(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20231024BHJP
C07C 69/88 20060101ALI20231024BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/88
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019176749
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼口 正基
(72)【発明者】
【氏名】霜田 航平
(72)【発明者】
【氏名】土谷 美緒
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-125164(JP,A)
【文献】国際公開第2005/033060(WO,A1)
【文献】特開2012-193169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0087146(US,A1)
【文献】特開2015-017071(JP,A)
【文献】特開2016-204495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 67/08
C07C 69/84
C07C 69/88
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸触媒の存在下、
アニソールを10質量%以上含む溶媒中で4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,4-シクロヘキサンジメタノール0.3~0.8モル当量を反応させる工程を含む、式(1)
【化1】
で表されるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの製造方法
であって、
4-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対して、酸触媒0.1~10質量部を存在させる、方法。
【請求項2】
酸触媒は、芳香族スルホン酸類、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸からなる群から選択される1種以上である、請求項
1に記載
の方法。
【請求項3】
酸触媒は、p-トルエンスルホン酸である、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒は、クロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ニトロベンゼン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、ジオキサン
、ジフェニルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンおよび軽油からなる群から選択される1種以上
を含む、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに、メタノールを用いた懸濁洗浄による精製工程を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンのような脂肪族環を有するジフェノール化合物については、その構造的特徴から、樹脂の改質剤や感熱記録材料の顕色剤としての用途が提案されている(特許文献1)。
【0003】
ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの製造方法としては、4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとを有機スズ化合物などの金属触媒の存在下で反応させる方法(特許文献2)、あるいは、4-ヒドロキシ安息香酸メチルと1,4-シクロヘキサンジメタノールとをエステル交換させる方法(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-17082号公報
【文献】米国特許2007/0087146A1
【文献】特開昭60-168721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者の方法は、工業的に扱い難い金属触媒を使用するものであり、また、反応温度も200℃を超えるため製造設備が制限されるという問題があった。また、後者のエステル交換法は、原料4-ヒドロキシ安息香酸から中間体としてメチルエステル体を製造する工程が必要となるため、経済的に不利になるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、金属触媒を使用することなく、高純度のビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを製造する方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、4-ヒドロキシ安息香酸を原料として、簡易かつ安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの製造方法について鋭意検討した結果、酸触媒および溶媒存在下で4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとを反応させることにより、高純度のビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕酸触媒の存在下、溶媒中で4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,4-シクロヘキサンジメタノール0.3~0.8モル当量を反応させる工程を含む、式(1)
【化1】
で表されるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの製造方法。
〔2〕4-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対して、酸触媒0.1~10質量部を存在させる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕酸触媒は、芳香族スルホン酸類、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸からなる群から選択される1種以上である、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕酸触媒は、p-トルエンスルホン酸である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕溶媒は、クロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ニトロベンゼン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、および軽油からなる群から選択される1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によると、金属触媒を使用することなく、高純度のビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを得ることができる。また、本発明の方法によると、煩雑な工程や特別な設備が不要であり、簡易かつ安価にビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法において、4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,4-シクロヘキサンジメタノール0.3~0.8モル当量、好ましくは0.35~0.7モル当量、より好ましくは0.4~0.6モル当量を反応させる。
【0011】
4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、これと反応させるべき1,4-シクロヘキサンジメタノールの量が0.3モル当量を下回る場合、副生物が生じる傾向があるとともに、4-ヒドロキシ安息香が過剰となり原料の無駄となる。1,4-シクロヘキサンジメタノールの量が0.8モル当量を上回る場合、過剰量の脂肪族アルコールが残存し、目的物であるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンの純度が低下する傾向がある。
【0012】
本発明の製造方法に使用する1,4-シクロヘキサンジメタノールは、シス体、トランス体、またはそれらの混合物のいずれであってもよい。
【0013】
本発明において、4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応は、酸触媒の存在下で行われる。好適に用いられる酸触媒としては、例えば、芳香族スルホン酸類、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸からなる群から選択される一種以上が挙げられる。これらの中で反応性に優れ、かつ副反応が抑制される点で芳香族スルホン酸類が好ましく使用される。
【0014】
芳香族スルホン酸類の具体例としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等が挙げられるが、反応性および入手容易性に優れる点で、p-トルエンスルホン酸が好ましい。
【0015】
これらの触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明の製造方法に使用する酸触媒の量は、特に限定されないが、通常、4-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対して0.1~10質量部であるのが好ましく、1~8質量部であるのがより好ましい。
【0017】
4-ヒドロキシ安息香酸100質量部に対し、酸触媒の量が0.1質量部を下回る場合、反応が十分進行しないことがあり得る。酸触媒の量が10質量部を上回る場合、目的物であるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンに過反応によってさらに4-ヒドロキシ安息香酸が反応した化合物等の副生物が生成する傾向があるとともに、経済的にも不利となり得る。
【0018】
本発明において、4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応は、溶媒の存在下で行われる。好適に用いられる溶媒としては、例えば、クロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ニトロベンゼン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンおよび軽油からなる群から選択される一種以上が挙げられる。これらの溶媒の中でも、反応性に優れる点でトルエン、キシレン、メシチレンおよびアニソールが好ましく、特に反応性に優れる点でキシレンおよびアニソールが好ましい。
【0019】
これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の方法に使用する溶媒の量は、4-ヒドロキシ安息香酸に対して1倍質量以上であるのが好ましく、2~30倍質量であるのがより好ましく、3~10倍質量であるのがさらに好ましい。
【0021】
4-ヒドロキシ安息香酸に対し、溶媒の量が1倍質量を下回る場合、攪拌不良が生じることがあり得る。
【0022】
4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応は、80~180℃の温度下で行うのが好ましく、100~160℃の温度下で行うのがより好ましい。反応温度が80℃を下回る場合、反応が十分に進行しない傾向があり、反応温度が180℃を上回る場合、副生物が生成する傾向がある。
【0023】
反応時間は、反応温度等の条件によって変動するため特に限定されないが、通常1~30時間、好ましくは3~20時間、より好ましくは5~15時間の間で適宜選択される。
【0024】
本発明において、4-ヒドロキシ安息香酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールとの反応は、窒素気流下またはバブリング下、もしくは減圧条件下で行うのが好ましい。このような条件下で反応させると、反応から副生する水を容易に除去し、反応を円滑に進行させることが可能となるため好ましい。
【0025】
上記の反応工程で得られたビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンは、好適には、さらに再結晶や懸濁洗浄等の精製工程を経ることにより、より高純度のものとすることができる。
【0026】
任意に行われる懸濁洗浄による精製は、上記の反応工程で得られたビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを含む粗組成物を溶媒中で懸濁洗浄することによって行われる。
【0027】
懸濁洗浄で使用する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、酢酸、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピルおよび酢酸ブチルからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0028】
懸濁洗浄における溶媒の量は、溶媒の種類によっても異なるが、回収したビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンに対して通常1~20倍質量であり、好ましくは1.5~10倍質量である。溶媒の量が4-ヒドロキシ安息香酸に対して1倍質量以上とすると、原料や酸触媒あるいは副生物などの不純物が結晶中に取り込まれてしまうことなく、より高純度の結晶を得ることが容易になる点で好適である。溶媒の量が20倍質量以下とすると、収率が低下することなく、経済的にも有利となる。
【0029】
洗浄する際の温度は、用いる溶媒の種類および混合比率によって異なるため特に限定されないが、好ましくは20℃~200℃、より好ましくは30℃~180℃、さらに好ましくは40~150℃である。
【0030】
洗浄後、濾過等の常套手段により固液分離し、目的物であるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを回収する。固液分離に際し、適宜有機溶媒または水を注いで結晶を洗浄するのが好ましい。固液分離における洗浄に用いる有機溶媒または水は、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンに対し、0.3~2倍質量であるのが好ましい。
【0031】
固液分離によって回収された結晶は、常圧下において通風乾燥するか、あるいは減圧下で乾燥し、溶媒を留去することによって、高純度のビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンを得ることができる 。
【0032】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
目的物であるビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレンは、以下の方法によって分析した。
【0034】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)>
装置: Waters UPLC H-Class システム
カラム型番: ACQUITY UPLC HSS C18 1.8μm 2.1×50mm
液量: 0.5mL/分
溶媒比: H2O(pH2.3)/MeOH=80/20(1.5分)→0.5分→45/55(3分)→0.5分→15/85(4分)
波長: 229nm
カラム温度: 40℃
【0035】
<純度の算出>
下記式により目的物の純度(面積%)を算出した。
純度(面積%)=[目的物のピーク面積]/[保持時間0.6分から9.5分までの全ピーク面積の和]×100
【0036】
実施例1
攪拌機、温度センサーおよびディーン・スターク装置を備えた5Lの4ツ口フラスコに、4-ヒドロキシ安息香酸760g(5.5モル)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(cis-,trans-混合物)(東京化成工業株式会社)397g(2.8モル)、p-トルエンスルホン酸一水和物25gおよびアニソール3571gを仕込み、窒素気流下136~141℃で12時間反応した。反応液を30℃まで冷却し、吸引ろ過した後、メタノール760gで洗浄した。
【0037】
攪拌機および温度センサーを備えた5Lの4ツ口フラスコに、回収した粗結晶およびメタノール3571gを仕込み、60℃で1時間洗浄した。懸濁液を30℃まで冷却し、吸引ろ過した後、メタノール760gで洗浄し、回収した結晶を30hPa、70℃で減圧乾燥することにより、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレン641gを得た(純度99.6%)。
【0038】
実施例2
攪拌機、温度センサーおよびディーン・スターク装置を備えた5Lの4ツ口フラスコに、4-ヒドロキシ安息香酸760g(5.5モル)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(cis-,trans-混合物)(東京化成工業株式会社)397g(2.8モル)、p-トルエンスルホン酸一水和物51gおよびアニソール3267gを仕込み、窒素気流下128~131℃で12時間反応した。反応液を30℃まで冷却し、吸引ろ過した後、メタノール760gで洗浄した。
【0039】
攪拌機および温度センサーを備えた5Lの4ツ口フラスコに、回収した粗結晶およびメタノール3041gを仕込み、60℃で1時間洗浄した。懸濁液を30℃まで冷却し、吸引ろ過した後、メタノール760gで洗浄し、回収した結晶を100℃で通風乾燥することにより、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレン695gを得た(純度99.8%)。
【0040】
実施例3
攪拌機、温度センサーおよびディーン・スターク装置を備えた5Lの4ツ口フラスコに、4-ヒドロキシ安息香酸553g(4.0モル)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(cis-,trans-混合物)(東京化成工業株式会社)288g(2.0モル)、p-トルエンスルホン酸一水和物18g、キシレン2735gおよびアニソール304gを仕込み、窒素気流下125~136℃で12時間反応した。反応液を30℃まで冷却し、吸引ろ過した後、メタノール553gで洗浄した。
【0041】
攪拌機および温度センサーを備えた5Lの4ツ口フラスコに、回収した粗結晶およびメタノール2211gを仕込み、60℃で1時間洗浄した。懸濁液を30℃まで冷却し、吸引ろ過した後、メタノール553gで洗浄し、回収した結晶を100℃で通風乾燥することにより、ビス(4-ヒドロキシ安息香酸)1,4-シクロヘキサンジイルビスメチレン514gを得た(純度99.7%)。