(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231024BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20231024BHJP
【FI】
C02F1/58 H
C02F1/70 Z
(21)【出願番号】P 2020009077
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 宏典
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】島村 祐司
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-197677(JP,A)
【文献】特開2018-149520(JP,A)
【文献】特開2010-227898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
C02F 1/70- 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレンを含む被処理水に酸化マグネシウムを添加し、前記セレン
が吸着された不溶化物を生成する反応工程と、
前記反応工程で得られた反応液に還元剤を添加し、前記セレンを還元する還元工程と、
前記還元工程で得られた還元液に含まれる汚泥を固液分離する固液分離工程と、
を含
み、
前記セレンは、セレン酸を含み、
前記還元工程における前記還元剤の添加量は、前記反応液の酸化還元電位が300~400mVの範囲になる量であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理方法であって、
前記反応工程における被処理水のpHが10.3以上から11未満の範囲であることを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水処理方法であって、
前記反応工程における温度が30℃以上であることを特徴とする水処理方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理方法であって、
前記還元剤は、亜硫酸ナトリウムを含むことを特徴とする記載の水処理方法。
【請求項5】
セレンを含む被処理水に酸化マグネシウムを添加し、前記セレン
が吸着された不溶化物を生成する反応手段と、
前記反応手段で得られた反応液に還元剤を添加し、前記セレンを還元する還元手段と、
前記還元手段で得られた還元液に含まれる汚泥を固液分離する固液分離手段と、
を備え
、
前記セレンは、セレン酸を含み、
前記還元手段は、前記還元剤の添加量を、前記反応液の酸化還元電位が300~400mVの範囲になる量に調整することを特徴とする水処理装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の水処理装置であって、
前記反応手段における被処理水のpHが10.3以上から11未満の範囲であることを特徴とする水処理装置。
【請求項7】
請求項
5または
6に記載の水処理装置であって、
前記反応手段における温度が30℃以上であることを特徴とする水処理装置。
【請求項8】
請求項
5~
7のいずれか1項に記載の水処理装置であって、
前記還元剤は、亜硫酸ナトリウムを含むことを特徴とする記載の水処理装置。
【請求項9】
請求項
5~
8のいずれか1項に記載の水処理装置であって、
前記反応手段、前記還元手段および前記固液分離手段は、1つの回分式反応装置により構成されることを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウムを用いて、セレンを含有する水を処理する水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、石炭火力発電所の脱硫排水、ごみ焼却場の洗煙排水、ガラス着色剤製造工場の排水、および赤色顔料製造工場の排水等に含有されている。これらのような各種産業で排出されるセレン含有水は、水処理設備で処理してから海洋等に放流される。
【0003】
水中のセレンは、単体セレン、一酸化セレン(SeO)、二酸化セレン(SeO2)、三酸化セレン(SeO3)、亜セレン酸(SeO3
2-)、セレン酸(SeO4
2-)の形態で存在している。特に、酸化数が6価のセレン酸は除去がし難いため、他の形態のセレン化合物に変換してから処理する方法が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、セレンを含む溶液に必要に応じて酸を添加して、pHを酸性に調整した状態で、第一鉄化合物を添加し、セレン酸を亜セレン酸に還元し、pHをアルカリ性に調整して、第一鉄化合物と亜セレン酸を共沈させる方法が提案されている。しかし、この方法は、酸およびアルカリが大量に必要であったり、多量の鉄化合物が必要であったり、沈降性が悪い水酸化鉄が発生して、汚泥の固液分離が難しいという問題がある。
【0005】
また、特許文献2では、遊離酸化マグネシウムが8重量%以上である半焼成ドロマイトを処理剤として水に添加し、セレンを除去する方法が提案されている。しかし、この方法は、除去し難いセレン酸に対する効果が不明であることに加えて、セレンを低濃度まで除去するために必要な処理剤の添加量が多く、反応時間が長いという問題がある。
【0006】
特許文献3では、塩基性炭酸マグネシウムを500~700℃の範囲の温度で焼成したマグネシウム剤、または水酸化マグネシウムを450~650℃の範囲の温度で焼成したマグネシウム剤を、除去対象物質を含む被処理水に添加する水処理方法が提案されている。しかし、この方法は、被処理水がセレンを含む場合、セレンの除去が十分に行われず、良好に処理を行うことができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-227898号公報
【文献】特開2011-240325号公報
【文献】国際特許出願公開第2018/168558号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、セレンを含む被処理水を良好に処理することが可能な水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セレンを含む被処理水に酸化マグネシウムを添加し、前記セレンが吸着された不溶化物を生成する反応工程と、前記反応工程で得られた反応液に還元剤を添加し、前記セレンを還元する還元工程と、前記還元工程で得られた還元液に含まれる汚泥を固液分離する固液分離工程と、を含み、前記セレンは、セレン酸を含み、前記還元工程における前記還元剤の添加量は、前記反応液の酸化還元電位が300~400mVの範囲になる量である、水処理方法である。
【0010】
前記水処理方法において、前記反応工程における被処理水のpHが10.3以上から11未満の範囲であることが好ましい。
【0011】
前記水処理方法において、前記反応工程における温度が30℃以上であることが好ましい。
【0012】
前記水処理方法において、前記還元剤は、亜硫酸ナトリウムを含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明は、セレンを含む被処理水に酸化マグネシウムを添加し、前記セレンが吸着された不溶化物を生成する反応手段と、前記反応手段で得られた反応液に還元剤を添加し、前記セレンを還元する還元手段と、前記還元手段で得られた還元液に含まれる汚泥を固液分離する固液分離手段と、を備え、前記セレンは、セレン酸を含み、前記還元手段は、前記還元剤の添加量を、前記反応液の酸化還元電位が300~400mVの範囲になる量に調整する、水処理装置である。
【0016】
前記水処理装置において、前記反応手段における被処理水のpHが10.3以上から11未満の範囲であることが好ましい。
【0017】
前記水処理装置において、前記反応手段における温度が30℃以上であることが好ましい。
【0018】
前記水処理装置において、前記還元剤は、亜硫酸ナトリウムを含むことが好ましい。
【0021】
前記水処理装置において、前記反応手段、前記還元手段および前記固液分離手段は、1つの回分式反応装置により構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セレンを含む被処理水を良好に処理することが可能な水処理方法および水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る連続式の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態に係る回分式の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【
図3】実施例3(左側写真)、比較例2(右側写真)における汚泥沈降性の観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は、本実施形態に係る連続式の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図1に示す水処理装置1は、セレンを含む被処理水に酸化マグネシウムを添加し、セレンの不溶化物を生成する反応手段の一例である反応装置10と、反応手段で得られた反応液に還元剤を添加し、セレンを還元する還元手段の一例である還元装置12と、還元手段で得られた還元液に含まれる汚泥を固液分離する固液分離手段の一例である沈殿槽14とを備える。反応装置10は、反応槽16と、酸化マグネシウム添加ライン30と、pH調整剤添加ライン32とを備える。また、反応槽16には、モータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌手段の一例である撹拌装置38が設置されている。還元装置12は、還元槽18と、還元剤添加ライン34と、pH調整剤添加ライン36とを備える。また、還元槽18には、モータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌手段の一例である撹拌装置40が設置されている。
【0026】
図1に示す水処理装置1において、反応槽16の被処理水入口には、被処理水流入ライン20が接続されている。反応槽16の薬剤入口には、酸化マグネシウム添加ライン30およびpH調整剤添加ライン32がそれぞれ接続されている。反応槽16の反応水出口には、反応水排出ライン22の一端が接続され、還元槽18の反応水入口には、反応水排出ライン22の他端が接続されている。還元槽18の薬剤入口には、還元剤添加ライン34およびpH調整剤添加ライン36がそれぞれ接続されている。還元槽18の還元処理水出口には、還元処理水排出ライン24の一端が接続され、沈殿槽14の還元処理水入口には、還元処理水排出ライン24の他端が接続されている。沈殿槽14の処理水出口には、処理水排出ライン26が接続されている。沈殿槽14の汚泥出口には、汚泥排出ライン28が接続されている。
【0027】
以下に、本実施形態に係る水処理方法、および
図1に示す水処理装置1の動作について説明する。
【0028】
セレンを含む被処理水は、被処理水流入ライン20を通り、反応槽16に供給されると共に、酸化マグネシウムが酸化マグネシウム添加ライン30を通して反応槽16に供給される(酸化マグネシウム添加工程)。さらに、必要に応じてpH調整剤がpH調整剤添加ライン32を通して反応槽16に供給されて、反応槽16内の被処理水のpHが例えば10.3以上から11未満の範囲に調整される(pH調整剤添加工程)。反応槽16内の被処理水および酸化マグネシウムは、撹拌装置38により撹拌され、被処理水中のセレンが酸化マグネシウムによって不溶化され、不溶化物が生成される(反応工程)。
【0029】
反応槽16内の不溶化物を含む反応水は、反応水排出ライン22を通り、還元槽18に供給されると共に、還元剤が還元剤添加ライン34を通して還元槽18に供給される(還元剤添加工程)。さらに、必要に応じてpH調整剤がpH調整剤添加ライン36を通して還元槽18に供給されて、還元槽18内の反応水のpHが例えば10.3以上から11未満の範囲に調整される(pH調整剤添加工程)。還元槽18内の反応水および還元剤は、撹拌装置40により撹拌され、反応水中の6価セレンが4価セレンに還元される(還元工程)。
【0030】
還元槽18内の不溶化物を含む還元処理水は、還元処理水排出ライン24を通り、沈殿槽14に供給される。沈殿槽14内では、処理水と不溶化物を含む汚泥とに固液分離される(固液分離工程)。固液分離された処理水は、処理水排出ライン26を通して系外へ排出される。固液分離された不溶化物を含む汚泥は、汚泥排出ライン28を通して系外へ排出される。
【0031】
本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、固液分離性に優れた酸化マグネシウムを水処理剤としてセレンを含む被処理水に添加し、反応させることによって、短時間でセレン酸を低減でき、効率的にセレンを不溶化させることが可能であることを明らかにした。また、特許文献3の方法では、被処理水がセレンを含む場合、セレンの除去が十分に行われず、良好に処理を行うことができないという問題があったが、これは、酸化マグネシウムによって不溶化された6価のセレン酸が再溶出するためであることを明らかにし、酸化マグネシウムによってセレンを不溶化した後、還元剤を添加して不溶化物中のセレン酸(6価セレン)を亜セレン酸(4価セレン)に還元することによって、被処理水中へのセレン酸の再溶出が抑制されることを見出した。これによって、セレンを良好に処理することができる。また、セレンを良好に処理しながら、固液分離性が高い汚泥を得ることが可能となった。
【0032】
本実施形態で用いられる酸化マグネシウムは、例えば、BET比表面積が85m2/g以上であり、かつ結晶子サイズが110Å以下である。このような表面積および結晶子サイズを有する酸化マグネシウムは、除去対象物質との反応性が高いため、効率的にセレンを不溶化させることが可能であると考えられる。また、被処理水のpHを10.3以上から11未満という特定のpH範囲に保持することによって、セレンの不溶化速度が向上し、短時間でセレン濃度を低減することができるため、反応工程における被処理水のpHが10.3以上から11未満の範囲であることが好ましい。
【0033】
本実施形態で用いられる還元剤は、セレン酸を亜セレン酸に還元可能なものであればよく、特に制限はないが、例えば、亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩、重亜硫酸ナトリウム等の重亜硫酸塩、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等の鉄塩等が挙げられ、亜硫酸ナトリウムであることが好ましい。還元剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。還元剤を添加することにより、不溶化物中のセレン酸が亜セレン酸に還元され、被処理水中への再溶出が抑制されると考えられる。
【0034】
図1に示す水処理装置1は、1槽の反応槽を有するが、反応槽の数は1槽に限定されるものではなく、直列2槽以上でもよい。
【0035】
図1に示す水処理装置1は、1槽の還元槽を有するが、還元槽の数は1槽に限定されるものではなく、直列2槽以上でもよい。
【0036】
図1に示す水処理装置1では、pH調整剤を反応槽16および還元槽18に添加しているが、pH調整剤の添加方法はこれに限定されるものではなく、反応槽16および還元槽18の水流入ラインの途中にpH調整剤添加ラインを接続してライン注入を行ってもよい。
【0037】
図2は、本実施形態に係る回分式の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
図2に示す水処理装置3は、セレンを含む被処理水に酸化マグネシウムを添加し、セレンの不溶化物を生成する反応手段、反応手段で得られた反応液に還元剤を添加し、セレンを還元する還元手段、および還元手段で得られた還元液に含まれる汚泥を固液分離する固液分離手段が1つの反応装置により構成されている回分式反応装置の一例である回分式反応装置42を備える。回分式反応装置42は、反応槽44と、酸化マグネシウム添加ライン52と、還元剤添加ライン54と、pH調整剤添加ライン56とを備える。反応槽44には、モータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌手段の一例である撹拌装置58が設置されている。
【0038】
図2に示す水処理装置3において、反応槽44の被処理水入口には、被処理水流入ライン46が接続されている。反応槽44の薬剤入口には、酸化マグネシウム添加ライン52、還元剤添加ライン54およびpH調整剤添加ライン56がそれぞれ接続されている。反応槽44の汚泥出口には、汚泥排出ライン50が接続されている。また、反応槽44の処理水出口には、処理水排出ライン48が接続されている。
【0039】
以下に、本実施形態に係る水処理方法、および
図2に示す水処理装置3の動作について説明する。
【0040】
セレンを含む被処理水は、被処理水流入ライン46を通り、反応槽44に供給された後、酸化マグネシウムが酸化マグネシウム添加ライン52を通して反応槽44に供給される(酸化マグネシウム添加工程)。さらに、必要に応じてpH調整剤がpH調整剤添加ライン56を通して反応槽44に供給されて、反応槽44内の被処理水のpHが例えば10.3以上から11未満の範囲に調整される(pH調整剤添加工程)。反応槽44内の被処理水および酸化マグネシウムは、撹拌装置58により撹拌され、被処理水中のセレンが酸化マグネシウムによって不溶化され、不溶化物が生成される(反応工程)。
【0041】
その後、還元剤が還元剤添加ライン54を通して反応槽44に供給される。さらに、必要に応じてpH調整剤がpH調整剤添加ライン56を通して反応槽44に供給されて、反応槽44内の反応水のpHが例えば10.3以上から11未満に調整される(pH調整剤添加工程)。反応槽44内の反応水および還元剤は、撹拌装置58により撹拌され、反応水中の6価セレンが4価セレンに還元される(還元工程)。
【0042】
その後、撹拌装置58が停止され、反応槽44内で、処理水と不溶化物を含む汚泥とに固液分離される(固液分離工程)。固液分離され、反応槽44の底部に堆積した不溶化物を含む汚泥は、汚泥排出ライン50を通して系外に排出される。汚泥排出後、反応槽44内の処理水は、処理水排出ライン48を通して系外に排出される。
【0043】
このような、回分式反応装置42を用いた場合でも、酸化マグネシウムを用いることで、効率的にセレンを不溶化させることが可能である。還元剤を添加して不溶化物中のセレン酸(6価セレン)を亜セレン酸(4価セレン)に還元することによって、被処理水中へのセレン酸の再溶出が抑制されると考えられる。また、上述したように、被処理水のpHを10.3以上から11未満という特定のpH範囲に保持することによって、セレンの不溶化速度が向上し、短時間でセレン濃度を低減することができるため、反応工程における被処理水のpHが10.3以上から11未満の範囲であることが好ましい。
【0044】
図2に示す水処理装置3で用いられる酸化マグネシウム、還元剤は、
図1に示す水処理装置1と同様のものが挙げられる。
【0045】
以下、本実施形態で用いられる酸化マグネシウムについて詳述する。
【0046】
本実施形態で用いられる酸化マグネシウムは、炭酸マグネシウム(MgCO3)または水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)のうち少なくとも1つを原料とし、当該原料を焼成することにより得られた焼成物である。炭酸マグネシウムとしては、例えば、塩基性炭酸マグネシウム(mMgCO3・Mg(OH)2・nH2O)(Mg(OH)2に対し、mが3~5、nが3~7)、マグネサイト(炭酸マグネシウムを主成分とする鉱物)およびドロマイト(炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムを主成分とする鉱物)であってもよい。また、水酸化マグネシウムとしては、例えば、ブルーサイトのような水酸化マグネシウムを主成分とする鉱物であってもよい。
【0047】
原料を焼成する際の温度としては、酸化マグネシウムのBET比表面積を85m2/g以上、結晶子サイズを110Å以下とする点で、炭酸マグネシウムが原料の場合、例えば、500~800℃の範囲であることが好ましく、500~650℃の範囲であることがより好ましく、500~600℃の範囲であることが特に好ましい。水酸化マグネシウムが原料の場合には、例えば、400~750℃の範囲であることが好ましく、450~700℃の範囲であることがより好ましく、500~600℃の範囲であることが特に好ましい。この範囲の温度で原料を焼成することで、水酸化マグネシウムが原料の場合には、脱水反応により原料中の水和水や水酸基等が脱離した焼成物を含む酸化マグネシウムが得られ、炭酸マグネシウムが原料の場合は、上記水和水や水酸基等の離脱に加え、脱炭酸反応により炭酸も脱離した焼成物を含む酸化マグネシウムが得られる。
【0048】
焼成温度が500℃未満(炭酸マグネシウムの場合)または400℃未満(水酸化マグネシウムの場合)では、例えば、水和水、水酸基、炭酸等を十分脱離させることができない等の原因で、BET比表面積が85m2/g以上の酸化マグネシウムを得ることができない場合がある。また、焼成温度が800℃(炭酸マグネシウムの場合)または750℃(水酸化マグネシウムの場合)を超える温度では、例えば、物質の結晶化が進行する等で、結晶子サイズが110Å以下の酸化マグネシウムを得ることができない場合がある。
【0049】
焼成時間は、酸化マグネシウムのBET比表面積を85m2/g以上、結晶子サイズを110Å以下とする点で、炭酸マグネシウムが原料の場合、例えば、焼成による重量減少が原料の重量の40%以上となる時間が好ましく、40%以上65%以下となる時間がより好ましい。また、水酸化マグネシウムが原料の場合、例えば、焼成による重量減少が原料の重量の25%以上となる時間が好ましく、25%以上30%未満となる時間がより好ましい。焼成時間が上記範囲外であると、BET比表面積が85m2/g以上、結晶子サイズが110Å以下である酸化マグネシウムを得ることができない場合がある。
【0050】
焼成に用いる炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムは、水和水、水酸基、炭酸等を十分脱離させるために、粉末状(例えば、体積平均粒径で0.5μm~30μm)、顆粒状(例えば、体積平均粒径で0.5mm~30mm)のものを用いることが好ましい。
【0051】
このようにして得られる酸化マグネシウムのBET比表面積は、例えば、85m2/g以上であり、好ましくは90m2/g以上であり、より好ましくは100m2/g以上である。BET比表面積の上限は、特に制限はなく、大きければ大きいほどよい。酸化マグネシウムのBET比表面積は、JIS8830:2013に基づく方法で測定することができる。また、このようにして得られる酸化マグネシウムの結晶子サイズは、例えば、110Å以下であり、好ましくは100Å以下であり、より好ましくは90Å以下である。結晶子サイズの下限は、特に制限はなく、小さければ小さいほどよい。酸化マグネシウムの結晶子サイズは、X線回折スペクトルの測定結果をもとにHalder-Wagner法により求めることができる(具体的な方法は実施例の欄で説明する)。
【0052】
酸化マグネシウムの粒径としては、体積平均粒径が1,000μm以下であることが好ましく、0.5μm~30μmの範囲であることがより好ましい。酸化マグネシウムの体積平均粒径が1,000μmを超えると、例えば、水中においても粒子内部が十分に水と接触できず、セレンの不溶化に使われない剤の割合が多くなる場合がある。セレンの不溶化後の固液分離において、この未使用分は固液分離速度を高める効果はあるが、未使用分が多過ぎると、セレンを十分に不溶化できず、処理水質が悪化する場合がある。体積平均粒径が0.5μm未満であると、使用時に風で飛散しやすいなど取り扱いが難しくなる場合がある。
【0053】
焼成後の酸化マグネシウムの体積平均粒径が1,000μmを超える場合は、焼成後の体積平均粒径がこの範囲になるような粒径の原料を使用するか、焼成後に破砕または篩にかける等の方法により、粒径を調整するのがよい。
【0054】
以下に、本実施形態に係る水処理方法における水処理条件等について説明する。
【0055】
本実施形態で用いられる酸化マグネシウムは、水中に添加されると、一部は溶解してマグネシウムイオンと水酸化物イオンとなり、被処理水のpHが高くなる。このとき、マグネシウムイオンと水酸化物イオンとが水酸化マグネシウムの不溶物を形成するが、セレンはこの不溶物に吸着されて除去されると考えられる。除去対象となるセレンの形態に特に制限はないが、例えば、セレン酸(6価セレン)を含むことが好ましい。
【0056】
また、不溶化した水酸化マグネシウム等に吸着したり、上記水酸化マグネシウムと不溶物を形成する物質は、セレンと共に酸化マグネシウムの除去対象物質となる。セレンと共に除去される物質に特に制限はないが、ホウ素(例えば、ホウ酸イオン)、フッ素(例えば、フッ化物イオン)、シリカ(例えば、溶解性シリカ)および重金属(例えば、鉄、鉛、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、ニッケル等)のうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0057】
被処理水は、セレンを含む水であればよく、特に制限はない。被処理水としては、処理後に公共共用水域等へ放流することを前提とした水、または、利用後に逆浸透膜等の精製手段を用いて溶解性物質を除去して再利用することを前提とした水でもよい。前者の例としては、石炭火力発電の脱硫排水やめっき排水、ガラス製造排水等が挙げられる。後者の場合、各種産業工場での水回収システム内の水が対象となり、逆浸透膜処理工程の前段で本実施形態に係る水処理方法が実施され、逆浸透膜の閉塞の原因となるシリカ等を低減することが主な目的となる。なお、本実施形態に係る水処理方法で用いられる酸化マグネシウムは、水中の懸濁物質を凝集することができるため、被処理水には、セレン、その他の除去対象物質以外の懸濁物質等を含んでもよい。
【0058】
被処理水中のセレンの含有量は、例えば、0.001~0.2mmol/Lの範囲であり、その他の除去対象物質の含有量は、例えば、0.001~50mmol/Lの範囲であり、懸濁物質の含有量は、例えば、50~1,000mg/Lの範囲である。本実施形態に係る水処理方法は、特に、0.1mg/L以上のセレンを含む被処理水に好適に適用することができる。
【0059】
反応工程では、酸化マグネシウムを粉体の状態で被処理水に添加してもよいし、酸化マグネシウムを一度、本実施形態に係る水処理法で処理した処理水等に添加し、その水を被処理水に添加してよいが、操作が簡易である点、酸化マグネシウムの反応性保持の点等から、酸化マグネシウムを粉体の状態で被処理水に添加することが好ましい。
【0060】
反応工程における酸化マグネシウムの添加量は、被処理水中のセレンの他の除去対象物質の種類、濃度、および要求される処理水質(対象物質除去率)、共存物質等により異なるが、例えば1g/L以上、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上を添加するのがよい。
【0061】
反応工程では酸化マグネシウム添加後の被処理水のpHは、例えば10.3以上から11未満、より好ましくは10.4以上から10.8以下であるとよい。
【0062】
反応工程で添加するpH調整剤としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、苛性ソーダ、苛性カリおよびこれらを含む薬品等が挙げられる。pH調製剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。酸化マグネシウム添加後の被処理水のpHが好ましくは10.3以上から11未満の範囲であれば、必ずしもpH調整剤を添加しなくてもよい。
【0063】
反応工程における反応温度は、例えば、被処理水が0℃以上で凍結しなければよいが、好ましくは15℃以上であり、より好ましくは24℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上であり、特に好ましくは35℃以上である。反応温度の上限は、例えば、40℃である。
【0064】
反応工程における反応時間は、セレン、その他の除去対象物質の不溶化が十分に行わればよく、特に制限はないが、例えば、1分~300分の範囲、好ましくは10~60分の範囲である。
【0065】
還元工程における還元剤の添加量は、セレン酸の還元が十分に行われる量であればよく、特に制限はない。還元工程における還元剤の添加量は、反応液の酸化還元電位が300~400mVの範囲になる量であることが好ましく、320~380mVの範囲になる量であることがより好ましい。還元工程において、還元剤の添加量が反応液の酸化還元電位が300mVを下回る量であると、処理が不十分となる場合がある。
【0066】
還元工程では還元剤添加後の被処理水のpHは、例えば10.3以上から11未満、より好ましくは10.4以上から10.8以下であるとよい。
【0067】
還元工程で添加するpH調整剤としては、反応工程で添加するpH調整剤と同様のものが挙げられる。還元剤添加後の反応水のpHが好ましくは10.3以上から11未満の範囲であれば、必ずしもpH調整剤を添加しなくてもよい。
【0068】
還元工程における反応温度は、例えば、被処理水が0℃以上で凍結しなければよいが、好ましくは15℃以上であり、より好ましくは20~40℃の範囲である。
【0069】
還元工程における還元時間は、セレン酸の還元が十分に行わればよく、特に制限はないが、例えば、1分~300分の範囲、好ましくは10~60分の範囲である。
【0070】
図1および
図2に示すような水処理装置において、固液分離工程で分離された不溶化物を含む汚泥は、反応槽に返送して水処理剤として再利用してもよい。汚泥返送量は、処理水質の向上の点で、例えば、被処理水量体積の10~30%の範囲であることが好ましく、被処理水量体積の20~30%の範囲であることがより好ましい。
【0071】
固液分離工程における固液分離方法としては、不溶化物と処理水とを分離できる方法であればよく、特に制限はない。連続式の水処理装置の場合には、沈殿槽を用いた自然沈殿処理以外に、遠心分離器等を用いた強制沈殿処理、精密ろ過膜等による膜ろ過処理等でもよい。回分式の水処理装置の場合には、反応槽内での自然沈降処理が望ましい。
【0072】
なお、
図1に示すような連続式の水処理装置1の場合、不溶化物の固液分離速度を高めるため、還元槽18と沈殿槽14との間に(還元工程と固液分離工程との間に)、凝集剤を被処理水に添加し、不溶化物を凝集して、径が大きく強度の強い粒状物に成長させる凝集槽(凝集工程)を設けてもよい。
図2に示すような回分式の水処理装置3の場合、還元工程後の反応槽44に凝集剤を添加し、不溶化物を凝集して、径が大きく強度の強い粒状物を成長させる凝集工程を設けてもよい。
【0073】
凝集工程で用いられる凝集剤としては、無機凝集剤、有機凝結剤、高分子凝集剤等が挙げられる。無機凝集剤としては、例えば、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系無機凝集剤、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム系無機凝集剤等が挙げられる。有機凝結剤としては、ポリエチレンイミン、ジメチルアミン・エピクロロヒドリン・アンモニア縮合物、ジンメチルアミン・エピクロロヒドリン・エチレンジアミン縮合物、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジシアンジアミン・ホルムアルデヒド縮合物等が挙げられる。高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリルアミドプロパンスルフォン酸ナトリウム、キトサン、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩とアクリルアミドとの共重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル4級塩のホモポリマ、およびポリアミジン等が挙げられる。凝集剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
【0074】
本実施形態に係る水処理方法で得られた処理水は、海洋等の公共用水域等へ放流されてもよいし、再利用されてもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
[酸化マグネシウムの調製]
塩基性炭酸マグネシウム(富士フイルム和光純薬工業社製、重質)50質量部を600℃で30分、電気炉内で焼成した。焼成後、放冷し、得られた酸化マグネシウムのBET比表面積を、JIS8830:2013に基づく方法により島津製作所社製の比表面積測定装置(ASAP2010)で測定した。
【0077】
さらに、得られた酸化マグネシウムの結晶状態を確認するため、X線回析装置(株式会社リガク製、RINT Ultima III)で、X線回析(XRD)スペクトルを測定した。なお、X線回析スペクトルの測定においては、酸化マグネシウムのピーク出現位置(横軸2θ(θ:ブラック角))の確認のため、酸化マグネシウム(富士フイルム和光純薬工業社製、和光一級、重質)のX線回析スペクトルを比較参照として測定した。このスペクトルの2θ=42.9°および62.2°のピークから、けい素(粉末、4N、関東化学社製、高純度)のスペクトルを外部標準として、Halder-Wagner法により結晶子サイズを計算した。なお、Halder-Wagner法は、ピークの積分幅を元に、(β/tanθ)2=(Kλ/L)×[β/(tanθ×sinθ)]+16×e2で表されるグラフをプロットし、傾き(Kλ/L)から結晶子サイズを計算する方法である。ここで、βはピークの積分幅、θはブラッグ角、KはScherrer定数、Lは結晶子サイズ、λはX線の波長、eは格子歪である。
【0078】
得られた酸化マグネシウムのBET比表面積は170m2/gであり、結晶子サイズは70Åであった。実施例1の酸化マグネシウムのXRDスペクトルには、比較参照として測定した既知の酸化マグネシウムのスペクトルと同じく、2θ=42°,62°にピークが現れた。
【0079】
[水処理方法1]
酸化マグネシウムによるセレン酸処理のときの反応pHの検討を実施した。ここでは、被処理水として、純水にセレン酸を溶解したセレン濃度1mg/Lのセレン酸人工排水を用い、以下の手順でセレン酸人工排水の処理を行った。
【0080】
<実験例1>
室温(24℃(以下、同様))にて上記人工排水300mLをガラスビーカーに入れ、上記酸化マグネシウムを10g/L添加して、150rpmの回転速度で20分間撹拌を行った。このときの上記人工排水の水温は24℃であった。撹拌終了後、処理水を孔径0.45μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。セレン濃度は、ICP質量分析計(パーキンエルマー製、ELAN DRC-e)により測定した。撹拌中、塩酸を添加しながら反応pHを10.5に保持した。
【0081】
<実験例2>
苛性ソーダを添加しながら反応pHを10.9に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0082】
<実験例3>
上記人工排水を加温し、水温を30℃、反応pHを10.3に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0083】
<実験例4>
上記人工排水を加温し、水温を30℃、反応pHを10.9に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0084】
<実験例5>
上記人工排水を加温し、水温を35℃にしたこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0085】
<実験例6>
上記人工排水を加温し、水温を35℃、反応pHを10.7に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0086】
<実験例7>
塩酸を添加しながら反応pHを9.0に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0087】
<実験例8>
塩酸を添加しながら反応pHを10.0に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0088】
<実験例9>
苛性ソーダを添加しながら反応pHを11.0に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0089】
<実験例10>
上記人工排水を加温し、水温を30℃、反応pHを9.9に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0090】
<実験例11>
上記人工排水を加温し、水温を30℃、反応pHを11.1に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0091】
<実験例12>
上記人工排水を加温し、水温を35℃、反応pHを10.0に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0092】
<実験例13>
上記人工排水を加温し、水温を35℃、反応pHを11.0に調整したこと以外は実験例1と同様に試験した。
【0093】
表1に各実験例の処理水セレン濃度の分析結果を示す。
【0094】
【0095】
表1に示すように、反応pHを10.3~10.9に調整した実験例1~6の処理水セレン濃度は0.1未満~0.2mg/Lであった。一方、反応pHを9.0、9.9、10.0または11.0に調整した実験例7~13の処理水セレン濃度は0.3~1.0mg/Lであった。以上の結果から、セレン酸の除去性能は、反応pH10.3以上から11未満の範囲が良好であると言える。
【0096】
酸化マグネシウムによるセレンの除去機構について考察する。酸化マグネシウムは水と反応して水酸化マグネシウムを生成するが、セレン処理後の沈殿物をXRDで分析したところ、X線回折パターンは概ね水酸化マグネシウムと一致したが、水酸化マグネシウムの(0,0,1)面のピークは低角側にシフトしていた。水酸化マグネシウムの結晶構造において(0,0,1)面は層状構造をなしている層間の面であり、セレン処理に際してこの層間が広がると考えられる。このことから、セレン酸は、水酸化マグネシウムの層間に取り込まれることにより除去されたと考えられる。
【0097】
また、反応pHが低い領域では酸化マグネシウムから水酸化マグネシウムへの生成が遅く、pHが高い領域では水酸化物イオン(OH-)との競争吸着によってセレン酸の除去が阻害されると考えられる。よって、酸化マグネシウムによるセレン酸の除去は、反応pHが高過ぎるまたは低過ぎるのは好ましくなく、反応pH10.3以上から11未満の範囲がより適していると考えられる。
【0098】
[水処理方法2]
酸化マグネシウムと共に還元剤として亜硫酸ナトリウムを添加した処理について検討を実施した。ここでは、被処理水として、純水にセレン酸を溶解したセレン濃度1mg/Lのセレン酸人工排水を用い、以下の手順でセレン酸人工排水の処理を行った。
【0099】
<実施例1>
室温にて上記人工排水1000mLをガラスビーカーに入れ、上記酸化マグネシウムを1g/L添加して、150rpmの回転速度で20分間撹拌を行った。その後、亜硫酸ナトリウムを0.12g/L添加して、150rpmの回転速度でさらに280分間(合計反応時間は300分間)撹拌した。撹拌中、塩酸を添加しながら反応pHを10.5に保持した。合計反応時間20分および300分の処理水を孔径0.1μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。本実施例におけるセレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量は、モル比として75倍である。
【0100】
<比較例1>
反応開始20分後に還元剤を添加しなかったこと以外は実施例1と同様に試験した。
【0101】
表2に各実施例および比較例の処理水セレン濃度の分析結果を示す。
【0102】
【0103】
表2に示すように、実施例1および比較例1の反応時間20分後の処理水セレン濃度は0.2mg/Lと同じ値であったが、反応時間300分後の処理水セレン濃度はそれぞれ0.4mg/Lおよび0.8mg/Lであった。実施例1は反応時間20分から300分の間に酸化マグネシウムからセレンが0.2mg/L再溶出した。一方、比較例1は実施例1よりもセレンの再溶出量が多く、0.6mg/L再溶出していた。この結果から、亜硫酸ナトリウムを添加することによって、酸化マグネシウムに吸着したセレンの再溶出が抑制できたと言える。
【0104】
[水処理方法3]
酸化マグネシウムと共に添加する還元剤の添加量について検討を実施した。ここでは、被処理水として、純水にセレン酸を溶解したセレン濃度1mg/Lのセレン酸人工排水を用い、以下の手順でセレン酸人工排水の処理を行った。
【0105】
<実施例2-1>
室温にて上記人工排水1000mLをガラスビーカーに入れ、上記酸化マグネシウムを5.1g/L添加して、150rpmの回転速度で20分間撹拌を行った。その後、亜硫酸ナトリウムを0.016g/L添加して、150rpmの回転速度でさらに100分間(合計反応時間は120分間)撹拌した。撹拌中、塩酸を添加しながら反応pHを10.5に保持した。合計反応時間30分および120分の処理水を孔径0.1μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。また、各反応時間における酸化還元電位(ORP)を酸化還元電位計(堀場製作所製、D-72)を用いて測定した。本実施例におけるセレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量は、モル比として10倍である。
【0106】
<参考例2-2>
亜硫酸ナトリウムを1.6g/L添加したこと以外は実施例2-1と同様に試験した。本実施例におけるセレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量は、モル比として1000倍である。
【0107】
表3に各実施例の処理水セレン濃度およびORPの分析結果を示す。
【0108】
【0109】
表3に示すように、亜硫酸ナトリウムを0.016g/L添加した実施例2-1の反応時間30分および120分後の処理水セレン濃度は、それぞれ0.2mg/Lおよび0.4mg/Lであった。また、亜硫酸ナトリウムを1.6g/L添加した参考例2-2の反応時間30分および120分後の処理水セレン濃度は、両者ともに0.9mg/Lであった。このように、実施例2-1の方が参考例2-2よりも良好にセレンを低減できていた。この結果から、亜硫酸ナトリウムを過剰に添加すると、酸化マグネシウムからのセレンの再溶出を抑制しにくくなると言える。
【0110】
この原因として以下のことが考えられる。亜硫酸ナトリウムは水に溶解して亜硫酸イオン(SO3
2-)を生じるが、亜硫酸イオンは還元剤として働いたり、空気中の酸素に酸化されたりして硫酸イオン(SO4
2-)に変換される。硫酸イオンはセレン酸イオン(SeO4
2-)と構造が似ているため、酸化マグネシウムに吸着されたセレン酸は硫酸に置換されやすく、セレン酸の再溶出が起こりやすくなったと推察される。亜硫酸ナトリウムを過剰に添加する場合、反応液中の硫酸イオンが高濃度になり、セレン酸の再溶出が促進される可能性がある。
【0111】
亜硫酸ナトリウム添加後の実施例2-1と参考例2-2の反応中の酸化還元電位(ORP)を比較すると、実施例2-1は340~360mV、参考例2-2は230~260mVで推移していた。よって、亜硫酸ナトリウムの添加量は、反応液のORPが300~400mVの範囲になる量であることが好ましく、320~380mVの範囲になる量であることがより好ましいことがわかった。また、セレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量としては、モル比として100倍(Na2SO3/Se)以下であることが好ましいことがわかった。
【0112】
[水処理方法4]
酸化マグネシウムを用いる方法と、塩化第一鉄を用いる従来法との汚泥容積の比較を実施した。ここでは、被処理水として、純水にセレン酸を溶解したセレン濃度1mg/Lのセレン酸人工排水を用い、以下の手順でセレン酸人工排水の処理を行った。
【0113】
<実施例3>
室温にて上記人工排水1000mLをガラスビーカーに入れ、上記酸化マグネシウムを1g/L添加して、150rpmの回転速度で20分間撹拌を行った。その後、亜硫酸ナトリウムを0.12g/L添加して、150rpmの回転速度でさらに100分間(合計反応時間は120分間)撹拌した。撹拌中、塩酸を添加しながら反応pHを10.5に保持した。反応時間20分および40分の処理水を孔径0.1μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。また、反応終了60分後の汚泥沈降性を観察した。本実施例におけるセレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量は、モル比として75倍である。
【0114】
<比較例2>
室温にて上記人工排水1000mLをガラスビーカーに入れ、32%塩化第一鉄溶液を溶存鉄濃度が0.041g-Fe/Lとなるように添加して、苛性ソーダを添加しながらpHを10.5に保持し、150rpmの回転速度で120分間撹拌した。反応時間20分および40分の処理水を孔径0.1μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。また、反応終了60分後の汚泥沈降性を観察した。
【0115】
表4に各実施例および比較例の処理水セレン濃度の分析結果を示す。
【0116】
【0117】
図3に汚泥沈降性の観察結果を示す。
図3の左側が実施例3、右側が比較例2である。
【0118】
表4に示すように、実施例3の反応時間20分および反応時間40分の処理水セレン濃度は、比較例3とほぼ同等であり、塩化第一鉄を用いる従来法と比較して遜色ない処理性能であった。
【0119】
また、
図3に示すように、実施例3は反応終了60分後の固液分離性が良好であり、清澄な上澄水が得られた。一方、比較例2の反応60分後の上澄水は清澄ではなかった。この結果から、本実施例の水処理方法は固液分離性に優れる方法であると言える。
【0120】
[水処理方法5]
酸化マグネシウムと還元剤の添加順序について検討を実施した。ここでは、被処理水として、純水にセレン酸を溶解したセレン濃度1mg/Lのセレン酸人工排水を用い、以下の手順でセレン酸人工排水の処理を行った。
【0121】
<実施例4>
室温にて上記人工排水1000mLをガラスビーカーに入れ、上記酸化マグネシウムを1g/L添加して、150rpmの回転速度で20分間撹拌を行った。その後、亜硫酸ナトリウムを0.12g/L添加して、150rpmの回転速度でさらに40分間撹拌した。撹拌中、塩酸を添加しながら反応pHを10.5に保持した。酸化マグネシウム添加後の反応時間20分および60分の処理水を孔径0.1μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。本実施例におけるセレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量は、モル比として10倍である。
【0122】
<比較例3>
室温にて上記人工排水1000mLをガラスビーカーに入れ、亜硫酸ナトリウム0.12gを添加して、150rpmの回転速度で20分間撹拌を行った。その後、上記酸化マグネシウムを1g/L添加して、150rpmの回転速度でさらに60分間撹拌した。撹拌中、塩酸を添加しながら反応pHを10.5に保持した。酸化マグネシウム添加後の反応時間20分および60分の処理水を孔径0.1μmのフィルターを用いてろ過し、ろ過液のセレン濃度を測定した。本比較例におけるセレンに対する亜硫酸ナトリウムの添加量は、モル比として10倍である。
【0123】
表5に各実施例および比較例の処理水セレン濃度の分析結果を示す。
【0124】
【0125】
表5に示すように、実施例4の酸化マグネシウム添加後の反応時間20分および60分の処理水セレン濃度は、それぞれ0.2mg/Lおよび0.4mg/Lであった。一方、比較例3の酸化マグネシウム添加後の反応時間20分および60分の処理水セレン濃度は、それぞれ0.9mg/Lおよび0.8mg/Lであった。この結果から、セレンを良好に低減するためには、酸化マグネシウム添加後に還元剤を添加する必要があると言える。
【符号の説明】
【0126】
1,3 水処理装置、10 反応装置、12 還元装置、14 沈殿槽、16,44 反応槽、18 還元槽、20,46 被処理水流入ライン、22 反応水排出ライン、24 還元処理水排出ライン、26,48 処理水排出ライン、28,50 汚泥排出ライン、30,52 酸化マグネシウム添加ライン、32,36,56 pH調整剤添加ライン、34,54 還元剤添加ライン、38,40,58 撹拌装置、42 回分式反応装置。