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特許7372130水素貯蔵方法、水素ガスの製造方法及び水素ガス製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】水素貯蔵方法、水素ガスの製造方法及び水素ガス製造システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20231024BHJP
   C01B 3/22 20060101ALI20231024BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20231024BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C01B3/22 Z
B01D61/02 500
B01D61/44 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019222351
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021091567
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 広和
(72)【発明者】
【氏名】平野 誠人
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-500272(JP,A)
【文献】特開2002-068702(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076156(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/053317(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/111860(WO,A1)
【文献】特開昭57-095827(JP,A)
【文献】特開2019-115908(JP,A)
【文献】特開2018-75510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-6/34
C01D 13/00、15/00、17/00
B01D 61/00-71/82
B01D 53/22
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いる水素ガスの製造方法であって、
前記ギ酸アルカリ金属塩を0.01mol/L以上10mol/L以下含む水溶液を、逆浸透膜を備えた分離膜ユニットを用いて、前記ギ酸アルカリ金属塩の濃度が0.1mol/L以上前記ギ酸アルカリ金属塩の飽和濃度以下の水溶液に濃縮する濃縮工程を含む第一の工程と、
電気透析により前記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる第二の工程と、
前記ギ酸を分解して前記水素ガスを製造する第三の工程を含む、
水素ガスの製造方法。
【請求項2】
更に、アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中に前記ギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程を含む、請求項1に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項3】
前記第一の工程は、前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液より水を留去する工程を含む、請求項1又は2に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項4】
前記ギ酸アルカリ金属塩は、ギ酸ナトリウム塩である請求項1~のいずれか一項に記載の水素ガスの製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属塩の存在下で二酸化炭素を水素化(水素との反応)する方法、アルカリ金属塩の存在下で二酸化炭素を電解する方法、アルカリ金属塩の存在下で光触媒によって二酸化炭素を還元する方法、アルカリ金属塩の存在下で酵素を用いた生物学的手法によって二酸化炭素を還元する方法、又はこれらの方法のいずれかをアルカリ金属塩の非存在下で行い、ギ酸を生成した後にアルカリ金属塩と反応させることでギ酸アルカリ金属塩を生成する方法により、二酸化炭素を用いて水溶液中にギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程と、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する第一の工程とを含み、
前記濃縮により得られた、前記ギ酸アルカリ金属塩の固体又は前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を、水素貯蔵材料として用いる、
水素貯蔵方法。
【請求項6】
前記第一の工程は、前記濃縮により前記ギ酸アルカリ金属塩の固体を得る工程であり、
前記ギ酸アルカリ金属塩の前記固体を水素貯蔵材料として用いる、請求項に記載の水素貯蔵方法。
【請求項7】
ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いる水素ガス製造システムであって、
前記ギ酸アルカリ金属塩を0.01mol/L以上10mol/L以下含む水溶液を、逆浸透膜を備えた分離膜ユニットを用いて、前記ギ酸アルカリ金属塩の濃度が0.1mol/L以上前記ギ酸アルカリ金属塩の飽和濃度以下の水溶液に濃縮する濃縮装置と、
電気透析により前記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる電気透析装置と、
前記ギ酸を分解して水素ガスを製造するギ酸分解装置を含む、水素ガス製造システム。
【請求項8】
更に、アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中に前記ギ酸アルカリ金属塩を生成させるギ酸アルカリ金属塩製造装置を含む請求項7に記載の水素ガス製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵方法、水素ガスの製造方法及び水素ガス製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化、化石燃料枯渇の問題などから、次世代エネルギーとして水素エネルギーに高い期待が寄せられている。水素エネルギー社会を実現するためには、水素の製造、貯蔵、利用の各技術が必要であるが、水素貯蔵には貯蔵、輸送、安全性、サイクル、コスト等の様々な課題がある。
【0003】
そして、水素貯蔵材料として、水素貯蔵合金、有機ハイドライド、無機ハイドライド、有機金属錯体、多孔質炭素材料等の、各種材料の開発が検討されている。
有機ハイドライドは、取扱いの簡便さや、水素貯蔵密度が高く軽量であるといった利点を有し注目されている。有機ハイドライドは危険物とされているものもあるため、低濃度の溶液として用いられる場合がある。また、脱水素化反応により水素を取り出す際には水素を高効率で分離・回収する必要がある。
有機ハイドライドとしては、ギ酸、ベンゼン、トルエン、ビフェニル、ナフタレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素化合物が知られている。中でもギ酸は、脱水素化反応に必要なエネルギーが低く、簡便な取扱いが可能であるため、水素貯蔵材料として優れた化合物と考えられており注目されている。
【0004】
ギ酸を水素貯蔵材料として用いる場合、塩基性溶液中で、二酸化炭素と水素とを接触させる、又は二酸化炭素を電気化学的に還元する反応等によりギ酸を生成させる。しかし、反応が平衡により停止し、低濃度のギ酸溶液しか得られない。輸送コストの削減には、高濃度のギ酸溶液を得ることが必要である。また、ギ酸溶液からギ酸を高効率で分離・回収する必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、二酸化炭素の水素化によるギ酸の製造、ギ酸の脱水素化による水素の製造、水素の貯蔵及び製造を高効率・高エネルギー効率で行うことを目的とし、触媒を用いてギ酸または/およびギ酸塩の生成と、触媒を用いてギ酸または/およびギ酸塩から水素を製造する方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5812290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、ギ酸の製造、及びギ酸の脱水素化による水素を製造する触媒に関するものであり、水素貯蔵材料の濃縮については検討がされていない。
【0008】
そこで、本発明は、水素貯蔵材料としてギ酸アルカリ金属塩を用いることにより、水素を取り扱いに優れた状態で貯蔵し、簡便な方法で濃縮でき、水素ガスを高効率で製造し得る水素貯蔵方法、水素ガスの製造方法及び水素ガス製造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
〔1〕
ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いる水素ガスの製造方法であって、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する第一の工程と、
電気透析により前記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる第二の工程と、
前記ギ酸を分解して前記水素ガスを製造する第三の工程を含む、
水素ガスの製造方法。
〔2〕
更に、アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中に前記ギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程を含む、〔1〕に記載の水素ガスの製造方法。
〔3〕
前記第一の工程は、前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を、逆浸透膜を備えた分離膜ユニットを用いて濃縮する工程を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の水素ガスの製造方法。
〔4〕
前記第一の工程は、前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液より水を留去する工程を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の水素ガスの製造方法。
〔5〕
前記ギ酸アルカリ金属塩は、ギ酸ナトリウム塩である〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の水素ガスの製造方法。
〔6〕
アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中にギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程と、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する第一の工程とを含む、
水素貯蔵方法。
〔7〕
前記第一の工程は、前記濃縮により前記ギ酸アルカリ金属塩の固体を得る工程である、〔6〕に記載の水素貯蔵方法。
〔8〕
ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いる水素ガス製造システムであって、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する濃縮装置と、
電気透析により前記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる電気透析装置と、
前記ギ酸を分解して水素ガスを製造するギ酸分解装置を含む、
水素ガス製造システム。
〔9〕
更に、アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中に前記ギ酸アルカリ金属塩を生成させるギ酸アルカリ金属塩製造装置を含む〔8〕に記載の水素ガス製造システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素を取り扱いに優れた状態で貯蔵し、簡便な方法で濃縮でき、水素ガスを高効率で製造し得る水素貯蔵方法、水素ガスの製造方法及び水素ガス製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る第二の工程を説明するための図である。
図2図2は、本発明の実施例を説明するための図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る水素ガス製造システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本発明の実施形態に係る水素ガス製造方法は、ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いる水素ガスの製造方法であって、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する第一の工程と、
電気透析により前記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる第二の工程と、
前記ギ酸を分解して水素ガスを製造する第三の工程を含む。
本発明の実施形態に係る水素ガス製造方法により、水素を取り扱いに優れた状態で貯蔵し、簡便な方法で濃縮でき、水素ガスを高効率で製造することができる。
【0013】
〔ギ酸アルカリ金属塩生成工程〕
本発明の実施形態に係る水素ガス製造方法は、更に、アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中にギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程(ギ酸アルカリ金属塩生成工程)を含んでいてもよい。
ギ酸アルカリ金属塩生成工程により、水素をギ酸アルカリ金属塩として貯蔵することができる。ギ酸アルカリ金属塩は水素貯蔵密度が高く、簡便な取り扱いが可能であり、ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いることにより、安全で、化学物質として安定であることから長期に貯蔵が可能という利点がある。この工程により生成したギ酸アルカリ金属塩水溶液は、第一の工程に供することができる。
【0014】
本発明の実施形態にかかるアルカリ金属塩は、アルカリ金属の無機塩を用いることができる。アルカリ金属塩は1種を単独でまたは複数を併用することができる。
【0015】
アルカリ金属塩のカチオン部を構成するアルカリ金属イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの各イオンが挙げられる。これらアルカリ金属イオンのなかでもナトリウムイオン、又はカリウムイオンが好ましい。
【0016】
アルカリ金属塩のアニオン部は、ギ酸アルカリ金属塩を生成できるものであれば特に制限はない。アニオン部としては、例えば、水酸化物イオン(OH)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、硝酸イオン(NO3-)、硫酸イオン(SO 2-)、リン酸イオン(PO 2-)、ホウ酸イオン(BO 3-)、炭酸水素イオン(HCO )、および炭酸イオン(CO 2-)が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0017】
アルカリ金属塩としては、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどが挙げられる。ギ酸アルカリ金属塩が生成した際に副生成物が混ざりにくく、第二工程以降の操作が煩雑にならない観点から、水酸化物アルカリ金属塩、炭酸水素アルカリ金属塩、又は炭酸アルカリ金属塩が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムがさらに好ましい。
【0018】
ギ酸アルカリ金属塩生成工程に用いるアルカリ金属塩の含有量は、ギ酸アルカリ金属塩の生成量を稼ぐ観点から0.05mol/L以上であることが好ましく、0.1mol/L以上であることがより好ましく、0.2mol/L以上であることがさらに好ましい。また、資源節約の観点から20mol/L以下であることが好ましく、15mol/L以下であることがより好ましく、10mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0019】
アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中にギ酸アルカリ金属塩を生成させる方法としては、特に制限はなく、アルカリ金属塩の存在下で二酸化炭素の水素化(水素との反応)する方法、アルカリ金属塩の存在下で二酸化炭素を電解する方法、アルカリ金属塩の存在下で光触媒によって二酸化炭素を還元する方法、アルカリ金属塩の存在下で酵素等の生物学的手法によって二酸化炭素を還元する方法、又は各方法をアルカリ金属塩の非存在下で行い、ギ酸を生成した後にアルカリ金属塩と反応させることでギ酸アルカリ金属塩を生成する方法であってもよい。
【0020】
アルカリ金属塩の存在下で二酸化炭素の水素化反応については、用いる触媒は、ギ酸を製造できる限り、特に限定されない。例えば、周期表第8族、第9族、及び第10族に属する金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素(以下単に金属元素と称する場合がある)を含有することが好ましい。金属元素としては、具体的には、Fe、Ru、Os、Hs、Co、Rh、Ir、Mt、Ni、Pd、Pt、Dsが挙げられるが、触媒性能の観点からRu、Ir、Fe及びRhが好ましく、Ru及びIrがより好ましい。
【0021】
本発明の実施形態に用いる触媒は、水や有機溶媒等に溶解するものが好ましく、金属元素を含有する化合物(金属元素化合物)であることがより好ましい。
金属元素化合物としては、金属元素の、水素化塩、酸化物塩、ハロゲン化物塩(塩化物塩など)、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ハロゲン酸塩、過ハロゲン酸塩、亜ハロゲン酸塩、次亜ハロゲン酸塩、およびチオシアン酸塩などの無機酸との塩;アルコキシド塩、カルボン酸塩(酢酸塩、(メタ)アクリル酸塩など)、およびスルホン酸塩(トリフルオロメタンスルホン酸塩など)などの有機酸との塩;アミド塩、スルホンアミド塩、およびスルホンイミド塩(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩など)などの有機塩基との塩;アセチルアセトン塩、ヘキサフルオロアセチルアセトン塩、ポルフィリン塩、フタロシアニン塩、およびシクロペンタジエン塩などの錯塩;鎖状アミン、環状アミン、芳香族アミンなどを含む窒素化合物、リン化合物、リン及び窒素を含む化合物、硫黄化合物、一酸化炭素、二酸化炭素、および水などのうちの一つあるいは複数を含む錯体又は塩が挙げられる。これらの化合物は、水和物および無水物のいずれでもよく、特に限定されない。これらの中でも、ギ酸の生成効率をより高めることができる点から、ハロゲン化物塩、リン化合物を含む錯体、窒素化合物を含む錯体、およびリン及び窒素を含む化合物を含む錯体又は塩が好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
金属元素化合物は、市販されているものを使用することができ、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。公知の方法としては、例えば、特許第5896539号公報に記載の方法や、Chem.Rev.2017,117,9804-9838、Chem.Rev.2018,118,372-433に記載の方法等を用いることができる。
【0023】
触媒の使用量は、ギ酸あるいはギ酸アルカリ金属塩を製造できる限り、特に限定されない。触媒として、金属元素化合物を用いる場合、金属元素化合物の使用量は、触媒機能を十分に発現させるために、溶媒1Lに対し0.1μmol以上であることが好ましく、0.5μmol以上であることがより好ましく、1μmol以上であることがさらに好ましい。また、コストの観点から1mol以下であることが好ましく、10mmol以下であることがより好ましく、1mmol以下であることがさらに好ましい。なお、金属元素化合物を2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記範囲内であればよい。
【0024】
本発明の実施形態において、ギ酸あるいはギ酸アルカリ金属塩の製造に用いる溶媒としては、特に制限は無く、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール等を用いることができるが、より好適には、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンを用いることができ、更に好適には水を用いることができる。また、水と、水と混和する溶媒との混合溶媒によってギ酸の製造を行ったのち、水と混和する溶媒を留去することでギ酸あるいはギ酸アルカリ金属塩の水溶液としてもよい。
【0025】
ギ酸アルカリ金属塩生成工程により生成するギ酸アルカリ金属塩の濃度は、第一の工程の濃縮効率の観点から0.01mol/L以上であることが好ましく、0.05mol/L以上であることがより好ましく、0.1mol/L以上であることがさらに好ましい。また、ギ酸あるいはギ酸アルカリ金属塩の製造工程にかかる時間が長くなる観点から10mol/L以下であることが好ましく、5mol/L以下であることがより好ましく、3mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0026】
〔第一の工程〕
第一の工程は、ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する工程である。
第一の工程は、前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を、逆浸透膜を備えた分離膜ユニットを用いて濃縮する工程(濃縮工程)を含んでいてもよい。また、ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液より水を留去する工程(留去工程)を含んでいてもよい。第一の工程は、濃縮工程及び留去工程のいずれか一方を含んでもよく、両方を含んでも良い。
濃縮工程及び留去工程を行う順序及び回数に限定はなく、例えば、濃縮工程、留去工程をこの順で含んでもよく、留去工程、濃縮工程、留去工程をこの順で含んでもよい。ギ酸アルカリ金属塩が低濃度の領域では留去工程にかかるエネルギーが多くなる傾向があるため、製造効率の観点から、濃縮工程、留去工程をこの順で含むことが好ましい。
第一の工程によりギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液が濃縮され、体積が小さくなるため輸送や保管のコストが抑えられ、かつ、取り扱いに優れるという利点がある。そのため、ギ酸アルカリ金属塩水溶液は、ギ酸アルカリ金属塩の固体が析出するまで濃縮してもよい。また、析出したギ酸アルカリ金属塩は乾固してもよい。
第一の工程は、ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液よりギ酸アルカリ金属塩の固体を得る工程であってもよい。
【0027】
(濃縮工程)
濃縮工程は、ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を、逆浸透膜を備えた分離膜ユニットを用いて濃縮する工程である。
濃縮工程による濃縮の程度は、適宜選択することができる。濃縮工程による濃縮後のギ酸アルカリ金属塩水溶液中におけるギ酸アルカリ金属塩の濃度は、その後の操作に適した濃度であれば特に限定されないが、留去工程におけるエネルギー効率の観点から0.1mol/L以上であることが好ましく、0.2mol/L以上であることがより好ましく、0.5mol/L以上であることがさらに好ましい。また、ギ酸アルカリ金属塩が析出することによる濃縮工程における不具合を防ぐ観点からギ酸アルカリ金属塩の飽和濃度以下であることが好ましく、7mol/L以下であることがより好ましく、5mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の実施形態に係る分離膜ユニットは、逆浸透膜(RO膜(RO:Reverse Osmosis))を備える。
分離膜ユニットは、逆浸透膜を筐体に納めたものであってもよく、その形態としては、平膜のプレートフレーム型、プリーツ型およびスパイラル型等が挙げられる。
逆浸透膜は、ギ酸イオン及びアルカリ金属イオンを透過させ難く、ギ酸アルカリ金属塩水溶液を濃縮し得るものであれば特に制限はなく、逆浸透膜(RO膜(RO:Reverse Osmosis))、ナノフィルトレーション膜(NF膜(NF:Nano Filtration))、精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)であってもよいが、孔径のサイズの観点からRO膜又はNF膜を用いることが好ましい。
【0029】
逆浸透膜の孔径は水溶液の透過速度の観点から1Å以上であることが好ましく、2Å以上であることがより好ましく、5Å以上であることがさらに好ましい。また、触媒回収率の観点から50Å以下であることが好ましく、20Å以下であることがより好ましく、10Å以下であることがさらに好ましい。
【0030】
逆浸透膜は市販品を用いることができ、例えば、日東電工株式会社製Nano-SW、日東電工株式会社製PRO-XS1、日東電工株式会社製ESPA-DSF、日東電工株式会社製CPA7、日東電工株式会社製SWC5-LDを挙げることができ、日東電工株式会社製ESPA-DSF又は日東電工株式会社製CPA7を使用することが好ましい。
【0031】
濃縮工程は、例えば、耐圧容器を備えた分離装置を用いて、常圧又は加圧下で行うことができる。第二の工程における圧力は、耐圧容器につないだボンベより、例えば窒素ガス等の不活性ガスを耐圧容器に導入することにより調整することができる。
【0032】
濃縮工程における圧力は、溶液の透過速度の観点から0.1MPa以上であることがより好ましく、0.3MPa以上であることがさらに好ましい。また、膜分離によるエネルギーコストの観点から10.0MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることがより好ましく、6MPa以下であることがさらに好ましい。
【0033】
(留去工程)
留去工程による濃縮の程度は、適宜選択することができる。留去工程により濃縮したギ酸アルカリ金属塩水溶液中におけるギ酸アルカリ金属塩の濃度は、その後の操作に適した濃度であれば特に限定されない。例えば、1mol/L以上であることが好ましく、3mol/L以上であることがより好ましく、5mol/L以上であることがさらに好ましい。
【0034】
また、ギ酸アルカリ金属塩が析出するまで水を留去してもよく、ギ酸アルカリ金属塩が固体として得られるまで蒸発乾固してもよい。
ギ酸水溶液を濃縮する場合、ギ酸と水とは共沸するため蒸留による分離及び濃縮は困難、あるいは多大なエネルギーを要するが、ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いることにより、水の留去による水とギ酸アルカリ金属塩との分離を容易にし、ギ酸アルカリ金属塩を高濃度の水溶液や固体で得ることができる。
ギ酸アルカリ金属塩が固体である場合、より輸送や保管のコストが抑えられ、かつ、より取り扱いに優れた水素貯蔵材料として用いることができる。
【0035】
水の留去方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、ロータリーエバポレータ、蒸留システム等、公知の装置を使用して行えばよく、このときの減圧度及び温度は応じて適宜選択することができる。
留去工程における圧力は、留去温度を下げる観点から常圧以下であることが好ましく、500mmHg以下であることがより好ましく、300mmHg以下であることがさらに好ましい。
【0036】
ギ酸アルカリ金属塩の固体を得た場合は、析出した固体を乾燥により乾固してもよい。乾燥は、送風、加熱及び減圧から選択される一種又は二種以上の操作を併用して行うことが好ましい。これらの中でも、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下で加熱しながら、減圧又は常圧で乾燥を行うことが好ましい。
ギ酸アルカリ金属塩は、水への溶解度が低いことから固体に析出させやすく、また固体としての潮解性も低くハンドリング性に優れるため、ギ酸ナトリウム塩であることが好ましい。
【0037】
第一の工程により濃縮されたギ酸アルカリ金属塩水溶液は、第二の工程にそのまま用いてもよく、必要に応じ純水を加えて濃度を調整してもよい。
濃縮によりギ酸アルカリ金属塩を固体として得た場合は、ギ酸アルカリ金属塩を純水に溶解させ第二の工程に供することができる。
【0038】
〔第二の工程〕
第二の工程は、電気透析により上記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる工程である。
【0039】
第二の工程には、ギ酸アルカリ金属塩水溶液を用いる。
本発明の実施形態においては、第一の工程により濃縮したギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を、電気透析装置を用いて処理することにより、電気透析により上記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成することができる。
一の工程で濃縮したギ酸アルカリ金属塩溶液を第二の工程に供することにより、濃縮されたギ酸溶液を得ることができる。
第二の工程には、上述したとおり、第一の工程により濃縮したギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を、そのまま用いてもよく、必要に応じ純水を加えて濃度を調整してもよい。また、第一の工程により蒸発乾固したギ酸アルカリ金属塩を純水に溶解した水溶液を用いてもよい。
【0040】
電気透析に用いるギ酸アルカリ金属塩水溶液中のギ酸アルカリ金属塩の濃度は、透析効率の観点から0.5mol/L以上であることが好ましく、1.0mol/L以上であることがより好ましく、1.5mol/L以上であることがさらに好ましく、また、ギ酸アルカリ金属塩の飽和濃度以下であることが好ましく、10mol/L以下であることがより好ましく、7mol/L以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の実施形態においては、第二の工程によりギ酸アルカリ金属塩がプロトン化される割合は、ギ酸アルカリ金属塩水溶液中の初期のギ酸アルカリ金属塩のモル量に対し、第三の工程におけるギ酸分解速度の観点から、10%以上がプロトン化されることが好ましく、20%以上がプロトン化されることがより好ましく、30%以上がプロトン化されることがさらに好ましい。
【0042】
図1は、電気透析装置の一例を示す概略図である。図1に示す電気透析装置は、それぞれ複数枚のバイポーラ膜とカチオン交換膜とを備え、陽極と陰極との間に、これらのバイポーラ膜とカチオン交換膜とが交互に配置され、各バイポーラ膜とその陰極側に配置されたカチオン交換膜との間にそれぞれ塩室が形成され、且つ各バイポーラ膜とその陽極側に配置されたカチオン交換膜との間にそれぞれアルカリ室が形成されているものであり、通電しながら該塩室に有機酸塩水溶液を循環供給することにより、アルカリ室にアルカリ金属水酸化物を生成しながら該塩室に循環供給されているギ酸アルカリ金属塩をギ酸に転換されていく。
【0043】
第二の工程によりギ酸アルカリ金属塩を簡便な方法によりプロトン化してギ酸溶液を得ることができ、第三の工程に供することができる。ギ酸アルカリ金属塩から水素を得る際は、一部あるいは全てをプロトン化して溶液を酸性にしておくことが好ましい。ギ酸分解の中間生成物であるギ酸分解触媒金属のヒドリド錯体から水素を生成する際にプロトンが必要となるからである。
【0044】
〔第三の工程〕
第三の工程は、ギ酸を分解して水素ガスを製造する工程である。
第三の工程には、第二の工程で得られたギ酸溶液を用いることができる。
ギ酸を分解して水素ガスを製造する際の反応は、触媒を用いて、ギ酸から水素と二酸化炭素を含む混合ガスを生成させる反応であってもよい。反応条件は、特に限定されず、ギ酸溶液の濃度や触媒の種類に応じて適宜調整することができる。反応過程で反応条件を適宜変更することもできる。反応に用いる反応容器の形態も特に限定されない。
【0045】
第三の工程に触媒を用いる場合、用いる触媒は、均一系触媒、不均一系触媒のいずれであってもよい。
また、本発明の実施形態に用いる触媒は、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、コバルト、オスミニウム、ニッケル、鉄、パラジウム、白金、金から選ばれる少なくとも一種の遷移金属を含む有機金属錯体またはこれら錯体の塩であることが好ましく、イリジウムがより好ましい。
【0046】
遷移金属を含む有機金属錯体(遷移金属錯体)において、そのカウンターイオンは、特に限定されないが、陰イオンとしては、例えば、六フッ化リン酸イオン(PF )、テトラフルオロほう酸イオン(BF )、水酸化物イオン(OH)、酢酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、ハロゲン化物イオン(例えばフッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)等)、次亜ハロゲン酸イオン(例えば次亜フッ素酸イオン、次亜塩素酸イオン、次亜臭素酸イオン、次亜ヨウ素酸イオン等)、亜ハロゲン酸イオン(例えば亜フッ素酸イオン、亜塩素酸イオン、亜臭素酸イオン、亜ヨウ素酸イオン等)、ハロゲン酸イオン(例えばフッ素酸イオン、塩素酸イオン、臭素酸イオン、ヨウ素酸イオン等)、過ハロゲン酸イオン(例えば過フッ素酸イオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(OSOCF )、テトラキスペンタフルオロフェニルボレートイオン(B(C)等が挙げられる。
【0047】
本発明の実施形態に用いる触媒は、市販されているものを使用することができ、公知の方法などにより製造したものを使用することもできる。公知の方法としては、例えば、特開2018-114495号公報に記載の方法や、Yuichiro Himeda;Nobuko Onozawa-Komatsuzaki;Satoru Miyazawa;Hideki Sugihara;Takuji Hirose;Kazuyuki Kasuga.Chem.Eur.J.2008,14,11076-11081に記載の方法等を用いることができる。
【0048】
触媒の使用量は、水素を製造できる限り、特に限定されない。脱水素化反応の速度の観点から、ギ酸溶液の溶媒に対して、0.00035質量%以上であることが好ましく、0.0035質量%以上であることがより好ましく、0.035質量%以上であることがさらに好ましい。また、触媒の使用量は、触媒の耐久性の観点からギ酸溶液の溶媒に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、触媒を2種以上用いる場合、それらの合計の使用量が上記範囲内であればよい。
【0049】
本発明の実施形態に係る第三の工程において、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、触媒を溶解して均一となる溶媒であることが好ましく、特に制限は無いが、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等を用いることができるが、より好適には、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、更に好適には水を用いることができる。
【0050】
反応温度は、特に限定されないが、反応を効率よく進行させるため、50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましい。また、エネルギー効率の観点から200℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがさらに好ましい。
【0051】
反応時間は、特に限定されないが、例えば、水素生成量を十分に確保する観点から0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることがさらに好ましい。また、コストの観点から24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましい。
【0052】
反応における圧力は、特に限定されないが、例えば、水素生成量を十分に確保する観点から0.1MPa以上であることが好ましい。また、水素貯蔵タンクの耐久性の観点から100MPa以下であることが好ましく、85MPa以下であることがより好ましく、70MPa以下であることがさらに好ましい。
【0053】
反応に用いる第二の工程で得られた溶液や触媒及び溶媒などの反応容器内への導入方法については、特に制限されないが、すべての原料などを一括で導入してもよく、一部またはすべての原料などを段階的に導入してもよく、一部またはすべての原料などを連続的に導入してもよい。また、これらの方法を組み合わせた導入方法でもよい。
【0054】
第三の工程により生成した混合ガスから、水素ガスを含むガスと、二酸化炭素とに分離することができる。
混合ガスの精製は、特に制限されないが、例えば、ガス分離膜、気液分離、PSA(Pressure. Swing Adsorption)法等による精製が挙げられる。
【0055】
〔水素貯蔵方法〕
本発明の実施形態に係る水素貯蔵方法は、
アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中にギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程と、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する第一の工程とを含む。
本発明の実施形態に係る水素貯蔵方法において、前記第一の工程は、前記濃縮によりギ酸アルカリ金属塩の固体を得る工程であってもよい。
本発明の実施形態に係る水素貯蔵方法における、上記ギ酸アルカリ金属塩を生成させる工程及び第一の工程については、水素ガス製造方法において上述したものと同様である。
【0056】
〔水素ガス製造システム〕
本発明の実施形態に係る水素ガス製造システムは、ギ酸アルカリ金属塩を水素貯蔵材料として用いる水素ガス製造システムであって、
前記ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮する濃縮装置と、
電気透析により前記ギ酸アルカリ金属塩の少なくとも一部をプロトン化してギ酸を生成させる電気透析装置と、
前記ギ酸を分解して水素ガスを製造するギ酸分解装置を含む。
本発明の実施形態に係る水素ガス製造システムは、アルカリ金属塩の存在下、二酸化炭素を用いて水溶液中に前記ギ酸アルカリ金属塩を生成させるギ酸アルカリ金属塩製造装置含んでいてもよい。
【0057】
本発明の実施形態に係る水素ガス製造システムは、濃縮装置20と、電気透析装置30と、ギ酸分解装置40を備えるものであればよく、各装置により得られた生成物を輸送や保存の後に他の装置に供給してもよい。
【0058】
図3は、本発明の実施形態に係る水素ガス製造システムの一例を示す図である。
図3に示される水素ガス製造システム100は、濃縮装置20と、電気透析装置30と、ギ酸分解装置40とを備えており、更にギ酸アルカリ金属塩製造装置10と、ギ酸アルカリ金属塩溶液を濃縮装置20に送液する送液ポンプ60と、濃縮装置20における圧力を調整するボンベ70を備えていても良い。圧力は流路L8に備えるバルブ3により調整することができる。
【0059】
また、図3に示される水素ガス製造システム100は、ギ酸アルカリ金属塩溶液を送液ポンプ60に流通させる流路L1と、送液ポンプ60から濃縮装置20が備える反応器にギ酸アルカリ金属塩溶液を供給する流路L2と、濃縮装置20により濃縮したギ酸アルカリ金属塩溶液を電気透析装置30に供給する流路L3と、電気透析により得られたギ酸溶液をギ酸分解装置40に供給する流路L4と、ギ酸の分解により生成した水素ガスを回収する流路L5を備えていてもよい。また、濃縮装置20により水、透過液等を排出する流路L6を備えていてもよい。各流路はバルブを備えていてもよい。
【0060】
本実施形態の水素貯蔵方法、水素ガス製造方法及び水素ガス製造システムによれば、ギ酸アルカリ金属塩溶液を簡便な方法により濃縮することにより、水素を取り扱いに優れた状態で貯蔵し、高効率で水素ガスを製造し得る、水素ガスの製造方法及び水素ガス製造システムを提供することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0062】
<RO膜によるギ酸カリウムの濃縮>
〔実施例1〕
2.5質量%のギ酸カリウム水溶液330mLを準備した。
図2に示すように、窒素ボンベ70をつないだ耐圧容器41の下部にRO膜42としてESPA-DSF(日東電工株式会社製)を設置した。耐圧容器41の液投入口43から330mLのギ酸カリウム水溶液を入れて、液投入口43のバルブ2を閉めた。窒素ボンベ70のバルブ3を開け、4MPaの窒素ガスにて、圧力をかけ、溶液をRO膜42を通して押し出した。
130mLの液が透過したところで、圧を開放し、試験を終了した。
分離装置200により分離された透過液を回収する流路L7を備えていてもよい。
RO膜42を透過した液(透過液45)、及び透過しなかった液(残液)44のギ酸カリウム濃度を測定することで、ギ酸カリウムを濃縮できたかどうかを確認した。透過液45は流路L7により回収することができる。
【0063】
〔実施例2〕
RO膜をESPA-DSFから、CPA7(日東電工株式会社製)に変えた以外は実施例1と同様に実験を行った。
【0064】
実施例1及び2の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
上記のとおり、第一の工程によりギ酸カリウム塩水溶液を濃縮することができた。第一の工程により、カリウム以外のアルカリ金属塩水溶液についても、同様に濃縮することが可能である。
【0067】
<エバポレーターを使ったギ酸アルカリ塩溶液の濃縮>
〔実施例3〕
200mLナスフラスコに、ギ酸カリウム10gとイオン交換水90gを入れ、ギ酸カリウムを溶解した。これを、70℃に加温した水浴とエバポレーターを用い、水を揮発させた。50分後、内容量が12gになったところで、エバポレーターを停止させ、ナスフラスコ内に残った水溶液を氷水に浸けた。すると粉末が生成した。この粉末を、テフロン(登録商標)製のシャーレに移し、100℃のオーブンで2時間乾燥した。乾燥させた粉末は6.3gであり、濃縮後の回収率は63%となった。
【0068】
〔実施例4〕
200mLナスフラスコに、ギ酸ナトリウム10gとイオン交換水90gを入れ、ギ酸ナトリウムを溶解した。これを、70℃に加温した水浴とエバポレーターを用い、水を揮発させた。30分後、内容量が15gになったところ、粉末が生成しており、エバポレーターを停止させた。この粉末を、テフロン(登録商標)製のシャーレに移し、100℃のオーブンで2時間乾燥した。乾燥させた粉末は10.0gであり、濃縮後の回収率は100%となった。
【0069】
上記のとおり、第一の工程によりギ酸アルカリ金属塩水溶液から水を留去することができ、高収率でギ酸アルカリ金属塩を回収できた。
【0070】
<電気透析によるギ酸アルカリ塩溶液の濃縮>
電気透析装置は、アストム社製のアシライザーEX3Bを使用した。
〔実施例5〕
塩基槽に、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を500mL入れた。
塩槽に、5質量%のギ酸カリウム水溶液492mLを投入した。
電気透析装置をスタートさせると、電圧20.4V、電流4.41Aとなった。
次第に電圧が上がるとともに電流が下がり、15分後に透析が終了した。そのときの電圧28.0V、電流3.28Aであった。透析終了後の塩槽の溶液(塩液)量は、468mLになっており、塩基槽の液(塩基液)は、524mLとなっていた。
透析終了後の塩液のギ酸濃度を、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定したところ、0.58mol/Lのギ酸が生成しており、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、92.4%がプロトン化されていることが分かった。
塩基液は、マレイン酸を外部標準とし、重溶媒として重水を用い、H NMRにてギ酸カリウムの定量を行った。その結果、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、5%のギ酸アニオン(HCO )が塩基液側に移動していることが分かった。
【0071】
〔実施例6〕
塩基槽に、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を522mL入れた。
塩槽に、10質量%のギ酸カリウム水溶液480mLを投入した。
電気透析装置をスタートさせると、電圧19.3V、電流4.41Aとなった。
次第に電圧が上がるとともに電流が下がり、25分後に透析が終了した。そのときの電圧28.0V、電流4.16Aであった。透析終了後の塩槽の溶液(塩液)量は、432mLになっており、塩基槽の液(塩基液)は、560mLとなっていた。
透析終了後の塩液のギ酸濃度を、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定したところ、1.23mol/Lのギ酸が生成しており、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、88.7%がプロトン化されていることが分かった。
塩基液は、マレイン酸を外部標準とし、重溶媒として重水を用い、H NMRにてギ酸カリウムの定量を行った。その結果、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、6%のギ酸アニオン(HCO )が塩基液側に移動していることが分かった。
【0072】
〔実施例7〕
塩基槽には、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を502mL入れた。
塩槽に、30質量%のギ酸カリウム水溶液428mLを投入した。
電気透析装置をスタートさせると、電圧19.4V、電流4.41Aとなった。
次第に電圧が上がり、70分後に透析が終了した。そのときの電圧22.1V、電流4.41Aであった。透析終了後の塩槽の溶液(塩液)量は、342mLになっており、塩基槽の液(塩基液)は、584mLとなっていた。
透析終了後の塩液のギ酸濃度を、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定したところ、3.92mol/Lのギ酸が生成しており、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、86.4%がプロトン化されていることが分かった。
塩基液は、マレイン酸を外部標準とし、重溶媒として重水を用い、H NMRにてギ酸カリウムの定量を行った。その結果、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、7%のギ酸アニオン(HCO )が塩基液側に移動していることが分かった。
【0073】
〔実施例8〕
塩基槽には、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を502mL入れた。
塩槽に、50質量%のギ酸カリウム水溶液378mLを投入した。
電気透析装置をスタートさせると、電圧21.3V、電流4.41Aとなった。
次第に電圧が上がり、140分後に透析が終了した。そのときの電圧27.0V、電流4.41Aであった。透析終了後の塩槽の溶液(塩液)量は、258mLになっており、塩基槽の液(塩基液)は、622mLとなっていた。
透析終了後の塩液のギ酸濃度を、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定したところ、8.21mol/Lのギ酸が生成しており、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、71.0%がプロトン化されていることが分かった。
塩基液は、マレイン酸を外部標準とし、重溶媒として重水を用い、H NMRにてギ酸カリウムの定量を行った。その結果、初期のギ酸カリウムのモル量に対して、15%のギ酸アニオン(HCO )が塩基液側に移動していることが分かった。
【0074】
実施例5~8における結果を表2に示す。
表中、ギ酸ロス率は初期に塩槽に投入したギ酸塩のモル量に対する、H NMRにて塩基槽に検出されたギ酸塩のモル量の百分率により算出した値である。また、溶液ギ酸濃度は、塩槽中のギ酸の濃度である。
電力量は装置に表示されている電圧、電流の変動を読みより、電力量(kWh)を積算することにより算出した。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例5~8における電気透析に必要な電力量を比較すると、1gのギ酸生成に必要な電力量は実施例7が最も低く、効率よくプロトン化できることが判明した。
【0077】
〔実施例9〕
塩基槽には、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を500mL入れた。
塩槽に、24質量%のギ酸ナトリウム水溶液436mLを投入した。
電気透析装置をスタートさせると、電圧20.8V、電流4.41Aとなった。
次第に電圧が上がり、80分後に透析が終了した。そのときの電圧24.3V、電流4.41Aであった。透析終了後の塩槽の溶液(塩液)量は、340mLになっており、塩基槽の液(塩基液)は、582mLとなっていた。
透析終了後の塩液のギ酸濃度を、0.05mol/L水酸化ナトリウム水溶液で滴定したところ、4.31mol/Lのギ酸が生成しており、初期のギ酸ナトリウムのモル量に対して、82%がプロトン化されていることが分かった。
塩基液は、マレイン酸を外部標準とし、重溶媒として重水を用い、H NMRにてギ酸ナトリウムの定量を行った。その結果、初期のギ酸ナトリウムのモル量に対して、8%のギ酸アニオン(HCO )が塩基液側に移動していることが分かった。
【0078】
<ギ酸分解>
(イリジウム触媒合成)
200mLナスフラスコに、[Cp*Ir(HO)](SO)を0.81g、4,4’-dihydroxy-2,2’-bipyridineを0.82g、水を60mL入れた。40℃の水浴で、1晩(12時間)撹拌した。
黒い粉体をろ過にて取り除き、ろ液をエバポレーターにて、濃縮して水を飛ばすことで、黄色粉末1.00gを得た。
【0079】
〔実施例10〕
実施例8にて、50質量%ギ酸カリウム水溶液を電気透析にてギ酸へプロトン化した溶液を使い、ギ酸分解を行った。
100mLナスフラスコに、溶液を25mL入れ、上記で合成した触媒を7.7mg入れて、60℃に加温することで、ギ酸を分解した。発生したガス量は、シナガワ社製のW-NK-0.5B(品番)にて測定した。23.7時間後のガス発生量は10.65mLであり、TOF(TurnOver Frequency;触媒のモル量に対して、1時間あたりに発生した水素ガスのモル量)は1572となった。
【0080】
〔比較例1〕
比較として、50質量%ギ酸カリウム水溶液(電気透析を実施していないもの)のギ酸分解を行った。
100mLナスフラスコに、溶液を25mL入れ、上記で合成した触媒を7.7mg入れて、60℃に加温することで、ギ酸を分解した。発生したガス量は、シナガワ社製のW-NK-0.5B(品番)にて測定した。3.2時間後のガス発生量は0.012mLであり、TOF(触媒のモル量に対して、1時間あたりに発生した水素ガスのモル量)は0となった。
【0081】
実施例1~10の結果から、高効率で、ギ酸アルカリ金属塩を含む水溶液を濃縮し、電気透析によりギ酸アルカリ金属塩をプロトン化し、ギ酸を分解して水素ガスを製造できることが明らかとなった。一方、ギ酸アルカリ金属塩をプロトン化しなかった比較例1ではギ酸の分解により水素ガスを製造することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の実施形態に係る水素貯蔵方法、水素ガス製造方法及び水素ガス製造システムは、水素を取り扱いに優れた状態で貯蔵し、簡便な方法で濃縮でき、水素ガスを高効率で製造し得る。
【符号の説明】
【0083】
2、3 バルブ
10 ギ酸アルカリ金属塩製造装置
20 濃縮装置
30 電気透析装置
40 ギ酸分解装置
41 耐圧容器
42 RO膜
43 液投入口
44 残液
45 透過液
60 送液ポンプ
70 窒素ボンベ
100 水素ガス製造システム
200 分離装置
L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8 流路
図1
図2
図3