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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20231024BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20231024BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20231024BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20231024BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20231024BHJP
   G11B 5/845 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/706
G11B5/714
G11B5/738
G11B5/78
G11B5/845 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020541304
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019035044
(87)【国際公開番号】W WO2020050371
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018166275
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】寺川 潤
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
【審査官】中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/198514(WO,A1)
【文献】特開2007-294086(JP,A)
【文献】特開2017-111842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/706
G11B 5/714
G11B 5/738
G11B 5/78
G11B 5/845
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最短記録波長が50nm以下である記録再生装置に用いられる磁気記録媒体であって、
一軸磁気異方性を有するスピネル型フェライト磁性粉を含む磁性層を備え、
前記磁性層の平均厚みが、85nm以下であり、
前記磁性層の飽和磁束密度が、1600Gauss以上2000Gauss以下である磁気記録媒体。
【請求項2】
前記スピネル型フェライト磁性粉が、前記磁性層の厚み方向に配向している請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記スピネル型フェライト磁性粉が、立方体状またはほぼ立方体状を有する磁性粒子を含み、
前記磁性粒子の正方形状面が、前記磁性層の表面から露出している請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記磁性層の表面には、前記磁性粒子の正方形状面が敷き詰められている請求項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記スピネル型フェライト磁性粉が、コバルトフェライト磁性粉である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記スピネル型フェライト磁性粉の平均サイズが、25nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁気記録媒体の平均厚みが、5.6μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記磁性層の下に設けられた下地層をさらに備え、
前記磁性層と前記下地層の平均厚みの総和が、1.1μm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
垂直方向における角形比が、65%以上である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記磁気記録媒体が長尺状を有し、
長手方向における角形比が、35%以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
前記磁気記録媒体が長尺状を有し、
長手方向における保磁力が、2000Oe以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界で扱うデータ量の増加に伴い、塗布型磁気記録媒体の高容量化の要求が高まっている。高容量化のためには、記録トラック密度を高めるか、もしくは線記録密度を高めることが望まれる。特に線記録密度が高まるにつれ、短波長記録に対応するために磁性層を薄層化する必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、記録密度の向上に不可欠な短波長記録に対応するために、磁性層の厚さを200nm以下、特に100nm以下に薄膜化するのが効果的であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-100503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁性層を薄層化すると、磁化信号の再生出力が弱まり、結果として電磁変換特性(例えばSNR(Signal-to-Noise Ratio))が劣化する現象が起こってしまう。
【0006】
本開示の目的は、良好な電磁変換特性を得ることができる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本開示は、最短記録波長が50nm以下である記録再生装置に用いられる磁気記録媒体であって、一軸磁気異方性を有するスピネル型フェライト磁性粉を含む磁性層を備え、磁性層の平均厚みが、85nm以下であり、磁性層の飽和磁束密度が、1600Gauss以上2000Gauss以下である磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、良好な電磁変換特性を得ることができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果またはそれらと異質な効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る磁気記録媒体の断面図である。
図2】SFD曲線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態について以下の順序で説明する。
1 概要
2 磁気記録媒体の構成
3 磁性粉の製造方法
4 磁気記録媒体の製造方法
5 効果
【0011】
[1 概要]
近年、磁気記録媒体の磁性粉としてバリウムフェライト粒子粉が広く用いられている。しかしながら、バリウムフェライト粒子粉の飽和磁化量σsは50emu/g程度であり、磁性層の薄層化に対して飽和磁化量σsが不足するため、磁化信号の再生出力が弱まり、良好なSNRが得られなくなる虞がある。
【0012】
飽和磁化量σsが高い磁性粉としては、FeCo基合金(メタル磁性粉)が従来より用いられていたが、形状異方性により保磁力を発現しているため、微粒子化による極端な保磁力低下が発生する。したがって、FeCo基合金は、高密度の磁気記録媒体には適していない。
【0013】
そこで、上記の点を踏まえて、本発明の一実施形態に係る磁気記録媒体では、磁性粉として、高い飽和磁化量σsを有するスピネル型フェライト粒子粉を用いている。
【0014】
[2 磁気記録媒体の構成]
まず、図1を参照して、一実施形態に係る磁気記録媒体10の構成について説明する。磁気記録媒体10は、長尺状の基体11と、基体11の一方の主面上に設けられた下地層12と、下地層12上に設けられた磁性層13と、基体11の他方の主面上に設けられたバック層14とを備える。なお、下地層12およびバック層14は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。
【0015】
磁気記録媒体10は長尺のテープ状を有し、記録再生の際には長手方向に走行される。なお、磁性層13の表面が、磁気ヘッドが走行される表面となる。磁気記録媒体10は、50nm以下、より好ましくは46nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成されており、最短記録波長が50nm以下、好ましくは46nm以下である記録再生装置に用いられる。最短記録波長の下限値は、磁性粉サイズが転移幅に及ぼす影響の観点からすると、30nm以上であることが好ましい。磁気記録媒体10の線記録密度は、500kbpi以上850kbpi以下であることが好ましい。
【0016】
最短記録波長は、以下のようにして求められる。データが全面に記録された磁気記録媒体10を準備し、その記録層13のデータバンド部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製、NANO SCOPEとその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、NANO SCOPEに付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離の最小値Lとする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:NANO WORLD社製 MFMR、リフトハイト:225μm、補正:Flatten order 3である。磁化反転間距離の最小値Lを2倍することにより、最短記録波長が求められる。
【0017】
磁気記録媒体10は、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置で用いられることが好ましい。磁気記録媒体10は、ライブラリ装置に用いられてもよい。この場合、ライブラリ装置は、上述の記録再生装置を複数備えるものであってもよい。
【0018】
なお、本明細書において、“垂直方向”とは、平坦な状態の磁気記録媒体10の表面に対して垂直な方向(磁気記録媒体10の厚み方向)を意味し、“長手方向”とは、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)を意味する。
【0019】
(基体)
基体11は、下地層12および磁性層13を支持する非磁性支持体である。基体11は、長尺のフィルム状を有する。基体11の平均厚みの上限値は、好ましくは4.2μm以下、より好ましくは3.8μm以下、さらにより好ましくは3.4μm以下である。基体11の平均厚みの上限値が4.2μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。基体11の平均厚みの下限値は、好ましくは3μm以上である。基体11の平均厚みの下限値が3μm以上であると、基体11の強度低下を抑制することができる。
【0020】
基体11の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの基体11以外の層(すなわち下地層12、磁性層13およびバック層14)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプル(基体11)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体11の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0021】
基体11は、例えば、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含む。基体11が上記材料のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。
【0022】
ポリエステル類は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。
【0023】
ポリオレフィン類は、例えば、PE(ポリエチレン)およびPP(ポリプロピレン)のうちの少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)およびCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)およびPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0024】
その他の高分子樹脂は、例えば、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)およびPU(ポリウレタン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0025】
(磁性層)
磁性層13は、信号を記録するための記録層である。磁性層13は、垂直方向に磁気異方性を有する。すなわち、磁性層13の磁化容易軸は、垂直方向に向いている。磁性層13は、例えば、磁性粉および結着剤を含む。磁性層13が、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、研磨剤、硬化剤、防錆剤および非磁性補強粒子等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0026】
磁性層13の平均厚みの上限値は、好ましくは85nm以下、より好ましくは70nm以下、さらにより好ましくは50nm以下である。磁性層13の平均厚みの上限値が85nm以下であると、記録ヘッドとしてリング型ヘッドを用いた場合に、磁性層13の厚み方向に均一に磁化を記録できるため、電磁変換特性(例えばSNR)を向上することができる。
【0027】
磁性層13の平均厚みの下限値は、好ましくは30nm以上、より好ましくは35nm以上である。磁性層13の平均厚みの上限値が30nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、電磁変換特性(例えばSNR)を向上することができる。
【0028】
磁性層13の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10を、その主面に対して垂直に薄く加工して試料片を作製し、その試験片の断面を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により観察を行う。以下に、装置および観察条件を示す。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向に少なくとも10点以上の位置で磁性層13の厚みを測定した後、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して磁性層13の平均厚みを求める。なお、測定位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0029】
磁性層13の飽和磁束密度が、1600Gauss以上2000Gauss以下、好ましくは1800Gauss以上1950Gauss以下、より好ましくは1850Gauss以上1900Gauss以下である。飽和磁束密度が1600Gauss未満であると、磁性層13を薄層化していくにつれて出力が不足するため、電磁変換特性(例えばSNR)が低下する虞がある。一方、飽和磁束密度が2000Gaussを超えると、磁化信号を読み取るGMR(Giant Magnetoresistive)、TMR(Tunneling Magnetoresistive)ヘッド等が飽和することにになるため、同様に電磁変換特性(例えばSNR)が低下する虞がある。
【0030】
上記の飽和磁束密度は、以下のようにして求められる。まず、長尺状の磁気記録媒体10から測定サンプルを切り出し、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて測定サンプルの垂直方向(厚み方向)に測定サンプル全体のM-Hループを測定する。次に、アセトンまたはエタノール等を用いて塗膜(下地層12、磁性層13およびバック層14等)を払拭し、基体11のみを残してバックグラウンド補正用のサンプルとし、VSMを用いて基体11の垂直方向(厚み方向)に基体11のM-Hループを測定する。その後、測定サンプル全体のM-Hループから基体11のM-Hループを引き算して、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。得られたM-Hループから飽和磁化量ms(emu)を求める。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、室温(25℃)にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0031】
次に、M-Hループの測定に用いた測定サンプルの面積Sと、磁性層13の平均厚みdとを用いて、測定サンプルの体積v(=S×d)(cc)を求める。なお、磁性層13の平均厚みdの算出方法は上述した通りである。そして、求めた体積v(cc)と飽和磁化量ms(emu)とを用いて、飽和磁化量ms(emu/cc)を算出する。続いて、算出された飽和磁化量msに4πをかけることにより、飽和磁束密度を算出する。
【0032】
(磁性粉)
磁性粉は、スピネル型フェライトを主相とする鉄酸化物の磁性粒子(以下「スピネル型フェライト磁性粒子」という。)を含む。スピネル型フェライト磁性粒子は、例えば、立方体状またはほぼ立方体状を有している。なお、以下では、スピネル型フェライト磁性粒子を含む磁性粉をスピネル型フェライト磁性粉という。
【0033】
磁性粉は、一軸異方性を有し、垂直方向に磁場配向している。ここで、“一軸異方性”とは、一軸結晶磁気異方性を意味する。磁性粉が一軸異方性を有することで、磁性層13の形成工程において、磁性粉を垂直配向に磁場配向させることができる。磁性粉が垂直方向に磁場配向していることで、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉は、例えば、ガラス結晶化法により合成されうるものである。
【0034】
磁性粉の磁化容易軸は、垂直またはほぼ垂直方向を向いている。すなわち、磁性粉は、磁性粉の正方形状面が磁性層13の厚み方向と垂直またはほぼ垂直となるように、磁性層13内に分散されている。立方体状またはほぼ立方体状の立方晶フェライト磁性粉では、六角板状のバリウムフェライト磁性粉に比べて、媒体の厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制できる。すなわち、磁性粉の分散性を高めることができる。
【0035】
スピネル型フェライト磁性粒子の正方形状面が、磁性層13の表面から露出していることが好ましい。スピネル型フェライト磁性粉の正方形状面に磁気ヘッドにより短波長記録を行うことは、同一体積を有する六角板状のバリウムフェライト磁性粉の六角形状面に短波長記録を行う場合に比べて、高密度記録の観点で有利である。磁性層13の表面には、高密度記録の観点からすると、スピネル型フェライト磁性粒子の正方形状面が敷き詰められていることが好ましい。
【0036】
磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは23nm以下である。磁気記録媒体10では、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、特に良好なSNRを得ることができる。磁性粉の平均粒子サイズが25nm以下である場合には、50nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気記録媒体10において、特に良好なSNRを得ることができる。磁性粉の平均粒子サイズの下限値は特に限定されるものではないが、例えば10nm以上である。
【0037】
上記の磁性粉の平均粒子サイズは、以下のようにして求められる。まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法などにより加工して薄片を作製し、TEM(Transmission Electron Microscope)により薄片の断面観察を行う。次に、撮影したTEM写真から500個の磁性粒子を無作為に選び出し、それぞれの粒子の最大粒子サイズを測定して、磁性粉の最大粒子サイズの粒度分布を求める。ここで、“最大粒子サイズ”とは、いわゆる最大フェレ径を意味し、具体的には、磁性粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のものをいう。その後、求めた最大粒子サイズの粒度分布から最大粒子サイズのメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを粒子の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)とする。
【0038】
スピネル型フェライト磁性粒子に含まれるスピネル型フェライトは、Coを含むコバルトフェライトである。コバルトフェライトが、Co以外にNi、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0039】
コバルトフェライトは、例えば以下の式(1)で表される平均組成を有する。
CoxyFe2Z ・・・(1)
(但し、式(1)中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x、yは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
【0040】
磁性粒子の飽和磁化量σsが、53emu/g以上85emu/g以下であることが好ましい。このような高い飽和磁化量σsはスピネル型フェライト磁性粉により可能となるものであり、バリウムフェライト磁性粉ではこのような高い飽和磁化量σsを得ることは困難である。磁性層13を構成する組成にも依存するが、目安として、飽和磁化量σsが53emu/g≦σs以上であると、磁性層13の飽和磁束密度を1600Gauss以上にすることができる。一方、飽和磁化量σsが85emu/g以下であると、磁性層13の飽和磁束密度を2000Gauss以下にすることができる。
【0041】
上記の飽和磁化量σsは、以下のようにして求められる。まず、所定形状の磁性粉サンプルを作製する。磁性粉サンプルは、測定用カプセルへの圧密、測定用テープへの貼り付け等、測定に影響を及ぼさない範囲で自由に作製することができる。次に、VSMを用いて、磁性粉サンプルのM-Hループを得たのち、得られたM-Hループから飽和磁化量σsを求める。なお、上記のM-Hループの測定は、室温(25℃)の環境下にて行われるものとする。
【0042】
磁性粉のSFD(Switching Field Distribution)曲線において、メインピーク高さXと磁場ゼロ付近のサブピークの高さYとの比率Y/Xが、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、さらにより好ましくは0.5以下である(図2参照)。比率Y/Xが1.0を超えると、磁性粉の粒子サイズのばらつきが大きくなり、磁性粉の磁気特性のばらつきが大きくなる虞がある。
【0043】
上記の比率Y/Xは、VSMまたは超伝導量子干渉計(Superconducting Quantum Interference Device:SQUID)を用いて、以下のようにして求められる。まず、磁性粉を所定の形にサンプリングする。サンプリングの形式は、測定用カプセルへの圧密、測定用テープへの貼り付け等、測定に影響を及ぼさない範囲で自由に行うことができる。次に、磁性粉サンプルのM-Hループを測定し、得られたM-HループからSFD曲線を算出する。SFD曲線の算出には測定機に付属のプログラムを用いてもよいし、その他のプログラムを用いてもよい。ここで、M-Hループの測定は、室温(25℃)にて行われる。次に、求めたSFD曲線がY軸(dM/dH)を横切る点の絶対値を「Y」とし、M-Hループで言うところの保磁力Hc近傍に見られるメインピークの高さを「X」として、比率Y/Xを算出する。
【0044】
(結着剤)
結着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0046】
上記の全ての結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SO3M、-OSO3M、-COOM、P=O(OM)2(但し、式中Mは水素原子またはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属を表す)や、-NR1R2、-NR1R2R3+-で表される末端基を有する側鎖型アミン、>NR1R2+-で表される主鎖型アミン(但し、式中R1、R2、R3は水素原子または炭化水素基を表し、X-はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。)、さらに-OH、-SH、-CN、エポキシ基等の極性官能基が導入されていてもよい。これら極性官能基の結着剤への導入量は、10-1~10-8モル/gであるのが好ましく、10-2~10-6モル/gであるのがより好ましい。
【0047】
(潤滑剤)
潤滑剤としては、例えば、炭素数10~24の一塩基性脂肪酸と、炭素数2~12の1価~6価アルコールのいずれかとのエステル、これらの混合エステル、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステル等が挙げられる。潤滑剤の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル等が挙げられる。
【0048】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、例えば、カーボンブラック、天然界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0049】
(研磨剤)
研磨剤としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカ-バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデン、磁性酸化鉄の原料を脱水、アニール処理した針状α酸化鉄、必要によりそれらをアルミおよび/またはシリカで表面処理したもの等が挙げられる。
【0050】
(硬化剤)
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)と活性水素化合物との付加体等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と活性水素化合物との付加体等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートの重量平均分子量は、100~3000の範囲であることが望ましい。
【0051】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
【0052】
(非磁性補強粒子)
非磁性補強粒子として、例えば、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等が挙げられる。
【0053】
(下地層)
下地層12は、基体11の表面の凹凸を緩和し、磁性層13の表面の凹凸を調整するためのものである。下地層12が、潤滑剤を含み、磁性層13の表面に潤滑剤を供給するようにしてもよい。下地層12は、非磁性粉および結着剤を含む非磁性層である。下地層12が、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0054】
下地層12の平均厚みは、好ましくは0.6μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.8μm以上1.4μm以下である。なお、下地層12の平均厚みは、磁性層13の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層12の厚みに応じて適宜調整される。
【0055】
(非磁性粉)
非磁性粉は、例えば無機粒子粉または有機粒子粉の少なくとも1種を含む。また、非磁性粉は、カーボンブラック等の炭素粉を含んでいてもよい。なお、1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。
【0056】
(結着剤)
結着剤は、上述の磁性層13と同様である。
【0057】
(添加剤)
潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤はそれぞれ、上述の磁性層13と同様である。
【0058】
(バック層)
バック層14は、結着剤および非磁性粉を含む。バック層14が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。潤滑剤および帯電防止剤は、上述の磁性層13と同様である。また、非磁性粉は、上述の下地層12と同様である。
【0059】
非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有する非磁性粉を含んでいてもよい。
【0060】
バック層14の平均厚みの上限値は、好ましくは0.6μm以下である。バック層14の平均厚みの上限値が0.6μm以下であると、磁気記録媒体10の平均厚みが5.6μm以下である場合でも、下地層12や基体11の厚みを厚く保つことができるので、磁気記録媒体10の記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。バック層14の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.2μm以上である。
【0061】
バック層14の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージを用いて、サンプルの厚みを5点以上で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、磁気記録媒体10の平均厚みT[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。続いて、サンプルのバック層14をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。その後、再び上記のレーザーホロゲージを用いてサンプルの厚みを5点以上で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、バック層14を除去した磁気記録媒体10の平均厚みT1[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。その後、以下の式よりバック層14の平均厚みt[μm]を求める。
t[μm]=T[μm]-T1[μm]
【0062】
(磁気記録媒体の平均厚み)
磁気記録媒体10の平均厚み(平均全厚)の上限値が、好ましくは5.6μm以下、より好ましくは5.0μm以下、さらにより好ましくは4.4μm以下である。磁気記録媒体10の平均厚みが5.6μm以下であると、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。磁気記録媒体10の平均厚みの下限値は特に限定されるものではないが、例えば3.5μm以上である。
【0063】
磁気記録媒体10の平均厚みは、上述のバック層14の平均厚みの測定方法において説明した手順により求められる。
【0064】
(磁性層と下地層の総厚)
磁性層13と下地層12の平均厚みの総和は、好ましくは1.1μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらにより好ましくは0.6μm以下である。磁性層13と下地層12の平均厚みの総厚が1.1μm以下であると、単位体積当たりに含まれる磁性層13の割合が増加することにより、体積容量を向上させることができる。磁性層13と下地層12の平均厚みの総厚の下限値は、下地層12からの潤滑剤の供給の観点からすると、0.3μm以上であることが好ましい。下地層12および磁性層13の平均厚みの測定方法は、上述した通りである。
【0065】
(保磁力Hc)
磁気記録媒体10の長手方向における保磁力Hcの上限値が、好ましくは2000Oe以下、より好ましくは1900Oe以下、さらにより好ましくは1800Oe以下である。長手方向における保磁力Hcが2000Oe以下であると、高記録密度であっても優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0066】
磁気記録媒体10の長手方向に測定した保磁力Hcの下限値が、好ましくは1000Oe以上である。長手方向に測定した保磁力Hcが1000Oe以上であると、記録ヘッドからの漏れ磁束による減磁を抑制することができる。
【0067】
上記の保磁力Hcは以下のようにして求められる。まず、M-Hループを磁気記録媒体10および基体11の長手方向(走行方向)に測定すること以外は上記の飽和磁束密度の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループから保磁力Hcを求める。
【0068】
(角形比)
磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)における角形比S1が、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。角形比S1が65%以上であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0069】
角形比S1は以下のようにして求められる。まず、上記の飽和磁束密度の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループの飽和磁化Ms(emu)および残留磁化Mr(emu)を以下の式に代入して、角形比S1(%)を算出する。
角形比S1(%)=(Mr/Ms)×100
【0070】
磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)における角形比S2が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは25%以下である。角形比S2が35%以下であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、より優れた電磁変換特性(SNR)を得ることができる。
【0071】
角形比S2は、M-Hループを磁気記録媒体10および基体11の長手方向(走行方向)に測定すること以外は角形比S1と同様にして求められる。
【0072】
(SFD)
磁気記録媒体10のSFD(Switching Field Distribution)曲線において、メインピーク高さXと磁場ゼロ付近のサブピークの高さYとのピーク比Y/Xが、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、さらにより好ましくは0.5以下である(図2参照)。ピーク比Y/Xが1.0以下であると、実際の記録に寄与するスピネル型フェライト磁性粒子の他に低保磁力成分が磁性粉中に多く含まれることを抑制することができる。したがって、記録ヘッドからの漏れ磁界により、隣接するトラックに記録された磁化信号が劣化することを抑制することができるので、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0073】
上記のピーク比Y/Xは、以下のようにして求められる。まず、上記の飽和磁束密度の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-HループからSFDカーブを算出する。SFDカーブの算出には測定機に付属のプログラムを用いてもよいし、その他のプログラムを用いてもよい。算出したSFDカーブがY軸(dM/dH)を横切る点の絶対値を「Y」とし、M-Hループで言うところの保磁力Hc1近傍に見られるメインピークの高さを「X」として、ピーク比Y/Xを算出する。
【0074】
(活性化体積Vact
活性化体積Vactが、好ましくは8000nm3以下、より好ましくは6000nm3以下、さらにより好ましくは5000nm3以下、特に好ましくは4000nm3以下、最も好ましくは3000nm3以下である。活性化体積Vactが8000nm3以下であると、磁性粉の分散状態が良好になるため、ビット反転領域を低減することができ、記録ヘッドからの漏れ磁界により、隣接するトラックに記録された磁化信号が劣化することを抑制できる。したがって、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0075】
上記の活性化体積Vactは、Street&Woolleyにより導出された下記の式により求められる。
act(nm3)=kB×T×Χirr/(μ0×Ms×S)
(但し、kB:ボルツマン定数(1.38×10-23J/K)、T:温度(K)、Χirr:非可逆磁化率、μ0:真空の透磁率、S:磁気粘性係数、Ms:飽和磁化(emu/cm3))
【0076】
上記式に代入される非可逆磁化率Χirr、飽和磁化Msおよび磁気粘性係数Sは、VSMを用いて以下のようにして求められる。なお、VSMによる測定方向は、垂直方向とする。また、VSMによる測定は、長尺状の磁気記録媒体10から切り出された測定サンプルに対して室温(25℃)にて行われるものとする。また、M-Hループを垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0077】
(非可逆磁化率Χirr
非可逆磁化率Χirrは、残留磁化曲線(DCD曲線)の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近における傾きと定義される。まず、磁気記録媒体10全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に約15.9kA/m(200Oe)の磁界を印加し再びゼロに戻し残留磁化量を測定する。その後も同様に、先ほどの印加磁界よりもさらに15.9kA/m大きい磁界を印加しゼロに戻す測定を繰り返し行い、印加磁界に対して残留磁化量をプロットしDCD曲線を測定する。得られたDCD曲線から、磁化量ゼロとなる点を残留保磁力Hrとし、さらにDCD曲線を微分し、各磁界におけるDCD曲線の傾きを求める。このDCD曲線の傾きにおいて、残留保磁力Hr付近の傾きがΧirrとなる。
【0078】
(飽和磁化Ms)
まず、上記の飽和磁束密度の測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたM-Hループの飽和磁化Ms(emu)の値と、測定サンプル中の磁性層13の体積(cm3)から、Ms(emu/cm3)を算出する。なお、磁性層13の体積は測定サンプルの面積に磁性層13の平均厚みを乗ずることにより求められる。磁性層13の体積の算出に必要な磁性層13の平均厚みの算出方法は、上述した通りである。
【0079】
(磁気粘性係数S)
まず、磁気記録媒体10(測定サンプル)全体に-1193kA/m(15kOe)の磁界を印加し、磁界をゼロに戻し残留磁化状態とする。その後、反対方向に、DCD曲線より得られた残留保磁力Hrの値と同等の磁界を印加する。磁界を印加した状態で1000秒間、磁化量を一定の時間間隔で継続的に測定する。このようにして得られた、時間tと磁化量M(t)の関係を以下の式に照らし合わせて、磁気粘性係数Sを算出する。
M(t)=M0+S×ln(t)
(但し、M(t):時間tの磁化量、M0:初期の磁化量、S:磁気粘性係数、ln(t):時間の自然対数)
【0080】
[3 磁性粉の製造方法]
次に、磁性層13に用いられる磁性粉の製造方法について説明する。この磁性粉の製造方法は、ガラスの形成成分と、スピネル型フェライト磁性粉の形成成分(以下単に「磁性粉の形成成分」という。)とを用いてガラス結晶化法により、スピネル型フェライト磁性粉を作製するものである。
【0081】
(原料混合の工程)
まず、ガラスの形成成分と磁性粉の形成成分とを混合し、混合物を得る。
【0082】
ガラスの形成成分は、ホウ酸ナトリウム(Na247)を含む。ガラスの形成成分がホウ酸ナトリウムを含むことで、後述の溶融およびアモルファス化の工程において磁性粉の形成成分をガラスに溶かすことができる。また、後述の溶融およびアモルファス化の工程におけるガラス化のための急冷条件が緩和される。これにより、溶融物を双ロール急冷装置により急冷するのではなく、溶融物を水中に投入することで急冷することでも、アモルファス体を得ることができる。更に、後述の磁性粉取り出しの工程において、熱水等により結晶化ガラス(非磁性成分)を除去し、磁性粉を取り出すことができる。
【0083】
ガラスの形成成分および磁性粉の形成成分の総量に対するホウ酸ナトリウムの割合は、35mol%以上60mol%以下であることが好ましい。ホウ酸ナトリウムの割合が35mol%以上であると、均質性の高いアモルファス体を得ることができる。一方、ホウ酸ナトリウムの割合が60mol%以下であると、得られる磁性粉の量の減少を抑制することができる。
【0084】
ガラスの形成成分は、アルカリ土類金属の酸化物および当該酸化物の前駆体のうちの少なくとも1種を更に含むことが好ましい。ガラスの形成成分がアルカリ土類金属の酸化物および当該酸化物の前駆体のうちの少なくとも1種を更に含む場合、ガラスのガラス軟化点を高めることができ、ガラス軟化点付近で磁性粉の形成成分を結晶化することができる。したがって、磁性粉の形成成分が結晶化する温度に達した時点でガラスが柔らかくなり、析出した磁性粉が焼結してしまうことを抑制することができる。
【0085】
アルカリ土類金属の酸化物は、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)および酸化バリウム(BaO)のうちの少なくとも1種を含み、これらの酸化物のうちでも酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムのうちの少なくとも1種を含むことが特に好ましい。酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムによるガラス軟化点上昇の効果は、酸化カルシウムによるガラス軟化点上昇の効果に比べて高いからである。なお、アルカリ土類金属の酸化物として酸化カルシウムを用いる場合には、ガラス軟化点を上昇させる観点からすると、酸化カルシウムを酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムのうちの少なくとも1種と組み合わせて用いることが好ましい。
【0086】
アルカリ土類金属の酸化物の前駆体としては、後述する溶融およびアモルファス化の工程における溶融時の加熱によりアルカリ土類金属の酸化物を生成する物質が好ましい。このような物質としては、例えば、アルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸ストロンチウム(SrCO3)および炭酸バリウム(BaCO3)のうちの少なくとも1種を含み、これらの酸化物のうちでも炭酸ストロンチウムおよび炭酸バリウムのうちの少なくとも1種を含むことが特に好ましい。アルカリ土類金属の酸化物は、空気中のCO2または水分と化合し不安定であるため、ガラスの形成成分としてアルカリ土類金属の酸化物を用いるよりも、アルカリ土類金属の酸化物の前駆体(例えばアルカリ土類金属の炭酸塩)を用いる方が正確な計量が可能である。
【0087】
ホウ酸ナトリウムに対するアルカリ土類金属の酸化物のmol比(アルカリ土類金属の酸化物/ホウ酸ナトリウム)は、0.25以上0.5以下であることが好ましい。上記mol比が0.25未満であると、ガラスのガラス軟化点が低くなり、後述の結晶化の工程において磁性粉に十分な結晶性が付与される前に、ガラスが軟化してしまう虞がある。したがって、析出した磁性粉が焼結し、磁性粉の粒子サイズが大きくなってしまう虞がある。一方、上記mol比が0.5を超えると、ガラスのガラス軟化点が高くなり過ぎ、スピネル型フェライト磁性粉と共に六方晶フェライト磁性粉が析出し、磁性粉の保磁力Hcのバラツキが大きくなってしまう虞がある。したがって、磁性粉を磁気記録媒体10に適用した場合に、S/Nが低下してしまう虞がある。
【0088】
磁性粉の形成成分は、酸化コバルト(CoO)および酸化コバルトの前駆体のうちの少なくとも1種と、酸化鉄(Fe23)とを含む。酸化コバルトの前駆体としては、後述する溶融およびアモルファス化の工程における溶融時の加熱により酸化コバルトを生成する物質が好ましい。このような物質としては、例えば、炭酸コバルト(CoCO3)が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0089】
(溶融およびアモルファス化の工程)
次に、得られた混合物を高温(例えば1400℃程度)で加熱、溶融し溶融物を得たのち、この溶融物を急冷することでアモルファス体(ガラス体)を得る。ここで一部微結晶体が析出していても、後の熱処理の際に粗大にならない程度であれば問題ない。
【0090】
溶融物の急冷方法としては、例えば、金属双ロール法もしくは単ロール法等の液体急冷法、または溶融物を水中に投入する方法を用いることができるが、製造設備の簡略化の観点からすると、溶融物を水中に投入する方法が好ましい。
【0091】
(結晶化の工程)
続いて、加熱装置により、アモルファス体を熱処理し結晶化することで、結晶化ガラス中にスピネル型フェライト磁性粉を析出させ、磁性粉含有体を得る。この際、磁性粉は結晶化ガラス(非磁性成分)中で析出するため、粒子が互いに焼結することを抑制し、微細粒子サイズの磁性粉を得ることができる。また、アモルファス体を高温で熱処理するため、結晶性が良好な高磁化(σs)の磁性粉を得ることができる。
【0092】
熱処理は、大気雰囲気よりも酸素濃度が低い雰囲気で行われる。このような雰囲気で熱処理が行われることで、磁性粉の保磁力Hcを向上し、かつ、磁性粉に一軸異方性を付与することができる。熱処理時の酸素分圧は、1.0kPa以下、好ましくは0.9kPa以下、より好ましくは0.5kPa以下、更により好ましくは0.1kPa以下である。なお、大気雰囲気の酸素分圧は21kPaである。熱処理時の酸素分圧が1.0kPa以下であると、磁性粉の保磁力Hcを2500Oe以上にすることができる。熱処理時の雰囲気を大気雰囲気よりも酸素濃度が低いものとするためには、アモルファス体を収容した加熱装置内に窒素、Arガス等の不活性なガスを導入してもよいし、加熱装置内を真空ポンプを用いて真空引きし低圧の状態にしてもよい。
【0093】
熱処理の温度は、好ましくは500℃以上670℃以下、より好ましくは530℃以上650℃以下、例えば610℃程度である。熱処理の時間は、好ましくは0.5時間以上20時間以下、より好ましくは1.0時間以上10時間以下である。
【0094】
非磁性成分であるガラスのガラス軟化点と磁性粉の形成成分の結晶化温度は近いことが好ましい。ガラス軟化点が低く、ガラス軟化点と結晶化温度とが離れていると、磁性粉の形成成分を結晶化するための温度に達した時点でガラスが柔らかくなり、析出した磁性粉が焼結し易くなり、磁性粉のサイズが大きくなる虞がある。
【0095】
(磁性粉取り出しの工程)
その後、例えば弱酸または温水により、非磁性成分である結晶化ガラスを除去し、磁性粉を取り出す。これにより、目的とする磁性粉が得られる。
【0096】
[4 磁気記録媒体の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体10の製造方法について説明する。まず、非磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0097】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0098】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0099】
次に、下地層形成用塗料を基体11の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層12を形成する。続いて、この下地層12上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層13を下地層12上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体11の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。磁性層13の形成後、基体11の他方の主面にバック層14を形成する。これにより、磁気記録媒体10が得られる。
【0100】
その後、得られた磁気記録媒体10を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う。最後に、磁気記録媒体10に対してカレンダー処理を行った後、所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上により、目的とする細長い長尺状の磁気記録媒体10が得られる。
【0101】
[5 効果]
一実施形態に係る磁気記録媒体10は、最短記録波長が50nm以下である記録再生装置に用いられるものであり、スピネル型フェライト磁性粉を含む磁性層13を備え、磁性層の平均厚みが、85nm以下であり、磁性層13の飽和磁束密度が、1600Gauss以上2000Gauss以下である。これにより、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる
【実施例
【0102】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0103】
本実施例において、ベースフィルム(基体)の平均厚み、磁性層の平均厚みt1、下地層の平均厚みt2、バック層の平均厚み、磁気テープ(磁気記録媒体)の平均厚みT、飽和磁束密度Bm、垂直方向における角形比S1、長手方向における角形比S2および磁性粉のSFDは、上述の一実施形態にて説明した測定方法により求められたものである。
【0104】
[実施例1]
(原料混合の工程)
まず、ガラスの形成成分としてのホウ酸ナトリウム(Na247)および炭酸ストロンチウム(SrCO3)と、磁性粉の形成成分としての酸化鉄(Fe23)および炭酸コバルト(CoCO3)とを準備した。そして、準備した原料をNa247:SrCO3:Fe23:CoCO3がmol比で44:16:24:16となるように混合し、混合物を得た。
【0105】
(溶融およびアモルファス化の工程)
次に、得られた混合物を1400℃で1時間加熱し溶融させ溶融物を得たのち、この溶融物を水中に投入しアモルファス体(ガラス体)を得た。なお、上記加熱の際に、炭酸ストロンチウムから炭酸が除去され、酸化ストロンチウムが生成される。また、炭酸コバルトから炭酸が除去され、酸化コバルトが生成される。
【0106】
(結晶化の工程)
続いて、得られたアモルファス体を、酸素分圧0.1kPaの雰囲気中で610℃、1.5時間、熱処理し結晶化させ、コバルトフェライト磁性粉を析出させた。これにより、結晶化ガラス中にコバルトフェライトが析出された磁性粉含有体が得られた。
【0107】
(磁性粉取り出しの工程)
その後、非磁性成分である結晶化ガラスを熱水により除去してコバルトフェライト磁性粉(CoFe24)を取り出した。そして、取り出されたコバルトフェライト磁性粉の平均粒子サイズを求めた。その結果、平均粒子サイズは19nmであった。
【0108】
(X線回折による分析)
上述のようにして得られたコバルトフェライト磁性粉をX線回折により分析した。その結果、コバルトフェライトのピークが確認されたのに対して、六方晶フェライトや非磁性成分(結晶化ガラス)のピークは確認されなかった。これにより、上記の結晶化の工程では、六方晶フェライト磁性粉の析出を抑制でき、かつ、上記の磁性粉取り出しの工程では、熱水により結晶化ガラスを除去できることがわかった。
【0109】
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0110】
(第1組成物)
磁性粉(上述の作製工程により得られたコバルトフェライト磁性粉):100質量部
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):10質量部
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al23、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
なお、磁性粉としては、上述のようにして得られたコバルトフェライト磁性粉を用いた。
【0111】
(第2組成物)
塩化ビニル系樹脂:1.1質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0112】
最後に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0113】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0114】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe23、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0115】
(第4組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0116】
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部と、ミリスチン酸:2質量部とを添加した。
【0117】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0118】
(成膜工程)
上述のようにして作製した塗料を用いて、磁気テープを以下のようにして作製した。まず、支持体として、長尺状を有する、平均厚み4.0μmのPENフィルム(ベースフィルム)を準備した。次に、PENフィルム上に下地層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、PENフィルムの一方の主面上にカレンダー処理後の平均厚みt2が1.015μmの下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布し、乾燥させることにより、下地層上にカレンダー処理後の平均厚みt1が85nmの磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をPENフィルムの厚み方向に磁場配向させた。また、磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、垂直方向における角形比S1を70%、長手方向における角形比S2を30%に設定した。
【0119】
続いて、PENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー処理後の平均厚みが0.4μmのバック層を形成した。そして、下地層、磁性層、およびバック層が形成されたPENフィルムに対して硬化処理を行った。その後、カレンダー処理を行い、磁性層表面を平滑化した。
【0120】
(裁断の工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、長尺状を有する、平均厚みTが5.5μmの磁気テープが得られた。
【0121】
[実施例2]
磁性粉合成時の熱処理温度を低減し、飽和磁束密度Bmを1650Gaussとしたこと以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0122】
[実施例3]
カレンダー処理後の磁性層の平均厚みt1を70nm、カレンダー処理後の下地層の平均厚みを1.030μmとしたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0123】
[実施例4]
カレンダー処理後の下地層の平均厚みt2を0.915μmとしたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0124】
[実施例5]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、垂直方向における角形比S1を60%、長手方向における角形比S2を40%に設定したこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0125】
[実施例6]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、垂直方向における角形比S1を65%、長手方向における角形比S2を35%に設定したこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0126】
[実施例7]
原料として酸化銅を加えたこと以外は実施例1の磁性粉の製造方法と同様にしてコバルトフェライト磁性粉(Co0.7Cu0.3Fe24)を得た。この磁性粉を用いたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0127】
[実施例8]
原料として酸化亜鉛を加えたしたこと以外は実施例1の磁性粉の製造方法と同様にしてコバルトフェライト磁性粉(Co0.7Zn0.3Fe24)を得た。この磁性粉を用いたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0128】
[実施例9]
原料として酸化マンガンを加えたこと以外は実施例1の磁性粉の製造方法と同様にしてコバルトフェライト磁性粉(Co0.7Mn0.3Fe24)を得た。この磁性粉を用いたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0129】
[実施例10]
カレンダー処理後の磁性層の平均厚みt1を70nm、カレンダー処理後の下地層の平均厚みを1.130μmとしたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0130】
[比較例1]
磁性粉合成時の熱処理温度を調整し、飽和磁束密度Bmを1500Gaussとしたこと以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0131】
[比較例2]
磁性粉合成時の熱処理温度を調整し、飽和磁束密度Bmを1400Gaussとしたこと以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0132】
[比較例3]
カレンダー処理後の磁性層の平均厚みt1を90nm、カレンダー処理後の下地層の平均厚みt2を1.010μmとしたこと以外は比較例1と同様にして磁気テープを得た。
【0133】
[比較例4]
カレンダー処理後の下地層の平均厚みt2を1.115μmとしたこと以外は比較例1と同様にして磁気テープを得た。
【0134】
[比較例5]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、垂直方向における角形比S1を55%、長手方向における角形比S2を45%に設定したこと以外は比較例1と同様にして磁気テープを得た。
【0135】
[比較例6]
磁性層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、垂直方向における角形比S1を60%、長手方向における角形比S2を40%に設定したこと以外は比較例1と同様にして磁気テープを得た。
【0136】
[比較例7]
カレンダー処理後の磁性層の平均厚みt1を90nm、カレンダー処理後の下地層の平均厚みt2を1.010μmとしたこと以外は実施例2と同様にして磁気テープを得た。
【0137】
(SNR)
記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製、MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのSNR(電磁変換特性)を測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHz(記録波長100nm)、記録トラック幅は2.0μmとした。また、SNRは、下記の文献に記載の方法に基づき算出した。その結果を、実施例2のSNRを1dBとする相対値で表1に示した。
Y.Okazaki: ”An Error Rate Emulation System.”,IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
【0138】
本評価において、記録波長を50nmではなく100nmとしているのは、以下の理由による。すなわち、短波長を用いた記録再生系では、SNRとしては一般的に最短記録波長の2倍の記録波長で記録再生した際の出力/ノイズの比を用いることが多い。また、2倍の記録波長でのSNRは、最短記録波長でのSNRよりもエラーレートとの相関性が高い。更に、最短記録波長でSNR計測を行った場合、記録再生系の波長特性によっては、テープノイズが記録再生系のシステムノイズに隠れてしまい、メディアのノイズ特性を正しく反映しない場合もある。特に高線記録密度記録の場合、メディアのノイズ特性を正しく反映しない場合が多い。
【0139】
表1は、実施例1~10、比較例1~7の磁気テープの構成および評価結果を示す。
【表1】
1:磁性層の平均厚み
2:下地層の平均厚み
T:磁気記録媒体の平均厚み
m:飽和磁束密度
1:垂直方向における角形比(反磁界補正なし)
2:長手方向(走行方向)における角形比
【0140】
表1から以下のことがわかる。
最短記録波長が50nm以下である記録再生装置に用いられる磁気テープでは、(1)コバルトフェライト磁性粉を含む磁性層を備え、(2)磁性層の平均厚みt1が、85nm以下であり、(3)磁性層の飽和磁束密度Bmが、1600Gauss以上であると、良好なSNRを得ることができる。
SNRをさらに向上するためには、磁性層の飽和磁束密度Bmが、好ましくは1800Gauss以上である(実施例1、2参照)。
SNRをさらに向上するためには、磁気テープの長手方向における角形比が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下である(実施例2、5、6参照)。
SNRをさらに向上するためには、磁気テープの垂直方向における角形比が、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上である(実施例2、5、6参照)。
SNRをさらに向上するためには、磁性層と下地層の平均厚みの総和が、1.1μm以下であることが好ましい(実施例3、10参照)。
【0141】
以上、本開示の実施形態およびその変形例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0142】
例えば、上述の実施形態およびその変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0143】
また、上述の実施形態およびその変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0144】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
最短記録波長が50nm以下である記録再生装置に用いられる磁気記録媒体であって、
スピネル型フェライト磁性粉を含む磁性層を備え、
前記磁性層の平均厚みが、85nm以下であり、
前記磁性層の飽和磁束密度が、1600Gauss以上2000Gauss以下である磁気記録媒体。
(2)
前記スピネル型フェライト磁性粉が、一軸磁気異方性を有する(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
前記スピネル型フェライト磁性粉が、前記磁性層の厚み方向に配向している(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
前記スピネル型フェライト磁性粉が、立方体状またはほぼ立方体状を有する磁性粒子を含み、
前記磁性粒子の正方形状面が、前記磁性層の表面から露出している(1)から(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)
前記磁性層の表面には、前記磁性粒子の正方形状面が敷き詰められている(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)
前記スピネル型フェライト磁性粉が、コバルトフェライト磁性粉である(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
前記スピネル型フェライト磁性粉の平均サイズが、25nm以下である(1)から(6)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(8)
前記磁気記録媒体の平均厚みが、5.6μm以下である(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(9)
前記磁性層の下に設けられた下地層をさらに備え、
前記磁性層と前記下地層の平均厚みの総和が、1.1μm以下である(1)から(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
垂直方向における角形比が、65%以上である(1)から(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(11)
前記磁気記録媒体が長尺状を有し、
長手方向における角形比が、35%以下である(1)から(10)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(12)
前記磁気記録媒体が長尺状を有し、
長手方向における保磁力が、2000Oe以下である(1)から(11)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【符号の説明】
【0145】
10 磁気記録媒体
11 基体
12 下地層
13 磁性層
14 バック層
図1
図2