(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】除染装置及び除染方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/28 20060101AFI20231024BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
G21F9/28 521
G21F9/12 501A
(21)【出願番号】P 2021055717
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】516084723
【氏名又は名称】HKテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】五十田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 智久
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 祐
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213218(JP,A)
【文献】特開2013-234918(JP,A)
【文献】特開2013-096984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染装置であって、
寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させるための吸着用容器
と、
前記放射性物質を吸着した前記寒天を加熱し液状化させる加熱手段と、
を備え、
前記吸着用容器は、液状化した前記寒天を排出する排出口を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項2】
請求項1に記載の除染装置であって、
前記吸着用容器から排出された液状の前記寒天に含まれる前記放射性物質を除去する除去手段を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項3】
被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染装置であって、
寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させるための吸着用容器と、
前記吸着用容器から排出された液状の前記寒天に含まれる前記放射性物質を除去する除去手段を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の除染装置であって、
前記放射性物質が除去された液状の前記寒天を前記吸着用容器に移送する移送手段を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項5】
請求項
1乃至4
の何れか一項に記載の除染装置であって、
前記吸着用容器内において液状の前記寒天を冷却しゲル状化させる冷却手段を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の除染装置であって、
接触した前記寒天と前記被除染対象物を振動させる振動手段、又は、接触した前記寒天と前記被除染対象物を攪拌させる攪拌手段、の少なくとも何れか一方を備えること特徴とする除染装置。
【請求項7】
被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染装置であって、
寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させるための吸着用容器と、
前記吸着用容器内において液状の前記寒天を冷却しゲル状化させる冷却手段と、
を備えることを特徴とする除染装置。
【請求項8】
被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染方法であって、
寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させる吸着工程と、
前記寒天と前記被除染対象物を分離させる分離工程と、
前記放射性物質を吸着した前記寒天を加熱して液状化させる液状化工程と、
前記放射性物質を含む液状の前記寒天から前記放射性物質を除去する除去工程と、
を含むことを特徴とする除染方法。
【請求項9】
請求項8に記載の除染方法であって、
前記放射性物質が除去された液状の前記寒天をゲル状化させるゲル状化工程を含むことを特徴とする除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除去装置等に関するものである、
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の原子力関連施設においては、放射性物質の除染等の作業等によって、例えば、周辺の構造物の表面が、コバルト、マンガン等の放射性物質の付着等によって汚染される可能性がある。
【0003】
構造物の表面に付着した放射性物質は放射線を出し続けるため、作業者等が放射線被曝する。従って、放射性物質により汚染された構造物は早期に除染する必要がある。
【0004】
放射性物質が付着した被除染対象物を除染する方法には、ブラスト洗浄(被除染対象物にブラスト材(粒体)を衝突させて、表面に付着した放射性物質を取り除く洗浄方法)や、構造物の表面に高圧水をまんべんなく吹き付けて洗浄する方法がある。
【0005】
しかしながら、これらの洗浄方法では作業そのものに多大な時間と労力を要するだけでなく、汚染廃液の回収にも多大な時間と労力を要する。また、汚染廃液が周囲に流出したり、地下に浸透したりして、二次汚染を招くおそれもある。
【0006】
そこで、上記問題を解決する除染方法として、被除染表面にゲル状の除染剤の被膜を形成し、放射性物質を吸着させた後、当該放射性物質を内包した除染剤を被除染表面から剥離し、除去する方法が提案されている。
【0007】
そして、特許文献1には、この方法に用いることができる除染剤であって、除染作業が容易に行え、生分解性であることから後処理が容易で、しかも、再使用可能な除染剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の除染剤を用いて手作業で除染作業をする場合、作業者が被爆するおそれがあり、また、大量の被除染対象物を除染するのに膨大な時間が掛かってしまう。
【0010】
本発明は、こうした事情に鑑み、被除染対象物の除染作業に関して、作業者が被爆する可能性と作業時間を大幅に削減することができる除染装置等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、下記を特徴とするものである。
【0012】
請求項1に記載の発明は、被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染装置であって、寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させるための吸着用容器と、前記放射性物質を吸着した前記寒天を加熱し液状化させる加熱手段と、備え、前記吸着用容器は、液状化した前記寒天を排出する排出口を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の除染装置であって、前記吸着用容器から排出された液状の前記寒天に含まれる前記放射性物質を除去する除去手段を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の発明は、被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染装置であって、寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させるための吸着用容器と、前記吸着用容器から排出された液状の前記寒天に含まれる前記放射性物質を除去する除去手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の除染装置であって、前記放射性物質が除去された液状の前記寒天を前記吸着用容器に移送する移送手段を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一項に記載の除染装置であって、前記吸着用容器内において液状の前記寒天を冷却しゲル状化させる冷却手段を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一項に記載の除染装置であって、接触した前記寒天と前記被除染対象物を振動させる振動手段、又は、接触した前記寒天と前記被除染対象物を攪拌させる攪拌手段、の少なくとも何れか一方を備えること特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の発明は、被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染装置であって、寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させるための吸着用容器と、前記吸着用容器内において液状の前記寒天を冷却しゲル状化させる冷却手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の発明は、被除染対象物に付着した放射性物質を除去する除染方法であって、寒天と前記被除染対象物を接触させて、前記被除染対象物に付着した前記放射性物質を前記寒天に吸着させる吸着工程と、前記寒天と前記被除染対象物を分離させる分離工程と、前記放射性物質を吸着した前記寒天を加熱して液状化させる液状化工程と、前記放射性物質を含む液状の前記寒天から前記放射性物質を除去する除去工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の除染方法であって、前記放射性物質が除去された液状の前記寒天をゲル状化させるゲル状化工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、被除染対象物の除染時に作業者が直接被除染対象物に触れる回数を減少させ、機械的に除染処理を行うことができることから、被除染対象物の除染作業に関して、作業者が被爆する可能性と作業時間を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】除染装置100のシステム構成を示すブロック図である。
【
図3】除染方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
まず、
図1を用いて、本実施形態に係る除染装置100の構成について説明する。
【0025】
除染装置100は、除染容器1を有し、除染容器1内において放射性物質が付着した被除染対象物200を除染剤により除染する。
【0026】
本実施形態では、除染剤として寒天を使用する。寒天は市販の寒天を使用できる。一般的に寒天の凝固点は33℃~45℃、融点は85℃~93℃である。
【0027】
ゲル状の寒天を放射性物質が付着した被除染対象物200の表面に接触させることにより、被除染対象物200に付着した放射性物質を除染剤に吸着させ、次いで、寒天と被除染対象物200を分離することにより、被除染対象物200を除染することができる。
【0028】
ゲル状の寒天は、寒天の温度を融点まで加熱することにより容易に液状化させることができる。その一方で、液状の寒天は、寒天の温度を凝固点まで下げることによりゲル状化させることができる。なお、寒天の温度を凝固点まで下げるには、常温であれば放置することにより下げることができる。但し、高温状態の寒天をゲル状化させる場合には冷却することでゲル状化までの時間を短縮することができる。
【0029】
除染剤として寒天を使用することにより、放射性物質を内包したゲル状の使用済みの除染剤を液状化し、液状化した使用済みの除染剤から放射性物質を分離・除去し、再度、ゲル状化することによって使用済みの除染剤の再使用が可能となる。この結果、除染コストを削減することができる。また、寒天は生分解性であり、原子力関連施設内の焼却設備フィルターなどへの負荷もなく、処理が面倒な薬品等が使用されていないことから後処理を容易に行える。
【0030】
除染容器1には、寒天を投入するための投入口2、3が設けられている。投入口2は、除染容器1の外部から寒天を投入する際に使用される。一方、投入口3は、回収容器11から移送ポンプ14により汲み上げられた液状の寒天を除染容器1に投入する際に使用される。投入口3は後述する制御装置20の制御の下、栓開閉用モーター(図示しない)が駆動されることにより、開いたり閉じたりする。
【0031】
除染容器1は、除染容器1(特に第1の部屋1A)内の液状の寒天を冷却してゲル状化させるための冷却装置6と、除染容器1内のゲル状の寒天を加熱して液状化させるための加熱装置7と、を備える。冷却装置6は除染容器1内の寒天を冷却可能な従来公知のものを使用することができ、同様に、加熱装置7は、除染容器1内の寒天を加熱可能な従来公知のものを使用することができる。
【0032】
除染容器1は開閉式スリット壁5が設けられている。除染容器1は、開閉式スリット壁5により、第1の部屋1Aと、第2の部屋1Bとに区切られる。開閉式スリット壁5は、後述する制御装置20の制御の下、スリット開閉用モーター(図示しない)が駆動されることにより、開いたり閉じたりする。
【0033】
第1の部屋1Aは、被除染対象物200が投入される部屋である。第1の部屋1Aは、ゲル状の寒天と被除染対象物200を接触させて、被除染対象物200に付着した放射性物質を寒天に吸着させるための部屋である。第1の部屋1Aには、超音波発生器4が設けられている。超音波発生器4は、超音波を発生して第1の部屋1A内に投入されたゲル状の寒天と被除染対象物200を振動させることにより、被除染対象物200に付着した放射性物質を分離させ、寒天に吸着させる。なお、超音波発生器4に代えて(又は加えて)、除染容器1を振動させる振動装置(図示しない)を設けて、寒天と被除染対象物200を振動させるのに使用してもよい。
【0034】
第2の部屋1Bは、第1の部屋1Aの下方に位置している。開閉式スリット壁5を開き、放射性物質を含んだゲル状の寒天を加熱し(例えば、60℃程度まで加熱し)液状化させると、第1の部屋1Aの放射性物質は寒天とともに第2の部屋1Bに移動し、放射性物質を内包した液状の寒天が第2の部屋1Bに貯留する。
【0035】
第2の部屋1Bには、排出口8が設けられ、排出口8は後述する制御装置20の制御の下、栓開閉用モーター(図示しない)が駆動されることにより、開いたり閉じたりする。排出口8が開くと、放射性物質を内包した液状の寒天が第2の部屋1Bから排出され、管9Aを通って放射性物質除去器10に移送される。
【0036】
放射性物質除去器10は、例えば、フィルターや遠心分離機などで構成され、液状の寒天から放射性物質を除去する。なお、放射性物質を除去する方法として濾過法、比重差による沈殿分離法等を用いる放射性物質除去器10を採用してもよい。
【0037】
放射性物質除去器10により放射性物質が除去された液状の寒天は、管9Bを通って回収容器11に移送される。回収容器11は、放射性物質除去器10により放射性物質が除去された寒天を回収する容器である。回収容器11には、回収容器11内のゲル状化した寒天を加熱して液状化するための加熱装置12が設けられている。また、回収容器11には、排出口13が設けられ、排出口13は後述する制御装置20の制御の下、栓開閉用モーター(図示しない)が駆動されることにより、開いたり閉じたりする。後述する制御装置20が投入口3及び排出口13を開き、移送ポンプ14を駆動させることにより、回収容器11に回収された液状の寒天は管15を通って除染容器1に移送される。
【0038】
つまり、除染容器1から排出された液状の寒天は、放射性物質除去器10により放射性物質が除去され、回収容器11を介して、除染容器1に送還される。
【0039】
液状の寒天が除染容器1に送還されると、除染容器1内の液状の寒天は寒天の温度が低下することにより再ゲル状化される。これにより、除染装置100は、被除染対象物200を繰り返し除染することができる。
【0040】
次に、
図2を用いて、除染装置100のシステム構成について説明する。
図2に示すように、除染装置100を制御する制御装置20は、投入口2、3、超音波発生器4(超音波発生器4を上述した振動装置に代えたり、超音波発生器4に加えて振動装置を追加したりしてもよい)、開閉式スリット壁5、冷却装置6、加熱装置7、12、排出口8、13、移送ポンプ14と接続されている。
【0041】
また、図示しないセンサー及びマイコンが、第1の部屋1A、第2の部屋1B、回収容器11のそれぞれについて設けられ、センサーがそれぞれの内部の様子等を検知し、マイコンがその様子等を示す情報を制御装置20に送信する。
【0042】
制御装置20は、例えば、PC(Personal Computer)等により構成され、CPU、プログラム等が予め記憶されているROM、各種データを一時的に格納するRAM、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等からなる補助記憶装置、キーボード等を備える。
【0043】
制御装置20は、マイコンから受信する情報や、オペレータからの入力操作に基づいて、所定のプログラムを実行することにより、投入口2、3の開閉、超音波発生器4のON/OFF、開閉式スリット壁5の開閉、冷却装置6、加熱装置7、12のON/OFF、排出口8、13の開閉、移送ポンプ14のON/OFF、等を制御する。
【0044】
次に、
図3を用いて、除染装置100により被除染対象物200を除染する除染方法の手順について説明する。
【0045】
まず、除染容器1の第1の部屋1Aに被除染対象物200を入れる(ステップS1)。但し、被除染対象物200を入れる前に、開閉式スリット壁5は閉じておき、排出口(栓)3も閉じておく。
【0046】
次に、除染容器1に寒天を投入する(ステップS2)。例えば、寒天を再利用する場合には投入口(栓)3から寒天を投入し、新たな寒天を利用する場合には投入口(栓)2から寒天を投入する。また、投入する寒天はゲル状であっても液状であってもよいが、常温で保存しておいた寒天を投入する場合であればゲル状のまま投入することができる。除染容器1に投入する寒天の量は少なくとも第1の部屋1Aに入れられた被除染対象物200を覆う量とする。
【0047】
次に、除染容器1に投入した寒天の状態がゲル状であるか判定し(ステップS3)、ゲル状でなければ寒天を冷却しゲル状化させ(ステップS4)、ステップS5に移行する。一方、寒天の状態がゲル状であればステップS5に移行する。ステップS3の判定はオペレータが行っても、センサー及びマイコンからの情報等に基づいて制御装置20が行っても良い。前者の場合、オペレータはゲル状であると判定した場合に冷却装置6を作動させるための操作を制御装置20に対して行う。
【0048】
次に、超音波発生器4から超音波を発生させて、ゲル状の寒天と被除染対象物200を振動させる(ステップS5)。なお、振動装置を設けた場合には、振動装置を使用して振動させてもよい。これにより、被除染対象物200に付着した放射性物質を分離(寒天に吸着)させることができる。超音波発生器4が作動するきっかけは、オペレータが制御装置20に対して超音波発生器4を作動させるための操作を行うことであってもよいし、制御装置20がセンサー及びマイコンからの情報に基づいて寒天がゲル状化していると判定したことであってもよい。
【0049】
次に、除染容器1内の放射性物質を含む寒天を加熱装置7により加熱し液状化させる(ステップS6)。加熱装置7を作動するきっかけは、オペレータが制御装置20に対して加熱装置7を作動させるための操作を行うことであってもよいし、制御装置20が例えば一定時間、ステップS5の処理が実行されたと判定したことであってもよい。
【0050】
次に、放射性物質を含む寒天を放射性物質除去器10に移送する(ステップS7)。具体的には、まず、開閉式スリット壁5を開く。開閉式スリット壁5を開くきっかけは、オペレータが制御装置20に対して開閉式スリット壁5を開くための操作を行うことであってもよいし、制御装置20が、センサー及びマイコンからの情報に基づいて寒天が液状化したと判定したことであってもよい。これにより、比重の大きな放射性物質は開閉式スリット壁5を通って、第2の部屋1Bに貯留される。
【0051】
放射性物質が第2の部屋1Bに十分貯留されたら、開閉式スリット壁5を閉じる。開閉式スリット壁5を閉じるきっかけは、オペレータが制御装置20に対して開閉式スリット壁5を開くための操作を行うことであってもよいし、制御装置20が、センサー及びマイコンからの情報に基づいて第1の部屋1Aの寒天が第2の部屋1Bに貯留されたと判定したことであってもよい。次いで、排出口(栓)8を開き、第2の部屋1Bから液状の寒天を排出し、放射性物質除去器10に移送する。
【0052】
次に、放射性物質除去器10により寒天から放射性物質を除去する(ステップS8)。放射性物質除去器10が作動するきっかけは、オペレータが制御装置20に対して放射性物質除去器10を作動させるための操作を行うことであってもよいし、制御装置20がセンサー及びマイコンからの情報に基づいて第2の部屋1Bから排出された寒天が全て移送されたと判定することであってもよい。
【0053】
次に、放射性物質が除去された寒天を回収容器11に移送する(ステップS9)。寒天を移送するきっかけは、オペレータが制御装置20に対して寒天を回収容器11に移送させるための操作を行うことであってもよいし、制御装置20が放射性物質除去器10による除去が完了したと判定したことであってもよい。
【0054】
なお、除染容器1内の被除染対象物200は、ステップS5において付着した放射性物質が分離された後に適宜取り出すことができる。
【0055】
また、
図3の例では、第1の部屋1Aに被除染対象物200を入れ(S1)、次いで、寒天を入れる(S2)こととしたが、S1の前に寒天を入れ、その上に被除染対象物200を入れ(S1)、さらにその上に寒天を入れる(S2)こととしてもよい。これにより、被除染対象物200の周囲を寒天で覆うことができ、被除染対象物200の下部に付着した放射性物質も寒天に吸着させることができ、除染効率が向上する。
【0056】
さらに、回収容器11に回収された除染済みの寒天は再利用することができる。例えば、ステップS1において除染容器1の第1の部屋1Aに被除染対象物200を入れた後に、回収容器11の排出口(栓)13を開き、移送ポンプ14を作動させることにより、除染容器1に投入口(栓)3から投入することができる。なお、移送ポンプ14で移送させる際に、寒天がゲル状化している場合には、予め加熱装置12により寒天を加熱し液状化させておくこととする。また、液状の寒天を除染容器1に投入した場合、冷却装置6により除染容器1内において液状の寒天を冷却しゲル状化させることにより、短時間で寒天をゲル状化させることができ、除染作業に掛かる時間を短縮することができる。
【0057】
図1では、加熱装置7、12を除染容器1と回収容器11に設けているが、寒天を移送させる場合、液状であることが好ましいため、寒天の移送経路についてはゲル状化してしまった寒天を液状化させる加熱装置を設けておくことが好ましい。また、寒天がゲル状化するのを防ぐ保温装置や保温材を設けることとしてもよい。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の除染装置100は、被除染対象物200に付着した放射性物質を除去するため、ゲル状の寒天と被除染対象物200を接触させて、被除染対象物200に付着した放射性物質を寒天に吸着させるための除染容器1(「吸着用容器」の一例)を備える。
【0059】
したがって、本実施形態の除染装置100によれば、被除染対象物200の除染時に作業者が直接被除染対象物200に触れる回数を減少させ、機械的に除染処理を行うことができることから、被除染対象物200の除染作業に関して、作業者が被爆する可能性と作業時間を大幅に削減することができる。
【0060】
また、本実施形態の除染装置100は、接触した寒天と被除染対象物200を振動させる超音波発生器4(「振動手段」の一例)や振動装置(「振動手段」の一例)を備える。これにより、被除染対象物200に付着している放射性物質を寒天に吸着させる効率を向上させることができる。
【0061】
さらに、本実施形態の除染装置100は、放射性物質が吸着した寒天を加熱し液状化させる加熱装置7(「加熱手段」の一例)を備え、除染容器1が液状化した寒天を排出する排出口(栓)8(「排出口」の一例)を備える。これにより、除染容器1から放射性物質を含む寒天を排出することができる。
【0062】
さらにまた、本実施形態の除染装置100は、除染容器1から排出された液状の寒天に含まれる放射性物質を除去する放射性物質除去器10(「除去手段」の一例)を備える。これにより、寒天に含まれる放射性物質を除去することができ、寒天を被除染対象物200の除染に再利用することができる。
【0063】
さらにまた、本実施形態の除染装置100は、放射性物質が除去された液状の寒天を除染容器1に移送する移送ポンプ14(「移送手段」の一例)を備える。これにより、放射性物質が除去された寒天を再利用するために除染容器1に移送することができる。
【0064】
さらにまた、本実施形態の除染装置100は、除染容器1内において液状の寒天を冷却しゲル状化させる冷却装置6(「冷却手段」の一例)を備える。これにより、除染容器1に液状の寒天が投入された場合など、寒天が液状の場合に短時間でゲル状化させることができる。
【0065】
さらにまた、本実施形態における被除染対象物200に付着した放射性物質を除去する除染方法は、ゲル状の寒天と被除染対象物200を接触させて、被除染対象物200に付着した放射性物質を寒天に吸着させるステップS2及びステップS5(「吸着工程」の一例)と、寒天と被除染対象物200を分離させる分離工程と、を含む。なお、分離工程としては、例えば、ステップS5の後にゲル状の寒天から被除染対象物200を取り出すこと、ステップS6により寒天を液状にして開閉式スリット壁5を開いた後(寒天が第2の部屋1Bに貯留された後)に被除染対象物200を取り出すこと等が相当する。
【0066】
したがって、本実施形態の除染方法によれば、天然由来の寒天を除染剤として被除染対象物200の除染を行うことができる。
【0067】
さらにまた、本実施形態における除染方法は、放射性物質が吸着した寒天を加熱して液状化させるステップS6(「液状化工程」の一例)と、放射性物質を含む液状の寒天から放射性物質を除去する除去工程と、を含む。これにより、寒天に含まれる放射性物質を除去することができ、寒天を被除染対象物200の除染に再利用することができる。
【0068】
さらにまた、本実施形態における除染方法は、放射性物質が除去された液状の寒天をゲル状化させるゲル状化工程を含む。これにより、液状の寒天を被除染対象物200の除染に再利用することができる。
【0069】
なお、本実施形態では、超音波発生器4(又は振動装置)が第1の部屋1A内にあるゲル状の寒天と被除染対象物200を振動させることにより、被除染対象物200に付着した放射性物質を分離させることとしたが、これらに代えて、又は加えて、同様の作用を実現する、例えばフィンを有する攪拌機(「攪拌手段」の一例)を除染容器1に設けることとしてもよい。
【0070】
また、除染容器1を回転させる回転機構を設けて、ゲル状の寒天と被除染対象物200が入った除染容器1を回転させることにより、被除染対象物200に付着している放射性物質を分離させることとしてもよい。なお、回転機構が除染容器1を回転させる軸は直交する2軸、3軸又はそれ以上とすることとしてもよい。除染容器1に回転機構を設ける場合、放射性物質が遠心力により第2の部屋1Bに貯留されるように除染容器1を開閉式スリット壁5により区切ることとする。開閉式スリット壁5は、回転機構が除染容器1を回転させている際に開き、遠心力により放射性物質が第2の部屋1Bに十分に貯留されたら閉じて、回転終了後に放射性物質が第1の部屋1Aに移動することを防ぐこととする。なお、回転終了後の放射性物質の移動を防ぐために、開閉式スリット壁5の代わりに、第1の部屋1Aから第2の部屋1Bの一方向にしか放射性物質を通さない一方向透過壁を設けることとしてもよい。
【0071】
更に、
図4に示すような、1辺が1cm~2cm程度の直方体(立方体)状の寒天Kを除染容器1に投入する寒天投入器16を除染装置100に設けることとしてもよい。寒天投入器16は、押出板17と、枠体18と、を備える。枠体18の内側には平面視格子状に複数の貫通部が形成された型抜き部19が設けられている。この型抜き部19の上に延べ板状の寒天Kを載せ、寒天Kを押出板17により上方から下方に押し込むことにより、型抜き部19の下方から直方体(立方体)状の寒天Kが押し出される。寒天投入器16は、例えば、除染容器1の上方や除染容器1の上部等に設けて、寒天Kを第1の部屋1Aに投入することとしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 除染容器
1A 第1の部屋
1B 第2の部屋
2 投入口(栓)
3 投入口(栓)
4 超音波発生器
5 開閉式スリット壁
6 冷却装置
7 加熱装置
8 排出口(栓)
9A 管
9B 管
10 放射性物質除去器
11 回収容器
12 加熱装置
13 排出口(栓)
14 移送ポンプ
15 管
16 寒天投入器
17 押出板
18 枠体
19 型抜き部
20 制御装置
100 除染装置
200 被除染対象物