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特許7371878ロボット、ロボットシステム、およびロボット制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ロボット、ロボットシステム、およびロボット制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20231024BHJP
   B25J 9/18 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B25J19/06
B25J9/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022510733
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2021012839
(87)【国際公開番号】W WO2021193914
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2020058501
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 悠帆
(72)【発明者】
【氏名】景岡 正和
(72)【発明者】
【氏名】辻 聡史
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131237(WO,A1)
【文献】特開2017-221985(JP,A)
【文献】特開2019-209407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 19/06
B25J 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近接センサを有するロボット筐体、
前記近接センサの検出値に基づいて、ロボットに行わせることが予定されている作業の対象物を含み、前記ロボットが前記作業を行う環境内に存在する作業環境物と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第1近接度を算出する第1近接度算出部、
前記検出値に基づいて、前記ロボットと協働する作業者と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第2近接度を算出する第2近接度算出部、および、
前記第1近接度と前記第2近接度とに基づいて、前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う判断部、
を備えるロボット。
【請求項2】
前記判断部は、前記第1近接度が第1閾値より小さく、前記第2近接度が第2閾値以上である場合、または、前記第1近接度が前記第1閾値以上である場合に、前記ロボットの動作を停止させると判断する、
請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記判断部は、前記第1近接度が前記第1閾値より小さく、前記第2近接度が前記第2閾値以上である場合、さらに、前記第2近接度の単位時間当たりの変動量が第3閾値以上であるか否かに基づいて、前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う、
請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記判断部は、前記第1近接度が前記第1閾値より小さく、前記第2近接度が前記第2閾値以上である場合、さらに、前記作業者についての前記検出値が第4閾値以上であるか否かに基づいて前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う、
請求項2に記載のロボット。
【請求項5】
前記ロボット筐体は、前記近接センサを複数有しており、
前記判断部は、複数の前記近接センサのそれぞれに対応した前記第1閾値及び第2閾値を用いて前記判断を行う、
請求項2から4のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項6】
前記判断部は、前記作業において、前記ロボット筐体が移動することが予定されている方向に基づいて、前記複数の近接センサのうちいずれの前記検出値を用いて前記判断を行うかを決定する、
請求項5に記載のロボット。
【請求項7】
前記第1近接度算出部は、あらかじめ作成された学習データを用いて、前記作業環境物と前記作業者とを区別する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項8】
前記ロボット筐体は、前記作業環境物または前記作業者と前記ロボット筐体とが接触した度合いを検出する接触センサをさらに有し、
前記判断部は、前記作業環境物または前記作業者と前記ロボット筐体とが接触した度合いを表す接触度に基づいて、前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う、
請求項1から7のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のロボットと、
前記ロボットと前記作業者とを撮影するカメラと、
を備え、
前記第1近接度算出部および前記第2近接度算出部は、前記カメラが撮影した画像に基づいて、前記第1近接度および前記第2近接度を算出する、
ロボットシステム。
【請求項10】
ロボット筐体に設けられた近接センサの検出値に基づいて、ロボットに行わせることが予定されている作業の対象物を含み、前記ロボットが前記作業を行う環境内に存在する作業環境物と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第1近接度を算出する手順と、
前記検出値に基づいて、前記ロボットと協働する作業者と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第2近接度を算出する手順と、
前記第1近接度と前記第2近接度とに基づいて、前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う手順と、
をコンピュータに実行させるロボット制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体の少なくとも一部の位置が変化するロボット、ロボットシステム、およびロボット制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工場等において、所定のプログラムに従って所定の動作を行う産業用ロボット(以下、単にロボットと記載する)が実用化されている。このようなロボットでは、所定の動作に伴い、筐体の少なくとも一部の位置が変化することがある。
【0003】
近年、ロボットと作業者とが同じ作業空間で協働することが要望されている。ロボットと作業者とが作業空間を共有する場合、ロボットの筐体の一部と作業者との接触による作業者の負傷を防止することが重要である。このため、ロボットの一部と作業者との接触を検知し、接触した際にはロボットの動きを停止させることが求められる。
【0004】
例えば特許文献1には、ロボットと作業者とが接触した際の接触力を高精度で検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-112627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボットと作業者とが接触することにより作業者が負傷してしまう事態を防止する方法として、例えばロボットの筐体に近接センサを設け、ロボットに接近する物体を検出した場合に動作を停止する方法が挙げられる。しかしながら、動作中のロボットに接近する物体は作業者だけではなく、例えばロボットの一部が移動する軌跡の近くに配置されている配置物や、ロボットの動作により製造や検査等がなされる対象物(製品等)が含まれうる。ロボットの正常の動作のためには、ロボットに接近する物体が配置物または対象物であるのか、それ以外(作業者等)であるのか、を判断する必要がある。
【0007】
本発明は、接近する物体が配置物または対象物であるか否かに基づいて動作停止の可否を判断することができるロボット、ロボットシステム、およびロボット制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、本発明のロボットは、近接センサを有するロボット筐体、前記近接センサの検出値に基づいて、ロボットに行わせることが予定されている作業の対象物を含み、前記ロボットが前記作業を行う環境内に存在する作業環境物と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第1近接度を算出する第1近接度算出部、前記検出値に基づいて、前記ロボットと協働する作業者と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第2近接度を算出する第2近接度算出部、および、前記第1近接度と前記第2近接度とに基づいて、前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う判断部、を備える。
【0009】
本発明のロボットシステムは、上記ロボットと、当該ロボットと前記被検出物とを撮影するカメラと、を備え、前記第1近接度算出部および前記第2近接度算出部は、前記カメラが撮影した画像に基づいて、前記第1近接度および前記第2近接度を算出する。
【0010】
本発明のロボット制御プログラムは、ロボット筐体に設けられた近接センサの検出値に基づいて、ロボットに行わせることが予定されている作業の対象物を含み、前記ロボットが前記作業を行う環境内に存在する作業環境物と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第1近接度を算出する手順と、前記検出値に基づいて、前記ロボットと協働する作業者と、前記ロボット筐体との間の近接度合いを表す第2近接度を算出する手順と、前記第1近接度と前記第2近接度とに基づいて、前記ロボットの動作を停止させるか否かの判断を行う手順と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接近する物体が配置物または対象物であるか否かに基づいて動作停止の可否を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係るロボットシステムの構成の一例について説明するための図
図2】制御部のハードウェア構成の一例を示す図
図3】制御部の機能を説明するためのブロック図
図4】判断部の処理について説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るロボットおよびロボットシステムについて、図面を参照しながら説明する。以下に示す実施の形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施の形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除するものではない。また、実施の形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。さらに、実施の形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
<ロボットシステム>
図1は、本発明の実施の形態に係るロボットシステム200の構成に一例について説明するための図である。図1に示すように、ロボットシステム200は、ロボット100と、カメラ4と、を備える。ロボットシステム200は、例えば工場内に設置されており、あらかじめ設定されたプログラムに基づいて、予定されている、所定の作業を行う。本発明では、このロボット100は、人間(以下、作業者と記載)と空間を共有して動作を行うことが想定されている。
【0015】
ロボット100は、ロボット筐体1と、制御部2と、モータ3と、を備えている。
【0016】
ロボット筐体1は、ロボット100の筐体である。ロボット筐体1は、複数の要素の集合体であってもよいし、1つの筐体のみで構成されてもよい。本実施の形態では、一例として、ロボット筐体1が複数の要素の集合体である場合について説明する。ロボット筐体1を構成する複数の要素の例としては、アーム、関節部、マニピュレータ等が挙げられ、これらの複数の要素によって、ロボット100としての多関節マニピュレータが構成される。
【0017】
本実施の形態において、ロボット筐体1を構成する複数の要素のうちの少なくとも一部は、その位置が変化する、換言すれば移動することが想定されている。本実施の形態におけるロボット筐体1の要素の移動には、複数の要素のいずれか一部が互いに独立して移動する場合、複数の要素のいずれか一部が一体となって移動する場合、および、複数の要素の全て(すなわちロボット100全体)が一体となって移動する場合が含まれる。
【0018】
ロボット100は、モータ3を動力として、制御部2の制御に基づいて、所定の作業を行う。この作業の際、ロボット筐体1の複数の要素のうちの少なくとも一部は、あらかじめ設定された所定の軌跡を通る、または所定の範囲内において移動することが想定されている。
【0019】
以下の説明では、ロボット筐体1を構成する複数の要素のうち、移動するものを、移動部11と記載する。図1に示す例では、ロボット100には、4つの移動部11_1、11_2、11_3、11_4が含まれる。
【0020】
本実施の形態では、ロボット100が4つの移動部11_1、11_2、11_3、11_4を含む場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。ロボット100は、より多くの移動部11を含んでいてもよいし、反対に1つの移動部11のみで構成されていてもよい。
【0021】
移動部11には、それぞれ近接センサ12が設けられている。すなわち、移動部11_1は近接センサ12_1を、移動部11_2は近接センサ12_2を、移動部11_3は近接センサ12_3を、移動部11_4は近接センサ12_4を、それぞれ有する。なお、本実施の形態では、説明のため、移動部11のそれぞれに近接センサ12が設けられているとしたが、本発明では近接センサ12が設けられている場所については特に限定しない。近接センサ12は、ロボット100のロボット筐体1のうち、ロボット100以外の物体に近接する可能性が高い場所、すなわち、ロボット筐体1のあらかじめ設定された所定の軌跡のうち、最も外側に近い位置に設けられていてもよい。
【0022】
本実施の形態において、近接センサ12は、例えば静電容量センサである。すなわち、近接センサ12は、物体が移動部11に近づいたり遠ざかったりすることで生じる静電容量の変化や電気的な変化を検出し、検出値として制御部2に出力する。なお、本発明では近接センサについて特に限定せず、例えば電磁誘導型(高周波発振型)近接センサ、静電容量型近接センサ、磁気近接センサ、光学式ToF(Time-of-Flight)センサ、超音波式ToFセンサ等であってもよい。
【0023】
近接センサ12が検出する物体には、例えば、移動部11に接近することが予定されている作業環境物が含まれる。作業環境物の具体例としては、ロボット100が製品を製造するロボットである場合、製造される製品、または、製造中の製品を載置する作業台、製品や製品の材料を運搬するコンベア等が挙げられる。換言すれば、作業環境物とは、ロボット100の作業環境(作業の際、移動部11が移動しうる移動範囲)内にあらかじめ配置されている物体、および、作業の対象物である。従って、これらの作業環境物は、ロボット100が正常に作業を行っている限り、移動部11に接近しすぎることがないように配置されている。
【0024】
また、近接センサ12が検出する物体には、ロボット100の作業環境内でロボット100と協働する作業者が含まれる。
【0025】
制御部2は、所定のプログラムに基づいてモータ3を制御し、ロボット100の動作を制御する。特に制御部2は、移動部11が複数ある場合、それぞれの動作を独立に制御することができる。
【0026】
図2は、制御部2のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示すように、制御部2は、CPU(Central Processing Unit)301と、ROM(Read Only Memory)302と、RAM(Random Access Memory)303と、入出力部304と、を有する。CPU301、ROM302、RAM303、及び入出力部304は、バス305を介して互いに接続されている。CPU301が、所定のプログラム(本発明のロボット制御プログラムの一例)を適宜ROM302から読み出してRAM303に展開して実行することで、制御部2によるロボット100の制御が行われる。所定のプログラムはROM302にではなく、制御部2の外部のメモリ等に記憶されていてもよい。
【0027】
図3は、制御部2の機能を説明するためのブロック図である。図3に示すように、制御部2は、機能ブロックとして、第1近接度算出部21と、第2近接度算出部22と、判断部23と、モータ制御部24と、を有する。
【0028】
第1近接度算出部21は、複数の移動部11が有する近接センサ12の検出値に基づいて、近接センサ12が検出した物体のうちの作業環境物と、移動部11とが近接した度合いを示す第1近接度D1を算出する。第1近接度算出部21は、近接センサ12が検出した物体のうち、どの物体が作業環境物であるかを、例えば機械学習等を用いて識別し、作業環境物であると識別した物体の近接度を第1近接度D1として算出する。
【0029】
本実施の形態において、近接度とは、物体と移動部11とが近接した度合いを示す値である。すなわち、物体と移動部11とが近接すればするほど近接度の値は大きくなり、物体と移動部11と離れれば離れるほど、近接度の値は小さくなる。具体的には、例えば物体に対する近接センサ12の検出値(すなわち、近接センサ12が静電容量式のセンサである場合、静電容量の大きさ)に対して所定の演算を加えて算出された値を近接度として用いればよい。
【0030】
第2近接度算出部22は、複数の移動部11が有する近接センサ12の検出値に基づいて、近接センサ12が検出した物体のうち、作業環境物以外の物体と、移動部11とが近接した度合いを示す第2近接度D2を算出する。すなわち、第2近接度算出部22は、第1近接度算出部21が作業環境物であると識別しなかった物体と、移動部11との近接度を第2近接度D2として算出する。近接センサ12が検出した物体のうち、作業環境物以外の物体とは、具体的には、上述したように、ロボット100と協働する作業者の体の少なくとも一部である。
【0031】
なお、第1近接度算出部21および第2近接度算出部22は、近接センサ12の検出値だけではなく、カメラ4の撮影した画像を用いて、第1近接度D1および第2近接度D2を算出してもよい。
【0032】
判断部23は、第1近接度D1および第2近接度D2に基づいて、複数の移動部11のうち、移動している移動部11の移動を停止させる必要があるか否かの判断を行う。判断部23の処理についての詳細は後述する。
【0033】
モータ制御部24は、例えば所定のプログラムに基づいてモータ3を制御し、ロボット100の各部に所望の動作を行わせる。
【0034】
モータ3は、例えば電動のサーボモータであり、ロボット100の各部を独立して動作させることができるように配置されている。モータ3により、ロボット100は所定の作業を行うことができる。また、所定の作業を行うために、モータ3は、移動部11を所定の軌跡、または所定の範囲内で移動させる。なお、本実施の形態では、ロボット100の各部がモータ3によって動作される例について説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば油圧や空気圧を用いたポンプモータを使用して動作させるようにしてもよい。
【0035】
カメラ4は、ロボット100および作業者を含む画像を撮影する。
【0036】
<判断部の処理>
以上、ロボット100およびロボットシステム200の構成について説明した。次に、判断部23の処理について詳細に説明する。
【0037】
ロボット100と作業者とが同じ作業環境で協働しているとき、作業者が移動したり、移動部11が作業者のいる方向に向かって移動したりすることで、移動部11と作業者とが接近する場合がある。判断部23は、移動部11と作業者とが接触することによる、作業者の負傷を防止するため、移動部11と作業者との接近を検出した場合に作業者に接近した移動部11の移動を停止させる判断を行う。
【0038】
ただし、移動部11には、作業者以外に、作業環境物が接近することがある。作業環境物によっては、ロボット100が正常に(予定通りに)作業を行っている場合でも、移動部11に接近することがある。このため、判断部23は、移動部11に接近しているのが作業環境物であるか、作業者を含むそれ以外の物体であるか、に基づいて、移動部11の移動を停止させるか否かを判断する。これにより、作業者の安全性確保とロボット100の作業効率とを両立させることができるようになる。
【0039】
図4は、判断部23の処理について説明するためのフローチャートである。なお、判断部23は、移動部11が複数ある場合、移動部11毎に図4に示すフローチャートに示す処理を実行する。
【0040】
ステップS1において、判断部23は、移動部11が有する近接センサ12の検出値に基づいて第1近接度算出部21が算出した第1近接度D1を取得する。
【0041】
ステップS2において、判断部23は、移動部11が有する近接センサ12の検出値に基づいて第2近接度算出部22が算出した第2近接度D2を取得する。なお、図4に示すフローチャートでは、判断部23は、一例として第1近接度D1の取得後に第2近接度D2を取得しているが、本発明はこれに限定されない。判断部23は、例えば第1近接度D1と第2近接度D2とを同時に取得してもよいし、第2近接度D2を先に取得してもよい。または、判断部23は、第2近接度D2を、後述するステップS3とステップS4との間で取得してもよい。
【0042】
ステップS3において、判断部23は、第1近接度D1が第1閾値Th1より小さいか否かを判定する。
【0043】
第1閾値Th1は、ロボット100が予定された作業を行う際の、各移動部11と作業環境物との近接度合いに基づいて設定される閾値である。すなわち、第1閾値Th1は、例えばロボット100が予定された作業を行う際の近接センサ12の近接度に、所定のマージンを加えた値に設定されればよい。この第1閾値Th1は、ロボット筐体1における移動部11の位置に応じた値に設定されることが望ましい。
【0044】
第1閾値Th1がこのような値に設定されているため、ステップS3において第1近接度D1が第1閾値Th1より小さいと判定されることは、作業環境物と移動部11との近接度合いは予定された近接度合いの範囲内であることを意味している。一方、ステップS3において第1近接度D1が第1閾値Th1以上であると判定されることは、作業環境物と移動部11とが予定された近接度合いより近接していることを意味しており、ロボット100の作業に何らかの異常が発生していることが想定される。
【0045】
ステップS3において、判断部23は、第1近接度D1が第1閾値Th1より小さいと判定した場合(ステップS3:YES)、処理をステップS4に進め、第1近接度D1が第1閾値Th1以上であると判定した場合(ステップS3:NO)、処理をステップS5に進める。
【0046】
ステップS4において、判断部23は、第2近接度D2が第2閾値Th2以上であるか否かを判定する。
【0047】
第2閾値Th2は、作業者の安全のために許容される、作業者と移動部11との近接度合いを示す閾値である。第2閾値Th2は、例えば移動部11の移動速度等に基づいて、ロボット100の設置時などにあらかじめ設定されればよい。この第2閾値Th2は、ロボット筐体1における移動部11の位置に応じて設定されてもよいし、全ての移動部11において同じ値に設定されてもよい。
【0048】
第2閾値Th2がこのような値に設定されているため、ステップS4において第2近接度D2が第2閾値Th2以上であると判定されることは、作業者の安全のためには、作業者と移動部11とが近接しすぎていることを意味する。一方、ステップS4において第2近接度D2が第2閾値Th2より小さいと判定されることは、作業者と移動部11とが、十分に離れていることを意味する。
【0049】
ステップS4において、判断部23は、第2近接度D2が第2閾値Th2以上であると判定した場合(ステップS4:YES)、処理をステップS5に進め、第2近接度D2が第2閾値Th2以上であると判定した場合(ステップS4:NO)、処理をステップS1に戻す。
【0050】
ステップS5において、判断部23は、処理対象の移動部11の移動を停止させるよう、モータ制御部24に対して指示する。
【0051】
このように、判断部23は、移動部11毎に、作業環境物と移動部11との接近度合いがあらかじめ想定されている範囲である場合(ステップS3:YES)、かつ、作業環境物以外の物体(作業者)と移動部11との接近度合いが閾値以上となった場合(ステップS4:YES)には、その移動部11を停止させる指示を行う。また、判断部23は、移動部11毎に、作業環境物と移動部11との接近度合いがあらかじめ想定されている範囲以上となった場合(ステップS3:NO)にも、その移動部11を停止させる指示を行う。
【0052】
このような処理により、作業者と移動部11とが、作業者の安全が確保されないほど近接した場合、または作業環境物と移動部11とがあらかじめ想定されている近接度合い以上に近接した場合、その移動部11が停止させられる。これにより、作業者の安全が確保されるとともに、ロボット100の正常でない作業が継続される事態が防止される。
【0053】
<作用、効果>
本発明の実施の形態に係るロボット100は、近接センサ12を有するロボット筐体1、近接センサ12の検出値に基づいて、ロボット100に行わせることが予定されている作業の対象物を含み、ロボット100が作業を行う環境内に存在する作業環境物と、ロボット筐体1との間の近接度合いを表す第1近接度D1を算出する第1近接度算出部21、近接センサ12の検出値に基づいて、作業環境物以外の被検出物と、ロボット筐体1との間の近接度合いを表す第2近接度D2を算出する第2近接度算出部22、および、第1近接度と第2近接度とに基づいて、ロボット100の動作を停止させるか否かの判断を行う判断部23、を備える。
【0054】
このような構成により、ロボット100は、あらかじめロボット筐体1に近接することが想定されている作業環境物と、それ以外の例えば作業者とのそれぞれとの近接度に基づいて、動作の停止の是非を判断することができる。これにより、ロボット100は、接近する物体が配置物または対象物であるか否かに基づいて動作停止の可否を判断することができ、効率のよいロボット100の動作と作業者の安全とを両立させることができる。
【0055】
特に、本発明の実施の形態に係るロボット100では、判断部23は、移動部11毎に、作業環境物と移動部11との接近度合いがあらかじめ想定されている範囲である場合、かつ、作業環境物以外の物体(作業者)と移動部11との接近度合いが閾値以上となった場合には、その移動部11を停止させる指示を行う。また、判断部23は、移動部11毎に、作業環境物と移動部11との接近度合いがあらかじめ想定されている範囲以上となった場合(ステップS3:NO)にも、その移動部11を停止させる指示を行う。
【0056】
このような処理により、作業者と移動部11とが、作業者の安全が確保されないほど近接した場合、または作業環境物と移動部11とがあらかじめ想定されている近接度合い以上に近接した場合、その移動部11が停止させられる。これにより、作業者の安全が確保されるとともに、ロボット100の正常でない作業が継続される事態が防止される。
【0057】
<変形例>
以上、図面を参照しながら本開示に係る実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範囲内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素は任意に組み合わせられてもよい。
【0058】
上述した実施の形態において、複数の移動部11が同時に動作している場合に、移動部11の設置位置、動作範囲等に応じて、当該移動部11を停止させるか否かの判断に用いる閾値を移動部毎に設定してもよいと説明した。複数の移動部11のうちのいずれに対して用いる閾値の大きさについては、あらかじめ所定値に設定されていてもよいが、例えば作業者とそれぞれの移動部11との位置関係を示すデータを収集して当該データに基づいて行われた学習の結果によって決定されてもよい。このように学習によって閾値を設定する場合、ロボット100(またはロボットシステム200)は、移動部11と作業者との位置関係を示す位置関係データを収集する位置データ収集部と、収集された位置関係データに基づいて学習を行う学習部と、をさらに備えていることが望ましい。さらに、このような場合、上述した判断部23の判断によって移動部11が停止された場合を含む位置関係データを随時収集し、収集した位置関係データに基づいて閾値を更新することで、判断部23による移動部11を停止させるべきか否かの判断精度を次第に向上させることができる。
【0059】
上述した実施の形態において、移動部11に近接センサ12のみが設定されている例について説明したが、本発明はこれに限定されない。移動部11には、近接センサ12の他に、例えば接触センサ、または加速度センサ等が設けられていてもよい。これらのセンサの数は同数でなくてもよい。この場合、判断部23は、上述した近接センサ12の検出値に基づく第1近接度D1および第2近接度D2に加えて、接触センサ、または加速度センサの検出値に基づいて、移動部11を停止させるか否かの判断を行うようにしてもよい。
【0060】
特に、接触センサをさらに設けた場合において、例えば、物体と移動部11とが接触した度合いを示す接触度に基づいて、判断部23がロボット100の動作を停止させるか否かの判断を行うようにしてもよい。接触度の大きさは、例えば接触センサが検出する圧力値の大きさに対応する。このような構成を採用すると、例えば作業者が意図的にロボットに触れてロボットの位置を変更するような場合に、意図的な接触ではロボットの動作を停止させず、意図的でない接触ではロボットの動作を停止させるような判断が可能となる。このような判断によれば、ロボットと作業者との協働を妨げずに、意図的でない接触による事故を防止することができるようになるため、より好適である。
【0061】
上述した実施の形態では、第1近接度D1が第1閾値Th1より小さく、かつ第2近接度D2が第2閾値Th2以上である場合には、移動部11の移動を停止させるとしたが、例えば以下の例のように、より詳細な判断を行ってもよい。
【0062】
第1の例として、判断部23は、第2近接度D2の単位時間当たりの変動量を第2近接度算出部22から取得し、上記条件が満たされていることに加えて、第2近接度D2の変動量が第3閾値Th3以上である場合に、その移動部11の移動を停止させるようにしてもよい。なお、上記条件とは、第1近接度D1が第1閾値Th1より小さく、かつ第2近接度D2が第2閾値Th2以上であることを意味する(以下の説明においても同様)。
【0063】
第2の例として、判断部23は、近接センサ12からの検出値を取得し、上記条件が満たされていることに加えて、作業環境物以外の物体の検出値が第4閾値Th4以上である場合に、その移動部11の移動を停止させるようにしてもよい。
【0064】
第3の例として、移動部11毎に近接センサ12が設けられておらず、ロボット筐体1の要所に飲み近接センサ12が設けられている場合、判断部23は、各移動部11の予定された移動方向に基づいて、どの近接センサ12の検出値に基づく第1近接度D1および第2近接度D2を用いて判断を行うかを決定するようにしてもよい。このような構成により、近接センサ12の設置数を減らすことができ、コスト低減が可能となる。
【0065】
2020年3月27日出願の特願2020-058501の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、全て本願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、作業者と同じ空間で協働するロボットとして好適に利用される。
【符号の説明】
【0067】
100 ロボット
1 ロボット筐体
11,11_1,11_2,11_3,11_4 移動部
12、12_1,12_2,12_3,12_4 近接センサ
2 制御部
21 第1近接度算出部
22 第2近接度算出部
23 判断部
24 モータ制御部
3 モータ
4 カメラ
200 ロボットシステム
301 CPU
302 ROM
303 RAM
304 入出力部
305 バス
図1
図2
図3
図4