(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】スーパーオキシドアニオン検出系における増感剤
(51)【国際特許分類】
C07K 5/06 20060101AFI20231024BHJP
C07K 5/08 20060101ALI20231024BHJP
C07K 5/10 20060101ALI20231024BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20231024BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20231024BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20231024BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20231024BHJP
C12Q 1/26 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C07K5/06
C07K5/08
C07K5/10
C07K7/06
C07F5/02 C
G01N21/78 C
C12Q1/02
C12Q1/26
(21)【出願番号】P 2021075521
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2020142116
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】矢部 千尋
(72)【発明者】
【氏名】松本 みさき
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】ACS Applied materials and interfaces,2020年06月11日,Vol.12,pp.30882-30889
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2013年05月10日,Vol.1840,pp.730-738
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 2/00-14/825
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドボロン酸化合物を含む、スーパーオキシドアニオン検出のための増感剤
であって、ペプチドボロン酸化合物がボルテゾミブまたはイキサゾミブである、増感剤。
【請求項2】
請求項1
記載の増感剤の存在下でスーパーオキシドアニオンを測定することを含む、スーパーオキシドアニオンの検出方法。
【請求項3】
化学発光プローブ、蛍光プローブまたは発色プローブを用いる検出系においてスーパーオキシドアニオンを検出することを含む、請求項
2記載の検出方法。
【請求項4】
スーパーオキシドアニオンの検出に使用するための、請求項1
記載の増感剤を含むキット。
【請求項5】
請求項
2または
3記載の検出方法に使用するための、請求項
4記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーオキシドアニオン検出系における増感剤、該増感剤を用いるスーパーオキシドアニオン検出方法、および該増感剤を含むスーパーオキシドアニオン検出用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーオキシドアニオンは極めて反応性が高く、生体内の様々な分子と反応(酸化修飾)することで諸種の細胞機能に影響を与える。しかしこの高反応性および短寿命性のために、スーパーオキシドアニオンを直接定量測定することは困難である。そこで、スーパーオキシドアニオンと速やかに反応し、安定かつ定量可能な反応生成物を生成するプローブを用いる間接的測定法が一般的である。かかるプローブには、化学発光プローブ、蛍光プローブ、発色プローブ等があり、複数のプローブが開発されている。なかでも、化学発光プローブであるL-012や、蛍光プローブであるジヒドロエチジウム(DHE、別名ヒドロエチジン)が汎用されている。L-012を用いた検出系では、試料にL-012を添加して生じた化学発光量を定量することによって、スーパーオキシドアニオンを検出する。DHEを用いた検出系では、試料にDHEを添加し、DHEとスーパーオキシドアニオンとの特異的反応生成物2-ヒドロキシエチジウム(2-OH-E+)を液体クロマトグラフィー質量分析法で定量することによってスーパーオキシドアニオンを検出する。
【0003】
しかしながら、L-012やDHEプローブは、強力なスーパーオキシド産生系(例えば、リコンビナント酵素を用いた実験、関連遺伝子の強制発現実験など)では非常に有用であるが、生理的に発生するスーパーオキシドアニオン量は極めて微量であるため、その検出には限界がある。ゆえに、微量なスーパーオキシドアニオンの検出を可能にする手段が望まれている。
【0004】
一方、ボルテゾミブ(Bortezomib)等のペプチドボロン酸化合物は、プロテアソーム阻害剤として知られている(例えば、非特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】European Journal of Medicinal Chemistry, Volume 125, 5 January 2017, pages 925-939
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry, Volume 25, Issue 15, 1 August 2017, pages 4031-4044
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スーパーオキシドアニオンの発生量が極めて少ない条件下であってもスーパーオキシドアニオンを検出することができる手段を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、驚くべきことに、ペプチドボロン酸化合物をスーパーオキシドアニオン検出系に添加することによりスーパーオキシドアニオンの検出感度が著しく増強することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下の態様を提供する。
[1]ペプチドボロン酸化合物を含む、スーパーオキシドアニオン検出のための増感剤。
[2]ペプチドボロン酸化合物が式I:
R(-Xaa)
n-boroXaa’
[式中、
Xaaは、アミノ酸残基を示し、
boroXaa’は、C末端カルボキシル基がボロニル基またはボロン酸エステル基に置換されたアミノ酸誘導体を示し、ここで、boroXaa’はXaaと同一または異なるアミノ酸に由来していてもよく、
nは1~10の整数を示し、
nが2以上の整数である場合、2以上のXaaはそれぞれ同一または異なっていてもよく、
Rは、環式炭化水素基を示し、
該環式炭化水素基は、置換または非置換の、単環式または多環式の、飽和脂肪族、不飽和脂肪族または芳香族炭化水素基であり、
該環式炭化水素基は
複素環を含んでいてもよく、
該環式炭化水素基が多環式基である場合、少なくとも1つの環が
複素環であってもよく、また、該環式炭化水素基が多環式基である場合、縮合環であってもよく、
該環式炭化水素基が置換されている場合、置換基は、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アセチル基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、および置換されていてもよいアルキニル基からなる群から選ばれる1以上の置換基であってもよく、
RとXaa間、およびXaaとboroXaa間、ならびにnが2以上の整数である場合、Xaa間は、アミド結合により連結している]
で示される構造を有する化合物またはその塩である、上記[1]記載の増感剤。
[3]式Iにおいて、
Xaaは、グリシン、ロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、およびナフチルアラニンからなる群から独立して選択されるアミノ酸に由来する残基であり、
boroXaa’は、boroProまたはboroLeuであり、
nは1~4の整数を示し、
Rは、
【化1】
からなる群から選択される、上記[2]記載の増感剤。
[4]ペプチドボロン酸化合物が、ボルテゾミブ、イキサゾミブ、イキサゾミブクエン酸エステル、デランゾミブ、ならびに下記式:
【化2】
【化3】
【化4】
および
【化5】
で示される化合物からなる群から選択される、上記[1]記載の増感剤。
[5]上記[1]~[4]のいずれか1項記載の増感剤の存在下でスーパーオキシドアニオンを測定することを含む、スーパーオキシドアニオンの検出方法。
[6]化学発光プローブ、蛍光プローブまたは発色プローブを用いる検出系においてスーパーオキシドアニオンを検出することを含む、上記[5]記載の検出方法。
[7]スーパーオキシドアニオンの検出に使用するための、上記[1]~[4]のいずれか1項記載の増感剤を含むキット。
[8]上記[5]または[6]記載の検出方法に使用するための、請求項7記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペプチドボロン酸化合物を含む増感剤の存在下でスーパーオキシドアニオンを測定することにより、著しく増強された感度でスーパーオキシドアニオンが検出される。したがって、本発明によれば、スーパーオキシドアニオンの発生量が極めて少ない条件下でも、スーパーオキシドアニオンの検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示す。縦軸は発光量(RLU)を示し、横軸は測定時間(分)を示す。
【
図1B】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出の30分間の計測における全発光量を示す。図中、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示し、「SOD」はスーパーオキシドジスムターゼを示す。縦軸は30分間計測の総発光量(RLU)を示し、横軸はボルテゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【
図2A】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「XO」はキサンチンオキシダーゼを示し、「X」はキサンチンを示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「XO free」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示す。縦軸は発光量(RLU)を示し、横軸は測定時間(分)を示す。
【
図2B】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出の30分間の計測における全発光量を示す。図中、「XO free」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「XO/X」はキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「SOD」はスーパーオキシドジスムターゼを示す。縦軸は30分間計測の総発光量(RLU)を示し、横軸はボルテゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【
図3A】細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出に対する、本発明の増感剤の濃度依存性の効果を示す。図中、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示す。縦軸は、0.1%DMSO添加時の発光量を1とした場合の発光量(倍)を示し、横軸はDMSOまたはボルテゾミブ添加量を示す。
【
図3B】無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出に対する、本発明の増感剤の濃度依存性の効果を示す。図中、「XO free」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「XO/X」はキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示し、「Bort」はボルテゾミブを示す。縦軸は、0.1%DMSO添加時の発光量を1とした場合の発光量(倍)を示し、横軸はDMSOまたはボルテゾミブ添加量を示す。
【
図4A】ペプチドボロン酸化合物ではないプロテアソーム阻害剤カルフィルゾミブの存在下でのL-012を用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Carf」はカルフィルゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示す。縦軸は30分間計測の総発光量(RLU)を示し、横軸はボルテゾミブまたはカルフィルゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【
図4B】ペプチドボロン酸化合物ではないプロテアソーム阻害剤カルフィルゾミブの存在下でのL-012を用いた無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「XO free」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「XO/X」はキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Carf」はカルフィルゾミブを示す。縦軸は30分間計測の総発光量(RLU)を示し、横軸はボルテゾミブまたはカルフィルゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【
図5A】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「Bort」はボルテゾミブを示し、「MLN」または「M
LN2238」はイキサゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示し、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「buffer」は緩衝液のみを示す。左図の縦軸は発光量(RLU)を示し、横軸は測定時間(分)を示す。右図は、30分間計測の総発光量(RLU)を示す。
【
図5B】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「Bort」はボルテゾミブを示し、「MLN」または「M
LN2238」はイキサゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示し、「X」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「X/XO」はキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示し、「buffer」は緩衝液のみを示す。左図の縦軸は発光量(RLU)を示し、横軸は測定時間(分)を示す。右図は、30分間計測の総発光量(RLU)を示す。
【
図6A】本発明の増感剤の存在下でのAmplex(登録商標)Redを用いた細胞系における過酸化水素の検出結果を示す。図中、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示し、「SOD」はスーパーオキシドジスムターゼを示す。縦軸は30分間計測による蛍光量を示し、横軸はボルテゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【
図6B】本発明の増感剤の存在下でのAmplex(登録商標)Redを用いた無細胞系における過酸化水素の検出結果を示す。図中、「XO free」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「XO/X」はキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによる過酸化水素産生系を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「SOD」はスーパーオキシドジスムターゼを示す。縦軸は30分間計測による蛍光量を示し、横軸はボルテゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【
図7A】本発明の増感剤の存在下でのDHEを用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「Mock-DMSO」はDMSOを添加した対照細胞を示し、「Mock-Bort」はボルテゾミブを添加した対照細胞を示し、「Nox1-DMSO」はDMSOを添加したNOX1発現細胞を示し、「Nox1-Bort」はボルテゾミブを添加したNOX1発現細胞を示す。縦軸は、内部標準であるDAPPで補正した、2-OH-E+の生成量を示す。
【
図7B】本発明の増感剤の存在下でのDHEを用いた無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「DMSO」は0.1%DMSOを示し、「Bort」は10μMボルテゾミブを示し、「X-DMSO」はDMSOを添加したキサンチンのみの対照系を示し、「X-Bort」はボルテゾミブを添加したキサンチンのみの対照系を示し、「X/XO-DMSO」はDMSOを添加したキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示し、「X/XO-Bort」はボルテゾミブ添加したキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示す。縦軸は、内部標準であるDAPPで補正した、2-OH-E+の生成量を示す。
【
図8A】本発明の増感剤とHPRによるL-012発光増強作用の比較結果を示す。図中、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示し、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「buffer」は緩衝液のみを示す。縦軸は30分間計測による発光量(RLU)を示す。
【
図8B】本発明の増感剤とHPRによるL-012発光増強作用の比較結果を示す。図中、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示し、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「buffer」は緩衝液のみを示す。縦軸は30分間計測による発光量(RLU)を示す。
【
図9A】細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出に対する、本発明の増感剤の濃度依存性の効果を示す。図中、「NOX1」はNOX1を強制発現させた細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示す。縦軸は、30分計測における全発光量について、0.1%DMSO添加時の発光量を1とした場合の発光量の比率(倍)を示し、横軸はボルテゾミブ添加量を示す。
【
図9B】無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出に対する、本発明の増感剤の濃度依存性の効果を示す。図中、「X」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「XO/X」はキサンチンオキシダーゼ/キサンチンによるスーパーオキシドアニオン産生系を示し、「Bort」はボルテゾミブを示す。縦軸は、30分計測における全発光量について、0.1%DMSO添加時の発光量を1とした場合の発光量の比率(倍)を示し、横軸はボルテゾミブ添加量を示す。
【
図9C】細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出における、本発明の増感剤の様々なスーパーオキシドアニオン産生量に対する効果を示す。図中、「Bort」はボルテゾミブを示し、「Mock」は対照細胞を示す。縦軸は、30分計測における全発光量について、Mockにおける発光量を1とした時の発光量の比率(倍)を示し、横軸は細胞系における細胞数を示す。
【
図9D】無細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出における、本発明の増感剤の様々なスーパーオキシドアニオン産生量に対する効果を示す。図中、「X」はキサンチンオキシダーゼを添加しない対照の系を示し、「XO」はキサンチンオキシダーゼを示し、「Bort」はボルテゾミブを示す。縦軸は、30分計測における全発光量について、X対照系における発光量を1とした場合の発光量の比率(倍)を示し、横軸はXO/Xスーパーオキシドアニオン産生系におけるXOの量を示す。
【
図10A】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出結果を示す。図中、「Bort」はボルテゾミブを示す。縦軸は発光量(RLU)を示し、横軸は測定時間(分)を示す。
【
図10B】本発明の増感剤の存在下でのL-012を用いた細胞系におけるスーパーオキシドアニオンの検出の30分間の計測における全発光量を示す。図中、「basal」はPMA無添加を示し、「Bort」はボルテゾミブを示し、「SOD」はスーパーオキシドジスムターゼを示す。縦軸は30分間計測の総発光量(RLU)を示し、横軸はボルテゾミブの添加濃度(μM)を示し、横軸の「0」はボルテゾミブを添加せず、DMSOの添加を意味する。「**」はbasalとの比較、「##」は、0(DMSO)との比較、「$$」はSOD無添加のデータとの比較を示す。
【
図11】NOX1強制発現細胞に対する高濃度ボルテゾミブの細胞生存性への影響を示す。図中、「NOX1」はNOX1強制発現細胞を示し、「Bort」はボルテゾミブを示す。縦軸はATPの総発光量(RLU)を示し、横軸はボルテゾミブの添加濃度(μM)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願において、スーパーオキシドアニオンとは活性酸素の一種であり、O2
-を含む化学物質をいう。
【0012】
本発明のスーパーオキシドアニオン検出のための増感剤(以下、「本発明の増感剤」ともいう)は、ペプチドボロン酸化合物を含む。本願において、ペプチドボロン酸化合物とは、2以上のアミノ酸残基からなるペプチド部分とボロン酸部分とを含む化合物をいう。ここで、「ボロン酸部分」とは、ボロニル基-B(OH)2を有する部分をいう。本願において好ましいペプチドボロン酸化合物は、2以上のアミノ酸残基からなるペプチド部分とボロン酸部分、および環式炭化水素基を含む化合物である。また、本願において、ペプチドボロン酸化合物には、そのボロン酸部分がエステル化した化合物(ボロン酸エステル)も包含される。
【0013】
例えば、ペプチドボロン酸化合物は、式I:
R(-Xaa)n-boroXaa’
[式中、
Xaaは、アミノ酸残基を示し、
boroXaa’は、C末端カルボキシル基がボロニル基またはボロン酸エステル基に置換されたアミノ酸誘導体を示し、ここで、boroXaa’はXaaと同一または異なるアミノ酸に由来していてもよく、
nは1~10の整数を示し、例えば9、8、7、6または5を示し、好ましくは1~4の整数を示し、さらに好ましくは1、2または3を示し、またさらに好ましくは1または2を示し、ここで、nが2以上の整数である場合、2以上のXaaはそれぞれ同一または異なっていてもよく、
Rは、環式炭化水素基を示し、該環式炭化水素基は、置換または非置換の、単環式または多環式の、飽和脂肪族、不飽和脂肪族または芳香族炭化水素基であり、
RとXaa間、およびXaaとboroXaa間、ならびにnが2以上の整数である場合、Xaa間は、アミド結合により連結している]
で示される構造を有する化合物またはその塩である。
【0014】
好ましくは、ペプチドボロン酸化合物は、式II:
【化6】
または式III:
【化7】
[式中、
W
1およびW
2は、それぞれ独立して、水素原子、またはヒドロキシ基含有化合物に由来する部分であり、
W
1およびW
2は共に、2以上のヒドロキシ基を含む一分子のヒドロキシ基含有化合物に由来してもよく、この場合、W
1およびW
2は一緒になって環を形成し、
Rは、環式炭化水素基を示し、該環式炭化水素基は、置換または非置換の、単環式または多環式の、飽和脂肪族、不飽和脂肪族または芳香族炭化水素基であり、
R’およびR’’は、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、iso-プロピル基、n-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、カルボキシメチル基、カルバモイルメチル基、カルボキシエチル基、カルバモイルエチル基、スルファニルメチル基、メチルスルファニルエチル基、アミノブチル基、例えば、4-アミノブチル基、ベンジル基、p-ヒドロキシベンジル基、o-ヒドロキシベンジル基、m-ヒドロキシベンジル基、イミダゾリルメチル基、例えば、4-イミダゾリルメチル基、インドリルメチル基、例えば、3-インドリルメチル基、グアニジノプロピル基、例えば、3-グアニジノプロピル基、アミノプロピル基、例えば、3-アミノプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、セラニルメチル基、メチルセラニルエチル基、ホスホノメチル基、アミノカルボキシプロピルスルファニルメチル基、カルボキシプロピル基、3-ウレイドプロピル基、2-ウレイドプロピル基、1-ウレイドプロピル基、エチル基、4-アミノ-3-ヒドロキシブチル基、1-メチル-1H-イミダゾール-4-イルメチル基、3-メチル-1H-イミダゾール-4-イルメチル基、およびナフチルメチル基からなる群から選択され、
nは1~10の整数を示し、例えば9、8、7、6または5を示し、好ましくは1~4の整数を示し、さらに好ましくは1、2または3を示し、
n’は1~5の整数を示し、例えば1~4の整数を示し、好ましくは1~3の整数を示し、さらに好ましくは1または2を示し、
nまたはn’が2以上の整数である場合、各R’は独立して上記の群から選択される]
で示される構造を有する化合物またはその塩である。
【0015】
本願において、ペプチドボロン酸化合物を構成するアミノ酸残基は、いずれのアミノ酸に由来してもよい。本願において、アミノ酸とは、アミノ基とカルボキシ基の両方を有する化合物をいい、天然または非天然のいずれであってもよい。本願において、アミノ酸は、L体およびD体のいずれであってもよい。アミノ酸の例としては、限定するものではないが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、システイン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、プロリン、トリプトファン、アルギニン、オルニチン、ホモセリン、セレノシステイン、セレノメチオニン、ホスホセリン、β-アラニン、シスタチオニン、α-アミノアジピン酸、シトルリン、α-アミノ酪酸、γ-アミノ酪酸等、および上記アミノ酸の側鎖官能基が修飾されたアミノ酸が挙げられる。アミノ酸の側鎖官能基の修飾の例としては、限定するものではないが、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アセチル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、および環式炭化水素基からなる群から選ばれる1以上の基による置換が挙げられる。このような側鎖官能基が修飾されたアミノ酸の例としては、限定するものではないが、ヒドロキシプロリン(例えば、N-ヒドロキシプロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン)、5-ヒドロキシリジン、1-メチルヒスチジン、3-メチルヒスチジン、ナフチルアラニン等が挙げられる。さらに、本願において、アミノ酸には、上記アミノ酸のC末端カルボキシ基またはN末端アミノ基のいずれかが修飾されたアミノ酸アナログも包含される。上記アミノ酸アナログの例としては、限定するものではないが、アスパラギン酸β-メチルエステル、N-エチルグリシン、アラニンカルボキサミド等が挙げられる。したがって、本願において、ペプチドボロン酸化合物を構成するアミノ酸残基、例えば、上記式IにおけるXaaおよびboroXaa’は、上記のいずれのアミノ酸またはアミノ酸アナログに由来していてもよい。
【0016】
本願において、環式炭化水素基は、炭化水素による環状構造を含む基を意味し、側鎖から水素原子を除去してできる基も包含する。該環式炭化水素基は、置換または非置換の、単環式または多環式の、飽和脂肪族、不飽和脂肪族または芳香族炭化水素基を包含する。該環式炭化水素基は複素環を含んでいてもよい。該複素環は、環構成元素として炭素以外に、例えば、ホウ素、窒素、酸素、リンおよび硫黄原子からなる群から選択される1以上のヘテロ原子を含み、好ましくは窒素原子を含む。複素環は2以上の同一または異なるヘテロ原子を含んでいてもよく、好ましくは1~3個、さらに好ましくは1または2個のヘテロ原子を含む。環式炭化水素基が多環式基である場合、少なくとも1つの環が複素環であってもよく、また、環式炭化水素基が多環式基である場合、縮合環であってもよい。環式炭化水素基は、好ましくは5員環または6員環、さらに好ましくは6員環であるか、あるいは2個以上、好ましくは2または3個の、5員環および/または6員環、好ましくは6員環を含む多環式基または縮合環である。
【0017】
上記環式炭化水素基の例としては、限定するものではないが、シクロヘキシル、シクロヘキシルオキシ、シクロヘキセニル、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ、フェノキシ、スチリル、トリチル、ナフチル、ナフチルオキシ、ビフェニル、フリル、チエニル、ピロリジニル、ピロリ二ル、ピロリル、ピラゾリジニル、イミダゾリニル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、ジオキソラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロフリル、ピペリジル、ピリジニル、ピペラジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、フェニルピリジニル、ピラジニル、ピラジニルアミノ、トリアジニル、テトラヒドロピラニル、ピラニル、チアニル、チオピラニル、ジチアニル、トリチアニル、モルホリニル、チオモルホリニル、オキサジニル、チアジニル、ピロリジジニル、テトラヒドロシクロペンタ[b]ピロリル、テトラヒドロシクロペンタ[c]ピロリル、テトラヒドロピロロピロリル、ジヒドロピロロピロリル、インデニル、インドリニル、インドリル、インドリジニル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、アザインドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾイソキサゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、キノリジニル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、デカヒドロイソキノリニル、デカヒドロキノリニル、ジヒドロキノリニル、ジヒドロイソキノリニル、キノキサリニル、フタラジニル、キナゾリニル、シノリニル、ナフチリジニル、ピロドピリミジニル、ピリドピラジニル、ベンゾピラニル、ベンゾオキサジニル、フルオレニル、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、アクリジニル、フェナジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェノキサチイニル、ビピリジル、ビピペリジル等が挙げられ、これらの環式炭化水素基は置換されていてもよい。
【0018】
環式炭化水素基が置換されている場合、置換基は例えば、限定するものではないが、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アシル基、アシルオキシ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアルキニル基、フェニル基、およびアルコキシ基からなる群から選ばれる1以上の置換基であってもよい。
【0019】
上記アルキルの例としては、限定するものではないが、炭素数1~12個、好ましくは炭素数1~6個の直鎖又は分枝鎖アルキルが挙げられる。上記アルケニルおよびアルキニルの例としては、炭素数2~12個、好ましくは炭素数2~6個の直鎖又は分枝鎖アルケニルおよびアルキニルが挙げられる。
【0020】
上記ハロゲンの例としては、臭素、塩素、ヨウ素、又はフッ素が挙げられる。
【0021】
上記環式炭化水素基は、好ましくは、6員の芳香族炭化水素基および/または6員の複素環式芳香族炭化水素を含む単環または多環式基であり、多環式基である場合は、少なくとも1つの6員の芳香族炭化水素基または6員の複素環式芳香族炭化水素を含む縮合環を含む基であってもよく、さらに好ましくは、単環または二環式基または2個の6員環が縮合した縮合環である。このような環式炭化水素基の例は、限定するものではないが、フェニル、ベンジル、ベンジルオキシ、フェノキシ、スチリル、トリチル、ナフチル、ナフチルオキシ、ビフェニル、ピリジニル、ピリダジニル、ピリミジニル、フェニルピリジニル、ピラジニル、ピラジニルアミノ、トリアジニル、ピラニル、チオピラニル、オキサジニル、チアジニル、インデニル、インドリニル、インドリル、インドリジニル、インダゾリル、ベンゾイミダゾリル、アザインドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾイソキサゾリル、ベンゾイソチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、キノリニル、イソキノリニル、キノリジニル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、ジヒドロキノリニル、ジヒドロイソキノリニル、キノキサリニル、フタラジニル、キナゾリニル、シノリニル、ナフチリジニル、ピロドピリミジニル、ピリドピラジニル、ベンゾピラニル、ベンゾオキサジニル、フルオレニル、カルバゾリル、ジベンゾフラニル、アクリジニル、フェナジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェノキサチイニル、ビピリジル等が挙げられ、これらの環式炭化水素基は置換されていてもよい。
【0022】
上記環式炭化水素基のさらに好ましい例としては、限定するものではないが、置換されていてもよいピラジニル、置換されていてもよいピラジニルアミノ、置換されていてもよいピリジニル、置換されていてもよいフェニル(特に、ハロゲンで置換されたフェニル、置換されていてもよいベンジル、置換されていてもよいベンジルオキシ、置換されていてもよいキノリニル、置換されていてもよい1,2,3,4-テトラヒドロキノリニル、置換されていてもよい1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニル等が挙げられる。
【0023】
上記環式炭化水素基のまたさらに好ましい例としては、限定するものではないが、ピラジニル、ピラジニルアミノ、ピリジニル、フェニルピリジニル、フェニル、ピリジニルフェニル、ハロゲンで置換されたフェニル、ベンジル、ベンジルオキシ、キノリニル、イソキノリニル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリニル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリニル等が挙げられる。
【0024】
上記環式炭化水素基のまたさらに好ましい例としては、限定するものではないが、2-ピラジニル、2-ピラジニルアミノ、2-、3-または4-ピリジニル、6-フェニル-ピリジン-2-イル、2-フェニル-ピリジン-5-イル、2-フェニル-ピリジン-4-イル、2-フェニル-ピリジン-3-イル、3-フェニル-ピリジン-6-イル、3-フェニル-ピリジン-5-イル、3-フェニル-ピリジン-4-イル、3-フェニル-ピリジン-2-イル、4-フェニル-ピリジン-6-イル、4-フェニル-ピリジン-5-イル、フェニル、2-、3-、4-、5-または6-クロロフェニル、2,3-ジクロロフェニル、3,4-ジクロロフェニル、4,5-ジクロロフェニル、2,4-ジクロロフェニル、2,5-ジクロロフェニル、2,6-ジクロロフェニル、2,4,6-トリクロロフェニル、2,3,4-トリクロロフェニル、2,3,4,5-テトラクロロフェニル、ペンタクロロフェニル、2-、3-、4-、5-または6-ブロモフェニル、2,3-ジブロモフェニル、3,4-ジブロモフェニル、4,5-ジブロモフェニル、2,4-ジブロモフェニル、2,5-ジブロモフェニル、2,6-ジブロモフェニル、2,4,6-トリブロモフェニル、2,3,4-トリブロモフェニル、2,3,4,5-テトラブロモフェニル、ペンタブロモフェニル、2-、3-、4-、5-または6-フルオロフェニル、2,3-ジフルオロフェニル、3,4-ジフルオロフェニル、4,5-ジフルオロフェニル、2,4-ジフルオロフェニル、2,5-ジフルオロフェニル、2,6-ジフルオロフェニル、2,4,6-トリフルオロフェニル、2,3,4-トリフルオロフェニル、2,3,4,5-テトラフルオロフェニル、ペンタフルオロフェニル、2-、3-、4-、5-または6-ヨードフェニル、2,3-ジヨードフェニル、3,4-ジヨードフェニル、4,5-ジヨードフェニル、2,4-ジヨードフェニル、2,5-ジヨードフェニル、2,6-ジヨードフェニル、2,4,6-トリヨードフェニル、2,3,4-トリヨードフェニル、2,3,4,5-テトラヨードフェニル、ペンタヨードフェニル、ベンジル、ベンジルオキシ、2-、3-、4-、5-、6-、7-または8-キノリニル、2-、3-、4-、5-、6-、7-または8-イソキノリニル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-1-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-2-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-3-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-4-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-5-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-6-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-7-イル、1,2,3,4-テトラヒドロキノリン-8-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-1-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-4-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-5-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-6-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-7-イル、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-8-イル等が挙げられる。特に好ましくは、2-ピラジニル、2-ピラジニルアミノ、6-フェニル-ピリジン-2-イル、2,5-ジクロロフェニル、ベンジルオキシ、および1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-2-イルが挙げられる。
【0025】
本願において、ボロン酸エステル基は、ボロニル基のヒドロキシと、ヒドロキシ基含有化合物のヒドロキシから1分子の水が除去されて形成される基であり、例えば、式IV:
【化8】
[式中、ZおよびZ’は、ヒドロキシ基含有化合物に由来する部分であり、ZおよびZ’は同一または異なる化合物に由来してもよく、あるいはZおよびZ’は共に、2以上のヒドロキシ基を含む一分子のヒドロキシ基含有化合物に由来してもよく、この場合、ZおよびZ’は一緒になって環を形成する]
で表される。
【0026】
本願において、「ヒドロキシ基含有化合物」としては、例えば、アルコール、フェノール類、炭水化物、ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。本願において、アルコールには、一価アルコール(例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、オクタノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール(例えば、モノグリセリド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールエタン、ソルビトール、マンニトール、ピナコール、シクロヘキサンジオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジグリセリン、グリセリン、トリメチロールプロパン等)、ならびにアミノアルコール(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)が包含され、不飽和アルコールおよび飽和アルコールも包含される。フェノール類には、一価フェノール類(例えば、フェノール、クレゾール等)、多価フェノール類(例えば、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン等)、およびビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)が包含される。炭水化物には、単糖類、二糖類、多糖類、糖アルコール、およびアミノ糖(例えば、グルコース、スクロース、フルクトース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、グルコサミン、N-メチルグルコサミン等)が包含される。ヒドロキシカルボン酸の例としては、限定するものではないが、リンゴ酸、クエン酸、ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、乳酸、酒石酸、サリチル酸、没食子酸等が挙げられる。
【0027】
例えば、上記式IIおよび式III中のW1およびW2、ならびに上記式IV中のZおよびZ’は、それぞれ独立して、アルキル基、アリールアルキル基、またはアリール基、あるいは炭水化物、多価アルコールまたはヒドロキシカルボン酸に由来する部分であってもよく、W1およびW2またはZおよびZ’が炭水化物、多価アルコールまたはヒドロキシカルボン酸に由来する部分である場合、W1およびW2またはZおよびZ’は共に一分子の炭水化物、多価アルコールまたはヒドロキシカルボン酸に由来して一緒になって環を形成していてもよい。ここに、アルキル基として、例えば、炭素数1~12個、好ましくは炭素数1~6個の、置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖アルキルが挙げられる。また、アリール基として、例えば、置換されていてもよい1~3個のC6~C14アリール、好ましくはC6-10アリールが挙げられる。アリール基としては、限定するものではないが、フェニル、ナフチル、およびアントラセニル等が挙げられる。アリールアルキル基は、アルキル基と共有結合したアリール基を含み、該アルキルおよびアリールはそれぞれ独立して置換されていてもよい。アリールアルキル基は、アルキル基として例えば、炭素数1~12個、好ましくは炭素数1~6個の、置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖アルキルを含んでいてもよく、また、アリール基として、例えば、置換されていてもよい1~3個のC6~C14アリール、好ましくはC6-10アリールを含んでいてもよい。好ましくは、アリールアルキル基としては、限定するものではないが、ベンジル、フェネチル、およびナフチルメチル等が挙げられる。
【0028】
一例において、ペプチドボロン酸化合物は式Iで示される構造を有し、式中、XaaおよびboroXaa’は、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、オルニチン、ホモセリン、およびナフチルアラニンからなる群から独立して選択されるアミノ酸に由来する。さらなる例において、XaaおよびboroXaa’は、グリシン、ロイシン、フェニルアラニン、プロリン、スレオニン、およびナフチルアラニンからなる群から独立して選択されるアミノ酸に由来する。好ましい例において、boroXaa’は、プロリンに由来するか(boroPro)、またはロイシンに由来する(boroLeu)。
【0029】
またさらなる例において、ペプチドボロン酸化合物は、式Iで示される構造を有し、式中、
Xaaは、グリシン、ロイシン、フェニルアラニン、スレオニン、およびナフチルアラニンからなる群から独立して選択されるアミノ酸に由来する残基であり、
boroXaa’は、boroProまたはboroLeuであり、
nは1~4の整数を示し、さらに好ましくは1、2または3を示し、ここで、nが2以上の整数である場合、2以上のXaaはそれぞれ同一または異なっていてもよく、
Rは、
【化9】
からなる群から選択される基である、化合物またはその塩である。
【0030】
また別の例において、ペプチドボロン酸化合物は、式IIまたは式IIIで示される構造を有し、式中、
Rは、
【化10】
からなる群から選択され、
R’およびR’’は、それぞれ独立して、水素原子、
【化11】
からなる群から選択され、
nは1~4の整数を示し、さらに好ましくは1、2または3を示し、
n’は1~3の整数を示し、さらに好ましくは1または2を示し、
nまたはn’が2以上の整数である場合、各R’は独立して上記の群から選択される、化合物またはその塩である。
【0031】
またさらなる例において、ペプチドボロン酸化合物は、式IIまたは式IIIで示される構造を有し、式中、
Rは、
【化12】
からなる群から選択され、
R’は、それぞれ独立して、水素原子、
【化13】
からなる群から選択され、
R’’は、
【化14】
であり、
nは1~4の整数を示し、さらに好ましくは1、2または3を示し、
n’は1~3の整数を示し、さらに好ましくは1または2を示し、
nまたはn’が2以上の整数である場合、各R’は独立して上記の群から選択される、化合物またはその塩である。
【0032】
またさらに、ペプチドボロン酸化合物の具体例として、限定するものではないが、以下に示される化合物が挙げられる。
【0033】
【化15】
ボルテゾミブ(Borotezomib)
【0034】
【化16】
イキサゾミブ(Ixazomib;MLN2238)
【0035】
【化17】
イキサゾミブクエン酸エステル(Ixazomib citrate;MLN9708)
【0036】
【化18】
デランゾミブ(Delanzomib;CEP-18770)
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
ペプチドボロン酸化合物はまた、塩の形態であってもよく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩もしくは臭化水素酸塩等の無機酸塩、または酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩もしくはトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩等の酸付加塩、あるいはアンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩)、または鉄塩、亜鉛塩等の他の金属塩等の塩基付加塩等の塩の形態であっていてもよい。
【0042】
本願において、ペプチドボロン酸化合物は、該化合物構造中に存在する各不斉中心について、RおよびSのいずれの立体配置をとってもよい。したがって、ペプチドボロン酸化合物は、単一の立体異性体、あるいはエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーの混合物であってもよい。
【0043】
ペプチドボロン酸化合物は、商業上入手可能であるか、または市販の化合物から既知の方法によって製造することができる。
【0044】
本発明の増感剤は、ペプチドボロン酸化合物自体であってもよく、またはペプチドボロン酸化合物以外の成分を含んでいてもよい。かかる成分は、ペプチドボロン酸化合物の作用を妨げない限り特に限定されないが、例えば、水等の溶媒、安定化剤、緩衝液等が挙げられる。
【0045】
本発明の増感剤に含まれるペプチドボロン酸化合物の量は、特に限定されず、当業者によって適宜決定されうる。
【0046】
本発明の増感剤は、スーパーオキシドアニオンの検出系において用いる。本発明の増感剤は、細胞系または無細胞系におけるいずれのスーパーオキシドアニオンの検出においても使用できる。スーパーオキシドアニオンの検出系は、既知のスーパーオキシドアニオンの検出方法であってもよく、特に限定されない。スーパーオキシドアニオンの検出方法としては、例えば、化学発光法、蛍光法、吸光光度法、電子スピン共鳴(ESR)法等が知られている。化学発光法では、化学発光プローブとスーパーオキシドアニオンとの反応により生じた発光量を定量することによってスーパーオキシドアニオンを検出する。蛍光法では、蛍光プローブとスーパーオキシドアニオンとの反応により生じた蛍光を測定するか、またはプローブとスーパーオキシドアニオンとの特異的反応生成物を液体クロマトグラフィー質量分析法で定量することによってスーパーオキシドアニオンを検出する。吸光光度法では、発色プローブとスーパーオキシドアニオンとの反応により色の変化が導かれ、該変化を吸光度により測定することによってスーパーオキシドアニオンを検出する。ESR法では、スピントラップ剤によってスーパーオキシドアニオンが捕捉され、該捕捉により生じる特徴的なESRスペクトルを測定することによってスーパーオキシドアニオンを検出する。
【0047】
本発明の増感剤は、種々の化学発光プローブ、蛍光プローブ、発色プローブ、またはスピントラップ剤を用いる方法において使用することができる。化学発光プローブの例としては、限定するものではないが、L-012(8-アミノ-5-クロロ-7-フェニル-ピリド[3,4-d]ピリダジン-1,4(2H,3H)ジオン)、ルシゲニン(Lucigenin)、ルミノール(Luminol)、イソルミノール(Isoluminol)、ウミホタルルシフェリン類縁体(Methyl cypridina luciferin analog:MCLA)、Diogenes(National Diagnostics製)等が挙げられる。蛍光プローブの例としては、限定するものではないが、ジヒドロエチジウム(DHE、別名ヒドロエチジン)、H2DCFDA(別名:DCFDA、2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート)、H2DCFDA誘導体、ジヒドロローダミン(Dihydrorhodamine)123、CellROX(登録商標)(Thermo Fisher Scientific製)等が挙げられる。発色プローブの例としては、限定するものではないが、スルホン酸テトラゾリウム塩(例えば、WST-1)、シトクロームc、ニトロブルーテトラゾリウム塩(NBT)等が挙げられる。スピントラップ剤の例としては、限定するものではないが、5,5-ジメチル-1-ピロリンN-オキシド(DMPO)が挙げられる。
【0048】
本発明の増感剤は、試料中のスーパーオキシドアニオンを測定する際に、スーパーオキシドアニオンの検出系に添加することにより用いられる。例えば、本発明の増感剤を試料に添加して、必要に応じて適宜インキュベーションした後、スーパーオキシドアニオン検出用プローブを前記試料に添加して、必要に応じて適宜インキュベーション後、スーパーオキシドアニオンを測定してもよい。あるいは、例えば、本発明の増感剤およびスーパーオキシドアニオン検出用プローブを同時に試料に添加して、必要に応じて適宜インキュベーション後、スーパーオキシドアニオンを測定してもよい。
【0049】
スーパーオキシドアニオンの検出に用いられる本発明の増感剤の量は、特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。例えば、3~100μMの量で使用することができる。
【0050】
スーパーオキシドアニオンの検出に用いられる試料は、特に限定されない。例えば、細胞、細胞抽出物、生体試料、食品由来の試料、精製酵素等が挙げられる。
【0051】
適用するスーパーオキシドアニオンを検出系および本発明の増感剤の使用量にもよるが、本発明の増感剤の使用によりスーパーオキシドアニオンの検出感度は、本発明の増感剤を使用しない場合と比べて、少なくとも約2~10倍増強し、例えば、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、または少なくとも9倍増強し、好ましくは10倍以上増強する。
【0052】
上記のようなスーパーオキシドアニオンの検出に使用するために、本発明の増感剤を含むキットが提供される。該キットは、さらに、使用する検出方法に適したプローブ、例えば、化学発光プローブ、蛍光プローブまたは発色プローブ、またはスピントラップ剤を含んでいてもよい。
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1:本発明の増感剤の存在下での発光プローブL-012を用いたスーパーオキシドアニオンの検出(細胞系)
本発明の増感剤としてボルテゾミブを用いた。スーパーオキシドアニオン産生系として、スーパーオキシドアニオン産生酵素であるNOX1(NADPHオキシダーゼファミリーの1つ)を強制発現させた細胞を用いた。該細胞は、既知の方法によって作製した。簡単に言うと、HEK293細胞にヒトNOX1遺伝子発現プラスミドおよび共因子であるヒトNOXA1遺伝子発現プラスミドとヒトNOXO1遺伝子発現プラスミドをリポフェクション法により遺伝子導入し、24~48時間後に細胞を回収し、Krebs-HEPES緩衝液に懸濁した。対照細胞として、Mockプラスミドおよび共因子プラスミドを遺伝子導入したHEK293細胞を用いた。該NOX1発現細胞および対照細胞を100,000個ずつ96ウェル白色プレートに分注し、氷冷して活性を止めておき、ボルテゾミブ(富士フィルム和光純薬株式会社)(1μM、3μM、または10μM)または0.1%DMSO(ジメチルスルホキシド)と10分間、4℃でインキュベートした。その後、L-012(富士フィルム和光純薬株式会社)(100μM)を細胞に添加し、37℃条件下プレートリーダーでL-012発光量(RLU)を検出した。結果を
図1Aに示す。
【0055】
さらに、上記の実験系において、ボルテミゾブ(10μM)またはDMSOに加えてスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(5U/mL)をNOX1発現細胞に添加して、上記と同様にL-012発光量を測定した。30分間の計測における全発光量を
図1Bに示す。
【0056】
図1Aおよび
図1Bから明らかなように、ボルテミゾブの存在下でスーパーオキシドアニオンの測定感度が増強されることが分かった。特に、1μMボルテゾミブはDMSO添加時に比べて2.0倍、3μMボルテゾミブはDMSO添加時に比べて4.2倍、10μMボルテゾミブはDMSO添加時に比べて9.7倍ものスーパーオキシドアニオン産生増感作用を示した(
図1B)。一方、ボルテゾミブの添加は対照細胞に対して無影響であった。また、スーパーオキシドアニオンを分解する酵素であるSODの添加によって発光が抑制されたことから、ボルテミゾブの増感作用がスーパーオキシドアニオン依存性であることが確認された。
【0057】
実施例2:本発明の増感剤の存在下での発光プローブL-012を用いたスーパーオキシドアニオンの検出(無細胞系)
本発明の増感剤としてボルテゾミブを用いた。スーパーオキシドアニオン産生系(細胞フリー)として、キサンチンオキシダーゼおよびキサンチンを用いた。対照として、キサンチンオキシダーゼを添加しない系を用いた。キサンチンオキシダーゼ(5mU/mL、富士フィルム和光純薬株式会社)およびキサンチン(0.2mM、富士フィルム和光純薬株式会社)を氷冷して活性を止めておき、ボルテミゾブ(1μM、3μM、または10μM)またはDMSOと10分間、4℃でインキュベートした。その後、スーパーオキシドプローブであるL-012(100μM)を添加し、37℃条件下プレートリーダーでL-012発光量(RLU)を検出した。結果を
図2Aに示す。
【0058】
さらに、上記の実験系において、ボルテミゾブ(10μM)またはDMSOに加えてSOD(5U/mL)をキサンチンオキシダーゼ/キサンチン スーパーオキシドアニオン産生系に添加して、上記と同様にL-012発光量を測定した。30分間の計測における全発光量を
図2Bに示す。
【0059】
図2Aおよび
図2Bから明らかなように、ボルテミゾブの存在下でスーパーオキシドアニオンの測定感度が増強されることが分かった。特に、1μMボルテゾミブはDMSO添加時に比べて3.6倍、3μMボルテゾミブはDMSO添加時に比べて7.3倍、10μMボルテミゾブはDMSO添加時に比べて11.6倍のスーパーオキシドアニオン産生増感作用を示した(
図2B)。一方、ボルテゾミブの添加は、キサンチンオキシダーゼを添加しない対照系に対しては無影響であった。また、SODの添加によって発光が抑制されたことから、ボルテミゾブの増感作用がスーパーオキシドアニオン依存性であることが確認された。
【0060】
実施例3:スーパーオキシドアニオン検出における本発明の増感剤の濃度依存性の検討
本発明の増感剤としてボルテゾミブを用い、スーパーオキシドアニオン産生系として、実施例1および2で使用したのと同じ細胞系および無細胞系を用いた。スーパーオキシドアニオンの検出には発光プローブL-012を用いた。細胞系および無細胞系に、0.1%DMSO(対照)、あるいは1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1μM、3μM、10μM、30μM、または100μMのボルテゾミブを添加し、実施例1および実施例2と同様にインキュベートした後、L-012(100μM)を添加し、37℃条件下プレートリーダーでL-012発光量(RLU)を30分間計測した。30分間の計測における全発光量を求め、0.1%DMSO添加時を1とした相対量(倍)を
図3A(細胞系)および
図3B(無細胞系)に示す。その結果、濃度依存的にボルテゾミブの効果が確認された。特に、ボルテゾミブ100μMは、細胞系で、DMSO添加時に比べて約25倍の増感効果を示し、無細胞系で、DMSO添加時に比べて約11倍の増感効果を示した。
【0061】
比較例1:別のプロテアソーム阻害剤の存在下におけるスーパーオキシドアニオン検出
ボルテゾミブの代わりに、ペプチドボロン酸化合物ではないプロテアソーム阻害剤カルフィルゾミブ(Carfilzomib)を用いて、実施例1および2と同様の実験を行った。実験は、DMSO、ボルテゾミブ(1μM、3μM、または10μM)、またはカルフィルゾミブ(AdipoGen社)(1μM、3μM、または10μM)を細胞系または無細胞系のスーパーオキシドアニオン産生系に添加する以外は、実施例1および2に記載の通りに実施し、30分間の計測におけるL-012全発光量(RLU)を求めた。結果を
図4A(細胞系)および
図4B(無細胞系)に示す。
図4Aおよび
図4Bから明らかなように、カルフィルゾミブは、スーパーオキシドアニオン産生増感作用を示さなかった。
【0062】
実施例4:本発明の増感剤の存在下での発光プローブL-012を用いたスーパーオキシドアニオンの検出
本発明の増感剤としてイキサゾミブ(Ixazomib)を用いて、実施例1および2と同様の実験を行った。実験は、DMSO(0.1%)、ボルテゾミブ(10μM)、またはイキサゾミブ(CAYMAN社)(10μM)を細胞系または無細胞系のスーパーオキシドアニオン産生系に添加する以外は、実施例1および2に記載の通りに実施した。結果を
図5A(細胞系)および
図5B(無細胞系)に示す。
図5Aおよび
図5Bから明らかなように、イキサゾミブは、ボルテゾミブと同様にスーパーオキシドアニオン産生増感作用を示した。
【0063】
比較例2:本発明の増感剤の存在下での過酸化水素の検出
本発明の増感剤としてボルテミゾブ用いた。過酸化水素産生系として、実施例1および2で用いたスーパーオキシドアニオン産生系を用い、蛍光プローブAmplex(登録商標)Redを用いて過酸化水素を検出した。すなわち、Krebs-HEPES緩衝液に懸濁したNOX1発現細胞および対照細胞を100,000個ずつ96ウェル白色プレートに分注し、氷冷して活性を止めておき、ボルテゾミブ(1μM、3μM、または10μM)または0.1%DMSO(ジメチルスルホキシド)と10分間、4℃でインキュベートした。その後、過酸化水素プローブであるAmplex Red(ThermoFisher社)(50μM)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(0.1U/mL)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。最後に、プレートリーダーでAmplex Red蛍光量を検出した。さらに、上記の実験系において、ボルテミゾブ(10μM)またはDMSOに加えてSOD(5U/mL)をNOX1発現細胞に添加して、上記と同様に蛍光量を検出した。結果を
図6Aに示す。
【0064】
また、キサンチンオキシダーゼ(5mU/mL)およびキサンチン(0.2mM)を氷冷して活性を止めておき、ボルテミゾブ(1μM、3μM、または10μM)またはDMSOと10分間、4℃でインキュベートした。その後、Amplex Red(50μM)およびHRP(0.1U/mL)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。最後に、プレートリーダーでAmplex Red蛍光量を検出した。さらに、上記の実験系において、ボルテミゾブ(10μM)またはDMSOに加えてSOD(5U/mL)をキサンチンオキシダーゼ/キサンチン過酸化水素産生系に添加して、上記と同様に蛍光量を検出した。結果を
図6Bに示す。
【0065】
図6Aおよび
図6Bから明らかなように、ボルテゾミブは過酸化水素の検出において増感作用を示さなかった。したがって、本発明の増感剤がスーパーオキシドアニオンの検出に特異的であることが分かった。
【0066】
実施例5:本発明の増感剤の存在下での蛍光プローブDHEを用いたスーパーオキシドアニオンの検出
本発明の増感剤としてボルテゾミブを用い、スーパーオキシドアニオンの検出に蛍光プローブであるDHEを用いて実験を行った。すなわち、35mm径培養皿に播種したNOX1発現細胞および対照細胞の培養液を除き、ボルテゾミブ(10μM)およびDHE(10μM)、またはDMSO(0.1%)およびDHE(10μM)を含有するKrebs-HEPES緩衝液0.6mLに置換し、37℃条件下1時間インキュベートした。その後、上清をHPLC/MS/MSで分析し、スーパーオキシドアニオンの特異的代謝産物である2-OH-E+を定量測定した。結果を
図7Aに示す。
【0067】
また、キサンチンオキシダーゼ(0.5mU/mL)およびキサンチン(0.2mM)を氷冷して活性を止めておき、ボルテゾミブ(10μM)およびDHE(10μM)、またはDMSO(10μM)およびDHE(10μM)と37℃条件下1時間インキュベートした。その後、上清をHPLC/MS/MSで分析し、スーパーオキシドアニオンの特異的代謝産物である2-OH-E+を定量測定した。結果を
図7Bに示す。
【0068】
図7Aおよび
図7Bから明らかなように、ボルテゾミブはDHEを用いたスーパーオキシドアニオンの検出においても増感作用を示した。したがって、本発明の増感剤はスーパーオキシドアニオンの検出に有効であることが分かった。
【0069】
比較例3:本発明の増感剤とHPRによるL-012発光増強作用の比較
実施例1で用いたスーパーオキシドアニオン産生細胞における、L-012を用いるスーパーオキシドアニオンの検出において、L-012の発光増強作用があることが知られているHPRの効果と本発明の増感剤ボルテゾミブの効果を比較した。実験は、ボルテゾミブ(10μM)またはHRP(0.1U/mL)を用いる以外は、実施例1と同様に行った。すなわち、NOX1を強制発現させた細胞または対照細胞を氷冷して活性を止めておき、DMSO、ボルテゾミブ(10μM)またはHRP(0.1U/mL)と10分間インキュベートした。その後、L-012(100μM)を添加し、37℃条件下プレートリーダーで30分間L-012発光量(RLU)を検出した。結果を
図8Aおよび
図8Bに示す。
【0070】
その結果、対照細胞に対するNOX1発現細胞の変化率(signal/noise: S/N比)はそれぞれ、DMSOにおいて201、ボルテゾミブにおいて555であった(
図8A)。一方、HRPによる増強効果は、対照細胞および緩衝液のみ(buffer)でも観察された(
図8B)。そのため、S/N比は80倍に留まった。
【0071】
実施例6:スーパーオキシドアニオン検出における、本発明の増感剤の至適条件の検討
本発明の増感剤としてボルテゾミブを用い、スーパーオキシドアニオン産生系として、実施例1および2で使用したのと同じ細胞系および無細胞系を用いた。スーパーオキシドアニオンの検出には発光プローブL-012を用いた。細胞系および無細胞系に、0.1%DMSO(対照)、あるいは0.001μM~100μMのボルテゾミブを添加し、実施例1および実施例2と同様にインキュベートした後、L-012(100μM)を添加し、37℃条件下プレートリーダーでL-012発光量(RLU)を30分間計測した。30分間の計測における全発光量を求め、0.1%DMSO添加時を1とした相対量(倍)を
図9A(細胞系)および
図9B(無細胞系)に示す。
【0072】
また、細胞数300~1,000,000個のNOX1発現細胞またはMock細胞からなる細胞系において、0.1%DMSO(対照)、あるいは10μMまたは100μMのボルテゾミブを添加して上記と同様にスーパーオキシドアニオンを検出した。30分間の計測におけるL-012全発光量を求め、Mock対照での発光量を1とした時の、NOX1細胞系における相対発光量(倍)を
図9Cに示す。
【0073】
さらに、0.001~10mU/mLのキサンチンオキシダーゼ(XO)および0.2mMのキサンチン(X)を含む無細胞系またはXOを含まず、X(0.2mM)のみを含む無細胞系において、0.1%DMSO(対照)、あるいは10μMまたは100μMのボルテゾミブを添加して上記と同様にスーパーオキシドアニオンを検出した。30分間の計測におけるL-012全発光量を求め、Xのみを含む対照系での発光量を1とした時の、XO/X系における相対発光量(倍)を
図9Dに示す。
【0074】
その結果、ボルテゾミブは、NOX1発現細胞に対して用量依存性のスーパーオキシドアニオン産生増感効果を示し、Mockに対して無影響であった(
図9A)。また、ボルテゾミブは、XO/Xの系に対して用量依存性のスーパーオキシドアニオン産生増感効果を示した(
図9B)。Xの系に対しても、30~100μMの高濃度のボルテゾミブを用いた場合は対照よりも高い発光量が観察されたが(
図9B)、その増強の程度はXO/Xの系と比べて非常に小さかった。
【0075】
図9Cから明らかなように、細胞からなるスーパーオキシドアニオン産生系において、細胞数を増加するとスーパーオキシドアニオン産生量は増加し(DMSO)、10μMおよび100μMのボルテゾミブを添加するとさらに増感作用を示した。さらに、10μMおよび100μMのいずれの濃度のボルテゾミブも、少量のスーパーオキシドアニオン産生の検出(例えば、細胞数100,000以下)において増感作用を示した。
【0076】
図9Dから明らかなように、無細胞系のスーパーオキシドアニオン産生系においては、XOを増加するとスーパーオキシドアニオン産生量は増加し(DMSO)、10μMのボルテゾミブを添加するとさらに増感作用を示した。100μMのボルテゾミブでは増感作用が10μMより低かったが、これは、基質であるXのみの系(陰性対照)において100μMボルテゾミブによる発光の増加が見られたため(
図9B)、すなわちバックグラウンドが上昇したため、X 対 XO/X比が低下したと考えられる。さらに、10μMおよび100μMのいずれの濃度のボルテゾミブも、少量のスーパーオキシドアニオン産生の検出(例えば、XO 1mU/mL以下)において増感作用を示した。
【0077】
実施例7:本発明の増感剤の存在下でのスーパーオキシドアニオンの検出(細胞系)
スーパーオキシドアニオン産生系として、スーパーオキシドアニオン産生酵素であるNOX1およびNOX2を内在性に発現するマウス由来マクロファージ系細胞株RAW264.7(バイオリソースセンターATCCより入手)を用いた。実施例1と同様に、細胞をプレートに分注し、氷冷して活性を止めておき、ボルテゾミブ(1μM、3μM、または10μM)または0.1%DMSOと10分間、4℃でインキュベートした。その後、L-012(100μM)を細胞に添加し、37℃条件下プレートリーダーでL-012発光量(RLU)を検出した。結果を
図10Aに示す。
【0078】
さらに、上記の細胞系において、ボルテゾミブ(1μM、3μM、10μM)またはDMSOに加えて、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(5U/mL)および/またはPMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)(200nM)を添加して、上記と同様にL-012発光量を測定した。30分間の計測における全発光量を
図10Bに示す。PMAは、内在性NOX活性を刺激するために使用した。
【0079】
図10Aおよび
図10Bから明らかなように、NOXを内在発現する系においても、ボルテミゾブの存在下でスーパーオキシドアニオンの測定感度が増強されることが分かった。さらに、
図10Bから明らかなように、10μMのボルテゾミブは、DMSO(0μM ボルテゾミブ)と比べて約30倍のスーパーオキシドアニオン産生増感作用を示した。PMAを添加すると、NOX活性が増強してスーパーオキシドアニオン産生が高まるが、PMAを添加した場合もボルテゾミブによる増感作用が認められた。また、SODの添加によって発光は抑制されることから、ボルテミゾブの増感作用がスーパーオキシドアニオン依存性であることが確認された。
【0080】
実施例8:細胞生存性に対する本発明の増感剤の影響
スーパーオキシドアニオン産生系としてNOX1強制発現細胞を実施例1の記載と同様にして作製した。該NOX1発現細胞をプレートに分注し、氷冷して活性を止めておき、ボルテゾミブ(10μM、30μM、または100μM)または0.1%DMSO(対照)と10分間、4℃でインキュベートした。その後、37℃条件下で30分間インキュベートした。細胞生存性を、細胞内ATP量を指標として測定した(Promega社 CellTitier-Glo(登録商標)2.0 発光細胞生存性アッセイ)。結果を
図11に示す。
図11から明らかなように、高濃度のボルテゾミブを用いても、40分間のアッセイ時間において細胞毒性は示されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の増感剤は、様々なスーパーオキシドアニオン検出系に用いることができる。本発明の増感剤を用いれば、様々なスーパーオキシドアニオン検出系において微量なスーパーオキシドアニオンを高感度に検出することができる。