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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】剥離性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231024BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231024BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20231024BHJP
   C09J 7/40 20180101ALI20231024BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231024BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 M
B32B27/30 A
B32B27/00 101
C08J7/04 Z CER
C08J7/04 CEZ
C09J7/40
C09J7/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022142068
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2019500047の分割
【原出願日】2018-02-14
(65)【公開番号】P2022184881
(43)【公開日】2022-12-13
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017024853
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 拓明
(72)【発明者】
【氏名】水原 由朗
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓治
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-265737(JP,A)
【文献】特開2005-015673(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151993(WO,A1)
【文献】特開2012-016876(JP,A)
【文献】特開昭58-015565(JP,A)
【文献】特開昭58-013664(JP,A)
【文献】特開昭57-014642(JP,A)
【文献】特表2006-512444(JP,A)
【文献】特表2014-529664(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0202772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 7/04- 7/06
C09J 7/00- 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、
前記表面層の主成分が樹脂成分であり、
前記樹脂成分は、主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する変性アクリル系樹脂を含み、
前記表面層は、アルカノール変性アミノ樹脂を含有せず、
前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)との関係が、以下の(1)及び(2):
(1)(i)5≦M/M≦30、又は(ii)M=0、
(2)10≦M≦30
を満たす、剥離性フィルム。
【請求項2】
前記基材層の主成分が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂である、請求項1に記載の剥離性フィルム。
【請求項3】
前記基材層の主成分が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂であり、且つ、
前記表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して、ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量が50質量部以下である、請求項1に記載の剥離性フィルム。
【請求項4】
前記Mが、10≦M≦16を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の剥離性フィルム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の剥離性フィルムの表面層上に、少なくとも粘着性層が形成されている積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2017年2月14日に出願された日本国特願2017-024853号に基づく優先権の利益を主張するものであり、援用によりその全体が本明細書に包含される。
【0002】
[発明の技術分野]
本発明は、優れた剥離性を有するフィルムに関する。特に、本発明は、医療分野及び工業分野において、例えば、電子部品若しくは電子基板の製造工程、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等に使用される剥離用のフィルム等に関する。さらに詳しくは、本発明は、表面保護フィルム及び粘着テープ等に使用する剥離フィルム、剥離ライナー又はセパレータフィルム、半導体製品製造時に使用される工程(ダイシング、ダイボンディング、バックグラインド)テープのセパレータ、セラミックコンデンサ製造時の未焼成シート形成用キャリアーならびに複合材料製造時のキャリアー、保護材のセパレータフィルム等として特に有用な、剥離性フィルムに関する。
【背景技術】
【0003】
シリコーン系剥離性フィルムは、耐候性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、及び電気絶縁性に優れており、剥離性フィルムとして広く用いられている。しかしながら、シリコーン系剥離性フィルムを使用する際、当該フィルムに貼られる物品にシリコーンが転写してしまう場合がある(この問題をシリコーン移行の問題ともいう)。そこで、シリコーン系剥離性フィルム中のシリコーンの組成を変えたり、シリコーン使用量を極力抑えたり、またはシリコーンを使わないことが検討されてきた。例えば、特許文献1では、ビニル基またはヘキセニル基を含有するポリジメチルシロキサンを主剤とし、かつ塗工量を0.07g/m以下に抑えてシリコーンの移行を減らした剥離性フィルムが提案されている。また、特許文献2には、非シリコーン系材料として4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位及びプロピレンに由来する構成単位を含む共重合体を含有する組成物をコーティング剤として用いて得た、耐熱性及び電気絶縁性に優れる剥離性フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2003-080638号公報
【文献】日本国特開2016-135567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された剥離性フィルムは、ポリシロキサン成分を主成分としているため、極薄膜にしようともフィルム基材との親和性が低くシリコーン移行の低減が不十分であった。特に、剥離性フィルムに貼られる被着体(物品)が表面保護フィルムである場合、当該剥離性フィルムは、例えば表面保護フィルムの粘着面等の被着面に対して貼付した状態で保管、流通等され、表面保護フィルム等を使用する際には被着面から剥離されるフィルムである。よって、剥離性フィルム中に存在するシリコーンが表面保護フィルムの被着面に移行する場合がある。この場合、当該被着面にシリコーンが移行した表面保護フィルムをさらに別の被着体(別の物品)の面に貼付して使用する際、移行したシリコーン成分の一部が上記別の被着体(別の物品)に移行してしまうことがある。
【0006】
また、非シリコーン系材料として4-メチル-1-ペンテンに由来する構成単位及びプロピレンに由来する構成単位を含む共重合体を含有する組成物をコーティング剤として用いた特許文献2に記載のフィルムにおいては、剥離性が不十分であった。
【0007】
そこで、剥離力が軽いという良好な剥離性を有すると共に、フィルム表面からのシリコーン移行を抑制した剥離性フィルムがなお求められている。
【0008】
本発明の課題は、剥離力が軽いという良好な剥離性を有すると共に、フィルム表面からのシリコーン移行を抑制した剥離性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために剥離性フィルムについて詳細に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、
前記表面層の主成分が樹脂成分であり、
前記樹脂成分は、ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂を含み、
前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)との関係が、以下の(1)及び(2):
(1)(i)5≦M/M≦30、又は(ii)M=0、
(2)8.5≦M≦30
を満たす、剥離性フィルム。
〔2〕前記基材層の主成分が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂である、〔1〕に記載の剥離性フィルム。
〔3〕前記Mが、9≦M≦16を満たす、〔1〕又は〔2〕に記載の剥離性フィルム。
〔4〕セパレータフィルム用又はキャリアフィルム用である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の剥離性フィルム。
〔5〕〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の剥離性フィルムの表面層上に、少なくとも粘着性層が形成されている積層体。
〔6〕基材層上に表面層を有する剥離性フィルムの使用であって、
前記剥離性フィルムの表面層上に少なくとも粘着性層が形成されている積層体から、前記表面層と前記粘着性層との間の界面で剥離される剥離性フィルムの使用であり、
前記表面層の主成分が樹脂成分であり、
前記樹脂成分は、ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂を含み、
前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)との関係が、以下の(1)及び(2):
(1)(i)5≦M/M≦30、又は(ii)M=0、
(2)8.5≦M≦30
を満たす、剥離性フィルムの使用。
〔7〕セパレータフィルム又はキャリアフィルムとして用いられる、〔6〕に記載の剥離性フィルムの使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明の剥離性フィルムは、剥離力が軽いという良好な剥離性を有するとともに、シリコーン成分の移行がしにくい。そのため、特に、電子部品若しくは電子基板の製造工程、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等に使用される剥離性フィルム等として適当である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る剥離性フィルムを模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態に係る剥離性フィルムを模式的に示す断面図である。
図3】本実施形態に係る積層体を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る積層体20が、基材層1上に表面層2を有する剥離性フィルム10と、粘着性層4を有する被着体30とを含むことを模式的に示している。
図4】本実施形態に係る積層体を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る積層体20が、基材層1上に中間層3および表面層2を有する剥離性フィルム10と、粘着性層4を有する被着体30とを含むことを模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
≪剥離性フィルム≫
本実施形態の剥離性フィルムは、基材層上に表面層を有する剥離性フィルムであって、前記表面層の主成分が樹脂成分であり、前記樹脂成分はポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂を含み、前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)と、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)との関係が以下の(1)及び(2):
(1)5≦M/M≦30であるか、又はM=0である、
(2)8.5≦M≦30、
であることを特徴とする。当該剥離性フィルムによれば、(1)良好な剥離性(即ち、当該剥離性フィルムの表面層に対して対象物(表面保護フィルム等の被着体)を貼り付けるか、または当該剥離性フィルムの表面層に前記対象物が事前に貼り付けられている際、その後に当該表面層と当該対象物との間で剥がす場合、当該表面層と当該対象物との間に剥離力を有しつつも当該剥離力が低い性質(以下、この性質を剥離力が軽いともいう))という効果とともに、(2)当該剥離性フィルムの表面層に貼られた前記対象物に対してシリコーン成分の移行をさせにくい、という効果を兼ね備える。特に、上記(1)の効果においては、通常のシリコーン系剥離性フィルムの剥離性と同等の良好さを有する。本実施形態の剥離性フィルムが上記(1)~(2)の効果を兼ね備えるため、当該本実施形態の剥離性フィルムは、電子部品若しくは電子基板の製造工程、又は繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等に使用される剥離性フィルム等として好適に使用される。
本実施形態の剥離性フィルムは、基材層と、該基材層の少なくとも一方側に表面層とを有するフィルムである。
【0014】
〔基材層〕
基材層は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂等を含有する層である。基材層は、上記樹脂の1種類のみを含有してもよいし、2種以上を組み合わせて含有してもよい。本実施形態の剥離性フィルムにおける基材層は、表面層の加工適性の観点から、樹脂成分を主成分として含有する層であることが好ましく、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリスチレン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種を主成分として含有する層であることがより好ましく、表面層との密着性(表面層と基材層との間に別の層が介在する場合には当該別の層との密着性も)及び表面層から対象物(被着体)へのシリコーン成分の移行を抑制するという観点から、ポリエステル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂からなる群から選ばれた少なくとも一種を主成分として含有する層であることがさらに好ましく、ポリエステル系樹脂を主成分として含有する層であることがさらに一層好ましく、ポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として含有する層であることが特に好ましい。ここで、本発明及び本明細書において、主成分とは、各層中に50質量%以上含まれている成分を意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。なお、当該主成分となる成分は100質量%であってもよい。
【0015】
基材層は、後述する表面層と同様、添加剤が含まれていてもよい。添加剤の種類及び成分については、後述する表面層の項目で説明するため、ここでは説明を省略する。
【0016】
基材層は、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルムのいずれから形成される層であってもよい。加工適性、透明性、及び寸法安定性の観点から、基材層は、二軸延伸フィルムから形成される層であることが好ましい。基材層は、単層で形成されていてもよく、また、複数層で形成されていてもよい。基材層が複数層で形成されている場合、当該複数層における各層を構成する樹脂は同一であることが好ましい。
【0017】
基材層の厚みは、加工適性の観点から、好ましくは15μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。基材層の厚みは、製品使用時のハンドリング性の観点から、好ましくは125μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。基材層の厚みは、マイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定される。
【0018】
基材層と、後述する表面層との密着性を高める目的で、所望により、基材層の片面又は両面に表面処理を施してもよい。表面処理としては、例えば、サンドブラスト処理若しくは溶剤処理等の凹凸化処理;コロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、又はオゾン・紫外線照射処理等の表面酸化処理等が挙げられる。
【0019】
〔表面層〕
本実施形態の剥離性フィルムは、前記基材層上に表面層を含む。表面層は、本実施形態の剥離性フィルムに剥離性を付与するための層である。表面層は、基材層との間に接着層(又は中間層)等の各層を介して基材層の上に形成されていてもよい。本実施形態の剥離性フィルムは、表面層の主面が基材層の主面と接するように表面層が形成されていることが好ましい。即ち、本実施形態の剥離性フィルムは、基材層および表面層という2種類の層の積層体で構成されていることが好ましい。本実施形態の剥離性フィルムは、表面層が被着体(物品)と接するように貼られるとともに、最終的に表面層と被着体(物品)との界面で剥がされるように使用される。ここで、前記被着体は、好適には粘着性層を有する。
【0020】
<(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂>
表面層の主成分は樹脂成分であり、前記樹脂成分はポリシロキサン成分(ポリシロキサン構造ともいう)を有する変性アクリル系樹脂を含む。ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂とは、主鎖であるアクリル系樹脂に対してポリシロキサン成分を側鎖として有する樹脂である。
上記(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂としては、以下の(I)又は(II)の樹脂を好適に使用することができる。上記ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂は、一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
(I)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合およびポリオルガノシロキサン鎖を有する単量体aを少なくとも重合させて得られる重合体、
(II)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するアクリル系単量体bを少なくとも重合させて得られる重合体に対し、ポリシロキサン成分がグラフト重合されてなる重合体。
【0021】
(I)の樹脂の説明
ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂における(I)の樹脂とは、(A)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合およびポリオルガノシロキサン鎖を有する単量体a、を少なくとも重合させて得られる重合体である。当該変性アクリル系樹脂は、上記単量体aとともに、(B)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するアクリル系単量体bを重合させて得られる重合体であることが好ましい。また、上記単量体aおよび上記単量体bとともに、(C)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体c及び/又は(D)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体dを重合させて得られる重合体であることがより好ましい。
【0022】
[(A)単量体a]
(A)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合およびポリオルガノシロキサン鎖を有する単量体aとしては、両末端ビニル基含有ポリシロキサン化合物、片末端ビニル基含有ポリシロキサン化合物、片末端(メタ)アクリロキシ基含有ポリシロキサン化合物、両末端メタクリル官能性シロキサンオリゴマー等が挙げられる。両末端ビニル基含有ポリシロキサン化合物としては、JNC(株)製のサイラプレーンFM-2231、FM-2241、FM-2242、FP-2231、FP-2241、FP2242;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のXF40-A1987、TSL9706、TSL9646、TSL9686などが挙げられる。片末端ビニル基含有ポリシロキサン化合物としては、東芝シリコーン(株)製のTSL9705などが挙げられる。片末端(メタ)アクリロキシ基含有ポリシロキサン化合物としては、JNC(株)製のサイラプレーンFM-0711、FM-0721、FM-0725などが挙げられる。本発明及び本明細書において、「(メタ)アクリロキシ」とは「アクリロキシ又はメタクリロキシ」を意味する。上記単量体aは一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
[(B)単量体b]
(B)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するアクリル系単量体bとしては、(メタ)アクリル酸誘導体が好適に挙げられる。(メタ)アクリル酸誘導体としては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。本発明及び本明細書において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル又はメタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。上記単量体bは一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
[(C)単量体c]
(C)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体c中の架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、イソシアノ基、エポキシ基、N-メチロール基、N-アルコキシメチル基、ヒドロキシ基、加水分解性シリル基等が挙げられる。上記単量体cは一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
カルボキシル基を有する単量体cとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸などが挙げられる。
【0026】
イソシアノ基を有する単量体cとしては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネートなどが挙げられ、また、ヒドロキシ(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等)を、ポリイシアネート(例えば、トルエンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、コロネートL等)と反応させて得られるものも挙げられる。
【0027】
エポキシ基を有する単量体cとしては、グリシジルメタクリレート、グリシジルシンナメート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルビニルエーテル、ビニルシクロヘキサンモノエポキサイド、1、3-ブタジエンモノエポキサイドなどが挙げられる。
【0028】
N-メチロール基又はN-アルコキシメチル基を有する単量体cとしては、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのN-モノアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルコキシメチル基を有する(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
ヒドロキシ基を有する単量体cとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0030】
加水分解性シリル基を有する単量体cとしては、γ-(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシランなどの(メタ)アクリルオキシアルキルアルコキシシラン、(メタ)アクリルオキシアルキルアルコキシアルキルシラン、トリメトキシビニルシラン、ジメトキシエチルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシアリルシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シランなどが挙げられる。
【0031】
1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体cとしては、好ましくは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシスチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種である。
【0032】
[(D)単量体d]
(D)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体dとしては、例えば、単量体b以外(すなわち、(B)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するアクリル系単量体b以外)の、1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体が挙げられる。上記単量体dの具体的な例としては、(i)芳香族ビニル単量体、(ii)オレフィン系炭化水素単量体、(iii)ビニルエステル単量体、(iv)ビニルハライド単量体、(v)ビニルエーテル単量体、などが挙げられる。上記単量体dは一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、クロロスチレン、一部の水素がフッ素置換されたスチレン類(例えば、モノフルオロメチルスチレン、ジフルオロメチルスチレン、トリフルオロメチルスチレン等)などが挙げられる。
【0034】
オレフィン系炭化水素単量体としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、イソプレン、1、4-ペンタジエン等が挙げられる。
【0035】
ビニルエステル単量体としては、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0036】
ビニルハライド単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、モノフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、トリフルオロエチレン等が挙げられる。
【0037】
ビニルエーテル単量体としては、ビニルメチルエーテル等が挙げられる。
【0038】
(II)の樹脂の説明
ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂における(II)の樹脂とは、1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するアクリル系単量体bを少なくとも重合させて得られる重合体に対し、ポリシロキサン成分がグラフト重合されてなる重合体である。
【0039】
上記アクリル系単量体bとしては、上述の(I)の樹脂の説明における単量体bと同様の単量体を使用することができる。そのため、ここではアクリル系単量体bの説明を省略する。
【0040】
当該変性アクリル系樹脂は、上記単量体bとともに、(C)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体c及び/又は(D)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体dを重合させて得られる重合体であることが好ましい。上記単量体cとしては、上述の(I)の樹脂の説明における単量体cと同様の単量体を使用することができる。また、上記単量体dとしては、上述の(I)の樹脂の説明における単量体dと同様の単量体を使用することができる。そのため、ここでは上記単量体c及びdの説明を省略する。
【0041】
ポリシロキサン成分(ポリシロキサン構造)をグラフト重合により導入する方法としては、特に限定的ではないが、例えば、日本国特開平2-308806号公報、日本国特開平2-251555号公報などに記載されているように、シリコーンマクロモノマーを用いてポリシロキサングラフト共重合成分を導入する方法が挙げられる。
【0042】
表面層中の上記(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量は、特に限定的ではないが、剥離性向上の観点から、表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、25質量部以上が特に好ましい。また、表面層中の上記(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量は、シリコーン成分の移行を抑制させる(抑制する)という観点から、表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して、99質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、40質量部以下であることが特に好ましく、35質量部以下であることが特段好ましい。
【0043】
<(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂>
表面層の主成分である樹脂成分には、(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の他、(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂を含有してもよい。
【0044】
ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂としては、例えば、上記アクリル系単量体b(即ち、1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有するアクリル系単量体b)を少なくとも重合させて得られる重合体が挙げられる。上記アクリル系単量体bとしては、上述の(I)の樹脂の説明における単量体bと同様の単量体を使用することができる。そのため、ここではアクリル系単量体bの説明を省略する。
【0045】
当該ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂は、上記単量体bとともに、(C)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合及び架橋性官能基を有する単量体c及び/又は(D)1分子中に炭素-炭素不飽和二重結合を有する単量体dを重合させて得られる重合体であることが好ましい。上記単量体cとしては、上述の(I)の樹脂の説明における単量体cと同様の単量体を使用することができる。また、上記単量体dとしては、上述の(I)の樹脂の説明における単量体dと同様の単量体を使用することができる。そのため、ここでは上記単量体c及びdの説明を省略する。
【0046】
表面層中の樹脂成分は、上記(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂のみであってもよく、上記(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂に加えて(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂を含有してもよい。ここで、表面層中の樹脂成分が、上記(a)の変性アクリル系樹脂および(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂であることが好ましい。表面層中の樹脂成分が上記(b)のアクリル系樹脂を含有する場合、上記(b)のアクリル系樹脂の含有量は限定的ではないが、シリコーン成分の移行を抑制させる(抑制する)という観点から、表面層中の樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることがさらに好ましく、60質量部以上であることが特に好ましく、65質量部以上であることが特段好ましい。また、表面層中の樹脂成分が上記(b)のアクリル系樹脂を含有する場合、上記(b)のアクリル系樹脂の含有量は、剥離性向上の観点から、表面層中の樹脂成分100質量部に対して、99.99質量部以下であることが好ましく、99質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることがさらに好ましく、75質量部以下であることが特に好ましい。
【0047】
表面層中の樹脂成分が上記(a)の変性アクリル系樹脂および上記(b)のアクリル系樹脂を含有する場合、これらの比率は、上記(a):上記(b)=0.01:99.99~99:1(質量比)が好ましく、上記(a):上記(b)=1:99~70:30(質量比)がより好ましく、上記(a):上記(b)=10:90~50:50(質量比)がさらに好ましく、上記(a):上記(b)=25:75~40:60(質量比)が特に好ましく、上記(a):上記(b)=25:75~35:65(質量比)が特段好ましい。
【0048】
表面層中の樹脂成分は、上記(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂及び(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂に加えて、他の樹脂成分が入っていてもよい。他の樹脂成分の含有量は、表面層中の樹脂成分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。表面層中の樹脂成分は、アクリル系樹脂のみであることが好ましく、特に表面層の樹脂成分が上記(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂及び(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂であることがより好ましい。表面層には、(i)アルカノール変性アミノ樹脂、(ii)アルキド樹脂(当該アルキド樹脂は変性アルキド樹脂を包含する)、または(iii)炭素数10以上30以下の長鎖アルキル基を有するアクリルウレタン樹脂、を含有しないことが好ましい。
表面層中の樹脂成分に存在する1分子中のケイ素原子に結合した有機基のうち、フェニル基は12モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、フェニル基を含有しないことが特に好ましい。
【0049】
<(c)架橋剤>
表面層には、主成分である樹脂成分とともに、(c)架橋剤を含有してもよい。当該架橋剤は、上記(a)の変性アクリル系樹脂同士(上記(b)のアクリル系樹脂を含有する場合は、以下の(1)~(3):
(1)上記(a)の変性アクリル系樹脂同士、
(2)上記(b)のアクリル系樹脂同士、及び/又は
(3)上記(a)の変性アクリル系樹脂と上記(b)のアクリル系樹脂)
を架橋する機能を有する。
【0050】
前記架橋剤(c)としては、限定的ではないが、例えばイソシアネート、ジイソシアネート、多価イソシアネート、アミノ樹脂、ジアミン、ポリアミン、ジアルデヒド、エポキシ樹脂、ビスエポキシ樹脂などが挙げられる。架橋剤(c)は、一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
表面層に(c)架橋剤が含まれている場合、その含有量は、上記架橋が十分に行われることで貼られた対象物にシリコーン成分が移行されることを抑制するという機能の観点から、表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以上であることが特に好ましく、30質量部以上であることが特段好ましく、35質量部以上であることが最も好ましい。また、表面層に(c)架橋剤が含まれている場合、その含有量は、表面層を形成する際の加工性の観点から、表面層中の架橋剤(c)の含有量は、表面層を構成する樹脂成分100質量部に対して、70質量部以下であることが好ましく、65質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、55質量部以下であることが特に好ましく、50質量部以下であることが特段好ましく、45質量部以下であることが最も好ましい。特に、表面層中の架橋剤(c)の含有量は、上記(a)の変性アクリル系樹脂と上記(b)のアクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましく、25質量部以上であることが特に好ましく、30質量部以上であることが特段好ましく、35質量部以上であることが最も好ましい。また、特に、表面層中の架橋剤(c)の含有量は、上記(a)の変性アクリル系樹脂と上記(b)のアクリル系樹脂との合計量100質量部に対して、70質量部以下であることが好ましく、65質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、55質量部以下であることが特に好ましく、50質量部以下であることが特段好ましく、45質量部以下であることが最も好ましい。
【0052】
<その他の成分>
[添加剤]
表面層及び基材層は、それぞれ、必要に応じて、少なくとも1種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、塩素吸収剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、着色剤、及び艶消し剤等が挙げられる。このような添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲内で基材層、又は表面層に添加してよい。少なくとも1種の添加剤を、基材層、又は表面層のいずれかにのみ含有させてもよいし、基材層及び表面層の全ての層に含有させてもよい。また、基材層及び表面層は、それぞれ、互いに同一又は異なる添加剤を含有してよい。
【0053】
「酸化防止剤」には、剥離性フィルム製造時の熱及び/又は酸化による劣化を抑制する目的で配合される1次剤としての役割と、長期使用した際の経時的な劣化を抑制する目的で配合される2次剤としての役割とが、少なくともある。これらの役割に応じて、各々異なる種類の酸化防止剤を用いても構わないし、2つの役割を果たす1種類の酸化防止剤を用いても構わない。
異なる種類の酸化防止剤を用いる場合、例えば成形機内での劣化等の製造時の劣化を防止することを目的とする1次剤としては、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(一般名称:BHT)を、各層を得るための組成物中に1000~3000ppm程度添加することが好ましい。この目的で配合された酸化防止剤は成形工程でほとんどが消費され、剥離性フィルム中にはほとんど残存しない。そのため、一般的には残存量は100ppmより少なくなり、酸化防止剤による被着体の汚染がほとんどない点で好ましい。
2次剤としては、公知の酸化防止剤が使用可能である。そのような酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、ヒンダードアミン系、ホスファイト系、ラクトン系及びトコフェロール系の熱安定剤及び酸化防止剤が挙げられる。具体的には、そのような酸化防止剤として、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ベンゼン、及びトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等を挙げることができる。より具体的には、そのような酸化防止剤として、BASFジャパン株式会社製の酸化防止剤である、Irganox(登録商標)1010、Irganox(登録商標)1330、及びIrgafos(登録商標)168が挙げられる。
中でも、フェノール系酸化防止剤系から選ばれた少なくとも1種あるいはそれらの組み合わせ、フェノール系とホスファイト系との組み合わせ、フェノール系とラクトン系との組み合わせ、及びフェノール系とホスファイト系とラクトン系との組み合わせが、フィルムを長期使用した際の経時的な劣化を抑制する効果を付与でき、好ましい。
また、2次剤としては、リン系酸化防止剤を使用してもよい。そのようなリン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:Irgafos(登録商標)168)、及びビス(2,4-ジ-t-ブチル-6-メチルフェニル)エチルホスファイト(商品名:Irgafos(登録商標)38)等が挙げられる。
2次剤としての上記酸化防止剤の含有量は、各層に含まれる樹脂の総量に基づいて、300ppm以上2500ppm以下が好ましく、500ppm以上1500ppm以下がより好ましい。300ppm以上とすることで、フィルムを長期使用した際の経時的な劣化を抑制する効果を付与しやすく、2500ppm以下とすることで、酸化防止剤による被着体の汚染を防止しやすい。
【0054】
「塩素吸収剤」としては、特に限定されないが、例えばステアリン酸カルシウム等の金属石鹸が挙げられる。
【0055】
「紫外線吸収剤」としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール(BASF製Tinuvin328等)、ベンゾフェノン(Cytec製Cysorb UV-531等)、及びハイドロキシベンゾエート(Ferro製UV-CHEK-AM-340等)等が挙げられる。
【0056】
「滑剤」としては、特に限定されないが、例えば、第一級アミド(ステアリン酸アミド等)、第二級アミド(N-ステアリルステアリン酸アミド等)、及びエチレンビスアミド(N,N’-エチレンビスステアリン酸アミド等)等が挙げられる。
【0057】
「可塑剤」としては、特に限定されないが、例えばPPランダム共重合体等が挙げられる。
【0058】
「難燃化剤」としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化合物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸塩、ボレート、及びアンチモン酸化物等が挙げられる。
【0059】
「帯電防止剤」としては、特に限定されないが、例えば、グリセリンモノエステル(グリセリンモノステアレート等)、及びエトキシル化された第二級アミン等が挙げられる。
【0060】
「着色剤」としては、特に限定されないが、例えば、カドミウム又はクロム含有無機化合物、並びにアゾ又はキナクリドン有機顔料等が挙げられる。
【0061】
「艶消し剤」は、艶消し(マット化)のために添加され、特に限定されない。艶消し剤としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ、(合成)ゼオライト、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、石英、炭酸マグネシウム、硫酸パリウム、及び二酸化チタン等の無機粒子;ポリスチレン、ポリアクリル系粒子、ポリメチルメタクリレート(PMMA)系粒子、架橋ポリエチレン粒子、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、(架橋)メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂、アミノ樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、脂肪酸アミド、及び脂肪酸グリセリンエステル化合物等の有機粒子が挙げられる。艶消し剤は、0.1μm~10μmの粒子径を有する粒子であることが好ましく、PMMA及びシリカ粒子が、艶消し性及び滑り性付与に優れるためより好ましい。例えば前述の基材層にこのような顔料を含有させることにより、基材層の表裏面の滑り性が向上し、艶消しを奏することができる。
【0062】
<MとMとの関係>
前記表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比をM(atomic%)とし、前記表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比をM(atomic%)とすると、MとMとの関係は、5≦M/M≦30(つまり、M/Mは5以上30以下)であるか、或いはM=0である。M/Mが5未満(5>M/M)であると、シリコーン成分が表面層中の表面に偏析しておらず、表面層中の基材層側(表面層中の表面とは逆側であり、裏面側ともいう)にシリコーン成分が多く存在するため、優れたシリコーン移行性が得られない虞がある。M/Mは、傷がつきにくく且つ優れたシリコーン移行性や剥離性を有するという観点から30以下である。M/MはM÷Mを意味する。
本発明において、MとMとの関係は、6≦M/Mであることが好ましく、8≦M/Mであることがより好ましく、10≦M/Mであることがさらに好ましく、13≦M/Mであることが特に好ましい。本発明において、MとMとの関係は、M/M≦25あることが好ましく、M/M≦24であることがより好ましく、M/M≦23であることがさらに好ましく、M/M≦20であることが特に好ましい。また、M=0である場合も好ましい態様である。上記MとMとの関係における各好ましい態様は、シリコーン成分の移行性及び良好な剥離性の両方の観点から見出されたものである。
【0063】
ここで、M/Mの技術的意義を説明する。M/Mは、シリコーン成分が最表面に偏析することの程度(度合)を示すものである。M/M値が大きいと、シリコーン成分が最表面に偏析する一方でシリコーン成分以外の成分(例えば、(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂におけるアクリル成分や、表面層中に(b)ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂が含まれている場合、上記アクリル成分に加えて当該(b)のアクリル系樹脂そのもの)が基材層側に偏析していることを示す。ここで、表面層において、5≦M/M≦30又はM=0である場合、以下の(1)及び(2)の状態となる。即ち、(1)表面層の最表面にシリコーン成分が偏析してシリコーン系剥離フィルムと同様の表面状態となり、かつ、(2)上記(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂中のアクリル成分や上記(b)のアクリル系樹脂そのものが基材層側に偏析するので、当該成分(及び当該アクリル系樹脂)が基材層や当該基材層と隣接するその他の層と相互作用する、と考えられる。このような機構のため、本実施形態の剥離性フィルムは、良好な剥離性という効果と、表面層に貼られた対象物へのシリコーン成分の移行を抑制するという効果とを兼ね備える。
【0064】
本発明及び本明細書において、M及びMの値は、それぞれ実施例に記載された手法によって測定し、M/Mの値は上記測定値から算出される。
【0065】
本実施形態におけるMは、8.5≦M≦30(つまり、Mは8.5以上30以下)を満たす。そのため、本実施形態の剥離性フィルムは、良好性な剥離性が奏される。Mが8.5未満(8.5>M)であると、良好な剥離性が得られない虞がある。Mは、良好なシリコーン移行性の観点から30以下である。本実施形態におけるMは、9≦Mであることが好ましく、10≦Mであることがより好ましく、11≦Mであることがさらに好ましく、12≦Mであることが特に好ましい。また、本実施形態におけるMは、M≦28であることが好ましく、M≦24であることがより好ましく、M≦20であることがさらに好ましく、M≦16であることがさらに一層好ましく、M≦14が特に好ましい。
【0066】
剥離性フィルムの表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)は、測定器としてX線電子分光(XPS)測定器 ESCA LAB250(Thermo VG scientific社製)を用い、測定モード:モノクロメータ、X線源:Al、測定面積:500μmφ、測定元素:珪素(Si)で測定した値である。
【0067】
剥離性フィルムの表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)は、Arイオンスパッタリングによって表面層を最表面側から削りながらXPS分析を実施し、測定した値である。スパッタリングの条件は、照射イオン:アルゴン(Ar)、電流値:2.5(μA)、電圧:120(V)、スパッタレート:0.125(nm/sec)とした。また、Mの測定条件(測定器、測定モード、X線源、測定面積、測定元素等)については、上記Mの測定条件と同様である。
【0068】
及びM/Mの値を調整する手段としては、(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂内のポリシロキサン成分の種類及びその含有量;(a)のポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量;(b)のポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂成分の種類及びその含有量;架橋剤(c)の種類及びその含有量;表面層を形成する際に、後記塗工液を使用する場合における溶媒の種類、塗工後の乾燥温度及び時間、塗工量(又は膜厚);などが挙げられる。例えば、前記(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量を増やすと、前記M及びM/Mはそれぞれ大きくなり、前記(a)ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂の含有量を減らすと、前記M及びM/Mはそれぞれ小さくなる傾向がある。但し、前記Mが大きい状態においては、前記M/Mの傾向は上述の通りとならない場合がある。塗工量(又は膜厚)を大きくするとMが大きくなり、塗工量を少なくするとMが小さくなる傾向がある。
【0069】
表面層の厚みは、剥離性を高めやすい観点から、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.1μm以上であり、特に好ましくは0.3μm以上である。表面層の厚みは、シリコーン成分を移行しにくくする観点から、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下であり、特に好ましくは1μm以下である。表面層の厚みは、表面・層断面形状計測器(例えば、株式会社菱化システム社製「VertScan(登録商標)2.0」)を用いて光干渉方式で測定される。
【0070】
〔表面層の作製方法〕
表面層は、好適な態様として、上記ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂(a)(及び、必要に応じて、ポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂(b))、並びに、必要に応じて、架橋剤(c)及び/又は他の成分等と、少なくとも1種の溶媒とを含有する塗工液を、基材層上又は上方に塗工して得られる塗工層から溶媒を除去することにより形成される。
【0071】
前記溶媒としては、上記塗工液中の溶媒以外の成分を溶解及び/又は均一に分散させることができれば特に限定されない。前記溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)及び酢酸エチル等のケトン/エステル系有機溶媒、並びにn-ヘプタン及びメチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系有機溶媒が挙げられる。溶媒の沸点は、塗工液のハンドリング性及び剥離性フィルムの製造効率を高めやすい観点から、好ましくは10~150℃であり、より好ましくは20~120℃である。溶媒は一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
塗工液中の溶媒以外の成分の濃度(いわゆる、溶媒を除去した後に表面層に残る固形分成分の濃度であり、例えば、上記ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂(a)及び必要に応じてポリシロキサン成分を有さないアクリル系樹脂(b)並びに必要に応じて架橋剤(c)や他の成分の濃度)は、限定的ではないが、塗工液の安定性及び塗工適性の観点から、塗工液の総量に対して1~24質量%であることが好ましく、1~19質量%であることがより好ましく、1~14質量%であることがさらに好ましい。塗工方法は、特に限定されず、例えば、ブレードコータ、エアナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、マイクログラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、ダイコータ、カーテンコータ、又は印刷機等を用いた方法が挙げられる。
【0073】
塗工層から溶媒を除去する方法は、溶媒を揮発させることができれば特に限定されない。なお、溶媒を除去するとは、溶媒を完全に取り除くことのみを意味するのではなく、層が形成される程度に溶媒を取り除くことも含む。溶媒を除去する方法としては、例えば、塗工層を加熱することにより乾燥させる方法が挙げられる。溶媒除去及び架橋反応の促進を両立しやすい観点から、70~170℃で塗工層を乾燥させることが好ましく、90~150℃で乾燥させることがより好ましい。
【0074】
〔剥離性フィルム表面の粗面化〕
本実施形態の剥離性フィルムの表面に、剥離性フィルムとして用いる場合の貼り合わせ等に支障が無い範囲で、巻き適性を向上させる微細な表面粗さを付与してもよい。フィルム表面に微細な凹凸を与える方法としては、エンボス法、エッチング法等、及び公知の各種粗面化方法を採用することができる。
【0075】
〔T字ピール剥離力〕
本実施形態の剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面の、ポリエステル粘着テープに対するT字ピール剥離力は、後の実施例に記載のとおり、測定試料を130℃で90秒間加熱処理した後に、温度70℃、湿度50%の環境下で20時間静置した場合のT字ピール剥離力として測定される。剥離性フィルムの上記T字ピール剥離力は、下記方法により測定される。
剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に、幅50mm×長さ200mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製NO.31Bテープ、アクリル系粘着剤)を、2kgのローラーを2往復させることにより貼付する。得られたフィルムを、130℃で90秒間加熱処理した後、温度70℃、湿度50%の環境下で20時間静置する。得られたフィルムから25mm幅に切り出した試料を測定試料とし、引っ張り試験機(例えば、ミネベア株式会社製 万能引張試験機 テクノグラフTGI-1kN)を用いて1000mm/分の速度でT字ピール剥離を行い、その際の剥離力を測定する。このように測定される値を、T字ピール剥離力とする。
【0076】
T字ピール剥離力は、剥離性フィルムの被着体に対する密着性を高めやすい観点から、好ましくは0.005N/25mm以上、より好ましくは0.01N/25mm以上、さらに好ましくは0.02N/25mm以上である。上記T字ピール剥離力は、剥離性を高めやすい観点から、好ましくは1.2N/25mm以下であり、より好ましくは0.9N/25mm以下であり、さらに好ましくは0.6N/25mm以下であり、さらに一層好ましくは0.5N/25mm以下であり、特に好ましくは0.3N/25mm以下であり、特段好ましくは0.2N/25mm以下である。
【0077】
〔剥離性フィルムの厚み〕
本実施形態の剥離性フィルムの厚みは、剥離性フィルムとしての取り扱い性の観点から、好ましくは18μm以上であり、より好ましくは20μm以上である。剥離性フィルムの厚みは、剥離性フィルムとしての取り扱い性の観点から、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。本実施形態の剥離性フィルムの厚みは、マイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定される。
【0078】
〔剥離性フィルムの延伸〕
本実施形態の剥離性フィルムは、延伸されても延伸されなくてもよい。剥離力が軽いという良好な剥離性を得やすい観点から、少なくとも表面層は無延伸である(延伸されない)ことが好ましい。
【0079】
本実施形態の剥離性フィルムは、良好な剥離性を有すると共に、シリコーン成分の低移行性を備えているため、剥離用のフィルムとして優れている。本実施形態の剥離性フィルムは、医療分野及び工業分野において広く使用することができる。例えば、セパレータフィルム用途やキャリアフィルム用途が挙げられる。
セパレータフィルムとしては、本実施形態の剥離性フィルムに、少なくとも粘着性層(例えば、(i)シート状の粘着剤、(ii)粘着性を有する層又は膜、(iii)粘着テープ等)が貼り合わせられた積層体が挙げられる。このような積層体としてのセパレータフィルムは、本実施形態の剥離性フィルムの表面層と前記粘着性層との界面で剥離させたのち、少なくとも前記粘着性層(又は粘着性層を有するシート)が各種機器(電気機器、電子機器、ウェアラブル機器、医療機器等)、各種電気部品(半導体、ハードディスク、モータ、コネクタ、スイッチ等)等に貼り合わされる。また、別のセパレータフィルムとしては、本実施形態の剥離性フィルムに、前記粘着性層を有する(i’)湿布又は(ii’)絆創膏等が貼り合わせられた積層体が挙げられる。このような積層体としてのセパレータフィルムは、本実施形態の剥離性フィルムの表面層と、前記粘着性層との界面で剥離させたのち、上記粘着性層を有する(i’)又は(ii’)を医療用品として人体に貼られる。その他、本実施形態の剥離性フィルムとして、半導体製品製造時に使用される工程(ダイシング、ダイボンディング、バックグラインド)テープ、ドライフィルムレジストと貼り合わされたセパレータフィルム、保護用フィルム又は建材と貼り合わされたセパレータフィルムとしても使用される。
キャリアフィルムとしては、本実施形態の剥離性フィルムに、粘着性層等が貼り合わされた積層体が挙げられる。当該積層体を、例えば修正テープとして使用した場合、文字等の修正箇所に粘着性層を含む転写層を転写させて、本実施形態の剥離性フィルムは回収される。また、別のキャリアフィルムとしては、本実施形態の剥離性フィルムに、グリーンシート等が貼り合わされた積層体が挙げられる。当該積層体を、例えば積層セラミックコンデンサ用グリーンシート製造時に使用した場合、グリーンシートは、積層セラミックコンデンサを製造するための材料として使用され、本実施形態の剥離性フィルムは回収され、必要に応じて再利用される。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0081】
〔測定方法及び評価方法〕
実施例及び比較例における、各種測定方法及び評価方法は、次のとおりである。
【0082】
〔表面層の厚み〕
測定機:株式会社菱化システム社製 光干渉方式表面・層断面形状計測器 VertScan(登録商標)2.0
測定機の層厚み測定モード(ベアリング測定)にて、基材層の屈折率(ポリエチレンテレフタレート基材層=1.60)、表面層の屈折率1.48から各層の光学距離を求め、表面層の厚みを測定した。
【0083】
〔基材層及びフィルムの厚み〕
剥離性フィルム及び基材層の厚みは、マイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定した。
【0084】
〔X線電子分光(XPS)分析〕
剥離性フィルムの表面層の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)を下記の条件で測定した。
測定器:X線電子分光(XPS)測定器 ESCA LAB250(Thermo VG scientific社製)
測定モード:モノクロメータ、X線源:Al、測定面積:500μmφ
測定元素:珪素(Si)
【0085】
〔XPS深さ方向分析〕
Arイオンスパッタリングによって表面層を最表面側から削りながらXPS分析を実施し、表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(atomic%)を測定した。XPSの測定条件は、上記Mの測定条件のときと同様である。スパッタリングは下記の条件で実施した。
照射イオン:アルゴン(Ar)、電流値:2.5(μA)、電圧:120(V)、スパッタレート:0.125(nm/sec)
【0086】
〔シリコーン移行性試験〕
剥離性フィルムの表面層からのシリコーンの移行性を評価するための試験を行った。具体的には、以下の(1)~(5)を行った。
(1)剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に、幅50mm×長さ100mmのポリプロピレン(PP)フィルム「アルファン(登録商標)E-201F」(王子エフテックス株式会社製 厚み:50μm)を重ねた。
(2)当該剥離性フィルムとPPフィルムとをホットプレス機「mini test press-10」(東洋精機社製)のプレス台に挟み、110℃、15kN/mmの条件で30分間加熱・加圧を行ってプレス処理品を得た。
(3)次いで、当該プレス処理品からPPフィルムを剥がした。次いで、剥がされたPPフィルムに対して、XRF測定を実施した。具体的には、PPフィルムの一つの面であって、且つ剥離性フィルムの表面層と接触した面を測定面とし、下記条件でXRF測定を実施した。
測定機:X-RAY SPECTROMETER「ZSX mini」(株式会社リガク製)
恒温化温度:35.6、圧力:2.8Pa
X線出力:40kV 1.20mA
測定元素:珪素(Si)
(4)次に、未処理のPPフィルム(アルファン(登録商標)E-201F、王子エフテックス株式会社製 厚み50μm)を別途用意した。次に、前記(3)と同様に、未処理のPPフィルムに対してXRF測定を実施した。
(5)最後に、前記プレス処理品から剥がすことにより得られたPPフィルムのXRF測定値と、未処理のPPフィルムのXRF測定値との差を、シリコーン移行量として算出した。
【0087】
〔T字ピール剥離力〕
剥離性フィルムの表面層側のフィルム表面に、幅50mm×長さ200mmのポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製NO.31Bテープ、アクリル系粘着剤)を、2kgのローラーを2往復させることにより貼付し、処理前貼付品を得た。
次いで、当該貼付品に対して130℃で90秒間の加熱処理をした。なお、当該加熱処理においては、熱風乾燥機を使用した。ここで、130℃で90秒間の加熱処理とは、130℃に設定された熱風乾燥機中に当該貼付品を載置したことを意味する。
次いで、加熱処理した貼付品に対して、5KPaの荷重となるように錘を載せ、温度70℃、湿度50%の環境下で20時間静置した。
次に、前記静置により得られた貼付品を25mm幅に切り出して測定試料とし、剥離試験機(ミネベア株式会社製 万能引張試験機 テクノグラフTGI-1kN)を用いて、1000mm/分の速度でT字ピール剥離試験を行い、その際の剥離力を測定した。測定はそれぞれ3回行い、その平均値を剥離性フィルムのT字ピール剥離力とした。
【0088】
以下の各例で使用した溶液A~Cは、以下のとおりである。
A:DYPC 300(ポリシロキサン成分を有する変性アクリル重合体(a)と、ポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)とを含有する樹脂を、ケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂溶液 固形分濃度33wt%)
B:YL455(ポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)を含有する樹脂を、ケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂溶液 固形分濃度28wt%)
C:SUR200(イソシアネート系架橋剤(c)を酢酸エチルに溶解した溶液固形分濃度75wt%)
D:前記溶液A~Cの混合溶液
E:DYPC S110(ポリシロキサン成分を有する変性アクリル重合体(a)と、ポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)とを含有する樹脂を、ケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂溶液 固形分濃度28wt%)
F:前記溶液B、前記溶液C、及び前記溶液Eの混合溶液
G:JNC株式会社製サイラプレーン(登録商標)FM-0711(反応性ポリシロキサン)を100g、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを75g、メチルメタクリレートを25g、メチルエチルケトン(MEK)を400g混合した溶液を冷却管、温度計、攪拌装置を備えたフラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃まで昇温してアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を4g加えて2時間重合反応を行って得られた、重量平均分子量約41000のポリシロキサン成分を有する変性アクリル重合体(a)(固形分濃度33wt%)
【0089】
<実施例1>
ポリシロキサン成分を有する変性アクリル重合体(a)及びポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)をケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂成分含有溶液A「DYPC S300」(東洋インキ株式会社製、樹脂成分(a)及び(b)の合計固形分濃度33wt%)を用意した。また、ポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)をケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂成分含有溶液B「YL455」(東洋インキ株式会社製、樹脂成分の固形分濃度28wt%)を用意した。また、イソシアネート系架橋剤(c)を酢酸エチルに溶解した溶液C「SUR200」(東洋インキ株式会社製 75wt%)を用意した。次に、前記溶液A、前記溶液B、及び前記溶液Cを混合し、混合溶液Dを作製した。前記混合する際の、前記溶液A、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合は、溶液A:溶液B:溶液C=10:90:15(質量比)とした。次いで、前記溶液D中の、前記重合体(a)、前記重合体(b)、及びイソシアネート架橋剤(c)の合計濃度が12質量%となるように、混合溶液Dを希釈した。希釈する際の溶媒は、ヘプタン:メチルエチルケトン(MEK)=2:8(質量比)を使用した。これにより、表面層を形成するための塗工液Xを得た。
次に、基材層として、厚さ38μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製「東洋紡エステル(登録商標)フィルムE5100」)を用意した。次いで、マイヤーバー(株式会社安田精機製作所製、シャフト直径:6.35mmφ、ROD No.4)を用いて、当該基材層の上に塗工液Xを塗工し、防爆型乾燥機にて150℃で90秒間乾燥させた後、50℃の恒温室で3日間養生させた。これにより、基材層及び表面層(表面層の厚み:0.6μm)を有する実施例1の剥離性フィルムを得た。
【0090】
<実施例2>
ポリシロキサン成分を有する変性アクリル重合体(a)及びポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)をケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂成分含有溶液E「DYPC S110」(東洋インキ株式会社製、樹脂成分(a)及び(b)の合計固形分濃度28wt%)を用意した。また、ポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)をケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂成分含有溶液B「YL455」(東洋インキ株式会社製、樹脂成分の固形分濃度28wt%)を用意した。また、イソシアネート系架橋剤(c)を酢酸エチルに溶解した溶液C「SUR200」(東洋インキ株式会社製 75wt%)を用意した。次に、前記溶液E、前記溶液B、及び前記溶液Cを混合し、混合溶液Fを作製した。前記混合する際の、前記溶液E、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合は、溶液E:溶液B:溶液C=80:20:15(質量比)とした。次いで、前記溶液F中の、前記重合体(a)、前記重合体(b)、及びイソシアネート架橋剤(c)の合計濃度が12質量%となるように、混合溶液Fを希釈した。希釈する際の溶媒は、ヘプタン:MEK=2:8(質量比)を使用した。これにより、表面層を形成するための塗工液Yを得た。
次に、基材層として、厚さ38μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製「東洋紡エステル(登録商標)フィルムE5100」)を用意した。次いで、マイヤーバー(株式会社安田精機製作所製、シャフト直径:6.35mmφ、ROD No.4)を用いて、当該基材層の上に塗工液Yを塗工し、防爆型乾燥機にて150℃で90秒間乾燥させた後、50℃の恒温室で3日間養生させた。これにより、基材層及び表面層(表面層の厚み:0.6μm)を有する実施例2の剥離性フィルムを得た。
【0091】
<実施例3>
前記混合する際の前記溶液E、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合を、溶液E:溶液B:溶液C=80:20:15(質量比)に代えて、60:40:15(質量比)とする以外は、実施例2と同様の方法により、実施例3の剥離性フィルムを得た。
【0092】
<実施例4>
前記混合する際の前記溶液E、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合を、溶液E:溶液B:溶液C=80:20:15(質量比)に代えて、50:50:15(質量比)とする以外は、実施例2と同様の方法により、実施例4の剥離性フィルムを得た。
【0093】
<実施例5>
前記混合する際の前記溶液E、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合を、溶液E:溶液B:溶液C=80:20:15(質量比)に代えて、40:60:15(質量比)とする以外は、実施例2と同様の方法により、実施例5の剥離性フィルムを得た。
【0094】
<実施例6>
JNC株式会社製サイラプレーン(登録商標)FM-0711(反応性ポリシロキサン)を100g、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを75g、メチルメタクリレートを25g、メチルエチルケトン(MEK)を400g混合した溶液を冷却管、温度計、攪拌装置を備えたフラスコに仕込んだ。次いで、前記仕込まれた溶液を窒素気流下で攪拌しながら80℃まで昇温した後、前記溶液に対してアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を4g加えて2時間重合反応を行った。これにより、重量平均分子量約41000のポリシロキサン成分を有する変性アクリル重合体(a)を主成分とする樹脂を得た。そして、当該樹脂を含む樹脂成分含有溶液G(固形分濃度33wt%)を用意した。また、ポリシロキサン成分を有さないアクリル重合体(b)をケトン/エステル系溶媒に溶解した樹脂成分含有溶液B「YL455」(東洋インキ株式会社製、樹脂成分の固形分濃度28wt%)を用意した。また、イソシアネート系架橋剤(c)を酢酸エチルに溶解した溶液C「SUR200」(東洋インキ株式会社製 75wt%)を用意した。次に、前記溶液G、前記溶液B、及び前記溶液Cを混合し、混合溶液Hを作製した。前記混合する際の、前記溶液G、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合は、溶液Gの固形分質量部:溶液Bの固形分質量部:溶液Cの固形分質量部=30:70:40(質量比)となるように、前記溶液G、前記溶液B、及び前記溶液Cを混合した。。次いで、前記溶液H中の、前記重合体(a)、前記重合体(b)、及びイソシアネート架橋剤(c)の合計濃度が12質量%となるように、混合溶液Hを希釈した。希釈する際の溶媒は、ヘプタン:MEK=2:8(質量比)を使用した。これにより、表面層を形成するための塗工液Zを得た。
次に、基材層として、厚さ38μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製「東洋紡エステル(登録商標)フィルムE5100」)を用意した。次いで、マイヤーバー(株式会社安田精機製作所製、シャフト直径:6.35mmφ、ROD No.4)を用いて、当該基材層の上に塗工液Zを塗工し、防爆型乾燥機にて150℃で90秒間乾燥させた後、50℃の恒温室で3日間養生させた。これにより、基材層及び表面層(表面層の厚み:0.6μm)を有する実施例6の剥離性フィルムを得た。
【0095】
<比較例1>
シリコーン系剥離性フィルム38RL-07(7)(王子エフテックス株式会社製)を用意した。当該フィルムは、基材層と表面層との2層構成であり、表面層の主成分である樹脂成分はシリコーン系樹脂であり、基材層の主成分である樹脂成分はポリエチレンテレフタレートである。
【0096】
<比較例2>
シリコーン系剥離性フィルム38RL-07(L)(王子エフテックス株式会社製)を用意した。当該フィルムは、基材層と表面層との2層構成であり、表面層の主成分である樹脂成分はシリコーン系樹脂であり、基材層の主成分である樹脂成分はポリエチレンテレフタレートである。
【0097】
<比較例3>
前記混合する際の前記溶液E、前記溶液B、及び前記溶液Cの混合割合を、溶液E:溶液B:溶液C=80:20:15(質量比)に代えて、30:70:15(質量比)とする以外は、実施例2と同様の方法により、比較例3の剥離性フィルムを得た。
【0098】
実施例1~6及び比較例1~3で得た剥離性フィルムの、
(i)各層の厚み、
(ii)表面層中の最表面に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比M(ここで、Mは、単に、最表面のSi元素比、又は深さ0nmのSi元素比ともいう。)、
(iii)M/M(ここで、Mは、表面層中の最表面から基材層に向けて垂直に深さ10nmの位置に存在する全元素含有量に対するケイ素の含有量比を示す。Mは、単に、深さ10nmのSi元素比ともいう。)、
(iv)T字ピール剥離力、
(v)シリコーン移行量
の結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
本実施形態の実施例1の剥離性フィルムの表面層におけるSi量勾配(M/M)は、1を超える高い値(17.5)を示した。この高い値は、Si成分の最表面への偏析を示している。実施例2~6の剥離性フィルムの表面層におけるSi量勾配(M/M)についても、実施例1と同様の高い値を示した。そして、本実施形態の実施例1~6は、いずれもMが8.5≦M≦30を満たす。
上記表1に示されるように、本実施形態の剥離性フィルムは、シリコーン系剥離性フィルムと同等に剥離力が軽いという良好な剥離性を有することがわかった。この良好な剥離性が奏される理由は、本実施形態の剥離性フィルムの最表面にポリシロキサン成分を含むケイ素成分量が適度に多いためと推察される。
また、上記表1に示されるように、本実施形態の剥離性フィルムは、シリコーンが移行しにくいことがわかった。このシリコーンの移行のしにくさは、本実施形態の剥離性フィルムの表面層を構成する樹脂成分に、ポリシロキサン成分を有する変性アクリル系樹脂が含まれており、当該樹脂中のアクリル系重合体(主鎖を構成する重合体)が基材層に対してアンカー効果のような相互作用が奏され、結果として最表面のポリシロキサン成分が離れにくいため、と推察される。
【符号の説明】
【0101】
1:基材層、2:表面層、3:中間層(接着層)、4:粘着性層、10:剥離性フィルム、20:積層体、30:被着体。
図1
図2
図3
図4