(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】偏平縫いミシン用針および偏平縫いミシンを使用した縫製方法
(51)【国際特許分類】
D05B 85/02 20060101AFI20231024BHJP
D05B 1/10 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
D05B85/02
D05B1/10 A
(21)【出願番号】P 2020056133
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000104021
【氏名又は名称】オルガン針株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157912
【氏名又は名称】中島 健
(74)【代理人】
【識別番号】100074918
【氏名又は名称】瀬川 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】箱山 和孝
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-216289(JP,A)
【文献】特開2019-072304(JP,A)
【文献】特開2001-187290(JP,A)
【文献】特開2004-141468(JP,A)
【文献】特開2010-075543(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0112739(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 85/02
D05B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列された複数の針が上下動することで布の下方に複数のループを形成し、この複数のループをルーパーで掬うことで縫製を実行する偏平縫いミシンに使用される、偏平縫いミシン用針であって、
ミシンに取り付けたときに保持される柄部と、先端部に糸穴が形成されて布に挿抜される針幹部と、を備え、
前記針幹部には、前記糸穴の開口縁から前記柄部の方向に延びる表溝が形成されるとともに、前記表溝の裏側には前記針幹部の輪郭を窪ませた形状のエグリ部が形成されており、
前記表溝は、前記エグリ部よりも前記柄部側に段差部を有しており、この段差部において針先側から前記柄部の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている、偏平縫いミシン用針。
【請求項2】
前記段差部は、複数本の前記偏平縫いミシン用針を偏平縫いミシンに取り付けて下死点まで移動させたときに、前記複数本の偏平縫いミシン用針のうちで最も高い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針において布を貫通せず、かつ、前記複数本の偏平縫いミシン用針のうちで最も低い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針において布を貫通する位置に形成されている、請求項1に記載の偏平縫いミシン用針。
【請求項3】
布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列された複数の偏平縫いミシン用針が上下動することで布の下方に複数のループを形成し、この複数のループをルーパーで掬うことで縫製を実行する偏平縫いミシンを使用した縫製方法であって、
前記偏平縫いミシン用針は、ミシンに取り付けたときに保持される柄部と、先端部に糸穴が形成されて布に挿抜される針幹部と、を備え、
前記針幹部には、前記糸穴の開口縁から前記柄部の方向に延びる表溝が形成されるとともに、前記表溝の裏側には前記針幹部の輪郭を窪ませた形状のエグリ部が形成されており、
前記表溝は、前記エグリ部よりも前記柄部側に段差部を有しており、この段差部において針先側から前記柄部の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている、偏平縫いミシンを使用した縫製方法。
【請求項4】
前記複数の偏平縫いミシン用針のうちで最も高い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針は、下死点位置まで移動した状態で前記段差部が布の下方に位置しないように設定され、
前記複数の偏平縫いミシン用針のうちで最も低い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針は、下死点位置まで移動した状態で前記段差部が布の下方に位置するように設定されている、請求項3に記載の偏平縫いミシンを使用した縫製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、偏平縫いミシンに使用される針、および、偏平縫いミシンを使用した縫製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏平縫いミシンは、例えば特許文献1に記載されているように、複数(2~4本)の針を布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列して取り付けるようになっている。そして、この複数の針が上下動することで布の下方に複数のループを形成し、この複数のループをルーパーで掬うことで縫製を実行するようになっている。
【0003】
なお、布の下方のループは、以下のような作用により形成される。すなわち、まず針が下死点位置まで下がり、針穴に通した上糸が布の下方に引っ張られて張り詰めた状態となる。この状態から針が上方に移動すると、布との摩擦により上糸が押さえられているため、布の下方で上糸が緩み、ループが形成される。複数の針は同時に上下動するため、針の数だけループが形成される。
【0004】
このように布の下方に形成された複数のループは、1つのルーパーが順番に掬うため、それぞれのループに対してルーパーが飛び込むタイミングは異なっている。ルーパーは、針が下死点位置から上昇しているときにループを順番に掬っていくため、ルーパーが飛び込むタイミングが異なると、針の下死点位置からの移動距離も異なることになる。このように針の下死点位置からの移動距離が異なる場合でも、ルーパーが飛び込むタイミングにおける針の高さは揃える必要があるため(エグリ部の高さとルーパーの高さを合わせる必要があるため)、複数の針はそれぞれ高さを変えてミシンの針棒に取り付けられている。
【0005】
具体的には、ルーパーが最初に飛び込む針は最も高い位置に取り付けられている。反対に、ルーパーが最後に飛び込む針は最も低い位置に取り付けられている。このように針を取り付けることで、ルーパーに出会うタイミング(すなわち、下死点からの針の上昇量)が異なるにもかかわらず、ルーパーに出会うときの針の高さはすべての針でほぼ等しくなるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ルーパーが最初に飛び込む針は、針が上昇し始めてから比較的早いタイミングでルーパーに出会うため、ループを形成するための針の上昇量(下死点位置からルーパーに出会うまでの針の上昇量)が小さくなる。このため、十分なループが形成されず、ループをルーパーで掬えずに目飛びが発生するおそれがあった。
【0008】
また、反対に、ルーパーが最後に飛び込む針は、針が上昇し始めてから比較的遅いタイミングでルーパーに出会うため、ループを形成するための針の上昇量が大きくなる。このため、ループが大きくなりすぎて倒れてしまい、ループをルーパーで掬えずに目飛びが発生するおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明は、偏平縫いミシンにおいて、複数の針で形成されるループの大きさの差をできるだけ小さくすることができる偏平縫いミシン用針および縫製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、第1の発明は、布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列された複数の針が上下動することで布の下方に複数のループを形成し、この複数のループをルーパーで掬うことで縫製を実行する偏平縫いミシンに使用される、偏平縫いミシン用針であって、ミシンに取り付けたときに保持される柄部と、先端部に糸穴が形成されて布に挿抜される針幹部と、を備え、前記針幹部には、前記糸穴の開口縁から前記柄部の方向に延びる表溝が形成されるとともに、前記表溝の裏側には前記針幹部の輪郭を窪ませた形状のエグリ部が形成されており、前記表溝は、前記エグリ部よりも前記柄部側に段差部を有しており、この段差部において針先側から前記柄部の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている。
【0011】
また、第2の発明は、布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列された複数の偏平縫いミシン用針が上下動することで布の下方に複数のループを形成し、この複数のループをルーパーで掬うことで縫製を実行する偏平縫いミシンを使用した縫製方法であって、前記偏平縫いミシン用針は、ミシンに取り付けたときに保持される柄部と、先端部に糸穴が形成されて布に挿抜される針幹部と、を備え、前記針幹部には、前記糸穴の開口縁から前記柄部の方向に延びる表溝が形成されるとともに、前記表溝の裏側には前記針幹部の輪郭を窪ませた形状のエグリ部が形成されており、前記表溝は、前記エグリ部よりも前記柄部側に段差部を有しており、この段差部において針先側から前記柄部の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記の通りであり、偏平縫いミシン用針の表溝は、エグリ部よりも柄部側に段差部を有しており、この段差部において針先側から柄部の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている。すなわち、段差部よりも針先側に浅溝部が形成され、段差部よりも柄部側に深溝部が形成されている。浅溝部を形成した範囲の針幹部が布から引き抜かれるときには、浅溝部と布とに挟まれた上糸の抵抗が大きくなるため、上糸が押さえられてループが成長しやすい。反対に、深溝部を形成した範囲の針幹部が布から引き抜かれるときには、深溝部と布とに挟まれた上糸の抵抗が小さくなるため、ループが成長しにくくなっている。
【0013】
ここで、ルーパーが最初に飛び込む針は、最も高い位置に取り付けられているため、下死点位置まで移動した場合でも比較的浅く布に挿入されている。この状態から上昇してループが形成されるため、針先側の浅溝部を利用してループを形成することになる。よって、ループを形成するための針の上昇量(下死点位置からルーパーに出会うまでの針の上昇量)が小さい場合でも、浅溝部を利用してループを十分に大きく成長させることができる。
【0014】
また、ルーパーが最後に飛び込む針は、最も低い位置に取り付けられているため、下死点位置まで移動した場合に比較的深く布に挿入されることになる。この状態から上昇してループが形成されるため、柄部側の深溝部と針先側の浅溝部とを利用してループを形成することになる。よって、ループを形成するための針の上昇量(下死点位置からルーパーに出会うまでの針の上昇量)が大きい場合でも、深溝部が布を通過するときにはループがあまり大きく成長せず、浅溝部が布を通過するときにループを成長させることができる。すなわち、深溝部によってループの成長を抑制できるので、ループが大きくなりすぎることを防止できる。
【0015】
このように、本発明に係る偏平縫いミシン用針を使用すれば、針を異なる高さに取り付けた場合でも、ルーパーに出会うときのループの大きさの差を小さくすることができる。ループの大きさをできるだけ揃えることにより、目飛びを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】偏平縫いミシン用針の(a)正面図、(b)側面図、(c)背面図である。
【
図2】(a)
図1(a)に示すA-A線断面図、(b)
図1(a)に示すA-A線断面の一部拡大図である。
【
図3】偏平縫いミシンを使用して縫製を行う際の偏平縫いミシン用針の動きを説明する図であって、(a)偏平縫いミシン用針の下死点位置を示す図、(b)右針がルーパーと出会うタイミングにおける偏平縫いミシン用針の位置を示す図、(c)左針がルーパーと出会うタイミングにおける偏平縫いミシン用針の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る偏平縫いミシン用針10は、偏平縫いミシンに使用される針である。偏平縫いミシンは従来公知のものであるため、詳細な説明は省略するが、布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列された複数の偏平縫いミシン用針10が上下動することで布の下方に複数のループを形成し、この複数のループをルーパーで掬うことで縫製を実行するようになっている。本実施形態に係る偏平縫いミシン用針10は、このような偏平縫いミシンに同じ針が複数取り付けられて使用される。
【0018】
偏平縫いミシン用針10は、
図1に示すように、ミシンに取り付けたときに保持される柄部11と、柄部11よりも先端側に設けられた針幹部20と、を備える。
【0019】
柄部11は、
図3に示すように、ミシンの針止め部31に保持されて取り付けられる。なお、ミシンの針止め部31は、ミシンで縫製を実行したときに上下動する針棒30の先端に設けられている。本実施形態に係るミシンは3本の偏平縫いミシン用針10を使用するため、針止め部31には、3本の偏平縫いミシン用針10が取り付けられている。この3本の偏平縫いミシン用針10の針先21は、
図3に示すように、図の左から右に向かって次第に高くなるように取り付けられており、かつ布送りと直交する方向に並んで取り付けられている。なお、本実施形態においては、3本の偏平縫いミシン用針10を使用するミシンについて説明するが、針の本数は3本に限らず、2本であってもよいし、4本以上であってもよい。また、本実施形態においては、正面側(布送り方向の下流側)から見たときに、複数の針が左から右に向かって次第に高くなるように取り付けられているが、これに限らず、複数の針が右から左に向かって次第に高くなるように取り付けられていてもよい。
【0020】
針幹部20は、縫製を行う際に布35を貫通して挿抜される部位である。この針幹部20の先端は尖った形状となっており、針先21を形成している。この針幹部20の先端付近には、上糸を通すための糸穴22が貫通形成されている。なお、針先21は必ずしも尖った形状である必要はなく、例えばボール形状等であってもよい。
【0021】
この針幹部20の表側には、
図1(a)に示すように、糸穴22の開口縁から柄部11の方向に延びる表溝23が形成されている。この表溝23は、糸穴22に通した上糸を案内するための溝であり、針幹部20の長手方向に延設されている。
【0022】
また、この針幹部20の裏側(表溝23が形成されている面の反対側の面)には、
図1(b)および
図1(c)に示すように、糸穴22よりも柄部11側に、エグリ部24が形成されている。このエグリ部24は、針幹部20の輪郭を窪ませた形状で形成されている。また、このエグリ部24は、糸穴22に近接して設けられている(本実施形態においては、エグリ部24と糸穴22との間隔は、糸穴22の長手方向の幅よりも短く形成されている)。
【0023】
このエグリ部24よりも更に柄部11側には、裏溝25が形成されている。この裏溝25は、糸穴22に通した上糸を案内するための溝であり、針幹部20の長手方向に延設されている。
【0024】
ところで、上記した表溝23は、長手方向に行くに従って深さが変化するように形成されている。具体的には、上記した表溝23は、
図2に示すように、段差部23aを有しており、この段差部23aにおいて針先21側から柄部11の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている。この段差部23aは、エグリ部24よりも柄部11側(
図2における上側)に設けられている。更に言えば、この段差部23aは、針幹部20の長さHを2等分した位置(針幹部20の長手方向の中間位置M)よりも柄部11側に設けられている。
【0025】
なお、本実施形態における溝の深さとは、針の中心線C(
図2参照)から溝の底面までの距離によって規定される。すなわち、針の輪郭形状にかかわらず、針の中心線Cを基準として溝の深さが規定されている。このため、「溝が深い」とは、針の中心線Cから溝の底面までの距離が短いことを意味しており、「溝が浅い」とは、針の中心線Cから溝の底面までの距離が長いことを意味している。
【0026】
段差部23aは、
図2(b)に示すように、針先21側から柄部11の方向に行くに従って次第に溝が深くなるように底面が傾斜して形成されている。この段差部23aの底面は、やや湾曲して形成されており、溝が深くなる方向に膨らんだ曲面となっている。なお、この段差部23aの形状は、このような曲面に限らず、溝が浅くなる方向に膨らんだ曲面であってもよいし、平坦面であってもよい。
【0027】
この段差部23aよりも針先21側の表溝23は、比較的溝が浅い浅溝部23bとなっている。言い換えると、浅溝部23bの柄部11側に段差部23aが連続して形成されている。この浅溝部23bの深さは一定である。具体的には、
図2(b)に示すように、針の中心線Cから浅溝部23bの底面D1までの距離Kが、浅溝部23bの全長に渡って一定となるように形成されている。
【0028】
この段差部23aよりも柄部11側の表溝23は、浅溝部23bよりも溝が深い深溝部23cとなっている。言い換えると、深溝部23cの針先21側に段差部23aが連続して形成されている。この深溝部23cの深さは一定である。具体的には、
図2(b)に示すように、針の中心線Cから深溝部23cの底面D2までの距離が、深溝部23cの全長に渡って一定となるように形成されている。なお、本実施形態においては、深溝部23cの底面D2が針の中心線Cを通るように形成されている。
【0029】
深溝部23cよりも柄部11側の表溝23は、柄部11側に行くに従って次第に浅くなるように緩やかに傾斜した傾斜部23eとなっている。言い換えると、深溝部23cの柄部11側に傾斜部23eが連続して形成されている。
【0030】
このように、本実施形態に係る表溝23は、段差部23aにおいて深浅が変化するように形成されている。ただし、段差部23aにおいて深浅が変化しても表溝23の幅は一定である。すなわち、浅溝部23bと段差部23aと深溝部23cとを通して、表溝23の幅は一定である。
【0031】
このように表溝23の深浅を変化させる段差部23aは、
図3(a)に示すように、複数本の偏平縫いミシン用針10を偏平縫いミシンに取り付けて下死点まで移動させたときに、複数本の偏平縫いミシン用針10のうちで最も高い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針10(
図3(a)における右針N1)において、針板32の上に載置された布35を貫通せず、かつ、複数本の偏平縫いミシン用針10のうちで最も低い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針10(
図3(a)における左針N3)において、針板32の上に載置された布35を貫通する位置に形成されている。言い換えると、複数の偏平縫いミシン用針10のうちで最も高い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針10である右針N1は、下死点位置まで移動した状態で段差部23aが布35の下方に位置しないように設定されている。また、複数の偏平縫いミシン用針10のうちで最も低い位置に取り付けられた偏平縫いミシン用針10である左針N3は、下死点位置まで移動した状態で段差部23aが布35の下方に位置するように設定されている。
【0032】
次に、この偏平縫いミシン用針10が、ミシンのルーパー(図示せず)と出会うタイミングについて説明する。
本実施形態においては、ミシンの針棒30(針止め部31)に、3本の偏平縫いミシン用針10が取り付けられている。3本の偏平縫いミシン用針10は、布送り方向と直交する方向に高さを変えて並列されている。この3本の偏平縫いミシン用針10のうち、最も高い位置に取り付けられた針を右針N1と呼び、最も低い位置に取り付けられた針を左針N3と呼び、右針N1と左針N3との中間の高さに取り付けられた針を中針N2と呼ぶ。これらの針は、
図3の右から左に順に、右針N1、中針N2、左針N3の順に等間隔で平行に取り付けられている。これら3本の偏平縫いミシン用針10は、すべて同じ針である。
【0033】
ミシンの針棒30の下方には、縫製対象の布35を載置するための針板32が設けられている。この針板32には、偏平縫いミシン用針10を貫通させるための穴が貫通形成されている。
【0034】
本実施形態に係る偏平縫いミシン用針10を使用して縫製を行うと、
図3(a)に示すように、ミシンの針棒30が下死点位置まで移動し、糸穴22に通した上糸(図示せず)が下方に引っ張られて張り詰めた状態となる。このとき、右針N1の段差部23aは、布35の下方に位置してい
ない。また、左針N3の段差部23aは、布35の下方に位置している。なお、この下死点位置から針が上昇したときに、上糸と布35との間に抵抗が生じてループが形成される。よって、この下死点位置における布35の上面の位置が、ループを形成するための抵抗が生じる基準線となる。具体的には、
図3(a)に示すP1aが、下死点位置における右針N1の布35の上面位置であり、右針N1におけるループ形成の開始基準位置である。また、
図3(a)に示すP3aが、下死点位置における左針N3の布35の上面位置であり、左針N3におけるループ形成の開始基準位置である。
この下死点位置から針が上方に移動すると、布35との摩擦により上糸が押さえられているため、布35の下方で上糸が緩み、ループが形成される。
【0035】
そして、
図3(b)に示す位置まで針が上昇したとき(右針N1のエグリ部24の高さとルーパーの先端の高さとが一致したとき)に、まず右針N1とルーパーが交錯し、右針N1で形成されたループがルーパーによって掬われる。このように右針N1とルーパーとが出会うタイミングでループ形成が終了するため、このときの布35の下面の位置が、ループの形成が終了する基準線となる。具体的には、
図3(b)に示すP1bが、ルーパーと出会うタイミングにおける右針N1の布35の下面位置であり、右針N1におけるループ形成の終了基準位置となる。このため、
図2に示すように、P1aからP1bまでの範囲が、右針N1におけるループ形成区間S1ということになる。
その後、さらに針が上昇すると、中針N2とルーパーが交錯し、中針N2で形成されたループがルーパーによって掬われる。
【0036】
そしてさらに針が上昇し、
図3(c)に示す位置まで針が上昇したとき(左針N3のエグリ部24の高さとルーパーの先端の高さとが一致したとき)に、左針N3とルーパーが交錯し、左針N3で形成されたループがルーパーによって掬われる。よって、
図3(c)に示すP3bが、ルーパーと出会うタイミングにおける左針N3の布35の下面位置であり、左針N3におけるループ形成の終了基準位置となる。このため、
図2に示すように、P3aからP3bまでの範囲が、左針N3におけるループ形成区間S3ということになる。
その後、針は布35の上方まで上昇する。このような針の上下動により、偏平縫いが実行される。
【0037】
なお、本実施形態においては、
図2に示すように、右針N1におけるループ形成区間S1は、すべて浅溝部23bとなっている。このため、ループ形成時に上糸と布35との抵抗が大きくなり、ルーパーと出会うまでの針の上昇量が小さい右針N1であっても、十分な大きさのループを形成することができる。
【0038】
また、
図2に示すように、左針N3におけるループ形成区間S3は、深溝部23cと浅溝部23bとを含むようになっている。このため、布35を深溝部23cが通過しているときには上糸と布35との抵抗が小さくなるので、ループの成長が抑制される。よって、ルーパーと出会うまでの針の上昇量が大きい左針N3であっても、ループが大きくなりすぎることがない。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、偏平縫いミシン用針10の表溝23は、エグリ部24よりも柄部11側に段差部23aを有しており、この段差部23aにおいて針先21側から柄部11の方向に行くに従って溝の深さが深くなるように形成されている。すなわち、段差部23aよりも針先21側に浅溝部23bが形成され、段差部23aよりも柄部11側に深溝部23cが形成されている。浅溝部23bを形成した範囲の針幹部20が布35から引き抜かれるときには、浅溝部23bと布35とに挟まれた上糸の抵抗が大きくなるため、上糸が押さえられてループが成長しやすい。反対に、深溝部23cを形成した範囲の針幹部20が布35から引き抜かれるときには、深溝部23cと布35とに挟まれた上糸の抵抗が小さくなるため、ループが成長しにくくなっている。
【0040】
ここで、ルーパーが最初に飛び込む針(右針N1)は、最も高い位置に取り付けられているため、下死点位置まで移動した場合でも比較的浅く布35に挿入されている。この状態から上昇してループが形成されるため、針先21側の浅溝部23bを利用してループを形成することになる。よって、ループを形成するための針の上昇量(下死点位置からルーパーに出会うまでの針の上昇量)が小さい場合でも、浅溝部23bを利用してループを十分に大きく成長させることができる。
【0041】
また、ルーパーが最後に飛び込む針(左針N3)は、最も低い位置に取り付けられているため、下死点位置まで移動した場合に比較的深く布35に挿入されることになる。この状態から上昇してループが形成されるため、柄部11側の深溝部23cと針先21側の浅溝部23bとを利用してループを形成することになる。よって、ループを形成するための針の上昇量(下死点位置からルーパーに出会うまでの針の上昇量)が大きい場合でも、深溝部23cが布35を通過するときにはループがあまり大きく成長せず、浅溝部23bが布35を通過するときにループを成長させることができる。すなわち、深溝部23cによってループの成長を抑制できるので、ループが大きくなりすぎることを防止でき、ループが倒れることに起因する目飛びを防止することができる。
【0042】
このように、本実施形態に係る偏平縫いミシン用針10を使用すれば、針を異なる高さに取り付けた場合でも、ルーパーに出会うときのループの大きさの差を小さくすることができる。ループの大きさをできるだけ揃えることにより、目飛びを防止することができる。
【符号の説明】
【0043】
10 偏平縫いミシン用針
11 柄部
20 針幹部
21 針先
22 糸穴
23 表溝
23a 段差部
23b 浅溝部
23c 深溝部
23e 傾斜部
24 エグリ部
25 裏溝
30 針棒
31 針止め部
32 針板
35 布
N1 右針
N2 中針
N3 左針
P1a 下死点位置における右針の布上面位置
P1b ルーパーと出会うタイミングにおける右針の布下面位置
P3a 下死点位置における左針の布上面位置
P3b ルーパーと出会うタイミングにおける左針の布下面位置
S1 右針ループ形成区間
S3 左針ループ形成区間
H 針幹部の長さ
M 針幹部の長手方向の中間位置
C 針の中心線
D1 浅溝部の底面
D2 深溝部の底面
K 針の中心線から浅溝部の底面までの距離