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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】焼菓子用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20231024BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20231024BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20231024BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231024BHJP
   A23G 9/32 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/14
A21D2/16
A21D13/80
A23G9/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019234237
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021101648
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】林 美穂
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 美緒
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-198319(JP,A)
【文献】特開2019-047753(JP,A)
【文献】特開2019-088208(JP,A)
【文献】特開平08-289732(JP,A)
【文献】特開2018-130037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 - 17/00
A23D 7/00 - 9/06
A23G 1/00 - 9/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーム油及び融点50℃以上の高融点油脂を含み、前記融点50℃以上の高融点油脂はパームステアリンであり、パーム油及びパームステアリンの質量比が90:10~40:60、パーム油及びパームステアリンの合計含有量が90質量%以上であり、20℃におけるSFC(固体脂含有量)が20~50%である、冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物。
【請求項2】
乳化剤を含有する請求項1に記載の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物。
【請求項3】
乳化剤が不飽和系乳化剤である、請求項2に記載の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の油脂組成物を含む、冷菓練り込み焼菓子用生地。
【請求項5】
請求項4記載の冷菓練り込み焼菓子用生地を焼成しかつ冷凍してなる冷菓練り込み焼菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリームのような冷菓へ練り込んで食するクッキー等の焼菓子に用いるための油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキー&クリームアイスなどと称される、アイスクリームに小片のクッキーが練り込まれた冷菓があり、アイスクリームのクリーミーな食感とクッキーの食感の双方を楽しむことができるため好まれている。アイスクリームと接して用いられるモナカやコーンはサクサクとした食感が好まれている一方で、アイスに練り込まれるクッキーは一般的に練り込まれるがためにしっとりした食感のものが多い。また課題として、クッキーをアイスクリームに練り込む際、攪拌によりクッキーが破砕されてクッキーの食感の損失が起こる。
従来、モナカやコーン等のアイスクリームと接して用いられる可食容器のサクサクとした食感を維持するため、高水分部から低水分部への水分移行を抑制する方法として、ラウリン酸系油脂を主体とした油性組成物により被覆し、その上に非ラウリン酸系油脂を主体とした油性組成物により被覆する、二層の油脂被膜を形成するように塗布する方法が報告されている(特許文献1)。
また、アイスクリームのような冷菓に用いられるものではないが、パン・焼菓子類の食感を長く維持し、美味しさを持続させるため、パルミチン酸を多く含む飽和脂肪酸と、オレイン酸を多く含む不飽和脂肪酸をそれぞれ特定量含み、さらにトランス型不飽和脂肪酸とパルミチン酸との重量比を特定にした油脂組成物を用いることが記載されている(特許文献2)。
しかしながら、アイスクリームのような冷菓へ練り込んで食するクッキー等の焼菓子の練り込み時における破砕を抑制できる組成や方法については報告が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-237319号公報
【文献】特開2006-141370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、アイスクリーム等の冷菓に練り込む際の、攪拌による破砕を抑制して、クッキーの食感を維持する冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物を提供することである。
さらに、本発明は、アイスクリーム等の冷菓に練り込む際の、クッキーの食感の軟化を抑制し、一方で生地の作業性も良好な、冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、パーム油及び融点50℃以上の高融点油脂を含み、20℃におけるSFC(固体脂含有量)が所定量である、冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物により解決される。
すなわち本発明は以下を提供する。
[1]パーム油及び融点50℃以上の高融点油脂を含み、20℃におけるSFC(固体脂含有量)が20~50%である、冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物。
[2]乳化剤を含有する上記[1]に記載の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物。
[3]乳化剤が不飽和系乳化剤である、上記[2]に記載の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物。
[4]上記[1]~[3]のいずれか一に記載の油脂組成物を含む、冷菓練り込み焼菓子用生地。
[5]上記[4]に記載の冷菓練り込み焼菓子用生地を焼成しかつ冷凍してなる冷菓練り込み焼菓子。
【発明の効果】
【0006】
本発明の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物を用いることにより、クッキー等の焼菓子をアイスクリームに練り込む際の攪拌による破砕を抑制し、焼菓子の食感が維持された冷菓を製造することができる。
また、本発明の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物を用いることにより、初期硬度が高く、練り込み後の食感軟化が抑制される冷菓練り込み用焼菓子を製造することができ、さらに生地の作業性においても優れており、製造が容易な冷菓練り込み焼菓子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物は、パーム油及び融点50℃以上の高融点油脂を含み、20℃におけるSFC(固体脂含有量)が20~50%である。
パーム油は、いずれのものを用いてもよいが、ただし、融点50℃以上の高融点油脂を除く。パーム油の具体的な例示としては、パーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン、パームスーパーオレイン、パームミッドフラクション、及びこれらのエステル交換油等が挙げられる。これらの中でも、分別されていないパーム油、パームオレイン、パームダブルオレイン並びにこれらのエステル交換油からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、分別されていないパーム油がより好ましい。なお、エステル交換油は、上記油脂の1種の間でエステル交換したものであってもよく、2種以上の間でエステル交換したものであってもよい。
【0008】
融点50℃以上の高融点油脂は、融点50℃以上であればどのようなものを用いてもよい。
50℃以上の融点を有する高融点油脂としては、例えば、パームステアリン、ハイエルシン菜種極度硬化油、パーム極度硬化油、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油、牛脂極度硬化油、豚脂極度硬化油、魚油極度硬化油が挙げられる。これらの中でも、パームステアリン、ハイエルシン菜種極度硬化油、パーム極度硬化油、菜種極度硬化油、大豆極度硬化油、魚油極度硬化油が好ましく、パームステアリンが特に好ましい。
【0009】
パーム油及び融点50℃以上の高融点油脂は適宜配合することができるが、クッキーの硬度を高くしつつ適切な作業適性を得る観点から、融点50℃以上の高融点油脂を、油脂組成物の20℃におけるSFC(固体脂含有量)が20~50%となるような範囲で添加することが好ましい。より好ましくは、パーム油と融点50℃以上の高融点油脂との質量比が、95:5~35:65であり、90:10~40:60であることがさらに好ましく、80:20~40:60であることがよりさらに好ましい。
油脂組成物中のパーム油及び融点50℃以上の高融点油脂の合計質量は、油脂組成物の質量に対し、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0010】
本発明の油脂組成物中の各油脂由来の脂肪酸組成は油脂の選択により異なるものであるが、以下の範囲であるとより好ましい。
油脂組成物由来の脂肪酸全質量に対し、パルミチン酸量は45~58質量%程度であることが好ましく、オレイン酸量は30~38質量%程度であることが好ましい。
炭素数20以上の飽和脂肪酸は油脂組成物由来の脂肪酸全質量に対し1質量%以下であることが好ましい。
炭素数6~10の飽和脂肪酸は油脂組成物由来の脂肪酸全質量に対し1質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の油脂組成物は、20℃におけるSFC(固体脂含有量)が20~50%である。好ましくは21~47%であり、さらに好ましくは25~46%である。
SFC(単位:%)は、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定することができる。即ち、油脂組成物を60℃で30分保持し、油脂組成物を完全に融解した後、0℃で30分保持して固化させる。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃に30分保持する。その後、各SFCの測定温度で30分保持した後、SFCを測定する。
【0012】
本発明の冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物は乳化剤を含有してもよい。乳化剤として飽和系乳化剤でもよく不飽和系乳化剤でもよい。不飽和系乳化剤を添加すると特に硬度が高くなり有利になる傾向がある。その理由は明確ではないが、不飽和系乳化剤を配合したショートニングは分散性がよいため、より細かい粒子状となって焼菓子の生地内に均一に分散していると考えられる。油脂部分は焼成後に空隙部分となるから、焼成後より空隙の少ないクッキー構造となり、焼成後に硬くなると考えられる。
飽和系乳化剤とは、グリセリンに飽和脂肪酸が結合した乳化剤をいう。例えば飽和脂肪酸のモノグリセライド、ジグリセライド、ポリグリセリンエステル等があげられる。前記飽和系乳化剤の具体例として理研ビタミン株式会社製のエマルジーMP、エマルジーMS等があげられる。
不飽和系乳化剤とは、グリセリンに不飽和脂肪酸が結合した乳化剤をいう。例えば不飽和脂肪酸のモノグリセライド、ジグリセライド、ポリグリセリンエステル等があげられる。前記不飽和系乳化剤の具体例として理研ビタミン株式会社製のエマルジーMU、エマルジーOL-100H等があげられる。
【0013】
本発明の他の態様は、上述の油脂組成物を含む冷菓練り込み焼菓子用生地である。
前記生地には、冷菓練り込み焼菓子の製造に用いる通常の原材料が含まれる。例えば、上記油脂組成物以外に小麦粉等の穀粉、一般的な焼菓子用生地の副原料として用いられる砂糖等の甘味料、卵類、乳等が挙げられる。またさらにココア、フルーツ、ナッツ等の風味素材、食塩、香辛料、乳化剤、香料、着色料、膨張剤、酸化防止剤、増粘剤、酸味料、甘味料、pH調整剤、保存料などの添加剤を添加してもよい。
【0014】
本発明の他の態様は、上述の冷菓練り込み焼菓子用生地を焼成しかつ冷凍してなる冷菓練り込み焼菓子である。
焼成するときの温度は通常150~200℃程度であり、例えば180℃である。冷凍するときの温度は通常-8℃~-30℃程度である。
【実施例
【0015】
<各油脂の調整>
以下の方法に従って、実施例1~7及び比較例1~2で用いる各油脂を調製した。
・油脂Aの調製(パーム油)
パーム油(融点34℃)100%の脱色、脱臭を行った。
・油脂Bの調製(融点50℃以上の高融点油脂)
パームステアリン油(融点53℃)100%の脱色、脱臭を行った。
【0016】
<油脂組成物の調製>
上記の通り調製した各油脂を表1に示す割合(質量%)で配合し、実施例1~7及び比較例1~2の油脂組成物を得た。
【0017】
<SFC(固体脂含量)の測定>
実施例1~7及び比較例1~2の各油脂組成物の固体脂含量(SFC、単位は%)は、基準油脂分析法(2.2.9-2013、固体脂含量(NMR法))を基にして、次のようにして測定した。即ち、油脂組成物を60℃で30分保持し、油脂組成物を完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させた。その後、25℃で30分保持し、テンパリングを行った後、0℃で30分保持した。その後、各SFCの測定温度で30分保持した後、SFCを測定した。その結果を表1に示す。
【0018】
<ショートニングの製造方法>
各油脂組成物を加熱溶解し、これを急冷捏和して、ショートニングを得た。
【0019】
<クッキーの作製(シュガーバッター法)>
実施例1~7及び比較例1~2の得られた油脂組成物を用いて、下記の配合及び製法によりクッキーを製造した。
【0020】
(配合)
配合は以下のとおりである。
・薄力粉75質量部
・強力粉25重量部
・砂糖26.7重量部
・水9.5重量部
及び
・実施例1~7及び比較例1~2の得られた油脂組成物のいずれか40重量部(表2)
【0021】
(製法)
縦型ミキサー(N-50、ホバートジャパン製)に実施例1~7及び比較例1~2の得られた油脂組成物のいずれか1種を投入し、低速で1分間攪拌混合をした。砂糖を投入し低速で1分間攪拌混合した後、水を投入し、低速で3分間攪拌混合した。次に、薄力粉・強力粉を投入し低速で3分間攪拌混合しクッキー用生地を得た。得られた生地を型に入れ成形し、上火180℃、下火150℃のオーブン(三幸機械社製)で10分焼成した。
【0022】
<クッキー硬度>
得られたクッキーの硬度は以下のように測定した。
クッキーを20℃で保管し、レオメーター(島津製作所(株)製、型名:EZ-SX)を用いスピード:300mm/分で測定を行った。この値を基に、クッキーの攪拌時の砕け易さを以下のような基準で評価した。
4点:800gf以上
3点:800gf未満
2点:700gf未満
1点:600gf未満
【0023】
<作業適性>
クッキー生地の製造時の作業適性として、冷菓練り込み焼菓子用油脂組成物の可塑性を以下のような基準で評価した。
3点:クッキー生地中で油脂の分散が良く作業性が良好である。
2点:クッキー生地中で油脂の分散がやや悪いが作業性は問題ない。
1点:クッキー生地中で油脂の分散が悪く作業性が劣る。
【0024】
表1

*:脂肪酸組成は、油脂組成物由来の脂肪酸合計質量に対する各脂肪酸の質量%を表している。
**:いずれも飽和脂肪酸を意味する。
【0025】
表2
【0026】
表2からわかるように、本発明の油脂組成物を用いた場合にはいずれも、クッキー硬度は600gf以上であり、十分な硬度を示した(実施例1~7)。
一方、油脂組成物としてパーム油のみ(比較例1)を用いた場合には、硬度が十分ではなかった。融点50℃以上の高融点油脂のみ(比較例2)を用いた場合には硬度が高くなりすぎ、クッキー生地中での油脂の分散が悪く作業性が悪かった。
【0027】
〈アイスクリームとクッキー混合試験評価〉
-6℃のアイスクリームに実施例4と比較例1クッキーをそれぞれ投入し、10分間攪拌を行ったあと、それぞれ食し、また一部をアイスクリームを茶漉しで漉しその残渣の外観を元に、クッキーの攪拌時の砕け易さを評価した。比較例1のクッキーは砕けたクッキーの量が多く、クッキーの食感が維持されていなかった。一方、実施例4のクッキーは、砕けた量が少なく、またクッキーの食感が維持されていた。