(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20231024BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20231024BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231024BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20231024BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
B01J35/04 301P
B01J35/04 301E
B01J35/04 301L
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 245
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2019092246
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】岩田 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 実
(72)【発明者】
【氏名】大石 隼輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健
(72)【発明者】
【氏名】垣花 大
(72)【発明者】
【氏名】神谷 諭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-058875(JP,A)
【文献】特開2017-039069(JP,A)
【文献】特開2019-058872(JP,A)
【文献】特開2004-052575(JP,A)
【文献】特表2018-532573(JP,A)
【文献】特開2015-188881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
F01N 3/00
3/02
3/04-3/38
9/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材に担持されている1種又は2種以上の触媒貴金属と、
前記基材表面のコート層と
を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記基材が、多孔質壁で区画された複数のセルを有し、
前記基材及び前記コート層が、それぞれ、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含み、
前記基材の前記複数のセルが、排ガス流れの上流端から下流端まで貫通しており
、
前記コート層が、前記基材の排ガス流れの下流端から基材長さの80%以下の長さで存在して
おり、
かつ、
前記基材の排ガス流れの上流側はコート層を有さない、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項2】
前記基材に含まれる前記セリア-ジルコニア複合酸化物粒子が、セリアとジルコニアとの固溶体の粒子であり、前記固溶体に更に希土類元素が固溶している、請求項1に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項3】
前記基材が、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子を更に含む、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項4】
前記コート層に含まれる前記セリア-ジルコニア複合酸化物粒子が、セリアとジルコニアとの固溶体の粒子であり、前記固溶体に更に希土類元素が固溶している、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項5】
前記コート層が、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項6】
前記コート層のコート量が、前記基材のうちの、前記コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たり、400g/L以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項7】
前記コート層が、触媒貴金属を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項8】
前記コート層に含まれる触媒貴金属と、前記基材に担持されている触媒貴金属とが、異なる種類のものである、請求項7に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項9】
前記コート層に含まれる触媒貴金属がロジウムであり、前記基材に担持されている触媒貴金属が白金及びパラジウムから選択される1種以上である、請求項8に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項10】
前記1種又は2種以上の触媒貴金属のうちの1種である、特定貴金属についての貴金属50質量%担持深さが、前記多孔質壁の表面から前記多孔質壁の内部の中心までの距離の50%未満であり、
前記貴金属50質量%担持深さは、前記多孔質壁の表面から前記多孔質壁の内部の中心までに担持されている前記特定貴金属の量を基準として、前記特定貴金属の50質量%が担持されている深さである、
請求項1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、排ガス浄化触媒装置では、コージェライト等で構成されたハニカム基材上に触媒コート層が形成されている。触媒コート層は、担体粒子、この担体粒子上に担持されている貴金属触媒粒子、及び助触媒粒子を含む。助触媒粒子の1種として、酸素貯蔵能(OSC能)を有するセリア-ジルコニア複合酸化物を用いることが知られている。セリア-ジルコニア複合酸化物は、流入する排ガス中の環境(酸素濃度)に応答して、酸素を吸収及び放出し、排ガス環境の変化を緩和して、排ガス浄化触媒装置による排ガス浄化を促進する機能を有する。
【0003】
近年、助触媒粒子のセリア-ジルコニア複合酸化物粒子を、触媒コート層中に配置するのではなく、ハニカム基材の構成材料の1種として用いることが検討されている。例えば、特許文献1は、ハニカム基材がセリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む、排ガス浄化触媒装置を開示している。この排ガス浄化触媒装置には、触媒コート層が存在しておらず、貴金属を含む溶液にハニカム基材を含浸させることによって、貴金属触媒粒子をハニカム基材に直接担持させている。
【0004】
このようなハニカム基材、及びこれを用いる排ガス浄化触媒装置は、特許文献2においても開示されている。
【0005】
なお、一般的なコージェライト等で構成されたハニカム基材に触媒コート層を形成するためのコーティング方法として、特許文献3及び4に記載のような方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-85241号公報
【文献】特開2015-77543号公報
【文献】特開2008-302304号公報
【文献】国際公開第2010/114132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示されたような排ガス浄化触媒装置は、触媒コート層が存在していないため熱容量が小さく、ハニカム基材の温度を上昇させ易いため、高い暖機性能を得ることができる。また、基材がセリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含有しているため、基材自体がOSC能を発現することが期待されている。
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によると、これらの排ガス浄化触媒装置では、所期のOSC能が発現されない場合のあることが明らかとなった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、高いOSC能を発現することができ、好ましくは高度の暖機性能も具備する、排ガス浄化触媒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
【0011】
《態様1》基材と、
上記基材に担持されている1種又は2種以上の触媒貴金属と、
上記基材表面のコート層と
を有する排ガス浄化触媒装置であって、
上記基材が、多孔質壁で区画された複数のセルを有し、
上記基材及び上記コート層が、それぞれ、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む、
排ガス浄化触媒装置。
《態様2》上記基材の上記複数のセルが、排ガス流れの上流端から下流端まで貫通している、態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様3》上記コート層が、上記基材の排ガス流れの下流端から基材長さの80%以下の長さで存在している、態様2に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様4》上記基材の上記複数のセルが、
排ガス流れの上流端が開口し下流端が封止されている入口側セルと、
排ガス流れの上流端が封止され下流端が開口している出口側セルと
を含み、
これによって上記入口側セルに流入した排ガスが上記多孔質壁を通過して出口側セルから排出されるように構成されている、
態様1に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様5》上記コート層が、上記基材のうちの上記入口側セルの表面に存在している、態様4に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様6》上記コート層のコート量が、上記基材のうちの、上記コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たり、400g/L以下である、態様1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様7》上記コート層が、触媒貴金属を含む、態様1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様8》上記コート層に含まれる触媒貴金属と、上記基材に担持されている触媒貴金属とが、異なる種類のものである、態様7に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様9》上記コート層に含まれる触媒貴金属がロジウムであり、上記基材に担持されている触媒貴金属が白金及びパラジウムから選択される1種以上である、態様8に記載の排ガス浄化触媒装置。
《態様10》上記1種又は2種以上の触媒貴金属のうちの1種である、特定貴金属についての貴金属50質量%担持深さが、上記多孔質壁の表面から上記多孔質壁の内部の中心までの距離の50%未満であり、
上記貴金属50質量%担持深さは、上記多孔質壁の表面から上記多孔質壁の内部の中心までに担持されている上記特定貴金属の量を基準として、上記特定貴金属の50質量%が担持されている深さである、
態様1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、所期のOSC能を確実に発現することができる。本発明の好ましい実施態様では、所期のOSC能が発現されるとともに、高度の暖機性能も具備する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の排ガス浄化触媒装置の一例の構造を説明するための概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の排ガス浄化触媒装置の別の一例の構造を説明するための概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図2における破線で囲った部分の拡大図である。
【
図4】
図4(a)、
図4(b)、及び
図4(c)は、比較例1、実施例1、及び実施例2でそれぞれ得られた排ガス浄化触媒装置の構成を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施例の排ガス浄化触媒装置のOSC能の評価において、試験温度400℃のときのCO
2排出量の経時変化を示すグラフである。
図5(a)は、排ガス浄化触媒装置全体のCO
2排出量のグラフであり;
図5(b)は、排ガス浄化触媒装置のCO
2排出量を、基材の寄与分とコート層の寄与分とに分離して示したグラフである。
【
図6】
図6は、実施例の排ガス浄化触媒装置のOSC能の評価において、試験温度500℃のときのCO
2排出量の経時変化を示すグラフである。
図6(a)は、排ガス浄化触媒装置全体のCO
2排出量のグラフであり;
図6(b)は、排ガス浄化触媒装置のCO
2排出量を、基材の寄与分とコート層の寄与分とに分離して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の排ガス浄化触媒装置は、
基材と、
基材に担持されている触媒貴金属と、
基材表面のコート層と
を有する排ガス浄化触媒装置であって、
基材が、多孔質壁で区画された複数のセルを有し、
基材及びコート層が、それぞれ、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含むものである。
【0015】
本発明者らは、排ガス浄化触媒装置において、基材の構成材料の1種として、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を用いた場合に、当該基材が所期のOSC能を発現しない場合があることの原因について検討した。その結果、このような排ガス浄化触媒装置では、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子がもともと有していたOSC能が減少したのではなく、装置に流入する排ガスの環境(酸素濃度)が変化したときの、酸素吸収及び放出のレスポンスが遅いのではないかとの考えに至った。この考えによると、基材は、酸素の吸収及び放出の速度は遅くなっているが、酸素吸蔵及び放出の量は損なわれておらず、潜在的なOSC能は維持していることになる。
【0016】
酸素吸収及び放出のレスポンスが遅くなったのは、例えば、基材の構成材料が、基材製造の過程において、高温で焼結されたために、比表面積の減少、結晶構造の変化、他の構成材料との固溶等の1つ以上が起こったことによると推察される。
【0017】
そこで、本発明の排ガス浄化触媒装置では、基材の構成材料の1種として、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を用いた排ガス浄化触媒装置において、基材表面に、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含むコート層を設け、基材自体が有するOSC能をアシストすることにした。
【0018】
この構成によると、排ガス浄化触媒装置に流入する排ガスの環境が変化したとき、コート層中のセリア-ジルコニア複合酸化物粒子が即応して、酸素の吸収又は放出を行う。そして、この環境が持続されると、基材中のセリア-ジルコニア複合酸化物粒子による潜在的なOSC能が機能して、排ガス浄化に過剰な量の酸素は吸収され、又は、排ガス浄化に必要な量の酸素が放出されて、排ガス浄化触媒装置の排ガス浄化が促進されることになる。
【0019】
以下、本発明の排ガス浄化触媒装置の各要素について、順に説明する。
【0020】
〈基材〉
本発明の排ガス浄化触媒装置における基材は、多孔質壁で区画された複数のセルを有し、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む。
【0021】
本発明の排ガス浄化触媒装置における基材は、多孔質壁で区画された複数のセルを有する。この基材は、これら複数のセルが、排ガス流れの上流端から下流端まで基材の長さ方向に貫通している、ストレートフロー型のハニカム基材であってもよいし、複数のセルが、排ガス流れの上流端が開口し下流端が封止されている入口側セルと、排ガス流れの上流端が封止され下流端が開口している出口側セルとを含み、この構成によって、入口側セルに流入した排ガスが、多孔質壁を通過して出口側セルから排出されるように構成されている、ウォールフロー型のハニカム基材であってもよい。
【0022】
基材は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む。このセリア-ジルコニア複合残化物粒子は、セリアとジルコニアとの固溶体の粒子であってよく、この固溶体は、セリア及びジルコニアの他に、更に希土類元素(例えば、ランタン(La)、イットリウム(Y)等)が固溶していてもよい。
【0023】
基材は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子のみから成っていてもよいし、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外に、その他の成分を含んでいてよい。このその他の成分は、例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子、バインダー等であってよい。
【0024】
セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子は、例えば、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタニウム、タングステン等から選択される1種又は2種以上の元素を含む酸化物粒子であってよく、特に、アルミナ粒子であってよい。
【0025】
バインダーは、無機バインダーであってよく、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル等であってよい。
【0026】
基材に含まれるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子の割合は、基材の全質量に対するセリア-ジルコニア複合酸化物粒子の質量の割合として、例えば、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、又は70質量%以上であってよく、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下であってよい。
【0027】
基材の容量は、適用が想定される内燃機関の排気量等に応じて適宜に設定されてよいが、例えば、500mL以上、600mL以上、800mL以上、1,000mL以上、又は1,500mL以上であってよく、例えば、3,000mL以下、2,500mL以下、2,000mL以下、1,500mL以下、又は1,200mL以下であってよい。
【0028】
〈触媒貴金属〉
本発明の排ガス浄化触媒装置は、基材に担持されている1種又は2種以上の触媒貴金属を有する。
【0029】
触媒貴金属は、例えば白金族貴金属であってよく、特に、白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種、2種、又は3種であってよい。
【0030】
本発明の排ガス浄化触媒装置では、触媒貴金属が白金を含むとき、白金の量は、基材容量1L当たりの金属白金換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.02g/L以上、0.05g/L以上、0.07g/L以上、又は0.08g/Lであってよく、例えば、1.0g/L以下、0.8g/L以下、0.6g/L以下、0.4g/L以下、又は0.2g/L以下であってよい。
【0031】
触媒貴金属がパラジウムを含むとき、パラジウムの量は、基材容量1L当たりの金属パラジウム換算質量として、例えば、0.5g/L以上、1.0g/L以上、1.5g/L以上、2.0g/L以上、2.5g/L以上、又は3.0g/L以上であってよく、例えば、10.0g/L以下、8.0g/L以下、6.0g/L以下、5.0g/L以下、又は4.0g/L以下であってよい。
【0032】
触媒貴金属がロジウムを含むとき、ロジウムの量は、基材容量1L当たりの金属ロジウム換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.05g/L以上、0.10g/L以上、又は0.15g/L以上であってよく、例えば、0.50g/L以下、0.40g/L以下、0.35g/L以下、0.30g/L以下であってよい。
【0033】
本発明の排ガス浄化触媒装置では、触媒貴金属として、白金若しくはパラジウムを含んでいてよく、又は、白金若しくはパラジウムと、ロジウムとを含んでいてよい。
【0034】
本発明の排ガス浄化触媒装置では、触媒貴金属は基材の多孔質壁の厚み方向に均一に担持されていてよい。しかしながら、触媒貴金属のうちの1種である、特定貴金属についての貴金属50質量%担持深さが、多孔質壁の表面から多孔質壁の内部の中心までの距離の50%未満であってもよい。ここで、貴金属50質量%担持深さとは、多孔質壁の表面から多孔質壁の内部の中心までに担持されている特定貴金属の量を基準として、特定貴金属の50質量%が担持されている深さである。
【0035】
この要件は、触媒貴金属のうちの少なくとも1種が、基材の多孔質壁の表面近傍に局在して担持されていることを示す。このことにより、本発明の排ガス浄化触媒装置に流入する排ガスと、当該特定貴金属とが接触し易くなり、当該特定貴金属による排ガス浄化の効率が向上することが期待される。
【0036】
より多くの特定貴金属を多孔質壁の表面付近に局在させ、当該特定貴金属による排ガス浄化の効率を高くするとの観点からは、貴金属50質量%担持深さは、浅いほどよいと考えられる。一方で、多孔質壁の内部に存在するセリア-ジルコニア複合酸化物粒子のOSC能を、特定貴金属に享受させるとの観点からは、貴金属50質量%担持深さが過度に浅いことは好ましくない。
【0037】
したがって、特定貴金属についての貴金属50質量%担持深さは、上記の要請をバランスよく両立させる範囲で設定されるべきである。この観点から、特定貴金属についての貴金属50質量%担持深さは、多孔質壁の表面から多孔質壁の内部の中心までの距離の、12%以上であり、又は、例えば、14%以上、16%以上、17%以上、18%以上、若しくは20%以上であってよく、40%以下であり、又は、例えば、35%以下、30%以下、25%以下、若しくは20%以下であってよい。
【0038】
特定貴金属は、白金、パラジウム、又はロジウムであってよく、更に、白金又はパラジウムであってよい。本発明の排ガス浄化触媒装置において、特に好ましくは、特定貴金属が白金又はパラジウムであり、かつ、特定貴金属以外の触媒貴金属として、ロジウムを含む場合である。
【0039】
〈コート層〉
本発明の排ガス浄化触媒装置は、基材表面にコート層を有する。このコート層は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含むものである。
【0040】
本発明の排ガス浄化触媒装置におけるコート層は、本発明の好ましい態様によると、高温焼成による焼結の過程を経ずに形成されたものであってよい。このコート層は、具体的には、例えば、900℃超、800℃超、700℃超、又は600℃超の温度における熱処理を経由せずに形成されたものであってよい。このようなコート層は、装置に流入する排ガスの環境(酸素濃度)が変化したときの、酸素吸収及び放出のレスポンスが速く、基材が有するOSC能をアシストする機能を有する。
【0041】
コート層は、基材のOSC能をアシストするために、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む。このセリア-ジルコニア複合酸化物粒子については、基材に含まれるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子について上述した説明をそのまま援用できる。
【0042】
コート層は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子のみから成っていてもよいし、その他の成分を含んでいてよい。その他の成分は、例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化粒子、触媒貴金属、バインダー等であってよい。
【0043】
セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子は、例えば、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、チタニウム、タングステン等から選択される1種又は2種以上の元素を含む酸化物粒子であってよく、特に、アルミナ粒子であってよい。
【0044】
コート層は、触媒貴金属を含んでいてよい。この触媒貴金属は、例えば白金族貴金属であってよく、特に、白金、パラジウム、及びロジウムから選択される1種、2種、又は3種であってよい。
【0045】
コート層が白金を含むとき、白金の量は、基材のうちの、コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たりの金属白金換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.02g/L以上、0.05g/L以上、0.07g/L以上、又は0.08g/Lであってよく、例えば、1.0g/L以下、0.8g/L以下、0.6g/L以下、0.4g/L以下、又は0.2g/L以下であってよい。
【0046】
コート層がパラジウムを含むとき、パラジウムの量は、基材のうちの、コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たりの金属パラジウム換算質量として、例えば、0.5g/L以上、1.0g/L以上、1.5g/L以上、2.0g/L以上、2.5g/L以上、又は3.0g/L以上であってよく、例えば、10.0g/L以下、8.0g/L以下、6.0g/L以下、5.0g/L以下、又は4.0g/L以下であってよい。
【0047】
コート層がロジウムを含むとき、ロジウムの量は、基材のうちの、コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たりの金属ロジウム換算質量として、例えば、0.01g/L以上、0.05g/L以上、0.10g/L以上、又は0.15g/L以上であってよく、例えば、0.50g/L以下、0.40g/L以下、0.35g/L以下、0.30g/L以下であってよい。
【0048】
コート層に含まれる触媒貴金属は、基材に担持されている触媒貴金属と、同じ種類物もであってよく、又は異なる種類のものであってよい。例えば、コート層に含まれる触媒貴金属がロジウムであり、基材に担持されている触媒貴金属が白金及びパラジウムから選択される1種以上である場合が例示できる。
【0049】
コート層に含まれる触媒貴金属は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子、及びセリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化粒子から選択される1種以上に担持されていてよい。
【0050】
コート層に含まれるバインダーは、無機バインダーであってよく、例えば、アルミナゾル、チタニアゾル等であってよい。
【0051】
基材に含まれるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子の割合は、基材の全質量に対するセリア-ジルコニア複合酸化物粒子の質量の割合として、例えば、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、又は70質量%以上であってよく、100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下であってよい。
【0052】
コート層の組成は、基材の組成と同じであってもよいし、相違していてもよい。
【0053】
「基材表面のコート層」とは、コート層が、基材表面上に存在する場合と、基材内に存在する場合との双方を包含する概念である。すなわち、コート層は、基材の多孔質壁に侵入せず、基材表面上に存在していてもよいし、若しくは、基材の多孔質壁に侵入して、基材内に存在していてもよいし、又は、基材表面上及び基材内の双方に存在していてもよい。また、コート層は複数存在していてもよく、これら複数のコート層は、基材の同じ位置に積層されて存在していてもよいし、基材の異なる位置に存在していてもよい。
【0054】
基材の有する高い暖機性能をできるだけ阻害しないために、コート層は必要最小限の量及び長さにとどめ、基材の少なくとも一部は、コート層を有さないことが好ましい。
【0055】
この観点から、ストレートフロー型の基材のときには、基材のうち、高温の排ガスと最初に接触する排ガス流れの上流側にコート層を設けずに、排ガス浄化触媒装置の暖機性を確保したうえで、下流側にコート層を存在させ、当該コート層によってアシストされたOSC能により高効率の排ガス浄化を図ることが好ましい。
【0056】
この場合、コート層は、基材の排ガス流れの下流端から、基材長さの、例えば、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、又は40%以下の長さで存在していてよい。一方で、コート層の効果を有効に発現するために、コート層は、基材の排ガス流れの下流端から、基材長さの、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上の長さで存在していてよい。
【0057】
ストレートフロー型の基材の下流側のコート層は、基材上に存在していてもよいし、基材内に存在していてもよい。
【0058】
一方、ウォールフロー型の基材のときには、基材のうち、流入する排ガスとの接触確率の高い、入口側セルの表面にコート層を存在させる方が効率的である。この場合、コート層は、基材の排ガス流れの上流端から、基材長さの、例えば、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、又は50%以下の長さで存在していてよく、例えば、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、又は60%以上の長さで存在していてよい。
【0059】
ウォールフロー型の基材の入口側セルのコート層は、基材上に存在していてもよいし、基材内に存在していてもよい。
【0060】
基材の暖機性をできるだけ損なわないとの観点から、コート層のコート量は、基材のうちの、コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たり、400g/L以下、350g/L以下、300g/L以下、250g/L以下、又は200g/L以下であってよい。一方で、コート層の効果を有効に享受するとの観点から、コート層のコート量は、基材のうちの、コート層を有する領域に相当する部分の容量1L当たり、50g/L以上、75g/L以上、100g/L以上、125g/L以上、150g/L以上、175g/L以上であってよい。
【0061】
〈排ガス浄化触媒装置の実施態様〉
以下、図面を参照しつつ、本発明の排ガス浄化触媒装置の実施態様について説明する。ただし、本発明の排ガス浄化触媒装置は、以下に記載の実施態様に限定されるものではない。
【0062】
図1は、本発明の排ガス浄化触媒装置の一例の構造を説明するための概略断面図である。
【0063】
図1の排ガス浄化触媒装置(100)は、基材(10)と、基材(10)表面のコート層(15)とを有する。基材(10)は、多孔質壁(11)で区画されたセル(12)を有し、かつ、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子(CZ)を含む。
【0064】
基材(10)は、セル(12)が、排ガス流れの上流端から下流端まで基材(10)の長さ方向に貫通している、ストレートフロー型のハニカム基材である。この基材(10)の多孔質壁(11)には、厚み方向に均一に触媒貴金属(PGM)が担持されている。
【0065】
排ガス浄化触媒装置(100)のコート層(15)は、基材(10)の多孔質壁(11)の表面上に形成されており、基材(10)の排ガス流れ上流端から基材(10)と同じ長さを有している。コート層(15)は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子(CZ)を含み、更に、触媒貴金属(PGM)を有していてもよい。
【0066】
図2は、本発明の排ガス浄化触媒装置の別の一例の構造を説明するための概略断面図である。
図3は、
図2において破線で囲った部分の拡大図である。
【0067】
図2の排ガス浄化触媒装置(200)は、基材(20)と、基材(20)表面のコート層(25)とを有する。
図2の排ガス浄化触媒装置(200)における基材(20)は、多孔質壁(21)で区画されたセル(22)を有すること、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子(CZ)を含むこと、及びセル(12)が排ガス流れの上流端から下流端まで基材(20)の長さ方向に貫通している、ストレートフロー型のハニカム基材であることについては、
図1の排ガス浄化触媒装置(100)の場合と同様である。
【0068】
しかしながら、
図3を参照すると、排ガス浄化触媒装置(200)では、触媒貴金属(PGM)が、基材(20)の多孔質壁(21)の表面近傍に局在して担持されている。
【0069】
排ガス浄化触媒装置(200)のコート層(25)は、基材(20)の多孔質壁(21)の表面上に形成されており、基材(20)の排ガス流れ下流端から基材(20)の約半分の長さを有している。コート層(25)は、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子(CZ)を含み、更に、触媒貴金属(PGM)を有していてもよい。
【0070】
《排ガス浄化触媒装置の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒装置は、例えば、
基材と、
基材に担持されている1種又は2種以上の触媒貴金属と、
上記基材表面のコート層と
を有する排ガス浄化触媒装置の製造方法であって、
基材として、
多孔質壁で区画された複数のセルを有し、かつ、
セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む
基材を用い、下記の工程(1)及び(2)をこの順で行う方法(第1の製造方法)によって製造されてよい。
【0071】
(1)基材に、触媒貴金属を担持すること、及び
(2)触媒貴金属を担持した後の基材表面に、コート層を形成すること。
【0072】
基材は、所望の排ガス浄化触媒装置における基材に応じて、適宜選択して用いてよい。したがって、多孔質壁で区画された複数のセルを有し、かつ、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含む、ストレートフロー型又はウォールフロー型の基材であってよい。
【0073】
工程(1)では、基材に、触媒貴金属を担持する。ここでは、基材の多孔質壁の厚み方向に比較的均一に、触媒貴金属を担持する方法と、基材の表面近傍に局在させて、触媒貴金属を担持する方法と、について、順に説明する。
【0074】
基材の多孔質壁の厚み方向に比較的均一に触媒貴金属を担持することは、例えば、媒貴金属の前駆体を含む、触媒貴金属担持用塗工液中に基材を浸漬し、次いで焼成する方法によって行われてよい。この方法によると、触媒貴金属の前駆体が基材多孔質壁の内部まで浸透し、浸透位置で焼成されて触媒貴金属に変換されるため、触媒貴金属が基材の多孔質壁の内部までの広い深さ範囲で担持されることになる。
【0075】
ここで用いられる触媒貴金属担持用塗工液は、少なくとも触媒貴金属の前駆体を含む、例えば水溶液であってよい。触媒貴金属担持用塗工液は、必要に応じて、増粘剤等を、更に含んでいてもよい。しかしながら触媒貴金属担持用塗工液は、無機酸化物担体粒子を含有しなくてもよい。
【0076】
触媒貴金属の前駆体は、例えば、触媒貴金属の強酸塩であってよく、特に、触媒貴金属の硝酸塩、硫酸塩等であってよい。
【0077】
増粘剤としては、後述の触媒貴金属表面局在化用塗工液に含まれる増粘剤と同種のものを、含有量を適宜調整したうえで、使用してよい。
【0078】
浸漬条件を適宜に変更することにより、触媒貴金属の前駆体が基材多孔質壁の内部まで浸透する程度を調節することができる。浸漬条件として、例えば、塗工液の粘度及び温度、浸漬時間、浸漬圧力等が例示できる。
【0079】
基材を触媒貴金属担持用塗工液中に浸漬させた後、焼成することにより、触媒貴金属の前駆体は触媒貴金属に変換されて担持される。
【0080】
浸漬後、焼成前に、基材上から余分の塗工液を除去するために、圧縮ガス(圧縮空気)による吹き飛ばし、真空吸引、遠心除去等の操作を行ってよい。更に、基材の乾燥を行ってもよい。これらの操作は、定法に準じて行ってよい。焼成は、適宜の条件で行ってよいが、例えば、400℃以上1,000℃以下、30分以上~12時間以下の条件を例示できる。
【0081】
基材の表面近傍に局在させて触媒貴金属を担持することは、例えば、基材上に、触媒貴金属のうちの1種である特定貴金属の前駆体、及び増粘剤を含む、触媒貴金属表面局在化用塗工液をコートし、次いで焼成する方法によって行われてよい。この方法によると、触媒貴金属の前駆体の基材の多孔質壁内への浸透は、多孔質壁の表面近傍に留まり、この浸透位置で焼成されて触媒貴金属に変換されるため、触媒貴金属が基材の多孔質壁の表面近傍に担持されることになる。
【0082】
触媒貴金属表面局在化用塗工液は、少なくとも触媒貴金属の前駆体、及び増粘剤を含む、例えば水溶液であってよい。触媒貴金属表面局在化用塗工液は、無機酸化物担体粒子を含有しなくてもよい。
【0083】
触媒貴金属表面局在化用塗工液に含まれる触媒貴金属の前駆体は、触媒貴金属浸担持塗工液に含まれる前駆体として上述したものから適宜に選択して使用してよい。
【0084】
増粘剤は、例えば水溶性高分子、セルロース誘導体、多糖類等であってよい。水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等であってよい。セルロース誘導体は、例えば、ヒドロキシルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等であってよい。多糖類は、例えば、ペクチン、キサンタンガム、グアーガム等であってよい。
【0085】
触媒貴金属表面局在化用塗工液は、増粘剤の配合によって向上された粘度を有することとなり、基材上にコートしたときの多孔質壁へ浸み込む程度が調整され、これにより、触媒貴金属について所望の貴金属50質量%担持深さを実現することができる。
【0086】
触媒貴金属表面局在化用塗工液のせん断速度380s-1における粘度は、例えば、10mPa以上、50mPa以上、又は100mPa以上であってよく、例えば、400mPa以下、300mPa以下、又は200mPa以下であってよい。せん断速度380s-1における塗工液の粘度は、市販のコーンプレート型粘度計(例えば、東機産業(株)製、型名「TV-33型粘度計」等)を用いて、1°34’×R24の円錐平板型のコーンを使用し、回転数を1~100rpmの範囲で変更しつつ、25℃において測定されてよい。
【0087】
基材上への触媒貴金属表面局在化用塗工液のコートは、例えば、以下のいずれかの方法によって行われてよい:
基材の一方の開口側から、触媒貴金属表面局在化用塗工液を提供し、次いで、
提供された触媒貴金属表面局在化用塗工液を、塗工液提供側とは反対側の基材開口側から吸引すること(第1のコート方法)、又は
基材の一方の開口側から、触媒貴金属表面局在化用塗工液を提供し、次いで、
提供された触媒貴金属表面局在化用塗工液を、塗工液提供側の基材開口側から圧送すること(第2のコート方法)。
【0088】
基材上に触媒貴金属表面局在化用塗工液をコートした後、焼成することにより、触媒貴金属の前駆体は触媒貴金属に変換されて担持される。コート後、焼成前に、塗工液の除去、基材の乾燥等を行ってもよい。これらの操作は、基材の多孔質壁の厚み方向に均一に触媒貴金属を担持する場合と同様に行ってよい。
【0089】
以上のようにして触媒貴金属を担持した後の基材表面に、工程(2)において、コート層を形成する。
【0090】
工程(2)におけるコート層の形成は、例えば、基材上にコート層形成用塗工液をコートし、次いで焼成する方法によって行われてよい。
【0091】
コート層形成用塗工液は、例えば、少なくともセリア-ジルコニア複合酸化物粒子を含み、目的の排ガス浄化触媒装置の工程に応じて、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子、増粘剤、バインダー、触媒貴金属の前駆体等を、更に含んでいてもよい。
【0092】
コート層形成用塗工液に含まれるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子、及びセリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子については、基材に含まれるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子、及びセリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子について上述した説明をそのまま援用できる。
【0093】
増粘剤、バインダー、及び触媒貴金属の前駆体は、それぞれ、触媒貴金属担持用塗工液又は触媒貴金属表面局在化用塗工液中の成分と同じ種類のものを、含有量を適宜調整のうえ、使用してよい。
【0094】
セリア-ジルコニア複合酸化物粒子、セリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子、及び触媒貴金属の前駆体は、それぞれ、目的の排ガス浄化触媒装置のコート層の組成に応じて、種類が選択され、含有量が調整されてよい。
【0095】
基材上へのコート層形成用塗工液のコートは、例えば、触媒貴金属表面局在化用塗工液のコートと同様の、第1のコート方法又は第2のコート方法によって行われてよい。
【0096】
次いで、必要に応じて塗膜を乾燥した後、焼成することにより、基材上にコート層が形成される。乾燥及び焼成は、定法にしたがって行われてよい。ただし、焼成については、コート層中のセリア-ジルコニア複合酸化物粒子が、高温で焼結され、酸素の吸収及び放出のレスポンスの迅速を損なうことを避けるため、例えば、700℃以下、650℃以下、600℃以下、550℃以下、又は500℃以下の温度で行われてよい。焼成の効果を有効に得るためには、焼成温度は、例えば、400℃以上、450℃以上、500℃以上、又は550℃以上であってよい。焼成時間は、例えば、30分以上、24時間以下であってよい。
【0097】
ここで、コート層を、基材表面上に形成するか、基材内に形成するかは、コート層形成用塗工液の成分、コート条件等を適宜に調整することにより、選択できる。
【0098】
例えば、コート層形成用塗工液に含まれるセリア-ジルコニア複合酸化物粒子、及びセリア-ジルコニア複合酸化物粒子以外の無機酸化物粒子の粒子径が、基材多項質壁の平均細孔径よりも大きいと、コート層は、基材表面上に形成される傾向にあり;
これら粒子の粒子径が、基材多項質壁の平均細孔径よりも小さいと、コート層は、基材内に形成される傾向にある。
【0099】
また、コート層形成用塗工液の粘度が高いと、コート層は、基材表面上に形成される傾向にあり;
コート層形成用塗工液の粘度が低いと、コート層は、基材内に形成される傾向にある。
【0100】
更に、基材上にコート層形成用塗工液を塗工した後、焼成までの待機時間が長いと、コート層は、基材内に形成される傾向にある。
【実施例】
【0101】
以下の実施例等におけるガス濃度の単位は、いずれも、体積基準の値である。
【0102】
《基材》
以下の実施例及び比較例において、基材としては、ストレートフロー型の基材を用いた。この基材は、セリア換算重量21重量%及びジルコニア換算重量25重量%でセリア-ジルコニア複合酸化物を含む、セリア-ジルコニア系(CZ系)のモノリス型ハニカム基材であり、基材のサイズは、以下のとおりであった。
直径:117mm
長さ:80mm
容量:860mL
セル数400セル/inch2
セル形状:正方形
多孔質壁の厚み:120μm
【0103】
《比較例1》
金属パラジウム換算0.602g(基材容量1L当たり0.70g/L)の硝酸パラジウム及び金属ロジウム換算0.258g(同0.30g/L)相当の硝酸ロジウムを含む水溶液中に、基材を1時間浸漬した。浸漬後の基材を乾燥し、更に電気炉中、500℃において1時間焼成して、基材の多孔質壁中にパラジウム及びロジウムを担持することにより、比較例1の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0104】
比較例1で得られた排ガス浄化触媒装置の構成を示す概略断面図を、
図4(a)に示す。
【0105】
《実施例1》
(1)基材多孔質壁への貴金属の担持
金属パラジウム換算0.602g(基材容量1L当たり0.70g/L)の硝酸パラジウムを含む水溶液(触媒貴金属担持用塗工液)中に、基材を1時間浸漬した。浸漬後の基材を乾燥し、更に電気炉中、500℃において1時間焼成することにより、基材の多孔質壁中にパラジウムを担持させた。
【0106】
(2)排ガス浄化触媒装置の製造
(i)コート層形成用塗工液の調製
基材と同じ組成となるように、セリア-ジルコニア複合酸化物を含む材料86.0g(基材容量1L当たり100g/L)を混合した。得られた混合物に、金属ロジウム換算0.258g(同0.30g/L)相当の硝酸ロジウムを含む水溶液、及びバインダーとしてアルミナゾルを加えて、湿式粉砕することにより、コート層形成用塗工液を調製した。
【0107】
(ii)コート層の形成
多孔質壁中にパラジウムを担持させた基材上に、コート層形成用塗工液の全量を、基材長さの全部にわたってコートした。コート後の基材を乾燥し、更に電気炉中、500℃において1時間焼成して、基材表面にコート層を形成することにより、実施例1の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0108】
得られた排ガス浄化触媒装置のコート層のコート量及びロジウム量は、基材のうちのコート層を有する領域の容量1L当たり、それぞれ、100.3g/L及び0.30g/Lであった。
【0109】
実施例1で得られた排ガス浄化触媒装置の構成を示す概略断面図を、
図4(b)に示す。
【0110】
《実施例2》
(1)基材多孔質壁への貴金属の担持
実施例1と同様に、基材の多孔質壁中にパラジウムを担持させた。
【0111】
(2)排ガス浄化触媒装置の製造
多孔質壁中にパラジウムを担持させた基材上に、実施例1と同様に調製したコート層形成用塗工液の全量を、基材の排ガス流れ下流側から基材長さの50%の範囲にコートした。コート後の基材を乾燥し、更に電気炉中、500℃において1時間焼成して、基材表面にコート層を形成することにより、実施例2の排ガス浄化触媒装置を製造した。
【0112】
得られた排ガス浄化触媒装置のコート層のコート量及びロジウム量は、基材のうちのコート層を有する領域の容量1L当たり、それぞれ、200.6g/L及び0.60g/Lであった。
【0113】
実施例2で得られた排ガス浄化触媒装置の構成を示す概略断面図を、
図4(c)に示す。
【0114】
《OSC能の評価》
上記比較例1並びに実施例1及び2で得られた排ガス浄化触媒装置を、(株)堀場製作所製のガス分析装置に接続し、400℃において、前処理ガス(H21%+N2バランス)を、流量35L/分にて5分間流通させた後、400℃及び500℃の2水準の試験温度において、それぞれ、表1に示したステップ1~7のモデルガスを連続して順次に流した。
【0115】
【0116】
排ガス浄化触媒装置から排出されるガスの組成を経時的に評価し、ステップ7(CO2%)におけるCO2排出量を調べ、これを各排ガス浄化触媒装置のOSC能の指標とした。
【0117】
試験温度400℃のときの結果を表2に、500℃のときの結果を表3に、それぞれ示す。ここで、初期OSC量とは、ステップ7の開始から20秒間のCO2排出量の積算値であり、総OSC量とは、ステップ7の開始から600秒間のCO2排出量の積算値である。
【0118】
【0119】
【0120】
また、ステップ7の開始から40秒間のCO
2排出量の経時変化を、
図5及び
図6に示す。
図5(a)及び(b)は試験温度400℃のときのグラフであり、
図6(a)及び(b)は500℃のときのグラフである。ここで、
図5(a)及び
図6(a)は、それぞれ、ステップ7の開始から40秒間のCO
2排出量の経時変化(OSC能)を直接示したグラフであり、
図5(b)及び
図6(b)は、それぞれ、各触媒装置のOSC能を、基材の寄与分とコート層の寄与分とに分離して示したグラフである。
【0121】
以上の結果によると、OSC材料を含む基材は、一定のOSC能を示すものの、初期OSC量には一定の限界があることが分かった。これに対して、当該基材上にOSC材料を含むコート層を設けた実施例1及び2の排ガス浄化触媒装置では、初期OSC量及び総OSC量の双方、特に初期OSC量が向上した。特に、
図5(b)及び
図6(b)を参照すると、OSC材料を含むコート層は、初期OSC量の向上に寄与していることが分かった。
【0122】
これらのことから、本発明の排ガス浄化触媒装置は、例えば、空燃比、空間速度等の変動が見込まれる実走環境下の自動車等の排ガスを浄化する際に、排ガス環境の変動を迅速にかつ効果的に緩和して、実効的な排ガス浄化が可能であることが期待される。
【符号の説明】
【0123】
10、20 基材
11、21 多孔質壁
12、22 セル
15、25 コート層
100、200 排ガス浄化触媒装置
CZ セリア-ジルコニア複合酸化物粒子
PGM 触媒貴金属