(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両システム
(51)【国際特許分類】
B60K 6/38 20071001AFI20231024BHJP
B60K 6/44 20071001ALI20231024BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20231024BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20231024BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20231024BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20231024BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20231024BHJP
B60K 17/06 20060101ALI20231024BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231024BHJP
【FI】
B60K6/38 ZHV
B60K6/44
B60K6/543
B60K6/52
B60W10/02 900
B60W20/00
B60K17/04 G
B60K17/06 H
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2019164694
(22)【出願日】2019-09-10
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖 尚悟
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292207(JP,A)
【文献】特開2006-327570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/38
B60K 6/44
B60K 6/543
B60K 6/52
B60W 10/02
B60W 20/00
B60K 17/04
B60K 17/06
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に伝達されるトルクを出力可能なエンジンと、
バリエータを備え前記エンジンから出力されるトルクを所定の変速比で変換する
無段変速機構と、
前記
無段変速機構と前記駆動輪の間の動力伝達の可否を切替可能な第1のクラッチ機構と、
前記第1のクラッチ機構と前記駆動輪の間の動力伝達経路に接続されたモータジェネレータと、
前記モータジェネレータと前記駆動輪の間の動力伝達の可否を切替可能な第2のクラッチ機構と、
前記エンジンと前記
無段変速機構の間の動力伝達経路に接続された前後進切替機構と、
を備え、
前記前後進切替機構は、
前記第1のクラッチ機構と前記駆動輪の間の動力伝達経路に接続されたカウンタ軸に接続され、
前記エンジン側と
前記駆動輪側を直結し
て車両が前進する方向のトルクを伝達する前進直結状態と、
前記エンジン側と
前記駆動輪側を直結して前記車両が後進する方向のトルクを伝達する後進直結状態と、
前記エンジン側と
前記駆動輪側を切り離した中立状態と、に切替え可能
であり、
前記車両の要求トルクが小さい定速走行時には、前記第1のクラッチ機構及び前記第2のクラッチ機構を接続して前記前後進切替機構を前記中立状態とし、前記エンジンから出力されるトルクを前記無段変速機構により前記車両の走行状態に応じた変速比で変換して前記駆動輪に伝達する、ハイブリッド車両システム。
【請求項2】
前記車両の要求トルクが大きい低速前進走行時には、前記第1のクラッチ機構を切り離し、前記第2のクラッチ機構を接続して前記前後進切替機構を前記前進直結状態とし、
前記車両の要求トルクが小さい定速走行時には、前記第1のクラッチ機構及び前記第2のクラッチ機構を接続して前記前後進切替機構を前記中立状態とし、
前記車両の後進走行時には、前記第1のクラッチ機構を切り離し、前記第2のクラッチ機構を接続して前記前後進切替機構を前記後進直結状態とし、
前記車両のニュートラル時には、前記第1のクラッチ機構及び前記第2のクラッチ機構を切り離して前記前後進切替機構を前記中立状態とし、
前記車両のEV走行時には、前記第1のクラッチ機構を切り離し、前記第2のクラッチ機構を接続して前記前後進切替機構を前記中立状態とし、
前記車両の停車時に前記エンジンのトルクにより前記モータジェネレータに発電させる停車発電時には、前記第1のクラッチ機構及び前記第2のクラッチ機構を切り離して前記前後進切替機構を前記前進直結状態とする、請求項1に記載のハイブリッド車両システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源としてエンジン及びモータを備えたハイブリッド車両が知られている。また、車両の変速機として、入力されるトルクを無段で変速して伝達する無段変速機がある。ハイブリッド車両システムとして、例えば、特許文献1には、変速機構であるバリエータの上流側にエンジン及びモータが配置されたハイブリッド車両システムが開示されている。また、特許文献2には、バリエータの上流側にエンジンが配置され、バリエータの下流にモータが配置されたハイブリッド車両システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/131134号
【文献】特開2019-31193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された、バリエータの上流側にモータが配置された構成では、エンジンの出力トルクとモータの出力トルクの合算トルクがバリエータに入力される。このため、バリエータが伝達可能なトルク容量の制約を受けて、駆動輪へと出力するトルク容量を増大することが困難となる場合がある。また、かかる構成では、エンジンを停止した電動走行時あるいは駆動輪のトルクを利用してモータが回生発電を行う回生時には、必ずバリエータを介してモータと駆動輪とが接続されるため、効率が低下するおそれがある。
【0005】
一方、特許文献2に記載された、バリエータの下流側にモータが配置された構成では、停車時に、エンジンの出力トルクを利用してモータに発電(停車発電)させるには、バリエータを介してエンジンとモータとが接続されるため、効率が低下するおそれがある。また、かかる構成では、発電中に、駆動輪にトルクが伝達されないようにクラッチ機構を切り離す必要があるため、車両の走行を再開する際にはクラッチ機構を締結させる必要がある。したがって、停車発電モードから走行モードへの切り替え時の応答遅れが生じるおそれがある。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、駆動輪に伝達されるトルクを出力可能なエンジンと、バリエータを備えエンジンから出力されるトルクを所定の変速比で変換する無段変速機構と、無段変速機構と駆動輪の間の動力伝達の可否を切替可能な第1のクラッチ機構と、第1のクラッチ機構と駆動輪の間の動力伝達経路に接続されたモータジェネレータと、モータジェネレータと駆動輪の間の動力伝達の可否を切替可能な第2のクラッチ機構と、エンジンと無段変速機構の間の動力伝達経路に接続された前後進切替機構と、を備え、前後進切替機構は、第1のクラッチ機構と駆動輪の間の動力伝達経路に接続されたカウンタ軸に接続され、エンジン側と駆動輪側を直結して車両が前進する方向のトルクを伝達する前進直結状態と、エンジン側と駆動輪側を直結して車両が後進する方向のトルクを伝達する後進直結状態と、エンジン側と駆動輪側を切り離した中立状態と、に切替えであり、車両の要求トルクが小さい定速走行時には、第1のクラッチ機構及び第2のクラッチ機構を接続して前後進切替機構を中立状態とし、エンジンから出力されるトルクを無段変速機構により車両の走行状態に応じた変速比で変換して駆動輪に伝達するハイブリッド車両システムが提供される。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、1つのモータを用いて力行駆動及び回生駆動を効率的に行うことができる、ハイブリッド車両システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、駆動輪に伝達されるトルクを出力可能なエンジンと、エンジンから出力されるトルクを所定の変速比で変換する変速機構と、変速機構と駆動輪の間の動力伝達の可否を切替可能な第1のクラッチ機構と、第1のクラッチ機構と駆動輪の間の動力伝達経路に接続されたモータジェネレータと、モータジェネレータと駆動輪の間の動力伝達の可否を切替可能な第2のクラッチ機構と、エンジンと変速機構の間の動力伝達経路に接続された前後進切替機構と、を備え、前後進切替機構は、第1のクラッチ機構と駆動輪の間の動力伝達経路に接続されたカウンタ軸に接続され、エンジン側と駆動輪側を直結して車両が前進する方向のトルクを伝達する前進直結状態と、エンジン側と駆動輪側を直結して車両が後進する方向のトルクを伝達する後進直結状態と、エンジン側と駆動輪側を切り離した中立状態と、に切替えるハイブリッド車両システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、1つのモータを用いて力行駆動及び回生駆動を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係るハイブリッド車両システムの構成の一例を示す説明図である。
【
図2】ハイブリッド車両システムの運転状態に応じた動作状態を示す説明図である。
【
図3】低速前進走行状態における動作状態を示す説明図である。
【
図4】CVT前進走行状態における動作状態を示す説明図である。
【
図5】後進走行状態における動作状態を示す説明図である。
【
図6】停車発電状態における動作状態を示す説明図である。
【
図7】EV前進走行状態における動作状態を示す説明図である。
【
図8】エンジン始動状態における動作状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<1.ハイブリッド車両システムの全体構成>
まず、
図1を参照して、本発明の実施の形態に係るハイブリッド車両システムの全体構成を説明する。
図1は、本実施形態に係るハイブリッド車両システム1の構成の一例を示す説明図である。
【0013】
図1に示すように、ハイブリッド車両システム1は、エンジン10、モータジェネレータ20及び自動変速機80を備え、エンジン10及びモータジェネレータ20を駆動源として併用可能なハイブリッド車両システムである。かかるハイブリッド車両システム1は、エンジン走行モード、電動走行モード(EVモード)又はハイブリッド走行モード(HEVモード)により車両の駆動を制御することができる。
【0014】
エンジン走行モードは、エンジン10から出力されるトルクにより車両を駆動するモードである。EVモードは、モータジェネレータ20から出力されるトルクにより車両を駆動するモードである。HEVモードは、モータジェネレータ20及びエンジン10から出力されるトルクにより車両を駆動するモードである。
【0015】
エンジン10は、ガソリン等を燃料として駆動し、トルクを生成する内燃機関であり、出力軸としてのクランクシャフト11を有する。クランクシャフト11は、自動変速機80内に延びて設けられている。
【0016】
モータジェネレータ20は、例えば三相交流式の同期モータであり、図示しないインバータを介してバッテリに接続されている。モータジェネレータ20は、バッテリの電力を用いて駆動(力行駆動)されて車両の駆動力を生成する駆動用モータとしての機能と、エンジン10から出力されるトルクを用いて駆動されて発電する発電機としての機能と、車両の減速時に回生駆動されて駆動輪70の運動エネルギを用いて発電する発電機としての機能を有する。さらに、モータジェネレータ20は、エンジン10を始動させるスタータモータとしての機能を有する。
【0017】
自動変速機80は、トルクコンバータ90、前後進切替機構40、変速機構であるCVT(Continuously Variable Transmission)のバリエータ30、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65を備える。なお、それぞれのクラッチ機構は、湿式多板クラッチやシンクロナイザー式の係合機構、ドグ式の係合機構などで構成される。
【0018】
トルクコンバータ90は、エンジン10とバリエータ30の間に設けられている。エンジン10から出力されたトルクは、トルクコンバータ90を介してバリエータ30に伝達される。トルクコンバータ90は、エンジン10のクランクシャフト11にフロントカバー93を介して連結されるポンプインペラ92と、ポンプインペラ92と対向するとともにタービン軸94に連結されるタービンライナ91を備える。トルクコンバータ90内には作動油が供給されており、作動油を介して、ポンプインペラ92からタービンライナ91にエンジン10の出力トルクが伝達される。また、トルクコンバータ90には、エンジン10のクランクシャフト11とタービン軸94を直結するロックアップクラッチ95が設けられている。
【0019】
タービン軸94には、ギヤ列13を介して機械式のオイルポンプ15が連結されている。オイルポンプ15は、タービン軸94の回転により駆動されて、自動変速機80内の油圧制御機構に作動油を供給する。当該作動油は、図示しないバルブユニットを介してトルクコンバータ90、バリエータ30、前後進切替機構40、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65に供給される。
【0020】
バリエータ30は、タービン軸94に固定されたプライマリプーリ31と、セカンダリ軸37に固定されたセカンダリプーリ35を備える。プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ35には、ベルト又はチェーンからなる巻き掛け式の動力伝達部材36が巻回されている。バリエータ30は、プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ35上での動力伝達部材36の巻き掛け径を変化させてプーリ比を変化させることにより、タービン軸94とセカンダリ軸37の間において、車両の走行状態に応じた変速比でトルクを変換して伝達する。
【0021】
セカンダリ軸37は、第1のクラッチ機構61、ギヤ列39及び第2のクラッチ機構63を介して前輪側出力軸53に連結されている。また、前輪側出力軸53には、ギヤ列51を介してモータジェネレータ20が連結されている。前輪側出力軸53は、図示しない減速ギヤ及び駆動軸を介して前輪(駆動輪)70に連結され、前輪側出力軸53を介して出力される駆動力が前輪70に伝達可能に構成されている。
【0022】
第1のクラッチ機構61は、バリエータ30のセカンダリ軸37とギヤ列39の連結又は開放を切り替え可能に構成されている。第2のクラッチ機構63は、ギヤ列39及びギヤ列51と前輪側出力軸53の連結又は開放を切り替え可能に構成されている。したがって、第1のクラッチ機構61及び第2のクラッチ機構63がともに連結された状態で、バリエータ30と前輪側出力軸53の間の動力伝達が可能になる。また、第2のクラッチ機構63が連結された状態で、モータジェネレータ20と前輪側出力軸53の間の動力伝達が可能になる。
【0023】
第3のクラッチ機構65は、モータジェネレータ20の出力軸21と、後輪(駆動輪)75にトルクを伝達する後輪側出力軸73の連結又は開放を切り替え可能に構成されている。第3のクラッチ機構65は、トランスファクラッチとして機能する。第3のクラッチ機構65が連結された状態で、車両は全輪駆動モードになる。
【0024】
本実施形態に係るハイブリッド車両システム1において、エンジン10とバリエータ30の間の動力伝達経路であるタービン軸94には、前後進切替機構40がギヤ接続されている。前後進切替機構40は、例えばシンクロナイザー機構により構成され、前進直結状態と、後進直結状態と、中立状態とに切り替え可能に構成されている。具体的に、前後進切替機構40は、前進側ギヤ41、後進側ギヤ組45及びシンクロナイザリング43を備える。タービン軸94には、第1のギヤ96及び第2のギヤ組97が、軸方向に位置をずらして固定されている。前進側ギヤ41はタービン軸94の第1のギヤ96に噛み合い、後進側ギヤ組45はタービン軸94の第2のギヤ組97に噛み合っている。シンクロナイザリング43は、カウンタ軸57に固定され、例えば油圧制御により前進側ギヤ41又は後進側ギヤ組45へと押し付けられる。
【0025】
カウンタ軸57にはヘリカルギヤ55が固定され、当該ヘリカルギヤ55はギヤ列51に連結されている。カウンタ軸57は、バリエータ30を介することなくトルクを伝達する動力伝達経路を構成する。かかる動力伝達経路は、バリエータ30を介してトルクを伝達する動力伝達経路と並列的に形成されている。前後進切替機構40は、前進側ギヤ41又は後進側ギヤ組45へのシンクロナイザリング43の押し付けを制御することにより、タービン軸94のトルクを、前進トルク又は後進トルクとして、バリエータ30を介することなく前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73へと伝達可能に構成されている。
【0026】
前進直結状態では、前進側ギヤ41へとシンクロナイザリング43を押し付けることにより、タービン軸94のトルクが、バリエータ30を介することなく前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73へと伝達可能になる。これにより、バリエータ30のエンジン10側と駆動輪70,75側を直結して車両が前進する方向のトルクが伝達される。また、後進直結状態では、後進側ギヤ組45へとシンクロナイザリング43を押し付けることにより、タービン軸94のトルクが、バリエータ30を介することなく前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73へと伝達可能になる。これにより、バリエータ30のエンジン10側と駆動輪70,75側を直結して車両が後進する方向のトルクが伝達される。
【0027】
また、中立状態では、前後進切替機構40のシンクロナイザリング43を中立位置に保持することにより、タービン軸94のトルクが、前後進切替機構40を介してカウンタ軸57に伝達されないように構成されている。これにより、バリエータ30のエンジン10側と駆動輪70,75側を切り離して、トルクが伝達されないように構成される。
【0028】
<2.動作例>
次に、
図2~
図8を参照して、本実施形態に係るハイブリッド車両システム1の動作例を説明する。
図2は、車両の運転状態に応じた前後進切替機構40、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63、第3のクラッチ機構65、バリエータ30、エンジン10及びモータジェネレータ20の動作状態を示す説明図である。
【0029】
車両の前進走行開始時以降の低速前進走行状態において、前後進切替機構40は前進トルクを出力可能に制御され、第1のクラッチ機構61は開放状態にされ、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65は締結状態にされる。低速前進走行状態においては、エンジン走行モードに設定されて、エンジン10から駆動トルクが出力される。
図3に示すように、エンジン10から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく、前後進切替機構40及びカウンタ軸57を介してギヤ列51に伝達され、前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73に分配される。低速前進走行状態では、比較的大きな駆動トルクを要するが、エンジン10から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく伝達されることから、バリエータ30のトルク容量を小さく抑えることができる。また、エンジン10から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73に伝達される。したがって、トルクの伝達ロスを抑制することができる。
【0030】
また、車両が定速走行状態となったCVT前進走行状態において、前後進切替機構40は中立状態にされ、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65がすべて締結状態にされる。CVT前進走行状態においては、エンジン走行モードに設定されて、エンジン10から駆動トルクが出力されるとともに、バリエータ30が駆動されて、エンジン10から出力されたトルクは所望の変速比で変換される。
図4に示すように、エンジン10から出力されるトルクは、バリエータ30を介してギヤ列39に伝達され、前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73に分配される。定速走行状態において要する駆動トルクは低速前進走行状態に対して相対的に小さいトルクであるため、バリエータ30のトルク容量を小さく抑えることができる。
【0031】
また、車両の後進走行状態において、前後進切替機構40は後進トルクを出力可能に制御され、第1のクラッチ機構61は開放状態にされ、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65は締結状態にされる。後進走行状態においては、エンジン走行モードに設定されて、エンジン10から駆動トルクが出力される。後進走行状態においては、
図5に示すように、エンジン10から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく、前後進切替機構40及びカウンタ軸57を介してギヤ列51に伝達され、前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73に分配される。したがって、トルクの伝達ロスを抑制することができる。
【0032】
また、ニュートラル状態において、前後進切替機構40は中立状態にされ、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65がすべて開放状態にされる。ニュートラル状態においては、エンジン10及びモータジェネレータ20の駆動は停止される。
【0033】
また、停車発電状態において、前後進切替機構40は前進トルクを出力可能に制御され、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65がすべて開放状態にされる。停車発電状態においては、エンジン10から出力される駆動トルクがモータジェネレータ20に伝達され、モータジェネレータ20は回生駆動される。
図6に示すように、エンジン10から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく、前後進切替機構40及びカウンタ軸57を介してギヤ列51伝達され、出力軸21に入力される。したがって、トルクの伝達ロスを抑制して、モータジェネレータ20により効率的に発電を行うことができる。
【0034】
また、車両のEV前進走行状態において、前後進切替機構40は中立状態にされ、第1のクラッチ機構61は開放状態にされ、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65は締結状態にされる。EV前進走行状態においては、EV走行モードに設定されて、モータジェネレータ20から駆動トルクが出力される。
図7に示すように、モータジェネレータ20から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく、前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73に伝達される。したがって、トルクの伝達ロスを抑制することができる。
【0035】
また、車両のEV後進走行状態において、前後進切替機構40は中立状態にされ、第1のクラッチ機構61は開放状態にされ、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65は締結状態にされる。EV後進走行状態においては、EV走行モードに設定されて、モータジェネレータ20からEV前進走行状態とは逆向きの駆動トルクが出力される。EV後進走行状態においても、
図7に示すように、モータジェネレータ20から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなく、前輪側出力軸53及び後輪側出力軸73に伝達される。したがって、トルクの伝達ロスを抑制することができる。
【0036】
また、エンジン10の始動時において、前後進切替機構40は前進トルクを出力可能に制御され、第1のクラッチ機構61、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65は開放状態にされる。エンジン10の始動時においては、モータジェネレータ20から駆動トルクが出力され、エンジン10のクランキング動作が行われる。
図8に示すように、モータジェネレータ20から出力されるトルクは、バリエータ30を介することなくエンジン10に伝達され、クランキングされる。したがって、トルクの伝達ロスを抑制することができる。なお、EV前進走行中にエンジン10を始動させる場合には、第2のクラッチ機構63及び第3のクラッチ機構65は締結状態で維持される。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両システム1では、バリエータ30の上流側にモータジェネレータ20を備えていないため、エンジン10及びモータジェネレータ20の合算トルクがバリエータ30に入力されることがなく、バリエータ30のトルク容量を小さくすることができる。あるいは、モータジェネレータ20のトルクが合算されることがないため、排気量の大きいエンジン10を備えたハイブリッド車両システムに適用することができる。
【0038】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両システム1は、停車発電時に、エンジン10から出力されるトルクを、バリエータ30を介することなくモータジェネレータ20に伝達させることができ、発電効率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るハイブリッド車両システム1は、第1のクラッチ機構61を備えるために、EV走行モードにおいてバリエータ30を切り離すことができ、プーリの攪拌抵抗が抑制されて、トルクのロスを低減することができる。
【0040】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0041】
上記実施形態の車両システムは、ハイブリッド車両システムであったが、本発明はかかる例に限定されない。前後進切替機構40を利用してバリエータ30の上流側と下流側を直結可能な構成は、駆動源としてエンジン10のみを備えた車両システムにも適用することができる。この場合、
図2に示す低速前進走行状態及びCVT前進走行状態を使い分ければよい。これによっても、バリエータ30のトルク容量を低減することができ、あるいは、排気量の大きいエンジン10を備えた車両システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…ハイブリッド車両システム、10…エンジン、20…モータジェネレータ、30…変速機構(バリエータ)、40…前後進切替機構、61…第1のクラッチ機構、63…第2のクラッチ機構、65…第3のクラッチ機構、70,75…駆動輪(前輪,後輪)、80…自動変速機、90…トルクコンバータ