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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】インクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231024BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20231024BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231024BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231024BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231024BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20231024BHJP
【FI】
B41J2/01 129
B41J2/01 501
B41J2/21
B41J2/01 401
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B33Y10/00
B33Y70/00
B29C64/112
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019167675
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021041679
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100140796
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼津 章
(72)【発明者】
【氏名】堀内 駿
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0336410(US,A1)
【文献】特開2004-106297(JP,A)
【文献】特開2013-237198(JP,A)
【文献】特開2009-255509(JP,A)
【文献】特開2014-185214(JP,A)
【文献】特開2018-203912(JP,A)
【文献】特開2002-237103(JP,A)
【文献】特開2002-193373(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0014847(US,A1)
【文献】特開2015-212071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41M 5/00
B33Y 10/00
B33Y 70/00
B29C 64/112
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が照射されて硬化収縮するインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクに向けて光を照射する光照射装置と
を備えるインクジェットプリンターを使用したインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェット印刷方法は、前記インクの層を積み重ねて複数の前記層によって積層体を形成するように印刷し、
前記インクジェット印刷方法は、
光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい順反りである前記インクとしての順反りインクと、
光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい逆反りである前記インクとしての逆反りインクと
を互いの反りを低減する配置で印刷し、
前記インクジェット印刷方法は、前記インクジェットヘッドによって吐出されて媒体上に着弾した前記インクの滴が複数連結されるように印刷する場合に、前記順反りインクの前記滴と、前記逆反りインクの前記滴とを混合して印刷することによって、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが前記順反りである前記層としての順反り層と、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが前記逆反りである前記層としての逆反り層とを形成し、
前記積層体は、前記順反り層および前記逆反り層を含むことを特徴とするインクジェット印刷方法。
【請求項2】
前記インクの前記層を積み重ねて複数の前記層によって前記積層体としての立体的な造形物を形成するように印刷する場合に、前記順反りインクによって形成する前記層と、前記逆反りインクによって形成する前記層とが前記造形物に含まれるように印刷することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷方法。
【請求項3】
光が照射されて硬化収縮するインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記インクに向けて光を照射する光照射装置と
を備えるインクジェットプリンターを使用したインクジェット印刷方法であって、
前記インクジェット印刷方法は、
光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい順反りである前記インクとしての順反りインクと、
光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい逆反りである前記インクとしての逆反りインクと
を互いの反りを低減する配置で印刷し、
前記インクジェット印刷方法は、前記インクの層を積み重ねて複数の前記層によって立体的な造形物を形成するように印刷する場合に、前記順反りインクおよび前記逆反りインクを混合して形成する前記層が前記造形物に含まれるように印刷し、
前記造形物は、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが前記順反りである前記層としての順反り層と、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが前記逆反りである前記層としての逆反り層とを、前記順反りインクおよび前記逆反りインクを混合して形成する前記層として含むことを特徴とするインクジェット印刷方法。
【請求項4】
前記順反りインクおよび前記逆反りインクの量の比率は、前記順反り層において前記順反りインクが120~160である場合に前記逆反りインクが60~80であり、前記逆反り層において前記順反りインクが60~80である場合に前記逆反りインクが140~180であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のインクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出したインクによって印刷を実行するインクジェット印刷方法およびインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット印刷方法として、紫外線硬化型インクの層に対する紫外線の照射量について、一部の位置への照射量を他の位置への照射量と異ならせることで、造形中の造形物の反りを発生しにくくできるものが知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-065308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来とは異なる方法によって印刷物の反りを抑えることができるインクジェット印刷方法およびインクセットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のインクジェット印刷方法は、光が照射されて硬化収縮するインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクに向けて光を照射する光照射装置とを備えるインクジェットプリンターを使用したインクジェット印刷方法であって、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい順反りである前記インクとしての順反りインクと、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい逆反りである前記インクとしての逆反りインクとを互いの反りを低減する配置で印刷することを特徴とする。
【0006】
この構成により、本発明のインクジェット印刷方法は、順反りインクと、逆反りインクとを互いの反りを低減する配置で印刷するので、印刷物の反りを抑えることができる。
【0007】
本発明のインクジェット印刷方法は、前記インクジェットヘッドによって吐出されて媒体上に着弾した前記インクの滴が複数連結されるように印刷する場合に、前記順反りインクの前記滴と、前記逆反りインクの前記滴とを混合して印刷しても良い。
【0008】
この構成により、本発明のインクジェット印刷方法は、インクジェットヘッドによって吐出されて媒体上に着弾したインクの滴が複数連結されるように印刷する場合に、順反りインクの滴と、逆反りインクの滴とを混合して印刷するので、例えば薄い媒体に印刷されて形成される印刷物の反りを抑えることができる。
【0009】
本発明のインクジェット印刷方法は、前記インクの層を積み重ねて複数の前記層によって立体的な造形物を形成するように印刷する場合に、前記順反りインクによって形成する前記層と、前記逆反りインクによって形成する前記層とが前記造形物に含まれるように印刷しても良い。
【0010】
この構成により、本発明のインクジェット印刷方法は、インクの層を積み重ねて複数の層によって立体的な造形物を形成するように印刷する場合に、順反りインクによって形成する層と、逆反りインクによって形成する層とが造形物に含まれるように印刷するので、立体的な造形物である印刷物の反りを抑えることができる。
【0011】
本発明のインクジェット印刷方法は、前記インクの層を積み重ねて複数の前記層によって立体的な造形物を形成するように印刷する場合に、前記順反りインクおよび前記逆反りインクを混合して形成する前記層が前記造形物に含まれるように印刷しても良い。
【0012】
この構成により、本発明のインクジェット印刷方法は、インクの層を積み重ねて複数の層によって立体的な造形物を形成するように印刷する場合に、順反りインクおよび逆反りインクを混合して形成する層が造形物に含まれるように印刷するので、立体的な造形物である印刷物の反りを抑えることができる。
【0013】
本発明のインクセットは、光が照射されて硬化収縮するインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記インクに向けて光を照射する光照射装置とを備えるインクジェットプリンターによって使用されるインクセットであって、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい順反りである前記インクとしての順反りインクと、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが、前記光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分が、前記光照射装置によって光が照射される側の部分と比較して、硬化収縮の程度において大きい逆反りである前記インクとしての逆反りインクとを備えることを特徴とする。
【0014】
この構成により、本発明のインクセットは、順反りインクと、逆反りインクとを互いの反りを低減する配置でインクジェットプリンターによって印刷されることによって、印刷物の反りを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインクジェット印刷方法およびインクセットは、従来とは異なる方法によって印刷物の反りを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンターの外観斜視図である。
図2図1に示すインクジェットプリンターのブロック図である。
図3】インクジェットヘッドおよび光照射装置の一例を示すための、図1に示すキャリッジの底面図である。
図4】(a)インクが順反りしている場合の図1に示すインクジェットプリンターの一部の正面図である。 (b)インクが逆反りしている場合の図1に示すインクジェットプリンターの一部の正面図である。
図5図1に示すインクジェットプリンターによる実験によって印刷される印刷物の側面図である。
図6図1に示すインクジェットプリンターによる1つ目の実験結果を示す図である。
図7図1に示すインクジェットプリンターによる2つ目の実験結果を示す図である。
図8図1に示すインクジェットプリンターによって印刷される印刷物の一部の斜視図である。
図9】本発明の一実施の形態に係るインクジェットプリンターの変形例の外観斜視図である。
図10図1に示すインクジェットプリンターとは異なる3D印刷用のインクジェットプリンターによって印刷される立体的な印刷物の側面断面図である。
図11図10に示す造形領域を構成するインク層の、図10に示す例とは異なる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
まず、本実施の形態に係るインクジェットプリンターの構成について説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係るインクジェットプリンター10の外観斜視図である。
【0020】
図1に示すように、インクジェットプリンター10は、矢印Zで示す鉛直方向における下側から媒体70を支持するプラテン11と、プラテン11に対して鉛直方向における上側に配置されていて鉛直方向に直交する矢印Yで示す左右方向(以下「主走査方向」という。)に延在しているガイドレール12と、ガイドレール12によって主走査方向における移動がガイドされるキャリッジ13と、プラテン11に支持された媒体70に向けてインクを吐出する複数のインクジェットヘッド14と、プラテン11に支持された媒体70に付着したインクに向けて光を照射する複数の光照射装置15とを備えている。
【0021】
キャリッジ13は、ガイドレール12によってガイドされて後述のキャリッジ走査装置17(図2参照。)によって、主走査方向のうち矢印Yaで示す一方の方向(以下「往路方向」という。)と、主走査方向のうち矢印Ybで示す他方の方向(以下「復路方向」という。)とに移動させられる。
【0022】
インクジェットヘッド14および光照射装置15は、キャリッジ13に搭載されている。
【0023】
インクジェットヘッド14によって吐出されるインクは、光照射装置15によって光が照射されることによって硬化するインクであり、例えば、紫外線が照射されることによって硬化するUVインクである。インクジェットヘッド14によって吐出されるインクとしては、様々なインクが採用されることが可能である。例えば、インクジェットヘッド14によって吐出されるインクとしては、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、ライトシアンインク、ライトマゼンタインク、ライトイエローインク、ライトブラックインク、ホワイトインク、クリアーインク、シルバーインクが採用されることが可能である。
【0024】
光照射装置15は、例えば、LED(Light Emitting Diode)によって紫外線を照射する装置である。
【0025】
媒体70としては、例えば、紙やフィルムなどの薄い媒体など、任意の媒体が採用されることが可能である。
【0026】
図2は、インクジェットプリンター10のブロック図である。
【0027】
図2に示すように、インクジェットプリンター10は、複数のインクジェットヘッド14と、複数の光照射装置15と、鉛直方向および主走査方向の両方に直交する矢印X(図1参照。)で示す前後方向(以下「副走査方向」という。)に媒体70(図1参照。)を搬送する媒体搬送装置16と、ガイドレール12(図1参照。)に沿って主走査方向にプラテン11(図1参照。)に対してキャリッジ13(図1参照。)を移動させるキャリッジ走査装置17と、種々の操作が入力される例えばボタンなどの入力デバイスである操作部18と、種々の情報を表示するLCD(Liquid Crystal Display)などの表示デバイスである表示部19と、ネットワーク経由で、または、ネットワークを介さずに有線または無線によって直接に、外部の装置と通信を行う通信デバイスである通信部20と、各種の情報を記憶する半導体メモリー、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶デバイスである記憶部21と、インクジェットプリンター10全体を制御する制御部22とを備えている。
【0028】
制御部22は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよび各種のデータを記憶しているROM(Read Only Memory)と、CPUの作業領域として用いられるRAM(Random Access Memory)とを備えている。CPUは、ROMまたは記憶部21に記憶されているプログラムを実行する。
【0029】
図3は、インクジェットヘッド14および光照射装置15の一例を示すためのキャリッジ13の底面図である。
【0030】
図3に示す例では、キャリッジ13には、インクジェットヘッド14として、インクジェットヘッド31、32および33が搭載されている。また、キャリッジ13には、光照射装置15として、光照射装置34および35が搭載されている。
【0031】
インクジェットヘッド31と、インクジェットヘッド32とは、主走査方向における位置が互いに異なるが、副走査方向における位置は同一である。インクジェットヘッド31および32のそれぞれと、インクジェットヘッド33とは、スタガ配置されている。すなわち、インクジェットヘッド31および32のそれぞれと、インクジェットヘッド33とは、主走査方向における位置が互いに異なるとともに、副走査方向における位置も互いに異なる。
【0032】
インクジェットヘッド31は、インクを吐出するノズルが副走査方向に多数並べられたノズル列31aおよび31bを備えている。ノズル列31aおよび31bは、主走査方向に並べられている。ノズル列31a、31bによって吐出されるインクは、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが後述の順反りであるインク(以下「順反りインク」という。)である。ノズル列31a、31bによって吐出されるインクとしては、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製のLH-100、MH-100(3D印刷用)が採用されることが可能である。
【0033】
インクジェットヘッド32は、インクを吐出するノズルが副走査方向に多数並べられたノズル列32aおよび32bを備えている。ノズル列32aおよび32bは、主走査方向に並べられている。ノズル列32a、32bによって吐出されるインクは、光が照射されて硬化収縮した場合の反りが後述の逆反りであるインク(以下「逆反りインク」という。)である。ノズル列32a、32bによって吐出されるインクとしては、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製のLF-140、LUS-120、LUS-150、LUS-200が採用されることが可能である。
【0034】
インクジェットヘッド33は、インクを吐出するノズルが副走査方向に多数並べられたノズル列33aおよび33bを備えている。ノズル列33aおよび33bは、主走査方向に並べられている。ノズル列33a、33bによって吐出されるインクは、逆反りインクである。ノズル列33a、33bによって吐出されるインクとしては、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製のLF-140が採用されることが可能である。
【0035】
以上に説明したように、インクジェットプリンター10は、順反りインクと、逆反りインクと使用する。なお、インクジェットプリンター10は、順反りインクと、逆反りインクとを備えるインクセットを使用しても良い。
【0036】
光照射装置34は、インクジェットヘッド31~33に対して往路方向に配置されていて、光照射装置35は、インクジェットヘッド31~33に対して復路方向に配置されている。
【0037】
次に、上述の順反りおよび逆反りについて説明する。
【0038】
図4(a)は、インクが順反りしている場合のインクジェットプリンター10の一部の正面図である。図4(b)は、インクが逆反りしている場合のインクジェットプリンター10の一部の正面図である。
【0039】
順反りは、図4(a)に示すように、インクジェットヘッド14によって吐出されて形成されたインクの層(以下「インク層」という。)80のうち、光照射装置15によって光が照射される側の部分、すなわち、鉛直方向における上側の部分80aが、光照射装置15によって光が照射される側とは反対側の部分、すなわち、鉛直方向における下側の部分80bと比較して、硬化収縮の程度において大きい反りである。
【0040】
逆反りは、図4(b)に示すように、インク層80のうち、光照射装置15によって光が照射される側とは反対側の部分、すなわち、鉛直方向における下側の部分80bが、光照射装置15によって光が照射される側の部分、すなわち、鉛直方向における上側の部分80aと比較して、硬化収縮の程度において大きい反りである。
【0041】
次に、インクジェットプリンター10の動作について説明する。
【0042】
通信部20を介して印刷データを受信すると、制御部22は、通信部20を介して受信した印刷データに基づいて、媒体70に対して印刷を実行する。すなわち、制御部22は、キャリッジ走査装置17によって主走査方向にキャリッジ13を移動させてインクジェットヘッド14によって媒体70に向けてインクを吐出し、媒体70に付着したインクに向けて光照射装置15によって光を照射することによって、主走査方向における媒体70に対する印刷を実行する。また、制御部22は、主走査方向における媒体70に対する印刷を実行すると、必要に応じて、媒体搬送装置16によって副走査方向に媒体70を搬送することによって、副走査方向における媒体70に対する印刷の位置を変更した後、再び主走査方向における媒体70に対する印刷を実行する。
【0043】
キャリッジ13がキャリッジ走査装置17によって主走査方向に移動させられる場合にインクジェットヘッド14によってインクが吐出されるとき、このインクジェットヘッド14によって吐出されて媒体70に付着したインクには、このインクジェットヘッド14に対してキャリッジ13の移動方向の上流側に配置されている光照射装置15によって光が照射させられる。すなわち、キャリッジ13がキャリッジ走査装置17によって往路方向に移動させられている場合にインクジェットヘッド31~33によってインクが吐出されるとき、インクジェットヘッド31~33によって吐出されて媒体70に付着したインクには、光照射装置35によって光が照射させられる。キャリッジ13がキャリッジ走査装置17によって復路方向に移動させられている場合にインクジェットヘッド31~33によってインクが吐出されるとき、インクジェットヘッド31~33によって吐出されて媒体70に付着したインクには、光照射装置34によって光が照射させられる。
【0044】
次に、インクジェットプリンター10による実験結果について説明する。
【0045】
まず、インクジェットプリンター10による1つ目の実験について説明する。
【0046】
図5は、インクジェットプリンター10による実験によって印刷される印刷物90の側面図である。
【0047】
図5に示す印刷物90は、媒体70の上にインク層91、92が形成されている。すなわち、図5に示す印刷物90は、媒体70の上にインク層が2層のみ形成されている。
【0048】
インクジェットプリンター10による1つ目の実験においては、インク層91がインクジェットヘッド33によって印刷されて、インク層91の上のインク層92がインクジェットヘッド31およびインクジェットヘッド32の両方によって印刷される。インクジェットヘッド31およびインクジェットヘッド32は、主走査方向における同一の走査においてインクを吐出することによって、インク層92を形成する。
【0049】
図6は、インクジェットプリンター10による1つ目の実験結果を示す図である。
【0050】
図6において、数値は、インクの量(%)を示している。インクの量を示す数値は、インクジェットプリンター10によって媒体70上に印刷する画像において、1つのノズル列によって吐出したインクのドットによって全ての画素を形成する場合が100%である。したがって、図6において、インクジェットヘッド31について、例えば160%とは、例えばノズル列31a、31bがそれぞれ80%ずつインクを吐出したということである。インクジェットヘッド32について、例えば60%とは、例えばノズル列32a、32bがそれぞれ30%ずつインクを吐出したということである。インクジェットヘッド33について、200%とは、ノズル列33a、33bがそれぞれ100%ずつインクを吐出したということである。
【0051】
インクジェットプリンター10による1つ目の実験結果では、インク層92を形成するインクにおいて、順反りインクと、逆反りインクとの割合は、120%:80%である場合と、160%:60%である場合とが反りが許容量以下であった。すなわち、インク層92を形成するインクにおいて、順反りインクと、逆反りインクとの割合が120~160%:60~80%である場合の反りが許容量以下であった。
【0052】
次に、インクジェットプリンター10による2つ目の実験について説明する。
【0053】
インクジェットプリンター10による2つ目の実験では、ノズル列33bによって吐出されるインクが順反りインクである点がインクジェットプリンター10による1つ目の実験と異なる。ノズル列33bによって吐出されるインクとしては、例えば、株式会社ミマキエンジニアリング製のLH-100が採用されることが可能である。
【0054】
インクジェットプリンター10による2つ目の実験においては、1つ目の実験と同様に、インク層91がインクジェットヘッド33によって印刷されて、インク層91の上のインク層92がインクジェットヘッド31およびインクジェットヘッド32の両方によって印刷される。インクジェットヘッド33におけるノズル列33aおよびノズル列33bは、主走査方向における同一の走査においてインクを吐出することによって、インク層91を形成する。インクジェットヘッド31およびインクジェットヘッド32は、主走査方向における同一の走査においてインクを吐出することによって、インク層92を形成する。
【0055】
図7は、インクジェットプリンター10による2つ目の実験結果を示す図である。
【0056】
図7において、数値は、図6と同様に、インクの量(%)を示している。
【0057】
インクジェットプリンター10による2つ目の実験結果では、インク層92を形成するインクにおいて、順反りインクと、逆反りインクとの割合は、60%:180%である場合と、80%:160%である場合と、80%:140%である場合とが反りが許容量以下であった。すなわち、インク層92を形成するインクにおいて、順反りインクと、逆反りインクとの割合が60~80%:140~180%である場合の反りが許容量以下であった。
【0058】
以上に説明したように、本実施の形態に係るインクジェット印刷方法は、順反りインクと、逆反りインクとを互いの反りを低減する配置で印刷するので、印刷物の反りを抑えることができる。
【0059】
なお、順反りインクと、逆反りインクとが互いの反りを低減する配置とは、同一のインク層において順反りインクおよび逆反りインクを混合する配置でも良いし、複数重ねられたインク層の中に、少なくとも順反りインクによって形成されるインク層と、少なくとも逆反りインクによって形成されるインク層とを含む配置でも良い。
【0060】
ここで、同一のインク層において順反りインクおよび逆反りインクを混合する配置の一例について、図8を用いて説明する。
【0061】
図8は、インクジェットプリンター10によって印刷される印刷物100の一部の斜視図である。
【0062】
図8に示すように、インクジェットヘッド14によって吐出されて媒体70上に着弾したインクの滴101が複数連結されるように印刷する。このとき、インクの滴101には、順反りインクの滴101aと、逆反りインクの滴101bとが含まれる。順反りインクの滴101aと、逆反りインクの滴101bとを混合して印刷するので、例えば薄い媒体70に印刷されて形成される印刷物100の反りを抑えることができる。
【0063】
なお、図8において、順反りインクの滴101aと、逆反りインクの滴101bとは、濃淡の違いによって描き分けている。すなわち、図8に描かれているインクの滴101のうち、濃度が濃く描かれているものが順反りインクの滴101aであり、濃度が薄く描かれているものが逆反りインクの滴101bである。図8においては、順反りインクの滴101aと、逆反りインクの滴101bとが交互に描かれているが、順反りインクの滴101aと、逆反りインクの滴101bとの配置のパターンは、図8に示すパターン以外のパターンであっても良い。
【0064】
インクジェットプリンター10は、インクジェットヘッド14の配置が本実施の形態において図3に示す配置であるが、図3に示す配置以外の配置でも良い。
【0065】
インクジェットプリンター10は、本実施の形態において、プラテン11に対して媒体70を副走査方向に搬送することによって、インクジェットヘッド14に対して媒体70を副走査方向に移動させている。しかしながら、インクジェットプリンター10は、プラテン11を図1に示すものより副走査方向に伸ばして、例えば図9に示すように、いわゆるフラットベッドタイプのインクジェットプリンターにして、プラテン11に対してガイドレール12およびキャリッジ13を副走査方向に移動させる機構を備えることによって、媒体70に対してインクジェットヘッド14を副走査方向に移動させても良い。
【0066】
以上においては、2D印刷について説明している。しかしながら、本発明は、2.5D印刷や3D印刷にも適用可能である。
【0067】
図10は、インクジェットプリンター10とは異なる3D印刷用のインクジェットプリンターによって印刷される立体的な印刷物110の側面断面図である。
【0068】
図10に示す印刷物110は、インク層110aを積み重ねて複数のインク層110aによって立体的な造形物を形成するように印刷したものである。
【0069】
図10に示す印刷物110は、立体物111と、造形中の立体物111の外周を囲むことによって立体物111を支持するサポート部112とを備えている。サポート部112は、立体物111の造形が完了した後に、例えば水によって溶解除去されるなど、何らかの方法によって立体物111の外周から除去される。
【0070】
立体物111は、立体物111の主な形状を形成する造形領域111aと、造形領域111aに隣接して造形領域111aの外部に配置されている白色の白色領域111bと、白色領域111bに隣接して白色領域111bの外部に配置されている透明な内部クリアー領域111cと、内部クリアー領域111cに隣接して内部クリアー領域111cの外部に配置されていて着色されている着色領域111dと、着色領域111dに隣接して着色領域111dの外部に配置されている透明な外部クリアー領域111eとを備えている。
【0071】
白色領域111bは、外部クリアー領域111e、着色領域111dおよび内部クリアー領域111cを介して立体物111の外部から入射する光を反射するので、着色領域111dによる着色が立体物111の外部から適切な色で視認されるようにすることができる。
【0072】
内部クリアー領域111cは、白色領域111bと、着色領域111dとの間に設けられるので、例えば、印刷物110が形成される場合に、インク層110aの上端が図示していない平坦化部材によって平坦化されるときに、白色領域111bにおける白色のインクと、着色領域111dにおける白色以外のインクとが混ざることを適切に防ぐことができる。
【0073】
外部クリアー領域111eは、立体物111の表面の物理的な接触から保護したり、紫外線による着色領域111dの退色を防止したりすることができる。
【0074】
白色領域111b、内部クリアー領域111c、着色領域111dおよび外部クリアー領域111eのそれぞれは、少なくとも一部が省略されても良い。
【0075】
造形領域111aを構成するインク層110aには、順反りインクによって形成するインク層110bと、逆反りインクによって形成するインク層110cとが含まれる。順反りインクによって形成するインク層110bと、逆反りインクによって形成するインク層110cとが造形物に含まれるように印刷するので、立体的な造形物である印刷物110の反りを抑えることができる。
【0076】
なお、図10において、順反りインクによって形成するインク層110bと、逆反りインクによって形成するインク層110cとは、濃淡の違いによって描き分けている。すなわち、図10に描かれている造形領域111aを構成するインク層110aのうち、濃度が濃く描かれているものが順反りインクによって形成するインク層110bであり、濃度が薄く描かれているものが逆反りインクによって形成するインク層110cである。図10においては、順反りインクによって形成するインク層110bと、逆反りインクによって形成するインク層110cとが交互に描かれているが、順反りインクによって形成するインク層110bと、逆反りインクによって形成するインク層110cとの配置のパターンは、図10に示すパターン以外のパターンであっても良い。
【0077】
図11は、図10に示す造形領域111aを構成するインク層110aの、図10に示す例とは異なる例を示す図である。
【0078】
図11に示すインク層110aは、順反りインクによって形成する部分110dと、逆反りインクによって形成する部分110eとが混合して形成されている。順反りインクおよび逆反りインクを混合して形成するインク層110aが造形物に含まれるように印刷するので、立体的な造形物である印刷物110の反りを抑えることができる。
【0079】
なお、図11において、順反りインクによって形成する部分110dと、逆反りインクによって形成する部分110eとは、濃淡の違いによって描き分けている。すなわち、図11に描かれているインク層110aのうち、濃度が濃く描かれているものが順反りインクによって形成する部分110dであり、濃度が薄く描かれているものが逆反りインクによって形成する部分110eである。図11においては、順反りインクによって形成する部分110dと、逆反りインクによって形成する部分110eとが交互に描かれているが、順反りインクによって形成する部分110dと、逆反りインクによって形成する部分110eとの配置のパターンは、図11に示すパターン以外のパターンであっても良い。
【符号の説明】
【0080】
10 インクジェットプリンター
14 インクジェットヘッド
15 光照射装置
31~33 インクジェットヘッド
34、35 光照射装置
70 媒体
80a 部分(光照射装置によって光が照射される側の部分)
80b 部分(光照射装置によって光が照射される側とは反対側の部分)
90 印刷物
100 印刷物
101 滴(インクの滴)
101a 滴(順反りインクの滴)
101b 滴(逆反りインクの滴)
110 印刷物(造形物)
110a インク層(インクの層)
110b インク層(順反りインクによって形成するインク層)
110c インク層(逆反りインクによって形成するインク層)
110d 部分(順反りインクによって形成する部分)
110e 部分(逆反りインクによって形成するインク層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11