(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20231024BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231024BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231024BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231024BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20231024BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20231024BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231024BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/485
H01M4/131
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/0566
H01M50/103
H01M50/414
H01M50/434
H01M50/449
(21)【出願番号】P 2020122776
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 健作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】木山 明
(72)【発明者】
【氏名】安藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】山本 邦光
(72)【発明者】
【氏名】米田 幸志郎
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-270272(JP,A)
【文献】特開2007-227357(JP,A)
【文献】特開2015-069730(JP,A)
【文献】特開2017-059395(JP,A)
【文献】特開2015-210944(JP,A)
【文献】特開2019-145330(JP,A)
【文献】特開2014-199714(JP,A)
【文献】特開2016-146262(JP,A)
【文献】特開2016-062832(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163282(WO,A1)
【文献】特開2017-069135(JP,A)
【文献】特開2018-081787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 50/00-50/198
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を含む電極体と、
前記電極体および電解液を収容する電池ケースとを備え、
前記複数の層の各々は、シート状の正極およびシート状の負極のうちのいずれか一方と、シート状のセパレータとを含み、
前記電極体は、
前記複数の層のうち前記電極体の最も外側に配置され
た最外層を含む所定数の外側層と、
前記複数の層のうち前記外側層よりも内側に配置された内側層と
、
前記外側層よりも外側に配置されたセパレータとを有し、
前記負極は、負極集電体と、負極合材層とを含み、
前記外側層
に含まれる負極合材層は、
リチウムチタン複合酸化物を含み、
前記内側層
に含まれる負極合材層は、前記
リチウムチタン複合酸化物を含まない、非水電解質二次電池。
【請求項2】
複数の層を含む電極体と、
前記電極体および電解液を収容する
角型の電池ケースとを備え、
前記複数の層の各々は、シート状の正極およびシート状の負極のうちのいずれか一方と、シート状のセパレータとを含み、
前記電極体は、
前記複数の層のうち前記電極体の最も外側に配置され
た最外層を含む所定数の外側層と、
前記複数の層のうち前記外側層よりも内側に配置された内側層と
、
前記外側層よりも外側に配置されたセパレータとを有し、
前記電極体は、扁平直方体の外形形状を有し、前記扁平直方体の長辺が前記電池ケースの長辺方向に延在するように前記電池ケースに収容され、
前記外側層
に含まれるセパレータは、
前記電極体の長辺方向に関して前記電極体の中央領域に局所的に設けられた耐熱層を含み、
前記内側層
に含まれるセパレータは、前記
耐熱層を含まない、非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記耐熱層は、耐熱性を有する樹脂膜である、請求項
2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記耐熱層は、耐熱性を有するセラミック
スである、請求項
2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記耐熱層は、チタン酸リチウムおよびリン酸鉄リチウムのうちの少なくとも一方を含む活物質である、請求項
2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記耐熱層は、前記中央領域に追加されたセパレータである、請求項
2に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両および電気自動車等の走行用電源として、リチウムイオン二次電池の需要が増している。車載用の典型的なリチウムイオン二次電池は、正極と負極とがセパレータを介して巻回された電極体と、電極体を収容する電池ケースとを備える(たとえば特開2019-186156号公報:特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-186156号公報
【文献】特開2000-251866号公報
【文献】特開2019-145330号公報
【文献】特開2015-023009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記リチウムイオン二次電池の製造工程においては、金属異物が電池ケースの内部に混入し得る。金属異物が混入すると、電極体が短絡して発熱し、熱暴走する可能性がある。よって、発熱を抑制するための対策を講じることが考えられる。一方で、過度な対策を講じた場合、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度が低下したり、リチウムイオン二次電池のサイズが大型化したりするなどの弊害が生じる可能性がある。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ電極体の短絡に伴う発熱(特に熱暴走)を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示のある局面に従う非水電解質二次電池は、正極と負極とがセパレータを介して積層された電極体と、電極体および電解液を収容する電池ケースとを備える。電極体は、電極体の最も外側に配置されたセパレータと負極との最外層を含む所定数の外側層と、外側層よりも内側に配置された内側層とを有する。外側層は、電極体の短絡に起因する電極体の発熱を抑制するように構成された発熱抑制部材を含む。内側層は、発熱抑制部材を含まない。
【0007】
上記(1)の構成によれば、発熱抑制部材を設けることで、電極体の短絡に起因する発熱を抑制できる。また、発熱抑制部材は、電極体全体ではなく部分的に設けられているため、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止できる。
【0008】
(2)負極は、負極電極体と、負極合材層とを含む。発熱抑制部材は、リチウムチタン複合酸化物を含有する負極合材層を含む。
【0009】
上記(2)の構成において、発熱抑制部材は、リチウムチタン複合酸化物を含有する負極合材層である。リチウムチタン複合酸化物は、黒鉛系材料等と比べて電気抵抗が高く、短絡電流を流しにくい。したがって、上記(2)の構成によれば、電極体の短絡に起因する発熱を好適に抑制できる。
【0010】
(3)発熱抑制部材は、セパレータに設けられた耐熱層を含む。
【0011】
(4)電池ケースは、角型ケースである。電極体は、扁平直方体の外形形状を有し、扁平直方体の長辺が電池ケースの長辺方向に延在するように電池ケースに収容されている。耐熱層は、電極体の長辺方向に関して電極体の中央領域に局所的に設けられている。
【0012】
(5)耐熱層は、耐熱性を有する樹脂膜である。(6)耐熱層は、耐熱性を有するセラミックである。(7)耐熱層は、チタン酸リチウムおよびリン酸鉄リチウムのうちの少なくとも一方を含む活物質である。(8)耐熱層は、中央領域に追加されたセパレータである。
【0013】
上記(3)~(8)の構成において、発熱抑制部材は、セパレータに設けられた耐熱層である。耐熱層を追加することで、電極体が発熱により高温になっても電極体が破損しにくくなる。したがって、上記(3)~(8)の構成によれば、電極体の短絡に起因する発熱を好適に抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害を防止しつつ電極体の短絡に伴う発熱を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池の構成の他の一例を概略的に示す斜視図である。
【
図3】実施の形態1における電極体の構成の一例を示す図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿う電極体の断面を模式的に示す図である。
【
図5】電極体の断面の他の例を模式的に示す図である。
【
図6】実施の形態1に係るセルの評価試験の結果をまとめた図である。
【
図7】実施の形態2における電極体の構成の一例を示す図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線に沿う電極体の断面を模式的に示す図である。
【
図9】実施の形態2に係るセルの評価試験の結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0017】
[実施の形態1]
以下の実施の形態1では、本開示に係る非水電解質二次電池の例示的形態として、リチウムイオン二次電池を採用する。
【0018】
<リチウムイオン二次電池の全体構成>
図1は、実施の形態1の形態に係るリチウムイオン二次電池の構成の一例を概略的に示す斜視図である。以下では、実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池をセル5と記載する。理解を容易にするため、
図1にはセル5の内部を透視した図が示されている。
【0019】
セル5は、この例では密閉型の角型電池ある。ただし、セル5の形状は角型に限定されず、たとえば円筒型であってもよい。セル5は、電極体6と、電解液7と、電池ケース8とを備える。
【0020】
図1に示す電極体6は巻回型である。すなわち、電極体6は、正極1と負極2とが、その間にセパレータ3を挟みつつ交互に積層され、さらに、その積層体が筒状に巻回されることにより成型されている。
【0021】
電解液7は、電池ケース8に注入され、電極体6に含浸している。なお、
図1では電解液7の液面を一点鎖線で示している。電極体6(正極1、負極2およびセパレータ3)および電解液7に用いられる材料等、詳細な構成については後述する。
【0022】
電池ケース8は、たとえばアルミニウム(Al)合金等により構成され得る。ただし、電池ケース8が密閉され得る限り、電池ケース8は、たとえばAlラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。電池ケース8は、ケース本体81と、蓋体82とを含む。
【0023】
ケース本体81は、電極体6および電解液7を収容する。ケース本体81は、扁平直方体の外形形状を有する。ケース本体81と蓋体82とは、たとえばレーザ溶接により接合されている。蓋体82には、正極端子91および負極端子92が設けられている。図示しないが、蓋体82には、注液口、ガス排出弁、電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device)等がさらに設けられていてもよい。
【0024】
図2は、実施の形態1に係るリチウムイオン二次電池の構成の他の一例を概略的に示す斜視図である。
図2を参照して、セル5Aは、巻回型の電極体6に代えて積層型(スタック型)の電極体6Aを備える点において、
図1に示したセル5と異なる。積層型の電極体6Aは、正極と負極とが、その間にセパレータを挟みつつ交互に積層されることにより成型されている。
【0025】
以下では、巻回型の電極体6を例に説明するが、以下の説明と同様の構成を積層型の電極体6Aに適用してもよい。一般に、積層型の電極体の製造の方が巻回型の電極体の製造よりも容易であるため、積層型の電極体6Aへの適用により生産効率を向上させることができる。
【0026】
<電極体の形状>
図3は、実施の形態1における電極体6の構成の一例を示す図である。
図3に示すように、電極体6は、電池ケース8(ケース本体81)と同様に、扁平直方体の外径形状を有する。電極体6は、扁平直方体の長辺(図中、左右方向(y方向)の辺)が電池ケース8の長辺方向(
図2参照)に延在するように電池ケース8に収容されている。
【0027】
電極体6は詳細には以下のように成型できる。まず、正極1、セパレータ3、負極2、セパレータ3の順に重ね合わせることで積層体を得る。その積層体を巻回軸AXの周りに筒状に巻回することで巻回体を得る。そして、その巻回体を側面方向(紙面の手前-奥行き方向:x方向)に押しつぶすことで扁平形状に成型する。なお、説明のため、
図3には巻回途中の状態が示されている。
【0028】
<正極>
正極1は帯状のシートである。正極1は、正極集電体11と、正極合材層12とを含む。正極集電体11は、たとえばアルミニウム(Al)箔、Al合金箔等であり得る。正極集電体11は、正極端子91(
図1参照)に電気的に接続されている。
図3の巻回軸AXが延在する方向(y方向)において、正極集電体11のうち正極合材層12から突出した部分は、正極端子91(
図1参照)との電気的接続に利用され得る。
【0029】
正極合材層12は、正極集電体11の表面に形成されている。正極合材層12は、正極集電体11の表面および裏面の両面に形成されていてもよい。正極合材層12は、正極活物質、導電材、バインダおよび難燃剤(いずれも図示せず)を含む。
【0030】
正極活物質は、たとえばLiCoO2、LiNiO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM)、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA)、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4であり得る。2種以上の正極活物質が組み合わされて使用されてもよい。
【0031】
導電材は、たとえばアセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、気相成長炭素繊維(VGCF)、黒鉛であり得る。
【0032】
バインダは、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり得る。
【0033】
難燃剤は、リン(P)または硫黄(S)を含む難燃剤であり、かつ、難燃剤の熱分解温度が80℃以上210℃以下である限り、特に限定されない。難燃剤は、たとえばスルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、リン酸二アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、スルファミン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、ビスフェノールAビス(ジフェニルリン酸エステル)、レゾルシノールビス(ジフェニルリン酸エステル)、トリイソピルフェニルリン酸エステル、トリフェニルリン酸エステル、トリメチルリン酸エステル、トリエチルリン酸エステル、トリクレジルリン酸エステル、トリス(クロロイソプロピル)リン酸エステル、(C4H9)3PO)、(HO-C3H6)3PO、ホスファゼン化合物、五酸化二リン、ポリリン酸、メラミン等であり得る。これらの難燃剤は単独で使用されてもよいし、2種以上の難燃剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0034】
<負極>
負極2は帯状のシートである。負極2は、負極合材層22および負極集電体21を含む。負極集電体21は、負極端子92に電気的に接続されている。負極集電体21は、たとえば銅(Cu)箔であり得る。
【0035】
負極合材層22は、負極集電体21の表面に形成されている。負極合材層22は、負極集電体21の表面および裏面の両面に形成されていてもよい。負極合材層22は、負極活物質およびバインダを含む。
【0036】
負極活物質は黒鉛系材料(以下、カーボンとも記載する)である。具体的には、負極活物質は、アモルファスコートグラファイト(黒鉛粒子の表面にアモルファスカーボンがコートされた形態のもの)、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素であり得る。
【0037】
バインダは、たとえば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)であり得る。
【0038】
<セパレータ>
セパレータ3は帯状のフィルムである。セパレータ3は、正極1と負極2との間に配置され、正極1と負極2とを電気的に絶縁する。セパレータ3の材料は、多孔質材料であって、たとえばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)であり得る。
【0039】
セパレータ3は単層構造を有していてもよい。セパレータ3は、たとえばポリエチレン(PE)製の多孔質フィルムのみから形成されていてもよい。一方で、セパレータ3は多層構造を有していてもよい。たとえば、セパレータ3は、第1ポリプロピレン(PP)製の多孔質フィルムと、ポリエチレン(PE)製の多孔質フィルムと、第2ポリプロピレン(PP)製の多孔質フィルムとからなる3層構造を有していてもよい。
【0040】
<電解液>
電解液7は、リチウム(Li)塩および溶媒を少なくとも含む。Li塩は、溶媒に溶解した支持電解質である。Li塩は、たとえば、LiPF6、LiBF4、Li[N(FSO2)2]、Li[N(CF3SO2)2]であり得る。1種のLi塩が単独で使用されてもよいし、2種以上のLi塩が組み合わされて使用されてもよい。
【0041】
溶媒は非プロトン性である。溶媒は、たとえば環状カーボネートおよび鎖状カーボネートの混合物であり得る。
【0042】
環状カーボネートは、たとえば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等であってもよい。1種の環状カーボネートが単独で使用されてもよい。2種以上の環状カーボネートが組み合わされて使用されてもよい。
【0043】
鎖状カーボネートは、たとえば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等であってもよい。1種の鎖状カーボネートが単独で使用されてもよい。2種以上の鎖状カーボネートが組み合わされて使用されてもよい。
【0044】
溶媒は、たとえば、ラクトン、環状エーテル、鎖状エーテル、カルボン酸エステル等を含んでもよい。ラクトンは、たとえば、γ-ブチロラクトン(GBL)、δ-バレロラクトン等であってもよい。環状エーテルは、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン等であってもよい。鎖状エーテルは、1,2-ジメトキシエタン(DME)等であってもよい。カルボン酸エステルは、たとえば、メチルホルメート(MF)、メチルアセテート(MA)、メチルプロピオネート(MP)等であってもよい。
【0045】
電解液7は、Li塩および溶媒に加えて、各種の機能性添加剤をさらに含んでもよい。機能性添加剤としては、たとえば、ガス発生剤(過充電添加剤)、SEI(Solid Electrolyte Interface)膜形成剤等が挙げられる。ガス発生剤は、たとえば、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、ビフェニル(BP)であり得る。SEI膜形成剤は、たとえば、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、Li[B(C2O4)2]、LiPO2F2、プロパンサルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)であり得る。
【0046】
<金属異物の混入>
一般に、リチウムイオン二次電池の製造工程において電池ケースの内部に金属異物が混入し得ることが知られている。セル5を用いて具体例を挙げて説明すると、たとえば、正極集電体11および負極集電体21の端部をレーザ溶接により接合する際に金属片(スパッタ)が発生する可能性がある。また、電極体6をケース本体81に収容した後、ケース本体81と蓋体82とをレーザ溶接する際にも金属片が発生する可能性がある。さらに、セル5の製造工程以外にも、たとえばセル5を搭載した車両の衝突等により衝撃がセル5に印加されることで金属片が発生する可能性も考えられる。
【0047】
金属異物が混入すると、その金属異物が電極体6に付着することで電極体6が短絡し得る。そうすると、電極体6が発熱し、場合によっては熱暴走する可能性がある。よって、発熱(熱暴走)を抑制するための対策を講じることが考えられる。その一方で、過度な対策を講じた場合には、セル5のエネルギー密度が低下したり、セル5のサイズが大型化したりするなどの弊害が生じる可能性がある。
【0048】
本発明者らは、金属異物が電極体6に短絡を生じさせる場合、その短絡が電極体6の最外周部分で生じる点に着目した。実施の形態1においては、電極体6の最外周に配置された負極2を含む層の材料にLTOを採用することによって、金属異物の混入等に起因する電極体6の短絡に対する耐性を向上させる。ただし、LTOを含む層は、最外周の層(最外層)に限定されず、最外層を含む所定数の層であってもよい。
【0049】
<電極体の構成>
図4は、
図3のIV-IV線に沿う電極体6の断面を模式的に示す図である。
図4には、電極体6を構成する正極1、負極2およびセパレータ3の積層構造が電極体6の外側から内側に向けて図示されている。電極体6の外側とは電池ケース8に近い側である。
【0050】
最も外側に配置されたセパレータ3および負極2を「第1層」(=最外層)と記載する。外側から2番目に配置されたセパレータ3および正極1を「第2層」と記載する。外側から3番目に配置されたセパレータ3および負極2を「第3層」と記載する。外側から4番目に配置されたセパレータ3および正極1を「第4層」と記載する。第5層以降についても同様である。
【0051】
本実施の形態において、第3層、第5層(および、それに続く奇数番号の層)を構成する負極2の負極合材層22は、黒鉛系材料(カーボン)を負極活物質として含む。
【0052】
一方、第1層を構成する負極2Aの負極合材層29は、黒鉛系材料に加えてまたは代えて、リチウムチタン複合酸化物(LTO)を負極活物質として含む。LTOは、リチウム(Li)およびチタン(Ti)を含む複合酸化物であって、様々な化学組成を有し得る。LTOは、たとえば、Li4Ti5O12との化学組成を有してもよい。負極合材層29は、本開示に係る「発熱抑制部材」に相当する。
【0053】
リチウムイオン二次電池に用いられる典型的な負極活物質は黒鉛系材料である。黒鉛系材料は、高い導電性を有する材料(言い換えると電気抵抗が低い材料)として知られている。そのため、黒鉛系材料を用いた負極に短絡が生じた場合には、黒鉛系材料を通じて比較的な大きな短絡電流が流れやすい。そうすると、短絡発生時の発熱量が大きくなり、熱暴走が起こる可能性がある。
【0054】
これに対し、LTOは、その構造から、リチウムイオンが脱離した状態において電気抵抗が上昇する性質を有し得る。また、短絡発生時にはLTOからリチウムイオンが脱離すると考えられている。したがって、LTOを黒鉛系材料に混合させることで電気抵抗を上昇させ、それにより短絡発生時の短絡電流を減少させることができる。その結果、短絡発生時の発熱量を低減し、熱暴走を抑制できる。
【0055】
図5は、電極体6の断面の他の例を模式的に示す図である。
図4では、LTOを負極活物質として含む負極合材層29が第1層のみに設けられている例を図示して説明した。
図4の例では、第1層のみが本開示に係る「外側層」に相当し、第3層またはそれよりも内側の層が「内側層」に相当する。しかし、
図5に示すように、たとえば第1層と第3層とに負極合材層29が設けられていてもよい。
図5の例では、第1層および第3層が本開示に係る「外側層」に相当し、第5層またはそれよりも内側の層が「内側層」に相当する。
【0056】
図示しないが、3層以上に負極合材層29が設けられていてもよい。以下に説明する評価試験では、3層(第1層、第3層および第5層)に負極合材層29が設けられた構成も採用される。ただし、すべての奇数番号の層に負極合材層29が設けられていることは好ましくない。
【0057】
<評価結果>
続いて、実施の形態1に係るセル5に対する評価試験の結果について説明する。正極1(正極活物質)には、ニッケル・コバルト・マンガン酸化物(NCM)を用いた。負極2(負極活物質)にはカーボンを用いた。セパレータ3には、ポリプロピレン(PP)層とポリエチレン(PE)層とポリプロピレン(PP)層とが積層された3層構造のセパレータを用いた。セル5の容量は20Ahであった。金属異物としては、「EV用リチウムイオン二次電池セルの安全要件」に関する国際規格であるIEC62660-3に規定されたL字型の構造体を用いた。この構造体のサイズは、高さ200μm×長さ2000μm×幅100μmであった。これらの試験条件は、実施の形態2の評価試験(後述)に関しても共通であった。
【0058】
図6は、実施の形態1に係るセル5の評価試験の結果をまとめた図である。
図6に示すように、この評価試験では6つのサンプルを準備した。これらのサンプルの間では、負極合材層29におけるLTOの含有率、および/または、LTOを含有する負極合材層29の層数が異なる。当該層数のことを以下では「対策層数」とも記載する。
【0059】
また、対照実験のため、対策層数が0であるサンプル、すなわち、黒鉛系材料のみを含有する負極合材層22しか含まないサンプルも準備して評価した。この対照サンプルでは、最外層から4層(第1層~第4層)のセパレータ3に短絡が生じた。また、短絡により発熱が生じた初期温度(熱暴走が開始した温度)は160℃であった。
【0060】
サンプル(1)~(3)の間では、対策層数は3層で共通であり、LTO含有率が互いに異なる。そのため、サンプル(1)~(3)を比較することで、LTOの含有率の影響を評価できる。サンプル(1)のLTO含有率は100%であり、サンプル(2)のLTO含有率は50%であり、サンプル(3)のLTO含有率は20%であった。
【0061】
LTOの含有率が相対的に高いサンプル(1),(2)の方がLTOの含有率が相対的に低いサンプル(3)と比べて、セパレータ3に短絡が生じた層数が少なかった。また、ンプル(1),(2),(3)の順に、すなわち、LTOの含有率が高い順に、熱暴走の開始温度が高かった。この評価結果から、LTOの含有率が高いほどセパレータ3の短絡を防止する効果が高く、セパレータ3の発熱を抑制する効果も高いことが分かる。
【0062】
サンプル(1)とサンプル(4)との間では、LTO含有率は100%で共通である一方、対策層数が3層または2層と相違する。同様に、サンプル(2)とサンプル(5)との間では、LTO含有率が50%で共通である一方、対策層数が3層または2層と相違する。サンプル(3)とサンプル(6)との間では、LTO含有率が20%で共通である一方、対策層数が3層または2層と相違する。したがって、サンプル(1)とサンプル(4)との比較、サンプル(2)とサンプル(5)との比較、および、サンプル(3)とサンプル(6)との比較により、対策層数の影響を評価できる。
【0063】
上記3通りのいずれの比較においても、セパレータ3に短絡が生じた層数は等しく、かつ、熱暴走の開始温度も等しかった。これらの評価結果から、セパレータ3の短絡防止および発熱抑制に対する対策層数の影響はほとんどないことが理解される。
【0064】
以上のように、実施の形態1においては、LTOを混合した負極合材層29が設けられた負極2Aを、最外層を含む所定数の層(単層であってもよいし複数層であってもよい)に局所的に配置する。負極合材層29は、LTOを含有することで、黒鉛系材料しか含有しない負極合材層22と比べて、高い電気抵抗を示す。したがって、短絡が生じた場合にも大きな短絡電流は伝搬しにくくなる。その結果、短絡電流の伝搬に伴う発熱を抑制し、ひいてはセル5の熱暴走を抑制できる。
【0065】
また、短絡電流の伝搬を抑制するための対策をすべての層に講じることも考えられる。しかし、そうすると、電極体6の厚みが増大することで、セル5のエネルギー密度の低下または大型化などの弊害をもたらし得る。これに対し、実施の形態1では、LTOを含む層が最外層(を含む数層)に限定されている。したがって、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害についても防止できる。
【0066】
[実施の形態2]
実施の形態1では、負極2に対策を講じ、負極活物質にLTOを採用する例について説明した。実施の形態2においては、セパレータ3に対策を講じる例について説明する。
【0067】
実施の形態2に係る水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、たとえばナトリウムイオン二次電池であってもよい。ただし、実施の形態2においてもリチウムイオン二次電池を例に説明する。実施の形態2に係るリチウムイオン二次電池の全体構成は、
図1および
図2に示した構成と同様であるため、説明は繰り返さない。
【0068】
<電極体の構成>
図7は、実施の形態2における電極体の構成の一例を示す図である。
図8は、
図7のVII-VII線に沿う電極体6Bの断面を模式的に示す図である。
図7および
図8を参照して、電極体6Bは、電極体6Bの最外周の中央部に耐熱層4(HRL:Heat Resistance Layer)を含む点において、実施の形態1における電極体6(
図3~
図5参照)と異なる。耐熱層4は、電極体6Bの長辺方向(y方向)に関して電極体6Bの中央領域に局所的に設けられている。これは、電極体6の膨張収縮に伴う荷重が集中する最外周部分の中央領域において電極体6の短絡が特に発生しやすいためである。なお、耐熱層4は、本開示に係る「発熱抑制部材」に相当する。
【0069】
耐熱層4は、電極体6Bの耐熱性を向上させるための構造であり、耐熱材料を含む。具体的には、耐熱層4は、たとえば耐熱性の樹脂膜である。耐熱層4は、ポリイミドフィルム(たとえばカプトンデテープ(登録商標))であり得る。耐熱層4は、シリコーン系またはアクリル系の粘着剤を塗布した耐熱絶縁テープ(たとえばノーメックステープ(登録商標))であってもよい。
【0070】
耐熱層4は、熱安定性が高い活物質(チタン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなど)であってもよい。さらに、耐熱層4は、公知の各種耐熱材、断熱材または吸熱材であってもよい。一例として、アルミナ(Al2O3)等の耐熱性を有するセラミックス(ファインセラミックス)を採用できる。
【0071】
また、耐熱層4は、他の部分と共通と材料(すなわちセパレータ3の材料)を用いつつ、セパレータ3の厚みを局所的に増加させた領域であってもよい。具体的には、細く切断加工したセパレータ3を通常のセパレータ3に重ね合わせ、接着剤またはテープ等により接着してもよい。
【0072】
<評価結果>
図9は、実施の形態2に係るセルの評価試験の結果をまとめた図である。
図9を参照して、この評価試験では8つのサンプルを準備した。これらのサンプルの間では、耐熱層4の厚みまたは幅、および/または、耐熱層4の層数が異なる。
【0073】
実施の形態2においても、耐熱層4の層数が0である対照サンプルを準備した。対照サンプルでは、最外層から4層(第1層~第4層)のセパレータ3に短絡が生じた。
【0074】
サンプル(1)~(3)の間では、耐熱層4の層数は4層で共通し、耐熱層4の幅(セパレータ3の全幅に対する耐熱層4の幅の比率)も20%で共通する一方で、耐熱層4の厚みが互いに異なる。そのため、サンプル(1)~(3)を比較することで、耐熱層4の厚みの影響を評価できる。サンプル(1)に設けられた耐熱層4の厚みは4μmであった。サンプル(2)に設けられた耐熱層4の厚みは6μmであった。サンプル(3)に設けられた耐熱層4の厚みは8μmであった。なお、耐熱層4の幅および厚みについては
図7および
図8を参照できる。
【0075】
サンプル(3),(2),(1)の順、すなわち、耐熱層4の厚みが厚い順に、セパレータ3に短絡が生じた層数が少なかった。この評価結果から、耐熱層4の厚みが厚いほどセパレータ3の短絡を防止する効果が高いことが分かる。
【0076】
サンプル(4)~(6)の間では、耐熱層4の層数は4層で共通し、耐熱層4の厚みも6μmで共通する一方で、耐熱層4の幅が互いに異なる。そのため、サンプル(4)~(6)を比較することで、耐熱層4の幅の影響を評価できる。サンプル(4)に設けられた耐熱層4の幅は、セパレータ3の全幅の10%であった。サンプル(5)に設けられた耐熱層4の幅は、セパレータ3の全幅の5%であった。サンプル(6)に設けられた耐熱層4の幅は、セパレータ3の全幅の2%であった。
【0077】
サンプル(4),(5),(6)の順、すなわち、耐熱層4の幅が広い順に、セパレータ3に短絡が生じた層数が少なかった。この評価結果から、耐熱層4の幅が広いほどセパレータ3の短絡防止効果が高いことが分かる。
【0078】
サンプル(2)とサンプル(7)とサンプル(8)との間では、耐熱層4の厚み6μmおよび幅20%は共通であるが、耐熱層4の層数が互いに異なる。そのため、サンプル(2),(7),(8)を比較することで、耐熱層4の層数の影響を評価できる。サンプル(2)に設けられた耐熱層4の層数は4層であった。サンプル(7)に設けられた耐熱層4の層数は3層であった。サンプル(8)に設けられた耐熱層4の層数は2層であった。
【0079】
サンプル(2)および(7)の方がサンプル(8)と比べて、セパレータ3に短絡が生じた層数が少なかった。この評価結果から、耐熱層4の層数がある程度多い(これの例では3層以上である)方がセパレータ3の短絡防止効果が高いことが分かる。
【0080】
以上のように、実施の形態2においては、最外層を含む所定数の層を構成するセパレータ3に耐熱層4を追加する。耐熱層4を設けることで、耐熱層4が設けられていない構成と比べて、電極体6の短絡に起因して電極体6が発熱した場合にも電極体6の温度上昇に伴う破損が起こりにくくなる。また、耐熱層4が電解液7を保持することでも電極体6の温度上昇が起こりにくくなる。よって、電極体6Bの熱暴走を抑制できる。
【0081】
また、耐熱層4を追加する対策をすべての層に講じることも考えられる。しかし、そうすると、電極体6Bの厚みが増大し、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害をもたらし得る。これに対し、実施の形態2では、耐熱層4の追加先が最外層(を含む数層)に限定されている。したがって、エネルギー密度の低下または大型化などの弊害についても防止できる。さらに、耐熱層4を電極体6の最外周部分の中央領域に限定することにより、電解液7の電極体6への含浸のしやすさ(いわゆる液回り)の低下を防止できる。
【0082】
なお、電極体6Bには、耐熱層4に加えて、実施の形態1のようにLTOを混合した負極合材層29が設けられた負極2Aが設けられていてもよい。言い換えると、実施の形態1にて説明した対策と実施の形態2にて説明した対策とを組み合わせることも可能である。
【0083】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 正極、11 正極集電体、12 正極合材層、2,2A 負極、3 セパレータ、21 負極集電体、22,29 負極合材層、4 耐熱層、5,5A セル、6,6A,6B 電極体、7 電解液、8 電池ケース、81 ケース本体、82 蓋体、91 正極端子、92 負極端子。