、前記回転機での前記回生トルクの制限を解除する。このため、前記制御装置は、前記駆動力配分クラッチの熱負荷が前記閾値よりも大きくなってから前記閾値よりも小さい前記制限解除閾値以下になるまでの比較的長い間、前記回転機の回生トルクを制限することができるので、前記駆動力配分クラッチの熱負荷を好適に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明が適用される四輪駆動車両の概略構成を説明する図であると共に、四輪駆動車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2図1の自動変速機の概略構成を説明する図である。
図3図2の機械式有段変速部の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
図4図2の電気式無段変速部と機械式有段変速部とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図5図1のトランスファの構造を説明する骨子図である。
図6】複数種類の操作ポジションを人為的操作により切り換えるシフト操作装置の一例を示す図である。
図7】有段変速部の変速制御に用いるATギヤ段変速マップと、走行モードの切替制御に用いる走行モード切替マップとの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
図8】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、車両の減速走行時における第2回転機による回生制御等の制御作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明が適用される四輪駆動車両10の概略構成を説明する図であると共に、四輪駆動車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、四輪駆動車両10は、エンジン12(図中の「ENG」参照)、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を駆動力源として備えたハイブリッド車両である。又、四輪駆動車両10は、左右一対の前輪14L、14Rと、左右一対の後輪16L、16Rと、エンジン12等からの駆動力を前輪14L、14R及び後輪16L、16Rへそれぞれ伝達する動力伝達装置18と、を備えている。後輪16L、16Rは、二輪駆動走行中及び四輪駆動走行中において共に駆動輪となる主駆動輪である。又、前輪14L、14Rは、二輪駆動走行中において従動輪となり、四輪駆動走行中において駆動輪となる副駆動輪である。四輪駆動車両10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式の車両をベースとする四輪駆動車両である。本実施例では、特に区別しない場合には、前輪14L、14Rを前輪14と称し、後輪16L、16Rを後輪16と称する。又、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2については、特に区別しない場合は単に駆動力源PUという。
【0027】
エンジン12は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源であって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置130によって、四輪駆動車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置20が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0028】
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、四輪駆動車両10の走行用の駆動力源となり得る。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、四輪駆動車両10に備えられたインバータ22を介して、四輪駆動車両10に備えられたバッテリ24に接続されている。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、後述する電子制御装置130によってインバータ22が制御されることにより、第1回転機MG1の出力トルクであるMG1トルクTg及び第2回転機MG2の出力トルクであるMG2トルクTmが制御される。回転機の出力トルクは、例えば正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。バッテリ24は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース26内に設けられている。
【0029】
動力伝達装置18は、ハイブリッド用のトランスミッションである自動変速機28(図中の「HV用T/M」参照)と、トランスファ30(図中の「T/F」参照)と、フロントプロペラシャフト32と、リヤプロペラシャフト34と、前輪側差動歯車装置36(図中の「FDiff」参照)と、後輪側差動歯車装置38(図中の「RDiff」参照)と、左右一対の前輪車軸40L、40Rと、左右一対の後輪車軸42L、42Rと、を備えている。動力伝達装置18において、自動変速機28を介して伝達されたエンジン12等からの駆動力が、トランスファ30から、リヤプロペラシャフト34、後輪側差動歯車装置38、後輪車軸42L、42R等を順次介して後輪16L、16Rへ伝達される。又、動力伝達装置18において、トランスファ30に伝達されたエンジン12からの駆動力の一部が前輪14L、14R側へ配分されると、その配分された駆動力が、フロントプロペラシャフト32、前輪側差動歯車装置36、前輪車軸40L、40R等を順次介して前輪14L、14Rへ伝達される。
【0030】
図2は、自動変速機28の概略構成を説明する図である。図2において、自動変速機28は、ケース26内において共通の回転軸線CL1上に直列に配設された、電気式無段変速部44及び機械式有段変速部46等を備えている。電気式無段変速部44は、直接的に或いは図示しないダンパーなどを介して間接的にエンジン12に連結されている。機械式有段変速部46は、電気式無段変速部44の出力側に連結されている。機械式有段変速部46の出力側には、トランスファ30が連結されている。自動変速機28において、エンジン12や第2回転機MG2等から出力される動力は、機械式有段変速部46へ伝達され、その機械式有段変速部46からトランスファ30へ伝達される。尚、以下、電気式無段変速部44を無段変速部44、機械式有段変速部46を有段変速部46という。又、動力は、特に区別しない場合にはトルクや力も同意である。又、無段変速部44及び有段変速部46は回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、図2ではその回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。回転軸線CL1は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された自動変速機28の入力回転部材である連結軸48、自動変速機28の出力回転部材である出力軸50などの軸心である。連結軸48は無段変速部44の入力回転部材でもあり、出力軸50は有段変速部46の出力回転部材でもある。
【0031】
無段変速部44は、第1回転機MG1と、エンジン12の動力を第1回転機MG1及び無段変速部44の出力回転部材である中間伝達部材52に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構54とを備えている。中間伝達部材52には、第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。無段変速部44は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構54の差動状態が制御される電気式無段変速機である。無段変速部44は、変速比(ギヤ比ともいう)γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)が変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度であり、無段変速部44の入力回転速度すなわち連結軸48の回転速度と同値である。エンジン回転速度Neは、無段変速部44と有段変速部46とを合わせた全体の自動変速機28の入力回転速度でもある。MG2回転速度Nmは、第2回転機MG2の回転速度であり、無段変速部44の出力回転速度すなわち中間伝達部材52の回転速度と同値である。第1回転機MG1は、エンジン回転速度Neを制御可能な回転機である。尚、第1回転機MG1の運転状態を制御することは、第1回転機MG1の運転制御を行うことである。
【0032】
差動機構54は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0を備えている。キャリアCA0には連結軸48を介してエンジン12が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構54において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
【0033】
有段変速部46は、中間伝達部材52とトランスファ30との間の動力伝達経路を構成する有段変速機である。中間伝達部材52は、有段変速部46の入力回転部材としても機能する。中間伝達部材52には第2回転機MG2が一体回転するように連結されている。有段変速部46は、走行用の駆動力源PUと駆動輪(前輪14、後輪16)との間の動力伝達経路の一部を構成する自動変速機である。有段変速部46は、例えば第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0034】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、四輪駆動車両10に備えられた油圧制御回路60(図1参照)から出力される調圧された係合装置CBの各油圧により、各々、係合や解放などの状態である作動状態が切り替えられる。
【0035】
有段変速部46は、第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材52、ケース26、或いは出力軸50に連結されている。第1遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置58の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0036】
有段変速部46は、複数の係合装置のうちの何れかの係合装置である例えば所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度Ni/出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。つまり、有段変速部46は、複数の係合装置の何れかが係合されることで、ギヤ段が切り替えられるすなわち変速が実行される。有段変速部46は、複数のギヤ段の各々が形成される、有段式の自動変速機である。本実施例では、有段変速部46にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、有段変速部46の入力回転部材の回転速度である有段変速部46の入力回転速度であって、中間伝達部材52の回転速度と同値であり、又、MG2回転速度Nmと同値である。AT入力回転速度Niは、MG2回転速度Nmで表すことができる。出力回転速度Noは、有段変速部46の出力回転速度である出力軸50の回転速度であって、自動変速機28の出力回転速度でもある。
【0037】
有段変速部46は、例えば図3の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。又、後進用のATギヤ段(図中の「Rev」)は、例えばクラッチC1の係合且つブレーキB2の係合によって形成される。つまり、後進走行を行う際には、例えばAT1速ギヤ段が形成される。図3の係合作動表は、各ATギヤ段と複数の係合装置の各作動状態との関係をまとめたものである。すなわち、図3の係合作動表は、各ATギヤ段と、各ATギヤ段において各々係合される係合装置である所定の係合装置との関係をまとめたものである。図3において、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部46のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。
【0038】
有段変速部46は、後述する電子制御装置130によって、ドライバー(すなわち運転手)のアクセル操作や車速V等に応じて形成されるATギヤ段が切り替えられる、すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される。例えば、有段変速部46の変速制御においては、係合装置CBの何れかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。
【0039】
四輪駆動車両10は、更に、ワンウェイクラッチF0、機械式のオイルポンプであるMOP62、不図示の電動式のオイルポンプ等を備えている。
【0040】
ワンウェイクラッチF0は、キャリアCA0を回転不能に固定することができるロック機構である。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12のクランク軸と連結された、キャリアCA0と一体的に回転する連結軸48を、ケース26に対して固定することができるロック機構である。ワンウェイクラッチF0は、相対回転可能な2つの部材のうちの一方の部材が連結軸48に一体的に連結され、他方の部材がケース26に一体的に連結されている。ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向である正回転方向に対して空転する一方で、エンジン12の運転時とは逆の回転方向に対して機械的に自動係合する。従って、ワンウェイクラッチF0の空転時には、エンジン12はケース26に対して相対回転可能な状態とされる。一方で、ワンウェイクラッチF0の係合時には、エンジン12はケース26に対して相対回転不能な状態とされる。すなわち、ワンウェイクラッチF0の係合により、エンジン12はケース26に固定される。このように、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の運転時の回転方向となるキャリアCA0の正回転方向の回転を許容し且つキャリアCA0の負回転方向の回転を阻止する。すなわち、ワンウェイクラッチF0は、エンジン12の正回転方向の回転を許容し且つ負回転方向の回転を阻止することができるロック機構である。
【0041】
MOP62は、連結軸48に連結されており、エンジン12の回転と共に回転させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油OILを吐出する。又、不図示の電動式のオイルポンプは、例えばエンジン12の停止時すなわちMOP62の非駆動時に駆動させられる。MOP62や不図示の電動式のオイルポンプが吐出した作動油OILは、油圧制御回路60へ供給される。係合装置CBは、作動油OILを元にして油圧制御回路60により調圧された各油圧によって作動状態が切り替えられる。
【0042】
図4は、無段変速部44と有段変速部46とにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図4において、無段変速部44を構成する差動機構54の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部46の入力回転速度)を表すm軸である。又、有段変速部46の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸50の回転速度)、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構54の歯車比ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置56、58の各歯車比ρ1、ρ2に応じて定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリアとリングギヤとの間が遊星歯車装置の歯車比ρ(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)に対応する間隔とされる。
【0043】
図4の共線図を用いて表現すれば、無段変速部44の差動機構54において、第1回転要素RE1にエンジン12(図中の「ENG」参照)が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照)が連結され、中間伝達部材52と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照)が連結されて、エンジン12の回転を中間伝達部材52を介して有段変速部46へ伝達するように構成されている。無段変速部44では、縦線Y2を横切る各直線L0e、L0m、L0Rにより、サンギヤS0の回転速度とリングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0044】
又、有段変速部46において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材52に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸50に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材52に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース26に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース26に選択的に連結される。有段変速部46では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、出力軸50における「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」の各回転速度が示される。
【0045】
図4中の実線で示す、直線L0e及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン12を駆動力源として走行するハイブリッド走行(=HV走行)が可能なHV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。このHV走行モードでは、差動機構54において、キャリアCA0に入力される正トルクのエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクの反力トルクとなるMG1トルクTgがサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ0)=-(1/ρ0)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。第1回転機MG1は、正回転にて負トルクを発生する場合には発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ24に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ24からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。
【0046】
図4中の一点鎖線で示す直線L0m及び図4中の実線で示す直線L1、L2、L3、L4は、エンジン12の運転を停止した状態で第1回転機MG1及び第2回転機MG2のうちの少なくとも一方の回転機を駆動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードでの前進走行における各回転要素の相対速度を示している。EV走行モードでの前進走行におけるEV走行としては、例えば第2回転機MG2のみを駆動力源として走行する単駆動EV走行と、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を共に駆動力源として走行する両駆動EV走行とがある。単駆動EV走行では、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。単駆動EV走行では、ワンウェイクラッチF0が解放されており、連結軸48はケース26に対して固定されていない。
【0047】
両駆動EV走行では、キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力されると、キャリアCA0の負回転方向への回転が阻止されるようにワンウェイクラッチF0が自動係合される。ワンウェイクラッチF0の係合によってキャリアCA0が回転不能に固定された状態においては、MG1トルクTgによる反力トルクがリングギヤR0へ入力される。加えて、両駆動EV走行では、単駆動EV走行と同様に、リングギヤR0にはMG2トルクTmが入力される。キャリアCA0がゼロ回転とされた状態で、サンギヤS0に負回転にて負トルクとなるMG1トルクTgが入力された際に、MG2トルクTmが入力されなければ、MG1トルクTgによる単駆動EV走行も可能である。EV走行モードでの前進走行では、エンジン12は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG1トルクTg及びMG2トルクTmのうちの少なくとも一方のトルクが四輪駆動車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段-AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。EV走行モードでの前進走行では、MG1トルクTgは負回転且つ負トルクの力行トルクであり、MG2トルクTmは正回転且つ正トルクの力行トルクである。
【0048】
図4中の破線で示す、直線L0R及び直線LRは、EV走行モードでの後進走行における各回転要素の相対速度を示している。このEV走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTmが入力され、そのMG2トルクTmが四輪駆動車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部46を介してトランスファ30へ伝達される。四輪駆動車両10では、後述する電子制御装置130によって、複数のATギヤ段のうちの前進用のロー側のATギヤ段である例えばAT1速ギヤ段が形成された状態で、前進走行時における前進用のMG2トルクTmとは正負が反対となる後進用のMG2トルクTmが第2回転機MG2から出力させられることで、後進走行を行うことができる。EV走行モードでの後進走行では、MG2トルクTmは負回転且つ負トルクの力行トルクである。尚、HV走行モードにおいても、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、EV走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
【0049】
図5は、トランスファ30の構造を説明する骨子図である。トランスファ30は、非回転部材としてのトランスファケース64を備えている。トランスファ30は、トランスファケース64内において、後輪側出力軸66と、前輪駆動用ドライブギヤ68と、前輪駆動用クラッチ70とを共通の回転軸線CL1を中心にして備えている。又、トランスファ30は、トランスファケース64内において、前輪側出力軸72と、前輪駆動用ドリブンギヤ74とを共通の回転軸線CL2を中心にして備えている。更に、トランスファ30は、前輪駆動用アイドラギヤ76を備えている。回転軸線CL2は、フロントプロペラシャフト32、前輪側出力軸72などの軸心である。
【0050】
後輪側出力軸66は、出力軸50に動力伝達可能に連結されていると共に、リヤプロペラシャフト34に動力伝達可能に連結されている。後輪側出力軸66は、駆動力源PUから自動変速機28を介して出力軸50に伝達された駆動力を後輪16へ出力する。尚、出力軸50は、トランスファ30の後輪側出力軸66に駆動力源PUからの駆動力を入力するトランスファ30の入力回転部材、つまりトランスファ30に駆動力源PUからの駆動力を伝達する駆動力伝達軸としても機能する。自動変速機28は、駆動力源PUからの駆動力を出力軸50へ伝達する自動変速機である。
【0051】
前輪駆動用ドライブギヤ68は、後輪側出力軸66に対して相対回転可能に設けられている。前輪駆動用クラッチ70は、多板の湿式クラッチであり、後輪側出力軸66から前輪駆動用ドライブギヤ68へ伝達される伝達トルクを制御する。すなわち、前輪駆動用クラッチ70は、後輪側出力軸66から前輪側出力軸72へ伝達される伝達トルクを制御する。
【0052】
前輪駆動用ドリブンギヤ74は、前輪側出力軸72に一体的に設けられており、前輪側出力軸72に動力伝達可能に連結されている。前輪駆動用アイドラギヤ76は、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74とにそれぞれ噛み合わされており、前輪駆動用ドライブギヤ68と前輪駆動用ドリブンギヤ74との間を動力伝達可能に連結する。
【0053】
前輪側出力軸72は、前輪駆動用アイドラギヤ76及び前輪駆動用ドリブンギヤ74を介して前輪駆動用ドライブギヤ68に動力伝達可能に連結されていると共に、フロントプロペラシャフト32に動力伝達可能に連結されている。前輪側出力軸72は、前輪駆動用クラッチ70を介して前輪駆動用ドライブギヤ68に伝達された駆動力源PUからの駆動力の一部を前輪14へ出力する。
【0054】
前輪駆動用クラッチ70は、クラッチハブ78と、クラッチドラム80と、摩擦係合要素82と、ピストン84とを備えている。クラッチハブ78は、後輪側出力軸66に動力伝達可能に連結されている。クラッチドラム80は、前輪駆動用ドライブギヤ68に動力伝達可能に連結されている。摩擦係合要素82は、クラッチハブ78に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチハブ78に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第1摩擦板82aと、クラッチドラム80に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能且つクラッチドラム80に対して相対回転不能に設けられた複数枚の第2摩擦板82bとを有している。第1摩擦板82aと第2摩擦板82bとは、回転軸線CL1方向で交互に重なるようにして配置されている。ピストン84は、回転軸線CL1方向に移動可能に設けられ、摩擦係合要素82に当接して第1摩擦板82aと第2摩擦板82bとを押圧することで、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量すなわち前輪駆動用クラッチ70の係合力が制御される。尚、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロとなり、前輪駆動用クラッチ70が解放される。
【0055】
トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量すなわち係合力を制御することで、自動変速機28を介して伝達された駆動力源PUの駆動力を、後輪側出力軸66及び前輪側出力軸72に配分する。トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70が解放されている場合には、後輪側出力軸66と前輪駆動用ドライブギヤ68との間の動力伝達経路が切断されるので、駆動力源PUから自動変速機28を介してトランスファ30に伝達された駆動力をリヤプロペラシャフト34等を介して後輪16へ伝達する。又、トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70がスリップ係合状態又は完全係合状態である場合には、後輪側出力軸66と前輪駆動用ドライブギヤ68との間の動力伝達経路が接続されるので、駆動力源PUからトランスファ30を介して伝達された駆動力の一部を、フロントプロペラシャフト32等を介して前輪14に伝達すると共に、駆動力の残部をリヤプロペラシャフト34等を介して後輪16に伝達する。すなわち、トランスファ30に設けられた前輪駆動用クラッチ70は、トルク容量すなわち係合力が制御されて作動状態が切り替わることにより駆動力源PUから後輪16に出力される駆動力の一部を前輪14に配分することができる駆動力配分クラッチである。
【0056】
トランスファ30は、前輪駆動用クラッチ70を作動させる装置として、電動モータ86と、ウォームギヤ88と、カム機構90とを備えている。
【0057】
ウォームギヤ88は、電動モータ86のモータシャフトに一体的に形成されたウォーム92と、ウォーム92と噛み合う歯が形成されたウォームホイール94とを備えた歯車対である。ウォームホイール94は、回転軸線CL1を中心にして回転可能に設けられている。ウォームホイール94は、電動モータ86が回転させられると、回転軸線CL1を中心にして回転させられる。
【0058】
カム機構90は、ウォームホイール94と前輪駆動用クラッチ70のピストン84との間に設けられている。カム機構90は、ウォームホイール94に接続されている第1部材96と、ピストン84に接続されている第2部材98と、第1部材96と第2部材98との間に介挿されている複数個のボール99とを備えており、電動モータ86の回転運動を直線運動に変換する機構である。
【0059】
複数個のボール99は、回転軸線CL1を中心とする回転方向において等角度間隔に配置されている。第1部材96及び第2部材98のボール99と接触する面には、それぞれカム溝が形成されている。各カム溝は、第1部材96が第2部材98に対して相対回転した場合において、第1部材96と第2部材98とが回転軸線CL1方向で互いに乖離するように形成されている。従って、第1部材96が第2部材98に対して相対回転すると、第1部材96と第2部材98とが互いに乖離して第2部材98が回転軸線CL1方向に移動させられ、第2部材98に接続されているピストン84が摩擦係合要素82を押圧する。電動モータ86によってウォームホイール94が回転させられると、ウォームホイール94の回転運動が、カム機構90を介して回転軸線CL1方向への直線運動に変換されてピストン84に伝達され、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する。ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する押圧力が制御されることにより、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量すなわち係合力が制御される。前輪駆動用クラッチ70は、係合力が制御されることで、後輪16と前輪14とに配分する駆動力源PUからの駆動力の割合である後輪16及び前輪14への駆動力配分比Rxを変えることができる。
【0060】
駆動力配分比Rxは、例えば駆動力源PUから後輪16及び前輪14に伝達される総駆動力に対する後輪16に伝達される駆動力の割合、すなわち後輪側配分率Xrである。又は、駆動力配分比Rxは、例えば駆動力源PUから後輪16及び前輪14に伝達される総駆動力に対する前輪14に伝達される駆動力の割合、すなわち前輪側配分率Xf(=1-Xr)である。本実施例では、後輪16が主駆動輪であるので、駆動力配分比Rxとして主側配分率である後輪側配分率Xrを用いる。
【0061】
ピストン84が摩擦係合要素82を押圧しない場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロになる。このとき、前輪駆動用クラッチ70が解放され、後輪側配分率Xrは1.0になる。換言すれば、前輪14と後輪16とへの駆動力の配分すなわち前後輪の駆動力配分を、総駆動力を100として「前輪14の駆動力:後輪16の駆動力」で表せば、前後輪の駆動力配分は0:100になる。一方で、ピストン84が摩擦係合要素82を押圧する場合には、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量がゼロよりも大きくなり、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量が増加する程、後輪側配分率Xrが低下する。前輪駆動用クラッチ70が完全係合されるトルク容量になると、後輪側配分率Xrは0.5になる。換言すれば、前後輪の駆動力配分は50:50で均衡した状態になる。このように、前輪駆動用クラッチ70は、トルク容量が制御されることによって、後輪側配分率Xrを1.0~0.5の間、すなわち前後輪の駆動力配分を0:100~50:50の間で変えることができる。
【0062】
図1に戻り、四輪駆動車両10は、ホイールブレーキ装置100を備えている。ホイールブレーキ装置100は、ホイールブレーキ101、不図示のブレーキマスタシリンダなどを備えており、前輪14及び後輪16の車輪14、16の各々にホイールブレーキ101による制動力を付与する。ホイールブレーキ101は、前輪14L、14Rの各々に設けられたフロントブレーキ101FL、101FR、及び後輪16L、16Rの各々に設けられたリヤブレーキ101RL、101RRである。ホイールブレーキ装置100は、運転者による例えばブレーキペダルの踏込操作などに応じて、ホイールブレーキ101に各々設けられた不図示のホイールシリンダへブレーキ油圧を供給する。ホイールブレーキ装置100では、通常時には、ブレーキマスタシリンダから発生させられる、ブレーキ操作量Braに対応した大きさのマスタシリンダ油圧がブレーキ油圧としてホイールシリンダへ供給される。一方で、ホイールブレーキ装置100では、例えばABS制御時、横滑り抑制制御時、車速制御時などには、ホイールブレーキ101による制動力の発生の為に、各制御で必要なブレーキ油圧がホイールシリンダへ供給される。ブレーキ操作量Braは、ブレーキペダルの踏力に対応する、運転手によるブレーキペダルの踏込操作の大きさを表す信号である。このように、ホイールブレーキ装置100は、車輪14、16の各々に付与するホイールブレーキ101による制動力を調節することができる。
【0063】
図6は、複数種類の操作ポジションPOSshを人為的操作により切り換えるシフト操作装置102の一例を示す図である。シフト操作装置102は、例えば運転席の横に配設され、複数種類の操作ポジションPOSshを選択するために運転手により手動操作されるシフトレバー102aを備えている。シフトレバー102aは、例えば、図6に示すように、5つの操作ポジション「P」、「R」、「N」、「D」、又は「M」へ手動操作されるようになっている。尚、上記「M」ポジションは、運転手によるシフトレバー102aの手動操作に応じて有段変速部46の変速段を切り換える手動変速が可能な手動変速モードを成立させる前進走行ポジションである。又、上記「M」ポジションには、シフトレバー102aの操作毎に有段変速部46の変速段をアップ側へシフトさせるためのアップシフト位置「+」と、シフトレバー102aの操作毎に有段変速部46の変速段をダウン側へシフトさせるためのダウンシフト位置「-」と、が設けられており、それ等の操作がシフトポジションセンサ120乃至アップシフトスイッチ、ダウンシフトスイッチ等によって検出される。シフトレバー102aはスプリング等の付勢手段により自動的にアップシフト位置「+」とダウンシフト位置「-」との間の元位置へ復帰されるようになっており、アップシフト位置「+」又はダウンシフト位置「-」への操作回数に応じて有段変速部46の変速段が切り替えられる。
【0064】
又、四輪駆動車両10は、駆動力源PU及びトランスファ30などを制御する四輪駆動車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置130を備えている。図1は、電子制御装置130の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより四輪駆動車両10の各種制御を実行する。電子制御装置130は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0065】
電子制御装置130には、四輪駆動車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ103、出力回転速度センサ104、MG1回転速度センサ106、MG2回転速度センサ108、各車輪14、16毎に設けられた車輪速センサ110、アクセル開度センサ112、スロットル弁開度センサ114、ブレーキペダルセンサ116、Gセンサ118、シフトポジションセンサ120、ヨーレートセンサ122、ステアリングセンサ124、バッテリセンサ126、第1油温センサ128、第2油温センサ129など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、車速Vに対応する出力回転速度No、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力回転速度Niと同値であるMG2回転速度Nm、各車輪14、16の回転速度である車輪速Nr、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキ101を作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、ブレーキ操作量Bra、四輪駆動車両10の前後加速度Gx及び左右加速度Gy、シフトレバー102aの操作ポジションPOSsh、四輪駆動車両10の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、四輪駆動車両10に備えられたステアリングホイールの操舵角θsw及び操舵方向Dsw、バッテリ24のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoil1、湿式クラッチである前輪駆動用クラッチ70内のオイルの油温THoil2など)が、それぞれ供給される。
【0066】
電子制御装置130からは、四輪駆動車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置20、インバータ22、油圧制御回路60、電動モータ86、ホイールブレーキ装置100など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を各々制御する為の回転機制御指令信号Smg、係合装置CBの作動状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、電動モータ86を制御する為の電動モータ制御指令信号Sw、ホイールブレーキ101による制動力を制御する為のブレーキ制御指令信号Sbなど)が、それぞれ出力される。
【0067】
電子制御装置130は、四輪駆動車両10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部132と、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部134と、四輪駆動制御手段すなわち四輪駆動制御部136と、減速走行判断手段すなわち減速走行判断部138と、制動力制御手段すなわち制動力制御部140と、第1状態判断手段すなわち第1状態判断部142と、第2状態判断手段すなわち第2状態判断部144と、を備えている。
【0068】
AT変速制御部132は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である例えば図7に示すようなATギヤ段変速マップを用いて有段変速部46の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部46の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標上に、有段変速部46の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。ここでは、車速Vに替えて出力回転速度Noなどを用いても良い。又、要求駆動力Frdemに替えて要求駆動トルクTrdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。上記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
【0069】
又、AT変速制御部132は、シフトレバー102aが前記「M」ポジションに切り換えられて手動変速モードが選択されると、運転手によってシフトレバー102aがアップシフト位置「+」に操作された場合には有段変速部46の変速段をアップシフトさせる油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する一方、運転手によってシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に操作された場合には有段変速部46の変速段をダウンシフトさせる油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する。尚、AT変速制御部132は、例えば運転手によってシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に操作される操作回数に比例して有段変速部46の変速段を減少する。このため、シフト操作装置102は、例えば車両の減速走行時にシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に操作される運転手の手動操作によって駆動力源PUのブレーキ(駆動力源ブレーキ)の一つであるエンジンブレーキにより四輪駆動車両10の減速度を調節することができる減速度調節装置として機能する。
【0070】
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ22を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能とを含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0071】
ハイブリッド制御部134は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで駆動要求量としての要求駆動力Frdemを算出する。前記駆動要求量としては、要求駆動力Frdem[N]の他に、各駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdem[Nm]、各駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、出力軸50における要求AT出力トルク等を用いることもできる。ハイブリッド制御部134は、バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動トルクTrdemと車速Vとに基づく要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御する指令信号であるエンジン制御指令信号Seと、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する指令信号である回転機制御指令信号Smgとを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPeの指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルクとしての指令出力時のMG1回転速度NgにおけるMG1トルクTgを出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、指令出力時のMG2回転速度NmにおけるMG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
【0072】
バッテリ24の充電可能電力Winは、バッテリ24の入力電力の制限を規定する入力可能電力であり、バッテリ24の放電可能電力Woutは、バッテリ24の出力電力の制限を規定する出力可能電力である。バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ24の充電量に相当する充電残量SOC[%]に基づいて電子制御装置130により算出される。バッテリ24の充電残量SOCは、バッテリ24の充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置130により算出される。
【0073】
ハイブリッド制御部134は、例えば無段変速部44を無段変速機として作動させて自動変速機28全体として無段変速機として作動させる場合、最適エンジン動作点等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するエンジンパワーPeが得られるエンジン回転速度NeやエンジントルクTeとなるように、エンジン12を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wgを制御することで、無段変速部44の無段変速制御を実行して無段変速部44の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、無段変速機として作動させる場合の自動変速機28の変速比γt(=γ0×γat=Ne/No)が制御される。最適エンジン動作点は、例えば要求エンジンパワーPedemを実現するときに、エンジン12単体の燃費にバッテリ24における充放電効率等を考慮した四輪駆動車両10におけるトータル燃費が最も良くなるエンジン動作点として予め定められている。このエンジン動作点は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点である。
【0074】
ハイブリッド制御部134は、例えば無段変速部44を有段変速機のように変速させて自動変速機28全体として有段変速機のように変速させる場合、予め定められた関係である例えば有段変速マップを用いて自動変速機28の変速判断を行い、AT変速制御部132による有段変速部46のATギヤ段の変速制御と協調して、変速比γtが異なる複数のギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部44の変速制御を実行する。複数のギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度Noに応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを制御することによって成立させることができる。
【0075】
ハイブリッド制御部134は、走行モードとして、EV走行モード又はHV走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなEV走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるHV走行領域にある場合には、HV走行モードを成立させる。図7の一点鎖線Aは、HV走行モードとEV走行モードとを切り替える為のHV走行領域とEV走行領域との境界線である。この図7の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動力Frdemを変数とする二次元座標で構成された走行モード切替マップの一例である。尚、図7では、便宜上、この走行モード切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
【0076】
ハイブリッド制御部134は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPrdemを実現できる場合には、第2回転機MG2による単駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させる。一方で、ハイブリッド制御部134は、EV走行モードを成立させたときに、第2回転機MG2のみでは要求駆動パワーPrdemを実現できない場合には、両駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させる。ハイブリッド制御部134は、第2回転機MG2のみで要求駆動パワーPrdemを実現できるときであっても、第2回転機MG2のみを用いるよりも第1回転機MG1及び第2回転機MG2を併用した方が効率が良い場合には、両駆動EV走行にて四輪駆動車両10を走行させても良い。
【0077】
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemがEV走行領域にあるときであっても、バッテリ24の充電残量SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ24を充電する必要がある充電残量SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0078】
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の運転停止時にHV走行モードを成立させた場合には、エンジン12を始動するエンジン始動制御を行う。ハイブリッド制御部134は、エンジン12を始動するときには、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度Neを上昇させつつ、エンジン回転速度Neが点火可能な所定点火可能回転速度以上となったときに点火することでエンジン12を始動する。すなわち、ハイブリッド制御部134は、第1回転機MG1によりエンジン12をクランキングすることでエンジン12を始動する。
【0079】
四輪駆動制御部136は、後輪側配分率Xrを制御する。四輪駆動制御部136は、出力回転速度センサ104やGセンサ118などから判断される四輪駆動車両10の走行状態に応じた後輪側配分率Xrの目標値を設定し、前輪駆動用クラッチ70のトルク容量すなわち係合力を制御することによって後輪側配分率Xrを目標値に制御するように、電動モータ86を制御する為の電動モータ制御指令信号Swを出力する。
【0080】
四輪駆動制御部136は、例えば直進走行時には、前輪駆動用クラッチ70を解放することで、後輪側配分率Xrを1.0(すなわち、前後輪の駆動力配分を0:100)に制御する。又、四輪駆動制御部136は、旋回走行中の操舵角θswと車速V等とに基づいて目標ヨーレートRyawtgtを算出し、ヨーレートセンサ122によって随時検出されるヨーレートRyawが目標ヨーレートRyawtgtに追従するように、後輪側配分率Xrを制御する。
【0081】
減速走行判断部138は、例えば出力回転速度センサ104を用いて車速Vが減速しているか否かに基づいて、四輪駆動車両10が減速走行しているか否かを判断する。
【0082】
制動力制御部140は、減速走行判断部138により四輪駆動車両10が減速走行していると判断されると、例えば運転手によるアクセル操作(例えばアクセル開度θacc、アクセル開度θaccの減少速度)、車速V、降坂路の勾配、ホイールブレーキ101を作動させる為の運転手によるブレーキ操作(例えばブレーキ操作量Bra、ブレーキ操作量Braの増大速度)などに基づいて目標減速度を算出し、予め定められた関係を用いて目標減速度を実現する為の要求制動力を設定する。制動力制御部140は、四輪駆動車両10の減速走行中には、要求制動力が得られるように四輪駆動車両10の制動力を制御する。四輪駆動車両10の制動力は、例えば第2回転機MG2による回生制御による制動力すなわち回生制動力、ホイールブレーキ101による制動力、エンジン12によるエンジンブレーキによる制動力などによって発生させられる。四輪駆動車両10の制動力は、例えばエネルギー効率の向上の観点では、回生制動力を優先して発生させられる。制動力制御部140は、例えば後述する第1状態判断部142により前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが小さいと判断される場合には、回生制動力に必要な回生トルクTmdemが得られるように第2回転機MG2による回生制御を実行する指令をハイブリッド制御部134へ出力する。第2回転機MG2による回生制御は、車輪14、16から入力される被駆動トルクにより第2回転機MG2を回転駆動させて発電機として作動させ、その発電電力をインバータ22を介してバッテリ24へ充電する制御である。尚、制動力制御部140は、例えば要求制動力が比較的小さな場合には、専ら回生制動力にて要求制動力を実現する。又、制動力制御部140は、例えば要求制動力が比較的大きな場合には、回生制動力にホイールブレーキ101による制動力を加えて要求制動力を実現する。又、制動力制御部140は、例えば四輪駆動車両10が停止する直前には、回生制動力の分をホイールブレーキ101による制動力に置き換えて要求制動力を実現する。
【0083】
第1状態判断部142は、減速走行判断部138により四輪駆動車両10が減速走行していると判断されると、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいか否かを判断する。例えば、第1状態判断部142は、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Q[J]が予め定められた閾値Q1[J]以下であるか否かを判断して、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断し、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1以下であると前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが小さいと判断する。尚、閾値Q1は、前輪駆動用クラッチ70がスリップ状態において前輪駆動用クラッチ70の耐久性が悪化しない程度に前輪駆動用クラッチ70に加えることが可能な熱量の上限値である。又、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qは、前輪駆動用クラッチ70に加えられている熱量であり、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qは、例えば、車両の減速走行中に前輪駆動用クラッチ70がスリップすることにより前輪駆動用クラッチ70で発生する発熱量Qa[J]と、車両の減速走行中に湿式クラッチである前輪駆動用クラッチ70内のオイルによって前輪駆動用クラッチ70から放熱される放熱量Qb[J]と、から推定(Q=Qa-Qb)することができる。尚、発熱量Qaは、例えば、車両の減速走行中においてサンプリングタイム毎に検出される前輪駆動用クラッチ70のスリップ量Nslip[rpm]と前輪駆動用クラッチ70に入力される入力トルクTin[Nm]等とを用いて、サンプリングタイム毎の発熱量Qa_1、Qa_2、・・・、Qa_n-1、Qa_nをそれぞれ推定し、それら推定した発熱量Qa_1、Qa_2、・・・、Qa_n-1、Qa_nをそれぞれ加算(積算)することによって算出(Qa=Qa_1+Qa_2+・・・+Qa_n-1+Qa_n)することができる。スリップ量Nslipは、クラッチハブ78の回転速度とクラッチドラム80の回転速度との差回転速度であり、例えば出力回転速度センサ104や車輪速センサ110等から算出することができる。入力トルクTinは、例えば、電子制御装置130から出力される回転機制御指令信号Smgと電動モータ制御指令信号Swとから、すなわち第2回転機MG2の回生トルクTmと前輪側配分率Xfとから推定することができる。又、放熱量Qbは、例えば、車両の減速走行中においてサンプリングタイム毎に検出される前輪駆動用クラッチ70内のオイルの油温THoil2と外気温との温度差等を用いて、サンプリングタイム毎の放熱量Qb_1、Qb_2、・・・、Qb_n-1、Qb_nをそれぞれ推定して、それら推定した放熱量Qb_1、Qb_2、・・・、Qb_n-1、Qb_nをそれぞれ加算(積算)することによって算出(Qb=Qb_1+Qb_2+・・・+Qb_n-1+Qb_n)することができる。
【0084】
図1に示すように、第1状態判断部142は、閾値変更手段すなわち閾値変更部142aを備えており、閾値変更部142aは、減速要求判断手段すなわち減速要求判断部142bを備えている。減速要求判断部142bは、減速走行判断部138により四輪駆動車両10が減速走行していると判断されると、運転手の手動操作により減速要求があるか否かを判断する。例えば、減速要求判断部142bは、運転手によってシフトレバー102aが前記「M」ポジションに切り換えられてシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に手動操作されると、運転手の手動操作により減速要求があると判断する。
【0085】
閾値変更部142aは、減速要求判断部142bにより運転手の手動操作により減速要求があると判断されると、第1状態判断部142で用いられる閾値Q1が大きくなるように変更する。例えば、閾値変更部142aは、運転手によってシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」へ操作される操作回数に応じて閾値Q1の大きさが比例して大きくなるように変更する。
【0086】
又、閾値変更部142aは、第1状態判断部142により前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと判断されると、第1状態判断部142で用いられる閾値Q1を閾値Q1よりも小さい制限解除閾値Qrに変更する。
【0087】
第2状態判断部144は、第1状態判断部142により前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと判断されると、第1状態判断部142により前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと判断されたときのバッテリ24の充電残量SOCが予め定められた所定値SOC1[%]以上であるか否かを判断する。尚、所定値SOC1は、バッテリ24にこれ以上充電するとバッテリ寿命に影響する値であり、バッテリ24の最大充電残量に対して予め定められた値である。
【0088】
制動力制御部140は、予め定められた第1条件CD1と第2条件CD2とがそれぞれ成立すると、予め定められた第3条件CD3が成立するまで、回生制動力に必要な回生トルクTmdemが制限されるように第2回転機MG2による回生制御を実行する指令をハイブリッド制御部134へ出力する。例えば、制動力制御部140は、第1条件CD1と第2条件CD2とがそれぞれ成立すると、第3条件CD3が成立するまで、回生制動力に必要な回生トルクTmdemに所定割合R(<1)を乗算した回生トルクTmlimが得られるように、すなわち回生トルクTmdemが予め定められた減少率で減少させられるように、第2回転機MG2による回生制御を実行する指令をハイブリッド制御部134へ出力する。尚、制動力制御部140は、第3条件CD3が成立すると、回生制動力に必要な回生トルクTmdemの制限が解除されるように、すなわち回生制動力に必要な回生トルクTmdemが得られるように、第2回転機MG2による回生制御を実行する指令をハイブリッド制御部134へ出力する。又、第1条件CD1は、第1状態判断部142により前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと判断されると、成立する。又、第2条件CD2は、第2状態判断部144によりバッテリ24の充電残量SOCが所定値SOC1以上であると判断されると、成立する。又、第3条件CD3は、第1状態判断部142により前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが制限解除閾値Qr以下になったと判断されると、成立する。又、所定割合Rは、回生トルクTmdemを減少する際の割合として予め定められた一定値であり、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが軽減するように予め定められた値である。尚、制動力制御部140は、第2回転機MG2による回生制御で回生トルクTmdemが制限されて四輪駆動車両10の制動力が要求制動力に対して不足する場合には、その制限に伴う四輪駆動車両10の制動力の不足を補うように、かつ後輪16および前輪14に付与する制動力の配分比が駆動力配分比Rxすなわち後輪側配分率Xrと等しくなるようにホイールブレーキ101の制動力を制御する。
【0089】
四輪駆動制御部136は、第1条件CD1と予め定められた第4条件CD4とがそれぞれ成立すると、第3条件CD3が成立するまで、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するように駆動力配分比Rxすなわち後輪側配分率Xrを変更する。例えば、四輪駆動制御部136は、第1条件CD1と第4条件CD4とがそれぞれ成立すると、第3条件CD3が成立するまで、後輪側配分率Xrが1.0となるように後輪側配分率Xrを変更する。又、四輪駆動制御部136は、第1条件CD1と第4条件CD4とがそれぞれ成立すると、第3条件CD3が成立するまで、後輪側配分率Xrが0.5となるように後輪側配分率Xrを変更しても良い。尚、後輪側配分率Xrが1.0となると前輪駆動用クラッチ70が解放され、又、後輪側配分率Xrが0.5となると前輪駆動用クラッチ70が完全係合されるので、前輪駆動用クラッチ70でのスリップによる熱負荷Qが好適に軽減される。すなわち、四輪駆動制御部136は、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと判断された場合には、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するように後輪側配分率Xrを1.0又は0.5に変更する制御機能を有している。
【0090】
図8は、電子制御装置130の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、車両の減速走行時における第2回転機MG2による回生制御等の制御作動を説明するフローチャートである。
【0091】
図8において、先ず、減速走行判断部138の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、四輪駆動車両10が減速走行をしているか否かが判断される。S10の判断が否定される場合、すなわち四輪駆動車両10が減速走行をしておらず第2回転機MG2で回生制御が実行されない場合には、本ルーチンが終了させられる。S10の判断が肯定される場合、すなわち四輪駆動車両10が減速走行中で回生制動力に必要な回生トルクTmdemとなるように第2回転機MG2で回生制御が実行される場合には、減速要求判断部142bの機能に対応するS20が実行される。S20では、運転手の手動操作により減速要求があるか否かが判断される。S20の判断が肯定される場合、すなわち運転手によってシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に手動操作される場合には、閾値変更部142aの機能に対応するS30が実行される。S20の判断が否定される場合、すなわち運転手によってシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に手動操作されない場合には、第1状態判断部142の機能に対応するS40が実行される。
【0092】
S30では、閾値Q1が運転手によってシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」へ操作される操作回数に応じて比例して大きくなるように変更させられる。次に、S40では、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1以下であるか否かが判断される。S40の判断が肯定される場合、すなわち前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが小さいと判断される場合には、本ルーチンが終了させられる。S40の判断が否定される場合、すなわち前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断される場合には、第2状態判断部144の機能に対応するS50が実行される。S50では、バッテリ24の充電残量SOCが所定値SOC1以上であるか否かが判断される。S50の判断が否定される場合、すなわち充電残量SOCが所定値SOC1よりも小さく第1条件CD1と第4条件CD4とがそれぞれ成立する場合には、四輪駆動制御部136の機能に対応するS60が実行される。S50の判断が肯定される場合、すなわち充電残量SOCが所定値SOC1以上であり第1条件CD1と第2条件CD2とがそれぞれ成立する場合には、ハイブリッド制御部134および制動力制御部140の機能に対応するS70が実行される。
【0093】
S60では、後輪側配分率Xrが例えば1.0となるように変更される。S70では、回生制動力に必要な回生トルクTmdemが制限される。次に、制動力制御部140の機能に対応するS80が実行される。S80では、S70での回生トルクTmdemの制限に伴う四輪駆動車両10の制動力の不足を補うように、かつ後輪16および前輪14に付与する制動力の配分比が駆動力配分比Rxと等しくなるようにホイールブレーキ101の制動力が制御される。
【0094】
上述のように、本実施例の四輪駆動車両10によれば、電子制御装置130は、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいか否かを判断し、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断された場合には、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが小さいと判断された場合に対して、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限する。このため、車両の減速走行時において前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断されると、電子制御装置130によって第2回転機MG2の回生トルクTmdemが制限されるので、駆動力配分比Rxを変更することなく前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減することができる。これによって、前輪駆動用クラッチ70の耐久性が悪化するのを抑制することができる。
【0095】
また、本実施例の四輪駆動車両10によれば、後輪16および前輪14の各輪のそれぞれには、制動力を調節可能なホイールブレーキ101が設けられており、電子制御装置130は、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限した場合には、その制限に伴う四輪駆動車両10の制動力の不足を補うように前記各輪に設けられたホイールブレーキ101の制動力を制御する。このため、第2回転機MG2の回生トルクTmdemが制限されると、電子制御装置130によって、その回生トルクTmdemの制限に伴う四輪駆動車両10の制動力の不足を補うようにホイールブレーキ101の制動力が制御されるので、四輪駆動車両10の制動力の不足を抑制することができる。
【0096】
また、本実施例の四輪駆動車両10によれば、電子制御装置130は、四輪駆動車両10の制動力の不足を補うに当たり、後輪16および前輪14に付与する前記制動力の配分比が駆動力配分比Rxと等しくなるように前記各輪に設けられたホイールブレーキ101の制動力を制御する。このため、後輪16および前輪14に付与される制動力の配分比が駆動力配分比Rxと等しくなる。これによって、車両姿勢が変化するのを好適に抑制することができる。
【0097】
また、本実施例の四輪駆動車両10によれば、電子制御装置130は、さらに、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断された場合には、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するように後輪側配分率Xrを変更する制御機能を有しており、電子制御装置130は、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するに当たり、第2回転機MG2に対して電力の授受を行うバッテリ24の充電残量SOCが予め定められた所定値SOC1以上の場合には、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限し、バッテリ24の充電残量SOCが所定値SOC1よりも小さい場合には、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するように後輪側配分率Xrを変更する。このため、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断されると、充電残量SOCが所定値SOC1よりも小さい場合には、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限せずに前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するように後輪側配分率Xrを変更して前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するので、エネルギー効率が悪化する影響を好適に抑制することができる。
【0098】
また、本実施例の四輪駆動車両10によれば、電子制御装置130は、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが予め定められた閾値Q1よりも大きいと前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが大きいと判断し、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1以下であると前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが小さいと判断する。このため、電子制御装置130は、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限することができる。
【0099】
また、本実施例の四輪駆動車両10によれば、電子制御装置130は、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きくなると、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限するとともに閾値Q1を閾値Q1よりも小さい制限解除閾値Qrに変更し、電子制御装置130は、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが制限解除閾値Qr以下になると、第2回転機MG2での回生トルクTmdemの制限を解除する。このため、電子制御装置130は、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きくなってから閾値Q1よりも小さい制限解除閾値Qr以下になるまでの比較的長い間、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限することができるので、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを好適に軽減することができる。
【0100】
また、本実施例の四輪駆動車両10によれば、車両の減速走行時に運転手の手動操作によって四輪駆動車両10の減速度を調節することができるシフト操作装置102が設けられており、電子制御装置130は、運転手によってシフト操作装置102のシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に手動操作されると、閾値Q1が大きくなるように変更する。このため、車両の減速走行時において、シフト操作装置102のシフトレバー102aが運転手によってダウンシフト位置「-」に手動操作されることにより閾値Q1が大きくなるので、第2回転機MG2の回生トルクTmdemの制限が緩和され運転性が高められる。
【0101】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0102】
例えば、前述の実施例では、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと、回生制動力に必要な回生トルクTmdemに所定割合R(<1)を乗算して回生トルクTmdemを減少させることによって、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限していたが、例えば、第2回転機MG2で出力することが可能な回生トルクの最大値を減少させることによって、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限しても良い。
【0103】
また、前述の実施例では、所定割合Rは、一定値であり、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qと閾値Q1との差の大きさにかかわらず回生トルクTmdemを予め定められた減少率で減少させていた。例えば、前記減少率を、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qと閾値Q1との差が大きくなるほど比例して大きく、又は、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qと閾値Q1との差が大きくなるほど段階的に大きくしても良い。これによって、大きくなった前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを好適に軽減することができる。
【0104】
また、前述の実施例では、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きくなると、第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限するとともに閾値Q1を閾値Q1よりも小さい制限解除閾値Qrに変更して、その後、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが制限解除閾値Qr以下になると、第2回転機MG2での回生トルクTmdemの制限を解除していた。例えば、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きくなっても、閾値Q1を制限解除閾値Qrに変更せずに閾値Q1のままにして、その後、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1以下になると、第2回転機MG2での回生トルクTmdemの制限を解除しても良い。
【0105】
また、前述の実施例では、運転手によってシフト操作装置102のシフトレバー102aがダウンシフト位置「-」に手動操作されると、電子制御装置130によって閾値Q1が大きくなるように変更されていた。例えば、運転手によってステアリングホイールに設けられたシフトダウン用のパドルスイッチが手動操作されても、電子制御装置130によって閾値Q1が大きくなるように変更させても良い。尚、前記シフトダウン用のパドルスイッチは、車両の減速走行時に運転手の手動操作によって有段変速部46の変速段をダウンシフトさせて駆動力源PUのブレーキ(駆動力源ブレーキ)の一つであるエンジンブレーキにより四輪駆動車両10の減速度を調節することができる減速度調節装置として機能する。さらに、四輪駆動車両10に、運転手の手動操作の回数に応じて第2回転機MG2の回生トルク(回生ブレーキ)の大きさを段階的に大きくする減速度選択スイッチを設けて、運転手によって前記減速度選択スイッチが手動操作されることによって、電子制御装置130によって閾値Q1が大きくなるように変更しても良い。尚、前記減速度選択スイッチは、車両の減速走行時に運転手の手動操作によって第2回転機MG2の回生トルクを大きくさせて駆動力源PUのブレーキ(駆動力源ブレーキ)の一つである回生ブレーキにより四輪駆動車両10の減速度を調節することができる減速度調節装置として機能する。
【0106】
また、前述の実施例では、第1状態判断部142において、前輪駆動用クラッチ70のスリップ量Nslip、前輪駆動用クラッチ70に入力される入力トルクTin、および前輪駆動用クラッチ70内のオイルの油温THoil2等を用いて、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいか否かを判断していた。例えば、前輪駆動用クラッチ70内のオイルの油温THoil2が予め定められた所定油温よりも高いか否かに基づいて前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいか否かを判断しても良い。これによって、電子制御装置130は、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70の油温THoil2に基づいて第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限することができる。又、例えば、前輪駆動用クラッチ70に入力される入力トルクTinが予め定められた所定入力トルクよりも大きいか否かに基づいて前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいか否かを判断しても良い。これによって、電子制御装置130は、車両の減速走行時において、前輪駆動用クラッチ70に入力される入力トルクTinの大きさに基づいて第2回転機MG2の回生トルクTmdemを制限することができる。
【0107】
また、前述の実施例では、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きい場合において、バッテリ24の充電残量SOCが所定値SOC1よりも小さいと、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減するために例えば後輪側配分率Xrが1.0となるように変更していたが、例えば、後輪側配分率Xrが1.0となるまですなわち前輪駆動用クラッチ70が解放するまで後輪側配分率Xrを変更しなくても良い。すなわち、後輪側配分率Xrを、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qが閾値Q1よりも大きいと判断されたときの後輪側配分率Xrよりも大きく変更するだけでも、前輪駆動用クラッチ70の熱負荷Qを軽減することができる。
【0108】
また、前述の実施例では、四輪駆動車両10は、FR方式の車両をベースとする四輪駆動車両であり、又、走行状態に応じて二輪駆動及び四輪駆動が切り替えられるパートタイム式の四輪駆動車両であり、又、エンジン12、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を駆動力源とするハイブリッド車両であり、又、無段変速部44と有段変速部46とを直列に有する自動変速機28を備えた四輪駆動車両であったが、この態様に限らない。例えば、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式の車両をベースとする四輪駆動車両、又は、フルタイム式の四輪駆動車両、又は、回転機のみを駆動力源とする電気自動車であっても、本発明を適用することができる。又は、自動変速機として、公知の遊星歯車式自動変速機、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機、又は公知の電気式無段変速機などを備えた四輪駆動車両であっても、本発明を適用することができる。又は、回転機のみを駆動力源とする電気自動車では、例えば自動変速機を備えていない場合もある。尚、FF方式の車両をベースとする四輪駆動車両の場合には、前輪が主駆動輪となり、後輪が副駆動輪となり、前輪側配分率Xfが主側配分率となる。差動制限クラッチを有する中央差動歯車装置(センターデフ)を備えたフルタイム式の四輪駆動車両の場合には、センターデフの差動を制限する差動制限クラッチの非作動時に、例えば前後輪の駆動力配分が30:70等の所定の駆動力配分とされ、差動制限クラッチが作動することで前後輪の駆動力配分が50:50に変更される。要は、駆動力源として回転機を備えるとともに、前記駆動力源から主駆動輪に出力される駆動力の一部を副駆動輪に配分するとともに係合力が制御されることにより前記主駆動輪および前記副駆動輪への駆動力配分比を可変とする駆動力配分クラッチと、制御装置と、を備えた四輪駆動車両であれば、本発明を適用することができる。
【0109】
また、前述の実施例では、トランスファ30を構成する前輪駆動用クラッチ70のピストン84は、電動モータ86が回転すると、カム機構90を介して摩擦係合要素82側に移動させられ、摩擦係合要素82を押圧するように構成されていたが、この態様に限らない。例えば、電動モータ86が回転すると、回転運動を直線運動に変換するボールねじ等を介してピストン84が摩擦係合要素82を押圧するように構成されるものであっても良い。又は、ピストン84が油圧アクチュエータによって駆動させられるものであっても良い。
【0110】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0111】
10:四輪駆動車両
14L、14R:前輪(副駆動輪)
16L、16R:後輪(主駆動輪)
24:バッテリ(蓄電装置)
70:前輪駆動用クラッチ(駆動力配分クラッチ)
101:ホイールブレーキ
102:シフト操作装置(減速度調節装置)
130:電子制御装置(制御装置)
134:ハイブリッド制御部
136:四輪駆動制御部
138:減速走行判断部
140:制動力制御部
142:第1状態判断部
142a:閾値変更部
142b:減速要求判断部
144:第2状態判断部
MG2:第2回転機(駆動力源、回転機)
PU:駆動力源
Q:熱負荷
Qr:制限解除閾値
Q1:閾値
Rx:駆動力配分比
SOC:充電残量
SOC1:所定値
THoil2:油温
Tin:入力トルク
Tmdem:回生トルク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8