IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東海電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図1
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図2
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図3
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図4
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図5
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図6
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図7
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図8
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図9
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図10
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図11
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図12
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図13
  • 特許-ガス分析システムおよびプログラム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ガス分析システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
G01N30/86 K
G01N30/86 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019230584
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021099242
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】302031454
【氏名又は名称】東海電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140796
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】都築 伴三
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 拓也
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056664(JP,A)
【文献】特開平05-312748(JP,A)
【文献】特開平02-259421(JP,A)
【文献】特開平09-257790(JP,A)
【文献】実公昭43-014240(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0347354(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/86,
G01N 27/00,27/12,
G01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスに含まれる成分の強度を検知する成分強度検知部と、
前記成分強度検知部によって検知された強度としての検知強度に対して調整を実行する検知強度調整部と
を備え、
前記検知強度調整部は、前記検知強度に対する閾値の前後で前記検知強度の大小関係を維持しながら、前記調整の実行前の前記検知強度が特定の値超である範囲において、前記調整の実行後の前記検知強度を前記調整の実行前の前記検知強度より小さくするように、前記閾値で分割された複数の範囲のそれぞれの関数によって前記調整を実行することを特徴とするガス分析システム。
【請求項2】
前記関数は、一次関数であることを特徴とする請求項1に記載のガス分析システム。
【請求項3】
前記閾値は、同一の前記成分に対して複数存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス分析システム。
【請求項4】
前記閾値および前記関数の少なくとも1つは、少なくとも2つの前記成分同士で異なることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のガス分析システム。
【請求項5】
前記検知強度調整部は、前記ガスに含まれる全ての前記成分のうち特定の前記成分の前記検知強度に対して、前記関数によって前記調整を実行するのではなく、前記調整の実行後の前記検知強度が最小になるように前記調整を実行することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のガス分析システム。
【請求項6】
前記閾値および前記関数の少なくとも1つを設定するパラメーター設定部を備えることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載のガス分析システム。
【請求項7】
前記検知強度調整部による前記調整の実行後の前記検知強度に基づいてニューラルネットワークによって前記ガスの分析を実行するガス分析部を備えることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載のガス分析システム。
【請求項8】
ガスに含まれる成分の強度を検知する成分強度検知部によって検知された強度としての検知強度に対して調整を実行する検知強度調整部をコンピューターに実行させ、
前記検知強度調整部は、前記検知強度に対する閾値の前後で前記検知強度の大小関係を維持しながら、前記調整の実行前の前記検知強度が特定の値超である範囲において、前記調整の実行後の前記検知強度を前記調整の実行前の前記検知強度より小さくするように、前記閾値で分割された複数の範囲のそれぞれの関数によって前記調整を実行することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを分析するガス分析システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガス分析システムとして、サンプルガスを成分(以下「成分ガス」という。)毎に分離してガスクロマトグラムを生成するガスクロマトグラフと、ガスクロマトグラフによって生成されたガスクロマトグラムに基づいてニューラルネットワークによってサンプルガスの臭気を判定するコンピューターとを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来のガス分析システムにおけるニューラルネットワークでは、サンプルガスの特徴である各成分ガスの検知強度の比率によってサンプルガスの臭気を判定する。ここで、ニューラルネットワークは、検知強度が極めて小さい成分ガスや、検知強度が極めて大きい成分ガスがサンプルガスに含まれている場合に、そのままの検知強度の比率が使用されると、他の成分ガスと比較して比率が極めて小さい成分ガスが発生し、他の成分ガスと比較して比率が極めて小さい成分ガスの検知強度が分析結果に与える影響を低く扱う可能性がある。検知強度が分析結果に与える影響が低く扱われる成分ガスの臭気指数が低い場合には、この成分ガスがサンプルガスの臭気に与える影響がそもそも低いので、この成分ガスの検知強度が分析結果に与える影響が低く扱われても大きな問題はない。しかしながら、検知強度が分析結果に与える影響が低く扱われる成分ガスの臭気指数が高い場合には、この成分ガスの検知強度が低かったとしても、この成分ガスがサンプルガスの臭気に与える影響が大きいので、この成分ガスの検知強度が分析結果に与える影響が低く扱われると問題である。したがって、従来のガス分析システムにおけるニューラルネットワークでは、サンプルガスの特徴である各成分ガスの比率を合理的に計算するために、成分ガス毎に検知強度を例えば0から1までの値に変換するなどの正規化処理を実行する。
【0004】
ここで、同一の成分ガスであっても、サンプルガス毎に検知強度にばらつきが存在する。すなわち、同一の成分ガスであっても、サンプルガスによっては、検知強度が極端に小さい場合もあるし、検知強度が極端に大きい場合もある。そのため、成分ガスの検知強度を正規化する場合に、正規化のための検知強度の母集団の中に、他の検知強度と比較して極端に大きな外れ値である検知強度が存在するときがある。そのようなとき、他の検知強度と比較して極端に大きな外れ値である検知強度を使用して正規化処理を実行すると、正規化処理後の検知強度が極端に小さくなる。例えば、10個のサンプルガスにおける特定の成分ガスの検知強度が全て10前後である場合、この成分ガスの検知強度を0から1までの値に正規化すると、全て約1になるが、このうち1つが1000である場合には、この成分ガスの検知強度を0から1までの値に正規化すると、正規化前に1000であった検知強度が1になるので、正規化前に10前後であった検知強度は0.01前後になる。正規化処理後の検知強度が極端に小さくなる場合、正規化したにもかかわらず、ニューラルネットワークにおいて、検知強度が分析結果に与える影響が低く扱われる可能性がある。また、正規化処理後の検知強度が極端に小さくなる場合、コンピューターによる演算における有効桁数の関係で、正規化後の検知強度が丸められて特徴が損なわれる可能性もある。
【0005】
そこで、成分ガスの検知強度を対数変換した後で正規化処理を実行する方法が知られている。図13は、従来のガスクロマトグラフによって生成されたガスクロマトグラムの一例を示す図である。図14は、図13に示すガスクロマトグラムの検知強度を常用対数で対数変換した図である。図13に示すガスクロマトグラフには、他のリテンションタイムと比較して検知強度が極端に大きいリテンションタイム81、82および83が存在する。例えば、リテンションタイム81、82および83の少なくとも1つにおける検知強度は、図13に示すガスクロマトグラムの場合に、図13に示すガスクロマトグラムの対象のサンプルガスとは別の多数のサンプルガスのそれぞれから取得したガスクロマトグラムの場合と比較して、極端に大きな外れ値である可能性がある。しかしながら、図13に示すガスクロマトグラフは、成分ガスの検知強度が対数変換されることによって、図14に示すものになり、対数変換前において極端に大きかった検知強度が対数変換後において小さく圧縮されるので、対数変換前において極端に大きかった検知強度が外れ値であったとしても、後続の正規化処理の結果に対して与える影響を低減することができる。また、図14に示す例は、図13に示すガスクロマトグラフにおける微小な信号を相対的に大きくすることができている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-056664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、成分ガスの検知強度を対数変換した後で正規化処理を実行する方法においては、サンプルガスにおける成分ガス間の正規化後の値における比率が、サンプルガスにおける成分ガス間の実際の検知強度における比率とかけ離れている可能性があるので、ガスの臭気の判定の正解率が高くないという問題がある。
【0008】
例えば、成分ガスの検知強度を常用対数で対数変換する場合、正規化のための検知強度の母集団において、例えば図13に示すリテンションタイム82における検知強度のように、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度が約1700000であるものが最大値であるとすると、対数変換後の検知強度においては約6.23が最大値である。
【0009】
ここで、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度が10から100に変化したとすると、対数変換後の検知強度においては1から2に変化し、正規化後の値においては約0.16から約0.32に変化する。すなわち、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度において10倍に変化している場合に、成分ガスの検知強度を対数変換した後で正規化処理を実行した値において2倍にしか変化していない。このように、検知強度の変化の比率に関しては、対数変換後においては対数変換前に対して0.2倍に低下しており、対数変換の前後で大幅に差異がある。
【0010】
そして、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度が100000から1000000に変化したとすると、対数変換後の検知強度においては5から6に変化し、正規化後の値においては約0.8から約0.96に変化する。すなわち、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度において100倍に変化している場合に、成分ガスの検知強度を対数変換した後で正規化処理を実行した値において1.2倍にしか変化していない。このように、検知強度の変化の比率に関しては、対数変換後においては対数変換前に対して0.012倍に低下しており、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度が大きくなるほど、対数変換の前後での差異が大きくなる。
【0011】
以上に説明したように、正規化後の値における変化の比率は、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度における変化の比率とは大幅に異なっている。そのため、サンプルガスにおける成分ガス間の正規化後の値における比率が、サンプルガスにおける成分ガス間の実際の検知強度における比率とかけ離れている可能性がある。ここで、ガスの臭気を判定するニューラルネットワークにおいては、サンプルガスにおける成分ガス間の実際の検知強度における比率がガスの臭気の判定に影響する。したがって、成分ガスの検知強度を対数変換した後で正規化処理を実行する方法においては、ガスの臭気の判定の正解率が高くないという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができるガス分析システムおよびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のガス分析システムは、ガスに含まれる成分の強度を検知する成分強度検知部と、前記成分強度検知部によって検知された強度としての検知強度に対して調整を実行する検知強度調整部とを備え、前記検知強度調整部は、前記検知強度に対する閾値の前後で前記検知強度の大小関係を維持しながら、前記調整の実行前の前記検知強度が特定の値超である範囲において、前記調整の実行後の前記検知強度を前記調整の実行前の前記検知強度より小さくするように、前記閾値で分割された複数の範囲のそれぞれの関数によって前記調整を実行することを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明のガス分析システムは、閾値の前後で検知強度の大小関係を維持しながら、調整の実行前の検知強度が特定の値超である範囲において、調整の実行後の検知強度を調整の実行前の検知強度より小さくするように、閾値で分割された複数の範囲のそれぞれの関数によって検知強度に対して調整を実行するので、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができる。
【0015】
本発明のガス分析システムにおいて、前記関数は、一次関数であっても良い。
【0016】
この構成により、本発明のガス分析システムは、閾値で分割された複数の範囲のそれぞれにおいて、一次関数によって検知強度に対して調整を実行するので、全範囲において同一の対数関数によって検知強度に対して調整を実行する従来の構成と比較して、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。
【0017】
本発明のガス分析システムにおいて、前記閾値は、同一の前記成分に対して複数存在しても良い。
【0018】
この構成により、本発明のガス分析システムは、複数の閾値で分割された複数の範囲で段階的に調整の程度を変化させることができるので、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。
【0019】
本発明のガス分析システムにおいて、前記閾値および前記関数の少なくとも1つは、少なくとも2つの前記成分同士で異なっても良い。
【0020】
この構成により、本発明のガス分析システムは、成分毎に発生する可能性がある外れ値の大きさに合わせて成分毎に検知強度を調整することができるので、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を成分毎に低減することができる。
【0021】
本発明のガス分析システムにおいて、特定の前記成分に対する前記閾値および前記関数は、前記調整の実行後の前記検知強度が最小になるものであっても良い。
【0022】
この構成により、本発明のガス分析システムは、ガスに含まれる全ての成分のうち特定の成分の検知強度を調整によって最小にするので、ガスに含まれる全ての成分のうち、ガスの分析に影響しない成分を除去することができる。
【0023】
本発明のガス分析システムは、前記閾値および前記関数の少なくとも1つを設定するパラメーター設定部を備えても良い。
【0024】
この構成により、本発明のガス分析システムは、閾値および関数の少なくとも1つを適切なものに設定することができるので、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を適切に低減することができる。
【0025】
本発明のガス分析システムは、前記検知強度調整部による前記調整の実行後の前記検知強度に基づいてニューラルネットワークによって前記ガスの分析を実行するガス分析部を備えても良い。
【0026】
この構成により、本発明のガス分析システムは、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができるので、調整の実行後の検知強度に基づいてガスの分析を実行するニューラルネットワークによるガスの分析の正解率を向上することができる。
【0027】
本発明のプログラムは、ガスに含まれる成分の強度を検知する成分強度検知部によって検知された強度としての検知強度に対して調整を実行する検知強度調整部をコンピューターに実行させ、前記検知強度調整部は、前記検知強度に対する閾値の前後で前記検知強度の大小関係を維持しながら、前記調整の実行前の前記検知強度が特定の値超である範囲において、前記調整の実行後の前記検知強度を前記調整の実行前の前記検知強度より小さくするように、前記閾値で分割された複数の範囲のそれぞれの関数によって前記調整を実行することを特徴とする。
【0028】
この構成により、本発明のプログラムを実行するコンピューターは、閾値の前後で検知強度の大小関係を維持しながら、調整の実行前の検知強度が特定の値超である範囲において、調整の実行後の検知強度を調整の実行前の検知強度より小さくするように、閾値で分割された複数の範囲のそれぞれの関数によって検知強度に対して調整を実行するので、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のガス分析システムおよびプログラムは、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施の形態に係るガス分析システムの構成図である。
図2図1に示すコンピューターのブロック図である。
図3図2に示す最大値情報の一例を示す図である。
図4図2に示す調整パラメーター情報の一例を示す図である。
図5図4に示す調整パラメーターの一例を示す図である。
図6図5に示す例とは異なる、調整パラメーターの一例を示す図である。
図7】検知強度の最大値および調整パラメーターを自動で設定する場合の図2に示すコンピューターの動作のフローチャートである。
図8】サンプルガスを分析する場合の図2に示すコンピューターの動作のフローチャートである。
図9】(a)図8に示す動作における、検知強度の調整の実行前のガスクロマトグラムの一例を示す図である。 (b)図8に示す動作における、検知強度の調整の実行後のガスクロマトグラムの一例を示す図である。
図10図2に示すニューラルネットワークの一例を示す図である。
図11図10に示すニューラルネットワークに学習を実行させる方法のフローチャートである。
図12】全ての成分ガスで閾値および関数が共通である場合に図13に示すガスクロマトグラムの検知強度を図2に示すコンピューターによって調整した図である。
図13】従来のガスクロマトグラフによって生成されたガスクロマトグラムの一例を示す図である。
図14図13に示すガスクロマトグラムの検知強度を常用対数で対数変換した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0032】
まず、本実施の形態に係るガス分析システムの構成について説明する。
【0033】
図1は、本実施の形態に係るガス分析システム10の構成図である。
【0034】
図1に示すように、ガス分析システム10は、分析対象の気体であるサンプルガスからガスクロマトグラムを生成するガスクロマトグラフ20と、サンプルガスの分析の結果を表示するための例えばPC(Personal Computer)などのコンピューター30とを備えている。
【0035】
ガス分析システム10は、サンプルガスの分析としてサンプルガスのにおいを判定するにおい判定システムである。以下においては、ガス分析システム10として、コーヒーのにおいを判定するシステムを例にして説明する。
【0036】
ガスクロマトグラフ20は、キャリアガスが圧縮されて貯蔵されている圧縮タンク21と、圧縮タンク21に接続されていて、サンプルガスを注入するための注射器90からサンプルガスが注入されるための注入部22と、注入部22に接続されていて、注入部22でキャリアガスにサンプルガスが混合されたガスとしての混合ガスを成分ガス毎に分離するためのガス分離カラム23と、ガス分離カラム23に接続されていて、ガス分離カラム23から流入する成分ガスを検出する検出器24とを備えている。
【0037】
図2は、コンピューター30のブロック図である。
【0038】
図2に示すように、コンピューター30は、種々の操作が入力される例えばキーボード、マウスなどの操作デバイスである操作部31と、種々の情報を表示する例えばLCD(Liquid Crystal Display)などの表示デバイスである表示部32と、LAN(Local Area Network)、インターネットなどのネットワーク経由で、または、ネットワークを介さずに有線または無線によって直接に、外部の装置と通信を行う通信デバイスである通信部33と、各種の情報を記憶する例えば半導体メモリー、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶デバイスである記憶部34と、コンピューター30全体を制御する制御部35とを備えている。
【0039】
コンピューター30は、サンプルガスの分析の結果を表示部32に表示することができる。
【0040】
記憶部34は、ガスを分析するためのプログラムとしてのガス分析プログラム34aを記憶している。ガス分析プログラム34aは、例えば、コンピューター30の製造段階でコンピューター30にインストールされていても良いし、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリーなどの外部の記憶媒体からコンピューター30に追加でインストールされても良いし、ネットワーク上からコンピューター30に追加でインストールされても良い。
【0041】
記憶部34は、成分ガス毎の検知強度の最大値を示す最大値情報34bを記憶している。
【0042】
図3は、最大値情報34bの一例を示す図である。
【0043】
図3に示すように、最大値情報34bは、成分ガスの検知強度の最大値を、成分ガスの識別情報としてのガスID毎に対応付けた情報である。図3に示す最大値情報34bは、一部のガスIDに対応する情報が省略して描かれているが、実際には、図示している情報の他にも、多くのガスIDに対応する情報を含んでいる。
【0044】
図2に示すように、記憶部34は、ガスクロマトグラムにおける検知強度の調整のためのパラメーター(以下「調整パラメーター」という。)を示す調整パラメーター情報34cを記憶している。
【0045】
図4は、調整パラメーター情報34cの一例を示す図である。
【0046】
図4に示すように、調整パラメーター情報34cは、ガスID毎に調整パラメーターを対応付けた情報である。調整パラメーターは、検知強度の調整のための閾値としての第1の閾値と、検知強度の調整のための閾値としての、第1の閾値より大きい第2の閾値とを含んでいる。ここで、検知強度の調整のための関数は、一次関数である。調整パラメーターは、検知強度のうち0以上第1の閾値以下の範囲の部分に対する一次関数としての第1の一次関数の係数としての第1の傾きと、検知強度のうち第1の閾値超、第2の閾値以下の範囲の部分に対する一次関数としての第2の一次関数の係数としての第2の傾きと、検知強度のうち第2の閾値超の範囲の部分に対する一次関数としての第3の一次関数の係数としての第3の傾きとを含んでいる。図4に示す調整パラメーター情報34cは、一部のガスIDに対応する情報が省略して描かれているが、実際には、図示している情報の他にも、多くのガスIDに対応する情報を含んでいる。
【0047】
図5は、調整パラメーターの一例を示す図である。
【0048】
図5において、横軸は、調整の実行前の検知強度を示しており、縦軸は、調整の実行後の検知強度を示している。図5に示す例における調整パラメーターは、第1の閾値41、第2の閾値42がそれぞれ200000、400000であり、第1の傾き、第2の傾き、第3の傾きがそれぞれ1、0.5、0.1である。図5に示す例において、線43は、これらの調整パラメーターによって調整された場合の調整の前後の検知強度の関係を示す線である。線43は、検知強度のうち0以上第1の閾値41以下の範囲の部分に対して第1の一次関数44で構成されていて、検知強度のうち第1の閾値41超、第2の閾値42以下の範囲の部分に対して第2の一次関数45で構成されていて、検知強度のうち第2の閾値42超の範囲の部分に対して第3の一次関数46で構成されている。第1の一次関数44と、第2の一次関数45とは、第1の閾値41において交差する。第2の一次関数45と、第3の一次関数46とは、第2の閾値42において交差する。図5に示す例において、線47は、検知強度の全ての範囲の部分に対して係数として1を適用して調整する場合の調整の前後の検知強度の関係を参考として示した線である。すなわち、線47は、調整されない場合の検知強度を参考として示した線である。線43が示すように、図5に示す例における調整パラメーターは、検知強度のうち0以上第1の閾値41以下の範囲の部分を圧縮も増幅もせず、検知強度のうち第1の閾値41超、第2の閾値42以下の範囲の部分を圧縮し、検知強度のうち第2の閾値42超の範囲の部分を更に強く圧縮するものである。
【0049】
図6は、図5に示す例とは異なる、調整パラメーターの一例を示す図である。
【0050】
図6において、横軸は、調整の実行前の検知強度を示しており、縦軸は、調整の実行後の検知強度を示している。図6に示す例における調整パラメーターは、第1の閾値41、第2の閾値42がそれぞれ200000、400000であり、第1の傾き、第2の傾き、第3の傾きがそれぞれ2、1、0.2である。図6に示す例において、線43は、これらの調整パラメーターによって調整された場合の調整の前後の検知強度の関係を示す線である。線43は、検知強度のうち0以上第1の閾値41以下の範囲の部分に対して第1の一次関数44で構成されていて、検知強度のうち第1の閾値41超、第2の閾値42以下の範囲の部分に対して第2の一次関数45で構成されていて、検知強度のうち第2の閾値42超の範囲の部分に対して第3の一次関数46で構成されている。第1の一次関数44と、第2の一次関数45とは、第1の閾値41において交差する。第2の一次関数45と、第3の一次関数46とは、第2の閾値42において交差する。図6に示す例において、線47は、検知強度の全ての範囲の部分に対して係数として1を適用して調整する場合の調整の前後の検知強度の関係を参考として示した線である。すなわち、線47は、調整されない場合の検知強度を参考として示した線である。線43が示すように、図6に示す例における調整パラメーターは、検知強度が0である部分を圧縮も増幅もせず、検知強度のうち0超650000未満の範囲の部分を増幅し、検知強度が650000である部分を圧縮も増幅もせず、検知強度のうち650000超の範囲の部分を圧縮するものである。
【0051】
調整パラメーターは、後述するように調整の実行後の検知強度を0にする場合を除いて、閾値の前後で検知強度の大小関係を維持するものであることが好ましい。第1の傾き、第2の傾きおよび第3の傾きが全て0超であり、第1の一次関数の切片としての第1の切片が、第2の一次関数の切片としての第2の切片より小さく、第2の切片が、第3の一次関数の切片としての第3の切片より小さい場合に、閾値の前後で検知強度の大小関係を維持することが可能である。図5および図6に示す例においては、第1の傾き、第2の傾きおよび第3の傾きが全て0超であり、第1の切片44aが第2の切片45aより小さく、第2の切片45aが第3の切片46aより小さいので、第1の閾値41および第2の閾値42のそれぞれの前後で検知強度の大小関係を維持することが可能である。
【0052】
調整パラメーターは、調整の実行前の検知強度が特定の値超である範囲において、調整の実行後の検知強度を調整の実行前の検知強度より小さくするものであることが好ましい。図5に示す例における調整パラメーターは、調整の実行前の検知強度が200000超である範囲において、調整の実行後の検知強度を調整の実行前の検知強度より小さくするものである。図6に示す例における調整パラメーターは、調整の実行前の検知強度が650000超である範囲において、調整の実行後の検知強度を調整の実行前の検知強度より小さくするものである。
【0053】
図2に示す制御部35は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよび各種のデータを記憶しているROM(Read Only Memory)と、制御部35のCPUの作業領域として用いられるメモリーとしてのRAM(Random Access Memory)とを備えている。制御部35のCPUは、記憶部34または制御部35のROMに記憶されているプログラムを実行する。
【0054】
制御部35は、ガス分析プログラム34aを実行することによって、サンプルガスに含まれる成分ガスの強度を検知する成分強度検知部35aと、成分強度検知部35aによって検知された強度としての検知強度に対して調整を実行する検知強度調整部35bと、調整パラメーターを設定するパラメーター設定部35cと、成分ガス毎の検知強度を正規化する正規化処理部35dと、サンプルガスの分析を実行するニューラルネットワーク35eと、ニューラルネットワーク35eによってサンプルガスの分析を実行するガス分析部35fと、ニューラルネットワーク35eに学習を実行させる学習実行部35gとを実現する。
【0055】
次に、検知強度の最大値および調整パラメーターを設定する方法について説明する。
【0056】
作業者は、検知強度の最大値および調整パラメーターを設定するためのサンプルガス(以下「設定用サンプルガス」という。)を複数用意し、複数の設定用サンプルガスのそれぞれのガスクロマトグラムを、ガス分析システム10を使用して取得する。ガス分析システム10の成分強度検知部35aは、サンプルガスに含まれる成分ガスの強度をガスクロマトグラフ20によって検知することによって、ガスクロマトグラムを生成する。例えば、作業者は、20種類のコーヒーのそれぞれから得られる設定用サンプルガスを100種類ずつ用意する。すなわち、作業者は、2000個の設定用サンプルガスを用意する。そして、作業者は、ガス分析システム10を使用して、2000個の設定用サンプルガスのそれぞれのガスクロマトグラムを取得する。
【0057】
図7は、検知強度の最大値および調整パラメーターを自動で設定する場合のコンピューター30の動作のフローチャートである。
【0058】
コンピューター30のパラメーター設定部35cは、検知強度の最大値および調整パラメーターを自動で設定する指示が操作部31または通信部33を介して入力されると、図7に示す動作を実行する。
【0059】
図7に示すように、パラメーター設定部35cは、複数の設定用サンプルガスのそれぞれから取得された複数のガスクロマトグラムを使用して、成分ガス毎の検知強度の最大値を求める(S101)。例えば、コーヒーから発生するサンプルガスの成分ガスの種類が100種類である場合、パラメーター設定部35cは、2000個の設定用サンプルガスのそれぞれから取得された2000個のガスクロマトグラムを使用して、100種類の成分ガスのそれぞれの検知強度の最大値を求める。なお、ガスクロマトグラフ20によって生成されたガスクロマトグラムにおいて各成分ガスが出現するタイミング、すなわち、リテンションタイムが決まっているので、パラメーター設定部35cは、ガスクロマトグラムにおいて各成分ガスの検知強度を認識することができる。
【0060】
パラメーター設定部35cは、S101の処理の後、S101の処理によって求めた、成分ガス毎の最大値を示す最大値情報34bを記憶する(S102)。
【0061】
次いで、パラメーター設定部35cは、複数の設定用サンプルガスのそれぞれから取得された複数のガスクロマトグラムを使用して、成分ガス毎に調整パラメーターを決定する(S103)。ここで、サンプルガスからは、互いに臭気指数が異なる複数種類の成分ガスが検知されることがある。パラメーター設定部35cは、各成分ガスの臭気指数が設定されている場合、圧縮の程度が弱い成分ガスが、圧縮の程度が強い成分ガスと比較して、臭気指数が高くなるように調整パラメーターを決定する。例えば、サンプルガスからは、臭気指数が非常に低い成分ガス、すなわち、においの判定に影響しない成分ガスが定常的に検知されることがある。パラメーター設定部35cは、においの判定に影響しない成分ガスが予め指定されている場合、この成分ガスに対する調整パラメーターの第1の閾値、第2の閾値、第1の傾き、第2の傾きおよび第3の傾きを全て0に決定することによって、この成分ガスの調整の実行後の検知強度を0にする。また、パラメーター設定部35cは、においの判定に影響しない成分ガスとして指定されていない成分ガスに関しては、複数の設定用サンプルガスのそれぞれから取得された複数のガスクロマトグラムに基づいて外れ値が存在するか否かを判断し、外れ値が存在する場合には、他の値からの外れ値の外れ具合に応じて、予め設定されている条件で調整パラメーターを決定しても良い。例えば、パラメーター設定部35cは、圧縮の程度が強い成分ガスが、圧縮の程度が弱い成分ガスと比較して、他の値からの外れ値の外れ具合が大きくなるように調整パラメーターを決定しても良い。
【0062】
パラメーター設定部35cは、S103の処理の後、S103の処理によって求めた、成分ガス毎の調整パラメーターを示す調整パラメーター情報34cを記憶して(S104)、図7に示す動作を終了する。
【0063】
なお、以上においては、パラメーター設定部35cは、自動で設定した調整パラメーターを示す調整パラメーター情報34cを記憶している。しかしながら、パラメーター設定部35cは、操作部31または通信部33を介した指示に応じた調整パラメーターを示す調整パラメーター情報34cを記憶しても良い。
【0064】
次に、サンプルガスを分析する場合のコンピューター30の動作について説明する。
【0065】
図8は、サンプルガスを分析する場合のコンピューター30の動作のフローチャートである。
【0066】
図8に示すように、コンピューター30の検知強度調整部35bは、対象のサンプルガスに対してガスクロマトグラフ20によって生成されたガスクロマトグラムのデータから成分ガス毎の検知強度を取得する(S121)。
【0067】
次いで、検知強度調整部35bは、S121において取得された、成分ガス毎の検知強度を、調整パラメーター情報34cに示される、成分ガス毎の調整パラメーターに応じて調整する(S122)。
【0068】
図9(a)は、検知強度の調整の実行前のガスクロマトグラムの一例を示す図である。図9(b)は、検知強度の調整の実行後のガスクロマトグラムの一例を示す図である。
【0069】
検知強度調整部35bは、S122の処理によって、図9(a)に示す検知強度を、例えば、図9(b)に示す検知強度に調整する。図9(b)に示すガスクロマトグラムにおいては、図9(a)に示すガスクロマトグラムに存在する、においの判定に影響しない成分ガス51が、S122における調整によって除去されている。また、図9(b)に示すガスクロマトグラムにおいては、図9(a)に示すガスクロマトグラムに存在する、検知強度が通常の値より大幅に外れている成分ガス52が、S122における調整によって、高い圧縮率で圧縮されている。
【0070】
図8に示すように、検知強度調整部35bは、S122の処理の後、最大値情報34bに示される、成分ガス毎の最大値を、調整パラメーター情報34cに示される、成分ガス毎の調整パラメーターに応じて調整する(S123)。
【0071】
次いで、正規化処理部35dは、S122による調整の実行後の検知強度を、S123による調整の実行後の最大値で割ることによって、成分ガス毎に正規化する(S124)。
【0072】
次いで、ガス分析部35fは、S124において正規化した、成分ガス毎の検知強度に基づいてニューラルネットワーク35eによってサンプルガスの分析を実行して(S125)、図8に示す動作を終了する。
【0073】
図10は、ニューラルネットワーク35eの一例を示す図である。
【0074】
図10に示すニューラルネットワーク35eの設定項目には、入力側のノードの数を示す入力ノード数と、隠れノードの数を示す隠れノード数と、出力側のノードの数を示す出力ノード数と、活性化関数に何を使用するかということと、最適化として何を使用するかということと、Batch normalizationの使用の有無と、Weight decayの使用の有無と、Dropoutの使用の有無と、入力のデータおよび出力の正解データからなる学習データ毎の教師有り学習の繰り返しの回数を示す教師学習繰返し回数とが含まれている。図10に示すニューラルネットワーク35eは、入力ノード数が成分ガスの種類の数である100個であり、隠れノード数が20個であり、出力ノード数がコーヒーの種類の数である20個であり、活性化関数がReLUであり、最適化がAdamであり、Batch normalizationを使用し、Weight decayを使用し、Dropoutを使用し、教師学習繰返し回数が10000回である。
【0075】
図10に示す例では、サンプルガスのにおいの判定の結果として、「モカ」が出力されている。
【0076】
次に、ニューラルネットワーク35eに学習を実行させる方法について説明する。
【0077】
図11は、ニューラルネットワーク35eに学習を実行させる方法のフローチャートである。
【0078】
図11に示すように、まず、対象のサンプルガスのにおいが専門家によって判定される(S141)。
【0079】
次いで、コンピューター30の学習実行部35gは、S121~S124(図8参照。)処理と同様のS142~S145の処理を実行する。
【0080】
S145の処理が終了すると、学習実行部35gは、S145において正規化した、成分ガス毎の検知強度を入力のデータにするとともに、S141による判定の結果を出力の正解データにすることによって、ニューラルネットワーク35eに教師有り学習を実行させて(S146)、図11に示す方法を終了する。
【0081】
以上に説明したように、ガス分析システム10は、第1の閾値41および第2の閾値42のそれぞれの前後で検知強度の大小関係を維持しながら、調整の実行前の検知強度が特定の値超である範囲において、調整の実行後の検知強度を調整の実行前の検知強度より小さくするように、第1の閾値41および第2の閾値42のそれぞれで分割された複数の範囲のそれぞれの関数、すなわち、第1の一次関数44、第2の一次関数45および第3の一次関数46のそれぞれによって検知強度に対して調整を実行するので、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができる。
【0082】
例えば、成分ガスの検知強度を常用対数で対数変換する従来の構成の場合には、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度が10から100に10倍の変化をするとき、検知強度の変化の比率に関しては、上述したように、対数変換後においては対数変換前に対して0.2倍に低下する。一方、調整パラメーターが例えば図5に示すものである場合には、成分ガスの調整の実行の前の実際の検知強度が10から100に10倍の変化をするとき、調整の実行の後の検知強度においても10から100に10倍の変化をするので、検知強度の変化の比率に関しては、調整の実行の前後で全く差異がない。このように、調整パラメーターが図5に示すものである場合には、成分ガスの検知強度を常用対数で対数変換する従来の構成の場合と比較して、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。
【0083】
また、成分ガスの検知強度を常用対数で対数変換する従来の構成の場合には、成分ガスの対数変換前の実際の検知強度が100000から1000000に10倍の変化をするとき、検知強度の変化の比率に関しては、上述したように、対数変換後においては対数変換前に対して0.012倍に低下する。一方、調整パラメーターが例えば図5に示すものである場合には、成分ガスの調整の実行の前の実際の検知強度が100000から1000000に10倍の変化をするとき、調整の実行の後の検知強度においては100000から360000に3.6倍の変化をするので、検知強度の変化の比率に関しては、調整の実行の後においては調整の実行の前に対して0.36倍に低下する。このように、調整パラメーターが図5に示すものである場合には、成分ガスの検知強度を常用対数で対数変換する従来の構成の場合と比較して、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。
【0084】
ガス分析システム10は、検知強度の大小関係を維持しながら検知強度の大きな外れ値を圧縮するように検知強度に対して調整を実行する場合に、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を従来より低減することができるので、調整の実行後の検知強度に基づいてサンプルガスの分析を実行するニューラルネットワーク35eによるサンプルガスの分析の正解率を向上することができる。
【0085】
ガス分析システム10は、閾値および関数を適切なものに設定することができるので、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を適切に低減することができる。なお、ガス分析システム10は、閾値および関数の少なくとも1つが固定であっても良い。
【0086】
ガス分析システム10は、第1の閾値41および第2の閾値42のそれぞれで分割された複数の範囲のそれぞれにおいて、一次関数によって検知強度に対して調整を実行するので、全範囲において同一の対数関数によって検知強度に対して調整を実行する従来の構成と比較して、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。なお、ガス分析システム10において、第1の閾値41および第2の閾値42のそれぞれで分割された複数の範囲のそれぞれにおける調整のための関数は、一次関数でなくても良い。
【0087】
ガス分析システム10は、同一の成分ガスに対して第1の閾値41および第2の閾値42という複数の閾値が存在するので、第1の閾値41および第2の閾値42のそれぞれで分割された複数の範囲で段階的に調整の程度を変化させることができ、その結果、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。なお、ガス分析システム10は、閾値が1つのみ存在する構成でも良いし、閾値が3つ以上存在する構成でも良い。
【0088】
ガス分析システム10は、成分ガス毎に閾値および関数を異ならせることが可能であるので、成分ガス毎に発生する可能性がある外れ値の大きさに合わせて成分ガス毎に検知強度を調整することができ、その結果、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を成分ガス毎に低減することができる。例えば、図9(b)に示す例においては、ガス分析システム10は、検知強度が通常の値より大幅に外れている成分ガス52(図9(a)参照。)を、調整によって高い圧縮率で圧縮している。
【0089】
ガス分析システム10は、サンプルガスに含まれる全ての成分ガスのうち特定の成分ガスの検知強度を調整によって最小、すなわち、0にするので、サンプルガスに含まれる全ての成分ガスのうち、サンプルガスの分析に影響しない成分ガスを除去することができる。例えば、図9(b)に示す例においては、ガス分析システム10は、サンプルガスの分析に影響しない成分ガス51(図9(a)参照。)の検知強度を調整によって0にすることによって、成分ガス51を除去している。
【0090】
ガス分析システム10は、図6に示すように、検知強度を増幅することも可能である。例えば、臭気指数が高いにもかかわらず検知強度が低い成分ガスの場合には、この成分ガスがにおいの判定に影響するので、ガス分析システム10は、この成分ガスを強調するために、この成分ガスの検知強度を増幅することも可能である。
【0091】
なお、ガス分析システム10は、全ての成分ガスで閾値および関数が共通であっても良い。
【0092】
図12は、全ての成分ガスで閾値および関数が共通である場合に図13に示すガスクロマトグラムの検知強度をコンピューター30によって調整した図である。
【0093】
図12に示す例における調整パラメーターは、図5に示す例と同様に、第1の閾値41、第2の閾値42がそれぞれ200000、400000であり、第1の傾き、第2の傾き、第3の傾きがそれぞれ1、0.5、0.1である。図13に示すガスクロマトグラフには、上述したように、他のリテンションタイムと比較して検知強度が極端に大きいリテンションタイム81、82および83(図13参照。)が存在する。例えば、リテンションタイム81、82および83の少なくとも1つにおける検知強度は、図13に示すガスクロマトグラムの場合に、図13に示すガスクロマトグラムの対象のサンプルガスとは別の多数のサンプルガスのそれぞれから取得したガスクロマトグラムの場合と比較して、極端に大きな外れ値である可能性がある。しかしながら、図13に示すガスクロマトグラフは、成分ガスの検知強度がコンピューター30によって調整されることによって、図12に示すものになり、図14に示すものと同様に、調整の実行前において極端に大きかった検知強度が調整の実行後において小さく圧縮されるので、調整の実行前において極端に大きかった検知強度が外れ値であったとしても、後続の正規化処理の結果に対して与える影響を低減することができる。また、図12に示す例は、図14に示す例と同様に、図13に示すガスクロマトグラフにおける微小な信号を相対的に大きくすることができている。そして、図12に示す例は、図14に示す例と比較して、検知強度の変化の比率に関する、調整の実行の前後の差を低減することができる。
【0094】
ガス分析システム10は、本実施の形態において、最大値情報34bに示される、成分ガス毎の最大値をサンプルガスの分析やニューラルネットワーク35eにおける学習の度に調整する(S123およびS144)。しかしながら、最大値情報34bに示される、成分ガス毎の最大値は、最大値情報34bと、成分ガス毎の調整パラメーターとのいずれかが変更されるまで、変化しない。したがって、ガス分析システム10は、最大値情報34bに示される、成分ガス毎の最大値を1度調整した後、最大値情報34bと、成分ガス毎の調整パラメーターとのいずれかが変更されるまで、調整済みの、成分ガス毎の最大値を使用するようにすれば、成分ガス毎の最大値を新たに調整しなくても良い。
【0095】
ガス分析システム10は、本実施の形態において、検知強度の正規化の処理をニューラルネットワーク35eの外部で実行している(S124)。しかしながら、ガス分析システム10は、検知強度の正規化の処理をニューラルネットワーク35eの内部で実行しても良い。例えば、ニューラルネットワーク35eは、S122やS143による調整の実行後の検知強度が入力されて、S123~S125の処理やS144~S146の処理と同様の処理を内部で実行しても良い。
【0096】
更に、ガス分析システム10は、検知強度の調整の処理をニューラルネットワーク35eの内部で実行しても良い。例えば、ニューラルネットワーク35eは、S121やS142において取得された、成分ガス毎の検知強度が入力されて、S122~S125の処理やS143~S146の処理と同様の処理を内部で実行しても良い。
【0097】
ガス分析システム10は、本実施の形態において、ガスクロマトグラフ20から得られるガスクロマトグラムの検知強度を対象にしている。しかしながら、ガス分析システム10は、ガスクロマトグラフ20から得られる検知強度以外の、成分ガスの検知強度を対象にしても良い。例えば、ガス分析システム10は、GC/MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)で得られる成分ガスの検知強度を対象にしても良い。
【0098】
ガス分析システム10は、本実施の形態において、教師有り学習の方法として、図11に示すように、1つの学習データ毎に都度学習するオンライン学習を採用している。しかしながら、教師有り学習の方法は、オンライン学習以外の方法でも良い。例えば、ガス分析システム10は、教師有り学習の方法として、多数の学習データを一括で学習するバッチ学習を採用しても良い。
【0099】
ガス分析システム10は、本実施の形態において、コーヒーのにおいを判定するにおい判定システムである。しかしながら、ガス分析システム10は、例えばワインのにおいなど、コーヒーのにおい以外のにおいを判定するにおい判定システムでも良いし、サンプルガスの分析として、においの判定以外の分析を実行するシステムでも良い。
【符号の説明】
【0100】
10 ガス分析システム
30 コンピューター
34a ガス分析プログラム(プログラム)
35a 成分強度検知部
35b 検知強度調整部
35c パラメーター設定部
35e ニューラルネットワーク
35f ガス分析部
41 第1の閾値(閾値)
42 第2の閾値(閾値)
44 第1の一次関数(関数、一次関数)
45 第2の一次関数(関数、一次関数)
46 第3の一次関数(関数、一次関数)
51、52 成分ガス(成分)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14