(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】車両安全装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/08 20200101AFI20231024BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20231024BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20231024BHJP
B60R 11/04 20060101ALI20231024BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W40/08
B60W60/00
B60R11/04
G08G1/16 F
(21)【出願番号】P 2020141174
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大典
(72)【発明者】
【氏名】石井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊豆 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】七原 正輝
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和実
(72)【発明者】
【氏名】田中 大敦
(72)【発明者】
【氏名】茂木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】林 貴志
(72)【発明者】
【氏名】楠本 光優
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-3936(JP,A)
【文献】特開2018-144544(JP,A)
【文献】特開2016-7989(JP,A)
【文献】特開2016-110336(JP,A)
【文献】特開2018-62197(JP,A)
【文献】特開2001-61205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60R 9/00-11/06
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立ち乗りを行う車両に搭載された車両安全装置であって、
少なくとも前記車両に乗車している乗員の乗車状態に関する乗員状態情報を検出する一又は複数のカメラと、
前記一又は複数のカメラによって検出された前記乗員状態情報を格納するメモリと、
前記メモリに格納されている前記乗員状態情報に基づいて、前記車両の運動制御を実行するプロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記乗員状態情報に基づいて、前記乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する姿勢判定処理と、
前記姿勢判定処理において、前記乗員が安定姿勢で乗車していないと判定された場合、前記運動制御を実行することによって前記乗員の安全を確保する安全確保処理と、
を実行するように構成され
、
前記乗員状態情報は、前記乗員の顔の表情に関する顔情報を含み、
前記姿勢判定処理は、
前記乗員のゼロモーメントポイントを算出する処理と、
前記顔情報に基づいて安定領域の広さを設定する処理と、
前記ゼロモーメントポイントが設定された前記安定領域に属しているかに基づいて、前記乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する処理と、
を含むことを特徴とする車両安全装置。
【請求項2】
前記姿勢判定処理は、
前記乗員状態情報に基づいて、前記乗員が前記車両の固定物に支持されているかどうかを判定する処理と、
前記乗員が前記固定物に支持されていると判定された場合、前記乗員が安定姿勢で乗車していると判定する処理と、
を含むことを特徴とする請求項
1に記載の車両安全装置。
【請求項3】
前記安全確保処理は、前記車両の走行中における停止或いは減速、又は前記車両の停止中における発進の保留を含むことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の車両安全装置。
【請求項4】
前記乗員状態情報は、前記乗員の姿勢に関する姿勢情報を含み、
前記姿勢判定処理は、前記姿勢情報に基づいて前記乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する処理を含むことを特徴とする請求項1から請求項
3の何れか1項に記載の車両安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両安全装置に係り、特に乗員が立ち乗りを行う車両の車両安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車室内事故を防止するための車内事故防止システムに関する技術が開示されている。この技術のシステムは、車室内に設置された全方位カメラの撮影内容に基づいて観察領域における危険性を判断し、その判断結果に応じて警報を通知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムによれば、危険性の判断結果に応じて、乗員に対して警報を通知することができる。しかしながら、危険性の程度によっては、警報による通知のみでは不十分なおそれがあり、車両の運動面からの安全確保が望まれる。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、乗員の安全を車両の運動面から確保することのできる車両安全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、第1の開示は、立ち乗りを行う車両に搭載された車両安全装置に適用される。車両安全装置は、少なくとも車両に乗車している乗員の乗車状態に関する乗員状態情報を検出する一又は複数のカメラと、一又は複数のカメラによって検出された乗員状態情報を格納するメモリと、メモリに格納されている乗員状態情報に基づいて、車両の運動制御を実行するプロセッサと、を備える。そして、プロセッサは、乗員状態情報に基づいて、乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する姿勢判定処理と、姿勢判定処理において、乗員が安定姿勢で乗車していないと判定された場合、運動制御を実行することによって乗員の安全を確保する安全確保処理と、を実行するように構成され、乗員状態情報は、乗員の顔の表情に関する顔情報を含み、姿勢判定処理は、乗員のゼロモーメントポイントを算出する処理と、顔情報に基づいて安定領域の広さを設定する処理と、ゼロモーメントポイントが設定された安定領域に属しているかに基づいて、乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する処理と、を含むものである。
【0008】
第2の開示は、第1の開示において、更に以下の特徴を備える。
姿勢判定処理は、乗員状態情報に基づいて、乗員が車両の固定物に支持されているかどうかを判定する処理と、乗員が固定物に支持されていると判定された場合、乗員が安定姿勢で乗車していると判定する処理と、を含む。
【0009】
第3の開示は、第1又は第2の開示において、更に以下の特徴を備える。
安全確保処理は、車両の走行中における停止或いは減速、又は車両の停止中における発進の保留を含む。
【0011】
第4の開示は、第1から第3の何れか1つの開示において、更に以下の特徴を備える。
乗員状態情報は、乗員の姿勢に関する姿勢情報を含む。姿勢判定処理は、姿勢情報に基づいて乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する処理を含む。
【発明の効果】
【0012】
第1の開示によれば、乗員が安定姿勢で乗車していないと判断された場合、車両の運動制御を行うことによって、乗員の安全が確保される。これにより、乗員の安全性を車両の運動面から確保することが可能となる。
また、第1の開示によれば、乗員のゼロモーメントポイント(ZMP)に基づいて、乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを高い精度で判定することができる。
また、第1の開示によれば、乗員の表情に基づいて乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判断することが可能となる。
【0014】
第2の開示によれば、乗員が固定物に支持されている場合、乗員が安定姿勢で乗車していると判定される。これにより、手すりや背もたれ等の車両の固定物に乗員が支えられている場合に、乗員が安定姿勢で乗車していることを判断することが可能となる。
【0015】
第3の開示によれば、乗員が安定姿勢で乗車していないと判断された場合、走行中の車両の減速或いは停止、停止中の車両の発進の保留によって乗員の安全性を確保することが可能となる。
【0017】
第4の開示によれば、乗員の姿勢に基づいて乗員が安定姿勢で乗車しているかどうかを判断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1に係る車両安全装置が適用された車両の概略構造を示す図である。
【
図2】実施の形態1に係る車両の制御系の概略構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】実施の形態1の制御装置によって実現される機能を説明するためのブロック図である。
【
図4】ZMPの算出に利用される乗員の全身画像の一例を示す図である。
【
図5】ZMPの安定領域Rthの一例を示す図である。
【
図6】制御装置がZMP算出処理及び姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【
図7】制御装置が安全確保処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【
図8】実施の形態2の制御装置が姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【
図9】実施の形態3の制御装置が姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【
図10】実施の形態4の制御装置が姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0020】
実施の形態1.
1-1.実施の形態1の概要
まず、実施の形態1の概要について
図1を用いて説明する。本実施の形態に係る車両安全装置が適用される車両10は、地図情報やセンサ情報を用いた自律走行が可能な車両である。
図1は、本実施の形態に係る車両安全装置が適用された車両の概略構造を示す図である。車両10は、ドライバによる運転操作によらず自律的に走行することができる。車両10としては、例えば、乗員の立ち乗りを前提としたパレット型の小型モビリティが例示される。そのような車両10が、乗車した乗員2に対してドライバレス輸送サービスを提供する。
【0021】
具体的には、車両10は、乗員2によって指定される場所あるいは所定の場所において、乗員2を乗せる。そして、車両10は、乗員2によって指定される目的地あるいは所定の目的地まで自律的に走行する。目的地に到着すると、車両10は乗員2を降ろす。
【0022】
ここで、車両10に立ち乗りしている乗員2は、常に安定した姿勢を維持できているとは限らない。そこで、車両10には、車両10の乗員2の安全を確保するための車両安全装置が搭載されている。車両安全装置は、車両10に乗車している乗員2が安定した姿勢であるかどうかを判定する姿勢判定処理を実行する。姿勢判定処理では、乗員2のゼロモーメントポイント(ZMP)が利用される。ZMPは、乗員2の身体の慣性力と足裏に作用する床反力とが釣り合う点である。ZMPの算出には、乗員2の乗車姿勢を撮像する一又は複数の内部カメラ20によって検出された情報が用いられる。この情報は、乗員2の乗車状態に関する情報であることから、「乗員状態情報」と呼ばれる。車両安全装置は、算出されたZMPが所定の安定領域に属するかどうかによって、乗員2の乗車姿勢が安定しているかどうかを判定する。ここでの安定領域は、例えば、左右足裏の領域から定まる支持多角形の内側に含まれる所定領域に設定される。
【0023】
車両10の走行中において乗員2が不安定な姿勢であると判定された場合、車両安全装置は、車両10を停止或いは減速させる。或いは、車両10の停止中において乗員2が不安定な姿勢であると判定された場合、車両安全装置は、車両10の停止を維持する。つまり、車両安全装置は、乗員2が不安定な姿勢である間、車両10の発進を保留する。このように、乗員2の乗車姿勢に応じて車両10の運動制御を行うことで、乗員2が不安定な姿勢である場合の安全性を高めることが可能になる。
【0024】
1-2.本実施の形態に係る車両の概略構造
次に、
図1を参照して、本実施の形態に係る車両安全装置が適用された車両の概略構造を説明する。本実施の形態に係る車両10は、パレット型の車体を有する小型の自律走行車両である。車両10は、デッキ4の高さが地面から30cm程度の低床車両である。車両10の下には、複数の車輪12がそれぞれ左右に設けられている。これらの車輪12は、車両10を、
図1において左方向と右方向のどちらの方向にも走行させることができる。ただし、ここでは、図中に矢印で示すように左方向を車両10の基本的な進行方向とする。そして、進行方向を車両10の前方、その反対方向を車両10の後方と定義する。
【0025】
デッキ4には、前方と後方の左右それぞれに支柱6が立てられている。前方の左右の支柱6,6の間には梁8が掛け渡されている。同様に、後方の左右の支柱6,6の間にも梁8が掛け渡されている。梁8は、デッキ4に乗った乗員2が腰掛、或いは手すり等の用途として使用できるようになっている。
【0026】
車両10は、デッキ4に乗車している乗員2を監視するための内部センサを備えている。内部センサは、一又は複数の内部カメラ20を含む。一又は複数の内部カメラ20は、車両10のデッキ4に乗車している乗員2の全身を右前方、左前方、右後方、及び左後方から撮影するように各支柱6の内側に設けられている。
【0027】
1-3.本実施の形態に係る車両の制御系の構成
次に、車両安全装置が適用された車両10の制御系の構成について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施の形態に係る車両の制御系の概略構成を説明するためのブロック図である。車両10は、自律走行を実現するために必要な情報を取得する多数のセンサを備えている。例えば、車輪速センサや加速度センサ等、車両の運動状態に関する情報を取得する車両状態センサ21が車両10には搭載されている。また、外部カメラ、ミリ波レーダ、及びLIDAR等、車両の周囲環境に関する情報を取得する自律センサ22が車両10には搭載されている。また、さらに、車両10のデッキ4の内部には、荷重センサ23が設置されている。荷重センサ23は、車両10に搭乗した乗員の重量を計測するために用いられる。さらに、地図上での車両の位置を検出するためのGPSユニット、インターネット上のサーバとの間で移動体通信を行うための移動体通信ユニット、及び周囲の人や物体或いは施設との間で無線通信を行うための無線通信ユニット等、車両と外部との通信を行うための通信装置24が車両10には搭載されている。
【0028】
上記の内部カメラ20、センサ21,22,23及び通信装置24は、制御装置100に接続されている。制御装置100は、1つ又は複数のECU(Electronic Control Unit)で構成され、少なくとも1つのプロセッサ110と少なくとも1つのメモリ120とを含む。ここでいうメモリ120には、ストレージも含まれる。メモリ120には、自動運転のためのプログラムが記憶されている。自動運転のための地図情報は、メモリ120にデータベースの形式で記憶されているか、或いは、サーバ内のデータベースから取得されてメモリ120に一時記憶される。
【0029】
車両10には、車輪12を操作する走行装置40が搭載されている。ここでの走行装置40は、車輪12のそれぞれに独立して設けられたモータである。車輪12はそれぞれが独立したモータによって駆動され、互いに独立した速度及び方向に回転することができる。詳しくは、車輪12のうちの中輪は通常輪であるが、前輪と後輪はオムニホイールである。制御装置100は、車両10を目標軌道に沿って走行させるように走行装置40の動作を制御する。また、制御装置100は、車両安全装置としての動作時に、車両10の減速或いは停止を行うように走行装置40の動作を制御する。
【0030】
また、プロセッサ110は、車両10の運転環境を示す運転環境情報200を取得する。運転環境情報200は、車両10に搭載された車両状態センサ21及び自律センサ22による検出結果に基づいて取得される。運転環境情報200は、車両位置情報、車両状態情報、周辺状況情報、及び地図情報を含んでいる。
【0031】
車両位置情報は、絶対座標系における車両10の位置及び方位を示す情報である。車両状態情報は、車両10の状態を示す情報である。車両10の状態としては、車速、ヨーレート、横加速度、等が例示される。プロセッサ110は、車両状態センサ21による検出結果から車両状態情報を取得する。周辺状況情報は、車両10の周囲の状況を示す情報である。周辺状況情報は、自律センサ22によって得られた情報を含む。例えば、周辺状況情報は、外部カメラによって撮像された車両10の周囲の状況を示す画像情報を含む。他の例として、周辺状況情報は、ミリ波レーダやライダーによって計測された計測情報を含む。地図情報は、レーン配置、道路形状、等を示す。取得された運転環境情報200は、メモリ120に格納される。
【0032】
更に、プロセッサ110は、車両10に搭乗した乗員2の情報を示す乗員状態情報300を取得する。乗員状態情報300は、内部カメラ20によって撮像された乗員2の画像情報を含む。また、乗員状態情報300は、荷重センサ23によって検出される乗員の重量の情報を含む。取得された情報は、メモリ120に格納される。
【0033】
1-4.本実施の形態に係る制御装置の機能
次に、制御装置100の機能について説明する。
図3は、本実施の形態の制御装置によって実現される機能を説明するためのブロック図である。制御装置100は、
図3にブロックで示されるように、ZMP算出処理部102と、姿勢判定処理部104と、安全確保処理部106と、を備える。ただし、これらの処理部はハードウェアとして存在するのではない。制御装置100は、
図3にブロックで示される車両安全装置の機能を実行するようにプログラムされている。より詳しくは、メモリ120に記憶されたプログラムがプロセッサ110で実行された場合に、プロセッサ110がこれらの処理部に係る処理を実行する。制御装置100は、
図3にブロックで示される車両安全装置の機能の他にも、自動運転のための様々な機能を有している。しかし、自動運転については公知の技術を用いることができるので、本明細書では、それらの説明は省略される。以下、車両安全装置の機能の処理について詳細に説明する。
【0034】
1-4-1.ZMP算出処理
ZMP算出処理部102としてのプロセッサ110は、車両10に乗車した一又は複数の乗員2のそれぞれに対してZMPを算出するZMP算出処理を実行する。ZMP算出処理では、プロセッサ110は、メモリ120に記憶されている乗員状態情報300の中から、内部カメラ20によって撮像された乗員2の全身を含んだ画像情報を読み込む。
【0035】
図4は、ZMPの算出に利用される乗員の全身画像の一例を示す図である。以下のZMP算出処理では、車両10の進行方向(前後方向)をX方向とし、車両10の左右方向をY方向とし、車両10の上下方向をZ方向と定義する。また、Z方向は、デッキ4の表面を0とし、符号は上向きを「正」と定義する。プロセッサ110は、乗員2の全身画像50に対して公知の画像解析を行うことにより、骨格データ情報52と、間接位置情報54とを取得する。プロセッサ110は、次式(1)を用いて、乗員2の重心位置を算出する。
【0036】
重心位置の計算には、例えば、次式(1)で表される演算モデルが用いられる。次式(1)では、乗員2の質量M、体節の数N、i番目の体節の座標(x
i,y
i,z
i)、i番目の体節の質量m
iから乗員の重心座標G(x
G,y
G,z
G)が算出される。質量Mは、乗員状態情報300の中から、荷重センサ23によって検出された乗員の重量を用いることができる。或いは、質量Mは、全身画像50から推定される体重を用いてもよい。i番目の体節の質量m
iは、メモリ120に予め格納されている身体部分慣性係数(BSP)が用いられる。
【数1】
【0037】
次にプロセッサ110は、次式(2)を用いて、乗員2の重心の加速度(x
G”,y
G”,z
G”)を計算する。次式(2)では、tは時刻であり、Tはサンプリングタイムである。
【数2】
【0038】
次にプロセッサ110は、次式(3)を用いて乗員2のZMP(px,py,pz)を計算する。次式(3)において、gは重力加速度である。算出されたZMPは、乗員状態情報300の一部としてメモリ120に格納される。
【数3】
【0039】
1-4-2.姿勢判定処理
姿勢判定処理部104としてのプロセッサ110は、車両10に乗車した一又は複数の乗員2のそれぞれに対して乗車姿勢が安定しているかどうかを判定する姿勢判定処理を実行する。姿勢判定処理では、プロセッサ110は、ZMP算出処理によって計算されたZMPが所定の安定領域Rthに属しているかどうかを判定する。安定領域Rthは、車両10の走行に伴う揺れ等に対して姿勢を維持可能なZMPの範囲である。
図5は、ZMPの安定領域Rthの一例を示す図である。
図5に示すように、安定領域Rthは、例えば、乗員2の足裏領域FAから定まる支持多角形SPの内側の領域に設定することができる。具体的には、プロセッサ110は、メモリ120に記憶されている乗員状態情報300の中から内部カメラ20によって撮像された乗員2の足元を含む画像を読み込む。次いで、プロセッサ110は、公知の画像解析手法を用いて乗員2の足裏領域FAを演算し、支持多角形SPを算出する。そして、プロセッサ110は、例えば、支持多角形SPを内側に向かって所定割合だけオフセットさせた領域を安定領域Rthとして算出する。なお、安定領域Rthの算出手法は上記に限られない。すなわち、安定領域Rthは、支持多角形SPの内部領域に含まれていれば、他の手法により算出する構成でもよい。
【0040】
1-4-3.安全確保処理
安全確保処理部106としてのプロセッサ110は、車両10に乗車している一又は複数の乗員2のうち少なくとも一人の乗員の乗車姿勢が安定していない場合、車両10の減速あるいは停止を行う安全確保処理を実行する。安全確保処理では、ZMP算出処理によって計算された乗員2のZMPが安定領域Rthに属していない場合、プロセッサ110は、乗員2の安全を確保するための車両10の運動制御を行う。具体的には、プロセッサ110は、車両10が走行中である場合、車両10の減速或いは停止を行うように走行装置40を制御する。或いは、プロセッサ110は、車両10が停止中である場合、車両10の停止を維持して発進を保留するように走行装置40を制御する。
【0041】
1-5.車両安全装置の動作手順
以上説明した車両安全装置の機能がプログラムされている制御装置100は、車両10に乗員2を乗車させている最中において、次に述べる手順にてZMP算出処理、姿勢判定処理及び安全確保処理を実行する。
図6は、制御装置がZMP算出処理及び姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
図6に示すルーチンは、車両10に乗員2が乗車している期間に所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0042】
ステップS100では、プロセッサ110は、メモリ120から各種情報を読み込む。ここで読み込まれる情報は、例えば、運転環境情報200及び乗員状態情報300が例示される。次のステップS102では、車両10に搭乗している一又は複数の乗員2のZMPがそれぞれ算出される。ここでは、プロセッサ110は、ステップS100にて読み込んだ各種情報を用いて、上述したZMP算出処理を実行する。
【0043】
次のステップS104では、ステップS100にて読み込んだ各種情報を用いて、安定領域Rthが算出される。ここでは、プロセッサ110は、上述した姿勢判定処理によって安定領域Rthを算出する。
【0044】
次のステップS106では、ステップS102において算出されたZMPが、ステップS104において算出された安定領域Rthに属するどうかが判定される。ここでは、プロセッサ110は、上述した姿勢判定処理によって、算出されたZMPと安定領域Rthの比較を行う。その結果、ZMPが安定領域Rthに属すると判定された場合、処理はステップS108に進み、ZMPが安定領域Rthに属しないと判定された場合、処理はステップS110に進む。
【0045】
ステップS108では、乗員2が安定姿勢で乗車していると判断し、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。一方、ステップS110では、乗員2が安定姿勢で乗車していないと判断し、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。
【0046】
図7は、制御装置が安全確保処理を実行するルーチンのフローチャートである。
図7に示すルーチンは、車両10に乗員2が乗車している期間に所定の制御周期で繰り返し実行される。ステップS120では、プロセッサ110は、メモリ120から一又は複数の乗員2の姿勢判定処理結果を読み込む。次のステップS122では、プロセッサ110は、読み込んだ姿勢判定処理結果に基づいて、全乗員2が安定姿勢で乗車しているかどうかを判定する。その結果、判定の成立が認められた場合、安全確保のための車両10の運動制御は必要ないと判断されて、本ルーチンは終了される。
【0047】
一方、ステップS122の判定において、判定の成立が認められない場合、安全確保のための車両10の運動制御が必要であると判断される。この場合、処理は次のステップS124に進む。ステップS124では、車両10が走行中であるかどうかが判定される。その結果、車両10が走行中である場合、処理はステップS126に進み、車両が走行中でない場合、処理はステップS128に進む。
【0048】
ステップS126では、プロセッサ110は、走行中の車両10が減速或いは停止するように走行装置40を制御する。また、ステップS128では、プロセッサ110は、停止中の車両10が停止を維持するように走行装置40を制御する。ステップS126又はステップS128の処理が完了すると、本ルーチンは終了される。
【0049】
このように、本実施の形態の車両安全装置によれば、車両10に乗車している一又は複数の乗員2の乗車姿勢に基づいて、車両10の運動制御が行われる。これにより、乗車している乗員の安全を確保することが可能となる。
【0050】
1-6.変形例
実施の形態1の車両安全装置は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0051】
車両安全装置が搭載される車両10は、乗員の立ち乗りを前提とした車両であれば、パレット型の小型モビリティに限られない。また、車両10は、自律走行が可能なドライバレス車両に限らず、ドライバを必要とする車両にも広く適用することができる。
【0052】
ステップS126では、プロセッサ110は、車両10の運動制御に加えて、乗員2への報知を行うこととしてもよい。なお、ここでの報知は、例えば、乗員2に対して安定姿勢を促す音声通知又は表示、車両10が減速或いは停止を行う旨の音声通知又は表示、等が例示される。これにより、乗員2は、自身の乗車姿勢に起因して車両10の減速或いは停止が行われたことを把握することができる。
【0053】
実施の形態2.
2-1.実施の形態2の特徴
車両10に立ち乗りしている乗員2が車両10の梁8や支柱6を把持しているような場合、或いは梁8を腰掛けや寄りかかりのために利用しているような場合、その乗車姿勢は安定しているといえる。そこで、実施の形態2の車両安全装置は、車両10に立ち乗りしている乗員2が車両10の固定物に支持されているような場合、乗員2が安定姿勢で乗車していると判定する。このような制御によれば、不必要な車両10の減速或いは停止が行われることを抑制することが可能となる。
【0054】
2-2.実施の形態2の姿勢判定処理の動作手順
図8は、実施の形態2の制御装置が姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
図8に示すルーチンは、車両10に乗員2が乗車している期間に所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0055】
ステップS200では、プロセッサ110は、メモリ120から各種情報を読み込む。ここで読み込まれる情報は、乗員状態情報300を含む。次のステップS202では、プロセッサ110は、乗員2が車両10の固定物に支持されているかどうかを判定する。ここでは、例えば、乗員状態情報300に含まれる乗員2の画像情報に基づいて、乗員2が梁8又は支柱6を把持しているかどうか或いはこれらにもたれ掛かっているかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められた場合、処理はステップS204に進み、判定の成立が認められない場合、処理はステップS206に進む。
【0056】
ステップS204では、乗員2が安定姿勢で乗車していると判断し、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。一方、ステップS206では、乗員2が安定姿勢で乗車していないと判断し、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。
【0057】
このように、実施の形態2の車両安全装置によれば、車両10に乗車している乗員2が車両10の固定物に支持されている場合に、安定姿勢で乗車していると判断される。これにより、不必要な車両10の減速或いは停止が行われることを抑制することが可能となる。
【0058】
2-3.変形例
実施の形態2の車両安全装置は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0059】
上述した実施の形態2の姿勢判定処理は、実施の形態1の車両安全装置によって実行される姿勢判定処理と組み合わせて実行してもよい。例えば、乗員2が車両10の固定物に支持されていると判定された場合、支持されていない場合よりも、ZMPの閾値である安定領域を広く設定することとしてもよい。この場合、例えば、上述したステップS104において、ステップS202の判定を実行し、判定成立が認められた場合、認められない場合よりも安定領域を広く設定するようにすればよい。
【0060】
或いは、ステップS202の判定の成立が認められた場合にはステップS108の処理に進み、ステップS202の判定の成立が認められない場合には、ステップS102の処理に進むようにしてもよい。このような制御によれば、乗員2が固定物に支持されていない場合に、ZMPに基づく姿勢判定処理が更に行われる。これにより、梁8等の固定物を把持していない場合に一律に安定姿勢でないと判断するのではなく、更なるZMPに基づく姿勢判定処理によって安定姿勢であるかどうかが判断されるので、乗車姿勢の誤判定を減らすことが可能となる。
【0061】
ステップS202の判定は、乗員2の画像情報を用いて判定する手法に限られない。すなわち、ステップS202では、例えば固定物に接触しているかどうかをセンサで直接的に検知する構成でもよい。この場合、梁8等の固定物に接触を検知する接触センサを取り付けておき、接触センサの検出結果である接触有無情報を乗員状態情報300としてメモリ120に格納しておく。そして、プロセッサ110は、ステップS200において、乗員状態情報300に含まれる接触有無情報を読み込み、ステップS202の判定において、接触有無情報に基づいて、乗員2が車両10の固定物に支持されているかどうかを判定すればよい。
【0062】
実施の形態3.
3-1.実施の形態3の特徴
車両10に立ち乗りしている乗員2の顔が驚いた表情或いは不安な表情をしているような場合、安心している表情をしている場合よりも、乗車姿勢が不安定である等、何らかの事態が発生している可能性が高い。そこで、実施の形態3の車両安全装置は、車両10に立ち乗りしている乗員2の表情に応じて乗車姿勢を判定する。具体的には、乗員2が安心した表情をしている場合、乗員2が安定姿勢で乗車していると判定する。一方、乗員2が驚いた表情或いは不安な表情をしている場合、乗員2が安定姿勢で乗車していないと判定する。このような制御によれば、車両10に乗車している乗員2の安全性を高めることが可能となる。
【0063】
3-2.実施の形態3の姿勢判定処理の動作手順
図9は、実施の形態3の制御装置が姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
図9に示すルーチンは、車両10に乗員2が乗車している期間に所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0064】
ステップS300では、プロセッサ110は、メモリ120から各種情報を読み込む。ここで読み込まれる情報は、乗員状態情報300を含む。次のステップS302では、プロセッサ110は、乗員状態情報300に含まれる乗員2の顔情報に基づいて、乗員2の表情が安心している表情であるかどうかを判定する。ここでは、公知の画像解析技術を用いて、乗員2の表情を分析し、安心の表情であるか、或いは不安又は驚きの表情であるかを分類する。その結果、乗員2の表情が安心の表情に分類される場合、処理はステップS304に進み、乗員2の表情が不安又は驚きの表情に分類される場合、処理はステップS306に進む。
【0065】
ステップS304では、乗員2が安定姿勢で乗車していると判断し、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。一方、ステップS306では、乗員2が安定姿勢で乗車していないと判断し、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。
【0066】
このように、実施の形態3の車両安全装置によれば、車両10に乗車している乗員2の表情に基づいて乗車姿勢を判断することが可能となる。
【0067】
3-3.変形例
実施の形態3の車両安全装置は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0068】
上述した実施の形態3の姿勢判定処理は、実施の形態1の車両安全装置によって実行される姿勢判定処理と組み合わせて実行してもよい。例えば、乗員2が安心した表情であると判定された場合、不安又は驚きの表情である場合よりも、ZMPの閾値である安定領域を広く設定することとしてもよい。この場合、例えば、上述したステップS104において、ステップS302の判定を実行し、判定成立が認められた場合、認められない場合よりも安定領域を広く設定するようにすればよい。
【0069】
或いは、ステップS302の判定の成立が認められた場合にはステップS108の処理に進み、ステップS302の判定の成立が認められない場合には、ステップS102の処理に進むようにしてもよい。このような制御によれば、乗員2の表情が安心している表情でない場合に、ZMPに基づく姿勢判定処理が更に行われる。これにより、不安や驚きの表情をしている場合に一律に安定姿勢でないと判断するのではなく、更なるZMPに基づく姿勢判定処理によって安定姿勢であるかどうかが判断されるので、乗車姿勢の誤判定を減らすことが可能となる。
【0070】
実施の形態4.
4-1.実施の形態4の特徴
例えば、車両10に立ち乗りしている乗員2が片足立ちをしているような場合、ZMPが安定領域に属していたとしても、車両10の揺れ等によって不安定姿勢へと変わる可能性がある。また、乗員2が身を乗り出した乗り方をしているような場合、車両10の固定物を把持しているとしても、安定姿勢であるとは言い難い。そこで、実施の形態4の車両安全装置は、車両10に立ち乗りしている乗員2の乗車姿勢を撮像した画像情報に基づいて、乗車姿勢が安定しているかどうかを視覚的に判定する。
【0071】
4-2.実施の形態4の姿勢判定処理の動作手順
図10は、実施の形態4の制御装置が姿勢判定処理を実行するルーチンのフローチャートである。
図10に示すルーチンは、車両10に乗員2が乗車している期間に所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0072】
ステップS400では、プロセッサ110は、メモリ120から乗員状態情報300を読み込む。ここで読み込まれる乗員状態情報300は、乗員の姿勢を撮像した姿勢情報を含む。次のステップS402では、プロセッサ110は、乗員状態情報300に含まれる乗員2の姿勢情報に基づいて、乗員2の姿勢が安定しているかどうかを判定する。ここでは、姿勢情報に含まれる乗員2の姿勢が、片足立ち、車外に身を乗り出した姿勢等、予め定められた不安定姿勢の画像パターンに該当するかどうかを判定する。その結果、乗員2の姿勢が安定姿勢であると判定された場合、処理はステップS404に進み、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。一方、乗員2の姿勢が不安定姿勢であると判定された場合、その結果である姿勢判定処理結果をメモリ120に格納する。
【0073】
このように、実施の形態4の車両安全装置によれば、車両10に乗車している乗員2の姿勢情報に基づいて乗車姿勢を判断することが可能となる。
【0074】
4-3.変形例
実施の形態4の車両安全装置は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0075】
上述した実施の形態4の姿勢判定処理は、実施の形態1の車両安全装置によって実行される姿勢判定処理と組み合わせて実行してもよい。例えば、乗員2が安定姿勢であると判定された場合、不安定姿勢である場合よりも、ZMPの閾値である安定領域を広く設定することとしてもよい。この場合、例えば、上述したステップS104において、ステップS402の判定を実行し、判定成立が認められた場合、認められない場合よりも安定領域を広く設定するようにすればよい。
【0076】
或いは、ステップS402の判定の成立が認められた場合にはステップS108の処理に進み、ステップS402の判定の成立が認められない場合には、ステップS102の処理に進むようにしてもよい。このような制御によれば、姿勢情報から判断される乗員2の姿勢が安定している場合に、ZMPに基づく姿勢判定処理が更に行われる。これにより、姿勢情報によって安定姿勢であると判断された場合であっても、更なるZMPに基づく姿勢判定処理によって安定姿勢であるかどうかが判断されるので、乗車姿勢の誤判定を減らすことが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
4 デッキ
6 支柱
8 梁
10 車両
12 車輪
20 内部カメラ
21 車両状態センサ
22 自律センサ
23 荷重センサ
24 通信装置
40 走行装置
50 全身画像
52 骨格データ情報
54 間接位置情報
100 制御装置
102 ZMP算出処理部
104 姿勢判定処理部
106 安全確保処理部
110 プロセッサ
120 メモリ
200 運転環境情報
300 乗員状態情報