IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SCREENホールディングスの特許一覧

<>
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図1
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図2
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図3
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図4
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図5
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図6
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図7
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図8
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図9
  • 特許-熱処理方法および熱処理装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】熱処理方法および熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/26 20060101AFI20231024BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01L21/26 T
H01L21/68 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019131607
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2021018995
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大森 麻央
(72)【発明者】
【氏名】野崎 仁秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 禎朗
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148201(JP,A)
【文献】特表2018-536284(JP,A)
【文献】特開2010-238804(JP,A)
【文献】特開2019-149526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/26
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
チャンバー内に基板を収容する収容工程と、
連続点灯ランプから光を照射して前記基板を予備加熱温度に加熱する予備加熱工程と、
フラッシュランプから前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュ光照射工程と、
前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定する温度測定工程と、
前記温度測定工程にて測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定工程と、
前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定工程と、
を備え
前記温度測定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を測定し、
前記算定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、
前記判定工程では、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、または、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理方法において、
前記温度測定工程では、前記フラッシュ光の照射開始から前記連続点灯ランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定することを特徴とする熱処理方法。
【請求項3】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
チャンバー内に基板を収容する収容工程と、
連続点灯ランプから光を照射して前記基板を予備加熱温度に加熱する予備加熱工程と、
フラッシュランプから前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュ光照射工程と、
前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定する温度測定工程と、
前記温度測定工程にて測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定工程と、
前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定工程と、
を備え
前記温度測定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を測定し、
前記算定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、
前記判定工程では、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、および、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする熱処理方法。
【請求項4】
請求項記載の熱処理方法において、
前記温度測定工程では、前記フラッシュ光の照射開始から前記フラッシュランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定することを特徴とする熱処理方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれかに記載の熱処理方法において、
前記判定工程にて前記基板が割れていると判定されたときに、前記チャンバーに対する給気および排気を停止することを特徴とする熱処理方法。
【請求項6】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて基板を保持するサセプタと、
前記サセプタに保持された前記基板に光を照射して予備加熱温度に加熱する連続点灯ランプと、
前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュランプと、
前記基板の温度を測定する放射温度計と、
前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間に前記放射温度計によって測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定部と、
前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定部と、
を備え
前記放射温度計は、前記基板の表面の温度を測定する表面放射温度計および前記基板の裏面の温度を測定する裏面放射温度計を含み、
前記算定部は、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、
前記判定部は、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、または、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする熱処理装置。
【請求項7】
請求項記載の熱処理装置において、
前記算定部は、前記フラッシュ光の照射開始から前記連続点灯ランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間に測定された前記基板の温度を積算することを特徴とする熱処理装置。
【請求項8】
基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内にて基板を保持するサセプタと、
前記サセプタに保持された前記基板に光を照射して予備加熱温度に加熱する連続点灯ランプと、
前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュランプと、
前記基板の温度を測定する放射温度計と、
前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間に前記放射温度計によって測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定部と、
前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定部と、
を備え
前記放射温度計は、前記基板の表面の温度を測定する表面放射温度計および前記基板の裏面の温度を測定する裏面放射温度計を含み、
前記算定部は、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、
前記判定部は、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、および、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする熱処理装置。
【請求項9】
請求項記載の熱処理装置において、
前記算定部は、前記フラッシュ光の照射開始から前記フラッシュランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間に測定された前記基板の温度を積算することを特徴とする熱処理装置。
【請求項10】
請求項から請求項のいずれかに記載の熱処理装置において、
前記判定部が前記基板が割れていると判定したときに、前記チャンバーに対する給気および排気を停止することを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法および熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、不純物導入は半導体ウェハー内にpn接合を形成するための必須の工程である。現在、不純物導入は、イオン打ち込み法とその後のアニール法によってなされるのが一般的である。イオン打ち込み法は、ボロン(B)、ヒ素(As)、リン(P)といった不純物の元素をイオン化させて高加速電圧で半導体ウェハーに衝突させて物理的に不純物注入を行う技術である。注入された不純物はアニール処理によって活性化される。この際に、アニール時間が数秒程度以上であると、打ち込まれた不純物が熱によって深く拡散し、その結果接合深さが要求よりも深くなり過ぎて良好なデバイス形成に支障が生じるおそれがある。
【0003】
そこで、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するアニール技術として、近年フラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、不純物が注入された半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0004】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。このため、キセノンフラッシュランプによる極短時間の昇温であれば、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
このようなフラッシュランプを使用した熱処理装置においては、極めて高いエネルギーを有するフラッシュ光を瞬間的に半導体ウェハーの表面に照射するため、一瞬で半導体ウェハーの表面温度が急速に上昇する一方で裏面温度はそれ程には上昇しない。このため、半導体ウェハーの表面のみに急激な熱膨張が生じて半導体ウェハーが上面を凸として反るように変形する。そして、次の瞬間には反動で半導体ウェハーが下面を凸として反るように変形していた。
【0006】
半導体ウェハーが上面を凸とするように変形したときには、ウェハーの端縁部がサセプタに衝突する。逆に、半導体ウェハーが下面を凸とするように変形したときには、ウェハーの中央部がサセプタに衝突することとなっていた。その結果、サセプタに衝突した衝撃によって半導体ウェハーが割れるという問題があった。
【0007】
半導体ウェハーが割れた状態で大流量のガスを供給して冷却処理を行うと、パーティクルの増加および拡散が生じて他の半導体ウェハーを汚染するおそれがある。また、半導体ウェハーが割れた状態で雰囲気置換のためにチャンバー内を減圧すると、破片に由来するパーティクルを真空ポンプが巻き込んで故障することがある。
【0008】
このため、フラッシュ加熱時にウェハー割れが生じたときには、その割れを迅速に検出して後続の半導体ウェハーの投入を停止するとともに、チャンバー内の清掃を行う必要がある。特に、パーティクルの拡散や真空ポンプ等の付帯設備の故障を確実に防止する観点からは、フラッシュ加熱後にガス供給や減圧のための排気を行う前にチャンバー内にて半導体ウェハーの割れを検出することが求められる。
【0009】
そこで、例えば特許文献1には、フラッシュ加熱処理を行うチャンバーにマイクロフォンを設け、半導体ウェハーが割れたときの音を検知することによってウェハー割れを判定する技術が開示されている。また、特許文献2には、半導体ウェハーからの反射光を導光ロッドによって受光し、その反射光の強度からウェハー割れを検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-231697号公報
【文献】特開2015-130423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、半導体ウェハーが割れた音響のみを抽出するためのフィルタリングが困難であるという問題があった。また、特許文献2に開示の技術では、導光ロッドを回転させる工程がフラッシュ光照射の前後で2回必要となるため、スループットが悪化するという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フラッシュ光照射時における基板の割れを簡易な構成にて迅速に検出することができる熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内に基板を収容する収容工程と、連続点灯ランプから光を照射して前記基板を予備加熱温度に加熱する予備加熱工程と、フラッシュランプから前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュ光照射工程と、前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程にて測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定工程と、前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定工程と、を備え、前記温度測定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を測定し、前記算定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、前記判定工程では、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、または、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする。
【0014】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理方法において、前記温度測定工程では、前記フラッシュ光の照射開始から前記連続点灯ランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項の発明は、請求項の発明に係る熱処理方法において、前記温度測定工程では、前記フラッシュ光の照射開始から前記フラッシュランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、チャンバー内に基板を収容する収容工程と、連続点灯ランプから光を照射して前記基板を予備加熱温度に加熱する予備加熱工程と、フラッシュランプから前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュ光照射工程と、前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間の前記基板の温度を測定する温度測定工程と、前記温度測定工程にて測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定工程と、前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定工程と、を備え、前記温度測定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を測定し、前記算定工程では、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、前記判定工程では、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、および、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする。
【0018】
また、請求項の発明は、請求項1から請求項のいずれかの発明に係る熱処理方法において、前記判定工程にて前記基板が割れていると判定されたときに、前記チャンバーに対する給気および排気を停止することを特徴とする。
【0019】
また、請求項の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて基板を保持するサセプタと、前記サセプタに保持された前記基板に光を照射して予備加熱温度に加熱する連続点灯ランプと、前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュランプと、前記基板の温度を測定する放射温度計と、前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間に前記放射温度計によって測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定部と、前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定部と、を備え、前記放射温度計は、前記基板の表面の温度を測定する表面放射温度計および前記基板の裏面の温度を測定する裏面放射温度計を含み、前記算定部は、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、前記判定部は、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、または、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする。
【0020】
また、請求項の発明は、請求項の発明に係る熱処理装置において、前記算定部は、前記フラッシュ光の照射開始から前記連続点灯ランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間に測定された前記基板の温度を積算することを特徴とする。
【0021】
また、請求項9の発明は、請求項の発明に係る熱処理装置において、前記算定部は、前記フラッシュ光の照射開始から前記フラッシュランプによる前記基板の加熱を終了するまでの期間に測定された前記基板の温度を積算することを特徴とする。
【0022】
また、請求項の発明は、基板にフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内にて基板を保持するサセプタと、前記サセプタに保持された前記基板に光を照射して予備加熱温度に加熱する連続点灯ランプと、前記基板の表面にフラッシュ光を照射して当該表面を加熱するフラッシュランプと、前記基板の温度を測定する放射温度計と、前記フラッシュ光の照射開始から前記基板に対する加熱を終了するまでの期間に前記放射温度計によって測定された前記基板の温度を積算して温度積算値を算定する算定部と、前記温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定する判定部と、を備え、前記放射温度計は、前記基板の表面の温度を測定する表面放射温度計および前記基板の裏面の温度を測定する裏面放射温度計を含み、前記算定部は、前記基板の表面および裏面の温度を積算し、前記判定部は、前記基板の表面の温度を積算した表面温度積算値、および、前記基板の裏面の温度を積算した裏面温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに前記基板が割れていると判定することを特徴とする。
【0024】
また、請求項10の発明は、請求項から請求項のいずれかの発明に係る熱処理装置において、前記判定部が前記基板が割れていると判定したときに、前記チャンバーに対する給気および排気を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1から請求項の発明によれば、フラッシュ光の照射開始から基板に対する加熱を終了するまでの期間の基板の温度を積算した温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに基板が割れていると判定するため、フラッシュ光照射時における基板の割れを簡易な構成にて迅速に検出することができる。
【0026】
特に、請求項の発明によれば、基板が割れていると判定されたときに、チャンバーに対する給気および排気を停止するため、基板が割れて生じたパーティクルを拡散させる二次被害を防止することができる。
【0027】
請求項から請求項10の発明によれば、フラッシュ光の照射開始から基板に対する加熱を終了するまでの期間に測定された基板の温度を積算した温度積算値が予め設定された上限値および下限値の範囲から外れているときに基板が割れていると判定するため、フラッシュ光照射時における基板の割れを簡易な構成にて迅速に検出することができる。
【0028】
特に、請求項10の発明によれば、基板が割れていると判定したときに、チャンバーに対する給気および排気を停止するため、基板が割れて生じたパーティクルを拡散させる二次被害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
図3】サセプタの平面図である。
図4】サセプタの断面図である。
図5】移載機構の平面図である。
図6】移載機構の側面図である。
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
図8】放射温度計および制御部の機能ブロック図である。
図9】半導体ウェハーの処理手順を示すフローチャートである。
図10】放射温度計によって測定される半導体ウェハーの表面温度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである(本実施形態ではφ300mm)。熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWには不純物が注入されており、熱処理装置1による加熱処理によって注入された不純物の活性化処理が実行される。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0032】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0033】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0034】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0035】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0036】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0037】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N)等の不活性ガス、または、水素(H)、アンモニア(NH)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。或いは、処理ガスとしてヘリウム(He)やアルゴン(Ar)等の冷却ガスをガス供給孔81からチャンバー6内に供給することもできる。
【0038】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。
【0039】
排気部190は真空ポンプを含む。ガス供給孔81から処理ガスを供給することなく、排気部190を作動させて熱処理空間65の気体を排気することにより、チャンバー6内を大気圧未満に減圧することができる。また、排気部190の真空ポンプとガス排気管88とは、例えば管径の異なる3本のバイパスラインによって接続されており、それらのいずれを開放するかによってチャンバー6からの排気流量および排気速度を変化させることができる。
【0040】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0041】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0042】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0043】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。図3は、サセプタ74の平面図である。また、図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0044】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0045】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0046】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0047】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0048】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0049】
また、図2および図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計120(図1参照)が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計120が開口部78を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。
【0050】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0051】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0052】
図1に示すように、熱処理装置1には3つの放射温度計120,130,140が設けられている。上述した通り、放射温度計120は、サセプタ74に設けられた開口部78を介して半導体ウェハーWの下面の温度を測定する。放射温度計130は、サセプタ74の中央部から放射された赤外光を検知して当該中央部の温度を測定する。一方、放射温度計140は、半導体ウェハーWの上面から放射された赤外光を検知してウェハー上面の温度を測定する。放射温度計140としては、フラッシュランプFLからフラッシュ光が照射された瞬間の半導体ウェハーWの上面の急激な温度変化に追随することが可能な高速放射温度計を採用するのが好ましい。また、熱処理装置1には温度センサー150も設けられている。温度センサー150は、チャンバー6内の熱処理空間65の雰囲気温度を計測する。
【0053】
チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0054】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0055】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0056】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0057】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0058】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0059】
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0060】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0061】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0062】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0063】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0064】
図8は、放射温度計120,140および制御部3の機能ブロック図である。半導体ウェハーWの下面の温度を測定する放射温度計120は、赤外線センサー121および温度測定ユニット122を備える。赤外線センサー121は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から開口部78を介して放射された赤外光を受光する。赤外線センサー121は、温度測定ユニット122と電気的に接続されており、受光に応答して生じた信号を温度測定ユニット122に伝達する。温度測定ユニット122は、図示を省略する増幅回路、A/Dコンバータ、温度変換回路等を備えており、赤外線センサー121から出力された赤外光の強度を示す信号を温度に変換する。温度測定ユニット122によって求められた温度が半導体ウェハーWの下面の温度である。
【0065】
一方、半導体ウェハーWの上面の温度を測定する放射温度計140は、赤外線センサー141および温度測定ユニット142を備える。赤外線センサー141は、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの上面から放射された赤外光を受光する。赤外線センサー141は、フラッシュ光が照射された瞬間の半導体ウェハーWの上面の急激な温度変化に対応できるように、InSb(インジウムアンチモン)の光学素子を備えている。赤外線センサー141は、温度測定ユニット142と電気的に接続されており、受光に応答して生じた信号を温度測定ユニット142に伝達する。温度測定ユニット142は、赤外線センサー141から出力された赤外光の強度を示す信号を温度に変換する。温度測定ユニット142によって求められた温度が半導体ウェハーWの上面の温度である。なお、サセプタ74の温度を測定する放射温度計130も概ね放射温度計120,140と同様の構成を備えている。
【0066】
放射温度計120,140は、熱処理装置1全体のコントローラである制御部3と電気的に接続されており、放射温度計120,140によってそれぞれ測定された半導体ウェハーWの下面および上面の温度は制御部3に伝達される。制御部3は、積算部31および割れ判定部32を備える。積算部31および割れ判定部32は、制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって実現される機能処理部である。積算部31および割れ判定部32の処理内容についてはさらに後述する。
【0067】
また、制御部3には表示部33および入力部34が接続されている。制御部3は、表示部33に種々の情報を表示する。入力部34は、熱処理装置1のオペレータが制御部3に種々のコマンドやパラメータを入力するための機器である。オペレータは、表示部33の表示内容を確認しつつ、入力部34から半導体ウェハーWの処理手順および処理条件を記述した処理レシピの条件設定を行うこともできる。表示部33および入力部34としては、双方の機能を兼ね備えたタッチパネルを用いることもでき、本実施形態では熱処理装置1の外壁に設けられた液晶のタッチパネルを採用している。
【0068】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0069】
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。図9は、半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により不純物(イオン)が添加された半導体基板である。その不純物の活性化が熱処理装置1によるフラッシュ光照射加熱処理(アニール)により実行される。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0070】
まず、給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89,192が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0071】
また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。なお、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスが熱処理空間65に継続的に供給されており、その供給量は処理工程に応じて適宜変更される。
【0072】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される(ステップS1)。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0073】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0074】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、パターン形成がなされて不純物が注入された表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0075】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された時点で放射温度計120および放射温度計140による温度測定が開始される。すなわち、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面(裏面)から開口部78を介して放射された赤外光を放射温度計120が受光して半導体ウェハーWの裏面温度を測定する。また、サセプタ74に保持された半導体ウェハーWの上面(表面)から放射された赤外光を放射温度計140が受光して半導体ウェハーWの表面温度を測定する。
【0076】
図10は、放射温度計140によって測定される半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されてサセプタ74に保持された後、時刻t1にハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS2)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0077】
ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は放射温度計120によって測定される。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、放射温度計120による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。予備加熱温度T1は、半導体ウェハーWに添加された不純物が熱により拡散する恐れのない、200℃ないし800℃程度、好ましくは350℃ないし600℃程度とされる(本実施の形態では600℃)。このように放射温度計120は、予備加熱段階においてハロゲンランプHLの出力を制御するための温度センサーでもある。なお、放射温度計120は半導体ウェハーWの裏面の温度を測定しているが、ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階では半導体ウェハーWの表裏面に温度差が生じることはなく、放射温度計120によって測定される裏面温度は半導体ウェハーW全体の温度であるとみなせる。
【0078】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、放射温度計120によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0079】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。
【0080】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時刻t2にフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う(ステップS3)。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0081】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇し、半導体ウェハーWに注入された不純物が活性化された後、表面温度が急速に下降する。このように、熱処理装置1では、半導体ウェハーWの表面温度を極めて短時間で昇降することができるため、半導体ウェハーWに注入された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、不純物の活性化に必要な時間はその熱拡散に必要な時間に比較して極めて短いため、0.1ミリセカンドないし100ミリセカンド程度の拡散が生じない短時間であっても活性化は完了する。
【0082】
極めて照射時間の短いフラッシュ光を照射することによって半導体ウェハーWの表面を急激に昇温するフラッシュ加熱では、半導体ウェハーWの表裏面に温度差が生じる。すなわち、フラッシュ光が照射された半導体ウェハーWの表面が先行して昇温し、その表面からの熱伝導によって裏面が遅れて昇温する。また、フラッシュ加熱時に半導体ウェハーWの裏面が到達する最高温度は表面が到達する最高温度(処理温度T2)よりも低い。よって、フラッシュ光が照射された直後の放射温度計120の温度測定結果と放射温度計140の温度測定結果とは異なる。また、フラッシュ加熱時における半導体ウェハーWの裏面の温度変化は表面の温度変化に比較すると緩やかなものとなる。
【0083】
フラッシュ光の照射時間は0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下の極めて短いものであり、フラッシュ光の照射が開始された時刻t2からその照射時間が経過した時刻t3にはフラッシュランプFLが消灯することとなる。フラッシュランプFLの発光が終了した後もハロゲンランプHLは暫時継続して点灯している。ハロゲンランプHLは時刻t3よりも後の時刻t4に消灯する。よって、時刻t4にハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの予備加熱が終了することとなる。なお、フラッシュランプFLの照射開始時刻t2から照射終了時刻t3までの時間は極めて短いため、図10では図示の都合上、時刻t2と時刻t3とを重ねて記載している。
【0084】
フラッシュ光照射が開始された時刻t2以降も放射温度計140によって半導体ウェハーWの表面の温度が測定されるとともに、放射温度計120によって半導体ウェハーWの裏面の温度が測定されている。そして、積算部31は、フラッシュ光の照射が開始された時刻t2からハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの予備加熱が終了する時刻t4までの期間に放射温度計140によって測定された半導体ウェハーWの表面温度を積算して表面温度積算値FSを算定する(ステップS4)。具体的には、放射温度計140は所定のサンプリング間隔で半導体ウェハーWの表面温度を測定しており、時刻t2から時刻t4までの期間に当該サンプリング間隔で測定された半導体ウェハーWの表面温度の全てを順次加算することによって表面温度積算値FSは算定される。また、積算部31は、時刻t2から時刻t4までの期間に放射温度計120によって測定された半導体ウェハーWの裏面温度を積算して裏面温度積算値BSを算定する。具体的には、放射温度計120も所定のサンプリング間隔で半導体ウェハーWの裏面温度を測定しており、時刻t2から時刻t4までの期間に当該サンプリング間隔で測定された半導体ウェハーWの裏面温度の全てを順次加算することによって裏面温度積算値BSは算定される。
【0085】
続いて、割れ判定部32が表面温度積算値FSおよび裏面温度積算値BSに基づいてフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを判定する(ステップS5)。フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが割れたときには、放射温度計120,140による温度測定に支障をきたし、異常な温度測定値が得られることとなる。そして、そのような異常な温度測定値を積算して求められた表面温度積算値FS、裏面温度積算値BSも異常な値となる。よって、表面温度積算値FS、裏面温度積算値BSが適正な範囲内に収まっているか否かを判定することによって、半導体ウェハーWの割れを判定することができる。
【0086】
具体的には、割れ判定部32は次の式(1)(2)によって半導体ウェハーWの割れを判定する。式(1)におけるFLおよび式(2)におけるBLは割れ判定のための下限値である。また、式(1)におけるFUおよび式(2)におけるBUは割れ判定のための上限値である。
【0087】
【数1】
【0088】
【数2】
【0089】
上限値FU,BUおよび下限値FL,BLはレシピパラメータとして設定される値である。レシピパラメータとは、半導体ウェハーWの処理手順や処理条件を記述した処理レシピに設定されるパラメータである。処理レシピは処理対象となる半導体ウェハーW毎に制御部3に渡されるものであるため、レシピパラメータも半導体ウェハーW毎に設定することが可能である。例えば、熱処理装置1のオペレータは、半導体ウェハーWの処理開始前に入力部34からレシピパラメータとして上限値FU,BUおよび下限値FL,BLの数値を設定入力することができる。
【0090】
第1実施形態においては、割れ判定部32は、式(1)および式(2)の双方が満足されるときには、半導体ウェハーWが割れていないと判定する。換言すれば、割れ判定部32は、式(1)または式(2)の少なくとも一方が満たされないときには、半導体ウェハーWが割れていると判定する。すなわち、割れ判定部32は、表面温度積算値FSが予め設定された上限値FUと下限値FLとの間の範囲から外れている、または、裏面温度積算値BSが予め設定された上限値BUと下限値BLとの間の範囲から外れているときに、半導体ウェハーWが割れていると判定するのである。
【0091】
従って、上限値FUおよび下限値FLとしては、例えばウェハー割れが発生しなかったときの表面温度積算値を標準値とし、その標準値に所定のマージンを加算および減算した値を採用して設定するのが好ましい。同様に、上限値BUおよび下限値BLとしては、ウェハー割れが発生しなかったときの裏面温度積算値を標準値とし、その標準値に所定のマージンを加算および減算した値を採用して設定するのが好ましい。上限値FU,BUと下限値FL,BLとのそれぞれの間の範囲が狭くなるほど厳しい割れ判定がなされることとなる。
【0092】
割れ判定部32が半導体ウェハーWが割れていないと判定したときには、ステップS6からステップS7に進み、半導体ウェハーWの冷却処理が行われる。冷却処理は、半導体ウェハーWに対する加熱処理(ハロゲンランプHLによる予備加熱およびフラッシュランプFLによるフラッシュ加熱の双方を含む)が全て終了した時刻t4以降に開始される。冷却処理時には、ガス供給孔81から熱処理空間65に冷却ガス(ヘリウム、アルゴンまたは窒素)が供給される。加熱処理および冷却処理の双方にて窒素ガスが用いられる場合には、冷却処理時には窒素ガスの供給流量が増加されることとなる。供給された冷却ガスによって半導体ウェハーWの熱が奪われることにより半導体ウェハーWの冷却処理が進行する。
【0093】
冷却処理が終了した後、半導体ウェハーWの搬出処理が行われる(ステップS8)。具体的には、放射温度計120によって監視される半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0094】
一方、割れ判定部32が半導体ウェハーWが割れていると判定したときには、ステップS6からステップS9に進み、制御部3が熱処理装置1における処理を中断する。半導体ウェハーWが割れたと判定されて処理が中断された場合には、冷却処理も行われず、チャンバー6内へのガス供給も停止される。また、チャンバー6に半導体ウェハーWを搬出入する搬送系の動作も停止する。さらに、制御部3が表示部33にウェハー割れ発生の警告を発報するようにしても良い。これにより、割れた半導体ウェハーWの破片は、割れによって発生したパーティクルとともに、密閉空間であるチャンバー6内に閉じ込められることとなる。そして、半導体ウェハーWの割れが発生したときには、チャンバー6内にパーティクルが発生しているため、チャンバー6を開放して清掃作業を行う。
【0095】
第1実施形態においては、フラッシュ光の照射が開始された時刻t2からハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの予備加熱が終了する時刻t4までの期間に測定された半導体ウェハーWの表面温度および裏面温度をそれぞれ積算して表面温度積算値FSおよび裏面温度積算値BSを算定している。そして、それら表面温度積算値FSおよび裏面温度積算値BSに基づいて割れ判定部32がフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを判定している。従って、時刻t4以降に冷却処理が開始される前に、半導体ウェハーWの割れが判定されることとなる。このため、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが割れている場合には、冷却処理が開始される前にウェハー割れが検出されることとなり、冷却処理前に処理が中断されて冷却処理は全く実行されない。その結果、半導体ウェハーWが割れているにも関わらずチャンバー6内に冷却ガスを供給することによって生じるパーティクルの増加や拡散を防止することができ、他の半導体ウェハーWの汚染を防ぐことができる。
【0096】
また、熱処理装置1に放射温度計120,140を設けるという簡易な構成によって、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを検出している。さらに、放射温度計120,140によって測定された温度に対して簡単な演算処理を行うことによって半導体ウェハーWの割れを検出しているため、スループットを低下させる懸念も無い。すなわち、本実施形態の熱処理装置1は、フラッシュ光照射時における半導体ウェハーWの割れを簡易な構成にて迅速に検出することができるのである。
【0097】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の熱処理装置1の構成は第1実施形態と全く同じである。また、第2実施形態の熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と概ね同様である。但し、第2実施形態では、アンモニア等の反応性ガスの雰囲気中にて半導体ウェハーWの加熱処理を行っている。第2実施形態が第1実施形態と実質的に相違するのは、温度測定値の積算期間と割れ検出の手法である。
【0098】
第2実施形態においては、積算部31は、フラッシュ光の照射が開始された時刻t2からフラッシュランプFLによる半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が終了する時刻t3までの期間に放射温度計140によって測定された半導体ウェハーWの表面温度を積算して表面温度積算値FSを算定する。同様に、積算部31は、時刻t2から時刻t3までの期間に放射温度計120によって測定された半導体ウェハーWの裏面温度を積算して裏面温度積算値BSを算定する。
【0099】
そして、第2実施形態では、割れ判定部32は、式(1)または式(2)のいずれかが満足されているときには、半導体ウェハーWが割れていないと判定する。換言すれば、割れ判定部32は、式(1)および式(2)の双方が満たされないときに、半導体ウェハーWが割れていると判定する。すなわち、割れ判定部32は、表面温度積算値FSが予め設定された上限値FUと下限値FLとの間の範囲から外れている、および、裏面温度積算値BSが予め設定された上限値BUと下限値BLとの間の範囲から外れているときに、半導体ウェハーWが割れていると判定するのである。
【0100】
第2実施形態では、割れ判定部32が半導体ウェハーWが割れていないと判定したとき、ハロゲンランプHLによる半導体ウェハーWの予備加熱が終了する時刻t4以降にチャンバー6内の雰囲気置換が行われる。具体的には、チャンバー6内から反応性ガスの雰囲気を排気してチャンバー6内を大気圧未満に減圧した後に、チャンバー6内に窒素ガスを供給して雰囲気置換を行う。そして、チャンバー6内の雰囲気置換を行った後に、半導体ウェハーWの冷却処理および搬出処理を行う。
【0101】
一方、割れ判定部32が半導体ウェハーWが割れていると判定したときには、制御部3が熱処理装置1における処理を中断する。半導体ウェハーWが割れたと判定されて処理が中断された場合には、雰囲気置換も行われず、チャンバー6に対するガス供給および排気も停止される。また、チャンバー6に半導体ウェハーWを搬出入する搬送系の動作も停止する。さらに、制御部3が表示部33にウェハー割れ発生の警告を発報するようにしても良い。これにより、割れた半導体ウェハーWの破片は、割れによって発生したパーティクルとともに、密閉空間であるチャンバー6内に閉じ込められる。
【0102】
第2実施形態においては、フラッシュ光の照射が開始された時刻t2からフラッシュランプFLによる半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が終了する時刻t3までの期間に測定された半導体ウェハーWの表面温度および裏面温度をそれぞれ積算して表面温度積算値FSおよび裏面温度積算値BSを算定している。そして、それら表面温度積算値FSおよび裏面温度積算値BSに基づいて割れ判定部32がフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを判定している。従って、時刻t4以降に雰囲気置換が開始される前に、半導体ウェハーWの割れが判定されることとなる。このため、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが割れている場合には、雰囲気置換が開始される前にウェハー割れが検出されることとなり、雰囲気置換前に処理が中断されて雰囲気置換は実行されない。その結果、半導体ウェハーWが割れて生じたパーティクルを排気部190の真空ポンプが巻き込んで故障することが防止される。なお、チャンバー6内がアンモニア等の反応性ガスの雰囲気のままチャンバー6を開放して清掃作業を行うことはできないため、チャンバー6から最も小さな排気流量にて排気を行って反応性ガスを排出した後に窒素ガスを供給して雰囲気置換を行うようにしても良い。
【0103】
また、第1実施形態と同様に、熱処理装置1に放射温度計120,140を設けるという簡易な構成によって半導体ウェハーWの温度を測定し、その測定温度に対して簡単な演算処理を行うことによって半導体ウェハーWの割れを検出している。このため、熱処理装置1は、フラッシュ光照射時における半導体ウェハーWの割れを簡易な構成にて迅速に検出することができる。
【0104】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。第1実施形態では、表面温度積算値FSまたは裏面温度積算値BSが上限値および下限値の範囲から外れているときに半導体ウェハーWが割れていると判定した(つまり、表面温度積算値FSと裏面温度積算値BSとのOR判定)。第2実施形態では、表面温度積算値FSおよび裏面温度積算値BSが上限値および下限値の範囲から外れているときに半導体ウェハーWが割れていると判定した(つまり、表面温度積算値FSと裏面温度積算値BSとのAND判定)。これらに代えて、例えば、表面温度積算値FSのみに基づいて半導体ウェハーWの割れを判定するようにしても良い。また、裏面温度積算値BSのみに基づいて半導体ウェハーWの割れを判定するようにしても良い。
【0105】
また、放射温度計130によって測定されたサセプタ74の温度を積算して得られた温度積算値に基づいてフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを判定するようにしても良い。或いは、温度センサー150によって測定されたチャンバー6内の雰囲気温度を積算した温度積算値に基づいて半導体ウェハーWの割れを判定するようにしても良い。フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが割れたときには、その影響によってサセプタ74やチャンバー6内の雰囲気温度も異常な挙動を示すため、それらの温度の温度積算値に基づいて割れ判定を行うことは可能である。要するに、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが割れたときに、通常とは異なる異常な温度変化を示す要素の温度を積算した温度積算値に基づいて半導体ウェハーWの割れ判定を行うようにすれば良い。
【0106】
また、上記実施形態では、フラッシュ光の照射開始から半導体ウェハーWに対する加熱を終了するまでの期間に測定された半導体ウェハーWの温度を積算した温度積算値に基づいて半導体ウェハーWの割れを判定していたが、これに限定されるものではない。例えば、上記期間に測定された半導体ウェハーWの温度の平均値または標準偏差が所定の範囲から外れているか否かによって半導体ウェハーWの割れを判定するようにしても良い。
【0107】
また、熱処理装置1にて半導体ウェハーWの割れが検出されたときには、当該半導体ウェハーWと同じ処理レシピで処理されている他の熱処理装置においても半導体ウェハーWが割れる可能性がある。このため、熱処理装置1にて半導体ウェハーWの割れが検出されたときに、当該半導体ウェハーWと同じ処理レシピで処理されている他の熱処理装置の処理を停止するようにしても良い。
【0108】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0109】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて半導体ウェハーWの予備加熱を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)を連続点灯ランプとして用いて予備加熱を行うようにしても良い。
【0110】
また、熱処理装置1によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。また、本発明に係る技術は、高誘電率ゲート絶縁膜(High-k膜)の熱処理、金属とシリコンとの接合、或いはポリシリコンの結晶化に適用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0111】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
31 積算部
32 割れ判定部
33 表示部
34 入力部
63 上側チャンバー窓
64 下側チャンバー窓
65 熱処理空間
74 サセプタ
75 保持プレート
77 基板支持ピン
120,130,140 放射温度計
150 温度センサー
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10