(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】画像表示装置、画像表示方法及びヘッドマウントディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20231024BHJP
G09G 3/02 20060101ALI20231024BHJP
G09G 3/20 20060101ALI20231024BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20231024BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20231024BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231024BHJP
G02C 11/00 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G09G3/02 A
G09G3/20 680A
G02B5/32
G02B5/18
G02B5/30
G02C11/00
(21)【出願番号】P 2021511413
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011923
(87)【国際公開番号】W WO2020203285
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019068262
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517036(JP,A)
【文献】国際公開第2010/035607(WO,A1)
【文献】特開2008-058776(JP,A)
【文献】特開2014-132328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/02
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線が同時に入射する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とが入射し、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる第2の光学素子と
を具備し、
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線をコリメートし、前記第1の光線を前記第3の光線として偏向し、前記第2の光線を前記第4の光線として偏向する少なくとも1つの光学要素を含む
画像表示装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光線及び前記第2の光線は、互いに異なる波長を有し、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、波長選択性を有する前記光学要素を含む
画像表示装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光線及び前記第2の光線は、互いに異なる偏光特性を有し、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、偏光選択性を有する前記光学要素を含む
画像表示装置。
【請求項4】
請求項
1に記載の画像表示装置であって、
前記光学要素は、反射型である
画像表示装置。
【請求項5】
請求項
1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、ホログラムレンズである
画像表示装置。
【請求項6】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、第1の偏向反射層と第2の偏向反射層とを備え、
前記第1の偏向反射層は前記第1の光線に対する偏向選択性を有し、前記第2の偏向反射層は前記第2の光線に対する偏向選択性を有する
画像表示装置。
【請求項7】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線とは光学特性が異なる第5の光線が入射し、前記第5の光線に対応する第6の光線を前記第3の光線及び前記第4の光線とは異なる角度で出射させる光学要素を有し、
前記第2の光学素子は、前記第3の光線、前記第4の光線及び前記第6の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる偏向レンズ要素を有する
画像表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子に向けて前記第1の光線及び第2の光線を所定のタイミングで照射する光学エンジンをさらに具備する
画像表示装置。
【請求項9】
請求項
8に記載の画像表示装置であって、
前記光学エンジンは、
第1の波長を中心波長とするレーザ光を前記第1の光線として出射する第1の光源と、
前記第1の波長とは異なる第2の波長を中心波長とするレーザ光を前記第2の光線として出射する第2の光源と、を有する
画像表示装置。
【請求項10】
請求項
9に記載の画像表示装置であって、
前記第1の波長と前記第2の波長との差は、50nm以下である
画像表示装置。
【請求項11】
請求項
8に記載の画像表示装置であって、
前記光学エンジンは、前記第1の光学素子によって第1の偏光成分と第2の偏光成分とに分解可能な偏光特性を有する単一波長のレーザ光を出射する光源を有する
画像表示装置。
【請求項12】
請求項1
1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の偏光成分及び前記第2の偏光成分は、互いに直交する直線偏光である
画像表示装置。
【請求項13】
請求項1
1に記載の画像表示装置であって、
前記第1の偏光成分及び前記第2の偏光成分は、互いに逆回りの円偏光である
画像表示装置。
【請求項14】
請求項
8に記載の画像表示装置であって、
前記光学エンジンは、前記第1の光学素子上で前記第1の光線及び前記第2の光線を走査する走査ミラーを有する
画像表示装置。
【請求項15】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第3の光線及び前記第4の光線を前記第1の光学素子から前記第2の光学素子へ伝送する光伝送部材をさらに具備する
画像表示装置。
【請求項16】
互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線を第1の光学素子へ同時に入射させることで、
前記第1の光学素子に含まれる光学要素により、前記第1の光線及び前記第2の光線をコリメートし、前記第1の光線を第3の光線として偏向し、前記第2の光線を第4の光線として偏向し、
前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する
前記第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する
前記第4の光線とを形成し、
前記第3の光線及び前記第4の光線を第2の光学素子に入射させることで、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる
画像表示方法。
【請求項17】
互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線を出射する光学エンジンと、
前記第1の光線及び前記第2の光線が同時に入射する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とが入射する第2の光学素子を有し、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる表示部とを
具備し、
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線をコリメートし、前記第1の光線を前記第3の光線として偏向し、前記第2の光線を前記第4の光線として偏向する少なくとも1つの光学要素を含む
ヘッドマウントディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、網膜走査型の画像表示装置、画像表示方法及びヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、網膜走査型の画像表示装置の開発が進められている。例えば特許文献1には、異なる波長をもつ複数の光線を走査する走査ミラーと、走査ミラーで走査された複数の光線を各々の波長に依存する角度で反射する多層構造のホログラフィック半透過反射体とを備えた頭部装着型ディスプレイが開示されている。この構成により、異なる瞳位置に向けて各光線が出射するため、アイボックス(Eyebox)の拡大が実現されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、各層のホログラフィック半透過反射体で瞳に集光される各波長の光線が同一の画角(瞳に入射する際の角度)となる走査ミラーのスキャン角度は、光線ごとに異なる。このため、一方の光線で形成される画像の一部の領域の描画時に他方の光線の出力を減衰させる(あるいは停止させる)など、各波長の光線で形成される画像が異なる瞳位置において相互に一致するように各波長の光線の変調タイミングを個別に調整する必要がある。つまり、それぞれの瞳位置に応じて映像生成のための各光源の変調タイミングをずらす必要があるため、映像生成プロセスが複雑になる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、瞳位置に応じた光源の変調を必要とすることなくアイボックスを拡大することができる画像表示装置、画像表示方法及びヘッドマウントディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術の一形態に係る画像表示装置は、第1の光学素子と、第2の光学素子とを具備する。
前記第1の光学素子には、互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線が同時に入射する。
前記第2の光学素子には、前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とが入射する。第2の光学素子は、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる。
【0007】
上記画像表示装置によれば、第1の光学素子に対する第1の光線及び第2の光線の入射位置あるいは入射角度と、第2の光学素子から出射する第3の光線及び第4の光線の画角との関係が同一となる。これにより、第1の光線及び第2の光線の変調を必要とすることなく、異なる瞳位置に向けて第3の光線及び第4の光線を集光させることができる。
【0008】
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線をコリメートし、前記第1の光線を前記第3の光線として偏向し、前記第2の光線を前記第4の光線として偏向する少なくとも1つの光学要素を含んでもよい。
【0009】
前記第1の光線及び前記第2の光線は、互いに異なる波長を有してもよく、この場合、前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、波長選択性を有する前記光学要素を含む。
【0010】
前記第1の光線及び前記第2の光線は、互いに異なる偏光特性を有してもよく、この場合、前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、偏光選択性を有する前記光学要素を含む。
【0011】
前記光学要素は、反射型であってもよい。
【0012】
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、ホログラムレンズであってもよい。
【0013】
前記第2の光学素子は、前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、第1の偏向反射層と第2の偏向反射層とを備えてもよい。前記第1の偏向反射層は前記第1の光線に対する偏向選択性を有し、前記第2の偏向反射層は前記第2の光線に対する偏向選択性を有する。
【0014】
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線とは光学特性が異なる第5の光線が入射し、前記第5の光線に対応する第6の光線を前記第3の光線及び前記第4の光線とは異なる角度で出射させる光学要素を有してもよい。この場合、前記第2の光学素子は、前記第3の光線、前記第4の光線及び前記第6の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる偏向レンズ要素を有する。
【0015】
前記画像表示装置は、前記第1の光学素子に向けて前記第1の光線及び第2の光線を所定のタイミングで照射する光学エンジンをさらに具備してもよい。
【0016】
前記光学エンジンは、第1の光源と、第2の光源とを有してもよい。
前記第1の光源は、第1の波長を中心波長とするレーザ光を前記第1の光線として出射する。
前記第2の光源は、前記第1の波長とは異なる第2の波長を中心波長とするレーザ光を前記第2の光線として出射する。
【0017】
前記第1の波長と前記第2の波長との差は、50nm以下であってもよい。
【0018】
前記光学エンジンは、前記第1の光学素子によって第1の偏光成分と第2の偏光成分とに分解可能な偏光特性を有する単一波長のレーザ光を出射する光源を有してもよい。
【0019】
前記第1の偏光成分及び前記第2の偏光成分は、互いに直交する直線偏光であってもよいし、互いに逆回りの円偏光であってもよい。
【0020】
前記光学エンジンは、前記第1の光学素子上で前記第1の光線及び前記第2の光線を走査する走査ミラーを有してもよい。
【0021】
前記画像表示装置は、前記第3の光線及び前記第4の光線を前記第1の光学素子から前記第2の光学素子へ伝送する光伝送部材をさらに具備してもよい。
【0022】
本技術の他の形態に係る画像表示装置は、第1の光学素子と、第2の光学素子とを具備する。
前記第1の光学素子は、入射角度に応じて入射光をそれぞれ異なる角度で回折させる複数の光学要素を有する。
前記第2の光学素子は、前記第1の光学素子からそれぞれ異なる角度で出射される複数の回折光が入射し、前記複数の回折光をそれぞれ異なる瞳位置に集光させる。
【0023】
本技術の一形態に係る画像表示方法は、
互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線を第1の光学素子へ同時に入射させることで、前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とを形成し、
前記第3の光線及び前記第4の光線を第2の光学素子に入射させることで、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる。
【0024】
本技術の一形態に係るヘッドマウントディスプレイは、光学エンジンと、第1の光学素子と、表示部とを具備する。
前記光学エンジンは、互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線を出射する。
前記第1の光学素子には、前記第1の光線及び前記第2の光線が同時に入射する。
前記表示部は、前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とが入射する第2の光学素子を有し、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる。
【発明の効果】
【0025】
本技術によれば、瞳位置に応じた光源の変調を必要とすることなくアイボックスを拡大することができる。
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本技術の第1の実施形態に係る画像表示装置を示す概略構成図である。
【
図2】上記画像表示装置における第1の光学素子の回折特性を説明する図である。
【
図3】眼球上に投影された再生画像光の各々のスポット位置の一例を示す模式図である。
【
図4】比較例に係る画像表示装置を示す概略構成図である。
【
図5】本技術の一実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの全体斜視図である。
【
図6】本技術の第2の実施形態に係る画像表示装置を示す概略構成図である。
【
図7】上記画像表示装置における第1の光学素子の回折特性を説明する図である。
【
図8】眼球上に投影された各再生画像光のスポット位置の他の一例を示す模式図である。
【
図9】眼球上に投影された各再生画像光のスポット位置のさらに他の一例を示す模式図である。
【
図10】本技術の第3の実施形態に係る画像表示装置を示す概略構成図である。
【
図11】本技術の第4の実施形態に係る画像表示装置を示す概略構成図である。
【
図12】上記画像表示装置における光学エンジンから照射される光線の偏向特性の一例を示す説明図である。
【
図13】上記画像表示装置における光学エンジンから照射される光線の偏向特性の他の一例を示す説明図である。
【
図14】本技術の第5の実施形態に係る画像表示装置を示す概略構成図である。
【
図15】上記画像表示装置における第1の光学素子の回折特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
<第1の実施形態>
図1は、本技術の第1の実施形態に係る画像表示装置100を示す概略構成図である。
【0029】
[全体構成]
図1に示すように、本実施形態の画像表示装置100は、光学エンジン10から照射された画像形成用の光線を第1の光学素子20及び第2の光学素子21を経由して観察者の眼球Eの異なる瞳位置へ投影する網膜走査型の画像表示装置である。
【0030】
画像表示装置100は、互いに異なる光学特性を有する光線L1(第1の光線)及び光線L2(第2の光線)が同時に入射する第1の光学素子20と、光線L1に対応し第1の光学素子20から出射される光線L1'(第3の光線)と、光線L2に対応し第1の光学素子20から光線L1'とは異なる角度で出射される光線L2'(第4の光線)とが入射し、光線L1'及び光線L2'を互いに異なる瞳位置に集光させる第2の光学素子30とを備える。
【0031】
(光学エンジン)
光学エンジン10は、光線L1を出射する第1の光源11と、光線L2を出射する第2の光源12とを有する。第1の光源11及び第2の光源12には、レーザダイオードが用いられる。本実施形態において第1の光源11は、波長λ1(第1の波長)を中心波長とするレーザ光を光線L1として出射し、第2の光源12は、波長λ1とは異なる波長λ2(第2の波長)を中心波長とするレーザ光を光線L2として出射する。波長λ2としては、波長λ1よりも長い波長が選択されるが、これに限られず、短い波長が選択されてもよい。
【0032】
光線L1,L2は、連続レーザ光であってもよいし、パルスレーザ光であってもよい。波長λ1,λ2は、可視光であれば特に限定されず、例えば、赤、青、緑その他の色の波長が採用される。特に、アイボックスの拡大を図るという観点から、波長λ1と波長λ2は、互いに同系色の波長であることが好ましく、これにより瞳位置によらない一定の色の画像を観察者へ提示することができる。
【0033】
本実施形態では、波長λ1と波長λ2はいずれも赤色系の波長範囲(約600nm~780nm)における任意の2つの波長が採用される。波長λ1と波長λ2の差は特に限定されないが、瞳位置に応じて画像の色味が変化することを抑える観点から、例えば50nm以下であることが好ましい。
【0034】
光学エンジン10はさらに、光線L1と光線L2を合成するダイクロイックミラー14と、第1の光学素子20上で光線L1及び光線L2を走査する走査ミラー15とを有する。
【0035】
ダイクロイックミラー14は、光線L1は反射し、光線L2は透過させることで、光線L1と光線L2とを合成する光学要素である。走査ミラー15は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて作製されたMEMSデバイスであり、光線L1及び光線L2を多次元的に走査することで観察者の眼球Eに投影される二次元あるいは三次元画像を形成する。画像の種類は特に限定されず、典型的には、文字、記号、図形などを含む。
【0036】
光学エンジン10は、図示しないコントローラからの指令に基づいて、第1の光源11、第2の光源12及び走査ミラー15の駆動を制御する。
【0037】
なお、光学エンジン10としては、上述の例に限られず、例えば、SLM(空間光変調器:Spatial Light Modulator)によるCGH(Computer-Generated Hologram)光学系が採用されてもよい。また、光学エンジン10は、典型的には、光線L1及び光線L2を同時に照射するように構成されることでアイボックスの拡大を実現するが、眼球Eの瞳位置に追従して画像光を投影するアイトラッキング制御を実行する場合には、光線L1及び光線L2のいずれか一方のみを照射するように構成されてもよい。要するに、光学エンジン10は、アイボックスを拡大する表示モードの実行時などの所定のタイミングにおいてのみ、光線L1及び光線L2を同時に照射することが可能に構成されてもよい。
【0038】
(第1の光学素子)
第1の光学素子20は、光線L1及び光線L2をコリメートし、光線L1を光線L1'として偏向し、光線L2を光線L2'として偏向する少なくとも1つの光学要素を含む。本実施形態において第1の光学素子20は、光線L1及び光線L2をそれぞれ選択的に回折するホログラムレンズである。
【0039】
第1の光学素子20は、光線L1が入射し光線L1'を出射する偏向反射層21(第1の偏向反射層)と、光線L2が入射し光線L2'を出射する偏向反射層22(第2の偏向反射層)とを有する積層膜で構成される。つまり、偏向反射層21は光線L1に対する偏向選択性を有し、偏向反射層22は光線L2に対する偏向選択性を有する。
【0040】
各偏向反射層21,22の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。また、第1の光学素子20は、各偏向反射層21,22の機能を兼ね備えた単一の偏向反射層で構成されてもよい。
【0041】
図2は、光線L1,L2に対する偏向反射層21,22の回折特性を説明する図である。同図に示すように、偏向反射層21は、波長λ1の光線L1に対して最も高い回折効率が得られるような波長選択性を有する反射型ホログラムである。一方、偏向反射層21は、波長λ2の光線L2に対して最も高い回折効率が得られるような波長選択性を有する反射型ホログラムである。
【0042】
なお、光線L1,L2をコリメートするとは、走査ミラー15で走査された光線L1,L2が互いに平行状態になるように調整することをいう。これにより、第1の光学素子20によって光線L1,L2をそれぞれ所望とする角度で安定に偏向あるいは回折させることができる。光線L1,光線L2のコリメート化には、例えば、第1の光学素子20の表面にレンズ層などの光学要素が付加される。あるいは、走査ミラー15と第1の光学素子20との間の光路上にコリメータレンズ等の他の光学要素が配置されてもよい。上記のコリメート化は、光学エンジン10から第1の光学素子20までの光路が比較的短く、光線L1,L2の収束性の乱れ(発散)が問題にならない場合には、省略することも可能である。
【0043】
また、第1の光学素子20は、上述したような反射回折作用を有するホログラムレンズで構成される例に限られず、透過回折作用を有するホログラムレンズで構成されてもよい。また、ホログラムレンズは、コリメート機能と偏向機能とを持つ光学素子であるが、コリメート機能をもった素子と偏向機能を持った素子とを組み合わせて、第1の光学素子20を構成してもよい。
【0044】
(第2の光学素子)
第1の光学素子20から出射される光線L1'と、第1の光学素子20から光線L1'とは異なる角度で出射される光線L2'は、第2の光学素子30へ入射する。第2の光学素子30は、波長の相違に応じて光線L1'及び光線L2'をそれぞれ異なる角度に出射させる反射型の偏向レンズ要素を含む。
【0045】
第2の光学素子30は、典型的には、観察者の眼前に配置される。本実施形態において第2の光学素子30は、光線L1'を集光軸C1上に集光させる偏向反射層31と、光線L2'を集光軸C2上に集光させる偏向反射層32との積層膜で構成される。つまり、偏向反射層31は光線L1'に対する偏向選択性を有し、偏向反射層32は光線L2'に対する偏向選択性を有する。
【0046】
各偏向反射層31,32の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。また、第2の光学素子30は、各偏向反射層31,32の機能を兼ね備えた単一の偏向反射層で構成されてもよい。
【0047】
集光軸C1と集光軸C2は互いに平行であり、光線L1'及び光線L2'の各々の入射位置の違いに応じて異なる位置に設定される。光線L1'の焦点距離と光線L2'の焦点距離は、互いに同一である。集光軸C1と集光軸C2との間の距離(ずれ量)は特に限定されず、例えば、1mm以上2mm以下である。これにより、観察者の瞳Epが集光軸C1,C2のずれの方向に移動した際に映像を見ることができる範囲であるアイボックスの拡大を図ることができる。
【0048】
集光軸C1,C2のずれ方向は、観察者の眼球Eから見た横方向でもよいし、縦方向でもよい。例えば、画像表示装置100が後述するヘッドマウントディスプレイ(
図5参照)に適用される場合、表示部の形状や装着ずれの方向などを考慮して集光軸C1,C2のずれ方向が決定されてもよい。
図1の例では、眼球Eの横方向(X軸方向)に集光軸C1,C2がずれるようにオフセットされる。
【0049】
第2の光学素子30は、波長選択性を有する半透明のホログラムコンバイナレンズで構成される。偏向反射層31は、第1の光学素子20における偏向反射層21と同じ回折特性を有する。偏向反射層32は、第1の光学素子20における偏向反射層22と同じ回折特性を有する。第2の光学素子30がコンバイナレンズとして構成されることにより、光線L1'及び光線L2'により各々形成される画像が、第2の光学素子30を通して観察される外部視界に重畳して投影されることになる。
【0050】
[画像表示方法]
続いて本実施形態の画像表示装置100の典型的な動作について説明する。
【0051】
画像表示装置100は、互いに異なる光学特性を有する光線L1(第1の光線)及び光線L2(第2の光線)を第1の光学素子20へ同時に入射させることで、第1の光学素子20から出射され光線L1に対応する光線L1'(第3の光線)と、第1の光学素子20から光線L1'とは異なる角度で出射され光線L2に対応する光線L2'(第4の光線)とを形成する。画像表示装置100は、光線L1'及び光線L2'を第2の光学素子30に入射させることで、光線L1'及び光線L2'を互いに異なる瞳位置に集光させる。
【0052】
光学エンジン10は、第1の光源11から出射する光線L1と第2の光源12から出射する光線L2とを走査ミラー15で走査しながら第1の光学素子20へ同時に照射する。
【0053】
光線L1及び光線L2は、第1の光学素子20の同一位置へ同時に入射する。光線L1は、第1の光学素子20の偏向反射層21で回折し、光線L1'として第2の光学素子30へ入射する。光線L2は、第1の光学素子20の偏向反射層22で回折し、光線L2'として第2の光学素子30へ入射する。光線L1'及び光線L2'は、第1の光学素子20から互いに異なる角度で出射するため、第2の光学素子30上の異なる位置へ入射する。
【0054】
光線L1'及び光線L2'は、第1の光学素子20と第2の光学素子30との間の空気(自由空間)を伝播する。これに限られず、光線L1'及び光線L2'は、後述するように、第1の光学素子20と第2の光学素子30との間に配置された光伝送部材を介して伝送されてもよい。
【0055】
第2の光学素子30は、偏向反射層31で光線L1'を回折することで、光線L1,L1'に由来する再生画像光S1を眼球Eに投影する。また、第2の光学素子30は、偏向反射層32で光線L2'を回折することで、光線L2,L2'に由来する再生画像光S2を眼球Eに投影する。
【0056】
図3は、眼球E上に投影された再生画像光S1,S2の各々のスポット位置を示す模式図である。
図3(A)は、再生画像光S1が眼球Eの瞳Ep上に投影され、再生画像光S2が瞳Epとは異なる眼球Eの位置へ投影された様子を示す。
【0057】
このとき観察者は、第1の再生画像光S1で表示される画像から情報を取得する。この状態で図中左方へ瞳Epが移動したとき、再生画像光S1で表示される画像に代わって、再生画像光S2で表示される画像から情報を取得する。再生画像光S1で表示される画像と再生画像光S2で表示される画像はいずれも同一であるため、観察者にとっては、当該画像を見ることができる範囲(アイボックス)が拡大し、瞳Epあるいは視線の僅かな移動による画像の消失を防ぐことができる。
【0058】
一方、
図3(B)は、再生画像光S1,S2がいずれも瞳Ep上に投影されていない様子を示している。例えば、観察者が瞳Epを図中上方(Y軸方向)へ所定以上移動させたときは、再生画像光S1,S2により表示される画像は視認されない。このように観察者の視線方向によって画像の表示/非表示が切り替えられる。
【0059】
以上のように本実施形態の画像表示装置100によれば、走査ミラー15の角度(第1の光学素子20に対する光線L1及び光線L2の入射位置あるいは入射角度)と、第2の光学素子30から出射する再生画像光S1,S2の画角との関係が同一となる。これにより、光線L1及び光線L2の変調を必要とすることなく、異なる瞳位置に向けて光線L1'(再生画像光S1)及び光線L2'(再生画像光S2)を集光させることができる。以下、
図4に示す画像表示装置110と比較しながら説明する。
【0060】
図4は、比較例に係る画像表示装置110を示す概略構成図である。比較例に係る画像表示装置110は、互いに波長が異なる2つの光線L1,L2をそれぞれ画像再生光S1,S2として観察者の眼球Eへ集光する半透過型のホログラムコンバイナレンズ40を備える。ホログラムコンバイナレンズ40は、光線L1を選択的に回折することで画像再生光S1を出射する偏向反射層41と、光線L2を選択的に回折することで再生画像光S2を出射する偏向反射層42とを有する。すなわち、比較例に係る画像表示装置110は、本実施形態の画像表示装置100における第1の光学素子20を備えておらず、光学エンジン10から照射される光線L1,L2を直接、ホログラムコンバイナレンズ40へ照射するように構成される。
【0061】
比較例に係る画像表示装置110においては、走査ミラー15によって各々走査される光線L1及び光線L2のホログラムコンバイナレンズ40上での照射領域は、互いに同一の領域である。ところが、各偏向反射層41,42で瞳Epに集光される光線L1,L2が同一の画角となる走査ミラー15のスキャン角度は、光線L1,L2ごとに異なる。このため、一方の光線で形成される画像の一部の領域の描画時に、他方の光線の出力を減衰させ(あるいは停止させ)ないと、一方の光線で形成される画像に他方の光線で形成される画像の一部が同時に表示される場合がある。したがって比較例に係る画像表示装置110においては、各波長の光線L1,L2で形成される画像を異なる瞳位置で相互に一致させるためには、光線L1,L2の変調タイミングを個別に調整する必要があり、映像生成プロセスが複雑になる。
【0062】
これに対して本実施形態の画像表示装置100においては、光学エンジン10から各々照射される光線L1,L2が入射し、これらを第2の光学素子30へ向けて異なる角度で出射する第1の光学素子20を備える。このため、光線L1及び光線L2の第2の光学素子30上での照射領域は、互いに重複する領域はあるものの、互いに異なる領域である。このため、走査ミラー15の角度(第1の光学素子20に対する光線L1,光線L2の入射位置あるいは入射角度)と、第2の光学素子30から出射する光線L1'及び光線L2'の画角との関係が同一となる。
【0063】
したがって本実施形態によれば、各光線L1,L2の変調タイミングを個別に調整することなく、各波長の光線L1,L2で形成される画像を異なる瞳位置で相互に一致させることができる。これにより、比較例よりも容易にアイボックスを拡大できる映像生成プロセスを実現することができる。
【0064】
[適用例]
図5は、本実施形態の画像表示装置を備えたヘッドマウントディスプレイ150の全体斜視図である。同図に示すように、ヘッドマウントディスプレイ150は、表示部151L,151Rと、光学ユニット151L,152Rと、これらを支持するフレーム部153とを有する。
【0065】
表示部151L,151Rは、ユーザ(観察者)の眼前に配置される光透過型の光学素子である。表示部151Lは左眼に対向し、表示部151Rは右眼に対向する。表示部151L,151Rは、一体的に構成されてもよいし、各々が別体に構成されてもよい。表示部151L,151Rは、上述の画像表示装置100における第2の光学素子30に対応する。
【0066】
光学ユニット152L,152Rは、表示部151L,151Rへ画像光を照射するブロックである。光学ユニット152L,152Rは、表示部151L,151Rの縁部に配置され、上述の画像表示装置100における光学エンジン10及び第1の光学素子20に対応する光学要素を内蔵する。
【0067】
光学ユニット152L,152Rは、それらのうち少なくとも一方を有していればよい。ヘッドマウントディスプレイ150は、表示部151L,151Rのうち少なくとも一方からユーザの眼球に再生画像光が投影されるように構成される。
【0068】
<第2の実施形態>
図6は、本技術の第2の実施形態に係る画像表示装置200を示す概略構成図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0069】
本実施形態の画像表示装置200は、光学エンジン210、第1の光学素子220及び第2の光学素子230の構成が、上述の第1の実施形態と異なる。本実施形態において、光学エンジン210は、波長λ1,波長λ2と異なる波長λ3(第3の波長)を中心波長とするレーザ光L3(第5の光線)を出射する第3の光源13をさらに有し、ダイクロイックミラー14は、第1~第3の光源11~13から出射する光線L1~L3を合成することが可能に構成される。
【0070】
第1の光学素子220は、偏向反射層21,22に加えて、光学エンジン10から照射される光線L3が入射する偏向反射層23をさらに有する。偏向反射層23は、光線L3に対応する光線L3'(第6の光線)を光線L1'及び光線L2'とは異なる角度で出射させる光学要素である反射型ホログラムである。
【0071】
図7は、第1の光学素子220の回折特性を説明する図である。同図に示すように、偏向反射層23は、波長λ3の光線L1に対して最も高い回折効率が得られるような波長選択性を有する反射型ホログラムである。波長λ3には、波長λ2よりも長い波長が選択されるが、波長λ1よりも短い波長が選択されてもよいし、波長λ1と波長λ2との間の波長が選択されてもよい。
【0072】
各偏向反射層21~23の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。また、第1の光学素子220は、各偏向反射層21~23の機能を兼ね備えた単一の偏向反射層で構成されてもよい。
【0073】
第2の光学素子230は、偏向反射層31,32に加えて、第1の光学素子220から出射する光線L3'を再生画像光S3として集光軸C1,C2とは異なる集光軸C3上に集光させる偏向レンズ要素としての偏向反射層33をさらに有する。
【0074】
各偏向反射層31~33の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。また、第2の光学素子230は、各偏向反射層31~33の機能を兼ね備えた単一の偏向反射層で構成されてもよい。
【0075】
集光軸C3は、集光軸C1,C2に平行であり、集光軸C1,C2の配列方向に沿って配置されてもよいし、集光軸C1,C2の配列方向とは異なる位置に配置されてもよい。
【0076】
図8(A),(B)は、眼球Eと各再生画像光S1,S2,S3のスポット位置との関係を示す図であって、集光軸C1~C3が眼球Eの横方向(X軸方向)に沿って配置された例を示している。この例によれば、画像を認識できる瞳Epの横方向の範囲が広げられるため、当該横方向へのアイボックスの拡大を図ることができる。
【0077】
一方、
図9(A),(B)は、眼球Eと各再生画像光S1,S2,S3のスポット位置との関係を示す図であって、集光軸C3が集光軸C1,C2の配列方向とは異なる眼球Eの縦方向(Y軸方向)にオフセットした位置に配置された例を示している。この例によれば、画像を認識できる瞳Epの範囲が横方向だけでなく縦方向にも広げられるため、当該各方向へのアイボックスの拡大を図ることができる。
【0078】
光学エンジン10から照射される異波長の光線の数は、4つ以上であってもよい。この場合、第1の光学素子及び第2の光学素子に各波長の光線に対して波長選択性を有する4つ以上の偏向反射層を備えさせることで、アイボックスを任意の方向に任意の大きさに広げることができる。
【0079】
<第3の実施形態>
図10は、本技術の第3の実施形態に係る画像表示装置300を示す概略構成図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0080】
本実施形態の画像表示装置300は、光線L1'(第3の光線)及び光線L2'(第4の光線)を第1の光学素子20から第2の光学素子30へ伝送する光伝送部材50を備える点で、第1の実施形態と相違する。
【0081】
本実施形態において光伝送部材50は、第1の光学素子20と第2の光学素子30とを一体的に支持する導光板である。光伝送部材50は、光学エンジン10から光線L1,L2が入射する第1の面51と、第1の光学素子20及び第2の光学素子30を支持する第2の面52とを有する。光伝送部材50は、ガラス、合成樹脂材料などの透光性を有する材料で構成される。光伝送部材51は図示するように平面的な形状のものに限られず、曲面形状であってもよい。
【0082】
第1の光学素子20及び第2の光学素子30は、透光性を有する接合材を介して光伝送部材50の第2の面52にそれぞれ接合される。第1の光学素子20は、第1の面51から入射する光線L1,L2を光線L1'、L2'として回折させる。光線L1'、L2'は第1の面51で全反射し、第2の光学素子30へ入射する。第2の光学素子30は、光線L1',L2'を回折させ、画像再生光S1,S2として眼球Eの異なる瞳位置へそれぞれ集光する。
【0083】
光伝送部材50において光線L1'L2'を全反射させる回数は1回に限られず、2回以上であってもよい。光線L1',L2'の経路によっては、第2の光学素子30は、光伝送部材50の第1の面51に配置されてもよい。この場合、画像再生光S1,S2は第2の面52から出射させてもよい。
【0084】
本実施形態の画像表示装置300においては、第1の光学素子20及び第2の光学素子30を共通に支持する光伝送部材50を備えているため、第1の光学素子20及び第2の光学素子30の実装信頼性を向上させることができるとともに、光学系のデザインの自由度を高めることができる。なお、光伝送部材50としては、光ファイバ等の他の光伝送部材が用いられてもよい。
【0085】
<第4の実施形態>
図11は、本技術の第4の実施形態に係る画像表示装置400を示す概略構成図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0086】
本実施形態の画像表示装置400において、第1の光学素子420及び第2の光学素子430は、それぞれ偏光依存性を有する光学要素で構成されている点で、上述の第1の実施形態と相違する。
【0087】
光学エンジン410は、単一の光源411を有する。光源411は、
図12に示すように直交する2つの直線偏光L11(第1の偏光成分),L12(第2の偏光成分)に分解可能な偏光特性を有する単一波長のレーザ光である光線L10を出射する。光線L10は、走査ミラー15により第1の光学素子420上を走査される。
【0088】
第1の光学素子420は、光線L0をコリメートし、一方の直線偏光成分L11(第1の光線)を光線L11'(第3の光線)として偏向し、他方の直線偏光成分L12(第2の光線)を光線L12'(第4の光線)として偏向する偏光依存性あるいは偏光選択性をもった光学要素で構成される。つまり、第1の光学素子420は、入射した光線L0を偏光成分に応じて2つの光線L11',L12'に分離する機能をも有する。
【0089】
本実施形態において第1の光学素子420は、直線偏光成分L11を選択的に回折することで光線L11'を出射する偏向反射層421と、直線偏光成分Ll12を選択的に回折することで光線L12'を光線L11'とは異なる角度で出射する偏向反射層422との積層体で構成される。
【0090】
各偏向反射層421,422は、反射型のホログラムレンズで構成されるが、透過型のホログラムレンズで構成されてもよい。各偏向反射層421,422の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。また、第1の光学素子420は、各偏向反射層421,422の機能を兼ね備えた単一の偏向反射層で構成されてもよい。
【0091】
第2の光学素子430は、第1の光学素子420から出射された光線L11'及び光線L12'が入射し、偏光特性の相違に応じて光線L11'及び光線L12'を互いに異なる瞳位置に集光させる偏光依存性あるいは偏光選択性をもった光学要素(典型的には、ホログラムコンバイナレンズ)で構成される。本実施形態において第2の光学素子430は、光線L11'を選択的に回折することで光線L11'を画像再生光S11として集光軸C1上に出射する偏向反射層431と、光線L12'を選択的に回折することで光線L12'を画像再生光S12として集光軸C2上に出射する偏向反射層432との積層体で構成される。
【0092】
各偏向反射層431,432の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。また、第2の光学素子430は、各偏向反射層431,432の機能を兼ね備えた単一の偏向反射層で構成されてもよい。
【0093】
以上のように構成される本実施形態の画像表示装置400においても、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。本実施形態によれば、1つの光源411で2つの再生画像を描画することができるため、光学エンジン410の構成の簡素化、部品点数の削減などを図ることができる。
【0094】
なお、第1及び第2の偏光成分は、直線偏光に限られず、互いに逆回りの円偏光であってもよい。この場合、光源411は、
図13に示すように右回りの円偏光L11cと左回りの円偏光成分L12cとに分解可能な光線L10cを出射するように構成される。この場合、第1の光学素子420における各偏向反射層421,422及び第2の光学素子430における各偏向反射層431,432は、これらの円偏光L11c,L12cを選択的に回折するホログラムレンズ等で構成される。円偏光L11c,L12cは、楕円偏光であってもよい。
【0095】
<第5の実施形態>
図14は、本技術の第5の実施形態に係る画像表示装置500を示す概略構成図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0096】
本実施形態の画像表示装置500において、第1の光学素子520及び第2の光学素子530は、それぞれ光線の入射角依存性を有する光学要素で構成されている点で、上述の第1の実施形態と相違する。
【0097】
光学エンジン410は、単一の光源411を有する。光源511は、単一波長のレーザ光である光線Lを出射する。光線Lは、走査ミラー15により第1の光学素子520上を走査される。
【0098】
第1の光学素子520は、入射光の入射角度に対する回折特性がそれぞれ異なる複数の光学要素を有する。本実施形態において第1の光学素子520は、光線Lが所定の入射角で入射したときに回折光を出射する複数の偏向反射層を有し、各偏向反射層は、回折光が出射される光線Lの入射角がそれぞれで異なる。各偏向反射層は、典型的には、ホログラムレンズ層で構成される。
【0099】
第1の光学素子520は、
図15に示すような回折効率を有する3層の偏向反射層521~523を有する。第1の偏向反射層521は、光線Lの入射角が第1の角度θ1のときに回折光L51を出射し、第2の偏向反射層522は、光線の入射角が第2の角度θ2のときに回折光L52を出射し、第3の偏向反射層523は、光線の入射角が第3の角度θ3のときに回折光L53を出射する。角度θ1,θ2,θ3は、それぞれ異なる角度である。各角度θ1,θ2,θ3はそれぞれ、1つの角度でもよいし、複数の角度を含んでもよい。各回折光L51、L52,L53は、それぞれ異なる角度で出射されてもよい。
【0100】
第2の光学素子530は、前記第1の光学素子から出射される複数の回折光が入射し、これら複数の回折光をそれぞれ異なる瞳位置に集光させる光学要素(典型的には、ホログラムコンバイナレンズ)で構成される。
【0101】
本実施形態において第2の光学素子530は、回折光L51,L52,L53をそれぞれ所定の集光軸上に集光させる3層の偏向反射層531~533の積層体で構成される。第1の偏向反射層531は光線L51を集光軸C1上に集光させ、第2の偏向反射層532は光線L52を集光軸C2上に集光させ、第3の偏向反射層533は、光線L53を集光軸C3上に集光させる。各偏向反射層531~533の積層順は図示の例に限られず任意に設定可能である。
【0102】
以上のように構成される本実施形態の画像表示装置500においても、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。本実施形態によれば、1つの光源511で3つの再生画像を描画することができるため、光学エンジン510の構成の簡素化、部品点数の削減などを図ることができる。
【0103】
また、第1の光学素子520及び第2の光学素子530を構成する偏向反射層の積層数は3層に限られず、2層あるいは4層以上であってもよい。これら偏向反射層の積層数によって再生される画像の数を任意に調整することができる。
【0104】
<変形例>
例えば以上の実施形態では、ヘッドマウントディスプレイとして構成可能な画像表示装置を例に挙げて説明したが、これに限られず、ヘッドアップディスプレイ等の他のディスプレイにも本技術は適用可能である。
【0105】
また、以上の第4~第6の実施形態に係る画像表示装置においては、第3の実施形態と同様に、第1の光学素子から第2の光学素子への光線の伝播を導光板などの光伝送部材を用いて行ってもよい。
【0106】
さらに、第1の光学素子と第2の光学素子との間に、反射ミラー等の光学要素が別途配置されてもよい。これにより、第1の光学素子及び第2の光学素子の配置の自由度が高められる。
【0107】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1) 互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線が同時に入射する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とが入射し、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる第2の光学素子と
を具備する画像表示装置。
(2)上記(1)に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線をコリメートし、前記第1の光線を前記第3の光線として偏向し、前記第2の光線を前記第4の光線として偏向する少なくとも1つの光学要素を含む
画像表示装置。
(3)上記(2)に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光線及び前記第2の光線は、互いに異なる波長を有し、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、波長選択性を有する前記光学要素を含む
画像表示装置。
(4)上記(2)に記載の画像表示装置であって、
前記第1の光線及び前記第2の光線は、互いに異なる偏光特性を有し、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、偏光選択性を有する前記光学要素を含む
画像表示装置。
(5)上記(2)~(4)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記光学要素は、反射型である
画像表示装置。
(6)上記(2)~(5)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、ホログラムレンズである
画像表示装置。
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子及び前記第2の光学素子は、第1の偏向反射層と第2の偏向反射層とを備え、
前記第1の偏向反射層は前記第1の光線に対する偏向選択性を有し、前記第2の偏向反射層は前記第2の光線に対する偏向選択性を有する
画像表示装置。
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子は、前記第1の光線及び前記第2の光線とは光学特性が異なる第5の光線が入射し、前記第5の光線に対応する第6の光線を前記第3の光線及び前記第4の光線とは異なる角度で出射させる光学要素を有し、
前記第2の光学素子は、前記第3の光線、前記第4の光線及び前記第6の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる偏向レンズ要素を有する
画像表示装置。
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1の光学素子に向けて前記第1の光線及び第2の光線を所定のタイミングで照射する光学エンジンをさらに具備する
画像表示装置。
(10)上記(9)に記載の画像表示装置であって、
前記光学エンジンは、
第1の波長を中心波長とするレーザ光を前記第1の光線として出射する第1の光源と、
前記第1の波長とは異なる第2の波長を中心波長とするレーザ光を前記第2の光線として出射する第2の光源と、を有する
画像表示装置。
(11)上記(10)に記載の画像表示装置であって、
前記第1の波長と前記第2の波長との差は、50nm以下である
画像表示装置。
(12)上記(9)に記載の画像表示装置であって、
前記光学エンジンは、前記第1の光学素子によって第1の偏光成分と第2の偏光成分とに分解可能な偏光特性を有する単一波長のレーザ光を出射する光源を有する
画像表示装置。
(13)上記(12)に記載の画像表示装置であって、
前記第1の偏光成分及び前記第2の偏光成分は、互いに直交する直線偏光である
画像表示装置。
(14)上記(12)に記載の画像表示装置であって、
前記第1の偏光成分及び前記第2の偏光成分は、互いに逆回りの円偏光である
画像表示装置。
(15)上記(9)~(14)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記光学エンジンは、前記第1の光学素子上で前記第1の光線及び前記第2の光線を走査する走査ミラーを有する
画像表示装置。
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第3の光線及び前記第4の光線を前記第1の光学素子から前記第2の光学素子へ伝送する光伝送部材をさらに具備する
画像表示装置。
(17) 入射光の入射角度に対する回折特性がそれぞれ異なる複数の光学要素を有する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子から出射される複数の回折光が入射し、前記複数の回折光をそれぞれ異なる瞳位置に集光させる第2の光学素子と
を具備する画像表示装置。
(18) 互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線を第1の光学素子へ同時に入射させることで、前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とを形成し、
前記第3の光線及び前記第4の光線を第2の光学素子に入射させることで、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる
画像表示方法。
(19) 互いに異なる光学特性を有する第1の光線及び第2の光線を出射する光学エンジンと、
前記第1の光線及び前記第2の光線が同時に入射する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子から出射され前記第1の光線に対応する第3の光線と、前記第1の光学素子から前記第3の光線とは異なる角度で出射され前記第2の光線に対応する第4の光線とが入射する第2の光学素子を有し、前記第3の光線及び前記第4の光線を互いに異なる瞳位置に集光させる表示部と
を具備するヘッドマウントディスプレイ。
【符号の説明】
【0108】
10,210,410,510…光学エンジン
11…第1の光源
12…第2の光源
13…第3の光源
15…走査ミラー
20,220,420,520…第1の光学素子
21,22,23,421,422,521,522,523…偏向反射層
31,32,33,431,432,531,532,533…偏向反射層
30,230,430,530…第2の光学素子
50…光伝送部材
100,200,300,400,500…画像表示装置
150…ヘッドマウントディスプレイ
151L,151R…表示部
C1,C2,C3…集光軸
E…眼球
L,L1,L1',L2,L2',L3,L3'…光線