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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】吸湿材
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/28 20060101AFI20231024BHJP
   F25B 15/00 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B01D53/28
F25B15/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019203954
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021074680
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中山 浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】野上 敏材
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-508298(JP,A)
【文献】特表2014-505586(JP,A)
【文献】特開2017-221940(JP,A)
【文献】特開2000-007505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00-53/96
F25B15/00-17/12
B01J20/00-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるコリン系カチオンと、下記一般式(2)で示されるリン酸アニオンとからなる塩を含有する吸湿材。
【化1】
(R,R,Rはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基である。nは、1~6の整数である。mは、である。)
【化2】
(R、炭素数1~6のアルコキシ基であり、R、炭素数1~6のアルコキシ基である。
【請求項2】
及びR は、同一のアルコキシ基であり、かつ当該アルコキシ基を構成するアルキル基が、前記一般式(1)で示されるコリン系カチオンのR ~R のいずれか一つと同一である請求項1に記載の吸湿材。
【請求項3】
下記一般式(1)で示されるコリン系カチオンと、下記一般式(3)で示される硫酸アニオンとからなる塩を含有する吸湿材。
【化3】
(R,R,Rはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基である。nは、1~6の整数である。mは、である。)
【化4】
(R、炭素数1~6のアルコキシ基である。)
【請求項4】
のアルコキシ基を構成するアルキル基が、前記一般式(1)で示されるコリン系カチオンのR ~R のいずれか一つと同一である請求項3に記載の吸湿材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空調機や吸収冷凍機に用いられる吸湿材に関する。
【背景技術】
【0002】
デシカント式の空調機においては、空気中の水蒸気を吸収する特性をもつ液体状の吸湿材が使用される。
非特許文献1~2には、塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、トリエチレングリコールを用いた液体状の吸湿材が開示されている。
【0003】
特許文献1~5及び非特許文献3~6には、イオン液体を用いた液体状の吸湿材が開示されている。また、上記イオン液体として、臭化物アニオン及びテトラフルオロボレー陰イオンと、イミダゾリウムカチオンとの塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-505586号公報
【文献】特開2017-221940号公報
【文献】特開2017-154076号公報
【文献】特開2016-052614号公報
【文献】特表2017-538571号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】L. Mei, Y. I. Dai, A technical review on use of liquid-desiccant dehumidification for air-conditioning application, Renewable and Sustainable Energy Reviews, 2008,12,662-689.
【文献】R. 0. Singh, V. K. Mishra, R. K. Das, Desiccant materials for air condition in applications - A review, lop Conference Series. ' Materials Science and Engineering, 2018,404,012005.
【文献】L. Jing, Z. Danxing, F. Lihua, W. Xianghong, D. Li, Vapor Pressure Measurement of the Ternary Systems H20 + LiBr + IDmimlCl, H20 + LiBr + IDmimlBF4, H20 + LiCl + [Dinim]Cl, and H20 + LiCl + [Dinim]BF4,I Chem. Eng. Data 56 (2011) 97-101.
【文献】Y. Luo, S. Shao, H. Xu, C. Tian, Dehumidification performance of [EMIM]BF4, Appl. Thermal Eng. 31 (2011) 2722-2777.
【文献】Y. Luo, S. Shao, F. Qin, C. Tian, H. Yang, Investigation on feasibility of ionic liquids used in solar liquid desiccant air conditioning system, Solar Energy 86 (2012) 2718-2724.
【文献】Watanabe, H. ; Komura, T.; Matsumoto, R.; Ito, K. ; Nakayama, H. ; Nokami, T. ; Itoh, T. Design of Ionic Liquids as Liquid Desiccant for an Air Conditioning System, Green Energy & Environment, 4 (2019), 139-145.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1~2に開示される塩化リチウム水溶液、塩化カルシウム水溶液は、安定して低湿度の空気を得ることができるという利点がある。しかしながら、一般に、これらハロゲン化物イオンのアルカリ金属の水溶液及びアルカリ土類金属の水溶液は、金属腐食性を有している。そのため、これらの物質を吸湿材に適用した場合には、空調機や吸収冷凍機等の装置における吸湿材が接する部分に、チタン等の耐食性の高い材料を用いなければならないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1~5及び非特許文献3~6に開示される吸湿材は、イオン液体を構成するアニオンとして、臭化物アニオン及びテトラフルオロボレー陰イオンが用いられている。臭化物アニオン及びテトラフルオロボレー陰イオンは、金属腐食性を有している点に加えて、毒性も有しており、取り扱いが難しいという問題もある。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属腐食性の低い吸湿材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する吸湿材は、下記一般式(1)で示されるコリン系カチオンと、下記一般式(2)で示されるリン酸アニオン又は下記一般式(3)で示される硫酸アニオンとからなる塩を含有する。
【0010】
【化1】
一般式(1)において、R,R,Rはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルヒドロキシ基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合を介して結合したポリアルキルエーテル基である。nは、1~6の整数である。mは、1~10の整数である。
【0011】
【化2】
は、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合或いはチオエーテル結合を介して結合した1価の基である。
【0012】
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合或いはチオエーテル結合を介して結合した1価の基である。
【0013】
【化3】
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合或いはチオエーテル結合を介して結合した1価の基である。
【0014】
前記塩は、例えば、前記コリン系カチオンと、前記リン酸アニオンとからなる塩である。
前記塩は、例えば、前記コリン系カチオンと、前記硫酸アニオンとからなる塩である。
【0015】
前記コリン系カチオンは、例えば、N-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタン-1-アンモニウムカチオンである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属腐食性の低い吸湿材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1及び実施例2の吸湿試験の結果を示すグラフ。
図2】(a)は、実施例1の粘度試験の結果を示すグラフ、(b)は、実施例2の粘度試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の吸湿材の一実施形態を説明する。
本実施形態の吸湿材は、特定のコリン系カチオンと、特定のリン酸アニオン又は特定の硫酸アニオンとからなる塩(以下、特定塩と記載する。)を含有する。特定塩は、常温で固体であってもよいし、液体(所謂、イオン液体)であってもよい。
【0019】
<コリン系カチオン>
特定塩を構成するコリン系カチオンは、下記一般式(1)で示される1価のカチオンである。
【0020】
【化4】
一般式(1)において、R,R,Rはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルキルヒドロキシ基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合を介して結合したポリアルキルエーテル基である。
【0021】
nは、1~6の整数である。
mは、1~10の整数である。
上記コリン系カチオンの具体例としては、N-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタン-1-アンモニウムカチオンが挙げられる。
【0022】
<リン酸アニオン>
特定塩を構成するリン酸アニオンは、下記一般式(2)で示される1価のアニオンである。
【0023】
【化5】
一般式(2)において、Rは、水素原子、水酸基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合或いはチオエーテル結合を介して結合した1価の基である。
【0024】
は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアルケニル基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合或いはチオエーテル結合を介して結合した1価の基である。
【0025】
これらの中でも、R及びRが、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましい。また、R及びRは、炭素数1~6の同一のアルコキシ基であることが好ましく、そのアルコキシ基を構成するアルキル基が、一般式(1)で示されるコリン系カチオンのR~Rのいずれか一つと同一であることがより好ましい。
【0026】
この場合、上記コリン系カチオンからR~Rのいずれか一つが省かれた構造のアルコールにリン酸エステルを作用させてオニウム化することにより、特定塩を合成できる。この合成プロセスは、容易に反応が進むため、極めて簡易に特定塩を合成できる。また、メタル交換反応やイオン交換樹脂を用いるアニオン交換を必要としないため、腐食の原因となるハロゲンの混入を抑制できる。
【0027】
上記リン酸アニオンの具体例としては、リン酸ジメチルアニオン、リン酸ジエチルアニオン、亜リン酸イオン、次亜リン酸イオンが挙げられる。
特定塩を構成するアニオンが上記リン酸アニオンである場合、臭気の発生を抑制できる。また、特定塩を構成するアニオンが後述する硫酸アニオンである場合と比較して、1モルあたりの吸湿率が高くなる。
【0028】
<硫酸アニオン>
特定塩を構成する硫酸アニオンは、下記一般式(3)で示される1価のアニオンである。
【0029】
【化6】
一般式(3)において、Rは、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、又は2~6個の炭素数1~6のアルキル基がエーテル結合或いはチオエーテル結合を介して結合した1価の基である。
【0030】
これらの中でも、Rが、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましい。また、Rは、炭素数1~6のアルコキシ基であり、そのアルコキシ基を構成するアルキル基が、一般式(1)で示されるコリン系カチオンのR~Rのいずれか一つと同一であることがより好ましい。
【0031】
この場合、上記コリン系カチオンからR~Rのいずれか一つが省かれた構造のアルコールに硫酸エステルを作用させてオニウム化することにより、特定塩を合成できる。この合成プロセスは、容易に反応が進むため、極めて簡易に特定塩を合成できる。また、メタル交換反応やイオン交換樹脂を用いるアニオン交換を必要としないため、腐食の原因となるハロゲンの混入を抑制できる。
【0032】
上記硫酸アニオンの具体例としては、硫酸メチルアニオン、硫酸エチルアニオン、亜硫酸イオンが挙げられる。
特定塩を構成するアニオンが上記硫酸アニオンである場合、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸アニオンである場合と比較して、吸湿速度が高くなる。
【0033】
<特定塩>
特定塩の具体例としては、N-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタン-1-アンモニウム ジメチルフォスフェート(以下、[Ch][DMPO]と記載する。)、N-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタン-1-アンモニウム メチルスルフェート(以下、[Ch][MeSO]と記載する。)が挙げられる。
【0034】
<吸湿材>
吸湿材は、1種の特定塩を含有するものであってもよいし、上記カチオン及び上記アニオンの一方又は両方が異なる2種以上の特定塩を含有するものであってもよい。
【0035】
吸湿材は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、通常、吸湿材に用いられるその他成分をさらに含有してもよい。
吸湿材は、水溶液であってもよい。この場合、特定塩は、上記カチオン及び上記アニオンの状態で含有される。
【0036】
本実施形態の吸湿材は、例えば、デシカント式の空調機、吸収冷凍機に適用できる。なお、本実施形態の吸湿材は、開放系及び密閉系のいずれの態様でも使用可能であるが、開放系の態様で使用する場合、臭気が抑制されている観点から、特定塩を構成するアニオンが上記リン酸アニオンである吸湿材が特に適している。
【0037】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)吸湿材は、一般式(1)で示されるコリン系カチオンと、一般式(2)で示されるリン酸アニオン又は一般式(3)で示される硫酸アニオンとからなる特定塩を含有する。
【0038】
上記構成によれば、亜鉛、銅、アルミニウム、ステンレス等の種々の金属に対して腐食性の低い吸湿材となる。また、特定塩を構成するコリン系カチオンは、生物体に普遍的に含まれる物質であるコリンを構成するカチオンと同一又は類似する物質であるため、生体に対する毒性が低い。
【0039】
(2)特定塩は、一般式(1)で示されるコリン系カチオンと、一般式(2)で示されるリン酸アニオンとからなる塩である。
上記構成によれば、吸湿率の高い吸湿材が得られる。また、臭気の発生が抑制されるため、デシカント式の空調機等の開放系の用途に特に適している。
【0040】
(3)特定塩は、一般式(1)で示されるコリン系カチオンと、一般式(3)で示される硫酸アニオンとからなる塩である。
上記構成によれば、吸湿速度の高い吸湿材が得られる。また、粘性が低いため、取り扱いが容易である。
【0041】
(4)コリン系カチオンは、N-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタン-1-アンモニウムカチオンである。
上記カチオンは、生物体に普遍的に含まれる物質であるコリンを構成するカチオンであるため、生体に対する毒性が非常に低い。
【0042】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記一般式(2)において、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルコキシ基である前記吸湿材。
【0043】
(ロ)前記一般式(2)において、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルコキシ基であり、当該アルコキシ基を構成するアルキル基は、一般式(1)で示されるコリン系カチオンのR~Rのいずれか一つと同一である前記吸湿材。
【実施例
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
<吸湿材の合成>
・実施例1([Ch][DMPO])の合成
反応式:(CHN(CHOH+(CHO)PO→[Ch][DMPO
2-(N,N-ジメチルアミノ)エタノール(8.91g,100mmol)に、リン酸トリメチル(14.2g,101mmol)を0℃で撹拌しながら加え、0℃で8時間、撹拌した。その後、25℃で13時間、撹拌し、50℃に昇温して1時間、撹拌した。ジエチルエーテルで3回、洗浄した後、濃縮し、濃縮物を真空乾燥した後、凍結乾燥することにより、[Ch][DMPO]を白色固体(融点57℃)として得た。収量は22.7gであり、収率は99%であった。
【0045】
・実施例2([Ch][MeSO])の合成
反応式:(CHN(CHOH+(CHSO→[Ch][MeSO
2-(N,N-ジメチルアミノ)エタノール(8.90g,100mmol)に、硫酸ジメチル(13.1g,101mmol)を室温で加え、120℃で24時間、撹拌した。ジエチルエーテルで3回、洗浄した後、濃縮し、濃縮物を真空乾燥した後、凍結乾燥することにより、[Ch][MeSO]を白色固体(融点31℃)として得た。収量は21.1gであり、収率は98%であった。
【0046】
<吸湿試験>
実施例1の80質量%水溶液1gを分注したシャーレを、湿度計(株式会社T&D製 照度・紫外線・温度・湿度データロガー TR-74Ui)と共にチャック付きポリ袋(旭化成ホームプロダクツ株式会社製 ジップロック(登録商標)、273mm×268mm)に入れて、ポリ袋を封止した。これを30℃の恒温槽に入れて静置し、ポリ袋内の湿度が平衡状態に達するまでのポリ袋内の湿度変化を測定した。その結果を図1のグラフに示す。
【0047】
ポリ袋内の湿度変化の測定結果から、実施例1の化合物1molあたりの吸湿率及び吸湿速度を算出した。上記吸湿率は、試験開始の湿度と平衡状態に達した際の湿度との差を、80質量%水溶液1gに含まれる実施例1の特定塩のモル数で除した値である。上記吸湿速度は、ポリ袋の湿度が試験開始の湿度と平衡状態に達した際の湿度との中間値に達したときの時間で上記吸湿率を除した値である。その結果を表1に示す。
【0048】
実施例1の80質量%水溶液を実施例2の80質量%水溶液に代えて、同様の吸湿試験を実施した。その結果を図1のグラフ及び表1に示す。
比較試験として、実施例1の80質量%水溶液を、塩化リチウム(比較例1)の30質量%水溶液、又は特定塩以外のコリン塩(比較例2)の80質量%水溶液に代えて同様の吸湿試験を実施し、上記吸湿率及び上記吸湿速度を算出した。その結果を表1に示す。なお、特定塩以外のコリン塩は、N-2-ヒドロキシ-N,N,N-トリメチルエタン-1-アンモニウム ビス(トリフルオロメチル)スルホニルアミド(以下、[Ch][TfN]と記載する。)であり、特許文献1に開示されているイオン液体である。
【0049】
【表1】
図1に示すように、時間経過とともに湿度が低下しており、実施例1の特定塩である[Ch][DMPO]及び実施例2の特定塩である[Ch][MeSO]は、吸湿性を有していることが分かる。
【0050】
表1に示すように、塩化リチウムを用いた比較例1と比較して、実施例1及び実施例2は、濃度差を考慮しても顕著に高い吸湿率及び吸湿速度を示した。また、各実施例の中でも、[Ch][DMPO]を用いた実施例1は、より高い吸湿率を示し、[Ch][MeSO]を用いた実施例2は、より高い吸湿速度を示した。
【0051】
[Ch][TfN]を用いた比較例2の吸湿率は、比較例1よりも高いものの、実施例1及び実施例2よりも低い値であった。また、比較例2の吸湿速度は、比較例1よりも低く、実施例1及び実施例2と比較すると、1/100~1/90程度の顕著に低い値であった。この結果は、カチオンが同一の塩であっても、組み合わせるアニオンの種類によって吸湿率及び吸湿速度は変化すること、すなわち、吸湿率及び吸湿速度は、アニオンにより支配されることを示唆している。
【0052】
<金属溶解性試験>
空調機に一般的に使用される金属である以下の4種類の金属材料からなる金属片(縦10mm×横15mm×厚さ2mm)を用意した。
【0053】
Zn:溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板(商品名:SPHC鋼板)
Al:耐食アルミニウムA5052
Cu:タフピッチ銅C1100P
SUS:ステンレス鋼SUS304
実施例1の80質量%水溶液3mlが入ったサンプル管に金属片を入れて80℃で30日間、保持した。その後、脱イオン水で金属片を洗浄し、減圧乾燥を行った。上記処理を行う前及び上記処理を行った後の金属片の質量を電子天秤で測定し、上記処理の前後における金属片の質量変化を求めた。その結果を表2に示す。
【0054】
実施例1の80質量%水溶液を実施例2の80質量%水溶液に代えて、同様の金属溶解性試験を実施した。その結果を表2に示す。
また、比較試験として、実施例1の80質量%水溶液を塩化リチウム(比較例1)の30質量%水溶液に代えて、同様の金属溶解性試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
表2に示すように、塩化リチウムを用いた比較例1と比較して、[Ch][DMPO]を用いた実施例1は、吸湿材の濃度が高いにもかかわらず、各種の金属片の質量変化が小さく、金属腐食性が低いことが分かる。特に、Zn、Al、SUSの3種の金属については、金属の溶解がほぼ零であった。
【0056】
塩化リチウムを用いた比較例1と比較して、[Ch][MeSO]を用いた実施例2は、吸湿材の濃度が高いにもかかわらず、各種の金属片の質量変化が同等以下であり、金属腐食性が低いことが分かる。特に、Zn、Al、Cuの3種の金属については、比較例1と比較して、金属腐食性が顕著に低い結果であった。
【0057】
<臭気試験>
実施例1及び実施例2の80質量%水溶液をそれぞれ密閉容器に入れて、80℃で30日間、保持した。その後、3人のパネラーが自身の嗅覚に基づいて、密閉容器を開封した際の臭気を評価した。その結果、[Ch][DMPO]を用いた実施例1については、3人のパネラー全員が無臭であると評価した。一方、[Ch][MeSO]を用いた実施例2については、3人のパネラー全員がアミン臭を感じると評価した。
【0058】
<粘度試験>
実施例1の75,80,85質量%水溶液をそれぞれ調製し、コーンプレート型粘計(英弘精機株式会社製DV2TCP)を用いて調製した各水溶液の25℃から60℃の範囲における粘度を測定した。その結果を図2(a)のグラフに示す。同様に、実施例2の75,80,85質量%水溶液をそれぞれ調製し、調製した各水溶液の25℃から60℃の範囲における粘度を測定した。その結果を図2(b)のグラフに示す。
【0059】
図2の各グラフに示すように、[Ch][MeSO]を用いた実施例2は、[Ch][DMPO]を用いた実施例1と比較して低粘性を示した。具体的には、いずれの温度においても、実施例2は、実施例1よりも4倍以上、粘性が低い結果であった。
図1
図2