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特許7371871構造体および構造体の製造方法ならびに電子機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】構造体および構造体の製造方法ならびに電子機器
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20231024BHJP
   B23K 20/24 20060101ALI20231024BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20231024BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20231024BHJP
   G02B 1/11 20150101ALN20231024BHJP
【FI】
B23K20/00 310M
B23K20/00 310C
B23K20/00 310D
B23K20/24
G02B5/20
G03B21/14 A
G02B1/11
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020565631
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047879
(87)【国際公開番号】W WO2020144992
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019000662
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 昇平
(72)【発明者】
【氏名】米澤 元
(72)【発明者】
【氏名】島津 武仁
(72)【発明者】
【氏名】魚本 幸
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/216763(WO,A1)
【文献】特開2013-243360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
B23K 20/24
G03B 21/14
G02B 5/20
G02B 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体と、
前記第1基体の前記一の面と対向配置された第2基体と、
前記第1基体と前記第2基体との間に設けられると共に、少なくとも金属元素を含み、光透過性を有するバッファ層と
を備えた構造体。
【請求項2】
前記第1基体は、前記一の面の少なくとも一部に表面粗さの大きな領域を有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第1基体は、2nm以上の算術平均粗さ(Ra)を有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記第1基体は多孔質基材である、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記第1基体はセラミックスである、請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
前記第2基体は金属基材である、請求項1に記載の構造体。
【請求項7】
前記第1基体は難硝材である、請求項1に記載の構造体。
【請求項8】
前記バッファ層は、膜厚方向に金属元素が局所的に分布している、請求項1に記載の構造体。
【請求項9】
前記第1基体と前記第2基体とは、原子拡散接合を用いて接合されている、請求項1に記載の構造体。
【請求項10】
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、前記第1のバッファ層の表面を研磨したのち、前記第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、
前記第1の金属膜と第2基体とを接合し、前記第1基体と前記第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成する
構造体の製造方法。
【請求項11】
前記第1の金属膜と前記第2基体とを接合したのち、加熱処理して前記バッファ層を形成する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第1のバッファ層を真空蒸着法またはスパッタリング法を用いて成膜する、請求項10に記載の構造体の製造方法。
【請求項13】
前記第1のバッファ層の表面を光学研磨または化学機械研磨を用いて処理する、請求項10に記載の構造体の製造方法。
【請求項14】
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、前記第1のバッファ層の表面を研磨したのち、前記第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、
第2基体上に、少なくとも金属元素を含む第2のバッファ層および微結晶構造を有する第2の金属膜を形成し、
前記第1の金属膜と前記第2の金属膜とを接合し、前記第1基体と前記第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成する
構造体の製造方法。
【請求項15】
前記第1の金属膜と前記第2の金属膜とを接合したのち、加熱処理して前記バッファ層を形成する、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体と、
前記第1基体の前記一の面と対向配置された第2基体と、
前記第1基体と前記第2基体との間に設けられると共に、少なくとも金属元素を含み、光透過性を有するバッファ層と
を有する構造体を備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、原子拡散接合を用いて接合された構造体およびその製造方法ならびにこれを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤のように、空間を充填することができる接着技術とは異なり、例えば、特許文献1において開示されている原子拡散接合をはじめとする無機接合では、接合界面における接触面積を増やして結合力を確保するため、表面粗さの小さな接合面、即ち算術平均粗さ(Ra)の小さな接合面が求められている。例えば、ガラスや結晶体は、研磨加工によって小さな算術平均粗さ(Ra)を有する接合面を実現しやすいことから、原子拡散接合やオプティカルコンタクト等で多くの実用例が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-46696号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、セラミックス等の多孔質基材や難硝材と称される加工および取り扱いが難しい基材では、研磨加工により小さな算術平均粗さ(Ra)を有する接合面の確保が難しく、十分な接合強度を得ることが難しい。
【0005】
接合強度を向上させることが可能な構造体および構造体の製造方法ならびにこれを備えた電子機器を提供することが望ましい。
【0006】
本開示の一実施形態の構造体は、一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体と、第1基体の一の面と対向配置された第2基体と、第1基体と第2基体との間に設けられると共に、少なくとも金属元素を含み、光透過性を有するバッファ層とを備えたものである。
【0007】
本開示の一実施形態の第1の構造体の製造方法は、一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、第1のバッファ層の表面を研磨したのち、第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、第1の金属膜と第2基体とを接合し、第1基体と第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成する。本開示の一実施形態の第2の構造体の製造方法は、一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、第1のバッファ層の表面を研磨したのち、第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、第2基体上に、少なくとも金属元素を含む第2のバッファ層および微結晶構造を有する第2の金属膜を形成し、第1の金属膜と第2の金属膜とを接合し、第1基体と第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成する。
【0008】
本開示の一実施形態の電子機器は、上記本開示の一実施形態の構造体を備えたものである。
【0009】
本開示の一実施形態の構造体および一実施形態の電子機器では、一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体と、その一の面と対向配置される第2基体との間に、研磨加工性に優れた少なくとも金属元素を含み、光透過性を有するバッファ層を設けるようにした。本開示の一実施形態の第1の構造体の製造方法では、一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、第1のバッファ層の表面を研磨したのち、第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、第1の金属膜と第2基体とを接合し、第1基体と第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成するようにした。本開示の一実施形態の第2の構造体の製造方法では、一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、第1のバッファ層の表面を研磨したのち、第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、第2基体上に、少なくとも金属元素を含む第2のバッファ層および微結晶構造を有する第2の金属膜を形成し、第1の金属膜と第2の金属膜とを接合し、第1基体と第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成するようにした。これにより、第1基体の一の面上に算術平均粗さ(Ra)の小さな接合面が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の第1の実施の形態に係る構造体の構成を表す断面模式図である。
図2A図1に示した構造体の製造方法の一例を表す断面模式図である。
図2B図2Aに続く工程を表す断面模式図である。
図2C図2Bに続く工程を表す断面模式図である。
図2D図2Cに続く工程を表す断面模式図である。
図2E図2Dに続く工程を表す断面模式図である。
図3】表面が研磨された多孔質基体の断面模式図である。
図4図3に示した多孔質基体を用いた構造体の断面模式図である。
図5】本開示の第2の実施の形態に係る構造体の構成の一例を表す断面模式図である。
図6】本開示の第2の実施の形態に係る構造体の構成の他の例を表す断面模式図である。
図7A図6に示した構造体の製造方法の一例を表す断面模式図である。
図7B図7Aに続く工程を表す断面模式図である。
図8】本開示の変形例1に係る構造体の構成を表す断面模式図である。
図9A図8に示した構造体の製造方法の一例を表す断面模式図である。
図9B図9Aに続く工程を表す断面模式図である。
図9C図9Bに続く工程を表す断面模式図である。
図9D図9Cに続く工程を表す断面模式図である。
図9E図9Dに続く工程を表す断面模式図である。
図10】本開示の変形例2に係る構造体の構成を表す断面模式図である。
図11A】本開示の実施例1に係る蛍光体ホイールの一例を表す断面模式図である。
図11B図11Aに示した蛍光体ホイールの平面模式図である。
図12A図11Aに示した蛍光体ホイールの製造方法の一例を表す断面模式図である。
図12B図12Aに続く工程を表す断面模式図である。
図12C図12Bに続く工程を表す断面模式図である。
図12D図12Cに続く工程を表す断面模式図である。
図12E図12Dに続く工程を表す断面模式図である。
図12F図12Eに続く工程を表す断面模式図である。
図13】本開示の実施例1に係る蛍光体ホイールの他の例を表す断面模式図である。
図14図13に示した蛍光体ホイールの構成の一例を表す断面模式図である。
図15A】本開示の実施例2に係る発光デバイスの構成の一例を表す断面模式図である。
図15B図15Aに示した発光デバイスの平面模式図である。
図16A】本開示の実施例2に係る発光デバイスの他の例を表す断面模式図である。
図16B図16Aに示した発光デバイスの平面模式図である。
図17】本開示の実施例3に係るレーザ増幅器の構成の一例を表す断面模式図である。
図18】本開示の実施例4に係るパルスレーザ素子の構成の一例を表す断面模式図である。図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示における実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の説明は本開示の一具体例であって、本開示は以下の態様に限定されるものではない。また、本開示は、各図に示す各構成要素の配置や寸法、寸法比等についても、それらに限定されるものではない。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.第1の実施の形態(一方に多孔質基体を用いた構造体の例)
1-1.構造体の構成
1-2.構造体の製造方法
1-3.作用・効果
2.第2の実施の形態(他方に多孔質基体または金属基体を用いた構造体の例)
3.変形例
3-1.変形例1(バッファ層が光透過性を有する例)
3-2.変形例2(一方に難硝材を用いた構造体の例)
4.実施例
【0012】
<1.第1の実施の形態>
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る構造体(構造体1)の断面構成を模式的に表したものである。この構造体1は、2つ以上の被接合部材が、例えば原子拡散接合によって接合された積層構造を有するものであり、例えば、プロジェクタ等に用いられる波長変換素子(例えば、図11A参照)を構成するものである。本実施の形態の構造体1は、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する多孔質基体11(第1基体)と、多孔質基体11の一の面と対向配置される基体21(第2基体)とを、少なくとも金属元素を含むバッファ層31内において、例えば原子拡散接合によって接合されたものである。
【0013】
(1-1.構造体の構成)
多孔質基体11は、上記のように、それを構成する材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有するものであり、例えば、層内に複数の空隙Gを有することから密度が連続的な結晶体よりも低いものである。多孔質基体11は、少なくとも一部に表面の粗さを表す算術平均粗さ(Ra)の大きな領域を有する基材であり、研磨加工により算術平均粗さ(Ra)を小さくすることが困難なものである。本実施の形態の多孔質基体11は、例えば2nm以上の算術平均粗さ(Ra)を有すると共に、例えば0.5μm以上3μm以下の空隙Gを複数有するものである。一例として、多孔質基体11は、セラミックスのような焼結体等が挙げられる。
【0014】
基体21は、例えば、接合面として平板な面を有するものであり、例えば、無機材料またはプラスチック材料により構成されている。無機材料としては、例えば、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)等の無機酸化物の結晶質固体、あるいは、ガラス質固体(非晶質固体)が挙げられる。なお、上記材料よりなるガラス質固体にはスピンオングラス(SOG)等が含まれる。この他、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)等の半導体、窒化シリコン(SiNx)、シリコンカーバイト(SiC)およびダイヤモンド等が挙げられる。プラスチック材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリエチルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0015】
多孔質基体11および基体21は、光透過性を有していてもよいし、光透過性を有していなくてもよい。光透過性を有する基体21としては、例えば、ガラスや石英基板等が挙げられる。
【0016】
バッファ層31は、多孔質基体11と基体21とを接合する接合部である。バッファ層31は、後述する構造体1の製造工程において形成される下地層31Aと、金属膜32,33とから構成されるものである。金属膜32は、下地層31Aを介して多孔質基体11上に設けられるものである。金属膜33は、例えば直接、基体21上に設けられるものである。バッファ層31には、金属膜32,33に由来する金属元素が膜厚方向に局所的に分布している。
【0017】
バッファ層31は、例えば、下地層31A由来の、例えば、酸素と結合した無機材料(無機酸化物)を含む。具体的には、例えば、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ニオブ(NbOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化タンタル(Ta25)アルミランタン酸化物(AlLaOx)、チタンランタン酸化物(TiLaOx)および酸化ハフニウム(HfOx)等が挙げられる。バッファ層31は、さらに、金属膜32,33由来の、例えば、アルミニウム(Al),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),銀(Ag),白金(Pt),金(Au),インジウム(In),スズ(Sn),ハフニウム(Hf),タングステン(W)およびタンタル(Ta)等を含む。この他、バッファ層31は、窒化シリコン(SiN)等の無機窒化物、酸窒化シリコン(SiON)等の無機酸窒化物およびフッ化シリコン(SiFx)等の無機フッ化物等を含んでいてもよい。バッファ層31の、例えばY軸方向の膜厚(以下、単に厚みという)は、例えば10nm以上10μm以下であることが好ましい。
【0018】
なお、バッファ層31を構成する無機酸化物は、ガラス質固体(非結晶質固体)でもよいし、結晶質固体でもよい。
【0019】
バッファ層31には、金属膜32,33由来の金属元素が膜厚方向に局所的に分布しているとしたが、金属元素はバッファ層31を形成する際の運動エネルギーおよび熱エネルギーや接合後の熱処理等により、下地層31Aおよび基体21との界面において相互拡散する。バッファ層31内の金属元素の分布を、例えば、エネルギー分散型X線分析法(Energy Dispersive X-ray analysis:EDX)、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometry:SIMS)およびTOF-SIMS分析等で測定した場合、この金属元素の相互拡散および接合界面の乱れによって、基体21との界面から多孔質基体11の界面に向かって、所定の範囲において連続的に低下する金属元素の濃度分布が確認できる。また、例えば、後述する第2の実施の形態の構造体2のように、多孔質基体11および多孔質基体41の両方に下地層を設けた場合には、金属元素は、バッファ層31の層内から多孔質基体11および基体21の界面に向かって所定の範囲において連続的に低下する金属元素の濃度分布が確認できる。なお、金属膜32と下地層31Aとの界面および金属膜33と基体21との界面における金属元素の相互拡散が小さい場合や、下地層31Aおよび基体21の表面粗さRaが小さい場合等には、金属元素の連続的な低下は急峻となり、所定の範囲内に矩形的に存在する濃度分布として観察される場合もある。
【0020】
(1-2.構造体の製造方法)
このような構造体1は、例えば、次のように製造することができる。
【0021】
まず、図2Aに示したように、算術平均粗さ(Ra)が大きな多孔質基体11を用意する。次に、例えば図2Bに示したように、例えば、イオンアシスト蒸着法(Ion Assisted Deposition:IAD)を用いて多孔質基体11の接合面上に下地層31Aを、研磨量と多孔質基体11の面の粗さを考慮して、例えば10nm以上10μm以下の厚さに形成する。なお、下地層31Aは、IADの他、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法および化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)等を用いて形成するようにしてもよい。
【0022】
下地層31Aは、上記バッファ層31を構成する無機酸化物を含んで構成されている。下地層31Aには、研磨加工性のよい材料を用いることが好ましく、具体的には、下地層31Aは、例えば、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ニオブ(NbOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化タンタル(Ta25)、アルミニウムランタン酸化物(AlLaOx)、チタンランタン酸化物(TiLaOx)および酸化ハフニウム(HfOx)のうちの1種または2種以上を含んで構成されている。下地層31Aの厚みは、上記のように、例えば10nm以上10μm以下の厚さとして形成することが好ましいがこれに限らない。
【0023】
続いて、図2Cに示したように、例えば物理あるいは化学的作用による研磨を行い、下地層31Aの算術平均粗さ(Ra)を低減する。具体的には、下地層31Aの表面は、平滑性を有することが好ましく、例えば0.5nm以下の算術平均粗さ(Ra)を有していることが好ましい。これにより、原子拡散接合法において好ましい接合面となる。
【0024】
なお、求められる接合面の算術平均粗さ(Ra)は、例えば、接合に用いられる金属膜32,33の厚みによって変わる。
【0025】
例えば、接合金属層(金属膜32,33)を構成する金属であるチタン(Ti)を用いてガラス質材料からなる2つの基体を接合する場合には、求められる接合面の算術平均粗さ(Ra)は以下のようになる。例えば、片側の基体に設けられる接合金属層(Ti膜)の厚みが50nm以下の場合には、接合面の算術平均粗さ(Ra)は1nm以下であれば無加圧で接合することででき、0.3nm以下であればさらに好ましい。また、片側の基体に設けられる接合金属層(Ti膜)の厚みが20nmより厚い場合には、接合面の算術平均粗さ(Ra)は1.0nm以下であれば10MPa以上で加圧することで接合することができる。
【0026】
接合に求められる接合金属層の厚みと接合面(本実施の形態では、下地層31Aおよび基体21)の算術平均粗さ(Ra)との関係は、接合金属層の結晶構造および自己拡散係数に依存する。例えば、面心立方格子を有し、且つ、自己拡散係数が大きなアルミニウム(Al)や金(Au)等を接合金属層に用いた場合には、接合界面において原子再配列現象が生じやすいため、算術平均粗さ(Ra)が大きくても接合することができる。また、例えば接合金属層としてアルミニウム(Al)膜を用い、後述する第2の実施の形態の構造体3のように、一方または両方の基体が金属基体である場合には、接合時に、例えば30MPa以上加圧することで、金属基体および接合金属層に弾性変形および塑性変形を誘導することが可能となる。その場合には、表面粗さ(Ra)が3nm程度でも接合することができる。
【0027】
なお、下地層31Aは、自己平滑化作用を有する成膜プロセスを用いて形成するようにしてもよい。その場合には、上記のような研磨処理は不要となる。また、下地層31Aには、上記のような研磨加工性の良好な材料の他に、変形が容易な樹脂を基体上に成膜することで辺回により接合面積を確保する手法も有効である。表面張力により樹脂表面の表面粗さが低減する濡れ性の高い樹脂を用いるとさらに有効である。
【0028】
次に、図2Dに示したように、下地層31A上に、例えば微結晶構造を有する金属膜32を形成し、同様の方法を用いて表面に金属膜33を形成した基体21を用意する。なお、基体21に求められる算術平均粗さ(Ra)および金属膜33の厚みは、下地層31Aに求められる算術平均粗さ(Ra)および金属膜32の厚みと同様である。続いて、多孔質基体11上の金属膜32と、基体21上の金属膜33とが正対するように、多孔質基体11および基体21を向かい合わせに配置する。
【0029】
金属膜32,33は、微結晶構造を有するものであり、例えば、アルミニウム(Al),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),金(Au),白金(Pt),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),銀(Ag),インジウム(In),スズ(Sn),ハフニウム(Hf)およびタンタル(Ta),タングステン(W)ならびにステンレス等を含んで構成されている。本実施の形態では、後述するように、原子拡散接合法を用いて金属膜32と金属膜33とを重ね合わせて多孔質基体11と基体21とを接合する。このとき、下地層31Aおよび基体21の表面が平滑であれば、金属膜32,33の厚みは、例えば、それぞれ0.2nmの極薄い膜でも接合できる。
【0030】
金属膜32,33は、例えば、以下の方法を用いて成膜する。まず、例えば、到達真空度が1×10-4~1×10-8Paの高真空度である真空容器において、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング等の物理蒸着法(Physical Vapor Deposition:PVD)、CVD法あるいは各種蒸着法を用いて、例えば0.2nm以上200nm以下の厚さの、例えばTi膜を成膜する。なお、拡散速度が比較的遅い金属材料を用いる場合には、成膜された金属膜32,33の内部応力を高めることが可能なプラズマの発生下で成膜を行う真空成膜方法や、スパッタリング法を用いて成膜することが好ましい。
【0031】
金属膜32,33の成膜時の真空容器内の圧力は、到達真空度が1×10-4~1×10-8Paの真空雰囲気であればよいが、低い圧力(高真空度)である程好ましい。これにより、例えば、Al等の酸化しやすい材料を用いることが可能となる。
【0032】
スパッタリング法を用いて金属膜32を成膜する場合には、成膜時における不活性ガス(一般的には、アルゴン(Ar)ガス)の圧力は、放電可能な領域(例えば、0.01Pa以上)であることが好ましい。但し、30Pa(300μbar)を超える接合を行うことができない虞があるため、上限は30Pa(300μbar)以下とすることが好ましい。これは、Arガス圧が上昇すると、成膜される金属膜32の算術平均粗さ(Ra)が増加するからである。なお、金属膜32,33は、自己平滑化作用を有する成膜プロセスを用いて形成するようにしてもよい。その場合には、金属膜32,33の表面が平滑になるため、接合面の算術平均粗さ(Ra)が大きくても接合することができるようになる。
【0033】
なお、金属膜32,33の成膜および後述する金属膜32と金属膜33との接合は、真空条件下、同じ装置内で実施することが望ましい。これにより、金属膜32,33の表面の酸化が低減され、良好な接合が可能となる。
【0034】
続いて、図2Eに示したように、例えば、原子拡散接合法を用いて金属膜32と金属膜33とを重ね合わせ、例えば基体21側から圧力(P)を加えて多孔質基体11と基体21とを接合する。これにより、金属膜32と金属膜33との接合界面および結晶粒界において原子拡散を生じさせ、且つ、接合歪みが緩和した接合を行うことが可能となる。以上により、図1に示した構造体1が完成する。
【0035】
なお、金属膜32,33の接合は、上述した原子拡散接合法以外の方法を用いて行ってもよい。例えば、対向配置された2つの基体の一方あるいは両方の表面に予め金属膜が形成されている場合には、真空容器内において、例えばプラズマエッチング等により予め形成された金属膜の表面の酸化物や有機物を除去して表面を活性化することで、他方の金属膜と接合させることが可能となる。
【0036】
(1-3.作用・効果)
2つ以上の被接合部材を貼り合わせる接合技術としては、原子拡散接合をはじめとする無機接合がある。無機接合では、接合界面における接触面積を増やして結合力を確保するため、算術平均粗さ(Ra)の小さな接合面が求められている。例えば、ガラス質の均質材料は、研磨加工によって小さな算術平均粗さ(Ra)を有する接合面を実現しやすいことから、原子拡散接合やオプティカルコンタクト等で多くの実用例が存在する。
【0037】
しかしながら、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有するセラミックス等の多孔質基材では、研磨加工により小さな算術平均粗さ(Ra)を有する接合面の確保が難しく、十分な接合強度を得ることが難しい。例えば、多孔質基材(多孔質基体1011)の表面を直接研磨した場合、例えば、図3に示したように、平坦度は改善されるものの、算術平均粗さ(Ra)はほとんど変化しない。例えばYAGセラミックスを光学研磨によって表面を研磨した場合、算術平均粗さは(Ra)は約2.0nmを限界としてこれ以上の改善は見られない。これは、YAGセラミックスが多数の粒子の焼結体であるため、光学研磨を行っても、表面の粒子の研磨によって構造内に存在する空隙が露出されてくるからである。
【0038】
このような面S1011を接合面として、基体(基体1021)と原子拡散接合を行った場合、多孔質基体1011と、多孔質基体1011と基体1021との間に形成される金属層1030中の接合面は、例えば図4に示したように、点接触となる。このため、十分な接合強度が得られる算術平均粗さ(Ra)0.5nm以下まで表面粗さを改善できる石英等のガラス質の均質材料を用いた接合体と比較して、多孔質基材を用いた接合体では、十分な接合強度を得ることが難しい。
【0039】
これに対して、本実施の形態の構造体1では、算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11と基体21との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層31を設けるようにした。このバッファ層31は、基体21との接合工程において、多孔質基体11上に設けられた下地層31A由来のものである。この下地層31Aは、例えばガラス質であり、研磨加工によって算術平均粗さ(Ra)の小さな平滑面を形成することができる。即ち、本実施の形態では、算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11上に、研磨加工性に優れた無機酸化物を含む下地層31Aを設けるようにしたので、多孔質基体11上の平滑性を確保することが可能となり、例えば原子拡散接合を用いた接合が可能となる。
【0040】
以上のように、本実施の形態では、算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11上に研磨加工性に優れた無機材料の下地層31Aを設け、これを研磨することで算術平均粗さ(Ra)の小さな接合面を形成するようにした。これにより、例えば、原子拡散接合を用いた接合において、被接合部材としては算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11を用いた構造体1の接合強度を向上させることが可能となる。
【0041】
以下、第2の実施の形態および変形例について説明するが、以降の説明において上記第1の実施の形態と同一構成部分については同一符号を付してその説明は適宜省略する。
【0042】
<2.第2の実施の形態>
図5は、本開示の第2の実施の形態に係る構造体(構造体2)の断面構成の一例を模式的に表したものであり、図6は、本開示の第2の実施の形態に係る構造体(構造体3)の断面構成の他の例を模式的に表したものである。これら構造体2,3は、上記第1の実施の形態と同様に、2つ以上の被接合部材が、例えば原子拡散接合によって接合された積層構造を有するものであり、例えば、レーザ増幅器(例えば、図16参照)を構成するものである。
【0043】
上記第1の実施の形態では、多孔質基体11との被接合部材として、無機材料またはプラスチック材料等からなる平板な接合面を有する基体21を用いた例を示したが、多孔質基体11との被接合部材はこれに限らない。
【0044】
例えば、多孔質基体11との被接合部材としては、図5に示した構造体2のように、算術平均粗さ(Ra)の大きな基体(多孔質基体41)を用いることができる。構造体2は、算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11と多孔質基体41とが、上記第1の実施の形態における構造体1と同様に、バッファ層31を間に接合されたものである。多孔質基体41は、多孔質基体11と同様に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有するものであり、例えば、層内に複数の空隙Gを有することから密度が結晶体よりも低いものである。多孔質基体41は、例えば2nm以上の算術平均粗さ(Ra)を有すると共に、例えば0.5μm以上50μm以下の空隙Gを複数有する。一例として、多孔質基体41は、セラミックスのような焼結体等が挙げられる。本実施の形態では、バッファ層31は、例えば10nm以上10μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0045】
図5に示したように、多孔質基体同士を接合する場合には、多孔質基体11と同様に、まず、多孔質基体41上に下地層を形成し、その表面を研磨して例えば0.5nm以下の算術平均粗さ(Ra)の小さな面を形成する。続いて、この下地層上に、上記第1の実施の形態において下地層31A上に形成された金属膜32と同様に、微結晶構造を有する金属膜を形成する。この金属膜と、多孔質基体11上に設けた金属膜32が正対するように、多孔質基体11および多孔質基体41を向かい合わせに配置し、例えば多孔質基体41側から圧力(P)を加えて接合する。以上により、図5に示した構造体2が完成する。
【0046】
また、多孔質基体11との被接合部材としては、図6に示した構造体3のように、算術平均粗さ(Ra)の大きな金属基体(金属基体51)も用いることができる。構造体3は、互いに算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11と金属基体51とが、バッファ層61を間に接合されたものである。被接合部材として金属基体51を用いる場合には、上述したように、接合時に所定の圧力を加えることにより、接合基体に弾性変形および塑性変形を誘導することができる。このような金属基体51では、算術平均粗さ(Ra)は例えば3nm以下であればよい。金属基体51を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)および亜鉛(Zn)等が挙げられる。構造体3のように、圧力の印加によって弾性変形および塑性変形が可能な被接合部材を用いる場合には、金属膜32の厚みは、例えば10nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0047】
以下に、構造体3の製造方法について説明する。
【0048】
上記第1の実施の形態と同様の方法を用いて、下地層31Aおよび金属膜32が形成された多孔質基体11を用意する。続いて、金属基体51の算術平均粗さ(Ra)の大きな面上に金属膜63を形成し、図7Aに示したように、金属膜32と金属膜63とが正対するように、多孔質基体11および金属基体51とを向かい合わせに配置する。
【0049】
金属膜63は、金属膜32と同様に、微結晶構造を有するものであり、上記金属材料あるいは半金属材料を含んで構成されている。金属膜63の厚みは、加圧による金属膜32および金属膜63、ならびに金属基体51の変形を加味して接合する面積が十分な厚みを有することが好ましく、例えば10nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0050】
金属膜63は、上記金属膜32と同様の方法を用いて成膜することができる。まず、例えば、到達真空度が1×10-4~1×10-8Paの高真空度である真空容器において、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング等のPVD法、CVD法あるいは各種蒸着法を用いて、例えば0.2nm以上200nm以下の厚さの、例えばTi膜を成膜する。なお、拡散速度が比較的遅い金属材料を用いる場合には、成膜された金属膜53の内部応力を高めることが可能なプラズマの発生下で成膜を行う真空成膜方法や、スパッタリング法を用いて成膜することが好ましい。
【0051】
金属膜63の成膜時の真空容器内の圧力は、到達真空度が1×10-4~1×10-8Paの真空雰囲気であればよいが、低い圧力(高真空度)である程好ましい。これにより、例えば、Al等の酸化しやすい材料を用いることが可能となる。
【0052】
スパッタリング法を用いて金属膜63を成膜する場合には、成膜時における不活性ガス(一般的には、アルゴン(Ar)ガス)の圧力は、放電可能な領域(例えば、0.1Pa以上)であることが好ましい。但し、30Pa(300μbar)を超える接合を行うことができない虞があるため、上限は30Pa(300μbar)以下とすることが好ましい。これは、Arガス圧が上昇すると、成膜される金属膜63の算術平均粗さ(Ra)が増加するからである。なお、金属膜63は、自己平滑化作用を有する成膜プロセスを用いて形成するようにしてもよい。その場合には、金属膜63の表面が平滑になるため、接合面の算術平均粗さ(Ra)が大きくても接合することができるようになる。
【0053】
なお、金属膜32,63の成膜および後述する金属膜32と金属膜63との接合は、真空条件下、同じ装置内で実施することが望ましい。これにより、金属膜32,63の表面の酸化が低減され、良好な接合が可能となる。
【0054】
続いて、図7Bに示したように、例えば、原子拡散接合法を用いて金属膜32と金属膜63とを重ね合わせ、例えば金属基体51側から圧力(P)を加える。このとき、金属基体51および金属膜63は変形し、対向する金属膜32との接触面積が増加する。これにより、金属膜63と金属膜63との接合界面および結晶粒界において原子拡散を生じさせ、且つ、接合歪みを緩和させた接合を行うことが可能となる。以上により、図6に示した構造体3が完成する。
【0055】
以上のように、本実施の構造体2では、算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11,41のそれぞれに、下地層(例えば下地層31A)を設け、その表面を研磨して例えば0.5nm以下の算術平均粗さ(Ra)の小さな面を形成したのち、それぞれの下地層上に、金属膜(例えば金属膜32)を形成して接合するようにした。本実施の形態の構造体3では、多孔質基体11の被接合部材として算術平均粗さ(Ra)の大きな金属基体(金属基体51)を用い、多孔質基体11との接合面側に、上記第1の実施の形態において下地層31A上に設けた金属膜32と同様の金属膜63を設け、多孔質基体11側に設けられた金属膜32と接合するようにした。これにより、多孔質基体11との被接合部材を限定することなく、接合強度に優れた構造体を形成することができる。
【0056】
<3.変形例>
(3-1.変形例1)
図8は、本開示の変形例1に係る構造体(構造体4)の断面構成の一例を模式的に表したものである。構造体4は、上記第1の実施の形態と同様に、2つ以上の被接合部材が、例えば原子拡散接合によって接合された積層構造を有するものであり、例えば、プロジェクタ等に用いられる波長変換素子(例えば、図9A参照)の他、レーザ増幅器やプリズム等、光透過性を有する光学部材等を構成するものである。本変形例では、上記第1の実施の形態と同様に、算術平均粗さ(Ra)の大きな多孔質基体11と、接合面として平板な面を有する基体21とを用いた場合を例に説明する。
【0057】
バッファ層71は、多孔質基体11と基体21とを接合する接合部である。バッファ層71は、上記第1の実施の形態等と同様に、製造工程において形成される下地層71Aと、金属膜72,73とからなり、本変形例では、さらに光透過性を有する構成となっている。
【0058】
バッファ層71は、例えば、下地層71A由来の、例えば、酸素と結合した無機材料(無機酸化物)を含む。具体的には、例えば、酸化シリコン(SiOx)、酸化アルミニウム(AlOx)、酸化ニオブ(NbOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化タンタル(Ta25)アルミランタン酸化物(AlLaOx)、チタンランタン酸化物(TiLaOx)および酸化ハフニウム(HfOx)等が挙げられる。バッファ層71は、さらに、金属膜72,73由来の、例えば、アルミニウム(Al),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),銀(Ag),インジウム(In),スズ(Sn),ハフニウム(Hf)およびタンタル(Ta)等を含む。この他、バッファ層71は、窒化シリコン(SiN)等の無機窒化物、酸窒化シリコン(SiON)等の無機酸窒化物およびフッ化シリコン(SiFx)等の無機フッ化物等を含んでいてもよい。本実施の形態では、バッファ層71は、例えば10nm以上10μm以下の厚みを有することが好ましい。
【0059】
なお、バッファ層71を構成する無機酸化物は、結晶質固体でもよいし、ガラス質固体(非結晶質固体)でもよい。
【0060】
バッファ層71には、上記第1の実施の形態と同様に、膜厚方向に局所的に金属元素が分布している。この金属元素は、金属膜72,73由来のものである。金属膜72,73を構成する金属元素は、詳細は後述するが、金属膜72と金属膜73との接合後のアニール処理において、下地層(本変形例では、下地層71A)を構成する酸素原子が、下地層71Aに接する金属膜72に向かって拡散する。この酸素原子の拡散および接合界面の乱れによって、バッファ層71内の金属元素の分布を、例えば、EDX、EELS、SIMSおよびTOF-SIMS分析等で測定した場合、上記下地層71Aからの酸素原子の拡散によって、基体21との界面から多孔質基体11の界面に向かって、所定の範囲において連続的に低下する金属元素の濃度分布が確認できる。また、例えば、第2の実施の形態の構造体2のように、多孔質基体11および多孔質基体41の両方に下地層を設けた場合には、金属元素は、バッファ層71の層内から多孔質基体11および基体21の界面に向かって所定の範囲において連続的に低下する金属元素の濃度分布が確認できる。なお、下地層(本変形例では、下地層71A)を構成する酸素原子と金属膜72,73の金属元素との化学結合の安定性が高い場合や、バッファ層の表面粗さRaが小さい場合等には、金属元素の連続的な低下は急峻となり、所定の範囲内に矩形的に存在する濃度分布として観察される場合もある。
【0061】
以下に、構造体4の製造方法について説明する。
【0062】
まず、図9Aに示したように、多孔質基体11を用意する。次に、例えば図9Bに示したように、例えば、電子線を用いた真空蒸着法を用いて多孔質基体11の接合面上に下地層71Aを、研磨量と多孔質基体11の面の粗さを考慮して、例えば10nm以上10μm以下の厚さに形成する。なお、下地層71Aは、真空蒸着法の他、IAD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法およびCVD法等を用いて形成するようにしてもよい。
【0063】
下地層71Aは、酸素と化学結合した無機材料(無機酸化物)であると共に、研磨加工性がよい材料を用いることが好ましい。また、粒界等によって層内に形成される空隙に酸素を物理的な吸着によって内包することができる材料を用いるようにしてもよい。いずれの材料においても、金属膜72,73に用いられる金属材料よりも酸素結合力が低い材料であることが好ましい。一例としては、酸化シリコン(SiOx)等の無機酸化物、アルミニウム(Al),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),コバルト(Co),ニッケル(Ni),銅(Cu),亜鉛(Zn),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),モリブデン(Mo),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),銀(Ag),インジウム(In),スズ(Sn),ハフニウム(Hf)およびタンタル(Ta)等の金属酸化物が挙げられる。下地層71Aの厚みは、上記のように、例えば10nm以上10μm以下の厚さとして形成することが好ましいがこれに限らない。
【0064】
ここで、酸素結合力について以下のように定義する。例えば、金属膜72,73を構成する金属材料としてチタン(Ti)を用いる場合の金属膜72,73を構成する金属材料の酸素結合力とは、チタン原子と酸素原子との化学結合力である。また、酸素供給材料として酸化ケイ素(SiO2)を用いた場合の酸素供給材料の酸素結合力とは、シリコン原子と酸素原子との化学結合力および酸化ケイ素(SiO2)と非共有結合性で捕らわれている酸素との結合力を含む。なお、非共有結合性の中には水を介して捕らわれている酸素や膜中に捕らわれている酸素を含むものとする。
【0065】
続いて、図9Cに示したように、例えば物理あるいは化学的作用による研磨を行い、下地層71Aの算術平均粗さ(Ra)を低減する。具体的には、下地層71Aの表面は、平滑性を有することが好ましく、例えば0.5nm以下の算術平均粗さ(Ra)を有していることが好ましい。
【0066】
なお、下地層71Aは、自己平滑化作用を有する成膜プロセスを用いて形成するようにしてもよい。その場合には、上記のような研磨処理は不要となる。また、下地層71Aには、上記のような研磨加工性の良好な材料の他に、変形が容易な樹脂を基体上に成膜することで辺回により接合面積を確保する手法も有効である。表面張力により樹脂表面の表面粗さが低減する濡れ性の高い樹脂を用いるとさらに有効である。
【0067】
次に、図9Dに示したように、下地層71A上に、例えば微結晶構造を有する金属膜72を形成し、同様の方法を用いて表面に金属膜73を形成した基体21を用意し、多孔質基体11上の金属膜72と、基体21上の金属膜73とが正対するように、多孔質基体11および基体21を向かい合わせに配置する。
【0068】
金属膜72,73は、微結晶構造を有するものであり、例えば、アルミニウム(Al),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),ハフニウム(Hf)およびタンタル(Ta)等の酸化することで透明化する金属を含んで構成されている。本変形例では、後述するように、原子拡散接合法を用いて金属膜32と金属膜33とを重ね合わせて多孔質基体11と基体21とを接合する。このとき、下地層31Aおよび基体21の表面が平滑であれば、金属膜72,73の厚みは、例えば、それぞれ0.2nmの極薄い膜でも接合できる。
【0069】
なお、金属膜72,73の成膜および後述する金属膜72と金属膜73との接合は、真空条件下、同じ装置内で実施することが望ましい。これにより、金属膜72,73の表面の酸化が低減され、良好な接合が可能となる。
【0070】
続いて、図9Eに示したように、例えば、原子拡散接合法を用いて金属膜72と金属膜73とを重ね合わせ、例えば基体21側から圧力(P)を加えて多孔質基体11と基体21とを接合する。これにより、金属膜72と金属膜73との接合界面および結晶粒界において原子拡散を生じさせ、且つ、接合歪みを緩和させた接合を行うことが可能となる。最後に、接合された多孔質基体11および基体21をアニール処理として、例えば、100℃以上800℃以下の環境下に放置する。これにより、多孔質基体11と基体21との間には、金属元素が膜厚方向に局所的に分布したバッファ層71が形成される。以上により、図8に示した構造体4が完成する。
【0071】
なお、金属膜72,73の接合は、上述した原子拡散接合法以外の方法を用いて行ってもよい。例えば、対向配置された2つの基体の一方あるいは両方の表面に予め金属膜が形成されている場合には、真空容器内において、例えばプラズマエッチング等により予め形成された金属膜の表面の酸化物や有機物を除去して表面を活性化することで、他方の金属膜と接合させることが可能となる。
【0072】
また、金属膜72の厚みは、下地層71Aから発生する酸素によって金属膜72を構成する金属材料が十分に酸化される厚みとすることが好ましく、下地層71Aと比較して十分に薄いことが望ましい。接合強度は、金属膜72,73の酸化が進むほど強度が増す。金属膜72,73の厚みは、バッファ層71に光透過性の有無によって変わり、例えば、バッファ層71が光透過性を有する本変形例では、例えば0.2nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0073】
アニール処理は、金属膜72,73の成膜および金属膜72と金属膜73との接合と同じ条件下で実施してもよいし、装置外において、例えば大気中で実施してもよい。また、アニール処理の下限温度である100℃は、構造体1が用いられる環境温度以上の温度としての一例である。上限温度である800℃は、構造体1を光学素子として用いる場合に多孔質基体11、基体21および下地層71Aに使用される光学ガラスの軟化点、金属の融点、薄膜の熱応力による破壊温度に基づくものである。よって、アニール処理の温度は、上記範囲に限定されるものではなく、例えば、構造体1が使用される環境温度の範囲内でも安定な金属酸化膜が形成される場合には、100℃以下で処理することが好ましい。例えば、低融点ガラスや熱膨張係数の異なる多孔質基体11と基体21との接合を行う場合には、アニール処理は、例えば300℃以下の環境下であることが好ましく、より好ましくは、例えば100℃以下である。例えば、成膜プロセスや成膜材料によっては、金属膜72,73を常温で放置することにより酸化させることができる。更に、下地層71Aの密度を下げて層内の空隙を増やすことによって物理吸着される水が多くなる。これにより、酸素供給層から供給される酸素が増え、金属膜72,73は常温での酸化が促進される。
【0074】
なお、金属膜72,73の酸化を進めるプロセスとしては、レーザや電磁波加熱を用いてもよく、その加熱が局在的であってもよい。
【0075】
以上のように、本変形例では、下地層71Aの材料として酸素結合力が低い材料を用い、さらに、金属膜72と金属膜73との接合後にアニール処理を行うようにした。これにより、金属膜72および金属膜73を構成する金属元素が酸化され、バッファ層71は光透過性を有するようになる。
【0076】
(3-2.変形例2)
図10は、本開示の変形例2係る構造体(構造体5)の断面構成を模式的に表したものである。この構造体5は、2つ以上の被接合部材が、例えば原子拡散接合によって接合された積層構造を有するものであり、例えば、色収差を補正する接合レンズ、プロジェクタに用いる偏光分離プリズムを構成するものである。本変形例の構造体5は、難硝基体81と基体21とを、少なくとも金属元素を含むバッファ層31を間に、例えば原子拡散接合によって接合されたものである。
【0077】
難硝基体81は、それを構成する材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有するものであり、例えば、摩耗度300以上の難硝材である。一例として、難硝基体81は、リン酸系、フツリン酸系(例えば、リン酸(P25)とフッ化物(例えば、AlF3やCaF2等)とからなるフツリン酸塩ガラス)または酸化鉛を主成分とする硝材が挙げられる。
【0078】
難硝基体81と基体21との接合は、例えば、上記第1の実施の形態と同様の方法を用いて製造することができる。
【0079】
難硝材は、研磨加工により表面の粗さを表す算術平均粗さ(Ra)を小さくすることはできるものの、大気中の水分や、洗浄液、研磨剤と化学的な反応を起こしやすく、放置により面の荒さが荒れていったり、洗浄により面が荒れたりする。このため、表面粗さを低く保つことが難しく、接合時には、例えば、図10に示したように、表面が粗な状態となりやすい。
【0080】
これに対して、本変形例では、上記第1の実施の形態と同様に、少なくとも金属元素を含むバッファ層31を介して難硝基体81と基体21とを接合するようにした。これにより、難硝基体81のように、表面粗さを低く保つことが難しい基材も、例えば原子拡散接合を用いた接合が可能となる。
【0081】
<4.実施例>
次に、上記実施の形態および変形例において説明した機能素子(構造体1~5)の実施例について説明する。但し、以下で説明する構成はあくまで一例であり、その構成は適宜変更可能である。
【0082】
(実施例1)
図11Aは、蛍光体ホイール(蛍光体ホイール100A)の断面構成の一例を式的に表したものであり、図11Bは、図11Aに示した蛍光体ホイール100Aの平面構成の一例を模式的に表したものである。なお、図11Aは、図11Bに示したI-I線における断面を表している。この蛍光体ホイール100Aは、例えばプロジェクタの光源部における透過型の波長変換素子として用いられるものである。
【0083】
蛍光体ホイール100Aは、例えば、回転可能なホイール基板111上に、ダイクロイック膜112、バッファ層131、界面反射防止膜122および蛍光体層121がこの順に積層された構成を有し、さらに、ホイール基板111の裏面および蛍光体層121上には、それぞれ反射防止膜113,123が設けられている。ホイール基板111は、例えばサファイア基板であり、上記実施の形態における基体21に相当する。蛍光体層121は、例えば円環形状を有し、例えばプレート状のセラミックス蛍光体であり、上記実施の形態における多孔質基体11に相当する。ダイクロイック膜112は、例えば、青の波長帯域の光を選択的に透過し、緑および赤の波長帯域の光を選択的に透過するものである。界面反射防止膜122は、バッファ層131と蛍光体層121間の屈折率の違いに起因する界面反射を低減するためのものである。これらダイクロイック膜112および界面反射防止膜122が機能層の一具体例に相当する。
【0084】
以下に、蛍光体ホイール100Aの製造方法について説明する。
【0085】
まず、図12Aに示したように、蛍光体層121を、ガラス等からなる支持基板140上に、接着層141を介して固定する。支持基板140は、例えばガラス等からなる。接着層141としては、例えばアクリル系紫外線硬化接着剤を用いることができる。続いて、図12Bに示したように、支持基板140および蛍光体層121上に、例えばIADを用いて、例えば誘電体多層膜からなる界面反射防止膜122を成膜したのち、さらに、例えば酸化シリコン(SiOx)からなる下地層131Aを成膜する。次に、下地層131Aの表面を、例えば光学研磨して表面粗さを、例えばRa=0.3nm未満に低減する。
【0086】
続いて、図12Cに示したように、ホイール基板111上に、例えばIADを用いて、ダイクロイック膜112を成膜したのち、さらに、例えば酸化シリコン(SiOx)からなる下地層131Bを成膜し、下地層131Aと同様に、例えば光学研磨して表面粗さを、例えばRa=0.3nm未満に低減する。次に、図12Dに示したように、下地層131A,131B上に、それぞれTi膜からなる金属膜132,133を成膜したのち、図12Eに示したように、金属膜132と金属膜133とを対向配置し、圧力(P)を加えて接合する。接合後、アニール処理することで下地層131A,131Bから供給される酸素によって金属膜132,133を酸化させ、接合面の透明化および接合力の強化を行う。これにより、ダイクロイック膜112と界面反射防止膜122との間にバッファ層131が形成される。更に、このアニール処理により接着層141を構成する樹脂が熱分解され、図12Fに示したように、支持基板140が除去される。この後、蛍光体層121上に反射防止膜123を形成する。以上により、蛍光体ホイール100Aが完成する。
【0087】
本実施例の蛍光体ホイール100Aは、全ての部材が無機材料で構成されており、有機接着剤を用いて接着した場合と比較して、耐熱性および耐光性が向上する。また、励起光の照射によって蛍光体が温度上昇した際にも、線膨張係数が近いサファイア基板からなるホイール基板111と一体となって膨張するため、割れに対して強くなる。
【0088】
なお、蛍光体ホイール100Aでは、ホイール基板111として光透過性を有するサファイア基板を用いた例を示したが、例えば光反射性を有する金属基板を用いてもよい。
【0089】
図13は、蛍光体ホイール(蛍光体ホイール100B)の断面構成の他の例を模式的に表したものであり、図14は、図13に示した発光層120の積層構造を含む蛍光体ホイール100Bの断面構成の一例を模式的に表したものである。蛍光体ホイール100Bは、例えばプロジェクタの光源部における反射型の波長変換素子として用いられるものである。
【0090】
蛍光体ホイール100Bは、回転可能なホイール基板151上に、発光層120およびカバーガラス152がこの順に積層されたものである。カバーガラス152は、例えば、ガラスホルダヒートシンク153およびインナープレートによってホイール基板151に固定されている。蛍光体ホイール100Bには、その中心部に回転軸(例えば、軸J155)となるシャフト155およびモータ156が取り付けられている。
【0091】
発光層120は、ホイール基板151側から順に、接着層157、誘電体多層膜158、蛍光体層121、反射防止膜123および無機接合層124が積層されており、例えば、蛍光体層121とカバーガラス152とが本技術を用いて接合されている。カバーガラス152上には、例えば反射防止膜159が設けられている。
【0092】
この反射型の蛍光体ホイール100Bでは、セラミックス蛍光体からなる蛍光体層121上の光取り出し面にサファイアガラスからなるカバーガラス152を接合することで、励起光の照射によって蛍光体層121で発生した熱が、ホイール基板151に加えて、カバーガラス152を介して排熱される。即ち、蛍光体ホイール100Bでは、ホイール基板151側の裏面に加えて、励起光入射側にも排熱経路を形成することが可能となり、蛍光体層121の温度上昇を低減することが可能となる。よって、蛍光変換効率を向上させることが可能となる。また、本実施例における蛍光体ホイール100Bでは、蛍光体層121の励起光の入射面をカバーガラス152によって面一括で押えることができるため、蛍光体層121の温度上昇によって発生する部分的な熱変形による割れを防ぐことが可能となる。
【0093】
なお、本実施例では、回転型の波長変換素子を例に示したが、本技術は、非回転型の波長変換素子にも適用することができる。
【0094】
(実施例2)
図15Aは、発光デバイス200(発光デバイス200A)の断面構成の一例を表したものであり、図15Bは、図15Aに示した発光デバイス200Aの平面構成を模式的に表したものである。なお、図15Aは、図15Bに示したII-II線における断面を表している。発光デバイス200Aは、例えば、プロジェクタの光源や、自動車のヘッドライト光源等の照明装置として用いられるものである。
【0095】
発光デバイス200Aは、例えば非回転型の透過型波長変換素子であり、例えば、蛍光体層211の前面側にレンズ230が、背面側にLED221が配置されている。発光デバイス200Aでは、蛍光体層211の背面から照射された励起光が蛍光体層211において蛍光に変換され、レンズ230から取り出される。発光デバイス200Aは、具体的には、例えば、デバイスケース240内に、LED221、LED221の周囲に中空構造220Xを形成する取り込みレンズ220、バッファ層213C、誘電体膜213B、反射防止膜213A、蛍光体層211、誘電体膜212A、バッファ層212B、誘電体膜212Cおよびレンズ230がこの順に積層されている。デバイスケース240は、例えば、基板250上に配置されている。発光デバイス200Aでは、例えば、蛍光体層211と取り込みレンズ220と、および蛍光体層211とレンズ230とが本技術を用いて接合されている。
【0096】
なお、図15Aでは、LED221上に、LED221の周囲に中空構造220Xを形成する取り込みレンズ220を配置した例を示したが、これに限らず、例えば、取り込みレンズ220を省略し、LED221上に間隙を形成するようにしてもよい。
【0097】
図16Aは、発光デバイス200(発光デバイス200B)の断面構成の一例を表したものであり、図16Bは、図16Aに示した発光デバイス200Bの平面構成を模式的に表したものである。なお、図16Aは、図16Bに示したIII-III線における断面を表している。発光デバイス200Bは、例えば、プロジェクタの光源や、自動車のヘッドライト光源等の照明装置として用いられるものである。
【0098】
発光デバイス200Bは、例えば非回転型の反射型波長変換素子であり、例えば、蛍光体層211の前面側にレンズ230が、発光デバイス200Bの外部にLED等の発光素子が配置されている。発光デバイス200Bでは、レンズ230側から励起光が入射し、蛍光体層211において変換された蛍光および未変換の励起光がレンズ230から取り出される。発光デバイス200Bは、具体的には、例えば、デバイスケース240内に、例えば金属膜からなる反射ミラー214、蛍光体層211、誘電体膜212A、バッファ層212B、誘電体膜212Cおよびレンズ230がこの順に積層されている。発光デバイス200Bでは、例えば、蛍光体層211とレンズ230とが本技術を用いて接合されている。
【0099】
一般に、YAGセラミックス蛍光体は高い屈折率を有するため、セラミックス蛍光体内で発生した蛍光は、内部反射によって蛍光体内部に閉じ込められ、外部に取り出せない光が存在する。
【0100】
球形に近いミクロンサイズの蛍光体粒子では、表面反射の影響を軽減して光を内部まで効率的に取り込めると共に、光の取り出しも容易になる。また、反射した光を別の蛍光体粒子で利用することができる。このため、一般的な白色LEDでは、蛍光体粒子を球形に近い形状とし、例えばシリコン製の封止樹脂と蛍光体粒子とを混合して形成した蛍光体層211をパッケージに充填している。このパッケージ化された蛍光体層211は平滑な表面を有しており、そのため、反射の影響が大きく、上記YAGセラミックス蛍光体と同様に、蛍光の閉じ込めが大きく、光取り出し効率が低かった。
【0101】
これに対して、発光デバイス200Aでおよび発光デバイス200Bは、蛍光体層211上に誘電体膜212A、バッファ層212B、誘電体膜212Cを介してレンズ230を接合することで、全反射のない、光取り出し効率が向上した発光デバイス200Aおよび発光デバイス200Bを提供することが可能となる。
【0102】
(実施例3)
レーザ増幅器(continuous wave:CW)は、一般的にポンプ光が増大することによって波長変換素子(レーザ媒質)の温度が上昇し、変換効率が低減することが知られている。これを解決するため冷却排熱目的で熱伝導性のよい材料を接合することで放熱特性を向上させることができ、レーザ媒質の温度低減によって変換効率を維持することができる。例えば、熱伝導性のよい材料には、レーザ媒質YAG(nd:1.81)とCVDダイヤモンド(nd:2.39)、YAG(nd:1.81)と6H-SiC(nd:2.6)、YAG(nd:1.81)とサファイア(nd:1.74)、YAG(nd:1.81)とYAG(nd:1.81)等の組み合わせた接合が考えられる。このとき、光線透過面で異種の材料で接合する場合、接合界面でのフレネル反射損失が存在する。この接合界面でのフレネル反射損失を低減するために誘電体多層膜を内包し、屈折率をマッチングさせる形での接合が低損失で有効となる。
【0103】
図17は、例えば屈折率1.81を有するYAG層311と、YAG層321とが接合された排熱構造を有するレーザ増幅器(レーザ増幅器300)の断面構成の一例を表したものである。その接合面には、それぞれSiO2層332,333と、SiO2層331とYAG層311、SiO2層331とYAG層321との界面における反射を防止する界面反射防止膜312,322がそれぞれ設けられており、YAG層311およびYAG層321が、上記変形例における多孔質基体11,41の一具体例に相当し、SiO2層332,333が下地層に相当し、これらがバッファ層331となる。更に、界面反射防止膜312,322が機能層の一具体例に相当する。なお、接合金属には、例えばチタン(Ti)が用いられており、例えば、バッファ層を構成するSiO2層331のSiO2層332とSiO2333との界面近傍に分布している。
【0104】
(実施例4)
パルスレーザモジュールでは、増幅器の機能を有する、例えばNdドープYAGと、受動Qスイッチ器の機能を有するCrドープYAGとが接合されている。この場合、ポンプ光波長は反射し、誘導放出光のみを透過する誘電体多層膜を内包し、接合することによって波長変換層(増幅器)とパルス光を生成する受動Qスイッチ器を一体化させたシンプルなパルスレーザ素子構造が実現できる。
【0105】
図18は、レーザ増幅器411と、Qスイッチ421とが接合されたパルスレーザ素子(パルスレーザ素子400)の断面構成の一例を表したものである。レーザ増幅器411と、Qスイッチ421との接合面には、それぞれSiO2層432,433が設けられており、SiO2層431とレーザ増幅器411との間には、ポンプ光を反射し、誘導放出光を透過するエッジフィルタ412が、SiO2層331とQスイッチ421との間には界面反射防止膜422がそれぞれ設けられている。このパルスレーザ素子400では、レーザ増幅器411およびQスイッチ421が、上記変形例における多孔質基体11,41の一具体例に相当し、SiO2層432,433が下地層に相当し、これらがバッファ層431となる。更に、エッジフィルタ412および界面反射防止膜422が機能層の一具体例に相当する。なお、接合金属には、例えばチタン(Ti)が用いられており、例えば、バッファ層を構成するSiO2層331のSiO2層432とSiO2433との界面近傍に分布している。
【0106】
以上、第1,第2の実施の形態および変形例1,2ならびに実施例を挙げて本開示を説明したが、本開示は上記実施形態等で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、実施の形態等において説明した全ての構成要素を備える必要はなく、さらに他の構成要素を含んでいてもよい。また、上述した構成要素の材料や厚みは一例であり、記載したものに限定されるものではない。
【0107】
また、例えば上記第1の実施の形態等では、多孔質基体11として多孔質基材を挙げて説明したが、本技術は多孔質基材に限らず、加工性の低い金属、難加工硝材等の接合においても適用することができる。
【0108】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0109】
なお、本開示は以下のような構成を取ることも可能である。以下の構成によれば、第1基体の一の面上に、第2基体との接合面として、算術平均粗さ(Ra)の小さな接合面を形成することが可能となる。よって、接合強度の向上した構造体およびこれを備えた電子機器を提供することが可能となる。
(1)
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体と、
前記第1基体の前記一の面と対向配置された第2基体と、
前記第1基体と前記第2基体との間に設けられると共に、少なくとも金属元素を含み、光透過性を有するバッファ層と
を備えた構造体。
(2)
前記第1基体は、前記一の面の少なくとも一部に表面粗さの大きな領域を有する、前記(1)に記載の構造体。
(3)
前記第1基体は、2nm以上の算術平均粗さ(Ra)を有する、前記(1)または(2)に記載の構造体。
(4)
前記第1基体は多孔質基材である、前記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の構造体。
(5)
前記第1基体はセラミックスである、前記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載の構造体。
(6)
前記第2基体は金属基材である、前記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の構造体。
(7)
前記第1基体は難硝材である、前記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載の構造体。
(8)
前記バッファ層は、膜厚方向に金属元素が局所的に分布している、前記(1)乃至(7)のうちのいずれかに記載の構造体。
(9)
前記第1基体と前記第2基体とは、原子拡散接合を用いて接合されている、前記(1)乃至(6)のうちのいずれかに記載の構造体。
(10)
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、前記第1のバッファ層の表面を研磨したのち、前記第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、
前記第1の金属膜と第2基体とを接合し、前記第1基体と前記第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成する
構造体の製造方法。
(11)
前記第1の金属膜と前記第2基体とを接合したのち、加熱処理して前記バッファ層を形成する、前記(10)に記載の製造方法。
(12)
前記第1のバッファ層を真空蒸着法またはスパッタリング法を用いて成膜する、前記(10)または(11)に記載の構造体の製造方法。
(13)
前記第1のバッファ層の表面を光学研磨または化学機械研磨を用いて処理する、前記(10)乃至(12)のうちのいずれかに記載の構造体の製造方法。
(14)
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体上に、少なくとも金属元素を含む第1のバッファ層を形成し、前記第1のバッファ層の表面を研磨したのち、前記第1のバッファ層上に微結晶構造を有する第1の金属膜を形成し、
第2基体上に、少なくとも金属元素を含む第2のバッファ層および微結晶構造を有する第2の金属膜を形成し、
前記第1の金属膜と前記第2の金属膜とを接合し、前記第1基体と前記第2基体との間に、少なくとも金属元素を含むバッファ層と形成する
構造体の製造方法。
(15)
前記第1の金属膜と前記第2の金属膜とを接合したのち、加熱処理して前記バッファ層を形成する、前記(14)に記載の製造方法。
(16)
一の面を有すると共に、構成材料の結晶構造と組成とから決定される密度よりも低い密度を有する第1基体と、
前記第1基体の前記一の面と対向配置された第2基体と、
前記第1基体と前記第2基体との間に設けられると共に、少なくとも金属元素を含み、光透過性を有するバッファ層と
を有する構造体を備えた電子機器。
【0110】
本出願は、日本国特許庁において2019年1月7日に出願された日本特許出願番号2019-000662号を基礎として優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容を参照によって本出願に援用する。
【0111】
当業者であれば、設計上の要件や他の要因に応じて、種々の修正、コンビネーション、サブコンビネーション、および変更を想到し得るが、それらは添付の請求の範囲やその均等物の範囲に含まれるものであることが理解される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18