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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】固定子
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20231024BHJP
   H02K 3/46 20060101ALI20231024BHJP
   H02K 1/04 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/46 B
H02K1/04 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022545612
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029183
(87)【国際公開番号】W WO2022044765
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020140972
(32)【優先日】2020-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 海
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】福井 達哉
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-13192(JP,A)
【文献】特開2010-136571(JP,A)
【文献】特開2008-283730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/46
H02K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のティースが円環状のステータコアの内周側の径方向に突出し、周方向に配列された前記ステータコアと、
前記ティースを覆うインシュレータと、
前記インシュレータを介して前記ティースに巻かれた巻線と、
を備え、
前記ティースは、
前記ステータコアの中心軸に沿った方向に延在する一対の長側面と、
前記長側面に隣接し、前記中心軸に交差する方向に延在する一対の短側面と、
一方の前記短側面から他方の前記短側面へと貫通する貫通孔部と、
を有し、
前記インシュレータは、
一対の前記長側面のそれぞれを覆う一対の長側面被覆部と、
一対の前記短側面のそれぞれを覆う一対の短側面被覆部と、
前記貫通孔部に充填された貫通孔充填部と、
を有し、
互いに隣接する前記長側面被覆部と前記短側面被覆部とは、互いに一体化され、
一対の前記短側面被覆部のそれぞれは前記貫通孔充填部を介して互いに一体化され、
前記長側面被覆部は、前記長側面を露出させつつ開口した開口部を含み、
前記長側面の前記開口部から露出した部位には、前記インシュレータより高い熱伝導性を有する熱伝導性物質が設置されている、固定子。
【請求項2】
一対の前記長側面被覆部のそれぞれは、
前記中心軸に沿った方向から視て前記短側面被覆部と前記長側面とが同一平面になるように、互いに隣接する一対の前記短側面被覆部との境界で開口した2つの前記開口部を含み、
2つの前記開口部の間で前記長側面を覆う、請求項1に記載の固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固定子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機において、複数のティースが円環状のステータコアの内周側の径方向に突出し、周方向に配列されたステータコアと、ティースを覆うインシュレータと、インシュレータを介してティースに巻かれた巻線とを備えた固定子が知られている。小型化及び高出力化が求められる電動機においては、巻線からステータコアに熱がより伝わり易くし、巻線から冷却水への熱抵抗を低下させることが設計上の課題となる。そこで特許文献1には、ステータコアのティースが孔部を設けられたインシュレータにより被覆されている固定子が開示されている。孔部には高熱伝導性絶縁樹脂が充填されている。インシュレータ及び高熱伝導性絶縁樹脂の上から巻線が巻かれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001‐128402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような技術では、孔部に充填された高熱伝導性絶縁樹脂により、巻線からステータコアに熱がより伝わり易くなる。しかし、インシュレータに孔部が設けられているため、インシュレータ及びステータコアの剛性が低下する問題がある。
【0005】
そこで本開示は、巻線からステータコアに熱がより伝わり易くしつつ、インシュレータ及びステータコアの剛性を担保することができる固定子を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、複数のティースが円環状のステータコアの内周側の径方向に突出し、周方向に配列されたステータコアと、ティースを覆うインシュレータと、インシュレータを介してティースに巻かれた巻線とを備え、ティースは、ステータコアの中心軸に沿った方向に延在する一対の長側面と、長側面に隣接し、中心軸に交差する方向に延在する一対の短側面と、一方の短側面から他方の短側面へと貫通する貫通孔部とを有し、インシュレータは、一対の長側面のそれぞれを覆う一対の長側面被覆部と、一対の短側面のそれぞれを覆う一対の短側面被覆部と、貫通孔部に充填された貫通孔充填部とを有し、互いに隣接する長側面被覆部と短側面被覆部とは、互いに一体化され、一対の短側面被覆部のそれぞれは貫通孔充填部を介して互いに一体化され、長側面被覆部は、長側面を露出させつつ開口した開口部を含み、長側面の開口部から露出した部位には、インシュレータより高い熱伝導性を有する熱伝導性物質が設置されている固定子である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一側面の固定子によれば、巻線からステータコアに熱がより伝わり易くしつつ、インシュレータ及びステータコアの剛性を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る固定子の中心軸に沿った方向から視た正面図である。
図2】(A)は実施形態に係る固定子のステータコアの周方向から視た側面図であり、(B)は(A)のα線による断面図であり、(C)は(A)のβ線による断面図である。
図3図2(A)のγ線による断面図である。
図4】(A)は従来の固定子のステータコアの周方向から視た側面図であり、(B)は(A)のδ線による断面図であり、(C)は(A)のε線による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一側面は、複数のティースが円環状のステータコアの内周側の径方向に突出し、周方向に配列されたステータコアと、ティースを覆うインシュレータと、インシュレータを介してティースに巻かれた巻線とを備え、ティースは、ステータコアの中心軸に沿った方向に延在する一対の長側面と、長側面に隣接し、中心軸に交差する方向に延在する一対の短側面と、一方の短側面から他方の短側面へと貫通する貫通孔部とを有し、インシュレータは、一対の長側面のそれぞれを覆う一対の長側面被覆部と、一対の短側面のそれぞれを覆う一対の短側面被覆部と、貫通孔部に充填された貫通孔充填部とを有し、互いに隣接する長側面被覆部と短側面被覆部とは、互いに一体化され、一対の短側面被覆部のそれぞれは貫通孔充填部を介して互いに一体化され、長側面被覆部は、長側面を露出させつつ開口した開口部を含み、長側面の開口部から露出した部位には、インシュレータより高い熱伝導性を有する熱伝導性物質が設置されている固定子である。
【0010】
この構成によれば、固定子において、複数のティースが円環状のステータコアの内周側の径方向に突出し、周方向に配列されたステータコアと、ティースを覆うインシュレータと、インシュレータを介してティースに巻かれた巻線とを備える。ティースは、ステータコアの中心軸に沿った方向に延在する一対の長側面と、長側面に隣接し、中心軸に交差する方向に延在する一対の短側面と、一方の短側面から他方の短側面へと貫通する貫通孔部とを有する。
【0011】
インシュレータは、一対の長側面のそれぞれを覆う一対の長側面被覆部と、一対の短側面のそれぞれを覆う一対の短側面被覆部と、貫通孔部に充填された貫通孔充填部とを有する。長側面被覆部は長側面を露出させつつ開口した開口部を含む。長側面の開口部から露出した部位には、インシュレータより高い熱伝導性を有する熱伝導性物質が設置されている。
【0012】
このため、巻線からステータコアに熱がより伝わり易くなる。長側面被覆部は開口部を含む。しかし、互いに隣接する長側面被覆部と短側面被覆部とは互いに一体化され、一対の短側面被覆部のそれぞれは貫通孔充填部を介して互いに一体化されている。このため、インシュレータ及びステータコアの剛性を担保することができる。
【0013】
この場合、一対の長側面被覆部のそれぞれは、中心軸に沿った方向から視て短側面被覆部と長側面とが同一平面になるように、互いに隣接する一対の短側面被覆部との境界で開口した2つの開口部を含み、2つの開口部の間で長側面を覆ってもよい。
【0014】
この構成によれば、一対の長側面被覆部のそれぞれは、中心軸に沿った方向から視て短側面被覆部と長側面とが同一平面になるように、互いに隣接する一対の短側面被覆部との境界で開口した2つの開口部を含む。このため、金型内に挿入したステータコアのティースの周りにインシュレータをインサート成形する際にアンダーカットが生じ難く、製造し易い。また、一対の長側面被覆部のそれぞれは2つの開口部の間で長側面を覆うため、長側面被覆部のインシュレータを介してティースに巻かれた巻線とティースとの距離が安定する。
【0015】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示される本実施形態に係る固定子1を備えた電動機は、例えば、48Vマイルドハイブリッドシステム向けの過給エンジンにおいて、過渡応答性及びワイドレンジ性が要求される2段過給システムに適用される。本実施形態に係る固定子1を備えた電動機は、当該2段過給システムの電動コンプレッサ及び高負荷時の余剰タービン出力を回生する電動アシストターボを実現する。
【0016】
図1図2(A)、図2(B)、図2(C)及び図3に示されるように、固定子1は、ステータコア2と、インシュレータ4と、巻線5とを備える。ステータコア2では、複数のティース3が円環状のステータコア2の内周側の径方向Rに突出し、周方向Cに配列されている。ステータコア2は、1つのティース3ごとに周方向Cに複数のコアピースに分割されている。図2(A)、図2(B)、図2(C)及び図3に示されるように、ステータコア2は、ステータコア2の中心軸Xに沿った方向に積層された複数の鋼板から構成されている。
【0017】
インシュレータ4は、ティース3を覆う。インシュレータ4は、合成樹脂により形成された成形品である。インシュレータ4は、ステータコア2のティース3にインシュレータ4を直接成形するインサート成形方式により形成されている。巻線5は、インシュレータ4を介してティース3に巻かれている。巻線5は、1つのティース3に対して集中巻により巻かれている。巻線5は、銅損を低下させるために数mm程度の直径を有する極太の単銅線である。
【0018】
ティース3は、ステータコア2の中心軸Xに沿った方向に延在する一対の長側面6を有する。また、ティース3は、長側面6に隣接し、中心軸Xに交差する方向、つまり周方向Cに延在する一対の短側面7を有する。なお、中心軸Xに沿った方向とは、必ずしも中心軸Xに平行な方向でなくてもよく、中心軸Xに直交する方向でなければよい。また、中心軸Xに交差する方向とは、必ずしも中心軸Xに直交する方向でなくてもよく、中心軸Xに平行な方向でなければよい。また、長側面6及び短側面7が延在する方向は、それらの全面で同一でなくてもよく、それらの位置によって変動してもよい。
【0019】
ティース3は、一方の短側面7から他方の短側面7へと貫通する貫通孔部8を有する。本実施形態では、貫通孔部8を設けたことにより減ったティース3の体積分の磁路を取り戻すために、貫通孔部8の周方向Cの幅だけ、ティース3の周方向Cの幅が図4(A)、図4(B)及び図4(C)に示されるような従来のステータコア20のティース30に比べて広い。また、図2(B)及び図2(C)に示されるように、本実施形態のティース3は、ステータコア2の内周側の先端部の近傍において、ステータコア2の内周側から外周側に到るにつれて周方向Cの幅が減少する縮幅部16を有する。また、本実施形態のティース3は、縮幅部16のステータコア2の外周側に設けられ、ステータコア2の内周側から外周側に到るにつれて周方向Cの幅が増大する拡幅部17を有する。つまり、本実施形態のティース3では、ステータコア2の中心軸Xに沿った方向から視て、先端部の近傍にくびれが形成されている。また、貫通孔部8は、縮幅部16よりステータコア2の外周側に形成されている。
【0020】
図2(A)、図2(B)、図2(C)及び図3に示されるように、インシュレータ4は、一対の長側面6のそれぞれを覆う一対の長側面被覆部9を有する。また、インシュレータ4は、一対の短側面7のそれぞれを覆う一対の短側面被覆部10を有する。また、インシュレータ4は、貫通孔部8に充填された貫通孔充填部11を有する。さらにインシュレータ4は、ティース3の基部を被覆する基部被覆部12と、ティース3の先端部を被覆する先端部被覆部13とを有する。
【0021】
図2(A)に示されるように、互いに隣接する長側面被覆部9と短側面被覆部10とは、基部被覆部12及び先端部被覆部13を介して互いに一体化されている。図3に示されるように、一対の短側面被覆部10のそれぞれは貫通孔充填部11を介して互いに一体化されている。図2(A)、図2(C)及び図3に示されるように、長側面被覆部9は、長側面6を露出させつつ開口した開口部14を含む。なお、本実施形態のインシュレータ4には6つの開口が形成されている。6つの開口の内の4つは開口部14であり、長側面6を露出させる。6つの開口の内の1つは、先端部被覆部13においてティース3の先端部の一部を露出させる開口となっている。6つの開口の内のもう1つは、ステータコア2が無いと仮定した場合に、基部被覆部12において、ティース3の基部の形状に沿って、ステータコア2の外周側に開口している。
【0022】
図3に示されるように、一対の長側面被覆部9のそれぞれは、中心軸Xに沿った方向から視て短側面被覆部10と長側面6とが同一平面になるように、互いに隣接する一対の短側面被覆部10との境界で開口した2つの開口部14を含む。図2(A)、図2(B)及び図3に示されるように、一対の長側面被覆部9のそれぞれは、2つの開口部14の間で長側面6を覆う。短側面被覆部10は、曲がり難い極太の巻線5が開口部14で露出した長側面6に接触しないように、十分な厚さを有する。
【0023】
図2(A)、図2(C)及び図3に示されるように、長側面6の開口部14から露出した部位には、インシュレータ4より高い熱伝導性を有する熱伝導性物質15が設置されている。熱伝導性物質15は、シリコーングリース等のペースト状の熱伝導性コンパウンドである。ペースト状の熱伝導性コンパウンドが開口部14に塗布されることにより、長側面6の開口部14から露出した部位に熱伝導性物質15が設置されている。
【0024】
一般にインシュレータ4の熱伝導率は0.3~0.5W/mK程度である。これに対して、熱伝導性物質15の熱伝導率は2W/mK程度である。ティース3に巻線5が巻き付けられると、巻線5によって熱伝導性物質15が押し潰される。巻線5とステータコア2のティース3との間の空間が熱伝導性物質15によって充填されることによって、巻線5からステータコア2に熱がより伝わり易くなる。
【0025】
図2(C)及び図3に示されるように、熱伝導性物質15は、少なくとも複数の層に巻かれる巻線5の1層目とステータコア2のティース3との間にのみ充填されていればよい。極太の巻線5は曲がり難いため、複数の層に巻かれる巻線5の1層目は必ずしもティース3及びインシュレータ4に全周に亘って追随しない。そのため、複数の層に巻かれる巻線5の1層目とステータコア2のティース3との間には、熱伝導性物質15が充填されている必要がある。
【0026】
一方、複数の層に巻かれる巻線5の2層目以降は巻線5の巻き付けの半径が全周に亘って必ず1層目より大きくなるため、1層目の巻線5と2層目以降の巻線5とは密着する。巻線5同士が接触していれば、巻線5同士の間では熱は伝わり易い。そのため、熱伝導性物質15は、少なくとも複数の層に巻かれる巻線5の1層目とステータコア2のティース3との間にのみ充填されていればよい。
【0027】
本実施形態に係る固定子1を備えた電動機の上記のような用途では、通常のターボチャージャーと同程度の大きさで4.5kW~8kW程度の出力が求められることから、基本的に水冷が適用される。遠心コンプレッサを扱うことから電動機としては超高速(電動コンプレッサでは最大80krpm、電動アシストターボでは最大200krpm)であり、48Vでこれを駆動するために低インダクタンス設計が求められる。これはマグネットトルクの低下を意味するため、上記の出力を発生するためには必然的に扱う電流値は最大150A程度の大きなものとなる。従って抜熱すべき電動機の損失は銅損が主体となる。経済的な電動機を成立させるには巻線の許容温度は180℃程度に制限されるため、巻線から冷却水への熱抵抗を低下させることが設計上の課題となる。
【0028】
通常、このような小型高出力の求められる電動機においては、ステータコアに巻線を巻き付けた後、熱伝導性を高めたエポキシ樹脂及びシリコーン等の流動性の高い注型樹脂を流し込み、硬化させることで巻線とステータコアとの接触面積を増やして熱抵抗を下げることが一般的である。しかし、この方法では価格の高い注型樹脂を大量(100g以上)に用い、かつ硬化時間(加熱硬化の場合30~60分程度)を要する。このため、部品コストが増大するという問題がある。
【0029】
より簡便な方法としては、例えば、上記特許文献1のように、ステータコアを覆うインシュレータの一部を高熱伝導性絶縁樹脂とすることが提案されている。また、インシュレータを中心軸に沿った方向に2分割し、長側面を熱伝導シートに置き換える方法が提案されている。しかし、これらの提案では、いずれもインシュレータの一部に孔部を設けるか、インシュレータそのものがステータコアと分離しているため、ステータコアおよびインシュレータの剛性が低下する。
【0030】
図4(A)、図4(B)及び図4(C)に示されるように、ステータコア20のティース30にインシュレータ40を直接成形するインサート成形方式により、インシュレータ40とステータコア20との密着度を高める方法が提案されている。この方法では、インシュレータ40インサート成形樹脂がステータコア20の剛性を高めるために、高い張力でティース30に巻線5を巻き付けることができる。このため、巻線5に極太の単銅線を採用することができ、大電流を扱いつつ巻線5の接続部の信頼性を高めることができる。
【0031】
しかし、ティース30に巻き付けられる極太の巻線5は曲がり難く、ステータコア20のティース30及びインシュレータ40に追随し難いため、図4(C)に示されるように、巻線5とインシュレータ40との密着は、長側面被覆部9と短側面被覆部10との境界付近のみとなり、他の部分での接触が得られない。このため、巻線5からステータコア20に熱が伝わり難くなり、抜熱能力が不足するという問題が生じる。
【0032】
一方、図1図2(A)、図2(B)、図2(C)及び図3に示されるように、本実施形態では、複数のティース3が円環状のステータコア2の内周側の径方向Rに突出し、周方向Cに配列されたステータコア2と、ティース3を覆うインシュレータ4と、インシュレータ4を介してティース3に巻かれた巻線5とを備える固定子1において、ティース3は、ステータコア2の中心軸Xに沿った方向に延在する一対の長側面6と、中心軸Xに交差する方向に延在する一対の短側面7と、一方の短側面7から他方の短側面7へと貫通する貫通孔部8とを有する。
【0033】
インシュレータ4は、一対の長側面6のそれぞれを覆う一対の長側面被覆部9と、一対の短側面7のそれぞれを覆う一対の短側面被覆部10と、貫通孔部8に充填された貫通孔充填部11とを有する。長側面被覆部9は長側面6を露出させつつ開口した開口部14を含む。長側面6の開口部14から露出した部位には、インシュレータ4より高い熱伝導性を有する熱伝導性物質15が設置されている。
【0034】
このため、巻線5からステータコア2に熱がより伝わり易くなる。長側面被覆部9は開口部14を含む。しかし、互いに隣接する長側面被覆部9と短側面被覆部10とは互いに一体化され、一対の短側面被覆部10のそれぞれは貫通孔充填部11を介して互いに一体化されている。このため、インシュレータ4及びステータコア2の剛性を担保することができる。
【0035】
インシュレータ4の剛性は、樹脂の成形収縮によってステータコア2のティース3に樹脂が抱き着くことで保たれる。ステータコア2のティース3の周囲全周をインシュレータ4が囲む場合は、インシュレータ4の断面は閉じており、インシュレータ4の剛性はステータコア2のティース3の剛性そのものとなり最大となる。
【0036】
一方、長側面6に孔部が穿設された場合は、成形(型抜き)上の制約から、孔部はステータコア2のティース3の長側面6の全面で開口することになり、インシュレータ4は短側面7のみでティース3に抱き着くことなる。従って、長側面被覆部9と短側面被覆部10との境界付近のインシュレータ4を支える材料が最小となり、剛性が低下する。
【0037】
しかし、本実施形態では、ステータコア2の内部に貫通孔部8を設け、貫通孔部8に充填された貫通孔充填部11の樹脂でステータコア2のティース3の短側面7に位置する短側面被覆部10を繋ぐことで、インシュレータ4は周囲を囲んだものと同程度の表面積でステータコア2のティース3に抱き着くことになり、剛性が比較的よく維持される。
【0038】
上記のように、極太の巻線5は曲がり難く、ステータコア2のティース3及びインシュレータ4に追随し難いため、巻線5とインシュレータ4との密着は、長側面被覆部9と短側面被覆部10との境界付近のみとなる。したがって、当該境界付近のみでインシュレータ4が巻線5と接触するのであれば、当該境界付近以外のインシュレータ4を取り除き、熱伝導性物質でステータコア2のティース3と巻線5との間を埋めた方が、巻線5からステータコア2に熱がより伝わり易くなる。
【0039】
また、本実施形態によれば、一対の長側面被覆部9のそれぞれは、中心軸Xに沿った方向から視て短側面被覆部10と長側面6とが同一平面になるように、互いに隣接する一対の短側面被覆部10との境界で開口した2つの開口部14を含む。このため、金型内に挿入したステータコア2のティース3の周りにインシュレータ4をインサート成形する際にアンダーカットが生じ難く、製造し易い。また、一対の長側面被覆部9のそれぞれは2つの開口部14の間で長側面6を覆うため、長側面被覆部9のインシュレータ4を介してティース3に巻かれた巻線5とティース3との距離が安定する。
【0040】
つまり、ステータコア2のティース3にインサート成形によりインシュレータ4を成形する際に、成形型の分割方向が中心軸Xに沿った方向であることを考慮すると、アンダーカットが生じないようにするためには、開口部14は、中心軸Xに沿った方向から視て短側面被覆部10と長側面6とが同一平面になるように開口部14が開口している必要がある。この場合、巻線5と長側面6との接近が問題となる。
【0041】
そこで、本実施形態では、開口部14は、ティース3における巻線5が接触しない箇所のみに配置されている。短側面7及び長側面6の中央部にはインシュレータ4が成形される。これによって、図3に示されるように、径方向Rから視てティース3に巻線5が六角形状又は八角形状に巻き付くため、ステータコア2と巻線5との距離が安定する。また、これによって巻線5が張力によってティース3に押し付けられる力が増大するため、熱伝導性物質15の使用量が削減され、かつ熱の伝わり易さが安定する。
【0042】
さらに、本実施形態では、極太の巻線5は曲がり難いため、巻線5の曲がりを途中まで誘導しつつ、アンダーカット除去部である開口部14において、ティース3の短側面7に対して厚みの余裕を持つことで、巻線5とティース3の長側面6との接触を避けつつ、巻線5のティース3への巻き付けを安定させることができる。
【0043】
以上、本開示の実施形態及び変形例について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、熱伝導性物質15は、熱伝導性コンパウンドに代えて、巻線5とステータコア2のティース3との間に挟み込まれたシート状の伝熱体でもよい。また、熱伝導性物質15は、開口部14を含む電動機の全域に充填されたモールド材(ポッティング材)でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示の一側面の固定子によれば、巻線からステータコアに熱がより伝わり易くしつつ、インシュレータ及びステータコアの剛性を担保することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 固定子
2 ステータコア
3 ティース
4 インシュレータ
5 巻線
6 長側面
7 短側面
8 貫通孔部
9 長側面被覆部
10 短側面被覆部
11 貫通孔充填部
12 基部被覆部
13 先端部被覆部
14 開口部
15 熱伝導性物質
16 縮幅部
17 拡幅部
20 ステータコア
30 ティース
40 インシュレータ
X 中心軸
R 径方向
C 周方向
図1
図2
図3
図4