(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-23
(45)【発行日】2023-10-31
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20231024BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231024BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231024BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/36 D
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2019237126
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 友祐
(72)【発明者】
【氏名】杉森 仁徳
(72)【発明者】
【氏名】横山 友嗣
(72)【発明者】
【氏名】平野 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 陽
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-514807(JP,A)
【文献】特開2015-167127(JP,A)
【文献】特表2016-509739(JP,A)
【文献】特開2015-146272(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187537(WO,A1)
【文献】特開2021-106112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 4/62
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯体と、前記負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極合材層は、黒鉛と、単層繊維状炭素及び多層繊維状炭素を含む繊維状炭素と、を含み、
前記負極合材層の前記負極芯体と反対側の表面から当該合材層の厚みの40%の範囲を第1領域、前記負極合材層の前記負極芯体との界面から当該合材層の厚みの40%の範囲を第2領域とした場合に、
前記第1領域に含まれる前記黒鉛のBET比表面積が、前記第2領域に含まれる前記黒鉛のBET比表面積より小さく、
前記第1領域には、質量換算で、前記多層繊維状炭素が前記単層繊維状炭素より多く含まれ、前記第2領域には、質量換算で、前記単層繊維状炭素が前記多層繊維状炭素より多く含まれる、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記第1領域に含まれる前記繊維状炭素の60質量%以上が前記多層繊維状炭素であり、前記第2領域に含まれる前記繊維状炭素の60質量%以上が前記単層繊維状炭素である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記第1領域に含まれる前記黒鉛のBET比表面積は0.5m
2/g以上2m
2/g未満であり、前記第2領域に含まれる前記黒鉛のBET比表面積は2m
2/g以上5m
2/g以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記負極合材層は、Siを含有するSi系活物質を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の負極と、
正極と、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極、及び当該負極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池の負極は、負極芯体と、当該芯体の表面に設けられた負極合材層とを備える。一般的に、負極合材層は負極活物質と結着材を含み、均一な層構造を有するが、近年、負極活物質の種類、含有量等が異なる複数の層を含む負極合材層も提案されている。例えば、特許文献1には、負極芯体側から順に形成された第1層及び第2層を有する負極合材層であって、第1層は10%耐力が3MPa以下の第1の炭素系活物質と、Siを含有するシリコン系活物質とを含み、第2層は10%耐力が5MPa以上の第2の炭素系活物質を含む負極合材層を備えた負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電池の充放電に伴う負極の体積変化により、負極合材層の一部において導電パスが切断される場合がある。そして、電池の充放電サイクルにより、導電パスが切断されて孤立する負極活物質が増えると、電池容量の低下につながる。
【0005】
そこで、本開示の目的は、電池の充放電サイクルにおける容量低下を抑制することが可能な非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る非水電解質二次電池用負極は、負極芯体と、前記負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、前記負極合材層は、黒鉛と、単層繊維状炭素及び多層繊維状炭素を含み、前記負極合材層の前記負極芯体と反対側の表面から当該合材層の厚みの40%の範囲を第1領域、前記負極合材層の前記負極芯体との界面から当該合材層の厚みの40%の範囲を第2領域とした場合に、前記第1領域に含まれる前記黒鉛のBET比表面積が、前記第2領域に含まれる前記黒鉛のBET比表面積より小さく、前記第1領域には、質量換算で、前記多層繊維状炭素が前記単層繊維状炭素より多く含まれ、前記第2領域には、質量換算で、前記単層繊維状炭素が前記多層繊維状炭素より多く含まれることを特徴とする。
【0007】
本開示に係る非水電解質二次電池は、上記負極と、正極と、非水電解質とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電池の充放電サイクルにおける容量低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の外観を示す斜視図である。
【
図2】実施形態の一例である電極体及び封口板を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、負極合材層において、表面側に含まれる黒鉛のBET比表面積を芯体側に含まれる黒鉛のBET比表面積より小さくし、表面側に多層繊維状炭素を多く配置し、芯体側に単層繊維状炭素を多く配置することにより、電池の充放電サイクルにおける容量低下が抑制されることを見出した。
【0011】
本開示の負極は、表面側に含まれる黒鉛のBET比表面積が芯体側に含まれる黒鉛のBET比表面積より小さいため、負極合材層の表面側には、BET比表面積の小さい黒鉛が多く存在する。また、本開示の負極では、負極合材層の表面側に、主に導電材として機能する多層繊維状炭素が多く存在する。ここで、BET比表面積が小さな黒鉛は、粒子が硬く、負極の成形時に潰れ難いことから、当該黒鉛が多く存在する負極合材層の表面側には、黒鉛粒子間に隙間が形成され易い。このため、負極合材層の表面側は、例えば非水電解質の浸透性が良好で、出力特性の向上に寄与すると考えられる。その一方で、粒子間の隙間が多くなると、導電パスが形成され難くなるが、本開示の負極では、負極合材層の表面側に多層繊維状炭素を配置して導電パスを確保している。さらに、多層繊維状炭素は、単層繊維状炭素に比べて、非水電解質との反応性が小さいため、負極合材層の表面側に多層繊維状炭素を多く配置することで、充放電サイクルに伴って負極表面上で生じる非水電解質の分解反応が抑制される。そして、これらのことが、充放電サイクルにおける容量低下の抑制に寄与していると考えられる。
【0012】
また、本開示の負極では、表面側に含まれる黒鉛のBET比表面積が芯体側に含まれる黒鉛のBET比表面積より小さいため、負極合材層の芯体側には、BET比表面積の大きい黒鉛が多く存在する。また、本開示の負極では、負極合材層の芯体側に、主に導電材として機能する単層繊維状炭素が多く存在する。ここで、BET比表面積が大きな黒鉛は、より多くのリチウムイオンを吸蔵し易く、電池の高容量化に寄与すると考えられる。その一方で、充放電に伴う体積変化が大きく、充放電時の導電パスの切断が懸念されるが、本開示の負極では、負極合材層の芯体側に単層繊維状炭素を配置して、導電パスの切断を抑制している。さらに、単層繊維状炭素は、多層繊維状炭素に比べて、高い導電性を示すため、負極合材層の芯体側に単層繊維状炭素を多く配置することで、導電性の高い導電パスが形成される。そして、これらのことが、充放電サイクルにおける容量低下の抑制に寄与していると考えられる。
【0013】
以下、本開示の負極及び当該負極を用いた非水電解質二次電池の実施形態について詳細に説明する。以下で説明する実施形態はあくまでも一例であって、本開示は以下の実施形態に限定されない。また、以下で説明する複数の実施形態、変形例を選択的に組み合わせることは当初から想定されている。本明細書において、「数値(A)~数値(B)」との記載は、特に断らない限り、数値(A)以上数値(B)以下を意味する。
【0014】
図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池10の外観を示す斜視図、
図2は非水電解質二次電池10を構成する電極体11及び封口板15の斜視図である。
図1に例示する非水電解質二次電池10は、角形の外装缶14を備える角形電池であるが、電池の外装体は外装缶14に限定されない。外装体は、例えば円筒形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、本実施形態では、巻回構造を有する電極体11を例示するが、電極体は、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層される積層構造を有していてもよい。
【0015】
図1及び
図2に例示するように、非水電解質二次電池10は、電極体11と、非水電解質と、これらを収容する外装缶14とを備える。外装缶14は、開口部を有する扁平な有底角筒状の金属製容器である。また、非水電解質二次電池10は、正極20と電気的に接続される正極端子12と、負極30と電気的に接続される負極端子13とを備える。正極端子12及び負極端子13は、他の非水電解質二次電池10や回路、機器などに対して電気的に接続される外部接続端子である。
【0016】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0017】
電極体11は、正極20と負極30がセパレータ40を介して渦巻き状に巻回され、扁平状に成形された巻回型の電極体である。正極20、負極30、及びセパレータ40はいずれも帯状の長尺体である。正極20は正極芯体21及び当該芯体の両面に形成された正極合材層(図示せず)を有し、負極30は負極芯体31及び当該芯体の両面に形成された負極合材層32(後述の
図3参照)を有する。電極体11は、平坦部、及び一対の湾曲部を含む。電極体11は、巻回軸方向が外装缶14の横方向に沿い、一対の湾曲部が並ぶ電極体11の幅方向が非水電解質二次電池10の高さ方向に沿った状態で外装缶14に収容されている。
【0018】
非水電解質二次電池10は、正極20と正極端子12を接続する正極集電体25と、負極30と負極端子13を接続する負極集電体35とを備える。電極体11の軸方向一端部には、正極芯体21の露出部が積層されてなる芯体積層部23が形成され、軸方向他端部には負極芯体31の露出部が積層されてなる芯体積層部33が形成されている。正極集電体25及び負極集電体35はいずれも2つの導電部材で構成され、当該2つの部材が芯体積層部を厚み方向両側から圧縮した状態で、芯体積層部に溶接されている。
【0019】
非水電解質二次電池10は、外装缶14の開口部を塞ぐ封口板15を備える。本実施形態では、封口板15が細長い矩形形状を有し、封口板15の長手方向一端側に正極端子12が、他端側に負極端子13がそれぞれ配置されている。正極端子12及び負極端子13は、それぞれ絶縁部材を介して封口板15に固定される。封口板15には、一般的に、電池の異常発生時にガスを排出するためのガス排出弁16、及び電解液を注入するための注液部17が設けられる。
【0020】
以下、電極体11を構成する正極20、負極30、及びセパレータ40について、特に負極30について詳説する。
【0021】
[正極]
正極20は、正極芯体21と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体21には、アルミニウム、アルミニウム合金など正極20の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、導電材、及び結着材を含み、正極芯体21の両面に設けられることが好ましい。正極20は、例えば正極芯体21上に正極活物質、導電材、及び結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体21の両面に形成することにより作製できる。
【0022】
正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される金属元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。中でも、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有することが好ましい。好適な複合酸化物の一例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0023】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。また、これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0024】
[負極]
図3は、負極30の一部を示す断面図である。
図3に例示するように、負極30は、負極芯体31と、負極芯体31の表面に設けられた負極合材層32とを有する。負極芯体31には、銅などの負極30の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層32は、黒鉛と、単層繊維状炭素及び多層繊維状炭素を含む繊維状炭素と、を含む。繊維状炭素は、主に負極合材層32内に導電パスを形成する導電材として機能する。また、負極合材層32は、さらに結着材を含み、負極芯体31の両面に設けられることが好ましい。
【0025】
負極合材層32に含まれる黒鉛は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する負極活物質として機能する。黒鉛には、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などが用いられる。また、負極合材層32には、炭素系活物質である黒鉛に加えて、Siを含有するSi系活物質が含まれていてもよい。炭素系活物質とSi系活物質を併用することにより、高容量化を図ることができる。
【0026】
負極合材層32に含まれる結着材には、正極20の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層32は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0027】
負極合材層32は、厚み方向に沿って、負極合材層32の表面から当該合材層の厚みの40%の範囲を領域R1(第1領域)、負極合材層32の負極芯体31との界面から当該合材層の厚みの40%の範囲を領域R2(第2領域)とした場合に、各領域の構成成分が互いに異なることを特徴とする。具体的には、領域R1に含まれる黒鉛のBET比表面積が、領域R2に含まれる黒鉛のBET比表面積より小さい。また、領域R1には、質量換算で、多層繊維状炭素が単層繊維状炭素より多く含まれ、領域R2には、質量換算で、単層繊維状炭素が多層繊維状炭素より多く含まれる。つまり、負極合材層32には、少なくとも2種類の黒鉛と、少なくとも2種類の繊維状炭素が含まれる。
【0028】
黒鉛の含有量は、負極活物質として黒鉛のみが用いられる場合、負極合材層32の質量に対して80~98質量%が好ましく、85~97質量%がより好ましく、90~96質量%が特に好ましい。黒鉛の含有量が当該範囲内であれば、高容量の電池を得ることができる。領域R1,R2において、黒鉛の含有率は、例えば実質的に同一である。
【0029】
繊維状炭素の含有量は、負極合材層32の質量に対して、0.01~5質量%が好ましく、0.02~4質量%がより好ましく、0.04~3質量%が特に好ましい。繊維状炭素の含有量が当該範囲内であれば、負極合材層32内に良好な導電パスを形成できる。領域R1,R2において、繊維状炭素の含有率は、例えば実質的に同一である。
【0030】
図3に示す例では、領域R1に黒鉛P1及び多層繊維状炭素C1が、領域R2に黒鉛P2及び単層繊維状炭素C2がそれぞれ存在する。ここで、黒鉛P1は、黒鉛P2よりBET比表面積が小さい材料である。なお、負極合材層32において、領域R1に含まれる黒鉛のBET比表面積が、領域R2に含まれる黒鉛のBET比表面積より小さいという条件を満たす限りにおいて、領域R1に黒鉛P2が含まれていてもよいし、領域R2に黒鉛P1が含まれていてもよい。また、領域R1には、質量換算で、多層繊維状炭素が単層繊維状炭素より多く含まれ、領域R2には、質量換算で、単層繊維状炭素が多層繊維状炭素より多く含まれるという条件を満たす限りにおいて、領域R1には、単層繊維状炭素C2が含まれていてもよいし、領域R2には、多層繊維状炭素C1が含まれていてもよい。また、本開示の目的を損なわない範囲で、負極合材層32には、3種類以上の黒鉛、繊維状炭素が含まれてもよく、例えばカーボンブラック等の粒子状導電材が含まれてもよい。
【0031】
領域R1,R2に挟まれた負極合材層32の厚み方向中央に位置する領域R3は、領域R1と同様の構成であってもよく、領域R2と同様の構成であってもよい。また、領域R3内に領域R1,R2の境界が存在してもよい。或いは、領域R1に近づくほど、黒鉛のBET比表面積が小さくなり、多層繊維状炭素C1が多く且つ単層繊維状炭素C2が少なくなるように、領域R3に含まれる黒鉛の物性及び繊維状炭素の量が負極合材層32の厚み方向に沿って次第に変化していてもよい。
【0032】
負極合材層32の厚みは、負極芯体31の片側で、例えば40μm~120μmであり、好ましくは50μm~90μmである。負極合材層32の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)により取得される負極30の断面画像から計測される。同様に、領域R1,R2も当該SEM画像から決定される。一般的に、負極合材層32の厚みは略一定であるが、厚みにバラツキがある場合、例えば、厚みが大きな部分では領域R1,R2の範囲も大きくなり、厚みが小さな部分では領域R1,R2の範囲も小さくなる。
【0033】
領域R1に含まれる黒鉛のBET比表面積は、0.5m2/g以上2m2/g未満が好ましく、0.75m2/g以上1.9m2/g以下がより好ましく、1.0m2/g以上1.8m2/g以下が特に好ましい。領域R1に含まれる黒鉛のBET比表面積が当該範囲内であれば、負極合材層32の表面側で非水電解質の浸透性が良好になり、出力特性が向上する場合がある。黒鉛のBET比表面積は、従来公知の比表面積測定装置(例えば、株式会社マウンテック製、Macsorb(登録商標)HM model-1201)を用いて、BET法により測定される。
【0034】
領域R2に含まれる黒鉛のBET比表面積は、2m2/g以上5m2/g以下が好ましく、2.5m2/g以上4.5m2/g以下がより好ましく、3.0m2/g以上4.0m2/g以下が特に好ましい。領域R2に含まれる黒鉛のBET比表面積が当該範囲内であれば、より多くのリチウムイオンを吸蔵し易く、電池の高容量化に寄与する場合がある。
【0035】
負極合材層32において、例えば、質量換算で、領域R1において黒鉛P1が黒鉛P2より多く存在し、領域R2において黒鉛P2が黒鉛P1より多く存在することで、領域R1に含まれる黒鉛のBET比表面積は、領域R2に含まれる黒鉛のBET比表面積よりも小さくなる。負極活物質として、領域R1には実質的に黒鉛P1のみが含まれていてもよく、領域R2には実質的に黒鉛P2のみが含まれていてもよい。
【0036】
黒鉛P1,P2の体積基準のメジアン径(以下、「D50」とする)は、例えば5μm~30μmであり、好ましくは10μm~25μmである。黒鉛P1,P2のD50は、互いに異なっていてもよく、実質的に同一であってもよい。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。黒鉛粒子の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0037】
黒鉛P1は、例えば、10%耐力が5MPa以上の硬い粒子であることが好ましい。10%耐力とは、黒鉛粒子が体積比率で10%圧縮された際の圧力を意味する。10%耐力は、黒鉛の粒子1個について、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT-211)等を用いて測定できる。当該測定には、D50と同等の粒子径の粒子を用いる。黒鉛P2は、例えば、黒鉛P1より柔らかい粒子であって、10%耐力が3MPa以下であることが好ましい。負極合材層32において、領域R1における黒鉛の10%耐力の平均値は、領域R2における黒鉛の10%耐力の平均値よりも、大きいことが好ましい。
【0038】
黒鉛P1,P2は、例えば、主原料となるコークス(前駆体)を所定サイズに粉砕し、粉砕物に結着材を添加して凝集させた後、2500℃以上の高温で焼成して黒鉛化させ、篩い分けることで作製される。結着材には、ピッチを用いることが好ましい。ピッチは、焼成工程で一部が揮発し、残りの一部が残存して黒鉛化する。黒鉛のBET比表面積は、例えば、粉砕後の前駆体の粒径や凝集させた状態の前駆体の粒径、ピッチの添加量、焼成温度等により調整できる。
【0039】
負極合材層32に含まれる多層繊維状炭素C1は、グラファイトの炭素六角網面の複数層が同心円状に積層して1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体であり、所謂多層カーボンナノチューブと呼ばれるものである(以下、MWCNTと称する場合がある)。多層繊維状炭素C1は、BET比表面積が10m2/g~450m2/g以下であることが好ましく、100m2/g~350m2/g以下であることがより好ましい。多層繊維状炭素C1のBET比表面積が上記範囲を満たすことで、非水電解質との反応性が抑えられ、充放電サイクル特性の低下抑制に寄与する場合がある。
【0040】
負極合材層32に含まれる単層繊維状炭素C2は、グラファイトの炭素六角網面が1層で1本の円筒形状を構成する炭素ナノ構造体であり、所謂単層カーボンナノチューブと呼ばれるものである(以下、SWCNTと称する場合がある)。単層繊維状炭素C2は、BET比表面積が、例えば500m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることがより好ましい。単層繊維状炭素C2のBET比表面積が上記範囲を満たすことで、負極合材層32の導電性が向上し、電池の出力特性の向上に寄与する場合がある。
【0041】
負極合材層32には、多層繊維状炭素C1や単層繊維状炭素C2以外の繊維状炭素を含んでいてもよく、例えば、カーボンナノファイバー(CNF)、気相成長炭素繊維(VGCF)、電界紡糸法炭素繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0042】
領域R1に含まれる多層繊維状炭素C1の含有量は、電池の充放電サイクルにおける容量低下を抑制する観点等から、領域R1に含まれる繊維状炭素の総量に対して、60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0043】
領域R2に含まれる単層繊維状炭素C2の含有量は、電池の充放電サイクルにおける容量低下を抑制する観点等から、領域R2に含まれる繊維状炭素の総量に対して、60質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。
【0044】
負極合材層32には、上記のように、Si系活物質が含まれていてもよい。Si系活物質は、Siであってもよいが、好ましくは、酸化ケイ素相、及び当該酸化ケイ素相内に分散したSi粒子を含有するSi含有化合物(以下、「SiO」とする)、又はケイ酸リチウム相、及び当該ケイ酸リチウム相内に分散したSi粒子を含有するSi含有化合物(以下、「LSX」とする)である。SiOとLSXが併用されてもよい。Si系活物質の含有量は、負極活物質の質量に対して、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%が特に好ましい。
【0045】
Si系活物質は、例えば、負極合材層32の全体に均一に含まれる。或いは、Si系活物質は、領域R1のみに含まれてもよく、領域R2のみに含まれてもよい。また、領域R1,R2の両方に含まれ、質量換算で、領域R1に多く含まれていてもよく、領域R2に多く含まれていてもよい。
【0046】
SiO及びLSXは、例えば、D50が黒鉛粒子のD50よりも小さな粒子である。SiO及びLSXのD50は、1μm~15μmが好ましく、4μm~10μmがより好ましい。SiO及びLSXの粒子表面には、導電性の高い材料で構成される導電層が形成されていてもよい。好適な導電層の一例は、炭素被膜である。導電層の厚みは、導電性の確保と粒子内部へのリチウムイオンの拡散性を考慮して、1nm~200nmが好ましく、5nm~100nmがより好ましい。
【0047】
SiOは、例えば、酸化ケイ素相中に微細なSi粒子が分散した粒子である。好適なSiOは、非晶質の酸化ケイ素のマトリックス中に微細なSi粒子が略均一に分散した海島構造を有し、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。Si粒子の含有率は、電池容量とサイクル特性の両立等の観点等から、SiOの総質量に対して35~75質量%が好ましい。例えば、Si粒子の含有率が低すぎると充放電容量が低下し、またSi粒子の含有率が高すぎると酸化ケイ素で覆われずに露出したSi粒子の一部が電解液と接触し、サイクル特性が低下する場合がある。
【0048】
酸化ケイ素相中に分散するSi粒子の平均粒径は、一般的に充放電前において500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。充放電後においては、400nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。Si粒子を微細化することにより、充放電時の体積変化が小さくなりサイクル特性が向上する場合がある。Si粒子の平均粒径は、SiOの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより測定され、具体的には100個のSi粒子の最長径の平均値として求められる。酸化ケイ素相は、例えば、Si粒子よりも微細な粒子の集合によって構成される。
【0049】
LSXは、例えば、ケイ酸リチウム相中に微細なSi粒子が分散した粒子である。好適なLSXは、一般式Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表されるケイ酸リチウムのマトリックス中に微細なSi粒子が略均一に分散した海島構造を有する。Si粒子の含有率は、SiOの場合と同様に、LSXの総質量に対して35~75質量%が好ましい。また、Si粒子の平均粒径は、一般的に充放電前において500nm以下であり、200nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましい。ケイ酸リチウム相は、例えば、Si粒子よりも微細な粒子の集合によって構成される。
【0050】
ケイ酸リチウム相は、Li2zSiO(2+z)(0<z<2)で表される化合物で構成されることが好ましい。即ち、ケイ酸リチウム相には、Li4SiO4(Z=2)が含まれない。Li4SiO4は、不安定な化合物であり、水と反応してアルカリ性を示すため、Siを変質させて充放電容量の低下を招く場合がある。ケイ酸リチウム相は、安定性、作製容易性、リチウムイオン導電性等の観点から、Li2SiO3(Z=1)又はLi2Si2O5(Z=1/2)を主成分とすることが好適である。Li2SiO3又はLi2Si2O5を主成分とする場合、当該主成分の含有量はケイ酸リチウム相の総質量に対して50質量%超過であることが好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0051】
SiOは、以下の工程1~3により作製できる。
(1)Si及び酸化ケイ素を、例えば20:80~95:5の重量比で混合して混合物を作製する。
(2)上記混合物の作製前又は作製後に、ボールミル等を用いてSi及び酸化ケイ素を粉砕して微粒子化する。
(3)粉砕された混合物を、例えば不活性雰囲気中、600~1000℃で熱処理する。
なお、上記工程において、酸化ケイ素の代わりにケイ酸リチウムを用いることにより、LSXを作製できる。
【0052】
負極30は、例えば黒鉛P1、多層繊維状炭素C1、及び結着材を含む第1の負極合材スラリーと、黒鉛P2、単層繊維状炭素C2、及び結着材を含む第2の負極合材スラリーとを用いて作製される。まず、負極芯体31の表面に第2の負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させる。その後、第2の負極合材スラリーにより形成された塗膜の上に第1の負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥、圧縮することにより、上記の層構造を有する負極合材層32が負極芯体31の両面に形成された負極30が得られる。上記方法では、芯体側用の負極合剤スラリーを塗布後、乾燥させてから表面側用の負極合剤スラリーを塗布したが、芯体側用の負極合剤スラリーを塗布後、乾燥しきる前に、表面側用の負極合剤スラリーを塗布する方法でもよい。後者の方法を用いた場合には、芯体側用の負極合剤スラリーと表面側用の負極合剤スラリーとが混合した合剤層が形成されやすい。
【0053】
[セパレータ]
セパレータ40には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ40の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ40は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ40の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、一般式LiNi0.82Co0.15Al0.03O2で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンとを、97:2:1の固形分質量比で混合し、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、正極合材スラリーを調製した。次に、この正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。
【0056】
[第1の負極合材スラリーの調製]
多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを60:40の質量比で混合した混合物と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、導電性ペーストを調製した。BET比表面積が1.5m2/gの黒鉛A(負極活物質)と、導電性ペーストと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、100:1:1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、第1の負極合材スラリーを調製した。黒鉛Aと、カーボンナノチューブと、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)の固形分質量比は、100:0.5:1:1.5であった。
【0057】
[第2の負極合材スラリーの調製]
多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを40:60の質量比で混合した混合物と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、導電性ペーストを調製した。BET比表面積が2.5m2/gの黒鉛B(負極活物質)と、導電性ペーストと、SBRのディスパージョンと、CMC-Naとを、100:1:1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて、第2の負極合材スラリーを調製した。黒鉛Bと、多層繊維状炭素と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)の固形分質量比は、100:0.5:1:1.5であった。
【0058】
[負極の作製]
第2の負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥した後、当該塗膜の上に第1の負極合材スラリーを塗布して塗膜を乾燥、圧縮し、負極芯体の両面に負極合材層を形成した。負極合材層が形成された負極芯体を所定の電極サイズに切断して負極を得た。第1及び第2の負極合材スラリーの塗布量を同じとし、厚さ160μm(芯体除く)の負極合材層を形成した。負極合材層において、領域R1のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R1の繊維状炭素の全量に対して60質量%及び40質量%である。また、領域R2のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R2の繊維状炭素の全量に対して40質量%及び60質量%である。
【0059】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した。当該混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度となるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0060】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極及び上記負極をポリエチレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回し、扁平状に成形して巻回型の電極体を作製した。また、正極の芯体露出部にアルミニウム製の正極リードを、負極の芯体露出部にニッケル製の負極リードをそれぞれ溶接した。この電極体をアルミニウムラミネートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解液を注入後、外装体の開口部を封止して非水電解質二次電池を作製した。
【0061】
<実施例2>
第1の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて調整した導電性ペーストを用い、第2の負極合材スラリーの調製において、単層繊維状炭素(SWCNT)と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを1:1の固形分質量比で混合し、分散媒として水を用いて調製した導電性ペーストを用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び非水電解質二次電池を作製した。実施例2の負極合材層において、領域R1のMWCNTの含有量は、領域R1の繊維状炭素の全量に対して100質量%である。また、領域R2のSWCNTの含有量は、領域R2の繊維状炭素の全量に対して100質量%である。
【0062】
<実施例3>
第1の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを75:25の質量比で混合した混合物を用い、また、黒鉛Aと、SiOx(X=0.94)で表されるSi含有化合物(SiO)とを90:10の固形分質量比で混合したものを負極活物質として用いた。また、第2の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを25:75の質量比で混合した混合物を用い、また、黒鉛Bと、SiOとを90:10の固形分質量比で混合したものを負極活物質として用いた。そして、両面合計で厚さ152μm(芯体除く)の負極合材層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして負極及び非水電解質二次電池を作製した。なお、容量が実施例1の非水電解質二次電池と同様になるように、合材塗布量と厚さを調節している。実施例3の負極合材層において、領域R1のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R1の繊維状炭素の全量に対して75質量%及び25質量%である。また、領域R2のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R2の繊維状炭素の全量に対して25質量%及び75質量%である。
【0063】
<比較例1>
第1の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを40:60の質量比で混合した混合物を用い、第2の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを60:40の質量比で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び非水電解質二次電池を作製した。比較例1の負極合材層において、領域R1のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R1の繊維状炭素の全量に対して40質量%及び60質量%である。また、領域R2のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R2の繊維状炭素の全量に対して60質量%及び40質量%である。
【0064】
<比較例2>
第1の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを40:60の質量比で混合した混合物を用い、第2の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを50:50の質量比で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び非水電解質二次電池を作製した。比較例2の負極合材層において、領域R1のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R1の繊維状炭素の全量に対して40質量%及び60質量%である。また、領域R2のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R2の繊維状炭素の全量に対して50質量%及び50質量%である。
【0065】
<比較例3>
第1の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを50:50の質量比で混合した混合物を用い、第2の負極合材スラリーの調製において、多層繊維状炭素(MWCNT)と単層繊維状炭素(SWCNT)とを60:40の質量比で混合した混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極及び非水電解質二次電池を作製した。比較例3の負極合材層において、領域R1のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R1の繊維状炭素の全量に対して50質量%及び50質量%である。また、領域R2のMWCNTの含有量及びSWCNTの含有量は、領域R2の繊維状炭素の全量に対して60質量%及び40質量%である。
【0066】
[サイクル試験]
実施例及び比較例の各電池を、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを500サイクル繰り返した。
【0067】
[サイクル試験後の容量維持率の評価]
実施例及び比較例の各電池について、上記サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、500サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。その結果を表1にまとめた。
容量維持率(%)=(500サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
【0068】
【0069】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、サイクル試験後の容量維持率が高く、電池の充放電サイクルにおける容量低下が抑制された。
【符号の説明】
【0070】
10 非水電解質二次電池、11 電極体、12 正極端子、13 負極端子、14 外装缶、15 封口板、16 ガス排出弁、17 注液部、20 正極、21 正極芯体、23 芯体積層部、25 正極集電体、30 負極、31 負極芯体、32 負極合材層、33 芯体積層部、35 負極集電体、40 セパレータ。