(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】複合部材の製造方法、及び複合部材
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20231024BHJP
B24C 1/06 20060101ALI20231024BHJP
B29C 65/44 20060101ALI20231024BHJP
B29C 65/70 20060101ALI20231024BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231024BHJP
C23C 8/16 20060101ALI20231024BHJP
B29K 705/02 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
B29C45/14
B24C1/06
B29C65/44
B29C65/70
B32B15/08 N
C23C8/16
B29K705:02
(21)【出願番号】P 2020053199
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】山口 英二
(72)【発明者】
【氏名】堀江 永有太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 愛
(72)【発明者】
【氏名】石崎 貴裕
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-058887(JP,A)
【文献】特開2011-121306(JP,A)
【文献】特開2003-237003(JP,A)
【文献】特開2017-218615(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141381(WO,A1)
【文献】特開2019-217716(JP,A)
【文献】特開2008-207547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 65/00-65/82
B24C 1/00-11/00
B32B 1/00-43/00
C23C 8/00-12/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ部材と樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法であって、
前記アルミ部材の表面をブラスト加工するブラスト加工工程と、
前記ブラスト加工された前記アルミ部材の表面と水蒸気とを、大気圧を超える圧力を加えて反応させて、前記アルミ部材の表面をアルミニウム水酸化物に改質する表面水酸化工程と、
前記アルミニウム水酸化物に改質された前記アルミ部材の表面に前記樹脂部材を直接接合する接合工程と、
を含
み、
前記表面水酸化工程は、前記ブラスト加工された前記アルミ部材の表面と水蒸気とを、140℃以上の熱を加えて、2時間以上24時間以下の処理時間で反応させる、
複合部材の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む、請求項
1に記載の複合部材の製造方法。
【請求項3】
前記ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径は、3
0 μm~710 μmである、請求項1
又は2に記載の複合部材の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂部材は、導電性フィラーを含み、導電性を有する、請求項1~
3の何れか一項に記載の複合部材の製造方法。
【請求項5】
凹凸が形成された表面を有するアルミ部材と、
前記アルミ部材の表面に直接接触する樹脂部材と、
を備え、
前記アルミ部材の表面は、
アルミニウムの母材上に配置され、前記母材から析出した合金元素を含む析出層と、
前記析出層上に配置され、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層と、
前記アモルファス層上に配置され、アルミニウム水酸化物を含み、前記樹脂部材と直接接触する接触層と、
を有
し、
前記樹脂部材は、導電性フィラーを含み、導電性を有する、
複合部材。
【請求項6】
前記アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む、請求項
5に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材の製造方法、及び複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合部材の製造方法を開示する。この方法では、母材と樹脂部材とを接合した複合部材が製造される。母材の表面には、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸が形成される。樹脂部材がマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸に入り込んで硬化することにより、ミリオーダーの凹凸の場合と比べて強いアンカー効果が生じる。このため、この方法で製造された複合部材は、優れた接合強度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウムは、鉄と比べて軽量であって強度も高い。このため、種々の部品として採用されており、複合部材の母材としても有力である。特許文献1記載の製造方法は、アルミニウムを母材とする複合部材の接合強度をさらに向上させるという観点から、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、アルミ部材と樹脂部材とを接合した複合部材の製造方法が提供される。製造方法は、ブラスト加工工程と、表面水酸化工程と、接合工程とを含む。ブラスト加工工程では、アルミ部材の表面をブラスト加工する。表面水酸化工程では、ブラスト加工されたアルミ部材の表面と水蒸気とを、大気圧を超える圧力を加えて反応させて、アルミ部材の表面をアルミニウム水酸化物に改質する。接合工程では、アルミニウム水酸化物に改質されたアルミ部材の表面に樹脂部材を直接接合する。
【0006】
この製造方法によれば、アルミ部材の表面がブラスト加工される。ブラスト加工後のアルミ部材の表面には、凹凸が形成される。この凹凸はアンカー効果に寄与する。しかし、凹凸は噴射材の衝突によって形成されるため、鋭角な突起となる。鋭角な突起は、樹脂部材の破断の起点となるおそれがある。この製造方法によれば、ブラスト加工後のアルミ部材の表面がアルミニウム水酸化物に改質される。これにより、鋭角な突起は丸み付けされる。そして、アルミニウム水酸化物に改質されたアルミ部材の表面に樹脂部材が直接接合される。樹脂部材は、丸み付けされた凹凸に入り込んで硬化する。このように、この製造方法によれば、表面水酸化工程によって樹脂部材の破断の起点となり得る鋭角な突起を除去できるため、複合部材の接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ部材の表面において、アルミニウム水酸化物のヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材の表面と樹脂部材との間で化学的な結合が生じることから、この製造方法は、接合強度を向上させることができる。さらに、アルミニウム水酸化物からなるアルミ部材の表面は、数十~数百nmの細孔を有する。このため、この製造方法は、アンカー効果を増強できる。さらに、アルミ部材は、大気圧を超える圧力により水蒸気と反応するため、アルミ部材の表面の一部が例えばアルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層に変質する。アモルファス層が形成されることでアルミ部材と樹脂部材との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材の腐食が抑制されるため、この製造方法は、複合部材の接合強度を安定して維持できる。
【0007】
一実施形態においては、表面水酸化工程は、ブラスト加工されたアルミ部材の表面と水蒸気とを、140℃以上の熱を加えて反応させてもよい。この場合、この製造方法は、アルミ部材の表面をアルミニウム水酸化物に容易に改質できる。さらに、アルミ部材の表面が熱処理されるため、析出硬化が生じる。よって、この製造方法は、複合部材の硬さを向上させることができる。
【0008】
一実施形態においては、表面水酸化工程は、ブラスト加工されたアルミ部材の表面と水蒸気とを、2時間以上24時間以下の処理時間で反応させてもよい。この場合、この製造方法は、アルミ部材の表面に適切な密度のアルミニウム水酸化物の層を形成できる。
【0009】
一実施形態においては、アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含んでもよい。
【0010】
一実施形態においては、ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径は、30μm~710 μmとしてもよい。この場合、この製造方法は、アルミ部材の表面に形成された酸化膜を適切に除去できるため、アルミ部材の表面に均一なアルミニウム水酸化物の層を形成できる。
【0011】
一実施形態においては、樹脂部材は、導電性フィラーを含み、導電性を有してもよい。この構成によれば、導電性を有する樹脂部材とアルミ部材とを接合した複合部材が得られる。アルミ部材と樹脂部材との接合部分には、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層が形成される。これにより、アルミ部材と樹脂部材との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材の腐食が抑制される。このため、この製造方法は、樹脂部材が導電性を有する部材であっても、複合部材の接合強度を安定して維持できる。よって、この製造方法は、樹脂部材の材料の選択の自由度を向上させることができる。
【0012】
本開示の他の形態によれば、複合部材が提供される。複合部材は、凹凸が形成された表面を有するアルミ部材と、アルミ部材の表面に直接接触する樹脂部材と、を備える。アルミ部材の表面は、アルミニウムの母材上に配置され、母材から析出した合金元素を含む析出層と、析出層上に配置され、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層と、アモルファス層上に配置され、アルミニウム水酸化物を含み、樹脂部材と直接接触する接触層と、を有する。なお、アルミニウムの母材は、母材中に含まれる合金元素を含む析出層を含んでいてもよい。
【0013】
この複合部材では、樹脂部材と直接接触するアルミ部材の表面に凹凸があるため、アンカー効果を奏する。さらに、アルミ部材の表面にアルミニウム水酸化物を含む接触層が形成されている。接触層に含まれるアルミニウム水酸化物のヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材の表面と樹脂部材との間で化学的な結合が生じることから、この複合部材は、接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ部材の表面における接触層は、数十~数百nmの細孔を有する。このため、この複合部材は、アンカー効果を増強できる。また、アルミ部材の表面においてアルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層が形成される。このため、アルミ部材と樹脂部材との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材の腐食が抑制され、この複合部材は接合強度を安定して維持できる。さらに、アルミ部材の表面において析出層が形成されている。析出層ではアルミニウムの母材から合金元素が析出することによって析出硬化が生じているため、この複合部材は、硬さを向上させることができる。
【0014】
一実施形態においては、アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含んでもよい。
【0015】
一実施形態においては、樹脂部材は、導電性フィラーを含み、導電性を有してもよい。この構成によれば、導電性を有する樹脂部材とアルミ部材とを接合した複合部材が得られる。アルミ部材と樹脂部材との接合部分には、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層が形成される。これにより、アルミ部材と樹脂部材との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材の腐食が抑制される。このため、この複合部材は、樹脂部材が導電性を有する部材であっても、複合部材の接合強度を安定して維持できる。よって、この複合部材は、樹脂部材の材料の選択の自由度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一側面および実施形態によれば、優れた接合強度を有する複合部材の製造方法、及び、優れた接合強度を有する複合部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る複合部材を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿った複合部材の断面図である。
【
図3】実施形態に係る複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の概念図である。
【
図4】実施形態に係る複合部材の製造方法に用いるブラスト加工装置の構成を説明する図である。
【
図6】プレス成形に用いられる金型の上面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に沿った金型の断面図である。
【
図8】実施形態に係る複合部材の製造方法のフローチャートである。
【
図13】アルミ部材の表面の結晶構造解析結果である。
【
図15】アルミ部材の表面の結晶構造解析結果である。
【
図16】実施例に係る加工条件及びせん断強度の結果である。
【
図17】アルミ部材のビッカース硬さの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、本実施形態における「接合強度」は「せん断強度」として説明する。
【0019】
[複合部材]
図1は、実施形態に係る複合部材1を示す斜視図である。
図1に示されるように、複合部材1は、複数の部材が接合により一体化された部材である。例えば、複合部材1は、樹脂部材と、樹脂部材に対する異種部材とを接合させた部材である。樹脂部材に対する異種部材とは、熱膨張率、熱伝達率、強度などが樹脂部材に対して異なる性質を有する材料で形成された部材である。
【0020】
複合部材1は、アルミ部材2及び樹脂部材3を備える。アルミ部材2は、一例として板状の部材である。樹脂部材3は、アルミ部材2の表面に直接接触している。
図1では、樹脂部材3は、アルミ部材2の表面の一部(アルミ部材2の接触面4)に直接接触しており、重ね継手構造を有する。アルミ部材2の材料は、アルミニウムの合金である。
【0021】
樹脂部材3は、導電性フィラーを含み、導電性を有する樹脂であってもよい。樹脂部材3は、導電性フィラーとして、例えば、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックの粉末、グラファイト及びグラフェンプレートレットの少なくとも1つを含むプレート、カーボンナノチューブの超短繊維、並びに、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)の繊維のうち、少なくとも1つを含むカーボン系の材料を有する。樹脂部材3は、導電性フィラーとして、例えば、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)及びステンレスの少なくとも1つを含む粉末、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)及びステンレスの少なくとも1つを含むフレーク、並びに、銅(Cu)、ステンレス及び黄銅の少なくとも1つを含む繊維のうち、少なくとも1つを含む金属系の材料を有してもよい。
【0022】
樹脂部材3は、導電性フィラーとして、例えば、アンチモン(Sb)がドープされた酸化スズ(SnO2)、スズがドープされた酸化インジウム(In2O3)、及びアルミニウムがドープされた酸化亜鉛(ZnO)のうち、少なくとも1つを含む金属酸化物系の材料を有していてもよい。樹脂部材3は、導電性フィラーとして、例えば、ニッケル(Ni)及びアルミニウム(Al)の少なくとも1つを被覆材とし、マイカ、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、酸化亜鉛及び酸化チタンの少なくとも1つをベースフィラーとした粉末並びに繊維の少なくとも1つを含む金属被覆系の材料を有していてもよい。樹脂部材3は、上述のカーボン系の材料、金属系の材料、金属酸化物系の材料、及び金属被覆系の材料の少なくとも1つを含んでもよい。
【0023】
樹脂部材3は、導電性フィラーを含み、導電性を有する樹脂でなくてもよい。この場合、例えば、樹脂部材3の材料は、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、液晶ポリマー、ポリプロピレン、アクリルニトリルブタジエンスチレンなどの樹脂であってもよい。
【0024】
図2は、
図1のII-II線に沿った複合部材1の断面図である。
図2に示されるように、アルミ部材2は、その表面2aの一部(接触面4)に凹凸2bを有する。凹凸2bは、マイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸である。マイクロオーダーの凹凸とは、1μm以上1000μm未満の高低差を有する凹凸である。ナノオーダーの凹凸とは、1nm以上1000nm未満の高低差を有する凹凸である。凹凸2bは、端部が面取りされている。そのため、凹凸2bは丸みを帯びており、鋭角となる箇所を有しない。樹脂部材3は凹凸2bの中に入り込んで固着されているため、アンカー効果を奏する。
【0025】
さらに、アルミ部材2の表面2aは、アルミニウムの母材2c上に配置された析出層2dと、析出層2d上に配置されたアモルファス層2eと、及びアモルファス層2e上に配置された接触層2fとを有する。母材2cは、主にアルミニウム原子で構成され、その一部の上部に析出層2dが形成される。
【0026】
析出層2dは、熱処理によりアルミ部材2の母材2cからケイ素(Si)又はマグネシウム(Mg)などのアルミニウム合金元素が析出したことにより形成された層である。析出層2dは、母材2c上に配置される。析出層2dは、析出層2d、アモルファス層2e及び接触層2fの三層構造のうち最も母材2c側に位置する。なお、アルミニウムの母材2cは、母材2c中に含まれるアルミニウム合金元素を含む析出層を含んでいてもよい。例えば熱処理により、析出層2dの近くに存在する母材2cが析出層2dと同程度アルミニウム合金元素を含んでいてもよい。
【0027】
アモルファス層2eは、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス状態の層である。アモルファス層2eは、例えば、緻密なアルミナ(Al2O3)で構成されている。アモルファス層2eは、析出層2dの上層(析出層2dより樹脂部材3側)に位置し、厚みは、例えば、数十nm~数μmである。
【0028】
接触層2fは、アルミニウム水酸化物を含み、樹脂部材3と直接接触する。接触層2fは、アモルファス層2eの上層(アモルファス層2eより樹脂部材3側)に位置する。接触層2fは、表面に露出しており、その表面に数十~数百nmの細孔を有する。アルミニウム水酸化物は、ヒドロキシル基を有するアルミニウムの化合物である。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの何れか1つを含んでよい。アルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの中から選択された複数の種類のアルミニウム水酸化物を含んでよい。
【0029】
樹脂部材3は、その一部が凹凸2bに入り込んだ状態で、アルミ部材2に接合される。このような構造は、後述する金型20を用いた射出成形により形成される。なお、複合部材1は、射出成形以外の手法、例えば、超音波接合、プレス成形、又は振動接合などにより接合されてもよい。
【0030】
以上、本実施形態に係る複合部材1は、樹脂部材3と直接接触するアルミ部材2の表面2aに凹凸2bがあるため、アンカー効果を奏する。さらに、アルミ部材2の表面2aは、析出層2d、アモルファス層2e、及び接触層2fを有する。接触層2fに含まれるアルミニウム水酸化物のヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材2の表面2aと樹脂部材3との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、アルミ部材2の表面2aにおける接触層2fは、数十~数百nmの細孔を有するため、アンカー効果を増強できる。このため、この複合部材1は、優れた接合強度を有する。また、アルミ部材2の表面2aにおいてアルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層2eが形成される。このため、アルミ部材2と樹脂部材3との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材2の腐食が抑制されるので、複合部材1は接合強度を安定して維持できる。さらに、アルミ部材2の表面2aにおいて析出層2dが形成される。析出層2dではアルミニウムの母材2cから合金元素が析出することによって析出硬化が生じているため、この複合部材1は、硬さを向上させることができる。
【0031】
[複合部材の製造方法]
複合部材1の製造方法に用いる装置概要を説明する。最初に、アルミ部材2の表面にブラスト加工を行う装置を説明する。ブラスト加工装置は、重力式(吸引式)のエアブラスト装置、直圧式(加圧式)のエアブラスト装置、遠心式のブラスト装置、等何れのタイプを用いてもよい。本実施形態に係る製造方法は、一例として、いわゆる直圧式(加圧式)のエアブラスト装置を用いる。
図3は、複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の概念図である。ブラスト加工装置10は、処理室11、噴射ノズル12、貯留タンク13、加圧室14、圧縮気体供給機15及び集塵機(不図示)を備える。
【0032】
処理室11の内部には、噴射ノズル12が収容されており、処理室11にてワーク(ここではアルミ部材2)に対してブラスト加工が行われる。噴射ノズル12にて噴射された噴射材は、粉塵とともに処理室11の下部に落下する。落下した噴射材は、貯留タンク13に供給され、粉塵は集塵機へ供給される。貯留タンク13に貯留された噴射材は加圧室14に供給され、圧縮気体供給機15により加圧室14が加圧される。加圧室14に貯留された噴射材は、圧縮気体ととともに噴射ノズル12に供給される。このように、噴射材を循環させながらワークがブラスト加工される。
【0033】
図4は、実施形態に係る複合部材1の製造方法に用いるブラスト加工装置10の構成を説明する図である。
図4に示されるブラスト加工装置10は、
図3に示された直圧式のブラスト装置である。
図4では、処理室11の壁面を一部省略して示している。
【0034】
図4に示されるように、ブラスト加工装置10は、圧縮気体供給機15が接続され密閉構造に形成された噴射材の貯留タンク13及び加圧室14と、加圧室14内に貯留タンク13と連通する定量供給部16と、定量供給部16に連接管17を介して連通する噴射ノズル12と、噴射ノズル12の下方にワークを保持しながら可動する加工テーブル18と、制御部19とを備える。
【0035】
制御部19は、ブラスト加工装置10の構成要素を制御する。制御部19は、一例として表示部及び処理部を含む。処理部は、CPU及び記憶部などを有する一般的なコンピュータである。制御部19は、設定された噴射圧力及び噴射速度に基づいて貯留タンク13及び加圧室14へ圧縮気体を供給する圧縮気体供給機15のそれぞれの供給量を制御する。また、制御部19は、設定されたワークとノズルとの間の距離、及び、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数など)に基づいて、噴射ノズル12の噴射位置の制御をする。具体的な一例として、制御部19は、ブラスト加工処理前に設定された走査速度(X方向)と送りピッチ(Y方向)とを用いて噴射ノズル12の位置を制御する。制御部19は、ワークを保持する加工テーブル18を移動させることにより、噴射ノズル12の位置を制御する。
【0036】
図5は、
図4の噴射ノズル12の断面図である。噴射ノズル12は、本体部である噴射管ホルダー120を有する。噴射管ホルダー120は、内部に噴射材及び圧縮気体を通過させる空間を有する筒状部材である。噴射管ホルダー120の一端は、噴射材導入口123であり、その他端は噴射材吐出口122である。噴射管ホルダー120の内部には、噴射材導入口123側から噴射材吐出口122に向けて先細りした内壁面が形成されており、傾斜角度を有する円錐形状の収束加速部121が構成されている。噴射管ホルダー120の噴射材吐出口122側には、円筒形状の噴射管124が連通して設けられている。収束加速部121は、噴射管ホルダー120の円筒形部の中間から噴射管124に向けて先細りしている。これにより、圧縮気体流115が形成される。
【0037】
噴射ノズル12の噴射材導入口123には、ブラスト加工装置10の連接管17が接続されている。これにより、貯留タンク13、加圧室14内の定量供給部16、連接管17、及び、噴射ノズル12が順次連接された噴射材経路を形成している。
【0038】
このように構成されたブラスト加工装置10は、制御部19により制御された供給量の圧縮気体が圧縮気体供給機15から貯留タンク13及び加圧室14に供給される。そして、一定の圧流力によって、貯留タンク13内の噴射材は、加圧室14内の定量供給部16で定量され、連接管17を介して噴射ノズル12に供給され、噴射ノズル12の噴射管よりワークの加工面に噴射される。これにより、常に一定の噴射材がワークの加工面に噴射される。そして、噴射ノズル12のワークの加工面への噴射位置が制御部19により制御され、ワークがブラスト加工される。
【0039】
また、噴射された噴射材とブラスト加工で生じた切削粉は、図示しない集塵機により吸引される。処理室11から集塵機に向かう経路には図示しない分級機が配置されており、再使用可能な噴射材とその他微粉(再使用できないサイズとなった噴射材やブラスト加工で生じた切削粉)とに分離される。再利用可能な噴射材は貯留タンク13に収容され、再び噴射ノズル12に供給される。微粉は集塵機にて回収される。
【0040】
次に、射出成形について説明する。射出成形は、ここではインサート成形が用いられる。インサート成形では、所定の金型にインサートを装着し、樹脂を注入して所定時間保持して硬化させる。その後、熱処理により樹脂の残留応力を取り除く。
図6は、射出成形に用いられる金型の上面図である。
図7は、
図6のVII-VII線に沿った金型の断面図である。
図6,
図7に示されるように、金型20は、金型本体21(上金型21a及び下金型21b)を備える。上金型21aと下金型21bとの間には、インサート(ここではアルミ部材2)を装着するための空間22及び樹脂が注入される空間23を備える。上金型21aの上面には、樹脂注入口が設けられる。樹脂注入口は、スプルー24、ランナー25及びゲート26を介して空間23に連通する。空間23には、圧力センサ27及び温度センサ28が設けられており、空間23の圧力及び温度が検出される。圧力センサ27及び温度センサ28の検出結果に基づいて、図示しない成形機のパラメータが調整され成形品が製造される。パラメータには、金型温度、充填時の樹脂温度、充填圧力、射出率、保持時間、保持時の圧力、熱処理温度、熱処理時間などが含まれる。金型20で成形された成形品は、所定面積で接合する重ね継手構造となる。
【0041】
次に、複合部材1の製造方法の一連の流れを説明する。
図8は、実施形態に係る複合部材1の製造方法MTのフローチャートである。
図8に示されるように、最初に、準備工程(S10)として、所定の噴射材がブラスト加工装置10に充填される。噴射材(砥粒)の粒子径は、例えば30μm~710 μmである。噴射材の粒子径が小さくなるほど、質量が小さくなるため、慣性力が低くなる。このため、噴射材の粒子径が30 μmより小さい場合には所望の形状の凹凸2bを形成することが困難となる。また、工業的に使用されるアルミ部材2は一般的に大気中に保管されており、その表面は厚さ60nm~300 nmの不均一なアルミニウムの非結晶酸化膜で覆われている。このため、薬剤による表面エッチングや表面レーザ加工は、アルミニウムの非結晶酸化膜の存在によって、不均一な表面処理となるおそれがある。後述する表面水酸化工程(S14)においてアルミ部材2の表面2aを均一に改質するためには、アルミニウムの非結晶酸化膜を厚さ約30nm以下の膜とする必要がある。しかし、噴射材の粒子径が710 μmを超える場合には、アルミニウムの非結晶酸化膜を厚さ約30 nm以下となるまで削ることが困難となる。このため、アルミ部材2の表面に形成されたアルミニウム酸化物を充分に除去できない。凹凸の形成とアルミニウムの非結晶酸化膜の除去との両方を実現できる砥粒の粒子径は、30μm~710 μmとなる。
【0042】
ブラスト加工装置10の制御部19は、準備工程(S10)として、ブラスト加工条件を取得する。制御部19は、ブラスト加工条件を、オペレータの操作又は記憶部に記憶された情報に基づいて取得する。ブラスト加工条件には、噴射圧力、噴射速度、ノズル間距離、ワークの走査条件(速度、送りピッチ、走査回数)などが含まれる。噴射圧力は、例えば0.5~2.0MPaである。噴射圧力が小さくなるほど、慣性力が低くなる。このため、噴射圧力が0.5MPaより小さい場合には所望の形状の凹凸2bを形成することが困難となる。噴射圧力が大きくなるほど、慣性力が高くなる。このため、アルミ部材2との衝突により噴射材が粉砕され易くなる。その結果、(1)衝突のエネルギーが凹凸2bの形成以外に分散されることから加工効率が悪い(2)噴射材の損耗が激しく、経済的でない、等の問題が発生する。このような問題は、噴射圧力が2.0MPaを越えた場合に顕著となる。制御部19は、ブラスト加工条件を管理することで、アルミ部材2の表面2aの凹凸2bの大きさや深さ、密度などをマイクロオーダー又はナノオーダーで精密にコントロールする。なお、ブラスト加工条件には、ブラスト加工対象領域を特定する条件が含まれていてもよい。この場合、選択的な表面処理が可能となる。また、準備工程(S10)において、アルミ部材2に対しエタノールなどで所定の時間、超音波洗浄をおこなってもよい。
【0043】
次に、ブラスト加工装置10は、ブラスト加工工程(S12)として、以下の一連の処理を行う。まず、ブラスト加工対象となるアルミ部材2が処理室11内の加工テーブル18上にセットされる。次に、制御部19は、図示しない集塵機を作動させる。集塵機は、制御部19の制御信号に基づいて、処理室11の内部を減圧して負圧状態とする。次に、噴射ノズル12は、制御部19の制御信号に基づいて、噴射圧力0.5~2.0MPaの範囲で、噴射材を圧縮空気の固気二相流として噴射する。次いで、制御部19は、加工テーブル18を作動させ、アルミ部材2を固気二相流の噴射流中(
図4では噴射ノズルの下方)に移動させる。
図9は、ブラスト加工の概念図である。
図9に示されるように、噴射ノズル12からアルミ部材2の表面2aの一部領域2gへ噴射材が噴射される。ここで、制御部19は、加工テーブル18の作動を継続させて、アルミ部材2に対して噴射流が予め設定された軌跡を描くように作動させる。
図10は、ブラスト加工の走査を説明する図である。
図10に示されるように、制御部19は、加工テーブル18を送りピッチPで走査する軌跡Lに従って動作させる。これにより、アルミ部材2の表面に所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2bが形成される。
【0044】
粒子径30~710μmの噴射材を用いて、噴射圧力0.5~2.0MPaの範囲でブラスト加工をすることにより、アルミ部材2の表面2aに所望のマイクロオーダー又はナノオーダーの凹凸2b(例えば、JIS(Japanese Industrial Standards) B 0601(1994)に規定される算術平均傾斜RΔa及び二乗平均平方根傾斜RΔqがそれぞれ0.17~0.50、0.27~0.60に制御された凹凸2b)が形成される。さらに、アルミ部材2の表面の非結晶酸化膜が厚さ約9nm以下の膜となる。ブラスト加工装置10の作動を停止した後、アルミ部材2を取り出し、ブラスト加工が完了する。
【0045】
図11は、複合部材の製造工程を説明する図である。
図11の(A)に示されるように、ブラスト加工後のアルミ部材2の表面2aの凹凸2bは、鋭角な突起を有する。
【0046】
続いて、表面水酸化工程(S14)として、ブラスト加工されたアルミ部材2の表面2aと水蒸気とを、大気圧を超える圧力を加えて反応させて、アルミ部材2の表面2aをアルミニウム水酸化物に改質する。表面水酸化工程(S14)では、水蒸気処理を用いてアルミ部材2の表面2aと水蒸気とを反応させる。水蒸気処理では、ブラスト加工されたアルミ部材2及び水を圧力容器の内部に入れ、140℃以上に加熱し、大気圧を超える圧力をかけることで、圧力容器内に水蒸気を充満させる。圧力容器は、例えば、オートクレーブである。
【0047】
これにより、
図11の(B)に示されるように、凹凸2bは、丸み付けられる。さらに、アルミ部材2の表面2aには、析出層2d、アモルファス層2e及び接触層2fの三層構造が形成される。
【0048】
水蒸気処理において、ブラスト加工されたアルミ部材2を140℃以上に加熱された水蒸気に所定の期間曝露させることで、アルミ部材2の表面2aが加熱されるため、アルミ部材2の母材2c上に析出層2dが形成される。析出層2dは、母材2cからケイ素(Si)又はマグネシウム(Mg)などのアルミニウム合金元素が析出し、硬化している。
【0049】
大気圧を超えた圧力を加えた状態で水蒸気によってアルミ部材2の表面2aの表面が酸化するため、析出層2dの上層(析出層2dより樹脂部材3側)にアモルファス層2eが形成される。アモルファス層2eは、アルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス状態の層である。アモルファス層2eは、例えば、緻密なアルミナ(Al2O3)で構成されている。
【0050】
大気圧を超えた圧力を加えた状態で水蒸気によってアルミ部材2の表面2aの表面が水酸化するため、アモルファス層2eの上層(アモルファス層2eより樹脂部材3側)に接触層2fが形成される。接触層2fはアルミニウム水酸化物を含む。接触層2fのアルミニウム水酸化物は主にベーマイトを含む。接触層2fのアルミニウム水酸化物は、ベーマイトに限定されず、ダイアスポア、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの何れか1つを含む。接触層2fのアルミニウム水酸化物は、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの中から選択された複数の種類のアルミニウム水酸化物を含んでもよい。
【0051】
なお、アルミ部材2及び水に加える圧力は、圧力容器の耐性の観点から大気圧(0.1013MPa)より大きく3.0MPa以下に設定される。アルミ部材2及び水蒸気は、例えば、所定の140℃以上の加熱温度に達した時点から2時間以上24時間以内の間反応させる。また、表面水酸化工程(S14)では、水によりアルミ部材の表面を洗浄してもよい。この場合、水によりアルミ部材の表面が洗浄され、表面炭素濃度を低下させることができる。
【0052】
次に、図示しない成形機は、接合工程(S16)として、上述した金型20を用いて射出成形を行う。まず、金型20が型開きされ、析出層2d、アモルファス層2e、及び接触層2fの三層構造が形成されたアルミ部材2が空間22に装着されて、金型20が型閉じされる。そして、成形機は、設定された樹脂温度を有する溶解した樹脂を樹脂注入口から金型20の内部に注入する。注入された樹脂は、スプルー24、ランナー25及びゲート26を通り、空間23に充填される。成形機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて樹脂の充填圧力や射出率を制御する。成形機は、温度センサ28の検出結果に基づいて、金型温度が設定値になるように制御する。また、成形機は、圧力センサ27の検出結果に基づいて、設定された保持時間の間、圧力が設定値となるように制御する。その後、成形機は、設定された熱処理温度及び熱処理時間に基づいて、熱処理を行う。その後、成形機は、金型20を型開きして、析出層2d、アモルファス層2e、及び接触層2fの三層構造、アルミ部材2、並びに、樹脂部材3が一体化された複合部材1を取り出す。接合工程(S18)が終了すると、
図8に示されたフローチャートが終了する。これにより、
図11の(C)に示される複合部材1が製造される。
【0053】
以上説明したように、製造方法MTによれば、アルミ部材2の表面2aがブラスト加工される。ブラスト加工後のアルミ部材2の表面2aには、鋭角な突起を有する凹凸2bが形成される。その後、ブラスト加工後のアルミ部材2の表面2aは主にベーマイトであるアルミニウム水酸化物に改質される。これにより、鋭角な突起は丸み付けされる。その後、アルミニウム水酸化物に改質されたアルミ部材2の表面2aに樹脂部材3が直接接合される。樹脂部材3は、丸み付けされた凹凸2bに入り込んで硬化する。このように、製造方法MTによれば、表面水酸化工程(S14)によって樹脂部材3の破断の起点となり得る鋭角な突起を除去できるため、複合部材1の接合強度を向上させることができる。
【0054】
さらに、アルミ部材2の表面2aに形成された接触層2fにおいて、主にベーマイトのヒドロキシル基の酸素原子と、樹脂に含まれる水素原子とは水素結合する。このため、アルミ部材2の表面2aと樹脂部材3との間で化学的な結合が生じることから、接合強度を向上させることができる。さらに、主にベーマイトからなるアルミ部材2の表面2aにおける接触層2fは、数十~数百nmの細孔を有する。このため、アンカー効果を増強できる。さらに、ブラスト加工によってアルミ部材2の表面2aに形成されていたアルミ酸化膜が除去される。アルミ酸化膜は接触層2fの形成を阻害する要因となる。製造方法MTによれば、アルミニウム水酸化物を形成する前にアルミ酸化膜が除去されるため、アルミ部材2の表面2aを均質なアルミニウム水酸化物に改質できる。
【0055】
さらに、アルミ部材2は、表面水酸化工程(S14)において、大気圧を超える圧力により水蒸気と反応するため、アルミ部材2の表面2aの一部がアルミニウム原子及び酸素原子を含むアモルファス層2eに変質する。このため、アルミ部材2と樹脂部材3との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材2の腐食が抑制され、この複合部材1は接合強度を安定して維持できる。
【0056】
製造方法MTによれば、表面水酸化工程(S14)において、アルミ部材2の表面2aと水蒸気とを140℃以上の熱を加えて反応させるため、アルミ部材2の表面2aを接触層2fに容易に改質できる。さらに、アルミ部材2の表面2aが熱処理されるため、析出層2dを形成することができる。析出層2dではアルミニウムの母材2cから合金元素が析出することによって析出硬化が生じているため、この製造方法において、複合部材1の硬さを向上させることができる。
【0057】
製造方法MTによれば、表面水酸化工程(S14)において、アルミ部材2の表面2aと水蒸気とを2時間以上24時間以内の間反応させることで、アルミ部材2の表面2aに適切な密度の接触層2fを形成できる。
【0058】
接触層2fは、ダイアスポア、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ギブサイト及びドイライトの少なくとも1つを含む。前述したアルミニウム水酸化物のうち、複数の種類のアルミニウム水酸化物が組み合わさって構成された接触層2fは、前述したアルミニウム水酸化物のいずれか1種類のアルミニウム水酸化物で構成された接触層2fと比べて、表面水酸化工程(S14)においてアルミ部材2及び水を加熱する温度を低く抑えた状態で形成される。
【0059】
製造方法MTによれば、水によってアルミ部材2の表面2aが洗浄されるため、炭素汚れに起因する接合強度の低下を抑制できる。製造方法MTによれば、ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径を30μm~710 μmとすることによって、アルミ部材2の表面2aに形成された酸化膜を適切に除去できるため、アルミ部材2の表面2aに均一な接触層2fを形成できる。また、ブラスト加工工程で用いられる砥粒の粒子径を上記の範囲とすることによって、アルミ部材2の表面2aに適切な算術平均傾斜を有する凹凸2bを形成できる。
【0060】
製造方法MTによれば、表面水酸化工程(S14)において、アルミ部材2の表面2aにアモルファス層2eを形成する。これにより、アルミ部材2と樹脂部材3との材料同士の固有の電位差が抑えられ、電気化学作用によるアルミ部材2の腐食が抑制される。このため、この製造方法MTは、樹脂部材3が導電性を有する部材であっても、複合部材1の接合強度を安定して維持できる。よって、この製造方法MTは、樹脂部材3の材料の選択の自由度を向上させることができる。
【0061】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記本実施形態に限定されるものでなく、本実施形態以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0062】
[母材、樹脂部材の変形例]
上記実施形態に係るアルミ部材2及び樹脂部材3として、板状部材を例として示したが、形状に限定されることはなく、互いに接触可能なあらゆる形状を採用できる。上記実施形態に係る樹脂部材3は、アルミ部材2の表面の一部に接触していたが、アルミ部材2の表面全てに接触していてもよい。
【0063】
[接合の変形例]
アルミ部材2と樹脂部材3との接合は、プレス成形であってもよい。プレス成形において、アルミ部材2及び樹脂部材3は金型により固定されるため、他の接合方法に比べて接合後の複合部材1の寸法精度を高くできる。また、アルミ部材2と樹脂部材3との接合は、超音波接合であってもよい。超音波接合では、成形機は、アルミ部材2及び樹脂部材3の少なくとも一方を超音波振動させてアルミ部材2と樹脂部材3とを接合させてもよい。超音波接合では、アルミ部材2と樹脂部材3との接合箇所のみが加熱されるので、アルミ部材2及び樹脂部材3の熱膨張率の差による接合後の複合部材1の反りの発生を抑えることができる。
【実施例】
【0064】
[噴射材の砥粒サイズ]
最初にブラスト加工工程(S12)を実行する前のアルミ部材2の酸化被膜の膜厚を計測した。「オージェ電子分光法(AES:Auger electron spectroscopy)」を用いてアルミ酸化皮膜の深さ方向分析を行った。酸化物/金属の界面付近では酸化物と金属成分が同時に検出されるためにこれらをスペクトル合成法によって分離して、酸化被膜の膜厚を求めた。酸化被膜の膜厚は72nmであった。次に、
図3~
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行後、アルミ部材2の酸化被膜の膜厚を計測した。砥粒の中心粒径が600μm~710 μmの噴射材を用いた場合、酸化被膜の膜厚は13 nmであった。砥粒の中心粒径が41 μm~50 μmの噴射材(最大粒子径127 μm以下、平均粒子径57μm ± 3 μm)を用いた場合、酸化被膜の膜厚は9 nmであった。このため、少なくとも710 μm以下の噴射材を用いることで、アルミ部材2の表面2aの酸化被膜を除去できることが確認された。
【0065】
[加熱温度を変化させた場合のアルミ部材の表面状態及び表面粗さの確認]
アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。アルミ部材に対し、表面水酸化工程(S14)を実行した。表面水酸化工程(S14)として、オートクレーブ内に純水を10ml投入し、アルミニウム板を配置して、処理時間を24時間とした水蒸気処理をおこなった。以下、水蒸気処理の処理時間を単に「処理時間」と記載する場合がある。水蒸気処理の加熱温度は、それぞれ140℃、180 ℃、及び220 ℃である。なお、加熱温度が140 ℃の場合におけるオートクレーブ内の圧力は0.5 MPaとなり、加熱温度が180 ℃の場合におけるオートクレーブ内の圧力は1.0MPaとなり、加熱温度が220 ℃の場合におけるオートクレーブ内の圧力は2.3 MPaとなった。そして、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて表面観察し、表面粗さを確認した。
【0066】
図12は、アルミ部材の表面観察結果である。
図12の(A),(B),(C)は、それぞれ140℃、180 ℃、220 ℃の表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図12の(A),(B),(C)に示されるように、表面水酸化工程(S14)における加熱温度が高くなるにしたがって、アルミ部材上の突起が大きく成長していることが確認された。
【0067】
図13は、アルミ部材の表面の結晶構造解析結果(X線回折測定)である。
図13において、縦軸は回折X線強度を示し、横軸は回折角度を示している。
図13に示されるように、アルミ部材に対してX線回折測定により結晶構造を解析した結果、アルミニウム(Al)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、及びシリカマグネシウム(Mg
2Si)の回折ピークが出現した。これにより、アルミ部材の表面は、アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム及びシリカマグネシウムを含むことが明らかとなった。また、水酸化酸化アルミニウムの回折ピークは、加熱温度が高くなるほど明瞭に現れた。これにより、加熱温度が高くなるほど水酸化酸化アルミニウムが成長していることが確認された。
【0068】
また、上記のアルミ部材の表面粗さについてはJIS B 0601(1994)に規定される算術平均粗さRaを測定した。加熱温度が140℃の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.42 μmとなり、加熱温度が180 ℃の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.56 μmとなり、加熱温度が220℃の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.78 μmとなった。表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミ部材の算術平均粗さRaは0.39μmであった。これにより、水蒸気処理の加熱温度が高くなるにしたがって、アルミ部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)が大きくなることが確認された。また、水蒸気処理の加熱温度が140℃以上のとき、アルミ部材の表面粗さを増大させることが確認された。
【0069】
[処理時間を変化させた場合のアルミ部材の表面状態の確認]
図3~
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。ブラスト加工工程後に、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて表面観察した。
【0070】
続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180℃とした水蒸気処理をおこなった。処理時間は、3時間、6時間、及び24時間である。なお、オートクレーブ内の圧力は1.0MPaとなった。そして、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて表面観察した。
【0071】
図14は、アルミ部材の表面観察結果である。
図14の(A)はブラスト加工工程(S12)後のアルミニウム板の表面観察結果であり、
図14の(B)は、
図14の(A)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(C)は表面水酸化工程(S14)を3時間実行した後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(D)は、
図14の(C)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(E)は表面水酸化工程(S14)を6時間実行した後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(F)は、
図14の(E)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(G)は表面水酸化工程(S14)を24時間実行した後のアルミニウム板の表面観察結果である。
図14の(H)は、
図14の(G)を拡大したアルミニウム板の表面観察結果である。
【0072】
図14の(A),(B)に示されるように、ブラスト加工工程(S12)後のアルミ部材2の表面2aは、凹凸が形成されていること、鋭角の突起があることが確認された。これに対して、
図14の(C)~(H)に示されるように、表面水酸化工程(S14)後のアルミ部材2の表面2aは、全体的に丸みを帯びていることが確認された。また、
図14の(C),(E),(G)と(D),(F),(H)とを比較してわかるように、表面水酸化工程(S14)後のアルミニウム板の表面には、50nm~1000 nmの微細な突起が存在することが確認された。
【0073】
図15は、アルミ部材の表面の結晶構造解析結果(X線回折測定)である。
図15において、縦軸は回折X線強度を示し、横軸は回折角度を示している。
図15に示されるように、アルミ部材に対してX線回折測定により結晶構造を解析した結果、アルミニウム(Al)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、及びシリカマグネシウム(Mg
2Si)の回折ピークが出現した。これにより、アルミ部材の表面は、アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム及びシリカマグネシウムを含むことが明らかとなった。また、水酸化酸化アルミニウムの回折ピークは、処理時間が長くなるほど明瞭に現れた。これにより、処理時間が長くなるほど水酸化酸化アルミニウムが成長していることが確認された。
【0074】
[処理時間を変化させた場合のアルミ部材の表面粗さの確認]
アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。アルミ部材に対し、表面水酸化工程(S14)を実行した。表面水酸化工程(S14)として、オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180℃とした水蒸気処理をおこなった。水蒸気処理の処理時間は、それぞれ2時間、24時間、及び36時間である。なお、オートクレーブ内の圧力は1.0MPaとなった。
【0075】
この結果、処理時間が2時間の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.40μmとなり、処理時間が24時間の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.56 μmとなり、処理時間が36時間の場合におけるアルミ部材の算術平均粗さRaは0.59μmとなった。表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミ部材の算術平均粗さRaは0.39μmであった。
【0076】
これにより、水蒸気処理の処理時間が長くなるにしたがって、アルミ部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)が大きくなることが確認された。また、水蒸気処理の処理時間が2時間以上のとき、アルミ部材の表面粗さを増大させることが確認された。また、処理時間が24時間であった場合の結果と処理時間が36時間であった場合の結果とを比較することで、処理時間が24時間を超えるとアルミ部材の表面粗さ(算術平均粗さRa)の増大割合が鈍化することが確認された。このため、水蒸気処理の処理時間が24時間以下のとき、アルミ部材の表面粗さを効率良く増大させることが確認された。
【0077】
[せん断強度の確認]
実施例1~7及び比較例1~6を用意してせん断強度を確認した。
【0078】
[実施例1~7]
実施例1は、
図3~
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。表面水酸化工程(S14)を実行した。オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180 ℃とし、処理時間を2時間とした水蒸気処理をおこなった。続いて、接合工程(S16)を実行した。
図6及び
図7に示される金型20を用いて、アルミ部材2に樹脂部材3を接合させた。樹脂部材3は、PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂を用いた。樹脂部材3は、縦、横、厚さが10 mm×45 mm×3.0 mmとなるように設定した。射出成形の保持時(型閉じ時)において、金型温度は220℃、保持圧力は5MPa、保持時間は300 sとした。アルミ部材2と樹脂部材3との重なりは5 mmとした。
【0079】
実施例2は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例3の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を3時間とし、他の条件を実施例1と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0080】
実施例3は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例3の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を6時間とし、他の条件を実施例1と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0081】
実施例4は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例4の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を24時間とし、他の条件を実施例1と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0082】
実施例5は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行し、実施例3と同一の表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は0.4 MPaとした。このとき、アルミ部材の表面の算術平均傾斜は、0.17未満となった。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0083】
実施例6は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例6の表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を140℃とし、他の条件を実施例3と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0084】
実施例7は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例1と同一とした。実施例7の表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を220℃とし、他の条件を実施例3と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0085】
[比較例1~6]
比較例1は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とPPS樹脂とを接合させた部材を比較例1とした。
【0086】
比較例2は、アルミ部材として、実施例1と同一のブラスト加工工程(S12)を実行し、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0087】
比較例3は、アルミ部材として、実施例5と同一のブラスト加工工程(S12)を実行し、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0088】
比較例4は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を140℃とし、他の条件を実施例4と同一とした水蒸気処理をおこなった。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0089】
比較例5は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、実施例4と同一の表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0090】
比較例6は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)を実行せず、表面水酸化工程(S14)を実行したアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。表面水酸化工程(S14)では、加熱温度を220℃とし、他の条件を実施例4と同一とした水蒸気処理をおこなった。接合工程(S16)は実施例1と同一とした。
【0091】
[接合強度評価]
上記条件で作成された実施例1~7及び比較例1~6のせん断強度を測定した。評価装置は、ISO 19095に準拠する試験方法で測定した。
図16は、実施例に係る加工条件及びせん断強度の結果である。
図16に示されるように、実施例1のせん断強度は、21MPaであり、実施例2のせん断強度は、30 MPaであり、実施例3のせん断強度は、38 MPaであり、実施例4のせん断強度は、26 MPaであり、実施例5のせん断強度は、13MPaであり、実施例6のせん断強度は、30 MPaであり、実施例7のせん断強度は、35 MPaであった。比較例1のせん断強度は、1 MPaであり、比較例2のせん断強度は、15MPaであり、比較例3のせん断強度は、11 MPaであり、比較例4のせん断強度は、7.2 MPaであり、比較例5のせん断強度は、9.9 MPaであり、比較例6のせん断強度は、3.9MPaであった。
【0092】
実施例1~4と比較例2,3とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を実行することによって、ブラスト加工工程(S12)のみを実行する場合と比べてせん断強度が大きく向上することが確認された。また、実施例4と比較例4~6とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を実行することによって、表面水酸化工程(S14)のみを実行する場合とに比べてせん断強度が大きく向上することが確認された。
【0093】
なお、比較例1と比較例2,3とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)のみを実行することによって、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)の双方を実行していない場合と比べてせん断強度が多少は向上することが確認された。また、比較例1と比較例4~6とを比較すると、表面水酸化工程(S14)のみを実行することによって、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)の双方を実行していない場合と比べてせん断強度が多少は向上することが確認された。
【0094】
これらにより、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を組み合わせて実行することで、ブラスト加工工程(S12)のみを実行した場合及び表面水酸化工程(S14)のみを実行した場合の双方におけるせん断強度の向上という効果を活かすことができることが確認された。また、ブラスト加工工程(S12)及び表面水酸化工程(S14)を組み合わせて実行すること(実施例4)による相乗効果として、単にブラスト加工工程(S12)のみを実行した場合(比較例2)のせん断強度と表面水酸化工程(S14)のみを実行した場合(比較例5)のせん断強度とを足し合わせた値より大きなせん断強度が得られることが確認された。
【0095】
また、実施例3と実施例5とを比較、又は比較例2と比較例3とを比較すると、ブラスト加工工程(S12)においてアルミ部材の表面の算術平均傾斜が0.17以上0.50以下の範囲になるようにブラスト加工することによって、せん断強度は大きく向上することが確認された。
【0096】
実施例3と実施例6,7とを比較、又は比較例5と比較例4,6とを比較すると、表面水酸化工程(S14)における加熱温度を140℃以上220 ℃以下の範囲に設定することによってせん断強度が向上することが確認された。さらに、表面水酸化工程(S14)における加熱温度を180 ℃前後に設定することによってせん断強度が大きく向上することが確認された。
【0097】
実施例3と実施例1,2,4とを比較すると、表面水酸化工程(S14)における処理時間を2時間以上24時間以下の範囲に設定することにより、せん断強度が向上することが確認された。さらに表面水酸化工程(S14)における処理時間を6時間前後に設定することにより、せん断強度が大きく向上することが確認された。
【0098】
上述の通り、表面水酸化工程(S14)の加熱温度が140℃以上220 ℃以下となる範囲において、表面水酸化工程(S14)の加熱温度が180 ℃のときに、せん断強度は最も大きい値となり、ピーク値となった。さらに、表面水酸化工程(S14)の処理時間が2時間以上24時間以下となる範囲において、表面水酸化工程(S14)の処理時間が6時間のときに、せん断強度は最も大きい値となり、ピーク値となった。
【0099】
表面水酸化工程(S14)における加熱温度が140℃以上180 ℃以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることと同様、せん断強度も増大する。これは、一定の処理時間が経過したときに、アルミ部材の表面(接触層)にアルミニウム水酸化物が多く形成されているため、アルミ部材の表面における凹凸の数が増加していると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が増加することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が増大するため、加熱温度が140℃以上180 ℃以下の範囲において上昇するにしたがってせん断強度が増大すると考えられる。
【0100】
表面水酸化工程(S14)における加熱温度が180℃以上220 ℃以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることに対して、せん断強度は減少する。これは、一定の処理時間が経過したときに、アルミ部材の表面に形成されたアルミニウム水酸化物同士が重なり合って大きくなっているため、アルミ部材の表面における凹凸の数が減少していると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が減少することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が減少するため、加熱温度が180℃以上220 ℃以下の範囲において上昇するにしたがってせん断強度が減少すると考えられる。このため、140 ℃以上220 ℃以下の加熱温度の範囲において180 ℃前後でせん断強度のピークが現れると考えられる。
【0101】
表面水酸化工程(S14)における処理時間が2時間以上6時間以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることと同様、せん断強度も増大する。これは、処理時間の経過に伴い、アルミ部材の表面(接触層)にアルミニウム水酸化物が多く形成されるため、アルミ部材の表面における凹凸の数が増加すると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が増加することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が増大するため、処理時間が2時間以上6時間以下の範囲において長くなるにしたがってせん断強度が増大すると考えられる。
【0102】
表面水酸化工程(S14)における処理時間が6時間以上24時間以下の場合、表面粗さが増大する傾向であることに対して、せん断強度は減少する。これは、一定の処理時間(ここでは6時間)経過後、アルミ部材の表面に形成されたアルミニウム水酸化物同士が重なり合って大きくなるため、アルミ部材の表面における凹凸の数が減少すると考えられる。アルミ部材の表面に形成された凹凸の数が減少することでアルミ部材と樹脂部材との間で生じるアンカー効果への寄与が減少するため、処理時間が6時間以上24時間以下の範囲において長くなるにしたがってせん断強度が減少すると考えられる。このため、6時間以上24時間以下の処理時間の範囲において6時間前後でせん断強度のピークが現れると考えられる。
【0103】
[耐食性の確認]
実施例8及び比較例7を用意して耐食性を確認した。
【0104】
[実施例8]
実施例8は、実施例4と同一のブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)、及び接合工程(S16)を実行し、複合部材を形成した。
【0105】
[比較例7]
比較例7は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とPPS樹脂とを接合させた複合部材を比較例7とした。
【0106】
[耐食性評価]
上記条件で作成された実施例8及び比較例7の耐食性として、NaCl水溶液中を用いて電流密度を測定した。実施例8の複合部材及び比較例7の複合部材を、室温中の5wt%(重量パーセント)濃度のNaCl水溶液に浸漬させ、分極抵抗法により腐食電流密度を算出する。この結果、実施例8の複合部材の腐食電流密度は、比較例7の複合部材の腐食電流密度と比較して約1/100になった。表面水酸化工程(S14)における水蒸気処理において、アルミ部材の表面に不動態の機能を有するアモルファス層が形成されたことで、アルミ部材の表面における電流密度の低下につながったと考えられる。
【0107】
[硬さの確認]
実施例9,10及び比較例8を用意して硬さを確認した。
【0108】
[実施例9,10]
実施例9は、
図3~
図5に示されるブラスト加工装置を用いてブラスト加工工程(S12)を実行した。アルミ部材は、アルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。ブラスト加工には、材料がアルミナ、砥粒中心粒径が106μm~125μmの噴射材を用いた。ブラスト圧は1.0 MPaとした。このとき、アルミ部材の表面の算術平均傾斜は、0.17以上0.50以下となった。続いて、表面水酸化工程(S14)を実行した。オートクレーブ内に純水を10ml投入し、ブラスト加工されたアルミニウム板を配置して、加熱温度を180℃とし、処理時間を30分とした水蒸気処理をおこなった。続いて、接合工程(S16)を実行した。
図6及び
図7に示される金型20を用いて、アルミ部材2に樹脂部材3を接合させ、複合部材を形成した。樹脂部材3は、PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂を用いた。樹脂部材3は、縦、横、厚さが10 mm×45 mm×3.0 mmとなるように設定した。射出成形の保持時(型閉じ時)において、金型温度は220℃、保持圧力は5MPa、保持時間は300 sとした。アルミ部材2と樹脂部材3との重なりは5 mmとした。
【0109】
実施例10は、ブラスト加工工程(S12)及び接合工程(S16)は実施例9と同一とした。実施例10の表面水酸化工程(S14)では、処理時間を60分とし、他の条件を実施例9と同一とした水蒸気処理をおこなった。
【0110】
[比較例8]
比較例8は、アルミ部材として、ブラスト加工工程(S12)、表面水酸化工程(S14)を実行していないアルミニウム板(JIS:A5052)を用いた。このアルミ部材とPPS樹脂とを接合させた複合部材を比較例8とした。
【0111】
[硬さ評価]
上記条件で作成された実施例9,10の複合部材及び比較例8の複合部材の硬さとして、ビッカース硬さ試験(JIS Z 2244/ISO 6507-1)に準拠した硬さ試験を実行してビッカース硬さを測定した。このとき、試験力は0.05kgf/mm
2である。
図17は、アルミ部材のビッカース硬さの測定結果である。
図17に示されるように、実施例9のビッカース硬さは165HV0.05となり、実施例10のビッカース硬さは178HV0.05となり、比較例8のビッカース硬さは80HV0.05となった。この結果から、実施例9,10の各複合部材のビッカース硬さは、比較例8の複合部材のビッカース硬さと比較して約2倍以上になることが確認された。表面水酸化工程(S14)における水蒸気処理において、アルミ部材の表面に析出層が形成されたことで、アルミ部材の表面におけるビッカース硬さの向上につながったと考えられる。
【符号の説明】
【0112】
1…複合部材、2…アルミ部材、2a…表面、2b…凹凸、2c…母材、2d…析出層、2e…アモルファス層、2f…接触層、3…樹脂部材、10…ブラスト加工装置、11…処理室、12…噴射ノズル、13…貯留タンク、14…加圧室、15…圧縮気体供給機、16…定量供給部、17…連接管、18…加工テーブル、19…制御部、20…金型、21…金型本体。