(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ブリスター試験機及びブリスター試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/2045 20190101AFI20231024BHJP
G01N 25/72 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G01N33/2045
G01N25/72 K
(21)【出願番号】P 2019234434
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】592134871
【氏名又は名称】日本坩堝株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 章浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英明
(72)【発明者】
【氏名】赤司 登
(72)【発明者】
【氏名】田畑 亮介
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-001561(JP,A)
【文献】特開2017-078701(JP,A)
【文献】実開昭60-165035(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/2045
G01N 25/00-25/72
G01N 17/00-19/10
G01N 3/00- 3/62
G01N 31/00-31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体を保持する試験体保持具と、
前記試験体を、前記試験体の融点よりも
低く設定された設定温度に加熱するヒータと、
前記試験体の温度を検知する温度センサと、
前記試験体に対して気体を送る冷却装置と、
前記冷却装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記温度センサから得られた検知結果が、前記ヒータによる加熱に応じて上昇した結果、予め設定された閾値以上になると、前記試験体に対して前記気体を送るように前記冷却装置を制御する、
ブリスター試験機。
【請求項2】
前記閾値は、前記設定温度よりも低く設定されている、
請求項1記載のブリスター試験機。
【請求項3】
前記ヒータは、前記試験体に対して赤外線を照射する赤外線ヒータである、
請求項1又は請求項2記載のブリスター試験機。
【請求項4】
前記ヒータの出力を制御するヒータ制御部を更に備え、
前記ヒータ制御部は、前記温度センサから得られた検知結果が、前記ヒータによる加熱に応じて上昇した結果、前記閾値以上になると、前記ヒータの出力を下げるように前記ヒータを制御する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のブリスター試験機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記試験体に対して前記気体を送る状態を、所定時間維持するように前記冷却装置を制御し、
前記ヒータ制御部は、前記所定時間に対応する間、前記温度センサの検知結果に基づいて、前記ヒータの出力を制御する、
請求項4に記載のブリスター試験機。
【請求項6】
前記気体が空気である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のブリスター試験機。
【請求項7】
前記冷却装置は、前記試験体に対して、前記気体を吹き当てるように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のブリスター試験機。
【請求項8】
前記試験体保持具を収容する炉を更に備え、
前記冷却装置は、
前記気体の供給源と、
前記供給源と前記炉内とをつなぐ流路と、
前記流路に設けられ、前記制御装置により駆動制御される制御弁と、
を有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のブリスター試験機。
【請求項9】
試験体の融点以下に設定された設定温度に前記試験体を加熱して、前記試験体に発現するブリスターを評価するブリスター試験方法であって、
前記試験体を加熱した結果、前記試験体の温度が上昇したことで、前記試験体が所定の温度値以上になると、前記試験体に対して、冷却用の気体を送る、ブリスター試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリスター試験機及びブリスター試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、ダイカスト等の鋳物には、その鋳造過程で空気や離型剤の分解ガス等を巻き込んで、鋳巣が形成されることが知られている。鋳巣は、鋳物の内部に発生する空洞のことであり、鋳巣が形成された鋳物は、欠陥品となる。
【0003】
鋳巣は、鋳物を加熱することによって、検査することができる。鋳巣を有する鋳物を加熱すると、鋳物の表面に泡ぶく(ブリスター)が現出するため、このブリスターの有無で鋳巣の存在の有無が分かる。これを実行する装置として、ブリスター試験機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種のブリスター試験機では、加熱用ポットに溶融塩を収容し、ここにダイカスト等の鋳物を浸漬して、鋳物を加熱する。鋳物をブリスターが発生し得る温度にまで加熱し、ブリスターの発生状況を確認する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載のブリスター試験機では、鋳物を溶融塩に浸漬することで、鋳物の温度を上昇させていたが、溶融塩の取り扱いや管理には手間が掛かるため、ヒータを用いて鋳物を加熱することが考えられている。
【0007】
ヒータを用いて、鋳物を短時間で、ブリスターが発生し得る温度まで加熱するには、ヒータを高出力で駆動する必要がある。しかし、高出力でヒータを駆動すると、鋳物の温度上昇が急こう配になり、目標とする温度に対してオーバーシュートしやすく、ブリスターの発生に影響を与える可能性がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、測定時間を短縮するために試験体を設定温度まで素早く加熱すると共に、それに伴って生じるオーバーシュートを抑えることができるブリスター試験機及びブリスター試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る一態様のブリスター試験機は、試験体を保持する試験体保持具と、試験体を、試験体の融点よりも小さく設定された設定温度に加熱するヒータと、試験体の温度を検知する温度センサと、試験体に対して気体を送る冷却装置と、冷却装置を制御する制御装置と、を備える。制御装置は、温度センサから得られた検知結果が、ヒータによる加熱に応じて上昇した結果、予め設定された閾値以上になると、試験体に対して気体を送るように冷却装置を制御する。
【0010】
本発明に係る一態様のブリスター試験方法は、試験体の融点以下に設定された設定温度に前記試験体を加熱して、前記試験体に発現するブリスターを評価するブリスター試験方法である。前記試験体を加熱した結果、前記試験体の温度が上昇したことで、前記試験体が所定の温度値以上になると、前記試験体に対して、冷却用の気体を送る。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る上記態様のブリスター試験機及びブリスター試験方法は、測定時間を短縮するために試験体を設定温度まで素早く加熱すると共に、それに伴って生じるオーバーシュートを抑えることができる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るブリスター試験機の概略断面図である。
【
図2】
図2は、同上のブリスター試験機の制御装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、同上のブリスター試験機の動作を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施例及び比較例の昇温時間とワーク温度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5(A)(B)は、変形例に係るブリスター試験機の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)実施形態
(1.1)全体
以下、本実施形態に係るブリスター試験機1について、詳細に説明する。
【0014】
ブリスター試験機1は、ブリスター試験方法を実施するための装置であり、試験体X1を軟化点以上に加熱する。軟化点以上に加熱された試験体X1には、試験体X1に含まれるガスの量に応じて、泡ぶく等の膨れが発現する。ブリスター試験方法では、この膨れの発生状態を、目視や画像認識技術によって評価することで、試験体X1を検査することができる。
【0015】
ここでいう「試験体X1」は、ブリスター試験方法についての検査対象となる物体を意味する。「試験体X1」としては、例えば、実際の製品の見本(サンプル)であってもよいし、製品を構成する材料の一部であってもよい。試験体X1としては、例えば、アルミニウム合金製、アルミニウムマグネシウム合金製、亜鉛製、銅製、あるいは、これらのうちの少なくとも二つを組み合わせた合金製等が挙げられる。以下では、試験体X1として、ADC12により構成されたアルミダイカスト製品を用いた場合につき説明する。
【0016】
また、「軟化点」とは、試験体X1が加熱によって変形を起こし始めるときの温度(軟化温度)を意味する。ここでいう「軟化点」は、加熱により金属が軟化し、金属内部のガスが膨張することによって金属が膨張し始めるときの温度を意味する。例えば、ADC12により構成されたアルミダイカスト製品の軟化点は、535℃である。なお、本明細書でいう「融点」は、試験体X1が完全な液状に溶融する温度を意味し、融点>軟化点であるとする。
【0017】
ブリスター試験機1は、
図1に示すように、炉2と、試験体保持具3と、複数のヒータ4と、冷却装置5と、温度センサ6(
図2)と、制御装置7と、を備える。
【0018】
(1.2)炉
炉2は、試験体保持具3、ヒータ4及び温度センサ6を内部に収容する箱状の器具である。炉2は、断熱材21,22と、開閉蓋23と、を備える。以下では、断熱材21,22として、炉2の内側の断熱材を内側断熱材21とし、外側の断熱材を外側断熱材22とする。
【0019】
内側断熱材21は、内部に試験体X1を収容する収容空間を形成する断熱材である。内側断熱材21の材質は、特に制限はないが、例えば、セラミックス、金属製、白色磁器製、白金製、石英製、アルミナ製等が挙げられる。セラミックスとしては、例えば、シリカ、マグネシア、カルシア等が挙げられる。内側断熱材21は、底壁211と、周壁212と、天壁213と、を備え、有底箱状に形成される。天壁213には、内外を貫通する開口部214が形成されている。開閉蓋23には試験体保持具3が取り付けられており、開閉蓋23を上方向に移動させることで、開口部214を通して、試験体保持具3を天壁213よりも上方に位置させることができる。一方、開閉蓋23を下方向に移動させることで、開口部214を塞ぐことができると共に、試験体保持具3を所定位置に配置させることができる。したがって、ユーザは、天壁213よりも上方に試験体保持具3を位置させた状態で、試験体保持具3に試験体X1を載せた後、開閉蓋23を下降させることで、試験体X1を内部に収めることができる。
【0020】
外側断熱材22は、内側断熱材21の外面を覆い、具体的には、少なくとも、内側断熱材21の底壁211及び周壁212を覆う。外側断熱材22が内側断熱材21の外面を覆うことで、内側断熱材21の内部の温度を保つことができる上に、仮に内側断熱材21が高温になったとしても、内側断熱材21にユーザが接触するのを防ぐことができる。
【0021】
開閉蓋23は、内側断熱材21の天壁213の開口部214を、開閉可能に閉じる。開閉蓋23は、開口部214を閉じる第一位置と、開口部214を開放する第二位置との間で、上下方向に移動する。開閉蓋23の移動は、例えば、エアシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダ、リニアアクチュエータ、クレーン、巻上げ装置等により行われる。開閉蓋23の材質は、特に制限はないが、例えば、セラミックス、金属製、白色磁器製、白金製、石英製、アルミナ製等が挙げられる。
【0022】
炉2には、冷却装置5から送られた気体を内部に入れる給気孔24と、内部の気体を排気する排気孔25と、が形成されている。給気孔24は、内側断熱材21の底壁211と、底壁211を覆う外側断熱材22と、を貫通している。排気孔25は、内側断熱材21の周壁212と、周壁212を覆う外側断熱材22と、を貫通している。ただし、本発明では、給気孔24及び排気孔25が形成される位置に特に制限はない。
【0023】
給気孔24には、後述の冷却装置5が接続される。冷却装置5は、給気孔24から炉2内に気体を供給し、冷却装置5から供給された気体は、給気孔24における炉2の内側の開口から試験体X1に向かって吹き出す。これにより、高温状態の試験体X1の温度を低下させることができる。これについては、後述の「(2)動作例」で詳述する。
【0024】
(1.3)試験体保持具
試験体保持具3は、炉2内において、試験体X1を保持する。ここでいう「保持する」とは、炉2内において試験体X1の位置を保つことを意味する。治具等によって試験体X1を炉2内に固定することで位置を保つことのほか、例えば、凹状又は凹曲面状の面に試験体X1が収まることで炉2内において試験体X1の位置を保つことや、平面上に試験体X1が載ることで炉2内において試験体X1の位置を保つことも、ここでいう「保持する」の範疇である。本実施形態に係る試験体保持具3は、平面状の載置台31と、載置台31を支える支持部32と、を備える。
【0025】
載置台31は、試験体X1を載せる部分である。載置台31は、本実施形態では、平板状であるが、本発明では、例えば、シンドリカル状、球面状、ドーナツ状、波面状、容器状等であってもよい。載置台31は、厚み方向に貫通する複数の透孔を有している。これによって、載置台31に載る試験体X1に向かう赤外線及び気体を通すことができる。載置台31は、例えば、網体、パンチングメタル、エキスパンドメタル等によって構成されるが、赤外線をできる限り効率よく通す観点から、網体で構成されることが好ましい。
【0026】
載置台31は、底壁211の給気孔24に対向する位置に配置されており、給気孔24から出る気体に当たりやすい位置に配置されている。また、載置台31は、支持部32によって開閉蓋23に支持されており、開閉蓋23が開口部214を閉じた状態では、開口部214の下方に配置される。載置台31の上面(載置面という場合がある)及び下面は、水平面に沿っている。
【0027】
支持部32は、載置台31を支える部分である。支持部32は、開閉蓋23から載置台31を吊り下げることで載置台31を支える。ただし、支持部32としては、開閉蓋23から載置台31を吊り下げる構造に限らず、天壁213から載置台31を吊り下げてもよいし、底壁211から柱材を立ち上げ、柱材の上端に載置台31を設けてもよいし、対向する周壁212間に横架材を掛け渡して、横架材上に載置台31を設けてもよいし、周壁212から片持ち梁状に横材を突出させ、横材に載置台31を設けてもよい。
【0028】
(1.4)ヒータ
ヒータ4は、試験体X1を設定温度に加熱する。ヒータ4は、温度センサ6の検知結果に基づき、制御装置7によってフィードバック制御される。フィードバック制御としては、特に制限はないが、PID(Proportional-Integral-Differential)制御、PD制御(微分制御)、P制御(比例制御)等が挙げられるが、ヒータ4の出力を細かく制御することができるという観点から、PID制御が好ましい。
【0029】
ここでいう「設定温度」とは、試験体X1を加熱する際の目標となる試験体X1の温度を意味する。設定温度は、融点よりも小さく設定される。本実施形態では、設定温度は、融点よりも小さく、かつ軟化点以上に設定される。本実施形態では、設定温度は、例えば、535℃である。
【0030】
各ヒータ4は、試験体X1に対して赤外線を照射する棒状の赤外線ヒータである。複数のヒータ4(ここでは八つ)は、載置台31を上方からみて(以下、平面視)囲んでいる。複数の赤外線ヒータは、内側断熱材21の周壁212内に沿って配置されている。
【0031】
ただし、本発明では、複数の赤外線ヒータは、八つに限らず、七つ以下であってもよいし、九つ以上であってもよい。また、赤外線ヒータは、載置台31を平面視で囲むように配置されていなくてもよく、載置台31に対して上下方向のいずれか一方又は両方に配置されてもよい。この場合、一つの赤外線ヒータによって、試験体X1を加熱してもよい。各赤外線ヒータには、電源が接続されており、電力が供給される。
【0032】
赤外線ヒータとしては、例えば、シーズヒータ、セラミックヒータ、石英ヒータ、カーボンランプヒータ、ハロゲンランプヒータ(タングステンヒータ)等が挙げられるが、熱効率の観点から、カーボンランプヒータが好ましい。
【0033】
ハロゲンランプヒータは、ハロゲンガスを封入した石英管内に、発熱体として、線状のタングステンが通されたヒータである。ハロゲンランプヒータは、赤外線を、石英管の全周にわたって均等に放射する。このため、ハロゲンランプヒータによれば、試験体X1に対し、ハロゲンランプヒータから直接的に照射された赤外線と、ハロゲンランプヒータから放射された赤外線によって熱を持った炉2内から間接的に照射された赤外線と、の両方から赤外線を照射することができる。
【0034】
カーボンランプヒータは、発熱体に導電性素材である炭素繊維が用いられたヒータである。カーボンランプヒータは、ハロゲンランプヒータに比べ、より多くの放射エネルギーが中赤外線領域に属している。カーボンランプヒータの発熱体は略平面状に形成されており、赤外線を、発熱体に直交する方向を中心に放射する。カーボンランプヒータの発熱体は、発熱体に直交する方向に対して、30°を超える範囲には、赤外線をほとんど放射しない。このため、カーボンランプヒータは、360°にわたって放射するハロゲンランプヒータに比べて指向性が高く、試験体X1に対して直接的に赤外線を照射することができる。
【0035】
赤外線ヒータは、試験体X1に対して赤外線が照射されるような向き及び位置に配置される。発熱体から放射された赤外線のうち、試験体X1に直接的に照射されない赤外線は、炉2の内面に放射され、炉2を加熱する。そして、加熱された炉2は、輻射熱によって、試験体X1を加熱する。
【0036】
各赤外線ヒータは、発熱温度(発熱体の温度)が、1050℃以上1650℃以下であることが好ましく、より好ましくは1250℃以上1650℃以下であり、更に好ましくは1650℃である。ヒータ4として、赤外線ヒータを用いることで、試験体X1が常温から設定温度まで昇温するのに掛かる時間を短縮することができる。
【0037】
ただし、本発明では、各ヒータ4の発熱温度は、1050℃以上1650℃以下の範囲外であってもよい。また、赤外線ヒータは、中赤外線を中心に(強度比で最も割合が多く)放射することが好ましいが、近赤外線あるいは遠赤外線(波長25μm以上1ミリメートル未満)を中心に放射してもよい。
【0038】
(1.5)冷却装置
冷却装置5は、試験体X1に対して気体を送る装置である。冷却装置5が試験体X1に対して気体を送ると、試験体X1の周囲に気流が発生し、試験体X1の周囲の気体が移動する。すると、試験体X1と、試験体X1に接する気体とが熱交換することで、試験体X1の温度が下がる。したがって、ここでいう「気体を送る」ことには、試験体X1の周囲に気体が流れるように気体を送る場合や、試験体X1に対して気体を吹き当てる場合を含む。
【0039】
本実施形態では、底壁211の給気孔24から気体が送られるが、試験体X1には、載置台31の透孔を通して、気体が吹き当てられる。試験体X1に気体が吹き当てられる際、試験体X1の周囲の気体も同時に移動する。このため、試験体X1の表面温度を均一に近付けることができ、試験体X1の表面の温度ムラを抑えることができる。
【0040】
冷却装置5は、
図1に示すように、気体の供給源51と、流路52と、制御弁53と、を備える。
【0041】
供給源51は、気体を供給する基になる部分である。供給源51は、本実施形態では、コンプレッサであるが、例えば、ブロア、陽圧の気体が収納されたボンベ等であってもよい。供給源51は、気体として、圧縮エア(空気)を供給する。ただし、供給源51から供給される気体は、空気に限らず、例えば、水素ガス、六フッ化硫黄ガス等の他の不活性ガスであってもよい。
【0042】
流路52は、供給源51と炉2内とをつなぐ経路である。供給源51から供給された気体は、流路52を通って、炉2内に供給される。
【0043】
制御弁53は、流路52に設けられており、流路52を通る気体の流量を制御する。制御弁53は、例えば、電磁弁、電動弁、エア駆動弁等が挙げられるが、本実施形態では、電磁弁が用いられる。制御弁53は、弁体を、流路52において気体の通過を許容する位置(これを「ON」という)と、流路52において気体を通過させない位置(これを「OFF」という)とに切り替える。制御弁53は、制御装置7によって駆動制御される。
【0044】
(1.6)温度センサ
温度センサ6は、試験体X1の温度を検知する。温度センサ6は、試験体X1における、異なる複数箇所の温度を検知することができる。温度センサ6によって得られる検知結果は、複数箇所の温度のうちの特定の箇所の温度を採用してもよいし、複数箇所の温度のうち、最も高い温度又は低い温度を採用してもよいし、複数箇所の温度を平均した温度を採用してもよい。
【0045】
温度センサ6は、本実施形態では、接触式のセンサである。ただし、温度センサ6としては、接触式センサに限らず、非接触センサであってもよい。温度センサ6は、炉2内に配置されており、温度を検知することで生成した電気信号を、制御装置7に出力する。
【0046】
(1.7)制御装置
制御装置7は、例えば、プロセッサ及びメモリを有するコンピュータで構成されている。プロセッサは、メモリに記憶されているプログラムを実行することによって、各種処理を実行する。制御装置7は、
図2に示すように、判断部71と、冷却装置5を制御する冷却装置制御部72と、ヒータ4の出力を制御するヒータ制御部73と、を備える。
【0047】
(1.7.1)判断部
判断部71は、温度センサ6からの電気信号が入力されると、試験体X1の温度が閾値以上であるか否かを判断する。閾値は、冷却装置制御部72による制御弁53のONへの切り替え、及び/又はヒータ制御部73によるヒータ4出力の低下の開始を実行するための数値である。すなわち、試験体X1の温度が閾値以上となると、冷却装置5によって試験体X1に対して空気が送られると共に、ヒータ4の出力が抑えられ、試験体X1の温度上昇が抑えられる。
【0048】
判断部71によって得られた情報(以下、判断情報)は、冷却装置制御部72及びヒータ制御部73に出力される。
【0049】
(1.7.2)冷却装置制御部
冷却装置制御部72は、冷却装置5を制御する。具体的に、冷却装置制御部72は、制御弁53のONとOFFとを切り替え、これによって、炉2内に気体を送る状態と、気体を送るのを停止する状態とに切り替える。冷却装置制御部72は、判断部71から入力された判断情報に基づいて、制御弁53の駆動制御を実行する。
【0050】
判断情報として、試験体X1の温度が閾値以上であることの情報が入力されると、冷却装置制御部72は、制御弁53をONに切り替える。制御弁53がONに切り替えられると、炉2内の試験体X1に対して気体が送られ、この結果、試験体X1の温度が低下する。
【0051】
ここで、設定温度に達するまでのヒータ4による加熱の温度勾配が急であるほど、設定温度に達したときにオーバーシュートが生じやすいが、本実施形態では、設定温度よりも所定温度(例えば、20℃以上30°以下)低く閾値が設定されている。このため、試験体X1の温度が、設定温度よりも所定温度低いときに、冷却装置5から気体が送られるから、設定温度に至る直前では温度勾配が緩くなって、試験体X1の温度にオーバーシュートが起こりにくい。したがって、本実施形態に係るブリスター試験機1によれば、例えば、常温から設定温度までの間、ヒータ4を最大出力で出力して、試験体X1を短時間で加熱しつつも、設定温度に達した際には、オーバーシュートを防ぐことができる。
【0052】
閾値は、例えば、試験体X1の大きさ、材質、冷却装置5によって供給される気体の流量、気体の温度、ヒータ4の出力値等を勘案し、オーバーシュートの抑制が適切に働く値が適宜設定される。本実施形態に係るブリスター試験機1では、閾値は、300gの試験体X1に対し、流量100L/minの常温の空気を炉2内に供給する条件で、509℃に設定されている。
【0053】
閾値は、試験体X1の温度が設定温度に達した際のオーバーシュートを所定の範囲内で抑えることができれば、設定温度よりも高い値に設定されても構わない。例えば、試験体X1に吹き当てる気体の流量を多くしたり、気体の温度を常温よりも低くしたりすれば、閾値は、設定温度以上の温度に設定されても構わない。ここでいう「所定の範囲」とは、オーバーシュートによってブリスター試験に影響が生じにくい範囲を意味し、例えば、設定温度+10℃以下の範囲が挙げられる。なお、閾値は、試験体X1に対して、試験を繰り返し試行することで、適切な値を得ることができる。
【0054】
(1.7.3)ヒータ制御部
ヒータ制御部73は、ヒータ4の出力を制御する。ヒータ制御部73は、上述の通り、ヒータ4をフィードバック制御することで、試験体X1の温度を設定温度に維持させるが、本実施形態では、初期温度から設定温度に至る過程で、判断部71が、試験体X1の温度が閾値以上であると判断すると、ヒータ4の出力を下げる。
【0055】
このため、冷却装置5による制御弁53をONに切り替えるのに加えて、ヒータ4についても出力を下げる制御を実行することから、初期温度から設定温度まで試験体X1を加熱する過程では、ヒータ4の出力をできる限り強くして、短時間で加熱しつつも、オーバーシュートが発生するのを、効果的に抑制することができる。
【0056】
試験体X1を、初期温度から設定温度まで加熱した後は、ヒータ制御部73は、冷却装置5との協働で、設定温度を目標温度とするためのフィードバック制御(ここでは、PID制御)を実行する。
【0057】
本実施形態に係る冷却装置制御部72では、試験体X1に対して送る気体を、間けつ的ではなく、所定時間(ここでは、試験体X1が閾値以上の温度になったときから試験が終了するまでの間)連続的に送るように、冷却装置5を制御する。そして、ヒータ制御部73は、これに応じて、所定時間に対応する間は、温度センサ6の検知結果に基づき、ヒータ4についてフィードバック制御を実行する。
【0058】
一般に、ヒータ4の出力をOFFにする時間が所定時間(例えば、10秒以上)続くと、フィードバック制御(PID制御)が不安定になりやすい。しかし、本実施形態に係るブリスター試験機1によれば、冷却装置5が駆動する間、ヒータ4の出力を低い出力で維持させるため、フィードバック制御が不安定になるのを防ぐことができる。
【0059】
(2)動作例
次に、本実施形態に係るブリスター試験機1の動作例を、
図3のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
図3に示すように、ブリスター試験機1の運転を開始すると、制御装置7は、ヒータ4を起動し、赤外線を放射させる。これによって、試験体X1を加熱する(ステップ1,2)。
【0061】
試験体X1が加熱されると、温度センサ6によって試験体X1の温度を検知する。判断部71が、温度センサ6による検知結果から、試験体X1の温度値が閾値以上であるか否かを判断し(ステップ3)、試験体X1の温度値が閾値未満であると判断すると、ヒータ制御部73は、ヒータ4による赤外線の放射を継続する(ステップ3→ステップ2)。
【0062】
一方、判断部71が、試験体X1の温度値が閾値以上であると判断すると、冷却装置制御部72は、制御弁53をONに切り替え、試験体X1に対して気体を送る(ステップ3→ステップ4)。さらに、ヒータ制御部73は、ヒータ4の出力を制御し、ヒータ4の出力を、閾値に至る前よりも下げる(ステップ5)。その後、ヒータ4についてフィードバック制御を実行し、試験体X1の温度を設定温度(ここでは535℃)に維持させる(ステップ6)。例えば、試験体X1の温度が設定温度に達した後、冷却装置5及びヒータ4の駆動を3分程度、継続させる。
【0063】
これによって、試験体X1にブリスターが発生し得る。このように、閾値に達するまでは、ヒータ4を最大出力とするため、例えば、1.8分程度の加熱と、その後の1分間の温度維持との、合計3分程度の加熱で、試験体X1のブリスターが発生し得る。このため、本実施形態に係るブリスター試験機によれば、比較的短時間での試験が実現できる。
【0064】
(3)試験
上記実施形態と同様のブリスター試験機1を用い、ブリスター試験方法を実施した。このときの温度変化のグラフを
図4に示す。
【0065】
実施例の設定温度を535℃とし、閾値を509℃とした。冷却装置5によって吹き込む気体を、流量100L/minの常温空気とした。ヒータ4として赤外線ヒータを用い、試験体X1の温度が閾値以上になると、ヒータ4の出力を下げた。
【0066】
実施例と同じ条件で、冷却装置5によって気体を吹き込まないようにした例を、比較例とした。ここでは、試験体X1の温度が509℃以上になった場合、実施例と同様に、ヒータ4の出力を下げた。
【0067】
図4に示すように、比較例の最高温度は、561.9℃であり、設定温度535℃に対して、25℃以上のオーバーシュートが見受けられた。一方、実施例の最高温度は、538.6℃に抑えられ、設定温度535℃に対して、3.6℃程度のオーバーシュートに留まった。
【0068】
この試験結果から、冷却装置5によって、適切にオーバーシュートが抑えられることがわかった。
【0069】
(4)変形例
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0070】
上記実施形態では、制御装置7は、冷却装置制御部72と、ヒータ制御部73と、を備え、互いに連動した制御を行っていたが、本発明では、冷却装置制御部72と、ヒータ制御部73とは、それぞれ独立した制御を行ってもよい。例えば、
図5(A)(B)に、ヒータ4と冷却装置5とを独立して制御するフローチャートを示す。
【0071】
図5(A)に示すように、ブリスター試験機1の運転を開始すると、ヒータ制御部73は、ヒータ4を起動し、赤外線を放射させる。これによって、試験体X1を加熱する(ステップ1A,2A)。試験体X1が加熱されると、温度センサ6によって試験体X1の温度を検知する。判断部71が、温度センサ6による検知結果から、試験体X1の温度値が閾値以上であるか否かを判断し(ステップ3A)、試験体X1の温度値が閾値以上であると判断すると、冷却装置制御部72は、制御弁53をONに切り替え、試験体X1に対して気体を送り(ステップ4A)、一定時間経過後、冷却装置5を停止させる。
【0072】
一方、ヒータ制御部73は、ヒータ4を次のように制御する。ヒータ制御部73は、ヒータ4を起動し(ステップ1B)、赤外線を放射させる(ステップ2B)。この後、ヒータ制御部73は、試験体X1が閾値以上か否かを問わずに、ヒータ4について、フィードバック制御を実行し(ステップ3B)、一定時間経過後、ヒータ4を停止させる。
【0073】
したがって、この変形例によれば、上記実施形態1とは異なり、結果的に、ヒータの出力低下の制御が、制御弁のON切替えよりも早く実行されることもある。
【0074】
上記実施形態では、制御装置7は、冷却装置5を、間けつ運転をすることなく、試験体X1に対して、連続的に気体を送り続けるように制御したが、本発明では、試験体X1に対し、間けつ的に気体を送るように、冷却装置5を制御してもよい。例えば、設定温度+5℃を閾値とし、試験体X1の温度が設定温度+5℃になると、制御弁53をONに切り替え、その後、試験体X1の温度が下がり、試験体X1の温度が設定温度になったときに、制御弁53をOFFに切り替える制御を繰り返し実行してもよい。
【0075】
上記実施形態では、各ヒータ4は棒状に形成されているが、本発明では面状ヒータであってもよい。また、ヒータ4は、赤外線ヒータに制限されず、他のヒータであってもよい。
【0076】
上記実施形態では、複数のヒータ4は、炉2の内側面に沿って配置されたが、本発明では、炉2壁に埋め込まれて設置されてもよい。
【0077】
上記実施形態では、一の制御装置7が、冷却装置制御部72と、ヒータ制御部73と、を備えたが、これらは一つの筐体に内蔵されていなくてもよく、別々の筐体に分散して配置されてもよい。
【0078】
(5)態様
以上説明したように、第1の態様に係るブリスター試験機1は、試験体X1を保持する試験体保持具3と、試験体X1を、試験体X1の融点よりも小さく設定された設定温度に加熱するヒータ4と、試験体X1の温度を検知する温度センサ6と、試験体X1に対して気体を送る冷却装置5と、冷却装置5を制御する制御装置7と、を備える。制御装置7は、温度センサ6から得られた検知結果が、ヒータ4による加熱に応じて上昇した結果、予め設定された閾値以上になると、試験体X1に対して気体を送るように冷却装置5を制御する。
【0079】
この態様によれば、測定時間を短縮するためにヒータ4によって、試験体X1を設定温度まで素早く加熱することができると共に、それに伴って生じるオーバーシュートを抑えることができる。
【0080】
第2の態様に係るブリスター試験機1では、第1の態様において、閾値は、設定温度よりも低く設定されている。
【0081】
この態様によれば、より効果的に、試験体X1を設定温度まで加熱する際に生じるオーバーシュートを抑えることができる。
【0082】
第3の態様に係るブリスター試験機1では、第1又は第2の態様において、ヒータ4は、試験体X1に対して赤外線を照射する赤外線ヒータである。
【0083】
この態様によれば、初期温度から設定温度まで加熱する際の加熱時間を短くすることができ、その際に生じやすいオーバーシュートを抑えることができる。
【0084】
第4の態様に係るブリスター試験機1では、第1~3のいずれか1つの態様において、ヒータ4の出力を制御するヒータ制御部73を更に備える。ヒータ制御部73は、温度センサ6から得られた検知結果が、ヒータ4による加熱に応じて上昇した結果、閾値以上になると、ヒータ4の出力を下げるようにヒータ4を制御する。
【0085】
この態様によれば、より効果的に、試験体X1を設定温度まで加熱する際に生じるオーバーシュートを抑えることができる。
【0086】
第5の態様に係るブリスター試験機1では、第4の態様において、制御装置7は、試験体X1に対して気体を送る状態を、所定時間維持するように冷却装置5を制御する。ヒータ制御部73は、所定時間に対応する間、温度センサ6の検知結果に基づいて、ヒータ4の出力を制御する。
【0087】
この態様によれば、ヒータ4の制御について、安定したフィードバック制御を実現することができる。
【0088】
第6の態様に係るブリスター試験機1では、第1~5のいずれか1つの態様において、気体が空気である。
【0089】
この態様によれば、気体を別途用意することなく、ブリスター試験機1が設置された環境から気体を得ることができる。
【0090】
第7の態様に係るブリスター試験機1では、第1~6のいずれか1つの態様において、冷却装置5は、試験体X1に対して、気体を吹き当てるように構成されている。
【0091】
この態様によれば、効果的に試験体X1の温度を下げることができ、より効果的に、試験体X1を設定温度まで加熱する際に生じるオーバーシュートを抑えることができる。
【0092】
第8の態様に係る試験機では、試験体保持具3を収容する炉2を更に備える。冷却装置5は、気体の供給源51と、供給源51と炉2内とをつなぐ流路52と、流路52に設けられ、制御装置7により駆動制御される制御弁53と、を有する。
【0093】
この態様によれば、簡略化した構成の冷却装置5を設置することができる。
【0094】
第9の態様に係るブリスター試験方法は、試験体X1の融点以下に設定された設定温度に試験体X1を加熱して、試験体X1に発現するブリスターを評価するブリスター試験方法である。試験体X1を加熱した結果、試験体X1の温度が上昇したことで、試験体X1が所定の温度値以上になると、試験体X1に対して、冷却用の気体を送る。
【0095】
この態様によれば、試験体X1を設定温度まで加熱する際に生じるオーバーシュートを抑えることができる。
【0096】
第2~第8の態様に係る構成については、ブリスター試験機1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 ブリスター試験機
2 炉
3 試験体保持具
4 ヒータ
5 冷却装置
51 供給源
52 流路
53 制御弁
6 温度センサ
7 制御装置
X1 試験体