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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】指定管理鳥獣の方向誘導装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/30 20110101AFI20231024BHJP
【FI】
A01M29/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020162861
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055438
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 泰啓
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-31555(JP,A)
【文献】特開2003-61554(JP,A)
【文献】特開2020-145937(JP,A)
【文献】特開2017-175996(JP,A)
【文献】特開2009-165431(JP,A)
【文献】特開2017-79623(JP,A)
【文献】特開2015-52233(JP,A)
【文献】特開2011-152060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/30
A01G 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
指定管理鳥獣の侵入を防止するために配置されるネットで、端部が筒状に巻かれたカール部を有することで、前記カール部以外の部分が地面から所定高さだけ上方に配置される防護ネットと、
伸縮変形自在な紐状で、前記防護ネットのカール部内に配設され、両端部が前記カール部の端部から突出する支持紐と、
打撃することで地中に打ち込み可能なアンカーと、
を備え、前記支持紐の両端部に前記アンカーを連結して、前記アンカーを地中に打ち込むことで、前記防護ネットが地面に設置される、
ことを特徴とする指定管理鳥獣の方向誘導装置。
【請求項2】
前記支持紐が前記防護ネットのカール部に接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の指定管理鳥獣の方向誘導装置。
【請求項3】
前記支持紐が複数の前記防護ネットのカール部内に配設され、前記支持紐が各前記カール部に接続されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の指定管理鳥獣の方向誘導装置。
【請求項4】
前記支持紐の両端部に2ヵ所以上の結束により環状の連結部が形成され、前記連結部内に前記アンカーを挿入することで前記支持紐の両端部に前記アンカーが連結される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の指定管理鳥獣の方向誘導装置。
【請求項5】
前記アンカーは、棒状で一端側に尖端部が設けられ地中に打ち込まれるアンカー本体と、前記アンカー本体の他端部を覆うキャップと、を備える、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の指定管理鳥獣の方向誘導装置。
【請求項6】
前記防護ネットの網目は、前記指定管理鳥獣の足が挿入可能で、かつ、前記網目から前記指定管理鳥獣の足を抜こうとする際に前記足に引っ掛かる大きさに設定されている、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の指定管理鳥獣の方向誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、猪や鹿などの指定管理鳥獣による農地や土構造物への有害行動を防止し、指定管理鳥獣が移動する方向を誘導するための方向誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平野の外縁部から山間地までの中山間地域において、人口の減少や生活スタイルの変化に伴い、耕作放棄地の増加や山林原野の利用放棄が広がり、環境の変化が進んでいる。このような環境が変化した中山間地域は、猪や鹿などの大型獣に餌、隠れ場所、水などを提供する生息適地となるため、大型獣の生息数および生息分布域が拡大している。大型獣の増加は、農地での食害や人への被害(噛みつき、寄生虫など)、堤防や土手、盛り土などの土構造物に対する棄損などのさまざまな問題をもたらしている。
【0003】
特に、土構造物では、法面の植物の根および昆虫(幼虫)を猪が捕食するために掘り返すなどの有害行動が増加している。法尻部は、斜面安定上極めて重要な部分であり、この部分の緩みは斜面崩壊の危険度を増加させる。また、同様な理由から、猪により石垣を壊される被害も発生している。
【0004】
このような大型獣による被害の拡大を防止するため、農林水産省および環境省では、従来の鳥獣保護法を改正した新たな鳥獣保護管理法において、猪および鹿を適正規模に捕獲可能な指定管理鳥獣として駆除を進めているが、その結果、新たな捕獲区域となった山奥に生息していた猪が都市部に活動範囲を移動させたことから、生息頭数は減少しているものの農業分野以外の被害は拡大している。
【0005】
従来、農地や土構造物などの保護領域内に対する指定管理鳥獣の侵入を防止するため、各種の侵入防止対策が施されている。例えば、従来の侵入防止対策には、金属フェンスや合成樹脂製のネットなどで保護領域内を囲んで指定管理鳥獣の侵入を防止するもの(例えば、特許文献1、2参照)や、センサーライトや蓄光機能を有する合成樹脂製のネットから放射される光、電気ショックなどを利用して指定管理鳥獣に不快感や恐怖感を与えて保護領域への侵入を防止するもの(例えば、特許文献3、4参照)、罠などで指定管理鳥獣を駆除するもの(例えば、特許文献5参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-008604号公報
【文献】特開2008-187951号公報
【文献】特開2000-194927号公報
【文献】実用新案登録第3172053号公報
【文献】特開2014-083049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の侵入防止技術は、農業被害防止を目的としたものが多く、農作物を目の前にした空腹の猪から設備が破壊されないだけの強固な設備としなければならないため、その設置に多額の費用や手間を必要とするだけではなく、金属フェンスやネットの破損状況の確認や、電気ショックを与えるための電気設備のメンテナンスなど、ランニングコストの負担が大きい。また、従来の侵入防止対策は、その設置コストが大きいことから、指定管理鳥獣に設備を破損された場合の被害額も大きくなってしまう。さらに、大がかりな設備は、人や車両の移動に制約がかかる、という問題もある。
【0008】
また、猪の侵入防止機能を高めるための高電圧等の強い刺激は、鳥獣虐待となるだけではなく、人の接触による重大災害(死亡災害)となるおそれがある。
【0009】
さらに、近年では、堤防や盛り土などの土構造物だけではなく、岩盤や砕石盛土、コンクリート面部などの硬い地盤を掘り返し、落石や土砂崩れを引き起こす被害も急増しており、硬い地盤への侵入防止策を求めるニーズが高まっている。同様に、傾斜面や藪地など環境が厳しい場所にも侵入防止策を施す必要がある。
【0010】
一方、授産施設においては障害者にとって実施可能な作業が限られること等から、極めて安い工賃で作業が請け負われるケースも多く、障害者だからという理由で自治体が定めた最低労働賃金さえも支払われず、障害者の保護者が将来に大きな不安を抱えている等の社会問題が発生している。
【0011】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、低コストで指定管理鳥獣の侵入を防止でき、かつ、多様な場所に設置可能な指定管理鳥獣の方向誘導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、指定管理鳥獣の侵入を防止するために配置されるネットで、端部が筒状に巻かれたカール部を有することで、前記カール部以外の部分が地面から所定高さだけ上方に配置される防護ネットと、伸縮変形自在な紐状で、前記防護ネットのカール部内に配設され、両端部が前記カール部の端部から突出する支持紐と、打撃することで地中に打ち込み可能なアンカーと、を備え、前記支持紐の両端部に前記アンカーを連結して、前記アンカーを地中に打ち込むことで、前記防護ネットが地面に設置される、ことを特徴とする指定管理鳥獣の方向誘導装置である。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の方向誘導装置において、前記支持紐が前記防護ネットのカール部に接続されている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1に記載の方向誘導装置において、前記支持紐が複数の前記防護ネットのカール部内に配設され、前記支持紐が各前記カール部に接続されている、ことを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1から3に記載の方向誘導装置において、前記支持紐の両端部に2ヵ所以上の結束により環状の連結部が形成され、前記連結部内に前記アンカーを挿入することで前記支持紐の両端部に前記アンカーが連結される、ことを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1から4に記載の方向誘導装置において、前記アンカーは、棒状で一端側に尖端部が設けられ地中に打ち込まれるアンカー本体と、前記アンカー本体の他端部を覆うキャップと、を備える、ことを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1から5に記載の方向誘導装置において、前記防護ネットの網目は、前記指定管理鳥獣の足が挿入可能で、かつ、前記網目から前記指定管理鳥獣の足を抜こうとする際に前記足に引っ掛かる大きさに設定されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
指定管理鳥獣として指定されている猪や鹿などの偶蹄目は、足の先端に2本の主蹄と、そのやや上の後ろ側に2本の副蹄とを有し、これら主蹄や副蹄の間に物が挟まり、あるいは足自体が挟まる可能性があるものを嫌う習性がある。また、猪や鹿は、自分の前足は見えるが後ろ足は見えないため、後足を下ろす位置は自分では意識してコントロールすることができない。
【0019】
そして、請求項1に記載の発明によれば、地面から所定高さに防護ネットが配置されているため、本装置に猪や鹿が侵入した場合に、前足が防護ネットの網目に挿入されて絡まり、足が曲げられバランスを崩す等の現象を高い確率で経験することになる。また、主蹄や副蹄に防護ネットが挟まることにより、猪や鹿に不快感を与えることもできる。仮に、前足が無事に侵入して着地できたとしても、死角であり意識して着地場所をコントロールできない後足は、前足より更に高い確率で防護ネットに絡まり、主蹄および副蹄の間に防護ネットが挟まることになる。従って、地面から所定高さだけ上方の位置に、防護ネットを設置するという非常に簡易な構成でありながら、保護領域内への指定管理鳥獣の侵入を効果的に防止し、その保護領域外に指定管理鳥獣の移動方向を誘導することができる。
【0020】
また、防護ネットの端部を筒状に巻いたカール部だけで、その他の部分を地面から所定高さだけ上方に配置するため、構成が簡易となり、製作費や保守費などを低減することが可能となる。しかも、防護ネット自体を加工してカール部を形成するだけであり、他の部材を要しないため、部材費を削減できるとともに、容易かつ短時間で設置することが可能となる。さらに、カール部の大きさ(筒径)を変えるだけで、容易かつ適正に防護ネットを所望の高さに位置させることができる。また、防護ネットの端部を筒状に巻くだけであるため、カール部を授産作業で製作することが可能である。
【0021】
一方、伸縮変形自在な支持紐がカール部内に配設され、その両端部にアンカーを連結してアンカーを打撃して地中に打ち込むだけで、防護ネットを設置することができる。このため、岩盤や砕石盛土などの硬い地盤、あるいは、傾斜面や藪地など環境が厳しい場所など、多様な場所に容易、迅速かつ適正に防護ネットを設置することが可能となる。
【0022】
また、支持紐が伸縮変形自在なため、防護ネットに足を絡めた指定管理鳥獣がもがいたとしても、支持紐が伸縮したり変形したりして復元するだけであり、足が防護ネットから抜けにくい。この結果、保護領域内への指定管理鳥獣の侵入をより効果的に防止することが可能になるとともに、支持紐さらには本装置の破損、損壊を防止、抑制することが可能となる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、支持紐が防護ネットのカール部に接続され、防護ネットと支持紐とが予め一体化されているため、防護ネットつまり本方向誘導装置をより容易、迅速かつ適正に設置することが可能となる。しかも、支持紐をカール部に接続するだけであるため、作業が容易で授産作業で製作することが可能である。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、支持紐が複数の防護ネットの各カール部に接続され、複数の防護ネットが支持紐を介して予め一体化されているため、複数の防護ネットをより容易、迅速かつ適正に設置することが可能となる。特に、傾斜面や藪地など設置環境が厳しい場所では作業が困難であるが、このような場所でも容易、迅速かつ適正に設置することが可能で、作業者の負担を軽減することが可能となる。
【0025】
請求項4に記載の発明によれば、伸縮変形自在な支持紐に引っ張り力が作用し支持紐の断面収縮により結束力が弱まり固定端部が解けてしまうことがなくなり、防護ネットつまり本方向誘導装置をより確実に設置することが可能となる。
【0026】
請求項5に記載の発明によれば、アンカーがアンカー本体とキャップとを備えるだけの簡易な構成なため、製作費や保守費を低減可能である。しかも、アンカー本体の他端部がキャップで覆われるため、アンカー本体の他端部で人や指定管理鳥獣が傷つくのを防止することができ安全である。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、防護ネットの網目の大きさが適正なサイズに設定されているため、指定管理鳥獣の足を確実に引っ掛けて絡めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明の実施の形態に係る指定管理鳥獣の方向誘導装置を複数設置した状態を示す斜視図である。
図2図1の方向誘導装置を示す平面図(a)と正面図(b)と(a)のA-A断面図(c)である。
図3図1の方向誘導装置の防護ネットを示す斜視図である。
図4図3の防護ネットの設置状態を示す図である。
図5図1の方向誘導装置に猪が足を踏み入れた状態を示す説明図である。
図6図3の防護ネットに猪の足が絡まった状態を示す説明図である。
図7図3の防護ネットと支持紐との接続構造を示す図である。
図8図1の方向誘導装置の支持紐の連結部とアンカーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0030】
図1から図8は、この発明の実施の形態を示し、図1は、この実施の形態に係る指定管理鳥獣の方向誘導装置(以下、「方向誘導装置」という)1を複数設置した状態を示す斜視図である。この方向誘導装置1は、例えば、山の道路際の傾斜面101の下部のコンクリート面部102に沿うように設置されている。猪Mや鹿などの指定管理鳥獣は、傾斜面101に生息するミミズや、植生する草木などを捕食するために傾斜面101に出没し、傾斜面101を掘り返す。このため、方向誘導装置1は、指定管理鳥獣の傾斜面101への侵入を防止して、指定管理鳥獣の移動方向を保護領域である傾斜面101以外の場所へ誘導するものである。ここで、この実施の形態では、指定管理鳥獣が猪Mの場合について、主として以下に説明する。
【0031】
この方向誘導装置1は、図2に示すように、主として、防護ネット2と、支持紐3と、アンカー4と、を備える。
【0032】
防護ネット2は、図3に示すように、猪Mの侵入が防止される保護領域またはその近傍、この実施の形態では、コンクリート面部102に略横方向に延びて配置されるネット・網体で、端部にカール部21を有することで、カール部21以外の部分が地面Gから所定高さだけ上方に配置されるものである。すなわち、塑性変形自在な合成樹脂製の網で、略長方形に形成され、図4に示すように、中央部22が盛り上がった緩やかなアーチ状・円弧状に形成され、その両端部にカール部21が形成されている。つまり、略長方形の網体の対向する2つの長辺にカール部21が形成され、カール部21間がアーチ状に形成されている。
【0033】
このカール部21は、カール部21以外の部分を地面Gから所定高さだけ上方に位置させるものであり、防護ネット2の端部を円筒状に巻いて形成されている。また、カール部21の大きさ、外径は、地面Gからカール部21以外の部分が少なくとも所定高さだけ上方に位置するように設定され、この結果、中央部22の高さHは、所定高さよりも高くなっている。ここで、所定高さは、図5に示すように、猪Mが防護ネット2に足M1を踏み入れた際に、より確実に猪Mの足M1を捉えられる高さに設定されている。
【0034】
また、防護ネット2の網目2aは、図6に示すように、猪Mの足M1が挿入可能で、かつ、網目2aから猪Mの足M1を抜こうとする際に防護ネット2が足M1に引っ掛かる大きさに設定されている。詳しくは後述するが、例えば1辺が2~5cmの正方形、長方形に形成されている。なお、網目2aの形状は、正方形、長方形以外の多角形でもよいし、三角形、円形または楕円形であってもよい。
【0035】
支持紐3は、伸縮変形自在な紐状で、防護ネット2のカール部21内に配設され、両端部がカール部21の端部から突出するものであり、この実施の形態では、4つ(複数)の防護ネット2のカール部21内に配設されている。すなわち、ゴム紐で構成され、防護ネット2に足M1を絡めた猪Mがもがいたとしても、破断することなく支持紐3が伸縮変形し、かつ、足M1が防護ネット2から抜けにくいように、ゴム紐の伸縮性、弾性変形性および粘性が設定されている。そして、図2に示すように、カール部21が同軸になるように4つの防護ネット2が配設された状態で、双方の4つ並びのカール部21を貫通して支持紐3が配設されている。
【0036】
このような支持紐3が各防護ネット2のカール部21に予め接続されている。すなわち、この実施の形態では、図7に示すように、カール部21の網目2aから第1の結束バンド51の一端側がカール部21内に挿入され、支持紐3に巻き付いてカール部21外に引き出されて、第1の結束バンド51が締め付けられることで、支持紐3がカール部21に接続、固定されている。このような接続が、各防護ネット2のカール部21に対して複数箇所で行われ、これにより、支持紐3を介して4つの防護ネット2が連結、一体化されている。つまり、この実施の形態では、4つの防護ネット2が一体の方向誘導装置1を構成している。ここで、第1の結束バンド51による接続位置と接続数および第1の結束バンド51の大きさ(幅、厚み)は、防護ネット2に足M1を絡めた猪Mがもがいたとしても、支持紐3と各防護ネット2との接続が破壊されないように設定されている。
【0037】
また、支持紐3の両端部は、図2に示すように、両端に配設された防護ネット2のカール部21の端部から突出し、2ヵ所以上の結束により環状の連結部31が形成されている。すなわち、図8に示すように、支持紐3の端部が折り返されて、重ね合わせ部が第2の結束バンド52と第3の結束バンド53で固定されることで、環状の連結部31が形成されている。ここで、連結部31の環内の大きさ(内径)は、後述するアンカー4のアンカー本体41を挿入可能で、アンカー4のキャップ42から抜けないように設定されている。また、この実施の形態では、2つの結束つまり結束バンド52、53で連結部31を形成しているが、3つ以上の結束バンドで形成してもよい。
【0038】
アンカー4は、打撃することで地中に打ち込み可能な打ち込み杭で、図8に示すように、アンカー本体41とキャップ42とを備える。アンカー本体41は、鋼鉄製の丸棒体(鉄筋状)で地中に打ち込まれ、一端側に尖端部41aが形成されているとともに、外周面から突出する環状のリブ41bが軸方向に沿って所定間隔で複数形成されている。これにより、リブ41bがコンクリート面部102などに食い込んでアンカー本体41が抜けにくいようになっている。ここで、アンカー本体41の外径、長さおよび強度、剛性は、コンクリート面部102や岩盤、砕石盛土などの硬い地盤にも打ち込め、防護ネット2に足M1を絡めた猪Mがもがいたとしても、アンカー本体41が抜けないように設定されている。
【0039】
キャップ42は、アンカー本体41の他端部(反尖端部41a)を覆うプラスチック製の蓋である。すなわち、上部が塞がった円筒状で、アンカー本体41の他端部を圧入できるようになっている。また、上部は大径で丸みを帯びた団子状に形成され、人や指定管理鳥獣が当たっても傷つかないようになっている。
【0040】
そして、支持紐3の連結部31内にアンカー本体41を挿入することで、支持紐3の端部にアンカー4が連結される。このようにして、支持紐3の両端部にアンカー4を連結して、アンカー4つまりアンカー本体41を尖端部41a側から地中に打ち込むことで、防護ネット2が支持紐3を介して地面Gに設置される。その後、アンカー本体41の他端部にキャップ42を取り付けることで、安全性が確保される。
【0041】
次に、このような構成の方向誘導装置1の作用および、方向誘導装置1による指定管理鳥獣の方向誘導方法(以下、「方向誘導方法」という)について説明する。
【0042】
まず、図1に示すように、コンクリート面部102に必要数の方向誘導装置1を設置する。すなわち、一体化された4つの防護ネット2のカール部21を地面Gに当てて配置することで、地面Gから所定高さだけ上方の位置に、略横方向に延びるように防護ネット2を配置する。次に、各支持紐3の連結部31内にアンカー4のアンカー本体41の尖端部41a側を挿入し、尖端部41aを地面Gに当ててアンカー本体41の他端部・上部をハンマーなどで打撃して、アンカー本体41を地中に打ち込み、一体化された4つの防護ネット2を地面Gに配設、固定する。その後、各アンカー本体41の他端部にキャップ42を取り付ける。このようにして必要数の方向誘導装置1を必要な個所に設置する。ここで、図1では、方向誘導装置1の幅方向(短尺方向)に3つの方向誘導装置1を並列した状態を図示しているが、幅方向に1つまたは2つ、あるいは4つ以上の方向誘導装置1を配設したり、長手方向(長尺方向)に複数の方向誘導装置1を並列したりしてもよい。
【0043】
このようにして方向誘導装置1を配設した状態で、猪Mは、傾斜面101に生息するミミズや、植生している草木を捕食するために傾斜面101やコンクリート面部102に出没する。そして、図5に示すように、猪Mがコンクリート面部102に足M1を踏み入れると、足M1は防護ネット2の網目2aに挿入される。図6に示すように、猪Mの偶蹄目の足M1は、先端に2本の主蹄M1aを有し、主蹄M1aの後方上部には、軟質の膨張部M1bを有する。また、膨張部M1bの上部には、2本の副蹄M1cが存在する。
【0044】
足M1が挿入された防護ネット2は、網目2aが副蹄M1cの上部で絡まり、主蹄M1aの間や、足M1と副蹄M1cとの間などに挟まる。猪Mは、主蹄M1aや副蹄M1cの間に物が挟まったり、足M1自体が挟まる可能性があるものを嫌う習性があるため、防護ネット2から足M1を抜こうとして足M1を上げ下ろししたりする。しかしながら、防護ネット2は、足M1の膨張部M1bに引っ掛かり、主蹄M1aや副蹄M1cに挟まっているため、足M1は容易に防護ネット2から抜けることはない。このため、猪Mに対する不快な状態が維持され、猪Mは、傾斜面101などへの侵入を諦めて移動方向を変更するものである。
【0045】
以上のように、この方向誘導装置1および方向誘導方法によれば、地面Gから所定高さに防護ネット2が配置されているため、本装置1に猪Mが侵入した場合に、足M1が防護ネット2の網目2aに挿入されて絡まり、足M1が曲げられバランスを崩す等の現象を高い確率で経験することになる。また、主蹄M1aや副蹄M1cに防護ネット2が挟まることにより、猪Mに不快感を与えることもできる。仮に、前足M1が無事に侵入して着地できたとしても、死角であり意識して着地場所をコントロールできない後足M1は、前足M1より更に高い確率で防護ネット2に絡まり、主蹄M1aおよび副蹄M1cの間に防護ネット2が挟まることになる。従って、地面Gから所定高さだけ上方の位置に、防護ネット2を設置するという非常に簡易な構成でありながら、保護領域内への指定管理鳥獣の侵入を効果的に防止し、その保護領域外に指定管理鳥獣の移動方向を誘導することができる。しかも、防護ネット2の網目2aの大きさが適正なサイズに設定されているため、猪Mの足M1などを確実に引っ掛けて絡めることができる。
【0046】
また、防護ネット2の端部を筒状に巻いたカール部21だけで、その他の部分を地面Gから所定高さだけ上方に配置するため、構成が簡易となり、製作費や保守費などを低減することが可能となる。しかも、防護ネット2自体を加工してカール部21を形成するだけであり、他の部材を要しないため、部材費を削減できるとともに、容易かつ短時間で設置することが可能となる。さらに、カール部21の大きさ(筒径)を変えるだけで、容易かつ適正に防護ネット2を所望の高さに位置させることができる。また、防護ネット21の端部を筒状に巻くだけであるため、カール部21を授産作業で製作することが可能である。
【0047】
一方、伸縮変形自在な支持紐3がカール部21内に配設され、その両端部にアンカー4を連結してアンカー4を打撃して地中に打ち込むだけで、防護ネット2を設置することができる。このため、岩盤や砕石盛土などの硬い地盤、あるいは、傾斜面や藪地など環境が厳しい場所など、多様な場所に容易、迅速かつ適正に防護ネット2を設置することが可能となる。しかも、アンカー4は硬い地盤に打ち込み可能なため、堤防や盛り土などの土構造物だけではなく、コンクリート面部102や砕石盛土などの硬い地盤にも防護ネット2を設置して、猪Mなどの侵入を防止することが可能となる。
【0048】
また、支持紐3が伸縮変形自在なため、防護ネット2に足M1を絡めた猪Mがもがいたとしても、支持紐3が伸縮したり変形したりして復元するだけであり、足M1が防護ネット2から抜けにくい。この結果、傾斜面101内への指定管理鳥獣の侵入をより効果的に防止することが可能になるとともに、支持紐3さらには本装置1の破損、損壊を防止、抑制することが可能となる。
【0049】
また、支持紐3が防護ネット2のカール部21に接続され、防護ネット2と支持紐3とが予め一体化されているため、防護ネット2つまり本方向誘導装置1をより容易、迅速かつ適正に設置することが可能となる。しかも、支持紐3を第1の結束バンド51でカール部21に接続するだけであるため、作業が容易で授産作業で製作することが可能である。
【0050】
さらに、支持紐3が複数の防護ネット2の各カール部21に接続され、複数の防護ネット2が支持紐3を介して予め一体化されているため、複数の防護ネット2をより容易、迅速かつ適正に設置することが可能となる。特に、傾斜面や藪地など設置環境が厳しい場所では作業が困難であるが、このような場所でも容易、迅速かつ適正に設置することが可能で、作業者の負担を軽減することが可能となる。
【0051】
また、支持紐3の両端部の連結部31内にアンカー4つまりアンカー本体41を挿入するだけで、支持紐3の両端部にアンカー4が連結されるため、防護ネット2つまり本方向誘導装置1をより容易、迅速かつ適正に設置することが可能となる。しかも、2ヵ所以上の結束により連結部31が形成されているため、伸縮変形自在な支持紐3に引っ張り力が作用し支持紐3の断面収縮により結束力が弱まり固定端部が解けてしまうことがなくなり、防護ネット2つまり本方向誘導装置1をより確実に設置することが可能となる。
【0052】
さらに、アンカー4がアンカー本体41とキャップ42とを備えるだけの簡易な構成なため、製作費や保守費を低減可能である。しかも、アンカー本体41の他端部がキャップ42で覆われるため、アンカー本体41の他端部で人や指定管理鳥獣が傷つくのを防止することができ安全である。
【0053】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、アンカー本体41が鉄筋状の棒体で構成されているが、打ち込む地盤などに応じてその他の構成にしてもよい。また、支持紐3の両端部にアンカー4を予め連結、固定して、防護ネット2と支持紐3とアンカー4とを予め一体化してもよい。これにより、環境が厳しい場所でもより容易、迅速かつ適正に方向誘導装置1を設置することが可能となる。さらに、隣接する防護ネット2同士を結束バンドなどで連結してもよく、これにより、防護ネット2の破損、取り外れなどをより防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 指定管理鳥獣の方向誘導装置
2 防護ネット
2a 網目
21 カール部
3 支持紐
31 連結部
4 アンカー
41 アンカー本体
41a 尖端部
42 キャップ
51 第1の結束バンド
52 第2の結束バンド
53 第3の結束バンド
101 傾斜面(保護領域)
102 コンクリート面部(保護領域)
G 地面
M 猪(指定管理鳥獣)
M1 猪の足
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8