(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】粘度測定装置、表面張力測定装置、粘度測定方法および表面張力測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/06 20060101AFI20231024BHJP
G01N 13/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G01N11/06
G01N13/02
(21)【出願番号】P 2019114609
(22)【出願日】2019-06-20
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】坂本 憲児
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏毅
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-228669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0065044(US,A1)
【文献】特表2009-511918(JP,A)
【文献】特開昭59-052732(JP,A)
【文献】特開2008-139314(JP,A)
【文献】特表2017-504007(JP,A)
【文献】特開昭59-160740(JP,A)
【文献】特開2002-5808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部と、
前記第一の開口部側に接続され
、前記本体部と接続された流路と、大気中に開放された流
路に接続された流路とを有する
切替弁と、
前記微細流路に含まれる液の位置を検出するセンサーと、
前記微細流路の第二の端部の開口部が接触する被検液を収容し大気中に開放された収容部と、前記本体部を載置する載置台と、
前記被検液が前記毛細管状の微細流路内の所定位置を移動する移動時間を測定する吸液時間測定手段、および、前記被検液の粘度を導出する演算手段を備えた制御部と、
を有する粘度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の粘度測定装置の前記収容部に被検液を収容し、
毛細管現象の表面張力による力の作用によって前記被検液が前記毛細管状の微細流路内の所定位置を移動した移動距離及び移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、前記被検液の粘度を前記演算手段により導出することを特徴とする粘度測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の粘度測定方法において、前記演算手段は、前記移動距離の二乗を説明変数とし、前記移動時間を目標変数として回帰分析することを特徴とする粘度測定方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の粘度測定方法において、
前記切替弁を閉じた状態で前記第二の開口部の端部の開口部を被検液に接触させ、
毛細管現象の表面張力による力の作用によって前記被検液が前記毛細管状の微細流路内に流入し停止した状態で、
前記切替弁を切替て大気中に開放された流路に接続した状態とし、
前記切替弁を切替て大気中に開放された流路に接続した時点を時間計測開始時点とし、
所定位置に設置されたセンサーが検出する位置を被検液が通過するまでの通過時間を前記吸液時間測定手段にて測定し、
前記演算手段により被検液の粘度を導出することを特徴とする粘度測定方法。
【請求項5】
第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部と、
前記第一の開口部側に接続された切替弁とを有し、
前記切替弁は、前記本体部と接続された流路と、大気中に開放された流路および/また
は密閉容器に接続された流路とを有し、
かつ、前記微細流路の第二の端部の開口部が接触する被検液を収容する収容部と、前記本体部を載置する載置台とを有する液体採取装置の前記収容部に被検液を収容し、前記切替弁を前記密閉容器に接続された流路を有するものとし、
前記切替弁を閉じた状態のときの前記微細流路内の前記被検液の液面の位置L0と、前記切替弁を前記密閉容器に接続したときの前記微細流路内の前記被検液の液面の位置L1とを測定し、
前記位置L0および前記位置L1を、標準液を測定したときの位置と比較することで、前記被検液の表面張力を測定する表面張力測定方法。
【請求項6】
前記微細流路の液面の位置を測定する液面位置測定手段により、前記L0と、前記L1とを測定する請求項
5に記載の表面張力測定方法。
【請求項7】
第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部と、
前記第一の開口部側に接続された切替弁とを有し、
前記切替弁は、前記本体部と接続された流路と、大気中に開放された流路および/また
は密閉容器に接続された流路とを有し、
かつ、前記微細流路の第二の端部の開口部が接触する被検液を収容する収容部と、前記本体部を載置する載置台とを有する液体採取装置の前記収容部に被検液を収容し、前記切替弁を前記密閉容器に接続された流路を有するものとし、
前記切替弁を閉じた状態のときの前記微細流路内の前記被検液の液面の位置L0と、前記切替弁を前記密閉容器に接続したときの前記微細流路内の前記被検液の液面の位置L1とを測定し、
前記位置L0および前記位置L1を、標準液を測定したときの位置と比較することで、前記被検液の表面張力を測定する表面張力測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の液体も採取することができる液体採取装置に関する。また、マイクロ流体チップに関する。また、液体の粘度測定方法に関する。また、液体の表面張力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体サンプルやバイオサンプルなどを用いる各種実験等は、サンプルの移動や分注などの作業を行う必要がある。実験の種類によっては、必要サンプル量は極めて微量である。一般的なピペットではその採取量(サンプリング量)が過剰になり、必要量に対して非効率なサンプル移動を行うものとなる。しかし、極めて微量のサンプルを採取するための市販のマイクロピペットは高度なポンプ制御などが行われており、高額なものとなりやすく汎用しにくい場合がある。さらに、生体サンプルやバイオサンプルを用いる場合など、サンプルが直接接触する部分は使い捨て(ディスポーザブル)とすることが好ましい。
【0003】
特許文献1は、経路端に微小流量ポンプを設置し、該経路にはサンプルインジェクター、検定管及び該検定管の両端に気泡検出部を設置すると共に、該ポンプから一定流量でキャリヤー液を送液させつつ、所望の一定間隔で気泡を連続注入し、気泡と気泡間の一定量を連続的に取り出すことを特徴とする微小流量分配方法(請求項5)を開示している。特許文献2は、双方向の流体の流れを制御する装置に関し、加圧相と減圧相とを有する継続的なポンプサイクルで動作するポンプを有する装置を開示している。
【0004】
微量の液を用いる送液制御は、マイクロ流体チップ内で行うことも求められている。特許文献3は、互いに接着された2つの部材間に毛細管状の流路を形成し、該経路に連絡して減圧室を設け、減圧室を毛細管状の流路を有する部材とは別の部材に形成し、これらの部材を連結・固定する微小ケミカルデバイスを開示している。特許文献4は、負圧を生じるポンプと、フローセルと、これらを接続する管とを備える送液システム等を開示している。
【0005】
微量なサンプルを用いた粘度測定手法や、表面張力測定手法も求められている。例えば、脱水や出血、あるいは、心筋梗塞、脳梗塞、肝硬変、膜性腎症、ネフローゼ症候群等の様々な疾患によって、血液の粘性が高くなることが知られている。そして、血液の粘性が高いと糖尿病の発生率が上昇することや、腎臓病が重症化する傾向があることが報告されている。
また、唾液腺から口腔内に分泌される唾液は、口腔内を湿らせて発声や食物の嚥下を円滑にする働き、及び、口腔内を清浄に保って虫歯や歯周病を防ぐ働きがある。更に、歯周病に罹患した患者の唾液粘度は健常者の唾液粘度より高いこと、唾液粘度が高いほど歯周病の重症度が増すことが指摘されている。
【0006】
従って、血液や唾液等の体液の粘性及びその経時変化を知ることは、様々な疾患の予防や診断、治療にとって極めて重要である。そして、従来、液体の粘性の測定には、毛細管粘度計(特許文献5参照)、回転粘度計(特許文献6参照)、落球粘度計(特許文献7参照)、振動粘度計(特許文献8参照)等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-270018号公報
【文献】特表2009-535557号公報
【文献】特開2001-88098号公報
【文献】WO2015/119072
【文献】特開2007-108045号公報
【文献】特開2015-175841号公報
【文献】特開昭62-082340号公報
【文献】特開2014-219338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
微量なサンプルの採取、送液の手段が種々提案されている。しかし、これらの採取、送液の手段は、特許文献1や2のようにポンプを用いたり、減圧相を用いたりするものであり、ポンプの脈動制御や、使用のたびに減圧の程度の制御を行うなど、制御が難しい要素が含まれていたり高度な制御が必要となるものであった。また、これらの制御に対応する構成とするために、サンプルが直接接触する流路を含む部品も複雑な設計となったり、サンプル量よりも極端に大きい流路となることがあり、取り換えにくいものであった。
【0009】
また、特許文献3、4のようなマイクロ流体チップ等で利用するための送液システム等が開示されているが、これらも、減圧などを行う必要があり、構造が複雑となる場合があった。また負圧(減圧)の制御による送液の制御は難しく、リアクター内の任意の位置で送液を停止することなどは難しかった。また、ポンプなどを用いても、ポンプの脈動により、マイクロ流体チップの流路内で設定外の領域まで、送液される場合があった。
【0010】
また、従来の粘度計は、相当量の液体がないと粘度の測定ができない場合が多く、計測対象の液量が微量のとき、如何にして安定的に粘度を計測するかという点で課題があった。
【0011】
本発明は、微量のサンプルに対してもサンプリング量の調整を行いやすく、サンプルと接触する部位を取り換えしやすい液体採取装置を提供することを目的とする。また、本発明は、流路での液体の流動を制御しやすいマイクロ流体チップを提供することを目的とする。また、本発明は、微量のサンプルでも粘度や表面張力を測定することができる粘度測定方法や表面張力測定方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0013】
<1> 第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部と、
前記第一の開口部側に接続された切替弁とを有し、
前記切替弁は、前記本体部と接続された流路と、大気中に開放された流路および/または密閉容器に接続された流路とを有する液体採取装置。
<2> 前記本体部と、前記切替弁との間を接続する疎水性チューブの配管を有する<1>記載の液体採取装置。
<3> 前記切替弁が、電磁弁である<1>または<2>に記載の液体採取装置。
<4> 前記切替弁が、3以上の流路と接続され、かつ、前記微細流路内に向けて気体を送出する前記密閉容器と接続された流路を有する<1>~<3>のいずれかに記載の液体採取装置。
<5> 前記微細流路に含まれる液の位置を検出するセンサーを有する<1>~<4>のいずれかに記載の液体採取装置。
<6> 前記センサーおよび電磁弁である前記切替弁が制御部と接続され、前記制御部に吸液量を設定でき、前記制御部が、吸液のために前記切替弁の開放と、設定された前記吸液量に対応する前記微細流路の位置に取り付けられた前記センサーが液を検出したとき前記切替弁の閉止とを行う<5>記載の液体採取装置。
<7> 前記センサーが前記微細流路に沿って複数設けられた<6>記載の液体採取装置。
<8> 前記微細流路の第二の端部の開口部が接触する被検液を収容する収容部と、前記本体部を載置する載置台とを有する<1>~<7>のいずれかに記載の液体採取装置。
【0014】
<9> <1>~<8>のいずれかに記載の液体採取装置における前記微細流路が、採取される被検液を処理するためのマイクロ流路であるマイクロ流体チップ。
【0015】
<10> 前記微細流路の第二の端部の開口部が接触する被検液を収容する収容部と、前記本体部を載置する載置台とを有し、
前記電磁弁の開放を始めた時間を起点t0とし、前記センサーが検出する位置を液が通過するまでの通過時間txを測定する吸液時間測定手段を有する<6>または<7>に記載の液体採取装置。
【0016】
<11> <10>記載の液体採取装置の前記収容部に被検液を収容し、前記吸液時間測定手段により前記txを測定して、測定した前記txに基づいて、標準液を測定したときの吸液時間txaと比較することで、前記被検液の粘度を測定する粘度測定方法。
【0017】
<12> <8>記載の液体採取装置の前記収容部に被検液を収容し、前記切替弁を前記密閉容器に接続された流路を有するものとし、
前記切替弁を閉じた状態のときの前記微細流路内の前記被検液の液面の位置L0と、前記切替弁を前記密閉容器に接続したときの前記微細流路内の前記被検液の液面の位置L1とを測定し、
前記位置L0および前記位置L1を、標準液を測定したときの位置と比較することで、前記被検液の表面張力を測定する表面張力測定方法。
<13> 前記微細流路の液面の位置を測定する液面位置測定手段により、前記L0と、前記L1とを測定する<12>記載の表面張力測定方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の液体採取装置は、微量のサンプルに対してもサンプリング量の調整を行いやすく、サンプルと接触する部位を容易に取り換えることができる。また、本発明のマイクロ流体チップは、流路での液体の流動を制御しやすい。また、本発明の粘度測定方法や表面張力測定方法等は、微量のサンプルでも粘度や表面張力を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る液体採取装置を説明するための概要図である。
【
図2】第一の実施形態に係る液体採取装置による液体採取を説明するための概要図である。
【
図3】本発明の液体採取装置において毛細管現象により吸い込まれる液量を説明するための図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係る液体採取装置により、液体採取と送液を説明するための概要図である。
【
図5】本発明の第三の実施形態に係る液体採取装置により、液体採取を説明するための概要図である。
【
図6】本発明の第四の実施形態に係る液体採取装置を用いたマイクロ流体チップを説明するための概要図である。
【
図7】本発明の第三の実施形態に係る液体採取装置を用いて微細流路内の通液時間を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0021】
[本発明の液体採取装置]
本発明の液体採取装置は、第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部と、前記第一の開口部側に接続された切替弁とを有し、前記切替弁は、前記本体部と接続された流路と、大気中に開放された流路および/または密閉容器に接続された流路とを有する。
本発明の液体採取装置は、微量のサンプルに対してもサンプリング量の調整を行いやすく、サンプルと接触する部位を容易に取り換えることができる。
【0022】
本発明の液体採取装置は、第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部と、前記第一の開口部側に接続された切替弁とを有する。この本体部は、その微細流路の第二の開口部側に液体を接触させると、毛細管現象により、その微細流路に接触させた液体が吸い込まれる。この微細流路に吸い込まれる液量は、空間内圧力と、毛細管力が釣り合う条件で定まる。この液量は、微量の液体のサンプリングに適した量である。また、重力に対して、鉛直方向上側にも吸い込むことができるため、ピペットなどの液体採取装置として一般的に用いられるような、真上からや斜め方向からの液体採取にも適している。
【0023】
また、微細流路の第一の開口部には、切替弁が接続されている。この切替弁は、大気中に開放された流路および/または密閉容器に接続された流路を有している。この大気中に開放された流路や、密閉容器に接続された流路により、微細流路の空間内圧力の調整を行うことができる。切替弁を、大気中に開放された流路や、等圧以下の気圧とした密閉容器に接続された流路と接続する状態(弁を開いた状態)とすると、毛細管現象による微細流路内への液の吸い込みが生じる。一方、切替弁を閉じた状態とすると、切替弁までの空間内圧力が毛細管力と速やかに釣り合った状態となり、吸い込みが停止する。
【0024】
すなわち、微細流路に液体を採取するときは、第二の開口部を、採取対象となる被検液に接触させて、切替弁を開いた状態とすることで微細流路の所定の空間まで液体を吸い込むことができる。また、切替弁を閉じた状態とすると、直ちに毛細管現象が停止して、被検液のサンプリングを停止することができる。
【0025】
また、この液体採取装置においては、第一の開口部及び第二の開口部を有する毛細管状の微細流路を有する本体部が、被検液と接触する。この本体部は、毛細管等を用いることができるので取り換えを行いやすく、この本体部を取り換えることで、清浄な新たな本体部による液体採取を行うことができる。
【0026】
また、このような液体採取装置の構造を用いて、この微細流路の形状を、処理用のマイクロ流路とすることで、マイクロ流体チップとすることもできる。この処理は、マイクロ流体チップの種類に応じて適宜選択される処理であり、マイクロ流路内に収容されている成分の反応や分離、測定などの処理が行われる。また、微細流路における被検液の流動性を評価することで微量の液体の粘度を、微細流路における被検液の釣り合いの位置を測定することで微量の液体の表面張力をそれぞれ求めることができる。
【0027】
[第一の実施形態]
図1は、本発明の第一の実施形態に係る液体採取装置を説明するための概要図である。液体採取装置101は、本体部11と、切替弁21とを有する。
【0028】
[本体部11]
本体部11は、筒状体であり、中央に毛細管状の微細流路110を有する。微細流路110の一方の端部に第一の開口部111と、他方の端部に第二の開口部112を有する。第一の開口部111は、配管211を介して切替弁21の流路に接続されている。本体部11は、例えば、クロマトグラフィーの試料点着用や電気生理学実験電極用などに市販されている毛細管や、親水性のマイクロ流路などを用いることができ、第一の実施形態における本体部11は毛細管である。
【0029】
本体部11は、毛細管状の微細流路110を有し、この微細流路110は、毛細管現象が生じる太さの流路である。微細流路110に入り込む液量は、微細流路空間内圧力と液体の毛細管力(表面張力)とによって決まる。これらには、微細流路の内径、液体の表面張力、切替弁の接続状態(密閉容器の容量や、大気への開放状態等)、微細流路と液体の親和性等が関与する。このような毛細管現象を利用した採取に適した微細流路の内径は、1mm以下程度である。
【0030】
また、微量の液体の採取は、特に血液や唾液などの微量の体液への利用に適しており、これらは水を主たる媒質として含む。このため、本体部11は、親水性のものを用いて、毛細管現象が生じやすいものとすることが好ましい。本体部11は、例えば、ガラス製のものを用いることができる。
【0031】
[切替弁21]
切替弁21は、配管211に接続された流路と、大気中に開放された配管212に接続された流路を有し、開状態のときこれらを接続し、閉状態のときこれらの流路を遮断する。切替弁21は、手動で切り替えるものでもよいし、電磁弁を用いてもよい。毛細管現象は比較的速やかに進行することからも、切替弁21は、電気信号により送液開始や送液停止を瞬時に制御する事ができ、採取量を調整しやすい電磁弁を用いることが好ましい。
【0032】
[配管211]
本体部11の第一の開口部111と切替弁21とは任意の手段で接続することができる。本体部11は、使用のたびに取り換える場合があるため、この取り換えを行いやすいように、可撓性を有するチューブなどを用いて接続することが好ましい。この配管211は、疎水性のものを用いることが好ましい。一部前述したように、本体部11は親水性のものを用いて、毛細管現象が生じやすいものとすることが好ましい。一方で、微細流路110の第一の開口部111を超えて、切替弁21側まで過剰に液体が入り込まない方が好ましい。配管211を疎水性チューブとすることで、配管211内で毛細管現象が生じにくくなり、第一の開口部111付近で液体が停止する。
【0033】
図2は、液体採取装置101により、液体を採取する作業の一例を説明するための図である。液体採取装置101の第二の開口部112を、容器41に収容された液体51に接触させる(
図2(a))。接触と同時に、一部の液が、微細流路110に入り込む。さらに、切替弁21を開状態として、微細流路110の空間と、切替弁21を介した配管212とを接続状態とすると、毛細管現象が継続して、微細流路110内には、液体51が吸い込まれ液面511は次第に第一の開口部111側へと移動する(
図2(b))。
【0034】
所定の液面512まで液体を採取した後、切替弁21を閉状態として、微細流路110と、配管212とを遮断し、第二の開口部112を容器41の液体51から取り外すことで微細流路110内に、液面512まで液体を採取することができる(
図2(c))。この微細流路110内の液体は、第二の開口部112を親水性や吸水性が高い材質等に接触させて切替弁を開状態として親水性や表面張力を利用して送出したり、配管212側から気体を送り込み送出することができる。
【0035】
[液体51]
液体51は、毛細管現象が生じる任意の液体を用いることができる。この液体には、種々の成分が溶解や分散したものを用いてもよい。血液や唾液などの生体由来のサンプルを対象とすることもできる。
【0036】
液体採取装置101が採取する液量は、使用目的や表面張力に影響する諸条件(微細配管の太さ)等により適宜設定できるが、100μL以下や10μL以下、1μL以下、100nL以下のような範囲とすることができ、その下限も、10pL以上や、100pL以上のような極めて微量の液量とすることができる。
【0037】
液体採取装置101によれば、迅速に送液制御することができる。また、本体部11や必要に応じて配管211を取り外して安全に廃棄することができ、微量な体液などの生体試料の送液制御(送液や分注、サンプル移動など)ができる。
【0038】
[毛細管力と空間内圧力]
本発明に係る液体採取装置は毛細管現象を利用し、毛細管力と毛管内外圧力差による力との釣り合いを利用して液体採取を行う。
図3は円筒状の毛細管を例に、この毛細管力と毛管内外圧力差による力とを説明するための図である。
【0039】
毛細管力(Fs)は、表面張力により液体を微細流路内に引き込む力である。この毛細管力(Fs)は、以下の式(A1)から求めることができる。
Fs=2πrσ・cosα 式(A1)
式(A1)において、πは円周率であり、rは毛細管の半径(m)であり、σは表面張力(N/m)であり、αは接触角(rad)である。
【0040】
管から押し出す力(Fp)は、毛管内外圧力差による力である。この管から押し出す力(Fp)は、以下の式(A2)から求めることができる。
Fp=πr2ΔP 式(A2)
式(A2)において、πは円周率であり、rは微細流路の半径(m)であり、ΔPは微細流路内外の圧力差(Pa)である。
【0041】
そして、式(A3)に示すように、これらの力が釣り合ったとき、毛細管内で液面が静止する。
Fs=Fp 式(A3)
【0042】
この式(A3)の釣り合った状態となる条件は、以下の式(A4)に示す状態のときである。
ΔP=4σ・cosα/D 式(A4)
式(A4)においてσは表面張力(N/m)であり、αは接触角(rad)であり、Dは微細流路の内径2r(m)である。
【0043】
これらの式により、例えば、水(表面張力σ=72×10-3N/mとして)について、切替弁を閉じた状態で水平に配置した毛細管を用いるものとして計算すると、全容量0.25~1μL、内径0.099~0.20mmの毛細管に、約7~14nL程度の微量の液体を採取することができるものと計算される。
【0044】
[第二の実施形態]
図4は、本発明の第二の実施形態に係る液体採取装置と、その使用例を説明するための概要図である。液体採取装置102は、本体部12と、切替弁22と、密閉容器32とを有する。液体採取装置102は、容器42に収容された液体52を採取する場合を例に説明する。
【0045】
液体採取装置102の本体部12は、毛細管状の微細流路120を有し、第一の開口部121と、第二の開口部122を有する。この本体部12は、第一の実施形態の本体部11と同様のものを用いることができる。
【0046】
液体採取装置102の切替弁22は、三方弁である。切替弁22の第一の流路は配管221を介して本体部12の第一の開口部121に接続されている。配管221は、第一の実施形態の配管211と同様のものを用いることができる。切替弁22の第二の流路は、配管222に接続され、大気中に開放されている。この配管222は、第一の実施形態の配管212と同様のものとすることができる。切替弁22の第三の流路は、密閉容器32と配管223を介して接続されている。また、切替弁22はこれらの各配管221~223から任意の二つの配管をつなぐ構成とすることもできるし、これらの配管を遮断する閉止弁として用いることもできる。
【0047】
[密閉容器32]
密閉容器32は、毛細管状の微細流路120内で生じる毛細管現象による吸い込み量の制御に用いられる容器である。毛細管現象は前述のように、毛細管力と空間内圧力との釣り合いにより、その吸い込む量が決まる。この空間内圧力は、第一の実施形態のように、切替弁22を配管222と接続するものとして、大気中に開放して、重力等とのバランスがとれるところまで毛細管現象により吸い込むものとしてもよい。一方、空間内圧力をあらかじめ調整することで、微細流路120に吸い込まれる液量を設定しておくこともできる。このために、微細流路120に配管223を介して密閉容器32を接続させ、密閉容器32の容量に応じた液量を採取することができる。これは、密閉容器32の容積を変えるだけで微細流路120に吸い込まれる液量を容易に調整することができる利点を有する。
【0048】
液体採取装置102は、密閉容器32により空間内圧力の制御等を行うが、他の点は第一の実施形態の液体採取装置101に準じた用い方ができる。
例えば、切替弁22は、配管221と、密閉容器32に接続された配管223とが接続された状態として用いる。容器42に収容された液体52に、液体採取装置102の微細流路120の第二の開口部122を接触させると、微細流路120に毛細管現象により液体52が吸い込まれ液面521が第一の端部121側へと移動する(
図4(a))。切替弁22をそのまま維持しても、密閉容器32による空間内圧力と釣り合うところで液面522は停止し、所定の液量が微細流路120に吸い込まれた状態となる(
図4(b))。この状態のままで、第二の開口部122を液体52から取り外すことで、液体採取を終えてもよいし、切替弁22を閉じた状態として、液体採取装置102を取り上げて移動させても微細流路120内でより安定する状態としてもよい。
【0049】
図4(c)、(d)に示すように容器421に液体52を供給する場合、液体採取装置102の第二の開口部122を、容器421の近くに配置した状態で、切替弁22を切り替えて、配管221と、配管222とを接続した状態として、配管222側から微細流路120内に向けて気体を送出することで、容器421内に液滴523を移動させることができる。
【0050】
[第三の実施形態]
図5は、本発明の第三の実施形態に係る液体採取装置と、その使用例を説明するための概要図である。液体採取装置103は、本体部13と、切替弁23と、密閉容器33とを有する。さらに、本体部13は載置台73上に水平に載置されている。載置台73は、液の収容部43となる溝部を有しており、液体53が収容されている。載置台73には、本体部13の微細流路130内の液面を検出することができるセンサー631~636が取り付けられており、センサー631~636は制御部630に電気信号を通信できるように接続されている。制御部630は、電磁弁である切替弁23とも電気信号を通信できるように接続されている。
【0051】
液体採取装置103の本体部13は、毛細管状の微細流路130を有し、第一の開口部131と、第二の開口部132を有する。この本体部13は、第一の実施形態の本体部11と同様のものを用いることができる。
【0052】
液体採取装置103の切替弁23は、電磁弁の三方弁である。切替弁23の第一の流路は配管231を介して本体部13の第一の開口部131に接続されている。配管231は、第一の実施形態の配管211と同様のものを用いることができる。切替弁23の第二の流路は、配管232に接続され、大気中に開放されている。この配管232は、第一の実施形態の配管212と同様のものとすることができる。切替弁の第三の流路は、密閉容器33と配管233を介して接続されている。また、切替弁23はこれらの各配管231~233から任意の二つの配管をつなぐ構成とすることもできるし、これらの配管を遮断する閉止弁として用いることもできる。
【0053】
[載置台73]
液体採取装置103の本体部13は、載置台73に載置されている。載置台73は、本体部13を載置するための溝部を設けた構造を有する。また、載置台73は、液体の収容部43となる溝部も有している。この収容部43には液体53が収容されている。本体部13を載置台73に載置したとき、第二の開口部132が、収容部43に収容された液体53と接する配置となっている。液体採取装置103は、載置台73を水平な台上に置いたとき、本体部13を水平に配置する構成である。載置台73は、適宜、水平に限らず設定された所定の角度で本体部13を載置することができる構成に代えたものとしてもよい。
【0054】
[センサー631~636]
センサー631~636は、載置台73に取り付けられている。センサー631~636は、本体部13の微細流路130内に並置して、所定の間隔で複数設けられており、それぞれが対応する位置で微細流路130内の変動を検出することができる。例えば、センサー631~636は、光学センサーとして、微細流路130内の液面の変動を検出するものとすることができる。液体53が微細流路130内で吸い込まれるとき、その液面は液と空間中の気体との屈折率差および/または光散乱の差によって光学的手段により顕著に観察しやすい状態となる。この液面の通過の有無を、それぞれのセンサー631~636が検出することができるものとすることができる。
【0055】
[制御部630]
制御部630は、電磁弁である切替弁23の開閉や接続状態を制御する。制御部630は、はじめ切替弁23を閉状態として、本体部13を載置台73に載置したあと、配管231を、密閉容器33に接続された配管233や、大気中に開放された配管232に接続する時間を制御することができる。また、センサー631~636と電気信号を通信可能な状態で接続され、センサー631~636と対応する位置を液体53の界面が通過した時間を計測することができる。
【0056】
また、制御部630に予め吸液量を設定し、制御部630が、吸液のために切替弁23を開放し、設定された吸液量に対応する微細流路130の位置に取り付けられたセンサー(631~636)が液面を検出したとき切替弁23を閉止するものとすることができる。これにより、設定した吸液量を微細流路130内に吸液することができる。制御部630と、切替弁23および/またはセンサー631~636との通信は有線や無線など任意の手段で通信できるものとしてよい。また、液体採取装置103は、制御部630の制御を行うための入力手段や、制御部630の制御条件やセンサー631~636が検出した液面通過時間やその変動などの情報を記憶するメモリ部、これらの情報を適宜表示する表示部を有するものとすることができる。
【0057】
図5(a)は、収容部43に液体53を収容させ、本体部13を載置した状態である。制御部630により、電磁弁である切替弁23を例えば密閉容器33と接続する開状態とすると微細流路130内に液体が吸い込まれる。例えば、液面533まで液体が吸い込まれると、センサー633が液面533を検出して、その検出結果は制御部630に伝達される(
図5(b))。また、液面535まで液体が吸い込まれると、センサー635が液面535を検出して、その検出結果は制御部630に伝達される(
図5(c))。
【0058】
ここで、例えば、液面533までの量を採取量として設定しておいた場合、液面533をセンサー633が検出すると、制御部630は、センサー633の検出結果を受けて、直ちに切替弁23を閉状態とする電気信号を伝達させて、切替弁23を閉じる。これにより、液面533までの量の採取を行うことができる。
【0059】
なお、配管232には、他の密閉容器(図示せず)を取り付け、この密閉容器は、陽圧のものとしたり、可撓性を有する容器としておき、配管222に接続することで密閉容器の陽圧により微細流路130内に吸い込まれた液体53を送出したり、可撓性を有する容器を押すことで微細流路130内に向けて気体を送出することで微細流路130内に吸い込まれた液体53を送出するものとしてもよい。
【0060】
この実施形態の液体採取装置103は、電磁弁である切替弁23の開放を始めた時間を起点t0とし、センサー631~636が検出する位置を液が通過するまでの通過時間tx1~tx6を測定する吸液時間測定手段を有するものとすることができる。センサー631を通過したときの時間をtx1とし、センサー632を時間tx2、センサー633を時間tx3、センサー634を時間tx4、センサー635を時間tx5、センサー636を時間tx6として、それぞれを通過するまでの時間を測定する。そして、各センサー間の距離や、通過時間から、吸液速度を求めることもできる。
また、この液体採取装置103は、切替弁23を閉じた状態のとき、吸液がごく少ない状態で表面張力が釣り合い、液面の位置は定まる。また、切替弁23を開いたとき、吸液が始まる。このため、通過時間を測定するタイミングの制御が行いやすい。例えば、液体採取装置103を複数並置することで、複数の被験液の通過時間を同時に評価することもできる。
【0061】
また、センサー631~636は、さらに多くのセンサーを配置してもよいし、それぞれ広範な範囲を検出するものとして、液面の位置を検出するものとしてもよい。このような位置を測定するものとして、切替弁23を閉じた状態の液面の位置L0を測定し、さらに、切替弁23を密閉容器33と接続したときの液面の位置L1を測定する液面位置測定手段とすることもできる。
【0062】
[第四の実施形態]
図6は、本発明の第四の実施形態に係る液体採取装置を用いたマイクロ流体チップを説明するための概要図である。マイクロ流体チップ104は、本体部14と、切替弁24と、密閉容器34とを有する。さらに、本体部14はその底面を台上等に置くことで水平に載置することができる。本体部14は、微細流路1401、1402内の液面を検出することができるセンサー641、642が取り付けられており、センサー641、642は制御部640に電気信号を通信できるように接続されている。制御部640は、電磁弁である切替弁24とも電気信号を通信できるように接続されている。
【0063】
[微細流路1401、1402]
マイクロ流体チップ104の本体部14は、毛細管状の微細流路1401、1402を有し、第一の開口部141と、第二の開口部142を有する。この微細流路1401、1402は、毛細管現象が起こる内径の流路である。また、微細流路1401、1402は、採取される被検液を反応させるためのマイクロ流路である。本体部14は、第二の開口部142が接する部分に液の収容部143が有し、収容部143に収容された液は、第二の開口部142から毛細管現象により吸い込まれ、微細流路1401、微細流路1402を経て、第一の開口部141まで吸い込まれる。この微細流路1401、1402において、所定の反応が行われる。
【0064】
微細流路1401は、第二の開口部142から、センサー641が設けられた位置までの微細流路である。微細流路1402は、微細流路1401と連続した流路であり、センサー641が設けられた位置から、第一の開口部141までの流路である。微細流路1402は、センサー641直後の楕円状の流路に試薬8が配置されており、吸い込まれた液はこの試薬8と混合・撹拌されながら、第一の開口部141に向かって吸い込まれる。
【0065】
このマイクロ流路は、マイクロ流体チップ104を用いる目的に応じて、直線や、分岐、くし形、曲線、渦、屈曲、楕円など、任意の形状を適宜組み合わせた流路を設けることができる。また、任意の試薬等をその流路に適宜配置してもよいし、さらに他の開口部を設けて複数の液体を通液するものとしてもよい。
【0066】
マイクロ流体チップ104の切替弁24は、電磁弁の三方弁である。切替弁24の第一の流路は配管241を介して本体部14の第一の開口部141に接続されている。配管241は、第一の実施形態の配管241と同様のものを用いることができ、配管241と接続するために本体部14の第一の開口部141は、凸状部である。切替弁24の第二の流路は、配管242に接続され、大気中に開放されている。この配管242は、第一の実施形態の配管212と同様のものとすることができる。切替弁24の第三の流路は、密閉容器34と配管243を介して接続されている。また、切替弁24はこれらの各配管241~243から任意の二つの配管をつなぐ構成とすることもできるし、これらの配管を遮断する閉止弁として用いることもできる。
【0067】
本体部14は、センサー641、642が取り付けられている。これらは、マイクロ流体チップ104内での反応時間の制御などに用いることができる。例えば、第二の開口部142から微細流路1401を通って吸い込まれた液体がセンサー641を通過した時間から、試薬8と混合撹拌されながらセンサー642に到達するまでの時間を計測する。さらに、センサー642で液面の通過を確認次第、切替弁24を閉状態として、液の進行を停止する。この停止した状態で所定の反応時間経過させてから、切替弁24を開状態として、液を進行させる。本発明に係るマイクロ流体チップ104は、毛細管現象による送液を行うため、ポンプなどを用いる場合の脈動などの影響がなく、適宜センサーを配置して制御することで、高い応答性で任意の位置まで送液できる。これにより、高度な送液制御を行うマイクロ流体チップを達成することができる。
【0068】
[粘度の測定]
本発明の粘度測定方法は、本発明の液体採取装置を用いて、収容部に被検液を収容し、吸液時間測定手段によりtxを測定して、測定したtxに基づいて、標準液を測定したときの吸液時間txaと比較することで、被検液の粘度を測定するものとすることができる。
このような粘度測定方法とすることで、微量な被検液の粘度も測定することができる。この吸液時間txに基づいて、所定の距離を被検液が通過するのに要する時間を求めることができる。例えば、複数のセンサーを配置した液体採取装置を用いて、電磁弁を開放後に吸液された被検液が液面の位置Lp1を検出する第一のセンサーを通過したときの時間がtx1であり、位置Lp1よりもさらに電磁弁寄りの液面の位置Lp2を検出する第二のセンサーを通過したときの時間がtx2の場合を例に説明する。この場合、第一のセンサーの位置Lp1と第二のセンサーの位置Lp2との距離Lp21(=Lp2-Lp1)を、時間tx21(=tx2-tx1)で被検液は吸液され通過している。これを同様に標準液で測定したときの時間をtxa1、txa2とすると、この標準液のときの時間txa21(=txa2-txa1)と比較することで、被検液の標準液等に対する相対的な粘度を測定することができる。また、標準液の条件を十分に評価しておくことで、被検液の絶対的な粘度を測定することもできる。
【0069】
この粘度の測定は、毛細管現象による力の作用によって前記体液が流れる流路と、前記体液が前記流路に沿って移動した移動距離及び該移動距離の移動に要した移動時間に基づいて回帰分析し、前記体液の粘度を導出する演算手段とを備え測定装置により行うことができる。この演算手段は、前記移動距離の二乗を説明変数とし、前記移動時間を目標変数として回帰分析するのが好ましい。
【0070】
回帰分析によってどのように被検液の粘度を計測するかについて、以下に説明する。水平配置された断面円形(半径r)の管内を、以下の条件下で液体が流れる状況を検討する。
管内の液体には、表面張力による引力Fsが被験液の収容部と接する一端の他端に向かって作用する。
収容部の容積は管内の容積に比べて大きく、管の一端から管内に浸入した液体が他端に到達するまで、管の一端は収容部内の液体に浸漬されている。
【0071】
ここで、液体の表面張力をσ、液体の管の内壁に対する接触角をα、管内の液体からなる液柱の長さをl、液体の粘度をη、液体が管内を移動する速度をvとして、引力Fs及び管内の液柱に働く摩擦力Ffは以下の式1、式2でそれぞれ表わされる。
【0072】
【0073】
液体の密度をρとし、引力Fs及び摩擦力Ffを考慮して、管内を移動する液体の運動方程式を表すと、当該運動方程式は以下の式3に示すようになる。
【0074】
【0075】
lv=qとして、式3を整理することで、以下の式4が得られる。
【0076】
【0077】
管内を移動する液体が定常状態、即ち、以下の式5が成立する状態について検討すると、qは以下の式6で表わすことができる。
【0078】
【0079】
式6を時刻ゼロのときにl=0の条件で積分すると、以下の式7を得ることができる。なお、tは時刻ゼロからの経過時間を意味する。
【0080】
【0081】
式7は、管が水平に配置されており、液体が管に沿って移動するに当たり液体に作用する駆動力が表面張力であるという条件下でのLucas-Washburnの式である。
【0082】
式7は、以下の式8で示すAを用いると、以下の式9のように簡易的に表すことができる。
【0083】
【0084】
なお、式9において、D(=2r)は管の内径である。式9から管内の液体の移動時間が移動距離の二乗に比例し、その比例係数が液体の粘度に比例することが分かる。
ここで、粘度を計測する液体の種類が決まっていれば(例えば、人の唾液)、液体ごとの表面張力及び接触角の個体差は、液体ごとの粘度の個体差に比べて無視できる大きさの場合がある。これらを無視できる条件の場合、x=l
2、y=tとするxy座標系において、y=bx+aで表わされる直線の傾き、即ち傾きbの値(以下、単に「傾きb」とも言う)と液体の粘度とは、
図1に示すように、比例関係にあることが分かる。
【0085】
よって、例えば、傾きbを求めることができれば、粘度が判明している標準液となる液体の粘度とその傾きbとの1つの関係に基づいて、求めたbから液体の粘度の絶対値(例えば、単位がmPasの値)を導出可能である。すなわち、標準液を測定したときの吸液時間txaに基づく粘度と比較して、被検液についても吸液時間測定手段によりtxを測定して、測定したtxに基づいて、粘度を測定することができる。
また、傾きbと液体の粘度とは一対一の関係にあることから、傾きbを液体の粘度の相対値として扱っても良い。傾きbを液体の粘度の相対値と扱うことの活用例として、ある人の特定の体液について異なる時刻で傾きbを求め、その傾きbの変化を調べることで、その人の該当の体液の粘度の相対的な変化(例えば朝食前に比べ朝食後に唾液の粘度が1.3倍になった等)を知ることが挙げられる。
【0086】
そして、液体が管に沿って移動した移動距離及びその移動距離の移動に要した移動時間に基づいて(例えば、液体の移動距離の二乗を説明変数とし、その移動時間を目標変数として)回帰分析することで、y=bx+aのbを導出可能である。
【0087】
・管の両端に圧力差がある場合
ここまで、管の両端において液体に作用する圧力が等しいことを前提に説明したが、管の両端に圧力差が存在する場合について検討すると、管の両端の圧力差がΔP´の場合(例えば、管の一端が大気圧であり、管の他端が陰圧である場合)、A1が以下の式10で表わされる値として、式9は以下の式11となる。
【0088】
【0089】
式11において、管の両端の圧力差ΔP´が不変であれば、式9から回帰分析を経て液体の粘度を導出するのと同様の考えによって、式11から回帰分析を経て液体の粘度を求めることが可能であることが分かる。
【0090】
・管を鉛直方向に配置する場合
また、管を鉛直に配置し、管の下端(一端)を収容部内の液体に浸漬する場合について検討すると、管内の液柱には表面張力に加えて重力が働くので、式3における右辺の第1項目が以下の式12となる。
【0091】
【0092】
但し、上向きを正とした。
【0093】
・管を鉛直方向から傾けて配置する場合
管が鉛直から角度θ傾いている場合、式12のg(重力)をgcosθに置き変えればよいことから、管内を移動する液体の運動方程式は以下の式13で表わすことができる。
【0094】
【0095】
管内を斜め上向きに移動する液体が定常状態になると、式13の左辺、即ち慣性項が消えるため、定常状態での運動方程式は、以下の式14となり、式14を整理すると式15となる。
【0096】
【0097】
管内で液体が移動して、管内の液柱の長さが以下の式16に示すlcの長さに達すると、表面張力による上向きの力と重力による下向きの力がつり合って液柱の長さが変わらなくなる。
【0098】
【0099】
式15をlcを用いて整理すると、以下の式17となる。
【0100】
【0101】
式17を時間tについて解くと、以下の式18を得ることができる。
【0102】
【0103】
但し、式18において、F(lc、l)及びBはそれぞれ以下の式19、20で表わされる。
【0104】
【0105】
式18は、管を水平に配置した場合の式7に比べて複雑であるが、関数F(lc、l)及びBは粘度ηを含まないので、液体が管に沿って上昇する時間tが液体の粘度ηに比例することを明瞭に見てとることができる。
式18をl≪lcの条件のもとで展開して、近似式を導く。まず、x=l/lcとおき、対数項のx2の項まで残すと、式21に示すように近似できる。
【0106】
【0107】
式21を式18に代入すると、以下の式22となり、式18は式9に帰着する。
【0108】
【0109】
よって、l≪lcの条件下では、管が水平でなくとも、管内の液体の移動時間が移動距離の二乗に比例し、その比例係数が粘度に比例するという結果となる。従って、管が鉛直又は水平に対して斜めに配置されている場合でも、回帰解析によって、液体の粘度を導出可能であることが分かる。
【0110】
また、管が鉛直又は水平に対して斜めに配置され、更に、管の両端に圧力差ΔP´がある場合(例えば、管の一端が大気圧であり、管の他端が陰圧である場合)は、式14で、
2πrσ・cosαを、2πrσ・cosα+πr2ΔP´に置き変えればよい。このとき、lcを以下の式23で示す。
【0111】
【0112】
そうすれば、式18と同様の以下の式24を得ることができる。
【0113】
【0114】
式24においても、l≪lcの条件下では、以下の簡易式(式25)が成り立つ。
【0115】
【0116】
式25は式10と同じ式であり、式25において、A1は式10と同じように、以下の式26によって表される。
【0117】
【0118】
従って、管が鉛直又は水平に対して斜めに配置され、管の両端に圧力差ΔP´がある場合でも、回帰解析によって、液体の粘度を導出できることが分かる。
【0119】
[表面張力の測定]
【0120】
本発明の表面張力測定方法は、本発明の液体採取装置を用いて、収容部に被検液を収容し、切替弁を密閉容器に接続された流路を有するものとし、切替弁を閉じた状態のときの微細流路内の被検液の液面の位置L0と、切替弁を密閉容器に接続したときの微細流路内の被検液の液面の位置L1とを測定し、位置L0および位置L1を、標準液を測定したときの位置と比較することで、被検液の表面張力を測定するものとすることができる。
このような表面張力測定方法とすることで、微量の被検液の表面張力も測定することができる。この液面の位置L0と、液面の位置L1とは、毛細管の流路に合わせて配置した目盛りを読み取った値を用いてもよい。また、液面の位置を、センサーにより検出して検出された位置を用いてもよい。
【0121】
表面張力は、次の考え方から求めることができる。毛細管内で、試料に働く表面張力と毛管内圧力による力とが釣り合うと、試料の運動が停止する。力の釣り合いの条件は、ΔP=4σcosα/Dである。状態方程式から(温度一定のもとで)ΔV/V+ΔP/P=0となる。これらより以下の式(a1)が求められる。
【0122】
【0123】
ここで、P(大気圧)、D(毛管内径)、V(総容積)は一定とする。また、侵入(吸い込まれる)容積ΔVは毛管断面積に侵入距離ΔLを乗じたものであるから、侵入容積ΔVは侵入距離ΔLに比例する。したがって、ΔLを測定することで、表面張力σを求めることができる。このΔLは、位置L1-位置L0から求められる。
【0124】
標準試料(例:純水)のΔLを測定し、被験試料(例:唾液)のΔLを測定すれば試料の表面張力の値を相対的に評価することができる。
【0125】
また、距離ΔLは総容積Vに比例する。このため、順次総容積Vを変えてΔLを記録し回帰分析することによって、表面張力の値をより精密に決定することができる。この総容積Vは、例えば第三の実施形態における密閉容器33の容積を変更することで調整することができる。また、切替弁23を複数設けて、接続する密閉容器を複数選択できる状態とすることで、その接続している密閉容器の数や容積の和から、同一の系として載置した状態でのΔLを求めることもできる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0127】
[粘度測定例]
光学センサーを取り付けた載置台上に本体部を載置する構成の液体採取装置(第三の実施形態参照)により、液体の通液速度から粘度を測定した。
【0128】
水平に設置した毛細管(長さ100mm、内径0.68mm)にシリコンチューブ(内径1mm)と注射針(18G:外径1.2mm)を介して点滴用エクステンションチューブ(公称0.7mL)を接続し、その末端に電磁弁を設置した。電磁弁の他端は大気中に開放状態として、電磁弁ははじめ閉じた状態とした。
この電磁弁を閉じた状態で、載置台に水平に配置した毛細管の解放端に十分な量の試料(純水、あるいは唾液)を接触させると、毛細管内に約10mm侵入して静止した。この状態で電磁弁を開くと毛細管内で流動が開始し、所定の位置の通液時間を測定することで、粘度を測定することができる。
【0129】
測定試料として「純水」と、「唾液」を測定した測定例を、
図7に示す。
図7は5点の等間隔に配置したセンサーにより液面の通過時間を測定したものである。純水よりも唾液の方が粘度が高く、各点のセンサーの通液時間が遅いものとなった。この5点に配置したセンサーの検出ピークの通液時間を適宜回帰分析等して比較することで、純水と唾液の粘度の値の大きさの比を求めることができる。
【0130】
また、複数の電磁弁を用いることで、複数の試料を独立の毛細管内に停止状態で保持することができる。それら複数の電磁弁を同時に開放することによって通液速度をモニタリングし、複数の試料の粘度の大きさを同時に測定・比較することができる。
【0131】
[表面張力測定例]
【0132】
載置台上に本体部を載置する構成の液体採取装置(第三の実施形態参照)により、液面の変化から表面張力を測定した。水平に設置した毛細管(長さ100mm、内径0.68mm)にシリコンチューブ(内径1mm)と注射針(18G:外径1.2mm)を介して点滴用エクステンションチューブ(公称0.7mL)を接続し、その末端に電磁弁を設置した。電磁弁の他端にチューブ(容量 4mL:末端は閉じてある)を接続した。測定開始時、この電磁弁は閉じた状態とする。
【0133】
この電磁弁を閉じた状態で、載置台に水平に配置した毛細管の解放端に十分な量の試料(純水、あるいは唾液)を接触させると、毛細管内に約10mm侵入して静止した(L0)。ここでL0は、毛細管解放端から電磁弁入り口までの体積を式(a1)におけるVとしたときの釣り合いの位置である。この状態で電磁弁を開くと毛細管内で流動が開始し、新たな侵入距離L1の位置で毛細管力と毛管内圧力とが釣り合う。L0とL1の差ΔLを測定することで、表面張力を求めることができる。
【0134】
ΔL(=L1-L0)は、σcosαに比例する。純水の表面張力σは、72×10-3N/mであり、清浄なガラス面に対する接触角はほぼゼロである。このことから、純水を基準にして、試料(唾液)のσcosαを求めることができる。
【0135】
純水のΔLは3回測定の平均として63.6mmであった。一方、唾液のΔLは3回測定の平均として51.75mmであった。この結果から、この試験に用いた唾液の表面張力は、「ΔL(唾液)/ΔL(純水)×純水の表面張力」の計算から求められ、約58.6×10-3N/mであった。なお前述のように、電磁弁に接続する密閉容器(チューブ)の容積Vを段階的に変更してそれぞれΔLを測定することで、回帰分析を行うこともできる。
【0136】
この表面張力の測定方法は、従来の毛細管法(毛管上昇法)と異なり、表面張力の値の算出に試料密度(単位体積あたりの質量)の情報を必要とせず、微量の試料で測定可能である。測定後は、被検液の収容部、載置台ならびに毛細管を一体として安全に廃棄することができるので、生体試料の測定にも適している。さらに、回帰分析に必要な複数の測定値を得ることも容易である。したがって、簡単な操作で信頼性の高い測定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、微量な液体の採取やマイクロ流体チップ、液体の粘度測定や表面張力測定に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0138】
101、102、103 液体採取装置
104 マイクロ流体チップ
11、12、13、14 本体部
110、120、130、1401、1402 微細流路
111、121、131、141 第一の開口部
112、122、132、142 第二の開口部
143、43 収容部
21、22、23、24 切替弁
211、212、221、222、223、231、232、233、241、242、243 配管
32、33、34 密閉容器
41、42、421 容器
51、52、53 液
511、512、521、522、533、535 液面
630、640 制御部
631~636、641~642 センサー
73 載置台
8 試薬