(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】熱成形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 51/26 20060101AFI20231024BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20231024BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20231024BHJP
B29C 51/42 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B29C51/26
B29C35/02
B29C51/10
B29C51/42
(21)【出願番号】P 2023006339
(22)【出願日】2023-01-19
【審査請求日】2023-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304050369
【氏名又は名称】株式会社浅野研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 章伍
(72)【発明者】
【氏名】河野 紳悟
(72)【発明者】
【氏名】山下 宏文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利征
(72)【発明者】
【氏名】武田 翼
(72)【発明者】
【氏名】寺本 一典
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-084236(JP,A)
【文献】特開2017-081127(JP,A)
【文献】特表2002-517333(JP,A)
【文献】特開平06-234024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 35/00-35/18
B29C 51/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱板によってシートの加熱を行い、金型賦形する熱成形装置において、
前記熱板は、
前記シートの上方から加熱する上部熱板と、
前記シートの下方から加熱する下部熱板よりなり、
前記上部熱板の周囲に配置されて前記シートの外周部
を保持するための保持装置を備え、
該保持装置は、
前記シートの端部上面と対向して前記シートの少なくとも周囲の浮き上がりを押さえる上側支持面と、
前記シートの端部下面を前記シートの外周部にて支える枠体構造の下側支持面を有し、
前記シートを挟む位置に配置される前記上側支持面と前記下側支持面との距離は、
前記シートが前記上側支持面から離間した際に前記シートの厚みに前記シートを前記上側支持面側に接するように吸着可能な
少なくとも前記シートの熱膨張による厚み増加分を加味した距離を加えた設定距離とされること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱成形装置において、
前記下側支持面には、位置決めピンが突出するように設けられ、
前記シートの外周部に、外周方向であって前記シートの延伸方向に沿って延びる長穴構造の位置決め孔を備え、前記位置決めピンが貫通してガイドされ前記シートの平面方向への移動を規制すること、
を特徴とした熱成形装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱成形装置において、
前記吸着可能な距離が0.1mmであること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の熱成形装置において、
前記保持装置の上側支持部の上面には、下側に開口するチャンバの開口端が当接し、前記チャンバ内の空気を吸引することで、前記シートを前記上側支持面に吸着すること、
を特徴とする熱成形装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の熱成形装置において、
前記上部熱板の下面が、前記上側支持面として機能すること、
を特徴とする熱成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚板素材の熱成形における技術に関し、具体的には厚板素材を熱板で真空吸着しながら加熱する際に、シワの発生を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱成形機は、熱可塑性樹脂シートを加熱して軟化したシートを成形し、食品容器やブリスターパックを作るのに用いられる。また、自動車部品や家電、工業用トレーなど様々なプラスチック製品を作るのに利用されている。そして近年、熱成形機を用いて模様を転写したり、成形基材に外表面に接着したりといった用途にも、位置精度を求められる成形にも使われている。
【0003】
特許文献1には、熱成形装置及び熱成形方法に関する技術が開示されている。表皮シートを成形基材の外表面に接着する熱成形装置が示されており、上下に設けた上熱板と下熱板を用いてシートを加熱する。この際、成形に用いるシートはロール部から巻出して、成形後にカットする連続シート方式を採用しており、上熱板の第1加熱面に対してシートを吸引させて保持している。そして、上熱板で保持したシートを、チャンバ上面に押し付けてチャンバ内に減圧動作をして、成形基材の表面を覆うように密着して押し付けられて成形基材を被覆して接着される構成となっている。
【0004】
特許文献2には、絵付け装置及び絵付け方法に関する技術が開示されている。成形装置に用いるチャンバ部材の開口端の周縁に沿ってフランジが設けられており、上下のフランジでフィルムを挟んで保持し、被転写物に対してフィルムに印刷された絵を転写するために、チャンバ内の圧力を変化させて被転写物の表面にフィルムが密着させ絵付けを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6674227号
【文献】特許第6550267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載される技術では、扱うシートやフィルムは薄く、板厚のあるシート材を加熱して成形するために適用することは困難である。これは、板厚のあるシート材を加熱するにあたって、シートの端部をしっかりと保持した上で、シートの上側と下側から加熱すると、温度差によって変形が起きやすく、また、加熱によって軟化した場合に板厚のあるシートだと、自重によって中央部あたりがドローダウンしやすいためである。
【0007】
加熱時に生じるシート材の変形が影響し、成形する段階で位置ズレが生じやすくなり問題となる。特に、シートに印刷などがなされている場合には、加温によるシートの伸び等が影響して位置ズレによって形状と印刷模様のズレが生じてしまう。一方で、シートを吸着保持する方法を採用すると、加熱時に生じるシート材の変形によって、吸着保持ができなくなるおそれがある。
【0008】
そこで、板厚のあるシートを用いて加熱成形する場合に、位置ズレなどが起きにくい熱成形装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による熱成形装置は、以下のような特徴を有する。
【0010】
(1)熱板によってシートの加熱を行い、金型賦形する熱成形装置において、
前記熱板は、
前記シートの上方から加熱する上部熱板と、
前記シートの下方から加熱する下部熱板よりなり、
前記上部熱板の周囲に配置されて前記シートの外周部を挟んで保持するための保持装置を備え、
該保持装置は、
前記シートの端部上面と対向して前記シートの少なくとも周囲の浮き上がりを押さえる上側支持面と、
前記シートの端部下面を前記シートの外周部にて支える枠体構造の下側支持面を有し、
前記上側支持面と、前記下側支持面との距離は、前記シートの厚みに前記シートを前記上側支持面側に接するように吸着可能な距離を加えた設定距離とされること、
を特徴とする。
【0011】
上記(1)に記載の態様により、厚手のシート材を金型賦形するにあたって、位置ズレしにくく皺などの発生を抑えて成形が可能になる。これは、シートを上部熱板と下部熱板を用いて加熱するにあたって、シートを上側支持面側に吸着保持することで上部熱板による加熱を行う。この時にシート材が熱影響による変形をして吸着部分が外れた場合にも、下側支持面によってシートを受け、上側支持面と下側支持面の隙間は、シートの厚みより例えば0.1mm余裕を持って設計し、シートを吸着可能な距離を加えた設定距離とすることで、シート端部がそれ以上垂れ下がることなく下部支持面に支えられるので、ズレを生じる前に再度吸着して保持し直すことが可能である。
【0012】
(2)(1)に記載の熱成形装置において、
前記下側支持面には、位置決めピンが突出するように設けられ、
前記シートの外周部に、外周方向であって前記シートの延伸方向に沿って延びる長穴構造の位置決め孔を備え、前記位置決めピンが貫通してガイドされ前記シートの平面方向への移動を規制すること、
が好ましい。
【0013】
上記(2)に記載の態様により、シートの延伸方向に沿って伸びる長孔を配置することで、シートの延び方向を規制して、位置ズレを防ぐことに貢献することができる。シート上に印刷部があり、ズレが発生して欲しくない場合など、位置ズレを避けたいケースでは、このような長孔構造の採用によってズレを最小限に抑え、精度の良い成形品の提供に貢献することが可能となる。例えば、シートの延伸方向に沿って伸びる長孔をシートの外周部の短辺に設けることで、長孔によってガイドされて位置ズレを避けることができる。また、第1の長孔に対して直交方向に第2の長孔を配置する(第1の長孔の中心線と第2の長孔の中心線が直交する配置とする)ことで、シートの延び方向を規制してより精度の高い位置ズレ防止効果を得られる。この結果、成形品の精度向上に貢献することができる。
【0014】
(3)(1)または(2)に記載の熱成形装置において、
前記吸着可能な距離が0.1mmであること、
が好ましい。
【0015】
上記(3)に記載の態様により、上側支持面からシートが外れた場合に、シートの下側から下側支持面で支える。この際に、吸着可能な距離を0.1mmに設定してあるため、上側支持部材に備えられた吸気孔によって吸着した際に、確実にシートを吸着することができる。この結果、シートの位置ズレや皺の発生などを防ぐことが可能となる。
【0016】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の熱成形装置において、
前記保持装置の上側支持部の上面には、下側に開口するチャンバの開口端が当接し、前記チャンバ内の空気を吸引することで、前記シートを前記上側支持面に吸着すること、
が好ましい。
【0017】
(5)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載の熱成形装置において、
前記上部熱板の下面が、前記上側支持面として機能すること、
が好ましい。
【0018】
上記(4)又は上記(5)に記載の態様により、(1)に記載の態様と同様に、位置ズレを抑えて成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態の、熱成形装置についての説明図である。
【
図2】第1実施形態の、保持装置部分の拡大図である。
【
図3】第1実施形態の、保持装置を説明するための拡大断面図である。
【
図4】第1実施形態の、下側支持部の平面図である。
【
図5】(a)~(d)第1実施形態の、成形手順を説明する説明図である。
【
図6】第2実施形態の、保持装置を説明するための拡大断面図である。
【
図7】第3実施形態の、保持装置を説明するための説明図である。
【
図8】(a)~(d)第3実施形態の、成形手順を説明する説明図である。
【
図9】第4実施形態の、下側支持部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る第1の実施形態の熱成形装置100の構成の概略について説明をする。
図1は、第1実施形態の熱成形装置100について説明する説明図である。熱成形装置100は、第1チャンバ101、第2チャンバ102、上部熱板110、下部熱板150、金型200、及び保持装置120を有している。保持装置120に把持したシートSを、上部熱板110と下部熱板150によって加熱した後に、金型200を用いて成形する熱板加熱方法を採用した構成となっている。
【0021】
熱成形装置100の、第1チャンバ101及び第2チャンバ102には、それぞれ図示しない真空ポンプが接続され、真空ポンプを作動させて第1チャンバ101及び第2チャンバ102内の減圧を行うことができる。第1チャンバ101は下方に開口し、第2チャンバ102は上方に開口し、第1チャンバ101は保持装置120の上側の面に当接し、第2チャンバ102は保持装置120の下側の面に当接する構成である。また、図示しない加圧タンクが備えられて、保持装置120の上側に当接した状態の第1チャンバ101内に圧縮空気が導入され第1チャンバ101内の加圧も可能である。第2チャンバ102は、必要に応じて昇降可能な構成となっている。
【0022】
シートSは、熱可塑性樹脂のポリカーボネートで、厚さ5mmの矩形にカットされた板材を採用している。なお、材質や厚みはあくまで一形態の例示である為、シートSの材質や厚みはこれに限定されるものではない。また、ここで用いる「シート」の用語はJISでは厚さが250μm以上の薄い板状のものと定義されているが、ここでいう被加工物となるシートSは厚さ数m程度の比較的厚さのあるものを想定している。定尺に切り揃えられたシートSの周囲には、後述する短辺長孔S1が2箇所と長辺長孔S2が2箇所の合計4箇所に位置決め孔として設けられている。
【0023】
上部熱板110は、シートSを保持する保持装置120の上方に配置されて、シートSを上面から加熱する目的で用いられる。上部熱板110には、その内部に加熱するための図示しないヒーターが設けられており、その下面にはマスキングプレート111が設けられており、シートSの上面と接触した状態で樹脂の軟化点(本実施形態では160℃程度)まで加温することが可能である。また、図示しない昇降装置が供えられ、金型200に対して上部熱板110が昇降可能に備えられている。
【0024】
下部熱板150は、シートSを輻射加熱するヒーター群を有し、横行装置を備えて保持装置120に保持されたシートSの下面より加熱を行い、第1チャンバ101及び第2チャンバ102の外側にある退避位置に移動できる構成となっている。
【0025】
金型200は、下枠210に固定されてシートSの成形に用いる。金型200の周囲には4面の側壁201が底盤202に立設して備えられている。底盤202は枠架台203の上に配置されている。金型200は、凹型のものを図示しているが、凸型のものであっても良い。また、図示しない流路が内部に形成されており、シートSの成形時に吸気することで成形を容易にすることが可能である。枠架台203は、図示しない昇降可能な昇降装置を備え、任意のタイミングで昇降させることができる。
【0026】
図2に、保持装置120の側面図を示す。
図3に、保持装置120を説明するための拡大断面図を示す。
図4に、下側支持部122の平面図を示す。保持装置120は、矩形枠状の下側支持部122と、下側支持部122とシートSを挟むように配置される上側蓋材121(上側支持部に相当)よりなる。下側支持部122は、
図2に示すように段付き形状断面を有し受板124を備えてなる。受板124が保持される支持面122aから垂直に立設される壁面122bと、上側蓋材121に当接する当接面122cを有する。
【0027】
壁面122bは、
図4に示すようにシートSの外周面との間に隙間dが形成される程度に形成されている。支持面122aの上には、矩形枠状の受板124が取り外し可能に保持されている。受板124の4辺には、それぞれ中心に位置決めピン123がシート下側支持面124a側に突出するように備えられている。位置決めピン123の位置は、シートSの線膨張方向を想定してシートSの中心を通過する直線上に形成されることが望ましく、
図4に示される様に、シートSに形成される短辺長孔S1及び長辺長孔S2はそれぞれ中心線が、シートSの中心を通過する直線と重なるように配置されている。短辺長孔S1及び長辺長孔S2の長さは、シートSの線膨張率を考慮して長めに設定されることが望ましい。
【0028】
上側蓋材121は、ロの字矩状の板体であり、そのシート上側支持面121b(上側支持面に相当)には、下側支持部122の位置決めピン123に対応する部分に凹部121aが4箇所に設けられる。位置決めピン123はシートSが下側支持部122の上に配置された時に貫通する長さ、つまり本件ならば5mm以上となるように設定されるため、上側蓋材121と下側支持部122が重ねられた時に、位置決めピン123が干渉しない様に凹部121aが形成されている。
【0029】
そして、下側支持部122の当接面122cに上側蓋材121が当接した状態で固定されて保持装置120を成し、下側支持部122(シートSと直接当接するのは受板124)と上側蓋材121とでシートSの端部を挟んで支持することができる。この際に、シートSの厚みxが5mmだとすると、上側蓋材121のシート上側支持面121bと受板124の上面であるシート下側支持面124aまでの隙間yは5.1mmに設定されている。なお、
図3では、シート上側支持面121bとシートSの間に隙間が形成されているように描かれているが、第1チャンバ101内より空気を吸気することで、矢印に従って空気が流れ、シートSがシート上側支持面121b側に吸着される。また、隙間yに関しては後述する。
【0030】
図5(a)~(d)に、成形手順を説明する説明図を示す。
図5(a)には、シートSを投入した状態を示す。シートSは、投入位置にて作業者が下側支持部122の上に、位置決めピン123がそれぞれ短辺長孔S1及び長辺長孔S2に貫通するように置き、上側蓋材121をその上から被せて固定することで、シートSを保持装置120に保持させる。
【0031】
図5(b)に、上部熱板110をシートSの上に接触させた状態を示す。第2チャンバ102と保持装置120を上昇させて、上部熱板110をシートSの上面に接するように降下させる。この時、第1チャンバ101の開口部は上側蓋材121の上面に当接し、第1チャンバ101内の空気を吸気することで、シートSの上面と上部熱板110の下面(マスキングプレート111)とを密着させて、上部熱板110によってシートSを加熱する。上部熱板110は160℃程度に加熱されており、シートSの昇温を行う。
【0032】
図5(c)に、下部熱板150でシートSを加熱している様子を示す。第2チャンバ102及び金型200を下側に退避させた状態で、下部熱板150を横行装置によって保持装置120の下側に移動させ、シートSの下面より加熱を行う。輻射加熱が行われて、シートSの材質であるポリカーボネートのガラス転移温度以上になるまで加熱する。具体的には200℃程度になるまで加熱を行う。シートSは所定の厚みxを有しているため、上部熱板110と下部熱板150を用いて効率的に加熱することで、短時間でシートSの温度を上げることが可能である。
【0033】
図5(d)に、シートSの成形を行っている様子を示す。金型200をシートSの下側まで移動させ、シートSに対して第1チャンバ101に圧縮空気を送ることで圧空をしながら成形を行う。合わせて第2チャンバ102側では第2チャンバ102内の空気を引くことで、スムーズにシートSの成形が可能となる。その後、成形された成形品を金型200より取り出す。このような手順で成形品Pの成形が可能となる。
【0034】
第1実施形態の熱成形装置100は上記構成であるため、以下に示すような作用及び効果を奏する。
【0035】
まず、厚板のシートSの熱成形をするにあたって、シートSが加熱で線膨した場合に発生する影響を緩和し、位置ズレしにくい成形方法の提供が可能になる。これは、熱板(上部熱板110及び下部熱板150)によってシートSの加熱を行い、金型賦形する熱成形装置100において、熱板は、シートSの上方から加熱する上部熱板110と、シートSの下方から加熱する下部熱板150よりなり、上部熱板110の周囲に配置されてシートSの外周部を挟んで保持するための保持装置120を備えている。そして、保持装置120は、シートSの端部上面と対向してシートSの少なくとも周囲の浮き上がりを押さえるシート上側支持面121bと、シートSの端部下面をシートSの外周部にて支えるシート下側支持面124aを有し、シート上側支持面121bと、シート下側支持面124aとの距離は、シートSの厚みにシートSをシート上側支持面121bに接するように吸着可能な距離を加えた設定距離とされること、を特徴とするからである。
【0036】
シートSは、保持装置120(上側蓋材121と下側支持部122)で端部を挟むように保持されて成形される。保持するための隙間yは、
図3に示すように、上側蓋材121のシート上側支持面121bから下側支持部122に備える受板124のシート下側支持面124aまでの距離で、シートSの厚みに対して0.1mmの余裕をもたせており、第1実施形態では、シートSの厚みxが5mmとされているのに対して、隙間yが5.1mmと設定されているので、万が一、シートSの変形の影響によって吸着が外れても再吸着が可能である。
【0037】
シートSは、上側蓋材121と受板124で挟まれた状態で、かつ0.1mmの隙間に設定されているため、シートSの端部の吸着が外れても、0.1mm程度のギャップであれば再吸着が容易にできる。この結果、保持装置120による吸着保持を継続でき、位置ズレを生じないようにシートSの搬送をすることが可能である。
【0038】
なお、この隙間yについて、シートSの厚みxに対して+0.1mmと設定しているが、シートSの重量や材質などの特性、保持装置120側の吸着能力によって隙間yの距離を増減することで最適な距離に設定することが望ましい。隙間yは、シートSの厚みが下側熱板150の加熱による熱膨張を考慮した上で、シートSが上側蓋材121のシート上側支持面121bから外れた際にも、第1チャンバ101を吸気することによって吸着可能な距離である必要がある。また、例えばシート上側支持面121bからシート下側支持面124aまでの距離が、例えば、シート上側支持面121bにOリングなどのシール材を用いており、シートS吸着時に図示しないOリングに先に当接する構成であった場合には、隙間yは更に広くてもシートSを吸着可能となる。
【0039】
また、シートSの加熱は上部熱板110と下部熱板150によって行われるが、常温のシートSを200℃まで昇温する為に、外部から熱を伝達させた場合には、どうしても外側から内側に熱が伝達する関係上、熱の伝達にムラができて変形しやすい。この時に課題に示すように保持装置120で強くクランプするとシートSが加熱に応じて線膨張分中央が膨らんで変形してしまうし、クランプを直ぐに開放するとシートSが歪んでしまう。この結果、成形段階において位置ズレが生じてしまう。こうした問題点を第1実施形態では解消しており、保持装置120にシートSを保持させるにあたって、第1チャンバ101を吸気してシートSの上面を吸着して加熱・搬送する構成を採用することで、シートSの線膨張の影響を逃がしている。
【0040】
この際に、シートSに短辺長孔S1及び長辺長孔S2が設けられていることで、シートSの位置ズレを抑えることができる。シートSの熱膨張によって、シートSの外周方向に向けて伸びる。この時に位置決めピン123に短辺長孔S1及び長辺長孔S2がガイドされるので、結果的に位置ズレを抑制することができる。したがって、加熱時においても保持装置120に対してシートSの位置決めがなされる。
【0041】
このようなシートSの保持装置120による搬送を採用することで、シートSの成形後の位置ズレを防止する他、板厚分布の再現性が良好になる点もメリットとして挙げられる。このため、シートSの表面に印刷がある場合でも、精度良く成形品Pの製造が可能となる。また、成形品Pの歩留まり向上も期待出来る。シートSの加熱時の線膨張の影響を減らすために、時間をかけてシートSの予備加熱を行い、予備加熱の終わったシートSを成形装置に投入する方法も考えられるが、この場合には成形品Pの製造に必要なタクトタイムの延長が懸念され、結果、成形品Pのコストが高くなることが考えられる。したがって、第1実施形態の熱成形装置100を採用することは成形品Pのコスト削減にも貢献することができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態の熱成形装置100の構成の概略について説明をする。第2実施形態は第1実施形態と類似の構成だが、保持装置120の構成が若干異なるので、以下、図を用いて説明する。なお、第1実施形態と同じ機能の構成については同じ符号を用いて説明している。
【0043】
図6に、第2実施形態の、保持装置120を説明するための拡大断面を示す。第2実施形態の熱成形装置100に用いる保持装置120は、上側蓋材121と下側支持部122で構成される点は同じだが、上側蓋材121のシート上側支持面121bに、吸気溝121cが形成されている点で異なる。この吸気溝121cは、複数の流路121dが連通するように接続されて、図示しない吸気装置に接続されている。このため、第1チャンバ101の吸気の有無に関わらずに保持装置120によってシートSの吸着が可能な構成となっている。シートSの成形手順に関しては、第1実施形態と同様である。
【0044】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態の熱成形装置100の構成の概略について説明をする。第3実施形態は第1実施形態と類似の構成だが、保持装置120の構成が若干異なるので、以下、図を用いて説明する。なお、第1実施形態と同じ機能の構成については同じ符号を用いて説明している。
【0045】
図7に、第3実施形態の、保持装置120を説明するための説明図を示す。第3実施形態の熱成形装置100に用いる保持装置120は、下側支持部122でシートSの支持を行い、上側支持面に相当する機能は上部熱板310の下面が果たす構成になっている。上部熱板310には、吸気流路311が複数形成されており、シートSの吸着は上部熱板310によって行われる。下側支持部122は、第1実施形態同様に段付き形状断面を有し受板124を備えてなる。受板124には位置決めピン123が備えられている。
【0046】
下側支持部122の上面と上部熱板310の下面との距離は第1実施形態の隙間yと同様に設定される。即ち、シートSの厚み5mmに対して+0.1mmの余裕を持たせて、5.1mmが隙間yの距離となる。なお、シートSの重量や材質などの特性、保持装置120側の吸着能力によって隙間yの距離を増減することを妨げない。
【0047】
そして、下側支持部122によって支えられているシートSは、上部熱板310によって吸着して搬送される。
図8に、成形手順を説明する説明図を示す。
図8(a)に、シートSを投入した様子を示す。シートSは、投入位置に作業者が下部支持部122の上に投入される。
図8(b)に、シートSを上部熱板310によって吸着し搬送する様子を示す。上部熱板310をシートSに近接させ、上部熱板310に備えられた吸気流路311から給気することで、シートSを吸着する。
【0048】
図8(c)に、下部熱板150でシートSを加熱している様子を示す。上部熱板310及び下部支持部122によってシートSを下部熱板150の上部まで移動し、シートSの下面より加熱を行う。輻射加熱が行われて、シートSの材質であるポリカーボネートのガラス転移温度以上になるまで加熱する。
図8(d)に、シートSの成形を行っている様子を示す。上部熱板310及び下部支持部122によってシートSを金型200の上方に移動させ、シートSに対して上部熱板310から空気を送って圧空しながら成形を行う。合わせて第2チャンバ102側では、第2チャンバ102内の空気を引くことで、スムーズにシートSの成形が可能となる。その後、成形された成形品を金型200より取り出す。このような手順で成形品Pの成形が可能となる。
【0049】
第2実施形態又は第3実施形態の保持装置120によってシートSを搬送する場合にも、第1実施形態の場合と同様にシートSが加熱で線膨した場合に発生する影響を緩和し、位置ズレしにくい成形方法の提供が可能になる。これは、上側支持面にあたる上側蓋材121又は上部熱板310の下面と、下側支持面にあたるシート下側支持面124aまでの距離を、シートSの厚みに対して余裕を持たせ、この余裕が、吸着可能な距離に設定されていることで、加熱による変形によってシートSが外れた場合にもシート下側支持面124aによって受けられることで再吸着が容易であり、位置ズレを生じにくくすることが可能である。
【0050】
また、受板124に位置決めピン123が設けられ、シートSに設けられた短辺長孔S1及び長辺長孔S2に位置決めピン123が貫通することで、シートSは保持装置120に対して位置決めされる。したがって、シートSが熱膨張しても、位置ズレを抑えることが可能となる。
【0051】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態の熱成形装置100の構成の概略について説明をする。第4実施形態は第1実施形態とほぼ同じ構成だが、成形に用いるシートSの構成が異なるので、以下に、図を用いて説明するなお、第1実施形態と同じ機能の構成については同じ符号を用いて説明している。
【0052】
図9に、第4実施形態の、下側支持部122の平面図を示す。第1実施形態との違いは、シートSに設けられる短辺長孔S1が1つ設けられ、短辺長孔S1の中心線の延長線上には位置決めピン123が貫通する孔が設けられる構成となっている点である。一方で、長辺長孔S2は2つ設けられている。即ち、シートSの膨張を片側基準で吸収する構成となっている。片側基準でシートSの熱膨張の影響を吸収する場合には、位置決めピン123が貫通する孔の近くに位置精度を要求する印刷部分がある場合に有効である。
【0053】
なお、
図9には短辺側に位置決めピン123が貫通する孔を設け、この孔を基準とする構成としているが、長辺側に位置決めピン123が貫通する孔を設ける構成でも良い。この場合は、短辺長孔S1は2つ設けられる構成となる。また、図示しないが、位置決め機構は位置決めピン123が貫通する孔を1つと、短辺長孔S1を1つ設けて、片側基準でシートSの熱膨張の影響を吸収する構成でも良い。この場合、必ずしも位置決めピン123が貫通する孔の中心と、短辺長孔S1の中心線が、シートSの中心に重なる必要はない。
【0054】
以上、本発明に係る熱成形装置100に関して第1実施形態から第4実施形態に説明をしたが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、シートSについて熱可塑性樹脂のポリカーボネートを用いている旨の記載をしているが、これに限定されるものではなく、他の素材を用いた厚手の板材に対して本発明を適用することを妨げない。例えば、厚手の発泡素材の成形などにも適用が可能である。また、上部熱板110や下部熱板150の温度設定についても、シートSの素材に合わせて適宜変更されるべきである。
【符号の説明】
【0055】
S シート
100 熱成形装置
110 上部熱板
120 保持装置
150 下部熱板
200 金型
【要約】
【課題】板厚のあるシートを用いて加熱成形する場合に、位置ズレなどが起きにくい熱成形装置の提供。
【解決手段】熱板によってシートSの加熱を行い、金型賦形する熱成形装置100において、熱板は、シートSの上方から加熱する上部熱板110と、シートSの下方から加熱する下部熱板150よりなり、上部熱板110の周囲に配置されてシートSの外周部を挟んで保持するための保持装置120を備えている。そして、保持装置120は、シートSの端部上面と対向してシートSの少なくとも周囲の浮き上がりを押さえるシート上側支持面121bと、シートSの端部下面をシートSの外周部にて支えるシート下側支持面124aを有し、シート上側支持面121bと、シート下側支持面124aとの距離は、シートSの厚みにシートSをシート上側支持面121bに接するように吸着可能な距離を加えた設定距離とされる。
【選択図】
図3