(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20231024BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231024BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2020200373
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大友 崇督
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/065035(WO,A1)
【文献】特開2017-152147(JP,A)
【文献】特開平09-092290(JP,A)
【文献】特開2018-181462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
H01M 10/0585
H01M 10/0562
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層および高剛性正極集電体を有する全固体電池であって、
前記高剛性正極集電体は、金属元素を含有し、かつ、ヤング率が96.5GPa以上であ
り、
前記高剛性正極集電体は、前記金属元素として、金属単体におけるヤング率が96.5GPa以上である第1金属元素を含有し、
前記高剛性正極集電体は、前記第1金属元素として、Znを含有する、全固体電池。
【請求項2】
前記正極活物質層および前記高剛性正極集電体は、非接着状態である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記高剛性正極集電体は、前記金属元素を含有する金属単体である、請求項1
または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記高剛性正極集電体は、前記金属元素を含有する合金である、請求項1
または請求項2に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記合金は、
前記第1金属元素と、金属単体におけるヤング率が96.5GPa未満である第2金属元素と、を含有する、請求項
4に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記高剛性正極集電体は、前記正極活物質層側の表面に、炭素材料を含有するコート層を有する、請求項1から請求項
5までのいずれかの請求項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記コート層は、無機フィラーを含有する、請求項
6に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記全固体電池は、単位セルを有し、
前記単位セルは、
負極集電体と、
前記負極集電体の一方の面上に配置された第1構造体と、
前記負極集電体の他方の面上に配置された第2構造体と、
を有し、
前記第1構造体は、前記負極集電体側から厚さ方向に沿って順に、第1負極活物質層、
第1固体電解質層、第1正極活物質層および第1正極集電体を有し、
前記第2構造体は、前記負極集電体側から厚さ方向に沿って順に、第2負極活物質層、
第2固体電解質層、第2正極活物質層および第2正極集電体を有し、
前記第1正極集電体および前記第2正極集電体の少なくとも一方が、前記高剛性正極集電体である、請求項1から請求項
7までのいずれかの請求項に記載の全固体電池。
【請求項9】
正極活物質層および高剛性正極集電体を有する全固体電池であって、
前記高剛性正極集電体は、金属元素を含有し、かつ、ヤング率が96.5GPa以上で
あり、
前記全固体電池は、単位セルを複数有し、
前記複数の単位セルは、厚さ方向に沿って積層され、
前記積層された複数の単位セルにおいて、最も外側に位置する正極集電体を最外正極集電体とした場合に、前記最外正極集電体のみが、前記高剛性正極集電体であ
る、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
正極活物質層の集電を行う正極集電体、および、負極活物質層の集電を行う負極集電体として、金属を用いることが知られている。例えば、特許文献1には、正極側金属層(正極集電体)として、伸び率が22%以上である金属を用いた全固体電池が開示されている。
【0004】
また、全固体電池に関する技術では無いものの、特許文献2には、ヤング率が20×1010N/m2以下である金属箔を有する非水電解液二次電池が開示されている。また、特許文献3には、ヤング率が6.5N/mm2以下である正極集電体を有する非水電解質二次電池用正極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-065029号公報
【文献】特開平11-126613号公報
【文献】国際公開第2014/155990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、導電性部材の突き刺し等により全固体電池に内部短絡が生じると、内部短絡に伴う電流が流れることで全固体電池に発熱が生じる。その発熱量は少ないことが好ましい。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、例えば、導電性部材の突き刺し等による内部短絡が生じた場合であっても、発熱量が少ない全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、正極活物質層および高剛性正極集電体を有する全固体電池であって、上記高剛性正極集電体は、金属元素を含有し、かつ、ヤング率が96.5GPa以上である、全固体電池を提供する。
【0008】
本開示によれば、所定のヤング率を有する高剛性正極集電体を用いることで、例えば、導電性部材の突き刺し等による内部短絡が生じた場合であっても、発熱量が少ない全固体電池とすることができる。
【0009】
上記開示において、上記正極活物質層および上記高剛性正極集電体は、非接着状態であってもよい。
【0010】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記金属元素として、金属単体におけるヤング率が96.5GPa以上である第1金属元素を含有していてもよい。
【0011】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記第1金属元素として、Zn、Fe、Ni、Pt、Ir、Re、W、Ta、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、Cu、Co、Mn、Cr、V、TiおよびBeの少なくとも一種を含有していてもよい。
【0012】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記第1金属元素として、Znを含有していてもよい。
【0013】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記第1金属元素として、Feを含有していてもよい。
【0014】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記第1金属元素として、Niを含有していてもよい。
【0015】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記金属元素を含有する金属単体であってもよい。
【0016】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記金属元素を含有する合金であってもよい。
【0017】
上記開示において、上記合金は、金属単体におけるヤング率が96.5GPa以上である第1金属元素と、金属単体におけるヤング率が96.5GPa未満である第2金属元素と、を含有していてもよい。
【0018】
上記開示において、上記高剛性正極集電体は、上記正極活物質層側の表面に、炭素材料を含有するコート層を有していてもよい。
【0019】
上記開示において、上記コート層は、無機フィラーを含有していてもよい。
【0020】
上記開示において、上記全固体電池は、単位セルを有し、上記単位セルは、負極集電体と、上記負極集電体の一方の面上に配置された第1構造体と、上記負極集電体の他方の面上に配置された第2構造体と、を有し、上記第1構造体は、上記負極集電体側から厚さ方向に沿って順に、第1負極活物質層、第1固体電解質層、第1正極活物質層および第1正極集電体を有し、上記第2構造体は、上記負極集電体側から厚さ方向に沿って順に、第2負極活物質層、第2固体電解質層、第2正極活物質層および第2正極集電体を有し、上記第1正極集電体および上記第2正極集電体の少なくとも一方が、上記高剛性正極集電体であってもよい。
【0021】
上記開示において、上記全固体電池は、単位セルを複数有し、上記複数の単位セルは、厚さ方向に沿って積層され、上記積層された複数の単位セルにおいて、最も外側に位置する正極集電体を最外正極集電体とした場合に、上記最外正極集電体のみが、上記高剛性正極集電体であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示における全固体電池は、例えば、導電性部材の突き刺し等による内部短絡が生じた場合であっても、発熱量が少ないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図2】本開示における正極を例示する概略断面図である。
【
図3】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図4】本開示における単位セルを例示する概略断面図である。
【
図5】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図6】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示における全固体電池について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、各図において、部材の断面を示すハッチングを適宜省略している。また、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」または「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上または直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方または下方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0025】
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図1に示す全固体電池10は、正極活物質層1と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体2と、負極活物質層3と、負極活物質層3の集電を行う負極集電体4と、正極活物質層1および負極活物質層3の間に配置された固体電解質層5とを有する。正極集電体2は、所定のヤング率を有する高剛性正極集電体2xである。
【0026】
本開示によれば、所定のヤング率を有する高剛性正極集電体を用いることで、例えば、導電性部材の突き刺し等による内部短絡が生じた場合であっても、発熱量が少ない全固体電池とすることができる。上述したように、導電性部材の突き刺し等により全固体電池に内部短絡が生じると、内部短絡に伴う電流が流れることで全固体電池に発熱が生じる。特に、導電性部材によって正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれ、抵抗が小さい正極集電体および負極集電体が接触すると、電流量が多くなり、発熱量が大きくなる場合が想定される。これに対して、本開示においては、ヤング率を有する高剛性正極集電体を用いることで、導電性部材の突き刺し時に生じる応力に対して、高剛性正極集電体の変形が生じにくい。そのため、導電性部材によって高剛性正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれることを抑制でき、発熱量を低減することができる。
【0027】
1.正極
本開示における正極は、正極活物質を含有する正極活物質層と、正極活物質層の集電を行う正極集電体とを有する。
【0028】
(1)正極集電体
本開示における全固体電池は、正極集電体として、金属元素を含有し、かつ、ヤング率が96.5GPa以上である高剛性正極集電体を有する。
【0029】
高剛性正極集電体に含まれる金属元素は特に限定されない。高剛性正極集電体は、金属元素を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。高剛性正極集電体は、金属元素として、金属単体におけるヤング率が96.5GPa以上である第1金属元素を含有することが好ましい。高剛性正極集電体は、第1金属元素を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。第1金属元素としては、例えば、Zn、Fe、Ni、Pt、Ir、Re、W、Ta、Pd、Rh、Ru、Mo、Nb、Cu、Co、Mn、Cr、V、TiおよびBeが挙げられる。
【0030】
高剛性正極集電体は、金属元素として、金属単体におけるヤング率が96.5GPa未満である第2金属元素を含有していてもよく、含有していなくてもよい。第2金属元素としては、例えば、Bi、Pb、Au、Sn,In、Cd、Ag、Ca、Al、Mgが挙げられる。
【0031】
高剛性正極集電体は、金属単体であってもよく、合金であってもよい。後者の場合、高剛性正極集電体は、第1金属元素を少なくとも含有することが好ましく、第1金属元素を主成分として含有することが好ましい。主成分とは、合金に含まれる全ての金属元素において、最も重量割合が多い金属元素をいう。また、高剛性正極集電体は、金属元素として、Znを含有することが好ましく、Znを主成分として含有することが好ましい。また、高剛性正極集電体は、金属元素として、Feを含有することが好ましく、Feを主成分として含有することが好ましい。また、高剛性正極集電体は、金属元素として、Niを含有することが好ましく、Niを主成分として含有することが好ましい。
【0032】
高剛性正極集電体のヤング率は、通常96.5GPa以上であり、120GPa以上であってもよく、150GPa以上であってもよく、200GPa以上であってもよい。高剛性正極集電体のヤング率が小さすぎると、導電性部材によって正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれることを十分に抑制できない可能性がある。なお、高剛性正極集電体のヤング率は、205GPa以上であってもよい。一方、高剛性正極集電体のヤング率は、例えば500GPa以下である。ヤング率は、JIS Z2201「金属材料引張試験片」、Z2241「金属材料引張試験方法」に準拠した引張試験方法により求めることができる。
【0033】
高剛性正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。高剛性正極集電体の厚さは、例えば0.1μm以上であり、1μm以上であってもよい。高剛性正極集電体が薄すぎると、集電機能が低くなる可能性がある。一方、高剛性正極集電体の厚さは、例えば1mm以下であり、100μm以下であってもよい。高剛性正極集電体が厚すぎると、全固体電池の体積エネルギー密度が低くなる可能性がある。
【0034】
正極活物質層および高剛性正極集電体は、非接着状態であってもよい。両者が非接着状態である場合、両者が接着状態である場合に比べて、導電性部材によって正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれやすい。そのような状態であっても、高剛性正極集電体を用いることで、高剛性正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれることを抑制できる。「非接着状態」とは、高剛性正極集電体を台座に固定し、正極活物質層に、セロハンテープ(No405、産業用、ニチバン製)の一部を貼り付け、その後、セロハンテープを厚さ方向(鉛直方向)に引っ張った時に、高剛性正極集電体および正極活物質層が、それぞれ、剥がれ残りなく剥離する状態をいう。なお、上記とは逆に、正極活物質層を固定して高剛性正極集電体にセロハンテープの一部を貼り付けて評価してもよい。例えば、正極活物質およびバインダーを含有するスラリーを、高剛性正極集電体に塗工することにより正極活物質を形成した場合、スラリーに含まれるバインダーにより、正極活物質層および高剛性正極集電体は強く接着される。そのため、この場合は、通常、非接着状態は得られない。一方、後述する実施例に記載するように、転写箔(Al箔)を用いて正極活物質層を形成し、プレス後に転写箔を剥がし露出した正極活物質層に高剛性正極集電体を配置する場合は、非接着状態が得られる。
【0035】
また、
図2に示すように、高剛性正極集電体2xは、正極活物質層1側の表面に、炭素材料を含有するコート層6を有していてもよい。高剛性正極集電体2xおよび正極活物質層1の間にコート層6を配置することで、両者の接触抵抗を低減することができる。
【0036】
コート層は、炭素材料を少なくとも含有する層である。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等の炭素繊維、活性炭、カーボン、グラファイト、グラフェン、フラーレン等が挙げられる。炭素材料の形状は、例えば、粒子状が挙げられる。コート層に含まれる炭素材料の割合は、例えば、5体積%以上、95体積%以下である。
【0037】
コート層は、樹脂をさらに含有していてもよい。例えば、樹脂を多く添加することで、柔軟性を有するコート層が得られる。高い柔軟性によって、電池に付与される拘束圧で正極集電体上のコート層と正極活物質層の接触面積が増大し、接触抵抗を低減することができる。また、樹脂を多く添加することで、PTC特性を有するコート層が得られる。ここで、PTCとは、Positive Temperature Coefficientを意味し、PTC特性とは、温度上昇に伴って、抵抗が正の係数を持って変化する特性をいう。すなわち、コート層に含まれる樹脂は、温度上昇に伴って体積膨張し、コート層の抵抗増加が生じる。その結果、例えば内部短絡が生じた場合であっても、発熱量を低減させることができる。
【0038】
樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール等が挙げられる。樹脂の融点は、例えば、80℃以上300℃以下である。コート層に含まれる樹脂の割合は、例えば5体積%以上であり、50体積%以上であってもよい。一方、コート層に含まれる樹脂の割合は、例えば95体積%以下である。
【0039】
コート層は、無機フィラーを含有していてもよく、含有していなくてもよい。前者の場合、PTC特性が高いコート層が得られ、後者の場合、電子伝導性が高いコート層が得られる。全固体電池では、通常、厚さ方向に沿って拘束圧が付与されているため、拘束圧の影響を受けて、コート層に含まれる樹脂が変形または流動し、PTC特性が十分に発揮されない可能性がある。これに対して、コート層に硬い無機フィラーを添加することで、拘束圧の影響を受けた場合であっても、PTC特性が十分に発揮される。
【0040】
無機フィラーとしては、例えば、金属酸化物、金属窒化物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、シリカが挙げられ、金属窒化物としては、例えば、窒化ケイ素が挙げられる。無機フィラーの平均粒径(D50)は、例えば、50nm以上5μm以下であり、100nm以上2μm以下であってもよい。また、コート層における無機フィラーの含有量は、例えば、5体積%以上、90体積%以下である。
【0041】
コート層の厚さは、例えば、1μm以上20μm以下であり、1μm以上10μm以下であってもよい。
【0042】
(2)正極活物質層
正極活物質層は、正極活物質を少なくとも含有し、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0043】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の岩塩層状型活物質、LiMn2O4、Li(Ni0.5Mn1.5)O4、Li4Ti5O12等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4等のオリビン型活物質が挙げられる。また、正極活物質として、硫黄(S)または硫化リチウム(Li2S)を用いてもよい。
【0044】
また、正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えばLiNbO3が挙げられる。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上100nm以下であり、1nm以上20nm以下であってもよい。
【0045】
正極活物質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上50μm以下であり、100nm以上20μm以下であってもよい。正極活物質層における正極活物質の割合は、例えば50重量%以上であり、60重量%以上99重量%以下であってもよい。
【0046】
固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質は、Li、A(Aは、P、Si、Ge、AlおよびBの少なくとも一種である)、およびSを含有することが好ましい。また、硫化物固体電解質は、オルト組成のアニオン構造(PS4
3-構造、SiS4
4-構造、GeS4
4-構造、AlS3
3-構造、BS3
3-構造)をアニオンの主成分として有することが好ましい。オルト組成のアニオン構造の割合は、硫化物固体電解質における全アニオン構造に対して、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよい。また、硫化物固体電解質はハロゲン化リチウムを含有していてもよい。ハロゲン化リチウムとしては、例えば、LiCl、LiBr、LiIが挙げられる。
【0047】
また、固体電解質は、ガラスであってもよく、結晶化ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、結晶材料であってもよい。固体電解質の形状としては、例えば粒子状が挙げられる。
【0048】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ブチレンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化物系バインダーが挙げられる。また、正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上300μm以下であり、0.1μm以上100μm以下であってもよい。
【0049】
2.負極
本開示における負極は、負極活物質を含有する負極活物質層と、負極活物質層の集電を行う負極集電体とを有する。負極活物質層は、負極活物質を少なくとも含有し、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0050】
負極活物質としては、例えば、金属活物質、カーボン活物質、酸化物活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、金属単体、金属合金が挙げられる。金属活物質に含まれる金属元素としては、例えば、Si、Sn、Li、In、Al等が挙げられる。金属合金は、上記金属元素を主成分として含有する合金であることが好ましい。金属合金は、2成分系合金であってもよく、3成分系以上の多成分系合金であってもよい。カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。また、酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12等のチタン酸リチウムが挙げられる。
【0051】
負極活物質層に用いられる固体電解質、導電材およびバインダーについては、上記「1.正極」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上300μm以下であり、0.1μm以上100μm以下であってもよい。
【0052】
負極集電体に含まれる金属元素としては、例えばCu、Fe、Ti、Ni、Zn、Coが挙げられる。負極集電体は、上記金属元素の単体であってもよく、上記金属元素を主成分として含有する合金であってもよい。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。負極集電体の厚さは、例えば0.1μm以上1mm以下であり、1μm以上100μm以下であってもよい。
【0053】
3.固体電解質層
固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に配置される層である。また、固体電解質層は、固体電解質を少なくとも含有し、必要に応じて、バインダーをさらに含有していてもよい。固体電解質層に用いられる固体電解質およびバインダーについては、上記「1.正極」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0054】
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば、10重量%以上100重量%以下であり、50重量%以上、100重量%以下であってもよい。また、固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上300μm以下であり、0.1μm以上100μm以下であってもよい。
【0055】
4.全固体電池
本開示における全固体電池は、単位セルを有する。「単位セル」とは、全固体電池における電池要素を構成する単位をいい、正極集電体、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層および負極集電体を有する。なお、一の単位セルにおける正極集電体は、他の単位セルにおける正極集電体または負極集電体と共通であってもよい。同様に、単位セルにおける負極集電体は、他の単位セルにおける負極集電体または正極集電体と共通であってもよい。
【0056】
本開示における全固体電池は、単位セルを1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。後者の場合、複数の単位セルは、通常、厚さ方向に沿って積層される。また、複数の単位セルは、直列接続されていてもよく、並列接続されていてもよい。例えば、
図1に示す全固体電池10は、正極集電体2、正極活物質層1、固体電解質層5、負極活物質層3および負極集電体4を有する単位セルを1つのみ有する。一方、
図3に示す全固体電池10は、単位セルU
1、U
2を有し、これらは直列接続されている。なお、
図3に示す中間集電体7は、単位セルU
1における負極集電体と、単位セルU
2における正極集電体とを兼ねている。中間集電体7が、上述した高剛性正極集電体(高剛性集電体)であってもよい。
【0057】
図4は、本開示における単位セルを例示する概略断面図である。
図4に示す単位セルUは、負極集電体4と、負極集電体4の一方の面s1上に配置された第1構造体Aと、負極集電体4の他方の面s2上に配置された第2構造体Bと、を有する。また、第1構造体Aは、負極集電体4側から厚さ方向に沿って順に、第1負極活物質層3a、第1固体電解質層5a、第1正極活物質層1aおよび第1正極集電体2aを有する。一方、第2構造体Bは、負極集電体4側から厚さ方向に沿って順に、第2負極活物質層3b、第2固体電解質層5b、第2正極活物質層1bおよび第2正極集電体2bを有する。第1正極集電体2aおよび第2正極集電体2bの少なくとも一方が、上述した高剛性正極集電体であることが好ましい。
【0058】
図4に示す単位セルUは、負極集電体4を基準にして、他の層の構成が対称であることから、正極活物質層および負極活物質層の伸縮性の違いによる応力の発生が生じにくい。その結果、負極集電体の破断が生じることを抑制できる。
【0059】
また、本開示における全固体電池は、
図4に示す単位セルUを複数有していてもよい。
図5に示す全固体電池10は、
図4に示す単位セルUを複数有し(単位セルU
1~U
3)、複数の単位セルUは並列接続されている。具体的には、単位セルU
1~U
3における全ての正極集電体2aおよび正極集電体2bが電気的に接続され、単位セルU
1~U
3における全ての負極集電体4が電気的に接続されることで、単位セルU
1~U
3は並列接続される。単位セルU
1~U
3における正極集電体2aおよび正極集電体2bのうち、少なくとも1つが、上述した高剛性正極集電体であることが好ましい。なお、
図5において、対向する正極集電体2aおよび正極集電体2b(例えば、単位セルU
1における正極集電体2b、および、単位セルU
2における正極集電体2a)は別部材であるが、同部材(一つの正極集電体)であってもよい。
【0060】
一方、
図6に示す全固体電池10は、
図4に示す単位セルUを複数有し(単位セルU
1~U
3)、各々の単位セルUの間には絶縁部材20が配置され、複数の単位セルUは直列接続されている。具体的に、単位セルU
1~U
3において、それぞれの正極集電体2aおよび正極集電体2bが電気的に接続され、さらに、単位セルU
1における負極集電体4が、単位セルU
2における正極集電体2aおよび正極集電体2bと電気的に接続され、単位セルU
2における負極集電体4が、単位セルU
3における正極集電体2aおよび正極集電体2bと電気的に接続されている。単位セルU
1~U
3における正極集電体2aおよび正極集電体2bのうち、少なくとも1つが、上述した高剛性正極集電体であることが好ましい。
【0061】
また、積層された複数の単位セルにおいて、最も外側に位置する正極集電体を最外正極集電体とする。例えば、
図5、
図6では、単位セルU
1における正極集電体2a、および、単位セルU
3における正極集電体2bが、それぞれ、最外正極集電体に該当する。本開示においては、最外正極集電体が、高剛性正極集電体であることが好ましい。導電性部材に全固体電池に突き刺さる等して短絡した場合であっても、導電性部材によって最外正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれることを抑制できる。その結果、発熱量をより低減することができる。また、
図5、
図6に示すように、両端に最外正極集電体が存在する場合、それらの最外正極集電体の少なくとも一方が、高剛性正極集電体であることが好ましく、両方が高剛性正極集電体であってもよい。また、本開示においては、最外正極集電体のみが高剛性正極集電体であってもよい。この場合、最外正極集電体以外の全ての正極集電体が、ヤング率が96.5GPaより小さい低剛性正極集電体であってもよい。
【0062】
本開示における全固体電池は、正極、固体電解質層および負極を収納する外装体を有していてもよい。外装体は、可撓性を有していてもよく、有していなくてもよい。前者の一例としては、アルミラミネートフィルムが挙げられ、後者の一例としては、SUS製ケースが挙げられる。
【0063】
また、本開示における全固体電池は、拘束治具により拘束圧が付与されていてもよい。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0064】
また、本開示における全固体電池の種類は特に限定されないが、典型的には、全固体リチウムイオン二次電池である。さらに、本開示における全固体電池の用途としては、例えば、ハイブリッド自動車、電気自動車、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0065】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
(負極活物質の作製)
Si粒子(高純度化学製)0.65gと、Li金属(本城金属製)0.60gとを、Ar雰囲気下にてメノウ乳鉢で混合して、LiSi前駆体を得た。得られたLiSi前駆体1.0gに、0℃のエタノール(ナカライテスク製)250mlを加えて、Ar雰囲気下のガラス反応器内にて120分間反応させた。その後、吸引ろ過にて液体と固体反応物とを分離し、固体反応物を回収した。回収した固体反応物0.5gに、酢酸(ナカライテスク製)50mlを加えて、大気雰囲気下のガラス反応器内にて60分間反応させた。その後、吸引ろ過にて液体と固体反応物とを分離し、固体反応物を回収した。回収した固体反応物を100℃で2時間真空乾燥して、負極活物質(ナノポーラスSi粒子)を得た。
【0067】
(負極の作製)
得られた負極活物質(ナノポーラスSi粒子、平均粒径0.5μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)、平均粒径0.5μm)と、導電材(VGCF-H)と、バインダー(SBR)とを、重量比で、負極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=47.0:44.6:7.0:1.4となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、スラリーを得た。得られたスラリーを、負極集電体(Ni箔、厚さ22μm)の一方の表面上にアプリケーターを用いたブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。その後、負極集電体の他方の表面上にも、同様に塗工および乾燥を行った。これにより、負極集電体と、負極集電体の両面に形成された負極活物質層とを有する負極を得た。負極活物質層の厚さ(片面厚さ)は60μmであった。
【0068】
(正極用部材の作製)
転動流動造粒コーティング装置でLiNbO3コートを行った正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、平均粒径10μm)と、硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)、平均粒径0.5μm)と、導電材(VGCF-H)と、バインダー(SBR)とを、重量比で、正極活物質:硫化物固体電解質:導電材:バインダー=83.3:14.4:2.1:0.2となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、スラリーを得た。得られたスラリーを、Al箔(厚さ15μm)上にアプリケーターを用いたブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。これにより、Al箔および正極活物質層を有する正極用部材を得た。正極活物質層の厚さは100μmであった。
【0069】
(SE層用部材の作製)
硫化物固体電解質(10LiI・15LiBr・75(0.75Li2S・0.25P2S5)、平均粒径2.0μm)と、バインダー(SBR)とを、重量比で、硫化物固体電解質:バインダー=99.6:0.4となるように秤量し、分散媒(ジイソブチルケトン)とともに混合した。得られた混合物を、超音波ホモジナイザー(UH-50、株式会社エスエムテー製)で分散させることにより、スラリーを得た。得られたスラリーを、Al箔(厚さ15μm)上にアプリケーターを用いたブレードコート法により塗工し、100℃で30分間乾燥させた。これにより、Al箔および固体電解質層を有するSE層用部材を得た。固体電解質層の厚さは50μmであった。
【0070】
(全固体電池の作製)
負極およびSE層用部材を、7.2cm×7.2cmのサイズに切り出した。一方、正極用部材を、7.0cm×7.0cmのサイズに切り出した。
【0071】
負極の一方の表面側に位置する負極活物質層に、SE層用部材の固体電解質層を接触させ、負極の他方の表面側に位置する負極活物質層にも、SE層用部材の固体電解質層を接触させた。得られた積層体を、ロールプレス法により線圧1.6t/cmでプレスした。次に、それぞれの固体電解質層からAl箔を剥離し、固体電解質層を露出させた。
【0072】
その後、露出させた固体電解質層に、それぞれ、正極用部材の正極活物質層を接触させた。得られた積層体を、ロールプレス法により線圧1.6t/cmでプレスした。次に、それぞれの正極活物質層からAl箔を剥離し、正極活物質層を露出させ、さらにロールプレス法により線圧5t/cmでプレスした。次に、ロールプレスした正極活物質層に、コート層を有する正極集電体(Zn箔、厚さ50μm)をそれぞれ配置した。なお、コート層は、導電材(ファーネスブラック、東海カーボン製)およびPVDF(クレハ製)を、導電材:PVDF=85:15の体積比となるように秤量し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)と混合したスラリーを正極集電体(Zn箔)に塗工し、乾燥することにより形成した。次に、集電用のタブを、正極集電体および負極集電体にそれぞれ設置し、ラミネート封止することにより、全固体電池を得た。
【0073】
[実施例2]
正極集電体として、Fe箔(厚さ50μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0074】
[実施例3]
正極集電体として、Ni箔(厚さ50μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0075】
[比較例1]
正極集電体として、Al箔(厚さ50μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0076】
[比較例2]
正極集電体として、Sn箔(厚さ50μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0077】
[評価]
実施例1~3および比較例1、2で得られた全固体電池に対して、針刺し試験を行った。具体的には、全固体電池を、針刺し用の穴を有する拘束板を用いて5MPaで拘束した。その後、4.05VでCC-CV充電(上限電流値20A)しながら、φ3mm、先端角30°の針を用いて、速度0.1mm/s、深さ1.2mmの条件で全固体電池を刺した。電圧(V)と、流れ込み電流(A)との積から発熱量(W)を算出した。その結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示すように、実施例1~3は、比較例1、2よりも発熱量が少ないことが確認された。これは、実施例1~3で用いた正極集電体のヤング率が、比較例1、2で用いた正極集電体のヤング率よりも高く、導電性部材によって正極集電体が全固体電池の内部に引きずり込まれることを抑制できたためであると推測される。
【符号の説明】
【0080】
1 … 正極活物質層
2 … 正極集電体
3 … 負極活物質層
4 … 負極集電体
5 … 固体電解質層
6 … コート層
10 … 全固体電池