(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】光電変換装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/07 20120101AFI20231024BHJP
【FI】
H01L31/06 350
(21)【出願番号】P 2020003738
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】松浦 大輔
(72)【発明者】
【氏名】清水 信
(72)【発明者】
【氏名】湯上 浩雄
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-214719(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102983787(CN,A)
【文献】特表2013-525863(JP,A)
【文献】特表2015-532527(JP,A)
【文献】特表2014-521094(JP,A)
【文献】米国特許第08629423(US,B1)
【文献】米国特許第09997837(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0240757(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0162333(US,A1)
【文献】KUROKAWA, Yoichi and MIYAZAKI, Hideki T.,“Metal-insulator-metal plasmon nanocavities: Analysis of optical properties”,Physical Review B,2007年01月12日,Vol. 75, No. 3,pp. 035411-1 - 035411-13,DOI: 10.1103/PhysRevB.75.035411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/119
H02M 7/00-7/40
G01J 1/00-1/60
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と接続された第一金属層と
、トンネル電流のみが流れる厚みの絶縁層と、
上部電極と接続された第二金属層と、を順に積層してなる積層構造を有し、
前記第一金属層の仕事関数は、前記第二金属層の仕事関数より小さいものが用いられ、
前記積層構造に形成された、孔又はスリット状の空間からなる凹部であって、
前記凹部は、前記積層構造の最表面の前記第二金属層に設けられた光が入射する開口と、前記開口と連通し、前記第二金属層
、前記絶縁層
、および、前記第一金属層に形成された側壁と、前記第一金属層に形成された底面と、からなり、
前記凹部内で、前記光の前記凹部内での共振波長が磁場の定在波を形成する、ことを特徴とする光電変換装置。
【請求項2】
前記凹部内に形成される
前記共振波長の定在波の振幅が最大になる位置と、前記絶縁層の位置とが、前記凹部の
前記底面から等しい距離にあることを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置。
【請求項3】
前記
共振波長が、第二次モードの高調波であることを特徴とする請求項2に記載の光電変換装置。
【請求項4】
前記開口は、開放されていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の光電変換装置。
【請求項5】
下部電極と接続された第一金属層と、トンネル電流のみが流れる厚みの絶縁層と、上部電極と接続された第二金属層と、を順に積層してなる積層構造を複数段積層した複数段積層構造を有し、
前記複数段積層構造の前記積層構造間には、積層構造間絶縁層が設けられており、
前記第一金属層の仕事関数は、前記第二金属層の仕事関数より小さいものが用いられ、
前記複数段積層構造に形成された、孔又はスリット状の空間からなる凹部であって、
前記複数段積層構造の最表面の前記第二金属層に設けられた光が入射する開口と、前記開口と連通し、前記第二金属層、前記絶縁層、および、前記第一金属層に形成された側壁とを有し、前記開口は、前記積層構造間で下層の前記積層構造毎に狭くなり、前記複数段積層構造の最下層の前記第一金属層に形成された底面と、からなり、
前記凹部内で、前記光の共振波長が磁場の定在波を形成する、ことを特徴とする光電変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を電力に変換するデバイスとして、アンテナとダイオードで構成されるレクテナが知られている。レクテナは、アンテナで電磁波を吸収し、それに伴って発生する電場の内部振動を、ダイオードで整流することによって光電変換を行うものである。数GHzのマイクロ波であれば、約85%の高い電力変換効率が実現されている。近年では、レクテナの技術を光の周波数領域に適用した光レクテナの研究が進められており、例えば、太陽光で発電を行った結果が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Asha Sharma et al., nature nanotechnology, Vol.10, P.1027-1032, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なpn接合ダイオードは、寄生容量が大きく、RC時定数が大きいため、光の周波数で応答することが難しい。これに対し、金属-絶縁体-金属のトンネルダイオード(MIMダイオード)であれば、光の周波数での応答が原理的には可能であるが、その場合には絶縁体の厚さを5nm以下とすることが求められる。現在報告されている光レクテナは、Bow-tieアンテナのように面内方向で電磁波と共振する構造を有するものであり、MIMダイオードは、金属、絶縁体、金属が、電場が振動する面内方向に並ぶように形成される。その場合には、面内方向において、二つの金属の間に、5nm以下の非常に薄い絶縁層、もしくは空間的ギャップを形成する必要があるため、作製が難しい。
【0005】
一方、面直方向に積層したMIMダイオードを適用し、太陽光による発電を行った例も報告されているが、この例においては、効率が10-5%程度しか得られていない。これは、MIMダイオード上に形成された表面電極が、MIMダイオード内への光の侵入を遮ることにより、光の結合効率が低くなっていることに起因している。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、発電効率が高く、容易に作製することが可能な、光電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る光電変換装置は、少なくとも、下部電極と接続された第一金属層と、トンネル電流のみが流れる厚みの絶縁層と、上部電極と接続された第二金属層と、を順に積層してなる積層構造を有し、前記第一金属層の仕事関数は、前記第二金属層の仕事関数より小さいものが用いられ、前記積層構造に形成された、孔又はスリット状の空間からなる凹部であって、前記凹部は、前記積層構造の最表面の前記第二金属層に設けられた光が入射する開口と、前記開口と連通し、前記第二金属層、前記絶縁層、および、前記第一金属層に形成された側壁と、前記第一金属層に形成された底面と、からなり、
前記凹部内で、前記光の前記凹部内での共振波長が定在波を形成する。
【0009】
(2)上記(1)に記載の光電変換装置において、前記凹部内に形成される前記共振波長の定在波の振幅が最大になる位置と、前記絶縁層の位置とが、前記凹部の前記底面から等しい距離にあることが好ましい。
【0010】
(3)上記(1)のいずれかに記載の光電変換装置において、前記共振波長が、第二次モードの高調波であることが好ましい。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の光電変換装置において、前記開口は、開放されていることが好ましい。
【0012】
(5)本発明の一態様に係る光電変換装置は、下部電極と接続された第一金属層と、トンネル電流のみが流れる厚みの絶縁層と、上部電極と接続された第二金属層と、を順に積層してなる積層構造を複数段積層した複数段積層構造を有し、前記複数段積層構造の前記積層構造間には、積層構造間絶縁層が設けられており、前記第一金属層の仕事関数は、前記第二金属層の仕事関数より小さいものが用いられ、前記複数段積層構造に形成された、孔又はスリット状の空間からなる凹部であって、前記複数段積層構造の最表面の前記第二金属層に設けられた光が入射する開口と、前記開口と連通し、前記第二金属層、前記絶縁層、および、前記第一金属層に形成された側壁とを有し、前記開口は、前記積層構造間で下層の前記積層構造毎に狭くなり、前記複数段積層構造の最下層の前記第一金属層に形成された底面と、からなり、前記凹部内で、前記光の共振波長が磁場の定在波を形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発電効率が高く、容易に作製することが可能な、光電変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る光電変換装置の斜視図である。
【
図2】
図1の光電変換装置の一部断面を拡大した図である。
【
図3】
図1の光電変換装置を構成する各層のエネルギー準位図である。
【
図4】(a)~(e)光電変換装置の要部を製造するための工程フローである。
【
図5】本発明の第二実施形態に係る光電変換装置の斜視図である。
【
図6】本発明の第三実施形態に係る光電変換装置の平面図である。
【
図7】実施例1の光電変換装置における、光吸収率波長と凹部の深さ依存性を示す分布図である。
【
図8】実施例2の光電変換装置における、光吸収率の波長依存性を示すグラフである。
【
図9】実施例2の光電変換装置のうち、凹部内の位置ごとの磁場強度分布を示す図である。
【
図10】実施例3の光電変換装置において、光照射によって得られる出力電流のグラフである。
【
図11】実施例3の光電変換装置において、光照射によって得られる出力電圧のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態に係る光電変換装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係る光電変換装置100の斜視図である。光電変換装置100は、一方の面から深さ方向に凹む凹部105を複数有している。
図2は、
図1の光電変換装置100の一部分100Aにおける断面を拡大し、電磁波が入射している状態を示す図である。なお、凹部105の数は一つであってもよく、その場合には、
図2に示す一部分100Aの構造体を光電変換装置と呼ぶことになる。光電変換装置100は、主に、第一金属層101と、絶縁層102と、第二金属層103と、を順に積層してなる積層構造104を有する。第一金属層101に接続される下部電極115、および第二金属層103に接続される上部電極116の構成については、特に限定されない。ここでの下部電極115は、第一金属層101に一体化されている。以下では、積層構造104の積層方向Lと平行な座標軸をz軸とし、これと垂直な面内において直交する二つの座標軸をそれぞれx軸、y軸とする。
【0018】
積層構造104は、その積層方向Lにおいて、第二金属層103および絶縁層102を貫通し、第一金属層101の内部まで到達する凹部(キャビティ)105を有する。凹部105の形状が限定されることはないが、ここでは、空洞部分が四角柱になるものを例示している。
【0019】
第一金属層101、第二金属層103の材料としては、カーボンやTi、Au、Co、Ni、Se、Cu等の金属、あるいはそれらの金属化合物を主成分として含む材料から、第一金属101の仕事関数が、第二金属層の仕事関数より小さくなるように、選択されたものが用いられる。例えば、二つの材料Ti、Ptが選択される場合には、Tiが第一金属層101の材料に用いられ、Ptが第二金属層103の材料に用いられる。第一金属層101全体の材料構成は、第二金属層103全体の材料構成と一致しないものとする。
【0020】
絶縁層102は、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等、より具体的には、TiO2、SiO2等から、第一金属層101および第二金属層103の仕事関数より小さい電子親和力を有するように選択された、絶縁材料からなる。絶縁層102は、第一金属層101と第二金属層102との間においてトンネル電流のみが流れる程度の厚みを有する。
【0021】
光電変換装置100においては、積層構造104に形成された凹部105が、アンテナとして動作する。凹部105に入射した光(電磁波)のうち、特定波長の成分(共振波長)のみが定在波を形成する。この定在波を構成する磁場Hxが、近接する積層構造104(凹部105の側壁)に対し、積層方向Lに平行な±z方向の電流を誘起する。定在波を形成する共振波長λcは、凹部105の深さzを用いた下記(1)式で表される。nは、形成される定在波のモード数を表している。
【0022】
【0023】
図3は、積層構造104のダイオードの動作について説明する、各層のエネルギー準位図である。第一金属層101と第二金属層103とは、互いに異なる金属材料からなるため、両層の仕事関数差に伴ってトンネルバリアエネルギーの形状が非対称となる。その結果として、誘起された±z方向の電流のうち、一方向のみに流れる整流効果が得られる。例えば、第一金属層101の材料としてTiを用い、第二金属層103の材料としてPtを用いる場合には、
図3に示すように、第二金属層103側が高くなり、第一金属層101から第二金属層103の方向(+z方向)に、より多くの電流が流れるようになる。
【0024】
誘起される電流は、磁場Hxに比例するため、整流して得られる電流量を多くする観点から、ダイオードを構成する絶縁層102の位置は、形成された磁場Hxの定在波のうち振幅が大きくなる位置、好ましくは腹の位置に近接していることが好ましい。つまり、凹部105内に形成される磁場Hxの定在波のうち、特定の定在波において、振幅が最大になる位置と、絶縁層102の位置とが、凹部の底面105aから、ほぼ等しい距離にあることが好ましい。ここでの絶縁層102と位置合わせする特定の定在波としては、凹部105の形状(深さ)によらずに安定して得られる、第二次モードの高調波(n=2)の定在波であることが好ましい。
【0025】
図4(a)~(e)は、光電変換装置100の要部(積層構造104の周辺)を製造するための工程フローを示す図である。
【0026】
まず、
図4(a)に示すように、基材106の一面に、スパッタリング法等の公知の方法を用いて、一様な厚みを有する第一金属層101Aを形成する。
【0027】
次に、
図4(b)に示すように、基材106および第一金属層101Aの露出面に対し、絶縁層102A、第二金属層103Aを順に形成する。絶縁層102Aは、原子層堆積(ALD)法を用いて形成する。第二金属層103Aは、スパッタリング法等の公知の方法を用いて形成する。
【0028】
次に、
図4(c)に示すように、電子線リソグラフィ用に、Ti等の金属からなる金属層107を挟んだ二層構造のレジスト膜108を形成する。まず、レジスト材料を塗布して第一レジスト層109を形成する。続いて、スパッタリング法で金属層107を形成し、続いて、レジスト材料を塗布して第二レジスト層110を形成する。レジスト膜をこのような二層構造とすることにより、後の工程でエッチングの際に崩れるのを防ぐことができる。
【0029】
次に、
図4(d)に示すように、レジスト膜107に対して露光およびエッチングを行って複数の貫通孔111を形成し、第二金属層103Aを部分的に露出させる。ここで貫通孔111を形成する位置は、後の工程で積層構造に形成する凹部と重なる位置である。
【0030】
次に、第二金属層102Aの露出面から第一金属層101Aの内部に到達する凹部105、112、および、第二金属層103Aの露出面から基材106の内部に到達する凹部113を、エッチングで形成する。第一金属層101と重なる領域のうち中央に形成された複数の凹部105は、アンテナとして動作するマイクロキャビティ部に相当する。第一金属層101と重なる領域のうち端に形成された凹部112より端側は、第一金属層101へプローブを差し入れた際に、第一金属層101と第二金属層103と導通させないように、プローブ設置部とマイクロキャビティ部における第二金属層103を隔絶するための溝となる。一方、第一金属層101と重ならない領域に形成された凹部113は、周囲とマイクロキャビティ部を隔絶するための溝となる。最後にレジスト膜108および基材106を除去することによって、光電変換装置100を得ることができる。なお、基材106については、必要に応じて残しておいてもよい。
【0031】
以上のように、本実施形態の光電変換装置100は、開口型のアンテナ(キャビティアンテナ)構造を有しており、光の入射経路が電極で遮蔽されないため、光結合率を高く維持することができ。その結果として、高い発電効率を得ることができる。また、本実施形態の光電変換素子100においては、MIMダイオードが用いられ、MIMダイオードを構成する各層を、積層順で個別に形成することができるため、成膜処理のみで容易に作製することができる。また、凹部105内の空間は、積層方向Lと垂直な全ての方向において側壁で囲まれているため、凹部105に入射した全偏光を閉じ込めて定在波を形成することができ、この定在波が誘起する電流量を大きくすることができる。
【0032】
<第二実施形態>
図5は、本発明の第二実施形態に係る光電変換装置の一部分200Aの斜視図である。第一実施形態では、光を入射させる凹部105が、孔状であり、xy面内の全方向において側壁で囲まれている。これに対し、本実施形態の凹部105は、スリット状であり、凹部105内の空間が、積層方向Lと垂直な全ての方向のうち、一部の方向(ここではy方向)において露出している。その他の構成は、第一実施形態の光電変換装置100の構成と同様であり、光電変換装置100と対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0033】
ここでは、x方向において、スリットの幅が一定である場合について例示している。この場合、第一金属層101、第二金属層102に接続する電極の抵抗を一律に設計することができ、出力の効率が高くなる。なお、x方向においてスリットの幅を一定としない場合には、それぞれの幅に対応した様々な波長の光を吸収することができる。
【0034】
<第三実施形態>
図6は、本発明の第三実施形態に係る光電変換装置の一部分300Aの斜視図である。本実施形態では、積層構造104が、積層方向Lに複数段(ここでは三段)積み重ねられている。二段目以降の積層構造104B、104Cの凹部105B、105Cは、第二金属層103、絶縁層102だけでなく、第一金属層101も貫通しており、一段目の積層構造104Aの凹部105Aと連通している。積層方向Dにおいて隣接する積層構造104同士は、絶縁層112等介して互いに電気的に絶縁されている。その他の構成は、第一実施形態の光電変換装置100の構成と同様であり、光電変換装置100と対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0035】
凹部(スリット)104の幅が異なると、吸収しやすい電磁波の波長も異なる。本実施形態では、波長が異なる複数種類(ここでは三種類)の電磁波を吸収することができ、光電変換効率を高めることができる。
【0036】
本実施形態の光電変換装置を動作させる場合の出力は、各段の第一金属層101に電極を接続し、各電極から別々に出力させた後に、それらを合計して取り出すことになる。各段で、個別に電極の抵抗を設計することができるため、出力の効率が高くなる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0038】
(実施例1)
上記実施形態に係る光電変換装置を用いて、各凹部(キャビティ)の形状を四角柱とし、凹部の深さと電磁波の共振波長の関係についてシミュレーションを行った。
図7は、シミュレーション結果を示すグラフである。グラフの横軸は凹部に入射した光の波長[μm]を示し、グラフの縦軸は凹部の深さ[μm]を示している。積層構造(ダイオード)による光の吸収率の高さを、色の濃さで表している。
【0039】
グラフにおいて吸収率が高くなっている二つの領域が、波長の大きさの順に、第一次モード、第二次モードに対応する共振波長領域に相当する。第一次モードの共振の発生は、凹部が比較的浅い場合に限られているが、第二次モードの共振の発生は、凹部の深さによらないことが分かる。
【0040】
(実施例2)
光電変換装置の一例として、第一金属層の凹部形成部分の厚みを230nm、絶縁層の厚みを3nm、第二金属層の厚みを170nm、凹部のピッチを530nmとした場合について、光の吸収率の波長依存性、凹部内の磁場強度分布のシミュレーションを行った。
【0041】
図8は吸収率の波長依存性のシミュレーション結果を示すグラフである。グラフの横軸は凹部に入射した光の波長[μm]を示し、グラフの縦軸は積層構造による光の吸収率を示している。波長の小さい方から順に、第三次モード、第二次モード、第一次モードのピークが見られている。第二次モードのピークが、他のモードのピークに比べて高くなっており、出力を大きくする観点から、共振モードとして好ましい。また、第二次モードのピークは波長領域が狭く、共振波長を設定する際の誤差範囲が狭いため、好ましい。
【0042】
図9は凹部内の磁場強度分布のシミュレーション結果を示すグラフである。グラフの横軸は凹部の幅を示し、グラフの縦軸は凹部の深さを示している。絶縁層の近傍において磁場が局所的に強くなっており、積層構造に誘起される電流量を増加させ、高い出力が得られる状態になっていることが分かる。
【0043】
上記実施形態に係る光電変換装置を用いて、様々な光源から照射される光について、光電変換を行った。光電変換装置の各構成要素について、次のように作製した。
・凹部の深さ:400[nm]
・凹部の幅:320[nm]
・凹部のピッチ:530[nm]
・第一金属層の凹部形成部分の厚み:230[nm]
・絶縁層の厚み:3[nm]
・第二金属層の厚み:170[nm]
【0044】
図10、11は、実施例3の光電変換装置において、光照射によって得られる出力電流、出力電圧の測定結果を示すグラフである。グラフの横軸は経過時間[s]を示し、グラフの縦軸は出力電流[A/m
2](
図10)、出力電圧[V](
図11)を示している。いずれの光源を用いた場合にも、光が照射されている時間帯(Irum)において、十分な出力が得られていることが分かる。また、出力の立ち上がり、立ち下がりともに急峻であり、高い感度を有していることが分かる。光が照射されていない時間帯(Dark)においては、出力がほぼ抑えられており、リークが十分に抑えられていることが分かる。
【0045】
実施例3で用いた照射光の条件と、得られた出力特性の測定結果を表1にまとめた。xy面内方向で電磁波と共振させる従来の構造において、太陽光を用いて得られる効率は、1.7×10-9程度である。得られている効率が、これと同程度であることから、本発明の光電変換装置の構成によって、いずれの光に対しても、光電変換が正常に行われていることを確認することができる。
【0046】
【符号の説明】
【0047】
100・・・光電変換装置
100A、200A、300A・・・光電変換装置の一部の構造体
101、101A・・・第一金属層
102、102A・・・絶縁層
103、103A・・・第二金属層
104、104A、104B、104C・・・積層構造
105、105A、105B、105C・・・凹部
105a・・・凹部の底面
106・・・基材
107・・・金属層
108・・・レジスト膜
109・・・第一レジスト層
110・・・第二レジスト層
111・・・貫通孔
112、113・・・凹部
114・・・絶縁層
115・・・下部電極
116・・・上部電極
L・・・積層方向