(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに化粧料
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20231024BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20231024BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20231024BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C01B21/064 M
A61K8/19
A61Q1/10
A61Q1/12
C01B21/064 H
(21)【出願番号】P 2019234685
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆貴
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-041311(JP,A)
【文献】特開平05-186205(JP,A)
【文献】特開昭60-033204(JP,A)
【文献】特開2018-165241(JP,A)
【文献】特開2016-074590(JP,A)
【文献】特開平11-222411(JP,A)
【文献】国際公開第2022/264324(WO,A1)
【文献】特開2019-043792(JP,A)
【文献】特開2010-037123(JP,A)
【文献】国際公開第2009/022621(WO,A1)
【文献】特開2003-192338(JP,A)
【文献】特開2004-035273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
A61K 8/19
A61Q 1/00 - 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS Z 0237:2009に規定され、傾斜角30度の傾斜板を備える傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面に、1cm/秒の速度で塗布板を用いて前記粘着面の一端側から他端側に向けて塗り拡げたとき、前記粘着面の塗布面積割合が80%以上であ
り、窒素吸着によって求められる比表面積(N)が0.5m
2
/g以上、及び酸素量が0.01質量%以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。
(但し、前記塗布面積割合は、0.1gの前記六方晶窒化ホウ素粉末を前記粘着面に塗り拡げたときの粘着面の中央領域における面積全体に対する塗布面積の割合である。前記中央領域は、前記粘着面の一端側から10mm離れた10mm四方の領域である。前記六方晶窒化ホウ素粉末の全体は、前記粘着面の一端側において、前記六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げる方向に沿って前記中央領域を区画する一対の辺の仮想延長線の間に配置される。)
【請求項2】
前記比表面積(N)に対する前記酸素量の比が0.05[g/100m
2
]未満である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)が0.8[m
2
/g]以下である、請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
前記比表面積(N)に対する、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)の比が0.01~0.2である、請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
化粧料の原料用である、請求項1
~4のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項6】
前記化粧料はファンデーション及びアイシャドーの少なくとも一方を含む、請求項5に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項7】
請求項1
~6のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料。
【請求項8】
六方晶窒化ホウ素と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満で焼成して、前記混合粉末における六方晶窒化ホウ素よりも高い結晶性を有する六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を得る焼成工程と、
前記焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、
前記乾燥粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900
~2200℃で0.5~5時間アニール
して粉砕し、粗粉を除去して比表面積(N)が0.5m
2
/g以上、酸素量が0.01質量%以上である六方晶窒化ホウ素粉末を得るアニール工程と、を有
し、
前記六方晶窒化ホウ素粉末は、JIS Z 0237:2009に規定され、傾斜角30度の傾斜板を備える傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面に、1cm/秒の速度で塗布板を用いて前記粘着面の一端側から他端側に向けて塗り拡げたとき、前記粘着面の塗布面積割合が80%以上である、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
(但し、前記塗布面積割合は、0.1gの前記六方晶窒化ホウ素粉末を前記粘着面に塗り拡げたときの粘着面の中央領域における面積全体に対する塗布面積の割合である。前記中央領域は、前記粘着面の一端側から10mm離れた10mm四方の領域である。前記六方晶窒化ホウ素粉末の全体は、前記粘着面の一端側において、前記六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げる方向に沿って前記中央領域を区画する一対の辺の仮想延長線の間に配置される。)
【請求項9】
前記焼成工程の前に、
ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、600~1300℃で焼成して、六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得る仮焼工程を有し、
前記焼成工程における前記混合粉末は前記仮焼物と前記助剤とを含む、請求項
8に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、化粧料、並びに品質評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有しており、固体潤滑剤、離型剤、樹脂及びゴムの充填材、化粧料(化粧品ともいう)の原料、並びに耐熱性を有する絶縁性焼結体等、幅広い用途に利用されている。
【0003】
化粧料に配合される六方晶窒化ホウ素粉末の機能としては、化粧料への滑り性、伸び性、隠ぺい性の向上、及び、光沢性の付与等が挙げられる。特に、六方晶窒化ホウ素粉末は、同様の機能を有するタルク粉末及びマイカ粉末に比べて滑り性に優れているため、優れた滑り性が求められる化粧料に汎用されている。特許文献1では、滑り性を改善するために、せん断応力と加圧力の比を所定の数値範囲にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化粧料に対する顧客の要求レベルの高水準化に対応するため、化粧料に用いられる原料特性もさらなる向上が求められている。例えば、ファンデーション等に用いられる原料は、優れた伸び性及びきめ細かさを有することが必要であると考えられる。一方で、六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集ダマを形成し易く、これが伸び性及びきめ細かさに影響を及ぼすと考えられる。そこで、本開示では、伸び性及びきめ細かさに優れる六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供する。また、本開示では、伸び性及びきめ細かさに優れる化粧料を提供する。また、本開示では、六方晶窒化ホウ素粉末又はこれを含む粉末状組成物の品質を簡便に評価することが可能な品質評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、 JIS Z 0237:2009に規定され、傾斜角30度の傾斜板を備える傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面に、1cm/秒の速度で塗布板を用いて粘着面の一端側から他端側に向けて塗り拡げたとき、粘着面の塗布面積割合が80%以上である。但し、上記塗布面積割合は、0.1gの六方晶窒化ホウ素粉末を粘着面に塗り拡げたときの粘着面の中央領域における面積全体に対する塗布面積の割合である。中央領域は、粘着面の一端側から10mm離れた10mm四方の領域である。六方晶窒化ホウ素粉末の全体は、粘着面の一端側において、六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げる方向に沿って中央領域を区画する一対の辺の仮想延長線の間に配置される。
【0007】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、粘着面の塗布面積割合が大きいことから、伸び性及びきめ細かさに優れる。そして、上述の傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面は、人肌と、六方晶窒化ホウ素粉末の伸び具合及びなじみ具合が似通っている。このため、上記粘着面において塗布面積割合が大きい六方晶窒化ホウ素粉末は、特に人肌に塗布したときの伸び性及びきめ細かさに優れる。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用として好適である。
【0008】
本開示の一側面に係る化粧料は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む。上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、人肌に塗布したときの伸び性及びきめ細かさに優れることから、当該六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料も、人肌に塗布したときの伸び性及びきめ細かさに優れる。
【0009】
本開示の一側面に係る品質評価方法は、塗布板を用いて粘着面に六方晶窒化ホウ素粉末又はこれを含む粉末状組成物を塗り拡げる工程と、粘着面における、六方晶窒化ホウ素粉末又はこれを含む粉末状組成物の塗布面積に基づいて品質評価する工程と、を有する。この品質評価方法によれば、六方晶窒化ホウ素粉末の伸び性及びきめ細かさ等の品質を簡便に評価することができる。
【0010】
上記粘着面は、カーボンテープの一方面で構成されてよい。カーボンテープは黒色系であるため、白色系である六方晶窒化ホウ素粉末による粘着面の塗布面積割合を高い精度で求めることができる。したがって、六方晶窒化ホウ素粉末の品質評価を高い精度で行うことができる。
【0011】
上記粘着面は、JIS Z 0237:2009に規定され、傾斜角30度の傾斜板を備える傾斜式ボールタック試験において、ボールナンバーが6~8である粘着面であってよい。このような粘着面は、六方晶窒化ホウ素粉末の伸び具合及びなじみ具合が人肌と似通っている。したがって、人肌に塗られる化粧料及びその原料の伸び性及びきめ細かさ等の品質を評価する手法として有用である。
【0012】
本開示の一側面に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、六方晶窒化ホウ素と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満で焼成して、混合粉末における六方晶窒化ホウ素よりも高い結晶性を有する六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、乾燥粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900℃以上でアニールするアニール工程と、を有する。
【0013】
上記製造方法では、助剤を用いて1600℃以上且つ1900℃未満の温度で焼成することによって、結晶性の高い六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を得ることができる。この焼成物を粉砕後、洗浄することによって、残存する助剤等が低減され、その後のアニール時の粒成長を抑制できる。そして、乾燥後、既に結晶化した六方晶窒化ホウ素を含む焼成物を1900℃以上の温度でアニールをしていることから、一次粒子の粒成長を抑制しつつ、粒子の表面に付着している官能基を飛散させることができる。このため、粒子の表面に水分が吸着し難くなると考えられる。これによって、六方晶窒化ホウ素粉末の凝集が抑制され、優れた伸び性及びきめ細かさを有することになると推察される。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用として好適である。
【0014】
上記製造方法は、焼成工程の前に、ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、600~1300℃で焼成して、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得る仮焼工程を有してよい。そして、焼成工程における混合粉末は仮焼物と助剤とを含んでよい。このように、焼成工程よりも低い温度で仮焼を行うことによって、伸び性ときめ細かさに一層優れる六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0015】
上記製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、JIS Z 0237:2009に規定され、傾斜角30度の傾斜板を備える傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面に、1cm/秒の速度で塗布板を用いて粘着面の一端側から他端側に向けて塗り拡げたとき、粘着面の塗布面積割合が80%以上であってよい。但し、塗布面積割合は、0.1gの六方晶窒化ホウ素粉末を粘着面に塗り拡げたときの粘着面の中央領域における面積全体に対する塗布面積の割合である。中央領域は、粘着面の一端側から10mm離れた10mm四方の領域である。六方晶窒化ホウ素粉末の全体は、粘着面の一端側において、六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げる方向に沿って中央領域を区画する一対の辺の仮想延長線の間に配置される。
【0016】
上述の傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面は、人肌と、六方晶窒化ホウ素粉末の伸び具合及びなじみ具合が似通っている。このため、上記粘着面において塗布面積割合が大きい六方晶窒化ホウ素粉末は、特に人肌に塗布したときの伸び性及びきめ細かさに優れる。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用として好適である。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、伸び性及びきめ細かさに優れる六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することができる。また、本開示では、伸び性及びきめ細かさに優れる化粧料を提供することができる。また、本開示では、六方晶窒化ホウ素粉末の品質を簡便に評価することが可能な品質評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、品質評価方法の一例に用いられる品質評価装置の平面図である。
【
図3】
図3は、傾斜式ボールタック試験を行うための測定装置を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例1及び比較例1において、粘着面上に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げた後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0020】
一実施形態に係る品質評価方法は、塗布板を用いて粘着面に六方晶窒化ホウ素粉末又はこれを含む粉末状組成物を塗り拡げる第1工程と、当該粘着面における、六方晶窒化ホウ素粉末の塗布面積割合を求める第2工程と、を有する。
【0021】
粘着面は、テープの一方面で構成されてよい。例えば、粘着面が、カーボンテープの一方面で構成されていれば、粘着面が黒色系となり、白色系である六方晶窒化ホウ素粉末又は粉末状組成物の塗布面積割合を高い精度で求めることができる。
【0022】
図1は、上記品質評価方法の一例に用いられる品質評価装置の平面図である。
図2は、
図1の品質評価装置の側面図である。品質評価装置100は、台座30と台座30の上面30a上に貼り付けられた粘着面21aを有するテープ21と、テープ21(粘着面21a)の一端21A側に配置された粉末状の試料20と、試料20を粘着面21aの一端21A側から他端21B側に向けて塗り拡げる塗布板22とを備える。
【0023】
台座30は、平坦な上面30aを有するものであれば、特に制限なく用いることができる。塗布板22は、試料20を塗り拡げる際に変形しない程度の剛性を有するものであってよい。台座30及び塗布板22は、樹脂製のものであってよく、金属製のものであってもよい。試料20は、六方晶窒化ホウ素粉末であってよく、六方晶窒化ホウ素粉末を含む粉末状組成物(例えば、化粧料)であってもよい。
【0024】
テープ21の粘着面21aは、中央部に中央領域40を有する。中央領域40は、テープ21(粘着面21a)の一対の側部21Cが対向する方向において、テープ21(粘着面21a)の中央部に位置する。中央領域40は、4つの辺で区画され、各辺の長さがMである正方形状であってよい。中央領域40と、粘着面21aの一端21Aとの間にはスペース24があってよい。このような中央領域40において塗布面積割合を算出すれば、塗布面積割合の測定値のばらつきが小さくなり、高い精度で試料20の品質を評価することができる。この品質評価装置100及び品質評価方法によれば、例えば、試料20の伸び性及びきめ細かさ等の品質を評価することができる。
【0025】
第1工程では、粘着面21aの一端21A側に試料20を配置する。このとき、試料20の一部は、粘着面21a上に付着しないようにしてよい。続いて、塗布板22を、
図1及び
図2の矢印方向に向けて所定の速度で移動させ、粘着面21a上に、試料20を塗り拡げる。試料20は、粘着面21aに付着しながら、スペース24を通過し、中央領域40に供給される。塗布板22が、中央領域40上を通過したら、第1工程を終了してよい。塗布板22は、粘着面21aに対して所定の角度に傾けた状態で移動させてよい。塗布板22と粘着面21aとのなす角(傾斜角θ
1)は、塗布板22が他端21B側に傾く角度であることが好ましい。例えば、
図2の傾斜角θ
1は、40~80度であってよく、50~70度であってもよい。塗布板22の移動速度は、0.1~10cm/秒であってよいし、0.5~5cm/秒であってもよい。
【0026】
第2工程では、例えば、中央領域40の面積全体に対する、中央領域40における試料20の塗布面積の割合を求める。塗布面積の割合によって品質を評価できる。塗布面積割合は、例えば80%以上であってよく、90%以上であってもよい。中央領域40における試料20の塗布面積は、中央領域40の画像解析を行って求めてよい。また、具体的な割合を算出せずに、目視で塗布面積を対比して相対的に評価してもよい。
【0027】
本実施形態の品質評価方法によれば、六方晶窒化ホウ素粉末又はこれを含む化粧料等、粉末状組成物の品質を簡便に評価することができる。例えば、化粧料及びその原料の評価項目として一般的であるにもかかわらず、評価の標準化が困難である伸び性及びきめ細かさ等の品質を簡便に且つ高い精度で評価することができる。
【0028】
中央領域40及びスペース24の位置及びサイズ、並びに試料20の量は、試料20の入手量及び品質に応じて設定してよい。また、試料20の全体は、粘着面21aの一端21A側において、仮想延長線VL1,VL2の間に配置されてよい(
図1参照)。ここで仮想延長線VL1,VL2は、中央領域40を区画し、六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げる方向に沿う一対の辺を試料20側に向かって延長した直線である。中央領域40の一辺の長さMは、例えば、1~50mmであってよく、5~20mmであってもよい。
【0029】
粘着面21a(テープ21)の長さLは、5~200mmであってよく、10~100mmであってもよい。粘着面21a(テープ21)の一辺の長さMは、5~100mmであってよく、10~50mmであってもよい。塗布板22の幅は、長さMよりも大きくてよい。
【0030】
粘着面21aは、JIS Z 0237:2009に規定される傾斜式ボールタック試験(傾斜板の傾斜角θ1:30度)で測定されるボールナンバーが6~8であってよい。このような粘着面21aを用いて品質評価を行うことによって、人肌に塗布したときの伸び性及びきめ細かさの官能評価と本実施形態の評価方法との整合性が高くなり、化粧料及びその原料である六方晶窒化ホウ素粉末の伸び性及びきめ細かさ等の品質を高い精度で評価することができる。このような観点から、ボールナンバーは7であってもよい。
【0031】
図3は、JIS Z 0237:2009に規定される傾斜式ボールタック試験を行うための測定装置を示す図である。
図3の測定装置200は、水平面に対して傾斜角θ
2で(θ
2=30度)傾斜する傾斜板11と、傾斜板11を支持する支持板16と、傾斜板11の上端部にボール10を固定する固定部14とを有する。傾斜板11の上には、固定部14側から、助走路12と粘着面21aを有するテープ21とが、隣り合ってこの順に設けられている。
【0032】
種々のサイズのボール10を準備し、固定部14を取り外してボール10を粘着面21aに向けて転ばせる測定を行う。そして、粘着面21aに5秒間以上停止するボール10のうち、最大サイズを有するボールナンバーを求める。このような測定を、テープ21を取り換えて3回行い、当該最大サイズに該当するボールナンバーの平均値を求める。この平均値を本開示におけるボールナンバーとする。助走路12の長さL0及び粘着面21aの長さL1は、どちらも100mmである。
【0033】
一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面21aに、1cm/秒の速度で塗布板22を用いて粘着面21aの一端21A側から他端21B側に向けて塗り拡げたとき、粘着面21aの塗布面積割合が80%以上である。当該塗布面積割合は90%以上であってもよい。但し、塗布面積割合は、0.1gの試料20(六方晶窒化ホウ素粉末)を粘着面21aに塗り拡げたときの粘着面21aの中央領域40における面積全体に対する塗布面積の割合である。0.1gの試料20の全ては、中央領域40を区画し、試料20を塗り拡げる方向に沿う一対の辺の仮想延長線VL1,VL2の間に配置される。
【0034】
傾斜式ボールタック試験は、
図3とその説明内容のとおりであり、JIS Z 0237:2009に規定されたものである。本実施形態における中央領域40は、10mm四方の領域である。また、中央領域40は、粘着面21aの一端21A側から10mm離れている。すなわち、
図1におけるスペース24の長さGは10mmであり、中央領域40の一辺の長さMは10mmである。
【0035】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、粘着面21aの塗布面積割合が大きいことから、伸び性及びきめ細かさに優れる。そして、上述の傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面21aは、人肌と、六方晶窒化ホウ素粉末の伸び具合及びなじみ具合の点で似通っている。このため、粘着面21aにおいて塗布面積割合が大きい六方晶窒化ホウ素粉末は、特に人肌に塗布したときの伸び性及びきめ細かさに優れる。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用として好適である。
【0036】
本開示は、六方晶窒化ホウ素を化粧料の原料として使用する使用方法も提供することができる。優れた伸び性を有する化粧料は、人肌に塗り拡げる際に、より広い面積の人肌を覆うことができる。
【0037】
上述の塗布面積割合が80%以上である六方晶窒化ホウ素粉末の一例は、窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する酸素量の比が0.1[g/100m2]以下であってよい。当該比は、0.08[g/100m2]未満であってよく。0.05[g/100m2]未満であってよく、0.03[g/100m2]未満であってもよい。当該比を小さくすることによって、伸び性及びきめ細かさを一層向上することができる。当該比は、例えば0.001[g/100m2]以上であってよく、0.005[g/100m2]以上であってもよい。これによって、極性溶媒中への分散性を良好にすることができる。このため、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料の原料として用いる場合に、化粧料の製造を円滑に行うことができる。
【0038】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)は、吸着ガスを窒素として、市販の比表面積測定装置を用いて測定される値である。比表面積(N)は、0.5[m2/g]以上であってよく、1[m2/g]以上であってもよい。大きい比表面積(N)を有することによって、一次粒子を十分に小さくすることができる。これによって、人肌への付着性を高めることができる。比表面積(N)は、8[m2/g]以下であってよく、6[m2/g]以下であってもよい。これによって、伸び性及びきめ細かさのみならず、滑り性も十分に高くすることができる。
【0039】
六方晶窒化ホウ素粉末の一例の酸素量は、0.15質量%以下であってよく、0.12質量%以下であってもよい。酸素量を低くすることによって、粒子表面への水分の吸着を抑制することができる。また、粒子の表面に生じる静電気を低減することができる。これらの要因によって、六方晶窒化ホウ素粉末が凝集することを抑制できる。酸素量は、0.05質量%以上であってよく、0.01質量%以上であってもよい。これによって、極性溶媒中への分散性を良好にすることができる。このため、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を化粧料の原料に使用する場合に、化粧料の製造を円滑に行うことができる。酸素量は、焼成工程における焼成温度及び焼成時間、並びに、アニール工程におけるアニール温度及びアニール時間を変えることによって調整するこができる。
【0040】
水蒸気吸着によって求められる六方晶窒化ホウ素粉末の一例の比表面積(H)は、吸着ガスを水として、市販の比表面積測定装置を用いて測定される値である。すなわち、この値が大きくなると、粒子の表面への水分の吸着量が大きくなる。比表面積(H)は、0.8[m2/g]以下であってよく、0.6[m2/g]以下であってもよい。低い比表面積(H)を有することによって、粒子の表面への水分の吸着を抑制し、六方晶窒化ホウ素粉末の凝集が抑制される。比表面積(H)は、0.1[m2/g]以上であってよく、0.2[m2/g]以上であってもよい。これによって、水系の溶媒中への分散性を良好にすることができる。
【0041】
窒素吸着によって求められる比表面積(N)に対する、水蒸気吸着によって求められる比表面積(H)の比は、0.2以下であってよく、0.17以下であってもよい。当該比を小さくすることによって、水分の吸着を一層抑制することができる。当該比の下限は、0.01であってよく、0.03であってもよい。これによって、極性溶媒中への分散性を良好にすることができる。
【0042】
一実施形態に係る化粧料は、上述のいずれかの六方晶窒化ホウ素粉末を含有する。一例に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、粒子の表面への水分の吸着が抑制されているうえ、表面に発生する静電気を抑制できる。このため、六方晶窒化ホウ素粉末は凝集し難くなると考えられる。
【0043】
化粧料としては、例えば、ファンデーション(パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション)、フェイスパウダー、ポイントメイク、アイシャドー、アイライナー、マニュキュア、口紅、頬紅、及びマスカラ等が挙げられる。これらのうち、ファンデーション及びアイシャドーには、六方晶窒化ホウ素粉末が特に良く適合する。化粧料における六方晶窒化ホウ素粉末の含有量は、例えば0.1~70質量%である。化粧料は公知の方法によって製造することができる。化粧料の製造方法は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末と他の原料とを配合して混合する工程を有する。
【0044】
一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス雰囲気中、アンモニアガス雰囲気中、又はこれらの混合ガス雰囲気中、600~1300℃で焼成して、低結晶性の六方晶窒化ホウ素、及び非晶質の六方晶窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む仮焼物を得る仮焼工程と、仮焼物と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス及び/又はアンモニアガスの雰囲気中、1600℃以上且つ1900℃未満の温度で焼成して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、乾燥粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900℃以上の温度でアニールするアニール工程と、を含む。
【0045】
ホウ素を含む化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素及びホウ砂等が挙げられる。窒素を含む化合物としては、ジシアンジアミド、メラミン、及び尿素が挙げられる。ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末におけるホウ素原子と窒素原子のモル比は、ホウ素原子:窒素原子=2:8~8:2であってよく、3:7~7:3であってもよい。原料粉末は、上記化合物以外の成分を含んでもよい。例えば、仮焼用助剤として炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を含んでよい。また、炭素等の還元性物質を含んでよい。
【0046】
上述の成分を含有する原料粉末を、例えば電気炉を用いて、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを混合した混合ガス雰囲気中で仮焼する。仮焼温度は、600~1300℃であってよく、800~1200℃であってよく、900~1100℃であってもよい。仮焼時間は、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0047】
仮焼によって得られる仮焼物は、低結晶性の六方晶窒化ホウ素、及び非晶質の六方晶窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む。仮焼工程は、後述の焼成工程よりも低温で窒化ホウ素の反応を進行させる。このため、粒成長が進行し、最終的に得られる窒化ホウ素粉末の粒径を大きくすることができる。また、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(N)を小さくすることができる。
【0048】
次に、得られた仮焼物と助剤とを配合して混合し、混合粉末を得る。助剤としては、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、並びに、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸リチウム等の炭酸塩が挙げられる。六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物100質量部に対する、助剤の配合量は2~20質量部であってよく、2~8質量部であってもよい。このような混合粉末を、例えば電気炉中、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを含む混合ガス雰囲気中で焼成する。
【0049】
焼成工程では、助剤の存在下、窒化ホウ素の生成及び結晶化が進行する。これによって、仮焼物に含まれる窒化ホウ素の結晶性を高めることができる。焼成温度は、1600℃以上且つ1900℃未満である。この焼成温度は、1650~1850℃であってよく、1650~1750℃であってもよい。焼成時間は、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0050】
焼成温度が低くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の生成及び結晶化が十分に進行し難くなる傾向にある。六方晶窒化ホウ素の結晶化が不十分になると、化粧料に用いた場合に滑り性が低下する傾向にある。焼成時間が短くなり過ぎたときも同様の傾向にある。一方、焼成温度が高くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の結晶成長が進み過ぎて、微粉砕が困難になる傾向にある。焼成時間が長くなり過ぎたときも同様の傾向にある。
【0051】
焼成工程で得られた焼成物は、通常の粉砕装置で粉砕してよい。粉砕した粉砕粉の中には、六方晶窒化ホウ素以外に不純物が含まれる。不純物としては、残存する助剤、及び水溶性ホウ素化合物等が挙げられる。精製工程では、このような不純物を、洗浄によって低減する。洗浄後、固液分離して乾燥し、乾燥粉末を得る。洗浄に用いる洗浄液としては、水、酸性物質を含む水溶液、有機溶媒、有機溶媒と水との混合液等が挙げられる。不純物の二次的な混入を避ける観点から、電気伝導度が1mS/m以下の水を使用してよい。酸性物質としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール及びアセトン等の水溶性の有機溶媒が挙げられる。洗浄方法に特に制限はなく、例えば、粉砕粉を洗浄液中に浸漬し撹拌して洗浄してよく、粉砕粉に洗浄液をスプレーして洗浄してもよい。
【0052】
洗浄終了後、デカンテーション、吸引ろ過機、加圧ろ過機、回転式ろ過機、沈降分離機又はこれらを組み合わせた装置を用いて洗浄液を固液分離してよい。分離した固形分を通常の乾燥機で乾燥して乾燥粉末を得てもよい。乾燥機は、例えば、棚式乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、回転型乾燥機、ベルト式乾燥機、及びこれらの組み合わせが挙げられる。乾燥後に、粗大粒子を除去するために、例えば篩による分級を行ってもよい。
【0053】
アニール工程では、乾燥粉末を、例えば電気炉を用いて、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを混合した混合ガス雰囲気中で1900℃以上に加熱する。このアニール温度は、酸素量を十分に低減する観点から、1950℃以上であってよく、2000℃以上であってもよい。アニール工程を行うことによって、粒子の表面に官能基等として存在する酸素を飛散させ、酸素量を低減することができる。アニール工程では、精製工程によって、焼成物よりも助剤が低減された乾燥粉末をアニールしていることから、粒成長を抑制しつつ酸素量を低減することができる。
【0054】
粒子の成長を抑制する観点から、アニールの温度は2200℃以下であってよく、2100℃以下であってよい。アニール時間は、酸素量を十分に低減するとともに粒子の成長を抑制する観点から、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0055】
このようにして、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。上記製造方法には、六方晶窒化ホウ素粉末の実施形態に係る説明を適用することができる。例えば、上記製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末の一例は、傾斜式ボールタック試験においてボールナンバーが7である粘着面21aに、1cm/秒の速度で塗布板22を用いて粘着面21aの一端21A側から他端21B側に向けて塗り拡げたとき、粘着面21aの塗布面積割合が80%以上である。
【0056】
六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、上述の実施形態に限定されない。例えば、アニール工程は複数回繰り返して行ってもよい。また、アニール工程の後に、超音波振動を与えるホモジナイザー等を用いて、六方晶窒化ホウ素粉末を解砕する解砕工程を行ってもよい。
【0057】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
<仮焼工程>
ホウ酸粉末(純度99.8質量%以上、関東化学株式会社製)100.0g、及びメラミン粉末(純度99.0質量%以上、富士フィルム和光純薬株式会社製)90.0gを、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合し混合原料を得た。乾燥後の混合原料を、六方晶窒化ホウ素製の容器に入れ、電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1000℃に昇温した。1000℃で2時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。このようにして、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得た。
【0060】
<焼成工程>
仮焼物100.0gに、助剤として炭酸ナトリウム(純度99.5質量%以上)を3.0g添加し、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合した。混合物を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1700℃に昇温した。1700℃の焼成温度で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、六方晶窒化ホウ素の粗粉を得た。
【0061】
<精製工程>
六方晶窒化ホウ素の粗粉中に含まれる不純物を除くため、希硝酸500g(硝酸濃度:5質量%)に、粗粉を30g投入し、室温で60分間攪拌した。攪拌後、吸引ろ過によって固液分離し、ろ液が中性になるまで水(電気伝導度:1mS/m)を入れ替えて洗浄した。洗浄後、乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥して乾燥粉末を得た。
【0062】
<アニール工程>
乾燥粉末を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から2000℃に昇温した。2000℃で4時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕し、得られた乾燥粉末から、超音波振動篩(株式会社興和工業所製、商品名:KFS-1000、目開き250μm)を用いて粗粉を除去して、実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
【0063】
[六方晶窒化ホウ素粉末の評価]
<粘着面のボールナンバー>
試験片として、市販のカーボンテープ(SEM用の両面粘着テープ)を準備した。このカーボンテープの一方面における粘着面のタック性を、JIS Z 0237:2009に規定される傾斜式ボールタック試験によって求めた。具体的には、
図3に示すような測定装置200を準備した。傾斜板11の傾斜角θ
1を30度とし、助走路にはJIS 2318に規定されるポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り付けた。助走路の長さL
0を100mm、カーボンテープ21(粘着面21a)の長さL
1を100mmとした。
【0064】
JIS Z 0237:2009に規定されるボールナンバー2~32に該当する、計31種類の大きさと材質を有するボールをスタート位置から小さい順に転ばせて、粘着面21a上で5秒間以上ボールが停止する場合を「A」、粘着面21a上でボールが停止しない場合、又は停止時間が5秒間未満である場合を「B」と評価した。三枚の試験片(n=3)を用いて試験を行った。結果は、表1に示すとおりであった。
【0065】
【0066】
表1に示すとおり、粘着面21aのボールナンバー(平均値)は7であった。このような粘着面を有するカーボンテープを用いて、以下の塗布面積割合の評価を行った。
【0067】
<塗布面積割合の評価>
図1及び
図2に示すように、カーボンテープ21を所定のサイズ(幅W×長さL=12mm×50mm)に切断し、ボールナンバーが7である粘着面21a(一方面)とは反対側の粘着面を、台座30の上面30aに貼り付けた。
図1及び
図2に示すように、カーボンテープ21の長さ方向における一端21A側に、試料20として六方晶窒化ホウ素粉末を0.1g配置した。このとき、試料20は、仮想延長線VL1,VL2の間に配置した。塗布板22と上面30aとがなす角度(傾斜角θ
2)を60度に維持しながら、カーボンテープ21の長さ方向(
図1及び
図2の矢印方向)に沿って、塗布板22を1cm/秒の速度で移動させて、粘着面21a上に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げた。
【0068】
図4は、カーボンテープの粘着面上に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げた後の状態を示す写真である。
図4のテープAは、粘着面上に実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げた後の状態を示す写真である。
図1に示す粘着面21aの中央領域40における塗布面積割合を求めた。この中央領域40は一端21Aから10mm離れ且つ両側部21Cから1mm離れた、10mm四方の正方形の領域である。市販の画像解析ソフトウェア(WinROOF)を用いて画像解析を行って、中央領域40の全面積に対する、六方晶窒化ホウ素粉末の塗布面積の割合を求めた。塗布面積割合は表2に示すとおりであった。
【0069】
<品質評価>
品質評価として、伸び性及びきめ細やかさを以下の手順で評価した。人工皮膚(出光テクノファイン株式会社製、商品名:サプラーレ PBZ13001 BK、縦×横=10mm×50mm)の一端に、六方晶窒化ホウ素粉末0.2gを載せた。人工皮膚の表面に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り付けるように、ヘラを用いて六方晶窒化ホウ素粉末を人工皮膚の縦方向に沿って伸ばした。人工皮膚への塗布面積を目視で観察して伸び性を評価した。伸び性の評価基準は以下のとおりとした。
【0070】
きめ細かさについては、六方晶窒化ホウ素粉末を塗り付けて伸ばした後の人口皮膚の深さ方向に沿った断面をマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、デジタルマイクロスコープVHX-7000)で観察し、六方晶窒化ホウ素粉末(BN)が人工皮膚のシワに入り込んでいる個数基準の割合を算出した。きめ細かさの評価基準は以下のとおりとした。伸び性及びきめ細かさの評価結果は表2に示すとおりであった。
【0071】
[伸び性の評価基準]
・とても良い:塗布面積割合が95%以上
・良い:塗布面積割合が80%以上且つ95%未満
・普通:塗布面積割合が60%以上且つ80%未満
・良くない:塗布面積割合が60%未満
【0072】
[きめ細かさの評価基準]
・とても良い:BNが入り込んでいたシワの割合が85%以上
・良い:BNが入り込んでいたシワの割合が70%以上且つ85%未満
:普通:BNが入り込んでいたシワの割合が55%以上且つ70%未満
・良くない:BNが入り込んでいたシワの割合が55%未満
【0073】
(実施例2)
アニール工程の2000℃での保持時間を2時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。そして、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の各測定及び評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。
【0074】
(比較例1)
アニール工程を行わず、精製工程で粗粒を除去し乾燥して得られた乾燥粉末を、比較例1の六方晶窒化ホウ素粉末とした。実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の各測定及び評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。
図4のテープBは、粘着面21a上に比較例1の六方晶窒化ホウ素粉末を塗り拡げた後の状態を示す写真である。
【0075】
【0076】
塗布面積割合が大きいほど、塗り広がりやすく伸び性に優れること、且つ、しわなどの凹凸に入り込みやすくきめ細かさに優れることが確認された。各実施例及び比較例の六方晶窒化ホウ素粉末の外観を観察すると、比較例1は、凝集ダマを形成しているのに対し、実施例1及び実施例2では、凝集ダマが比較例1よりも明らかに少なかった。実施例1は特に凝集ダマが少なく、最も優れた伸び性を有していた。
【0077】
<比表面積(N)の測定>
実施例1及び実施例2で調製した六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積を、比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製、装置名:MONOSORB)を用いて、BET1点法により測定した。吸着ガスとして窒素ガスを、キャリアガスとしてヘリウムガスを用いた。試料1gを300℃、15分間の条件で乾燥脱気してから測定を行った。測定結果は、表3に「比表面積(N)」として示した。
【0078】
<比表面積(H)の測定>
実施例1及び実施例2で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を、300℃で12時間真空脱気した。吸着ガスとしてH2Oガスを使用し、市販の吸着量測定装置(マイクロトラックベル社製、装置名:BELSORP-maxII)を用いて、BET法で真空脱気後の六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積(H)を測定した。測定結果は、表3に「比表面積(H)」として示した。比表面積(N)に対する比表面積(H)の比も、表3に併せて示した。
【0079】
<酸素量の測定>
酸素/窒素同時分析装置(堀場製作所社製、装置名:EMGA-920)を用いて、酸素量を測定した。具体的には、実施例1及び実施例2で調製した六方晶窒化ホウ素粉末を、ヘリウム雰囲気中、昇温速度4.6℃/秒で室温から3000℃まで加熱しながら酸素量と窒素量を測定した。そして、窒素が検知されない間に検知された酸素量を、酸素量とした。測定結果は表3に示すとおりであった。比表面積(N)に対する酸素量の比も、表3に併せて示した。
【0080】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本開示によれば、伸び性及びきめ細かさに優れる六方晶窒化ホウ素粉末が提供される。また、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって伸び性及びきめ細かさに優れる化粧料が提供される。
【符号の説明】
【0082】
10…ボール、11…傾斜板、12…助走路、14…固定部、16…支持板、20…試料、21…テープ(カーボンテープ)、21A…一端、21B…他端、21C…側部、21a…粘着面、22…塗布板、24…スペース、30…台座、30a…上面、40…中央領域、100…品質評価装置、200…測定装置。